JP5726593B2 - 無臭化コラーゲンの製法およびそれにより得られた無臭化コラーゲン - Google Patents

無臭化コラーゲンの製法およびそれにより得られた無臭化コラーゲン Download PDF

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Description

本発明は、コラーゲンの三重らせん構造を損なうことなく、魚類由来のコラーゲンに含まれる臭気成分が抽出除去された無臭化コラーゲンの製法およびそれにより得られた無臭化コラーゲンに関するものである。
コラーゲンは、生物の骨,真皮,腱,筋膜,鱗,とさか等に豊富に含まれており、生体に不可欠な物質であるため、生体親和性に優れている。このため、コラーゲンは、美容,健康,医療製品等に広く利用されている。このようなコラーゲンは、一般的に、分子量約10万のポリペプチド鎖3本が互いに巻きつき、右巻きの三重らせん構造(コラーゲンへリックス構造)が形成され、長さ約300nm、直径約1.5nmの棒状分子の形をしている。
上記コラーゲンは、通常、生物の骨等に対する中性塩溶液,酸性塩溶液,アルカリ処理等により抽出され、脱脂処理や酵素を用いた可溶化処理等が施された後、塩析、遠心分離、透析、限外ろ過等の精製が行われる。しかし、起源となる生物由来の臭気成分を完全に取り除くことは非常に困難であり、精製を行ってもなお残留する微量の臭気成分(油脂,水溶性物質,有機性物質等)によって、コラーゲンは生物臭を有している。なかでも魚類を原料とするコラーゲンは、高度な精製を行ってもわずかに魚臭を生じるという傾向にある。
このような、魚類を原料とするコラーゲンの臭いの低減方法として、原料の魚皮に対し有機溶媒,界面活性剤,酸化剤等を用いて前処理を行う方法が一般に知られている。この前処理としては、例えば、特許文献1には、原料である魚皮をアルコール洗浄と遠心分離とを繰り返し行う方法が開示されている。上記前処理のように、アルコール洗浄と遠心分離とを繰り返し行う方法は、現在、工業的に用いられる一般的な方法のひとつである。しかし、作業工程が複雑であるとともに、繰り返しの洗浄・分離によるコラーゲンのロスが生じるという難点がある。
また、特許文献2には、界面活性剤共存下で魚皮を石灰漬けした後、その表皮を剥離し、さらに脱灰、酵素剤処理を行う前処理方法が開示されている。そして、特許文献3には、魚皮を有機溶媒等に浸漬することでコラーゲン組織の膨潤を抑制し、アルカリ性条件下で酸化剤を作用させて魚皮の色,臭いを除く前処理方法が開示されている。しかし、特許文献2および特許文献3の方法では、臭いはある程度取れるものの、処理工程で用いる石灰,有機溶媒等がコラーゲンに残留しやすいため、化粧品や食品等に用いるコラーゲンの精製には適していないという問題がある。
一方、特許文献4には、魚皮由来のゼラチンを高度に精製する方法として、超臨界状態の二酸化炭素を用いてゼラチン中の脂肪質を除去する方法が開示されている。また、特許文献5には、超臨界状態の二酸化炭素を用いてゼラチンやタンパク質加水分解物等に含まれる臭気成分を除去する方法が開示されている。しかしながら、特許文献4および特許文献5は、いずれもゼラチンやタンパク質加水分解物等の比較的分子量の小さいタンパク質を処理対象とするものであって、分子量が大きく、しかも三重らせん構造を有するコラーゲンを対象とするものではない。すなわち、ゼラチンはコラーゲンの三重らせん構造が熱変性によってほどけたペプチド鎖を主成分とするものであり、タンパク質加水分解物は、コラーゲンやゼラチンを低分子化し変性させたものであって、いずれもコラーゲンのような高度の立体構造を有するものではない。
特開2000−256398号公報 特開2003−301144号公報 特開2006−213624号公報 特開平10−276680号公報 特開平6−279229号公報
