JP5626388B2 - 靭性及び耐水素脆化特性に優れた高強度ホットスタンピング成形品及びその製造方法 - Google Patents
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Description
即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[2] 質量%で、Ti:0.040%以下、に制限することを特徴とする上記[1]に記載の靭性及び耐水素脆化特性に優れた高強度ホットスタンピング成形品。
Ac3=910−203C1/2−30Mn+44.7Si+700P+400Al+400Ti ・・・ (1)
なお、上記(1)式において、選択元素であるTiを含有しない場合は、0として計算する。
まず、本発明に係るホットスタンピング成形品における鋼板母材の化学成分組成の限定理由について説明する。なお、以下の説明において、各元素の添加量は全て質量%で表す。
Cは、ホットスタンピング成形品の金属組織をマルテンサイトとし、強度を確保するために必要な元素であり、このような効果を得るためには、0.15%以上の添加が必要である。また、Cは、Ac3[℃]を低下させる元素であり、ホットスタンピングの加熱温度を低下させるために、0.20%以上添加することが好ましい。一方、C量を過剰に含有すると、ホットスタンピング成形品の靭性が低下するため、上限を0.35%とする。
Siは、固溶強化により、ホットスタンピング成形品の強度を上昇させる元素であり、このような効果を得るためには、0.1%以上の添加が必要である。また、Siは、セメンタイトの析出を抑制し、強度及び靭性の向上に寄与するため、0.3%以上の添加がより好ましい。一方、Si量が1.0%を超えると、ホットスタンピング成形品が硬化し、靭性を損なうため、上限を1.0%とする。また、ホットスタンピング成形品や素材である鋼板にめっきを施す場合には、Si量を0.7%以下にすることが好ましい。
Mnは、焼入れ性を高め、ホットスタンピング成形品の金属組織をマルテンサイトとするために必要な元素である。また、Mnは、Ac3[℃]を低下させる元素であり、ホットスタンピングの加熱温度を低下させるためには、1.3%超を添加することが必要である。一方、1.8%を超えてMnを添加すると、MnSが粗大化して水素脆化による破壊の起点となったり、強度が上昇し過ぎて靭性を損なったりするため、上限を1.8%以下とする。
Alは、脱酸元素であるが、本発明においては、AlNを形成して旧オーステナイト粒径の微細化に寄与する重要な元素である。ホットスタンプ成形品の旧オーステナイト粒径を微細にするためには、Alを0.010%以上の量で添加することが必要である。一方、Al量が0.100%を超えると、介在物が増加して靭性を損なうため、上限を0.100%とする。
Nは、鋼中に不可避的に含有される元素であるが、本発明においては、AlNの形成により、ホットスタンプ成形品の旧オーステナイト粒径を微細化するため、0.0010%以上を含有させることが必要である。一方、N量が0.0100%を超えると、窒化物が増加して靭性を損なうため、上限を0.0100%とする。
Pは、不可避的に混入する不純物元素であり、靭性を低下させるため、その含有量を0.030%以下に制限する。また、Pのより好ましい上限は、0.015%以下である。
Sは、Pと同様に不可避的に混入する不純物元素であり、加工性及び靭性を損なうため、上限を0.020%以下とする。また、Sのより好ましい上限は、0.005%以下である。
Cr及びMoは、焼入れ性を高める元素であるが、過剰に添加すると靭性を低下させる。従って、本発明においては、Cr、Moの内の一方を単独で添加する場合には、それぞれの上限を、Cr及びMoの双方を複合添加する場合には合計の量を、0.2%未満に制限する。また、Cr、Moは高価な元素であるため、一方又は双方の合計量の上限を0.1%未満に制限することがより好ましい。
Ti及びNbは、微細な析出物を形成して、旧オーステナイト粒径の微細化に寄与する元素であるが、これらの元素も、過剰に添加すると靭性を低下させる。従って、本発明においては、Ti、Nbの内の一方を単独で添加する場合には、それぞれの上限を、Ti及びNbの双方を複合添加する場合には合計の量を、0.10%未満に制限する。また、特に、靭性を高めるためには、Ti、Nbの一方又は双方の合計量の上限を0.05%未満に制限することがより好ましい。
