以下、本発明のさらに具体的な実施の形態のうちの一つを例として図面に基づいて詳細に説明する。
図1には、本発明の一実施形態に従うヘッドマウントディスプレイ(以下、「HMD」と略称する。)10が斜視図で示されている。このHMD10は、シースルー型の表示ユニット12と、アタッチメント14とを備えている。
表示ユニット12は、単眼式であり、画像を表す画像光を観察者の両眼のうちの一方である観察眼(他方の眼は、非観察眼)に投射するように構成されている。表示ユニット12は、概して長手方向に延びる形状を有するとともに、観察者の頭部に装着された状態(以下、「頭部装着状態」という)において、観察眼の眼前で、かつ、観察者に対する前後方向と交差する方向(本実施形態においては、略左右方向)に延びるように配置される。
表示ユニット12は、表示画像の観察方式として、シースルー型、すなわち、観察者が、この表示ユニット12による表示画像に重ねて現実外界を観察することを可能にする方式を採用する。ただし、表示ユニット12は、シースルー型に代えて、完全または部分的な密閉型、すなわち、現実外界からの入射光を完全にまたは部分的に遮断し、観察者が、概して主体的に表示画像を観察することを可能にする方式を採用することが可能である。
観察者の頭部に被装着部材としてのフレーム20が装着され、図1に示すように、そのフレーム20にアタッチメント14が装着され、そのアタッチメント14に表示ユニット12が装着される。その結果、表示ユニット12がアタッチメント14を介してフレーム20に装着される。
まず、フレーム20を説明するに、フレーム20は、図示しないが、観察者の両耳にかけられる状態で観察者の頭部に装着される。本実施形態においては、フレーム20が、HMD10による表示画像を観察するのに専用のフレームとして機能する。ただし、観察者が視力矯正や眼球保護のために装着する通常の眼鏡(例えば、近視用・遠視用眼鏡、サングラス、作業用保護眼鏡など)をフレーム20として代用することが可能である。また、本実施形態においては、前記被装着部材の一例として眼鏡型のフレーム20が使用されるが、それに代えて、他の形式の被装着部材、例えば、観察者の頭部に装着されるヘルメットやバンド、ゴーグルなどを使用することが可能である。
フレーム20は、それの基本的形状が、観察者の頭部に装着される通常の眼鏡に形状に似ていることに着目し、眼鏡型フレームと称することができる。このフレーム20は、頭部装着状態において観察者の両眼のそれぞれの眼前に位置する一対のレンズ状透明体22,22(例えば、眼鏡のレンズを模したダミーレンズであって、実質的な光屈折を行わないもの)を、HMD10から観察者の両眼を物理的に保護するために備えている。
それら一対のレンズ状透明体22,22は、ブリッジ24によって互いに連結され、それら一対のレンズ状透明体22,22とブリッジ24とにより、フレーム20のうちのフロント部26が構成される。そのフロント部26の左側部30Lおよび右側部30Rから一対のテンプル34,34がそれぞれ延び出ている。フレーム20は、一対のテンプル34,34において観察者の両耳にかけられる。
フロント部26は、さらに、頭部装着状態において、観察者の鼻に両側から接触する一対のパッド36,36を備えている。それら一対のパッド36,36が観察者の鼻に接触することにより、フレーム20の、観察者の鼻、ひいては、両眼に対する相対的な位置(観察者から見た前後方向、左右方向および上下方向)がほぼ同じ位置に決まる。
次に、アタッチメント14を説明するに、アタッチメント14は、観察者の選択により、観察者の右眼が観察眼である右眼観察モードを実現するために表示ユニット12がフレーム20の右側部30Rに取り付けられる状態と、観察者の左眼が観察眼である左眼観察モードを実現するために表示ユニット12がフレーム20の左側部30Lに取り付けらける状態とに切り換わる。
図1および図2(a)には、HMD10が、左眼観察モードで使用される状態で示されており、これに対し、図2(b)には、HMD10が、右眼観察モードで使用される状態で示されている。アタッチメント14により、表示ユニット12が、フレーム20の右側部30Rと左側部30Lとの間で付け替えて使用されることが可能となっている。
図2(a)および図2(b)に示すように、表示ユニット12は、右眼観察モードと左眼観察モードとの間において、その向きを反転させて使用される。具体的には、表示ユニット12がアタッチメント14を介してフレーム20に装着される向きが、右眼観察モードと左眼観察モードとの間において、頭部装着状態において観察者の左右方向に対して略平行である垂直面内で互いに反転させられる。
図2(a)および図2(b)に示すように、アタッチメント14は、フレーム20の左側部30Lに固定される左眼用フレーム側部材40Lと、フレーム20の右側部30Rに固定される右眼用フレーム側部材40Rとを備えている。それら左眼用フレーム側部材40Lおよび右眼用フレーム側部材40Rは、頭部装着状態において、略左右方向に延びる平面的な形状を成している。また、それら左眼用フレーム側部材40Lおよび右眼用フレーム側部材40Rは、頭部装着状態において、フレーム20の前後中心線に関して互いに対称となる構造を有している。
図3ならびに図4(c),図4(d)および図4(e)に示すように、アタッチメント14は、さらに、右眼用フレーム側部材40Rと左眼用フレーム側部材40Lとに共通の中間部材50を備えている。その中間部材50は、図2(a)および図2(b)に示すように、右眼用フレーム側部材40Rと左眼用フレーム側部材40Lとの間で付け替えて使用される。
図4(a)に示すように、左眼用フレーム側部材40Lは、係合部60Lを有し、その係合部60Lは、図3に示すように、中間部材50に着脱可能かつスライド可能に装着される。図示しないが、同様に、右眼用フレーム側部材40Rは、係合部60Lと同様な係合部60Rを有し、その係合部60Rは、中間部材50に着脱可能かつスライド可能に装着される。
具体的には、図4(a)に示すように、左眼用フレーム側部材40Lは、互いに平行な上板66と下板68とを有し、上板66には、上側スロット70が開口する一方、下側には、上側スロット70より広い幅を有する下側スロット72が、上側スロット70と同一垂直面上に位置するように、開口している。それら上側スロット70および下側スロット72は、同じ側の端部において開口部74,76を有する。それら開口部74,76を経て、中間部材50が左眼用フレーム側部材40L内に挿入されるとともに、中間部材50が左眼用フレーム側部材40Lから離脱される。
それら上板66および下板68ならびに上側スロット70および下側スロット72が、左眼用フレーム側部材40Lの係合部60Lを構成している。図示しないが、同様に、右眼用フレーム側部材40Rの係合部60Rは、上板66および下板68と、上側スロット70および下側スロット72とを有し、それらが、右眼用フレーム側部材40Rの係合部60Rを構成している。図4(b)には、左眼用フレーム側部材40Lの下側スロット72が拡大されて底面図で示されている。
