JP5773987B2 - 溶菌性バクテリオファージをこの宿主細菌中に固定化することにより該バクテリオファージのゲノムを修飾する方法 - Google Patents

溶菌性バクテリオファージをこの宿主細菌中に固定化することにより該バクテリオファージのゲノムを修飾する方法 Download PDF

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Description

本発明は、溶菌性バクテリオファージをこれらの修飾された細菌宿主内に可逆的に固定化するための方法に関する。
より詳細には、本発明は、溶菌性バクテリオファージをこの宿主細菌中に固定化することにより、該バクテリオファージのゲノムを修飾する方法に関する。
バクテリオファージは、約24nmから200nmのサイズを有するウイルスであり、特に、細菌を感染させることが可能である。
遊離形態のバクテリオファージは、これらのゲノムを構成する、遺伝物質を含むキャプシドと呼ばれる外部タンパク質コートにより構成される。バクテリオファージの大多数のゲノムは、約5および650kbの間のサイズを有する線状二重鎖DNA分子により構成される。キャプシドは通常、前記遺伝物質を宿主細菌に注入するように作用するテイル伸展部(tail extension)を有する。
多種のバクテリオファージが、自然界に存在する。
しかしながら、バクテリオファージは通常、非常に特異的であり、および非常に少ない数の細菌種のみを感染させることができる。この狭い特異性は、特に、これらの細菌細胞への侵入のメカニズムに関連している:ファージは、これらが「受容体」として利用するこれらの宿主細菌の壁の表面に存在する糖タンパク質構造を特異的に認識することが可能である。これらの構造は、ファージが壁に付着することおよびこれらの遺伝物質をこれらの宿主細菌の原形質に注入することを可能にする。この認識は、キャプシドの表面もしくはバクテリオファージのフィラメントの端(「テイル繊維(tail fibres)」とも呼ばれる。)に存在する、いわゆる「標的」タンパク質により起こる。
バクテリオファージは、これらの複製サイクルに基づき分類される。従って、バクテリオファージの3つの主要なカテゴリーが存在する。
第1のカテゴリーのバクテリオファージは「溶菌性」もしくは「病原性」と呼ばれる。即ち、これらが細菌を感染した直後、これらのゲノムの発現および複製は、新規なファージ粒子の産生をもたらし、ならびに、短時間の後に、宿主細菌の溶解および複数の後代の放出を引き起こす。
例えば、バクテリオファージT4は、エシェリシア・コーライ(Escherichia coli)を感染させるバクテリオファージである。この溶菌サイクルは、37℃で約30分かかる。このサイクルは、バクテリオファージによる宿主細菌の認識の直後に、吸収および侵入の段階から始まる。これは、宿主細菌の遺伝子の発現からバクテリオファージの発現への即時の切替えに反映され、これによってバクテリオファージの複製に必要とされる酵素の合成が可能になる。次いで、感染の約10分後、DNA複製およびウイルスタンパク質の合成が起こり、ならびに、娘バクテリオファージの組み立てが起こる(12分後に開始する。)。この複製サイクルは、細菌のバースト(30分後)および溶菌1個当たり約50個のバクテリオファージの環境への放出をもたらす。
バクテリオファージの第2のカテゴリーは、「溶原性」もしくは「テンペレート」と呼ばれる。これらのバクテリオファージは、休止状態でとどまり、これらの遺伝物質を細菌の遺伝物質に組み込むことができる。従って、これはプロウイルスもしくはプロファージと呼ばれ、即ち、この遺伝物質が宿主細菌の染色体に組み込まれるウイルスである。バクテリオファージゲノムは、各細胞分裂において、細菌のDNAの全てと共にコピーされ、次いで、溶原性と称される。この潜伏の病相の間、ファージゲノムによりコードされる遺伝子の発現は、通常、リプレッサータンパク質により抑制される。特定の条件下で、特に、欠損もしくはストレスの場合、プロファージはこの休止状態から抜け、およびこの複製サイクルを活性化する。これは宿主のゲノムから切り取られて、および上記のような溶菌サイクルに入る。
バクテリオファージの第3のカテゴリーは、感染細胞の溶解を引き起こさないが、細胞膜の表面上で、細胞膜を破壊することなく出芽する。これは、「ファージディスプレイ」の周知技術において用いられる、エシェリシア・コーライ(Escherichia coli)のM13もしくはf1型の糸状バクテリオファージについての場合である。感染したバクテリオファージは、感染を切り抜け、およびバクテリオファージを連続的に産生する。
本発明は、上記した「溶菌性」と呼ばれるバクテリオファージの第1のカテゴリーに関する。
溶菌性バクテリオファージは、これらが感染した細菌を殺す特定の特徴を有し、これによって、これらを抗菌剤として用いることが可能になる。
抗生物質が発見される前のときまで遡ると、細菌感染症に対抗するために溶菌性バクテリオファージの調製物を用いるという考えは、決して新しいものではない。
バクテリオファージが細菌感染症に対抗するための有効性が証明されてきた。しかしながら、バクテリオファージの使用は、抗生物質の使用に対して非常にわずかにとどまっている。つまり、バクテリオファージの活性のスペクトルは、抗生物質の活性のスペクトルよりもずっと狭く、このことにより、バクテリオファージの特に予防処置の領域での影響力がかなり制限される。
今日では、抗生物質に多剤耐性を有する菌株の出現および新規な抗生物質の開発において科学界が遭遇している困難に直面し、特に、院内感染、即ち、標的とする多剤耐性もしくは新生の細菌に対して対抗するために、バクテリオファージへの関心が復活してきた[Thiel,K.,Nature Biotechnology,2004,22:31−36]。
以前の出願であるWO2008/093009では、本発明者らは、標的タンパク質がランダムに修飾された組換えバクテリオファージを得る方法を記載した。この修飾は、標的タンパク質をコードする遺伝子に、ランダムに産生したオリゴヌクレオチド配列を挿入することにより行われ、この結果、得られたバクテリオファージは、好ましくはこれらの通常の宿主とは異なる新規な細菌を認識しおよび感染させる能力を獲得する。
バクテリオファージの標的タンパク質が修飾されると、後者はこの宿主を認識する能力を失う可能性があるため、この宿主細菌のスペクトルよりも広いもしくは異なるスペクトルを有するこのようなバクテリオファージを得ることにより、課題が提供された。この結果、バクテリオファージは再生できないし、この宿主中で維持することもできない。
