JP5710155B2 - 植物細胞培養培地及びこれを利用した植物細胞培養方法 - Google Patents

植物細胞培養培地及びこれを利用した植物細胞培養方法 Download PDF

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Description

本発明は植物細胞培養培地及びこれを利用した植物細胞培養方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、特にアブラギリ属及びナンヨウアブラギリ属の胚乳細胞の培養に好適な植物細胞培養培地及びこれを利用した植物細胞培養方法に関する。
近年、化石燃料の代替エネルギーとして植物バイオマスを利用するニーズの高まりを受け、バイオディーゼル燃料生産への適用が可能な油糧植物の急速なプランテーション化が進行している。トウダイグサ科のナンヨウアブラギリ属やアブラギリ属は、種子に30重量%程度の油脂を含むことから新たなプランテーション用植物として注目されている。しかしながら、育種研究は行われておらず、高油脂含量などの良形質を持つ品種が十分に選抜または作出されてはいない。現状では油脂貯蔵器官の発生や油脂合成及び蓄積機構には不明な点が多く、生産性の早期評価手法や決定的な生産性強化遺伝子は見いだされていない。ナンヨウアブラギリ属やアブラギリ属植物の栽培には大規模温室や圃場が必要となると同時に発芽から種子収穫までに数ヶ月の期間を要するなどの制約が研究推進の妨げとなっており、油脂生産に関与する遺伝子や環境要因を迅速かつ網羅的に評価する技術が十分に確立されていない。油脂生産性に関与する遺伝子や環境要因の機能及び効果を迅速かつ網羅的に評価し研究するためにはナンヨウアブラギリ属やアブラギリ属油脂生産性評価に利用可能なツールの開発が必要となる。
種子において、油脂はデンプン及び糖質と同様に発芽時のエネルギー源(養分)として種子中に貯蔵される。ナンヨウアブラギリ属やアブラギリ属は、種子容積の60〜70体積%を占める高度に発達した胚乳に油脂を貯蔵する。従って、ナンヨウアブラギリ属やアブラギリ属で油脂成分や含有量の改変を育種目標とした場合には胚乳が研究対象となる。
胚乳を構成する細胞は重複受精によって発生した特殊な細胞であるため、一般に広く利用される体細胞(未成熟胚、胚、子葉、胚軸、根、茎、葉など)を利用した研究では胚乳細胞で起こる事象を適切に模擬したり評価することができない。そのため、古くから胚乳からの細胞プロトプラスト調製法が開発され、酵素学研究や分子生物学研究に用いられてきた(非特許文献1及び2)。ただし、胚乳細胞プロトプラストの特性として、発育ステージの進んだ細胞(貯蔵物質が蓄積して肥大した細胞)では、調製時の物理的損傷が大きく生存率が著しく低下することが報告されている(非特許文献3〜5)。高品質の胚乳プロトプラスト調製のためには成熟前・成熟中の胚乳を収集する必要があるが、多量の植物試料が必要となり同発育ステージの細胞調製は困難を極める。
Gallie, D.R. and T.E. Young, The regulation of gene expression in transformed maize aleurone and endosperm protoplasts. Analysis of promoter activity, intron enhancement, and mRNA untranslated regions on expression. Plant Physiol, 1994. 106(3): p. 929-39. Nishimura, M. and H. Beevers, Isolation of Intact Plastids from Protoplasts from Castor Bean Endosperm. Plant Physiol, 1978. 62(1): p. 40-43. Schwall, M. and G. Feix, Zein promoter activity in transiently transformed protoplasts from maize. Plant Sci., 1988. 56: p. 161-166. Keeling, P.L., S. Baird, and R.H. Tyson, Isolation and properties of protoplasts from endosperm of developing wheat grain. Plant Sci., 1989. 65: p. 55-62. Diaz, I., J. Royo, and P. Carbonero, The promoter of barley trypsin-inhibitor BTI-CMe, discriminates between wheat and barley endosperm protoplasts in transient expression assay. Plant Cell Rep., 1993. 12: p. 698-701.
