JP5747397B2 - 医薬組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、医薬組成物に関し、特にNMDA型グルタミン酸受容体活性を作動させる作用又は阻害する作用を有する医薬組成物に関するものである。
脳神経系の神経伝達は、神経細胞の興奮によって行われることはよく知られている。この伝達は興奮性神経伝達物質の受容体の活性化により引き起こされ、神経興奮の度合いは抑制性や興奮性の神経伝達物質によって調節されている。興奮性神経伝達物質にはアセチルコリンやグルタミン酸などがよく知られている。抑制性神経伝達物質としては、γ−アミノ酪酸(GABA)やグリシンが挙げられる。これらのうち、グルタミン酸は中枢の神経細胞興奮の50%以上に関わっていると考えられており、神経伝達物質として最重要な位置を占めている(例えば、非特許文献1)。
L-グルタミン酸とその受容体であるグルタミン酸受容体は中枢神経系における興奮性神経伝達に働いているだけでなく、記憶や学習などの高次神経機能にも深く関わっている。グルタミン酸受容体の機能不全は、様々な脳神経疾患(脳虚血、アルツハイマー病など)や精神疾患(精神分裂病、てんかん、躁鬱病など)の原因の一つと考えられている。このようなグルタミン酸の多岐にわたる生理機能の発現には、グルタミン酸とその受容体との結合が引き金になっている。つまり神経接合部(シナプス)でのグルタミン酸とその受容体との結合機構の解明は、脳神経研究にとっての重要な課題の一つである。
グルタミン酸受容体は、イオンチャンネルを内在したイオンチャンネル型受容体(iGluR)と、GTP結合蛋白質を介して細胞内カルシウムイオン上昇(Group 1型)やcAMP産生抑制(Group 2,3型)などの細胞内代謝経路を活性化する代謝調節型受容体(mGluR)に大別されている。イオンチャンネル型受容体は外因性の作動薬(アゴニスト)に対する感受性の違いから、N−メチルアスパラギン酸(NMDA)型、カイニン酸(KA)型、α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソオキサゾールプロピオン酸(AMPA)型の3種類に分類され、これらはさらに数種類のサブタイプに分類されている。代謝調節型受容体はアミノ酸配列の相同性やアゴニスト選択性、細胞内情報伝達系の違いにより3つのグループ(Group1,2,3型)に分類されている。
上記のグルタミン酸受容体のうち、NMDA型グルタミン酸受容体は、脳神経系において記憶や学習に重要な働きをしているとともに、脳卒中を起こしたときの神経細胞死にも重要な働きをしていることが解明されている。また、NMDA型グルタミン酸受容体のアンタゴニストとして知られている物質の中には統合失調症様の症状を示すものもある。
特開2001−122838号公報
大船泰史、島本啓子(1997)興奮性神経伝達機構を探る化合物現代化学、18-26
NMDA型グルタミン酸受容体の活性を部分的に阻害する医薬であるメマンチンは欧米において抗認知症薬として使用されている。また特許文献1には、NMDA型グルタミン酸受容体に対し(s)-α-アミノ-3,4-ジオキソ-2-ヒドロキシ-1-シクロブテン-1-プロピオニックアシッドは結合活性を有していること、および (s)-α-アミノ-3,4-ジオキソ-2-ヒドロキシ-1-シクロブテン-1-ブチリックアシッドは強い結合活性を有してアゴニストとして機能していることが開示されている。
しかしながら、上記の物質は比較的複雑な構造であるので製造コストが大きく、また副作用も有している。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡単な構造であってNMDA型グルタミン酸受容体の活性に作用を及ぼす医薬組成物を提供することにある。
上記の課題を解決するために、本発明の第1の医薬組成物は、アスパラチルグルタミン酸、ベータアスパラチルグリシンおよびアラニルグリシンからなる群から選ばれたジペプチドを含有する、NMDA型グルタミン酸受容体活性阻害用医薬組成物とした。
