以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態の気流発生装置10を模式的に示した斜視図である。図2は、図1のA−A断面図である。図3は、第1の実施の形態の気流発生装置10における気流速度の変化を示す図である。
図1および図2に示すように、気流発生装置10は、誘電体20内に埋設された電極21と、この電極21と誘電体20の表面からの距離を同じにし、かつ誘電体20の表面と水平な方向にずらして離間され、誘電体20内に埋設された電極22と、ケーブル23を介して電極21、22間に電圧を印加する放電用電源24とから主に構成されている。
誘電体20は、公知な固体の誘電材料で構成される。誘電体20を構成する材料として具体的には、電気的絶縁材料である、アルミナやガラス、マイカなどの無機絶縁物、ポリイミド、ガラスエポキシ、ゴムなどの有機絶縁物などが挙げられるが、これらに限られるものではなく、気流発生装置10が使用される環境下において公知な固体の誘電材料から適宜に選択される。また、発生させる気流の速度分布などを均一にするため、誘電体20の表面は平面であることが好ましい。
電極21、22は、平板状の電極で構成されている。また、電極21、22はそれぞれ同じ形状からなり、それぞれの電極21、22は、直接接触することなく誘電体20を介してそれぞれ対称な位置に配設されている。また、電極21、22は、誘電体20の表面と平行に埋設されることが好ましい。これらの電極21、22は、公知な導電性の材料で構成され、気流発生装置10が使用される環境に応じて、公知な導電性の材料から適宜に電極21、22を構成する材料が選択される。これらの電極間で誘電体20を介して誘電体バリア放電させることにより、電子およびイオン(正イオン・負イオン)が生成される。
放電用電源24は、電圧印加機構として機能し、電極21、22間に電圧を印加するものである。放電用電源24からは、例えば、正極性および/または負極性の電圧を断続的に出力するパルス状の出力電圧、正極性および負極性のパルス状の電圧を交互に出力する交番電圧、交流状(正弦波、断続正弦波)の波形を有する出力電圧などが出力される。また、放電用電源24は、例えば、出力電圧に強弱をつけて出力するなど、電圧値を調整しながら電極21、22間に電圧を印加してもよい。具体的には、例えば、所定のデューティ比で正極性および負極性の電圧を交互に断続的に出力する際、初めから2パルスは高出力とし、それに続く2パルスをその半分の出力とし、この高出力の2パルスとその半分の出力の2パルスの組み合わせを繰り返し印加する制御などが挙げられる。なお、これに限られるものではなく、電圧の制御は、使用条件や用途などに応じて適宜に設定可能である。
また、放電用電源24としては、例えば、特開2004−278369号公報に記載されているような、トランスを有する高圧電源を用い、トランスの1次巻線からトランスの漏れインダクタンスと放電部(電極間部)の静電容量を含んで形成される共振回路にステップ電圧を与えることにより放電部に共振電圧を印加する方式を利用した電源を用いるのが好ましい。この方式によれば、トランスの1次側に正弦波形の交流電圧を印加する方式に比べてトランスを小型化することができる。特に、電源の小型化、低コスト化を実現したい場合にはこのような電源を用いることが好ましい。
ここで、誘電体20をブロック体で構成し、上記した電極構成を備える気流発生ユニットとしてもよい。このように気流発生ユニット構造にすることで、この気流発生ユニットを容易に持ち運ぶことができ、さらに気流を発生させたい部位に容易に取り付けることができる。また、取り扱いが容易であり、誘電体20や電極21、22の材料を使用する用途によって任意に選択することができるので、使用用途の幅を広げることができる。さらに、電極21、22を誘電体20と一体化して気流発生ユニット構造にすることで、電極21、22の剛性を高めることができ、様々な応用に耐え得る強度を有する電極を構成することができる。
次に気流発生装置10の作用について説明する。
放電用電源24から電極21、22間に電圧が印加され、一定の閾値以上の電位差となると、電極21、22間に放電が起こり、放電に伴って放電プラズマが生成される。ここで、電極21、22間に誘電体20を介在させているので、高温下や含塵環境下においてもアーク放電にはいたらず、安定に維持することが可能な誘電体バリア放電が生じる。また、誘電体バリア放電は、誘電体20に沿って形成される沿面放電となる。この誘電体バリア放電によって、気流25を発生させることができる。
上記したような大気圧下における誘電体バリア放電において、電極21、22間に直流電圧を印加すると、放電の進展とともに誘電体20の表面に電荷が蓄積して電極21、22間の電界が緩和され、最終的には電界が空間の電離を維持できなくなり、放電が停止する。この放電の停止を防止するためには、誘電体20の表面に蓄電された電荷を除去することが必要であり、そのためには、電極21、22間に、パルス状の正負の両極性電圧である交番電圧や交流電圧を印加することが好ましい。このように電極21、22間に交番電圧または交流電圧を印加することで、持続的に誘電体バリア放電を行うことが可能となる。
ここで、電極21、22間に交番電圧を印加すると、印加される電圧の極性によって、電極21、22間にかかる電界の向きが逆転する。そのため、電子やイオンが中性気体分子に与える運動量の向きも電圧の極性によって逆転する。その結果、印加される電圧の極性によって、気流発生装置10の表面、すなわち誘電体20の表面に沿って発生した気流25の流れる方向は反転する。また、電圧の極性を交互に変化させることで、その変化に伴って気流25の流れる方向も変化し、気流25は所定の位置で振動する。
図2に示すように、同じ形状を有する電極21と電極22とが、誘電体20の表面からの同じ距離に、かつ誘電体20を介して離間されて、誘電体20内に埋設された構造を有する気流発生装置10では、交番電圧の周期および振幅に伴う振動する気流25が、気流発生装置10の表面、すなわち誘電体20の表面に沿って発生する。図3に示すように、この気流25は、電極21側に向かう気流(図2では左側に向かう気流)と、電極22側に向かう気流(図2では右側に向かう気流)とが対称的に発生している。また、それぞれの方向に向かう流速は、ほぼ等しい値となっている。
上記したように、第1の実施の形態の気流発生装置10によれば、気流発生装置10の表面、すなわち誘電体20の表面に沿って流れる方向が反転して振動する気流25を発生させることができる。また、発生させる気流25の速度や発生間隔は、電極21、22間に印加する電圧の値や周期を調整することで制御することができる。
