以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.装置構成:
B.駆動電圧波形生成回路の構成:
C.駆動電圧波形印加処理:
D.変形例:
D−1.第1変形例:
D−2.第2変形例:
A.装置構成 :
図1は、いわゆるインクジェットプリンターを例に用いて本実施例の流体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。図示されているように、インクジェットプリンター10は、主走査方向に往復動しながら印刷媒体2上にインクドットを形成するキャリッジ20と、キャリッジ20を往復動させる駆動機構30と、印刷媒体2の紙送りを行うためのプラテンローラー40などから構成されている。キャリッジ20には、インクを収容したインクカートリッジ26や、インクカートリッジ26が装着されるキャリッジケース22、キャリッジケース22の底面側(印刷媒体2に向いた側)に搭載されてインクを噴射する噴射ヘッド24などが設けられており、インクカートリッジ26内のインクを噴射ヘッド24に導いて、噴射ヘッド24から印刷媒体2に向かって正確な分量のインクを噴射することが可能となっている。
キャリッジ20を往復動させる駆動機構30は、キャリッジ20が接続されたタイミングベルト32や、プーリを介してタイミングベルト32を駆動するステップモータ34などから構成されている。
また、印刷媒体2の紙送りを行うプラテンローラー40は、図示しない駆動モータやギア機構によって駆動されて、印刷媒体2を副走査方向に所定量ずつ紙送りすることが可能となっている。これらの各機構は、インクジェットプリンター10に搭載されたプリンター制御回路50によって制御されており、こうした各機構を用いて、インクジェットプリンター10は、印刷媒体2を紙送りしながら噴射ヘッド24を駆動してインクを噴射することによって、印刷媒体2上に画像を印刷していく。
図2は、噴射ヘッド24の断面を取ることによって内部の機構を詳しく示した説明図である。図示されている様に、噴射ヘッド24の底面(印刷媒体2に向いている面)には、複数の噴射口100が設けられており、それぞれの噴射口100からインク滴を噴射することが可能となっている。各噴射口100はそれぞれインク室102に接続されており、インク室102には、インクカートリッジ26から供給されたインクが満たされている。各インク室102の上には、それぞれピエゾ素子104が設けられており、ピエゾ素子104に電圧を印加すると、ピエゾ素子が変形してインク室102を加圧することによって、噴射口100からインク滴を噴射することが可能となっている。また、ピエゾ素子104は、印加する電圧に応じて変形量が変わるので、ピエゾ素子104に印加する電圧を適切に制御すれば、インク室102を押す力や押すタイミングを調節して、噴射するインク滴のサイズを変更することが可能である。このため、インクジェットプリンター10は、電圧を次の様な波形に形成してからピエゾ素子104に印加している。
図3は、ピエゾ素子に印加する電圧波形(駆動電圧波形)を例示した説明図である。図示されている様に、駆動電圧波形は、時間の経過とともに電圧が上昇し、その後降下して逆側に振れた後、元の電圧に戻る波形をしている。また、図中には、こうした駆動電圧波形に応じてピエゾ素子が伸縮する様子が示されている。図示されている様に、駆動電圧波形の電圧が上昇していくと、これに対応して、ピエゾ素子が徐々に収縮していく。このとき、ピエゾ素子に引っ張られる様にしてインク室が膨張するので、インク室内にインクカートリッジからインクが供給される。続いて、電圧が降下すると、今度はピエゾ素子が伸張するので、インク室を圧縮して噴射口からインクを噴射する。このとき、駆動電圧波形は、元の電圧(図中「初期電圧」と示した電圧)よりも低い電圧まで下がるようになっており、ピエゾ素子を初期状態よりも伸張させてインクを十分に押し出すことが可能となっている。その後、駆動電圧波形は初期電圧へと戻り、これに対応して、ピエゾ素子も初期状態へと戻って次の動作に備える。
この様に、ピエゾ素子は、駆動電圧波形に応じて伸縮するので、適切な駆動電圧波形をピエゾ素子に印加することによって、噴射口100から噴射するインク滴の大きさを制御することが可能である。また、良好な画質の画像を印刷するためには、噴射するインク滴の大きさを正確に制御することが重要であり、そのためには噴射ヘッド24に設けられた複数のピエゾ素子104に正確な波形の駆動電圧波形を印加する必要がある。更に、噴射ヘッド24には、多数のピエゾ素子104が設けられているので、これらのピエゾ素子104を駆動するためには大きな電力が必要となる。そこで、できるだけ電力の消費を抑制しながら、正確な波形の駆動電圧波形を印加することが可能となるように、本実施例のインクジェットプリンター10では、以下のような方法で駆動電圧波形を生成している。
図4は、本実施例のインクジェットプリンター10が駆動電圧波形を生成するために搭載している回路構成の概要を示した説明図である。図示されているように、本実施例のインクジェットプリンター10には、駆動電圧波形を生成する駆動電圧波形生成回路200と、駆動電圧波形生成回路に対して電圧波形を指定するプリンター制御回路50と、駆動電圧波形生成回路200から出力された駆動電圧波形を受け取ってピエゾ素子104へと供給するゲートユニット300などが設けられている。
ゲートユニット300には、複数のゲート素子302が並列に配置されており、各々のゲート素子302には、ピエゾ素子104が接続されている。各ゲート素子302は、プリンター制御回路50によって制御されて、導通状態または切断状態の何れかの状態に切り換えることが可能である。そして、駆動電圧波形生成回路200から、すべてのゲート素子302に対して駆動電圧波形を供給すると、導通状態のゲート素子302に接続されているピエゾ素子104にだけ電圧が印加されて、噴射口100からインク滴が噴射されるようになっている。
また、図4に示されるように、駆動電圧波形生成回路200は、電圧を発生させるためのチャージポンプ204や、チャージポンプ204の動作を制御する制御回路202などから構成されている。
B.駆動電圧波形生成回路の構成 :
