以下、本発明に係る実施の形態につき図面を参照して説明する。図1に示す如く、内燃機関自動車に設けられる燃焼制御システム1は、機関部Aと、当該期間部Aに密接に関連する各種装置とから構成される。図示の如く、機関部Aは、吸気管Piと排気管Poと内燃機関Egとから成り、吸気管Piは、内燃機関Egのインテーク側に接続され、エアクリーナ10と吸気センサ20とスロットルバルブ91とを備えており、排気管Poは、内燃機関Egの排気側に接続されている。また、内燃機関Egは、吸気バルブVi及び排気バルブVoを具備するシリンダSdと、点火プラグPG及び点火コイルCLと、シリンダ内に摺動自在に設けられたピストンPtと、ピストンPtの動作を伝達させるピストンロッドPrと、ピストンロッドPrの動作によって回転力を発生させるクランクシャフトCsとから構成される。当該内燃機関Egは、吸気バルブViから混合気を吸入すると、点火コイルCLによって高電圧が発生され、点火プラグPGがシリンダ内の混合気を燃焼させる。このとき、ピストンPtは、混合気の熱膨張によって押し下げられ、クランクシャフトCsに回転力が与えられる。尚、クランクシャフトCsには、内燃機関(クランクシャフト)の回転数を検出するクランクポジションセンサ50が設けられ、当該クランクポジションセンサ50は、内燃機関Egの回転数に関する電気信号を出力させる。
エアクリーナ10は、内部にフィルターエレメントが収容され、車体が取り込んだエアーをフィルターエレメントによって濾過させ、これにより浄化されたエアーを吸気管Piへと送り込む。吸気センサ20は、吸気管Piへ送り込まれたエアーの量を計測し、エアーの流量に関する情報を電気信号に変換して出力させる。スロットルバルブ91は、アクセルペダルモジュール80と電気的に接続されており、ドライバーがアクセルペダルを操作すると、ペダルの踏み込み量に関する信号をアクセルペダルモジュール80から受信し、当該信号に応じて弁開度を制御させ、吸気管Piに流れるエアーの流量を調節する。
一方、燃料供給系統Bは、燃料タンクTKと燃料ポンプPMとインジェクションINJとから構成され、後述する制御装置ECUによって、インテーク側への燃料供給量が適宜に制御される。
制御装置ECUは、図示の如く、吸気センサ20から吸気流量に関する信号が入力され、スロットルバルブ91の開度信号が入力され、クランクポジションセンサ50から内燃機関の回転数に関する信号が入力され、この他、水温信号、車速信号等が適宜に入力される。制御装置ECUは、CPU、所定のプログラムを格納させたメモリ回路、A/D変換回路、クロック回路等を内蔵させており、入力された信号に応じて適宜の情報処理を実施させ、インジェクションINJ及びイグナイタIgを適宜に制御させる。このうち、イグナイタIgへ送られる点火信号SGは、シリンダ内の混合気の点火タイミングを適性化させるため、当該点火信号の出力タイミングが制御装置ECUによって適宜に制御される。尚、制御装置ECUの機能等については、図2以降によって詳細に説明する。
かかる構成を具備する燃焼制御システム1は、スロットルバルブ91が制御されると、バルブ開度がセンサ92によって制御装置ECUへ報知され、制御装置ECUでは、これを受けて、インジェクションINJなどの燃料供給系統Bを制御し、所望量の燃料をインテーク側へ供給させる。また、当該制御装置ECUは、クランクポジションセンサ50の信号を受けて、点火信号SGの出力タイミングを適宜に調整し、当該信号をイグナイタIgへと出力させる。イグナイタIgは、点火コイルCLを駆動させ、これによって高電圧が印加された点火プラグPGは、プラグギャップを放電させてシリンダ内の混合ガスを燃焼させる。即ち、制御装置ECUは、点火信号SGの出力タイミングを制御することにより、混合ガスの点火タイミングを適宜に制御させる。
図2は、イオン電流検出装置の回路構成が示されている。図示の如く、イオン電流検出装置100は、点火プラグPGと、点火コイルCLと、スイッチング素子Trと、制御装置ECUと、イオン電流検出回路INSとから構成される。
