JP5767556B2 - 炭酸カルシウムの製造方法 - Google Patents

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本発明は、酸化カルシウムを原料とした炭酸カルシウムの製造方法に関する。
酸化カルシウムを原料とし、消和反応と炭酸化反応を経て製造された炭酸カルシウムは様々な産業分野で使用されている。例えば、天然の石灰石を回転炉等を用い、900℃以上の温度で焼成して脱炭酸させた酸化カルシウムを原料とし、水や自工程で発生する白水を用いて消和反応させ、その後、炭酸ガスと接触させることで製造された軽質炭酸カルシウムであり、製紙産業においては、填料としてパルプ繊維に混合することで紙の地合や不透明度を改善したり、表面塗工して平滑性や光沢、印刷適性を向上させたりする目的で大量に使用されている。また、クラフトパルプ製造では木材チップ等からパルプ繊維を得るために使用する水酸化ナトリウムの製造の際、酸化カルシウムに炭酸ナトリウムを含む水溶液を反応させ炭酸カルシウムが製造される。
填料として用いられる軽質炭酸カルシウムは、炭酸化反応の条件により、粒子の形状や大きさを制御した炭酸カルシウムである。形状は、紡錘形や立方形等が広く知られており、その凝集体等も利用されている。大きさは、紡錘形の場合、長径で1〜3μm程度、短径で1μm以下程度のものが一般的である。
クラフトパルプの製造に関わる苛性化工程では、炭酸カルシウムを焼成した酸化カルシウムを緑液と呼ばれる炭酸ナトリウムを含むアルカリ性水溶液と混合し、消和反応と炭酸化反応を連続して行うことで、炭酸カルシウムを製造すると共に、クラフトパルプ製造に必要となる水酸化ナトリウムを製造している。製造された炭酸カルシウムは再び焼成して酸化カルシウムとし、繰り返し利用されている。
酸化カルシウムを原料とした炭酸カルシウムの製造において、酸化カルシウムに水や炭酸塩水溶液を混合して水酸化カルシウムとする消和反応を行う工程では、水酸化カルシウムスラリー中に粗大な固形の未反応物が含まれ、炭酸化反応を妨げたり、製造される炭酸カルシウムの品質を損なうため、この未反応物を水酸化カルシウムスラリーから分離し、系外に排出する必要がある。未反応物は、酸化カルシウムの原料となる天然の石灰石や、酸化カルシウムを調製する際の工程内に存在する不純物や、焼成されずに残余したカルシウム塩等であり、一般的にグリッドと呼ばれる。このグリッドは、系外に排出後に廃棄物として処理されており、グリッドの量を削減することは、炭酸カルシウムの製造効率の向上や環境負荷の低減といった点で重要である。
グリッドの排出には、消和反応槽からスクリューコンベア等を使用して反応液から分離して排出することが多い。この時、グリッドの排出に伴って、反応した水酸化カルシウムや未反応の酸化カルシウム、炭酸カルシウム等も随伴して排出されており、必要以上にグリッドを排出すると炭酸カルシウムの製造効率の低下をもたらす。また、一方では、消和反応以降の工程にグリッドが持ち込まれると炭酸化反応を妨げたり、工程内に堆積したり、機器を磨耗させるといった悪影響を及ぼすため、必要最小限のグリッド排出にとどめることが課題である。
炭酸カルシウムの製造における水酸化カルシウムスラリーを加工、調整する手法として特開平06−073690号公報では、水酸化カルシウムスラリーである石灰乳を粉砕することにより、軽質炭酸カルシウムの比表面積を大きくする技術が開示されているが、グリッドの発生に関しては言及されていない。
特開平06−073690号公報
本発明は、上記実情に鑑みたものであって、グリッドの発生量を削減すると同時に、製造効率を向上させることができる炭酸カルシウムの製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために検討した結果、これまで消和反応で酸化カルシウムと直接混合していた水や炭酸塩水溶液の一部または全部を、混合前に、消和反応において発生するグリッドの洗浄に使用し、グリッドを分離した後の洗浄液を酸化カルシウムに混合して消和反応を行うことにより、グリッドの発生量を削減すると同時に、炭酸カルシウムの製造効率を向上させることができることを見出した。
