以下、本発明の位置センサ及び角度センサを具体化した一実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
図1に、この実施形態における角度センサ9を取り付けたモータ70の一部を断面図により示す。モータ70は、モータケース71と、モータケース71の開口部を覆うケースカバー72と、モータケース71に固定されたモータステータ73と、モータステータ73の内側に設けられたモータロータ74と、モータロータ74の中心に一体に設けられた移動体及び回転軸としてのモータシャフト75と、モータケース71及びモータカバー72との間でモータシャフト75を回転可能に支持する一対の軸受76,77とを備える。
モータケース71及びケースカバー72は、アルミニウム合金などを鋳造することにより形成される。モータステータ73は、コイル78を備え、モータケース71の内周に固定される。モータステータ73は、コイル78が通電されることで励磁され、磁力を発生する。
モータロータ74は、永久磁石(図示略)を備える。モータロータ74は、モータステータ73との間で所定の隙間を介して保持される。通電によりモータステータ73を励磁することにより、モータロータ74がモータシャフト75と一体に回転して駆動力が得られる。
図1に示すように、ケースカバー72及びモータロータ74には、本発明の位置センサに相当する角度センサ9が設けられる。ケースカバー72には、角度センサ9を構成するセンサステータ7が固定される。モータロータ74には、角度センサ9を構成するセンサロータ8が固定される。モータケース71とケースカバー72を組み付けた状態で、センサロータ8とセンサステータ7は、所定の隙間GAを介して互いに表面が対向して配置される。この隙間GAは、狭くすることで角度センサ9の検出精度を向上させることができる。寸法公差や温度による寸法変化等も考慮した上で隙間GAの大きさを決定するのが好ましい。
図2に、角度センサ9に係る電気的構成をブロック図により示す。角度センサ9は、センサステータ7に設けられるSIN信号検出コイル10、COS信号検出コイル20及びステータ側ロータリートランス30と、センサロータ8に設けられる励磁コイル40及びロータ側ロータリートランス41とを備える。SIN信号検出コイル10は、本発明の第1の検出コイルに相当し、COS信号検出コイル20は、本発明の第2の検出コイルに相当する。励磁コイル40は、本発明の励磁コイルに相とする。SIN信号検出コイル10とCOS信号検出コイル20は、所定角度だけ位相をずらして配置される。角度センサ9に接続された信号処理装置50は、励磁信号生成回路51、第1検波回路55、第2検波回路56及び演算機57を備える。励磁信号生成回路51は、ステータ側ロータリートランス30へ高周波(480kHz)の励磁信号(SIN信号)を出力するようになっている。第1検波回路55は、SIN信号検出コイル10から出力されるSIN信号を入力するようになっている。第2検波回路56は、COS信号検出コイル20から出力されるCOS信号を入力するようになっている。演算機57は、第1及び第2の検波回路55,56から出力されるSIN信号及びCOS信号をそれぞれ入力するようになっている。
上記した信号処理装置50において、励磁信号発生回路51で励磁信号が発生することにより、ステータ側ロータリートランス30及びロータ側ロータリートランス41を介して、ロータ側の励磁コイル40に励磁信号が入力される。この励磁信号の電流により発生する磁束により、ステータ側のSIN信号検出コイル10及びCOS信号検出コイル20に起電力(SIN信号及びCOS信号)が発生する。SIN信号検出コイル10で発生した起電力(SIN信号)の振幅変動と、COS信号検出コイル20で発生した起電力(COS信号)の振幅変動とを解析することにより、センサロータ8の回転位置を算出することができる。すなわち、第1検波回路55は、SIN信号検出コイル10で発生するSIN信号から、励磁信号の高周波成分を除去する。一方、第2検波回路56は、COS信号検出コイル20で発生するCOS信号から、励磁信号の高周波成分を除去する。そして、演算機57は、第1検波回路55の出力信号と第2検波回路56の出力信号との振幅の比から、センサロータ8の現在の角度位置を算出し、その算出結果を角度データとして出力する。