一般に、特定の組織や細胞を対象とした研究では、均質な植物試料を調製するためにも培養細胞の利用が有効である。すなわち、胚乳に由来する培養細胞を開発することで、試料調製に要する時間が飛躍的に短縮され、細胞調製の手間を省略できる。さらに培養細胞はタンパク質、糖質・脂質など代謝産物の解析に有効であると同時に、遺伝子またはタンパク質を一過的に発現させることで酵素活性等を解析する際にも利点が多い。
しかしながら、ナンヨウアブラギリ属やアブラギリ属植物の胚乳細胞の培養技術は現在のところ確立されておらず、上記解析等を満足に行うことができない状況にある。
そこで、本発明は、ナンヨウアブラギリ属やアブラギリ属の植物の胚乳細胞について効果的な細胞培養を実現することができる植物細胞培養培地及びこれを利用した植物細胞培養方法を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行った結果、植物細胞を培養するための基本培地に、サイトカイニン及びオーキシンを添加すること、これらの添加量を特定の範囲とすること、並びにサイトカイニンをベンジルアデニンとすると共にオーキシンは3−インドール酢酸及び/又は2,4−ジクロロフェノキシ酢酸とすることによってアブラギリ属植物やナンヨウアブラギリ属植物の胚乳細胞の成長を飛躍的に向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、請求項1記載の発明の植物細胞培養培地は、植物細胞を培養するための基本培地に、サイトカイニンを5〜20μmol/L及びオーキシンを5〜20μmol/L添加するようにし、サイトカイニンをベンジルアデニンとすると共にオーキシンは3−インドール酢酸及び/又は2,4−ジクロロフェノキシ酢酸とするようにしている。これにより、アブラギリ属植物及びナンヨウアブラギリ属植物の胚乳細胞の成長が飛躍的に向上する。
次に、請求項記載の発明の植物細胞培養方法は、請求項1に記載の植物細胞培養培地を用いてアブラギリ属植物またはナンヨウアブラギリ属植物の胚乳細胞を培養するようにしている。したがって、アブラギリ属植物及びナンヨウアブラギリ属植物の胚乳細胞の成長が飛躍的に向上する。
ここで、請求項3記載の発明のように、アブラギリ属植物またはナンヨウアブラギリ属植物はシナアブラギリ(Aleurites fordii)とし、胚乳は短径が8〜12mmのシナアブラギリの種子から収集することが好ましい。これにより、未分化の胚乳細胞が効率良く収集される。即ち、種子の短径が12mm以下であることにより、得られる胚乳細胞は未分化なものとなり、また種子の短径が8mm以上であることにより、収集作業が容易になり胚乳細胞のみが確実に収集されるようになる。
また、請求項記載の発明のように、培養温度は16〜27℃であることが好ましい。これにより、胚乳細胞の成長が更に向上する。
請求項1記載の植物細胞培養培地によると、アブラギリ属植物及びナンヨウアブラギリ属植物の胚乳細胞の成長を飛躍的に向上することができる。
請求項記載の植物細胞培養方法によると、請求項1に記載の植物細胞培養培地を用いているので、アブラギリ属植物及びナンヨウアブラギリ属植物の胚乳細胞の成長を飛躍的に向上することができる。
また、請求項記載の植物細胞培養培地によれば、短径が8〜12mmのシナアブラギリの種子から胚乳を収集しているので、未分化の胚乳細胞を効率良く収集することができるようになる。即ち、種子の短径が12mm以下であることにより、未分化な胚乳細胞を得ることができるようになり、また種子の短径が8mm以上であることにより、収集作業を容易にして胚乳細胞のみを確実に収集できるようになる。
さらに、請求項記載の植物細胞培養方法もよれば、培養温度は16〜27℃であるので、胚乳細胞の成長を更に向上することができる。