ここで、上記した気流発生装置10では、同じ形状を有する電極21と電極22とが誘電体20の表面からの距離を同じにして、誘電体20内に埋設された構造を有する一例を示したが、気流発生装置10の構成はこれに限られるものではなく、次に示すような構成としてもよい。
図4は、他の構成を備える気流発生装置40を模式的に示した断面図である。また、図5は、他の構成を備える気流発生装置40における気流速度の変化を示す図である。さらに、図6は、気流発生装置40において、電圧を断続的に制御したときの気流速度の変化を示す図であり、図7は、気流発生装置40において、電圧値を制御したときの気流速度の変化を示す図である。
図4に示すように、気流発生装置40は、誘電体20の表面と同一面に露出された電極21と、この電極21と誘電体20の表面からの距離を異にし、かつ誘電体20の表面と水平な方向にずらして離間され、誘電体20内に埋設された電極22と、ケーブル23を介して電極21、22間に電圧を印加する放電用電源24とから構成されている。
この気流発生装置40においても、放電用電源24によって電極21、22間に、所定値以下の周波数の交流電圧や交番電圧を印加すると、図5に示すように、気流発生装置40の表面、すなわち誘電体20の表面に沿って流れる方向が反転して振動する気流25を発生させることができる。なお、図5では、電極22側に向かう気流(図2では右側に向かう気流)の向きを正の値としている。図5に示すように、電極21に向かう気流(図4では左に向かう気流)と、電極22に向かう気流(図4では右に向かう気流)とが発生するが、図3に示した気流発生装置10の場合と異なり、それぞれの方向に向かう流速が異なる値となっている。また、気流発生装置40では、電極21を露出させることで空間にかかる電界強度を高めることができ、電極21が誘電体20内に埋設されている場合よりも、より低い印加電圧で駆動することが可能となる。
また、図示していないが、さらに他の構成を備える気流発生装置として、図2に示した気流発生装置10の電極21を電極22の形状とは異なる、例えば棒状の電極で構成してもよい。この場合には、気流発生装置40の場合と同様に、放電用電源24によって電極21、22間に、所定値以下の周波数の交流電圧や交番電圧を印加すると、図5に示すように、電極21側に向かう気流(図4では左側に向かう気流)と、電極22側に向かう気流(図4では右側に向かう気流)とが発生するが、それぞれの方向に向かう流速が異なる値となる。この気流発生装置においても、上記した気流発生装置40と同様の効果を得ることができる。
ここで、前述したように、電極間に印加される電圧は、断続的または電圧値を調整しながら印加してもよい。電圧を断続的に印加した場合には、図6に示すように、その断続的な電圧の印加に伴う気流速度が得られる。また、電圧値を調整しながら印加した場合には、図7に示すように、印加された電圧値に伴う気流速度が得られる。また、電圧を断続的に印加し、かつ電圧値を調整しながら電圧を印加してもよい。
(第2の実施の形態)
図8は、第2の実施の形態の気流発生装置50の断面を示した図である。なお、図8では、気流発生装置50が金属からなる構造体53に取り付けた状態が示されている。また、第1の実施の形態の気流発生装置10と同一の構成部分には同一の符号を付して、重複する説明を省略または簡略する。
図8に示すように、気流発生装置50は、誘電体からなる誘電ブロック51と、誘電ブロック51内に埋設された電極52と、ケーブル23を介して金属からなる構造体53と電極52との間に電圧を印加する放電用電源24とから主に構成されている。
誘電ブロック51は、第1の実施の形態で説明した誘電体20と同様の材料で構成されたブロック体である。この誘電ブロック51の形状は、特に限定されるものではなく、気流発生装置50が使用される用途に応じて適宜に決められる。
電極52は、平板状の電極で構成されている。また、電極52を構成する材料は、第1の実施の形態で説明した電極21、22と同様の材料で構成される。電極52は、放電の局在化をさけるため、誘電ブロック51の表面と平行に配置されることが好ましい。ここで、例えば、誘電ブロック51としてセラミックスを用いた場合には、セラミックスを積層して誘電ブロック51を形成する際、その途中に金属の薄板を挿入したり、金属ペーストを塗布したり、金属を溶射したり、スクリーンプリントしたりすることで電極52を構成することができる。この方法で電極52を形成した場合には、製作コストを大幅に低減することができる。また、上記のような方法によって電極52を薄く形成することで、例えば昇温時における熱応力による誘電ブロック51の割れなどを防止することができる。また、積層時にセラミックスに曲率をもたせることにより、任意の形状の誘電ブロック51が成形可能となり、翼などの複雑な形状に対応した気流発生装置50を作製することができる。
図8に示すように、気流発生装置50は、金属などの導電体からなる構造体53に形成された溝部に設置される。この設置の際、電極52が配設された誘電ブロック51の側面57を構造体53に密着させることが好ましい。このように誘電ブロック51の側面57を構造体53に密着させることで、側面57と構造体53との間における誘電体バリア放電を防止し、誘電ブロック51の表面上において誘電体バリア放電を発生させることができる。
また、図8に示すように、誘電ブロック51の側面57と対向する側の側面54と構造体53との間には、所定の幅の空隙55を設けることが好ましい。この空隙55を設けることで、構造体53と誘電ブロック51の熱膨張率が異なる場合に生じる熱膨張による破損などを防止することができる。
次に気流発生装置50の作用について説明する。
放電用電源24から電極52と構造体53との間に電圧が印加され、一定の閾値以上の電位差となると、誘電ブロック51の表面を介して電極52と構造体53との間に放電が起こり、放電に伴って放電プラズマが生成される。ここで、電極52と構造体53との間に誘電体である誘電ブロック51を介在させているので、高温下や含塵環境下においてもアーク放電にはいたらず、安定に維持することが可能な誘電体バリア放電が生じる。この誘電体バリア放電によって、気流56を発生させることができる。
第1の実施の形態の場合と同様に、電極52と構造体53との間に交番電圧を印加すると、印加される電圧の極性によって、電極52と構造体53との間にかかる電界の向きが逆転する。そのため、電子やイオンが中性気体分子に与える運動量の向きも電圧の極性によって逆転する。その結果、印加される電圧の極性によって、気流発生装置50の表面、すなわち誘電ブロック51の表面に沿って発生した気流56の流れる方向は反転する。また、電圧の極性を交互に変化させることで、その変化に伴って気流56の流れる方向も変化し、気流56は所定の位置で振動する。