次に、センサステータ7の構成について詳細に説明する。図3に、センサステータ7の構成を分解して斜視図により示す。図3に示すように、センサステータ7は、下から順に、センサボディ1、第1絶縁層2、第1コイル層3、第2絶縁層4、第2コイル層5及びオーバコート6を備える。センサボディ1は、PPS樹脂により略円環板状に形成され、高い平面性を有する。第1絶縁膜層2は、センサボディ1の上に形成され、略円環薄膜状をなす。センサボディ1は外周には3つの取付部1aと、1つのコネクタ部1bとを含む。分割タイプの第1コイル層3は、第1絶縁膜層2の表面に形成される。第2絶縁層4は、略円環薄膜状をなし、第1コイル層3の上に形成される。分割タイプの第2コイル層5は、第2絶縁層4の上に形成される。オーバコート6は、第2コイル層5の上に形成され、同コイル層5を保護する。
図3において、第1コイル層3、第2絶縁層4及び第2コイル層5により、上記したSIN信号検出コイル10及びCOS信号検出コイル20が構成される。すなわち、第2絶縁層4を間に挟んで上下に重ねて形成された分割タイプの第1コイル層3及び第2コイル層5を相互に接続することにより、多X型の平面コイルとしてのSIN信号検出コイル10及びCOS信号検出コイル20がそれぞれ構成される。そして、表面にSIN信号検出コイル10及びCOS信号検出コイル20が形成されたセンサステータ7の表面が、センサロータ8の表面に隙間GAを介して対向して配置される。
図4に、本発明の平面コイルとしてのSIN信号検出コイル10のパターンイメージを平面図により示す。図5に、本発明の平面コイルとしてのCOS信号検出コイル20のパターンイメージを平面図により示す。図4に示すように、SIN信号検出コイル10は、全体として略円環状をなし、電気角度で「180度」(機械角度で「90度」)ずつの位相位置に配置された4つの円弧状コイル10A,10B,10C,10Dを備える。各円弧状コイル10A〜10Dは、後述するように、円周方向に2分割され、かつ径方向にも2分割されて構成されたものを接続することで形成される。同様に、図5に示すように、COS信号検出コイル20は、全体として略円環状をなし、電気角度で「180度」(機械角度で「90度」)ずつの位相位置に配置された4つの円弧状コイル20A,20B,20C,20Dを備える。各円弧状コイル20A〜20Dは、後述するように、円周方向に2分割され、かつ径方向にも2分割されて構成されたものを接続することで形成される。SIN信号検出コイル10とCOS信号検出コイル20は、同軸上に配置され、COS信号検出コイル20がSIN信号検出コイル10の位相に対し、時計方向に電気角度で「90度」に微小角度θmを加算した角度θa(機械角度で「45度」に微小角度θmの半分を加算した角度(θa/2))ずれるように配置される。すなわち、SIN信号検出コイル10とCOS信号検出コイル20との位相差が、電気角度で「90度」に微小角度θmを加算した角度θa(機械角度で「45度」に微小角度θmの半分を加算した角度(θa/2))となっている。
図6に、第2コイル層5を平面図により示す。第2コイル層5のコイルパターンは、第2絶縁層4の表面に導電性インクを印刷により描画した後、焼成することにより形成される。ここで、図6に示すように、略円環状をなす第2コイル層5は、SIN信号検出コイル10を構成する4個のSIN第1コイル11A,11B,11C,11Dを備え、それらが外周側にて電気角度で「180度」(機械角度で「90度」)ずつ異なる位置に配置される。また、図6に示すように、第2コイル層5は、SIN信号検出コイル10を構成する4個のSIN第4コイル14A,14B,14C,14Dを備え、それらが内周側にて電気角度で「180度」(機械角度で「90度」)ずつ異なる位置に配置される。これらSIN第4コイル14A〜14Dは、SIN第1コイル11A〜11Dに対して反時計回りに電気角度で「90度」(機械角度で「45度」)だけ位相がずれた位置に配置される。
図6に示すように、SIN第1コイル11A〜11Dの内周側には、COS信号検出コイル20を構成するCOS第4コイル24A,24B,24C,24Dが配置される。また、SIN第4コイル14A〜14Dの外周側には、COS信号検出コイル20を構成するCOS第1コイル21B,21C,21D,21Aが配置される。COS第1コイル21CとSIN第1コイル11Cとの中間位置が、図3に示すコネクタ部1bの中心線と一致する。
