JP5593267B2 - 粒状チーズの製造方法、粒状チーズ入り飲食品の製造方法、および粒状チーズの製造装置 - Google Patents

粒状チーズの製造方法、粒状チーズ入り飲食品の製造方法、および粒状チーズの製造装置 Download PDF

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Description

本発明は粒状のチーズを製造する方法、該方法で製造された粒状チーズ、該粒状チーズを配合した粒状チーズ入り飲食品、および粒状チーズの製造装置に関する。
所定の形状のチーズを製造する方法として、従来はモールド型を用いる方法が用いられていた。
例えば下記特許文献1には、それぞれ略半球状の雄型と雌型とからなるモールド型を用いて卵型のナチュラルチーズを製造する方法が記載されている。
特開2009−165443号公報
これまで、最終的な形態として粒状に成形されたチーズを、モールド型を用いずに製造する方法は知られていない。
本発明は、粒状のチーズを、モールド型を用いずに製造できる、粒状チーズの製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
本発明の粒状チーズの製造方法は、原料乳、酸成分、および凝乳酵素を含み、酸による凝固および凝乳酵素による凝固が抑えられた流動物を調製する工程と、前記流動物の凝固温度以上の油性媒体を流動させながら、該油性媒体中に前記流動物を間欠的に供給して液滴を形成する工程と、前記油性媒体中で前記液滴を、前記流動物の凝固温度以上に保持して凝固させる工程を有することを特徴とする。
前記原料乳が、乳を膜で濃縮した濃縮乳であることが好ましい。
前記濃縮乳が、乳を精密濾過膜(MF膜)で濃縮処理したMF濃縮乳であることが好ましい。
前記酸による凝固および凝乳酵素による凝固が抑えられた流動物のpHが5.2〜6.4であることが好ましい。
前記酸成分として有機酸水溶液または発酵乳を添加することが好ましい。
前記油性媒体の温度が30〜55℃であることが好ましい。
前記酸による凝固および凝乳酵素による凝固が抑えられた流動物を調製する工程が、前記原料乳を流路に連続的に供給し、該流路内で原料乳を移動させながら、前記酸成分および凝乳酵素を添加する工程を含むことが好ましい。
前記油性媒体を流路に連続的に供給し、該流路内で油性媒体を移動させることによって、前記油性媒体を流動させることが好ましい。
本発明は、上記の製造方法によって粒状チーズを製造する工程と、前記粒状チーズを飲食品に含有させる工程とを有する、粒状チーズ入り飲食品の製造方法を提供する。この飲食品はドレッシングまたはスプレッドであることが好ましい。

本発明の粒状チーズの製造装置は、原料乳に酸成分および凝乳酵素を添加して、酸による凝固および凝乳酵素による凝固が抑えられた流動物を調製する手段(I)と、前記流動物の凝固温度以上の油性媒体を流動させる手段(II)と、該油性媒体中に前記流動物を間欠的に供給して液滴を形成する手段(III)とを有することを特徴とする。
前記手段(I)が、原料乳を移動させる流路と、該流路に原料乳を連続的に供給する手段と、該流路内に酸成分を添加する手段と、該流路内に凝乳酵素を添加する手段を含むことが好ましい。
前記手段(II)が、油性媒体を移動させる流路と、該流路に油性媒体を連続的に供給する手段を含み、前記手段(III)が、該流路内に、前記流動物を間欠的に供給する手段を含むことが好ましい。
本発明によれば、モールド型を用いずに粒状のチーズを製造することができる。また、本発明により製造された粒状チーズは従来にない形状と食感とを有している。本発明の粒状チーズを配合した飲食品は、従来にはないユニークな食感を有し、飲食する消費者に楽しさを提供することができる。
本発明の粒状チーズの製造装置の一実施形態を示す概略構成図である。 図1中の符号Aで示す要部を拡大した一部断面図である。
<粒状チーズ>
本発明では粒状のチーズを製造する。粒の形状は略球状であってもよく、略楕円状であってもよく、短い紐状であってもよい。
粒の大きさは特に限定されないが、例えば1個当たりの体積が0.005〜5mL程度であることが好ましく、0.05〜0.5mL程度であれば特に好ましい。形状が略球状である場合は、その直径は1〜10mm程度であることが好ましい。
