JP5570131B2 - 磁性微粒子、その製造方法及びその製造装置並びに腫瘍細胞破壊用磁性微粒子、細胞破壊方法、細胞破壊装置及び治療装置 - Google Patents

磁性微粒子、その製造方法及びその製造装置並びに腫瘍細胞破壊用磁性微粒子、細胞破壊方法、細胞破壊装置及び治療装置 Download PDF

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Description

本発明は、新規な形状の磁性微粒子、その製造方法及びその製造装置に関する。さらに、本発明は、腫瘍細胞を選択的に破壊するのに好ましく用いることができる磁性微粒子、その磁性微粒子を用いた細胞破壊方法、細胞破壊装置及び治療装置に関する。
下記特許文献1には、スパッタリングで生成したスパッタ蒸気を50原子%以上の高い割合で超微粒子堆積膜として消費できる、ガスフロースパッタリング装置が提案されている。このガスフロースパッタリング装置では、キャリアガスの流量調整等により、堆積膜を形成する数nmオーダーの超微粒子の粒径や堆積速度を制御できることが記載されている。
一方、下記特許文献2には、標的細胞に特異的に結合可能であり、外刺激を受けると移動可能な粒子と、標的細胞に特異的に結合した粒子に外刺激を付与して該粒子を移動させ、標的細胞を破砕させる標的細胞破砕手段とを有する細胞破砕装置が提案されている。さらに、標的細胞に特異的に結合可能であり、外刺激を受けると移動可能な粒子を、標的細胞を含む試料中に添加させ標的細胞に特異的に結合させる粒子結合工程と、標的細胞に特異的に結合した粒子に外刺激を付与して粒子を移動させ、標的細胞を破砕させる標的細胞破砕工程とを含む細胞破砕方法も提案されている。
特開2000−87226号公報 特開2004−49105号公報
(第1の課題)上記特許文献1に記載のガスフロースパッタリング装置及び方法は、数nmの微粒子を発生させ、その微粒子で堆積膜を形成する技術である。本発明者は、このガスフロースパッタリング装置及び方法を用いて鋭意研究している過程で、従来にはない新しい形状からなる微粒子の生成に成功した。
本発明の第1の課題は、種々の用途に効果的に利用可能な新規な形状の磁性微粒子、その製造方法及びその製造装置を提供することにある。
(第2の課題)上記特許文献2に記載の細胞破壊技術(装置及び方法)は、粒径が0.5〜10μmの磁性ビーズ等を標的細胞の表面に特異的に結合させ、結合させた磁性ビーズ等を磁場で移動させて標的細胞を破壊するものである。しかしながら、本発明者は、新しい特徴的な形態からなる磁性微粒子を用いることにより、同文献2とは全く異なる原理で腫瘍細胞を破壊できることを見出した。
本発明の第2の課題は、腫瘍細胞を選択的に破壊するのに好ましく用いることができる新規形状の磁性微粒子、その磁性微粒子を用いた細胞破壊方法、細胞破壊装置及び治療装置を提供することにある。
(1)上記課題を解決するための本発明に係る磁性微粒子は、コア部と該コア部の周りにある多数のヒゲ状突起とからなり、該ヒゲ状突起を含む粒子径に対する前記ヒゲ状突起の長さの割合が5%以上30%以下であることを特徴とする。
新しく完成させた本発明の磁性微粒子によれば、コア部とそのコア部の周りにある多数のヒゲ状突起とからなるので、ヒゲ状突起の無い球状粒子とは異なり、例えば生体細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされた後に外部から変換磁場等を加えた場合に物理的な振動運動を起こして選択的に腫瘍細胞のみを破壊できたり、例えば生体細胞構造に特異的に発現している抗原に親和性のある物質をヒゲ状突起に吸着乃至付加して該当箇所に運ぶことができたり、例えばヒゲ状突起を利用して薬剤開発の磁気分離用途微粒子として用いたり、例えばヒゲ状突起を利用したドラックデリバリーとして用いたりすることが可能となる。
本発明に係る磁性微粒子の好ましい態様は、前記ヒゲ状突起を含む粒子径の平均が100nm以上300nm以下の範囲内である、ように構成する。こうした極めて微細な微粒子は、例えば細胞に貪食又はエンドサイトーシスされ、細胞内に取り込まれ易い。
本発明に係る磁性微粒子の好ましい態様は、前記コア部の周りにある前記ヒゲ状突起長が、長い領域と短い領域とに分かれている、ように構成する。
