JP5676892B2 - サイトグロビン遺伝子ノックアウト非ヒト癌モデル動物 - Google Patents

サイトグロビン遺伝子ノックアウト非ヒト癌モデル動物 Download PDF

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本発明は、哺乳類で4つ存在するグロビン(ヘモグロビン、ミオグロビン、ニューログロビン、サイトグロビン)のうちの一つであるサイトグロビンの遺伝子発現が人為的に抑制されている非ヒト動物の、癌のモデル動物としての利用に主に関する。更に、本発明は、当該非ヒト動物を利用して、癌に対する医薬や癌のマーカーなどのスクリーニング方法にも関する。
ウイルス性、自己免疫性等の病因の如何に拘わらず、肝細胞の慢性的破壊が惹起されると元々肝細胞の存在した部位(実質)には線維芽細胞が増殖し、その細胞が産生分泌するコラーゲンが沈着して肝線維化が誘導され、更にそれが進行した場合は最終的に肝硬変となる(非特許文献1)。肝硬変が生じると、黄疸、腹水、脳症、食道静脈瘤等の生命を脅かす合併症を生じるのみならず、肝硬変からは年率7〜8%の割合で肝癌が発症する。従って、肝線維化と肝硬変を抑制する手法の開発のためにも、肝線維化自体の分子・細胞学的理解は不可欠であり、1980年以降精力的に研究が行われてきた。特に、肝臓内でコラーゲンを産生する細胞がビタミンA貯蔵を主とした働きとしている星細胞であることが証明されてからは、本細胞の持つ特異機能の解析が飛躍的に発展してきた(非特許文献2)。
近年、肝臓を構成する細胞の分離および初代培養技術は著しい進歩を遂げている(非特許文献3)。肝細胞のみならず、非実質細胞であるKupffer細胞、内皮細胞、星細胞、pit細胞、胆管上皮細胞が分離可能となっており、これらの非実質細胞について数多くの研究がなされている。その結果、肝細胞代謝の恒常性維持と肝局所炎症反応における肝非実質細胞の重要性が認識されるようになり、特に、星細胞の機能が注目を集めている。
肝臓非実質細胞の一つが星細胞である。星細胞は肝臓内でビタミンAを主とする脂肪を貯蔵する細胞として発見された(非特許文献4)。肝細胞と毛細血管である類洞との間の空間(Disse腔)に存在し、類洞を細胞体から分枝した細胞突起で取り囲むように配置している。その形態から、星細胞は他臓器における周皮細胞(pericyte)に相当すると考えられている。事実、星細胞の収縮性が報告されており、本細胞が収縮・弛緩運動することで類洞の微小循環動態を調節することが証明されている(非特許文献5)。
星細胞がラットやマウス等の小動物から分離培養ができるようになると、プラスチックシャーレ上で培養された星細胞がコラーゲンを産生することが判明した(非特許文献6)。即ち、従来は肝臓内でコラーゲンを産生する細胞は肝細胞であると考えられていたが、実際には、培養肝細胞には星細胞が混在しており、星細胞こそが細胞外マトリックス物質を産生する主要な細胞であることが証明された。つまり、I、III、IV型コラーゲンに加えて、フィブロネクチン、ラミニン、プロテオグリカン等の細胞外マトリックス分子は、星細胞が産生することが明らかにされた(非特許文献7)。
星細胞は、肝炎等において惹起された炎症が持続すると、いわゆる「活性化」と呼ばれる機能変化をとげて、筋線維芽細胞(myofibroblast、MFB)へと形質をかえる。ラットやマウスから星細胞を分離し、プラスチックシャーレ上で培養しておくと、無刺激でも自然に活性化が生じることが観察され、よい実験モデルとして汎用されている。このように活性化された星細胞においては、以下のような細胞機能の変化が生じることはよく知られている(非特許文献8)。(1)細胞体が大きくなり、ビタミンAの貯蔵量が減少する。(2)平滑筋型α-アクチン(smooth muscle α-actin)の発現が上昇し、細胞の収縮力が増す。(3)I型コラーゲンを含む細胞外マトリックス物質の産生が著明に増加する。(4)TGFβ(transforming growth factorβ)、IGF-I(insuline-like growth factor I)、PDGF-BB(platelet-derived growth factor BB)等の、臓器線維化を促進する各種成長因子及びそれらの受容体の発現が著明に増加する。(5)マトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase, MMP)の阻害物質であるTIMP(tissue inhibitor of MMP, TIMP)の産生が増加する。(6)遊走能の亢進がみられる。
従って、星細胞の活性化又はMFB化は肝臓の線維化過程に深く関与していることが考えられる。実際にヒトの慢性肝炎や肝硬変組織の線維性隔壁部には細胞外マトリックスとともに、平滑筋型α-アクチン陽性の活性化された星細胞が多数存在する。また、活性化星細胞がPDGF-BBなどの成長因子のmRNAを発現していることもin situ hybridizationで調べられている(非特許文献9)。そこで、星細胞活性化の分子機構の解析は、肝線維化の病態の理解に役立つばかりでなく、新しい診断法や治療法の開発に有用であると考えられている。
この星細胞活性化機構を詳しく調べる目的で、これまでに発明者らは様々な解析を行ってきた。その一つとして、プロテオミクスを用いた解析を行った(非特許文献10)。その過程で、等電点電気泳動でpI7の位置に存在し、分子量21 kDの蛋白スポットのペプチド配列が未知の新規タンパク質を見出した。その新規タンパク質のペプチド配列の情報を基にcDNAをクローニングしたところ、2028ベースペアー長のクローンが得られた。これをシークエンスしたところ、当時遺伝子配列がデーターベースに存在しない新しい遺伝子であり[Accession number NM_130744、Rattus norvegicus cytoglobin (Cygb), mRNA]、190の
アミノ酸からなり分子量21,496ダルトンであることが判った(非特許文献11)。この蛋白質をstellate cell-activation associated protein (STAP)と名付けた。その後、この蛋白質は他のグロビンと似ていることから、サイトグロビン(cytoglobin, Cygb)と呼ばれるようになった(非特許文献12)。このCygb(ラット)のN末端側NH2-MEKVPGDMEIERRERNEE+Cys-COOHを抗原としてウサギに免疫して抗ペプチド抗体を作製した。この抗体を用いて免疫染色をすると、ラット分離培養した星細胞の活性化に伴い細胞内で蛋白質は発現増加した。また、ラットに肝臓毒であるチオアセトアミドを用いて肝硬変に近い線維化を誘導するとその線維隔壁に沿って、平滑筋型α-アクチン陽性の星細胞が存在する位置にCygbが強陽性であった。これらの知見から、Cygbは星細胞の活性化や肝臓の線維化と密接に関係する分子であることが判った。
尚、ヒト[NM_134268、Homo sapiens cytoglobin (CYGB), mRNA ]とマウス[NM_030206、Mus musculus cytoglobin(Cygb), mRNA ]からもcygb遺伝子が報告された。ヒトでは第17番染色体上に、マウスでは第11番染色体上に存在する。
一方、発明者らは、サイトグロビンの発現をラットの各種臓器の免疫染色で検討した。その結果、サイトグロビンは肝臓の星細胞のみならず、脾臓の細網細胞、膵臓の星細胞、腎臓の線維芽細胞、消化管の線維芽細胞などにも発現していることが確認された(非特許文献13)。これらの細胞は内臓の中でビタミンAを貯蔵することのできる細胞として知られている。即ち偶然にも、サイトグロビンは、ビタミンA貯蔵型線維芽細胞のマーカーになることが判明した。更に、本発明者らは膵臓や腎臓の慢性炎症時にこれら臓器の線維化と共にサイトグロビンが誘導されることも確認している。
