従来より、騒音を抑制するために、鉄や鉛などの比重の大きな材料で形成して振動しにくくした遮音パネルを音源側と受音側との間に配することが行われている。しかし、遮音パネルを重い材料で形成すると、それを組み込む建築物や乗り物や機器の軽量化が困難になるために、近年、遮音パネルの重量を増大させることなく、遮音パネルを透過してくる音を抑える技術が注目されるようになってきている。
なかでも、図1に示すように、音源側と受音側を隔てるための遮音パネルと、遮音パネルを透過した音を検知するためのエラーマイクロホン(センサ)と、エラーマイクロホンの検知した音に応じて制御信号を発する制御手段と、制御手段の発した制御信号に基づいて遮音パネルの所定箇所を振動させる(加振する)ことにより遮音パネルの透過音を抑制するアクチュエータとを用いて遮音パネルの透過音を抑制する「能動遮音制御」と呼ばれる技術に関する研究が多数行われるようになってきている(特許文献1〜8及び非特許文献1〜5を参照)。
例えば、Fullerは、周辺を固定した円形の遮音パネル(パネル)の透過音を1つ又は2つのアクチュエータを用いて抑制する能動遮音制御について検討を行い、能動遮音制御が透過音の抑制に対して大きな効果が得られることを計算により示している(非特許文献1を参照)。
しかし、従来の能動遮音制御では、遮音パネルの透過音をエラー信号として最小化する制御を行っていたため、図1に示すように、遮音パネルの透過側(受音側)に複数のエラーマイクロホンを設置して透過音を検知する必要があった。このため、この種の能動遮音制御は、エラーマイクロホンを設置するスペースが確保できない場合には採用することができなかった。
これに対し、Johnsonらは、図2に示すように、遮音パネルに貼り付けた圧電フィルムで遮音パネルの体積速度を検知し、その検知した体積速度をエラー信号として最小化する制御を行うことにより、透過音を抑制する能動遮音制御を提案している(非特許文献2を参照)。Johnsonらは、低周波数領域においては、透過音の支配因子である1次の放射モードが遮音パネルの体積速度と等価であることについても言及している。
また、Gardonioらは、一対の側縁を二次曲線に沿って切断した多数本の短冊状の圧電フィルム(Quadratically shaped piezoelectric stripes)を遮音パネルの表面と裏面に貼り付け、裏面側の圧電フィルムで遮音パネルの体積速度を検知し、表面側の圧電フィルムで遮音パネルを加振することによって透過音を抑制する能動遮音制御方法を提案している。
しかし、圧電フィルムによって遮音パネルの体積速度を検知する能動遮音制御において、遮音パネルの体積速度を正確に把握しようとすると、遮音パネルの実質的に全面に亘って圧電フィルムを貼り付ける必要があり(非特許文献3のFIG.1及びFIG.3を参照)、コストの面で問題があった。圧電フィルムの使用量を減らすために、遮音パネルの一部の領域のみに圧電フィルムを適当に貼り付けたのでは、遮音パネルの体積速度を正確に把握できず、所望の制御効果が得られなくなってしまう。
これまでには、遮音パネルにおける特定点又は特定領域の変位のみを検知し、その検知した変位から遮音パネルの体積速度を求める方法も提案されている。この方法を上記の圧電フィルムで遮音パネルの体積速度を検知する能動遮音制御に応用すれば、圧電フィルムの使用量を減らしながらも、遮音パネルの正確な体積速度を把握することもできる。しかし、遮音パネルにおける限られた特定部分の変位から遮音パネルの体積速度を求めるためには、高度な演算が必要であり、遮音パネルの形状が変更された場合などには、その都度、演算のアルゴリズムを組み替える必要があった。このため、遮音パネルにおける特定部分における変位のみを検知し、その検知した変位から遮音パネルの体積速度を演算により求める能動遮音制御は、必ずしも実用化に適しているとは言えなかった。
遮音パネルにおける特定部分のみに貼り付けた圧電フィルムなどの分布定数型センサから遮音パネルの体積速度と等価である出力値を演算によることなく直接的に得ることができれば、コストを抑えながらも、汎用性に優れ、実用化に適した能動遮音制御を行うことができるのであるが、そのような技術は未だ提案されていない。
ところで、本発明者らは、反共振現象(遮音パネルの共振周波数よりも僅かに低い周波数で透過音響パワーが減少する現象)が発生する周波数(反共振周波数)における振動分布に着目したアクチュエータの配置方法を提案している(特許文献8及び非特許文献5を参照)。この方法では、例えば、4個又は2個のアクチュエータを反共振周波数における振動分布の節線上に配置する。これにより、低周波数領域の比較的広い帯域において大きな制御効果を得ることができる。しかし、特許文献8及び非特許文献5には、遮音パネルの体積速度を検知するために圧電フィルムをどのように配置すればよいかについては何ら記載されていない。
特開平05−289678号公報
特開平06−149272号公報
特開平07−056580号公報
特開平07−210174号公報
特開平08−314471号公報
特開平10−254458号公報
特開2004−036299号公報
特開2010−060985号公報
Fuller,C.R., "Activecontrol of sound transmission/ radiation from elastic plates by vibrationinputs : I. Analysis", Journal of Sound and Vibration, Vol.136, No.1, 1990, p.1-15.
Johnson,M.E., Elliott,S.J., "Active controlof sound radiation using volume velocity cancellation",J.Acoust.Soc.Am.98(4), October 1995, p.2174-2186
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田中信雄, Snyder,S.D., 菊島義弘, 黒田雅治, "スマートセンサを用いた音響放射パワーのアクティブ・コンロトール(パワーモードと音響放射について)", 日本機械学会論文集C編, Vol.59,No.567, November 1993, p.3444-3451.