図7に、図6におけるSIN第1コイル11A〜11DとSIN第4コイル14A〜14Dの関係につき、SIN第1コイル11AとSIN第4コイル14Aのみを抜き出して拡大して平面図により示す。なお、図6と異なり、図7では、SIN第1コイル11AとSIN第4コイル14Aの線パターンを塗りつぶさないで示す。図7に示すように、SIN第1コイル11Aは、略矩形の1/4部分を構成する7本のコイル線111,112,113,114,115,116,117を備える。これらコイル線111〜117は、内周側から外周側へ順次大きくなるように形成され、配置される。各コイル線111〜117は、それぞれ第1の端111a,112a,113a,114a,115a,116a,117aと、第2の端111b,112b,113b,114b,115b,116b,117bとを含む。同様に、SIN第4コイル14Aは、略矩形の1/4部分を構成する7本のコイル線141,142,143,144,145,146,147を備える。これらコイル線141〜147は、外周側から内周側へ順次大きくなるように形成され、配置される。各コイル線141〜147は、それぞれ第1の端141a,142a,143a,144a,145a,146a,147aと、第2の端141b,142b,143b,144b,145b,146b,147bとを含む。
図8に、第1コイル層3を平面図により示す。第1コイル層3のコイルパターンは、第1絶縁層2の表面に導電性インクを印刷により描画した後、焼成することにより形成される。ここで、上記したと同様に、図8に示すように、略円環状をなす第1コイル層3は、SIN信号検出コイル10を構成する4個のSIN第2コイル12A,12B,12C,12Dを備え、それらが外周側にて電気角度で「180度」(機械角度で「90度」)ずつ異なる位置に配置される。また、図8に示すように、第1コイル層3は、内周側に4個のSIN第3コイル13A,13B,13C,13Dを備え、それらが内周側にて電気角度で「180度」(機械角度で「90度」)ずつ異なる位置に配置される。これらSIN第3コイル13A〜13Dは、SIN第2コイル12A〜12Dに対して、時計回りに電気角度で「90度」(機械角度で「45度」)だけ位相がずれた位置に配置される。
図8に示すように、SIN第2コイル12A〜12Dの内周側には、COS信号検出コイル20を構成するCOS第3コイル23B,23C,23D,23Aが配置される。また、SIN第3コイル13A〜13Dの外周側には、COS信号検出コイル20を構成するCOS第2コイル22A,22B,22C,22Dが配置される。
図9に、図8におけるSIN第3コイル13A〜13DとSIN第2コイル12A〜12Dの関係につき、SIN第3コイル13AとSIN第2コイル12Aのみを抜き出して拡大して平面図により示す。なお、図8と異なり、図9では、SIN第2コイル12AとSIN第3コイル13Aの線パターンを塗りつぶさないで示す。図9に示すように、SIN第2コイル12Aは、略矩形の1/4部分を構成する7本のコイル線121,122,123,124,125,126,127を備える。これらコイル線121〜127は、内周側から外周側へ順次大きくなるように形成され、配置される。各コイル線121〜127は、それぞれ第1の端121a,122a,123a,124a,125a,126a,127aと、第2の端121b,122b,123b,124b,125b,126b,127bとを含む。同様に、SIN第3コイル13Aは、略矩形の1/4部分を構成する7本のコイル線131,132,133,134,135,136,137を備える。これらコイル線131〜137は、外周側から内周側へ順次大きくなるように形成され、配置される。各コイル線131〜137は、それぞれ第1の端131a,132a,133a,134a,135a,136a,137aと、第2の端131b,132b,133b,134b,135b,136b,137bとを含む。
したがって、この実施形態では、COS信号検出コイル20がSIN信号検出コイル10の位相に対し、時計方向に電気角度で「90度」に微小角度θmを加算した角度θa(機械角度で「45度+θm/2」)ずれるようにするために、SIN第1コイル11A〜11D、SIN第2コイル12A〜12D、SIN第3コイル13A〜13D及びSIN第4コイル14A〜14Dのそれぞれに対し、対応するCOS第1コイル21A〜21D、COS第2コイル22A〜22D、COS第3コイル23A〜23D及びCOS第4コイル24A〜24Dのそれぞれが、時計方向に電気角度で「90度」に微小角度θmだけ加算した角度θa(機械角度で「45度+θm/2」)ずれるように配置される。