この困難を克服するため、本発明者らは、以前の発明において、この中でランダムに産生したヌクレオチド配列がクローン化された複数の相同組換えベクターを含む宿主細菌のバンクを作製することを提案した。これらの細菌は、これらのベクター中に含まれる最大の可能な数のランダム配列が、標的タンパク質をコードする遺伝子中に相同組換えにより挿入されるような方法によって、一斉にバクテリオファージに感染させられた。このように修飾した組換えバクテリオファージを、1回のサイクルの溶解性複製後に回収して、多様なバクテリオファージのバンクを形成した。次いで、本発明者らが根絶もしくは制御を望む標的細菌に対して使用することを目的として、前記バクテリオファージのバンクを保存する。
しかしながら、本発明、および溶菌性バクテリオファージを修飾する方法のほとんどには、バクテリオファージの複製が溶菌サイクルの期間に対応する短時間の間に起こるという制限がある。
ここで、修飾バクテリオファージ、より詳細には、これらの標的タンパク質が修飾された修飾バクテリオファージの多様性を保存することを可能とするためには、感染の第1のサイクルの終点において初代のバクテリオファージを回収することが重要である。バクテリオファージがこれらの宿主に再び感染すると、これにより、これらの多様性が減少するが、これは、これらの宿主を認識するバクテリオファージのみが再生されるからである。
溶菌サイクルの期間と関連するこの一時的な制限は、遺伝的組換え現象の頻度を減少させ、これにより、そこから生じる可能性のある修飾バクテリオファージの多様性を限定する。
他の制限は、最初の制限とは別に、得られた修飾バクテリオファージのバンクが再現できないという事実にある。従って、修飾バクテリオファージの新規なストックを産生するためには、ランダム配列の挿入を許容する複数のベクターを有する宿主細菌のストックを再度感染させる必要がある。
国際公開第2008/093009号
Thiel,K.,Nature Biotechnology,2004,22:31−36
本発明は、これらの制限を克服すること、およびより詳細には、このタイプのバクテリオファージにより課せられる溶菌サイクルに関連する制約を克服することを目的とする。
驚くべきことに、本発明者らは、バクテリオファージに感染した細菌中のRhoタンパク質の修飾型を過剰発現させることにより、この細菌中でファージの溶菌サイクルを阻害すること、ならびにバクテリオファージの後代の産生および細菌の溶解を少なくとも一時的に防止することが可能であったことを見出した。
この阻害に基づき、本発明者らは、溶菌性バクテリオファージが宿主細菌に入った時点で固定化される方法を開発した。
「固定化」とは、バクテリオファージ、もしくはより正確にはこのゲノムが、制御された様式で宿主細菌内に保持されることを意味する。
本発明者らの知る限りでは、溶菌性ファージがこのように誘導可能にこの宿主細菌内に固定化されたのは初めてのことである。
バクテリオファージのゲノムの複製は、非常に複雑な方法であり、細菌の染色体の重複とは無関係であると考えられていることを念頭に置くべきである。この複製は、DNAの転写、翻訳および重複の工程を含む。
本発明の溶菌サイクルの阻害は、DNA、特に細菌ゲノムのDNAの重複の方法に悪影響を及ぼすとは思われない。従って、本発明者らは、細菌中のバクテリオファージゲノムを、この固定化の期間の間に、非常に効率的に修飾することが可能であったことを確証した。
さらに、いわゆる固定化の期間の間、細菌の完全性は保持され、この結果、細菌を特にエレクトロポレーションにより形質転換することが可能である。従って、バクテリオファージゲノムを、特に、PCRフラグメントもしくはベクターなどの外因性の遺伝物質を含む相同組換えにより、細菌中で修飾することができる。
本発明のバクテリオファージの固定化を達成するために本発明者らによって用いられた、Rhoタンパク質の修飾形態は、より詳細には、rho遺伝子の変異体の発現から生じる。
Rho遺伝子は、多数の菌種のゲノム中に存在する。従って、本発明によれば、この所定の種に特異的なバクテリオファージの固定化を得ることが可能になるためには、所定の菌種に存在する野生型遺伝子の変異コピーを得、および、必要に応じて、このゲノムの修飾へと進めば十分である。
従って、本発明の方法、ならびに本発明者らにより開発された宿主細菌は、非常に多数の細菌宿主中で溶菌性バクテリオファージのゲノムを固定化および修飾することを可能にする分子生物学の新規なツールを構成する。
本発明は、以下に詳述する多くの利点を有し、この利点は、特に、以下の事実に存在する:
−バクテリオファージが、いかなる可能性のある細菌宿主中でも適用することができる単純な手段により、効率的に、安定に、および完全に制御された様式で、固定化されること;
−バクテリオファージの固定化が可逆的であり、およびこの溶菌性にも、固定化が除去された時点のこの複製の能力にも影響しないこと;
−固定化のメカニズムがエレクトロポレーションに耐え、ならびに、宿主に悪影響を及ぼすことなく、および連続的な溶菌サイクルに頼ることなく、バクテリオファージにおける複数の連続的な組換え工程を許容し、これによって、連続的な感染のおかげで、宿主に関する選択により、バクテリオファージの多様性の損失がもたらされること;
−宿主中に固定化されたバクテリオファージは、「調節可能な形質導入ベクター」として作用することができる、即ち、これは、溶原性バクテリオファージの様式で、この宿主の形質転換に関与することができるか、もしくはこの宿主のゲノム中に挿入することができる;
−感染した宿主細菌は、他のバクテリオファージ後の感染のいずれかに耐性となるという特定の特徴を有し、このことは、DNAの水平移動を制限し、およびゲノムの修飾の方法の信頼度を増加させる。