図5は、駆動電圧波形生成回路200を構成するチャージポンプ204の詳細な構造を示した説明図である。チャージポンプ204は、電荷を蓄えることが可能な蓄電部212や、蓄電部212に蓄える電荷を供給する電力供給部206などから構成されている。
蓄電部212には、複数のコンデンサー(コンデンサーC0 ,C1 ,C2 ,C3 ,C4 )が設けられており、これらのコンデンサーは、スイッチを介して電力供給部206に接続されている。また、電力供給部206には、2種類の電源(最小電圧発生電源208、およびステップ電圧発生電源210)が設けられており、最小電圧発生電源208にはコンデンサーC0 が接続され、ステップ電圧発生電源210にはその他のコンデンサー(C1 〜C4 )が接続されるようになっている。また、それぞれの電源に対しては、制御回路202から出力電圧を設定することが可能となっている。
図6は、電力供給部206の電源を用いて、蓄電部212のコンデンサーを充電する方法について示した説明図である。図示されているように、コンデンサーの充電を行う際には、蓄電部212のスイッチを切り換えて、コンデンサーC0 を最小電圧発生電源208に接続するとともに、残りのコンデンサーをステップ電圧発生電源210に接続する。また、最小電圧発生電源208には出力電圧Vb (最小電圧)を設定し、ステップ電圧発生電源210には出力電圧Vstep(ステップ電圧)を設定する。こうすることで、コンデンサーC0 には、最小電圧(Vb )が充電され、コンデンサーC1 ,C2 ,C3 ,C4 にはステップ電圧(Vstep)が充電される。
また、充電時には、コンデンサーC0 とコンデンサーC1 〜C4 とは電気的に切断された状態となっているが、蓄電部212のスイッチを切り換えることで、コンデンサーC0 とコンデンサーC1 〜C4 との接続状態を種々に変化させることができる。
図7は、蓄電部212のコンデンサーC0 〜C4 の接続状態を切り換える方法について示した説明図である。図7(a)に示されているように、コンデンサーC0 に設けられたスイッチS0eを接続(ON)し、その他のスイッチをすべて切断(OFF)すると、コンデンサーC0 と他のコンデンサーとを切り離して、コンデンサーC0 の電圧のみを取り出すことが可能となる。また、図7(b)に示されるように、コンデンサーC0 とコンデンサーC1 との間に設けられたスイッチS1bをONにして2つのコンデンサーを接続し、コンデンサーC0 に設けられたスイッチS0eをOFFにして、代わりにコンデンサーC1 のスイッチS1eをONにしてやれば、コンデンサーC0 とコンデンサーC1 とを直列に接続した電圧を取り出すことができる。その状態から、コンデンサーC1 とC2 との間に設けられたスイッチS2bをONにするとともに、コンデンサーC1 に設けられたスイッチS1eをOFFにして、代わりにコンデンサーC2 のスイッチS2eをONにしてやれば、3つのコンデンサーC0 〜C2 を直列に接続した電圧を取り出すことが可能となる。
以下同様にして、さらにコンデンサーC2 とC3 との間のスイッチS3bをONにするとともに、スイッチS2eをOFFにする代わりにスイッチS3eをONにしてやれば、4つのコンデンサーC0 〜C3 を直列に接続した電圧を取り出すことができ、最終的にはコンデンサーC3 とC4 との間のスイッチS4bもONにしたうえで、スイッチS3eの代わりにスイッチS4eをONにすることで、すべてのコンデンサーC0 〜C4 を直列に接続した電圧を取り出すことが可能となる。
以上のようにして、蓄電部212に設けられた各スイッチS0e〜S4e、S1b〜S4bの接続状態を切り換えて、各コンデンサーの接続状態を切り換えれば、蓄電部212から取り出す電圧を変化させることができる。そして、蓄電部212から取り出した電圧をピエゾ素子104に印加した状態で、蓄電部212の内部でコンデンサーの接続状態を切り換えてやれば、ピエゾ素子104に印加する電圧を変化させることができ、このとき、蓄電部212の内部のコンデンサーとピエゾ素子104との間では、電荷のやり取りが行われる。
図8は、ピエゾ素子104に電圧を印加したまま、蓄電部212の内部でコンデンサーの接続状態を切り換えたときに、コンデンサーとピエゾ素子104との間で発生する電荷の授受を示した説明図である。尚、図7を用いて前述したように、蓄電部212の内部には、コンデンサーC0 〜C4 の5つのコンデンサーが設けられており、コンデンサーC0 が単独で用いられる状態から、5つのコンデンサーC0 〜C4 が全て直列に接続された状態まで、種々の接続状態に切り換えることが可能である。しかし、図8では、説明が煩雑となることを避けるために、蓄電部212の内部の接続状態は、コンデンサーC0 が単独で用いられる状態と、コンデンサーC0 とコンデンサーC1 とが直列に接続された状態との間で切り換わる場合についてのみ表示している。
先ず初めに、蓄電部212の内部の接続状態を、図8(a)に示すようにコンデンサーC0 が単独で用いられる状態として、取り出された電圧Vb をピエゾ素子104に印加する。このとき、ピエゾ素子104の端子間電圧が、印加されている電圧Vb よりも低ければ、図中に破線の矢印で示されているように、コンデンサーC0 からピエゾ素子104に向かって電荷が供給される。そして、電荷が供給されるに伴ってピエゾ素子104の端子間の電圧は上昇し、最終的にはコンデンサーC0 の端子間電圧と同じ電圧となる。
その状態から、蓄電部212の内部の接続状態を、図8(b)に示すように、コンデンサーC0 とコンデンサーC1 とが直列に接続された状態に切り換える。すると、ピエゾ素子104に印加される電圧は、2つのコンデンサーC0 ,C1 が直列に接続された電圧(Vb +Vstep)に増加するので、再び、コンデンサーC0 ,C1 からピエゾ素子104へと電荷が供給され、それに伴ってピエゾ素子104の端子間電圧が上昇する。このような電荷の供給は、ピエゾ素子104の端子間電圧が、2つのコンデンサーC0 ,C1 が直列に接続された電圧(Vb +Vstep)に達するまで継続される。