眞田明, 東山孝治, 田中信雄, "アクティブ遮音制御におけるアクチュエータ配置法", 日本機械学会論文集C編, Vol.75,No.758, October 2009, p.2686-2694
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、遮音パネルにおける特定部分のみに貼り付けた分布定数型センサから遮音パネルの体積速度と等価である出力値を演算によることなく直接的に得ることができ、コストを抑えながらも、汎用性に優れ、実用化に適した能動遮音装置を提供するものである。また、その能動遮音装置に用いるセンサ付き遮音パネルの製造方法を提供することも本発明の目的である。
1.1 能動遮音制御の理論
まず、能動遮音制御について理論的に検討する。図3に、能動遮音制御の計算モデルを示す。以下においては、図3に示すように、音源側と受音側を隔てる遮音パネルとして無限バフル中に埋め込まれた薄肉平板を想定し、この遮音パネルに対して音(平面音波)が垂直入射する場合について検討を行う。この場合において、遮音パネルの運動方程式は、下記式(1)によって表される。
また、パネルの振動速度(v(r)とする。)は、N次振動モードまで考慮すると、モード展開式により、下記式(2)で表される。
音の波長が遮音パネルの寸法よりも十分に長い周波数領域(低周波数領域)においては、1次放射モード(又は1次パワーモード)が透過音において支配的である。また、1次放射モード(又は1次パワーモード)は、この低周波数帯域において体積速度に等価である。ここで、入射音波による体積速度Uは、下記式(5)で表わされる。
以下、矩形状の遮音パネルの周縁を単純支持(変位のみを拘束する支持)する場合について考える。ここでは、遮音パネルに音波が垂直入射する場合を想定しているため、[奇数,奇数]次振動モード(後述する非相殺型振動モード)しか励振されない。このため、[奇数,奇数]次振動モードのみを考慮して計算すると、モード固有関数Ψ
i(r)は、下記式(7)で表わすことができる。
また、上記式6で定義されるuのi次成分は、下記式(8)で表わすことができる。
ところで、圧電フィルムが曲げ振動することによって発生する電荷q(t)は、下記式(9)で表わされる。
以下、図3に示すように、遮音パネル上にΓ(x,y)の形状関数でシェイピングされた短冊状の圧電フィルムをy軸に平行に貼り付ける場合について考える。ただし、圧電フィルムの幅は、検討している周波数領域において生じる振動分布よりも十分に狭いものとする。このとき、上記式(7),(9)より、圧電フィルムからの出力電流i(t)は、下記式(10)で表わされる。
ここでは、形状関数Γ(x,y)を下記式(11)で表わされる放物線(二次曲線)で定義する。
上記式(7),(11)を上記式(10)に代入すると、出力電流i(t)は、下記式(12)で表わされる。
下記式(14)が成立する場合、上記式(8)と上記式(13)との比較から、低次の4つの振動モードについて、下記式(15)が成立することが分かる。
上記式(15)は、5次以上の高次の振動モードが無視できるとした場合、低周波数領域において、圧電フィルムからの電流の出力値が体積速度と単純な比例関係にあり、圧電フィルムからの電流の出力値が体積速度と等価であることを示している。すなわち、圧電フィルムからの出力値を演算によることなくそのままエラー信号として能動遮音制御に利用することができることを示している。加えて、上記式(14)が成立するときのxNは、反共振周波数における振動の節線の位置を示している。換言すると、低周波数領域において体積速度に等価な信号を得るためには、上記式(11)で表わされる二次曲線に沿って切断した短冊状の圧電フィルムを反共振周波数における振動分布の節線上に貼り付ければよいことになる。
既に述べた通り、本発明者らは、反共振周波数における振動分布の節線上にアクチュエータを配置することで、低周波数領域の比較的広い帯域において大きな制御効果を得ることができることを明らかにしている(特許文献8及び非特許文献5を参照)。しかし、反共振周波数における遮音パネルの節線の振動が遮音パネルの体積速度とどのような関係があるかについては不明であった。加えて、従来は、遮音パネルにおける特定部分の変位のみを検知し、その検知した変位から遮音パネルの体積速度を求めるためには、高度な演算が必要であると考えられていた。このため、遮音パネルを加振するアクチュエータとしてではなく、遮音パネルの体積速度を検知するセンサとしての圧電フィルムの配置において、上記のような結論が得られたことは、驚くべきことである。
ところで、ここまでは、遮音パネルに圧電フィルムを貼り付けた場合について説明したが、上記式(9)のような出力が得られる他の分布定数型センサを用いても同様の結果が得られる。また、上記式(12)で表わされる二次曲線に沿って圧電フィルムの側縁を正確に切断しなくても、その長手方向両端部で幅が最小となりその長手方向中心部で幅が最大となる短冊状のものであれば、上記式(15)と同等かそれに近い関係が得られる。さらに、ここまでは、y軸に平行な方向に圧電フィルムを貼り付けたが、x軸方向に貼り付けた場合についても同様である。以上のことから、以下の能動遮音装置と、センサ付き遮音パネルの製造方法とを提案するに至った。
1.2 能動遮音装置の提案
すなわち、
(a)音源側と受音側を隔てるための遮音パネルと、
(b)遮音パネルの表面に貼り付けられ、音源側からの入射音に起因する遮音パネルの振動による変位を検知して出力するための分布定数型センサと、
(c)分布定数型センサから出力される変位の出力値が小さくなるように制御信号を出力するための制御手段と、
(d)制御手段から出力された制御信号に基づいて遮音パネルの所定箇所を加振することにより、遮音パネルの透過音を抑制するアクチュエータと