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、コラーゲンの三重らせん構造を保ちつつ、魚類由来のコラーゲンに含まれる臭気成分の除去処理を行うようにした無臭化コラーゲンの製法およびそれにより得られた無臭化コラーゲンの提供をその目的とする。
上記の目的を達成するため、本発明は、魚類からコラーゲンを抽出し、乾燥させてなる魚類由来の乾燥コラーゲンを準備する工程と、内部温度が0℃〜40℃の範囲にある密閉空間内で、上記乾燥コラーゲンを有機溶媒不含の液体状態もしくは超臨界状態の二酸化炭素に5分〜60分間浸漬し、上記乾燥コラーゲンに含まれる臭気成分を抽出除去する工程とを有する無臭化コラーゲンの製法を第1の要旨とする。また、第1の要旨の製法により得られた魚類由来の無臭化コラーゲンであって、上記無臭化コラーゲンを60℃で15分間加温した際に放出される成分として、1−オクテン−3−オールが、ガスクロマトグラフィーにおける測定によって検出されない無臭化コラーゲンを第2の要旨とし、第1の要旨の製法により得られた魚類由来の無臭化コラーゲンであって、上記無臭化コラーゲンを60℃で15分間加温した際に放出される成分として、ペンタン−2−オン、1−ペンテン−3−オールおよび2,3−ペンタンジオンからなる群から選ばれた少なくとも一つが、ガスクロマトグラフィーにおける測定によって検出されない無臭化コラーゲンを第3の要旨とする。以下、特に断りがない限り「乾燥コラーゲン」および「コラーゲン」は、魚類由来のものである。
すなわち、本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、コラーゲンに含まれる臭気成分を効率よく取り除くために、二酸化炭素を液体状態もしくは超臨界状態にし、これを上記コラーゲンに接触させて、コラーゲン内部に含まれる臭気成分を抽出除去すると、従来、臭気成分を取り除くために行われている有機溶媒や石灰等による前処理が不要となるため、コラーゲンに有機溶媒や石灰等の残留物が残らず、高品質のコラーゲンを得ることができるのではないかと想起し、さらに研究を重ねた。その結果、生コラーゲンを乾燥させてなる乾燥コラーゲンを、40℃以下の低温において、有機溶媒不含の液体状態もしくは超臨界状態の二酸化炭素に5分〜60分間浸漬することにより、コラーゲンの三重らせん構造を破壊することなく、内部に含まれる臭気成分を抽出除去できることを見い出し、本発明に到達した。特に、本発明のコラーゲンは、上記抽出除去工程において用いた液体状態もしくは超臨界状態の二酸化炭素が内部に残留しても、常圧に戻せば、これらの二酸化炭素は気体となり簡単に抜けてしまうため、コラーゲン内部に抽出除去工程における溶媒等が一切残らないという利点がある。
このように、本発明の無臭化コラーゲンの製法は、魚類からコラーゲンを抽出し、乾燥させてなる乾燥コラーゲンを準備し、内部温度が0℃〜40℃の範囲にある密閉空間内で、上記乾燥コラーゲンを有機溶媒不含の液体状態もしくは超臨界状態の二酸化炭素に5分〜60分間浸漬し、乾燥コラーゲンに含まれる臭気成分を抽出除去するようにしている。したがって、乾燥コラーゲンに含まれる臭気成分を低温かつ短時間で抽出除去しているため、コラーゲンが変性を受けにくく、その品質を保てるようになっている。また、上記液体状態の二酸化炭素もしくは超臨界状態の二酸化炭素は、有機溶媒を添加しなくても、充分にコラーゲンの臭気成分を抽出除去することができるため、有機溶媒による変性を受けずにすむ。また、このように有機溶媒が添加されていないため、コラーゲン内部に有機溶媒が残存することがなく、純度の高い高品質のコラーゲンを製造することができる。そして、コラーゲンの臭気成分の抽出除去に、液体状態もしくは超臨界状態の二酸化炭素を用いており、これらが内部に残留しても、常圧に戻せば気体となり簡単に抜けてしまうため、コラーゲンの品質を損なうことがない。