上記したように、第2の実施の形態の気流発生装置50によれば、気流発生装置50を導電体からなる構造体53に形成された溝部に設置することで、気流発生装置50の表面、すなわち誘電ブロック51の表面に沿って流れる方向が反転して振動する気流56を発生させることができる。また、発生させる気流56の速度や発生間隔は、電極52と構造体53との間に印加する電圧の値や周波数を調整することで制御することができる。さらに、気流発生装置50は、ブロック体からなるユニット構造で構成されているので、容易に持ち運ぶことができ、さらに気流を発生させたい部位に容易に取り付けることができる。また、取り扱いが容易であり、誘電ブロック51や電極52の材料や構成などを使用する用途によって任意に選択することができるので、使用用途の幅を広げることができる。さらに、電極52を誘電ブロック51と一体化して気流発生ユニット構造にすることで、電極52の剛性を高めることができ、様々な応用に耐え得る強度を有する電極を構成することができる。
次に、第1および2および3の実施の形態に係る気流発生装置10、40、50を用いた応用例を以下に示す。ここでは、気流発生装置10を熱交換装置に用いた場合の一例を示す。さらに、気流発生装置10を翼に設置し、騒音低減装置として機能させる一例を示す。なお、以下の説明では、気流発生装置10を設置した例を主に示すが、気流発生装置40を設置した場合にも同様の作用効果が得られる。また、設置する構造体が導電体である場合には、気流発生装置50を設置した場合にも同様の作用効果が得られる。なお、気流発生装置10、40、50の用途は、これらに限られるものでなく、例えば空気力学的特性の制御装置、伝熱特性の制御装置などとして機能させることができる。
(第3の実施の形態)
図12は、他の構成を備える気流発生装置100を模式的に示した断面図である。また、図13は、他の構成を備える気流発生装置100における気流速度の変化を示す図である。また、第1の実施の形態の気流発生装置10と同一の構成部分には同一の符号を付して、重複する説明を省略または簡略する。
図12に示すように、気流発生装置100は、誘電体20の表面と同一面に露出された電極21と、この電極21と誘電体20の表面からの距離を異にし、かつ誘電体20の表面と水平な方向にずらして離間され、誘電体20内に埋設された電極22と、ケーブル23を介して電極21、22間に電圧を印加する放電用電源24を備えている。さらに気流発生装置100は、誘電体20の表面と同一面に露出され、電極22の電極21とは異なる側に誘電体20の表面と水平な方向にずらして離間された第3の電極110と、電極21と電極110の間に電圧を印加する加速電源111とを備えている。
この気流発生装置100において、放電用電源24によって電極21、22間に、所定値以下の周波数の交流電圧や交番電圧を印加すると、図13に示すように、気流発生装置40の表面、すなわち誘電体20の表面に沿って、流れる方向が反転し、それぞれの方向に向かう流速が異なる気流25を発生する。そして、電極21と電極110の間に加速電源111によって加速用の直流電圧を、電界が適切な方向になるように印加すると、さらに気流を加速させることができる。
この構成の気流発生装置では、電極21、22において少なくとも電荷を発生させることができれば、電極110の作用で電荷に運動量を与え、それにより気流を発生させることができるので、電極21、22の構成は必ずしも上記したような構成である必要はない。なお、加速電圧を印加する方の電極は、誘電体表面に露出している必要がある。この加速電圧を印加する方の電極が誘電体表面に露出していない場合には、加速電圧によって移動した電荷が誘電体上に蓄積して電界を弱めるので、効率的な加速ができなくなる。
また、ここでは放電用電源24と加速電源111の2つの電源を備える場合を例示したが、電荷の発生とその駆動の機能を発揮させることができれば、例えばこれらの機能を1つの電源を用いた構成で発揮させることも可能である。具体的には、電極22、110を接地し、電極21に交流と直流とが重畳された電圧を印加する等の方法が例示できる。
次に、上記した実施の形態に係る気流発生装置10、40、50、100を用いた応用例を以下に示す。まず、気流発生装置10を熱交換装置に用いた場合の一例、および気流発生装置10を翼に設置し、騒音低減装置として機能させる一例を示す。なお、以下の説明では、気流発生装置10を設置した例を主に示すが、気流発生装置40、100を設置した場合にも同様の作用効果が得られる。また、設置する構造体が導電体である場合には、気流発生装置50を設置した場合にも同様の作用効果が得られる。
(熱交換装置70への応用)
ここでは、気流発生装置10を熱交換装置70の伝熱特性を制御する手段として用いた場合の一例を示す。図9は、伝熱面71に気流発生装置10を備えた熱交換装置70を模式的に示した斜視図である。
図9に示すように、気流発生装置10は、気流発生装置10の表面が熱交換装置70の伝熱面71と同一面になるように、熱交換装置70に固着されている。このように気流発生装置10を配設し、交番電圧を印加することで、熱交換装置70の伝熱面71に沿って誘電体バリア放電を生じさせ、気流発生装置10の表面に沿って振動する気流72を発生させることができる。
この熱交換装置70は、伝熱面71を介して、伝熱面71の外側を流れる気体73と熱交換装置70の内部に流れる冷媒74との間で熱量を交換するものである。気流発生装置10によって発生した気流72によって、伝熱面71付近の境界層に擾乱が生じ、熱伝達を促進することができる。
このように気流発生装置10によって境界層に気流72を発生させ、例えば、伝熱面71の境界層における気体73の流れの構造を変化させることで、熱交換装置70の構造を変えることなく、伝熱面71における伝熱特性を向上させることができる。また、気流発生装置10に印加する電圧の値や周波数を制御することで、伝熱特性を任意に制御することができる。
なお、熱交換装置への応用と関連した適用例として、熱伝達の促進を図ることが好ましい、加熱、冷却、凝縮、沸騰等の機能を利用する伝熱機器への適用が挙げられる。例えば、気流発生装置を伝熱特性制御手段として、コンピュータの素子を冷却する冷却フィンや、空調機の熱交換フィン等の所定の位置に設置して利用することができる。これによって、冷却フィンや熱交換フィン等の伝熱特性の向上を図ることができる。
(騒音低減装置への応用)
ここでは、気流発生装置10を用いて翼の空気力学的特性を制御することで、気流発生装置10を騒音低減装置として機能させる一例を示す。図10Aおよび図10Bは、気流発生装置10の騒音低減装置として機能を説明するための図である。また、図11Aおよび図11Bは、気流発生装置10を備えたヘリコプタ翼を模式的に示した斜視図である。