を備えた能動遮音装置であって、
分布定数型センサが、その両端部で幅が最小となりその中心部で幅が最大となる短冊状のものとされるとともに、
非制御時の遮音パネルに対して音を垂直に入射させて特定の反共振周波数Ωで反共振させた際に節線となる節線予定線L上に分布定数型センサを貼り付けたことを特徴とする能動遮音装置
である。
ここで、「分布定数型センサ」とは、「加速度ピックアップ」のように測定対象物(遮音パネル)における特定の点の情報(変位)が得られる「集中定数型センサ」とは異なり、「圧電フィルム」のように測定対象物(遮音パネル)における特定の面状領域あるいは線状領域の情報(変位)が得られるセンサのことをいう。分布定数型センサとしては、PVDF(Polyvinylidene Fluoride)フィルムなどの圧電フィルムや、圧電セラミックスなどが例示される。圧電セラミックスであっても、薄板状で剛性の小さなものであれば、圧電フィルムと同様に扱うことができる。遮音パネルの変位は、通常、電流値や電圧値として分布定数型センサから出力される。
また、遮音パネルの形状によっては、節線予定線Lが曲線状となる場合もあるが、この場合には、分布定数型センサも、曲線状の節線予定線Lに沿った帯状に形成する。特定の反共振周波数Ωにおいては、複数本の節線が現れるが、これらの節線に対応する全ての節線予定線L上に分布定数型センサを貼り付ける必要はなく、少なくとも1本の節線予定線L上に貼り付ければよい。同一な1本の節線予定線Lには、1本の分布定数型センサのみが貼り付けられる。前記短冊状の分布定数型センサが長さ方向で複数区間に分割されたものはそれら複数の区間を合わせて1本とカウントする。分布定数型センサのカウント方法は、以下においても同様である。
さらに、「非制御時」とは、遮音パネルにアクチュエータが配されておらず、遮音パネルがアクチュエータによって加振されていないときのことをいう。これに対し、遮音パネルにアクチュエータが配されており、遮音パネルがアクチュエータによって加振されているときのことを「制御時」と呼ぶことがある。
本発明の能動遮音装置の構成を採用すると、遮音パネルの全面に亘って分布定数型センサを貼り付けておらず、遮音パネルにおける特定部分のみに分布定数型センサを貼り付けただけであるにもかかわらず、遮音パネルの体積速度を高い精度で検知することが可能になる。したがって、分布定数型センサの使用量を減らしてコストを低減しながらも、高い制御効果を得ることも可能である。加えて、分布定数型センサから得られる出力値は、遮音パネルの体積速度と単純な比例関係にあり、遮音パネルの体積速度と等価なものとして扱うことができる。したがって、分布定数型センサの出力値に演算を施して他のパラメータに変換しなくても、分布定数型センサからの出力値そのものを小さくするように制御を行いさえすれば、結果として、遮音パネルの体積速度、すなわち遮音パネルの透過音が小さくなるように制御していることと同じことになる。このため、能動遮音装置を、演算のアルゴリズムを構築する必要がなく、汎用性に優れ、実用化が容易なものとすることもできる。
本発明の能動遮音装置において、節線予定線Lは、遮音パネルの反共振周波数Ωで反共振させた際に節線となるものであれば特に限定されないが、反共振周波数Ωとして、1次の非相殺型振動モードと4次以下の非相殺型振動モードの連成によるものを採用すると好ましい。ここで、「非相殺型振動モード」とは、例えば遮音パネルが長方形である場合の[奇数,奇数]次振動モードのように、遮音パネルの輪郭線と節線とで区画されるエリアの総数が奇数であり、ある同一位相で振動するエリアの数と、該エリアとは逆の同一位相で振動するエリアとの数とが異なる次数の振動モードのことをいう。非相殺型振動モードの次数は、全ての非相殺型振動モードのうち、固有周波数の低い方から数えた順番を意味する。
これに対し、遮音パネルが長方形である場合の [奇数,偶数]次振動モード、[偶数,奇数]次振動モード及び[偶数,偶数]次振動モードのように、遮音パネルの輪郭線と節線とで区画されるエリアの総数が偶数であり、ある同一位相で振動するエリアの数と、該エリアとは逆の同一位相で振動するエリアとの数とが一致する次数の振動モードのことを「相殺型振動モード」と呼ぶ。相殺型振動モードでは、遮音パネルにおける音の吸込みと吐出しとが略等しくなるために、1次放射モード(透過音)に殆ど影響を及ぼさない傾向があるのに対して、非相殺型振動モードでは、遮音パネルにおける音の吸込みと吐出しとが等しくならず、1次放射モード(透過音)に大きな影響を及ぼす傾向がある。
このように、反共振周波数Ωとして、1次の非相殺型振動モードと4次以下の非相殺型振動モードの連成によるものを採用することにより、透過音に大きく影響を及ぼし得る遮音パネルの体積速度の変化を選択的に検知することが可能になり、結果として、能動遮音制御の制御効果をさらに高めることができる。というのも、低周波数領域においては、1次の放射モードによる透過音響パワーが、他次の放射モードによる透過音響パワーよりも圧倒的に大きく、全透過音響パワーにおいて支配的であるが、この1次の放射モードにおいては、当該放射モードを構成する非相殺型振動モードの次数が低ければ低いほどその振動モードの寄与が大きくなる傾向があるからである。また、非相殺型振動モードの次数が低ければ低いほど節線予定線Lの本数が少なくなるため、特定の反共振周波数Ωにおける全ての節線予定線Lに重ねて分布定数型センサを貼り付ける場合であっても、分布定数型センサの使用本数を少なく抑えることも可能になる。