なかでも、上記臭気成分を抽出除去する工程において、乾燥コラーゲンを滅菌用包装材で包装した状態で液体状態もしくは超臨界状態の二酸化炭素に浸漬すると、コラーゲンの臭気成分の抽出除去と滅菌とを同時に行うことができるため、効率がよい。また、コラーゲンの臭気成分の抽出除去後に、上記密閉空間を常圧に戻した際のコラーゲンの散乱を防止できるため、ロスなく回収することができる。
また、上記乾燥コラーゲンが、魚類由来であ、いわゆる魚臭を発生させる臭気成分をもほぼ取り除くことができるため、得られたコラーゲンは、牛・豚等由来のコラーゲンと同様の取り扱いが可能となる。また、狂牛病,口蹄疫、ウイルス感染等の危険性がなく、安全性が高い。
また、第1の要旨の製法によって得られた無臭化コラーゲンが、これを60℃で15分間加温した際に放出される成分として、1−オクテン−3−オールが、ガスクロマトグラフィーにおける測定によって検出されないものである場合は、とりわけ魚様の不快臭がしないため、食品や化粧品等へより多く配合することが可能となる。
また、第1の要旨の製法によって得られた無臭化コラーゲンが、これを60℃で15分間加温した際に放出される成分として、ペンタン−2−オン、1−ペンテン−3−オールおよび2,3−ペンタンジオンからなる群から選ばれた少なくとも一つが、ガスクロマトグラフィーにおける測定によって検出されないものである場合も、いわゆる魚臭といわれる不快な臭いがしないため、食品や化粧品等へより多く配合することが可能となる。
さらに、第1の要旨の製法によって得られた無臭化コラーゲンが、滅菌された状態である場合は、そのまま食品や化粧品等の原料として用いることができるため、使い勝手がよい。
本発明の一実施の形態に用いる乾燥コラーゲンを調製する工程の説明図である。 本発明の一実施の形態に用いる装置の概略説明図である。 本発明の実施例および比較例をガスクロマトグラフィーで測定した際のクロマトグラムである。 上記クロマトグラムの部分拡大図である。 上記クロマトグラムにおける各ピークのエリア面積を算出したピークエリア面積図である。 上記ピークエリア面積の総和を示したピークエリア面積総和図である。
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
本発明のうち、以下に述べる一実施の形態であるコラーゲンの製法は、要約すると、乾燥コラーゲンを準備し、この乾燥コラーゲンを有機溶媒不含かつ低温の液体炭酸ガスに短時間浸漬し、臭気成分を抽出除去するものである。以下、サケの由来のコラーゲンを用いた一実施の形態である無臭化コラーゲンの製法について説明する。
<乾燥コラーゲンの準備>
〔図1〕に示す工程(A)〜(E)の処理を行い、サケの魚皮からコラーゲンを抽出し、乾燥コラーゲンを得る。これらの工程について、以下、工程ごとに簡単に説明する。
(A)洗浄
まず、鱗,ひれ,および真皮層の下部にある身等のコラーゲン抽出に不要な部分を除去したサケの魚皮を準備する。そして、準備した魚皮を、精製水または有機溶媒(例えば、クロロホルム、メタノール、これらの混合液)等の洗浄液を用いて洗浄する。この洗浄では、魚皮の表面の脂質や残存する鱗等を除去することができる。洗浄は、例えば、準備した魚皮を上記洗浄液に浸漬させた後、これを攪拌することによって行う。この洗浄は、必要があれば2回以上繰り返し行ってもよい。
(B)不溶化処理
上記洗浄した魚皮について、表皮層と真皮層の色素細胞を含む部分(真皮層の表皮層側の部分)とを不溶化処理する。この「不溶化処理」とは、魚皮の表皮層と真皮層の色素細胞を含む部分(真皮層の表皮層側の部分)を構成するタンパク質を変性することにより、これらの部分を有機酸等の酸に浸漬させた場合にも、これらの部分が膨潤,溶解しないように硬化させる処理のことをいう。すなわち、この不溶化処理を行うと、後述するように、魚皮を有機酸等に浸漬させても、表皮層と真皮層の色素細胞を含む部分(真皮層の表皮層側の部分)は、膨潤しない。