以下、実施の形態を示して本発明に係る偏光性積層フィルムの製造方法及び偏光板の製造方法について詳細に説明する。
<偏光性積層フィルムの製造方法>
図1は、本発明に係る偏光性積層フィルムの製造方法及び偏光板の製造方法の好ましい実施形態を示すフローチャートである。本実施形態の偏光性積層フィルムの製造方法は、下記工程:
〔1〕ポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液を基材フィルムに塗工した後、乾燥させることにより、基材フィルムの一方の面に第1樹脂層を備え、他方の面に第2樹脂層を備える積層フィルムを得る樹脂層形成工程S10、
〔2〕積層フィルムを延伸して延伸フィルムを得る延伸工程S20、
〔3〕前記延伸フィルムをガイドロールで支持して搬送させながら、巻取り部の軸の周りに巻付ける巻取り工程S30、
〔4〕巻取った延伸フィルムを巻出しながら、その第1樹脂層及び第2樹脂層を二色性色素で染色して偏光子層を形成することにより偏光性積層フィルムを得る染色工程S40、
をこの順で含む。
後述するように、本実施形態において偏光板は、染色工程S40までを実施して得られる偏光性積層フィルムの偏光子層上に保護フィルムを貼合して貼合フィルムを得(貼合工程S50)、次いで貼合フィルムから基材フィルムを剥離除去する(剥離工程S60)ことによって得ることができる。
以下、本実施形態の偏光性積層フィルムの製造方法が備えるS10〜S40の各工程についてより詳細に説明する。
〔1〕樹脂層形成工程S10
本工程は、基材フィルムの両面にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る工程である。本明細書では、基材フィルムの一方の面に形成するポリビニルアルコール系樹脂層を第1樹脂層、他方の面に形成されるポリビニルアルコール系樹脂層を第2樹脂層という。第1及び第2樹脂層は、延伸工程S20、巻取り工程S30及び染色工程S40を経て偏光子層となる層である。
第1及び第2樹脂層は、ポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液を基材フィルムの両面に塗工し、塗工層を乾燥させることにより形成することができる。このような方法によれば、第1及び第2樹脂層、ひいては偏光子層の厚みを小さくすることができるため、偏光性積層フィルム及び偏光板の薄肉軽量化に有利である。また、ポリビニルアルコール系樹脂層を基材フィルムの両面に形成するため、偏光性積層フィルム又は偏光板の製造工程において発生し得るフィルムのカールを抑制することができ、安定な生産が可能となる。樹脂層形成工程S10は、典型的には、長尺の基材フィルムの巻回し品であるフィルムロールから基材フィルムを連続的に巻出し、これを搬送させながら連続的に行われる。フィルム搬送はガイドロールなどを用いて行うことができる。
(基材フィルム)
基材フィルムは熱可塑性樹脂から構成することができ、中でも透明性、機械的強度、熱安定性、延伸性などに優れる熱可塑性樹脂から構成することが好ましい。このような熱可塑性樹脂の具体例は、例えば、鎖状ポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂など)のようなポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;セルローストリアセテート、セルロースジアセテートのようなセルロースエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリビニルアルコール系樹脂;ポリ酢酸ビニル系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリスルホン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;及びこれらの混合物、共重合物などを含む。
基材フィルムは、1種又は2種以上の熱可塑性樹脂からなる1つの樹脂層からなる単層構造であってもよいし、1種又は2種以上の熱可塑性樹脂からなる樹脂層を複数積層した多層構造であってもよい。
鎖状ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などの鎖状オレフィンの単独重合体の他、2種以上の鎖状オレフィンからなる共重合体を挙げることができる。鎖状ポリオレフィン系樹脂からなる基材フィルムは、安定的に高倍率に延伸しやすい点で好ましい。中でも基材フィルムは、ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体であるポリプロピレン樹脂や、プロピレンを主体とする共重合体)、ポリエチレン系樹脂(エチレンの単独重合体であるポリエチレン樹脂や、エチレンを主体とする共重合体)などからなることがより好ましい。
基材フィルムを構成する熱可塑性樹脂として好適に用いられる例の1つであるプロピレンを主体とする共重合体は、プロピレンとこれに共重合可能な他のモノマーとの共重合体である。
プロピレンに共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン、α−オレフィンを挙げることができる。α−オレフィンとしては、炭素数4以上のα−オレフィンが好ましく用いられ、より好ましくは、炭素数4〜10のα−オレフィンである。炭素数4〜10のα−オレフィンの具体例は、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセンのような直鎖状モノオレフィン類;3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテンのような分岐状モノオレフィン類;ビニルシクロヘキサンなどを含む。プロピレンとこれに共重合可能な他のモノマーとの共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
上記他のモノマーの含有量は、共重合体中、例えば0.1〜20重量%であり、好ましくは0.5〜10重量%である。共重合体中の他のモノマーの含有量は、「高分子分析ハンドブック」(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている方法に従い、赤外線(IR)スペクトル測定を行うことにより求めることができる。
上記の中でも、ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−1−ブテンランダム共重合体又はプロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体が好ましく用いられる。
ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、実質的にアイソタクチック又はシンジオタクチックであることが好ましい。実質的にアイソタクチック又はシンジオタクチックの立体規則性を有するポリプロピレン系樹脂からなる基材フィルムは、その取扱性が比較的良好であるとともに、高温環境下における機械的強度に優れている。
基材フィルムは、1種の鎖状ポリオレフィン系樹脂から構成されていてもよいし、2種以上の鎖状ポリオレフィン系樹脂の混合物から構成されていてもよいし、2種以上の鎖状ポリオレフィン系樹脂の共重合物から構成されていてもよい。
環状ポリオレフィン系樹脂は、環状オレフィンを重合単位として重合される樹脂の総称であり、例えば、特開平1−240517号公報、特開平3−14882号公報、特開平3−122137号公報などに記載されている樹脂が挙げられる。環状ポリオレフィン系樹脂の具体例を挙げれば、環状オレフィンの開環(共)重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレンのような鎖状オレフィンとの共重合体(代表的にはランダム共重合体)、及びこれらを不飽和カルボン酸やその誘導体で変性したグラフト重合体、並びにそれらの水素化物などである。中でも、環状オレフィンとしてノルボルネンや多環ノルボルネン系モノマーなどのノルボルネン系モノマーを用いたノルボルネン系樹脂が好ましく用いられる。
環状ポリオレフィン系樹脂は種々の製品が市販されている。環状ポリオレフィン系樹脂の市販品の例は、いずれも商品名で、「Topas」(TOPAS ADVANCED POLYMERS GmbH社製、ポリプラスチックス(株)から入手できる)、「アートン」(JSR(株)製)、「ゼオノア(ZEONOR)」(日本ゼオン(株)製)、「ゼオネックス(ZEONEX)」(日本ゼオン(株)製)、「アペル」(三井化学(株)製)を含む。
