JP5727932B2 - 低分子ゲル化剤により化合物が内包されたゲル - Google Patents

低分子ゲル化剤により化合物が内包されたゲル Download PDF

Info

Publication number
JP5727932B2
JP5727932B2 JP2011519820A JP2011519820A JP5727932B2 JP 5727932 B2 JP5727932 B2 JP 5727932B2 JP 2011519820 A JP2011519820 A JP 2011519820A JP 2011519820 A JP2011519820 A JP 2011519820A JP 5727932 B2 JP5727932 B2 JP 5727932B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
gly
group
gel
encapsulated
cytochrome
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2011519820A
Other languages
English (en)
Other versions
JPWO2010147158A1 (ja
Inventor
宮本 操
操 宮本
武久 岩間
武久 岩間
伸英 宮地
伸英 宮地
後藤 雅宏
雅宏 後藤
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kyushu University NUC
Nissan Chemical Corp
Original Assignee
Kyushu University NUC
Nissan Chemical Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Kyushu University NUC, Nissan Chemical Corp filed Critical Kyushu University NUC
Priority to JP2011519820A priority Critical patent/JP5727932B2/ja
Publication of JPWO2010147158A1 publication Critical patent/JPWO2010147158A1/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP5727932B2 publication Critical patent/JP5727932B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Classifications

    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C07ORGANIC CHEMISTRY
    • C07KPEPTIDES
    • C07K5/00Peptides containing up to four amino acids in a fully defined sequence; Derivatives thereof
    • C07K5/04Peptides containing up to four amino acids in a fully defined sequence; Derivatives thereof containing only normal peptide links
    • C07K5/10Tetrapeptides
    • C07K5/1002Tetrapeptides with the first amino acid being neutral
    • C07K5/1005Tetrapeptides with the first amino acid being neutral and aliphatic
    • C07K5/1008Tetrapeptides with the first amino acid being neutral and aliphatic the side chain containing 0 or 1 carbon atoms, i.e. Gly, Ala
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C07ORGANIC CHEMISTRY
    • C07KPEPTIDES
    • C07K7/00Peptides having 5 to 20 amino acids in a fully defined sequence; Derivatives thereof
    • C07K7/04Linear peptides containing only normal peptide links
    • C07K7/06Linear peptides containing only normal peptide links having 5 to 11 amino acids

Landscapes

  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Organic Chemistry (AREA)
  • Genetics & Genomics (AREA)
  • Biochemistry (AREA)
  • Biophysics (AREA)
  • General Health & Medical Sciences (AREA)
  • Health & Medical Sciences (AREA)
  • Medicinal Chemistry (AREA)
  • Molecular Biology (AREA)
  • Proteomics, Peptides & Aminoacids (AREA)
  • Life Sciences & Earth Sciences (AREA)
  • Medicinal Preparation (AREA)
  • Peptides Or Proteins (AREA)