本発明に係る磁性微粒子の好ましい態様は、ガスフロースパッタ法で形成された鉄微粒子である、ように構成する。この鉄微粒子は飽和磁化がおよそ1490emu/cmと高い微粒子であり、外部磁場により鋭敏に作用する。
(2)上記課題を解決するための本発明に係る磁性微粒子の製造方法は、ターゲットから放出されたスパッタ蒸気を、スパッタガス又は必要に応じてスパッタガスにキャリアガスを加えたガスの流れとして移送し、その移送過程で前記スパッタ蒸気を凝縮させ、得られた磁性微粒子を回収部で回収する磁性微粒子の製造方法であって、
前記移送過程の所要時間Tを、前記磁性微粒子の周りに多数のヒゲ状突起が生じるまで長くする移送時間調整手段を有することを特徴とする。この発明によれば、移送時間調整手段により、周りに多数のヒゲ状突起を有する磁性微粒子を容易に製造することができる。
前記の発明において、前記移送時間調整手段を、スパッタ圧を上げてガス流に乱流を生じさせ、ターゲットから回収部までの移送時間を長くしてヒゲ状突起を形成する手段、又は、ターゲットから回収部までの距離を変化させてヒゲ状突起を形成する手段である、ように構成することが好ましい。
(3)上記課題を解決するための本発明に係る磁性微粒子の製造装置は、スパッタ蒸気を発生させる中空状のターゲットと、該中空状のターゲット内にスパッタガスを導入するスパッタガス導入孔と、発生したスパッタ蒸気を前記スパッタガス導入孔から導入されたスパッタガス又は必要に応じてスパッタガスにキャリアガスを加えたガスの流れとして移送し、その移送過程で前記スパッタ蒸気を凝縮させ、得られる磁性微粒子の周りに多数のヒゲ状突起が生じるまでの移送時間に調整する調整装置と、前記磁性微粒子を回収する回収部と、を備えることを特徴とする。この発明によれば、移送時間調整装置により、周りに多数のヒゲ状突起を有する磁性微粒子を容易に製造することができる。
前記の発明において、前記調整装置が、スパッタ圧を上げてガス流に乱流を生じさせ、前記ターゲットから前記回収部までの移送時間を長くして前記ヒゲ状突起を形成する圧力可変装置、又は、前記ターゲットから前記回収部までの距離を変化させて前記ヒゲ状突起を形成する移送長可変装置である、ように構成することが好ましい。
(4)上記課題を解決するための本発明に係る腫瘍細胞破壊用磁性微粒子は、コア部と該コア部の周りにある多数のヒゲ状突起とからなり、腫瘍細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされて外部から加わる変換磁場により該腫瘍細胞を破壊することを特徴とする。
この発明によれば、腫瘍細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされた磁性微粒子は、ヒゲ状突起の無い球状粒子とは異なり、外部から変換磁場を加えた場合に物理的な振動運動を起こして選択的に腫瘍細胞を破壊することが可能となる。
本発明に係る腫瘍細胞破壊用磁性微粒子の好ましい態様は、前記ヒゲ状突起を含む粒子径に対する該ヒゲ状突起の長さの割合が5%以上30%以下であり、該ヒゲ状突起を含む粒子径の平均が100nm以上300nm以下の範囲内である、ように構成する。
本発明に係る腫瘍細胞破壊用磁性微粒子の好ましい態様は、前記ヒゲ状突起には、生体細胞構造に特異的に発現している構成タンパク若しくは糖鎖抗原に対して親和性又は障害性のある物質が付加されている、ように構成する。この発明において、前記構成タンパク若しくは糖鎖抗原に対して親和性のある物質が、(i)細胞膜内外あるいは貫通するタンパク若しくは糖鎖抗原に対する抗体又は親和性タンパク、(ii)リボゾーム膜抗原若しくはリソゾーム膜抗原に対する抗体又は親和性タンパク、(iii)ミトコンドリア膜若しくは原形質に対するBAX又はP53タンパク、及び、(iv)核膜に分布する抗原に対する抗体又は親和性タンパク、から選ばれるいずれかである。
この発明によれば、ヒゲ状突起には、生体細胞構造に特異的に発現している構成タンパク若しくは糖鎖抗原に親和性又は障害性のある物質が付加(吸着の意味も含む。)しているので、細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされた磁性微粒子がそれぞれ特有の振る舞いをし、所望の部分(細胞膜、リソゾーム、ミトコンドリア又は核膜等)を破壊することができる。
