JP5738027B2 - 質量分析法 - Google Patents
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Description
前記ポリペプチドをシアノ化処理剤でシアノ化する工程と、
前記シアノ化されたポリペプチドをする工程と、
前記されたポリペプチドを、荷電粒子を用いて脱離イオン化させる工程と、
前記脱離イオン化されたポリペプチドを質量分析法で分析する工程と、
を有するポリペプチドの質量分析法に関する。
(1)該ポリペプチドを、シアノ化処理剤で処理する工程と、
(2)塩基で処理する工程と、
(3)前記(1)と(2)の処理をされたポリペプチド(修飾ポリペプチド)を、荷電粒子を用いて脱離イオン化させる工程と、
(4)脱離イオン化した修飾ポリペプチドの質量を、質量分析法を用いて分析する工程とを含み、かつ
(1)〜(4)の順に処理をすることを特徴とする、ポリペプチドの質量分析方法を提供する。
を、(1)の前、(2)の前、(3)の前のいずれかに含むことができる。
本発明の質量分析方法において用いる質量分析装置は、荷電粒子を1次ビームとしてサンプルに照射し脱離イオン化し、スパッタにより生成する2次イオンの質量情報を得るものである。イオン源として用いる荷電粒子としては、単原子イオンビーム、クラスターイオンビームなどが挙げられる。さらに、1次イオンビームパルス周波数は、1kHz〜50kHzの範囲であることが望ましく、また、1次イオンビームエネルギーは、12keV〜25keVの範囲であることが好ましい。さらには、1次イオンビームパルス幅は、0.5ns〜10nsの範囲であることが望ましい。また、質量の測定は、質量分析装置の分析部において行われる。分析部はなんら限定されることはなく、飛行時間型、磁場偏向型、四重極型、イオントラップ型、タンデム型などを用いることができ、上記イオン源との相性などにより適宜選択される。
既に述べたとおり、本明細書中対象物は、システイン残基を有するポリペプチドを指す。また、処理過程中の、あるいは処理されたポリペプチドも対象物に含む場合がある。対象物に含まれるシステイン残基は1つでもあるいは複数でも良い。また、溶液中に存在する対象物の他、組織切片中、プロテインチップ上、さらにはゲル中に存在する対象物も処理が可能である。さらに、膜に転写された膜上に存在する対象物も処理が可能である。
本発明において塩基による処理は、シアノ化処理剤による処理の後に行う必要がある。また還元処理が必要な場合は、シアノ化処理剤による処理の前、あるいは、シアノ化処理剤による処理と塩基による処理の間、塩基による処理の後など、いずれでも可能である。それぞれの処理の詳細は以下に記述する。
本発明において処理剤(還元処理剤、シアノ化処理剤、塩基処理剤)を対象物に付与する方法としては、ピペット、インクジェット、エアブラシなどを利用して微小液滴又はエレクトロスプレーにより付与する方法を挙げることができる。また、蒸着法による直接付与、又は大気圧下での該処理剤の粉末の直接付与(ふりかけること)、さらには処理剤溶液に対象物を含む物質(組織切片など)を浸漬する方法などを利用できる。また、対象物を含む物質片(組織など)を処理剤溶液に浸漬することにより処理剤を付与し、その後切片化することもできる。塩基処理工程は気相-固相反応、液相反応のどちらを用いてもよいが、ペプチド断片の流出防止の点では気相-固相反応が、反応速度の点では液相反応がそれぞれ好ましい。また塩基処理工程を液相中で行う場合、処理剤溶液にペプチドに対する貧溶媒(アルコールなど)を含ませることがペプチド成分の拡散を抑制する点でさらに好ましい。
本発明のシステイン残基を還元する工程は、対象物、あるいは修飾ポリペプチドのシステイン残基で還元状態でないものの一部または全部をフリーな状態にするための工程である。対象物中のシステイン残基がフリーである場合、還元処理は必要ない。還元処理剤は前記の処理剤付与方法により付与することができる。還元処理剤付与後は処理中の対象物を20〜60℃の温度でインキュベートする必要がある。処理時間に特に制約はないが、前記処理中の対象物の安定性を考慮すると、短時間(60分未満)であることが好ましい。前記対象物が組織切片などに含まれる場合は、処理中の前記対象物の乾燥を避ける必要があるため、保湿条件下で処理することが好ましい。処理中の対象物を含む溶液のpHに特に制約はないが、前記処理中の対象物が安定に存在できるpHである必要がある。前記処理中の対象物を含む溶液のpHは4以上10以下であることが好ましい。