また、いずれも商品名で、「エスシーナ」(積水化学工業(株)製)、「SCA40」(積水化学工業(株)製)、「ゼオノアフィルム」(日本ゼオン(株)製)などの製膜された環状ポリオレフィン系樹脂フィルムの市販品を基材フィルムとして用いてもよい。
基材フィルムは、1種の環状ポリオレフィン系樹脂から構成されていてもよいし、2種以上の環状ポリオレフィン系樹脂の混合物から構成されていてもよいし、2種以上の環状ポリオレフィン系樹脂の共重合物から構成されていてもよい。
ポリエステル系樹脂は、エステル結合を有する樹脂であり、多価カルボン酸又はその誘導体と多価アルコールとの重縮合体からなるものが一般的である。多価カルボン酸又はその誘導体としては2価のジカルボン酸又はその誘導体を用いることができ、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ジメチルテレフタレート、ナフタレンジカルボン酸ジメチルなどが挙げられる。多価アルコールとしては2価のジオールを用いることができ、例えばエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
ポリエステル系樹脂の代表例として、テレフタル酸とエチレングリコールの重縮合体であるポリエチレンテレフタレートが挙げられる。ポリエチレンテレフタレートは結晶性の樹脂であるが、結晶化処理する前の状態のものの方が、延伸などの処理を施しやすい。必要であれば、延伸時、又は延伸後の熱処理などによって結晶化処理することができる。また、ポリエチレンテレタレートの骨格にさらに他種のモノマーを共重合することで、結晶性を下げた(もしくは、非晶性とした)共重合ポリエステルも好適に用いられる。このような樹脂の例として、例えば、シクロヘキサンジメタノールやイソフタル酸を共重合させたものなどが挙げられる。これらの樹脂も、延伸性に優れるので、好適に用いることができる。
ポリエチレンテレフタレート及びその共重合体以外のポリエステル系樹脂の具体例を挙げれば、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリシクロへキサンジメチルテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルナフタレートなどが挙げられる。
基材フィルムは、1種のポリエステル系樹脂から構成されていてもよいし、2種以上のポリエステル系樹脂の混合物から構成されていてもよいし、2種以上のポリエステル系樹脂の共重合物から構成されていてもよい。
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を主な構成モノマーとする樹脂である。(メタ)アクリル系樹脂の具体例は、例えば、ポリメタクリル酸メチルのようなポリ(メタ)アクリル酸エステル;メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体;メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体;メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体;(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂など);メタクリル酸メチルと脂環族炭化水素基を有する化合物との共重合体(例えば、メタクリル酸メチル−メタクリル酸シクロヘキシル共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ノルボルニル共重合体など)を含む。好ましくは、ポリ(メタ)アクリル酸メチルのようなポリ(メタ)アクリル酸C1-6アルキルエステルを主成分とする重合体が用いられ、より好ましくは、メタクリル酸メチルを主成分(50〜100重量%、好ましくは70〜100重量%)とするメタクリル酸メチル系樹脂が用いられる。
基材フィルムは、1種の(メタ)アクリル系樹脂から構成されていてもよいし、2種以上の(メタ)アクリル系樹脂の混合物から構成されていてもよいし、2種以上の(メタ)アクリル系樹脂の共重合物から構成されていてもよい。
セルロースエステル系樹脂は、セルロースと脂肪酸とのエステルである。セルロースエステル系樹脂の具体例は、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリプロピオネート、セルロースジプロピオネートなどを含む。また、これらの共重合物や、水酸基の一部が他の置換基で修飾されたものなども挙げられる。これらの中でも、セルローストリアセテート(トリアセチルセルロース)が特に好ましい。セルローストリアセテートは多くの製品が市販されており、入手容易性やコストの点でも有利である。セルローストリアセテートの市販品の例としては、いずれも商品名で、「フジタックTD80」(富士フイルム(株)製)、「フジタックTD80UF」(富士フイルム(株)製)、「フジタックTD80UZ」(富士フイルム(株)製)、「フジタックTD40UZ」(富士フイルム(株)製)、「KC8UX2M」(コニカミノルタオプト(株)製)、「KC4UY」(コニカミノルタオプト(株)製)などが挙げられる。
基材フィルムは、1種のセルロースエステル系樹脂から構成されていてもよいし、2種以上のセルロースエステル系樹脂の混合物から構成されていてもよいし、2種以上のセルロースエステル系樹脂の共重合物から構成されていてもよい。
ポリカーボネート系樹脂は、カルボナート基を介してモノマー単位が結合された重合体からなるエンジニアリングプラスチックであり、高い耐衝撃性、耐熱性、難燃性、透明性を有する樹脂である。基材フィルムを構成するポリカーボネート系樹脂は、光弾性係数を下げるためにポリマー骨格を修飾したような変性ポリカーボネートと呼ばれる樹脂や、波長依存性を改良した共重合ポリカーボネートなどであってもよい。
ポリカーボネート系樹脂は種々の製品が市販されている。ポリカーボネート系樹脂の市販品の例としては、いずれも商品名で、「パンライト」(帝人化成(株)製)、「ユーピロン」(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製)、「SDポリカ」(住友ダウ(株)製)、「カリバー」(ダウケミカル(株)製)などが挙げられる。
基材フィルムは、1種のポリカーボネート系樹脂から構成されていてもよいし、2種以上のポリカーボネート系樹脂の混合物から構成されていてもよいし、2種以上のポリカーボネート系樹脂の共重合物から構成されていてもよい。
以上の中でも、延伸性や耐熱性などの観点から、ポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
基材フィルムには、上記の熱可塑性樹脂の他に、任意の適切な添加剤が添加されていてもよい。このような添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、核剤、帯電防止剤、顔料、及び着色剤などが挙げられる。基材フィルム中の熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは50〜99重量%、さらに好ましくは60〜98重量%、特に好ましくは70〜97重量%である。基材フィルム中の熱可塑性樹脂の含有量が50重量%未満の場合、熱可塑性樹脂が本来有する高透明性などが十分に発現されないおそれがある。
基材フィルムの厚みは適宜に決定し得るが、一般には強度や取扱性などの作業性の点から1〜500μmが好ましく、1〜300μmがより好ましく、さらには5〜200μmが好ましく、5〜150μmが最も好ましい。
(ポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液)
塗工液は、好ましくはポリビニルアルコール系樹脂の粉末を良溶媒(例えば水)に溶解させて得られるポリビニルアルコール系樹脂溶液である。ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂及びその誘導体が挙げられる。ポリビニルアルコール樹脂の誘導体としては、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタールなどの他、ポリビニルアルコール樹脂をエチレン、プロピレンのようなオレフィン類で変性したもの;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸のような不飽和カルボン酸類で変性したもの;不飽和カルボン酸のアルキルエステルで変性したもの;アクリルアミドで変性したものなどが挙げられる。変性の割合は30モル%未満であることが好ましく、10モル%未満であることがより好ましい。30モル%を超える変性を行った場合には、二色性色素を吸着しにくくなり、偏光性能が低くなってしまう不具合を生じ得る。上述のポリビニルアルコール系樹脂の中でも、ポリビニルアルコール樹脂を用いることが好ましい。
ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は、100〜10000の範囲にあることが好ましく、1000〜10000の範囲にあることがより好ましく、1500〜8000の範囲にあることがさらに好ましく、2000〜5000の範囲にあることが最も好ましい。平均重合度は、JIS K 6726−1994「ポリビニルアルコール試験方法」に規定される方法によって求めることができる。平均重合度が100未満では好ましい偏光性能を得ることが困難であり、10000超では溶媒への溶解性が悪化し、第1及び第2樹脂層の形成が困難になってしまう。
ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂のケン化品であることが好ましい。ケン化度の範囲は、80モル%以上、さらには90モル%以上、とりわけ94モル%以上であることが好ましい。ケン化度が低すぎると、偏光性積層フィルムや偏光板にしたときの耐水性や耐湿熱性が十分でなくなる可能性がある。また、完全ケン化品(ケン化度が100モル%のもの)であってもよいが、ケン化度が高すぎると、染色速度が遅くなって、十分な偏光性能を与えるためには製造時間が長くなったり、場合によっては十分な偏光性能を有する偏光子層が得られなかったりすることがある。そこで、そのケン化度は99.5モル%以下、さらに99.0モル%以下であるのが好ましい。
ケン化度とは、ポリビニルアルコール系樹脂の原料であるポリ酢酸ビニル系樹脂に含まれる酢酸基(アセトキシ基:−OCOCH3)がケン化処理により水酸基に変化した割合をユニット比(モル%)で表したものであり、下記式:
ケン化度(モル%)=〔(水酸基の数)÷(水酸基の数+酢酸基の数)〕×100
で定義される。
ケン化度が高いほど、水酸基の割合が多いことを意味し、従って結晶化を阻害する酢酸基の割合が少ないことを意味する。ケン化度は、JIS K 6726−1994「ポリビニルアルコール試験方法」に規定される方法によって求めることができる。
ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルと共重合可能な他の単量体との共重合体などが例示される。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。
好適に用い得るポリビニルアルコール系樹脂の市販品の例は、いずれも商品名で、(株)クラレ製の「PVA124」(ケン化度:98.0〜99.0モル%)、「PVA117」(ケン化度:98.0〜99.0モル%)、「PVA117H」(ケン化度:99.5モル%以上)、「PVA624」(ケン化度:95.0〜96.0モル%)及び「PVA617」(ケン化度:94.5〜95.5モル%);日本合成化学工業(株)製の「AH−26」(ケン化度:97.0〜98.8モル%)、「AH−22」(ケン化度:97.5〜98.5モル%)、「NH−18」(ケン化度:98.0〜99.0モル%)及び「N−300」(ケン化度:98.0〜99.0モル%);日本酢ビ・ポバール(株)製の「JC−33」(ケン化度:99.0モル%以上)、「JM−33」(ケン化度:93.5〜95.5モル%)、「JM−26」(ケン化度:95.5〜97.5モル%)、「JP−45」(ケン化度:86.5〜89.5モル%)、「JF−17」(ケン化度:98.0〜99.0モル%)、「JF−17L」(ケン化度:98.0〜99.0モル%)及び「JF−20」(ケン化度:98.0〜99.0モル%)を含む。
塗工液は必要に応じて、可塑剤、界面活性剤などの添加剤を含有していてもよい。可塑剤としては、ポリオール又はその縮合物などを用いることができ、例えばグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどが例示される。添加剤の配合量は、ポリビニルアルコール系樹脂の20重量%以下とするのが好適である。
基材フィルムの両面に形成される第1及び第2樹脂層を構成する材料は、同じ材料であることが好ましい。異なる材料である場合、カール抑制の効果が小さくなることがある。
(塗工液の塗工及び塗工層の乾燥)
上記塗工液を基材フィルムに塗工する方法は、ワイヤーバーコーティング法;リバースコーティング、グラビアコーティングのようなロールコーティング法;ダイコート法;カンマコート法;リップコート法;スピンコーティング法;スクリーンコーティング法;ファウンテンコーティング法;ディッピング法;スプレー法などの公知の方法から適宜選択することができる。
基材フィルムの両面への塗工液の塗工は、上述の方法を用いて片面ずつ順番に行うこともできるし、ディッピング法やスプレーコート法やその他の特殊な装置などを用いて、基材フィルムの両面に同時に塗工することもできる。
塗工層(乾燥前の第1及び第2樹脂層)の乾燥温度及び乾燥時間は塗工液に含まれる溶媒の種類に応じて設定される。乾燥温度は、例えば50〜200℃であり、好ましくは60〜150℃である。溶媒が水を含む場合、乾燥温度は80℃以上であることが好ましい。乾燥時間は、例えば2〜20分である。
積層フィルムにおける第1及び第2樹脂層の厚みは、3〜30μmであることが好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。この範囲内の厚みを有するポリビニルアルコール系樹脂層であれば、後述する延伸工程S20、巻取り工程S30及び染色工程S40を経て、二色性色素の染色性が良好で偏光性能に優れ、かつ十分に厚みの小さい偏光子層を得ることができる。第1又は第2樹脂層の厚みが30μmを超えると、偏光子層の厚みが10μmを超えることがある。また、第1又は第2樹脂層の厚みが3μm未満であると、延伸後に薄くなりすぎて染色性が悪化する傾向にある。
第1樹脂層の厚みと第2樹脂層の厚みとの間に著しい差があるとカール抑制の効果が小さくなることから、できるだけ第1樹脂層と第2樹脂層とは同程度の厚みであることが好ましく、具体的には、延伸工程S30にて得られる延伸フィルムにおいて、これらの樹脂層の厚み差は3μm以下であることが好ましい。
塗工液の塗工に先立ち、基材フィルムと第1及び第2樹脂層との密着性を向上させるために、基材フィルム表面に、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム(火炎)処理などを施してもよい。また、塗工液の塗工に先立ち、基材フィルムと第1及び第2樹脂層との密着性を向上させるために、基材フィルム上にプライマー層や接着剤層を介して第1及び第2樹脂層を形成してもよい。
(プライマー層)
プライマー層は、プライマー層形成用塗工液を基材フィルム表面に塗工した後、乾燥させることにより形成することができる。プライマー層形成用塗工液は、基材フィルムと第1及び第2樹脂層との両方にある程度強い密着力を発揮する成分を含む。プライマー層形成用塗工液は通常、このような密着力を付与する樹脂成分と溶媒とを含有する。樹脂成分としては、好ましくは透明性、熱安定性、延伸性などに優れる熱可塑樹脂が用いられ、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂などが挙げられる。中でも、良好な密着力を与えるポリビニルアルコール系樹脂が好ましく用いられる。
ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂及びその誘導体が挙げられる。ポリビニルアルコール樹脂の誘導体としては、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタールなどの他、ポリビニルアルコール樹脂をエチレン、プロピレンのようなオレフィン類で変性したもの;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸のような不飽和カルボン酸類で変性したもの;不飽和カルボン酸のアルキルエステルで変性したもの;アクリルアミドで変性したものなどが挙げられる。上述のポリビニルアルコール系樹脂の中でも、ポリビニルアルコール樹脂を用いることが好ましい。