本発明の植物細胞培養培地を利用した植物細胞培養方法により形成したカルスを示す実体顕微鏡写真であり、Bar=5mmである。 シナアブラギリの種子の短径と長径の関係を示すグラフである。 図2に示す短径と長径の相関のヒストグラムを示すグラフであり、逆三角は平均、バーは標準偏差、***はp<0.001(t検定))である。 ステージIの未成熟種子の胚乳と未成熟胚を示す実体顕微鏡写真であり、(A)は胚乳、(B)は胚乳から取り出した未成熟胚、(C)は未成熟胚を拡大したものであり、Bar=1mmである。 ステージIIの未成熟種子の横断面を示す実体顕微鏡写真であり、Bar=2mmである。 ステージIIIの未成熟種子の胚乳成熟方向を示す実体顕微鏡写真であり、(A)は胚乳、(B)は別の胚乳、(C)は(A)の胚乳の連続切片、(D)は(B)の胚乳の連続切片であり、Bar=5mmである。 ステージIVの種子の横断面を示す実体顕微鏡写真であり、(A)は横断切片(Bar=2mm)、(B)は(A)の囲み部分の拡大(Bar=0.5mm)、(C)は(A)を分解した状態(Bar=2mm)である。 ステージI〜IVの胚乳発達を示す模式図である。 カルスの増殖を示す図であり、(A)は培養期間とカルス重量との関係を示すグラフ、(B)は移植直後のカルスの写真、(C)は2週間培養後のカルスの写真を示す。
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
本発明では、植物細胞を培養するための基本培地に、サイトカイニン及びオーキシンを添加した植物細胞培養培地を用いて、アブラギリ属植物またはナンヨウアブラギリ植物の胚乳細胞を培養するようにしている。
植物細胞を培養するための基本培地としては、例えば、Murashige Skoog(MS)培地やB5培地等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、培地は、液体状態としてもよいが、寒天等の支持材を添加して固体状態としてもよい。具体的には、3重量%スクロースを含むpH5.8のMurashige Skoog(MS)培地(WAKO)に、支持材として寒天0.8重量%を添加したものを好適に用いることができるが、これに限定されるものではない。
サイトカイニンは、天然物でも合成物でも本発明の培地に用いることができる。具体的には、例えば、ベンジルアデニン、6−メチルアミノプリン(MAP)、2−イソペンテニルアミノプリン(2−iP)、カイネチン、ゼアチン、チアジアズロン、またはこれらの2種以上の混合物等を用いることができ、ベンジルアデニンを用いることが好適であるが、本発明の培地に用いることができるサイトカイニンはこれらに限定されるものではない。
オーキシンは、天然物でも合成物でも本発明の培地に用いることができる。具体的には、例えば、3−インドール酢酸、ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、ナフタレン酢酸(NAA)、 インドール酪酸(IBA)、4−CPA、1−ナフチルアセトミド、エチクロゼート、クロキシホナック、ジクロルプロップ、またはこれらの2種以上の混合物等を用いることができ、3−インドール酢酸、ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)を用いることが好適であり、3−インドール酢酸を用いることがより好適であるが、本発明の培地に用いることができるオーキシンはこれらに限定されるものではない。
本発明の培地には、サイトカイニンとオーキシンの双方が培地に添加されている。これにより、サイトカイニンとオーキシンをそれぞれ単独で添加する場合に比べて、アブラギリ属植物及びナンヨウアブラギリ属植物の胚乳細胞の成長が飛躍的に向上する。
ここで、サイトカイニンの添加量は、5〜20μmol/Lとすることが好適であり、10〜20μmol/Lとすることがより好適であり、10μmol/Lとすることがさらに好適である。また、オーキシンの添加量は、5〜20μmol/Lとすることが好適であり、10〜20μmol/Lとすることがより好適であり、10μmol/Lとすることがさらに好適である。サイトカイニンとオーキシンの添加量をそれぞれ10μmol/Lに近づけるないしは一致させることで、アブラギリ属植物及びナンヨウアブラギリ属植物の胚乳細胞の成長が更に飛躍的に向上する。
アブラギリ属植物及びナンヨウアブラギリ属植物の胚乳細胞は、本発明の培地を用いて、以下のようにして培養される。
まず、本発明の培地を利用して胚乳細胞を培養するに先立って、植物片を形成する。この植物片は、アブラギリ属植物及びナンヨウアブラギリ属植物の未成熟果実から未成熟種子を採種し、未成熟種子表面を滅菌した後に殻を取り、一定の大きさ(例えば短径サイズが一定のもの)の種子を選択し、果皮を除去した胚珠端部(子葉を含まない)を例えばアンチホルミン等で殺菌し、蒸留水等で洗浄することにより得られる。この植物片は、珠皮、珠心、胚乳から構成される。この植物片を例えば子葉に対して垂直方向にスライスした切片とし、本発明の培地に置床する。