Description

本発明は、低分子ゲル化剤により化合物が内包されたゲルに関する。より詳細には、該化合物として疎水性化合物又は親水性化合物、若しくはその両方の化合物並びに酵素などの蛋白質を内包させたゲルに関する。
本発明の内包ゲルは、スキンケア製品、外用医薬品、創傷被服剤、癒着防止膜、薬物速達システム、芳香剤、消臭剤、防虫剤、殺虫剤、農薬用基材、診断薬用基材、化学反応や酵素反応の溶材、化学センサ用基材、バイオセンサー用基材などに好適に利用可能である。
従来より、各種溶媒をゲル化させるゲル化剤が研究されている。水溶液や有機溶剤と水溶液の混液をゲル化するゲル剤としては、重合架橋反応により得られる高分子、多糖などのような天然高分子、低分子化合物が自己組織化して形成するゲルを形成する低分子ゲル化剤が知られている。
ところで、これらゲル剤にて重合反応を用いずに安全で安定なシート状のものを作成しようとした際には、天然高分子を溶解させた溶液をシート形状の型に入れゲル化させることになるが、このように作成したゲルシートは水に浸漬しておくと次第に天然高分子がゲルシートから水へと抜け落ち、崩壊してしまう。このように、物理ゲルのみでゲルシート作成は極めて困難であった(非特許文献1)。また、低分子ゲルによるゲルシートの作成は知られていなかった。
一方、低分子ゲル化剤によるゲルに新たな機能を付与し、該ゲルを機能性材料として活用しようとした場合、例えば、低分子ゲル化剤によりビタミンCとビタミンEを同時に内包させたゲルは美白用化粧材として有用であることは予想されるが(特許文献1、2)、親水性低分子化合物と疎水性低分子化合物の両化合物を同時に内包させるゲルを形成することは極めて困難である。
また、低分子ゲル化剤によりチトクロームcのような酵素を内包した場合、ゲル内に取り込まれた酵素がその活性を損なうことなく維持することができれば、そのゲル内で酵素反応を進行させることが可能になると考えられ、さらにゲル内で反応を見ることができ、酵素を内包したゲルをバイオセンサーや検査・診断薬等として使用することができると考えられる(特許文献3〜6)。
特開2005−289880 特開2008−222689 特表2008−530534 特表2007−510155 特表2006−516383 特開2007−139730
西成勝好、K.S.Hossain,田中斎文,新田陽子,武政誠,Fang Yapeng 田中豊一記念シンポジウム ゲルの体積総転移の発見−それからの30年−要旨集、2008年9月10日―12日、SS−1、p39.
上述より、今まで、疎水性低分子化合物、又は親水性低分子化合物と疎水性低分子化合物の両化合物を同時に内包させること並びに酵素のような蛋白質等を内包させることが可能なゲルシートを含め、そのような化合物を内包させるゲルは提案されていない。
そこで、本発明は、上記の事情に基づきなされたものであり、その解決しようとする課題は、ビタミンCのような親水性の生理活性物質又はビタミンEのような疎水性の生理活性物質、若しくはそれら化合物を同時に内包させたゲル、並びにチトクロームcのような酵素を内包させたゲルを提供することを目的とする。また、本発明の化合物を内包したゲルを化学反応や酵素反応に用いる方法を提供することを目的とする。また、本発明の目的は、本発明の化合物を内包したゲルを化学反応や酵素反応に用いることにより、該内包ゲルをバイオセンサーとして使用する方法を提供することにある。
なお、重合架橋反応にて作成したゲルシートは、ゲル内に未反応の架橋剤などが残存するとゲル内で行う化学反応や酵素反応の妨げになる。一方、天然高分子によるゲルシートは不安定で水に浸漬すると溶解して崩壊する。ゲル内での化学反応や酵素反応を妨げず、かつ酵素や基質、さらには検査対象検体をゲル内に取込ませるために各種水溶に浸漬しても崩壊せず安定で安全なゲルシートを提供することでもある。
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意研究を行なった結果、本発明を見出すに至った。
すなわち、第1観点として、式(1):
(式中、Rは炭素原子数9乃至23の脂肪族基を表し、R乃至Rはそれぞれ互いに独立して、水素原子、炭素原子1乃至3の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至7のアルキル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基、又は−(CH)n−X基を表し、かつR乃至Rのうち少なくとも1つが−(CH)n−X基を表し、nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH基、又は窒素原子を1乃至3個有し得る5員環若しくは5員環と6員環から構成される縮合複素環を表し、mは1又は2を表す。)で表される脂質ペプチド又はその薬学的に使用可能な塩からなる低分子ゲル化剤と、該低分子ゲル化剤によりゲル化された水性媒体と、これに内包された少なくとも1種以上の化合物とを含むことを特徴とする内包ゲル。
第2観点として、前記式(1)中、Rが不飽和結合を0乃至2個有し得る炭素原子数11乃至23の直鎖状脂肪族基であることを特徴とする、第1観点に記載の内包ゲル。
第3観点として、前記式(1)中、R乃至Rはそれぞれ互いに独立して、水素原子、炭素原子1又は2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基、フェニルメチル基、又は−(CH)n−X基を表し、かつR乃至Rのうち一つ又は二つが−(CH)n−X基を表し、nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH基、又は窒素原子を1乃至2個有し得る5員環又は5員環と6員環から構成される縮合複素環を表すことを特徴とする、第1観点又は第2観点に記載の内包ゲル。
第4観点として、前記式(1)中、R乃至Rはそれぞれ互いに独立して、水素原子、炭素原子1又は2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基、フェニルメチル基、又は−(CH)n−X基を表し、かつR乃至Rのうち一つ又は二つが−(CH)n−X基を表し、nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH基、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾール基又はインドール基を表すことを特徴とする、第3観点に記載の内包ゲル。
第5観点として、前記式(1)中、R乃至Rはそれぞれ互いに独立して、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、第二ブチル基、第三ブチル基、フェニルメチル基、アミノメチル基、2−アミノエチル基、3−アミノプロピル基、4−アミノブチル基、カルバモイルメチル基、2−カルバモイルエチル基、3−カルバモイルプロピル基、2−グアニジノエチル基、3−グアニジノプロピル基、ピロールメチル基、イミダゾールメチル基、ピラゾールメチル基又は3−インドールメチル基を表し、かつR乃至Rのうち一つ又は二つがアミノメチル基、2−アミノエチル基、3−アミノプロピル基、4−アミノブチル基、カルバモイルメチル基、2−カルバモイルエチル基、3−カルバモイルプロピル基、2−グアニジノエチル基、3−グアニジノプロピル基、ピロールメチル基、イミダゾールメチル基、ピラゾールメチル基又は3−インドールメチル基を表すことを特徴とする、第4観点に記載の内包ゲル。
第6観点として、前記式(1)中、R乃至Rは、それぞれ独立して水素原子、メチル基、i−プロピル基、i−ブチル基、第二ブチル基、フェニルメチル基、4−アミノブチル基、カルバモイルメチル基、2−カルバモイルエチル基、3−グアニジノプロピル基、イミダゾールメチル基又は3−インドールメチル基を表し、かつR乃至Rのうち一つ又は二つが4−アミノブチル基、カルバモイルメチル基、2−カルバモイルエチル基、3−グアニジノプロピル基、イミダゾールメチル基、又は3−インドールメチル基を表すことを特徴とする、第5観点に記載の内包ゲル。
第7観点として前記式(1)中、mは1を表すことを特徴とする、第1観点乃至第6観点に記載の内包ゲル。
第8観点として、前記化合物が疎水性化合物又は親水性化合物、若しくはその両方の化合物であることを特徴とする、第1観点乃至第7観点に記載の内包ゲル。
第9観点として、前記化合物が酵素であることを特徴とする、第1観点乃至第7観点の内包ゲル。
第10観点として、前記化合物がチトクロームcであることを特徴とする、第9観点に記載の内包ゲル。
第11観点として、第9観点に記載の内包ゲルを酵素反応に用いる方法。
第12観点として、第10観点に記載の内包ゲルをHによる目的物の酸化反応に用いる方法。
第13観点として、第9観点に記載の内包ゲルを酵素反応に用いることにより、該内包ゲルをバイオセンサーとして使用する方法。
第14観点として、第10観点に記載の内包ゲルをHによる酸化反応に用いることにより、該内包ゲルをバイオセンサーとして使用する方法。
第15観点として、第11観点又は第12観点に記載の内包ゲルを備えたバイオセンサー。
本発明の内包ゲルは、ゲル内に疎水性化合物又は親水性化合物、若しくはその両方の化合物を内包することが可能である。また、内包した化合物を徐放することも可能である。そのため、皮膚などの損傷部位にあてるとゲルとしての保湿効果と薬物の徐放といった治療効果や、損傷となる化合物や病原となる蛋白質を捕捉することによる治療効果が期待できる。
また、本発明の内包ゲルは、化合物としてチトクロームc等の酵素を内包することも可能であり、かつ内包したものが酵素のような活性を有する蛋白質の場合には、ゲル内に取り込んでも酵素はその活性は損なうことなく維持され、むしろ、そのゲル内で酵素反応を進行させることが可能である。したがって、このような酵素などを取り込んだゲルは、ゲル内で反応を見ることができ、バイオセンサーや検査・診断薬として使用することが可能である。また、本発明の化合物が内包されたゲルは、上述の酵素反応だけでなく、ゲル内に内包させた化合物によっては化学反応をさせることも可能である。
以上より、本発明の内包ゲルは、生体や環境に安全であり、患部や損傷部位認識能を有する創傷被覆剤、癒着防止膜、薬物速達システム、外用医薬品用基材、芳香剤・消臭剤・防虫剤・殺虫剤・農薬などの基材、バイオセンサー用基材、環境分析用の基材、土中や水中の汚染物質の捕捉といった基材などに広く利用することができる。
図1は脂質ペプチドの自己集合化及びそれに続くゲル化の概念図を示す図である。 図2はPal−GGGHゲルと高分子ゲルにおけるANSの蛍光強度の比較を示す図である。 図3はPal−GGGHゲルと有機溶媒におけるANSの蛍光強度の比較を示す図である。 図4はゲル化剤及びANS濃度によるANS放出率を示す図である。 図5はpHの異なる放出液におけるANS放出率(左:pH7.4で調製したゲル、右:pH9.0で調整したゲル)を示す図である。 図6はゲルpH7.4における異なったpHの放出液によるリボフラビン放出率を示す図である。 図7はpHによるPal−GGGHのイオン化状態の変化を示す図である。 図8は疎水性物質可溶化の程度の評価基準((I)は、溶解した状態、(II)は、若干白濁した状態、(III)は、溶解せずに白濁した状態)を示す図である。 図9は濁度によるビタミンE可溶化濃度の評価を示す図である。 図10は高分子ゲルとPal−GGGHとのビタミンE内包ゲルの比較を示す図である。 図11はビタミンE及びビタミンCの同時内包ゲル(左:ゲル形成前、右:ゲル形成後)を示す図である。 図12は濃度の異なるエタノールに対するビタミンEの放出挙動を示す図である。 図13はゲルシートへのチトクロームcの吸着を示す図である。 図14は異なるpH条件下でのゲルシートへのチトクロームc吸着量を示す図である。 図15はチトクロームc浸漬ゲルシートの還元を示す図である。 図16はpHの異なる緩衝液に対するチトクロームcの放出挙動を示す図である。 図17はPal−GGGHの構造を示す図である。 図18はチトクロームcのペルオキシターゼ活性測定結果を示す図である。 図19はCDスペクトル測定結果を示す図である。 図20はUVスペクトル測定結果を示す図である。 図21はペルオキシターゼ活性のゲル化剤濃度依存性測定結果を示す図である。