点火プラグPGは、内燃機関のプラグホール内へ各々設けられ、印加電圧(二次コイルの誘導電圧)に応じてプラグギャップ間を放電させ、シリンダ内の混合気を燃焼させる。
点火コイルCLは、一次コイルL1及び二次コイルL2及び鉄心等から構成され、一次コイルL1に流れる電流が変動すると、当該電流値の変動に応じて、二次コイルL2から誘導電圧を発生させる。かかる点火コイルCLは、絶縁樹脂によってパッケージされ、点火プラグPGの端子部へ装着される。これにより、二次コイルL2は、点火プイラグPGへ電気的に接続され、一次コイルL1の通過電流が変動すると点火プラグPGへ誘導電圧を出力させる。尚、一次コイル側に示されるVBは、車載バッテリから供給されるバッテリ電圧を指す。
スイッチング素子Trは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transister)、MOSFET等、点火信号に応じてON/OFF動作するパワートランジスタが用いられる。当該スイッチング素子Trは、一次コイルL1の出力端とグランドとの間に介挿され、点火信号に応じて、一次コイルL1の通電状態を制御させる。
制御装置ECUは、本実施の形態ではEngine Control Unitとされている。当該Engine Control Unitは、車両の動作情報を集中管理し、かかる情報に基づいて点火信号等の種々の信号を演算する。このうち、点火信号SGは、前述の如く、その出力タイミングが制御装置ECUによって規定され、スイッチング素子TrのON/OFF動作を規定する。
また、制御装置ECUは、メモリ回路に種々の制御プログラムが格納され、所定の起動動作に応じて制御プログラムが適宜起動される。本実施の形態において、メモリ回路には、イオン電流検出信号V0を保持する処理プログラムと、当該イオン電流検出信号V0に重畳されたノック信号の周波数成分を抽出する処理プログラムと、BPF処理の出力値に基づいてノック信号の値を積分演算させる処理プログラムと、この積分値を無次元化させたノック定数を算出させる処理プログラムと、ノック定数の分布状態を現す集合定数を算出させる処理プログラムと、集合定数の値に基づいてノック判定を実施する処理プログラムと、ノック定数の値に基づいてノック判定を実施する処理プログラムと、この他、種々の処理プログラムが格納されている。そして、これら処理プログラムが実行されることにより、制御装置ECUでは、特許請求の範囲に記載される各種手段(信号保持手段、ノック信号抽出手段、ノイズ成分積分手段、ノック定数算出手段、集合定数算出手段、集合定数判定手段、ノック定数判定手段等)を実現させる。このように、制御装置ECUは、これらノック判定処理を規定するプログラムと協働して、ノック判定を行なう装置を構成する。かかる装置を、以下、内燃機関用のノック制御装置ECUと記載する場合がある。
イオン電流検出回路INSは、図示の如く、ツェナーダイオードZD、ダイオードD1,D2、コンデンサC1、抵抗R1〜R3、オペアンプAMPとから構成され、オペアンプAMPの出力端子からイオン電流I2の増幅値を出力させる(以下、イオン電流検出信号V0と呼ぶ)。かかるイオン電流検出回路INSは、イグナイタIg又は制御装置ECU等の回路部に内蔵される。
ここで、ノック制御装置ECUから点火信号SGが出力されると(図4a参照)、当該点火信号SGにおけるパルスの立下りを迎えるので、スイッチング素子TrがON状態からOFF状態に切換えられる。このとき、一次コイルL1は急峻に経ち下がり(図4b参照)、二次コイルL2からは高電圧が発生する。これに応じて点火プラグPGが放電すると、点火プラグPG→二次コイルL2→コンデンサC1→ダイオードD1、に示す経路で放電電流I1が流れる。このとき、コンデンサC1は、イオン電流検出のための電力がチャージされることとなる。その後、燃焼による化学反応が進行すると、周知の通り、回路内には、抵抗R2→抵抗R1→コンデンサC1→二次コイルL2→点火プラグPG、に示す経路でイオン電流I2が流れる。
