以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
図1から図4に、本発明の画像処理方法、画像処理装置及び画像処理プログラム、並びに、画像処理による放射線量推定方法の実施形態の一例を示す。本発明の画像処理方法は、元画像内の着目点(画素値i)と当該着目点から角度θ方向に距離dだけ離れた点(画素値j)との2画素の画素値の対(i,j)の出現度数を用いて方向別の濃度共起ヒストグラムを作成するステップ(S2)と、当該方向別の濃度共起ヒストグラムの要素Hθ(i,j|d)の出現確率Pθ(i,j|d)を算出するステップ(S3)と、当該方向別ヒストグラム要素出現確率Pθ(i,j|d)を用いて HPθ(i,j|d)=−logPθ(i,j|d) によって方向別自己エントロピHPθ(i,j|d)の計算を行うステップ(S4)と、元画像の画素値を対応する方向別自己エントロピHPθ(i,j|d)の値に置換することによって方向別自己エントロピ画像を作成するステップ(S5)と、当該方向別自己エントロピ画像を用いて特徴画像として総乗画像と総和画像とのうちの少なくとも一方を作成するステップ(S6,S7)とを有するようにしている。
上記画像処理方法は、本発明の画像処理装置として実現される。本発明の画像処理装置は、元画像内の着目点(画素値i)と当該着目点から角度θ方向に距離dだけ離れた点(画素値j)との2画素の画素値の対(i,j)の出現度数を用いて方向別の濃度共起ヒストグラムを作成する手段と、当該方向別の濃度共起ヒストグラムの要素Hθ(i,j|d)の出現確率Pθ(i,j|d)を算出する手段と、当該方向別ヒストグラム要素出現確率Pθ(i,j|d)を用いて HPθ(i,j|d)=−logPθ(i,j|d) によって方向別自己エントロピHPθ(i,j|d)の計算を行う手段と、元画像の画素値を対応する方向別自己エントロピHPθ(i,j|d)の値に置換することによって方向別自己エントロピ画像を作成する手段と、当該方向別自己エントロピ画像を用いて特徴画像として総乗画像と総和画像とのうちの少なくとも一方を作成する手段とを有するとを備えている。
上述の画像処理方法及び画像処理装置は、本発明の画像処理プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現される。本実施形態では、画像処理プログラムをコンピュータ上で実行する場合を例に挙げて説明する。
画像処理プログラム17を実行するためのコンピュータ10(本実施形態では、画像処理装置10でもある)の全体構成を図3に示す。この画像処理装置10は、制御部11、記憶部12、入力部13、表示部14及びメモリ15を備え相互にバス等の信号回線により接続されている。また、画像処理装置10にはデータサーバ16がバス等の信号回線により接続されており、その信号回線を介して相互にデータや制御指令等の信号の送受信(即ち出入力)が行われる。
本実施形態では、受光素子を有する撮影機器で撮影した画像の受光素子毎の受光データ即ち画素値データが画素値データベース18としてデータサーバ16に蓄積される。ただし、本発明において画素値データが蓄積されるデータベースやデータファイルが保存されるのは、データサーバ16に限られるものではなく、記憶部12に保存されるようにしても良いし、光記憶媒体等のその他の外部記憶装置に保存されるようにしても良い。
なお、本発明における受光素子(撮像素子とも呼ばれる)とは、ガンマ線を含む放射線の通過に反応して画素値を変化させ得るものであり、具体的に例えばCCDやCMOSである。
また、本発明における撮影機器とは、前述の受光素子を備えて撮像を行うものであり、具体的には例えばデジタルカメラやデジタルビデオカメラである。なお、動画として撮影された画像である場合には、フレーム毎に画像処理を行えば良い。
制御部11は記憶部12に記憶されている画像処理プログラム17によって画像処理装置10全体の制御並びに画像処理に係る演算を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。
記憶部12は少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクである。
メモリ15は制御部11が種々の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
入力部13は少なくとも作業者の命令を制御部11に与えるためのインターフェイスであり、例えばキーボードである。
表示部14は制御部11の制御により文字や図形等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