本発明の内包ゲルは、低分子ゲル化剤によりゲル化された水性媒体に少なくとも1種以上の化合物を内包させたことを特徴とする内包ゲルである。
本発明の化合物が内包されたゲルに用いる低分子ゲル化剤のゲル形成メカニズムは、該低分子ゲル化剤を構成する低分子化合物が自己集合化してファイバー状の形態を形成し、さらに該ファイバーが網目構造を形成し、この網目構造に水や各種水溶液、アルコール水、有機溶媒水等を囲い込み、ゲルを形成する。ここで、「自己集合化」とは、当初ランダムな状態にある物質(分子)群において、分子が適切な外部条件下で分子間の非共有結合性相互作用等により自発的に会合することにより、マクロな機能性集合体に成長することを指す。そのため、本発明の内包ゲルは、自己集合化したファイバーとそれにより構築された網目構造により形成されるゲルを含有し、疎水性化合物であれば疎水環境下のファイバー内に、親水性化合物であればファイバーが構成する網目構造内に内包されることが可能となる。
本発明の内包ゲルは、上記低分子が自己集合して形成されたファイバーにより構成されたゲルシートなため、重合架橋反応により得たゲルシートと異なり、ゲル内で行う反応を妨げになったり、内包する化合物を分解するような試薬を取り除く作業も必要なく、また天然高分子から得たゲルシートのようにゲルシートから一本ずつ天然高分子が抜け落ちて崩壊する心配の無い、安全で安定なゲルシートを提供することが可能である。
また、このゲルシートの溶剤を凍結乾燥させずに蒸発させることで、フィルムを提供することも可能である。
上記低分子ゲル化剤としては、脂質ペプチド又はその薬学的に使用可能な塩(疎水性部位である脂質部と親水性部位であるペプチド部とを有する低分子化合物)を用いることができる。
上記脂質ペプチド又はその薬学的に使用可能な塩としては、下記式(1)で表される構造を有し、脂溶性の高い長鎖を有する脂質部(アルキルカルボニル基)とペプチド部(テトラペプチド)より構成される。
上記式(1)において、Rは炭素原子数9乃至23の脂肪族基を表し、好ましくは、Rが不飽和結合を0乃至2個有し得る炭素原子数11乃至23の直鎖状脂肪族基である。
及び隣接するカルボニル基で構成される脂質部(アシル基)の具体例としては、
ミリストイル基、ペンタデカノイル基、パルミトイル基、マルガロイル基、オレオイル基、エライドイル基、リノレオイル基、ステアロイル基、バクセノイル基、オクタデシルカルボニル基、アラキドイル基、イコサノイル基等を挙げることができ、好ましくは、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、マルガロイル基、マルガリル基、ステアロイル基、エライドイル基、ベヘノイル基、オレオイル基、及びカルダノイル基である。
上記式(1)において、ペプチド部に含まれるR乃至Rは、それぞれ互いに独立して、水素原子、炭素原子1乃至3の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至7のアルキル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基、又は−(CH)n−X基を表し、かつR乃至Rのうち少なくとも1つ、より好ましくは1つ又は2つが−(CH)n−X基を表し、mは1又は2を表す。
上記炭素原子1乃至3の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至7のアルキル基とは、好ましくは水素原子、炭素原子1又は2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基である。
該炭素原子1又は2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、第二ブチル基又は第三ブチル基等を挙げることができ、好ましくは、メチル基、i−プロピル基、i−ブチル基、又は第二ブチル基等である。
上記−(CH)n−X基において、nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH基、又は窒素原子を1乃至3個有し得る5員環若しくは5員環と6員環から構成される縮合複素環を表す。
上記−(CH)n−X基において、Xは好ましくはアミノ基、グアニジノ基、−CONH基、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾール基又はインドール基を表す。
したがって、上記−(CH)n−X基は、好ましくはアミノメチル基、2−アミノエチル基、3−アミノプロピル基、4−アミノブチル基、カルバモイルメチル基、2−カルバモイルエチル基、3−カルバモイルプロピル基、2−グアニジノエチル基、3−グアニジノプロピル基、ピロールメチル基、イミダゾールメチル基、ピラゾールメチル基又は3−インドールメチル基等であり、より好ましくは4−アミノブチル基、カルバモイルメチル基、3−カルバモイルプロピル基、イミダゾールメチル基又は3−インドールメチル基である。
上記式(1)で表される化合物において、低分子ゲル化剤として特に好適な脂質ペプチドとしては、以下の脂質部とペプチド部(アミノ酸集合部)から形成される化合物である。
なおアミノ酸の略称としては、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、トリプトファン(Trp)、バリン(Val)を表す。:ラウロイル−Gly−Gly−Gly−His、ラウロイル―Gly−Gly−Gly−Gln、ラウロイル−Gly−Gly−Gly−Asn、ラウロイル−Gly−Gly−Gly−Trp、ラウロイル−Gly−Gly−Gly−Lys、ラウロイル−Gly−Gly−Ala−His、ラウロイル−Gly−Gly−Ala−Gln、ラウロイル−Gly−Gly−Ala−Asn、ラウロイル−Gly−Gly−Ala−Trp、ラウロイル−Gly−Gly−Ala−Lys、ラウロイル−Gly−Ala−Gly−His、ラウロイル−Gly−Ala−Gly−Gln、ラウロイル−Gly−Ala−Gly−Asn、ラウロイル−Gly−Ala−Gly−Trp、ラウロイル−Gly−Ala−Gly−Lys、ラウロイル−Ala−Gly―Gly−His、ラウロイル−Ala−Gly−Gly−Gln、ラウロイル−Ala−Gly−Gly−Asn、ラウロイル−Ala−Gly−Gly−Trp、ラウロイル−Ala−Gly−Gly−Lys、ラウロイル−Gly−Gly−His−Gly、ラウロイル−Gly−His−Gly−Gly、ラウロイル−His−Gly−Gly−Gly;ミリストイル−Gly−Gly−Gly−His、ミリストイル−Gly−Gly−Gly−Gln、ミリストイル−Gly−Gly−Gly−Asn、ミリストイル−Gly−Gly−Gly−Trp,ミリストイル−Gly−Gly−Gly−Lys、ミリストイル−Gly−Gly−Ala−His、ミリストイル−Gly−Gly−Ala−Gln、ミリストイル−Gly−Gly−Ala−Asn、ミリストイル−Gly−Gly−Ala−Trp、ミリストイル−Gly−Gly−Ala−Lys、ミリストイル−Gly−Ala−Gly−His、ミリストイル−Gly−Ala−Gly−Gln、ミリストイル−Gly−Ala−Gly−Asn、ミリストイル−Gly−Ala−Gly−Trp、ミリストイル−Gly−Ala−Gly−Lys、ミリストイル−Ala−Gly―Gly−His、ミリストイル−Ala−Gly−Gly−Gln、ミリストイル−Ala−Gly−Gly−Asn、ミリストイル−Ala−Gly−Gly−Trp、ミリストイル−Ala−Gly−Gly−Lys、ミリストイル−Gly−Gly−His−Gly、ミリストイル−Gly−His−Gly−Gly、ミリストイル−His−Gly−Gly−Gly;パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His、パルミトイル―Gly−Gly−Gly−Gln、パルミトイル−Gly−Gly−Gly−Asn、パルミトイル−Gly−Gly−Gly−Trp、パルミトイル−Gly−Gly−Gly−Lys、パルミトイル−Gly−Gly−Ala−His、パルミトイル−Gly−Gly−Ala−Gln、パルミトイル−Gly−Gly−Ala−Asn、パルミトイル−Gly−Gly−Ala−Trp、パルミトイル−Gly−Gly−Ala−Lys、パルミトイル−Gly−Ala−Gly−His、パルミトイル−Gly−Ala−Gly−Gln、パルミトイル−Gly−Ala−Gly−Asn、パルミトイル−Gly−Ala−Gly−Trp、パルミトイル−Gly−Ala−Gly−Lys、パルミトイル−Ala−Gly―Gly−His、パルミトイル−Ala−Gly−Gly−Gln、パルミトイル−Ala−Gly−Gly−Asn、パルミトイル−Ala−Gly−Gly−Trp、パルミトイル−Ala−Gly−Gly−Lys、パルミトイル−Gly−Gly−His−Gly、パルミトイル−Gly−His−Gly−Gly、パルミトイル−His−Gly−Gly−Gly;ステアロイル−Gly−Gly−Gly−His、ステアロイル―Gly−Gly−Gly−Gln、ステアロイル−Gly−Gly−Gly−Asn、ステアロイル−Gly−Gly−Gly−Trp、ステアロイル−Gly−Gly−Gly−Lys、ステアロイル−Gly−Gly−Ala−His、ステアロイル−Gly−Gly−Ala−Gln、ステアロイル−Gly−Gly−Ala−Asn、ステアロイル−Gly−Gly−Ala−Trp、ステアロイル−Gly−Gly−Ala−Lys、ステアロイル−Gly−Ala−Gly−His、ステアロイル−Gly−Ala−Gly−Gln、ステアロイル−Gly−Ala−Gly−Asn、ステアロイル−Gly−Ala−Gly−Trp、ステアロイル−Gly−Ala−Gly−Lys、ステアロイル−Ala−Gly―Gly−His、ステアロイル−Ala−Gly−Gly−Gln、ステアロイル−Ala−Gly−Gly−Asn、ステアロイル−Ala−Gly−Gly−Trp、ステアロイル−Ala−Gly−Gly−Lys、ステアロイル−Gly−Gly−His−Gly、ステアロイル−Gly−His−Gly−Gly、ステアロイル−His−Gly−Gly−Gly。
最も好ましいものとして、ラウロイル−Gly−Gly−Gly−His、ミリストイル−Gly−Gly−Gly−His、パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His、パルミトイル−Gly−Gly−His−Gly、パルミトイル−Gly−His−Gly−Gly、パルミトイル−His−Gly−Gly−Gly、ステアロイル−Gly−Gly−Gly−His等が挙げられる。
本発明の内包ゲルに用いるゲル化された水性媒体は、前記低分子ゲル化剤及び水性媒体(溶媒)を含有して形成される。
前記溶媒としては、低分子ゲル化剤のファイバー化やヒドロゲル化を防げるものでなければ特に限定されないが、好ましくは、水、アルコール、水とアルコールの混合溶媒、水と水溶性溶媒の混合溶液を用いることができる。より好ましくは、水又は水とアルコールの混合溶媒であり、さらに好ましくは、水である。