本発明の第2の医薬組成物は、アラニルグルタミン酸、アスパラチルグルタミン酸、グルタミルグルタミン酸、グリシルグルタミン酸、アラニルグリシン、アスパラチルグリシン、グリシルグリシン、ベータアスパラチルグリシン、ヒスチジルグリシンおよびグリシルセリンからなる群から選ばれたジペプチドを含有する、NMDA型グルタミン酸受容体活性作動用医薬組成物である。ここでNMDA型グルタミン酸受容体を作動させる作用は、NMDA型グルタミン酸受容体を部分的に作動させるいわゆるパーシャルアゴニスト(部分作動剤)としての作用であってもよい
本発明によれば、アスパラチルグルタミン酸、ベータアスパラチルグリシンおよびアラニルグリシンからなる群から選ばれたジペプチドがNMDA型グルタミン酸受容体の活性を阻害または、アラニルグルタミン酸、アスパラチルグルタミン酸、グルタミルグルタミン酸、グリシルグルタミン酸、アラニルグリシン、アスパラチルグリシン、グリシルグリシン、ベータアスパラチルグリシン、ヒスチジルグリシンおよびグリシルセリンからなる群から選ばれたジペプチドがNMDA型グルタミン酸受容体の活性を作動させるので、神経保護、抗認知症、神経疾患等の治療や予防などに安全に且つ安価に用いることができる。
実施例1に係るジペプチドによるNMDA受容体活性への阻害効果を示す図である。 アスパルチルグルタミン酸のNMDA受容体活性への阻害活性を示す図である。 実施例1に係るジペプチドによるNMDA受容体作動活性を示す図である。 NMDA型グルタミン酸受容体の構造を示す図である。 実施例2に係るジペプチドによるNR1/NR2AサブタイプNMDA受容体活性への阻害効果を示す図である。 実施例2に係るジペプチドによるNR1/NR2BサブタイプNMDA受容体活性への阻害効果を示す図である。 実施例2に係るジペプチドによるNR1/NR2AサブタイプNMDA受容体作動活性を示す図である。 実施例2に係るジペプチドによるNR1/NR2BサブタイプNMDA受容体作動活性を示す図である。
本発明の実施形態について説明をする前に、NMDA型グルタミン酸受容体について詳しく説明をし、この受容体の活性に作用を及ぼすとどのような効果があるかについて説明をする。
既に述べたとおり、NMDA型グルタミン酸受容体はグルタミン酸受容体の一種であり、記憶や学習、また脳虚血などに深く関わる受容体であると考えられている。この受容体は中枢神経系を中心に生体内に広く分布し、リガンドであるグルタミン酸の結合を経て、陽イオンを透過させるイオンチャネル共役型受容体である。NMDA型グルタミン酸受容体がリガンドと結合したときに透過させる陽イオンは、ナトリウムイオン(Na)やカリウムイオン(K)の他に、カルシウムイオン(Ca2+)も透過し易いことが知られている。
図4は、NMDA型グルタミン酸受容体の構造を示す図である。NMDA型グルタミン酸受容体は、NR1とNR2のヘテロ2量体2セットからなる4つのサブユニットで構成されている。NR2サブユニットはさらにNR2A、NR2B、NR2C、NR2Dの4種類に分類されており、それぞれ生体内での発現部位や発現時期が異なる。主要サブユニットの一つであるNR1サブユニットにはグリシンを受容するサイトがあり、グリシンを受容していないNMDA型グルタミン酸受容体は、活動できない。NR2サブユニットにはグルタミン酸を受容するサイトがある。また通常、細胞外マグネシウムイオン(Mg2+)によって活動が阻害されているため、脱分極刺激などでMg2+が外れないと活動できない。つまり、NMDA型グルタミン酸受容体の活動には2種のリガンドとMg2+の除去が必要と言える。NR1とNR2とに、それぞれグリシンとグルタミン酸とが結合することでチャンネルが開口し、細胞内にカルシウムイオン(Ca2+)が進入する。マグネシウムイオン(Mg2+)、MK−801、及びメマンチンは、不競合阻害をする物質で、受容体のチャンネル部分に結合することで活性を阻害する。