本発明の方法で製造される粒状チーズは、原料乳に凝乳酵素(例えば、レンネット)を加えて凝固させた固形物であり、チーズの種類としては、日本における乳等省令または公正競争規約において「ナチュラルチーズ」として規定されたもの等、当該技術分野において通常意味する「ナチュラルチーズ」に該当する。
<原料乳>
原料乳としては、チーズの原料として公知の動物一般の乳またはそれを濃縮した濃縮乳を用いることができる。これらに均質化処理や加熱殺菌処理などの処理が施されたものでもよい。
原料乳中の水分の含有量が少ない方が、凝固後に良好な形状保持性が得られやすく、この点で濃縮乳が好ましい。また粒状チーズの良好な性状(テクスチャー)が得られやすい点で、膜で濃縮した濃縮乳(以下、膜濃縮乳ということもある)がより好ましい。
[乳]
乳は、乳等省令(「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」、昭和26年12月27日厚生省令第52号)によって定義されるところの、乳(生乳、牛乳、特別牛乳、生やぎ乳、生めん羊乳、殺菌やぎ乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳等)が好ましいが、そのほかに水牛の乳、ラクダの乳など、チーズの原料として公知の動物一般の乳を用いることができる。乳は予め殺菌処理したものを使用することが好ましい。殺菌条件は、公知の乳の殺菌処理条件を適宜用いることができる。
[膜濃縮乳]
乳を膜で濃縮する場合、濃縮処理の操作性の点からは、脱脂乳を膜濃縮することが好ましい。
膜濃縮乳は、乳を膜で濾過して得られる膜不通過成分である。乳の濃縮に用いる膜は、精密濾過膜(MF膜)または限外濾過膜(UF膜)が好ましい。膜で濾過することにより、乳中の水分、灰分、および乳糖が減少する。
膜で濃縮処理する際の濃縮倍率によって、原料乳のカゼインタンパク質濃度を制御できる。原料乳のカゼインタンパク質濃度によって、凝固後のチーズのテクスチャーが変化する。具体的にはカゼインタンパク質濃度が高いほど凝固後のチーズは固く、高付着性となる傾向がある。
したがって、原料乳のカゼインタンパク質濃度は、得ようとする粒状チーズのテクスチャーに応じて設定することが好ましい。柔らかすぎず、固すぎないテクスチャーを得るためには、原料乳のカゼインタンパク質濃度が4.0〜15.0質量%の範囲内であることが好ましく、6.0〜10.0質量%がより好ましい。
精密濾過膜(MF膜)は限外濾過膜(UF膜)に比べてホエイタンパク質の透過量が多い。本発明において、原料乳にMF濃縮乳を用いるか、UF濃縮乳を用いるかによって、凝固に要する時間や、凝固後のテクスチャーが変化する。具体的には、MF濃縮乳の方が、UF濃縮乳よりも凝乳酵素による凝固が速く進行し、凝固性が熱によって影響されにくい。また、MF濃縮乳の方が良好な保形性が得られやすい。
したがって、得ようとする粒状チーズのテクスチャーや、製造条件に応じて、MF濃縮乳またはUF濃縮乳を選択して用いることが好ましい。特にMF濃縮乳を用いると、凝固に要する時間を短くして製造時間の短縮を図りやすく、さらに製造ラインを短くして省スペース化を図りやすい。また、凝固後の粒状チーズの良好な保形性が得られやすい。
[副原料]
原料乳には、本発明の効果を損なわない範囲で、乳または濃縮乳以外の副原料を含有させることができる。副原料は、食品に含有させることが可能な成分であればよく、例えばチーズの分野において公知のものを使用することができる。
具体的には、クリーム、練乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、トータルミルクプロテイン、乳清たん白、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム等の乳由来の成分調整剤;塩化カルシウム等の乳に由来しない成分調整剤;ローカストビンガム、グアガム、ゼラチン、寒天等の安定剤;糖類、香辛料、香料等の風味調整剤を副原料として添加することができる。