次に、図3〜図9を参照してSIN信号検出コイル10の構成を説明する。図8に示す端子33及び端子37は、SIN信号検出コイル10のための端子である。図8に示すように、端子33は、導線42aにより、第2絶縁層4に形成されたスルーホール4aを介して、図6及び図7に示すSIN第1コイル11Bのコイル線117の端部117aに接続される。SIN第1コイル11Bのコイル線117の端部117bは、第2絶縁層4のスルーホール4aを介して、図8及び図9に示すSIN第3コイル13Bのコイル線137の端部137bに接続される。SIN第3コイル13Bのコイル線137の端部137aは、第2絶縁層4のスルーホール4aを介して、図6及び図7に示すSIN第4コイル14Bのコイル線147の端部147aに接続される。SIN第4コイル14Bのコイル線147の端部147bは、第2絶縁層4のスルーホール4aを介して、図8及び図9に示すSIN第2コイル12Bのコイル線127の端部127bに接続される。このようにして、SIN第1コイル11B、SIN第3コイル13B、SIN第4コイル14B及びSIN第2コイル12Bの最外周のコイル線117,137,147,127により、最外周の巻き部(ターン)が構成される。
また、図8及び図9に示すSIN第2コイル12Bのコイル線127の端部127aは、第2絶縁層4のスルーホール4aを介して、図6及び図7に示すSIN第1コイル11Bのコイル線116の端部116aに接続される。そして、上記したSIN第1コイル11B、SIN第3コイル13B、SIN第4コイル14B及びSIN第2コイル12Bの最外周のコイル線117,137,147,127と同様に、SIN第1コイル11B、SIN第3コイル13B、SIN第4コイル14B及びSIN第2コイル12Bのコイル線116,136,146,126により、上記した最外周のターンに隣接する内側のターンが構成される。同様に、順次内側のターンが構成され、最終的に、SIN第1コイル11B、SIN第3コイル13B、SIN第4コイル14B及びSIN第2コイル12Bの最内周のコイル線111,131,141,121により最内周のターンが構成される。このようにして、SIN第1コイル11B、SIN第3コイル13B、SIN第4コイル14B及びSIN第2コイル12Bにより、図4に示す円弧状コイル10Bが時計回りの螺旋状コイルとして構成される。
上記した円弧状コイル10Bの最内周のターンを構成するSIN第2コイル12Bのコイル線121の端部121aは、図6に示す導線42b、図8に示す導線42c、図6に示す導線42dを介して、図8及び図9に示すSIN第2コイル12Aの最内周のコイル線121の端部121aに接続される。SIN第2コイル12Aのコイル線121の端部121bは、第2絶縁層4のスルーホール4aを介して、図6及び図7に示すSIN第4コイル14Aのコイル線141の端部141bに接続される。SIN第4コイル14Aのコイル線141の端部141aは、第2絶縁層4のスルーホール4aを介して、図8及び図9に示すSIN第3コイル13Aのコイル線131の端部131aに接続される。SIN第3コイル13Aのコイル線131の端部131bは、第2絶縁層4のスルーホール4aを介して、図6及び図7に示すSIN第1コイル11Aのコイル線111の端部111bに接続される。このようにして、SIN第2コイル12A、SIN第4コイル14A、SIN第3コイル13A及びSIN第1コイル11Aの最内周のコイル線121,141,131,111により、最内周のターンが構成される。
また、図8及び図9に示すSIN第2コイル12Aのコイル線121の端部121bは、第2絶縁層4のスルーホール4aを介して、図6及び図7に示すSIN第1コイル11Aのコイル線112の端部112bに接続される。そして、上記したSIN第2コイル12A、SIN第4コイル14A、SIN第3コイル13A及びSIN第1コイル11Aの最内周のコイル線121,141,131,111と同様に、SIN第2コイル12A、SIN第4コイル14A、SIN第3コイル13A及びSIN第1コイル11Aのコイル線122,142,132,112により、最内周のターンに隣接する外側のターンが構成される。同様に、順次外側のターンが構成され、最終的に、SIN第2コイル12A、SIN第4コイル14A、SIN第3コイル13A及びSIN第1コイル11Aの最外周のコイル線127,147,137,117により最外周のターンが構成される。このようにして、SIN第2コイル12A、SIN第4コイル14A、SIN第3コイル13A及びSIN第1コイル11Aにより、図4に示す円弧状コイル10Aが反時計回りの螺旋状コイルとして構成される。
同様にして、SIN第1コイル11D、SIN第3コイル13D、SIN第4コイル14D及びSIN第2コイル12Dにより、図4に示す円弧状コイル10Dが反時計回りの螺旋状コイルとして構成される。また、SIN第2コイル12C、SIN第4コイル14C、SIN第3コイル13C及びSIN第1コイル11Cにより、図4に示す円弧状コイル10Cが時計回りの螺旋状コイルとして構成される。円弧状コイル10Cを構成するSIN第2コイル12Cの最外周のコイル線127の端部127aは、図8に示すように、導線42eを介して、端子37に接続される。