NMDA型グルタミン酸受容体のアゴニストを表1に示す。上側のaに示しているものはNR1サブユニットに結合するアゴニストであり、自然環境において体内に存在するものはグルタミン酸だけである。下側のbに示しているものはNR2サブユニットに結合するアゴニストであり、自然環境において体内に存在するものはグリシンおよびセリンである。
NMDA型グルタミン酸受容体のアンタゴニストを表2に示す。上側のaに示しているものはNMDA型グルタミン酸受容体に不競合的(uncompetitive)な作用をするアンタゴニストであり、下側のbに示しているものは非競合的(non-competitive)に作用するアンタゴニストである(J.N.C.Kew, J.A.Kemp, Pscychopharmacology 179:4-29,2005参照)。
以上のような特徴を有するNMDA型グルタミン酸受容体は、記憶や学習に深く関わるとともに、アンタゴニストが与えられると統合失調症様の症状を示すことから、活性を亢進する物質には、統合失調症のような精神疾患の治療薬や神経保護薬としての効果があり、活性を阻害する物質には抗認知症薬としての効果があることになる。例えば既に述べたように、部分アンタゴニストであるメマンチンは抗認知症薬として既に、ヨーロッパ、アメリカで使用されている。神経細胞が死ぬと分解されてアミノ酸が放出され、その中のグルタミン酸やグリシンがNMDA型グルタミン酸受容体活性を上げて神経細胞内に過剰の陽イオンを透過させて神経細胞を死に至らせるため、アンタゴニストは神経細胞死が増えることを抑制する効果も有している。ただし、NMDA型グルタミン酸受容体は適切なタイミング且つ適切な期間で開閉しないと、記憶や学習に支障が生じたり精神疾患の症状が発生したりするので、活性を亢進したり阻害したりする度合いが強すぎても薬としての使用が難しくなる。
以上の知見に基づいて、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に述べる実施形態は本発明の例示であり、本発明はこの例に限定されない。
本実施形態においては、一方のアミノ酸がグリシン、グルタミン酸またはアスパラギン酸であるジペプチドを準備してNMDA型グルタミン酸受容体に作用させた。
前記のジペプチドとしては、グリシルグルタミン酸、アスパルチルグルタミン酸、グリシルグリシン、アスパルチルグリシンなどを例として挙げることができる。グリシン、グルタミン酸またはアスパラギン酸と結合する他方のアミノ酸としては、α−アミノ酸であって、蛋白質を構成している20種類のアミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、アルギニン、グルタミン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、システイン、スレオニン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン、グリシン、セリン)から選ばれた一種類であると、前記ジペプチドが安価であって手に入れやすく、生体に対して安全性も高いので好ましい。
NMDA型グルタミン酸受容体の活性を阻害するかどうかは、NMDA型グルタミン酸受容体の2種類のリガンドであるグリシンおよびグルタミン酸と本実施形態のジペプチドとを一緒にしてNMDA型グルタミン酸受容体に作用させ、受容体が作動するとイオンの通過すなわち電流が生じるので、受容体活性を二電極膜電位固定法による電流測定の方法を用いて測定した。
ジペプチドを加えないで、グリシンおよびグルタミン酸のみを加えた(control)との比較により活性を阻害するか否かを判定したところ、本実施形態のジペプチドの中にはNMDA型グルタミン酸受容体活性に阻害作用を示すものがあることが確認された。本実施形態のジペプチドはリガンドとサイトへの結合を争う拮抗的な活性阻害剤であり、パーシャルアンタゴニスト(部分阻害剤)であることが判明した。