前記アルコールは、好ましくは水に自由に溶解する水溶性アルコールであり、より好ましくは炭素原子数1乃至6のアルコールであり、さらに好ましくは、メタノール、エタノール、2−プロパノール又はi−ブタノールであり、さらに特に好ましくはエタノール又は2−プロパノールである。
前記水溶性有機溶媒とは、アルコール以外の有機溶媒であって、かつ水に任意の割合で溶解する有機溶媒を意味する。用いる水溶性有機溶媒の例としては、アセトン又はジオキサン等が挙げられる。
上記ゲル化された水性媒体は塩を含有しても良い。かかる塩はヒドロゲル形成に至る段階のどの段階で加えても良いが、ヒドロゲル化剤を加える前に溶媒を加えて溶液にしておくことが好ましい。
塩は、複数種を加えても良いが、好ましくは1又は2種である。塩を2種類加えることで、溶液が緩衝能をもつことも望ましい。
前記の塩は、無機塩若しくは有機塩である。好ましい無機塩の例としては、炭酸塩、無機硫酸塩若しくは無機リン酸塩が挙げられる。より好ましくは、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム又はリン酸二水素ナトリウムである。また、好ましい有機塩の例としては、有機アミンの塩酸塩若しくは有機アミン酢酸塩が挙げられる。より好ましくは、エチレンジアミン塩酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、トリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩である。
また、本発明のゲルに内包された化合物としては、疎水性化合物、親水性化合物、酵素、及びピレン等が挙げられる。
上記疎水性化合物としては、例えば、ビタミンE(トコフェロール)、ピレン、アゼライン酸誘導体、レチノール(ビタミンAアルコール)、レチノイン酸、ヒドロキシケイ皮酸、カフェイン、ヒノキチオール、カロテノイド、アスタキサンチン、ステロイド、インドメタシン、及びケトプロフェン等が挙げられる。
上記親水性化合物としては、例えば、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンB2(リボフラビン)、コウジ酸、グルコサミン、アゼライン酸、ピリドキシン(ビタミンB6)、パントテン酸(ビタミンB5)、アルブチン、及びキトサン等が挙げられる。
上記酵素としては、チトクロームc等が挙げられる。
さらに、本発明の内包ゲルは、化合物として、例えば、アスコルビン酸及びその誘導体、コウジ酸及びその誘導体、グルコサミン及びその誘導体、アゼライン及びその誘導体、レチノール酸及びその誘導体、ピリドキシン及びその誘導体、パントテン酸及びその誘導体、アルブチン及びその誘導体、トコフェロール及びその誘導体、ヒドロキシケイ皮酸及びその誘導体、キトサン、キトサン分解物、カフェイン誘導体、ヒノキチオール、カロテノイド、及びアスタキサンチン等を内包することにより、美白効果を発揮し得る。
[ゲル形成メカニズム]
本発明に用いる低分子ゲル化剤である、上記式(1)で表される低分子化合物(脂質ペプチド)は、水溶液又はアルコール溶液系に投入されると、式(1)におけるペプチド部が水素結合により分子間非共有結合を形成し、一方、式(1)における脂質部が疎水的にパッキングするように自己集合化(或いは自己組織化ともいう)し、ファイバーが形成される。ファイバーの形状は限定されないが、筒状又は板状の形状が挙げられる。
参考として図1に脂質ペプチドの自己集合化及びゲル化の概念図の一例を示す(但し、本発明の内包ゲルにおいて、全ての脂質ペプチドが図1に示す自己集合化及びゲル化の形態をとっているとは限らない)。該脂質ペプチド分子(a)は疎水性部位である脂質部を中心として集合し(b)、自己集合化によりファイバー(c)を形成する。
ファイバ−形成には、前記低分子ゲル化剤を1種類用いても良いし2種類以上を組み合わせて用いても良い。好ましくは、1種類又は2種類を用い、さらに好ましくは、1種類を用いる。ただし、2種類用いる場合は、1種類の場合と異なる性質を得ることが期待できる。
本発明に用いる低分子ゲル化剤は、界面活性剤を混合させて自己集合化することによりファイバーを形成することもできる。かかる界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤又はカチオン界面活性剤が挙げられる。
上記ファイバーが水溶液又はアルコール水溶液等の中で形成されると、このファイバーが三次元網目構造を形成し(例えば、図1における(d)参照)、さらに、ファイバー表面の親水性部分(ペプチド部)と水性溶媒間で非共有結合を形成して膨潤することにより、水溶系又はアルコール水溶液全体がゲル化し、水性媒体がゲル化される。
そして、本発明の内包ゲルでは、疎水性化合物は自己集合体のファイバー内に取り込まれ、一方、親水性化合物や蛋白質はファイバーが構成する網目構造内に取り込まれ、ゲル内に化合物が内包されることとなる。
また、本発明の内包ゲルは、内包したものが酵素のような活性を有する蛋白質の場合には、ゲル内に取り込んでも酵素はその活性は損なうことなく維持されるため、そのゲル内で酵素反応や酸化還元反応を進行させることが可能である。したがって、このような酵素などを内包したゲルは、バイオセンサーや検査・診断薬として使用することが可能である。
また、チトクロームcはヘムを有し、軸配位子としてヒスチジンを有するにも関わらず、通常は軸配位子としてメチオニンが配位しており過酸化水素がヘムと接触しにくくなっていることや西洋わさび由来ペルオキシダーゼのようなPush−Pull機構を担うようなアミノ酸が存在しないことから、チトクロームc単独でのペルオキシダーゼ活性は極めて低いが、生体膜との相互作用、主にチトクロームcとの相互作用、主にチトクロームcの表面の正に帯電したリジン残基と生体膜の負電荷との静電相互作用などにより、チトクロームcのヘム近傍の構造が変化しペルオキシダーゼ活性が強化されると考えられている。
そこで、Pal−GGGHゲル中に内包されたチトクロームcは、Pal−GGGHゲルが生体膜と同様のチトクロームcとの相互作用を有することが予測され、Pal−GGGHゲル中に内包されたチトクロームcのペルオキシダーゼ活性の強化及びチトクロームcの安定性強化が期待される。
さらに、本発明では、脂肪酸やアミノ酸といった天然由来原料により構成された低分子ゲル化剤を用いることで、皮膚面などを被覆しても安心安全に使用できる。
このため、本発明の内包ゲルは、患部や損傷部位認識能を有する創傷被覆剤、癒着防止膜、薬物速達システム、スキンケア製品、ヘアケア製品、外用医薬品、芳香剤、消臭剤、防虫剤、殺虫剤、農薬用基材、洗浄剤、塗料、防腐剤、環境汚染物質の捕捉用基材などに広く利用することができる。
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
[実施例で用いる略記号]
以下の実施例で用いる略記号の意味は、次のとおりである。
Gly:グリシン
His:ヒスチジン
HBTU:2−(1−H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム−ヘキサフルオロホスフェート(渡辺化学工業(株))
HOBt:1−ヒドロキシ−ベンゾトリアゾール((株)ペプチド研究所)
DMF:ジメチルホルムアミド
DCM:ジクロロメタン
DIEA:N,N−ジイソプロピルエチルアミン (東京化成工業(株))
TFA:トリフルオロ酢酸(渡辺化学工業(株))
TIS:トリイソプロピルシラン(渡辺化学工業(株))
Pal−GGGH:パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His
cyt c:チトクロームc
[脂質ペプチドの合成]
脂質ペプチドは、以下に示すFmoc固相ペプチド合成法の手順に従って合成した。樹脂は主にアミノ酸−Barlos Resinを用いた。合成スケールは0.3mmolで行った。
<合成例1:N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−Hisのトリフルオロ酢酸塩の合成>
ヒスチジンBarlos Resin(渡辺化学工業(株))390mgをPD−10カラムに添加し、DCM 5mlにて3回、DMF 5mlにて3回、それぞれ洗浄した。次に、上記カラムにFmoc−Gly−OH(渡辺化学工業(株))を270mg、縮合剤溶液1(HBTU 3.05g、HOBt 1.25gをDMF 16mlに溶解したもの)2.1mlを添加し、さらに縮合剤溶液2(DIEA 2.75mlをDMF 14.25mlに溶解したもの)2.1mlを加えた。これを30分間バイブレーターにて攪拌した後、DMF 5mlにて5回、DCM 5mlにて3回、さらにDMF 5mlにて3回、それぞれ洗浄した。
次に、20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌した後溶液を捨て、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF 5mlにて5回洗浄した。
再度、上記カラムにFmoc−Gly−OHを270mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加した。これを20分間バイブレーターにて攪拌した後、DMF 5mlにて5回、DCM 5mlにて3回、さらにDMF 5mlにて3回、それぞれ洗浄した。次に、20%ピペリジン/DMF溶液 5mlを加えて1分間攪拌した後溶液を捨て、再び20%ピペリジン/DMF溶液 5mlを加えて45分間攪拌し、DMF 5mlにて5回洗浄した。
再度、上記カラムにFmoc−Gly−OHを270mg、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、これを20分間バイブレーターにて攪拌した後、DMF 5mlにて5回、DCM 5mlにて3回、さらにDMF 5mlにて3回、それぞれ洗浄した。次に、20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて1分間攪拌した後溶液を捨て、再び20%ピペリジン/DMF溶液5mlを加えて45分間攪拌し、DMF 5mlにて5回洗浄した。
パルミチン酸(Aldrich社製)約230mgをカラムに添加し、前記縮合剤1及び2を2.1mlずつ添加し、90分間バイブレーターにて攪拌した。反応後、DMF 5mlにて5回、DCM 5mlにて5回、メタノール5mlにて5回、それぞれ洗浄した後、樹脂を一晩真空乾燥させた。
乾燥後、TFA 3.8ml及びTIS 0.1mlをカラムに添加し1時間攪拌した。
回収した混合溶液に水を添加し、固形物を析出させた後、吸引ろ過を行って生成物を回収し、凍結乾燥を行った後、アセトニトリル4mlにて3回洗浄することで、目的化合物を得た。
FT−MS +m/z calc. for C28H49N606 [M+H]+ 565.37140, found 565.3572
<合成例2:N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−Hisのトリフルオロ酢酸塩の中和>
N−パルミトイル−Gly−Gly−Gly−Hisのトリフルオロ酢酸塩0.5gに、50mlの飽和NaHCO水を加えて分散させ、遠心分離(3500rpm、10分間、8℃)(トミー社製、SRX−201高速冷却遠心機)した。得られたぺレットにEtOH 40mlを加え、遠心分離(3500rpm、10分間、8℃)し、さらに、ペレットに2% NaCl水を加え、遠心分離(3500rpm、10分間、8℃)した。その後、得られたペレットに50mlの純水を加え、遠心(3500rpm、10分間、8℃)で洗浄した。この洗浄操作を2回繰り返して、ペレットを凍結乾燥((株)池田理化社製、VFD−SP、真空凍結乾燥機)して、450mgの白色固形物を得た。