翼上に発生する剥離に関する研究は、1930年代から進められており、その現象については未解明の点を残してはいるが徐々に理解が進んでいる(例えば、ながれ第22巻、2003年、p15〜22参照)。これまでの研究から、翼の迎角を増大させていくと所定の迎角で剥離が生じ、この剥離を生じる迎角近傍では、非定常で振動する流れが発生していることがわかっている。これは、流れの剥離と付着の状態を周期的に繰り返している状態と考えられている。また、このような流れの剥離と付着の状態を周期的に繰り返している状態では、騒音の発生を伴う。また、別の現象として、剥離や剥離泡とよばれる領域においては、微細な渦が周期的に生成して放出されることが確認されている。
ここで、翼上に気流発生装置10を設置し、誘電体バリア放電によって発生する振動する気流が、剥離点近傍の振動する流れを相殺するように印加する電圧の周波数を調整することによって、翼面での剥離を抑制することができる。これによって、揚力係数を向上させ、高効率の翼が実現できるとともに、流れの剥離と付着によって発生する騒音を防止することができる。
例えば、新幹線などの屋根上機器による騒音は、図10Aに示すように、円柱80の後方に形成されるカルマン渦81に代表されるような非定常な流れが空気を振動させることによって発生する。図10Bに示すように、円柱80の剥離を生じる位置に気流発生装置10を設置し、この非定常な流れを打ち消すように境界層に振動する気流を発生させたり、乱流化することで、流れの剥離と付着による非定常な状態を抑制することができる。これによって、流れの剥離と付着によって発生する騒音を防止し、騒音を低減することができる。
ここで、剥離と付着とを繰り返す流れの変動周波数が印加する交流電圧の周波数より著しく低い場合は、電圧を断続的に印加して気流速度を調整すること(図6参照)や、印加する電圧値を高低させ、電圧値を調整しながら印加して気流速度を調整すること(図7参照)が好ましい。
なお、このように電圧を制御することは、気流発生装置40を用いた場合に限らず、気流発生装置10、50を用いた場合にも適用することができる。例えば、電圧の周波数を剥離点近傍における非定常な流れを相殺するように調整することで、流れの剥離を抑制することができる。これによって、翼に気流発生装置40が設けられた場合には、揚力係数を向上させ、高効率の翼が実現できるとともに、流れの剥離と付着によって発生する騒音を防止することができる。また、新幹線などの移動体に気流発生装置40が設けられた場合には、流れの剥離と付着によって発生する騒音を防止することができる。さらに、印加する電圧が交番電圧や交流電圧でなくても、上記した作用効果を得ることができる。例えば、直流電圧をパルスまたは矩形波的に印加する場合でも、デューティ比を制御して印加する電圧の周期を剥離点近傍の振動する流れを相殺するように調整することで、流れの剥離を抑制することができる。
このように、非定常な流れが発生する部位に気流発生装置10を備えることで、機器の構造は変えずに騒音を低減することができる。また、対象となる走行条件のときにのみ気流発生装置10を稼動して騒音を低減することができるので、省電力な騒音低減装置を提供することができる。
次に、ヘリコプタ翼90に気流発生装置10を適用した一例について説明する。
ヘリコプタ翼90による騒音の中で特に問題となるのは、ヘリコプタ翼90とヘリコプタ翼端によって形成される翼端渦91との干渉によって発生する騒音である。特に、ヘリコプタが下降中において、ヘリコプタ翼90の下側に形成された翼端渦91にヘリコプタ翼90が衝突することで騒音が増大する(図11A参照)。このヘリコプタ翼90と翼端渦91との干渉によって発生する騒音を抑制するためには、ヘリコプタ翼90が翼端渦91と干渉しないように低速で下降する必要がある。
ここでは、各ヘリコプタ翼90の上面側に気流発生装置10を設置している。これによって、各ヘリコプタ翼90の上面に沿って振動する気流を発生させ、翼上面における境界層の流れの構造を変化させることで、揚力を向上させることができる。このようにヘリコプタ翼90の上面側に気流発生装置10を設置した場合、図11Bに示すように、ヘリコプタ翼90の回転によって発生する下降流92の強さが増大し、翼端渦91を有する流れがより下側に位置するようになるため、ヘリコプタの下降速度を上げても、ヘリコプタ翼90が翼端渦91に干渉することを抑制できる。これによって、ヘリコプタ翼90と翼端渦91との干渉によって発生する騒音を抑制することができ、画期的に騒音を低減することができる。また、ヘリコプタ翼90が翼端渦91と干渉しないように低速で下降する必要もなくなる。
上記したように、本発明に係る気流発生装置は、熱交換器への応用においては、例えば乱流促進機能、翼や移動体やヘリコプタ翼への応用においては、例えば剥離抑制機能や摩擦低減機能を備えることについて説明した。また、これらの機能により、熱伝達促進や、騒音や振動の低減効果が得られる。
ここで、例えば翼などの表面の流れに影響を与えるために用いることが可能な装置として、上記した本発明の気流発生装置の他にも、ピエゾ素子等の圧電素子等や音波発生装置によって構成された機械的振動装置、ニクロム線等による発熱装置や冷却装置等による熱的振動装置、表面にあけた微細孔からの空気の噴出または吸込みや音波の放出や吸収を行なう装置などが挙げられる。しかしながら、機械的駆動部を持つ機構は、劣化や故障の問題が避けられない、熱的振動発生装置は、駆動の時定数が遅いため気流の変動に追随できない、細孔から噴出または吸込み等を行なう装置は、構造物内部に空洞や流路を形成する必要があり構造が複雑になる等の問題があり、いずれも本発明の放電を利用した気流発生装置に比べて実用性に欠ける。
また、気流発生装置10、40、50、100の用途は、上記した用途に限られるものでない。例えば、物体表面の気流の剥離を抑制または促進する装置、物体表面の気流と物体表面の摩擦抵抗を増加または低減する装置、物体表面の気流を層流から乱流にまたは乱流から層流に遷移させる装置、物体表面の気流の乱れを生成または消滅させる装置、物体表面の気流に縦渦を生成させる装置、物体表面の気流に熱を発生させる装置、物体表面における損失を低減または増加させる装置等として使用することが可能である。また、気流発生装置10、40、50、100を騒音低減装置、振動低減装置、推進装置、送風装置等として機能させることもできる。