次に本実施形態のジペプチドがNMDA型グルタミン酸受容体を作動させるかどうかについて確認を行った。この確認は、グリシンまたはグルタミン酸の何れか一方と本実施形態のジペプチドとをNMDA型グルタミン酸受容体に作用させ、受容体活性を二電極膜電位固定法による電流測定の方法を用いて測定することによりおこなった。
その結果、濃度等の条件によって程度の差はあるが本実施形態のジペプチドにはNMDA型グルタミン酸受容体を作動させる作用があることが確認された。なお作動させる程度は、濃度等の条件やジペプチドの種類によって異なるが、約5〜70%であって、本実施形態のジペプチドはパーシャルアゴニストであることが判明した。
以下に、ジペプチドによるNMDA受容体活性への阻害作用及び作動作用についての実施例を説明する。
(実施例1)
1.測定方法
アフリカツメガエル卵母細胞に外来のmRNAを注入すると、効率よく外来タンパク質が発現することが知られている。これまで発明者は、マウスのNMDA型グルタミン酸受容体についてこの発現系を用いて研究してきた(Yamada, Y. et al., J. Biol. Chem. 274, 6647-6652, 1999、Yamada, Y. et al., J. Neurochem. 81, 758-764, 2002、Iwamoto, K. et al., J. Neurochem. 89, 100-108, 2004)。そこでこの技術を用いてジペプチドのNMDA型グルタミン酸受容体に対する作用を測定した。
[cRNAの合成]
マウス脳のNMDA受容体のNR1、NR2A、NR2BサブユニットのcDNAは、pBKSA NR1A、pBKSA NR2A、pBKSA NR2Bプラスミドのかたちで提供されたものを使用した。これを鋳型として、in vitroで、T3 RNAポリメラーゼを用いてNMDA受容体のcRNAを合成した。
[アフリカツメガエル卵母細胞の発現]
アフリカツメガエルのステージVまたはVI卵母細胞を採取し、2 mg/ml コラゲナーゼ入りのバース液(88 mM NaCl、1 mM KCl、0.33 mM Ca(NO3)2、0.41 mM CaCl2、0.82 mM MgSO4、2.4 mM NaHCO3、7.7 mM Tris-HCl、pH 7.2)に室温で2時間インキュベーションした。その後、卵胞膜をピンセットで取り除いた卵母細胞にNR1とNR2A、NR1とNR2BのcRNAのモル比が1:2になるよう注入した。NR1、NR2AおよびNR1、NR2BのcRNA注入後、18単位/mlのペニシリンG・18単位/mlのストレプトマイ
シンを含むバース液で、40〜48時間、19℃でインキュベーションしたのち活性を測定した。
アフリカツメガエル卵母細胞の発現系では、外来のmRNAを注入すると効率よくそのタンパク質を発現できることが知られている。しかし、神経細胞では、グルタミン酸によって全てのグルタミン酸受容体が活性化し、神経細胞への直接的なグルタミン酸の投与ではNMDA受容体単独の活性をみることは非常に難しい。そこで、アフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いることで、目的であるNMDA受容体のタンパク質のみを卵母細胞内に発現させ、効率よく活性を測定することができる。
[NMDA型グルタミン酸受容体の測定]
TEV-200 Two Electrode Voltage Clamp System (Dagon Corp. Minneapolis, MN)を用いて、二電極膜電位固定法で計測した。電極には3 M KClを満たしたガラス管(抵抗値1〜5 MΩ)を使用した。卵母細胞を標準Ba2+リンゲル液(115 mM NaCl、2.5 mM KCl、1.8 mM BaCl2、10 mM HEPES, pH 7.2)還流条件下、23〜25℃において、卵母細胞内を細胞外液に対して-70 mVに固定して計測した。通常の電流計測では、NMDA受容体のリガンド(グルタミン酸、グリシン)を20秒間流し、そのとき流れた電流を計測した。各計測後に標準Ba2+リンゲル液で洗浄した。
2.NMDA型グルタミン酸受容体活性へのジペプチドの効果
1)NMDA型グルタミン酸受容体活性への阻害作用
アフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いて発現させたマウスのNR1/NR2A及びNR1/NR2BサブタイプNMDA受容体活性へのジペプチドの阻害効果を検討した。その際ジペプチドとして、グリシルグルタミン酸(GlyGlu)、アスパルチルグルタミン酸(AspGlu)、グリシルグリシン(GlyGly)、アスパルチルグリシン(AspGly)を用いた。
図1は、上記のジペプチドによるNMDA受容体活性への阻害効果を示したものである。具体的には、NR1/NR2A及びNR1/NR2BサブタイプNMDA受容体のリガンドの濃度を、L−グリシン100 μMとし、L−グルタミン酸を10 μMとして、300 μMのグリシルグルタミン酸、アスパルチルグルタミン酸の阻害活性を測定した結果を示している。また、L−グリシン10 μMとし、L−グルタミン酸を100 μMとして、300 μMのグリシルグリシン、アスパルチルグリシンの阻害活性を測定した結果を示している。その結果、上記の条件においてはアスパルチルグルタミン酸(AspGlu)がNR1/NR2A及び、NR1/NR2BサブタイプNMDA受容体への阻害活性を示した。NR1/NR2A受容体では50%、NR1/NR2B受容体では32%の阻害を示した。
図2は、アスパルチルグルタミン酸の阻害活性を示したものである。具体的には、アスパルチルグルタミン酸(AspGlu)の阻害活性を詳細に見るために、AspGluを10, 100, 300, 1000 μMのそれぞれの濃度にしてNMDA型グルタミン酸受容体に作用させて生じた阻害活性を示している。その結果容量依存的に阻害することが、明らかになった。またNR1/NR2A受容体の方がより阻害されやすいことも明らかになった。
2)NMDA型グルタミン酸受容体活性作動作用
アフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いて発現させたマウスのNR1/NR2A及びNR1/NR2BサブタイプNMDA受容体活性へのジペプチドの作動効果を検討した。その際ジペプチドとして、グリシルグルタミン酸(GlyGlu)、アスパルチルグルタミン酸(AspGlu)、グリシルグリシン(GlyGly)、アスパルチルグリシン(AspGly)を用いた。
図3は、上記ジペプチドによるNMDA受容体作動活性を示したものである。具体的には、NR1/NR2A及びNR1/NR2BサブタイプNMDA受容体測定の際に、リガンドであるL−グリシン100 μMと、300 μMのグリシルグルタミン酸またはアスパルチルグルタミン酸とを加えてアゴニストとしての活性を測定した結果を示している。また、L−グルタミン酸100 μMとし、300 μMグリシルグリシン、アスパルチルグリシンのアゴニストとしての活性を測定した結果を示している。その結果、グリシルグリシン、アスパルチルグリシンはかなり高いアゴニスト活性があることがわかった。また、グリシルグルタミン酸、アスパルチルグルタミン酸にも弱いながらもアゴニスト活性があることがわかった。
以上のことから、グリシルグルタミン酸、グリシルグリシン、アスパルチルグリシンはNR1/NR2A、及びNR1/NR2BサブタイプNMDA受容体に対してアゴニスト活性を持つことが判明した。
また、アスパルチルグルタミン酸はNR1/NR2A及びNR1/NR2BサブタイプNMDA受容体に対して阻害活性をもち競合的アンタゴニストとして作用しており、弱いながらもアゴニスト活性があることがわかった。
上述のことから考えられることは、NMDA型グルタミン酸受容体のリガンドとしてはグリシンとグルタミン酸の2種類があるが、グリシンを構成要素とするジペプチドおよびグルタミン酸を構成要素とするジペプチドも、これらのグリシン部分およびグルタミン酸部分が受容体の結合サイトに結合することができて、アゴニスト活性を有するという仮説である。一般的には、生体における種々の受容体に結合するリガンドは、結合サイトによってそれぞれ特有の化合物であってその構造が少しでも変わると当該結合サイトに結合できないのであるが、NMDA型グルタミン酸受容体においてはジペプチド程度の小さい分子であり一方の末端に本来のリガンドであるグリシンやグルタミン酸が存在すれば、結合サイトにある程度は結合できると考えられる。また、アゴニスト活性を有するということは、本来のリガンドと拮抗的に結合サイトに結合しようとする物質であるということであるので、アンタゴニストでもあると言える。
