JP5581493B2 - 動脈硬化性疾患の検出用バイオマーカーおよび動脈硬化性疾患の検査方法 - Google Patents

動脈硬化性疾患の検出用バイオマーカーおよび動脈硬化性疾患の検査方法 Download PDF

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Description

本発明は、動脈硬化性疾患の検出用バイオマーカーおよび動脈硬化性疾患の検査方法に関する。より詳しくは、動脈硬化性疾患の早期診断・進展予防の確認を可能とする動脈硬化性疾患の検出用バイオマーカーに関し、さらには当該バイオマーカーを検出または定量することを特徴とする動脈硬化性疾患の検査方法に関する。
動脈硬化が原因で発症する各種疾患、例えば、心臓または脳の血管狭窄で発症する虚血性心疾患や脳梗塞は、日本における死因の約30%を占めており、動脈硬化性血管病の予防・診断・治療法の確立は、国民の健康推進活動において極めて重要な課題である。特に21世紀の医療目標は、オーダーメード予防医学である。
動脈硬化の発症には、内皮細胞の障害と酸化LDL(低比重リポ蛋白)等の異常リポ蛋白粒子が関与するが、LDLに対する低下療法の治療効果は約30%程度であり、他の動脈硬化への危険因子に対するアプローチが必要とされている。生活習慣病である高血圧、糖尿病や高トリグリセリド血症等が合併した病態(メタボリックシンドローム)が最近話題となっており、この病態が動脈硬化性心血管病への危険因子となり、治療対象となっている。高トリグリセリド血症の持続により、トリグリセリド(TG)とコレステロールエステル(CE)に富む、動脈硬化惹起性リポ蛋白の蓄積が認められる。
動脈硬化は無症状で進展し、冠動脈壁の内膜等に単球由来のマクロファージが侵入し、このマクロファージは動脈硬化惹起性リポ蛋白を取込み、細胞内にCEを異常蓄積して泡沫細胞になり、粥状動脈硬化巣を形成することが病理学的に確認されている。動脈硬化の進展による破綻と血栓形成で急激な血管障害が生じ、急性心筋梗塞等が発症し、死に至る場合がある。
動脈硬化性疾患の診断は、脈派伝導速度(PWV)測定、頚動脈エコーによる内膜肥厚測定、造影剤を用いる心臓カテーテル検査やMD−CT(multi-detector computed tomography)法の画像検査にて行われ、冠動脈の狭窄度が評価されている。また、炎症マーカーCRP(C-reactive protein)(非特許文献1)や可溶性LOX−1(Lectin-like oxidized LDL receptor-1)(非特許文献2)の血中濃度測定により、心血管イベントとの関連研究も行われている。しかしながら、これらの診断方法は、いずれも動脈硬化性疾患の初期病変の検出には困難性を伴う。
リポ蛋白リパーゼ(Lipoprotein Lipase:LPL、以下単に「LPL」ともいう。)は、脂肪組織などで合成・分泌され、毛細血管の血管内皮細胞表面に存在すると考えられている。LPLは、アポ蛋白C-IIを賦活因子として、循環血液中のリポ蛋白粒子内のTGを分解し、遊離脂肪酸を生成する働きをしている。生じた遊離脂肪酸は、それを必要とする細胞内に取り込まれる。脂肪細胞では、LPLにより分解されて取り込まれた遊離脂肪酸は、アシル-CoAを経て中性脂肪であるTGに再合成され、貯蔵される。
LPLは粥状動脈硬化巣の形成に関与する単球由来のマクロファージにおいても合成・分泌されている。
LPL遺伝子の欠損ヘテロ接合体は、動脈硬化惹起性高TG血症の遺伝素因として考えられる。LPL欠損症は常染色体劣性遺伝形式で遺伝するが、ホモ接合体者は100万人に1人、ヘテロ接合体者は500人に1人といわれている。血中のTGの標準値は50−150mg/dlであるが、ヘテロ接合体者は、粗悪な生活習慣の要因も加わることで、150−800mg/dl程度の高TG血症になる(非特許文献3)。高TG血症状態は、動脈硬化の危険因子となることが報告されている。一方、ホモ接合体者は正常上限値の10倍以上の高TG血症となり、膵炎を発症し、死に至る場合がある(非特許文献4)。