本発明の好ましい実施形態の方法の工程の概略図である。 バクテリオファージT4のDNAゲノムのこの細菌宿主E.coli DK8中での存在のアガロースゲル上での確認。細菌をバクテリオファージT4に感染させ、およびRho*の発現を細菌中で誘導した後、DNAを細菌から抽出する。M:SmartLadder分子サイズマーカー(Eurogentec)。1:バクテリオファージT4の対照DNA。2:未感染E.coli細胞の抽出(陰性対照)。3:Rho*誘導の24時間後の、E.coli細胞からのバクテリオファージT4のゲノムの抽出。バクテリオファージDNAは、ウェル1および3で検出される。 バクテリオファージT4に感染したE.coliの細菌培養物の懸濁液。A:細胞の懸濁液の曇った外観(溶解せず)。BおよびC:固定化の除去およびバクテリオファージの後代の放出の後の細胞溶解による、懸濁液のより澄んだ外観。D:Rho*遺伝子の発現の誘導の非存在下での細胞の完全な溶解による、懸濁液の澄んだ外観。放出された固定化ファージは、感染性のままである。 細菌菌叢上での堆積(寒天媒体上の二重層中)。より濃い色の溶解溶菌斑は、溶菌段階におけるバクテリオファージの存在を明らかにする。C:バクテリオファージは固定化相中にある(溶解溶菌斑の非存在)。D:固定化相を除去する。次いで、バクテリオファージは、これらの溶菌サイクルを再開する(細菌菌叢上で可視の細菌の溶解)。 細菌菌叢上での堆積(寒天媒体上の二重層中)。より濃い色の溶解溶菌斑は、溶菌段階におけるバクテリオファージの存在を明らかにする。E:(1)バクテリオファージが固定化されている細菌(2)これらのゲノムの修飾後に放出されたバクテリオファージ。F:修飾後のバクテリオファージの放出。
本発明は、この一般的な原理において、宿主細菌中の溶菌性バクテリオファージのゲノムを固定化および修飾することを可能にする方法に関する。この方法は、特に、以下の点により特徴付けられる:
(i)宿主細菌をバクテリオファージに感染させる;
(ii)バクテリオファージのこの宿主中での溶菌サイクルを、一時的に阻害する;
(iii)工程ii)の間にバクテリオファージゲノムを修飾し、この間にバクテリオファージを宿主細菌内に固定化する;
(iv)このゲノムが修飾された工程i)のバクテリオファージの後代を放出するために、一時的であると説明することができる、工程ii)で誘導された溶菌サイクルの阻害を除去する。バクテリオファージの子孫を構成する後代は、娘バクテリオファージを含み、この割合は、宿主細菌を感染させるのに用いられた親バクテリオファージのゲノムに対して修飾されたゲノムを含む。
バクテリオファージのゲノムを修飾するとは、バクテリオファージの最初の遺伝物質の任意の改変を意味し、これを達成するために用いる技術は問わない。これは点変異、挿入もしくは欠失であり得る。より詳細には、本発明は、相同組換えの技術を含むゲノムの修飾を容易にする。本発明を実施するのに用いられる相同組換えの技術は、当業者に公知である[Poteete,A.R.et al.,(2001)FEMS Microbiol.Lett.201(1):9−14;Kuzminov,A.et al.(2001)PNAS,98(15):8298−305]。
好ましくは、このゲノムが本発明により修飾されたバクテリオファージは、ミオウイルス科のバクテリオファージであり、好ましくは、バクテリオファージT4、T5、T6およびT7などのT型のバクテリオファージである。これらのバクテリオファージは当業者に周知であり、特にバクテリオファージT4は、この完全なゲノムが配列決定されている[Miller,E.S.et al.,Bacteriophage T4 genome,Microbiol Mol.Biol.Rev.,2003,67(1):86−156]。バクテリオファージゲノムの完全な配列は、Genbankで入手可能である(AF 158101)。
本発明の宿主細菌は、バクテリオファージを複製するのに慣用されている細菌であって、このゲノムを修飾することが望まれる細菌である。好ましくは、宿主細菌は、本発明のDNA構築により形質転換することができる株であり、このことは、相同組換えによってバクテリオファージを修飾することを可能にする。
本発明の方法を実施するためのT型バクテリオファージに特に適した宿主細菌は、グラム陰性細菌、より詳細にはエシェリシア・コーライ(Escherichia coli)である。DK8株(ATCC47038)は、バクテリオファージT4を修飾するのに特に適している。
T型のバクテリオファージのゲノムの修飾という状況において、ラムダプロファージ由来であり、ならびに遺伝子exo、betおよびgamを含むミニラムダ型(λ)のベクターにより形質転換されたE.coliの株を用いることが有利であり得る。この種のベクターは、例えば、宿主細菌が培養される温度の機能として、相同組換えを制御し、これにより、宿主細菌中で起こる組換え現象のより良い制御が可能になる。
「溶菌サイクルの阻害」とは、溶菌サイクルの期間を、該溶菌サイクルの通常の期間に対して増加させることを意味する。溶菌サイクルの通常の期間は、実験的に確立する(非阻害の対照)ことができるか、もしくは比較実験条件下で実施した実験についての文献におけるデータから得ることができる。好ましくは、阻害は、感染した細菌の数が制限され、溶解の現象およびバクテリオファージの放出の現象が20%未満まで、好ましくは10%未満まで観察されるようなものである。
溶菌サイクルの阻害は、好ましくは、細菌中のバクテリオファージの固定化が一時的である、即ち、時間が限られているような様式で、一時的に得られる。好ましくは、阻害は可逆的である。つまり、本発明は、細菌によって放出されたバクテリオファージを回収するために、ゲノムの修飾後の再活性化を構想する。次いで、修飾されたバクテリオファージは、最初に細菌に感染しおよびこのゲノムが固定化工程の間に修飾されたバクテリオファージの後代を構成する。この再活性化は、好ましくは、溶菌サイクルの阻害を除去することにより達成される。
しかしながら、本発明の1つの態様によれば、特に、修飾されたもしくはされていないバクテリオファージゲノムを、この固定化形態で宿主細菌中に保存するために、バクテリオファージの固定化を非常に長い時間にわたって提供することができる。例えば、工程ii)もしくは工程iii)の後の宿主細菌を冷凍することによって、上記工程iv)を遅らせることを構想することができる。
好ましくは、バクテリオファージの溶菌サイクルは、宿主細菌中で工程ii)において、複製サイクルの初期相を妨害する効果、特に、バクテリオファージの遺伝子の転写に必要なタンパク質の産生を制限もしくは防止する効果を有するタンパク質の細菌中の原形質での発現により、阻害される。この妨害タンパク質は、好ましくは誘導性プロモーターの制御下に置かれた遺伝子配列由来の発現ベクターにより、細菌の原形質中で発現することができる。この種の遺伝子構築物は当業者に周知である[Sambrook J.,Russel D.W.(2001)Molecular Cloning,a Laboratory Manual,CHSL Press]。誘導性プロモーターの例は、IPTGの添加により誘導可能なGAL型の誘導性プロモーター、もしくは熱ショックにより誘導可能なHSP型の誘導性プロモーターである。