そして、記憶装置としてのデータサーバ16にアクセス可能なコンピュータである画像処理装置10の制御部11には、画像処理プログラム17を実行することにより、データサーバ16から受光素子毎の画素値データの入力を受ける手段としての画素値データ読込部11a、元画像内の着目点(画素値i)と当該着目点から角度θ方向に距離dだけ離れた点(画素値j)との2画素の画素値の対(i,j)の出現度数を用いて方向別の濃度共起ヒストグラムを作成する手段としてのヒストグラム作成部11b、当該方向別の濃度共起ヒストグラムの要素Hθ(i,j|d)の出現確率Pθ(i,j|d)を算出する手段としての出現確率算出部11c、当該方向別ヒストグラム要素出現確率Pθ(i,j|d)を用いて HPθ(i,j|d)=−logPθ(i,j|d) によって方向別自己エントロピHPθ(i,j|d)の計算を行う手段としてのエントロピ計算部11d、元画像の画素値を対応する方向別自己エントロピHPθ(i,j|d)の値に置換することによって方向別自己エントロピ画像を作成する手段としてのエントロピ画像作成部11e、当該方向別自己エントロピ画像を用いて特徴画像として総乗画像と総和画像とのうちの少なくとも一方を作成する手段としての総乗・総和画素値算出部11f及び総乗・総和画像作成部11gが構成される。
はじめに、本発明の画像処理方法の基本部分の処理内容を図1に従って説明する。
本実施形態の画像処理方法の実行にあたっては、まず、制御部11の画素値データ読込部11aは、処理対象の画像の受光素子毎の画素値データの読み込みを行う(S1)。
具体的には、制御部11の画素値データ読込部11aが、処理対象の画像の受光素子毎の受光データ即ち画素値データを画素値データベース18から読み込み、当該データをメモリ15に記憶させる。
本発明における画素値とは、グレイスケール画像の場合は輝度であり、カラー画像の場合はグレースケールへ変換した画像の輝度、或いはカラー画像を構成するR,G,Bのうちのいずれか一つの値である。
次に、制御部11のヒストグラム作成部11bは、方向別の濃度共起ヒストグラムの作成を行う(S2)。
本発明では、2画素対の濃度共起ヒストグラムの方向別の組み合わせを用いる。なお、2画素対の濃度共起ヒストグラムの作成は周知の技術であるのでここでは詳細については省略する(例えば、山足和彦・藤原孝幸・輿水大和:「共起度数画像の提案」,電学論C,Vol.127,No.4,pp.528-536,2007年 や 藤原孝幸・山足和彦・輿水大和:「画像の共起度数からなる特徴量を用いた新しい空間フィルタ」,電学論C,Vol.127,No.4,pp.546-552,2007年 や 輿水大和:「画像特徴量[I]−共起性に着目した画像特徴量と新型フィルタ導入−」,電子情報通信学会誌,Vol.93,No.10,pp.880-885,2010年 を参照)。
本発明における方向別濃度共起ヒストグラムの作成は、元画像内の着目点(x,y)の画素値をiとし、着目点から角度θ方向に距離dだけ離れた点(x',y')の画素値をjとして、方向別に2画素対の濃度共起ヒストグラムを作成することにより行う。具体的には、元画像内の点(x,y)と点(x',y')との画素値の対(i,j)と同じ値の組み合わせが画像内にいくつあるかを数え、画素値の対(i,j)の出現度数を用いて共起ヒストグラムを作成する。
方向を角度θ=0,45,90,135,180,225,270,315度の8方向として2画素の対方向(k,l)={(d,0),(d,d),(0,d),(−d,d),(−d,0),(−d,−d),(0,−d),(d,−d)}とすると、(x',y')=(x+k,y+l)として2画素対が作成される。
なお、2画素の対方向は、8方向に限られるものではなく、角度θ=0,90,180,270度や角度θ=45,135,225,315度などの4方向でも良いし、より詳細な16方向など8方向より多くても良い。以下では、上述の8方向を用いて説明する。
また、着目点からの距離d(即ち、2画素間の距離d)は、対となる2画素の隔たりであり、一般的にはピクセル数である。そして、当該距離dは、特定の値に限られるものではなく、撮影機器の特性や撮影画像内の特徴点として抽出する対象の大きさなどを考慮して適宜設定され、具体的には例えば1〜3程度の値に設定される(なお、距離d=1は隣接する画素である)。
以降では、画像内の画素値の対(i,j)の出現度数で作成した8方向別の濃度共起ヒストグラムをHθ(ただし、θ=0,1,…,7)と表記する。
本実施形態では、ヒストグラム作成部11bが、S1の処理においてメモリ15に記憶された画素値データをメモリ15から読み込み、当該画素値データを用いて方向別濃度共起ヒストグラムHθ(ただし、θ=0,1,…,7)を演算し作成する。