このようにして、ピエゾ素子104の端子間電圧が、電圧Vb +Vstepに達した後、蓄電部212の内部の接続状態を、再び、コンデンサーC0 が単独でピエゾ素子104に接続された状態に復帰させる。上述したようにピエゾ素子104の端子間電圧は、電圧Vb +Vstepとなっているから、コンデンサーC0 の端子間電圧よりもピエゾ素子104の端子間電圧の方が高くなって、今度は、ピエゾ素子104からコンデンサーC0 に向かって電荷が供給される。図8(c)には、ピエゾ素子104からコンデンサーC0 に向かって電荷が供給される様子が、破線の矢印によって表されている。こうしてピエゾ素子104からコンデンサーC0 に向かって電荷が供給されるのに伴い、ピエゾ素子104の端子間電圧は降下し、最終的にコンデンサーC0 の端子間電圧と同じ電圧になる。
ここで、図7を用いて前述したように、蓄電部212に設けられたコンデンサーC0 〜C4 の接続状態は、コンデンサーC0 を単独で用いる状態から、5つのコンデンサーC0 〜C4 を直列に接続した状態まで切り換えることができるので、これに伴って、ピエゾ素子104に印加する電圧を変化させることができる。
図9は、蓄電部212の内部に設けられたコンデンサーの接続状態に応じて、ピエゾ素子104の電圧が変化する様子を示した説明図である。図9(a)に示されているように、ピエゾ素子104の電圧をVb とするためには、蓄電部212の内部の接続状態を切り換えて、コンデンサーC0 が単独でピエゾ素子104に接続される状態にすればよい(図8(a)を参照)。また、その状態から、コンデンサーC0 に対してコンデンサーC1 が直列に接続された状態に切り換えると、図9(b)に示されているように、ピエゾ素子104の印加電圧を、電圧Vb から電圧Vstep+Vb に増加させることができる(図8(b)を参照)。
更に、その状態から、コンデンサーC1 に対してコンデンサーC2 も直列に接続すると、3つのコンデンサーC0 ,C1 ,C2 が直列に接続された状態となって、ピエゾ素子104の印加電圧を電圧Vstep+Vb から電圧2×Vstep+Vb に増加させることができる。更に、コンデンサーC3 も接続して、4つのコンデンサーC0 ,C1 ,C2 ,C3 が直列に接続された状態とすれば、ピエゾ素子104の印加電圧を電圧3×Vstep+Vb に増加させることができ、コンデンサーC4 も接続すれば、印加電圧を4×Vstep+Vb に増加させることができる。また、こうしてピエゾ素子104に印加する電圧を増加させるに従って、直列に接続されたコンデンサーからピエゾ素子104に向かって電荷が供給されることになる(図8(b)を参照)。
一方、上述したようにして5つのコンデンサーC0 〜C4 を直列に接続してピエゾ素子104に接続した状態から、コンデンサーC4 を切り離すと、4つのコンデンサーC0 ,C1 ,C2,C3 が直列に接続された状態に戻るので、ピエゾ素子104の印加電圧を電圧3×Vstep+Vb に減少させることができる。また、その状態から、コンデンサーC3 も切り離すと、3つのコンデンサーC0 ,C1 ,C2 が直列に接続された状態に戻り、ピエゾ素子104の印加電圧を2×Vstep+Vb に減少させることができる。更に、コンデンサーC2 も切り離してコンデンサーC1 ,C2 が直列に接続された状態に戻せば、ピエゾ素子104の印加電圧をVstep+Vb に減少させることができ、コンデンサーC1 も切り離せば、図9(c)に示されているように、印加電圧をVb に減少させることができる。また、こうしてピエゾ素子104に印加する電圧を減少させるに従って、今度は、ピエゾ素子104から直列に接続されたコンデンサーに電荷が回収されることになる(図8(c)を参照)。
このように、蓄電部212のコンデンサーC0 ,C1 ,C2 ,C3 ,C4 の接続状態に応じて、ピエゾ素子104に印加する電圧を切り換えることができるので、種々の電圧波形を生成してピエゾ素子104に印加することができる。また、ピエゾ素子104の印加電圧を増加させる際にコンデンサーから供給した電荷は、ピエゾ素子104の印加電圧を減少させる際にコンデンサーに回収することができるので、消費電力をできるだけ抑えながら、ピエゾ素子104に電圧波形を印加することが可能となる。
図10は、蓄電部212のコンデンサーの接続状態を切り換えることで、ピエゾ素子104に駆動電圧波形を印加する様子を示した説明図である。図示されているように、ピエゾ素子104に初期電圧としてVstep+Vb を印加した状態から、蓄電部212のコンデンサーの接続状態を切り換えて、直列に接続するコンデンサーの数を増やしていき、ピエゾ素子の印加電圧を4×Vstep+Vb まで上昇させる。その後は直列に接続するコンデンサーの数を減らしていき、印加電圧をVb まで減少させた後に、再び印加電圧を初期電圧のVstep+Vb 増加させる。こうすることで、図3を用いて前述したような駆動電圧波形を、ピエゾ素子104に印加することができる。
また、このようにしてピエゾ素子104に駆動電圧波形を印加すると、図10に示すように、電圧Vb は駆動電圧波形の最小電圧となり、電圧Vstepは、最大電圧Vt と最小電圧Vb との差(すなわち電圧波形の振幅)を、コンデンサーC0 を除いたコンデンサーの数(本実施例では4個)で等分した電圧となる。
ここで、ピエゾ素子104の印加電圧を上昇させる際に、直列に接続するコンデンサーの個数を減らすことで、図10に示した駆動電圧波形よりも振幅の小さな駆動電圧波形をピエゾ素子104に印加することも可能である。とはいえ、直列に接続するコンデンサーの個数を減らしたのでは、階段状に出力される電圧波形の段数が減少してしまうこととなり、正確な駆動電圧波形を生成することが困難となってしまう。もちろん、各コンデンサーの充電電圧を小さくしてやれば、電圧波形の段数を維持したまま(すなわち、コンデンサーの個数を維持したまま)、駆動電圧波形の振幅を小さくすることが可能である。しかし、こうすると駆動電圧波形全体が小さくなってしまうので、これに伴い最小電圧Vb も小さくなってしまい、結果的に駆動電圧波形が下方にシフトしてしまう。そこで、本実施例では、振幅の異なる駆動電圧波形を生成する際に、直列に接続するコンデンサーの個数を減らすことなく、正確な駆動電圧波形をピエゾ素子104に印加することができるように、以下のような制御処理を行いながら駆動電圧波形を出力している。
C.駆動電圧波形印加処理 :