好ましくは、バクテリオファージの複製サイクル(溶菌サイクル)の阻害を許容するタンパク質の発現は、感染の前、即ち、宿主細菌がバクテリオファージと接触させられる前に誘導される。
本発明の好ましい態様によれば、溶菌サイクルは、Rho*と呼ばれるRhoタンパク質の変異体により、もしくは後者の相同タンパク質により、阻害される。Rhoタンパク質は、ほとんどの細菌、特にグラム陰性細菌中に存在するタンパク質である。相同性とは、Rhoと同じ特徴、好ましくは同じ機能を有し、特に、アミノ酸の同一性百分率が後者の40%より大きい、好ましくは60%より大きい、より好ましくは80%より大きい、より一層好ましくは95%より大きいタンパク質である。
Rhoタンパク質およびこの種々の形態は、広範囲にわたって文献に記載されている[Pinkham,J.L et al.(1983)The nucleotide sequence of the rho gene of E.coli K−12 Nucleic Acids Res.11(11):3531−3545][EMBL J01673]。このタンパク質は、この機能的形態で、転写の終結に関与することが確証されてきた[Hitchens,T.K.(2006)Sequence specific interactions in the RNA−binding Domain of E.coli Transcription Factor Rho*,J.Biol.Chem.281(44):33697−703]。非機能的であると考えられるこのタンパク質(Rho*)の多くの変異体は、文献に記載されている。rho遺伝子のE.coli中での変異は、細菌の成長を、rho遺伝子が必須遺伝子であるとみなされる程度まで大幅に減少させる効果を有する[Chalissery,J.(2007)Transcription Termination in Defective mutants of Rho:RoIe of different Functions of Rho in releasing RNA from the Elongation complex,J.Mol.Biol 371(4):855−872]。E.coli中での機能的Rhoタンパク質の非存在は、バクテリオファージの複製サイクルを妨げる[Linder,H.C.(1985)E.coli Rho Factor is involved in Lysis of Bacteriophage T4−infected cells,Genetics 111:197−218]。しかしながら、Rhoがバクテリオファージの複製サイクルに関与する様式に関して多くの疑問が残っている[Banerjee S.(2006)Rho−dependent Transcription Termination:More questions than answers.J.Microbiol.44(1):11−22]。
好ましくは、バクテリオファージが感染した宿主細菌中で発現したときにこの固定化を得ることを可能にするのは、非機能的であると考えられている変異Rho*形態である。「非機能的」とは、野生型タンパク質の変異体であって、細胞中で通常実行する機能を提供することが不可能であるものを意味する。非常に多くのRhoの非機能的変異体が文献に記載されており[J.Mol.Biol.(2007)371(4):855−872]、例えば、以下のアミノ酸においてRhoの野生型配列に置換を有するものが挙げられる:G51V、G53V、Y80C、Y274D、P279S、P279L、G324D、N340SおよびI382N。
従って、本発明の好ましい態様は、バクテリオファージの溶菌サイクルを阻害するための、該バクテリオファージに感染した宿主細菌中のRho*タンパク質の過剰発現に存在する。
好ましくは、この発現は、細菌中に天然に存在する野生型遺伝子のコピーであって、変異され、および通常は発現ベクターにクローン化されている、コピーに基づいて得られる。遺伝子の変異コピーは、好ましくは、細菌染色体中に通常存在する野生型rho遺伝子と平行して過剰発現される。
驚くべきことに、本発明者らは、たとえ野生型Rhoタンパク質が機能的形態で細菌中で発現していても、細菌中でのRho*タンパク質の発現が、バクテリオファージの複製サイクルの阻害をもたらすことを観察した。
これについて、本発明は、より詳細には、以下の工程を1つ以上含む、上記で定義した方法に関する:
i)発現が任意である、rho遺伝子ならびに該遺伝子の変異コピー(rho*)を有する宿主細菌を培養する工程;
ii)宿主細菌中の変異rho*遺伝子の発現を誘導する工程;
iii)該宿主細菌に特異的な溶菌性バクテリオファージを、変異rho*遺伝子が発現される該宿主細菌に感染させる工程であって、バクテリオファージをこの宿主細菌内に固定化する効果を有する前記工程;
iv)工程iii)の間に、宿主細菌内のバクテリオファージゲノムを修飾する工程;
v)rho*の発現の誘導を停止し、野生型rho遺伝子を細菌内で発現させる工程であって、バクテリオファージの固定化を除去するおよびゲノムが修飾されているバクテリオファージの後代を放出する効果を有する前記工程。
本発明によれば、野生型rho遺伝子のコピーを、宿主細菌中で、変異rho*コピーと平行して保存することが有利である。つまり、Rho[+]タンパク質の発現は、細菌がバクテリオファージの固定化の間にわたって分裂し続けることを可能にするように思われる。従って、特に方法の工程iii)およびiv)の間に、バクテリオファージを固定化しながら、宿主細菌を分裂させることが可能になる。従って、本発明者らは、バクテリオファージが固定化されていたものの、バクテリオファージゲノムは、この宿主のバクテリオファージゲノムと同時に複製されていたことがわかった。従って、バクテリオファージが宿主細菌の分裂により固定化されている細胞の数を増加させ、およびこれにより方法の間にバクテリオファージが固定化されている細菌の数を容易に増加させることが可能である。
理論に束縛されないが、本発明者らは、Rho*タンパク質は、野生型Rhoタンパク質と競合する能力を有すると仮定した。
しかしながら、現在の知識では、Rhoタンパク質が特にバクテリオファージの溶菌サイクルに関与するかどうか、即ち、より詳細には、Rhoタンパク質が、細菌中に存在する遺伝因子の重複の(もしくは転写の)メカニズムの状態に作用するかどうかを評価することは難しい。