そして、ヒストグラム作成部11bは、作成した方向別濃度共起ヒストグラムHθ(ただし、θ=0,1,…,7)のデータをメモリ15に記憶させる。
次に、制御部11の出現確率算出部11cは、S1の処理によって作成された方向別濃度共起ヒストグラムを用いて当該方向別濃度共起ヒストグラムの要素の出現確率(方向別)の算出を行う(S3)。
具体的には、S2の処理によって作成された方向別濃度共起ヒストグラムHθを用いて数式1によって方向別の濃度共起ヒストグラムHθの要素の出現確率Pθを算出する。
本実施形態では、出現確率算出部11cが、S2の処理においてメモリ15に記憶された方向別濃度共起ヒストグラムHθのデータをメモリ15から読み込み、当該方向別濃度共起ヒストグラムHθのデータを用いて数式2によって方向別の濃度共起ヒストグラムHθの要素の出現確率Pθを算出する。
そして、出現確率算出部11cは、算出した方向別ヒストグラム要素出現確率Pθ(ただし、θ=0,1,…,7)のデータをメモリ15に記憶させる。
次に、制御部11のエントロピ計算部11dは、S3の処理によって算出された方向別ヒストグラム要素出現確率を用いて方向別自己エントロピの計算を行う(S4)。
画像内の点や短い線や被写体のコーナーなどの凸部分といった特徴点は、画像の中で出現頻度が低い部分と見なせる。そこで、着目画素についての周囲との関係(言い換えると、着目画素近傍の状態)を導入し、出現頻度の低い部分を強調することを考える。
具体的には、S3の処理によって算出した方向別ヒストグラム要素出現確率Pθから、個別に自己エントロピHPθを数式2によって求める。
(数2) HPθ(i,j|d)=−logPθ(i,j|d)
ただし、θ:着目点に対する角度の識別子(0,1,…,7) を表す。
本実施形態では、エントロピ計算部11dが、S3の処理においてメモリ15に記憶された方向別ヒストグラム要素出現確率Pθのデータをメモリ15から読み込み、当該方向別ヒストグラム要素出現確率Pθのデータを用いて数式2によって方向別自己エントロピHPθを計算する。
そして、エントロピ計算部11dは、計算した方向別自己エントロピHPθ(ただし、θ=0,1,…,7)のデータをメモリ15に記憶させる。
次に、制御部11のエントロピ画像作成部11eは、S4の処理によって計算された方向別自己エントロピを用いて方向別自己エントロピ画像の作成を行う(S5)。
自己エントロピ画像の作成は、元画像の画素値を、対応する自己エントロピHPθの値に置換することによって行う。具体的には、S4の処理によって計算された方向別自己エントロピHPθから数式3によって画素値を決定して自己エントロピ画像を作成する。本発明では、S4の処理によって計算した方向別自己エントロピHPθを用いて自己エントロピ画像の作成を方向別に行う。以降では、8方向別の自己エントロピ画像をKθ(ただし、θ=0,1,…,7)と表記する。
(数3) Kθ(x,y)=HPθ(I(x,y),I(x+k,y+l)|d)
ただし、I(x,y)はiと同意であって画素値を表し、
I(x+k,y+l)はjと同意であって画素値を表す。
なお、自己エントロピHPθから自己エントロピ画像Kθを作成する方法は、従来の画像処理における濃度共起ヒストグラムから共起度数画像を作成する方法と同様である(例えば、前掲の、山足和彦ほか「共起度数画像の提案」,藤原孝幸ほか「画像の共起度数からなる特徴量を用いた新しい空間フィルタ」,輿水大和「画像特徴量[I]−共起性に着目した画像特徴量と新型フィルタ導入−」を参照)
図4(A)を元画像(中央の長方形が被写体)とした場合の方向別自己エントロピ画像Kθを同図(B)に示す。同図(B)では、中央が元画像であり、8方向別の自己エントロピ画像K0,K1,…,K7を対応する方向位置に配置している。なお、これら図においては、自己エントロピ画像Kθの各画素値を0〜255の範囲に正規化し、出現頻度の低い部分を明るく表示し、出現頻度の高い部分を暗く表示している。
本実施形態では、エントロピ画像作成部11eが、S4の処理においてメモリ15に記憶された方向別自己エントロピHPθのデータをメモリ15から読み込み、当該方向別自己エントロピHPθのデータを用いて数式3によって画素値を決定して方向別自己エントロピ画像Kθを作成する。
そして、エントロピ画像作成部11eは、作成した方向別自己エントロピ画像Kθ(ただし、θ=0,1,…,7)のデータをメモリ15に記憶させる。
次に、制御部11の総乗・総和画素値算出部11fは、S5の処理によって作成された方向別自己エントロピ画像を用いて総乗画素値,総和画素値の算出を行う(S6)。