すなわち、消和反応槽から機械的に排出されたグリッドには反応した水酸化カルシウムや未反応の酸化カルシウム、炭酸カルシウムが含まれていることを見出し、グリッドを洗浄することによりこの水酸化カルシウムや酸化カルシウム、炭酸カルシウムをグリッドから分離し、回収することができることを見出した。この洗浄液に酸化カルシウムを混合して消和反応に用いることで、これまでグリッドと共に排出、処分されていた酸化カルシウムや水酸化カルシウム、炭酸カルシウムを炭酸カルシウムの製造に利用することが可能となり、グリッドを削減すると同時に炭酸カルシウムの製造効率を向上させることができることを見出した。
本発明により、炭酸カルシウムの製造工程において、排出されるグリッドに含まれる酸化カルシウムや水酸化カルシウム、炭酸カルシウムを回収、利用することで廃棄物となるグリッドの発生量を削減することができると同時に、炭酸カルシウムの製造効率を向上させることが可能となる。
本発明における酸化カルシウムに水を加えて消和反応するとは、石灰石を焼成する等して脱炭酸して製造した酸化カルシウムを水と混合することで酸化カルシウムを水酸化カルシウムに転換する反応を起こさせることである。
本発明における炭酸ガスを反応させる炭酸化反応とは、水酸化カルシウム溶液やスラリーに二酸化炭素を含むガスを吹き込む等して、水酸化カルシウムから炭酸カルシウムを生じさせる反応である。
酸化カルシウムに炭酸塩水溶液を加えて消和反応と炭酸化反応により炭酸カルシウムを製造するとは、石灰石を焼成する等して脱炭酸して製造した酸化カルシウムに炭酸ナトリウム等の炭酸塩を含む水溶液と混合することで酸化カルシウムを水酸化カルシウムに転換し、連続して水酸化カルシウムが炭酸カルシウムに転換する反応を起こさせることにより炭酸カルシウムを製造することである。炭酸塩は消和反応や炭酸化反応を阻害するものでなければ使用することができるが、炭酸ナトリウムが好適である。また、反応を阻害するものでなければ炭酸塩以外の塩類が含まれていても良い。
本発明における消和反応で生じる残渣とは、酸化カルシウムを水や炭酸塩水溶液と混合した際に、酸化カルシウム中や炭酸塩水溶液中に含まれる固形の不純物や、別の反応で生成した水酸化カルシウムや炭酸カルシウム以外の固形物、それらが水酸化カルシウムや炭酸カルシウムと凝集する等して生成した固形物である。これらの残渣はグリッドと呼ばれ、一般的には消和反応を行うための槽やタンク内で沈降し、これをスクリューコンベア等の排出装置によって、槽外やタンク外に取り出して処理している。生成した水酸化カルシウムや炭酸カルシウムも水への溶解度が比較的小さいため、粒子となって槽内やタンク内で沈降しグリッドに混ざることがあるが、スラリーを撹拌することにより、必要となる比較的粒径の小さな水酸化カルシウムや炭酸カルシウム粒子とグリッドとを分離しているが、完全に分離することは困難であり、グリッドに水酸化カルシウムや炭酸カルシウムが混入することは避けられない。
本発明における、消和反応で生じる残渣(グリッド)や消和反応と炭酸化反応で生じる残渣を洗浄するとは、上記グリッドに混入している水酸化カルシウムや炭酸カルシウムをグリッドと分離し、グリッド中の水酸化カルシウムや炭酸カルシウムの濃度を低下させることである。グリッドを洗浄するには、グリッドに消和反応に用いる水や炭酸塩水溶液を混合した後にフィルターや遠心分離等により固液分離すれば良く、工業的に用いられる各種ウォッシャーやデカンター等の分離装置を使用して洗浄することができる。固液分離した洗浄液は未溶解の水酸化カルシウムや炭酸カルシウムを含むスラリーであっても良く、この洗浄液を消和反応に使用することで、これまでグリッドに同伴して排出されていた水酸化カルシウムを再度消和反応に利用したり、目的の炭酸カルシウムを回収することができる。また、簡易には消和反応槽やタンクからのグリッド排出装置の排出口付近で、グリッドに消和反応に用いる水や炭酸塩水溶液をシャワー状に散布することでも洗浄することが可能である。この方法では、グリッドと洗浄液を固液分離装置を用いて分離しなくとも、洗浄液のみを消和反応槽やタンクに回収することも可能である。
本発明の実施例を説明する。
(実施例1〜3)
三菱製紙株式会社八戸工場の軽質炭酸カルシウム製造工程において、スレーカーと呼ばれる撹拌装置とスクリューコンベアによる沈降したグリッドの排出装置を備えたステンレス製のタンクに、粒状に成形された酸化カルシウムと水を投入して混合し、消和反応を行った。
水1Lに酸化カルシウム50gの割合で投入、撹拌し消和反応を行った。この時、水の一部は排出されたグリッドに混合した後、100メッシュの金網でろ過したろ液、すなわちグリッドの洗浄液を用いた。使用する水の全量に対してグリッドの洗浄に用いる水の量を1、3、5質量%とした。