図4(c),(d)および(e)に示すように、中間部材50は、概してロッド状を成している。この中間部材50は、右眼用フレーム側部材40Rと左眼用フレーム側部材40Lとのうち観察者によって選択された選択フレーム側部材40(40Lまたは40R)の係合部60(60Lまたは60R)に、頭部装着状態における観察者の略左右方向にスライド可能にかつ着脱可能に装着される。
具体的には、図4(c),(d)および(e)に示すように、中間部材50は、頭部80と首部82と胴部84とを、概して軸方向に、かつ、それらの順に並ぶように有している。本実施形態においては、胴部84は、それの長手方向に直線的に延びているが、互いに直線的に並んでいる頭部80および首部82に対して、頭部装着状態かつ側面視において、後方に折れ曲がっている。その理由は、後述する。
首部82に第1係合部90が中間部材50の横方向に延びるように形成される一方、胴部84に第2係合部92が中間部材50の長手方向に延びるように形成されている。第1係合部90は、図3に示すように、選択フレーム側部材40の係合部60に着脱可能かつスライド可能に係合する部分である。一方、第2係合部92は、図5(a)および図5(b)に示すように、表示ユニット12の係合部100に着脱可能かつスライド可能に係合する部分である。
図3に示すように、中間部材50の第1係合部90が左眼用フレーム側部材40Lの係合部60Lに係合した状態で、中間部材50の頭部80が左眼用フレーム側部材40Lの上面から露出し、その露出した頭部80(それの断面形状は、例えば、三角形断面、矩形断面および半円断面のような凸状断面としたり、凹状断面とすることが可能である)が、観察者であるユーザの指により、観察者に対する左右方向に移動させられる。
さらに具体的には、図4(c),図4(d)および図4(e)に示すように、中間部材50の第1係合部90は、選択フレーム側部材40の係合部60の上側スロット70にスライド可能に嵌合する上側スライド部110と、選択フレーム側部材40の係合部60の下側スロット72にスライド可能に嵌合する下側スライド部112とを有する。
図4(a)に示すように、選択フレーム側部材40の上板66のうちの下向き面114に、薄板状の第1弾性部材116(典型的には、例えば、ウレタンパッド、ゴムパッドなど、扁平状を成す部材であるが、板ばねなど、曲面を有する部材に置換してもよい)が、上側スロット70に沿って延びるように装着されている。その第1弾性部材116の露出表面は、中間部材50が選択フレーム側部材40に装着された状態において、第1係合部90のうちのスライド面(上向き面)118にスライド可能に接触し、それにより、中間部材50と選択フレーム側部材40との間に、略左右方向に、摩擦力が発生する。
その摩擦力は、中間部材50が選択フレーム側部材40に対して一方向にスライドする運動中、その運動に対抗する第1抵抗力として作用する。その結果、中間部材50は、選択フレーム側部材40に対し、観察者にとっての略左右方向における任意の位置で、停止することが可能である。ユーザが、その第1抵抗力に打ち勝つ大きさの操作力を中間部材50に付与すると、中間部材50が選択フレーム側部材40に対して略左右方向のうち選択された方向に移動させられる。
すなわち、選択フレーム側部材40の係合部60と中間部材50の第1係合部90とが互いに共同して、表示ユニット12の、観察者の観察眼に対する相対的な位置を、略左右方向である位置調整方向において、観察者の操作に応じて調整する左右位置調整機構120を構成しているのである。
図4(b)に示すように、選択フレーム側部材40の下側スロット72は、それの開口部76において突起122を有する。下側スロット72は、前後方向に延びる一対の側壁面124,124を有する。それら一対の側壁面124,124は、それぞれの幅方向が上下方向と一致している。突起122は、それら一対の側壁面124,124のうちの一方のみに、その側壁面124から直角に突出する障害物として構成されている。第1係合部90は、中間部材50が選択フレーム側部材40に装着された状態で、一対の側壁面124,124にスライド可能に接触する一対のスライド面126,126を有する。
図4(e)に示すように、中間部材50の第1係合部90は、中間部材50が選択フレーム側部材40からみだりに離脱してしまうことを防止するために、第2弾性部材130を備えている。図4(b)および図4(e)に示すように、その第2弾性部材130は、第1係合部90の一対のスライド面126,126のうち、選択フレーム側部材40との係合状態で、選択フレーム側部材40の、突起122を有する側壁面124に接触するものから、そのスライド面126に対して直角な方向に突出して露出している。
図4(b)に示すように、第2弾性部材130は、本実施形態においては、波状を成す板ばねであるが、他の形状を有するばねに置換することが可能である。図4(e)には、その波状の板ばねが、それの1個の山部において、スライド面126から露出している様子が示されている。その板ばねは、後述の第4弾性部材としての波状の板ばねと類似する形状および配置を有する。
中間部材50が選択フレーム側部材40に装着された状態においては、第2弾性部材130が、一方のスライド面126に弾性的に押し付けられるか、または、押し付けられないようになっているが、中間部材50が選択フレーム側部材40の係合部60に対してスライドしてその係合部60から離脱しようとする手前で、第2弾性部材130が突起122に押し付けられる。その結果、中間部材50のスライド運動に対抗する第2抵抗力が発生する。
その第2抵抗力は、前記第1抵抗力より大きい力として発生させるようになっている。ユーザが、中間部材50の離脱を意図することなく左右位置調整を行っている際、第2抵抗力より大きい操作力を中間部材50に付与しない限り、突起122が第2弾性部材130を乗り越えることができず、よって、ユーザの意に反した中間部材50の離脱および表示ユニット12の脱落が防止される。
すなわち、突起122および第2弾性部材130が、ユーザの意に反して中間部材50が選択フレーム側部材40に対して右方または左方にスライドしてその選択フレーム側部材40から離脱してしまうことを防止する左右方向離脱防止機構132を構成しているのである。
図4(c),図4(d)および図4(e)に示すように、中間部材50の第2係合部92は、概してT字状を成す断面で直線的に延びる形状を有している。具体的には、第2係合部92は、直線的に延びる板状の底部140であって、前記T字のうちの横ストロークに相当するものと、その底部140の一表面上に一体的に形成された縦壁部142であって、前記T字のうちの縦ストロークに相当するものとを有する。その縦壁部142は、底部140の長手方向に延びてその底部140を二等分する垂直平面に沿って延びている。