総乗画素値TPの算出は、S5の処理において作成した方向別自己エントロピ画像K0,K1,…,K7を用いて数式4によって行う(なお、ここでの計算は、S5の処理における数式3による計算値をそのまま用い、0〜255の範囲に正規化したものを用いるのではない)。
ただし、 7:着目点に対する方向の数(=8−1),
M:元画像のx方向(横)サイズ,
N:元画像のy方向(縦)サイズ,
d:着目点からの距離 をそれぞれ表す。
総和画素値TSの算出は、S5の処理において作成した方向別自己エントロピ画像K0,K1,…,K7を用いて数式5によって行う(なお、ここでの計算も、S5の処理における数式3による計算値をそのまま用い、0〜255の範囲に正規化したものを用いるのではない)。
ただし、 7:着目点に対する方向の数(=8−1),
M:元画像のx方向(横)サイズ,
N:元画像のy方向(縦)サイズ,
d:着目点からの距離 をそれぞれ表す。
本実施形態では、総乗・総和画素値算出部11fが、S5の処理においてメモリ15に記憶された方向別自己エントロピ画像Kθのデータをメモリ15から読み込み、当該方向別自己エントロピ画像Kθのデータを用い、数式4によって総乗画素値TP(x,y)を算出し、数式5によって総和画素値TS(x,y)を算出する。
そして、総乗・総和画素値算出部11fは、算出した総乗画素値TP(x,y)の値,総和画素値TS(x,y)の値をメモリ15に記憶させる。
次に、制御部11の総乗・総和画像作成部11gは、S6の処理によって算出された総乗画素値TP,総和画素値TSを用いて総乗画像,総和画像の作成を行う(S7)。
本実施形態では、総乗・総和画像作成部11gが、S6の処理においてメモリ15に記憶された総乗画素値TP(x,y)の値,総和画素値TS(x,y)の値をメモリ15から読み込み、これら値を0から255までの画素値に正規化する(具体的には、TP,TSの最小値から最大値までの範囲を0から255までの範囲(画素値)に正規化する)ことによって総乗画像,総和画像を作成する。
図4(A)を元画像とした場合で、方向別自己エントロピ画像Kθが同図(B)である場合の、総乗画像を同図(C)に示し、総和画像を同図(D)に示す。これら画像から、周囲よりも輝度値の高い部分が、画像内で出現頻度が低い部分であって特徴点として抽出される。
図4(C),(D)に示す総乗画像と総和画像とのどちらにおいても、元画像の被写体である長方形の凸部分(即ち、四つの頂点)が周囲よりも高い輝度を示しており、上述の処理を施すことによって画像内の被写体の凸部分が特徴点として良好に抽出される。なお、画像内の特徴点の抽出のためには、総乗画像と総和画像とのうちのどちらか一方のみを算出するようにしても良い。
そして、総乗・総和画像作成部11gは、総乗画像,総和画像のデータを記憶部12やデータサーバ16に処理結果ファイルとして保存したり、総乗画像,総和画像を表示部14に表示したりする。
そして、制御部11は、画像処理を終了する(END)。
以上のように構成された本発明の画像処理方法、画像処理装置及び画像処理プログラムによれば、濃度共起ヒストグラムの作成,濃度共起ヒストグラム要素出現確率の算出,自己エントロピの計算,自己エントロピ画像の作成の全てを方向別に行うと共に方向別の自己エントロピ画像の総乗画像や総和画像を作成するようにしているので、画像内の点や短い線や被写体のコーナーなどの凸部分が特徴点として安定・的確に抽出される。
また、本発明者らは、上述の画像処理の利用方法に関し、以下のことを知見した。
1)撮影画像に対して上述の処理を施すことによって画像内の放射線の通過痕跡が検出される。
2)撮影画像内から放射線の通過痕跡として検出される斑点の数と放射線量(放射線量率)との間には相関がある。
3)したがって、放射線の通過痕跡として検出された斑点の数に基づいて撮影箇所の放射線量(放射線量率)の高低を評価することができる。
具体的には、撮影画像の画素値データを用いて上述の処理(S1〜S7)を行うと、放射線の通過痕跡が総乗画像・総乗画像内に特徴点として斑点状に現れて抽出(検出)される。そこで、抽出(検出)される斑点の個数は撮影機器の受光素子のサイズやレンズ等に影響を受けると考えられるので撮影に使用する撮影機器一式に対して画像処理によって抽出される斑点の程度(具体的には、斑点の個数,斑点の密度,斑点を構成する画素数の合計)と放射線量(放射線量率)との間の相関を予め把握しておくことにより、画像処理を行うことによって撮影地点における放射線量を推定することができる。
そこで、続いて、本発明の画像処理方法を用いての放射線量の推定に好適な処理内容(即ち、本発明の画像処理による放射線量推定方法)を図2に従って説明する。