本発明で用いられるシアノ化処理剤は、特に限定はないが、安全性の観点で2−ニトロ−5−チオシアノ安息香酸(NTCB)、1−シアノ−4−ジメチルアミノピリジニウムテトラフルオロボレート(CDAP)、1−シアノ−4−ジメチルアミノピリジウム塩(DMAP−CN)を用いることが好ましい。シアノ化処理剤は前記の処理剤付与方法により付与する。シアノ化処理剤付与後は反応の都合上、前記処理中の対象物を20℃以上の温度でインキュベートする必要がある。処理時間に特に制約はないが、前記処理中の対象物の安定性を考慮すると、短時間(60分未満)であることが好ましい。前記対象物が組織切片などに含まれる場合は、処理中の前記対象物の乾燥を避ける必要があるため、保湿条件下で処理することが好ましい。前記処理中の対象物を含む溶液のpHは7以上8.5以下であることが好ましい。
本発明で用いられる塩基に特に制約はないが、この後の質量分析に悪影響を与えないものが好ましい。アンモニアなどの揮発性塩基は、蒸気により付与が可能でありかつ処理後乾燥により除くことが出来るので、特に好ましい。塩基は前記の処理剤付与方法により付与する。塩基を付与した後は、反応の都合上、前記処理中の対象物を30〜100℃の温度でインキュベートする必要がある。処理時間に特に制約はないが、スループットの点で短時間(2時間未満)であることが好ましい。前記対象物が組織切片などに含まれる場合は、処理中の前記対象物の乾燥を避ける必要があるため、保湿条件下で処理することが好ましい。前記処理中の対象物を含む溶液のpHは8以上10以下であることが好ましい。
SIGMA社より購入したポリペプチド(CKVASLRETYGDMAD)/炭酸水素アンモニウムバッファー(25mM、pH8.5)溶液(0.5mg/mL)を作製した。前記溶液200μLに対し、ジチオトレイトール(DTT)溶液(50mM)を20μL添加し、60℃で1時間インキュベートした(サンプル1)。
測定用1次イオン:Bi3 +、25kV 0.3pA[パルス電流値]
スキャニング:sawtoothスキャンモード、500×500μm2
測定用1次イオン及びクラスターイオンのパルス周波数:3.3kHz
測定用1次イオンのパルス幅:約0.8ns
測定用1次イオンのビーム直径:約2μm
積算時間:約500秒。
実施例1で作成したサンプル1とサンプル2を50mMのジヒドロキシベルガモッティン(DHB)/(0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)、アセトニトリル)溶液と1:1で混合し、MALDI測定用基板へ滴下し、MALDIを測定したところ、サンプル1、サンプル2からそれぞれ合成ペプチド、合成ペプチド修飾物のシグナルが検出された(図3中(a),(b))。これらのシグナル強度はいずれも同程度であり、実施例1のSIMSシグナルの増強効果は見られなかった。このことから本発明の増強効果はSIMSの特異的なものであることが分かる。
ウシ血清アルブミン/炭酸水素アンモニウムバッファー(25mM、pH8.5)溶液(0.5mg/mL)を作成した。得られた前記ウシ血清アルブミン溶液を実施例1と同様の方法で還元処理、シアノ化処理、さらには塩基処理を行い実施例1と同様の条件でSIMS測定した。その結果、質量数1600〜2800の領域において断片化ポリペプチド(処理、未処理)もしくは一部が切れ残ったペプチドのシグナルが複数検出された(図4中(a))。
ウシ血清アルブミンの0.5mg/mLを炭酸水素アンモニウムバッファー(25mM、pH8.5)に溶解した溶液を200μL作成した。得られたウシ血清アルブミン溶液に、1mg/mLのトリプシン溶液を1μL添加し、37℃で一晩インキュベートした。前記溶液を実施例2と同様の条件でSIMS測定した。その結果、質量数〜1600の領域において断片化ポリペプチドのシグナルが検出された(図4中(b))。
インスリン/炭酸水素アンモニウムバッファー(25mM、pH8.5)溶液(6.66x10−5M)を作成した。前記溶液を実施例1と同様の方法で還元処理、シアノ化処理まで行った。得られた溶液をクラスターテクノロジー社製PulseInjecterにより金蒸着シリコン基板へ印字し、乾燥させた。
印字条件は以下の通り。
吐出ノズル径 :15μm
ドットピッチ : 200μm
スポットあたりの液量
スポット径 : 約100μm
駆動電圧 : 7V
駆動サイクル : 200Hz