上述の方法で合成したパルミトイル−Gly−Gly−Gly−Hisを低分子ゲル化剤として用いて、以下の実施例を行った。
なお、本発明で用いる低分子ゲル化剤は、不織布や高分子化合物といった基材を用いずに簡便に当該低分子ゲル化剤のみでゲルをシート形状をはじめ様々な形状にすることが可能であるが、実施例1乃至実施例7においては、便宜上、ゲルをシート状にして用いている。
<実施例1:パルミトイル−Gly―Gly−Gly−Hisの酸性、中性、アルカリ溶液によるゲルシート>
パルミトイル−Gly―Gly−Gly−His 40.8mgをスクリュー管(マルエムNO7)に入れ、0.2%(w/v)(wは質量(g)、vは体積(mL)を意味する。)の濃度になるようにリン酸緩衝液(和光純薬工業(株)製 phosphate buffer powder、1/15mol/L、pH=7.4、組成:NaHPO 7.6g、KHPO 1.8g/L)を添加し、ドライ・バス・インキュベーター(First Gene社製)で、加熱(100℃、10分)し、得られた溶解液のうち3mlをスチロール非帯電角型ケース(36mm×36mm×14mm)に移し、室温まで冷却した。溶液が固化し、ゲル化を確認後、日本薬局方水3mlを滴下し、室温で、静置させた。1日後、シート状ゲルの切片(1cm×0.5cm)を切取り、スクリュー管(マルエムNO5)に入れ、日本薬局方水、及びリン酸緩衝液(pH=2、pH=7.4、pH=11、pHは、NaOH又はHClを滴下して調製)6mlを加え、3ヶ月間、シート状ゲルの切片が融解・分解するか否か、3ヶ月間達観的に観察した。
その結果、パルミトイル−Gly―Gly―Gly−Hisのシート状切片ゲルは、酸性、中性、アルカリ性水浸漬液中で、融解・分解することなく、3ヶ月間、シート状切片ゲルとして観察された。
[パルミトイル−Gly―Gly−Gly−Hisゲルシートのアルブミンの吸着評価]
パルミトイル−Gly―Gly−Gly−His 81.6mg及び60.1mgに超純水(栗田工業(株)製)、リン酸緩衝液(和光純薬工業(株)製 phosphate buffer powder、1/15mol/L、pH=7.4、組成:NaHPO 7.6g、KHPO 1.8g/L)を加え、2時間ソニケーション後、90℃で3分間加熱して得られた溶解液のうち3mlをスチロール非帯電角型ケース(36mm×36mm×14mm)に移し、室温静置により0.3%(w/v)濃度のパルミトイル−Gly―Gly−Gly−Hisゲルを作成した。このゲルを1g切り取とって、超純水(栗田工業(株)製)5mlの入ったスクリュー管(マルエムNO7)に入れ24時間室温静置し、シート化した。この水浸漬中のゲルシートに超純水に溶解させたAlbumin from bovine serum Fraction V(Sigma社製、≧98%、BSA)を最終濃度1mg/mlになるように添加した。浸漬液500μlを採取し、外液の浸漬液中のBSA量をHPLCで測定し、ゲルへの吸着タンパク量を算出した。
[HPLC測定条件]
カラム:Inertsil WP300 C8 5μm、2.1mm i.d.×150mm
溶離液:A;0.1% TFA−MeCN B;0.1% TFA−Water
B;70%(0min)−20%(10min) (分析時間:10min)
流速:0.3ml/min
カラム温度:60℃
検出:UV214nm(BW10nm)
注入量:2μl
ポストコンディショニング:7min
表1の結果から、媒体として水及びPBSを用いて作成したパルミトイル−Gly―Gly−Gly−Hisのゲルシートは、BSAを吸着させた。
以上の結果から、パルミトイル−Gly―Gly−Gly−Hisゲルシートはアルブミン吸着効果を有する。
<実施例3:リボフラビン内包パルミトイル−Gly―Gly−Gly−Hisゲルシート>
パルミトイル−Gly―Gly−Gly−His 128.2mgをスクリュー管(マルエムNO7)に入れ、0.3%(w/v)の濃度になるようにリン酸緩衝液(和光純薬工業(株)製 phosphate buffer powder、1/15mol/L、pH=7.4、組成:NaHPO7.6g、KHPO1.8g/L)を加え、ドライ・バス・インキュベーター(First Gene社製)で、加熱(100℃、10分)し、得られた溶解液のうち3mlをガラスシャーレー(直径6cm、高さ4cm)内に置いたアルミ製の円筒(直径2.5cm、高さ4cm)に移し、室温まで冷却した。溶液が固化したのを確認後、アルミ製の円筒を取り除き、日本薬局方水6mlをガラスシャーレ内に加えた。1時間後、リボフラビン(和光純薬工業(株)製)水溶液(2mg/mL)250μLをガラスシャーレ内加えると、14時間後にゲル内が黄色に着色し、リボフラビンがゲル内に内包されてシート化した。
<比較例1:セルロースゲル、カルボキシビニルポリマーゲル、キサンタンガムゲル、カードランゲルの水浸漬に対する影響>
セルロースゲルは、セロディーヌ4M(ナノウオープ、セルロースゲル4wt%、第一工業製薬(株)製)100gに166gの日本局方水を加えて、攪拌装置T.K. mixing analyzer MA2500(プライミクス株式会社)を用いて、5000rpmで240分間攪拌し、ゲル化が認められるまで室温静置して、セルロースゲル(1.5wt%のセルロース水分散体)を得た。
2%カルボキシビニルポリマーは、カーボポール940(アイ・ティー・オー社製)0.252gに日本局方水を加えた後、溶解するまで水浴中で加温してゲル化させた。
5%キサンタンガムは、キサンタンガム(東京化成工業(株)製)0.725gに日本局方水を加えた後、溶解するまで水浴中で加温してゲル化させた。
カルボキシビニルポリマー(2wt%,カーボポール)1g、セルロースゲル(1.5wt%,セロディーヌ)1g、キサンタンガム(1.5wt%)及びカードラン(1.5wt%)1gをプラスティックシャーレ(直径8.5cm×深さ1.4cm)に入れ、水6ml水に浸漬させたところ、72日後にはゲルは消失し、シートの形成は認められなかった。
[ゲルファイバー内疎水性環境の評価]
疎水性環境応答性プローブである8−アニリノ−1−ナフタレンスルホン酸(ANS)を用いた。疎水性環境応答性プローブであるANSは、その周辺における極性が減少すると共に蛍光極大波長が短波長側にシフトし、蛍光強度が増大することが知られている。そこで、終濃度5μMとなるように、リン酸緩衝液(pH7.5)にANSを溶解し、各ゲル(0.5又は0.02wt%のPal−GGGH、0.5wt%のアガロース、3wt%のアルギン酸ナトリウム、5wt%のポリアクリルアミド)を調整した。
また、各有機溶媒(エタノール、1−プロパノール、アセトン、ジオキサン)に、5μMとなるようにANSを溶解した。各ゲル及び有機溶媒の蛍光強度を測定した(ex 350nm、em 480nm)。
その結果、Pal−GGGHだけに蛍光強度の増大が見られ、ゲル内に疎水性環境を有していることが明らかとなった(図2)。一方、他の高分子ゲルでは蛍光強度にほとんど変化が見られないことから、ゲルの形成ではなく、Pal−GGGHの自己組織化に伴った疎水性領域の形成が、蛍光強度の増大に影響を与えたものと考えられる。また、Pal−GGGHはゲル形成濃度以下(0.02wt%)でも蛍光を示したことから、ゲル化していない低濃度でも自己組織化して疎水領域を形成していると考えられる。
さらに、有機溶媒及びPal−GGGHゲル中におけるANSの蛍光極大波長を比較したところ、エタノールや1−プロパノールとPal−GGGHゲルの蛍光極大波長が近いことから、ゲルファイバーの疎水性領域はエタノール、プロパノールと同程度の疎水性を持つことが示唆された(図3)。
[ゲルシートからの放出性の評価]
ゲルシートからの内包物質の放出性の評価を行った。先の実験で使用したANSとビタミンB2(リボフラビン)を親水性内包物質とした。緩衝液はそれぞれpH3:クエン酸緩衝液溶液、pH7.4:リン酸緩衝液、pH9.0:Tris−HCl緩衝液を用いた。100又は300μMになるようにANS又はリボフラビンを緩衝液に溶解し、各溶液1mlに対しゲル化剤(ゲル化剤濃度0.3又は0.6wt%)を加え、ゲルシートを作成した。そこに抽出用緩衝液10mlを加え40rpmで振とうして内包物質を抽出した。サンプルは経時的にサンプリングを行い、各時間の放出濃度を吸光度(ANS:350nm、リボフラビン:445nm)から算出した。
ゲルシートからの徐放性をゲル化剤の濃度とゲル及び放出液のpHを変えて比較した。その結果、ゲル化剤の濃度を上げるとANSの放出率が低下することが示された(図4)。この理由としては、ゲル化剤濃度が増えることでゲルファイバーが増加したため、ANSの内包量が増えたのではないかと考えられる。また、ANSではpHが高くなるほど放出率が増加した(図5)が、リボフラビンではpHによる違いは生じなかった(図6)。Pal−GGGHの各pHにおけるゲル化剤分子の荷電状態(図7)はアミノ酸残基のpKaを考慮すると、ゲル化剤分子は主にpH1.8以下においては(I)の、pH1.8から6.0においては(II)の、pH6.0以上においては(III)のイオン化状態をとっていると考えられる。pH9.0のときはより多くのPal−GGGH分子が(III)のイオン化状態をとっていると考えられ、マイナスの電荷を持つことが予想される。ANSは陰イオンであることから、ゲルファイバー表面のマイナスの電荷と反発して放出液中に放出されたのではないかと考えられる。リボフラビンは水溶液中で電荷を持たないため、pHの影響を受けなかったと考えられる。
<実施例4:ゲルシートへの浸漬による親水性物質の内包>
ゲルシートをリボフラビンの溶液に浸漬することで、リボフラビンをゲルシート内に取り込むことが可能であるか実験を行った。リン酸緩衝液1mlに対しゲル化剤(ゲル化剤濃度0.3wt%)を加えてゲルシートを作成した。ゲルシートを各濃度(10μg/ml〜200μg/ml)のリボフラビン溶液5mlに68時間浸漬させ、浸漬液の濃度を吸光度(445nm)から算出することで、ゲルシートへのリボフラビンの内包量を求めた。
表2の結果から、リボフラビン溶液にゲルシートを浸漬することでゲルシート内にリボフラビンが内包された。また、リボフラビン浸漬液の濃度の増加に比例してゲルシートへの内包量が増加した。
[Pal−GGGHのゲル化による疎水性物質の可溶化の評価]
ゲル化剤Pal−GGGHによるゲルを用いることで、どの程度疎水性物質を可溶化できるのか、その溶解度の評価を行った。モデル疎水性物質としてピレン及びビタミンE(α−トコフェロール)を用いた。まず疎水性物質をDMSO又はエタノールに溶解し、ストック溶液を調製した。このストック溶液をリン酸緩衝液(pH7.5)で希釈することで、疎水性物質が終濃度100μM〜900μMのサンプル溶液を調製した(DMSO及びエタノール5%又は1%を含む)。各サンプル溶液にゲル化剤(最終濃度0.1wt%〜0.4wt%)を添加し、ゲル化した。
図8に示す疎水性物質可溶化の程度の基準を用いて、ゲル化による疎水性物質の溶解度の評価を目視により行った。ここで、図8に示す疎水性物質可溶化の程度の基準は、(I)は、溶解した状態を示し、(II)は、若干白濁した状態を示し、(III)は、溶解せずに白濁した状態を示す。
上述のゲルファイバー内疎水性環境評価の結果により、ゲルファイバー中に疎水的な領域が存在することが明らかになったが、その疎水性領域に疎水性物質が内包することで見掛け上ゲル中の水系の溶媒中への可溶化ができると考え、疎水性物質の可溶化の評価を行った(図9)。その結果、DMSO、エタノールを含む状態でピレン及びビタミンE共にゲル中に可溶化できることが明らかとなった(表3)。