このように構成される4個の円弧状コイル10A,10B,10C,10Dにより、図4に示すように、略円環状をなすSIN信号検出コイル10が構成される。
COS信号検出コイル20についても、図5に示すように、円周方向に分割された4個の円弧状コイル20A,20B,20C,20Dにより構成される。そして、図5に示す1つの円弧状コイル20Aは、COS第1コイル21A、COS第2コイル22A、COS第3コイル23A及びCOS第4コイル24Aにより構成される。ここで、COS第1コイル21A及びCOS第3コイル23Aは、図6に示すように第2コイル層5に形成され、COS第2コイル22A及びCOS第3コイル23Aは、図8に示すように第1コイル層3に形成される。
残りの円弧状コイル20B,20C,20Dの構成についても、基本的には、上記した円弧状コイル20Aと同様である。COS信号検出コイル20は、図8に示すように、端子34、端子38に接続される。COS信号検出コイル20を構成する2つの円弧状コイル20A,20Cは、第1コイル層3と第2コイル層5とを行き来しつつ、時計回りの螺旋状コイルとして構成される。また、COS信号検出コイル20を構成する他の2つの円弧状コイル20B,20Dは、第1コイル層3と第2コイル層5とを行き来しつつ、反時計回りの螺旋状コイルとして構成される。図8に示すように、端子34は、ステータ側ロータリートランス30を構成するコイル31,32(図6及び図8参照)を介して端子35,36に接続される。
次に、センサロータ8の構成について詳細に説明する。図10に、センサロータ8の構成を分解して斜視図により示す。図10に示すように、センサロータ8は、下からロータ基板61と、ロータ基板61の表面に形成された第1コイル層62と、第1コイル層62の上に形成された絶縁層63と、絶縁層63の上に形成された第2コイル層64と、第2コイル層64の上に形成された保護膜であるオーバコート65とを備える。
ロータ基板61は、アルミ又は真鍮等の非磁性導電性金属により円環板状に形成され、中心に円形の孔61aを有する。ロータ基板61の表面には、凹部61bが形成される。この凹部61bには、PPS等の樹脂が充填され、その樹脂が凝固している。
絶縁層63及びオーバコート65は、絶縁材料により円環薄膜状に形成される。絶縁層63には、所々にスルーホール63aが形成される。
第1コイル層62は、全体で円環状をなすように配置された4個の円弧状コイル62a,62b,62c,62dを備える。第2コイル層64も、全体で円環状をなすように配置された4個の円弧状コイル64a,64b,64c,64dを備える。第1コイル層62を構成する円弧状コイル62a〜62dの一端は、ロータ側ロータリートランス41を構成するコイル41aに接続される。4個の円弧状コイル62a〜62dの他端は、絶縁層63のスルーホール63aを通って、第2コイル層64を構成する円弧状コイル64a〜64dの一端に接続される。4個の円弧状コイル64a〜64dの他端は、ロータ側ロータリートランス41を構成するコイル41bに接続される。コイル41aの他端とコイル41bの他端とは、絶縁層63のスルーホール63aを介して接続されている。
このように絶縁層63を挟んで上下に配置された第1コイル層62及び第2コイル層64により、平面コイルとしての励磁コイル40が構成される。
以上説明したこの実施形態の角度センサ9によれば、センサステータ7につき、本来ならば電気角度で「90度」(機械角度で「45度」)だけ位相がずれるSIN信号検出コイル10とCOS信号検出コイル20につき、電気角度で微小角度θm(機械角度で微小角度θmの半分)だけSIN信号検出コイル10とCOS信号検出コイル20の位相が意図的にずれている。したがって、SIN信号検出コイル10とCOS信号検出コイル20との間の位相差を電気角度で基準となる「90度」(機械角度で「45度」)から電気角度で微小角度θm(機械角度で「θm/2」)の分だけずれるので、両信号検出コイル10,20の間で生じる静電結合の影響が緩和され、各信号検出コイル10,20の出力電圧の位相が理想的な位相に合わせ込まれる。このため、SIN信号検出コイル10とCOS信号検出コイル20との間の静電結合による出力誤差を低減することができる。この結果、角度センサ9としての検出精度を向上させることができる。