(5)上記課題を解決するための本発明に係る細胞破壊方法は、コア部と該コア部の周りにある多数のヒゲ状突起とからなる磁性微粒子が細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされるステップと、外部から変換磁場を印加して前記細胞に物理的応力を与え、前記細胞のうち破壊しようとする標的細胞を選択的に破壊させるステップと、を有することを特徴とする。
この発明によれば、腫瘍細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされた磁性微粒子は、ヒゲ状突起の無い球状粒子とは異なり、外部から変換磁場を印加して磁性微粒子に物理的応力を与えることにより物理的な振動運動を起こして選択的に腫瘍細胞を破壊することが可能となる。
本発明に係る細胞破壊方法の好ましい態様は、前記ヒゲ状突起を含む粒子径の平均が100nm以上300nm以下の範囲内である、ように構成する。
(6)上記課題を解決するための本発明に係る細胞破壊装置は、コア部と該コア部の周りにある多数のヒゲ状突起とからなり、細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされ、変換磁場を受けて該細胞に物理的応力を与える磁性微粒子と、前記細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされた後の磁性微粒子に変換磁場にて物理的応力を与え、前記細胞のうち破壊しようとする標的細胞を選択的に破壊させる変換磁場装置と、を少なくとも有することを特徴とする。
この発明によれば、腫瘍細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされた磁性微粒子は、ヒゲ状突起の無い球状粒子とは異なり、外部から変換磁場を印加して磁性微粒子に物理的応力を与えることにより物理的な振動運動を起こして選択的に腫瘍細胞を破壊することが可能となる。
本発明に係る細胞破壊装置の好ましい態様は、前記ヒゲ状突起を含む粒子径に対する該ヒゲ状突起の長さの割合が5%以上30%以下であり、該ヒゲ状突起を含む粒子径の平均が100nm以上300nm以下の範囲内である、ように構成する。
(7)上記課題を解決するための本発明に係る治療装置は、上記本発明に係る細胞破壊装置を少なくとも有し、該細胞破壊装置が備える変換磁場装置の印加磁場条件を制御して腫瘍細胞を選択的に破壊することを特徴とする。
(1)本発明の磁性微粒子によれば、コア部とそのコア部の周りにある多数のヒゲ状突起とからなるので、ヒゲ状突起の無い球状粒子とは異なり、例えば生体細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされた後に外部から変換磁場等を加えた場合に物理的な振動運動を起こして選択的に腫瘍細胞のみを破壊できたり、例えば生体細胞構造に特異的に発現している抗原に親和性のある物質をヒゲ状突起に吸着乃至付加して該当箇所に運ぶことができたり、例えばヒゲ状突起を利用して薬剤開発の磁気分離用途微粒子として用いたり、例えばヒゲ状突起を利用したドラックデリバリーとして用いたりすることが可能となる。
(2)本発明の磁性微粒子の製造方法によれば、移送時間調整手段により、周りに多数のヒゲ状突起を有する磁性微粒子を容易に製造することができる。
(3)本発明の磁性微粒子の製造装置によれば、移送時間調整装置により、周りに多数のヒゲ状突起を有する磁性微粒子を容易に製造することができる。
(4)本発明の腫瘍細胞破壊用磁性微粒子によれば、腫瘍細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされた磁性微粒子は、ヒゲ状突起の無い球状粒子とは異なり、外部から変換磁場を加えた場合に物理的な振動運動を起こして選択的に腫瘍細胞を破壊することが可能となる。
(5)本発明の細胞破壊方法によれば、腫瘍細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされた磁性微粒子は、ヒゲ状突起の無い球状粒子とは異なり、外部から変換磁場を印加して磁性微粒子に物理的応力を与えることにより物理的な振動運動を起こして選択的に腫瘍細胞を破壊することが可能となる。