<実施例5:ビタミンE内包ゲルの調整>
前述のストック溶液を、MOPS緩衝液(pH7.5)を用いて希釈し、500μMビタミンE水溶液を調製した(5%エタノールを含む)。これを用いて各ゲル(0.5wt%のPal−GGGH、0.5wt%のアガロース、5%のポリアクリルアミド)を調製し、ビタミンE内包ゲルを作成した。
その結果、Pal−GGGHゲルでは、ビタミンEの有無にかかわらず、ゲルの濁度に変化はなかった(図10)。この理由としては、ビタミンEがゲルファイバー内の疎水性領域に内包されたため、見かけ上溶解したためであると考えられる。一方、ポリアクリルアミドゲル及びアガロースゲル内にビタミンEの内包を試みたところ、ビタミンEは疎水性が高く水に不溶であるため析出し、ゲルの白濁が見られた。高分子ゲルではビタミンEを可溶化できないことが分かる。
以上より、Pal−GGGHゲルはビタミンEを可溶化することが示された。
<実施例6:ビタミンE及びビタミンCの同時内包ゲルの調整>
ビタミンC(アスコルビン酸リン酸ナトリウム)を1mg/mlとなるようにMOPS緩衝液(pH7.5)に溶解した。そこへ、0.5wt%のPal−GGGHを添加し、さらに500μMのビタミンEとなるようにストック溶液を加え(5%のエタノールを含む)、溶液をゲル化させ、疎水性物質であるビタミンEと親水性物質であるビタミンCの同時内包ゲルを作成した。
その結果、ビタミンC誘導体存在下においてもビタミンEはゲルファイバーの疎水性領域に溶解し、ビタミンEの析出に伴うゲルの白濁も見られなかった(図11)。
以上より、Pal−GGGHを用いることで、溶解性の異なるビタミンEとビタミンCを、同時に溶解・内包したゲルを作成可能であることが示された。
[ゲルシートからのビタミンEの放出性評価]
ビタミンEストック溶液をMOPS緩衝液(pH7.5)を用いて希釈し、500μMビタミンE水溶液を調製した(5%のエタノールを含む)。ここへ、0.3wt%となるようにPal−GGGHを添加し、加熱・放冷してゲルシートを作成した。ゲルシートを5mlのエタノール水溶液(50、70、100%)に浸し、45rpmで振とう攪拌しビタミンEを放出させた。放出液を経時的にサンプリングし、各時間におけるビタミンEの放出濃度を吸光度(292nm)から算出した。
疎水性物質の放出性を評価するため、ゲルシートからのビタミンEの放出性挙動を、濃度の異なるエタノール水溶液に対して評価・比較した(図12)。エタノール濃度が50%以上のとき、ビタミンEがゲルから放出されることが示された。その放出速度は、エタノールの濃度が高いほど速くなる傾向が見られた。ゲルファイバー内の疎水性領域は、エタノールと同程度と考えられるため(図3参照)、エタノール濃度によって放出速度が変化することが考えられる。
<実施例7:ゲルシートへのチトクロームcの吸着性の検討>
Pal−GGGHゲルシートのタンパク質吸着素材としての利用を検討するため、チトクロームcのゲルシートへの吸着実験を行った。緩衝液はそれぞれリン酸緩衝液:pH7.4、Tris−HCl緩衝液:pH9.0を用いた。各緩衝液1mlに対しゲル化剤(ゲル化剤濃度0.3wt%)を加えてゲルシートを作成した。ゲルシートを0.3mg/mlチトクロームc溶液に浸漬させ経時的に浸漬液の濃度を吸光度(407nm)により算出してゲルシートへのチトクロームcの吸着量を求めた。
次に吸着したチトクロームcが変性していないことを確認するためにチトクロームc吸着ゲルシートに1M DTT 10μlを滴下してチトクロームcの還元を行った。
その結果、チトクロームc溶液にゲルシート(pH7.4及びpH9.0)を浸漬したところ、ゲルシート内部にチトクロームcが吸着された(図13)。また、その吸着速度はpH7.4よりもpH9.0の方が早いことがわかった(図14)。
さらに、チトクロームcが吸着したゲルシートに1M DTTを滴下したところ、酸化型でオレンジ系赤色であったチトクロームcがピンク色系に変化したため、ゲルシートに吸着したチトクロームcが還元型に変化したことが言える(図15)。つまり、シートに吸着しても変性していないことが示唆された。また、チトクロームcは等電点がpI10付近のタンパク質で、今回の条件下ではプラスの電荷を持つため、より多くのマイナスの電荷を持ったpH9.0のゲル(図7)において、吸着量が上昇したことが考えられる。
[ゲルシートからのチトクロームcの放出性評価]
0.5mg/mlになるようにチトクロームcをリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解し、0.3wt%となるようにPal−GGGHを添加し、加熱・放冷し、チトクロームc内包ゲルシートを作成した。ゲルシートを10mlの各緩衝液(pH5.0のクエン酸ナトリウム緩衝液、pH7.4のリン酸緩衝液、pH11.0のリン酸/水酸化ナトリウム緩衝液)に浸し、40rpmで振とう攪拌しチトクロームcを放出させた。放出液を経時的にサンプリングし、各時間におけるチトクロームcの放出濃度を吸光度(407nm)から算出した。
上述より、吸着性にはpHが影響していたことから、ゲルシートからのチトクロームcの放出挙動を、異なるpHの緩衝液に対して評価した(図16)。その結果、pH11.0の放出液においてのみ、チトクロームcの放出が認められた。Pal−GGGH中におけるヒスチジンのpKa(イミダゾール基:pKa 約6.0、カルボキシル基:pKa 約1.8)を考慮すると(図17)、ゲルファイバー表面は、pH11.0、pH7.4ではマイナス、pH5.0ではプラスとマイナスの両方に帯電していることが推察される。ここで、チトクロームcは等電点がpI10付近のタンパク質であり、今回の条件下ではpH11.0の場合のみマイナスの電荷を持つと考えられる。従って、pH11.0においてのみ、チトクロームcとゲルファイバーが互いのマイナス電荷により反発し、放出されたのではないかと考えられる。
<実施例8:Pal−GGGHゲルに内包されたチトクロームcのペルオキシターゼ活性測定(チトクロームcを内包したPal−GGGHゲルを用いたHによる2,6−ジメトキシフェノールの酸化反応)>
Pal−GGGHゲルに内包されたチトクロームcのペルオキシターゼ活性を評価するために、下記に示される、チトクロームcを内包したPal−GGGHゲルを用いたHによる2,6−ジメトキシフェノールの酸化反応を行った。
ここで、チトクロームcを内包したPal−GGGHゲルは、ゲル化剤であるPal−GGGH粉末を含む50mMリン酸緩衝液にチトクロームcを加え、該緩衝液を95℃で加熱してゲル化剤を溶解し室温放冷することにより得た。
96穴マイクロプレートの各wellに、0.2wt%の濃度でゲル化剤を含む50mMリン酸緩衝液(pH7)に3μMになるようチトクロームcを添加し95℃で加熱することで得られたPal−GGGHゲル、チトクロームcを3μMの濃度で含み前記ゲル調製と同様の95℃の加熱処理を行った50mMリン酸緩衝液(pH7)並びにチトクロームcを3μMの濃度で含み加熱処理を行っていない50mMリン酸緩衝液(pH7)をそれぞれ50μL調製し、2,6−ジメトキシフェノール(7.5mM)とH(1.5mM)を含む混合溶液100μLをそれぞれ添加した。Pal−GGGHゲルに該混合溶液を添加する場合は、該ゲル上に該混合溶液を加えた。ペルオキシダーゼ活性の比較は、生成物由来の469nmの吸光度を追跡することで行った。加熱処理時間は30分で、測定はその後30分ほど放置してから行い、装置の温度は35℃に設定した。
図18に示すように、チトクロームcを内包したPal−GGGHゲルを用いた反応の方が、加熱処理を行っていないチトクロームc溶液での反応に比較して生成物の量が多いことから、チトクロームcを内包したPal−GGGHゲルはペルオキシダーゼ活性が増大していることが確認できた。また、加熱処理を行ったチトクロームc溶液での反応においても生成物の量が多く、同様にペルオキシダーゼ活性が増大していることが確認できた。しかし、チトクロームcを内包したPal−GGGHゲル用いた反応の方が加熱処理を行ったチトクロームc溶液での反応に比べ生成物の量が多いことから、チトクロームcを内包したPal−GGGHゲルの方がより一層活性が高まっていると言え、Pal−GGGHゲル中ではチトクロームcの触媒作用の安定性が強化されていることが考えられる。
<実施例9:Pal−GGGHゲルに内包されたチトクロームcのCDスペクトル及びUVスペクトル測定>
チトクロームcを10μMの濃度で含むPal−GGGHゲル(ゲル化剤0.2wt%)、チトクロームcを10μMの濃度で含み前記ゲル調製と同様に95℃の加熱処理を行った50mMリン酸緩衝液(pH7)及びチトクロームcを20μMの濃度で含み前記加熱処理を行っていない50mMリン酸緩衝液(pH7)をそれぞれ1mLセルに調製し波長250nm乃至450nmにおけるCDスペクトルを測定した。加熱処理時間は26分であり装置の温度は25℃に設定した。
図19に示すCDスペクトル測定結果では、Pal−GGGHゲルに内包されたチトクロームcのスペクトルにおいて溶液中のチトクロームcのCDスペクトルにみられる280nm、380nmのピークが確認できなかった。
また、チトクロームcを20μMの濃度で含むPal−GGGHゲル(ゲル化剤0.1wt%)、チトクロームcを20μMの濃度で含み前記ゲル調製と同様の95℃の加熱処理を行った50mMリン酸緩衝液(pH7)及びチトクロームcを20μMの濃度で含み前記加熱処理を行っていない50mMリン酸緩衝液(pH7)をそれぞれ1mLセルに調製し、波長350nm乃至800nmにおけるUVスペクトルを測定した。加熱処理時間は15分であり装置の温度は25℃に設定した。
図20に示すUVスペクトル測定結果では、ゲル中、溶液中ともにチトクロームcのポルフィリン環のπ−π遷移に起因する400nm付近のSoret帯と480−650nm付近に現れる分子振動に共役した遷移に基づくQ帯が確認できた。しかし、700nm付近におけるヘム鉄と第6配位子であるMet80の間の配位結合由来の電荷移動吸収帯(S→Fe:LMCT帯)がゲル中のチトクロームcでは確認できなかった。
CDスペクトル及びUVスペクトルの結果から、チトクロームcはPal−GGGHゲル中で構造が変化していると認められ、このことが、チトクロームcを内包するPal−GGGHゲルのペルオキシダーゼ活性の増大に関与しているものと思われる。
<実施例10:ペルオキシダーゼ活性のゲル化剤濃度依存性>
実施例8と同様の実験を、ゲル化剤濃度を0.1wt%、0.2wt%及び0.3wt%とした場合で行った。
図21から、ゲル化剤濃度の上昇に伴い反応初速度及び生成物量が増加していることが分かった。
本発明の内包ゲルでは、ゲル内に疎水性化合物又は親水性化合物、若しくはその両方の化合物を内包することが可能となる。また、本発明の内包ゲルは、内包した化合物を徐放することも可能である。さらに、本発明の化合物が内包されたゲルは、化合物としてチトクロームc等の酵素を内包することも可能であり、かつ内包したものが酵素のような活性を有する蛋白質の場合には、ゲル内に取り込んでも酵素はその活性は損なうことなく維持され、むしろ、そのゲル内で酵素反応を進行させることが可能である。したがって、このような酵素などを取り込んだゲルは、ゲル内で反応を見ることができ、バイオセンサーや検査・診断薬として使用することが可能である。
そのため、本発明の内包ゲルは、損傷部位認識能を有する創傷被覆剤、癒着防止膜、薬物速達システム、外用医薬品用基材、芳香剤・消臭剤・防虫剤・殺虫剤・農薬などの基材、検査・診断やバイオセンサー、環境分析用の基材、土中や水中の汚染物質の捕捉といった基材などに広く利用することができる。