図11は、本実施例の駆動電圧波形印加処理の流れを示したフローチャートである。この処理は、インクジェットプリンター10に電力が投入されて各装置が立ち上がると、駆動電圧波形生成回路200の内部に設けられた制御回路202(図4を参照)によって開始される処理である。尚、こうした処理は、制御回路202内にマイコンチップ等のCPUを設けておき、その上でソフトウェアを駆動させることによって実行してもよいし、あるいは、いわゆるASICなどの専用ハードウェアを用いて実行してもよい。
駆動電圧波形印加処理を開始すると、先ず初めに、波形出力信号および波形指定信号をプリンター制御回路50から受信したか否かを判断する(ステップS100)。ここで、波形出力信号とは、駆動電圧波形を出力するようにプリンター制御回路50が制御回路202に指示する信号である。また、波形指定信号とは、波形出力信号に続いて出力される信号であり、制御回路202に対して波形の種類を指定する信号である。すなわち、本実施例の駆動電圧波形生成回路200では、複数種類の駆動電圧波形を出力することが可能となっており、プリンター制御回路50は、駆動電圧波形の出力を指示すると、続いて、何れの波形を出力するのかを指定するのである。
その結果、波形出力信号および波形指定信号を受信していないと判断された場合は(ステップS100:no)、同じ判断を繰り返しながら待機する。そして、やがてこれらの信号を受信したと判断したら(ステップS100:yes)、波形指定信号によって指定された波形データを、駆動電圧波形生成回路200内の波形メモリ200mから読み込む処理を開始する(ステップS102)。
図12は、波形メモリ200mに複数の波形データが記憶されている様子を示す説明図である。尚、図12(a)には、複数の波形データのうち、異なる2種類の駆動電圧波形(大ドット用および小ドット用)の波形データが例示されている。図示されているように、各波形データには、それぞれ異なるステップ電圧Vstep、最小電圧Vb 、および出力パターンが設定されている。ここで、出力パターンとは、前述した蓄電部212(図7を参照)に設けられた複数のスイッチの接続状態を、どのような順序で切り換えていくかについて定めたものである。出力パターンは、波形データとは別に波形メモリ200mに記憶されている。
図12(b)は、波形メモリ200mに複数の出力パターンが記憶されている様子を示した説明図である。尚、図12(b)には、複数の出力パターンのうち、前述した大ドット用の波形データに設定されている出力パターン(パターンa)が例示されている。図示されているように、出力パターンは複数のステップから成り立っており、各ステップには、そのステップにおける蓄電部212のスイッチの接続状態とともに、その接続状態を維持する接続時間が設定されている。また、蓄電部212におけるスイッチの接続状態としては、接続状態m1 〜接続状態m5 の5種類の接続状態が用意されている。ここで、それぞれの接続状態について、蓄電部212の何れのスイッチをONあるいはOFFにするかは、以下のように定められている。
図13は、各接続状態について、蓄電部212の何れのスイッチをONあるいはOFFにするかを示した説明図である。尚、図13では、各接続状態においてONにするスイッチは白色の四角で示されており、一方、OFFにするスイッチは黒色の四角で示されている。
前述したように、蓄電部212のスイッチを切り換えることで、コンデンサーからの出力電圧を変化させることができる(図7を参照)。例えば、接続状態m1 では、コンデンサーC0 に設けられたスイッチS0 およびS0eをONとするように定められており、この状態ではコンデンサーC0 の電圧Vb が出力される。また、接続状態m2 では、スイッチS0 とともに、コンデンサーC0 とC1 との間に設けられたスイッチS1b、およびコンデンサーC1 に設けられたスイッチS1eをONにするように定められており、この状態では、コンデンサーC0 とコンデンサーC1 とを直列につないだ電圧Vstep+Vb が出力される。同様に、接続状態m3 では電圧2×Vstep+Vb が出力され、接続状態m4 では電圧3×Vstep+Vb が出力され、接続状態m5 では電圧4×Vstep+Vb が出力されるように、各スイッチの接続状態が設定されている。
また、蓄電部212のスイッチの接続状態には、コンデンサーの電圧を出力しない特別な接続状態(図13の最下段に示した接続状態m6 )も定められている。この接続状態m6 は、蓄電部212のコンデンサーを充電する際のスイッチの接続状態であり(図6を参照)、上述した出力パターンに従って電圧の出力を開始する前には、スイッチの接続状態をm6 にして、蓄電部212のコンデンサーを充電するようになっている。
以上に説明したように、波形メモリ200mには、駆動電圧波形を出力するために必要な情報が、波形データとして駆動電圧波形の種類ごとに複数記憶されている。そして、制御回路202は、これら複数の波形データの中から、前述した波形指定信号によって指定された波形データを読み込むと(ステップS102)、波形データの最小電圧Vb を、コンデンサーの充電電圧を発生する電力供給部206(図5を参照)の最小電圧発生電源208に設定し、また、波形データのステップ電圧Vstepを、電力供給部206のステップ電圧発生電源210に設定する(ステップS104)。
こうして、最小電圧発生電源208で最小電圧Vb を発生させ、ステップ電圧発生電源210でステップ電圧Vstepを発生させると、蓄電部212のコンデンサーをいつでも充電可能な状態となる。そこで制御回路202は、蓄電部212のスイッチを充電時のスイッチの接続状態m6 に切り換えることで、蓄電部212のコンデンサーの充電を開始する(ステップS106)。
ここで、コンデンサーの充電には一定の期間を要するため、蓄電部212のスイッチを切り換えた直後では、コンデンサーの充電は完了していないものと考えられる。従って、コンデンサーの充電を開始したら(ステップS106)、コンデンサーの充電に必要な期間(本実施例では時間tc )が経過したか否かを判断する(ステップS108)。このとき、コンデンサーの充電を開始してからの時間が、コンデンサーの充電時間tc に達していなければ(ステップS108:no)、時間tc が経過するまでの間、ステップS108の判断を繰り返す。