Bは、微量で焼入れ性を大幅に向上させる効果を有する元素である。このような効果を得るためには、0.0003%以上のBの添加が好ましい。特に、ホットスタンピング成形品の引張強度を向上させるためには、Bを0.0005%以上添加することが好ましい。一方、0.0050%を超えるBを含有させても焼入れ性を向上させる効果は飽和し、また、成形品が脆化することもあるため、上限を0.0050%とすることが好ましい。
Tiは、鋼中のNと結合してTiNを生成し、BNの生成を抑制させるために有効である。焼入れ性の向上のために添加したBを有効に作用させるには、Tiを0.001%以上添加することが好ましい。一方、ホットスタンピング成形品の強度が高い場合、0.040%超のTiを添加するとTiNが破壊の起点となり、靭性を損なうことがある。したがって、Ti、Nbの一方又は双方の合計量の合計の量を0.10%未満に制限し、かつ、Tiの含有量の上限を0.040%以下とすることが更に好ましい。また、上述したように、本実施形態では、Tiの含有量を0.040%以下に制限しながら、Ti、Nbの双方の合計の含有量を0.10%未満とすることが好ましい。
次に、本発明に係るホットスタンピング成形品の金属組織について説明する。
本発明は、化学成分組成が上記範囲で規定された熱延鋼板又は冷延鋼板が、後述の製造方法で規定する条件で、Ac3[℃]以上に加熱してプレス成形されることにより、鋼板の金属組織がマルテンサイト組織とされるものである。また、ホットスタンピング成形後に焼戻しを施す場合には、ホットスタンピング成形品の金属組織は焼戻しマルテンサイトとなる。
本発明に係るホットスタンピング成形品は、後述のホットスタンピング成形によって製造する際、鋼板の加熱温度の上限を、Ac3以上Ac3+100℃以下、且つ、900℃未満とするため、Ac3を900℃未満にすることが必要である。これにより、ホットスタンピング成形品の金属組織を、上記組織として制御することが可能となる。
以下に、本発明に係る靭性及び耐水素脆化特性に優れた高強度ホットスタンピング成形品の製造方法について、その限定理由を説明する。
本発明のホットスタンピング成形品の製造条件は、特に規定されるものではないが、以下に説明するような条件とすることが好ましい。
またさらに、酸洗、冷間圧延を鋼板に施しても良く、めっきを施しても良い。なお、これらの工程は、常法で行えば良く、めっきは、溶融アルミめっき、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっきの何れでも良い。
まず、高温に加熱した鋼板をプレス成形し、急冷して、金属組織をマルテンサイト変態させるためには、加熱された鋼板の金属組織をオーステナイトにすることが必要である。従って、ホットスタンピングの加熱温度をAc3以上にすることが必要である。
鋼板の温度がAc3以上になると、鋼板の金属組織はオーステナイトになり、粒成長する。特に、本発明では、靭性を向上させるために、粒成長を抑制する効果を有するTi、Nbの添加量を制限するため、加熱温度が高すぎると、AlNによるオーステナイト粒成長抑制効果が低下し、オーステナイト結晶粒が粗大になる。
また、ホットスタンピング成形品の旧オーステナイト粒径は、加熱時のオーステナイトの粒径であるから、これを微細化するためには、ホットスタンピングにおける鋼板の加熱温度の上限が極めて重要である。ホットスタンピング成形品の旧オーステナイト粒径を15μm以下にするためには、加熱温度の上限を(Ac3+100)℃以下、且つ、900℃未満に制限することが必要である。
また、鋼板は、Ar3変態点より低い温度に冷却されるとフェライト変態が開始する。従って、ホットスタンピングにおけるプレス成形は、Ar3以上で行うことが必要である。プレス成形温度がAr3よりも低いと、成形前には急冷されないため、フェライトが生成し、ホットスタンピング成形品の金属組織の一部がマルテンサイトにならず、強度が低下する。このAr3変態点は、鋼の成分のうち、C、Mn、Si、P、Alの含有量[質量%]により、下記(2)式によって求めることができる。
Ar3=901−325C−92Mn+33Si+287P+40Al ・・・ (2)
脱水素処理は、鋼板の製造や表面処理、又はホットスタンピングを行う際に鋼中に侵入した水素を大気中に放散させる熱処理であり、これを行なうことによって、遅れ破壊の一種である、置き割れを防止することができる。このように、ホットスタンピング成形品から、水素を大気中に放散させるためには、脱水素処理の温度を100℃以上にすることが必要である。一方、脱水素処理を300℃超で行うと、低温焼き戻し脆化現象が生じ、靭性が低下することがある。従って、脱水素処理は、100〜300℃で行うことが好ましい。また、脱水素処理の時間は、水素を放出させるために、1分以上とすることが好ましい。なお、脱水素処理を長時間施しても、特に、ホットスタンピング成形品の組織や特性に悪影響を及ぼすことはないが、生産性を考慮すると、100分以下とすることが好ましい。