また、本発明に係る気流発生装置を用いた応用機器としては、例えば以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。この応用機器としては、本発明に係る気流発生装置を、例えば、表面の所定の位置に備えた翼、外気と接する表面の所定の位置に備えた航空機、作動流体と接する表面の所定の位置に備えた流体機械、外気と接する表面の所定の位置に備えた移動体、駆動機構として表面の所定の位置に備えたマイクロマシン等が挙げられる。さらに、本発明に係る気流発生装置を、例えば、流体と接する表面の所定の位置に備えた管路、流れ場と接する表面の所定の位置に備えた風洞装置、気体と接する表面の所定の位置に備えた空調機器、可燃物または酸素と接する表面の所定の位置に備えた燃焼器、活性種生成部の所定の位置に備えたガス処理装置、ガスと接する表面の所定の位置に備えたガス混合装置、ガスと接する表面の所定の位置に備えた殺菌装置、ガスと接する表面の所定の位置に備えた消毒装置、化学物質に接する表面の所定の位置に備えた化学反応装置、気体と接する伝熱面の所定の位置に備えた伝熱装置、外気と接する所定の位置に備えた交通機器、外気と接する所定の位置に備えた昇降機器、外気と接する所定の位置に備えた建築物等が挙げられる。
以下に、本発明に係る気流発生装置を備えた様々な装置等について説明する。なお、以下の説明では、気流発生装置40を用いた一例について説明するが、気流発生装置10、50、100を用いてもよい。
例えば、気流発生装置によって境界層に気流を発生させ、例えば、翼上面と気流との境界層の流れの構造を変化させることで、翼の構造を変えることなく、翼上面における揚力係数や抗力係数などの空気力学的特性を制御することができる。また、気流発生装置の電極間に印加する電圧を制御することで、発生する気流の速さを任意に制御することができる。これによって、流体(空気)の流れの状態に追随して、リアルタイムで空気力学的特性の制御をすることが可能となり、革新的な空気力学的特性制御技術が実現可能となる。
また、タービンの翼とケーシングとの隙間等において、作動流体等が漏洩することによる損失が無視できないため、ラビリンスシールや刷子シール等を設け、作動流体等の漏洩を抑制している。しかしながら、上記したような隙間に、ラビリンスシールや刷子シール等を設けることによる、ラビリンスシールや刷子シール等との摩擦やラビリンスシールや刷子シール等の消耗が問題となっている。そこで、気流発生装置40を、タービンの翼とケーシングとの隙間やその近傍に配置し、この隙間から流出する作動流体の方向とは逆方向に、隙間から作動流体に向けて、または隙間に向けて、気流発生装置40から気流を発生させることで、摩擦や消耗等の問題を有することなく、タービンの翼とケーシングとの隙間等からの作動流体の漏洩を抑制することができる。特に、タービンの場合は、この構成を静翼に適用することが有効である。また、気流発生装置40を備えることで、発生する気流を電気的に制御することが可能な漏れ抑制機構としての機能を発揮することができる。
また、翼型の特性は、特に臨界レイノルズ数付近では主流の乱れ度に大きく影響を受けることが知られている。そこで、翼型試験を行う風洞等では、実機に近い条件で試験を行なうため、主流に乱れを与えるための様々な工夫がなされている。しかしながら、従来の主流に乱れを与える方法は、主に機械的駆動部を用いて行なうことが多いため、機械的駆動部の駆動時定数より短いスケールの乱れを与えることが不可能であった。そこで、例えば、風洞の上流部分に備えられる整流装置を構成するハニカムの各格子内に、それぞれ独立に制御可能な気流発生装置40を設置し、各格子点に対してランダムな気流を発生させることにより、乱れ度の高い気流を生成することができる風洞を構成することができる。これによって、気流発生装置40を、乱れ発生機構として利用することができ、電圧、周波数、波形、デューティ比などの電気的特性を制御して、最適な気流制御を実現することができる。
また、低レイノルズ数領域等で、流れ方向の渦軸を持つ縦渦を発生させることにより、剥離流れの再付着や2次流れによる混合促進等を実現する方法が研究されている。しかしながら、これまでの縦渦発生機構は、微細孔からの噴流によるものや微小突起等の機械的な構造によるものが主流であったため、能動制御が不可能であるなどの欠点があった。そこで、表面に対して垂直な方向の気流成分を発生させるように気流発生装置40を配置することにより、対象物の形状を変えずに、電気的制御のみで自由度の高い縦渦生成機構を実現することができる。
気流発生装置40を縦渦発生機構として利用する場合には、表面に対して垂直な方向の気流成分を発生させるように電極を配置することが有効であるが、表面に沿った流れを誘起することでも、電極端付近に上方からの流れを流引する領域ができるため、縦渦の生成が可能となる。
なお、物体表面に微細な突起を設けて層流から乱流に遷移させることで、剥離を抑制するリブレット等の技術も開発されているが、表面に突起を設けることは抵抗の増加に繋がり、さらに固定式の突起のため能動制御が不可能であるなどの欠点がある。これに対して、上記した気流発生装置を用いて翼上の流れを制御する場合には、上記したリブレット等の問題点を解決するとともに、表面の流れに擾乱を与えることで層流から乱流に遷移させる乱流遷移機能を発揮させることができる。これによって、翼等の形状を変えずに電気的制御のみで自由度の高い流れの制御が可能となる。
また、例えば翼の表面における流れの剥離は、表面上でランダムに発生する微小渦を起点に、渦が成長して大規模な剥離に至ることが知られている。そこで、翼の表面に、それぞれを独立に制御可能な複数の気流発生装置を配置し、同様に表面上に複数配置された表面圧力センサ、速度センサ、渦度センサ等のセンサや、表面に塗った感圧力塗料からの蛍光を遠隔カメラで撮影し、撮影された画像に基づいて感知する方法などにより、局所的にランダムに発生する渦を検知して、その近傍の気流発生装置を作動させ、気流を発生させてもよい。これによって、微小渦の成長を阻害し、大規模な剥離が発生するのを防止することができる。この場合、複数の気流発生装置は、それぞれ個々に制御されてもよいし、ある一定の表面領域に位置する気流発生装置を群として、群ごとに制御されてもよい。これらの制御方式は、表面に存在する流れの組織構造のスケールに応じて任意に設定され、電気的制御によって気流を発生できる本発明の気流発生装置においては、容易に上記制御を行なうことができる。なお、渦を検知する方法は、具体的にセンサ等を用いて計測された情報に基づいて判定する他にも、例えば予めデータベース等に作動条件などに基づいて記憶された情報を用いて判定してもよい。
また、気流発生装置は、フラップ等本発明の技術以外の流体制御装置と組み合わせて利用してもよい。例えば、時定数の長い変動に対しては、機械的駆動部を持つ流体制御装置で対応し、それより時定数の短い変動に対しては、放電による気流発生装置で対応することで、双方の特性を有効に利用した制御を実現することができる。