本発明の能動遮音装置において、遮音パネル1枚当たりに使用する分布定数型センサの本数(後述するように、遮音パネルが複数枚の小パネルで構成される場合には、小パネル1枚当たりに使用する分布定数型センサの本数。以下同じ。)は、特に限定されない。しかし、分布定数型センサの本数を多くしすぎると、コストが増大して本発明の能動遮音装置の構成を採用する意義が低下する。このため、遮音パネル1枚当たりの分布定数型センサの本数は、通常、10本以下とされる。遮音パネル1枚当たりの分布定数型センサの本数は、6本以下であると好ましく、4本以下であるとより好ましい。一方、遮音パネル1枚当たりの分布定数型センサの本数は、1本以上であれば特に限定されないが、透過音に影響を及ぼす遮音パネルの体積速度を高い精度で検知するためには、2本以上とすると好ましい。遮音パネル1枚当たりに複数本の分布定数型センサを使用する場合には、制御手段は、複数本の分布定数型センサからの変位の出力値の線形和が小さくなるように制御信号を出力する。
さらに、本発明の能動遮音装置において、遮音パネルを複数枚の小パネルで構成し、それぞれの小パネルにおける節線予定線L上に分布定数型センサを貼り付けることも好ましい。というのも、音源側と受音側との境界面の面積が広い場合には、遮音パネルの面積を広くする必要がある。しかし、遮音パネルの面積が広くなればなるほど、遮音パネルの固有周波数が低下するため、高次の非相殺型振動モードであっても、透過音に影響を及ぼすようになる。したがって、低次の非相殺型振動モードにおける反共振周波数Ωの節線予定線L上に分布定数型センサを貼り付けただけでは、透過音に大きく影響を及ぼす遮音パネルの体積速度の変化を検知できなくなるおそれがある。しかし、上記の構成を採用することで、この問題を解決することが可能になる。この場合、小パネルごとに独立した制御を行う。
ところで、上記課題は、
(a)音源側と受音側を隔てるための遮音パネルと、
(b)遮音パネルの表面に貼り付けられ、音源側からの入射音に起因する遮音パネルの振動による変位を検知して出力するための分布定数型センサと
を備え、
分布定数型センサから出力される変位の出力値が小さくなるように遮音パネルの所定箇所を加振することにより遮音パネルの透過音を抑制するのに用いられるセンサ付き遮音パネルの製造方法であって、
分布定数型センサとして、その長手方向両端部で幅が最小となりその長手方向中心部で幅が最大となる短冊状のものを使用し、
非制御時の遮音パネルに対して音を垂直に入射させて特定の反共振周波数Ωで反共振させた際に節線となる節線予定線Lを特定し、
分布定数型センサの長手方向中心線を節線予定線Lに一致させた状態で、分布定数型センサを遮音パネルに貼り付けることを特徴とするセンサ付き遮音パネルの製造方法
を提供することによっても解決される。
本発明の製造方法によって製造されたセンサ付き遮音パネルは、本発明の能動遮音装置に好適に組み込むことができる。
以上のように、本発明によって、遮音パネルにおける特定部分のみに貼り付けた分布定数型センサから遮音パネルの体積速度と等価である出力値を演算によることなく直接的に得ることができ、コストを抑えながらも、汎用性に優れ、実用化に適した能動遮音装置を提供することが可能になる。また、その能動遮音装置に用いるセンサ付き遮音パネルの製造方法を提供することも可能になる。
2 本発明の能動遮音装置の具体的な実施態様
本発明の能動遮音装置の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。図4は、本発明の能動遮音装置の具体的な実施態様を示した図である。図7は、図4に示した能動遮音装置における分布定数型センサ20とアクチュエータ40の配置を示した図である。本発明の能動遮音装置は、図4に示すように、遮音パネル10と、分布定数型センサ20と、制御手段30と、アクチュエータ40とを備えたものとなっている。
2.1 遮音パネル
遮音パネル10は、音源側と受音側を隔てるためのものとなっている。遮音パネル10の素材は、音源の種類や、能動遮音装置を設置する環境などを考慮して適宜決定される。遮音性や耐久性などを考慮して、アルミニウムなどの金属板が遮音パネル10に採用されることが多い。また、遮音パネル10に対して音が斜めに入射(斜入射)する場合には、遮音パネル10に対して音が垂直に入射(垂直入射)する場合には励振されなかった相殺型振動モードが透過音に大きな影響を及ぼすようになり、所望の制御効果を得られなくなるおそれがある。しかし、この不具合は、遮音パネル10の損失係数ηを大きくすることで解消することができる。遮音パネル10の損失係数ηは、0.05以上とすると好ましい。
遮音パネル10の形状は、通常、長方形とされるが、図5に示すように、長方形以外としてもよい。図5は、本発明の能動遮音装置において遮音パネル10として採用しうる形状の例を示した図である。上述した反共振現象は、遮音パネル10が長方形以外の場合にも発現するため、長方形以外の形状を有する遮音パネル10に対しても節線予定線Lを定義できるし、その節線予定線L上に分布定数型センサ20を貼り付ければ、同様の制御効果を得ることができるからである。遮音パネル10の面積は、制御効果を得たい音の周波数などを考慮して適宜決定する。一般に、遮音パネル10の面積が広くなればなるほど、制御効果の得られる周波数帯域は低周波数側へシフトする。このため、遮音パネル10の面積が広くなると、高次の非相殺型振動モードであっても、透過音に影響を及ぼすようになる。したがって、遮音パネル10の面積を広くする場合には、遮音パネル10の厚さhを厚くしたり、遮音パネル10を剛性の高い材料で形成したりなど、遮音パネル10の固有振動数を高くする対策を講じる必要がある。
また、遮音パネル10の面積を広く確保したい場合には、図6に示すように、遮音パネル10を複数の小パネル10aで構成し、それぞれの小パネルにおける節線予定線Laや節線予定線Lbにアクチュエータを配することによっても、遮音パネル10(小パネル10a)の固有振動数を高くすることができる。図6は、本発明の能動遮音装置における遮音パネル10を複数の小パネル10aで構成して、それぞれの小パネル10aに分布定数型センサ20とアクチュエータ40を配した状態を示した図である。小パネル10aの形状は、特に限定されないが、通常、四角形、三角形、正六角形など、敷き詰めることが可能な形状とされる。