やがて充電時間tc が経過して(ステップS108:yes)、蓄電部212のコンデンサーの充電が完了すると、スイッチの接続状態を切り換えることで、コンデンサーから電圧を出力するとともに、出力する電圧を変化させることが可能な状態となる。ここで、先に波形メモリ200mから読み込んだ波形データには、蓄電部212のスイッチの接続状態を切り換える順序について定めた出力パターンが設定されているので(図12(b)を参照)、この出力パターンを参照し、出力パターンの最初のステップ(ステップ1)に設定されている接続状態にスイッチの接続状態を切り換える(ステップS110)。
蓄電部212のスイッチを、ステップ1の接続状態に切り換えると、その接続状態に応じた電圧がコンデンサーから出力される。このとき出力される電圧は、駆動電圧波形の初期電圧となっている。こうして初期電圧を出力したら、続いて、ステップ1の接続時間が経過したか否かを判断する(ステップS112)。その結果、ステップ1の接続時間が経過していなければ(ステップS112:no)、同じ判断を繰り返しながら待機状態となる。そして、ステップ1の接続時間が経過したら(ステップS112:yes)、次のステップ(ここではステップ2)に設定された接続状態にスイッチを切り換える(ステップS114)。
こうしてスイッチの接続状態を切り換えることで、コンデンサーからの出力電圧を変化させたら、続いて、新たに切り換えたステップでの接続時間が経過したか否かを判断する(ステップS116)。その結果、接続時間が経過していなければ(ステップS116:no)、同じ判断を繰り返して待機状態となる。そして、やがて現在のステップの接続時間が経過したら(ステップS116:yes)、今度は、出力パターンのすべてのステップを終了したか否かを判断する(ステップ118)。
前述したように、出力パターンには複数のステップが用意されており、また、各ステップに設定された情報(スイッチの接続状態、および接続時間)に基づき、ステップを順番に終了していくようになっているので、駆動電圧波形印加処理の開始直後では、すべてのステップを終了していないと判断される(S118:no)。そこで、出力パターンを参照し、スイッチの接続状態を、すでに終了したステップの次のステップの接続状態に切り換える(ステップS114)。
こうして新たなステップの接続状態に切り換えると、その接続状態に応じてコンデンサーからの出力電圧がさらに変化する。また、新たなステップの接続時間が経過した時点で、出力パターンに終了していないステップが残っていれば(ステップS116:yes、かつステップS118:no)、さらに次のステップの接続状態に切り換える(ステップS114)。以下同様にして、出力パターンのすべてのステップを終了するまでの間、ステップS114〜ステップS118を繰り返す。
このようにして、ステップS114〜ステップS118を繰り返すことで、出力パターンの各ステップに設定されたスイッチの接続状態を順番に切り換えていく。そして、最後のステップの接続状態に切り換えた後に、その接続状態の接続時間が経過すると、出力パターンのすべてのステップを終了したと判断する(ステップS118:yes)。こうして出力パターンのすべてのステップを終了したら、前述したステップS100に戻って、プリンター制御回路50からの新たな波形出力信号および波形指定信号を受け取ったか否かを判断する(ステップS100)。その結果、波形出力信号および波形指定信号を受け取っていなければ(ステップS100:no)、そのまま待機状態となる。その後、新たな波形出力信号および波形指定信号を受け取ると、今度は新たな波形データを読み込んだ後(ステップS102)、上述したステップS104からステップS118の処理に従って、新たな駆動電圧波形を出力する。
図14は、波形データに設定された出力パターンに従ってスイッチの接続状態が切り換わり、その結果として、駆動電圧波形が出力される様子を示した説明図である。図14(a)には、出力パターンに含まれる複数のステップが、時間の経過とともに切り換わる様子が示されており、図14(b)には、出力パターンのステップが切り換わることによって、駆動電圧波形が出力される様子が示されている。先ず、図14(a)を参照しながら、出力パターンのステップが切り換わる様子について説明すると、プリンター制御回路50から波形出力信号および波形指定信号を受け取ったら、コンデンサーC0 〜C4 の充電を開始する(図11のステップS100〜ステップS106)。図14(a)では、コンデンサーC0 〜C4 を充電しているステップは「c」と表示されている。そして、所定の充電時間tc が経過したら、スイッチの接続状態を、出力パターンに設定された最初のステップの接続状態に切り換えた後、最初のステップの接続時間が経過するまで、その接続状態を維持する(図11のステップS108〜ステップS112)。図14(a)には、コンデンサーC0 〜C4 を充電するためのステップcを充電時間tc だけ維持した後、出力パターンの最初に設定されたステップ1に切り換わり、そのステップ1の状態を接続時間t1 だけ維持する様子が示されている。
また、図6を用いて前述したように、コンデンサーC0 〜C4 に充電している状態では、電圧は外部に出力されていないが、充電時間tc が経過して、出力パターンの最初のステップ(ステップ1)に切り換わると、その時のスイッチの接続状態に応じて、外部に電圧が出力されることになる。たとえば、プリンター制御回路50から指定された波形データが、大ドット用の波形データ1であれば、出力パターンの最初に設定されたステップ1の接続状態は、接続状態m2 であるから(図12(b)を参照)、図13に示したように、電圧Vstep+Vb が外部に出力されることになる。そして、ステップ1に設定された接続時間t1 が経過するまで、その出力電圧が維持される。このことに対応して、図14(b)には、コンデンサーC0 〜C4 の充電開始後、充電時間tc が経過した時点で電圧の出力が開始され、接続時間t1 が経過するまで、その出力電圧が維持される様子が示されている。尚、図14(b)では、プリンター制御回路50から指定された波形データが、大ドット用の波形データ1であり、従って、ステップ1では電圧20Vが外部に出力されている場合が例示されている。