また、NMDA(N−メチルアスパラギン酸)がNMDA型グルタミン酸受容体のアゴニストであるので、アスパラギン酸を一方の構成要素とするジペプチドについても上記と同様の理由でアゴニスト活性を有すると考えられる。
以上の結果から、グルタミン酸、グリシン、アスパラギン酸を含むジペプチドはNMDA受容体に対してアゴニスト活性を持ち、幾つかのジペプチドはアンタゴニスト活性を持っていると考えられる。そのアンタゴニストとしての作用は弱いため、緩やかな神経保護効果を有すると考えられ、アゴニストとしての活性も、緩やかな神経活動賦活作用をもたらすことが見込まれる。メマンチンの作用から考えると、抗認知症の効果が上記ジペプチドにあると考えられる。
(実施例2)
実施例1で測定した4種のジペプチドであるグリシルグルタミン酸(GlyGlu)、アスパルチルグルタミン酸(AspGlu)、グリシルグリシン(GlyGly)、アスパルチルグリシン(AspGly)に加えて、アラニルグルタミン酸(AlaGlu)、アラニルグリシン(AlaGly)、グルタミルグルタミン酸(GluGlu)、ベータアスパルチルグリシン(β-AspGly)、ヒスチジルグリシン(HisGly)、グリシルセリン(GlySer)の6種のジペプチドについても、アフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いて発現させたマウスのNR1/NR2A及びNR1/NR2BサブタイプNMDA受容体活性への阻害作用及び作動作用を検討した。
なお、本実施例では、L−セリンを使用しているが、D−セリンを使用することもできる。
また、測定方法、cRNAの合成方法、アフリカツメガエル卵母細胞の発現、及びNMDA型グルタミン酸受容体の測定は、実施例1と同様である。
1)NMDA型グルタミン酸受容体活性への阻害作用
図5及び図6は、上記の10種のジペプチドによるNMDA受容体活性への阻害効果を示したものである。具体的には、NR1/NR2A及びNR1/NR2BサブタイプNMDA受容体のリガンドの濃度を、L−グリシン(Gly)を100 μMとし、L−グルタミン酸(Glu)を10 μMとして、300 μMのアラニルグルタミン酸(AlaGlu)、アスパルチルグルタミン酸(AspGlu)、グルタミルグルタミン酸(GluGlu)、グリシルグルタミン酸(GlyGlu)の阻害活性を測定した結果を示している。
また、当該リガンドの濃度を、L−グリシンを10 μMとし、L−グルタミン酸を100 μMとして、300 μMのアラニルグリシン(AlaGly)、アスパルチルグリシン(AspGly)、グリシルグリシン(GlyGly)、ベータアスパルチルグリシン(β-AspGly)、ヒスチジルグリシン(HisGly)、グリシルセリン(GlySer)の阻害活性を測定した結果を示している。
なお、各ジペプチドの濃度を300 μMとしているが、図2に示されるように、300 μM以外の濃度においても活性が示される。従って、ジペプチドの濃度は、任意であり、好ましくは10 μM〜1000 μM、さらに好ましくは100 μM〜300 μMである。
その結果、上記の条件においては、実施例1において活性が示されたアスパルチルグルタミン酸(AspGlu)に加えて、ベータアスパチルグリシン(β-AspGly)及びアラニルグリシン(AlaGly)がNR1/NR2AサブタイプNMDA受容体に対して阻害活性を示した。ベータアスパルチルグリシンは41%の阻害を示し、また、アラニルグリシンは23%の阻害を示した。また、アスパルチルグルタミン酸は、NR1/NR2A受容体に対して33%、NR1/NR2B受容体に対して22%の阻害を示した。