上記したヘリコプタ翼以外の騒音低減装置としての応用例として、例えば、自動車の騒音低減装置としての応用が可能である。自動車の騒音においては、フロントピラーおよびミラーで発生する渦が車室内騒音の主要因であるといわれている。フロントピラーおよびミラーの表面の所定位置に気流発生装置40を設け、車速に応じて気流発生装置40により発生する気流を制御することで、剥離を抑えたり、フロントピラーからの流れとミラーからの流れの方向を制御して両者の干渉を抑えることができる。これによって、フロントピラーおよびミラーで発生する渦による騒音を低減することが可能となる。
また、自動車においてサンルーフを開けて走行したときの騒音は、車室が共鳴箱の役割を果たすことで発生するヘルムホルツ共鳴音である。サンルーフの開口部付近の表面の所定位置に気流発生装置40を設け、気流発生装置40により発生する気流を制御することで、開口部付近の流れの周期構造を破壊して、騒音を低減することが可能となる。
また、カルマン渦に代表される流体振動は、気流中におかれた構造物に対して振動を引き起こし、その共振状態によっては構造物の破壊に繋がる場合もある。構造物からの流体の剥離点近傍に気流発生装置40を設置し、気流発生装置40により発生する気流を制御することで、剥離を抑えることができる。これによって、構造物における流体振動を低減することができる。
また、推進装置としての応用例として、例えば、マイクロマシンに気流発生装置40を備えた例が挙げられる。これによって、マイクロマシンは、気流発生装置40から発生する気流によって推力を得て、移動することができる。なお、推進装置として用途はこれに限られず、気流を推力として利用する一般機器に利用可能である。気流発生装置を推力発生手段として、マイクロマシン以外にも、例えば、ロケットやミサイル等の飛翔体、無人航空機の表面の所定の位置等に設置して利用することができる。これによって、ロケットやミサイル等の飛翔体に推力を付加したり、操舵する際の推力を付加したりすることができる。
気流発生装置をガス処理装置の活性種生成機構、送風機構および拡散・混合機構に用いることが可能である。このガス処理装置には、例えば、放電で生成するオゾンによって悪臭物質を処理する脱臭装置や殺菌装置、放電で生成するNO2によって煤を燃焼させる粒子状物質減少装置などが含まれる。従来のガス処理装置においては、放電で生成した活性種をファン等でガス処理部まで導く構造が用いられてきたが、本発明に係るガス処理装置を備えることで、上記したように活性種生成部が、活性種生成機能および送風機能の双方の機能を備えるので、装置のコンパクト化、省電力化、さらには製作コストの削減を図ることができる。
活性種生成機能や送風機能に関連する適用例としては、流体中に存在するガス分子に何らかの化学反応を起こさせる化学反応装置に気流発生装置40を備えることが挙げられる。さらに、気流発生装置40を拡散・混合機構として用いることもできる。例えば、流体の流れを制御することで拡散速度や混合速度を変化させ、化学反応トータルの反応速度を制御する目的で気流発生装置40を使用することもできる。具体的には、燃焼器、ガス混合機器、殺菌消毒装置、化学プロセス反応器等に利用が可能である。なお、送風機能は、ガスを搬送するのみでなく、粉体等の輸送に用いることも可能である。
燃焼器に気流発生装置40を用いる場合には、例えば燃焼場における流れをの一部を制御する機構として使用することができる。火炎の安定化を図るためには、燃料と酸化剤の混合比を量論比(当量比が1)付近で燃焼させることが好ましいが、排ガス中に含まれるNOx等の有害成分を抑制するために、近年では、全体として(オーバオールで)希薄燃焼させる燃焼方式を用いた燃焼器が主流となっている。例えば、燃料と酸化剤を個々に燃焼領域に供給し、燃焼領域において燃料と酸化剤を燃焼させる拡散燃焼では、運転条件に応じて形成される燃焼器内の流れ場において、局所的に当量比が1付近となる領域が存在することがある。このような領域は、火炎温度が高くなりNOxの生成が促進される。このような領域が燃焼器の壁面近傍等に存在する場合には、気流発生装置40を燃焼器の壁面に設ける。そして、運転条件に応じて気流発生装置40を作動させ、その当量比が1付近となる領域に周囲の酸化剤を巻き込むように流れを形成し、燃料濃度を減少させた状態、すなわち当量比を小さくした希薄な状態で燃焼させることができる。また、気流発生装置40を燃焼器の壁面に、乱流を促進するように、すなわち流れを乱すように設けることで、燃料と酸化剤の混合が促進され難い壁面近傍における混合を促進することができる。
さらに、放電は、燃料物質をクラッキングして、より低分子の可燃性物質を生成できるので、これらの物質が燃焼に寄与することによって燃焼が促進される。これによって、燃焼器の小型化や高い燃焼効率が得られる燃焼器が実現できる。なお、燃焼器内に気流発生装置40を用いる場合には、 高温となるので、誘電体41をセラミックス等の耐熱材料で構成し、電極42、43を耐熱金属で構成することが好ましい。
ガス混合機器に気流発生装置40を用いる場合には、例えば渦や乱流を生成することによるガス混合の促進機構として使用することができる。例えば、燃料と空気を混合する目的で構成された同軸二重管のノズルにおいて、従来は混合の促進を図るために、外側ノズルの内部に旋回流形成用のガイド羽根を設ける等の方法が主流であった。しかしながら、機械的構造の混合装置は、予め定められた流量条件でのみ有効に機能しない。そこで、外側ノズルの内壁側または内側ノズルの外壁側等に、本発明の気流発生装置40を設け、壁面付近で乱流や縦渦を生成するように気流を発生させる。これにより、内側と外側の境界付近に渦や乱流が発生し、両者間の隔壁がなくなったところで、これらの渦の作用により急激に2流体間で混合が生じる。特に、渦はその軸方向に物質を輸送する機能を有するので、2流体の境界面に垂直な軸を有する渦の生成により、一方の流体が他方の流体中へ効率的に輸送され、混合が促進される。
殺菌消毒装置に気流発生装置40を用いる場合にも、上記したガス混合機器に気流発生装置40を用いる場合と同様の構成により、例えば渦や乱流を生成することによる混合促進機構として使用することができる。ガス混合機器では、燃料と空気を混合する場合について説明したが、殺菌消毒装置では、例えば、燃料の代わりに殺菌作用を有するオゾンが、空気の代わりに殺菌処理される気体が同軸二重管のノズルの各流路を流れて混合される。