図11に、分布コイルズレ角度(電気角度)と、両信号検出コイル10,20の出力の間の位相誤差との関係をグラフにより示す。分布コイルズレ角度は、COS信号検出コイル20をSIN信号検出コイル10から時計方向へ電気角度で「90度」だけずらした状態からの更なるずれ角度を意味する。図11に示すグラフから、位相誤差を「0.00」にできる分布コイルズレ角度は、電気角度で「約0.4度」であることが分かる。したがって、この実施形態において、電気角度での微小角度θmを「約0.4度」とすることができる。
ここで、角度センサ9が、上記のような作用効果を奏する理由について以下に説明する。図12に、理想的な状態におけるSIN信号検出コイルに係る出力とCOS信号検出コイルに係る出力を説明図により示す。図13に、実際の静電結合がある場合におけるSIN信号検出コイルに係る出力とCOS信号検出コイルに係る出力とを説明図により示す。図12に示すように、理想的な状態におけるSIN信号検出コイルに係る出力電圧(第1検波回路の出力電圧)「Vs」と、理想的な状態におけるCOS信号検出コイルに係る出力電圧(第2検波回路の出力電圧)「Vc」は、それぞれ次の(式1)及び(式2)で与えられる。
Vs=Asinθ …(式1)
Vc=Bcosθ …(式2)
しかし、実際のSIN信号検出コイルに係る出力電圧(第1検波回路の出力電圧)「Vsin」と、実際のCOS信号検出コイルに係る出力電圧(第2検波回路の出力電圧)「Vcos」とは、両信号検出コイルの間の静電結合の影響により、次の(式3)及び(式4)のようになる。
Vsin=Vs+2×π×f×Cs×RI×Vc …(式3)
Vcos=Vc+2×π×f×Cs×RI×Vs …(式4)
ここで、「Cs」は静電容量、「RI」は負荷インピーダンスを意味する。
上記した「2×π×f×Cs×RI」は定数と考えられるので(「Cs」の電圧による変化は極めて小さいので「Cs」も定数とする)、図13に示すように、実際のSIN信号検出コイルに係る出力電圧「Vsin」は、次の(式5)のように表すことができる。
Vsin=Vs+2×π×f×Cs×RI×Vc
=Vs+a×Vc
=A×sinθ+a×B×cosθ …(式5)
上記(式5)において、「a」は静電結合の大きさを表す係数であり、周波数、抵抗、負荷インピーダンス及び(寄生)容量等に依存する定数である。「a」は周波数に比例することから、高周波信号を用いている各検波回路より前の段階で影響が大きい。
ここで、A/D=cosα、a×B/D=sinα(「D」は定数、D=√(A2+a2B2))とすると、実際のSIN信号検出コイルに係る出力電圧「Vsin」は、次の(式6)のように表すことができる。
Vsin=D×sin(θ+α) …(式6)
同様に、実際のCOS信号検出コイルに係る出力電圧「Vcos」は、次の(式7)のように表すことができる。
Vcos=F×cos(θ−β)
=F×sin(θ+π/2−β) …(式7)
(ただし、B/F=cosβ、a×A/F=sinβ、F=√(B2+a2A2))となる。
また、この出力電圧「Vcos」は、図13に第2検波回路の出力として示すように、次の(式8)のように表すことができる。
Vcos=B×cosθ+a×A×sinθ …(式8)
よって、SIN信号検出コイルとCOS信号検出コイルの位相は、通常は電気角度で「90度」(機械角度で「45度」)ずれるが、静電結合の影響によりずれ角度は電気角度で「{90−(α+β)}」となり、「90度(電気角度)」よりも「α+β(電気角度)」度だけ小さくなる。したがって、SIN信号検出コイルとCOS信号検出コイルとの位相差を、電気角度で「90−(α+β)」に対して電気角度で「α+β」だけ加算した角度とすることで、SIN信号検出コイル及びCOS信号検出コイルに係る出力電圧をそれぞれ理想の状態に近付けることができる。
図14に、理想的なSIN信号検出コイルに係る出力「Vs」、静電結合成分「aVc」(理想的なCOS信号検出コイルに係る出力「Vc」に係数aを乗算したもの)、それらの合成出力「Vs+aVc」の位相変化をそれぞれグラフにより示す。図14から分かるように、静電結合の影響を受けたSIN信号検出コイルに係る出力「Vs+aVc」は、理想的なSIN信号検出コイルに係る出力「Vs」に対して、「α」だけ位相がずれていることが分かる。この実施形態では、この位相のずれαを解消するために、SIN信号検出コイル10とCOS信号検出コイル20との位相差を、電気角度で90度に微小角度θmを加算した角度θa(機械角度では角度θaの半分の角度(θa/2))としている。