グリッドを排出した水酸化カルシウムスラリーを別の反応タンクに移送し、20±2体積%濃度の二酸化炭素を含むガスと接触させて炭酸化反応を行い、軽質炭酸カルシウムのスラリーを製造した。
製造した軽質炭酸カルシウムの絶乾重量と、その際に排出されたグリッドの水分を含んだ重量を測定し、原料として用いた酸化カルシウム1,000g(絶乾重量)あたりのそれぞれの重量を算出した。結果を表1に示す。
(比較例1)
実施例1〜3において、水の全量を直接酸化カルシウムと混合し、グリッドの洗浄を行わない以外は実施例1〜3と同様の条件で軽質炭酸カルシウムのスラリーを製造した。実施例1〜3と同様に、製造した軽質炭酸カルシウムの絶乾重量と、その際に排出されたグリッドの水分を含んだ重量を測定し、原料として用いた酸化カルシウム1,000g(絶乾重量)あたりのそれぞれの重量を算出した。結果を表1に示す。
Figure 0005767556
結果、表1において、グリッドの洗浄を行うことにより、また洗浄に用いる水の割合が増加するほど同じ重量の酸化カルシウムを原料に使用しても、製造される軽質炭酸カルシウムの重量が増加し、グリッドの発生量が減少した。すなわち軽質炭酸カルシウムの生産効率が向上させると共に、廃棄物の削減を同時に実現することができた。
(実施例4〜6)
三菱製紙株式会社八戸工場の苛性化工程において、スレーカーと呼ばれる撹拌装置とレーキ型のクラシファイヤーによる沈降したグリッドの排出装置を備えたステンレス製のタンクに、粒状に成形された酸化カルシウムと緑液を投入して混合し、消和反応ならびに苛性化反応を行った。緑液とは、炭酸ナトリウム、硫化ナトリウム、水酸化ナトリウム等を主成分とする無機物を、苛性化工程で発生する弱液と呼ばれる水溶液や清水に溶解したアルカリ溶液であり、木材チップの蒸解液として用いる白液を製造するための原料である。
炭酸カルシウム濃度137g/Lの緑液1Lに酸化カルシウム75gの割合で投入、撹拌し、消和反応と炭酸化反応を行った。この時、緑液の一部はクラシファイヤーから排出されたグリッドと混合した後、100メッシュの金網でろ過したろ液、すなわちグリッドの洗浄液を用いた。使用する緑液の全量に対してグリッドの洗浄に用いる緑液の量を1、3、5質量%とした。
グリッドを排出した後の炭酸カルシウムと水酸化ナトリウムを主体とするスラリーは、後続の苛性化タンクに移送し、その後、炭酸カルシウム粒子と水酸化ナトリウム溶液を分離し、炭酸カルシウムと同時に蒸解液である水酸化ナトリウムを主体とする白液を製造した。製造した炭酸カルシウムは、回転炉に投入し、900℃以上で脱炭酸反応させ酸化カルシウムとし、再び消和反応に利用される。
このように、苛性化工程では製造した炭酸カルシウムが循環、再利用されるシステムであり、グリッドに随伴して系外に水酸化カルシウムや炭酸カルシウムが排出されると、新規に酸化カルシウムや炭酸カルシウムを補充しなくてはならない。そこで、新規に補充した酸化カルシウム量を系外に排出された水酸化カルシウムや炭酸カルシウムの量の指標とした。補充した酸化カルシウムの重量と排出されたグリッドの水分を含んだ重量を測定した。結果を表2に示す。
(比較例2)
実施例4〜6において、緑液の全量を直接酸化カルシウムと混合し、グリッドの洗浄を行わない以外は実施例4〜6と同様の条件で炭酸カルシウムと白液を製造した。実施例4〜6と同様に、補充した酸化カルシウムの重量と排出されたグリッドの水分を含んだ重量を測定した。結果を表2に示す。
Figure 0005767556
結果、表2において、グリッドの洗浄を行うことにより、また洗浄に用いる緑液の割合が増加するほど、グリッドの発生量が少なくなり、新規の酸化カルシウム補充量が減少した。すなわち、苛性化工程における炭酸カルシウムと白液の生産効率を維持したまま、廃棄物の削減および新規に使用する酸化カルシウムを削減することができた。

Claims (2)

  1. 酸化カルシウムに水を加えて消和反応した後に、炭酸ガスを反応させる炭酸化反応により炭酸カルシウムを製造する工程において、消和反応で生じる残渣(グリッド)を洗浄した洗浄液を用いて酸化カルシウムと消和反応を行うことを特徴とする炭酸カルシウムの製造方法。
  2. 酸化カルシウムに炭酸塩水溶液を加えて消和反応と炭酸化反応により炭酸カルシウムを製造する工程において、消和反応と炭酸化反応で生じる残渣(グリッド)を洗浄した洗浄液を用いて酸化カルシウムと消和反応を行うことを特徴とする炭酸カルシウムの製造方法。
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