これに対し、図5(a)に示すように、表示ユニット12の係合部100は、その表示ユニット12の外面を構成する複数の面のうち、頭部装着状態において背面を構成する面に、上下方向に延びるように一体的に形成されている。その係合部100は、概してT字状を成す断面で直線的に延びる係合溝144を有する。その係合溝144は、底面146と、前記T字のうちの横ストロークに相当する内部空間を長手方向に沿って定義する一対の幅広側壁面148,148と、前記T字のうちの縦ストロークに相当する内部空間を長手方向に沿って定義する一対の幅狭側壁面150,150とを有する。図5(b)には、一対の幅狭側壁面150,150が拡大されて正面図で示されている。このような形状を有する係合溝144内に、中間部材50の第2係合部92がスライド可能に嵌合される。
係合溝144は、それの両端部154,156において開口している。その係合溝144の両端部154,156のうちの一方を経て、左眼観察モードへの移行のために中間部材50が係合溝144内に挿入され、また、他方の端部154,156を経て、右眼観察モードへの移行のために中間部材50が係合溝144内に挿入される。
図5(a)に示すように、係合溝144の底面146に、薄板状の第3弾性部材160(典型的には、例えば、ウレタンパッド、ゴムパッドなど、扁平状を成す部材であるが、板ばねなど、曲面を有する部材に置換してもよい)が、その係合溝144に沿って延びるように装着されている。その第3弾性部材160の露出表面は、中間部材50が表示ユニット12に装着された状態において、第2係合部92の底部140の先端面(後向き面)162にスライド可能に接触し、それにより、中間部材50と表示ユニット12との間に、略上下方向に、摩擦力が発生する。
その摩擦力は、中間部材50が表示ユニット12に対して一方向にスライドする運動中、その運動に対抗する第3抵抗力として作用する。その結果、中間部材50は、表示ユニット12に対し、観察者にとっての略上下方向における任意の位置で、停止することが可能である。ユーザが、その第3抵抗力に打ち勝つ大きさの操作力を中間部材50に付与すると、中間部材50が表示ユニット12に対して略上下方向のうち選択された方向に移動させられる。
すなわち、中間部材50の第2係合部92と表示ユニット12の係合部100とが互いに共同して、表示ユニット12の、観察者の観察眼に対する相対的な位置を、略上下方向である位置調整方向において、観察者の操作に応じて調整する上下位置調整機構170を構成しているのである。
以上要するに、本実施形態においては、表示ユニット12の、フレーム20に対する相対的な位置と角度とのうちの少なくとも一方を調整する調整機構として、左右位置調整機構120と、上下位置調整機構170とを有するのである。それら左右位置調整機構120および上下位置調整機構170は、互いに共同して位置調整機構172を構成する。
図5(b)に示すように、一対の幅狭側壁面150,150のうち図において右側に示すものには、係合溝144の両端部154,156のうち左眼観察モードにおいて上側に位置するものにおいて、突起176が形成されている。また、一対の幅狭側壁面150,150のうち図において左側に示すものには、係合溝144の両端部154,156のうち右眼観察モードにおいて上側に位置するものにおいて、突起178が形成されている。前者の突起176は、左眼観察モードにおいて、観察者の意に反して表示ユニット12が中間部材50に対して下方にスライドして表示ユニット12から離脱することを防止する(脱落防止を行う)ためのものであり、一方、後者の突起178は、右眼観察モードにおいて表示ユニット12の脱落防止を行うためのものである。
図4(e)および図5(c)に示すように、第2係合部92は、中間部材50が表示ユニット12からみだりに離脱してしまうことを防止するために、第4弾性部材180を備えている。その第4弾性部材180は、第2係合部92の縦壁部142の両側面182,182のうち、左眼観察モードにおいて右側に位置するものから露出して、その側面182から直角に突出するように、第2係合部92に装着されている。その第4弾性部材180は、本実施形態においては、図5(c)に示すように、波状を成す板ばねであるが、他の形状を有するばねに置換することが可能である。
中間部材50が表示ユニット12に装着された状態においては、第4弾性部材180が、一方の幅広側壁面148,148に弾性的に押し付けられるか、または、押し付けられないようになっているが、表示ユニット12が中間部材50に対して下方にスライドして中間部材50から離脱しようとする手前で、第4弾性部材180が突起176または178に押し付けられる。その結果、表示ユニット12のスライド運動に対抗する第4抵抗力が発生する。
その第4抵抗力は、前記第3抵抗力より大きい力として発生させるようになっている。ユーザが、中間部材50の離脱を意図することなく上下位置調整を行っている際、第3抵抗力より大きい操作力を中間部材50に付与しない限り、突起176または178が第4弾性部材180を乗り越えることができず、よって、ユーザの意に反した表示ユニット12の脱落(中間部材50は選択フレーム側部材40に残したままで)が防止される。
すなわち、突起176、178および第4弾性部材180が、ユーザの意に反して表示ユニット12が中間部材50に対して下方にスライドしてその中間部材50から離脱してしまうことを防止する下方離脱防止機構186を構成しているのである。
以上、HMD10のアタッチメント14を説明したが、次に、表示ユニット12を説明する。
図1に示すように、表示ユニット12は、それの長手方向に延びる、概して中空であるハウジング200を有する。ハウジング200は、合成樹脂製である。そのハウジング200内に、前記画像光を形成する画像光形成部202(図6参照)が収容されている。表示ユニット12は、画像光形成部202を収容する本体部分210と、その画像光形成部202によって形成された画像光を観察眼に向けて出射する出射口212が形成された出射口部分214とを、前記長手方向に沿って互いに並ぶように有している。
本体部分210は、頭部装着状態において、観察者に対して前後方向に延びる横長断面を有している。同様に、出射口部分214は、頭部装着状態において、観察者に対して前後方向に延びる横長断面を有している。その横長断面の形状は、表示ユニット12によって表示される前記画像を観察者が知覚する横長長方形状を成す画像表示エリアの形状を反映している。また、出射口部分214の横長断面の縦寸法は、本体部分210の横長断面の縦寸法より小さくなるように設定されている。
図6に示すように、画像光形成部202は、入射光を2次元空間的に変調して前記画像光を生成する、概して板状を成す空間光変調素子としてのLCD220を有する。LCD220は、複数の画素が2次元的に並んだ液晶ディスプレイである。