前記基板のSIMSデータを図5(a)に示した。また前記基板を28%アンモニア水/エタノール混合溶媒(アンモニア水1%、エタノール99%)とともに密閉し、75℃で16時間インキュベートすることで、塩基処理した。前記基板を実施例1と同様の条件でSIMS測定した。その結果を図5(b)に示した。塩基処理後にインスリンB鎖修飾物のシグナルが消失した(図5中 52)。またいくつかのペプチドで、シグナル強度の向上が見られた (例 m/z 1057.41 図5中 51)。これは塩基処理によりNTCB断片化が進行したためと思われる。
実施例3と同一の方法で、印字済み金基板を作成した。前記金基板にpH9のアンモニア水を滴下し、塩基処理を行いSIMSを測定した。その結果、理論断片に一致するシグナルがいくつか検出されたものの、成分の流出が大きく、基板上の位置情報はほとんど保持されていなかった図5(c)。アンモニア蒸気を用いて塩基処理した図5(b)と液滴を用いて塩基処理した図5(c)を比較した場合、Au3、Peptide(m/z 757)、Peptide(m/z 1057.41)のイメージから図5(b)の方が位置情報を保持していることが分かった。これはアンモニア蒸気(もしくはアンモニア蒸気と凝結により基板に付着した微量の水分)中で断片化させることにより、成分の流出を抑制できたためと思われる。
実施例3で作成したインスリン溶液印字済み金蒸着シリコン基板のSIMSイメージを図6(a)に示した。それぞれ左からm/z 545のペプチド、Au3、m/z 757のペプチド、m/z 1157のペプチド、m/z 1328のペプチド、Total ionのイメージである。前記基板に、蒸留水、エタノール、ブタノールをそれぞれ5μL滴下し、そのまま乾燥させた。乾燥後のSIMSイメージを図6(b)(c)(d)にそれぞれ示した。ブタノールを滴下した金蒸着シリコン基板上のインスリンは、インクジェット(IJ)のドット形状をかなり維持しているが(図6(b))、蒸留水を滴下した金蒸着シリコン基板上のインスリンは全くドット形状を維持していなかった(図6(d))。エタノールを滴下した金蒸着シリコン基板上のインスリンは中間の結果となった(図6(c))。蒸留水はインスリンを溶解させるのに対し、ブタノールはインスリンを極めて溶解させにくいため、インスリンの拡散が抑制され、このような結果となったと思われる。この結果を応用すれば、ペプチド成分の拡散を抑えた断片化へと応用できる可能性がある。
実施例3と同様の方法で、サンプルを印字済みの金蒸着シリコン基板を作成した。前記基板をアンモニア/エタノール溶液(28%アンモニア水1%、エタノール99%)に浸漬し、37℃で8時間インキュベートした。その後前記基板を取り出し、乾燥させ、SIMSを測定した。その結果、基板上にはある程度ペプチド成分は残っており、SIMSでインスリン断片と一致する位置(m/z 545.3、1132.5)にシグナルが認められた。
実施例3と同一の方法で、印字済み金基板を作成した。前記金基板をpH9のアンモニア水に浸漬し37℃で8時間インキュベートした。その後基板を取り出し乾燥させ、SIMSを測定した。その結果、位置情報は失われ、ペプチドのシグナルはほぼ検出できなかった。実施例7ではペプチドを溶解させにくいエタノールを大量に添加したため、基板上のペプチド成分の流れ出しが抑制され、ペプチドを検出できたと思われる。
インスリン/炭酸水素アンモニウムバッファー(25mM、pH8.5)溶液(6.66x10−5M)を作成した。前記溶液を実施例1と同様の方法で還元処理、シアノ化処理まで行った後、NaClを添加し0.1%のNaCl溶液になるように調整した。前記溶液を実施例3と同様の条件で、金蒸着シリコン基板へと印字し、乾燥させた。前記金蒸着シリコン基板を1%アンモニア水と共に密閉し、37℃で8時間インキュベートした。前記基板のSIMSデータを図7(a)に示した。また得られたインスリン断片のイメージは、IJのドット形状を維持していた。
実施例3で作成したのと同様の印字済み金蒸着シリコン基板を実施例9と同様の方法でインキュベートした。その結果、IJのドット形状は維持されていたものの、インスリン断片は検出できなかった(図7(b))。本実施例では、インスリン修飾物が、固相中に存在するのに対し、実施例9ではNaClを添加することで、微量の水分を基板上に維持できるため、溶液中にインスリン修飾物が存在する。よって本比較例では気相-固相反応であるのに対し、実施例9では液相反応となる。そのため実施例9では断片化が進行したと思われる。
12 対象物のシアノ化処理剤による処理後の化学構造