ヒトLPLはLPL遺伝子のエキソン1から9の翻訳領域から作られ(図1A参照)、その構造は公知であり、例えばGenBank Accession No. NP_000228に登録されているものは、アミノ酸残基数475個からなる前駆体LPL蛋白の配列である。これは、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸残基数27個のシグナルペプチドとアミノ酸残基数448個の成熟LPLからなるものである(図1B参照)。ヒト膵臓由来の膵リパーゼが結晶化され、3次元構造が決定されている(非特許文献5)。この構造を基に、ヒトLPLは2つのドメイン(N末部位とC末部位)がβシートで繋がっていると推定されている(図1C参照)。ヒトLPLのN末部位のアスパラギン残基43およびC末部位のアスパラギン残基359が糖鎖付加部位であることが報告されているが、特定の糖鎖を認識できるレクチンによる解析や糖鎖構造解析等は、行われていない(図1C参照)(非特許文献6)。ヒトLPLのC末部位、313−448番目までのアミノ酸からなるフラグメント(136アミノ酸残基)は遺伝子組換え技術により大腸菌において糖鎖を含まない蛋白として人工合成されている(非特許文献7)。この人工合成したLPLのC末部位(313−448)は、LDLレセプター関連蛋白(LRP)およびTGに富むリポ蛋白に結合する部位を含み、リポ蛋白の細胞内への取込みに関与している。更に、人工合成したLPLのC末部位のLRP結合に必要な部位が、378−423番目までのアミノ酸からなる領域との報告がある(非特許文献8)。
ヒトの冠動脈の動脈硬化巣において、TGに富むリポ蛋白である超低比重リポ蛋白やLDLの主要構成蛋白であるアポ蛋白B-100およびLPLが免疫組織化学的に検出されている(非特許文献9)。マウスの実験において、マクロファージに特異的に発現させたヒトLPLが動脈硬化を促進することが報告されている(非特許文献10)。しかしながら、動脈硬化とそれに結びつくLPLの構造との関係については、いかなる種においても、未だ解明されていない。
Circulation; 109; 2818-2825 (2004) Circulation; 112; 812-818 (2005) Progress in Medicine;15; 2343-2357 (1995) The metabolic and molecular bases of inherited disease, McGraw-Hill, New York, pp. 2789-2816 (2001) Nature; 343; 771-774 (1990) J Lipid Research; 35; 1511-1523 (1994) J Biological Chemistry; 269; 8653-8658 (1994) J Biological Chemistry; 269; 31747-31755 (1994) J Biological Chemistry; 275; 5694-5701 (2000) Arterioscler Thromb Vasc Biol.; 21; 1809-1815 (2001)
本発明は、動脈硬化性疾患の発症・進展の診断、さらには当該疾患に対する治療効果や予防・治療薬の薬効などの評価を行うことができる動脈硬化性疾患検出用バイオマーカーを提供することを課題とし、さらには当該バイオマーカーを検査することを特徴とする動脈硬化性疾患の検査方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、ヒト血液中にLPL蛋白のC末部分である20kDaと21kDaの分子が存在することを見出し、これら2種類の分子の違いは、主にLPL蛋白部分に結合している糖鎖に由来することを明らかにした。これらの2種の分子をバイオマーカーとして、検出または定量することにより動脈硬化性疾患を検査しうることを発案し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.リポ蛋白リパーゼのC末部分からなる動脈硬化性疾患の検出用バイオマーカー。