例えば、クリームを添加することにより、原料乳の脂肪率を調整できる。原料乳の脂肪率は1〜50質量%の範囲内であることが好ましく、3.5〜15.0質量%がより好ましい。脂肪率が1質量%以上であると脂肪を含有することによる効果が十分に得られやすく、50質量%以下であると安定な乳化状態が得られやすい。クリームを添加した場合には、凝乳酵素が添加される前に均質化処理を行うことが好ましい。
原料乳中のカルシウム含有量によって、凝乳酵素による凝固速度が影響を受ける。また、予め加熱殺菌された乳を用いた場合など、加熱によりカルシウムの一部が不溶化された場合には、少なくともこれを補う量の塩化カルシウムを添加することが好ましい。
塩化カルシウムを添加する場合、塩化カルシウムの添加量が多いほど、凝乳酵素による凝固が速く進行する傾向がある。一方、塩化カルシウムの添加量が多すぎると、粒状チーズの風味が悪くなる。したがって、原料乳に塩化カルシウムを添加する場合の添加量は、これらの不都合が生じない範囲に設定することが好ましい。例えば原料乳中の塩化カルシウム含有量は0.005〜0.2質量%が好ましく、0.01〜0.1質量%がより好ましい。
<凝乳酵素>
本発明における凝乳酵素としては、レンネットを用いることが好ましい。以下、本発明の理解を容易にするためにレンネットを中心として説明するが、本発明における凝乳酵素がレンネットに限られるわけではない。
レンネットはキモシンを主成分とする凝乳酵素であり、乳およびカルシウムの存在下で、カゼインミセルを安定化させているκ−カゼインのペプチド結合を加水分解し、カゼインミセルの親水性を失わせて乳をゲル化させる性質を持つ。牛由来のレンネット、微生物由来のレンネットなど、チーズの製造において公知のレンネットを適宜用いることができる。
レンネットは酸性領域に至適pHを持ち、通常、25℃以下の低温では凝乳が生じにくく、60℃を超えると失活する可能性がある。加熱により凝固させる際の温度が高いほど凝固に要する時間が短くなる傾向がある。
<酸成分>
原料乳のpHを、レンネットが活性を有する範囲内に調整するために酸成分を添加する。
酸成分としては、チーズの製造時に添加される公知の酸成分を適宜用いることができる。酸成分の種類によって、レンネットによる凝固が進行する速さが変化する。酸成分は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
添加する好ましい酸成分として、例えばクエン酸、乳酸、酢酸等の有機酸の水溶液、または発酵乳が挙げられる。有機酸水溶液のなかでも、特に良好な風味と速い凝固が得られやすい点で乳酸水溶液を用いることが好ましい。酸成分として発酵乳を添加すると、より風味良好な粒状チーズが得られやすい点で好ましい。
<油性媒体>
油性媒体は、使用温度において液状であって、原料乳にレンネットおよび酸成分を加えた流動物が、該油性媒体中で液滴を形成するようなものであればよい。原料乳にレンネットおよび酸成分を加えた流動物は水溶性であり、油性媒体中の表面張力により液滴が形成されると考えられる。
油性媒体の具体例としては、大豆油、菜種油、綿実油、パーム油、オリーブ油、バターオイル等の食用油、これらの混合物が挙げられる。本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含んでもよい。例えば、酸化防止剤(ビタミンE等)を添加してもよい。
<粒状チーズの製造装置>
図1は、本発明の粒状チーズの製造方法を実施するのに好適な装置の一実施形態を示した概略構成図であり、図2は、図1中にAで示す要部を拡大した一部断面図である。
本実施形態の装置は、原料乳を流動させながら酸成分およびレンネットを添加して、酸による凝固およびレンネットによる凝固が抑えられた流動物(以下、単に「凝固が抑えられた流動物」または「流動物」ということもある。)を調製する手段(I)として、原料乳タンク1、第1のポンプ2、流路3、撹拌手段4、レンネットタンク5、第2のポンプ6、酸成分タンク7、および第3のポンプ8を備える。油性媒体を流動させる手段(II)として、油性媒体タンク11、第4のポンプ13、循環路14を備える。油性媒体中に前記流動物を間欠的に供給する手段(III)として、注入装置21を備える。