溶媒としては通常、上記樹脂成分を溶解できる一般的な有機溶媒や水系溶媒が用いられる。溶媒の例を挙げれば、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類;酢酸エチル、酢酸イソブチルのようなエステル類;塩化メチレン、トリクロロエチレン、クロロホルムのような塩素化炭化水素類;エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールのようなアルコール類である。ただし、有機溶媒を含むプライマー層形成用塗工液を用いてプライマー層を形成すると、基材フィルムを溶解させてしまうこともあるので、基材フィルムの溶解性も考慮して溶媒を選択することが好ましい。環境への影響をも考慮すると、水を溶媒とする塗工液からプライマー層を形成するのが好ましい。
プライマー層の強度を上げるために、プライマー層形成用塗工液に架橋剤を添加してもよい。架橋剤は、使用する熱可塑性樹脂の種類に応じて、有機系、無機系など公知のものの中から適切なものを適宜選択する。架橋剤の例の挙げれば、例えば、エポキシ系、イソシアネート系、ジアルデヒド系、金属系の架橋剤である。
エポキシ系架橋剤としては、一液硬化型、二液硬化型のいずれも用いることができ、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジ−又はトリ−グリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミンなどが挙げられる。
イソシアネート系架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、トリメチロールプロパン−トリレンジイソシアネートアダクト、トリフェニルメタントリイソシアネート、メチレンビス(4−フェニルメタン)トリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びこれらのケトオキシムブロック物又はフェノールブロック物などが挙げられる。
ジアルデヒド系架橋剤としては、グリオキザール、マロンジアルデヒド、スクシンジアルデヒド、グルタルジアルデヒド、マレインジアルデヒド、フタルジアルデヒドなどが挙げられる。
金属系架橋剤としては、例えば、金属塩、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物が挙げられる。金属塩、金属酸化物、金属水酸化物としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、鉄、ニッケル、ジルコニウム、チタン、珪素、ホウ素、亜鉛、銅、バナジウム、クロム、スズのような二価以上の原子価を有する金属の塩、酸化物及び水酸化物が挙げられる。
有機金属化合物とは、金属原子に直接有機基が結合しているか、又は、酸素原子や窒素原子などを介して有機基が結合している構造を分子内に少なくとも1個有する化合物である。有機基とは、少なくとも炭素元素を含む一価又は多価の基を意味し、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アシル基などであることができる。また結合とは、共有結合だけを意味するものではなく、キレート状化合物などの配位による配位結合であってもよい。
有機金属化合物の好適な例は、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機珪素化合物を含む。有機金属化合物は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
有機チタン化合物としては、例えば、テトラノルマルブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネートのようなチタンオルソエステル類;チタンアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート、ポリチタンアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、チタンエチルアセトアセテートのようなチタンキレート類;ポリヒドロキシチタンステアレートのようなチタンアシレート類などが挙げられる。
有機ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムノルマルプロピオネート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムモノアセチルアセトナート、ジルコニウムビスアセチルアセトナート、ジルコニウムアセチルアセトナートビスエチルアセトアセテートなどが挙げられる。
有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトナート、アルミニウム有機酸キレートなどが挙げられる。有機珪素化合物としては、例えば、先に有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物において例示した配位子が珪素に結合した化合物が挙げられる。
以上の低分子系架橋剤の他にも、メチロール化メラミン樹脂、ポリアミドエポキシ樹脂のような高分子系架橋剤を用いることもできる。ポリアミドエポキシ樹脂の市販品の例を挙げれば、田岡化学工業(株)から販売されている「スミレーズレジン650(30)」や「スミレーズレジン675」(いずれも商品名)などである。
プライマー層を形成する樹脂成分としてポリビニルアルコール系樹脂を使用する場合は、ポリアミドエポキシ樹脂、メチロール化メラミン樹脂、ジアルデヒド系架橋剤、金属キレート化合物系架橋剤などが、架橋剤として好適に用いられる。
プライマー層形成用塗工液中の樹脂成分と架橋剤の割合は、樹脂成分100重量部に対して、架橋剤0.1〜100重量部程度の範囲から、樹脂成分の種類や架橋剤の種類などに応じて適宜決定すればよく、とりわけ0.1〜50重量部程度の範囲から選択するのが好ましい。また、プライマー層形成用塗工液は、その固形分濃度が1〜25重量%程度となるようにするのが好ましい。
プライマー層の厚みは、0.05〜1μm程度であることが好ましく、0.1〜0.4μmであることがより好ましい。0.05μmより薄くなると、基材フィルムと第1及び第2樹脂層との密着力向上の効果が小さく、1μmより厚くなると、偏光性積層フィルムや偏光板の薄膜化に不利である。
プライマー層形成用塗工液を基材フィルムに塗工する方法は、第1及び第2樹脂層形成用の塗工液と同様であることができる。プライマー層は、第1及び第2樹脂層形成用の塗工液が塗工される面に塗工される。プライマー層形成用塗工液からなる塗工層の乾燥温度及び乾燥時間は塗工液に含まれる溶媒の種類に応じて設定される。乾燥温度は、例えば50〜200℃であり、好ましくは60〜150℃である。溶媒が水を含む場合、乾燥温度は80℃以上であることが好ましい。乾燥時間は、例えば30秒〜20分である。
プライマー層を設ける場合、基材フィルムへの塗工の順番は特に制約されるものではなく、基材フィルムの両面にプライマー層を形成した後、第1及び第2樹脂層を形成してもよいし、基材フィルムの一方の面にプライマー層、第1樹脂層を順に形成した後、基材フィルムの他方の面にプライマー層、第2樹脂層を順に形成してもよい。
〔2〕延伸工程S20
本工程は、基材フィルム及び第1、第2樹脂層からなる積層フィルムを延伸して延伸フィルムを得る工程である。延伸工程S20は、典型的には、長尺の積層フィルムを搬送させながら、又は、長尺の積層フィルムの巻回し品であるフィルムロールから積層フィルムを連続的に巻出し、これを搬送させながら連続的に行われる。フィルム搬送はガイドロールなどを用いて行うことができる。
積層フィルムの延伸倍率は、所望する偏光特性に応じて適宜選択することができるが、好ましくは、積層フィルムの元長に対して5倍超17倍以下であり、より好ましくは5倍超8倍以下である。延伸倍率が5倍以下であると、第1及び第2樹脂層が十分に配向しないため、偏光子層の偏光度が十分に高くならないことがある。一方、延伸倍率が17倍を超えると、延伸時にフィルムの破断が生じ易くなるとともに、延伸フィルムの厚みが必要以上に薄くなり、後工程での加工性及び取扱性が低下するおそれがある。延伸処理は通常、一軸延伸である。