2.リポ蛋白リパーゼのC末部分が、リポ蛋白リパーゼのうち、C末端から数えて142番目までのアミノ酸部分からなる前項1に記載のバイオマーカー。
3.シグナルペプチド部分を含まない成熟リポ蛋白リパーゼを構成する全アミノ酸残基数448個のアミノ酸配列のうち、そのN末端から数えて307−448番目までのアミノ酸部分からなる前項1または2に記載のバイオマーカー。
4.バイオマーカーのアミノ酸配列が、配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列、または前記配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち、1〜複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加および/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなる前項1〜3のいずれか1に記載のバイオマーカー。
5.分子サイズが20kDaまたは21kDaである、前項1〜4のいずれか1に記載のバイオマーカー。
6.分子サイズが20kDaのバイオマーカーのアミノ酸配列の5番目および/または10番目に位置するチロシン残基が、修飾されているチロシン残基であることを特徴とする、前項5に記載のバイオマーカー。
7.生体から生体検体を分離し、当該分離した生体検体について前項1〜6のいずれか1に記載のバイオマーカーを検出または定量することを特徴とする動脈硬化性疾患の検査方法。
8.バイオマーカーの検出または定量を、免疫学的手法および/またはレクチンによる糖鎖検出方法により行う、前項7に記載の検査方法。
9.生体検体が、血液である、前項7または8に記載の検査方法。
10.抗リポ蛋白リパーゼ抗体またはレクチンを含む、前項7〜9のいずれか1に記載の検査方法に用いる検査用試薬。
11.前記抗リポ蛋白リパーゼ抗体は、リポ蛋白リパーゼのC末部分を認識しうる抗体であり、前記レクチンは、リポ蛋白リパーゼのC末部分の糖鎖を認識しうるレクチンである、前項10に記載の検査用試薬。
本発明のLPLのC末部分からなる動脈硬化性疾患の検査用バイオマーカー、具体的には、主に糖鎖の違いによる20kDaと21kDaの2種類の分子サイズを有するアミノ酸部分からなるバイオマーカー(LPL20とLPL21)は、生体検体、具体的には血液中に検出され、動脈硬化性疾患を検出可能である。当該バイオマーカーの検出または定量により、簡便に、動脈硬化性疾患の発症・進展の診断、さらには当該疾患に対する治療効果や予防・治療薬の薬効などの評価を行うことができる。
本発明において、動脈硬化性疾患とは、動脈硬化に起因するあらゆる疾患をいう。動脈硬化は、動脈硬化の発生態様や発生部位によりアテローム(粥状)硬化、細動脈硬化、メンケルベルグ型(中膜)硬化などのタイプに分類される。本発明における動脈硬化は特に限定されないが、特に好適にはアテローム(粥状)硬化に起因するものが挙げられる。動脈硬化性疾患として、例えば動脈硬化そのものも含まれ、さらには動脈硬化に起因する心臓または脳の血管狭窄で発症する心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患や脳梗塞、脳出血、その他大動脈瘤、大動脈解離、腎動脈での腎硬化症やそれによる腎不全、末梢動脈での閉塞性動脈硬化症などが例示される。
本発明の動脈硬化性疾患の検出用バイオマーカーは、これらの疾患の発症に直結するバイオマーカーであり、LPLのC末部分からなる(図1と図2参照)。ここにおいて、LPLのC末部分は、全アミノ酸残基数448個からなる成熟LPLのアミノ酸配列のC末端から数えて142番目までのアミノ酸部分をいい、より具体的には成熟LPLのN末端から数えて307−448番目までのアミノ酸部分をいう(図1と図2参照)。