化学プロセス反応器に気流発生装置40を用いる場合には、上記したガス混合機器に気流発生装置40を用いる場合と同様の構成により、従来、物質どうしの拡散が律速条件となっていた化学プロセス反応器において、渦や乱流による強制的混合により化学反応を促進させることができる。また、一般に化学プロセス反応器は、巨大な反応層内で反応を起こさせる場合が多いが、その容器の角部や壁面付近によどみや滞留が生じて全体の反応効率を低下させる場合がある。そのような場合には、よどみや滞留近傍に気流発生装置40を設けることで、化学反応を促進させることができる。また、放電により化学物質から化学反応活性種を生成することができるので、従来の化学プロセスにおいて考慮されてきた入口物質を変化させることができ、例えば触媒反応の低温活性化等が実現可能となる。なお、化学プロセス反応器内に気流発生装置40を用いる場合には、対象の化学物質によって腐食等の化学反応を受け難くするために、誘電体41をセラミックス等の耐蝕材料で構成し、電極42、43を耐食金属等で構成することが好ましい。
また、翼への応用に関連する適用例として、気流発生装置は、翼により流れに偏向を与えることにより、流体のエネルギとそれ以外のエネルギとの間の転換の機能を果たす流体機器に気流発生装置40を備えることが挙げられる。例えば、気流発生装置を流体機器であるターボ型流体機器に適用することが可能である。ターボ型流体機器には原動機と被動機があるが、原動機としては、ガスタービン、蒸気タービン、風車等、被動機としては、ポンプ(遠心ポンプや軸流ポンプ等)、送風機、圧縮機(遠心圧縮機や軸流圧縮機等)等の機器への応用が可能である。例えば、これらの機器の一部を構成する翼の表面の所定位置に気流発生装置を備え、翼面における揚力係数や抗力係数などの空気力学的特性を制御することができる。
移動体への応用に関連する適用例としては、上記した新幹線の屋上機器以外にも、任意の移動体の空気力学的特性を制御する手段として用いることができ、移動体には、航空機、ミサイル、鉄道、自動車などの気体中を移動する任意の物体が含まれる。
気体中を推進する移動体の表面には、気体との摩擦による抗力が生じる。移動体の側面の一部で流れが剥離するなどして抗力に不均衡が生じると、進行方向に対して横方向(左右方向)の安定性を損なう。そこで、移動体の側面に気流発生装置を設けて駆動させると、移動体の側面を流れる気体の境界層付近に高速の気流を発生させることができる。これにより、境界層の速度分布を変化させ、気体の剥離を抑制することが可能となり、抗力係数を変化させることができる。この作用により、移動体の進行方向に対して左右の抗力差を減じるように、気流発生装置によって気流を発生させることで、移動体の横方向の安定性を維持することができる。また、気流発生装置によって移動体の進行方向に対して左右の抗力差を制御することで、移動体の進路を変更することも可能となる。
ここで、移動体として、高速航空機、短距離離着陸機を一例とし、本発明に係る気流発生装置が、気流制御装置として機能する一例を説明する。
(1)高速航空機への応用(剥離抑制、摩擦低減機能の利用)
例えば、遷音速域を飛行する航空機においては、空気が圧縮性を有する気体となり、航空機の表面の様々な位置で衝撃波が発生する。このため、航空機の安定性や操縦性に様々な障害が生じる。
そこで、航空機の表面の様々な位置、特に、衝撃波が発生し易い部分に、本発明に係る気流発生装置を備え、さらに、各気流発生装置に対応して衝撃波が発生したことを検知する表面圧力センサ等の検知装置を備える。そして、衝撃波の発生が検知された部分に対応する気流発生装置を作動させることで、衝撃波の発生を抑えたり、衝撃波の伝播方向を変えたりすることができる。このように、衝撃波による不安定な気流の変動に応じて、空気力学的特性を即座に制御することができるので、安定した飛行が可能になる。
また、超音速、極超音速の移動体においては、飛行速度の増加とともに空気との摩擦による熱の障害が次第に大きくなり、特に機械的に稼動する稼動部を有する気流制御装置は、その稼動部の潤滑性や断熱性に問題が生じて利用不可能となる。航空機の抵抗は、形状抵抗(圧力抵抗)、誘導抵抗、造波抵抗、摩擦抵抗に分けられるが、それらの中でも摩擦抵抗がほぼ半分の割合を占めている。この摩擦抵抗を低減することは、上記した摩擦による熱の発生を抑制し、さらに航空機の燃料消費率を向上させることに繋がる。
このような熱の障害、すなわち高温となる場合でも、誘電体をセラミックス等の耐熱材料で構成し、電極をステンレスやインコネル等の耐熱金属で構成することで本発明に係る気流発生装置を適用することができる。また、気流発生装置を作動し、翼の表面において、気流が、滑らかで摩擦抵抗の少ない層流から摩擦抵抗の大きい乱流へ遷移するのを抑制または遅らせることができるので、抵抗全体を大幅に低減することができる。さらに、上記したように、超音速機の主翼、水平尾翼、垂直尾翼などの翼の表面の所定位置に、気流発生装置を設け、境界層に気流を発生させ、例えば、気体の剥離の抑制等により翼上面と気流との境界層の流れの構造を変化させることで、翼の構造を変えることなく、翼における揚力係数や抗力係数などの空気力学的特性を制御することができる。
(2)短距離離着陸機への応用(剥離抑制、摩擦低減機能の利用)
短距離離着陸機等は、プロペラまたはジェットの後流や抽気を利用する強力な高揚力装置を備えているため、これらの装置の重量が大きくなり、経済性を損なっている場合が多い。
そこで、本発明に係る気流発生装置を翼面や機体表面の所定位置に設置する。これによって、揚力を向上させ、高揚力装置における負担を低減させ、機器を小型化することが可能になる。この気流発生装置は、上記した短距離離着陸機(STOL機)(QTOL機を含む)以外にも、垂直離着陸機(VTOL機)、通常離着陸機(CTOL機)などの航空機の翼面や機体表面の所定位置に設置してもよい。
これによって、離陸着陸時に大きな揚力を要する短距離離着陸機等の揚力向上を図ることができる。また、上記したように、航空機の主翼、水平尾翼、垂直尾翼などの翼の表面の所定位置に、気流発生装置を設け、境界層に気流を発生させ、例えば、気体の剥離の抑制等により翼上面と気流との境界層の流れの構造を変化させることで、翼の構造を変えることなく、翼における揚力係数や抗力係数などの空気力学的特性を制御することができる。
また、本発明に係る気流発生装置では、上記した移動体以外にも、表面を流れる流体の流れの影響を受ける様々な機器に適用が可能である。
例えば、流体機器の中でもモータやシリンダ等の原動機、ポンプや圧縮機等の被動機を含む容積型流体機器において、容積内部の気流の流動や循環を制御したり、渦の発生する部位での流れの整流等の用途に利用することができる。
ここでは、エンジンのシリンダ内の流れ制御を例として具体的に説明する。内燃機関であるエンジンの性能を向上させるために、シリンダ内へ送り込む混合気の気流の最適化が必要である。気流性状は、吸気管やバルブの形状等により左右され、燃焼効率や圧力損失に影響を与える。