まず、放射線の通過痕跡は撮影画像内にランダムに現れるため、連続撮影した画像間で共通する部分を除去すると、放射線の通過痕跡が残る。そこで、連続撮影した画像を用いて画像処理を行うことにより、背景ノイズを除去し、放射線の通過痕跡の抽出をより一層的確に行うことができる。
この処理においては、二枚の画像を連続撮影する。ここでは、これら二枚の連続撮影画像をI1,I2と表記する。ここでの連続撮影とは、背景として写り込むものを同じにするため、撮影機器を動かさずに(若しくは、できる限り動かさないようにして)続けて撮影するという意味である。なお、二枚の画像の連続撮影は、例えば撮影機器の連写機能を使うようにしても良いし、手動で連続して撮影するようにしても良い。また、動画として撮影された画像の連続するフレームを二枚の連続撮影画像I1,I2として用いるようにしても良い。
そして、同じ若しくはほぼ同じ背景が写り込んでいる二枚の連続撮影画像I1,I2のそれぞれに対して上述のS1からS7までの処理を行って特徴画像(即ち、総乗画像と総和画像との両方若しくはどちらか一方)を作成する。ここでは、画像I1の特徴画像をF1とし、画像I2の特徴画像をF2とする。なお、特徴画像F1,F2の種類は、両方とも総乗画像若しくは両方とも総和画像として揃える。
本実施形態では、総乗・総和画像作成部11gが、S7の処理の結果作成される画像I1の特徴画像F1及び画像I2の特徴画像F2のデータ(即ち、画素毎の画素値データ)をメモリ15に記憶させる。
次に、制御部11の特徴画像比較部11hは、S7の処理によって作成された二つの特徴画像の比較を行って両画像で同じ撮像の除去を行う(S8)。
本実施形態では、特徴画像比較部11hが、S7の処理においてメモリ15に記憶された画像I1の特徴画像F1及び画像I2の特徴画像F2のデータをメモリ15から読み込み、対応する画素毎に画素値を比較して画素値の差違が一定範囲内である場合には当該画素には両画像で同じもの(背景・被写体など)が写り込んでいるとし、一方で前記画素値の差違が一定範囲を超えている場合には当該画素の輝度値を特徴画像F2の輝度値として、比較結果画像Rを作成する。
ここで、二つの特徴画像F1,F2の比較を行う際には、画像中の背景部分をより一層安定・確実に取り除くため、一方の特徴画像をモルフォロジー処理で特徴点の輪郭を拡張して比較の土台とすることが好ましい。例えば、特徴画像F1をモルフォロジー処理で拡張した輪郭拡張画像F'1とし、比較結果画像Rを数式6によって作成するようにしても良い。ただし、モルフォロジー処理で特徴点の輪郭を拡張する処理を行うことは本発明において必須ではない。
そして、特徴画像比較部11hは、作成した比較結果画像Rのデータをメモリ15に記憶させる。
次に、制御部11の孤立領域計数部11iは、S8の処理によって作成された比較結果画像内の孤立領域の計数を行う(S9)。
本実施形態では、孤立領域計数部11iが、S8の処理においてメモリ15に記憶された比較結果画像Rのデータをメモリ15から読み込み、当該比較結果画像Rの中で輝度値が高い箇所(即ち、特徴点)である孤立領域(斑点)の個数を計数する。
輝度値が高い孤立領域の個数の計数は、例えば、所定の画素値以上の画素が所定の個数以上隣接して集まっている領域を抽出して数えることによって行う。このときの所定の画素値や所定の画素の個数は、特定の値に限られるものではなく、撮影機器の特性なども考慮して適宜設定され、具体的には例えば画素値は輝度値60〜100程度の範囲,画素の個数は5〜15程度の範囲で設定される。
ここで、上記の輝度値が高い孤立領域(斑点)は、本発明者らの知見により、放射線の通過痕跡とみなされる。したがって、撮影場所における放射線量率が低ければ斑点の数は少なく、放射線量率が高ければ斑点の数は多くなる。
孤立領域計数部11iは、計数した孤立領域の個数をメモリ15に記憶させる。
次に、制御部11の放射線量推定部11jは、S9の処理によって計数された孤立領域の個数に基づいて放射線量の推定を行う(S10)。
画像内の孤立領域の個数に基づく放射線量の推定は、孤立領域の個数と放射線量(放射線量率)との間の相間関係を用いて行う。このため、予め、放射線量推定画像処理用の画像の取得(撮影)に用いる撮影機器を用いて複数の放射線量状況下において撮影を行うと共に撮影した画像を用いて上述のS1からS9までの処理を行うことによって孤立領域の個数を計数し、孤立領域の個数と放射線量(放射線量率)との間の相関式を作成しておく。
なお、本発明における孤立領域(斑点)についての計数の対象(言い換えると、相関式の一方の変数)は、孤立領域の個数に限られるものではなく、元画像のうちの一部分における孤立領域の密度でも良いし、各孤立領域を構成する画素数を積み上げた画素数の合計でも良い。