本実施態様の能動遮音装置においては、下記表1に示す長方形のアルミニウム板を遮音パネル10として用いている。
上記表1に諸元を示した遮音パネル10の非相殺型振動モード([奇数,奇数]次振動モード)を、下記表2に示す。下記表2では、1次から9次までの非相殺型振動モードと、そのときの共振周波数を示している。
2.2 分布定数型センサ
分布定数型センサ20は、遮音パネル10の表面に貼り付けられ、音源側からの入射音に起因する遮音パネルの振動10による変位を検知して出力するためのものとなっている。分布定数型センサ20には、その両端部で幅が最小となりその中心部で幅が最大となる短冊状に切断した形態(一次元の分布定数型センサとみなせる形態)のものを使用している。分布定数型センサ20をこのようにシェーピングすることにより、遮音パネル10の透過音に大きく影響を及ぼす遮音パネル10の体積速度や放射モード(又はパワーモード)(特に1次の放射モード(又は1次のパワーモード))を適切に抽出することができる。分布定数型センサ20としては、既に述べた通り、圧電フィルムや圧電セラミックスなどを使用することができる。本実施態様の能動遮音装置においては、分布定数型センサ20として、PVDFフィルム(圧電フィルム)を用いている。
分布定数型センサ20は、遮音パネル10における節線予定線L上に貼り付けられる。節線予定線Lは、非制御時の遮音パネル10に対して音を垂直に入射させて特定の反共振周波数Ωで反共振させた際に節線となる線で特定する。反共振周波数Ωの特定は、例えば、以下の手順で行う。
[手順1]
まず、遮音パネル10に対して音を垂直に入射させて透過音響パワーを計測し、その透過音響パワーが極小となる周波数を求める。その周波数よりも僅かに高い周波数で音響透過パワーが極大となれば、その透過音響パワーが極小となった周波数が反共振周波数である。換言すると、透過音響パワーが極大となる共振周波数よりも僅かに低い周波数で透過音響パワーが極小となれば、その周波数が反共振周波数である。上記表2に示すように、共振周波数は複数存在し、反共振周波数も複数存在する。これら複数の反共振周波数のうち、どれを反共振周波数Ω(節線予定線Lを特定するのに使用する反共振周波数Ω)として選択するかについては後述する。
[手順2]
次に、見つけた反共振周波数のうち、特定の反共振周波数Ωにおける遮音パネル10の振動分布を振動加速度センサやレーザードップラー振動計により計測し、遮音パネル10における振動しない点を見つける。遮音パネル10の振動分布は、音響ホログラフィ装置を用いて透過音から求めることもできる。この振動しない点の集合が反共振周波数Ωにおける節線予定線Lとなる。振動しない点は、実可動解析を行うことによっても見つけることができる。
上記の手順1において、どの反共振周波数を反共振周波数Ωとするかは、特に限定されないが、1次の非相殺型振動モードと4次以下の非相殺型振動モードの連成による反共振周波数を選択すると好ましい。このように、低次の非相殺型振動モードにおける反共振周波数を反共振周波数Ωとして選択することにより、透過音に大きく影響を及ぼし得る遮音パネルの体積速度の変化を選択的に検知することが可能になる。
本実施態様の能動遮音装置で採用した遮音パネル10(上記表1,2を参照)では、4次の非相殺型振動モードである[3,3]次振動モードの共振周波数416.8Hzよりも僅かに低い周波数に、1次の非相殺型振動モードと4次の非相殺型振動モードの連成による反共振周波数が現れ、3次の非相殺型振動モードである[3,1]次振動モードの共振周波数293.3Hzよりも僅かに低い周波数に、1次の非相殺型振動モードと3次の非相殺型振動モードの連成による反共振周波数が現れ、2次の非相殺型振動モードである[1,3]次振動モードの共振周波数169.8Hzよりも僅かに低い周波数に、1次の非相殺型振動モードと2次の非相殺型振動モードの連成による反共振周波数が現れる。
本実施態様の能動遮音装置においては、図7に示すように、3次の非相殺型振動モードである[3,1]次振動モードの共振周波数293.3Hzよりも僅かに低い反共振周波数277.5Hz(≡Ωb(∈Ω))における2本の節線予定線Lb(∈L)上に、2本の分布定数型センサ20を貼り付けている。ここまでは、遮音パネル10における同じ反共振周波数Ω(1種類の反共振周波数Ω)で反共振させた際に節線となる1種類の節線予定線Lのみに分布定数型センサ20を貼り付ける場合について説明したが、次のように、異なる反共振周波数Ω(複数種類の反共振周波数Ω)で反共振させた際に節線となる2種類以上の節線予定線L上に分布定数型センサ20を貼り付けてもよい。
図8は、本発明の能動遮音装置における分布定数型センサ20の配置の他の例を示した図である。図8の例では、非制御時の遮音パネル10に対して音を垂直に入射させて特定の反共振周波数Ωa(∈Ω)で反共振させた際に節線となる節線予定線La(∈L)と、非制御時の遮音パネル10に対して音を垂直に入射させて別の特定の反共振周波数Ωb(∈Ω,Ωb>Ωa)で反共振させた際に節線となる節線予定線Lb(∈L)との両方に、分布定数型センサ20を貼り付けている。反共振周波数Ωaとしては、2次の非相殺型振動モードである[1,3]次振動モードにおける反共振周波数159.5Hzを選択しており、反共振周波数Ωbとしては、3次の非相殺型振動モードである[3,1]次振動モードにおける反共振周波数277.5Hzを選択している。このように、異なる反共振周波数Ωa,Ωbにおける節線予定線La,Lb上にそれぞれ分布定数型センサ20を貼り付けることにより、遮音パネル10の体積速度をより正確に検知することが可能になると推測される。