続いて、リコンビナントヒトCygbタンパク質を作製して機能解析した結果、このタンパク質はミオグロビンと相同性の高いヘム蛋白であり、酸素や一酸化炭素と結合することができることが判明した(非特許文献14)。更に、本発明者らは、理化学研究所播磨Spring8との共同研究でCygbタンパク質を結晶化させ、その構造の解析を行った結果、Cygbは鉄とIX型プロトポルフィリンから成るヘムを含有するタンパク質であり、ヘモグロビン、ミオグロビン、ニューログロビンに続く哺乳類第4番目のグロビンタンパク質であることが判った。Cygbのヘムはヒスチジンのイミダゾール基で両側から固定されており、ヘモグロビンやミオグロビンとは異なる非常にユニークなhexacoordinate型のヘモグロビンファミリー(前者はpentacoordinate型のグロビン)を形成することが判明した(非特許文献15)。更に、Cygbは細胞を酸化ストレスから保護する作用のあることが報告されている。
以上のように、星細胞の活性化と肝臓の線維化と関係が深い遺伝子としてCygbが発見された。そのタンパク質構造やグロビンとしてのガス結合能は明らかとなった。また、Cygbは肝臓を含む内臓の線維芽細胞に発現し、臓器線維化とともに発現増強することがわかってきた。また、いくつかの報告により、Cygbを過剰発現させると細胞は酸化ストレスから保護されることが判って来ている。しかしながら、生体内におけるこの蛋白質の機能は未だ不明である。
一方で、癌は世界各国において、人の死亡原因の上位となっている。特に乳癌は、今や世界的に女性の10人に1人が罹患するものであり、そのうち20%が癌死する。日本国の平成18年度人口統計動態資料によると、女性の癌死亡者数は13万1,214人であり、そのうち乳癌死は1万1,065人で女性の第4位である。特に西側諸国では、低出産、授乳習慣の枯渇、初経の低年齢化、閉経年齢の高齢化やピルの濫用などによりエストロゲンに暴露される期間が延長する傾向があること、また、飽食による高栄養や肥満により閉経後にも脂肪組織でエストロゲン産生が持続することなどが乳癌発生率上昇の一因と想定されている。従って、将来的にも本邦を含めて乳癌患者は増え続けることが予想される。このような現状の中、乳癌は無症状で進行する場合もあり、またその発見は患者自身や診察医が乳房の“しこり”を検出することや検診におけるマンモグラフィーで偶然の機会に発見されることが多く、未病のうちから予知・予防する目的の医学的研究は少ない。確定診断のためには針生検で癌細胞を細胞レベルで診断するしかなく、乳癌の非侵襲的早期発見法が期待されている。発癌後の治療は腫瘍が限局している場合は外科的切除が可能であるが、乳房を完全に温存することは困難で美容上大きな問題となっている。さらに進行癌の場合は大胸筋も含めた切除をせざるを得ない場合や、再発・転移が懸念されるなど女性の精神的苦痛は大きく、社会問題となっている。外科的切除が困難な場合や、再発予防のための化学療法としては、エストロゲンや受容体チロシンキナーゼ(HER2)に分子標的を定めて抗癌剤が開発されているが乳癌特異性に関しては問題が多い。このように、乳癌の発生と成長に関与する遺伝子・蛋白質の同定とこれらに基づいた検査法や予防法と治療法の開発などはその社会的ニーズに比較して未成熟な分野であり、早急な対策が望まれている。
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現在のところ、サイトグロビン(Cygb)については、ガス結合性以外の機能、特にビタミンA貯蔵星細胞に発現する意義、星細胞の活性化及び肝臓の炎症や線維化における作用機序、肝臓以外の臓器に発現する意義等については依然として不明である。Cygb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物は、Cygbの生体内での機能を明らかにするだけでなく、従来、治療法が確立されていない疾患に対する診断法や治療法の開発への道が開かれる可能性がある。そこで、本発明は、疾患の治療、診断、創薬等に有用なスクリーニングツール、即ち、疾患モデル動物として使用できるCygb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、Cygb遺伝子がノックアウトされたマウスの開発に成功した。当該マウスは、生後9か月を経過した時点で、自然発生中の雌のCygb遺伝子ノックアウトヘテロ(Cygb+/-)マウス及びCygb遺伝子ノックアウトホモ(Cygb-/-)マウスは、驚くべきことに、高い割合で乳腺上皮の腺腫(前癌状態)、乳癌、又はリンパ腫を発症している状態であることを見出した。また、雄のCygb遺伝子ノックアウトヘテロ(Cygb+/-)マウス及びCygb遺伝子ノックアウトホモ(Cygb-/-)マウスについては、発癌性物質を継続投与すると、野生型と比べて雄のCygb-/-及びCygb+/-マウスにおいて、顕著に肝癌、肺癌、又はリンパ腫が生じることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. サイトグロビン遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物の、癌のモデル動物としての使用。
項2. 癌が、乳癌、リンパ腫、肝癌、又は肺癌である、項1に記載の使用。
項3. 非ヒト動物がマウスである、項1又は2に記載の使用。
項4. サイトグロビン遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物に、被験物質を投与し、癌の発症率及び重症度を評価することを特徴とする、癌の予防又は治療薬のスクリーニング方法。
項5. サイトグロビン遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物の組織と、比較対象組織との間で被験物質の発現プロファイルを比較する工程、及び
前記非ヒト動物の組織における被験物質の発現が、比較対象組織における発現と比べて変動している被験物質を、癌マーカーとして選択する工程を含む、癌のマーカーのスクリーニング方法。
項6. 癌が、乳癌、リンパ腫、肝癌、又は肺癌である、項4又は5に記載のスクリーニング方法。
本発明により提供されるサイトグロビン遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物の、癌のモデル動物としての使用により、癌の治療又は予防に必要な医薬、並びに癌の検査方法、癌の検査薬の提供、癌の病態の解析に有用な癌のマーカーのスクリーニング等を可能ならしめ、癌の診断又は治療を確立することができる。
実施例1で作製したCygb遺伝子ノックアウトマウスと野生型マウスの遺伝子地図を示す図である。a) 図は、マウス第11番染色体(Chromosome 11)上に存在するCygb遺伝子(Cygb gene)領域の制限酵素地図を示す。b) 図は、Cygb遺伝子の第1エキソン(Exon 1)を標的とするターゲッティングベクター(Targeting vector)であるpTVneo/Cygbを示す。loxP配列で挟まれているホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター/ネオマイシン抵抗遺伝子カセット(PGK-neo-ATG)が、第1エキソン領域に挿入されている。c) 図は、相同組み換えにより得られた組換え体(Recombinant)のCygb遺伝子領域の制限酵素地図を示す。 実施例1において、Cygb遺伝子ノックアウトマウス(ホモマウス、Cygb-/-)、ヘテロマウス(Cygb+/-)、野生型マウス(Cygb+/+)の肝臓におけるCygb mRNA発現をRT-PCRで調べた図である。 実施例1において、Cygb遺伝子ノックアウトマウス(ホモマウス、Cygb-/-)、ヘテロマウス(Cygb+/-)、野生型マウス(Cygb+/+)の肝臓におけるCygb蛋白質発現を免疫ブロット法で調べた図である。 