本発明のさらなる利点は、バクテリオファージの固定化相の間もなお、宿主細菌が外因性起源の核酸配列を受容することが可能であることである。特に、例えば、PCRフラグメント、cDNA、RNAもしくはベクターをこれらの原形質に侵入させて、これらの細菌を、特にエレクトロポレーションにより、即ち、電界を印加することにより、遺伝子的に形質転換することが可能である。この方法は、当業者に周知である[Dunny,G.M.et al.(1991)Improved electroporation and cloning system for gram−positive bacteria.Appl.Environ.Microbiol.57:1194−1201][Reysset,G.(1993)Transformation and electrotransformation in clostridia,p.111−119.In M.Sebald(ed.),Genetics and molecular biology of anaerobes.Springer−Verlag,New York N.Y][Sambrook,J.and D.W.Russell(2001).Molecular cloning:a laboratory manual,3rd ed.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Plainview,N.Y.]。従って、本発明の1つの態様は、バクテリオファージゲノムを、この固定化の間に、宿主細菌の形質転換によって修飾することが可能であるということである。好ましくは、形質転換は、1つ以上のベクター、詳細には、相同組換え用のベクターにより実施される。
宿主細菌の形質転換は、固定化相に対応する工程iii)の前もしくは後に行うことができる。特に、宿主細菌は、バクテリオファージに感染させられる前に、外因性のDNAもしくはRNAにより形質転換することができる。
本発明の1つの態様によれば、実施例に示すように、固定化相の間に、幾つかもしくは全てのバクテリオファージゲノムを、細菌中に存在する相同組換えによりベクターに挿入することができる。
本発明の他の態様は、上記方法の実施を許容する宿主細菌の調製に関する。このような宿主細菌は、より詳細には、好ましくは発現ベクター上に存在し、Rho*タンパク質の発現を許容するrho遺伝子の変異コピー(rho*)を含む細菌を含む。一般には、本発明の宿主細菌は、野生型Rhoタンパク質の発現を許容するrho遺伝子のコピーを、この染色体上にさらに含む。
該宿主細菌がバクテリオファージに感染した場合、前者は、この原形質上に、該バクテリオファージのゲノムをさらに含む。
本発明に好ましい宿主細菌は、より詳細には、本願の実施例に記載される細菌(Rho*−λ)である。
本願はまた、以下から選択される本発明の要素を1つ以上含む、本発明の方法を実施するためのキットに関する:
−上記で定義した宿主細菌、
−好ましくは誘導性プロモーターの制御下に置かれた、変異rho遺伝子のコピー(rho*)を含む発現ベクター、
−バクテリオファージゲノムが修飾されることを可能にする、相同組換えベクター、
−宿主細菌を培養するための、および該宿主細菌中のバクテリオファージの固定化を誘導するための、試薬もしくは培養培地。
本発明は、この標的タンパク質が修飾されたバクテリオファージの産生に特に適している。
特に、本発明は、バクテリオファージのゲノムが、先に記載した方法の工程iii)において、標的タンパク質を発現する遺伝子、好ましくは、GP12、GP36、GP37およびGP38タンパク質もしくは後者と相同性のタンパク質をコードする遺伝子のレベルで、修飾されるであろうことを構想している。
バクテリオファージの標的タンパク質は、バクテリオファージの宿主細菌の認識および宿主細菌への付着に関与するタンパク質であると定義される。これらのタンパク質は、好ましくは、バクテリオファージT4のテイル繊維、ベースプレートもしくはキャプシドを構成するものから選択される。本発明の方法に特に適したタンパク質は、ベースプレートのGP12タンパク質であり、このヌクレオチド配列は、Swissprot(Uniprot)データべースにて、受入番号[P10930]として入手可能である。他の好ましい標的タンパク質は、テイル繊維の遠位領域で発生するGP36[P03743]、GP37[P03744]およびGP38[P03739]、もしくはキャプシドのタンパク質GP23[P04535]、GP24[P19896]、Hoc[P18056]およびSoc[P03715]である。
当然のことながら、T型のバクテリオファージ以外のバクテリオファージ中に存在する上記タンパク質と相同性のタンパク質もまた好ましい。
「相同配列」とは、後者と少なくとも50%の相同性、好ましくは少なくとも70%の相同性、より好ましくは少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質を意味する。
本発明によれば、バクテリオファージは、ランダムに産生したオリゴヌクレオチド配列を挿入することにより、標的タンパク質をコードする遺伝子のレベルで修飾される。
本発明の方法は、エレクトロポレーションにより単鎖形態で導入することができるPCRフラグメントの相同組換えによる挿入を可能にするのに特に有用であることを証明する。
つまり、宿主細菌中でのバクテリオファージの固定化の期間は、このようなフラグメントの組込みに役立つが、該フラグメントは、バクテリオファージゲノムの配列と相同性の配列を少なくとも部分的に含む。
この点において、本出願人の以前の出願であるWO2008/093010に記載のPCR技術が参照されるであろうが、この技術は、一方ではランダム配列を含み、および他方ではバクテリオファージの遺伝子の標的化を可能にする保存相同配列を含むDNAフラグメントの多数のコピーを産生することを可能にする。これらのDNAフラグメントは、20kbから4000kbの、好ましくは30kbから2000kbの、およびより好ましくは40kbから100kbのサイズを有することができる。
本発明の方法は、広範な種々のPCR産物を直接用いることができるので、これらのフラグメントをクローン化するしばしば不可欠な工程を省略することを可能にする。しかしながら、このようなフラグメントはまた、本発明の方法に影響を及ぼすことなく相同組換えベクター上でクローン化することもできる。
本発明の好ましい態様によれば、上記方法の工程iii)によるバクテリオファージの固定化相の間の相同組換えにより、バクテリオファージの標的タンパク質をコードする幾つかの遺伝子が同時に修飾される。このような結果を達成するため、本発明は、特に、好ましくは異なる遺伝子を標的とする異なるDNAフラグメントをエレクトロポレーションすることにより、宿主細菌を連続的もしくは同時に形質転換することを構想する。