本発明のバイオマーカーは、成熟LPLのN末端から数えて307−448番目までのアミノ酸部分からなる。本発明のバイオマーカーは、2種類の分子サイズのものに分類され、分子サイズ20kDaのバイオマーカーおよび分子サイズ21kDaのバイオマーカーが挙げられる。以下、本明細書において、分子サイズが20kDaのバイオマーカーを「LPL20」といい、分子サイズが21kDaのバイオマーカーを「LPL21」ということとする(図3および図4参照)。LPL20およびLPL21は、脂肪細胞や単球由来マクロファージ由来のLPLのC末部分からなる。
LPL20とLPL21を、N-Glycosidase Fにより糖鎖切断を行うと、両者は同一の分子サイズ18kDaになる。このことから、両者の分子サイズ1kDaの違いは、主としてLPL蛋白部分に結合している糖鎖の違いによるものであることが示唆される。また、糖鎖の違いのほか、LPL20は、その配列の5番目および/または10番目に位置するチロシン残基が、何らかの物質により修飾されていることを特徴とするが、LPL21は、この修飾を受けていない。ここにおいて、何らかの物質により修飾とは、チロシン残基が修飾されうるものであれば良く、特に限定されないが、例えばリン酸基、スルホ基、ニトロ基などによる修飾が考えられる。
本発明において、全アミノ酸残基数448個からなる成熟LPLのアミノ酸配列は、配列表の配列番号2に示す配列の1−448番目までの配列として表すことができ(図1B参照)、成熟LPLのN末端から数えて307−448番目までのアミノ酸部分は、配列表の配列番号3(図2参照)に示す配列で表すことができる。本発明のバイオマーカーは、動脈硬化性疾患を検出可能であれば、上記アミノ酸配列のうち、1〜複数個、具体的には1〜5個のアミノ酸残基の置換、欠失、付加および/若しくは挿入された変異のある配列であっても差し支えない。この場合において、上記の成熟LPLのN末端から数えて307−448番目までに示されるアミノ酸配列、または配列表の配列番号3に示されるアミノ酸配列の、5番目および/または10番目に該当する位置のアミノ酸残基がチロシン残基であり、修飾されているか、または修飾されていないチロシン残基であることを要する。
本発明は、動脈硬化性疾患の検査方法にも及ぶ。動脈硬化性疾患の検査方法は、生体から生体検体を分離し、その生体検体中に存在する、本発明の動脈硬化性疾患の検出用バイオマーカーを検出または定量することを特徴とする。当該バイオマーカーの検出または定量は、LPL20とLPL21を認識できる免疫学的手法および/またはレクチンによる糖鎖検出方法によることができる。
ここにおいて、免疫学的な手法とは、特に限定されないが、LPLに特異的な抗LPL抗体を用いた手法とすることができる。抗LPL抗体の抗原認識部位は、検査方法により適宜決定することができる。例えば、ウェスタンブロッティングによる検査の場合は、認識すべきバイオマーカーの分子サイズと免疫学的特異性を基に判断するので、LPLに特異的な抗体であれば良く、特定な部位を認識する点については特に限定されないが、特に好適にはLPLのC末部分を認識しうる抗体が挙げられる。ウェスタンブロッティングで検出する場合のバイオマーカーの定量は、検出されたバンドの濃度・面積などを算出することにより行うことができる。他の免疫学的手法としては、特異抗体を用いたサンドイッチ酵素標識抗体法(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay:ELISA)や免疫クロマトグラフィー法などを挙げることができる。
また、レクチンによる糖鎖検出方法に使用されるレクチンついても、検査方法により適宜決定することができる。例えば認識すべきバイオマーカーの分子サイズと糖鎖反応性をもとに判断する場合は、LPLの糖鎖を認識するレクチンであればよい。特に好適には、LPLのC末部分の糖鎖を認識しうるレクチンが挙げられ、具体的にはコンカナバリンA(ConA)などが挙げられる。
本発明の検査方法に付される被験者由来の生体検体は、特に限定されないが、生体への侵襲が少ないものであることが好ましく、例えば、血液、血清、血漿、唾液、精液、粘膜、涙、尿などの人から分泌されるものや、生検から採取されるものが挙げられる。好適には、血液、血清、血漿を挙げることができる。例えば血液中のLPL20とLPL21をバイオマーカーとして検出または定量することにより、動脈硬化性疾患の初期病変を検出することができる。さらに、バイオマーカーを定量し、測定値の変動を確認することで、簡便に、動脈硬化性疾患の発症・進展についての検査を行うことができ、さらには当該疾患に対する治療効果や予防・治療薬の薬効などの評価を行うことができる。