Claims (3)

  1. 式(1)
    (式中、Rは炭素原子数9乃至23の脂肪族基を表し、R乃至Rはそれぞれ互いに独立して、水素原子、炭素原子1乃至3の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至7のアルキル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基、又は−(CH)n−X基を表し、かつR乃至Rのうち少なくとも1つが−(CH)n−X基を表し、nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH基、又は窒素原子を1乃至3個有し得る5員環若しくは5員環と6員環から構成される縮合複素環を表し、mは1又は2を表す。)で表される脂質ペプチド又はその薬学的に使用可能な塩からなる低分子ゲル化剤と、該低分子ゲル化剤によりゲル化された水性媒体と、これに内包された少なくとも1種以上の酵素とを含む内包ゲルを、酵素反応に用いることにより、該内包ゲルをバイオセンサーとして使用する方法。
  2. 式(1)
    (式中、R は炭素原子数9乃至23の脂肪族基を表し、R 乃至R はそれぞれ互いに独立して、水素原子、炭素原子1乃至3の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至7のアルキル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基、又は−(CH )n−X基を表し、かつR 乃至R のうち少なくとも1つが−(CH )n−X基を表し、nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH 基、又は窒素原子を1乃至3個有し得る5員環若しくは5員環と6員環から構成される縮合複素環を表し、mは1又は2を表す。)で表される脂質ペプチド又はその薬学的に使用可能な塩からなる低分子ゲル化剤と、該低分子ゲル化剤によりゲル化された水性媒体と、これに内包された少なくとも1種以上のチトクロームcとを含む内包ゲルを、H による酸化反応に用いることにより、該内包ゲルをバイオセンサーとして使用する方法。
  3. 式(1)
    (式中、R は炭素原子数9乃至23の脂肪族基を表し、R 乃至R はそれぞれ互いに独立して、水素原子、炭素原子1乃至3の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至7のアルキル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基、又は−(CH )n−X基を表し、かつR 乃至R のうち少なくとも1つが−(CH )n−X基を表し、nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH 基、又は窒素原子を1乃至3個有し得る5員環若しくは5員環と6員環から構成される縮合複素環を表し、mは1又は2を表す。)で表される脂質ペプチド又はその薬学的に使用可能な塩からなる低分子ゲル化剤と、該低分子ゲル化剤によりゲル化された水性媒体と、これに内包された少なくとも1種以上の化合物とを含む内包ゲルを備え、かつ
    該化合物が酵素又はチトクロームcである、
    バイオセンサー。
JP2011519820A 2009-06-19 2010-06-16 低分子ゲル化剤により化合物が内包されたゲル Active JP5727932B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2011519820A JP5727932B2 (ja) 2009-06-19 2010-06-16 低分子ゲル化剤により化合物が内包されたゲル