宿主細菌E.coli中で本発明に従ってバクテリオファージT4の遺伝子を修飾するのに好ましいベクターは、例えば、ベクターpACYC184(ATCC37033)、pBAD18−K(ATCC87397)およびRR1(ATCC87076)である。このようなベクターは、異なる抗生物質への耐性を与えるマーカーを有するという利点を有する。さらに、これらは、後者が宿主細菌に組み込まれた時点で、異なるベクターの間で組換えを引き起こし得る共通のヌクレオチド配列を共有しない。
本発明によれば、バクテリオファージの修飾は、1回の溶菌サイクルの間に実行され、この期間は、バクテリオファージを宿主細菌中に固定することにより、人為的に延長される。
この溶菌サイクルの終点で得られるバクテリオファージの後代は、通常、10%超の、好ましくは20%超の、より好ましくは50%超の遺伝子修飾されたバクテリオファージを含む。この後代は、再感染の第2のサイクルに再利用することができる。
有利には、バクテリオファージの標的タンパク質の修飾の場合は、修飾されたバクテリオファージは、第1の溶菌サイクルの終点で回収される。つまり、単一の複製サイクルへの制限がある場合、バクテリオファージは最大の多様性を示すが、これは、もし再感染のさらなるサイクルが実施されるならば、少ないであろう。
本発明のバクテリオファージのバンクは、1つ以上の標的タンパク質が多様化されるバクテリオファージを含む。このようなバクテリオファージは、新規な菌株を認識することができる可能性がある。これらは、抗生物質に耐性となった新生の細菌もしくは株に対抗する可能性のある手段を示す。
本発明の1つの態様は、特に医学分野で、細菌感染症を処置するために、これらの遺伝子修飾されたバクテリオファージを抗菌物質として用いることからなる。
より一般的には、本発明は、本発明の方法により修飾されたバクテリオファージゲノム、およびこれらから得られ得る遺伝子修飾されたバクテリオファージに関する。
本発明はまた、本発明により修飾されたバクテリオファージから抽出することができるか、またはこのバクテリオファージから得られたDNAからもしくはバクテリオファージが固定化された宿主細菌から組換えにより発現することができる、修飾タンパク質に関する。このような修飾タンパク質は、好ましくは、バクテリオファージの標的タンパク質である。
以下に示す実施例は、本発明を、この範囲を限定することなく例示することを目的とする。
実施例
1/バクテリオファージT4を「固定化」するための宿主細菌(番号1)DK8−rho*−λの構築
工程1:発現ベクター中での変異rho遺伝子の調製
rho遺伝子のコピーを、Rho*タンパク質、G51V、Y80CおよびY274DをそれぞれコードするE.coliの変異rho*遺伝子から、PCRにより増幅する[J.Mol.Biol.(2007)371(4):855−872]。増幅は、以下のプライマーを用いて実行する:
RhoF:5’CACCATGAATCTTACCGAATTAAAGAATACG3’(配列番号1)RhoR:5’TTATGAGCGTTTCATCATTTCGA3’(配列番号2)配列番号2))
調製用アガロースゲル上での精製後、制限酵素EcoRIおよびSallを用いて、IPTGにより誘導可能なlacプロモーターの制御下で、PCR産物(Rho*)を発現ベクターpHSG299にクローン化する。ライゲーション後、ベクターpHSG299rho*を精製し、ddHO中に再懸濁し、および「エレクトロコンピテント」DK8細胞(ATCC47038)を形質転換するのに用いる。形質転換体は、30μg/mlのカナマイシンを含むLB培地中で選択し、および30℃で一晩培養する。挿入セグメントrho*の存在のPCR確認のため、幾つかのコロニーを取り出す。DK8−Rho*細胞の濃縮培養物を調製するため、陽性コロニーをLB培地+Km中で培養する。
工程2:E.coli「ミニλ」宿主細菌の構築
recAもしくはrecAバックグラウンドにおけるDNAドナーの効果的な組換えを得るため、温度感受性λclリプレッサーの制御下で組換え遺伝子exo、betおよびgamを有するプロファージλを含むE.coliのDK8宿主細菌を調製する。遺伝子exo、betおよびgamを、42℃で活性化し、および32℃で抑制する。λ機能が5分に減少された時間にわたって活性化される場合、細胞は、より組換え誘導性になり、および、線状DNAを破壊することなく吸収する。λによりコードされるGamタンパク質は、E.coliヌクレアーゼRecBCDによる線状DNAの攻撃を阻害したが、ExoおよびBetaは、この線状DNAについての組換え活性を上昇させた。この組換えは、線状DNAの末端において30から50bpに制限されたDNAホモロジーによりずっと有効である。
オリゴヌクレオチド5’GTATGCATGCTGGGTGTGG(MλRf)(配列番号3)および5’CGCACTCTCGATTCGTAGAGCCTCG(MλRr)(配列番号4)を、プロファージλcl857の増幅用のプライマーとして用いる。
プロファージλがPCRにより増幅された時点で、これは、IPTGにより誘導可能なlacプロモーターを含む低コピー数プラスミドであるプラスミドpFN476(ATCC86962)中のSmal部位(平滑末端)でクローン化される。ライゲーション後、DNAを精製し、ddHO中に再懸濁し、およびエレクトロポレーションにより以前に得られたDK8−rho*細胞に形質転換する[Sambrook,J.and D.W.Russell(2001)Molecular cloning:a laboratory manual,3rd ed.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Plainview,N.Y.]。回収後、細胞をLB培地X−gal+Kan+Ampのプレート上に拡げ、および30℃でインキュベートする。
幾つかのブランクコロニーを、プロファージλの存在のPCR確認のために選択する。次いで、(DK8−rho*−K)細胞の濃縮培養物を調製するため、陽性コロニーを一晩、30℃にて、LB培地X−Gal+Kan+Amp中で培養する。
この工程において、形質転換された宿主はλにより42℃(高温)で誘導可能であり、lacZ陽性であり、およびrho*遺伝子のコピーを含む。
2/宿主細菌番号1におけるバクテリオファージT4の固定化
DK8−rho*−λ細胞の新鮮な培養物を、一晩、LB培地X−Gal+Kan+Amp中、30℃にて培養する。