なお付言するに、本実施形態においては、表示ユニット12が空間光変調型であるが、網膜走査型、すなわち、レーザ等、光源からの光束をスキャナによって走査し、その走査された光束を観察者の網膜に投射するものに変更してもよい。
画像光形成部202は、さらに、板状の駆動回路222を有する。その駆動回路222は、図示しないケーブルを介して、LCD220に電気的に接続されている。駆動回路222は、外部から入力される画像信号に基づいてLCD220を駆動し、それにより、観察者に表示すべき画像を表す画像光をLCD220から出射させる。LCD220は、バックライト光源を内蔵しているが、その光源に代えて、LCD220から独立した光源を用いてもよい。駆動回路222およびLCD220(さらに、後述のピント調整機構230を含む)は、ハウジング200のうち、本体部分210に属する部分内に収容されている。
LCD220は、相対向する一対の長辺と相対向する一対の短辺とによって構成される長方形状の画像表示面を有しており、LCD220は、頭部装着状態において、その画像表示面の一対の長辺が前後方向に延びるように、画像光形成部202内に配置される。
図6に示すように、画像光形成部202は、さらに、LCD220を前記光軸方向において前後に変位させることによって前記画像光のピント位置を調整するピント調整機構230を有している。そのピント調整機構230は、LCDホルダ232と、支持機構234と、LCDアジャスタ236(操作部)と、運動変換機構238とを有する。ピント調整機構230は、LCD220と同様に、ハウジング200のうち、本体部分210に属する部分内に収容されている。
LCD220は、画像光形成部202の長手方向と一致する光軸方向を有し、かつ、ハウジング200内において、前記光軸方向に変位可能に支持されている。具体的には、LCD220は、LCDホルダ232によって一体的に回転・移動可能に保持されており、そのLCDホルダ232は、ハウジング200の一部またはハウジング200に固定の別部材(本実施形態においては、静止部材240)に設けられた支持機構234により、光軸方向に移動可能かつ回転不能に支持されている。
図6に示すように、LCDアジャスタ236は、光軸と同軸であるように、かつ、LCDホルダ232の外周部を包囲するように、ハウジング200内に設置されている。LCDアジャスタ236は、ハウジング200に、光軸方向に移動不能かつ同軸的に回転可能に支持されている。これにより、LCDアジャスタ236は、光軸方向における定位置において、ユーザの操作に応じて必要角度だけ回転させられる。ユーザからLCDアジャスタ236へのアクセスを可能にするため、図1および図5(c)に示すように、LCDアジャスタ236のうち、頭部装着状態において前方に位置する部分と、後方に位置する部分とがそれぞれ、ハウジング200を構成する複数の面のうち、前面と後面とから露出させられている。LCDアジャスタ236の外周面には、ユーザによる操作性を向上させるために、複数の歯が形成されている。
運動変換機構238は、LCDアジャスタ236とLCDホルダ232とに関連付けられる。運動変換機構238は、LCDアジャスタ236の回転運動をLCDホルダ232の直線運動に変換し、それにより、LCD220を光軸方向に沿って所望の位置に移動させる。運動変換機構238は、本実施形態においては、図7(a)に示すように、LCDホルダ232の外周面に形成されたらせん状のカム溝242と、LCDアジャスタ236の内周面に形成された、半径方向に延びる駆動ピン(図示しない)とを有する。その駆動ピンは、カム溝242にがたなく係合し、その係合状態でカム溝242に沿って相対的に運動させられる。LCDアジャスタ236が回転させられると、前記駆動ピンが光軸回りに円運動を行い、その円運動は、カム溝242と支持機構234との共同作用により、LCDホルダ232の直線運動に変換される。
ただし、運動変換機構238は、カム機構以外の機構によって必要な運動変換を行うことが可能であり、例えば、ねじ機構(例えば、LCDアジャスタ236の内周面に形成されためねじと、LCDホルダ232の外周面に形成されたおねじであって前記めねじが螺合するもの)を採用してもよい。
図6に示すように、表示ユニット12は、さらに、接眼光学系246を有する。その接眼光学系246は、複数の光学素子としての複数のレンズが直列に並んだ一次元配列として構成されている。それらレンズは、同じ光軸を共有する。その光軸は、ハウジング200の長手方向に平行に、かつ、ミラーなどの部品によってその方向が曲げられることなく、一直線に延びる。接眼光学系246は、ハウジング200のうち、本体部分210に属する部分内に収容されている。
すなわち、本実施形態においては、一列に並んだ駆動回路222、LCD220、ピント調整機構230および接眼光学系246がいずれも、本体部分210内に収容されているのである。
接眼光学系246における複数のレンズのうち最も下流側に位置するもの(以下、「終端レンズ」という)248は、特別な措置を講じないと、ユーザが誤って終端レンズ248に触れてしまう可能性がある。ユーザが終端レンズ248に触れると、その終端レンズ248が汚れてしまい、表示画像の劣化の要因となり得る。
これに対し、本実施形態においては、接眼光学系246が、終端レンズ248より下流に配置された保護透明体(例えば、合成樹脂製の透明な円板)250を備えている。その保護透明体250は、ユーザによる終端レンズ248への直接アクセスを阻止し、それにより、その終端レンズ248を、画質を劣化させることなく、保護するように機能する。ユーザは、その保護透明体250を、必要に応じ、クリーニングまたは交換することにより、画像光の損失、ひいては画質の劣化を防止することができる。
出射口部分214は、接眼光学系246から出射する画像光を曲げて観察眼に誘導する部分反射・部分透過光学素子としてのハーフミラー(画像光を観察眼に向けて偏向する偏向部材の一例)260を有している。そのハーフミラー260は、出射口部分214の先端部に、上下方向軸線回りに回動可能に装着されている。ハーフミラー260は、格納位置と展開位置(使用位置)とに回動することが可能である。ハーフミラー260は、出射口部分214から観察眼に向かって突出する姿勢で出射口部分214に回動可能に装着されている。
接眼光学系246から出射する画像光は、ハーフミラー260で反射して、観察眼の瞳孔を通過して、網膜(図示しない)に入射する。それにより、観察者が2次元画像を虚像として観察することが可能となる。観察眼には、ハーフミラー260で反射した画像光のみならず、現実外界からの光(外光)がハーフミラー260を透過して入射する。その結果、観察者は、画像光によって表示される画像の観察と並行して現実外界を観察することが可能である。