したがって、不溶化処理の行われていない膨潤して厚みの増した部分を回収することにより、真皮層の色素細胞を含まない部分を容易に得ることができる。このような不溶化処理は、例えば、サラシ粉(カルキ,クロル石灰)水溶液、水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カルシウム水溶液等に、不溶化処理する部分を浸漬することによって行うことができる。なかでも、不溶化処理する部分をサラシ粉水溶液に15〜45分間(魚種やその大きさ等によっても異なる)浸漬させることが好ましい。この場合、不溶化処理と殺菌処理とを同時に行うことができ、効率がよい。
(C)膨潤
上記不溶化処理した魚皮を、有機酸(例えば、酢酸,クエン酸)等の酸に浸漬させ、真皮層の不溶化処理が行われていない部分を膨潤させる。これにより、約1〜5mmの厚みしかない表皮層と真皮層とを合わせた層厚が、約5〜15mmの厚みにまで膨潤する。したがって、膨潤させた真皮層の部分と、それ以外の部分とを容易に切り離すことができる。上記膨潤のための浸漬時間は、魚種やその大きさ等によっても異なるが、2〜3日間であることが好ましい。また、上不溶化処理が行われていない部分の真皮層の膨潤は、膨潤後の厚みが膨潤前の厚みの115〜125%となるように行われることが好ましい。
(D)回収
上記膨潤した真皮層を、膨潤していない表皮層および真皮層の色素細胞を含む部分(真皮層の表皮層側の部分)から切り離して回収する。この回収方法としては、例えば、上記の不溶化処理により硬化した表皮層等を固定して刃物等を使用し、人の手により物理的に切除する方法、真皮層の回収部分のみを絞り出す方法または真皮層の回収部分のみを吸引する方法等が挙げられる。
(E)乾燥
上記回収された真皮層は、ゲル状であって、これに塩化ナトリウム水溶液を加えると、塩析によりコラーゲンが沈殿する。沈殿したコラーゲンをろ過して取り出し、アルコールを加えて脱水し、さらにろ過したもの(生コラーゲン)を減圧乾燥し、乾燥コラーゲンを得る。
<乾燥コラーゲンの包装>
つぎに、上記で得られた乾燥コラーゲンを、次の工程で用いる形態とするため、滅菌用包装材で包装する。すなわち、上記乾燥コラーゲン1gを、二酸化炭素透過性を有する滅菌用包装材(ハイブリッドメッキンバッグHM−1304:ホギメディカル社製)で包装し、開口部をヒートシーラーを用いて加熱し密閉する。なお、上記滅菌用包装材の滅菌紙側の空気透過度(通気性)は、JIS P 8117による透気抵抗度(ガーレー法)によると、およそ10〜30秒の範囲内である(上記透気抵抗度は、642mm2の紙を空気100mLが通過する時間としている)。
<臭気成分の除去>
つづいて、乾燥コラーゲンに含まれる臭気成分を抽出除去する工程を説明する。〔図2〕は、臭気成分を抽出除去する工程に用いられる装置の概略構成を示したものである。すなわち、この装置は、乾燥コラーゲンを収容して密閉空間を形成する洗浄槽1と、この洗浄槽1に液体状態の二酸化炭素を供給する供給タンク2とを備えている。また、〔図2〕において、Pはポンプを、V−1〜V−4は弁を、V−5は減圧弁を、それぞれ示している。
そして、上記で準備した滅菌用包装材で包装済みの乾燥コラーゲン3を、内部温度が5℃に設定された上記洗浄槽1内に収容して密閉し、弁V−1〜V−4および減圧弁V−5の全てを閉じた後、弁V−1およびV−2を開け、供給タンク2から洗浄槽1内に液体状態の二酸化炭素を供給する。このとき、弁V−3、減圧弁V−5を開け、洗浄槽1内に液体状態の二酸化炭素を充分に供給する。そして、洗浄槽1内に所定量(乾燥コラーゲンが浸漬する量)の液体状態の二酸化炭素を供給後、弁V−1〜V−4および減圧弁V−5の全てを閉じ、洗浄槽1の内部圧力を4.0MPaとし、乾燥コラーゲン3を液体状態の二酸化炭素に30分間浸漬させる。