(6)本発明の細胞破壊装置によれば、腫瘍細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされた磁性微粒子は、ヒゲ状突起の無い球状粒子とは異なり、外部から変換磁場を印加して磁性微粒子に物理的応力を与えることにより物理的な振動運動を起こして選択的に腫瘍細胞を破壊することが可能となる。
(7)本発明の治療装置によれば、細胞破壊装置が備える変換磁場装置の印加磁場条件を制御するだけで、腫瘍細胞を選択的に破壊することができる。
本発明の磁性微粒子の一例を示す模式図である。(A)は外観図であり、(B)は断面図である。 本発明の磁性微粒子の例を示す透過型電子顕微鏡写真である。 本発明の磁性微粒子の他の例を示す透過型電子顕微鏡写真である。 本発明の磁性微粒子のさらに他の例を示す透過型電子顕微鏡写真である。 本発明の磁性微粒子の製造装置を示す模式的な構成原理図である。 磁性微粒子の製造装置のターゲットホルダ周辺構造の一例を示す模式断面図である。 磁性微粒子において、コア部の周りにあるヒゲ状突起長が長い領域Aと短い領域Bとに分かれている態様の説明図である。 本発明の腫瘍細胞破壊用磁性微粒子の模式的な説明図である。 抗体を付加した腫瘍細胞破壊用磁性微粒子の説明図である。 従来(比較実験例5)の腫瘍細胞破壊用磁性微粒子(粒径4500nmの磁性ビーズ)が細胞膜に付着した態様を示す模式的な説明図である。 得られた磁性微粒子の粒度分布の結果である。 比較実験例6における4種の磁性粒子を用いたときの各腫瘍細胞に対する抗腫瘍効果の結果である。
次に、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明は、その技術的思想を含む範囲を包含し、以下に示す説明や図面等に限定されない。
[磁性微粒子、その製造方法及びその製造装置]
先ず、種々の用途に効果的に利用可能な新規な形状の磁性微粒子、その製造方法及びその製造装置について説明する。
(磁性微粒子)
磁性微粒子1は、図1〜図4に示すように、コア部2とそのコア部2の周りにある多数のヒゲ状突起3とからなる微粒子であり、その外観から、イガグリ状又は鋸歯状の微粒子ということができる。図1(A)は模式的な外観図であり、図1(B)は模式的な断面図である。また、図2〜図4は透過型電子顕微鏡(TEM)像である。磁性微粒子1の形状は、真球形、球形(真球形を除く。)又は楕円球形等である。
磁性微粒子1を構成するヒゲ状突起3の長さの割合は、磁性微粒子1の平均粒子径Dに対して5%以上、30%以下であることが好ましい。この長さの割合(%)は、[(ヒゲ状突起3の長さLの平均)/(磁性微粒子1の直径Dの平均)]×100、で表される。ここで、磁性微粒子1の直径Dは透過型電子顕微鏡写真から測定でき、その平均径は、複数の方向(例えば4方向又は6方向等)から測定した磁性微粒子1の直径Dの平均値を用いた。また、ヒゲ状突起3の長さLも透過型電子顕微鏡写真から測定でき、その平均長さは、複数(例えばn=5以上。例えば5〜20程度。)のヒゲ状突起3の長さLを測定し、その平均値を用いた。
ヒゲ状突起3を含む磁性微粒子1は、その粒子径Dの平均が100nm以上300nm以下の範囲内である。本発明の磁性微粒子1は、この範囲の平均粒子径Dを有する極めて微細な微粒子を再現性よく得ることができる。なお、本発明の磁性微粒子1は、その100nm以上300nm以下の範囲の全てを平均粒子径Dとすることもできるし、後述の実験例で示すように、100nm以上300nm以下の範囲を粒度分布とする平均粒子径約200nmの磁性微粒子1とすることもできる。平均粒子径Dのコントロールは、後述する磁性微粒子1の製造条件により行うことができる。詳細は後述する。
磁性微粒子1の粒子径Dの平均が100nm以上300nm以下の場合のコア部2の直径dは、磁性微粒子1の粒子径Dに対するヒゲ状突起3の長さLの割合が5%以上30%以下であることから、最小で40nm(100nmの40%)であり、最大で270nm(300nmの90%)である。後述の実験例の条件では、コア部2の直径dは、140nm以上180nm以下のものが比較的多かった(後述の表1参照)。なお、この範囲は製造条件により任意に調整可能である。