この実施形態の角度センサ9によれば、センサステータ7とセンサロータ8を備え、そのセンサステータ7が、センサボディ1、第1絶縁層2、第1コイル層3、第2絶縁層4、第2コイル層5及びオーバコート6により構成される。ここで、第2絶縁層4を間に挟んで形成された第1コイル層3及び第2コイル層5により、SIN信号検出コイル10及びCOS信号検出コイル20が構成される。そして、SIN信号検出コイル10を構成する各円弧状コイル10A〜10Dが、円周方向に2分割され、かつ径方向にも2分割されて構成されたものを接続することで形成される。すなわち、各円弧状コイル10A〜10Dは、外周側にSIN第1コイル11A〜11DとSIN第2コイル12A〜12Dが配置され、内周側にSIN第3コイル13A〜13DとSIN第4コイル14A〜14Dが配置される。また、SIN第1コイル11A〜11DとSIN第3コイル13A〜13Dが円周方向において対向して配置され、SIN第2コイル12A〜12DとSIN第4コイル14A〜14Dが円周方向において対向して配置される。また、SIN第1コイル11A〜11DとSIN第4コイル14A〜14Dが第2コイル層5に配置され、SIN第2コイル12A〜12DとSIN第3コイル13A〜13Dが第1コイル層3に配置される。さらに、COS信号検出コイル20を構成する各円弧状コイル20A〜20Dが、円周方向に2分割され、かつ径方向にも2分割されて構成されたものを接続することで形成される。すなわち、各円弧状コイル20A〜20Dは、外周側にCOS第1コイル21A〜21DとCOS第2コイル22A〜22Dが配置され、内周側にCOS第3コイル23A〜23DとCOS第4コイル24A〜24Dが配置される。そして、COS第1コイル21A〜21DとCOS第3コイル23A〜23Dが円周方向において対向して配置され、COS第2コイル22A〜22DとCOS第4コイル24A〜24Dが円周方向において対向して配置される。また、COS第1コイル21A〜21DとCOS第4コイル24A〜24Dが第2コイル層5に配置される。されに、COS第2コイル22A〜22DとCOS第3コイル23A〜23Dが第1コイル層3に配置される。したがって、センサボディ1それ自体が、円周方向において、波打ち等の変形を成している場合であっても、SIN第1コイル11A〜11D(SIN第4コイル14A〜14D)とSIN第2コイル21A〜21D(SIN第3コイル13A〜13D)とが、波打ち等の変形により発生する誤差を打ち消し合うこととなる。同様に、COS第1コイル21A〜21D(COS第4コイル24A〜24D)とCOS第2コイル22A〜22D(COS第3コイル23A〜23D)とが、波打ち等の変形により発生する誤差を打ち消し合うこととなる。この結果、センサボディ1の波打ち変形等に対して検出誤差の少ない高精度な角度センサ9を実現することができる。
すなわち、SIN第1コイル11A〜11Dが第2コイル層5に形成され、SIN第2コイル12A〜12Dが第1コイル層3に形成され、SIN第3コイル13A〜13Dが第1コイル層3に形成され、SIN第4コイル14A〜14Dが第2コイル層5に形成される。このため、第2コイル層5に形成されるSIN第1コイル11A〜11D及びSIN第4コイル14A〜14Dと、第1コイル層3に形成されるSIN第2コイル12A〜12D及びSIN第3コイル13A〜13Dとで、センサボディ1の円周方向における変形によるギャップにより、受ける磁束密度が異なる場合でも、全体のSIN信号検出コイル10(SIN第1コイル11A〜11D、SIN第2コイル12A〜12D、SIN第3コイル13A〜13D、SIN第4コイル14A〜14D)として、誤差を相殺することができる。
同様に、COS第1コイル21A〜21Dが第2コイル層5に形成され、COS第2コイル22A〜22Dが第1コイル層3に形成され、COS第3コイル23A〜23Dが第1コイル層3に形成され、COS第4コイル24A〜24Dが第2コイル層5に形成される。このため、第2コイル層5に形成されるCOS第1コイル21A〜21D及びCOS第4コイル24A〜24Dと、第1コイル層3に形成されるCOS第2コイル22A〜22D及びCOS第3コイル23A〜23Dとで、円周方向における変形によるギャップにより、受ける磁束密度が異なる場合でも、全体のCOS信号検出コイル20(COS第1コイル21A〜21D、COS第2コイル22A〜22D、COS第3コイル23A〜23D、COS第4コイル24A〜24D)として、誤差を相殺することができる。