13 対象物の修飾ポリペプチドの化学構造
21 ポリペプチド(CKVASLRETYGDMAD)のSIMSシグナル(m/z1658.8)
22 ポリペプチド(CKVASLRETYGDMAD)の修飾ポリペプチドのSIMSシグナル(m/z1683.8)
31 ポリペプチド(CKVASLRETYGDMAD)のMALDIシグナル(m/z1658.8)
32 ポリペプチド(CKVASLRETYGDMAD)ナトリウム付加物のMALDIシグナル(m/z1681.9)
33 ポリペプチド(CKVASLRETYGDMAD)修飾ポリペプチドのMALDIシグナル(m/z1683.8)
34 ポリペプチド(CKVASLRETYGDMAD)修飾ポリペプチドナトリウム付加物のMALDIシグナル(m/z1706.8)
41 ウシ血清アルブミン断片化物のSIMSシグナル(m/z1881.0)
42 ウシ血清アルブミン断片化物のSIMSシグナル(m/z2266.0)
43 ウシ血清アルブミン断片化物のSIMSシグナル(m/z2778.3)
44 ウシ血清アルブミン断片化物のSIMSシグナル(m/z1305.7)
45 ウシ血清アルブミン断片化物のSIMSシグナル(m/z1479.8)
46 ウシ血清アルブミン断片化物のSIMSシグナル(m/z1567.8)
47 夾雑物(脂質、ポリペプチドのフラグメンテーション物)のシグナルと思われる
51 インスリン断片と思われるペプチドのSIMSシグナル
(m/z 1057.41)
52 インスリンB鎖修飾物のSIMSシグナル(m/z 3450.68)
71 インスリン断片化物のSIMSシグナル(m/z 567.3)
72 インスリン断片化物のSIMSシグナル(m/z 636.3)
73 インスリン断片化物のSIMSシグナル(m/z 779.4)
Claims (9)
- システイン残基を含むポリペプチドの質量分析方法であって、
前記ポリペプチドをシアノ化処理剤でシアノ化する工程と、
前記シアノ化されたポリペプチドを塩基で処理する工程と、
前記塩基で処理されたポリペプチドを、荷電粒子を用いて脱離イオン化させる工程と、
前記脱離イオン化されたポリペプチドを質量分析法で分析する工程と、
を有するポリペプチドの質量分析方法。 - 前記塩基で処理されたポリペプチドを、荷電粒子を用いて脱離イオン化させる工程の前に、前記ポリペプチドのシステイン残基を還元することを特徴とする、請求項1に記載の質量分析方法。
- 前記シアノ化されたポリペプチドを塩基で処理する工程は、前記シアノ化されたポリペプチドを塩基蒸気に暴露することにより、塩基を付与することを特徴とする、請求項1又は2に記載の質量分析方法。
- 前記シアノ化されたポリペプチドを塩基で処理する工程は、前記シアノ化されたポリペプチドを塩基溶液に浸漬することにより、塩基を付与することを特徴とする、請求項1又は2に記載の質量分析方法。
- 前記シアノ化されたポリペプチドを塩基で処理する工程は、前記シアノ化されたポリペプチドに塩基をエレクトロスプレー又は微小液滴により、付与することを特徴とする、請求項1又は2に記載の質量分析方法。
- 前記シアノ化されたポリペプチドを塩基で処理する工程は、前記シアノ化されたポリペプチドに潮解性塩を付与しておき、さらに塩基蒸気、水蒸気により水分と塩基を供給することを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリペプチドの質量分析方法。
- 前記荷電粒子は、単原子イオンまたはクラスターイオンのいずれかであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチドの質量分析方法。
- システイン残基を含むポリペプチドは、溶液中、組織切片中、プロテインチップ上、ゲル中、膜上のいずれかに存在することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリペプチドの質量分析方法。
- 前記シアノ化処理剤は、2−ニトロ−5−チオシアノ安息香酸(NTCB)、1−シアノ−4−ジメチルアミノピリジニウムテトラフルオロボレート(CDAP)、1−シアノ−4−ジメチルアミノピリジウム塩(DMAP−CN)、CN−イオンのいずれかの物質を含む溶液であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチドの質量分析方法。
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