実施例1において、Cygb遺伝子ノックアウトホモマウス(Cygb-/-)、野生型マウス(Cygb+/+)の肝臓から抽出したDNAにおけるcygb遺伝子の存在をサザンブロットで調べた図である。 実施例1において、Cygb遺伝子ノックアウトホモマウス(Cygb-/-)、ヘテロマウス(Cygb+/-)、野生型マウス(Cygb+/+)の肝臓をパラホルムアルデヒド固定した後に、各種処理後、ウサギ抗サイトグロビンペプチド抗体、さらにペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG抗体と反応させ、DAB/H2O2で反応させて発色させた免疫染色標本である。 実施例2において、サイトグロビン遺伝子ノックアウトヘテロマウスの雌における乳癌及びリンパ腫の発生を示す図である。(A)8ヶ月齢のマウスの右脇腹に腫瘍が存在し((a)、矢印)、皮膚を切開すると腫瘍と血腫の存在が確認された(b)。両者の塊としての直径は約10mmであった。(B)腫瘍部のヘマトキシリンーエオジン染色の例を示す。a)〜c)はサイトグロビン遺伝子ノックアウトヘテロマウスの雌、c)はサイトグロビン遺伝子ノックアウトホモマウスの雌の乳癌腫瘍部である。a)はアデノーマ(腺腫、ademona)、b)は充実性非浸潤性乳管癌(solid type ductal carcinoma in situ)、c)は乳頭状非浸潤性乳管癌(papillary type ductal carcinoma in situ)、及びd)は浸潤癌(invasive adenocarcinoma)についての、倍率×400の染色像を示す。(C)7ヶ月齢サイトグロビン遺伝子ノックアウトヘテロマウスの雌における、リンパ腫の発生を示す。肝臓及び脾臓の腫大が認められる。(D)リンパ腫が発生した7ヶ月齢サイトグロビン遺伝子ノックアウトヘテロマウスの雌における、肝臓及び腎臓のヘマトキシリンーエオジン染色像を示す。a)は肝臓の倍率×40の、b)は肝臓の倍率×400の、c)は腎臓の倍率×40の、及びd)は肺の倍率×40の染色像を示す。 実施例2において、6週齢の野生型マウス(WT)、6週齢のCygb遺伝子ノックアウトヘテロマウス(Cygb+/-)、及び6週齢のCygb遺伝子ノックアウトホモマウス(Cygb-/-)の乳腺組織、並びに8ヶ月齢のCygb遺伝子ノックアウトヘテロマウスの乳癌組織(MG tu in Cygb+/-)において発現する各種タンパク質の酵素抗体法による免疫染色像である。 実施例2において、8ヶ月齢の野生型(WT)マウス(n=6)の乳腺組織、及びCygb遺伝子ノックアウトヘテロ(Cygb+/-)マウス(n=5)の乳腺非腫瘍部組織、並びにCygb遺伝子ノックアウトヘテロマウスの乳癌腫瘍部(n=5、Cygb+/- tu)からtotal RNAを抽出し、定量的RT-PCRにてmRNA発現を測定し、野生型の発現量との比(Relative Expression)を計算した図である。 実施例3において、17週間DENを投与した野生型マウス(Cygb+/+)、Cygb遺伝子ノックアウトヘテロマウス(Cygb+/-)、及びホモマウス(Cygb-/-)の肝臓の肉眼像(A)、及びヘマトキシリンーエオジン染色の結果(B)を示す。矢印は、腫瘍部位を示す。Bのa)、b)、c)倍率×20、d)、e)、f)は倍率×400の染色像を示す。
1.Cygb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物の、癌のモデル動物としての使用
本発明で使用される非ヒト動物は、サイトグロビン(Cygb)遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物である。
上記非ヒト動物は、非ヒトであって実験動物として使用できるものであれば、如何なる種の動物でもよいが、好ましくは齧歯目動物、更に好ましくはマウスである。
本明細書において、「Cygb遺伝子がノックアウトされた」とは、上記に記載したCygb遺伝子の塩基配列の改変等により、Cygb遺伝子の発現産物が全く発現しないか、または発現しても正常なCygb遺伝子産物が有する機能を示すことができず、Cygb遺伝子の機能が欠損している状態を指す。
本発明で使用される非ヒト動物は、Cygb遺伝子がノックアウトされたものである限り、Cygb遺伝子の機能を欠損させる具体的態様については、特に制限されないが、例えば、Cygb遺伝子の少なくとも一部が改変されている、或いはCygb遺伝子のプロモーターが不活性化されている等の態様が含まれる。
本明細書において、「Cygb遺伝子の少なくとも一部が改変」とはCygb遺伝子の塩基配列の少なくとも一部に、欠失、置換又は付加を生じさせる改変を加えることをいう。Cygb遺伝子をノックアウトさせるためには、Cygb遺伝子に対して欠失、置換及び付加の内、1又は2以上の変異を組み合わせてもよい。
また、本明細書においてCygb遺伝子の塩基配列の少なくとも一部を「欠失」させるとは、Cygb遺伝子の一部または全部を欠失させることにより、Cygb遺伝子の発現産物がCygbタンパク質として機能が発現しないように改変することをいう。また、本明細書においてCygb遺伝子の塩基配列の少なくとも一部を「置換」するとは、Cygb遺伝子の一部又は全部をCygb遺伝子とは関係のない別個の配列に置換することにより、Cygb遺伝子の発現産物がCygbタンパク質として機能が発現しないように改変することをいう。更に、本明細書においてCygb遺伝子の塩基配列の少なくとも一部に「付加」するとは、Cygb遺伝子中にCygb遺伝子以外の配列を付加することにより、Cygb遺伝子の発現産物がCygbタンパク質として機能が発現しないように改変することをいう。
本発明で使用される非ヒト動物において、Cygb遺伝子のノックアウトの好適な態様として、染色体上のCygb遺伝子座のエクソン1から2の領域が除去されることにより、その発現が完全に欠損しているもの、或いは染色体上のCygb遺伝子座のエクソン1の上流にネオマイシン耐性遺伝子等の外来遺伝子が挿入されることにより、その発現が低下している変異配列に置換されているものが例示される。
本発明で使用されるCygb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物は、Cygb遺伝子における対立遺伝子(アリル)のいずれか一方がノックアウトされているヘテロ接合体のノックアウト動物であってもよく、また対立遺伝子の双方の機能がノックアウトされているホモ接合体のノックアウト動物であってもよい。
本発明において、Cygb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物は、癌のモデル動物として使用される。癌については、その種類については特に限定されるものではない。例えば、消化器系臓器の癌(例えば、食道癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、膵臓癌、胆嚢癌、胆管癌など)、呼吸器系臓器の癌(例えば、肺癌など)、泌尿器系臓器の癌(例えば、腎臓癌、膀胱癌など)、生殖器系臓器の癌(例えば、子宮体癌、子宮頚癌、前立腺癌)、血液や骨髄等の癌(例えば、白血病、リンパ腫、骨髄腫)、脳神経系の癌(例えば、脳腫瘍)、その他の癌(例えば、舌癌、咽頭癌、皮膚癌など)などが例示される。Cygb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物において顕著に症状が発現するとの観点からは、乳癌、リンパ腫、肝癌、肺癌が好ましく、乳癌が特に好ましい。
本発明で使用される非ヒト動物は、雌又は雄のいずれであってもよい。上記非ヒト動物がマウスである場合においては、乳癌の発生率が著しく高いとの観点から、乳癌のモデルマウスとして使用される場合には、雌であることが好ましい。この場合、雌については、処女マウス又は経産マウスのいずれであってもよい。