分布定数型センサ20の形態は、その両端部で幅が最小となりその中心部で幅が最大となる短冊状のものであれば特に限定されない。本実施態様の能動遮音装置においては、図7に示すように、分布定数型センサ20の一対の側縁のそれぞれを放物線(上記式(11)で表わされる放物線)状に形成している。それぞれの放物線の軸は、分布定数型センサ20の中心線(分布定数型センサ20を幅方向に二等分する分布定数型センサ20の長さ方向に沿った線)の垂直二等分線に一致する。分布定数型センサ20における一方の側縁の放物線と他方の側縁の放物線は、分布定数型センサ20の中心線を対称軸とした線対称となっている。分布定数型センサ20の一方の側縁と他方の側縁とは、その両端部が重なった形状となっており、分布定数型センサ20の幅は、その両端部で0(ゼロ)となるようにしている。このように、分布定数型センサ20の側縁を放物線状に形成することにより、透過音に大きく影響を及ぼす遮音パネル10の体積速度と等価である変位を適切に抽出することができる。分布定数型センサ20の形態を、遮音パネル10の体積速度ではなく、1次の放射モード(又はパワーモード)に着目した形態としても、同様の放物線で近似される形状となる。
分布定数型センサ20の側縁を上記式(11)で表わされる放物線状とする場合、上記式(11)における定数kをどのような値に設定するかは、特に限定されない。しかし、kの値を小さくしすぎると、分布定数型センサ20の幅(特に長さ方向中心部の最大幅)が狭くなりすぎて、得られる信号のS/N比(信号雑音比)が小さくなるおそれがある。一方、kの値を大きくしすぎると、図3におけるx方向の歪みまで検知される(一次元の分布定数型センサとはみなせなくなる)ようになり、やはりS/N比が小さくなるおそれがある。このため、上記式(11)における定数kの値は、遮音パネル10の寸法と、分布定数型センサ20の最大幅との兼ね合いなどを考慮して適宜決定する。
具体的には、分布定数型センサ20の最大幅(長さ方向中心部の幅)を、分布定数型センサ20に垂直な方向における遮音パネル10の幅(図3の例では縦の幅a)に対して0.1%以上となるように設定するとよい。分布定数型センサ20の最大幅は、分布定数型センサ20に垂直な方向における遮音パネル10の幅に対して1%以上であると好ましく、3%以上であるとより好ましく、4%以上であるとさらに好ましい。一方、分布定数型センサ20の最大幅は、通常、分布定数型センサ20に垂直な方向における遮音パネル10の幅に対して、通常、30%以下とされる。分布定数型センサ20の最大幅は、分布定数型センサ20に垂直な方向における遮音パネル10の幅に対して、20%以下であると好ましく、10%以下であるとより好ましい。本実施態様の能動遮音装置において、分布定数型センサ20の最大幅は、分布定数型センサ20に垂直な方向における遮音パネル10の幅に対して約5%としている。
分布定数型センサ20は、貼り付け対象となる節線予定線Lにおける一部の区間のみに貼り付けてもよいが、短い区間のみに貼り付けると、検知される遮音パネル10の体積速度の精度が低下するおそれがある。このため、分布定数型センサ20は、通常、貼り付け対象となる節線予定線Lの全区間のうち50%以上の区間に貼り付けるようにする。分布定数型センサ20は、貼り付け対象となる節線予定線Lの全区間のうち70%以上の区間に貼り付けると好ましく、90%以上の区間に貼り付けるとより好ましく、95%以上の区間に貼り付けるとさらに好ましい。分布定数型センサ20の中心線の中点は、通常、節線予定線Lの中点に一致させる。本実施態様の能動遮音装置においては、貼り付け対象となる節線予定線Lの全区間のうち100%の区間に(節線予定線Lの全区間に亘って)分布定数型センサ20を貼り付けている。
2.3 制御手段
制御手段30は、分布定数型センサ20から出力される遮音パネル10の変位の出力値が小さくなるように制御信号を出力するためのものとなっている。制御手段30としては、デジタル信号処理装置などが例示される。本実施態様の能動遮音装置においては、DSPボードとD/AボードとA/Dボードとからなるデジタル信号処理装置を制御手段として用いている。制御手段30が実行する制御アルゴリズムは、一般的な能動遮音制御で用いられている各種のものを用いることができる。制御手段30の制御アルゴリズムとしては、「Filtered-X LMSアルゴリズム」や、「Phase corrected filtered error LMS アルゴリズム」や、「最適アルゴリズム」や、「H∞制御アルゴリズム」などが例示される。本実施態様の能動遮音装置においては、「Filtered-X
LMSアルゴリズム」を採用している。
2.4 アクチュエータ
アクチュエータ40は、制御手段30から出力された制御信号に基づいて遮音パネル10の所定箇所を加振することにより、遮音パネル10の透過音を抑制するものとなっている。アクチュエータ40の種類は、特に限定されないが、通常、遮音パネル10における特定点を局所的に加振することのできるポイントアクチュエータが用いられる。本実施態様の能動遮音装置においては、アクチュエータ40として、ボイスコイル型のポイントアクチュエータを用いている。
アクチュエータ40の配置は、特に限定されないが、非制御時の遮音パネル10に対して音を垂直に入射させて反共振周波数Ωで反共振させた際に節線となる遮音パネル10における節線予定線L上の少なくとも1点に配すると好ましい。これにより、低周波数領域の比較的広い帯域において大きな制御効果を得ることができる。反共振周波数Ωや節線予定線Lの特定方法については、「2.2 分布定数型センサ」で述べた方法と同様であるために、説明を割愛する。