なお、洗浄槽1への液体状態の二酸化炭素の供給は、上記弁V−1、V−2、V−3、減圧弁V−5を開け、連続的に供給してもよい。そして、乾燥コラーゲン3を液体状態の二酸化炭素に浸漬させた後、弁V−2、V−4、減圧弁V−5を開け、上記で抽出した臭気成分を含む使用済みの液体状態の二酸化炭素を系外へ排出する。その後、上記乾燥コラーゲン3を回収することにより、臭気成分が除去された乾燥コラーゲン(無臭化コラーゲン)を得ることができる。
この製法によれば、臭気成分の抽出除去工程における温度が低く、しかも、浸漬時間が比較的短いため、乾燥コラーゲン3が変性を受けずに、その立体構造および品質を保てるようになっている。しかも、液体状態の二酸化炭素に、有機溶媒が添加されておらず、加圧下で接することによる有機溶媒による変性を受けずにすむため、より品質を保つことができる。また、乾燥コラーゲン3内部に有機溶媒および液体状態の二酸化炭素が残存しないため、純度の高い高品質のコラーゲンを製造することができる。そして、乾燥コラーゲン3が滅菌用包装材で包装されているため、臭気成分の抽出除去と滅菌とが同時に行われ効率がよいとともに、上記洗浄槽1を常圧に戻した際の乾燥コラーゲン3の飛び散りが防止され、ロスなく回収できる。
また、上記乾燥コラーゲン3がサケ由来であるにも関わらず、いわゆる魚臭を発生させる臭気成分を効果的に取り除くことができるため、得られた無臭化コラーゲンは、魚臭がなく、牛・豚等由来のコラーゲンと同様の取り扱いが可能な高品質なものとなる。さらに、魚由来であるため、狂牛病,口蹄疫、ウイルス感染等の危険がなく、より安全なものとなる。また、得られた無臭化コラーゲンは、すでに滅菌された状態であるため、そのまま食品や化粧品等の原料として用いることができる。そして、得られた無臭化コラーゲンは、いわゆる魚臭として敬遠される1−オクテン−3−オール、ペンタン−2−オン、1−ペンテン−3−オールおよび2,3−ペンタンジオンの揮発による臭気を生じにくいため、食品や化粧品等へより多く配合できる。
なお、上記の実施の形態において、乾燥コラーゲン3として、サケ由来のコラーゲンを用いているが、その他にも、各種の魚を用いることができる
また、上記の実施の形態において、乾燥コラーゲン3の準備を、〔図1〕に示す工程に従って行っているが、その他の方法で行ったものであってもよい。しかし、コラーゲンへのダメージが少ない点、コラーゲンの回収効率がよい点から、〔図1〕に示す工程に従って行うことが好ましい。また、市販の乾燥コラーゲンを用いてもよい。
そして、上記の実施の形態において、乾燥コラーゲン3として、滅菌用包装材で包装済みのものを用いているが、必ずしもこれで包装されたものを用いなくてもよい。しかし、滅菌用包装材で包装済みのものを用いると、臭気成分の除去と滅菌とを同時に行うことができ、しかも臭気成分除去後のコラーゲンの回収をロスなく行うことができるため、好ましい。
また、上記の実施の形態において、臭気成分の抽出除去を行う際、洗浄槽1の内部温度を5℃に設定しているが、内部温度は0℃〜40℃の範囲、より好ましくは5℃〜35℃の範囲において任意の温度に設定することができる。温度が低すぎると、洗浄槽1を冷却するための余分なコストが必要となり、逆に高すぎると、コラーゲンが変性する等のダメージを与える傾向がみられるためである。
さらに、上記の実施の形態において、臭気成分の抽出除去を行う際、乾燥コラーゲン3を液体状態の二酸化炭素に30分間浸漬させているが、5分〜60分間、より好ましくは10分〜30分間の範囲の任意の時間浸漬させることができる。浸漬時間が短すぎると、乾燥コラーゲン3に含まれる臭気成分を充分に抽出除去することができなくなり、逆に長すぎると、乾燥コラーゲン3が変性する等のダメージを与える傾向がみられるためである。
また、上記の実施の形態において、臭気成分の抽出除去を行う際、浄化槽1の内部圧力を4.0MPaとしているが、好ましくは3.5MPa〜10.0MPa、より好ましくは4.0MPa〜9.0MPaとすることが望ましい。圧力が低すぎると、二酸化炭素が沸騰して気体となり、脱臭効率が悪くなる傾向がみられ、逆に高すぎると、乾燥コラーゲン3の立体構造を損なう傾向がみられるためである。