イオン電流検出信号V0は、イオン電流検出回路INSで検出された信号値が電圧値として伝達され、当該電圧値がノック制御装置ECUのAD入力端子へ入力される。このイオン電流検出信号V0は、図4(c)に示す如く、ノッキングが発生している場合、イオン電流のピーク値Ipの後段にノック信号Inkが重畳される。
以下、図3を参照し、ノック制御装置ECUで実施されるイオン電流検出信号の処理動作について説明する。ノック制御装置ECUでは、点火信号SGが立ち下がると、本実施例に係る信号処理ルーチンR11を起動させる。当該信号処理ルーチンR11は、先ず、イオン電流検出信号V0をADタイミング毎に検出し、設定された区間W1(図4c参照)について検出値をメモリ回路に保持させる(S111/信号保持手段)。
処理S111が完了すると、同処理で保持されたイオン電流検出信号V0のサンプル値の中から、イオン電流のピーク値Ipを取得する(S112/ピーク値算出手段)。
処理S112が完了すると、ウインドウW2が設定され(図4d参照)、当該区間W2についてBPF処理を実行させる(S113/ノック信号抽出手段)。BPF処理は、イオン電流検出信号に重畳されたノック信号Inkの周波数帯を通過域とし、当該ノック信号Inkを抽出するために設けられた処理である(図4e参照)。尚、ウインドウW2は、内燃機関の運転状態に応じて、ノック信号を検出できる区間に設定される。
処理S113が完了すると、BPF処理の出力値を積分演算させる(S114/ノック成分積分手段)。処理S114では、図4(f)に示す如く、演算処理の結果として、ノック成分積分値Vintが算出される。かかるノック成分積分値Vintは、BPF処理がウインドウW2の区間で行なわれているところ、当該積分値もウインドウW2の区間について積分された値となる。尚、処理S114で算出されるノック成分積分値Vintは、ADタイミング毎に検出値の変動量(絶対値)を累積処理させて算出しても良く、この他、検出値の正の値のみを累積させて算出しても良く、その算出方法を問うものではない。
図5を参照し、ノッキングが発生する際のノック成分積分値Vintの分布について説明する。但し、各々の回転数は、Na(rpm)<Nb(rpm)<Nc(rpm)の関係を有し、進角度は、点火タイミングが進角されると、NKN0→NKN1→NKN2→NKN3へ移行するものとする。尚、NKN0はノックの発生状態が完全に収束している進角度を指し、NKN2はノッキングが発生する直前の進角度を指し、NKN3はノッキングが発生した直後の進角度を指すこととする(以下の実施例についても同じ)。
図5(a)は、回転数Nrが一律Na(rpm)であって、点火タイミングをNKN0→NKN1→NKN2→NKN3へと徐徐に進角させた場合の積分値集合が示されている。このうち、積分値集合V0aは進角度NKN0の集合であって、積分値集合V1aは進角度NKN1の集合であって、積分値集合V2aは進角度NKN2の集合であって。積分値集合V3aは進角度NKN3の集合が示されている。
図示の如く、進角制御後の積分値集合V1a〜V3aは、進角度に伴い、積分値方向Fvへの分散状態が顕著となる。また、ピーク値方向Fiにもその分布が広がるので、ノック成分積分値の分布領域を拡大させる傾向が認められる。更に、各々の積分値集合は、進角度の増加に伴い分散方向Fσへ推移する傾向を示す。
図5(b)は、回転数Nrの条件のみがNb(rpm)に変更されている。積分値集合V0bは進角度NKN0の集合を指し、積分値集合V1bは進角度NKN1の集合、積分値集合V2bは進角度NKN2の集合、積分値集合V3bは進角度NKN3の集合を指す。図示の如く、回転数Nbにおける各々の積分値集合は、回転数Naの各集合と比較すると、当該積分値集合の分布をピーク値方向Fiへも積分値方向Fvへも拡大させる傾向を示す。このことは、回転数がNcへと更に高回転に遷移した場合にも、その変動に応じて積分値集合の拡大傾向を顕著に示すこととなる(図5c参照)。