本実施形態では、放射線量推定部11jは、S10の処理においてメモリ15に記憶された孤立領域の個数をメモリ15から読み込み、当該孤立領域の個数を予め作成しておいた孤立領域の個数と放射線量(放射線量率)との間の相関式に当てはめて放射線量を推定する。なお、孤立領域の個数と放射線量(放射線量率)との間の相関式は例えば画像処理プログラム17上に予め規定しておく。
そして、放射線量推定部11jは、推定した放射線量のデータを記憶部12やデータサーバ16に推定結果ファイルとして保存したり、放射線量の値を表示部14に表示したりする。
そして、制御部11は、画像処理による放射線量の推定処理を終了する(END)。
ここで、ガンマ線は波長が短く、紙やプラスチックを通過する性質を有する。そのため、撮影機器のレンズにキャップを付けたままで撮影すると背景が写り込まずに放射線の通過痕跡だけが写り込む。
そこで、上述においては、二枚の連続撮影画像を通常通りに撮影し取得してこれら連続撮影画像のそれぞれについて特徴画像を作成すると共にこれら特徴画像の比較を行い両画像で同じ撮像(背景・被写体など)の除去を行うことによって放射線の通過痕跡を検出するようにしているが、これとは異なり、一枚を通常通りに撮影すると共にもう一枚を撮影機器のレンズにキャップを付けたままで撮影するようにしても良い。
このようにすることにより、レンズにキャップを付けたままで撮影した画像に対して上述のS1からS7までの処理を行って画像内の特徴点として放射線の通過痕跡を検出すると共に、検出された放射線の通過痕跡をキャップを取り外して撮影した画像と重ね合わせて表示することにより、撮影箇所の実態(被写体や背景など)と重ね合わせて撮影箇所毎の放射線量の高低を視覚的に容易に把握することができると共に、上述のS8の処理を行わずに放射線の通過痕跡である孤立領域の個数の計数(S9)及び放射線量の推定(S10)を行うことができる。
なお、撮影機器のレンズにキャップを付けたまま撮影すると撮影機器の受光素子に光が差し込まないために低輝度の画素値に揺らぎが発生する。本発明の画像処理方法では画素値の僅かな差を強調するために撮影時の画素値の揺らぎに影響を受ける虞があるので、この揺らぎの影響を除くため、本発明の画像処理方法を適用する前に一定値(以下、輝度閾値)以下の輝度値をゼロにする前処理を行うことが好ましい。ただし、輝度閾値以下の輝度値をゼロにする前処理を行うことは本発明において必須ではない。なお、輝度閾値は、特定の値に限られるものではなく、撮影機器固有の画素値の揺らぎの発生の程度などを考慮して適宜設定され、具体的に例えば輝度値30から50程度の範囲で設定される。
以上のように、連続撮影した二枚の画像の特徴画像を比較し同じ撮像を除去して孤立領域を計数する場合には、被写体や背景の影響を受けずに放射線の通過痕跡のみをより一層的確に抽出することができる。また、被写体や背景が写り込んでいない元画像を用いて孤立領域を計数する場合には、被写体や背景の影響を受けずに放射線の通過痕跡のみを更により一層的確に抽出することができる。
そして、本発明の画像処理による放射線量推定方法によれば、本発明の画像処理を行うことによって放射線量率の大きさを具体的に推定することができる。
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
例えば、上述の実施形態では、二枚の連続撮影画像の各々について特徴画像を作成して両画像で同じ撮像(背景・被写体など)を除去することによって放射線の通過痕跡のみを抽出し易くするようにしているが、放射線の通過痕跡のみを抽出し易くする方法はこれに限られるものではなく、撮影機器のレンズにキャップを付けたままなどして被写体や背景を撮像しない状態で撮影した画像について上述のS1〜S7までの処理を行うようにしても良い。つまり、撮影箇所の実態(被写体や背景など)と重ね合わせる必要がなく、対象地点における放射線の通過痕跡の検出のみが必要である場合には、被写体や背景が写り込んでいない画像或いは被写体や背景を除去することができる画像一枚に対して上述のS1〜S7の処理を行うようにすれば良い。したがって、上述の説明ではS1〜S7の処理に加えてS8〜S10の処理を行うことによって放射線量の推定を行うようにしているが、元画像によってはS1〜S7の処理のみを行って作成した総乗画像,総和画像における孤立領域(斑点)を計数することによって放射線量の推定をすることが可能である。