2)NMDA型グルタミン酸受容体活性作動作用
アフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いて発現させたマウスのNR1/NR2A及びNR1/NR2BサブタイプNMDA受容体活性へのジペプチドの作動効果を検討した。その際、実施例1で測定した4種のジペプチドであるグリシルグルタミン酸(GlyGlu)、アスパルチルグルタミン酸(AspGlu)、グリシルグリシン(GlyGly)、アスパルチルグリシン(AspGly)に加えて、アラニルグルタミン酸(AlaGlu)、アラニルグリシン(AlaGly)、グルタミルグルタミン酸(GluGlu)、ベータアスパルチルグリシン(β-AspGly)、ヒスチジルグリシン(HisGly)、グリシルセリン(GlySer)の6種のジペプチドについても作動作用を検討した。
図7及び図8は、上記の10種のジペプチドによるNMDA受容体作動活性を示したものである。具体的には、NR1/NR2A及びNR1/NR2BサブタイプNMDA受容体測定の際に、リガンドであるL−グリシン(Gly)を100 μMと、300 μMのアラニルグルタミン酸(AlaGlu)、アスパルチルグルタミン酸(AspGlu)、グルタミルグルタミン酸(GluGlu)、グリシルグルタミン酸(GlyGlu)とを加えてアゴニストとしての活性を測定した結果を示している。
また、リガンドであるL−グルタミン酸(Glu)を100 μMとし、300 μMのアラニルグリシン(AlaGly)、アスパルチルグリシン(AspGly)、グリシルグリシン(GlyGly)、ベータアスパルチルグリシン(β-AspGly)、ヒスチジルグリシン(HisGly)、グリシルセリン(GlySer)のアゴニストとしての活性を測定した結果を示している。
図7及び図8に示されるジペプチドのアゴニストとしての活性の割合を表3に示す。実施例1でNR1/NR2A及びNR1/NR2BサブタイプNMDA受容体に対してアゴニスト活性を持つことが判明した4種のジペプチドであるグリシルグリシン、アスパルチルグリシン、グリシルグルタミン酸、アスパルチルグルタミン酸に加えて、アラニルグルタミン酸、アラニルグリシン、グルタミルグルタミン酸、ベータアスパルチルグリシン、ヒスチジルグリシン、グリシルセリンの6種のジペプチドについてもアゴニスト活性(作動活性)があることがわかった。NMDA型グルタミン酸受容体を作動させる割合は、ジペプチドの種類によって異なるが、約3〜73%であった。
以上のことから、上記の10種のジペプチドはNR1/NR2A及びNR1/NR2BサブタイプNMDA受容体に対してアゴニスト活性を持つことが判明した。
また、ベータアスパルチルグリシン及びアラニルグリシンは、NR1/NR2AサブタイプNMDA受容体に対して阻害活性をもち、競合的アンタゴニストとして作用しており、さらに、アゴニスト活性があることがわかった。
以上の結果から、実施例1で示されたグルタミン酸、グリシン、アスパラギン酸に加えて、セリンを含む全てのジペプチドはNMDA受容体に対してアゴニスト活性またはアンタゴニスト活性を持っていると考えられる。
NMDA受容体は記憶や学習に深く関わるとともに、アンタゴニスト(活性阻害剤)が与えられると統合失調症の症状を示すことから、活性を亢進する物質には統合失調症のような精神疾患の治療薬や精神保護薬としての効果があり、活性を阻害する物質には抗認知症薬としての効果があることになる。しかし、抗認知症薬として使用されるアンタゴニストは、神経細胞死が増えることを抑制する一方で、効果が強すぎると学習に支障が生じたり、統合失調症などの精神疾患の症状を引き起こしたりするため、活性の亢進や阻害の度合いが強すぎても薬としての使用が難しくなる。本実施例の結果のように、NMDA型グルタミン酸受容体を程よく阻害または作動させるジペプチドは、神経保護、抗認知症、精神疾患等の治療や予防などに役立つ可能性が示唆された。