図8に示すように、表示ユニット12は、本体部分210という部品と、出射口部分214という部品とに分割されており、それら部品は、互いに分離可能に連結される。出射口部分214を本体部分210から分離すると、ユーザは、保護透明体250にアクセスしてクリーニングすることが可能となる。
表示ユニット12は、さらに、本体部分210と出射口部分214とを着脱可能に互いに連結する連結機構270を有している。その連結機構270は、図9(a)および図9(b)に示すように、頭部装着状態において、出射口部分214(例えば、ハーフミラー260の先端部)が、観察者の顔のうち、観察眼もしくはそれの近傍部分または観察眼の前方に位置して観察眼を保護するツール(本実施形態においては、観察眼の前方にあるレンズ状透明体22,22)(以下、それらを「潜在的接触対象物」と総称する)に接触することに応答して出射口部分214に第1外力が作用すると、その第1外力により、出射口部分214が本体部分210から離脱することが可能であるように構成されている。
したがって、本実施形態によれば、HMD10の使用中に、万一、出射口部分214が前記潜在的接触対象物に接触してしまうことがあっても、その潜在的接触対象物に出射口部分214が接触し続けてしまうことがなくなり、その結果、使用中におけるHMD10の、ユーザに対する安全性が向上する。
具体的には、連結機構270は、第1外力が前記潜在的接触対象物から出射口部分214に作用することによって出射口部分214に発生するモーメントであって、出射口部分214を本体部分210との接点を支点として回動させようとするものにより、出射口部分214が本体部分210から離脱することが可能であるように構成されている。連結機構270は、出射口部分214のうち、本体部分210との連結状態において、その本体部分210と接合する第1接合端部272と、本体部分210のうち、出射口部分214との連結状態において、その出射口部分214と接合する第2接合端部274とに跨るように配置されている。
図8に示すように、出射口部分214の第1接合端部272も本体部分210の第2接合端部274も、横断面が概して横長長方形状を成していて、第1接合端部272の端面も、第2接合端部274の端面も、概して互いに平行に、かつ、頭部装着状態において前後方向に延びる上側および下側水平エッジ276,278と、概して互いに平行に、かつ、頭部装着状態において上下方向に延びる前側および後側垂直エッジ280,282とを有している。図9(a)および図9(b)に示すように、第1外力が観察者の顔から出射口部分214に作用すると、出射口部分214が本体部分210に対して、一対の垂直エッジ280,282のうち、観察者から遠い前側垂直エッジ280(出射口部分214と本体部分210との接点)の回りに相対的に回動させられる。
図9(c)に示すように、連結機構270は、出射口部分214を本体部分210から前記長手方向に引っ張る向きの第2外力が出射口部分214に作用すると、その第2外力により、出射口部分214が本体部分210から離脱することが可能であるように構成されている。
したがって、本実施形態によれば、保護透明体250をクリーニングするなどのメンテナンスを表示ユニット12に対して行うことが必要である場合に、ユーザは、出射口部分214を本体部分210から簡単に取り外すことが可能となり、その結果、HMD10のメンテナンスし易さが向上する。
さらに、本実施形態においては、連結機構270が、第1外力による出射口部分214の離脱の方が、第2外力による出射口部分214の離脱より容易に行われるように構成されている。具体的には、例えば、連結機構270は、出射口部分214の回動による離脱を行うのに必要な第1外力の方が、出射口部分214の並進運動による離脱を行うのに必要な第2外力より小さくなるように構成されている。したがって、本実施形態によれば、万一、出射口部分214が前記潜在的接触対象物に接触してしまうことがあっても、その接触が継続しないようにする安全性設計が、表示ユニット12のメンテナンス性を向上させる設計より優先的に実現される。
図8に示すように、連結機構270は、互いに係合・離脱可能な凸部290および凹部292を有している。それら凸部290および凹部292の一方は、本体部分210に形成され、他方は、出射口部分214に形成されている。
具体的には、本実施形態においては、凸部290が、出射口部分214の第1接合端部272のうち、上下方向に互いに対向する上板294と下板296とにそれぞれに片持ち状にかつ一体的に形成されたフック300,300の先端部に形成されている。各フック300は、横長断面で薄板状を成し、出射口部分214から本体部分210に向かって、頭部装着状態において略左右方向に延び出している。上側および下側の凸部290,290は、平面視において互いに同じ位置において、かつ、側面視において互いに対向する向きに突出している。
各フック300は、合成樹脂製であり、それの面に直角な方向に弾性変形することが可能であり、それにより、各凸部290が、出射口部分214に対して相対的に略上下方向に弾性変位することが可能である。すなわち、各フック300は、片持ち弾性はりとして機能するのである。
これに対応して、凹部292が、本体部分210の第2接合端部274のうち、上下方向に互いに対向する上板302と下板304とにそれぞれに片持ち状にかつ一体的に形成された受け部310,310に形成されている。上側および下側の凹部292は、平面視において互いに同じ位置において、かつ、側面視において互いに反対向きに開口している。受け部310は、フック300と同様に、本体部分210から出射口部分214に向かって、頭部装着状態において略左右方向に延び出している。
受け部310は、フック300と同様に、本体部分210から片持ち状に延び出しているが、フック300とは異なり、受け部310の材料力学的構造により、実質的にほとんど弾性変形しない。すなわち、受け部310は静止部材として作用するのに対し、フック300は可動部材として作用するようになっているのである。
図10(a)には、出射口部分214の第1接合端部272に形成された上側の凸部290が、本体部分210の第2接合端部274に形成された上側の凹部292内に係合している。その係合状態においては、それら凸部290および凹部292が、それぞれに形成された斜面312,314において互いに接触している。係合状態においては、第1外力または第2外力が出射口部分214、ひいては、凸部290に作用すると、図10(b)に示すように、凸部290が凹部292を、凸部290の、それら凸部290および凹部292が互いに対向する対向方向(図10に示す例においては、上下方向)における弾性変位によって乗り越えることにより、凸部290が凹部292から離脱する。