ヒゲ状突起3の長さLの平均は、磁性微粒子1の粒子径Dに対するヒゲ状突起3の長さLの割合が5%以上30%以下であることから、最小で5nm(100nmの5%)であり、最大で90nm(300nmの30%)であるが、中にはこの範囲外のものも含まれていてもよい。一方、平均ではなく、磁性微粒子1の周りにある個々のヒゲ状突起3の長さLの範囲としては、最小で2nm程度、最大で150nm程度であるが、10nm以上100nm以下のものが比較的多かった(後述の表1参照)。また、ヒゲ状突起3の直径は、5nm以上15nm以下の極めて微細な径からなる。こうした微細な径のヒゲ状突起3は、コア部2の周りに無数(カウント不能)に存在している。
磁性微粒子1の形成材料としては、鉄、ニッケル、コバルト、鉄ニッケル合金、鉄コバルト合金、鉄白金合金等を挙げることができる。特に強磁性体である鉄からなる磁性微粒子1は、後述の実験例に示すように、飽和磁化が1490emu/cmであり、バルクの鉄の1720emu/cmの約90%という高い飽和磁化を示す。こうした高い磁気特性を有する磁性微粒子1は、変換磁場(交流磁場又はパルス磁場ともいう。)によって鋭敏に作用させることができ、後述する腫瘍細胞破壊用磁性微粒子として好ましく利用することができる。
以上、ヒゲ状突起3を有する磁性微粒子1は従来報告されておらず、新しい磁性微粒子1ということができ、その用途は多様であると考えられる。例えば後述するように、生体細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされた後に外部から変換磁場等を加えた場合に物理的な振動運動を起こして選択的に腫瘍細胞のみを破壊する腫瘍細胞破壊用磁性微粒子として用いることが可能である。
また、そのヒゲ状突起3を利用して薬剤開発の磁気分離用途微粒子として用いる場合や、そのヒゲ状突起3を利用したドラックデリバリーとして用いたりする場合には、生理活性物質とヒゲ状突起3との結合を高めることができると期待されるので、ヒゲ状突起3を持たない従来の磁性微粒子に比べて、その効果を高めることができるという利点がある。
また、得られた磁性微粒子1を磁性流体に適用すれば、磁場を印加した際に磁性微粒子1のヒゲ状突起3が絡み合って高い粘性を得ることができると期待される。その結果、弱い磁場でも大きな粘性変化を得ることができると期待でき、磁場によって粘性変化を生じさせるダンパー等を低電力で駆動させることが期待できる。
また、得られた磁性微粒子1はヒゲ状突起3の存在により極めて大きな表面積を有するので、例えばCVD法によるカーボンナノチューブの製造に用いる磁性粒子触媒として期待できる。なお、従来の磁性粒子触媒は基板上に二次元的に配置されているため、多量のカーボンナノチューブの製造には適さなかった。
(製造方法、製造装置)
最初に、磁性微粒子1の製造装置について説明する。図5は、磁性微粒子1を製造するガスフロースパッタ装置10の模式的な構成図であり、図6は、磁性微粒子1の製造装置10のターゲットホルダ周辺構造を示す模式断面図である。
磁性微粒子1の製造装置10は、図5に示す真空容器15で構成されており、スパッタ蒸気1’を発生させる中空状のターゲット11と、その中空状のターゲット11内にスパッタガスを導入するスパッタガス導入孔13と、発生したスパッタ蒸気1’を、前記スパッタガス導入孔13から導入されたスパッタガス又は必要に応じてスパッタガスにキャリアガスを加えたガスの流れとして移送し、その移送過程で前記スパッタ蒸気1’を凝縮させ、得られる磁性微粒子1の周りに多数のヒゲ状突起が生じるまでの移送時間に調整する調整装置(図示しない)と、得られた磁性微粒子1を回収する回収部16と、を備える。
なお、ターゲット11とスパッタガス導入孔13は、真空容器15の壁面に取り付けられているが、こうした態様に限定されない。また、図5中、符号17は圧力調整用バルブであり、符号18は真空ポンプである。