図3に戻り、信号処理ルーチンR11の説明を続ける。処理S114が完了すると、ノック制御装置ECUでは、ノック成分積分値Vintを無次元化させたノック定数knmを算出させる(S115/ノック定数算出手段)。本実施例の場合、イオン電流のピーク値Ipが既に算出されているので、ノック定数算出処理S115は、基準積分値をピーク値Ipに基づいて推定する処理(基準積分値推定手段)と、ノック成分積分値から基準積分値を除算させる処理(無次元化手段)とを実施させる。
基準積分値は、ノック成分積分値の次元(Dimension)に一致する値であり、ノッキングの略収束状態を示す値である。当該基準積分値は、ノッキングを起こさない場合のノック成分積分値の軌跡を表した関数Vnnkによって推定され、この基準積分値によって、ノッキングの略収束状態というものが数値化される。
ここで、イオン電流のピーク値をIpとし、ピーク値の増分に対する基準積分値の増加する割合をαとし、ピーク値が零となるときのノック成分積分値をV0とすると、基準積分値を算出させる関数Vnnkは、Vnnk=α・Ip+V0、の式で表される。尚、増分αは、イオン電流検出回路を構成する回路素子の電気的性質に関する「ばらつき」を吸収する機能をも担う。
図6には、ノック定数算出処理S115によって算出されるノック定数の算出工程が示されている。図6(a)に示す如く、処理S114によってノック成分積分値Vnm{1}がサンプリングされると、処理115では、ノック成分積分値Vnm{1}に対応するイオン電流のピーク値I1を読み出し、当該ピーク値I1に対応する基準積分値Vnb{1}を算出させる。当該基準積分値Vnb{1}は、上述の如く、ノックが発生しない条件におけるノック成分積分値の推定値を意味する。
基準積分値Vnb{1}は、サンプルされたノック成分積分値Vnm{1}の次元を同じくするところ、ノック成分積分値Vnm{1}を基準積分値Vnb{1}で除算させると、その商は無次元化された値となる。即ち、単位を持たない係数に変換されることとなる。
図6(b)に示す如く、ノック係数knm{1}は、所定のサンプルタイミングで演算処理される。ノック係数knm{1}は、サンプルしたノック成分積分値と基準積分値との比であって、ノッキングの強度に比例してその係数の値が大きくなる。一方、ノッキングが発生していない場合、ノック定数は「1」に近い値をとる。
かかるノック定数は、処理S116及び処理S117を通じて、複数点検出されることとなる。即ち、処理S115でノック定数が検出保持されると、処理S116では、その処理回数をカウントさせるため、カウント値をノック定数の処理S115ごとにインクリメントさせる。その後、処理S117では、ノック係数算出の処理回数Nsが規定回数Nthに到達したか否かを判定し、処理回数Nsが規定回数Nthに到達していない場合、次回の点火信号によって再び信号処理ルーチンR11を起動させ、処理回数Nsが規定回数Nthに到達するまで、このループ処理を繰返す。そして、処理回数Nsが規定回数Nthに到達すると、処理S116におけるカウント値をクリヤさせ、次の段階の信号処理ルーチンR12を起動させる。
上述した処理S116及び処理S117によると、規定回数Nthを200回に設定すれば、ノック係数のサンプル点が200箇所取得され、規定回数Nthを10回に規定すれば、ノック係数のサンプル点が10箇所取得されることとなる。以下、便宜的に、規定回数Nthが10回に設定されているものとして説明する。
図7(a)に示す如く、ノック成分積分値V2c(1)〜V2c(10)は、所定シリンダでの燃焼サイクル毎にサンプルされていく。そして、ノック成分積分値V2c(1)〜V2c(10)は、各々が基準積分値に基づいてノック定数k2c(1)〜k2c(10)へと変換され、図7(b)に示す如く、ノック定数k2c(1)〜k2c(10)は、燃焼サイクルに対応したサンプルタイミング毎に算出取得されることとなる。以下、規定回数Nthにてサンプルされたノック定数の集合をノック定数集合と呼ぶ。