例えば、シナアブラギリの胚乳細胞の培養を行う場合を例に挙げて具体的に説明すると、シナアブラギリの結実後1〜4ヶ月と推定される未成熟果実から未成熟種子を採種し、その未成熟種子を70体積%エタノールに10分間浸漬し、種子表面を滅菌した後に殻を取る。そして、短径8〜12mmの種子を選択し、果皮を除去した胚珠端部(子葉を含まない)をアンチホルミン(有効塩素濃度1重量%)に5分間浸漬した後、蒸留水で3回洗浄して珠皮、珠心、胚乳から構成される植物片を得る。そして、この植物片を子葉に対して垂直方向にスライスし、厚さ1.0〜2.0mmの切片とし、植物細胞培養培地に置床する。
そして、培養は16℃〜27℃、好適には20℃〜25℃、より好適には23℃とし、一定日長(例えば16時間日長)の培養室で行い、一定期間培養後(例えば1ヶ月培養後)に、増殖した細胞を同条件の新たな培地に移植し、以後一定期間(例えば2週間)毎に継代を繰り返すようにする。これにより、アブラギリ属植物及びナンヨウアブラギリ属植物の胚乳細胞の継代を行うことができる。
ここで、短径が8〜12mmのシナアブラギリの種子から胚乳を収集することにより、未分化の胚乳細胞を効率良く収集することができるようになる。即ち、種子の短径が12mm以下であることにより、未分化な胚乳細胞を得ることができるようになり、また種子の短径が8mm以上であることにより、収集作業を容易にして胚乳細胞のみを確実に収集できるようになる。
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるが、これに限定されるもの
ではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、アブラギリ属植物及びナンヨウアブラギリ属植物の具体例として、シナアブラギリを用いた場合について説明したが、シナアブラギリ以外にも例えばアブラギリ、カントンアブラギリ、ククイノキ、フィリピンアブラギリ、ナンヨウアブラギリ、サンゴアブラギリ、モミジバサンゴアブラギリ、ニシキサンゴ、ナンヨウザクラ、アカバヤトロファ、サケバヤトロファ等に適用することも可能である。
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
(1)シナアブラギリの胚乳組織の選定
シナアブラギリは4〜5月に開花し受粉と受精を経て結実する。その際、前胚乳組織は分裂と増殖を繰り返し、その後油脂合成を開始して10月頃には高レベルの油脂を蓄積する。培養細胞調製のためには分裂及び増殖能力を維持した肥大前の胚乳を単離する必要があるが、自生するシナアブラギリ胚乳発生時期の詳細は明らかではない。そこで、開花後のシナアブラギリ果実を収集し、培養細胞開発に適した発育時期及び種子の大きさを決定した。実験材料としては、静岡県島田市に自生するシナアブラギリを用いた。
(1−1)シナアブラギリの胚乳肥大時期
(実施例1)
未成熟種子を結実後1〜4ヶ月と推定される未成熟果実から採種した。未成熟果実は3〜4個の子房で構成され1室あたり1つの胚珠(未成熟種子)を含んでいた。その未成熟種子は70体積%エタノールに10分間浸漬し、種子表面を滅菌した後に殻を取り除いて、長径と短径とをスケールで計測した。その結果を図2に白丸で示す。その結果、結実4ヶ月までは両軸方向へ種子生長が直線的に進行することが明らかとなった(R2 =0.9137)。また、得られた短径/長径比のヒストグラムを図3に白抜きで示す。
(比較例1)
成熟種子を自然落下していた乾果から採種した。その殻を取り除いた後に、長径と短径とをスケールで計測した。その結果を図2に黒丸で示す。その結果、成熟種子では長径16.9〜23.0mm、短径13.5〜20.4mmであり、結実4ヶ月を超えると短径方向へ生長することが判明した。また、得られた短径/長径比のヒストグラムを図3に黒抜きで示す。
図3に示すように、短径/長径比のヒストグラムから成熟時には未成熟時に比較して短径が有意に肥大することが確認された。
以上、図2及び図3に示す結果は、シナアブラギリの種子の長径方向への生長は結実3〜4ヶ月頃に完了し、その後は短径方向への生長に特化することを示している。従って、この時期に種子における細胞分裂及び増殖期から物質貯蔵期への転換が起こることが推察される。
(1−2)胚乳発達過程