また、上述の実施形態では、予め作成しておいた孤立領域の個数と放射線量(放射線量率)との間の相関式を用いて放射線量率を具体的に推定するようにしているが、本発明は、放射線量率の値の推定への活用に限られるものではなく、放射線量が単に多いか少ないかの目安としての評価への活用も考えられるという利点を発揮する。
本発明の画像処理方法、画像処理装置及び画像処理プログラムを放射線量の推定に適用した実施例を図5から図7を用いて説明する。
本実施例では、ガンマ線照射装置(千代田テクノル社製・TH-I93991型/線源:セシウム137,370〔GBq〕)で照射したガンマ線をカメラ(NIKON社製・D3100/レンズ:SIGMA EXDG FISHEYE)で撮影した画像を元画像として用いた。なお、撮影画像サイズは2034×1536画素とした。また、本発明の画像処理方法を適用する際の着目点からの距離d=1とした。
本実施例では、ガンマ線照射装置から2〔m〕離れた位置で撮影した画像を元画像として用いた。なお、ガンマ線照射装置から2〔m〕の位置における放射線量率は約5〔ミリシーベルト/時〕である。
また、本実施例では、5秒間隔でタイマー撮影を行い、1回目撮影から5回目撮影までは放射線の照射を行わず、6回目撮影から29回目撮影までは放射線の照射を行い、30回目撮影から34回目撮影までは放射線の照射を行わなかった。
ガンマ線照射装置が放射線を照射していない時の撮影で得られた図5(A)に示す元画像に対して本発明の画像処理方法(上述の実施形態のS1〜S7)を適用して同図(B)に示す総乗画像が得られた。
また、ガンマ線照射装置が放射線を照射している時の撮影で得られた図6(A)に示す元画像に対して本発明の画像処理方法(上述の実施形態のS1〜S7)を適用して同図(B)に示す総乗画像が得られた。
図5(A)と図6(A)との比較から、図5(A)に示す元画像においては当然として、図6(A)に示す元画像においても放射線の通過痕跡を目視で見つけることは殆どできないことが確認された。
その一方で、図5(B)と図6(B)との比較から、図6(B)の方が特徴点として抽出された斑点が増えており、図6(B)に示す画像処理結果の総乗画像では放射線の通過痕跡が特徴点として抽出(検出)され、本発明の画像処理方法(上述の実施形態のS1〜S7)を適用することによって放射線の通過痕跡を容易に視認することができるようになることが確認された。
また、図5(B)と図6(B)とにおいては、放射線の通過痕跡としての特徴点(斑点)の他に、蛍光灯のちらつきなどに起因して蛍光灯や背景物体での蛍光灯の反射光が特徴点として抽出されていることも確認された。
また、1回目から34回目までの撮影によって得られた元画像の各々に対して本発明の画像処理方法(上述の実施形態のS1〜S7)を適用して得られた総乗画像における孤立領域(斑点)の個数を計数して図7に示す結果が得られた。なお、本実施例では、輝度値80以上で9画素以下の孤立領域を計数した。
図7に示す結果から、放射線の照射前及び照射終了後における孤立領域の個数が約70〜100個であるのに対して放射線の照射中における個数が約200〜250個であり、照射前・終了後に対して照射中の方が検出された孤立領域の個数が大凡150個増加していることが確認された。なお、放射線の照射前及び照射終了後においても検出されている孤立領域は蛍光灯やその反射光の写り込みである。
以上の実施例1の結果から、本発明の画像処理方法、画像処理装置及び画像処理プログラムを放射線の検出に適用すると、放射線の通過痕跡を特徴点として抽出(検出)することが可能であることが確認された。
本発明の画像処理方法、画像処理装置及び画像処理プログラムを放射線量の推定に適用した他の実施例を図8を用いて説明する。
本実施例では、上述の実施例1と同じガンマ線照射装置及びカメラを用いた。また、撮影距離,画像サイズ,着目点からの距離dも実施例1と同様にした。
本実施例では、放射線を照射している時に連続撮影を行って取得した二枚の画像を元画像として用いた。
連続撮影によって得られた図8(A)に示す元画像I1に対して本発明の画像処理方法(上述の実施形態のS1〜S7)を適用して得られた総乗画像と図8(B)に示す元画像I2に対して本発明の画像処理方法(上述の実施形態のS1〜S7)を適用して得られた総乗画像とを用いて、本発明の画像処理方法における連続撮影画像を用いての両画像で同じ撮像(被写体や背景など)の除去(上述の実施形態のS8〜S10)を行って図8(C)に示す総乗画像同士の比較結果画像が得られた。
図8(A)及び(B)から、これら元画像においては放射線の通過痕跡を目視で見つけることは殆どできないことが確認された。
その一方で、図8(C)に示す結果から、放射線の通過痕跡が特徴点として抽出(検出)されており、本発明の画像処理方法を適用することによって放射線の通過痕跡を容易に視認することができるようになることが確認された。