本実施例では、かかるノック定数集合の状態に基づいて集合定数が算出される。当該集合定数は、本実施例の場合、ノック定数集合に係る偏差と平均値とから成るものである。図7(c)を参照すると、ノック定数集合に係る各集合定数と進角度との関係が見出される。同図では、点火タイミングを徐徐に進角させた場合のノック定数集合が各々示されている。同図は、回転数NrがNc(rpm)なる条件のもとでノック定数が規定回数サンプルされたものとする。尚、ノック定数集合K1cは進角度NKN1の際のノック定数のサンプル集合を指し、ノック定数集合K2cは進角度NKN2の際のノック定数のサンプル集合を指し、ノック定数集合K3cは進角度NKN3の際のノック定数のサンプル集合を指す(進角度:NKN1<NKN2<NKN3)。
ここで、ノック定数集合K?mに係る平均値Kavは、サンプルされたノック定数k?m(1)〜k?m(10)の総和Σkを算出し、当該ノック定数の総和Σkをサンプル数Nthで除算させて求められる。ノック定数集合に係る平均値Kavは、その性質上、ノック定数の分散状態の中心を示すこととなる。そして、進角度に応じてノック定数集合がノック定数方向Fkへシフトする現象の中では(図5参照)、進角度に応じて平均値Kavも増加することとなる(図7c参照)。
図8(a)には、ノック定数集合に係る平均値Vavと進角度との関係が示されている。同図では、ノック定数に係る平均値Kav0が進角度NKN0に対応し、平均値Kav1が進角度NKN1に対応し、平均値Kav2が進角度NKN2に対応し、平均値Kav3が進角度NKN3に対応する。図示の如く、ノック定数の平均値Kavは、点火タイミングの進角度に応じて単純増加する傾向が認められる。この場合、集合定数として算出された平均値Kavは、回転数が一致しているという条件のもとで、関数F(Kav)の線上に現われることとなる。かかる関数F(Kav)は、所定の条件下(回転数含む)で行なわれる実験によって予めサンプルされ得る情報であり、ノック定数集合に係る平均値Kavが確定されれば、点火タイミングの進角状態が判明することとなる。
一方、ノック定数集合に係る偏差σpは、サンプルされたノック定数の一つとノック定数の平均値Kavとの差分についての二乗値Bk・Bkを各々算出し、ノック定数毎に算出された二乗値Bk・Bkについての総和ΣBk・Bkを算出し、更に、当該総和ΣBk・Bkをサンプル数Nthで除算させた分散値(ΣBk・Bk)/Nthを算出させ、この分散値(ΣBk・Bk)/Nthの平方根を開くことにより偏差σpが求められる。ノック定数に係る偏差σpは、平均値に対する「ばらつき」を示すこととなり、ノック定数の分布領域を示す指標となる。従って、進角度に応じてノック定数集合の分布領域が拡大してゆく現象の中では(図5参照)、進角度に応じて偏差σpも増加することとなる(図7c参照)。
図8(b)には、ノック定数集合に係る偏差σpと進角度との関係が示されている。同図では、ノック定数に係る偏差σ0が進角度NKN0に対応し、偏差1が進角度NKN1に対応し、偏差σ2が進角度NKN2に対応し、偏差σ3が進角度NKN3に対応する。図示の如く、ノック定数集合に係る偏差σpについても、点火タイミングの進角度に応じて単純増加する傾向が認められる。この場合、集合定数として算出された偏差σpは、回転数が一致しているという条件のもとで、関数G(σp)の線上に現われる。関数G(σp)についても、所定の条件下で行なわれる実験によって予めサンプルされ得る情報であり、ノック定数集合に係る偏差σpが確定されれば、点火タイミングの進角状態が判明する。