本発明において使用される非ヒト動物に発症する癌は、非ヒト動物に何ら刺激を与えずに(すなわち、非ヒト動物の自然発生経過において)自然発症したもの、又は非ヒト動物に刺激を与えることで発症したもののいずれであってもよい。
上記非ヒト動物に与える刺激については、上記非ヒト動物における癌の発症若しくは重症化を促進させるもの、又は上記非ヒト動物において癌が自然発症しない組織における癌の発症を促進させるものであることを限度として、特に制限されるものではない。好ましくは、上記非ヒト動物に刺激を与えることは、Cygb遺伝子がノックアウトされたもの以外の非ヒト動物においては、癌の発症を促進させない、又は癌の発症を促進の程度が小さいものである。例えば、上記非ヒト動物に刺激を与えることは、非ヒト動物に癌を惹起する発癌性物質を投与することであってもよい。発癌性物質の具体例としては、例えば、ジエチルニトロサミン(N,N-diethylnitrosamine(DEN))、ベンツピレン、アフラトキシン、フェノバルビタールなどが例示されるが、これに限定されるものではない。
上記発癌性物質の投与方法については、発癌性物質の物性などに応じて、当業者が経口又は非経口の投与方法より適宜選択できるものである。具体的には、経口投与の場合、固形製剤や液状製剤としての投与、飲料水や食餌に含ませることによる投与、吸入による投与が例示されるが、これに限定されるものではない。非経口投与の場合、静脈内、皮膚、皮下、筋肉内、腹腔内などへの注射、又は、経皮、経鼻、点眼などの吸収による投与が例示されるが、これに限定されるものではない。例えば、本発明で使用される非ヒト動物がマウスであり、かつ、刺激を与えることがジエチルニトロサミンを投与することである場合は、生後約0〜8週目程度、好ましくは生後約2〜6週目程度、より好ましくは生後約4週目程度のマウスに、約0.05ppm程度以上、好ましくは約0.05〜50ppm程度、より好ましくは約20〜30ppm程度、さらに好ましくは約25ppm程度の濃度で、飲料水又は食餌などに含めて、約12〜36週程度、好ましくは約16〜24週間程度にわたり、継続投与する方法が例示されるが、これに限定されるものではない。
本発明で使用される非ヒト動物がマウスであり、乳癌又はリンパ腫のモデルマウスとして使用される場合には、自然発生させた(何ら刺激を与えずに発生させた)雌マウスを用いることが好適である。本発明で使用される非ヒト動物がマウスであり、肝癌又は肺癌のモデル動物として使用される場合は、生後約4週目程度の非ヒト動物に、ジエチルニトロサミンを約25ppm程度の濃度で飲料水に含めて、約16〜24週間程度にわたり継続投与したものが好適である。
具体的には、本発明で使用される非ヒト動物がマウスであり、かつ、自然発生させたものである場合には、以下のような病態を示す。本発明で使用されるマウスは、生後9か月を経過した時点で、ヘテロ接合体のノックアウトマウス(Cygb遺伝子ノックアウトヘテロマウス)及びホモ接合体のノックアウトマウス(Cygb遺伝子ノックアウトホモマウス)のいずれについても、は約90%以上の個体において、乳腺の腺腫(すなわち前癌状態)若しくは乳癌、又はリンパ腫を発症する。ここで、乳癌とは、非浸潤性及び浸潤性の、乳管癌及び乳腺癌を含むものである。非浸潤性乳管癌は、充実性、乳頭状などが例示されるが、特に限定されるものではない。リンパ腫を発症する個体には、すべての臓器に大型のリンパ球浸潤が認められる個体が含まれる。従って、本発明の好適な態様の一つは、サイトグロビン遺伝子がノックアウトされた生後9ヶ月以上の雌マウスの、乳癌モデルマウスとしての使用である。
一方、本発明で使用される非ヒト動物がマウスであり、かつ、生後約4週目程度のマウスに、ジエチルニトロサミンを約25ppm程度の濃度で飲料水に含めて、約16〜24週間程度にわたり継続投与したものである場合には、以下のような病態を示す。本発明で使用されるマウスは、ヘテロ接合体のノックアウトマウス(Cygb遺伝子ノックアウトヘテロマウス)及びホモ接合体のノックアウトマウス(Cygb遺伝子ノックアウトホモマウス)のいずれについても、約90%以上の個体において、癌(例えば、肝癌、肺癌又はリンパ腫、特に肝癌)を発症する。従って、本発明の別な好適な態様の一つは、サイトグロビン遺伝子がノックアウトされたマウスであって、生後約4週目程度から約16〜24週間程度にわたりジエチルニトロサミンを約25ppm程度の濃度で飲料水に含めて継続投与した当該マウスの、肝癌及び肺癌モデルマウスとしての使用である。
本発明で使用される非ヒト動物は、実験動物として十分な寿命を有し得る。ここで、実験動物として十分な寿命とは、例えばマウスの場合であれば2年程度である。
2.癌の予防又は治療薬のスクリーニング方法
上記「1.Cygb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物の、癌のモデル動物としての使用」欄に記載されるCygb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物は、癌の予防又は治療薬のスクリーニングに使用できる。
上記癌については、特に限定されるものではないが、例えば上記「1.Cygb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物の、癌のモデル動物としての使用」欄に記載の癌が例示される。本発明で使用される非ヒト動物において顕著に症状が発現するとの観点からは、乳癌、リンパ腫、肝癌、肺癌が好ましく、乳癌が特に好ましい。
上記Cygb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物が、癌の予防又は治療薬のスクリーニングに使用される場合は、当該非ヒト動物に被験物質を投与し、その後、非ヒト動物の癌の発症率及び重症度を判定すればよい。このようなスクリーニングによって、癌の予防又は治療に有用な化合物が検出される。
上記スクリーニングが、癌の予防薬のスクリーニングである場合は、被験物質を、癌が発症する前の段階の非ヒト動物に投与することが好ましいが、これに限定されるものではない。非ヒト動物がマウスである場合、癌が発症する前の段階とは、例えば、生後9ヶ月までの、好ましくは生後6ヶ月までの、より好ましくは生後3ヶ月までの、特に好ましくは生後1ヶ月までのマウスである。
上記スクリーニングが、癌の治療薬のスクリーニングである場合は、被験物質を、癌が発症した後の段階の非ヒト動物に投与することが好適であるが、これに限定されるものではない。非ヒト動物がマウスである場合、癌が発症した後の段階とは、例えば、生後1ヶ月以降の、好ましくは生後3ヶ月以降の、より好ましくは生後6ヶ月以降の、特に好ましくは生後9ヶ月以降のマウスである。
上記被験物質については、予防又は治療薬の候補化合物となり得る化合物であれば、特に限定されるものではない。好ましくは、上記被験物質は、ヒトにおいて薬学的に許容される化合物である。上記被験物質は、例えば、Cygbタンパク質に対するアンタゴニスト又はアゴニストが含まれ得る。
上記被験物質の投与方法については、被験物質の物性などに応じて、当業者が経口又は非経口の投与方法より適宜選択できるものである。具体的には、経口投与の場合、固形製剤や液状製剤としての投与、飲料水や食餌に含ませることによる投与、吸入による投与が例示されるが、これに限定されるものではない。非経口投与の場合、静脈内、皮膚、皮下、筋肉内、腹腔内などへの注射、又は、経皮、経鼻、点眼などの吸入による投与が例示されるが、これに限定されるものではない。また、被験物質の投与量については、上記の被験物質を特定の投与量で、1回又は1回以上投与する方法であってもよく、また、上記の被験物質の投与量を増大又は減少させて変化させる投与方法であってもよい。
上記の発症率及び重症度の判定については、公知の手法を当業者が適宜選択できる。具体例としては、開腹しない方法による判定(例えば、視認又は触診など)、開腹し癌発症組織の組織学所見や病理学的所見を、必要に応じて臓器を摘出し、例えば、肉眼又は顕微鏡などによる観察で求める方法による判定などが例示されるが、これに限定されるものではない。