その他に、油性媒体を循環して使用するための手段として、固液分離ベルト15および回収装置16を備える。
油性媒体タンク11は温度調節手段12を備えており、油性媒体が所定の温度に調節されるようになっている。油性媒体は、油性媒体タンク11から第4のポンプ13で循環路14に供給され、注入部14aおよび保持部14bを経て、固液分離ベルト15上に排出される。固液分離ベルト15で固体(粒状チーズ30)と分離された油性媒体は、回収装置16を経て再び油性媒体タンク11に戻る。
固液分離ベルト15で油性媒体と分離された粒状チーズ30は、充填機31に送られ、ここで所定の容器に充填される。
循環路14の注入部14aでは、図2に示すように、注入装置21のノズル22から、前記凝固が抑えられた流動物20が間欠的に供給され、油性媒体中に液滴が形成される。該油性媒体は、凝固が抑えられた流動物の凝固温度以上の高温であるため、液滴は油性媒体中で加熱されて凝固し、粒状のチーズ30となる。
なお、循環路14は別途の保温手段を設けることが好ましい。例えば、循環路14の全体にグラスウールなどの保温材を巻き、保温処理すると好ましい。また、必要に応じて保温材の下に電熱ヒーターなどの補助的な加熱手段を設け、内部を循環する油性媒体の温度低下を防止することも可能である。
<粒状チーズの製造方法>
本実施形態の装置を用いて粒状チーズを製造するには、まず、原料乳、酸成分、およびレンネットを含み、酸による凝固およびレンネットによる凝固が抑えられた流動物を調製する。
具体的には、原料乳タンク1内の原料乳を、第1のポンプ2で流路3に供給し、撹拌手段4に向かって所定の流速で流動させる。流路3は、例えば内径が10〜50mm程度の管からなる。流路3内における流速は第1のポンプ2で制御できる。
次いで、流路3の途中で、レンネットタンク5から第2のポンプ6を介して所定量のレンネットを、流路3内の原料乳に供給する。また、酸成分タンク7から第3のポンプ8を介して所定量の酸成分を、流路3内の原料乳に供給する。
レンネットを添加する第2のポンプ6、および酸成分を添加する第3のポンプ8には、例えばドージングポンプとして一軸ネジポンプを好適に用いることができる。
本実施形態では原料乳に対して、先にレンネットを添加し、その後に酸成分を添加しているが、これらの添加順序は任意である。
また副原料を用いる場合、レンネットが添加される前に、原料乳に加えることが好ましい。例えば原料乳タンク1内の原料乳に副原料を含有させるか、またはレンネットの添加位置よりも上流の流路3の途中で副原料を添加するのが好ましい。これらを組み合わせてもよい。
本発明においては、原料乳にレンネットおよび酸成分が添加された流動物において、注入部14aで油性媒体中に注入される前に凝固が生じると、注入操作が難しくなる。したがって、油性媒体中への注入を安定して行うことができる程度に、レンネットによる凝固および酸による凝固が抑えられていることが必要である。
また、酸による凝固が生じるのは、原料乳中に酸成分が添加されたときに局所的にpHが低くなりすぎて酸による凝固物(以下、酸カードということもある。)が生成されるためである。この場合、酸による凝固を抑えれば、原料乳が所定のpHとなるように設計された量の酸成分を添加した場合に、該酸成分の一部が酸カードの生成に消費されてしまうことがなくなり、原料乳のpHが設計値よりも高くなるような現象が起きず、その結果pHの安定性がより良くなる。一般に、pHの設計値が低く、酸の添加量が多いほど、酸による凝固が生じやすく、特にそのような場合に、酸による凝固を抑えることが好ましいといえる。
レンネットによる凝固を抑える方法としては、流路3内の流動物の温度を、レンネットによる凝固が生じない温度とする方法が好ましい。例えば2〜20℃に保持することが好ましい。または、レンネットが添加された流動物が、レンネットによって凝固する温度(凝固温度)に達しても、レンネットによる凝固反応はゆっくり進む。したがって、酸成分およびレンネットが添加されており、レンネットによる凝固温度となっている流動物であっても、凝固が進んで注入操作が難しくなる前の状態であれば、本発明における「凝固が抑えられた流動物」として用いることができる。