本実施例では、進角度の状態判定を実施する前に、ノック強度に基づくノックの判定処理が行なわれる。かかるノック強度に基づく判定処理は、本実施例では信号処理ルーチンR12(ノック定数判定手段)がその役割を担う。当該信号処理ルーチンR12は、ノック定数のサンプル回数が規定回数Nthに到達すると、その旨の情報を認識することにより起動される(図9参照)。信号処理ルーチンR12では、先ず、ノック定数閾値Kthを設定させる(S121)。当該処理S121では、図10(a)に示す如く、ノック定数knmがノック強度の指標とされるところ、ノック定数閾値Kthが適宜なノック強度(ノック定数)の位置に設定されることで、正確なノック判定が行なわれることとなる。当該ノック定数閾値Kthは、ノック制御装置ECUによって回転数この他の運転状態に適合させて設定される。この閾値Kthは、ノック定数が無次元化された値とされるので、その値を固定値として設定することが可能となる。ここで、本処理の段階におけるノック制御装置ECUは、内燃機関の回転数はNc(rpm)であると認識しているが、サンプルされているノック定数の集合は、どの進角度NKN0〜NKN3におけるノック係数集合に属するかは特定できていない。
処理121が完了すると、ノック定数判定を行なう処理が実施される(S122)。当該処理S122は、サンプルされたノック定数knmとノック判定閾値Kthとの大小比較を行い、図10(b)に示す如く、ノック定数集合k?cがノック閾値Kthを超えるサンプル値を含む場合、ノッキングが発生したものと判定する(S123)。
一方、処理S122は、サンプルされたノック定数とノック判定閾値Kthとの大小比較を行い、図10(c)に示す如く、ノック定数集合k?cの全てがノック閾値Kthを下回る場合、ノッキングが発生していないものと判定する。但し、本発明の課題で指摘した通り、ノッキングの発生が認められなかった場合でも、進角させない方が好ましい場面もある。このため、本実施例に係るノック制御装置ECUでは、ノッキングの発生が認められなかった場合、進角度の状態判定を行う信号処理ルーチンR13を起動させる(S124)。
図11に示す如く、信号処理ルーチンR13が起動されると、先ず、内燃機関の運転状態を示す回転数Nrの認識処理が実施される(S131)。以下、回転数Nrは、認識結果がNc(rpm)であったとする。かかる処理後、集合定数の算出処理が実施される(S132)。ここで、集合定数とは、本実施例の場合、ノック定数集合k?cに係る偏差σpと、同集合k?cに係る平均値Kavとの双方を指す。
ノック定数集合k?cに係る偏差σp及び平均値Kavが算出されると(S132)、信号処理ルーチンR13では、これら複数種類の集合定数に対する閾値の設定を行なう(S133)。本実施例では、処理S133によって、偏差閾値σthと平均用の閾値Kavthとが設定される。このうち、偏差閾値σthは、偏差σ1とσ2との間に設定される(図12参照)。即ち、偏差閾値σthは、偏差σpが進角制御とともに随時増加する過程において、ノック発生直前の偏差σ2を検出する役割を担う。また、平均値用の閾値Kavthは、平均値Kav1と平均値Kav2との間に設定される(図13参照)。これについても、平均値用の閾値Kavthは、平均値Kavが進角制御とともに随時増加する過程において、ノック発生直前の平均値Kav2を検出する役割を担う。これらの閾値は、内燃機関の回転数Nrに基づいて設定されるものであり、この設定動作は、ノック制御装置ECUによって行われる。
閾値設定が完了すると、偏差σpに基づく「進角度の状態判定(遅進角制御に関する判定)」が実施される(S134)。処理S134は、前処理S132で算出された偏差σpが偏差閾値σthより大きいとき(図12a参照)、点火タイミングがノッキング発生直前の進角度(以下、危険進角度と呼ぶ)に至ったと判定し、これに基づいて遅角制御を実施させる(S136)。一方、本処理134では、偏差σpが偏差閾値σthより小さいとき(図12b参照)、点火タイミングを更に進角させてもノッキングを起こさない位置(以下、安全進角度と呼ぶ)にあると判定する。
本実施例では、偏差に基づく「進角度の状態判定(遅進角制御に関する判定)」が完了すると、安全進角度にあると判定された積分値集合k?cについて、平均値Kavに基づく「進角度の状態判定(遅進角制御に関する判定)」が実施される(S135)。処理S135は、前処理S132で算出された平均値Kavが平均値用の閾値Kthより大きいとき(図13a参照)、危険進角度NKN2に至ったと判定し、これに基づいて遅角制御を実施させる(S136)。一方、本処理135では、算出された平均値Kavが平均値用の閾値Kthより小さいとき(図13b参照)、安全進角度NKN0又はNKN1にあると判定し、この場合、点火タイミングの更なる進角制御を実施させる(S137)。