細胞がバクテリオファージの添加の前に指数的成長段階に入ることを保証するため、T4による感染のための培養を、10mlのLB培地+Kan+Ampについての一晩培養物から得られた0.05ml以下の体積から開始する。
通気を改善するため、これらの培養物を、30℃の振盪ウォーターバス中、非密封的に栓をした250mlの枝付き三角フラスコ中で増殖させる。
1mMのIPTG(rho*の発現の誘導物質)を有するLB培地X−Gal+Kan+Amp中の250mlの細胞を、1ml当たり3×10細胞の密度で、30℃で、振盪により攪拌しながら培養する。
バクテリオファージT4を、細胞1個当たり約10個の粒子の多重度で添加し、および成長は正確に20分間にわたり継続する。
細胞をLB培地X−gal+Kan+Amp+IPTGのプレート上に拡げ、および30℃でインキュベートする。
幾つかのコロニーを、バクテリオファージT4DNA(図2参照)の存在のPCR確認のために選択する。次いで、バクテリオファージT4の陽性コロニーを、一晩、30℃で、LB培地X−Gal+Kan+Amp+IPTG中で培養して、引き続く操作で用いられる(DK8−Rho*−λ−DNAT4)細胞の濃縮培養物を調製する。
3/バクテリオファージT4の修飾された後代の製造番号1
DK8−Rho*−λ−DNAT4細胞を液体培地中で培養し、次いで、精製されたPCRから直接得られたDNAフラグメントを用いる通常のプロトコル[Sambrook,J.and D.W.Russell(2001)Molecular cloning:a laboratory manual,3rd ed.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Plainview,N.Y.]によるエレクトロポレーションにより、形質転換する。PCRフラグメントは、WO2008/093010に記載のgp37、gp12およびgp38遺伝子の修飾フラグメントを含む。
形質転換後、形質転換した細菌を、42℃に予備加熱したLB培地X−Gal+Kan+Amp+IPTG上で培養する。細胞を、一定の通気下、42℃にて正確に15分間インキュベートする。次いで、培養物を30℃でウォーターバスに移し、正確に25分間成長させ続ける。
この工程の目的は、導入されたPCRフラグメントおよび細菌中に存在するバクテリオファージT4のDNAの間の相同組換えを誘導することである。
組換えが実施された時点で、DK8−Rho*−λ−DNA細胞を再懸濁し、およびLB培地+Kan+Amp中で洗浄し、次いで、30℃で正確に2時間インキュベートする。このインキュベーションの間、細菌を溶解し、およびバクテリオファージT4の後代を放出する。この後代は、部分的に、修飾バクテリオファージから構成される。
溶解した細菌を、5000rpmで5分間の遠心分離により収集し、一方、溶解上清を回収する。数滴のクロロホルムを上清に添加し、後者を10分間、6000rpmで遠心分離する。クロロホルムを除去する。次いで、修飾バクテリオファージを含む上清を、濃縮緩衝液5Xを用いて緩衝液濃度SM1X(MgSO4 10mM、NaCI 100mM、0.01%のゼラチンおよびTris−HCI 50mM[pH7.5])に調整し、4℃で保存する。
4/プラスミド上のバクテリオファージT4を「固定化」するための宿主細菌(番号2)の構築
この構築の目的は、バクテリオファージT4のゲノムが細菌中で固定化された時点で、該ゲノムをベクターにクローン化することである。
ベクターへの挿入を、相同組換えにより、バクテリオファージゲノム中に存在するmobA遺伝子の配列のレベルで実施する。
工程1:バクテリオファージT4のmobA遺伝子のコピーを含むベクターの調製
mobA遺伝子を、以下のプライマーを用いて、バクテリオファージT4のゲノムDNAから開始するPCRにより増幅する。
mobAF:5’GTAGAAAATAGTGCTAAAAAGTGT3’(配列番号5)
mobAR:5’TTAATAGTGCGGGGTAAAACCC3’(配列番号6)
調製用アガロースゲル上での精製後、PCR産物(mobA)を、Smal切断部位において、ベクターpDNR−1rの2つのloxP部位の間でクローン化する。次いで、E.coliDK8細胞(ATCC47038)を、クロラムフェニコール(Cm)耐性遺伝子を有するベクターpDNR−1rmobAを用いて形質転換する。形形質転換体を、30μg/mlのクロラムフェニコールを含む37℃のLB培地中で選択する。確認後、形質転換体(DK8−mobA)を、pDNR−1rmobAベクターのストックを調製するのに用いる。
工程2:pDNR−1rmobAベクターのDK8−Rho*−λ細胞への導入
上記の項目3/で述べたプロトコルに従い、DK8−Rho*−λ細胞を「エレクトロコンピテント」にし、次いで、上記で調製したpDNR−1rmobAベクターを用いて形質転換する。
形質転換した細胞を、LB培地X−Gal+Kan+Amp+Cmのプレート上に拡げ、次いで、30℃でインキュベートする。
幾つかのコロニーを、pDNR−1rmobAベクターの存在のPCR確認のために選択する。次いで、陽性コロニーを、一晩、30℃で、LB培地X−Gal+Kan+Amp+Cm中で培養して、引き続く操作で用いることができる細胞(DK8−Rho*−λ−mobA)の濃縮培養物を調製する。
5/宿主細菌番号2におけるバクテリオファージT4の固定化
DK8−Rho*−λ−mobA細胞の新鮮な一晩培養物を、LB培地X−Gal+Kan+Amp+Cm中、30℃にて調製する。
細胞がバクテリオファージT4の添加の前に指数的成長段階に入ることを保証するため、該バクテリオファージに感染させる培養物を、10mlのLB培地X−Gal+Kan+Amp+Cmについて、0.05ml以下の細胞の体積の一晩培養物から開始する。
通気を改善するため、これらの培養物を、30℃の振盪ウォーターバス中、非密封的に栓をした250mlの枝付き三角フラスコ中で増殖させる。
LB培地X−Gal+Kan+Amp+Cm中の250mlの細胞を、IPTG(Rho*発現の誘導物質)と共に、1ml当たり3×10細胞の密度で、30℃で、振盪により攪拌しながら培養する。
次いで、指数的成長している細胞の10mlアリコートを、42℃に予備加熱した40mlのLB培地X−Gal+Kan+Amp+Cmに移し、および、一定の通気をしながら、42℃で正確に15分間インキュベートする。バクテリオファージT4を、細胞1個当たり約10個の粒子の多重度で添加する。培養物を30℃のウォーターバスに移し、正確に25分間成長させ続ける。
細胞をLB培地X−Gal+Kan+Amp+Cm+IPTGのプレート上に拡げ、および30℃でインキュベートする。