したがって、原料乳に酸成分およびレンネットを添加し、凝固が生じない温度に保持した後に昇温させ、注入操作が可能なうちに油性媒体に注入することもできる。例えば、油性媒体の温度と同程度に昇温させてから油性媒体に注入すると、より短時間で凝固させることができ、工程の短縮化ができる点で好ましい。
レンネットの添加量は、原料乳中のカゼインタンパク質の量に対して十分な添加量であれば流動物が十分に凝固するまでの時間が短くてすむ。レンネット添加量が多いほど凝乳が速く進行する傾向があるが、ある程度の添加量までに抑えた方が、よりチーズ製品の風味が良くなるという傾向もある。したがって、レンネットの添加量は、工程の時間や求められる製品の風味に応じて、所望の速度で凝固が進むように設定することが好ましい。
原料乳にレンネットが添加されてから、レンネットによる凝固温度に達するまでの保持時間は30秒間以上が好ましい。このようにレンネットが添加された原料乳を、レンネットによる凝固が生じない温度で保持することにより、原料乳中のカゼインタンパク質とレンネットとが反応待機状態となりやすく、凝固温度以上の油性媒体中に注入されたときにレンネットによる凝固が効率良く生じやすい。該保持時間の上限は、製造効率の点から5分以内が好ましい。
酸による凝固を抑える方法は、原料乳中に酸成分が添加されたときに局所的にpHが低くなるのを防止できる方法であればよい。
酸成分の添加量は、流路3内の流動物のpHが、レンネットが活性を有する値となるように設定される。具体的には、油性媒体中に供給される流動物(凝固が抑えられた流動物)のpHが6.4以下であると、油性媒体中でレンネットによる凝固が良好に生じやすい。該pHの下限値は、酸による凝固が良好に抑えられる範囲の下限とされる。
例えば、該pHが5.8〜6.4の範囲内、好ましくは6.2〜6.4の範囲内であると、酸成分の添加量が比較的少なくてすむため、原料乳が流路3内を流動する際の撹拌作用によって局所的にpHが低くなるのが防止され、特段の撹拌手段を設けなくても酸カードの生成を抑制することができる。
一方、流路3内の流動物に酸成分を添加するとほぼ同時に該流動物を撹拌する手段を設ける場合は、該pHの下限値を5.2程度にまで低くすることが可能である。
該撹拌をより高速で行うほど、酸カードの生成をより少なく抑えることができる。
本発明において、「添加するとほぼ同時に撹拌する」とは、添加された酸成分が速やかに分散されて局所的にpHが低い領域が生じないように撹拌することを意味し、酸成分の添加と同時に撹拌してもよく、添加直後に撹拌してもよく、撹拌開始直後に酸成分を添加してもよい。
例えば、高速撹拌手段としてインライン型の高剪断ミキサーを用い、そのワークヘッドの直前に酸成分を連続的に定量供給する手段を設けることにより、酸凝固を抑えつつ酸成分を添加することができる。高速撹拌手段における撹拌条件(ローターの回転速度等)は、酸添加後の流動物における酸カードの含有量が、所望の少量に抑えられるように設定される。ローターの回転速度をより高速にすれば酸カードの生成はより少なくなる。
このようにして、流路3内で、原料乳に酸成分およびレンネットが添加された後、撹拌手段4で均一に撹拌されて、凝固が抑えられた流動物が得られる。撹拌手段4としては、例えば強制撹拌型のインラインミキサーや、静止型混合器(スタティックミキサー)等が好適に用いられる。
なお、酸成分の添加位置がレンネットの添加位置よりも下流であり、酸成分を添加するとほぼ同時に撹拌する手段(図示せず)が設けられる場合は、撹拌手段4を設けない構成とすることができる。
該凝固が抑えられた流動物は、油性媒体の循環路14に設けられた注入部14aで、流動している油性媒体中に間欠的に供給されて、液滴を形成する。
凝固が抑えられた流動物の油性媒体中への供給は、所定量の流動物を所定の間隔で、再現性良く間欠的に行うことが好ましい。本実施形態では、ポンプ2としてサーボモーター付一軸ネジポンプを採用しており、原料乳を間欠的に連続して送っており、注入装置21で管路を分岐させて複数の注入ノズル22の先端から間欠的に流動物20を注入するようになっている。