そして、ステップ1の接続時間t1 が経過すると、出力パターンに設定された2番目のステップ(ステップ2)の接続状態および接続時間t2 が読みだされて、スイッチの接続状態がその接続状態に切り換わった後、接続時間t2 が経過するまで、その接続状態が維持される(図11のステップS112〜ステップS116)。図14(a)には、ステップ1の接続時間t1 が経過した時点で、ステップ2に切り換わった後、そのステップ2の状態が接続時間t2 だけ維持される様子が示されている。また、図14(b)には、出力パターンのステップが、ステップ1からステップ2に切り換わることに伴って、出力電圧が切り換わる様子が示されている。尚、上述したように、図14(b)では波形データが大ドット用の波形データ1であるものとしているから、出力パターンがステップ1からステップ2に切り換わることに伴って、スイッチの接続状態が接続状態m2 から接続状態m3 に切り換わり、その結果、出力電圧が、電圧20Vから電圧25Vに切り換わる様子が例示されている。
また、前述したように、ステップ2以降の各ステップでは、接続時間が経過すると、出力パターンに設定されている全てのステップを終了したか否かを判断する(図11のステップS118)。そして、未だステップが残っていれば、次のステップを読み出した後、
読み出したステップについて、上述した同様な処理を繰り返す(図11のステップS114〜ステップS118)。このことと対応して、図14(a)に示すようにステップが次々と切り換わり、また、その度に出力電圧が階段状に変化する。その結果として、図14(b)に示すように、波形データに応じた駆動電圧波形が出力されることになる。
以上に説明したように、波形データの出力パターンに従ってスイッチの接続状態を切り換えることで、階段状の駆動電圧波形を出力することが可能である。また、本実施例の波形メモリ200mには複数の波形データが記憶されているので(図12(a)を参照)、異なる波形データを読み込むことにより、異なる波形の駆動電圧波形を出力することができる。ここで、本実施例では、波形データ毎に出力パターンを切り換えるだけでなく、最小電圧Vb およびステップ電圧Vstepの値も切り換えることで、以下に説明するように、どのような種類の駆動電圧波形を出力する際にも、駆動電圧波形の精度を維持することが可能となっている。
図15は、波形データの違いにより、異なる駆動電圧波形が出力される様子を示した説明図である。尚、図15では、大ドット用の波形データ1を参照して大ドット用の駆動電圧波形を出力した後(図14(b)を参照)、小ドット用の波形データである波形データ2(図12(a)を参照)を参照して小ドット用の駆動電圧波形を出力する様子が例示されている。
図14を用いて前述したように、波形データ1の設定内容に従ってコンデンサーから電圧を出力すると、図15の前半部分に示されているように、波形データ1の最小電圧Vb (本実施例では15V)を最小電圧として、波形の段差が波形データ1のステップ電圧Vstep(本実施例では5V)の大ドット用の駆動電圧波形が出力される。一方で、波形データ2の最小電圧Vb は18Vに設定されており、ステップ電圧Vstepは2Vに設定されている。また、波形データ2の出力パターンbの詳細については説明を省略するが、出力パターンbでは、前述した出力パターンaに比べて、各ステップの接続時間が半分程度に設定されている。このような波形データ2に従ってコンデンサーから電圧を出力すると、図15の後半部分に示されているように、最小電圧を18Vとして、波形の段差が2Vの駆動電圧波形(すなわち小ドット用の駆動電圧波形)が出力される。
ここで、図15に示されている駆動電圧波形の初期電圧(本実施例では20V)を基準としてみると、大ドット用の駆動電圧波形では出力電圧が最大電圧(35V)に達するまでに、波形の階段を3段上がるようになっている。このとき、大ドット用の駆動電圧波形の階段の数を少なくすれば、駆動電圧波形の最大電圧を下げることができ、例えば、波形の階段の数を1段とすることで、小ドット用の駆動電圧波形の最大電圧(26V)に近づけることも可能である。但し、これでは、本来全てのコンデンサーを利用することにより最小電圧から最大電圧までの間で5段階の電圧を出力可能であるにもかかわらず、最小電圧(15V)、初期電圧(20V)、そして1段目の階段の電圧(25V)の3段階しか利用しないこととなる。その結果、5段階の電圧変化を充分に利用することができず、駆動電圧波形の精度を低下させてしまうこととなってしまう。
また、図15に示されている各駆動電圧波形の最大電圧と最小電圧との差(すなわち振幅)に着目すると、大ドット用駆動電圧波形では20Vとなっており、小ドット用駆動電圧波形では8Vとなっている。ここで、ステップ電圧Vstepに充電されるコンデンサーの数は4つ(コンデンサーC1 〜C4 )であるから、大ドット用のステップ電圧を5Vに設定する一方、小ドット用のステップ電圧を2Vに設定すれば、何れの駆動電圧波形を出力する際にも、最小電圧を含めた5段階の出力電圧を充分に利用することが可能である。しかし、こうしてステップ電圧Vstepのみを駆動電圧波形の振幅に合わせて切り換えたとしても、最小電圧Vb が固定されている状態では(例えば大ドット用の最小電圧15V)、ステップ電圧を2Vとしたときに出力される駆動電圧波形の最大電圧(23V)は、本実施例の小ドット用の駆動電圧波形の最大電圧(本実施例では26V)に比べて低く抑えられてしまう。また、本実施例では、小ドット用の駆動電圧波形の最小電圧は18Vとなっていることから、最大電圧と同時に最小電圧についても本来の値よりも低く抑えられてしまうこととなる。
このように、駆動電圧波形の最大電圧、および最小電圧がともに低く抑えられてしまうと、複数の駆動電圧波形の間で波形の初期電圧を揃えることが困難となる。すなわち、通常、インクジェットプリンターでは、精細な画像を印刷するために、噴射ヘッドから噴射するインク滴のサイズを様々に変化させており、これに伴いピエゾ素子104に対して複数の異なる駆動電圧波形が連続して印加される。このとき、駆動電圧波形ごとに初期電圧がばらばらの値を取ってしまったのでは。プリンターの印刷精度を損なうこととなってしまう。
そこで本実施例では、2種類の電圧(最小電圧Vb およびステップ電圧Vstep)を用意しておき、出力する駆動電圧波形の種類によって、ステップ電圧Vstepの値を変化させるだけでなく、これに応じて最小電圧Vb の値も変化させることとしている。こうすることで、サイズの小さな駆動電圧波形(すなわち小ドット用の駆動電圧波形)を出力する際にも、駆動電圧波形の段数を減らさずに波形の精度を維持することが可能であり、しかも駆動電圧波形の出力範囲がシフトしてしまうことを防ぐことができる。