幾つかのコロニーを、バクテリオファージT4DNAの存在のPCR確認のために選択する。次いで、バクテリオファージT4の陽性コロニーを、一晩、30℃で、LB培地X−Gal+Kan+Amp+Cm+IPTG中で培養して、引き続く操作で用いられる(DK8−Rho*−λ−mobA−DNAT4)細胞の濃縮培養物を調製する。
6/修飾されたバクテリオファージT4の後代の製造番号2
pDNR−1rmobAプラスミドからバクテリオファージゲノムを放出するため、Creタンパク質を発現する別のプラスミドpHSG−cre(ATCC番号87075)を、DK8−Rho*−λ−mobA−DNAT4細胞に導入する。このプラスミドを、前記と同様のエレクトロポレーションプロトコルに従って導入する。Rho*の宿主細菌中での誘導を停止する。これを行うため、細胞を遠心分離し、培地を取り出し、および細菌ペレットを、誘導物質を含まないLB培地で洗浄する。次いで、タンパク質Creの発現は、ベクターpDNR−1rmobA−T4のloxP部位における組換え、および、従って、バクテリオファージT4の完全なゲノムDNAの放出をもたらす。
次いで、細胞を、LBX−Gal+Kan+Amp+Cm中で正確に2時間、30℃でインキュベートする。ここのインキュベーションの間、バクテリオファージはこの溶菌サイクルを再開する:細菌は溶解され、および、バクテリオファージT4の後代を放出する。
バクテリオファージを、項目3/と同様の方法で、遠心分離により回収する。

Claims (15)

  1. 宿主細菌中で溶菌性バクテリオファージのゲノムを修飾する方法であって、
    (i)宿主細菌をバクテリオファージに感染させること;
    (ii)非機能的形態(Rho*)である該細菌のRhoタンパク質を該細菌の原形質中において過剰発現することによって、バクテリオファージの溶菌サイクルを宿主細菌中で阻害すること;
    (iii)工程ii)の間にバクテリオファージゲノムを修飾し、この間にバクテリオファージを宿主細菌内に固定化すること;
    (iv)このゲノムが修飾された工程(i)のバクテリオファージの後代を放出するために、溶菌サイクルの工程ii)の阻害を除去することを特徴とする、方法。
  2. 溶菌性バクテリオファージが、T科のバクテリオファージ、好ましくはT4型のバクテリオファージなどのミオウイルス科のバクテリオファージであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  3. Rho*タンパク質が、誘導性プロモーターの制御下で、rho遺伝子の変異コピーにより過剰発現されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 工程iii)の宿主細菌が、特に電界の作用(エレクトロポレーション)による細菌形質転換の工程を経ることによって、後者が外因性の核酸配列を組み込むことができるようにすることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
  5. 前記核酸配列が、PCRもしくは相同組換えベクターにより産生されたオリゴヌクレオチド配列を含むことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
  6. 宿主細菌中での工程iii)におけるバクテリオファージゲノムの修飾が、ベクターによる宿主細胞の形質転換の後に、このベクターによる相同組換えにより行われることを特徴とする、請求項4もしくは5に記載の方法。
  7. バクテリオファージゲノムが、工程iii)の間に、複製ベクターに組み込まれることを特徴とする、請求項1から6の一項に記載の方法。
  8. 宿主細菌が分裂することが可能である一方、バクテリオファージが工程ii)およびiv)の間にこの中に固定化されることを特徴とする、請求項1から7の一項に記載の方法。
  9. 以下の工程を含むことを特徴とする、請求項1から8の一項に記載の方法:
    i)発現が任意である、rho遺伝子ならびに該遺伝子の変異コピー(rho*)を有する宿主細菌を培養する工程
    ii)宿主細菌中の変異rho*遺伝子の発現を誘導する工程
    iii)該宿主細菌に特異的な溶菌性バクテリオファージを、変異rho*遺伝子が発現される該宿主細菌に感染させる工程であって、バクテリオファージをこの宿主細菌内に固定化する効果を有する前記工程;
    iv)工程iii)の間に、宿主細菌内のバクテリオファージゲノムを修飾する工程
    v)rho*の発現の誘導を停止し、野生型rho遺伝子を細菌内で発現させる工程であって、バクテリオファージの固定化を除去するおよびゲノムが修飾されているバクテリオファージの後代を放出する効果を有する前記工程。
  10. 前記バクテリオファージのゲノムが、工程iii)の間に、標的タンパク質を発現する遺伝子において、修飾されることを特徴とし、前記標的タンパク質は、バクテリオファージの宿主細菌の認識および宿主細菌への付着に関与するタンパク質である、請求項1から9の一項に記載の方法。
  11. 前記標的タンパク質が、GP12、GP36、GP37およびGP38、もしくはそれらと相同性のタンパク質から選択されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
  12. 前記バクテリオファージのゲノムが、工程iii)の間に、バクテリオファージのキャプシドタンパク質を発現する遺伝子において、修飾されることを特徴とする、請求項1から9の一項に記載の方法。
  13. 前記キャプシドタンパク質が、GP23、GP24、HocおよびSoc、もしくはそれらと相同性のタンパク質から選択されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
  14. 請求項1から13の一項に記載の方法を実施するための宿主細菌であって、
    −機能的Rhoタンパク質の発現を許容する前記細菌のrho遺伝子のコピー;
    −Rho*タンパク質の発現を許容する、前記rho遺伝子の変異コピー(rho*)を含むベクター;
    −溶菌性バクテリオファージのゲノム、を含むことを特徴とする、宿主細菌。
  15. 前記溶菌性バクテリオファージのゲノムと相同性の領域を1つ以上含む相同組換えベクターをさらに含むことを特徴とする、請求項14に記載の細菌。
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