本発明は、上記検査方法に使用しうる動脈硬化性疾患の検査用試薬にもおよび、具体的には抗LPL抗体および/またはLPLの糖鎖を認識できるレクチンを含む検査用試薬にもおよぶ。免疫学的手法に使用される抗LPL抗体は、自体公知の方法により作製することができる。感度よく定量する場合には、抗LPL抗体の特異性を上げることが望ましく、例えばLPLのC末部分を認識しうる抗体とするのが好適である。また、レクチンによる糖鎖検出方法の場合は、レクチンの特異性を上げることが望ましく、例えばLPLのC末部分を認識しうるレクチンを用いることが好適である。さらには、LPL20とLPL21の識別が可能な抗体および/またはレクチンを用いるのがより好適である。本発明は、このような抗体またはレクチンを含む試薬にも及び、さらにはこのような試薬を含む動脈硬化性疾患の検査用キットにも及ぶ。
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の理解を深めるために具体例を示して説明するものであり、特許請求の範囲を限定するものではないことは明らかである。
(実施例1)ウェスタンブロッティング−抗体染色法によるバイオマーカーの検出
生体検体として、ヒト血液を採取し、ウェスタンブロッティング−抗体染色法により血液中のバイオマーカーを確認した。
1)血液検体の処理
ヒトから血液検体を40ml採血し、血清または血漿を20ml得た。LPLのC末部位を特異的に認識するマウス抗ヒトLPLモノクローナル抗体(B4D4)を結合させたアガロース樹脂(樹脂1mlあたりモノクローナル抗体、1.9mgが結合している)、0.6mlをカラムに充填した。この作製したマウス抗ヒトLPLモノクローナル抗体アフィニティーカラムに、上記血清を通し、リン酸緩衝液でカラムに結合しない蛋白等を洗い流し、カラムに結合した蛋白(特異的にLPL蛋白が結合している)を酸性溶液で溶出して、濃縮したLPLを含む試料を調製した(図3参照)。マウス抗ヒトLPLモノクローナル抗体(B4D4)は、特公平6−2075号公報(特許第1879346号)に記載のものを使用した。
2)ウェスタンブロッティング−抗体染色法
調製した上記試料を、12%SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により分離し、ゲル内の蛋白等をニトロセルロース膜に電気的に転写させた。転写後のニトロセルロース膜に存在するLPL蛋白をLPLのC末部位を特異的に認識する特異的なHRP(Horseradish Peroxidase)標識マウス抗ヒトLPLモノクローナル抗体(D2B2)と反応させた。反応後の膜をHRP酵素に対する化学発光検出試薬(ECL plus(R))と反応させ、化学発光量をルミノ・イメージアナライザー(LAS-1000(R))により解析し、LPL蛋白を検出・定量した(図3参照)。
ウェスタンブロッティング−抗体染色法の結果を図4に示した。上記試料のブロッティング結果により、20kDaおよび21kDaの位置にバイオマーカーとしてのLPL20とLPL21バンドが検出された。脂質水解活性を有するLPL分子は、分子サイズ約61kDaの蛋白質であるが、N末部位とC末部位の間で、蛋白分解酵素により分解されて、N末部位とC末部位になる。ブロッティング結果により検出されたLPL20とLPL21のバンドは、LPLのC末部位を特異的に認識するモノクローナル抗体により検出されているので、LPLのC末部位に由来するものである。LPL20とLPL21の分子サイズの差は、主として、LPL蛋白部分に結合している糖鎖の違いによるものである。
(実施例2)ウェスタンブロッティング−レクチン染色法によるバイオマーカーの検出
生体検体として、ヒト血液を採取し、レクチンによる糖鎖検出法により血液中のバイオマーカーを確認した。
1)血液検体の処理