この実施形態では、SIN第1コイル11A〜11DとSIN第3コイル13A〜13Dの組と、COS第2コイル22A〜22DとCOS第4コイル24A〜24Dの組が、円周方向において同じ位置にあり、SIN第2コイル12A〜12DとSIN第4コイル14A〜14Dの組と、COS第1コイル21A〜21Dと第3コイル23A〜23Dの組が、円周方向において同じ位置にある。したがって、SIN信号検出コイル10とCOS信号検出コイル20との位置関係を、励磁コイル40に対して、常に一定とすることができる。
この実施形態では、SIN第1コイル11A〜11DとSIN第2コイル12A〜12Dとが、第2絶縁層4に形成されたスルーホール4aを介して接続される。また、SIN第2コイル12A〜12DとSIN第4コイル14A〜14Dとが、第2絶縁層4に形成されたスルーホール4aを介して接続される。また、SIN第4コイル14A〜14DとSIN第3コイル13A〜13Dとが、第2絶縁層4に形成されたスルーホール4aを介して接される。更に、SIN第3コイル13A〜13DとSIN第1コイル11A〜11Dとが、第2絶縁層4に形成されたスルーホール4aを介して接続される。同様に、COS第1コイル21A〜21DとCOS第2コイル22A〜22Dとが、第2絶縁層4に形成されたスルーホール4aを介して接続される。また、COS第2コイル22A〜22DとCOS第4コイル24A〜24Dとが、第2絶縁層4に形成されたスルーホール4aを介して接続される。また、COS第4コイル24A〜24DとCOS第3コイル23A〜23Dとが、第2絶縁層4に形成されたスルーホール4aを介して接続される。更に、COS第3コイル23A〜23DとCOS第1コイル21A〜21Dとが、第2絶縁層4に形成されたスルーホール4aを介して接続される。したがって、SIN信号検出コイル10及びCOS信号検出コイル20を容易かつ高い位置精度で製造することができる。このため、センサボディ1の円周方向における変形によるギャップにより、受ける磁束密度が異なる場合でも、全体のSIN信号検出コイル10(SIN第1コイル11A〜11D、SIN第2コイル12A〜12D、SIN第3コイル13A〜13D、SIN第4コイル14A〜14D)として、誤差を確実かつ精確に相殺することができる。
この実施形態では、第1コイル層3及び第2コイル層5が、導電性インクを絶縁層2,4の上に印刷により描画した後、焼成することで形成される。したがって、焼成により、第1コイル層3と第2コイル層5に偏差がある場合でも、上記構成により、SIN信号検出コイル10及びCOS信号検出コイル20の抵抗値がそれぞれ平均化され、抵抗値を互いに相殺でき、検出精度を劣化させることが少なくなる。
この実施形態では、SIN信号検出コイル10及びCOS信号検出コイル20が、1組の検出コイルを構成するので、所定の磁界に対して一定の誘起電圧を発生することができ、高精度の角度センサ9を得ることができる。
なお、この発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜に変更して実施することもできる。
例えば、前記実施形態では、SIN信号検出コイル10及びCOS信号検出コイル20を、第2絶縁層4を挟んで形成された分割タイプの第1コイル層3及び第2コイル層5を相互に接続することにより構成した。これに対し、分割タイプのコイル層を使うことなく、SIN信号検出コイル及びCOS信号検出コイルを絶縁層を挟んで形成するように構成することもできる。この場合、SIN信号検出コイルに対してCOS信号検出コイルの位相を直接的にずらすことで、両信号検出コイルの間の位相差を設定することができる。
また、前記実施形態では、SIN第1コイル11A〜11DとSIN第4コイル14A〜14Dを第2コイル層5に形成し、SIN第2コイル12A〜12DとSIN第3コイル13A〜13Dとを第1コイル層3に形成した。これに対し、SIN第1コイル11A〜11DとSIN第4コイル14A〜14Dを第1コイル層3に形成し、SIN第2コイル12A〜12DとSIN第3コイル13A〜13Dとを第2コイル層5に形成しても良い。
前記実施形態では、COS第1コイル21A〜21DとCOS第4コイル24A〜24Dを第2コイル層5に形成し、COS第2コイル22A〜22DとCOS第3コイル23A〜23Dとを第1コイル層3に形成した。これに対し、COS第1コイル21A〜21DとCOS第4コイル24A〜24Dを第1コイル層3に形成し、COS第2コイル22A〜22DとCOS第3コイル23A〜23Dとを第2コイル層5に形成しても良い。
また、前記実施形態では、1励磁2出力のレゾルバについて説明したが、本発明を、2励磁1出力のレゾルバに適用することもできる。