延伸処理は、一段での延伸に限定されることはなく多段で行うこともできる。この場合、多段階の延伸処理のすべてを染色工程S40の前に連続的に行ってもよいし、二段階目以降の延伸処理を染色工程S40における染色処理及び/又は架橋処理と同時に行ってもよい。このように多段で延伸処理を行う場合は、延伸処理の全段を合わせて5倍超の延伸倍率となるように延伸処理を行うことが好ましい。
延伸処理は、フィルム長手方向(フィルム搬送方向)に延伸する縦延伸であることができるほか、フィルム幅方向に延伸する横延伸又は斜め延伸などであってもよい。縦延伸方式としては、ロールを用いて延伸するロール間延伸、圧縮延伸、チャック(クリップ)を用いた延伸などが挙げられ、横延伸方式としては、テンター法などが挙げられる。延伸処理は、湿潤式延伸方法、乾式延伸方法のいずれも採用できるが、乾式延伸方法を用いる方が、延伸温度を広い範囲から選択することができる点で好ましい。
延伸温度は、第1、第2樹脂層及び基材フィルム全体が延伸可能な程度に流動性を示す温度以上に設定され、好ましくは基材フィルムの融点の−30℃から+30℃の範囲であり、より好ましくは−30℃から+5℃の範囲であり、さらに好ましくは−25℃から+0℃の範囲である。基材フィルムが複数の樹脂層からなる場合、上記融点は該複数の樹脂層が示す融点のうち、最も高い融点を意味する。
延伸温度を融点の−30℃より低くすると、5倍超の高倍率延伸が達成されにくいか、又は、基材フィルムの流動性が低すぎて延伸処理が困難になる傾向にある。延伸温度が相転移温度の+30℃を超えると、基材フィルムの流動性が大きすぎて延伸が困難になる傾向にある。5倍超の高延伸倍率をより達成しやすいことから、延伸温度は上記範囲内であって、さらに好ましくは120℃以上である。延伸温度が120℃以上の場合、5倍超の高延伸倍率であっても延伸処理に困難性を伴わないからである。
延伸処理における積層フィルムの加熱方法としては、ゾーン加熱法(例えば、熱風を吹き込み所定の温度に調整した加熱炉のような延伸ゾーン内で加熱する方法。);ロールを用いて延伸する場合において、ロール自体を加熱する方法;ヒーター加熱法(赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、パネルヒーターなどを積層フィルムの上下に設置し輻射熱で加熱する方法)などがある。ロール間延伸方式においては、延伸温度の均一性の観点からゾーン加熱法が好ましい。この場合、2つのニップロール対は調温した延伸ゾーン内に設置してもよく、延伸ゾーン外に設置してもよいが、積層フィルムとニップロールとの粘着を防止するために延伸ゾーン外に設置する方が好ましい。
なお、延伸温度とは、ゾーン加熱法の場合、ゾーン内(例えば加熱炉内)の雰囲気温度を意味し、ヒーター加熱法においても炉内で加熱を行う場合は炉内の雰囲気温度を意味する。また、ロール自体を加熱する方法の場合は、ロールの表面温度を意味する。
延伸工程S20に先立ち、積層フィルムを予熱する予熱処理工程を設けてもよい。予熱方法としては、延伸処理における加熱方法と同様の方法を用いることができる。延伸処理方式がロール間延伸である場合、予熱は、上流側のニップロールを通過する前、通過中、通過した後のいずれのタイミングで行ってもよい。延伸処理方式が熱ロール延伸である場合には、予熱は、熱ロールを通過する前のタイミングで行うことが好ましい。延伸処理方式がチャックを用いた延伸である場合には、予熱は、チャック間距離を広げる前のタイミングで行うことが好ましい。予熱温度は、延伸温度の−50℃から±0℃の範囲であることが好ましく、延伸温度の−40℃から−10℃の範囲であることがより好ましい。
また、延伸工程S20における延伸処理の後に、熱固定処理工程を設けてもよい。熱固定処理は、延伸フィルムの端部をクリップにより把持した状態で緊張状態に維持しながら、結晶化温度以上で熱処理を行う処理である。この熱固定処理によって、ポリビニルアルコール系樹脂層の結晶化が促進される。熱固定処理の温度は、延伸温度の−0℃〜−80℃の範囲であることが好ましく、延伸温度の−0℃〜−50℃の範囲であることがより好ましい。
〔3〕巻取り工程S30
本工程は、延伸フィルムを巻取り部の軸の周りに巻付けることによって、延伸フィルムの巻取りを行う工程である。これにより、延伸フィルムの巻回し品であるフィルムロールが得られる。巻取り部への巻付けは、延伸工程S20で得られた長尺の延伸フィルムを連続的に搬送させながら行われる。フィルム搬送はガイドロールを用いて行う。
巻取り部としては、フィルムの巻取り装置として一般的に用いられるものを使用することができる。中でも、巻付け部分である回転自在な軸に巻付け用のコア(芯)を装着し、このコアにフィルムを巻付けるタイプの巻取り装置を用いることが好ましい。
延伸フィルムの搬送には通常、複数のガイドロールが用いられ、通常は、延伸フィルムに対して搬送方向に張力をかけることができるようにするために、これらのガイドロールを上下交互に配し、延伸フィルムをこれらのガイドロールの外側に掛けた状態でフィルム搬送を行う。ガイドロールによって支持されながら搬送された延伸フィルムは、巻取り部の軸の回転によって当該軸(コア)に巻取られていく。なお、ガイドロールとは、フィルムの搬送経路上に、フィルムに接して配置される回転自在なロールであり、その材質は一般的なものであることができる。
本発明においては、図2を参照して、以上のような巻取り工程(延伸フィルム3の巻取り部への巻付け)を、巻取り部1に最も近いガイドロール2aの軸の中心と巻取り部1の軸の中心との距離A(以下、「軸中心間距離A」ともいう。)を600mm以下にして行う。軸中心間距離Aを600mm以下とすることにより、滑り性に劣る第1樹脂層と第2樹脂層とが直接接触するように巻取りを行った場合であっても、巻取り部に巻付けた延伸フィルムにシワを生じさせることなく、良好に延伸フィルム3の巻取りを行うことができる。軸中心間距離Aは、好ましくは550mm以下である。
図3は、巻取り部に最も近いガイドロール2aと巻取り部1との位置関係を示す概略図である。本発明においては、軸中心間距離Aが600mm以下となる限りにおいて、巻取り部1に最も近いガイドロール2aと巻取り部1に巻付けてなるロール状の延伸フィルムとが離間するようにガイドロール2aを配置してもよいし〔図3(a)〕、巻取り部1に最も近いガイドロール2aと巻取り部1に巻付けてなるロール状の延伸フィルムとが接触するようにガイドロール2aを配置してもよい〔図3(b)〕。図3(b)の形態の方が巻取り部1に向けて搬送される延伸フィルムの揺れ(ばたつき)がより低減され、シワがより発生し難くなる傾向にあるため、好ましい。
図3(b)の態様において巻取り部1に最も近いガイドロール2aは、延伸フィルム3の巻付け量の増加とともに、その軸位置を調整できるものであることが好ましい。
延伸フィルム3を巻取る際の巻取り張力(巻付けられる延伸フィルム3にかかる張力)は、延伸フィルム3の単位幅あたりの張力で、100N/m以下であることが好ましく、80N/m以下であることがより好ましい。巻取り張力が100N/mを超えると、延伸フィルム3の表面に微小な凹凸があった場合、それが原因となって延伸フィルム3が過度に引っ張られ、シワの起点となってしまう。巻取り張力は、通常40N/m以上であり、より典型的には50N/m以上である。
なお、延伸工程S20で得られた延伸フィルム3は、巻取り工程S30にて巻取られる前に、その幅方向両端部をスリット(切断除去)することが好ましい。延伸工程S20における延伸処理が縦延伸である場合、延伸フィルム3の幅方向両端部は中央部に比べて厚みが大きいことがある。このため、両端部をスリットしない場合には、巻取ったときにフィルムロールの両端部が盛り上がり、長く巻付けることができなかったり、一旦巻取ったフィルムロールから延伸フィルム3を巻出したときに、盛り上がっていたフィルム両端部が伸びてたるんでしまったりするなどの不具合が生じてしまう。
延伸フィルム3の各端部のスリット幅は、巻取り時におけるフィルムロールの両端部の盛り上がりが十分に低減される程度であればよく、通常は50mm程度以下で十分である。スリット幅をあまり大きくすると、歩留まりが顕著に低下する。
〔4〕染色工程S40
本工程は、延伸フィルムの第1及び第2樹脂層を二色性色素で染色してこれを吸着配向させ、偏光子層とする工程である。本工程を経て基材フィルムの両面に偏光子層が積層された偏光性積層フィルムが得られる。染色工程S40は、典型的には、長尺の延伸フィルムの巻回し品であるフィルムロール(巻取り部1)から延伸フィルムを連続的に巻出し、これを搬送させながら連続的に行われる。フィルム搬送はガイドロールなどを用いて行うことができる。長尺の延伸フィルムの巻回し品であるフィルムロールを、巻出し用の別の装置に付け替え、ここから延伸フィルムを連続的に巻出して、染色工程S40を実施してもよい。