胚乳肥大時期と発達方向の詳細を明らかにするため、短径サイズを元に採種した未成熟種子の発達過程を4ステージに分類して実体顕微鏡観察を行った。短径1〜4mmの種子をステージI(推定:結実1ヶ月以内)、4〜8mmの種子をステージII(推定:結実2ヶ月以内)、8〜12mmの種子をステージIII(推定:結実3ヶ月以内)、12mm以上の種子をステージIV(推定:結実4ヶ月以内)として分類した(表1)。
(実施例2)
ステージIの未成熟種子を用いて観察を行った。その結果、シナアブラギリ胚珠では基部に長径0.5〜1mmの受精胚が観察され、透明な扁平構造の胚乳に内包されていた(図4(A),(B))。この時期の胚では既に幼根、胚軸、子葉の分化が認められ、内部の維管束構造も観察された(図4(C))。
(実施例3)
ステージIIの未成熟種子を用いて最長短径部から横断切片を作製し観察を行った。その結果、発達した珠心が認められる一方で、子葉周りに約1mmの胚乳層が観察された(図5)。
(実施例4)
ステージIIIの未成熟種子を用いて果皮および珠心を除去し胚乳の観察を行った。さらに、胚乳の基部から厚さ1.5〜2.0mmの連続切片を形成し順に並べ比較した。その結果、この時期には基部付近でのみ胚乳肥大が認められる胚珠が存在した(図6(A)(B))。また、連続切片では、基部の胚乳肥大部では全体が、端部では表層が成熟胚乳と同様に乳白色へと変化していた(図6(C)(D))。この結果は、シナアブラギリ種子では珠心に近傍する胚乳表層から順次成熟し、基部から端部へと成熟が進行することを示している。
(比較例2)
ステージIVの未成熟種子を用いて観察を行った。その結果、既に胚乳肥大がほぼ完了し、珠心の挫滅が観察された(図7)。
上記の結果から、短径に基づいて分類することでシナアブラギリの胚乳発達時期を推定することが可能とあることが判明した。また、ステージI〜IVの胚乳発達の過程を模式図として図8に示す。同図に示すように、肥大前の胚乳はステージIII以前、すなわち短径12mm以下の種子に存在する。基部から順に肥大することから、端部付近の胚乳を収集することで発達前の胚乳を効率よく収集できると考えられた。その一方で、ステージIのように小さい種子であると胚乳が微小のため収集作業の作業性が悪く、また収集できる細胞数も少ない。
したがって、未分化胚乳細胞を効率よく収集するために、以下ではステージIIIの短径8〜12mmのシナアブラギリ未成熟種子を用いることとした。
(2)カルス誘導条件の検討
シナアブラギリ植物片からのカルス誘導(細胞の脱分化)に際する各種条件を検討した。使用した植物片は、ステージIIIの果皮を除去した胚珠端部(子葉を含まない)をアンチホルミン(有効塩素濃度1重量%)に5分間浸漬した後、蒸留水で3回洗浄したものとした。この植物片は、珠皮、珠心、胚乳から構成される。
基本培地は、3重量%スクロースを含むpH5.8のMurashige Skoog(MS)培地(WAKO)とし、支持材は寒天0.8重量%とした。添加する植物ホルモンは、合成サイトカイニン(ベンジルアデニン:BA)を0〜20μmol/L、合成オーキシン(2,4−ジクロロフェノキシ酢酸:2,4−D)または天然オーキシン(3−インドール酢酸:IAA)を0〜20μmol/Lの濃度で用いた。
上述した植物片を子葉に対して垂直方向にスライスし、厚さ1.5〜2.0mmの切片とし、様々な条件の植物ホルモンを含む上述した培地に置床した。
(2−1)サイトカイニンおよびオーキシン濃度の影響
カルス誘導に際して、2種の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン)の濃度条件を検討した。培養は23℃、16時間日長の培養室で行い、1ヶ月培養後にカルス形成の有無を実体顕微鏡下で判定した。
(比較例3〜5)
2,4−Dを単独で添加した場合は、いずれの濃度(5,10,20μmol/L)でも置床した植物片からはカルス形成は認められなかった(表2)。
(比較例6〜8)
IAAを単独で添加した場合は、2,4−Dと同様にいずれの濃度(5,10,20μmol/L)でもカルス形成は全く観察されなかった(表3、図1)
(比較例9〜14)
BAを単独で添加した場合は、カルス形成は11.1〜22.2%と低頻度で観察された(表2,3、図1)。
(実施例5〜13)
BA及び2,4−Dの両方を添加した場合は、全ての実験区でカルス形成が認められた(表2)。BA:10μmol/L、2,4−D:10μmol/L添加培地(実施例9)で、カルス形成率が最高の77.8%となった。これはBA:10μmol/Lのみを添加した比較例10のカルス形成率11.1%と2,4−D:10μmol/Lのみを添加した比較例4のカルス形成率0%とを合計した値より飛躍的に大きくなった。