実施例1と同手法により処理し、試料を調製した。
2)ウェスタンブロッティング−レクチン染色法
調製した上記試料を、実施例1と同手法により、12%SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により分離し、ゲル内の蛋白等をニトロセルロース膜に電気的に転写させた。転写後のニトロセルロース膜に存在するLPL蛋白を、ALP(Alkaline phosphatase)標識レクチン(コンカナバリンA;ConA)と反応させた。反応後の膜をALP酵素に対する発色試薬であるBCIP/NBTと反応させ、色素発色量をルミノ・イメージアナライザー(LAS-1000(R))により解析し、LPL蛋白を検出・定量した(図3参照)。
ウェスタンブロッティング−レクチン染色法の結果を図4に示した。レクチン(ConA)によっても、実施例1の抗LPL抗体によって検出されたLPL20とLPL21蛋白と同様に、20kDaおよび21kDaの位置にバイオマーカーとしてのバンドが検出された。
(実施例3)LPL20およびLPL21の解析
実施例1で検出されたバイオマーカーについて、Procise(R)(Applied Biosystems社)を用いた自動化エドマン反応により、N末端からのプロテインシーケンシングシステム解析を行った。その結果、これらのバイオマーカーのアミノ酸配列は、両者同一であり、全アミノ酸残基数448個からなる成熟LPLのアミノ酸配列(配列番号2)のうち、N末端から数えて307−448番目までのアミノ酸部分(配列番号3)であることが確認された。得られた配列についてさらに解析を行った結果、LPL20については、そのN末端から数えて311番目と316番目(すなわち、LPL20バイオマーカー蛋白のN末端から数えて5番目および10番目)のチロシン残基が、何らかの修飾を受けていることが示唆された(図2)。
(実施例4)健常者および動脈硬化既往歴を有する者からのLPL20とLPL21バイオマーカーの解析
生体検体として、健常者2名(1、2)および動脈硬化既往歴を有する者2名(3、4)から血液を採取し、ウェスタンブロッティング−抗体染色法によりバイオマーカーを確認した。血液検体の処理およびウェスタンブロッティングは、実施例1と同手法により行った。
その結果を図5に示した。全ての試料より21kDaに位置するLPL21を検出し、健常者、既往歴者のいずれにも存在することを認めたが、20kDaに位置するLPL20については、既往歴者については明らかに検出されたが、健常者には検出されないか、ごくわずかに検出されたのみであった。これにより、LPL20とLPL21の定量比率あるいはLPL20の単独定量値が、動脈硬化性疾患の検出用バイオマーカーとなりうることが示唆された。
上記各実施例から得られた結果より、動脈硬化発症の過程におけるLPL20とLPL21の役割について考察したものを図6と図7に示した。
冠動脈等の内皮細胞障害部位の内膜内に単球由来のマクロファージが侵入し、マクロファージは動脈硬化惹起性リポ蛋白を取込み、細胞内にCEを異常蓄積して泡沫細胞になり、粥状動脈硬化初期病変を形成する(図6参照)。マクロファージ細胞は、リポ蛋白のTGを水解する分子サイズ61kDaの成熟LPL蛋白(活性中心を含むN末部位と基質結合部位を含むC末部位からなる)を分泌し、成熟LPLは動脈硬化惹起性リポ蛋白(TGとCEに富む)のTGを水解後、蛋白分解酵素で切断され、C末部位のLPL20とLPL21蛋白になる。LPL20とLPL21蛋白は、動脈硬化惹起性リポ蛋白に結合し、レセプターへのリガンドとなり、動脈硬化惹起性リポ蛋白を細胞内に取込む役割をすると共に一部は循環血中に放出されると考えられる(図6参照)。このLPL20とLPL21蛋白は、LDLのマクロファージへの取込みにおいても関与している可能性がある。動脈硬化巣の内膜内に侵入した単球由来マクロファージ細胞の増加に伴い、動脈硬化の発症・進展・破綻に至る。これらすべてのステージにおいて、マクロファージから由来するLPL20とLPL21蛋白が、動脈硬化性疾患の発症予知(早期診断)・進展度の予測・治療効果の判定に有効な血液検体を用いた生化学的検査法によるバイオマーカーになると期待される(図7参照)。