以上のようにして、本実施例では、駆動電圧波形印加処理を実行することで、適切な駆動電圧波形を出力し、ピエゾ素子104に印加することが可能となっている。その結果、インク滴のサイズを適切に制御して噴射することが可能となり、延いては、印刷媒体2上に高品質な画像を印刷することが可能となる。
また、本実施例のように、最小電圧Vb およびステップ電圧Vstepを、出力する駆動電圧波形の種類に応じて変化させることとすれば、どのような駆動電圧波形を出力する際でも、未使用のコンデンサーを生ずることがないので、コンデンサーを用いて出力可能な電圧の数を維持することができる。従って、特に、使用可能なコンデンサーの数が少ない場合でも、駆動電圧波形の段数を可能な限り確保することで、比較的精度の高い駆動電圧波形を出力することが可能である。このことにより、複数のコンデンサーを内部に搭載する駆動電圧波形生成回路200の小型化と、プリンターの印刷画質の維持を両立することができる。
更に、本実施例のように、コンデンサーの接続状態を切り換えることで電圧を出力することとすると、出力電圧を多段階に変化させることが可能でありながら、コンデンサーを充電する電源の数は少なく抑えることができる。その結果、電力供給部206の構造を単純にすることができ、電力供給部206を搭載した駆動電圧波形生成回路200の小型化を一層進めることが可能である。
D.変形例 :
上述した実施例には、いくつかの変形例が考えられる。以下では、これらの変形例について簡単に説明する。
D−1.第1変形例 :
前述した実施例では、駆動電圧波形全体を出力するのに必要なデータを波形データとして記憶しているものと説明した。しかし、駆動電圧波形全体をひとまとめにして波形データとして記憶するのではなく、駆動電圧波形を電圧の上昇過程、および下降過程ごとの領域(すなわち駆動電圧波形を構成する線分)に分割し、各線分を出力するのに必要なデータを、線分データとして波形メモリ200mに記憶することとしてもよい。こうすれば、以下に説明するように、駆動電圧波形全体を波形データとして記憶する場合に比べて、より精細な駆動電圧波形を出力することができる。
図16は、波形メモリ200mに記憶された線分データの内容に従って、駆動電圧波形が出力される様子を示した説明図である。図16(a)は波形メモリ200mに複数の線分データが記憶されている様子が示されており、また図16(b)には、線分データに従って、連続して3つの線分を出力することで、1つの駆動電圧波形が出力される様子が示されている。
図16(a)に示されているように、各線分データには、前述した波形データと同様に、異なるステップ電圧Vstep、最小電圧Vb 、および出力パターンが設定されている。但し、各線分データの出力パターンは、前述した波形データの出力パターンとは異なり、駆動電圧波形の上昇過程、あるいは下降過程を出力することができるように設定されている。例えば、線分データ1の出力パターンcでは、出力パターンのステップが切り換わるのに伴い、スイッチの接続状態が最も出力電圧の低い接続状態m1 から最も出力電圧の高い接続状態m5 へと変化することで、駆動電圧波形の上昇過程が出力されるようになっている。また線分データ2のパターンdでは、逆にスイッチの接続状態がm5 からm1 へと変化することで、駆動電圧波形の下降過程が出力されるようになっている。
また、図16(b)には、時間の経過とともに、まず始めに、線分データ1に従い線分1を出力し、その後、線分データ2に従って線分2を出力して、最後に線分データ3に従って線分3を出力した様子が示されている。こうして3つの線分を連続して出力すると、図示されているように、全体として1つの駆動電圧波形を形成することが可能である。ここで、階段状に出力される各線分の段差は、ちょうどその線分データのステップ電圧Vstepに相当し、また、各線分の階段の間隔は、出力パターンの各ステップにおける接続時間に相当する。従って、各線分におけるステップ電圧Vstepの値と出力パターンとの組み合わせを適切に設定しておくことで、駆動電圧波形の線分の傾きを、各線分ごとに適切に切り換えることができる。
更に、線分データを利用すれば、各線分の最大電圧と最小電圧との電圧差に合わせてステップ電圧Vstepの値を設定することができるので、どの線分を出力するに際にも、5段階の電圧変化を維持することができる。ここで、前述した波形データをもとに駆動電圧波形を出力する場合、その電圧波形を構成する全ての線分を適切に出力することができるとは限らない。何故なら、ある線分についての最大電圧と最小電圧との電圧差が、別の線分についての最大電圧と最小電圧との電圧差よりも小さい場合にも、それらの線分を同じステップ電圧Vstepおよび最小電圧Vb を用いて出力することとなるので、電圧差の小さな線分での階段の段数が、少なくなってしまうためである。そこで、第1変形例のように、線分データによって駆動電圧波形の各線分を指定すれば、線分の種類によって階段の段数が少なく抑えられてしまうことを避けることができ、波形データによって駆動電圧波形全体を指定する場合に比べて、より精細な駆動電圧波形を出力することが可能となる。
尚、第1変形例では、各線分の出力開始を指示する信号(線分出力信号)、および出力する線分の種類を指定する信号(線分指定信号)を受け取る度に、コンデンサーの充電が実行される。このとき、図6を用いて前述したのと同様に、コンデンサーとピエゾ素子104を繋ぐスイッチS0 が切断状態となることから、図16(b)に示されているように、各線分が切り換わるタイミングごとに電圧の出力が中断される。しかしながら、ピエゾ素子104は容量性の負荷であるから、スイッチS0 が切断されてコンデンサーからの電圧の出力が中断しても、スイッチS0 を切断する直前まで印加されていた電圧を維持することができる。逆に、コンデンサーの充電中は、スイッチS0 を切断状態にしておかなければ、スイッチS0eがONに切り換わることでピエゾ素子104と最小電圧発生電源208とが接続可能な状態となり(図6を参照)、新たに出力する線分の最小電圧Vb がいきなり出力されてしまう。その結果、ピエゾ素子104に対して正確な駆動電圧波形が印加されないこととなる。従って、コンデンサーを充電する際には、駆動電圧波形の出力途中であっても電圧の出力を中断することによって、正確な駆動電圧波形をピエゾ素子104に印加することができるようになっている。