二色性色素としては、具体的にはヨウ素又は二色性有機染料が挙げられる。二色性有機染料の具体例は、例えば、レッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンイエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、イエロー3G、イエローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラックなどを含む。二色性色素は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
染色工程は、二色性色素を含有する溶液(染色溶液)に延伸フィルム全体を浸漬することにより行うことができる。染色溶液としては、上記二色性色素を溶媒に溶解した溶液を使用できる。染色溶液の溶媒としては、一般的には水が使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒がさらに添加されてもよい。染色溶液における二色性色素の濃度は、0.01〜10重量%であることが好ましく、0.02〜7重量%であることがより好ましく、0.025〜5重量%であることがさらに好ましい。
二色性色素としてヨウ素を使用する場合、染色効率をより一層向上できることから、ヨウ素を含有する染色溶液にヨウ化物をさらに添加することが好ましい。ヨウ化物としては、例えばヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンなどが挙げられる。染色溶液におけるヨウ化物の濃度は、0.01〜20重量%であることが好ましい。ヨウ化物の中でも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましい。ヨウ化カリウムを添加する場合、ヨウ素とヨウ化カリウムとの割合は重量比で、1:5〜1:100の範囲にあることが好ましく、1:6〜1:80の範囲にあることがより好ましく、1:7〜1:70の範囲にあることがさらに好ましい。
染色溶液への延伸フィルムの浸漬時間は、通常15秒〜15分間の範囲であり、30秒〜3分間であることが好ましい。また、染色溶液の温度は、10〜60℃の範囲にあることが好ましく、20〜40℃の範囲にあることがより好ましい。
なお、染色工程S40中に延伸フィルムに対してさらに延伸処理を施してもよい。この場合における実施態様としては、1)上記延伸工程S20において、目標より低い倍率で延伸処理を行った後、染色工程S40における染色処理中に、総延伸倍率が目標の倍率となるように延伸処理を行う態様や、後述するように、染色処理の後に架橋処理を行う場合には、2)上記延伸工程S20において、目標より低い倍率で延伸処理を行った後、染色工程S40における染色処理中に、総延伸倍率が目標の倍率に達しない程度まで延伸処理を行い、次いで、最終的な総延伸倍率が目標の倍率となるように架橋処理中に延伸処理を行う態様などを挙げることができる。
染色工程S40は、染色処理に引き続いて実施される架橋処理工程を含むことができる。架橋処理は、架橋剤を含む溶液(架橋溶液)中に染色されたフィルムを浸漬することにより行うことができる。架橋剤としては、従来公知の物質を使用することができ、例えば、ホウ酸、ホウ砂のようなホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどが挙げられる。架橋剤は1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
架橋溶液は、具体的には架橋剤を溶媒に溶解した溶液であることができる。溶媒としては、例えば水が使用できるが、水と相溶性のある有機溶媒をさらに含んでもよい。架橋溶液における架橋剤の濃度は、1〜20重量%の範囲であることが好ましく、6〜15重量%の範囲であることがより好ましい。
架橋溶液はヨウ化物を含むことができる。ヨウ化物の添加により、偏光子層の面内における偏光性能をより均一化させることができる。ヨウ化物としては、例えばヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンなどが挙げられる。架橋溶液におけるヨウ化物の濃度は、0.05〜15重量%であることが好ましく、0.5〜8重量%であることがより好ましい。
架橋溶液への染色されたフィルムの浸漬時間は、通常15秒〜20分間であり、30秒〜15分間であることが好ましい。また、架橋溶液の温度は、10〜90℃の範囲にあることが好ましい。
なお架橋処理は、架橋剤を染色溶液中に配合することにより、染色処理と同時に行うこともできる。また、架橋処理中に延伸処理を行ってもよい。架橋処理中に延伸処理を実施する具体的態様は上述のとおりである。
染色工程S40の後、後述する貼合工程S50の前に洗浄工程及び乾燥工程を行うことが好ましい。洗浄工程は通常、水洗浄工程を含む。水洗浄処理は、イオン交換水、蒸留水のような純水に染色処理後の又は架橋処理後のフィルムを浸漬することにより行うことができる。水洗浄温度は、通常3〜50℃、好ましくは4〜20℃の範囲である。水への浸漬時間は通常2〜300秒間、好ましくは3〜240秒間である。
洗浄工程は、水洗浄工程とヨウ化物溶液による洗浄工程との組み合わせであってもよい。また、水洗浄工程及び/又はヨウ化物溶液による洗浄処理で使用する洗浄液には、水のほか、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、プロパノールのような液体アルコールを適宜含有させることができる。
洗浄工程の後に行われる乾燥工程としては、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥などの任意の適切な方法を採用し得る。例えば加熱乾燥の場合、乾燥温度は、通常20〜95℃であり、乾燥時間は、通常1〜15分間程度である。以上のようにして得られる偏光性積層フィルムはそのまま偏光要素として使用することができるとともに、偏光子層と保護フィルムとからなる偏光板を作製するための中間物としても有用である。
偏光性積層フィルムが有する偏光子層の厚みは10μm以下であり、好ましくは7μm以下である。偏光子層の厚みを10μm以下とすることにより、薄型の偏光性積層フィルムを構成することができる。
<偏光板の製造方法>
本発明の偏光板の製造方法は、上述の偏光性積層フィルムを用意する工程、偏光性積層フィルムの偏光子層上に保護フィルムを貼合して貼合フィルムを得る貼合工程S50、貼合フィルムから基材フィルムを剥離除去する剥離工程S60をこの順で含む。
〔5〕貼合工程S50
本工程は、偏光性積層フィルムの偏光子層上、すなわち、両面の偏光子層の基材フィルム側とは反対側の面にそれぞれ保護フィルムを貼合して貼合フィルムを得る工程である。保護フィルムは、接着剤や粘着剤を用いて偏光子層に貼合することができる。両面に貼合される保護フィルムは同種の保護フィルムであってもよいし、異種の保護フィルムであってもよい。
(保護フィルム)
保護フィルムは、例えば、鎖状ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン系樹脂など)、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂など)のようなポリオレフィン系樹脂;セルローストリアセテート、セルロースジアセテートのようなセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;又はこれらの混合物、共重合物などからなるフィルムであることができる。環状ポリオレフィン系樹脂及びそのフィルム、並びにセルローストリアセテートなどの使用可能な市販品の例は上述のとおりである。
保護フィルムは、位相差フィルム、輝度向上フィルムなどのような光学機能を併せ持つ保護フィルムであることもできる。例えば、上記材料からなる樹脂フィルムを延伸(一軸延伸又は二軸延伸など)したり、該フィルム上に液晶層などを形成したりすることにより、任意の位相差値が付与された位相差フィルムとすることができる。
保護フィルムの偏光子層とは反対側の表面には、ハードコート層、防眩層、反射防止層などの光学層を形成することもできる。保護フィルム表面にこれらの光学層を形成する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。光学層は、貼合工程S50の実施に先立って保護フィルム上に予め形成しておいてもよいし、貼合工程S50実施後又は後述する剥離工程S60実施後に形成してもよい。