本発明のバイオマーカーおよび検査方法によれば、患者の血液検体を用いて、非侵襲的に、かつ高精度・高感度に動脈硬化性疾患の発症・進展の診断、さらには当該疾患に対する治療効果や予防・治療薬の薬効などの評価を行うことができる。これにより、従来は動脈硬化性疾患の予測が不可能な場合でも、より早期に予防的処置や早期治療を開始することができる。また、動脈硬化の初期病変のうちに生活習慣改善や薬物療法により、動脈硬化進展の遅延や阻止が可能となる。さらには、それらの処置による動脈硬化の退縮等の状態を、バイオマーカーの検出または定量により確認することができ、生活習慣改善への意欲の活性化につなげることができる。
ヒトLPL遺伝子および前駆体LPL蛋白(475アミノ酸)の構造と、成熟LPL蛋白(448アミノ酸)のN末部位、C末部位の構造を示す図である。 バイオマーカーとして検出された、同じアミノ酸配列をもつが糖鎖の違いがあるLPL20とLPL21バイオマーカーのアミノ酸配列を示す図である。(実施例3) ヒト生体検体としての血液からのLPL20とLPL21バイオマーカーの検出方法を示す図である。(実施例1、2) ウェスタンブロッティング−抗体染色法または−レクチン染色法による血液試料からのLPL20とLPL21バイオマーカー検出結果を示す図である。(実施例1、2) 健常者および動脈硬化既往歴を有する者についてのLPL20とLPL21バイオマーカーの解析結果を示す図である。(実施例4) 動脈硬化巣における単球由来マクロファージからのLPL20およびLPL21蛋白とその役割を示す図である。 LPL20とLPL21をバイオマーカーとしたときの動脈硬化の発症・進展・破綻の予測および治療効果の確認可能性を示す図である。

Claims (7)

  1. リポ蛋白リパーゼのC末部分からなる動脈硬化性疾患の検出用バイオマーカーであって、リポ蛋白リパーゼのC末部分が、リポ蛋白リパーゼのうち、C末端から数えて142番目までのアミノ酸部分からなり、分子サイズが20kDaである、バイオマーカー。
  2. シグナルペプチド部分を含まない成熟リポ蛋白リパーゼを構成する全アミノ酸残基数448個のアミノ酸配列のうち、そのN末端から数えて307−448番目までのアミノ酸部分からなる請求項1に記載のバイオマーカー。
  3. 前記バイオマーカーのアミノ酸配列が、配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列、または前記配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち、1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加および/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなり、前記バイオマーカーが動脈硬化性疾患を検出可能なものである、請求項1または2に記載のバイオマーカー。
  4. 前記バイオマーカーのアミノ酸配列の5番目および/または10番目に位置するチロシン残基が、修飾されているチロシン残基であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1に記載のバイオマーカー。
  5. 生体から分離された生体検体について請求項1〜4のいずれか1に記載の前記バイオマーカーを検出または定量することを特徴とし、前記バイオマーカーが検出された場合、または、前記バイオマーカーの量が健常者と比較して多く検出された場合に、動脈硬化性疾患であると判定される、動脈硬化性疾患の検出用バイオマーカーの検査方法。
  6. 前記バイオマーカーの検出または定量を、免疫学的手法および/またはレクチンによる糖鎖検出方法により行う、請求項5に記載の検査方法。
  7. 生体検体が、血液である、請求項5または6に記載の検査方法。
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