上述のように、本実施形態においては、凸部290の外壁面のうち、その凸部290が凹部292を乗り越える際にその凹部292に接触することとなる部分に、凸部290の離脱可能方向に傾斜した斜面312が形成されている。これに対し、凹部292の内壁面のうち、その凹部292を凸部290が乗り越える際にその凸部290に接触することとなる部分に、凸部290の離脱可能方向に傾斜した斜面314が形成されている。いずれの斜面312,314も、凸部290が凹部292を乗り越えることを助ける向きを有する。その結果、係合状態において凸部290と凹部292とが互いに接触する部分に斜面に代えて垂直面が採用される場合に比較し、出射口部分214が本体部分210から分離されるのに必要な力が減少し、それにより、出射口部分214が本体部分210から分離されるべきときに分離されないかまたは分離されにくいといった事態が回避される。
図8に示すように、本実施形態においては、上側および下側の凸部290がいずれも、出射口部分214の上板294および下板296のうち対応するもののうち、HMD10の頭部装着状態において、観察者に対する前後方向(図8においては、左右方向)において概して中央である位置に対称的に配置されている。
その対称的配置のおかげで、出射口部分214が本体部分210に対して、いずれの垂直エッジ280,282の回りに回動しようとする際にも、凸部290が凹部292から離脱するために必要な力の大きさが同じとなる。すなわち、凸部290が、いずれかの垂直エッジ280,282に接近するように配置されると、凸部290に近い垂直エッジ280または282の回りの回動による凸部290の離脱はてこの原理を利用できるために容易であるが、凸部290から遠い垂直エッジ280または282の回りの回動による凸部290の離脱はてこの原理を利用できないために困難となるというように、出射口部分214が本体部分210から離脱されるのに必要な力が出射口部分214の回動の向きに依存してしまう。これに対し、本実施形態によれば、出射口部分214が本体部分210から離脱されるのに必要な力が出射口部分214の回動の向きに依存せずに済む。
図12(a)には、表示ユニット12が出射口部分214と本体部分210とに分割される分割位置が、観察眼320の位置との関係において平面図で示されている。図8に示すように、出射口部分214が本体部分210から分離されると、その本体部分210の第2接合端部274が露出する。その露出した第2接合端部274は、前記潜在的接触対象物(本実施形態においては、観察眼の前方にあるレンズ状透明体22)に接触する可能性がある。
図12(a)に示すように、本実施形態においては、分割位置が、HMD10の頭部装着状態において、観察眼320のまっすぐ前方に位置しないように決定されている。その結果、出射口部分214が本体部分210から分離されると、その本体部分210の第2接合端部274が露出するが、その露出した第2接合端部274が前記潜在的接触対象物(特に、観察眼320)に接触してしまう可能性が軽減され、このことによっても、使用中におけるHMD10の、ユーザに対する安全性が向上する。
HMD10の複数の構成部品のうち、頭部装着状態において観察眼320の眼前に配置される可能性があるものは、表示ユニット12およびアタッチメント14(位置調整機構172を含む)である。
一方、シースルー式のHMD10の設計においては、ユーザの要望を満たす程度に画像表示機能(前記画像表示エリアの確保、目標解像度の実現およびピント調整機能を含む)および位置調整機能(位置調整機構172の機能)を実現するために必要な占有空間を確保しつつ、HMD10の頭部装着状態で、観察者がHMD10の物理的存在から受ける視覚的圧迫感ができる限り軽減されるようにすることが望ましい。
このような知見を背景に、本実施形態においては、表示ユニット12の本体部分210および出射口部分214のそれぞれの形状およびサイズと、それら本体部分210および出射口部分214ならびに位置調整機構172のそれぞれの、観察眼320に対する相対的な配置が設定されている。
まず、画像表示機能を確保するためのHMD10の設計を説明するに、本実施形態においては、前記画像表示エリアの目標形状(横長長方形であることと、目標アスペクト比)および目標サイズ(HMD10の画角に適合するサイズ)を確保するため、出射口部分214が、頭部装着状態において、観察者に対して前後方向に延びる横長断面を有するように、表示ユニット12が設計される。
前述のように、出射口部分214の横長断面の形状は、前記画像表示エリアの形状を反映するように設定される。出射口部分214の横長断面は、頭部装着状態において、前後方向に延びる垂直面で出射口部分214を仮想的に切断することによって取得される断面である。この断面が、前後方向に延びるように横長であるためには、例えば、その断面を横長長方形としたり、横長の長円(楕円を含む)とすればよい。
本実施形態によれば、出射口部分214が、側面視において、横長断面を有するように観察眼に対して配置されるため、出射口部分214の断面のアクペクト比が、その横長断面より正方形断面に近い断面形状を表す場合に比較して、観察者の前方視界が出射口部分214によって遮蔽される面積が減少する。
さらに、本実施形態によれば、出射口部分214の横長断面の縦寸法(本実施形態においては、頭部装着状態において、上下方向寸法)が、本体部分210の横長断面の縦寸法(本実施形態においては、頭部装着状態において、上下方向寸法)より小さくなるように設定されている。したがって、本実施形態によれば、出射口部分214の横長断面の縦寸法が本体部分210の横長断面の縦寸法と同じであるかまたはそれより大きい場合に比較して、観察者の前方視界が出射口部分214によって遮蔽される面積が減少する。
次に、表示画像の解像度を確保するためのHMD10の設計を説明するに、本実施形態においては、表示画像の解像度を確保するため、LCD220のサイズ(表示面のサイズ)が、出射口部分214の断面のサイズより大きくなるように設計される。将来における技術の進歩や量産効果により、より小さいLCD220でありながら安価にして同等の性能を実現できるLCD220が誕生するかもしれないが、現時点では、LCD220は比較的大きい。このようなLCD220のサイズの設計に伴い、そのLCD220を収容する本体部分210の断面のサイズが、出射口部分214の断面のサイズより大きくなるように設計される。
とはいえ、本実施形態によれば、本体部分210が、側面視において、横長断面を有するように観察眼に対して配置されるため、本体部分210の断面のアクペクト比が、その横長断面より正方形断面に近い断面形状を表す場合に比較して、観察者の前方視界が本体部分210によって遮蔽される面積が減少する。
次に、位置調整機能を確保するためのHMD10の設計を説明するに、本実施形態においては、前述のように、表示ユニット12を観察眼320に対して前後方向において調整する前後位置調整機構を有しないというように、位置調整機構172の機能が単純化されてそれのサイズが、そのような前後位置調整機構をも有する形式の位置調整機構より小型化されている。とはいえ、位置調整機構172を、LCD220の上下方向サイズと同等にまで小型化することは困難であり、位置調整機構172は、表示ユニット12の本体部分210より大型化することを避け得ない。