そして、上記の実施の形態では、臭気成分の抽出除去を行う際、上記乾燥コラーゲン3を液体状態の二酸化炭素に浸漬しているが、洗浄槽1内の圧力と温度を調整することにより、洗浄槽1内の二酸化炭素を超臨界状態にしてもよい。超臨界状態の二酸化炭素に乾燥コラーゲン3を浸漬すると、臭気成分およびその他の不純物をより多く抽出除去でき、より作業効率の向上および品質の向上が期待できる。また、上記浸漬時間の全てを超臨界状態の二酸化炭素に浸漬させてもよいし、液体状態の二酸化炭素と超臨界状態の二酸化炭素とに浸漬させる時間の合計を上記浸漬時間としてもよい。
つぎに、実施例について、比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
〔実施例1〕
〔図2〕に示す工程において、内径50mm、高さ200mmの円筒容器を洗浄槽1とし、この洗浄槽1内に、上記実施の形態で説明した滅菌用包装材で包装された乾燥コラーゲン3(サケ由来)1gを収容し、洗浄槽1を密閉した。つぎに、サイフォン式の液体状態の二酸化炭素ボンベを供給タンク2とし、この供給タンク2から上記実施の形態で説明したように液体状態の二酸化炭素を洗浄槽1に供給した。このとき、上記乾燥コラーゲン3の全体が液体状態の二酸化炭素に浸漬するようにし、洗浄槽1の内部温度を5℃、内部圧力4.0MPaとした状態で30分間浸漬を継続することにより、乾燥コラーゲン3に含まれる臭気成分を抽出除去した。浸漬終了後、臭気成分を含む使用済み液体状態の二酸化炭素を系外へ排出することにより、実施例1品(無臭化コラーゲン)を得た。
〔実施例2〕
実施例1と同様に液体状態の二酸化炭素を洗浄槽1に供給し、乾燥コラーゲン3の全体を液体状態の二酸化炭素に浸漬させ、直ちに、洗浄槽1をシリコンラバーヒーター(オーエムヒーター社製、100V、60W)で加温し、洗浄槽1の内部温度を35℃、内部圧力8.5MPaとして、上記二酸化炭素を超臨界状態とした。そして、その状態で30分間浸漬を継続することにより、乾燥コラーゲン3に含まれる臭気成分を抽出除去した。浸漬終了後、臭気成分を含む使用済み超臨界状態の二酸化炭素を液体状態にして系外へ排出することにより、実施例2品(無臭化コラーゲン)を得た。
〔実施例3〕
実施例2の抽出除去を3回繰り返し、実施例3品(無臭化コラーゲン)を得た。すなわち、液体状態の二酸化炭素の供給、洗浄槽1の加温、超臨界状態の二酸化炭素への浸漬、臭気成分を含む使用済み超臨界状態の二酸化炭素を液体状態にして系外へ排出までの一連の工程を、同一の乾燥コラーゲン3に対して3回繰り返した。
〔比較例1〕
上記実施の形態で準備した、臭気成分の抽出除去処理前の乾燥コラーゲン3(サケ由来)1gを比較例1品とした。
〔比較例2〕
実施例1の液体状態の二酸化炭素に代えて、気体状態の二酸化炭素を用いた処理を行ったものを比較例2品とした。すなわち、乾燥コラーゲン3を収容した洗浄槽1内を気体の状態の二酸化炭素で満たし、洗浄槽1の内部温度20℃、内部圧力を4.0MPaの状態にし、30分間その状態を継続する処理を行った。
得られた実施例1〜3品、比較例1品および比較例2品について、〔ガスクロマトグラフィー〕および〔官能検査〕により、臭いを評価した。評価したサンプル、評価方法および得られた結果を下記に示す。
〔ガスクロマトグラフィー〕
実施例品1〜3品および比較例1品を、それぞれを0.5g採取し、20mLのバイヤル瓶に入れ密栓した。これらの密栓したバイヤル瓶をオートサンプラにて60℃、15分間加温した後、ヘッドスペース部の気体5mLを70℃に設定したシリンジでサンプリングし(ヘッドスペース注入速度:270μL/秒)、下記に示す測定条件で、ガスクロマトグラフィー(αHeracles、Alpha M.O.S社製)で測定した。測定したクロマトグラムを〔図3〕およびその部分拡大図である〔図4〕に示し、検出したピークの面積を〔図5〕および〔図6〕に示す。また、検出された化合物の一覧を下記の〔表1〕に示す。