即ち、「進角度の状態判定(遅進角制御に関する判定)」にあっては、ノック定数集合K?cが危険進角度に到達しているか否かが判定されるので、ノッキングが実際に発生する前に、ノック制御装置ECUによる遅角制御が可能となる。
ここで、上述したように、サンプルされるノック定数は、内燃機関における燃焼現象に関する指標とされる性質上、その発生頻度に所定の「ばらつき」が生じてしまう。このため、回転数が同一とされる場面でも、進角度の異なる偏差間に差異が生じない場合が稀に起こる。このような場合、偏差に基づいて行なわれる進角度の状態判定は不能となるが、平均値に基づいて行なわれる進角度の状態判定がこの不具合を補い得る。一方、進角度の度合が小さい場合、又は、進角度の変化に伴う偏差の変動が少ない場合、平均値に基づいて行なわれる進角度の状態判定は不能となるが、偏差に基づく進角度の状態判定がこの不具合を補うこととなる。即ち、本実施例のように、複数の集合定数を用いて進角度の状態判定が行なわれると、進角度の状態判定に係る判定精度の向上が図られる。
上述の如く、本実施例に係る内燃機関用のノック制御装置によると、集合定数の値に基づいて進角度の状態判定が実施されるので、ノック成分積分値の分布状態に係る情報が遅進角に係る判定要素として取り入れられ、これにより、ノッキング制御装置では、ノッキングの発生を回避した点火タイミングの調整が可能となり、内燃機関では、ノッキング発生の直前に遅角されるという好適な点火タイミングの制御が実現される。
尚、本実施例に係るノック制御装置は、集合定数の閾値が危険進角度を検出できる値に設定されているので、ノッキング発生直前に遅角制御されることとされている。しかし、かかる閾値を幾分低値に設定することで、ノッキングの発生直前に至る前に予め遅角制御が行なわれるようにすることも可能である。
本実施例では、ノック強度に係る判定処理を省略させた点火タイミング制御について紹介する。本実施例に係るノック制御装置ECUは、上述の如く、メモリ回路に種々の制御プログラムが格納され、所定の起動動作に応じて制御プログラムが適宜起動される。かかるメモリ回路には、イオン電流検出信号V0を保持する処理プログラムと、当該イオン電流検出信号V0に重畳されたノック信号の周波数成分を抽出する処理プログラムと、BPF処理の出力値に基づいてノック信号の値を積分演算させる処理プログラムと、ノック成分積分値の分布状態を現す集合定数を算出させる処理プログラムと、集合定数の値に基づいてノック判定を実施する処理プログラムと、この他、種々の処理プログラムが格納されている。そして、これら処理プログラムが実行されることにより、制御装置ECUでは、特許請求の範囲に記載される各種手段(信号保持手段、ノック信号抽出手段、ノック成分積分手段、集合定数算出手段、集合定数判定手段等)を実現させる。
図17(a)に示す如く、ノック成分積分値V2c(1)〜V2c(10)は、所定シリンダでの燃焼サイクル毎にサンプルされていく。そして、ノック成分積分値V2c(1)〜V2c(10)は、図7(b)に示す如く、燃焼サイクルに対応したサンプルタイミング毎に算出取得されることとなる。以下、規定回数Nthにてサンプルされたノック成分積分値の集合を積分値集合と呼ぶ。
本実施例では、かかる積分値集合の状態に基づいて偏差(集合定数)が算出される。当該偏差σpは、点火タイミングの進角度に応じてその値を増大させる傾向を示す(図17c参照)。