また、焼戻し処理の時間は、靭性を向上させるためには、1分以上とすることが好ましい。一方、焼戻し処理の時間が100分を超えると、析出物の粗大化や強度の低下が問題になることがあるため、上限を100分以下とすることが好ましい。
製鋼工程において、下記表1に示す化学成分組成を有する鋼を溶製し、鋳造して鋼片とした。次いで、これらの鋼片を1050〜1250℃に再加熱した後、熱間圧延を行い、さらに、酸洗及び冷間圧延を施すことにより、板厚1.2mmの鋼板とした。また、鋼板製造後、一部の鋼板には、めっき処理を施した(下記表1を参照)。めっき処理は、溶融アルミめっきの場合は、目付け量120g/m2、溶融亜鉛めっきの場合は、目付け量90g/m2とした。
上記方法によって製造した各プレス成形品について、以下のような評価試験を行った。
引張試験は、JIS Z 2201の5号試験片を、各々のプレス成形品の底部から採取し、JIS Z 2241に準拠して行った。そして、プレス成形品の強度として、結果を下記表2に示した。
プレス成形品の靭性を評価するため、シャルピー試験片を採取し、シャルピー衝撃試験を実施した。試験片形状は、JIS Z 2242のVノッチ試験片と同等にした。ただし、プレス成形品から採取した試験片は板厚が薄いため、10枚程度の試験片を重ね合わせて、合計の板厚が10〜12mm程度になるようにしてビスで固定して使用した。試験方法は、JIS Z 2242の方法に準じ、試験温度を−120℃として吸収エネルギーを測定し、吸収エネルギーをノッチ底の断面積で除して衝撃値[J/cm2]を求め、結果を下記表2に示した。
耐水素脆化特性は、以下の手順によって評価した。
まず、プレス成形品の底部から、80mm×30mmの短冊状の小片をシャー切断で採取して短冊状の試験片とし、試験片の両端にボルトを通すための孔を設けた。次いで、試験片に、曲げ半径を10mmとして、U曲げ加工を施した。次に、曲げ部の外周に耐水性の歪ゲージを貼付した。その後、試験片の両端の孔にボルトを通し、ナットで締め付けながら、曲げ部に歪を加えた。
表2中の符号A1、A4、A7の例は、成分が本発明の規定範囲内である鋼板を用いて、本発明の規定範囲内の製造条件でホットスタンピングを行い、必要に応じて熱処理を行った本発明例である。表2に示すように、これら本発明例の成形品は、強度及び耐水素脆化特性が良好であることが明らかである。
また、符号B8は、Siの含有量が少なく、強度、靭性及び耐水素脆化特性が低下した例である。また、符号B9は、Mnの含有量が少なく、焼き入れ性が低下してフェライト相が出現し、靭性及び耐水素脆化特性は向上しているものの、強度が低下した例である。
Claims (3)
- 質量%で、
C :0.15〜0.35%、
Si:0.1〜1.0%、
Mn:1.3%超1.8%以下、
Al:0.010〜0.100%、
N :0.001〜0.010%、
B :0.0050%以下
を含有し、P、Sの各々の含有量を、
P :0.030%以下、
S :0.020%以下、
に制限し、更に、
Cr、Moの内の一方を含む場合の含有量、又は、双方を含む場合の合計の含有量を0.2%未満、
Ti、Nbの内の一方を含む場合の含有量、又は、双方を含む場合の合計の含有量を0.10%未満
に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼成分を有してなり、
Ac3変態点が900℃未満であり、金属組織が焼戻しマルテンサイトからなり、かつ旧オーステナイト粒径が15μm以下であることを特徴とする靭性及び耐水素脆化特性に優れた高強度ホットスタンピング成形品。 - 質量%で、
Ti:0.040%以下、
に制限することを特徴とする請求項1に記載の靭性及び耐水素脆化特性に優れた高強度ホットスタンピング成形品。 - 請求項1又は請求項2に記載の靭性及び耐水素脆化特性に優れた高強度ホットスタンピング成形品の製造方法であって、
請求項1又は請求項2に記載の成分からなる鋼板を、Ac3変態点〜Ac3変態点+100℃、且つ900℃未満に加熱し、
次いで、Ar3変態点以上の温度でプレス成形した後、そのまま金型との接触による焼入れを行い、
さらに、400〜700℃の温度範囲で1〜100分保持する焼戻し処理を施すことを特徴とする靭性及び耐水素脆化特性に優れた高強度ホットスタンピング成形品の製造方法。
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