(測定条件)
検出装置:フラッシュフィンガープリントアナライザー(αHeracles、Alpha M.O.S社製)
カラム1:DB−5(無極性)、直径100μm、長さ2m
カラム2:DB−1701(低/中極性)、直径100μm、長さ2m
キャリアガス:水素
カラム温度:40℃(10秒)→(5℃/秒で昇温)→250℃(5秒)
検出器:FID
インジェクタ温度:200℃
トラップ条件:吸着温度40℃、離脱温度250℃
プレパージ時間:5秒
トラッププレヒート時間:20秒
トラップクリーニング時間:60秒
注入時間:1.5秒
Figure 0005726593
ガスクロマトグラフィーにて測定した結果、〔図3〕〜〔図6〕に示すように、実施例1〜3品は、比較例1品と比較して、臭気成分が著しく低減されていた。特に、実施例1〜3品は、run time7.56秒付近で測定される不快な臭気成分であるペンタン−2−オン、1−ペンテン−3−オール、2,3−ペンタンジオンや、run time19.59秒付近で測定される1−オクテン−3−オールが全く検出されなかった(〔図3〕、〔図5〕参照)。
〔官能検査〕
モニター(女性)10名により、実施例1品、実施例3品および比較例2品が、未処理の乾燥コラーゲン(比較例1品)に対し、どの程度臭いが低減されているかを検査した。なお、検査は、各サンプルを10mg手のひらに取り、精製水0.2mLを滴下しこれに溶解させた後、直ちに臭いを嗅ぐことで行った。評価は下記の〔表2〕に示す3段階評価とし、評価した人の人数を〔表2〕に併せて示す。
Figure 0005726593
官能検査の結果、上記〔表2〕に示すように、実施例1品では90%、実施例3品では70%の人が、明らかに臭いが低減されていると感じていた。したがって、官能検査においても、各実施例品が無臭化されていることが明確となった。一方、比較例2品は全員が未処理の乾燥コラーゲンとの明確な違いを感じることができず、無臭化が図られていなかった。
本発明の無臭化コラーゲンの製法は、コラーゲンの三重らせん構造を損なうことなく、コラーゲンに含まれる臭気成分を抽出除去でき、これにより得られた無臭化コラーゲンは、食品、化粧品等に配合するのに適している。

Claims (5)

  1. 魚類からコラーゲンを抽出し、乾燥させてなる魚類由来の乾燥コラーゲンを準備する工程と、内部温度が0℃〜40℃の範囲にある密閉空間内で、上記乾燥コラーゲンを有機溶媒不含の液体状態もしくは超臨界状態の二酸化炭素に5分〜60分間浸漬し、上記乾燥コラーゲンに含まれる臭気成分を抽出除去する工程とを有することを特徴とする無臭化コラーゲンの製法。
  2. 上記臭気成分を抽出除去する工程において、乾燥コラーゲンを滅菌用包装材で包装した状態で液体状態もしくは超臨界状態の二酸化炭素に浸漬する請求項1に記載の無臭化コラーゲンの製法。
  3. 上記請求項1記載の製法により得られた魚類由来の無臭化コラーゲンであって、上記無臭化コラーゲンを60℃で15分間加温した際に放出される成分として、1−オクテン−3−オールが、ガスクロマトグラフィーにおける測定によって検出されないものであることを特徴とする無臭化コラーゲン。
  4. 上記請求項1記載の製法により得られた魚類由来の無臭化コラーゲンであって、上記無臭化コラーゲンを60℃で15分間加温した際に放出される成分として、ペンタン−2−オン、1−ペンテン−3−オールおよび2,3−ペンタンジオンからなる群から選ばれた少なくとも一つが、ガスクロマトグラフィーにおける測定によって検出されないものであることを特徴とする無臭化コラーゲン。
  5. 上記魚類由来の無臭化コラーゲンが、滅菌された状態である請求項または記載の無臭化コラーゲン。
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