本実施例に係る信号処理ルーチンR31は、イオン電流検出信号を所定のメモリ回路に保持させ(S311/信号保持手段)、イオン電流のピーク値Ipを算出させ(S312)、イオン電流検出信号に基づいてノック信号を抽出し(S313/ノック信号抽出手段)、積分演算によってノック成分積分値を算出し(S314/ノイズ成分積分手段)、処理314の処理回数をカウントし(S315)、カウント値が規定回数へ達した後に信号処理ルーチンR32を起動させる。即ち、本実施例では、ノック定数の算出処理を行なわず、ノック成分積分値に基づいて集合定数が算出される。
前段の処理が完了すると、図19に示される信号処理ルーチンR32が起動される。当該信号処理ルーチンR32は、先ず、内燃機関の回転数Nrを認識し(S321)、その後、ノック成分積分値に基づいて偏差σpを算出させる(S322/集合定数算出手段)。かかる後、図20(a)及び図21(a)に示す如く、偏差σ1と偏差σ2との間に偏差閾値σthが設定される(S323)。尚、実施例1と同様、NKN0はノックの発生状態が完全に収束している進角度を指し、NKN2はノッキングが発生する直前の進角度を指し、NKN3はノッキングが発生した直後の進角度を指すこととする。
処理S321の後、偏差に基づく「進角度の状態判定」が実施される(S324/集合定数判定手段)。同処理では、処理S322で算出された偏差σpが偏差閾値σthより大きいとき、点火タイミングが危険進角度に達したものと判定し、遅角制御を実施させる(処理S325)。一方、かかる偏差σpが偏差閾値σthより小さいとき、点火タイミングが安全進角度であるとして、更なる進角制御を実施させる(処理S326)。かかる如く、本実施例では、実施例1で説明したノック定数を用いることなく、ノック成分積分値自身の分布状態に基づいて、点火タイミングの遅進角制御が行われる。
また、本実施例では、ノック強度に基づくノック判定を用いずに、点火タイミングの進角状態の判定のみに基づいて、当該点火タイミングの遅進角制御が行われる。かかる場合にあっても、積分値集合が危険進角度に到達しているか否か判定されるので、ノッキングが実際に発生する前に、ノック制御装置ECUによる遅角制御が行なわれる。
尚、上述した各種実施例では、内燃機関の運転状態を示す指標として回転数Nrが紹介されている。しかし、内燃機関の運転状態は、かかる対象に限定されるものでなく、例えば、内燃機関の負荷状態を当該機関の運転状態としても良い。ここで、内燃機関の負荷状態は、シリンダ内の圧力センサを用いて解析するようにしても良く、イオン電流の波形に基づいて負荷状態を解析しても良い。更に、内燃機関の運転状態は、回転数及び負荷状態等の組合せによって、その状態が細かく区別されるようにしても良い。例えば、高負荷高回転,高負荷低回転,低負荷高回転,低負荷低回転,といったように運転状態を細分化させることにより、より適切な点火タイミングの遅進角制御が可能となる。
また、実施例1で説明したノック定数閾値は、一本に限定することなく、用途に応じて複数設定させても良い。例えば、検出されたノック定数が第1のノック定数閾値K1を上回った場合、変角量の小さい遅角制御を実施させ、検出されたノック定数が第2のノック定数閾値K2を上回った場合、変角量の大きい遅角制御を実施させると良い。これによれば、ノック強度が小さいときはノック発生の手前への遅角制御が可能と成り、ノック強度が大きいときには甚大なノッキングを急遽回避させる遅角制御が実現される。そして、このように複数の閾値を用いる場合、本発明では、ノック定数に対する閾値を固定値として設定できるので、従来例のように複数の閾値関数に対して閾値を各々算出するという煩雑な処理から免れ、これにより、ノック判定処理における演算処理の簡素化が図られることとなる。
また、集合定数判定手段で行なわれる「遅進角に関する判定」は、各集合定数に基づいて進角するか遅角するかの判定が行なわれている。しかし、これに限らず、「遅進角させない」という判定を「遅進角に関する判定」に加えても良い。このような判定結果を用いると、集合定数が比較的小さい場合には点火タイミングを進角制御させ、ノッキングの発生確立が高まった場面では点火タイミングを現時点の状態に維持させ、集合定数が更に大きくなった場合には遅角制御させる、といった制御が可能となる。