すなわち、本実施形態においては、表示ユニット12の本体部分210および出射口部分214ならびに位置調整機構172につき、HMD10の頭部装着状態において、上下方向サイズを互いに比較すると、出射口部分214、本体部分210および位置調整機構172の順に大型化するのである。
ところで、光を少なくとも部分的に遮蔽する障害物が観察眼320の眼前に存在する場合、人間は、その障害物から圧迫感や閉塞感といった不快感を感じる。しかし、そのような不快感の程度は、障害物の、観察眼320に対する相対的な位置の如何を問わず、同じであるというわけではなく、障害物の位置によって異なる。強い不快感を感じる位置もあれば、それほど不快感を感じない位置もあるのである。このような人間の視野特性(知覚特性)を考慮してHMD10の各部位の、観察眼320に対する相対的な位置を決めることが望ましい。
図11には、観察眼320に対する4つの視野領域であってよく知られているものが側面図で示されている。それら視野領域は、中央に位置する有効視野領域と、それの外側に位置する安定注視野領域と、さらに外側に位置する誘導視野領域と、さらに外側に位置する補助視野領域とを有する。公開されているある定義によれば、視野領域の分類は次のとおりである。
1.有効視野領域
眼球運動のみで対象を捉えることができ、ノイズの中から目的とする対象(視覚的情報)を受容することができる領域であり、人間がまっすぐ前方を見ているときにおける観察眼320の視線(以下、「前方観察時視線」という)に対して、左右約15度、上約8度、下約12度以内の領域である。
2.安定注視野領域
眼球運動に観察者の頭部の運動を伴うことによって無理なく対象を注視することができる領域であり、観察眼320の前方観察時視線に対して、左右約30−45度、上約20−30度、下約25−40度以内の領域である。
3.誘導視野領域
呈示された対象を識別することはできず、その存在しか判定することができないが、人間の空間座標感覚に影響を与える領域であり、観察眼320の前方観察時視線に対して、左右約30−100度、上下約20−85度以内の領域である。
4.補助視野領域
呈示された対象への知覚は極度に低下し、強い刺激などに注視動作を誘発する程度の働きをする領域であり、観察眼320の前方観察時視線に対して、左右約100−200度、上下約85−135度以内の領域である。
本実施形態においては、上述の人間の視覚特性を考慮し、HMD10の各部位の、観察眼320に対する相対的な位置が決定された。
なお付言するに、図6および図12に示すように、本体部分210は、画像光の進行方向に関して上流側の部分USと下流側の部分DSとを有し、その下流側の部分DSの端部において本体部分210が出射口部分214に着脱可能に連結されている。また、本体部分210は、上流側の部分USにおいて下流側の部分DSより大きい上下方向サイズを有している。上流側の部分USの内部には、他の光学素子より大きい光学素子であるLCD220が収容されているからである。
1.表示ユニット12のうちの出射口部分214の位置
図11の側面図で示すように、出射口部分214は、画像光を観察眼320に投射するという本質的な役割を果たさざるを得ない以上、有効視野領域内に配置せざるを得ない。また、出射口部分214の上下方向サイズからして、出射口部分214全体を有効視野領域内に配置することができず、図12(a)の平面図および図12(b)の側面図に示すように、出射口部分214および下流側の部分DSの一部は、安定注視野領域にも及ぶが、その安定注視野領域の外側、すなわち、誘導視野領域には及ばないように配置される。この条件は、位置調整機構172による表示ユニット12の移動可能範囲全域において成立する。
したがって、本実施形態によれば、出射口部分214が一部でも誘導視野領域内に存在する場合より、HMD10の使用中、観察者がその出射口部分214から受ける不快感が軽減される。
2.表示ユニット12のうちの本体部分210の位置
図11の側面図に示すように、本体部分210は、出射口部分214に対し、上下方向にそれぞれ突出している。正確には、本実施形態においては、図6に示すように、本体部分210のうちの上流側の部分USが、下流側の部分DSおよび出射口部分214(実質的に同じ上下方向サイズを有する)に対し、上下方向にそれぞれ突出している。これは、本体部分210が、前記画像表示エリアのサイズより大きいLCD220およびピント調整機構230を収容するためである。図12(a)の平面図,図12(b)の側面図,図12(c)の平面図および図12(d)の側面図に示すように、本体部分210のうちの上流側の部分USおよび下流側の部分DSの一部は、安定注視野領域内には一切存在せず、誘導視野領域と補助視野領域とに跨るように配置される。この条件は、位置調整機構172による表示ユニット12の移動可能範囲全域において成立する。
したがって、本実施形態によれば、本体部分210のうちの上流側の部分USが一部でも安定注視野領域内に存在する場合より、HMD10の使用中、観察者がその本体部分210から受ける不快感が軽減される。
3.位置調整機構172の位置
図1の斜視図および図11の側面図に示すように、位置調整機構172は、HMD10の頭部装着状態において、本体部分210より後方に位置する。位置調整機構172は、図1に示すように、側面視において、表示ユニット12の背面に配置されて、その表示ユニット12から上方に突出する部分を有している。そのため、図11および図12(a)−図12(d)には示されていないが、位置調整機構172は、表示ユニット12の本体部分210より大きい上下方向サイズを有する。
そして、図11,図12(c)および図12(d)に示すように、位置調整機構172は、全体的に補助視野領域内に存在し、それの内側にある誘導視野領域には一切存在しない。この条件は、位置調整機構172のうちの可動部の移動可能範囲全域において成立する。
したがって、本実施形態によれば、位置調整機構172が一部でも誘導視野領域内に存在する場合より、HMD10の使用中、観察者がその位置調整機構172から受ける不快感が軽減される。
次に、図13を参照することにより、HMD10のアイレリーフの設定を説明する。
前述のように、本実施形態においては、HMD10の観察モードを左眼観察モードと右眼観察モードとの間において切り換えるために、同じ表示ユニット12が左眼用フレーム側部材40Lと右眼用フレーム側部材40Rとの間において付け替えられる。本実施形態においては、表示ユニット12とフレーム20との間に、表示ユニット12とフレーム20との間における前後方向距離(後述のアイレリーフの長さに影響を及ぼす要因)を変化させる動きを行う部材が介在していない。したがって、ユーザによる付け替え操作次第で、表示ユニット12とフレーム20との間における前後方向距離が、左眼観察モードと右眼観察モードとの間において互いに異なってしまうことが回避される。