また、本実施態様の能動遮音装置のように、遮音パネル10が点対称形状又は線対称形状を有する場合には、節線予定線L上の点のうち、遮音パネル10の中心に対して点対称又は該中心を通る直線に対して線対称な位置にある少なくとも2点にアクチュエータ40を配すると好ましい。これにより、非制御時には透過音に対して大きな影響を及ぼさなかった放射効率の低い低次の相殺型振動モードが、制御時に励振されにくくすることが可能になる。
さらに、非制御時の遮音パネル10に対して音を垂直に入射させて反共振周波数Ωa(∈Ω)で反共振させた際に節線となる節線予定線La(∈L)と、非制御時の遮音パネル10に対して音を垂直に入射させて反共振周波数Ωb(∈Ω,Ωb>Ωa)で反共振させた際に節線となる節線予定線Lbとの交点のうち、少なくとも1点(より好ましくは全ての交点)にアクチュエータ40を配することも好ましい。これにより、さらに大きな制御効果を得ることができる。
本実施態様の能動遮音装置においては、図7に示すように、非制御時の遮音パネル10に対して音を垂直に入射させて反共振周波数159.5Hz(≡Ωa(∈Ωa)で反共振させた際に節線となる2本の節線予定線La(∈L)と、非制御時の遮音パネル10に対して音を垂直に入射させて反共振周波数277.5Hz(≡Ωb(∈Ω),ωb>ωa)で反共振させた際に節線となる2本の節線予定線Lb(∈L)との4つの交点の全てにアクチュエータ40を配している。
3 用途
本発明の能動遮音装置の具体的な用途は特に限定されない。音源側と受音側の間に遮音パネル10を配することが可能であり、遮音パネル10の透過音を抑制することが必要な様々な場面で採用することができる。以下において、本発明の能動遮音装置を採用するのに適した応用例をいくつか紹介する。
例えば、本発明の能動遮音装置は、外部の音を低減して内部を静寂に保つための防音ボックスに応用できる。図9は、本発明の能動遮音装置を防音ボックスに応用した例を示した図である。図9の例では、防音ボックスの内部に走査型プローブ顕微鏡(SPM)を収容している。このほか、エンジンやコンプレッサーなどが発する音が外部へ漏れないようにするための防音ボックスにも応用できる。また、本発明の能動遮音装置は、建築物にも応用できる。図10は、本発明の能動遮音装置を建築物における部屋と部屋とを仕切る壁に応用した例を示した図である。図11は、本発明の能動遮音装置を建築物における外壁に応用した例を示した図である。このほか、ドア、窓、天井、床などにも応用できる。さらに、本発明の能動遮音装置は、乗り物にも応用できる。図12は、本発明の能動遮音装置を航空機に応用した例を示した図である。このほか、鉄道車両や自動車などにも応用できる。
4 計算シミュレーションによる制御効果の検証
続いて、本発明の能動遮音装置の制御効果について調べるために、計算シミュレーションにより、音響透過損失を求めてみた。以下において、遮音パネル10の寸法や材料、分布定数型センサ20の形態や種類、アクチュエータ30の配置や種類、制御手段40の制御アルゴリズムなどの条件は、特に言及しない限り、「2 本発明の能動遮音装置の具体的な実施態様」で採用したものと同じである。音響透過損失の計算シミュレーションは、分布定数型センサ20を遮音パネル10に対して配置A(図13)で貼り付けてアクチュエータ40で制御した場合(実施例1)と、分布定数型センサ20を遮音パネル10に対して配置B(図13)で貼り付けてアクチュエータ40で制御した場合(比較例1)と、分布定数型センサ20を遮音パネル10に対して配置C(図13)で貼り付けてアクチュエータ40で制御した場合(比較例2)と、遮音パネル10の体積速度を最小化する理想的な制御を行った場合(比較例3)と、アクチュエータ40で何ら制御を行わなかった非制御時の場合(比較例4)との計5つの場合について行った。
図13は、音響透過損失の計算シミュレーションを行った分布定数型センサ20の配置A〜Cを説明する図である。配置Aでは、2本の分布定数型センサ20を、反共振周波数Ωbにおける2本の節線予定線Lb上に貼り付けている。節線予定線Lbは、遮音パネル10の長手方向中心線(y軸)から約79mm離れた位置に現れている。配置Bでは、2本の分布定数型センサ20を、2本の節線予定線Lbからx軸方向に50mmずれた位置に貼り付けている。配置Cでは、1本の分布定数型センサ20を、遮音パネル10の長手方向中心線上に貼り付けている。実施例1及び比較例1,2において、アクチュエータ40は、反共振周波数Ωa(159.5Hz)における節線予定線Laと反共振周波数Ωb(277.5Hz)における節線予定線Lbとの交点に計4箇所配置している。また、実施例1及び比較例1〜3においては、分布定数型センサの出力を最小化する最適フィードフォワード制御則が適用されたときの音響透過損失について計算シミュレーションを行っている。
図14に、実施例1及び比較例1〜4のそれぞれにおける音響透過損失の計算シミュレーションの結果を示す。図14における比較例1の結果を見ると、4次の非相殺型振動モードである[3,3]次振動モードの固有振動数に近い400Hz付近まで制御効果が認められるものの、240Hz付近での制御効果が非制御時の比較例4よりも悪化してしまっている。また、比較例2の場合には、3次の非相殺型振動モードである[3,1]次振動モードの固有振動数に近い300Hz付近までしか制御効果が得られていない。これに対し、本発明の能動遮音装置の構成を採用した実施例1の結果を見ると、比較例1の場合と同様、400Hz付近まで制御効果が得られていることに加えて、制御効果が得られる最大周波数が、遮音パネル10の体積速度を最小化する理想的な制御を行った比較例3とほぼ等しくなっている。ただし、実施例1における制御効果は、比較例3の制御効果と比較すると限定的である。これは、高次の振動モードの影響と考えられる。しかしながら、実施例1の場合でも、20dBを超える高い制御効果が期待でき、実用上、十分な制御効果を得ることができる。以上のことから、本発明の能動遮音装置の構成を採用した実施例1では、非常に優れた制御効果が得られることが分かった。