例えば、吸気管からシリンダ内部へ流入する場所には管径が急に拡大する部分があり、その部分における渦の生成は圧力損失を増加させ、効率を低下させる。また、混合気がシリンダ表面に偏って流れると、シリンダ中央部での燃焼効率が低下するため、シリンダ内部では、均一に混合される流れを生成することが好ましい。そこで、本発明の気流発生装置を、シリンダの急拡大部分に設置して渦の生成を抑制したり、シリンダ内壁面に設置して壁面付近の変流をかく乱させるように気流を生成したりすることで、燃焼効率や圧力損失を最適に制御することができる。特に、シリンダ内部のように時々刻々と変化する複雑な流れに対する気流制御には、電気的因子のみで流れを制御できる本発明の気流発生装置が優れている。
また、気流発生装置は、流体機器以外にも、流れの中に存在するため流れから影響を受ける機器一般に適用することができる。例えば、移動体であれば閉鎖的空間内を移動するエレベータ等の昇降機器、不動体であれば橋梁、鉄塔、ビル等の建築物に適用することができる。これらの機器や建築物において複雑に変化する走行風や自然風のから受ける力学的な影響を、本気流発生装置にて緩和することができる。
ここでは、高層建築物への適用を例として具体的に説明する。高層建築物の回りには、時間も方向も全くランダムな自然風が吹いており、建築物はそれらの風から風荷重を受けている。風は、建築物の角部や突起部で剥離を起こして渦流を形成したり、外壁面に沿って流れることにより発生する摩擦力により、建物にねじれ力を作用する。このような風によって、建物の揺れ、構造体への荷重の付加、ビル風の発生、風鳴り音等の騒音を発生などが生じる。そこで、本発明の気流発生装置を建築物の角部や突起部に設置して、角部での自然風の剥離を抑えることで、構造体への荷重を抑えることができる。また、本発明の気流発生装置を外壁表面に設置することで、建物へのねじれ力の発生を防止することができ、しかも時間的にも空間的にもランダムに発生する風に応じた流れの制御が可能となる。
さらに、気流発生装置を物質輸送用の管路やダクト管の表面に設け、管路やダクト管を流れる流体の流れを制御してもよい。このように気流発生装置を備えることで、例えば管路入口での渦の発生を抑制することが可能となる。
ここでは、管路の入口の助走区間に適用する場合を例として具体的に説明する。広い空間からノズルを通って管路に入るときの速度分布は、入口付近の速度分布はほぼ一様で、境界層は非常に薄い。この境界層は、下流へ至るに伴って厚みを増す。この助走区間においては、管壁付近の速度勾配が大きいために摩擦応力が大きくなり大きな圧力損失が生じる。そこで、この助走区間の管壁に本発明の気流発生装置を設け、速度勾配を緩和するように気流を制御すると、管摩擦係数を低減させることができる。例えば、管壁に誘電体と電極からなる円筒状の気流発生装置を備え、カバー部(金属)と電極との間に高周波電圧を印加する。気流発生装置から発生する気流によって、壁面付近の速度を向上させ、速度勾配を緩和することで、摩擦係数を低減することができる。
また、例えば空調機器のような、外部に対して流れを生成する機器に、気流発生装置40を適用してもよい。空調機器の噴出し口などに、流路の壁面ではなく流路の中央に位置して整流作用を生み出す整流羽根等を備える空調機器がある。例えば、この整流羽根の表面の所定位置に気流発生装置を備えることで、整流羽根の表面からの流れの剥離を防止することができ、効率的な整流効果が得られる。また、冷房機器において上記のような整流羽根を用いた場合、整流羽根部分でできた渦による逆流により、室内空気が整流羽根にむかってひきこまれ、低温となった部分にふれて結露する場合がある。そこで整流羽根上に本発明の気流制御装置を備えることで渦の発生を防止すれば、空調機器吹き出し口での結露を防ぐことができる。
(大気圧下以外の環境下における気流発生装置の動作)
ここでは、本発明に係る気流発生装置は、例えば減圧環境下等の大気圧下以外の環境における気流制御においても、機械的に気流を制御するよりも、自由度が大きく、最適な気流制御が可能であることについて説明する。
減圧環境下における気流制御を必要とする機器としては、例えば宇宙機器がある。宇宙機器の中でも、例えばロケット、宇宙往還機、宇宙輸送機、地球と宇宙の間で移動する機器等においては、気体密度が大きく変化する領域を移動する必要がある。このような広い流体条件に対しての空気力学的特性を、形状の工夫のみで補うことは不可能である。しかしながら、本発明に係る気流発生装置を備え、電気的制御を行なうことでこれを可能にすることができる。
放電の形態は、空気密度によって変化するが、各空気密度における最適な電圧制御をすることで、様々な密度条件において最適な気流制御が実現可能となる。なお、減圧環境下での利用用途は、宇宙機器に限定されるものではなく、半導体等の各種製造プロセスや、蒸気タービンの最終段等も含まれる。また、大気圧以外での気流制御には、減圧環境下に限らず、蒸気タービンの初段のように加圧環境下における気流制御も考えられるが、圧力条件で決まる放電形態に応じた電圧制御をすることで、減圧状態と同様の最適な制御が可能となる。
上記したように本発明の電極構造を有する気流発生装置は、大気圧以外の環境下においても放電することができる。また、気流発生装置としての機能の度合い、すなわち発生させる気流の特性は、電圧、周波数、波形、デューティ比などの電気的特性のみで制御することができるため、流速のみならず圧力も複雑に変化するような流体機器に対して、気流発生装置として有効に機能する。
(空気以外のガス環境下における気流発生装置の動作)
次に、本発明における気流発生装置は、空気以外のガス環境下においても放電を形成することができることを説明する。
図14は、パッシェンカーブと呼ばれ、各ガス種における火花電圧を示す図である。火花電圧は、ガス種に応じて圧力Pと電極間距離dの積Pdの関数として表される。このようにガスの種類によって放電を発生させるために必要な電圧が異なる。また、ガス種によっては低気圧での放電と同様に放電が広がる形態になるものもある。本発明に係る気流発生装置では、ガスの種類に応じて電極に印加する電圧、周波数、波形、デューティ比などの電気的特性のみを変えることで、そのガス種に応じた放電をさせ、気流を発生させることができる。すなわち、流速や圧力に加えてガス成分も変化するような流体機器に対して、有効に気流発生装置として機能する。
ここで、空気以外のガス環境下における利用用途としては、例えば半導体等の各種製造プロセス、蒸気タービン、バイオガスプロセス、地球以外の大気下で移動する宇宙機器等が挙げられる。
以上、本発明を実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。