なお、この他の態様としては、注入装置21を多列の注入ノズル22とシリンジポンプドライブを備えたものに変更し、図2に示すように、注入ノズル22の先端が循環路4内に位置するように設け、注入ノズル22の先端から、所定量の流動物20が間欠的に注入されるように構成することもできる。注入ノズル22と循環路4とは液密になっている。
循環路4は、例えば内径が10〜50mm程度の管からなる。
循環路4内の油性媒体の流速、および注入ノズル22からの注入速度と注入量は、凝固後に所望の形状で所望の大きさの粒状チーズが得られるように設定することが好ましい。
循環路4内の油性媒体の温度は、レンネットによる凝固が生じる温度であればよく、30〜55℃の範囲内が好ましい。油性媒体の温度が高いほど、凝固に要する時間が短い。60℃を超えるとレンネットが失活しやすい。また該油性媒体の温度によって、得られるチーズのテクスチャーが変化するため、好ましいテクスチャーが得られるように設定することができる。該油性媒体の温度は、35〜55℃がより好ましく、40〜50℃がさらに好ましい。
油性媒体の循環路4の保持部14bは、油性媒体の温度が保持されるように、必要に応じて保温手段を備える。
油性媒体中に形成された液滴は、この保持部14b内を移動しながら加熱されて凝固し、粒状のチーズ30となって、保持部14bの出口から固液分離ベルト15上へと排出される。
凝固が抑えられた流動物が、注入部14aで油性媒体中に注入されてから、排出されるまでの時間、すなわちレンネットによる凝固が生じる温度に保持される時間(保持時間)は、該流動物が十分に凝固する範囲で設定できる。製造時間の短縮を図り、また製造ラインを短くして省スペース化を図るうえで、保持時間は短い方が好ましく、10分以内の保持時間で凝乳させることが好ましい。
本発明では、凝固が抑えられた流動物のpH、レンネットの添加量、油性媒体の保持温度、塩化カルシウムの添加量等によって、レンネットによる凝固が進行する速度を制御することができ、1分半〜10分間の保持時間、好ましくは3〜5分の保持時間で凝固させることができる。
本実施形態によれば、原料乳を流路3に連続的に供給し、該流路3内を移動させながらレンネットおよび酸成分を加えて、凝固が抑えられた流動物を得るラインと、循環路14内で油性媒体を循環させながら、該油性媒体中に前記流動物を注入して凝固させるラインによって、粒状チーズを連続的に、しかも短時間で製造することができる。例えば、原料乳を流路3に供給してから、粒状チーズが凝固するまでを、5〜10分間程度で行うことが可能である。
なお、本実施形態のような連続式の製造方法に限らず、例えば、凝固が抑えられた流動物を得るラインをバッチ式で行うこともできる。例えば、容器内で原料乳を撹拌しながらレンネットおよび酸成分を加えて、凝固が抑えられた流動物を得る方法でもよい。
また、油性媒体中で該流動物を凝固させるラインをバッチ式で行うこともできる。例えば、容器内で油性媒体を撹拌させながら、該油性媒体中に流動物を注入して凝固させる方法でもよい。
また本実施形態では、油性媒体中に凝固が抑えられた流動物を供給する方法として、注入する方法を用いたが、滴下でもよい。
また本実施形態では、得られた粒状チーズと油性媒体を分離して、油性媒体を循環させたが、該油性媒体を製品の一部として用いることもできる。すなわち油性媒体を分離せず、該油性媒体中に粒状チーズが含まれている製品形態とすることもできる。この場合は、油性媒体中に液滴を形成してから所定の保持時間が経過した後、油性媒体を冷却する。
またこの場合、食品としての機能性を考慮して、油性媒体にはその他の油性成分、例えばエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)等を含有させてもよい。
本発明で得られる粒状チーズは、例えば粒状チーズ入りドレッシング、粒状チーズ入りスプレッド、粒状チーズ入りバター、粒状チーズ入りデザート等の原料素材として広範囲に利用できる。
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1:粒状チーズの製造]
加熱殺菌済の脱脂乳(カゼインタンパク質濃度3.2%、脂肪率0.1%)をMF膜(孔径0.1μm)で3.5倍濃縮したMF濃縮乳を原料乳(カゼインタンパク質濃度11.2%、脂肪率0.35%、pH6.8、温度20℃)として用いた。