上記の発症率及び/又は重症度の判定は、癌の予防又は治療に有効な薬剤を投与しない非ヒト動物(癌のモデル動物)、又は公知の癌の予防又は治療薬を投与した非ヒト動物(癌のモデル動物)などを比較対象とし、比較対象と発症率及び/又は重症度を比較して行ってもよい。
癌の予防薬をスクリーニングする場合は、上記比較対象と比べて、癌の発症率が低減する被験物質を、癌の予防薬として選択することができる。癌の治療薬をスクリーニングする場合は、上記比較対象と比べて、癌の重症度が低減する被験物質を、癌の治療薬として選択することができる。
斯くして、癌の予防又は治療に有用な化合物が検出される。無論、本発明のスクリーニング方法により検出される癌の予防又は治療に有用な化合物は、臨床試験などで薬理効果を確認し、ヒトの癌の予防又は治療に用い得るものである。
3.癌のマーカーのスクリーニング方法
上記「1.Cygb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物の、癌のモデル動物としての使用」欄に記載されるCygb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物は、癌のマーカーのスクリーニングに使用できる。
上記癌については、特に限定されるものではないが、例えば上記「1.Cygb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物の、癌のモデル動物としての使用」欄に記載の癌が例示される。本発明で使用される非ヒト動物において顕著に症状が発現するとの観点からは、乳癌、リンパ腫、肝癌、肺癌が好ましく、乳癌が特に好ましい。
Cygb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物が、癌のマーカーのスクリーニングに使用される場合は、当該非ヒト動物の組織と、比較対象組織との間で被験物質の発現プロファイルを比較し、前記非ヒト動物の組織における被験物質の発現が比較対象組織における被験物質の発現と比べて変動している被験物質を癌マーカーとして選択すればよい。このようなスクリーニングによって、癌の検査方法、癌の検査薬の提供、癌の病態の解析に有用な癌のマーカーが検出される。
上記非ヒト動物の組織は、癌が発症した組織(癌組織)であっても、それ以外の組織であってもよい。癌組織以外の組織としては、血液などの摘出が容易な組織が例示されるが、これに限定されるものではない。
上記比較対象の組織は、癌でない正常な組織であることが好ましく、上記非ヒト動物の組織が癌組織である場合は、癌組織と同じ組織に由来する正常な組織であることがより好ましい。また、上記比較対象組織は、上記非ヒト動物の組織が由来する動物由来のもの、または他の同種の動物由来のもののいずれであってもよい。
上記被験物質は、特に限定されるものではなく、非ヒト動物の体内に存在する生体物質より、当業者が適宜選択できる。被験物質の具体例としては、タンパク質、ペプチド、核酸、糖質、脂質、及びこれらの組み合わせなどが例示されるが、これに限定されるものではない。被験物質のより具体的な例として、公知のマーカーとは異なる血中分子、放射標識などで分子イメージングできうる分子、mRNAなどの核酸などが例示されるが、これに限定されるものではない。
上記の発現プロファイルを比較する方法については、被験物質に応じて、当業者が適宜選択できる。
上記変動については、亢進及び減少のいずれであってもよい。癌のマーカーとして使用する観点からは、亢進であることが好ましい。変動の程度は、特に限定されるものではないが、好ましくは約2倍以上、より好ましくは約5倍以上、さらに好ましくは約10倍以上、特に好ましくは約50倍以上の変動であることが好ましい。
本願の癌のマーカーのスクリーニング方法によりスクリーニングされる癌のマーカーは、例えば、癌の検査方法、癌の検査薬の提供、癌の病態の解析などに用いることができる。
斯くして、癌のマーカーとして有用な化合物が検出される。無論、本発明のスクリーニング方法により検出される癌のマーカーとして有用な化合物は、ヒトにおける癌の検査方法、癌の検査薬の提供、癌の病態の解析に有用な癌のマーカーとして用い得るものである。
4.Cyb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物の製造方法
本発明で使用されるCyb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物の製造方法については特に制限されず、通常のノックアウト動物の製造方法と同様に実施されるが、一例としてCygb遺伝子が不活性化された胚幹細胞を胚盤胞に導入して得られるキメラ胚を、対象動物の雌の子宮に着床させることにより、キメラ動物を得る方法が例示される。より具体的には、以下に説明する工程(1)〜(6)を経ることにより、本発明で使用される非ヒト動物を得ることができる。
工程(1):Cygb遺伝子のフラグメントのクローニング
先ず、CygbのゲノムDNAのフラグメントをクローニングする(工程(1))。
CygbのゲノムDNAフラグメントは、対象動物のゲノムライブラリーからクローニング、更に必要に応じてサブクローニングすることにより得ることができる。クローニング又はサブクローニングされるフラグメントには、Cygb遺伝子のコード領域、好ましくはエクソン1又は2が含まれていることが望ましい。
工程(2):改変フラグメントの作製
次いで、前記工程(1)で得られたフラグメントを改変して、Cygb遺伝子をノックアウトさせる改変フラグメントを作製する(工程(2))。具体的には、前記工程(1)で得られたフラグメントに対して、欠失、置換又は付加を行うことにより、Cygb遺伝子を不活性化する改変フラグメントを得ることができる。前記工程(1)で得られたフラグメントにおいて改変がなされる部位には、Cygb遺伝子のコード領域、好ましくはエクソン1又は2が含まれていることが望ましい。
前記工程(1)で得られたフラグメントの改変において、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子等の薬剤耐性遺伝子を選択マーカーとして置換することが望ましく、このような薬剤耐性遺伝子による置換によって後述する胚幹細胞の選択が容易になる。
工程(3):ターゲッティングベクターの作製
次いで、前記工程(2)で得られた改変フラグメントが組み込まれたターゲッティングベクターを作製する(工程(3))。
本工程で使用されるベクターの種類について、胚幹細胞に相同組み換えを起こすことができることを限度として、その種類については特に制限されない。また、ターゲッティングベクターは、当該技術分野で公知の方法に従って、ベクターに上記改変フラグメントを導入することにより作製される。
工程(4):Cygb遺伝子がノックアウトされた胚性幹細胞の作製
次いで、前記工程(3)で得られたターゲッティングベクターを胚性幹細胞に相同組み換えを行うことにより、Cygb遺伝子がノックアウトされた胚性幹細胞を作製する(工程(4))。
本明細書において、「相同組み換え」とは、Cygb遺伝子と同一または類似の塩基配列を有する改変したCygb遺伝子を、ゲノム中のサイトCygb遺伝子のDNA領域に、人工的に組換えさせることをいう。
本工程は、前記工程(3)で得られたターゲッティングベクターを胚性幹細胞に導入し、Cygb遺伝子をノックアウトさせる改変フラグメントが組み込まれた組み換え胚性幹細胞を選択することによって行われる。
本工程で使用される胚性幹細胞の種類については特に制限されないが、Cygb遺伝子のフラグメントのクローニングを行った動物と同一種且つ同一系統由来のものが好ましい。例えば、マウスの場合であれば、胚性幹細胞として、R1細胞株、TT2細胞株、AB-1細胞株、J1細胞株等が知られており、目的や方法に応じて適宜選択して決定すればよい。