即ち、上記実施形態に係るジペプチドを構成成分とする医薬組成物や保健機能食品は、緩やかな神経保護効果や緩やかな神経活動賦活作用を発揮するものである。
本実施例では、神経細胞レベルにおける実験結果であり、NMDA受容体の活性を直接測定している。従って、本実験結果は、in vivoでの実験結果と同様の結果であると判断されるものである。
また、上記ジペプチドは、生体を構成する物質であるため、副作用がないと判断される。
上記実施形態に係るジペプチドを構成成分とする医薬組成物の剤形は、内服薬、注射薬、座薬、吸入薬などを挙げることができる。当該医薬組成物は、常法に従って、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤等の医薬の製剤技術分野において通常使用し得る既知の補助剤を用いて、経口投与、組織内投与(皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与など)、局所投与(経皮投与など)、経直腸的投与などに適した剤型に製剤化することができる。また、上記の補助剤のほか、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤などの補助剤、および他の医薬品を含有させることもできる。当該医薬は、これらの投与方法に適した剤型で投与されることは当然である。医薬の用量は任意であり、年齢、体重などの患者の状態、投与経路などを考慮した上で決定することができる。
また、上記実施形態に係るジペプチドを構成成分とする保健機能食品(即ちジペプチドが添加物となっている食品)は、液体、固形物、スラリー状物、粉末物などの形態が考えられ、食べやすいように種々の既知の食材と混ぜ合わせられていることが好ましい。当該食材には、必要に応じ、甘味料、旨味調味料、無機塩、酸味料、アミノ酸類、核酸、糖類、賦形剤、香辛料、旨味以外の調味料、抗酸化剤、着色料、保存料、強化剤、乳化剤、ハーブ、スパイス、エタノール等の食品に使用可能な各種添加物を使用することができる。
上記実施形態に係るジペプチドを構成成分とする医薬や保健機能食品を投与・摂取できる患者、患蓄としては、例えば、ヒト、ヒト以外の哺乳類(マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ及びサル等)を例示することができるが、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、無脊椎動物等、任意である。
上記10種のジペプチドに化学的・酵素的修飾をすることもできる。化学的・酵素的に修飾された当該ジペプチドを構成成分とする医薬や保健機能食品とすることもできる。また、ジペプチドの製法は任意である。
また、上記の複数のジペプチドを組み合わせた医薬や保健機能食品とすることもできる。組み合わせる種類や割合は任意であり、例えば、アンタゴニスト活性があるベータアスパルチルグリシンとアゴニスト活性があるヒスチジルグリシンとを1:1の割合で組み合わせたり、アラニルグリシンとヒスチジルグリシンとグリシルセリンとを1:2:3の割合で組み合わせたりすることもできる。
以上説明したように、本発明に係る医薬組成物は、NMDA型グルタミン酸受容体活性を阻害又は作動する作用を有し、神経保護効果等を発揮する医薬などとして有用である。

Claims (2)

  1. アスパラチルグルタミン酸、ベータアスパラチルグリシンおよびアラニルグリシンからなる群から選ばれたジペプチドを含有する、NMDA型グルタミン酸受容体活性阻害用医薬組成物。
  2. アラニルグルタミン酸、アスパラチルグルタミン酸、グルタミルグルタミン酸、グリシルグルタミン酸、アラニルグリシン、アスパラチルグリシン、グリシルグリシン、ベータアスパラチルグリシン、ヒスチジルグリシンおよびグリシルセリンからなる群から選ばれたジペプチドを含有する、NMDA型グルタミン酸受容体活性作動用医薬組成物。
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