この原料乳を室温(20℃)雰囲気中に設定されている流路3(内径10mmのパイプ)に供給し、流路3内を流量10kg/hで流動させながら、ドージングポンプで濃度1%のレンネット水溶液(ハンセン社製、製品名:HANNILASE、力価:2300IMCU/g)を24mL/hの一定流量で添加した。
引き続きパイプ内を流動させ、レンネットの添加から約30秒後に、濃度5.0%の乳酸水溶液を添加し、スタティックミキサー4で撹拌した。乳酸水溶液の添加量は、スタティックミキサー4の下流に設けたpH計による測定値が6.2となるように調節した。その後、チューブラー式熱交換器で45℃に加温して凝固が抑えられた流動物を得た。
レンネットを添加してから、チューブラー式熱交換器で加温されて45℃に達するまでの時間は約40秒間であった。
チューブラー式熱交換器で45℃に達してから約2秒後に、45℃の植物油が流量20kg/hで流れている循環路14(内径10mmのパイプ)内に、該流動物をノズルを介して間欠的に注入した。注入は、サーボモーター付定量ポンプを用いて行った。注入量は、1回当たり5mLとし、注入の間隔は0.5秒とした。
植物油中に注入されてから、約180秒後に、200メッシュのナイロン製コンベアベルト上に排出させて、粒状チーズと植物油とを分離した。得られた粒状チーズを30℃の温浴槽内に収容し、さらに表面に残った植物油を取り除いた後、袋に充填した。こうして直径2〜3mmの粒状チーズを得た。
なお、植物油中で2つの粒子が合一して直径5mm程度の粒状チーズが形成される場合がある。得られた粒状チーズの中に、このような大径の粒状チーズが含まれている場合、そのまま使用してもよく、篩等を用いて分離、除去することもできる。
[実施例2:粒状チーズ入りドレッシングの製造]
実施例1における植物油としてコーン油(太陽油脂社製)とオリーブオイル(オリタリア社製)とを質量比1:1で混合したものを使用したこと、および200メッシュのナイロン製コンベアベルトを使用しなかったこと以外は実施例1と同一の条件で粒状チーズを製造した。すなわち本例では、製造した粒状チーズを200メッシュのナイロン製コンベアベルトで分離することなく植物油と混合した混合物の状態で得た。該混合物における、粒状チーズと植物油との比率が2:8となるように混合比を調整し、これをドレッシングベースとした。
次いで、ワインビネガー(オーサワジャパン社製)500g、食塩(赤穂化成社製)150g、胡椒(ハウス食品社製)20gを溶け残りがないようによく攪拌して溶解し、上記で得られたドレッシングベース1000gを加えて、さらに攪拌した。この際の攪拌は粒状チーズが破壊されないようにするために、せん断が過度にかからない錨型の攪拌翼を選定し、20〜50rpmの緩やかな回転速度で実施した。
得られた粒状チーズ入りドレッシングを、口径の大きなガラス瓶等の容器に充填した。スプーンですくってサラダにかけたところ、チーズ風味豊かなユニークな食感のサラダとなった。また、このドレッシングを粒状チーズが十分通過する程度の穴が開いたドレッシング用ボトルに充填し、通常の分離型ドレッシングと同様に予め振ってからサラダに振りかけたところ、問題なく使用することができた。
[実施例3:粒状チーズ入りスプレッドの製造]
実施例1で得られた直径2〜3mmの粒状チーズ(200メッシュのナイロン製コンベアベルトで植物油と分離した状態のもの)を使用した。
タンク内で、コーン油(太陽油脂社製)6.4kg、バターオイル(コールマン社製)1.6kg、乳化剤としてグリセリンモノ脂肪酸エステル(太陽化学社製)50gを45℃で溶融し油相部とした。これとは別に、脱脂粉乳(森永乳業社製)200g、食塩(赤穂化成社製)120gを45℃の水1430gに溶解し、水相部とした。前記タンク内の油相部を45℃を維持し攪拌しながら、ここに水相部を添加し、W/O型の乳化液を作成した。この際の攪拌は乳化を促進するためスクリュー型の攪拌翼を用い、500rpmの回転速度で行った。その後、得られた乳化液に実施例1で得られた粒状チーズ200gを添加して攪拌した。この際の攪拌は粒状チーズを破壊しないように低速の100rpmで行った。この粒状チーズ入り乳化液をカキトリ式熱交換器(コンビネーター、シュレーダー社製)で、殺菌および急冷混練し、粒状チーズ入りスプレッドを得た。