Applications Claiming Priority (4)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2009147058 2009-06-19
JP2009147058 2009-06-19
PCT/JP2010/060226 WO2010147158A1 (ja) 2009-06-19 2010-06-16 低分子ゲル化剤により化合物が内包されたゲル
JP2011519820A JP5727932B2 (ja) 2009-06-19 2010-06-16 低分子ゲル化剤により化合物が内包されたゲル

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JPWO2010147158A1 JPWO2010147158A1 (ja) 2012-12-06
JP5727932B2 true JP5727932B2 (ja) 2015-06-03

Family

ID=43356474

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2011519820A Active JP5727932B2 (ja) 2009-06-19 2010-06-16 低分子ゲル化剤により化合物が内包されたゲル

Country Status (2)

Country Link
JP (1) JP5727932B2 (ja)
WO (1) WO2010147158A1 (ja)

Families Citing this family (7)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
EP2494953B1 (en) * 2009-10-26 2017-09-27 Nissan Chemical Industries, Ltd. Composition for use as cosmetic or external skin preparation
JP5664865B2 (ja) * 2011-03-07 2015-02-04 日産化学工業株式会社 ゲル電解質
JP5664864B2 (ja) * 2011-03-07 2015-02-04 日産化学工業株式会社 ゲル電解質
JP5943211B2 (ja) * 2011-04-22 2016-06-29 日産化学工業株式会社 ヒドロゲル形成材料
WO2013047458A1 (ja) * 2011-09-27 2013-04-04 互応化学工業株式会社 ゲル化剤及びゲル状組成物
SG193042A1 (en) * 2012-02-22 2013-09-30 Agency Science Tech & Res Organogels from ultrasmall peptides that can be used for biological and non-biological applications
CN114163494B (zh) * 2021-11-10 2023-10-10 中国科学院南海海洋研究所 一种拮抗氧化应激损伤的章鱼抗氧化肽的制备方法和应用

Citations (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2007100588A1 (en) * 2006-02-27 2007-09-07 Edwards Lifesciences Corporation Hydrogel for an intravenous amperometric biosensor
WO2009005152A1 (ja) * 2007-07-05 2009-01-08 Nissan Chemical Industries, Ltd. 新規脂質トリペプチド性ヒドロゲル化剤及びヒドロゲル
WO2009005151A1 (ja) * 2007-07-05 2009-01-08 Nissan Chemical Industries, Ltd. 新規脂質ペプチド並びにヒドロゲル

Family Cites Families (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN102105553B (zh) * 2008-08-01 2013-11-13 日产化学工业株式会社 新的脂质二肽和凝胶
JP2010047534A (ja) * 2008-08-22 2010-03-04 Kyushu Univ 酵素応答性ゲル

Patent Citations (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2007100588A1 (en) * 2006-02-27 2007-09-07 Edwards Lifesciences Corporation Hydrogel for an intravenous amperometric biosensor
WO2009005152A1 (ja) * 2007-07-05 2009-01-08 Nissan Chemical Industries, Ltd. 新規脂質トリペプチド性ヒドロゲル化剤及びヒドロゲル
WO2009005151A1 (ja) * 2007-07-05 2009-01-08 Nissan Chemical Industries, Ltd. 新規脂質ペプチド並びにヒドロゲル

Non-Patent Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
JPN6010049665; Anal. Chem. vol.77, no.21, 2005, pp.6828-6833 *
JPN6010049669; Sens. Act. B vol.124, no.2, 2007, pp.494-500 *

Also Published As

Publication number Publication date
JPWO2010147158A1 (ja) 2012-12-06
WO2010147158A1 (ja) 2010-12-23

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5727932B2 (ja) 低分子ゲル化剤により化合物が内包されたゲル
JP6065245B2 (ja) 新規ジペプチド並びにゲル
JP5441693B2 (ja) 新規脂質ペプチド並びにヒドロゲル
JP5388848B2 (ja) 新規脂質トリペプチド性ヒドロゲル化剤及びヒドロゲル
KR101656540B1 (ko) 피부, 점막, 두피 및/또는 모발의 처치 및/또는 치료에 유용한 펩티드 그리고 이의 화장품 또는 약학 조성물로의 사용
US5750147A (en) Method of solubilizing and encapsulating itraconazole
JP2007191643A (ja) 生体への定着性が付与されたポリアミノ酸誘導体
EP0301969B1 (fr) Microparticules comportant un polymère biodégradable contrôlant la libération d'un principe actif antimalarique, compositions pharmaceutiques en comprenant et procédé de préparation
Tannous et al. Drug-encapsulated cyclodextrin nanosponges
JP5510635B2 (ja) 脂質ヒスチジンゲル化剤
Ghosh et al. Self-assembly and potassium ion triggered disruption of peptide-based soft structures
EP3416730B1 (fr) Composition cosmétique cutanée comprenant un peptide sdkp ou un analogue de celui-ci
FR2834215A1 (fr) Composes amphiphiles a usage pharmaceutique ou cosmetique
Qu et al. Current status of development and biomedical applications of peptide-based antimicrobial hydrogels
Rive Peptide-based transient gels
CN114716582A (zh) 一种角蛋白肽修饰的壳聚糖衍生物及其制备方法、应用和药物组合物
Ahuja et al. Recent Advances in Smart Self‐Assembled Bio‐inspired Hydrogels: A Bridging Weapon for Emerging Health Care Applications from Bench to Bedside

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20130614

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20130708

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20130708

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20140924

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20141125

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20150311

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20150403

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 5727932

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

S531 Written request for registration of change of domicile

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313531

S533 Written request for registration of change of name

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313533

S531 Written request for registration of change of domicile

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313531

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350