5 実験による制御効果の検証
続いて、本発明の能動遮音装置の制御効果について調べるために、後述する音響挿入損失ILを実験により求めた。本実験は、図15に示すように、音源側となる右側の部屋と、受音側となる左側の部屋(無響室)とを遮音パネル10で仕切ることによって行った。図15は、実験設備の概要を示した図である。音源側の部屋における遮音パネル10に対向する壁面には、音源としてスピーカ102を配置し、スピーカ102から出た音が遮音パネル10に対して垂直に入射するようにした。遮音パネル10からスピーカ102までの距離は2.0mである。スピーカ102からは、ホワイトノイズ発生器107で生成した800Hz以下のホワイトノイズが出力されるようにした。音源側となる部屋の各壁面には、厚さ500
mmの吸音くさび101を取り付けて吸音処理を施した。一方、受音側の部屋には、音響挿入損失IL(正確には、音響挿入損失ILを求めるのに必要な音響パワーW0及び透過音響パワーWT)を測定するためのインテンシティプローブ103を配した。音響パワーW0及び透過音響パワーWTの測定は1/12オクターブバンドで行った。受音側となる部屋の各壁面には、厚さ800 mmの吸音くさび104を取り付けて吸音処理を施した。受音側となる部屋の寸法は、高さ5.2m、幅4.4m、奥行き6.6mである。また、遮音パネル10には、その諸元が上記表1で表されるアルミニウム板を用いた。遮音パネル10は、図16に示すように、その周縁をナイフエッジ70で挟み込み、単純支持した。図16は、図15の実験設備における遮音パネル10の周辺を拡大した図である。
上記の実験設備のもと、音響パワーW0及び透過音響パワーWTの測定は、分布定数型センサ20を遮音パネル10に対して配置A(図13)で貼り付けてアクチュエータ40で制御した場合(実施例1)と、分布定数型センサ20を遮音パネル10に対して配置B(図13)で貼り付けてアクチュエータ40で制御した場合(比較例1)と、分布定数型センサ20を遮音パネル10に対して配置C(図13)で貼り付けてアクチュエータ40で制御した場合(比較例2)と、アクチュエータ40で何ら制御を行わなかった非制御時の場合(比較例4)との計4つの場合について行った。実施例1及び比較例1,2,4における分布定数型センサ20やアクチュエータ40の具体的な配置は、「4 計算シミュレーションによる制御効果の検証」で述べたものと同じである。また、実施例1及び比較例1,2における制御手段には、DSPボードとD/AボードとA/Dボードとからなるデジタル信号処理装置を用いた。制御手段30のサンプリング周波数は3kHz、タップ数は1000である。制御手段30の制御アルゴリズムは、「Filtered-X LMSアルゴリズム」とし、分布定数型センサ20の出力電圧が最小となるように適応制御を行うようにした。分布定数型センサ20の形態や種類、アクチュエータ30の種類など、特に言及しない条件については、「2 本発明の能動遮音装置の具体的な実施態様」で採用したものと同じである。
さらにまた、制御効果を評価する指標としては、実験で求めることが困難な音響透過損失ではなく、下記式16で定義される音響挿入損失ILを採用した。音響挿入損失ILは、遮音パネル10を取り付けていない状態で音源側から受音側へ到達する音響パワーW
0と、遮音パネル10で音源側と受音側とを仕切った状態で受音側へ透過してくる透過音響パワーW
Tとを測定することにより、下記式16を用いて計算で求めることができる。
図17に、実施例1及び比較例1,2,4のそれぞれにおける音響挿入損失ILの測定結果を示す。図17における比較例1の結果を見ると、400Hz付近まで制御効果が認められるものの、193Hzから258Hzまでの周波数領域においては、非制御時の比較例4よりも音響挿入損失ILが低くなっており、制御効果が得られていないことが分かる。また、比較例2では、320Hz付近までしか制御効果が得られていない。これに対し、本発明の能動遮音装置の構成を採用した実施例1の結果を見ると、400Hzまでの広い帯域にわたって制御効果が得られており、周波数によっては10dB以上の制御効果が得られていることが分かる。以上のことから、実験によっても、本発明の能動遮音装置の構成を採用した実施例1では、非常に優れた制御効果が得られることが分かった。
ところで、図17に示す実験結果は、図14における計算シミュレーションの結果と傾向が一致しているものの、実験では、本発明の能動遮音装置の構成を採用した実施例1においても、計算シミュレーションほどの制御効果が得られていない。しかし、その原因は、遮音パネル10の周辺の遮音性能が低いことが原因であると考えられる。逆を言えば、能動遮音装置を実際に使用する場合においては、遮音パネル10の周辺部分の遮音性能が影響するため、計算シミュレーションで得られたような高い制御効果は得られない。このことは、ある程度の遮音性能が得られるのであれば、実用上は、より広い周波数帯域で制御効果が得られることの方が重要であることを意味している。本発明の能動遮音装置の制御効果は、非特許文献3のように、遮音パネル10の全面に亘って分布定数型センサ20を貼り付けて制御を行った場合の制御効果には及ばないものの、制御可能な周波数帯域では、ほぼ同等の遮音性能が期待できる。したがって、非特許文献3のように、遮音パネル10の全面に分布定数型センサ20を貼り付ける方法と比較すると、本発明の能動遮音装置を用いる方法は、コスト的に有利であり、より実用的であると言える。