1 原料乳タンク、
2 第1のポンプ、
3 流路、
4 撹拌手段、
5 レンネットタンク、
6 第2のポンプ、
7 酸成分タンク、
8 第3のポンプ、
11 油性媒体タンク、
12 温度調節手段、
13 第4のポンプ、
14 循環路、
14a 注入部、
14b 保持部、
15 固液分離ベルト、
16 回収装置、
20 凝固が抑えられた流動物(液滴)、
21 注入装置、
22 ノズル、
30 粒状チーズ、
31 充填機。

Claims (14)

  1. 原料乳、酸成分、および凝乳酵素を含み、酸による凝固および凝乳酵素による凝固が抑えられた流動物を調製する工程と、
    前記流動物の凝固温度以上の油性媒体を流動させながら、該油性媒体中に前記流動物を間欠的に供給して液滴を形成する工程と、
    前記油性媒体中で前記液滴を、前記流動物の凝固温度以上に保持して凝固させる工程を有することを特徴とする粒状チーズの製造方法。
  2. 前記原料乳が、乳を膜で濃縮した濃縮乳である、請求項1記載の粒状チーズの製造方法。
  3. 前記濃縮乳が、乳を精密濾過膜(MF膜)で濃縮処理したMF濃縮乳である、請求項2に記載の粒状チーズの製造方法。
  4. 前記酸による凝固および凝乳酵素による凝固が抑えられた流動物のpHが5.2〜6.4である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の粒状チーズの製造方法。
  5. 前記酸成分として有機酸水溶液または発酵乳を添加する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の粒状チーズの製造方法。
  6. 前記油性媒体の温度が30〜55℃である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の粒状チーズの製造方法。
  7. 前記酸による凝固および凝乳酵素による凝固が抑えられた流動物を調製する工程が、前記原料乳を流路に連続的に供給し、該流路内で原料乳を移動させながら、前記酸成分および凝乳酵素を添加する工程を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の粒状チーズの製造方法。
  8. 前記油性媒体を流路に連続的に供給し、該流路内で油性媒体を移動させることによって、前記油性媒体を流動させる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の粒状チーズの製造方法。
  9. 請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法によって粒状チーズを製造する工程と、前記粒状チーズを飲食品に含有させる工程とを有する、粒状チーズ入り飲食品の製造方法。
  10. 飲食品がドレッシングである請求項記載の粒状チーズ入り飲食品の製造方法
  11. 飲食品がスプレッドである請求項記載の粒状チーズ入り飲食品の製造方法
  12. 原料乳に酸成分および凝乳酵素を添加して、酸による凝固および凝乳酵素による凝固が抑えられた流動物を調製する手段(I)と、
    前記流動物の凝固温度以上の油性媒体を流動させる手段(II)と、
    該油性媒体中に前記流動物を間欠的に供給して液滴を形成する手段(III)とを有することを特徴とする粒状チーズの製造装置。
  13. 前記手段(I)が、原料乳を移動させる流路と、該流路に原料乳を連続的に供給する手段と、該流路内に酸成分を添加する手段と、該流路内に凝乳酵素を添加する手段を含む、請求項12記載の粒状チーズの製造装置。
  14. 前記手段(II)が、油性媒体を移動させる流路と、該流路に油性媒体を連続的に供給する手段を含み、
    前記手段(III)が、該流路内に、前記流動物を間欠的に供給する手段を含む、請求項12または13に記載の粒状チーズの製造装置。
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