尚、第1変形例では、各線分ごとにステップ電圧Vstep、および最小電圧Vb を変化させることから、各線分の出力開始を指示する信号(線分出力信号)、および出力する線分の種類を指定する信号(線分指定信号)を受け取る度に、コンデンサーを充電し直す必要がある。このとき、駆動電圧波形の出力途中でコンデンサーを充電する関係上、コンデンサーとピエゾ素子104とを繋ぐスイッチS0 を接続したままコンデンサーを充電したのでは、ピエゾ素子104に駆動電圧波形を正確に印加することができなくなってしまう。すなわち、コンデンサーを充電する際、コンデンサーC0 に設けられたスイッチS0cがONに切り換わるのに伴い(図6を参照)、ピエゾ素子104と最小電圧発生電源208とが接続されてしまう。このことにより、新たに出力する線分の最小電圧Vb が出力されてしまうので、ピエゾ素子104に印加する電圧が変化してしまう。このような事態を避けるために、第1変形例では、駆動電圧波形の出力途中であっても、ステップ電圧Vstep、および最小電圧Vb を切り換える際(コンデンサーの充電時)にはスイッチS0 を切断し、ピエゾ素子104の駆動電圧に変化が現れないようにしている。ピエゾ素子104は容量性の負荷であるため、スイッチS0 が切断されても印加電圧が維持されるので、適切にピエゾ素子104を駆動することが可能である。
D−2.第2変形例 :
前述した実施例、および第1変形例では、ステップ電圧Vstepとともに最小電圧Vb をコンデンサーに充電し、各コンデンサー間の接続状態に応じて異なる電圧を出力するものと説明した。しかし、最小電圧Vb については、コンデンサーに充電する方法を採らずに、電源(ここでは最小電圧発生電源208)から直接出力することとしてもよい。
図17は、第2変形例の駆動電圧波形生成回路200の内部に設けられた蓄電部212の回路構成を示した説明図である。図示されているように、第2変形例の蓄電部212にも、前述した実施例、および第1変形例の蓄電部212と同様に、複数のスイッチとステップ電圧Vstepを充電するコンデンサー(C1 〜C4 )とが設けられているが、最小電圧Vb を充電するコンデンサーは設けられていない。このような回路構成を用いても、以下に説明するようにしてスイッチを切り換えることで、前述した実施例、および第1変形例と同様に出力電圧を変化させることが可能である。
図18は、第2変形例の蓄電部212を用いて出力電圧を変化させる様子を示した説明図である。先ず始めに、図18(a)には、電圧の出力に先立ちコンデンサーを充電する様子が示されている。図示されているように、各コンデンサー(C1 〜C4 )とステップ電圧発生電源210との間に設けられたスイッチ(スイッチS1c〜S4c)を全てONにした状態で、コンデンサーC1 に設けられたスイッチS1e、コンデンサーC2 に設けられたスイッチS2e、およびコンデンサーC3 に設けられたスイッチS3eをONにし、更にコンデンサーを接地させるスイッチS0eをONにする。こうすることで、ステップ電圧発生電源210の電圧がコンデンサーC1 〜C4に充電される。
こうしてコンデンサーを充電した後、コンデンサーの充電電圧(ステップ電圧Vstep)は用いずに、最小電圧Vb のみを出力したい場合は、図18(b)に示されているように、充電時にONにしたスイッチのうち、スイッチS1c〜S4cをOFFにするとともに、コンデンサーを接地させていたスイッチS0eもOFFにする。そのうえで、最小電圧発生電源208に設けられたスイッチS0bをONにするとともに、コンデンサーC4 に設けられたスイッチS4eをONにした状態で、蓄電部212とピエゾ素子104とを接続するスイッチS0 をONにすると、最小電圧発生電源208とピエゾ素子104とが直接接続されるので、ピエゾ素子104に最小電圧Vb が印加される。
また、図18(c)に示されているように、図18(b)の状態から、コンデンサーC1 に設けられたスイッチS1eをOFFにして、その代わりに同じくコンデンサーC1 に設けられたスイッチS1bをONにする。こうすると、最小電圧発生電源208とコンデンサーC1 とが直列に接続された状態でピエゾ素子104に接続されるので、最小電圧Vb にステップ電圧Vstepを加えた電圧(Vstep+Vb )が印加される。更に、図18(d)に示されるように、今度はコンデンサーC2 に設けられたスイッチS2eをOFFにして、代わりにスイッチS2bをONにすれば、最小電圧発生電源208とコンデンサーC1 、およびコンデンサーC2 とが直列に接続された電圧(2×Vstep+Vb )がピエゾ素子104に印加される。同様にして、コンデンサーC3 のスイッチS3eをOFFにして代わりにスイッチS3bをONにすれば、3×Vstep+Vb の電圧がピエゾ素子104に印加され、最終的には図18(e)に示されるように、コンデンサーC4 のスイッチS4eをOFFにして代わりにスイッチS4bをONにすれば、4×Vstep+Vb の電圧がピエゾ素子104に印加される。
このように、上述した第2変形例の回路構成によれば、最小電圧用にコンデンサーを設けなくても、前述した実施例、および第1変形例と同様に出力電圧を変化させることが可能である。一方、最小電圧Vb を充電するコンデンサー(コンデンサーC0 )を、ステップ電圧を充電するコンデンサーとして利用することもでき、その結果、駆動電圧波形の段数が増加するので、出力する駆動電圧波形の精度を向上させることも可能である。
以上、本実施例の流体噴射装置について説明したが、本発明は上記すべての実施例および変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。例えば、蓄電部に、より多くのコンデンサー搭載することとしてもよい。本発明によれば、どのような駆動電圧波形を出力する際でも、全てのコンデンサーを活用して駆動電圧波形を出力することができる。従って、コンデンサーの搭載数を増やすことなく、電圧波形の段数を増やすことができるので、駆動電圧波形の精度を効率よく上げることができる。