また、例えば、BA:5μmol/L、2,4−D:5μmol/Lを添加した実施例5ではカルス形成率は33.3%であるが、この場合もBA:5μmol/Lのみを添加した比較例9のカルス形成率11.1%と2,4−D:5μmol/Lのみを添加した比較例3のカルス形成率0%とを合計した値より飛躍的に大きくなった。
(実施例14〜22)
BA及びIAAの両方を添加した場合は、全ての実験区でカルス形成が認められた(表3、図1)。また、図1に示すように、カルスにおいて、胚乳からの増殖細胞(図中、明色*)及び珠皮からの増殖細胞(図中、暗色*)が観察された。一方、珠心からの細胞増殖は観察されなかった。そして、BA:10μmol/L、IAA:10μmol/L添加培地(実施例18)で、カルス形成率が最高の100%となった。これはBA:10μmol/Lのみを添加した比較例13のカルス形成率11.1%とIAA:10μmol/Lのみを添加した比較例7のカルス形成率0%とを合計した値より飛躍的に大きくなった。
また、例えば、BA:5μmol/L、IAA:5μmol/Lを添加した実施例14ではカルス形成率は44.4%であるが、この場合もBA:5μmol/Lのみを添加した比較例12のカルス形成率11.1%とIAA:5μmol/Lのみを添加した比較例6のカルス形成率0%とを合計した値より飛躍的に大きくなった。
実施例18では、1ヶ月培養後に、増殖した細胞を同条件の新たな培地に移植し、以後2週間毎に継代を繰り返した(図9)。その結果、移植後も安定して増殖が進行し、最初の14日で新鮮重は約15倍程度に増加した。増殖能は少なくとも5回継代後(70日後)も維持されており、1年以上安定して継代培養可能と推測された。
(2−2)培養温度の影響
継代カルスにおける好適な培養温度の検討を行った。
(実施例23〜25)
カルス塊を継代した後に、温度16〜27℃で2週間培養した(表4)。その結果、増殖が認められた。特に、温度23℃(実施例24)で、カルス形成率が最高の100%となった。
(比較例15,16)
カルス塊を継代した後に、温度4、33℃で2週間培養した(表4)。その結果、増殖は認められなかった(表4)。
したがって、上述した実施例の結果より、シナアブラギリ胚乳由来カルスの誘導および寒天培地上での継代培養条件の植物ホルモン濃度は、サイトカイニン:5〜20μmol/L、オーキシン:5〜20μmol/Lが好ましく、またサイトカイニン:10〜20μmol/L、オーキシン:10〜20μmol/Lがより好ましく、サイトカイニン:10μmol/L、オーキシン:10μmol/Lが最も好ましいことが判明した。また、サイトカイニンとしてはBA、オーキシンとしてはIAAが好ましいことが判明した。さらに、培養温度については、16〜27℃が好ましく、23℃が最も好ましいことが判明した。
また、本実施例はアブラギリ属シナアブラギリについて行っているが、同様の性状を有するアブラギリ属植物及びナンヨウアブラギリ属植物についても同様の結果を得られると推測される。
本植物細胞培養培地及びこれを利用した植物細胞培養方法は、アブラギリ属及びナンヨウアブラギリ属の胚乳細胞の培養技術として使用される。特に、細胞増殖を高度に実現する技術として好適に利用される。

Claims (4)

  1. 植物細胞を培養するための基本培地に、サイトカイニンを5〜20μmol/L及びオーキシンを5〜20μmol/L添加し、前記サイトカイニンはベンジルアデニンであり、前記オーキシンは3−インドール酢酸及び/又は2,4−ジクロロフェノキシ酢酸であることを特徴とするアブラギリ属植物またはナンヨウアブラギリ属植物の胚乳細胞培養用の植物細胞培養培地。
  2. 請求項1に記載の植物細胞培養培地を用いて、アブラギリ属植物またはナンヨウアブラギリ属植物の胚乳細胞を培養することを特徴とする植物細胞培養方法。
  3. 前記アブラギリ属植物またはナンヨウアブラギリ属植物はシナアブラギリ(Aleurites fordii)であると共に、前記胚乳は短径が8〜12mmの種子から収集したことを特徴とする請求項2に記載の植物細胞培養方法。
  4. 前記培養の培養温度は16〜27℃であることを特徴とする請求項2又は3に記載の植物細胞培養方法。
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