偏光子層上に保護フィルムを貼合するにあたり、保護フィルムの偏光子層側表面には、偏光子層との接着性を向上させるために、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理などの表面処理(易接着処理)を行うことができ、中でも、プラズマ処理、コロナ処理又はケン化処理を行うことが好ましい。例えば保護フィルムが環状ポリオレフィン系樹脂からなる場合、通常プラズマ処理やコロナ処理が行われる。また、セルロースエステル系樹脂からなる場合には、通常ケン化処理が行われる。ケン化処理としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリ水溶液に浸漬する方法が挙げられる。
保護フィルムの厚みは薄いことが好ましいが、薄すぎると強度が低下し、加工性に劣る。一方、厚すぎると、透明性が低下したり、貼合後に必要な養生時間が長くなったりするなどの問題が生じる。したがって、保護フィルムの厚みは90μm以下が好ましく、より好ましくは5〜60μm、さらに好ましくは5〜50μmである。また、偏光板の薄膜化の観点から、偏光子層と保護フィルムとの合計厚みは、好ましくは100μm以下、より好ましくは90μm以下、さらに好ましくは80μm以下である。
(接着剤)
接着剤としては、水系接着剤又は光硬化性接着剤を用いることができる。水系接着剤としては、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液からなる接着剤、水系二液型ウレタン系エマルジョン接着剤などが挙げられる。とりわけ、保護フィルムとしてケン化処理などで表面処理(親水化処理)されたセルロースエステル系樹脂フィルムを用いる場合には、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液からなる水系接着剤を用いることが好ましい。
ポリビニルアルコール系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルをケン化処理して得られるビニルアルコールホモポリマーのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体をケン化処理して得られるポリビニルアルコール系共重合体又はそれらの水酸基を部分的に変性した変性ポリビニルアルコール系重合体などを用いることができる。水系接着剤は、多価アルデヒド、水溶性エポキシ化合物、メラミン系化合物、ジルコニア化合物、亜鉛化合物などの添加剤を含むことができる。水系接着剤を用いた場合、それから得られる接着剤層の厚みは、通常1μm以下である。
水系接着剤を偏光性積層フィルムの偏光子層上及び/又は保護フィルム上に塗工し、これらのフィルムを接着剤層を介して貼合し、好ましくは貼合ロールなどを用いて加圧し密着させることにより貼合工程が実施される。水系接着剤(光硬化性接着剤についても同様)の塗工方法は特に制限されず、流延法、マイヤーバーコート法、グラビアコート法、カンマコーター法、ドクタープレート法、ダイコート法、ディップコート法、噴霧法などの従来公知の方法を用いることができる。
水系接着剤を用いる場合、上述の貼合を実施した後、水系接着剤中に含まれる水を除去するためにフィルムを乾燥させる乾燥工程を実施することが好ましい。乾燥は、例えばフィルムを乾燥炉に導入することによって行うことができる。乾燥温度(乾燥炉の温度)は、好ましくは30〜90℃である。30℃未満であると、保護フィルムが偏光子層から剥離しやすくなる傾向がある。また乾燥温度が90℃を超えると、熱によって偏光子層の偏光性能が劣化するおそれがある。乾燥時間は10〜1000秒程度とすることができ、生産性の観点からは、好ましくは60〜750秒、より好ましくは150〜600秒である。
乾燥工程後、室温又はそれよりやや高い温度、例えば20〜45℃程度の温度で12〜600時間程度養生する養生工程を設けてもよい。養生温度は、乾燥温度よりも低く設定されるのが一般的である。
上記光硬化性接着剤とは、紫外線などの活性エネルギー線を照射することで硬化する接着剤をいい、例えば、重合性化合物及び光重合開始剤を含むもの、光反応性樹脂を含むもの、バインダー樹脂及び光反応性架橋剤を含むものなどを挙げることができる。重合性化合物としては、光硬化性エポキシ系モノマー、光硬化性アクリル系モノマー、光硬化性ウレタン系モノマーなどの光重合性モノマーや、光重合性モノマーに由来するオリゴマーなどを挙げることができる。光重合開始剤としては、紫外線などの活性エネルギー線の照射により中性ラジカル、アニオンラジカル、カチオンラジカルといった活性種を発生する物質を含むものを挙げることができる。重合性化合物及び光重合開始剤を含む光硬化性接着剤として、光硬化性エポキシ系モノマー及び光カチオン重合開始剤を含むものを好ましく用いることができる。
光硬化性接着剤を用いる場合、上述の貼合を実施した後、必要に応じて乾燥工程を行い(光硬化性接着剤が溶媒を含む場合など)、次いで活性エネルギー線を照射することによって光硬化性接着剤を硬化させる硬化工程を行う。活性エネルギー線の光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する活性エネルギー線が好ましく、具体的には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどが好ましく用いられる。
光硬化性接着剤への光照射強度は、光硬化性接着剤の組成によって適宜決定され、重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1〜6000mW/cm2となるように設定されることが好ましい。照射強度が0.1mW/cm2以上である場合、反応時間が長くなりすぎず、6000mW/cm2以下である場合、光源から輻射される熱及び光硬化性接着剤の硬化時の発熱による光硬化性接着剤の黄変や偏光子層の劣化を生じるおそれが少ない。
光硬化性接着剤への光照射時間についても、光硬化性接着剤の組成によって適宜決定され、上記照射強度と照射時間との積として表される積算光量が10〜10000mJ/cm2となるように設定されることが好ましい。積算光量が10mJ/cm2以上である場合、重合開始剤由来の活性種を十分量発生させて硬化反応をより確実に進行させることができ、10000mJ/cm2以下である場合、照射時間が長くなりすぎず、良好な生産性を維持できる。
なお、活性エネルギー線照射後の接着剤層の厚みは、通常0.001〜5μm程度であり、好ましくは0.01〜2μm、さらに好ましくは0.01〜1μmである。
(粘着剤)
保護フィルムの貼合に用いることができる粘着剤は、通常、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂などをベースポリマーとし、そこに、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物のような架橋剤を加えた粘着剤組成物からなる。さらに微粒子を含有して光散乱性を示す粘着剤層とすることもできる。
粘着剤層の厚みは1〜40μmであることができるが、加工性、耐久性の特性を損なわない範囲で、薄く塗るのが好ましく、具体的には3〜25μmであることが好ましい。3〜25μmの厚みは、良好な加工性を有し、かつ偏光子層の寸法変化を押さえる上でも好適である。粘着剤層が1μm未満であると粘着性が低下し、40μmを超えると粘着剤がはみ出すなどの不具合を生じ易くなる。粘着剤を用いて保護フィルムを偏光子層に貼合する方法においては、保護フィルム面に粘着剤層を設けた後、偏光子層に貼合してもよいし、偏光子層面に粘着剤層を設けた後、ここに保護フィルムを貼合してもよい。
粘着剤層を形成する方法は特に限定されるものではなく、保護フィルム面又は偏光子層面に、上記したベースポリマーをはじめとする各成分を含む粘着剤組成物(粘着剤溶液)を塗工し、乾燥して粘着剤層を形成した後、保護フィルムと偏光子層とを貼り合わせてもよいし、セパレータ(剥離フィルム)上に粘着剤層を形成した後、この粘着剤層を保護フィルム面又は偏光フィルム面に転写し、次いで保護フィルムと偏光子層とを貼り合わせるようにしてもよい。粘着剤層を保護フィルム面又は偏光子層面に形成する際には、必要に応じて保護フィルム面若しくは偏光偏光子層面、又は粘着剤層の片面若しくは両面に表面処理、例えばコロナ処理などを施してもよい。