また、前述のように、本実施形態においては、観察者は、表示ユニット12の、フレーム20に対する相対的な位置のうち、観察者にとっての前後方向における位置を、左右方向における位置および上下方向における位置とは異なり、調整することができない。このことは、前後方向位置は、左右方向位置および上下方向位置ほどには、観察者間に個体差(例えば、好みの違い)がないから、観察者ごとに調整する必要性がそれほど高くないということを前提とするとともに、HMD10の構造上、表示ユニット12の、フレーム20に対する相対的な前後方向位置が左眼観察モードと右眼観察モードとの間において互いに共通することが保証されることを意味する。
また、本実施形態においては、フレーム20が眼鏡型であるため、観察者が自身の頭部にフレーム20を、特別の注意を払うことなく、フレーム20の一対のパッド36,36が観察者の鼻の両側部にそれぞれ接触するように装着するだけで、観察眼320に対するフレーム20の相対的な位置がほぼ一つに決まる。すなわち、観察眼320に対するフレーム20の相対的な位置が、HMD10の毎回の使用において一定であるとともに、各回の使用中に一定に維持されるのである。
そうすると、図13に示すように、HMD10のアイレリーフ、すなわち、表示ユニット12内における画像光の光路の最終点(画像光がハーフミラー260に入射する点であり、画像光がハーフミラー260から観察眼320に向かって出射する点でもある)とHMD10の射出瞳(観察眼320内における瞳孔位置の近傍)との間の距離が、左眼観察モードと右眼観察モードとの間において互いに共通することが保証される。すなわち、左眼観察モード用のアイレリーフERLと、右眼観察モード用のアイレリーフERRとが、常に、互いに一致することが保証されるのである。
したがって、本実施形態によれば、HMD10のアイレリーフの左右差、すなわち、アイレリーフが左眼観察モードと右眼観察モードとの間において互いに異なることが防止されるため、アイレリーフの左右差が原因で観察者が違和感を覚えるという事態が回避される。
次に、図14を参照することにより、側面視における表示ユニット12の、観察眼320の視線に対する向きの設定と、上下位置調整機構170による表示ユニット12の位置調整方向の設定とを説明する。図14に示すように、表示ユニット12には、その表示ユニット12に対し、それの前後方向に延びるユニット基準線RLが設定されている。また、観察者がまっすぐ前方を見る場合の観察眼320の視線が、前述の前方観察時視線SLである。
従来においては、側面視においてユニット基準線RLと前方観察時視線SLとが互いに一致するかまたは互いに平行であるように、表示ユニット12を観察眼320に対して位置決めするのが一般的であった。
しかし、本発明者らの研究により、観察者がまっすぐ前方を見る場合には、観察眼320の筋肉にある程度の緊張が生じるため、実際の視線を前方観察時視線SLに維持しつつHMD10の表示画像を観察し続けると、観察眼320が疲労しやすいという事実が判明した。
また、本発明者らは、観察者が、前方観察時視線SLに対し、観察眼320から前方に遠ざかるにつれて下方に少しだけ傾斜した直線の方向を見る場合には、同じ視線を維持しても、観察眼320が疲労しにくいという事実も判明した。
それらの知見に基づき、本実施形態においては、表示ユニット12のユニット基準線RLが、側面視において、前方観察時視線SLに対し、観察眼320から前方に遠ざかるにつれて下方に角度θ(例えば、約10度)だけ傾斜するように、アタッチメント14が表示ユニット12を保持するようにHMD10が設計されている。
表示ユニット12が、側面視において、このように前方観察時視線SLに対して傾斜する姿勢で配置されるようにするために、図4(c)−図4(e)に示すように、表示ユニット12に略上下方向にスライド可能に係合する胴部84は、それの長手方向に直線的に延びているが、頭部装着状態かつ側面視において、同じ中間部材50において互いに直線的に並んでいる頭部80および首部82に対して後方に折れ曲がっている。
その結果、本実施形態によれば、観察者は、観察眼320の筋肉をそれほど緊張させることなく、HMD10の表示画像を観察することが可能となり、よって、観察者がHMD10の表示画像を連続して観察しても、観察眼320がそれほど疲労せずに済む。
さらに、本実施形態においては、ユニット基準線RLの上述の設定に併せて、上下位置調整機構170が、側面視において、観察眼320の眼前を通過する鉛直線VLに対し、観察眼320から下方に遠ざかるにつれて後方に角度ψだけ傾斜した直線の方向を上下位置調整方向として、その上下位置調整方向に表示ユニット12の位置を調整するように設計されている。角度ψは、上下位置調整方向と鉛直線VLの方向との間で構成される2つの角度のうち小さい方である。上下位置調整機構170は、側面視において、表示ユニット12を平行移動させる。その結果、本実施形態によれば、表示ユニット12の、前記上下位置調整方向におけるいずれの位置においても、側面視において観察眼320の実際の視線とユニット基準線RLとが成す角度が、角度θに維持される。本実施形態においては、角度θが角度ψと一致するように選択されているが、異なるように選択することが可能である。
さらに、本実施形態においては、図14に示すように、表示ユニット12が、側面視において、観察眼320の前方に位置するレンズ状透明体22の前面に近接して配置される。そのレンズ状透明体22は、頭部装着状態における表示ユニット12と同様に、前傾角ψを有し、基本的には、それらレンズ状透明体22および表示ユニット12は、ほぼ同じ前傾角ψを有している。
よって、表示ユニット12は、上下位置調整機構170により、レンズ状透明体22を側面視において近似する一直線に対してほぼ平行に変位させられることになる。このことは、表示ユニット12が、レンズ状透明体22の前面に最も接近する位置において両者間に必要間隔が確保されさえすれば、表示ユニット12の全移動範囲においてその表示ユニット12がレンズ状透明体22の前に接触しないこと、すなわち、干渉しないことが保証される。
なお付言するに、本実施形態においては、上下位置調整機構170により、表示ユニット12が、上下位置調整方向において直線的に変位させられるが、観察眼320の中心を中心とする円弧に沿って表示ユニット12を変位させるように上下位置調整機構170を変更してもよい。このことは、左右位置調整機構120についても該当する。
以上、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明したが、これは例示であり、前記[発明の概要]の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。