また、実施例1の図6(B)と本実施例の図8(C)との比較から、本発明の画像処理方法における連続撮影画像を用いての両画像で同じ撮像(被写体や背景など)の除去(上述の実施形態のS8〜S10)を行うことにより、放射線の通過痕跡ではない余計な特徴点を減少させて放射線の通過痕跡の特徴点としての抽出(検出)を的確に行うことが可能であることが確認された。
また、図8(C)に示す比較結果画像における放射線の通過痕跡である孤立領域(輝度値80以上で9画素以下)は151個であり、実施例1の図7に示す結果における放射線照射前・終了後における孤立領域の個数約70〜100個と放射線照射中における個数約200〜250個との差である大凡150個に概ね合致することが確認された。このことからも、本発明の画像処理方法における連続撮影画像を用いての両画像で同じ撮像(被写体や背景など)の除去(上述の実施形態のS8〜S10)を行うことにより、放射線の通過痕跡ではない余計な特徴点を減少させて放射線の通過痕跡の特徴点としての抽出(検出)を的確に行うことが可能であることが確認された。
本発明の画像処理方法、画像処理装置及び画像処理プログラムを放射線量の推定に適用した更に他の実施例を図9を用いて説明する。
本実施例では、上述の実施例1と同じガンマ線照射装置及びカメラを用いた。また、撮影距離,画像サイズ,着目点からの距離dも実施例1と同様にした。さらに、実施例1と同様に、5秒間隔でタイマー撮影を行い、1回目撮影から5回目撮影までは放射線の照射を行わず、6回目撮影から29回目撮影までは放射線の照射を行い、30回目撮影から34回目撮影までは放射線の照射を行わなかった。
本実施例では、カメラのレンズにキャップを付けたままの状態を模擬する(言い換えると、被写体や背景を撮像しない状態を作り出す)ため、室内照明を消して撮影を行った。
1回目から34回目までの撮影によって得られた元画像の各々に対して本発明の画像処理方法(上述の実施形態のS1〜S7)を適用して得られた総乗画像における孤立領域(輝度値80以上で9画素以下)の個数を計数して図9に示す結果が得られた。
図9に示す結果から、放射線の照射前及び照射終了後においては孤立領域が抽出されないのに対して放射線の照射中においては孤立領域が約70〜110個抽出されており、カメラのレンズにキャップを付けたまま若しくは暗闇など被写体や背景を撮像しない状態で撮影をすることで、余計な像が写り込まないので放射線の通過痕跡のみを孤立領域として的確に抽出することが可能であることが確認された。
本発明の画像処理方法、画像処理装置及び画像処理プログラムを放射線量の推定に適用したまた更に他の実施例を図10を用いて説明する。
本実施例では、上述の実施例1と同じガンマ線照射装置及びカメラを用いた。また、画像サイズ,着目点からの距離dも実施例1と同様にした。
また、本実施例では、上述の実施例3と同様に、カメラのレンズにキャップを付けたままの状態を模擬する(言い換えると、被写体や背景を撮像しない状態を作り出す)ため、室内照明を消して撮影を行った。
本実施例では、ガンマ線照射装置からカメラまでの距離を2〔m〕,3〔m〕,5〔m〕,7〔m〕,10〔m〕と変化させて、距離毎に5秒間隔でタイマー撮影を行って複数枚の元画像を取得するようにした。なお、撮影距離2〔m〕は放射線量率としては約5〔ミリシーベルト/時〕であり、以降撮影距離順に約3〔mSv/時〕,約1〔mSv/時〕,約0.6〔mSv/時〕であり、撮影距離10〔m〕は放射線量率としては約0.3〔mSv/時〕である。また、撮影距離を変える間は、5秒間隔でのタイマー撮影は継続して行い、放射線の照射は行わないようにした。
5秒間隔でのタイマー撮影によって得られた元画像の各々に対して本発明の画像処理方法(上述の実施形態のS1〜S7)を適用して得られた総乗画像における孤立領域(輝度値80以上で9画素以下)の個数を計数して図10に示す結果が得られた。
図10に示す結果から、ガンマ線照射装置からカメラまでの距離が遠くなってカメラ位置における放射線量率が減少すると抽出(検出)される孤立領域の個数も減少するので、本発明の画像処理方法によれば放射線量の多少を孤立領域の個数の多少として反映させることが可能であることが確認された。
そして、放射線量(放射線量率)と孤立領域の個数との間の関係を予め把握してことにより、具体的には例えば両者の相関式を予め定めておくことにより、撮影によって得られた画像に対して本発明の画像処理方法を適用して孤立領域の個数を計数することによって撮影地点における放射線量の推定を行うことが可能であることが確認された。