〔6〕剥離工程S60
本工程は、保護フィルムを貼合して得られる貼合フィルムから基材フィルムを剥離除去する工程である。この工程を経て、偏光子層上に保護フィルムが積層された偏光板を得ることができる。基材フィルムの両面の偏光子層に保護フィルムを貼合した場合には、この剥離工程S60により、1枚の偏光性積層フィルムから2枚の偏光板が得られる。
基材フィルムを剥離除去する方法は特に限定されるものでなく、通常の粘着剤付偏光板で行われるセパレータ(剥離フィルム)の剥離工程と同様の方法で剥離できる。基材フィルムは、貼合工程S50の後、そのまますぐ剥離してもよいし、貼合工程S50の後、一度ロール状に巻取り、その後の工程で巻出しながら剥離してもよい。
以上のようして製造される偏光板は、実用に際して他の光学層を積層した光学フィルムとして用いることもできる。また、保護フィルムがこのような光学層の機能を有していてもよい。他の光学層としては、ある種の偏光光を透過し、それと逆の性質を示す偏光光を反射する反射型偏光フィルム;表面に凹凸形状を有する防眩機能付きフィルム;表面反射防止機能付きフィルム;表面に反射機能を有する反射フィルム;反射機能と透過機能とを併せ持つ半透過反射フィルム;視野角補償フィルムなどが挙げられる。
ある種の偏光光を透過し、それと逆の性質を示す偏光光を反射する反射型偏光フィルムに相当する市販品としては、例えば、「DBEF」(3M社製、日本では住友スリーエム(株)から入手可能)、「APF」(3M社製、日本では住友スリーエム(株)から入手可能)が挙げられる。
視野角補償フィルムとしては、基材表面に液晶性化合物が塗布され、配向・固定されている光学補償フィルム、ポリカーボネート系樹脂からなる位相差フィルム、環状ポリオレフィン系樹脂からなる位相差フィルムなどが挙げられる。
基材表面に液晶性化合物が塗布され、配向・固定されている光学補償フィルムに相当する市販品としては、「WVフィルム」(富士フイルム(株)製)、「NHフィルム」(JX日鉱日石エネルギー(株)製)、「NRフィルム」(JX日鉱日石エネルギー(株)製)などが挙げられる。
環状ポリオレフィン系樹脂からなる位相差フィルムに相当する市販品としては、「アートンフィルム」(JSR(株)製)、「エスシーナ」(積水化学工業(株)製)、「ゼオノアフィルム」(日本ゼオン(株)製)などが挙げられる。
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
<実施例1>
(1)基材フィルムの作製
エチレンユニットを約5重量%含むプロピレン/エチレンのランダム共重合体(住友化学(株)製の「住友ノーブレン W151」、融点Tm=138℃)からなる樹脂層の両面にプロピレンの単独重合体(住友化学(株)製の「住友ノーブレンFLX80E4」、融点Tm=163℃)からなる樹脂層を配置した3層構造の長尺の基材フィルムを、多層押出成形機を用いた共押出成形により作製した。基材フィルムの合計厚みは100μmであり、各層の厚み比(FLX80E4/W151/FLX80E4)は3/4/3であった。
(2)塗工液の調製
ポリビニルアルコール粉末(日本合成化学工業(株)製の「Z−200」、平均重合度1100、平均ケン化度99.5モル%)を95℃の熱水に溶解し、濃度3重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られた水溶液に架橋剤(田岡化学工業(株)製の「スミレーズレジン650」)をポリビニルアルコール粉末2重量部に対して1重量部の割合で混合して、プライマー層形成用塗工液を得た。
また、ポリビニルアルコール粉末((株)クラレ製の「PVA124」、平均重合度2400、平均ケン化度98.0〜99.0モル%)を95℃の熱水に溶解し、濃度8重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製し、これをポリビニルアルコール系樹脂層形成用塗工液とした。
(3)積層フィルムの作製(樹脂層形成工程)
上記(1)で作製した基材フィルムを連続的に搬送させながら、その片面にコロナ処理を施し、そのコロナ処理された面にマイクログラビアコーターを用いて上記プライマー層形成用塗工液を連続的に塗工し、60℃で3分間乾燥させることにより、厚み0.2μmのプライマー層を形成した。引き続き、フィルムを搬送させながら、カンマコーターを用いて上記ポリビニルアルコール系樹脂層形成用塗工液をプライマー層上に連続的に塗工し、90℃で1分間、70℃で3分間、次いで60℃で4分間乾燥させることにより、プライマー層上に厚み11.5μmの第1樹脂層を形成した。
さらに、第1樹脂層を形成した面とは反対側の基材フィルム面に上記と同様の処理を施して、プライマー層及び第2樹脂層を順次形成して、基材フィルムの両面に厚み0.2μmのプライマー層及び厚み11.5μmのポリビニルアルコール系樹脂層を有し、第1樹脂層/プライマー層/基材フィルム/プライマー層/第2樹脂層の層構成からなる積層フィルムを得た。
(4)積層フィルムの延伸(延伸工程)
上記(3)で得られた積層フィルムを連続的に搬送させながら、ニップロール間延伸方式により、160℃の延伸温度で縦方向(フィルム搬送方向)に5.8倍の倍率で自由端一軸延伸して延伸フィルムとした。延伸フィルムにおける第1及び第2樹脂層の厚みは、一方が5.8μm、他方が5.3μmであった。延伸処理後、延伸フィルムの幅方向両端部を20mmずつスリットした。
(5)延伸フィルムの巻取り(巻取り工程)
スリット後の延伸フィルムをガイドロールで支持して搬送させながら、フィルム巻取り装置の巻取り部分に取り付けたコアに連続的に巻付けていき、フィルムロールとした。この際、巻取り部に最も近いガイドロールの軸の中心と巻取り部の軸の中心との距離(軸中心間距離)は540mm、延伸フィルムの単位幅あたりの巻取り張力は60N/mとした。巻付けた延伸フィルムにシワを生じさせることなく、800mの延伸フィルムを巻取ることができた。なお、巻取り張力は、ライン中のテンションピックアップロールにより検出した。
(6)偏光性積層フィルムの作製
上記(5)で得られたフィルムロールから延伸フィルムを連続的に巻出し、搬送させながら、60℃の温水浴に滞留時間が60秒間となるように浸漬した後、ヨウ素とヨウ化カリウムとを含む30℃の染色溶液に滞留時間が150秒間程度となるように浸漬して第1及び第2樹脂層の染色処理を行い、次いで、10℃の純水で余分な染色溶液を洗い流した。引き続き、ホウ酸とヨウ化カリウムとを含む76℃の架橋溶液に滞留時間が600秒間となるように浸漬して架橋処理を行った。その後、10℃の純水で4秒間洗浄し、80℃で300秒間乾燥させることにより、偏光性積層フィルムを作製した。
(7)偏光板の作製
ポリビニルアルコール粉末((株)クラレ製の「KL−318」、平均重合度1800)を95℃の熱水に溶解し、濃度3重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られた水溶液に架橋剤(田岡化学工業(株)製の「スミレーズレジン650」)をポリビニルアルコール粉末2重量部に対して1重量部の割合で混合し、接着剤水溶液とした。
次に、上記(6)で作製した偏光性積層フィルムを連続的に搬送させながら、上記接着剤水溶液を両面の偏光子層上に塗工した後、貼合面にケン化処理を施した保護フィルム〔トリアセチルセルロース(TAC)からなる透明保護フィルム(コニカミノルタオプト(株)製の「KC4UY」)、厚み40μm〕を偏光子層上に貼合し、一対の貼合ロール間に通すことにより圧着し、TAC/偏光子層/プライマー層/基材フィルム/プライマー層/偏光子層/TACの層構成からなる貼合フィルムを作製した。
次いで、貼合フィルムを、基材フィルムとプライマー層との界面で剥離分割して、TAC/偏光子層/プライマー層/基材フィルムからなるフィルムと、プライマー層/偏光子層/TACからなる偏光板を得た後、さらに前者のフィルムから基材フィルムを剥離除去して、もう1枚の偏光板を得た。基材フィルムを剥離する工程において、フィルムの破断などの不具合は生じなかった。
<比較例1>
巻取り工程における軸中心間距離を730mmとしたこと以外は実施例1と同様にして実施例1の(5)までを行った。延伸フィルムの巻取りを実施したところ、210m巻取ったところでシワが発生した。
<比較例2>
巻取り工程における軸中心間距離を1100mmとしたこと以外は実施例1と同様にして実施例1の(5)までを行った。延伸フィルムの巻取りを実施したところ、130m巻取ったところでシワが発生した。