ターゲッティングベクターの胚性幹細胞への導入は、エレクトロポレーション法、リポソーム法、リン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法等の公知の方法で行うことができるが、導入遺伝子の相同組み換え効率を考えると、エレクトロポレーション法を用いることが好ましい。
また、ターゲッティングベクターが導入された胚性幹細胞から、組み換え胚性幹細胞を選択する方法についても、従来公知の方法に従って行うことができる。例えば、前記改変フラグメントに薬剤耐性遺伝子が組み込まれている場合には、当該薬剤を含む培地で培養することにより、目的の組み換え胚性幹細胞を選択することができる。選択された胚性幹細胞は、サザンハイブリダイゼーション法やPCR法等の公知の遺伝子解析法によって、組み換え体であることを確認することができる。
工程(5):Cygb遺伝子がノックアウトされた胚性幹細胞が導入されたキメラ胚の作製
次いで、前記工程(4)で得られたCygb遺伝子がノックアウトされた胚性幹細胞が導入されたキメラ胚を作製する(工程(5))。
本工程で使用される胚盤胞は、Cygb遺伝子のフラグメントのクローニングを行った非ヒト動物と同一種且つ同一系統由来のものが好適である。
キメラ胚は、Cygb遺伝子がノックアウトされた胚性幹細胞を胚盤胞の胚内に導入する、或いは8細胞期胚又は嚢胚と凝集させることにより作製される。胚性幹細胞を胚盤胞等の胚に導入するには、マイクロインジェクション法や凝集法等の公知の方法に従って実施すればよい。例えば、マウスの場合には、ホルモン剤(例えば、FSH様作用を有するPMSGおよびLH作用を有するhCGを使用)により過排卵処理を施した雌マウスを、雄マウスと交配させる。その後、胚盤胞を用いる場合には受精から3.5日目に、8細胞期胚又は嚢胚を用いる場合には2.5日目又は3日目に、それぞれ子宮から初期発生胚を回収する。このようにして回収した胚に対して、Cygb遺伝子がノックアウトされた胚性幹細胞をin vitroで注入することにより、キメラ胚が作製される。
工程(6):キメラ胚を利用したキメラ動物の作製
次いで、前記工程(5)で得られたキメラ胚を雌非ヒト動物の子宮に着床させて、キメラ動物を発生させる(工程(6))。
本工程で使用される雌非ヒト動物は、仮親として使用される偽妊娠動物であり、キメラ胚を得るために用いた非ヒト動物と異なる系統由来(ICRなど)を使用することが好適である。当該偽妊娠動物は、正常性周期の雌動物を、精管結紮などにより去勢した雄動物と交配させることにより得ることができる。
雌非ヒト動物の子宮に、前記工程(5)で得られたキメラ胚を子宮内移植して子宮に着床させ、妊娠・出産させることによりキメラ動物を作製することができる。キメラ胚の着床、妊娠がより確実に起こるようにするため、前記工程(5)におけるキメラ胚の作製に使用した雌非ヒト動物と仮親となる雌非ヒト動物とを、同一の性周期にある動物群から作出することが望ましい。
所望のキメラ動物が得られたことを確認するには、例えば、以下の手法を用いることができる。即ち、キメラ動物を同一種の純系動物と交配させ、そして次世代個体に胚性幹細胞由来の被毛色の発現の有無を観察することにより、胚性幹細胞がキメラ動物生殖系列へ導入されたか否かを確認することができる。例えば、マウスの場合であれば、野ネズミ色(アグーチ色)、黒色、黄土色、チョコレート色、白色等の被毛色が知られており、使用する胚性幹細胞の由来系統を考慮して、キメラマウスと交配させるマウス系統を適宜選択すればよい。また、キメラ動物の体の一部(例えば尾部先端)からDNAを抽出し、サザン
ブロット解析やPCRアッセイ等を行うことにより、所望のキメラ動物が得られたことを確認することも可能である。
工程(7):交配によるヘテロ接合体又はホモ接合体の非ヒト動物の作製
前記工程(6)で得られたキメラ動物同士を交配させることにより、ヘテロ接合体のCygb遺伝子ノックアウト非ヒト動物、又はホモ接合体のCygb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物を得ることができる。得られたCygb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物が、ヘテロ接合体であるか、或いはホモ接合体であるかについては、サザンブロット法等の公知の解析手法によって確認できる。
斯くして作出されたCygb遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物は、生殖細胞及び体細胞の全てに安定的Cygb遺伝子変異を有しており、交配等により効率よくその変異を子孫動物に伝達することができる。
以下に、実施例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1 Cygb遺伝子ノックアウトマウスの作製及び確認
(1) Cygb遺伝子ノックアウトマウスの作製
マウス129SvゲノムDNAから、PCR法によりCygb遺伝子の5′上流域の6.0kbDNAフラグメントをクローニングした。このフラグメントは、CygbゲノムDNAの5’UTRおよびエクソン1の一部を有する。さらに、マウス129SvゲノムDNAから、PCR法によりCygb遺伝子の3′下流域の6.5kbDNAフラグメントをクローニングした。このフラグメントは、サイトグロビンゲノムDNAのエクソン3,4および3’UTRを有する。上流6.0kbDNAフラグメントの下流にホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター/ネオマイシン抵抗遺伝子カセット(PGK-neo-ATG)を結合し、さらにその下流に、6.5kbのDNAフラグメントを結合した。ネオマイシン抵抗遺伝子カセットは、両側をバクテリオファージP1のloxPとよばれる部位特異的組換え配列で挟まれている。この改変フラグメントを、プラスミドベクターpBluescript II(ストラタジーン株式会社)に組み込んで、ターゲッティングベクターpTVneo/Cygbを得た(図1参照)。
得られたターゲッティングベクターを制限酵素NotIによって線状化して、129Sv胚性幹細胞(ES細胞)に、エレクトロポレーションによってトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞を、抗生物質G418(ネオマイシン)を含む(150μg/ml)、ES細胞用の20%FCS-DMEM培地において37℃で培養し、G418抵抗性ES細胞クローンを選択した。選択された480個の抵抗性コロニーを拡張させ、以下の条件でサザンブロットを行い、組換えクローンを同定した。まず、各細胞コロニーから溶解試薬を加えて50℃で16時間加温し、エタノール沈澱により細胞のDNAを回収した。回収したDNAを制限酵素BclIで切断した後、アガロースゲルに電気泳動後、ブロットし、Cygb遺伝子の5’上流のプローブ(200bp)を32P放射性dCTPで標識したものを加えてハイブリダイゼーションを行った。その後、フィルターを洗浄し、組換えES細胞に特異的なバンドによって、正しく相同組み換えES細胞を5個同定した。正しく相同組み換えしたES細胞を、BDF1マウスの交配から得られた嚢胚と凝集させ、偽妊娠マウスの子宮に移植し、キメラ胚を得た。得られたキメラ胚を、C57BL/6Jマウスと交配して、Cygb遺伝子がヘテロのマウス(Cygb遺伝子ノックアウトヘテロマウス)を得た。このようなCygb遺伝子をヘテロにもつ雄雌マウス同士を交配させ、Cygb遺伝子を欠失したホモマウス(Cygb遺伝子ノックアウトホモマウス)を得た。
(2) Cygb遺伝子ノックアウトマウスの確認
上記で作製されたマウス尾からDNAを抽出し、PCRを行いCygb遺伝子とネオマイシン遺伝子の存在をプライマー[CTCCCAGCCGGGACCGCGGTGGCCTT (両者に共通するforward primer;配列番号1), GGAGCCGAGGCCGGTGCGTGCGAGGC (Cygbに対するreverse primer;配列番号2), GTGGGGTGGGATTAGATAAATGCCTGCTCT (Neoに対するreverse primer;配列番号3)]で検討したところ、野生型ではCygb+/Neo-、ヘテロマウスではCygb+/Neo+であり、ホモマウスでは完全にCygb遺伝子がノックアウトされていた(図2参照)。更に、上記で作製されたマウスの肝臓をホモゲネートし、その10μgをSDS-PAGEで分離後、抗ラットCygbペプチド抗体(Kawada N, KristensenDB, et al. J Biol Chem. 2001;276:25318)を用いてウエスタンブロット法でCygb蛋白発現を確認したところ、ヘテロマウスではCygb蛋白質が半分に減少し、ホモマウスでは完全にCygb蛋白質がほぼ発現していないことを確認した(図3参照)。
更に、上記で作製されたマウス尾から抽出したDNAに対して、以下の方法でサザンブロットを実施し、ゲノム上のCygb遺伝子の確認を行った。先ず、マウスDNA 20μgをEcoRV制限酵素で切断後、0.8%アガロースゲル電気泳動し、ナイロンメンブレン(Amersham Biosciences社製 Hybond-N)に転写した。プローブにはforward primer : AAAGAGGCAGATGCCACAGG(配列番号4), reverse primer : CGTGGCACCCACATGAGAAG(配列番号5)によるPCR産物を使用し、プローブのラベル及びCygb遺伝子の検出はDIG High Prime DNA Labeling and DetectionStarter Kit I(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いて行った
。ハイブリダイゼーションは65℃ 16時間、メンブレンの洗浄は、0.1 x SSC/0.1%SDS、65℃で30分行った。次いで、NBT/BCIT(nitro blue tetrazolium/5-bromo-4-chloro-3-indolyl phosphate)を加えて染色を行った。その結果、野生型マウスではCygb遺伝子が検出されたが、ホモマウスではCygb遺伝子がノックアウトされていることを確認した(図4参照)。
また、抗ラットCygbペプチド抗体を用いてマウス肝臓を詳細に間接免疫酵素抗体法で検討したところ、肝臓内の血管周囲に茶色に発現しているCygb蛋白質はヘテロマウスでは減少しており、更にホモマウスでは検出されないことが判明した(図5参照)。
以上の結果から、上記で得られたホモマウスは、Cygb遺伝子の機能が欠損しており、Cygb遺伝子ノックアウトマウスであることが確認された。
実施例2 自然発生させたCygb遺伝子ノックアウトマウスの特性評価
自然発生中のCygb遺伝子ノックアウトホモマウス及びCygb遺伝子ノックアウトヘテロマウスの雌について、生後半年以上観察し得たものについて、乳腺組織における癌の発生を、肉眼、及びホルマリン固定後パラフィン包埋しヘマトキシリン・エオシン(HE)染色した5μm厚切片の顕微鏡観察により組織学的所見を評価した。結果を表1及び図6に示す。観察した10匹のヘテロマウスについては、正常であったものは1匹のみであった。1匹で乳腺上皮の腺腫(Adenoma)、6匹で乳癌(非浸潤性乳管癌(Ductal carcinoma in situ)あるいは乳腺癌(Adenocarcinoma))、2匹で悪性リンパ腫(Maligant lymphoma)の発生が認められた。観察した1匹のホモマウスについては、乳癌(Adenocarcinoma)の発生が認められた。一方、対照の野生型マウス10匹においては、観察期間中に腫瘍形成は認められなかった。
また、自然発生させたCygb遺伝子ノックアウトホモマウス及びCygb遺伝子ノックアウトヘテロマウスの雌において、いずれの個体についても、乳腺上皮の腺腫、乳癌又はリンパ腫以外の癌は、目立って認められることはなかった。
なお、自然発生中のCygb遺伝子ノックアウトホモマウスの雄4匹及びCygb遺伝子ノックアウトヘテロマウスの雄10匹については、いずれについても、乳癌の発生は認められなかった。
Figure 0005676892
発生が認められた乳癌について更に詳細に検討するために、8ヶ月齢の野生型マウス、Cygb遺伝子ノックアウトヘテロマウス、及びCygb遺伝子ノックアウトホモマウスの乳腺組織、並びにCygb遺伝子ノックアウトヘテロマウスの乳癌組織において発現するタンパク質を酵素抗体法により検出した。酵素抗体法は、5μm厚切片に対して行った。(図7参照)。
抗ラットサイトグロビンタンパク質抗体により検出される、マウスサイトグロビンタンパク質は、Cygb遺伝子ノックアウトホモマウスにおいて発現が認められなかった(図7(a)参照)。
抗CRBP-1抗体により検出されるCRBP-1(Cellular retinol-binding protein-1)タンパク質が、乳癌組織において検出された(図7(b)参照)。CRBP-1タンパク質はビタミンAを貯蔵する線維芽細胞のマーカーであり、野生型マウスではサイトグロビンを発現する細胞で共発現する。従って、サイトグロビンが欠失しても線維芽細胞は乳腺組織に存在することが確認された。
抗PCNA抗体により検出されるPCNA(Proliferation cell nuclear antigen)抗原について、陽性である細胞がCygb遺伝子ノックアウトヘテロマウス及びCygb遺伝子ノックアウトホモマウスにおいて生じた腫瘍部で増加していることが認められた(図7(c)参照)。PCNA抗原は、細胞が増殖期に入っていることのマーカーであるため、Cygb遺伝子ノックアウトヘテロマウス及びCygb遺伝子ノックアウトホモマウスの腫瘍部の細胞は、増殖期に入っている細胞が増加していることが確認された。
抗HER2/Neu抗体により検出されるHER2/Neu(Neu)タンパク質、抗プロゲステロンレセプター抗体により検出されるプロゲステロンレセプター(PR)、及び抗エストロゲンレセプター抗体により検出されるエストロゲンレセプター(ER)について、腫瘍部において過剰発現が生じていることが認められた(図7(d)〜(f)参照)。HER2/Neuタンパク質、プロゲステロンレセプター及びエストロゲンレセプターはヒト乳癌のマーカーであるため、Cygb遺伝子ノックアウトヘテロマウス及びCygb遺伝子ノックアウトホモマウスにおいて確かに乳癌が発症していることが確認された。
上記で用いた抗体、及び各抗体使用時のインキュベーション時間について、表2に示す。
Figure 0005676892
さらに、乳腺組織における、乳癌と関連する遺伝子であるエストロゲンレセプター(ER)遺伝子、プロゲステロンレセプター(PR)遺伝子、およびHER2/Neu遺伝子の発現動態(mRNAの発現量)をリアルタイムRT-PCRを用いて検討した。8月齢の野生型(Cygb+/+)マウス(n=6)及びCygb遺伝子ノックアウトヘテロ(Cygb+/-)マウス(n=5)の凍結保存非腫瘍部乳腺組織、並びにCygb遺伝子ノックアウトヘテロマウス(n=5)の凍結保存乳癌腫瘍部から、Isogen(日本ジーン社製)を用いてtotal RNAを抽出した。100 ngのtotal RNAをテンプレートとし、PCRプライマー、One Step PrimeScript RT-PCR Kit (Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)を用い、ABI PRISM 7700 Sequence Detection Systemにより解析した。反応条件は42℃ 15分、95℃ 2分、(95℃ 5秒、60℃ 30秒)x40サイクル、95℃ 15分、60℃ 1分、95℃ 15秒で行った。各遺伝子の発現量は、ハウスキーピング遺伝子であるglyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)の発現量で標準化し、Cygb遺伝子ノックアウトヘテロマウスの非腫瘍部乳腺組織および乳癌腫瘍部の発現量の平均値について、野生型マウスの乳腺組織における発現量1.0に対する相対比を求めた。
リアルタイムRT-PCRに用いたプライマーを以下に示す。マウスER遺伝子:[GAAAGGCGGCATACGGAAA (ERに対するforward primer;配列番号6), TCTGACGCTTGTGCTTCAACA (ERに対するreverse primer;配列番号7)]、マウスPR遺伝子:[TCGACAGCTTGCATGATCTTG (PRに対するforward primer;配列番号8), CCAGTGTCCGGGATTGGAT (PRに対するreverse primer;配列番号9)]、マウスHER2/Neu遺伝子:[AGATTGCCAAGGGGATGAGCTAC (Neuに対するforward primer;配列番号10),GGACTCTTGACTAGCACGTTTCGG (Neuに対するreverse primer;配列番号11)]、マウスGadph遺伝子:[TGCACCACCAACTGCTTAG (Gadphに対するforward primer;配列番号12), GGATGCAGGGATGATGTTC (Gadphに対するreverse primer;配列番号13)]。
リアルタイムRT-PCRによる測定の結果、ERのmRNA発現は、Cygb遺伝子ノックアウトヘテロマウスの非腫瘍部乳腺組織において、野生型マウスの乳腺組織と比べて有意に増加していることが判明した。また、PR及びHER2/NeuのmRNA発現は、Cygb遺伝子ノックアウトヘテロマウスの非腫瘍部乳腺組織において、野生型マウスの乳腺組織と比べて有意に増加していることが判明した(図8参照)。
このように、自然発生させたノックアウトマウスの雌が、著しく高い頻度で乳癌を、特異的に発症する例は、これまでに知られておらず、驚くべき結果であった。また、遺伝子のノックアウトヘテロマウスにおいても、高い頻度で乳癌が発症するノックアウトマウスの例も、これまでに知られていなかった。
実施例3 DENを継続投与したCygb遺伝子ノックアウトマウスの特性評価
上記実施例1で得られたCygb遺伝子ノックアウトヘテロマウス及びCygb遺伝子ノックアウトホモマウスについて、ジエチルニトロサミンを継続投与したものの特性を評価するために、生育及び生理学的特徴を経時的に観察した。
上記実施例1で得られた野生型マウス、並びにCygb遺伝子ノックアウトヘテロマウス及びCygb遺伝子ノックアウトホモマウスそれぞれの生後4週目の雄にジエチルニトロサミン(N,N-diethylnitrosamine(DEN)、Sigma Chemical社)を25ppmで含ませた飲料水を17週間にわたり継続投与した。また、同様に、前述の各マウスにDENを0.05 ppmで含ませた飲料水を9ヶ月にわたり継続投与した。各個体の肝臓及び肺における癌の発生を、肉眼、及びホルマリン固定後パラフィン包埋しヘマトキシリン・エオシン(HE)染色した5μm厚切片の顕微鏡観察により組織学的所見を評価した。
25ppmのDENを含む飲料水を17週間にわたり継続投与した場合の結果を、表3及び図9に示す。各マウスを開腹し摘出した肝臓を肉眼所見により発癌を評価したところ、野生型マウス(n=5)では、1匹(20%)の個体の肝臓における発癌が認められた。Cygb遺伝子ノックアウトヘテロマウス(n=7)では、5匹で肝癌が、また、2匹で肝癌及び肺癌の両方の発生が認められた。Cygb遺伝子ノックアウトホモマウス(n=4)では、4匹のいずれについても肝癌の発生が認められた。すなわち、Cygb遺伝子ノックアウトヘテロマウス及びCygb遺伝子ノックアウトホモマウスのいずれについても、100%(フィッシャーの直接確率法によるp値は、それぞれp=0.0396及びp=0.0101)の個体で、肝臓又は肺における発癌が認められた。より具体的には、Cygb遺伝子ノックアウトヘテロマウス及びCygb遺伝子ノックアウトホモマウスについては、開腹し摘出した肝臓の肉眼所見において識別可能な肝癌発生が複数確認でき、Cygb遺伝子ノックアウトホモマウスでは直径10mm近い腫瘍が確認できた。HE染色により観察すると、野生型マウスの非腫瘍部は炎症性細胞浸潤がみられるものの細胞増殖は無かったことに対し(図9a及びd参照)、Cygb遺伝子ノックアウトヘテロマウスの肝臓では血管の増生と肝癌細胞の存在が確認でき(図9b及びe参照)、Cygb遺伝子ノックアウトホモマウスについては未分化な肝癌が肝臓の広範囲に広がっていた(図9c及びf参照)。
Figure 0005676892
0.05ppmのDENを含む飲料水を9ヶ月にわたり継続投与した場合の結果を、表4に示す。各マウスを開腹し摘出した肝臓を肉眼および顕微鏡下所見により発癌を評価したところ、野生型マウス(n=15)では肝臓又は肺で発癌が認められる個体はなかった(0%)。Cygb遺伝子ノックアウトヘテロマウス(n=27)では、2匹で肝癌、2匹で肝癌及び肺癌の両方、2匹でリンパ腫が生じていることが認められた。Cygb遺伝子ノックアウトホモマウス(n=7)では、2匹で肝癌、2匹で肺癌、1匹で肝癌及び肺癌の両方が生じていることが認められた。すなわち、Cygb遺伝子ノックアウトヘテロマウスでは22.2%、およびCygb遺伝子ノックアウトホモマウスでは71.4%の確率で(フィッシャーの直接確率法によるp値は、それぞれp=0.0396及びp=0.0101)、肝癌、肺癌、又はリンパ腫が認められた。
Figure 0005676892
配列番号1は、Cygb遺伝子及びネオマイシン遺伝子の存在を確認するためのプライマーの塩基配列を示す。
配列番号2は、配列番号1に示される塩基配列のプライマーと共に用いて、Cygb遺伝子の存在を確認するためのプライマーの塩基配列を示す。
配列番号3は、配列番号1に示される塩基配列のプライマーと共に用いて、ネオマイシン遺伝子の存在を確認するためのプライマーの塩基配列を示す。
配列番号4および5は、マウスサイトグロビン遺伝子の断片を増幅するためのプライマーの塩基配列を示す。
配列番号6および7は、マウスER遺伝子cDNAの断片を増幅するためのプライマーの塩基配列を示す。
配列番号8および9は、マウスPR遺伝子cDNAの断片を増幅するためのプライマーの塩基配列を示す。
配列番号10および11は、マウスHER2/Neu遺伝子cDNAの断片を増幅するためのプライマーの塩基配列を示す。
配列番号12および13は、マウスGADPH遺伝子cDNAの断片をを増幅するためのプライマーの塩基配列を示す。

Claims (4)

  1. サイトグロビン遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物の、乳癌、リンパ腫、肝癌、又は肺癌のモデル動物としての使用。
  2. 非ヒト動物がマウスである、請求項1に記載の使用。
  3. サイトグロビン遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物に、被験物質を投与し、乳癌、リンパ腫、肝癌、又は肺癌の発症率及び重症度を評価することを特徴とする、乳癌、リンパ腫、肝癌、又は肺癌の予防又は治療薬のスクリーニング方法。
  4. サイトグロビン遺伝子がノックアウトされた非ヒト動物の組織と、比較対象組織との間で被験物質の発現プロファイルを比較する工程、及び
    前記非ヒト動物の組織における被験物質の発現が、比較対象組織における発現と比べて変動している被験物質を、乳癌、リンパ腫、肝癌、又は肺マーカーとして選択する工程を含む、乳癌、リンパ腫、肝癌、又は肺癌のマーカーのスクリーニング方法。
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