図6は、磁性微粒子1の製造装置10のターゲットホルダ周辺構造の一例を示す模式断面図である(なお、図6の例は一例であって、この態様のみに限定されない。)。すなわち、製造装置10のターゲットホルダ周辺構造は、図6に示すように、円筒等の中空状ターゲット11が内挿されたターゲットホルダ40と、絶縁部材21を介して前記ターゲットホルダ40に押圧され、スパッタガス導入孔13が形成されているカップリング32と、前記ターゲット出側で絶縁部材22を介して前記ターゲットホルダ40に押圧された真空容器15と、を少なくとも有している。
ターゲットホルダ40は、円筒等の中空状ターゲット11を保持する構造物であり、その管壁に空洞部41が形成されている。空洞部41は、給水口42,排水口43を介して冷却水源(図示せず)に接続されている。ターゲットホルダ40は、スパッタリングで発生したスパッタ蒸気をスパッタガスの流れに乗せて効率よく移送するため、例えば4〜7mmの内径,10〜50mmの長さをもつものが好ましい。
ターゲットホルダ40は、絶縁部材21,22を介して真空容器15とカップリング32との間に狭持されている。ターゲットホルダ40の側面に、更に第2の絶縁部材23,24が配置されている。第2の絶縁部材23,24は、第1の絶縁部材21,22と正確に噛み合っており、真空容器15とカップリング32との間でターゲットホルダ40を完全に絶縁している。
ターゲットホルダ40の内周面に、円筒等の中空状のターゲット11が取り付けられる。ターゲット11は、ターゲットホルダ40との導通を図るために、例えば厚さ0.2mm程度のアルミ箔を周囲に巻き付けた状態でターゲットホルダ40に密着させて挿入することが好ましい。ターゲット11としては、ターゲットホルダ40の内径に合致した外径をもつ限り、種々の内径をもつものが使用できる。
カップリング32には、スパッタガスGの導入孔13が形成されている。ターゲット出側には、必要に応じて真空容器15に一体化されたカバー35が配置される。カバー35は、ターゲット11を中心とする同心円状の開口部36をもち、開口部36の周縁には必要に応じて供給されるキャリアガス吹込み用の小径の噴出孔37が円周方向等間隔で必要に応じて設けられている。なお、装置内部の真空を維持するため、ターゲットホルダ40,真空容器15とカップリング32の間には、Oリング(図示せず)を介装している。
本発明に係る磁性微粒子を得るためには、装置内部を所定の圧力(後述の実験例では1300〜1600Pa程度)の真空雰囲気にした後、ターゲットホルダ40に放電電圧を印加する。これにより、ターゲット11の内面がスパッタリングされる。スパッタリングにより生成した蒸気は、ガス導入孔13からのスパッタガスGによって外部に放出される。スパッタリング時、放電によってターゲット11が加熱されるが、加熱によって膨張したターゲット11は、水冷されているターゲットホルダ40に密着するためターゲット11の融点よりも十分低い温度に維持される。しかも、ターゲットホルダ40との電気的接触が十分に図られる。そのため、安定条件下での長時間運転が可能になる。
ターゲット11から放出されたスパッタ蒸気は、スパッタガスG(又は必要に応じてスパッタガスGにキャリアガスCを加えたガス)の流れによって、ターゲット軸方向に沿った流れとして回収部16の方向に送り出される。送り出されたスパッタ蒸気は、ガス流が乱流となって回収部16の方向に移送される過程で衝突等して凝縮し、本発明に係る磁性微粒子1が得られる。
なお、回収部16は、得られた磁性微粒子1を回収するためのものであり、例えば、ガラス基板や銅メッシュ等を好ましく挙げることができるが、磁性微粒子1を回収できればそれ以外のものであっても構わない。通常のスパッタリング装置では、この回収部16の位置には、成膜対象となる基板が配置されるが、本発明では堆積膜を成膜することは目的としていないので、「回収部16」が設けられる。この回収部16を基板(例えばガラス基板等)としてもよいが、そのときに基板上には磁性微粒子1は堆積せず、「付着」する態様で回収される。磁性微粒子1を付着した回収部16は真空容器15内から取り出され、回収部16から掻き落とされる等して得ることができる。
本発明において、得られた磁性微粒子1がヒゲ状突起3を有するものとするためには、ターゲット11から放出されたスパッタ蒸気が回収部16の方向に移送される過程でヒゲ状突起3が形成されなければならない。すなわち、上記のように、発生したスパッタ蒸気1’を、スパッタガス導入孔13から導入されたスパッタガス(又は必要に応じてスパッタガスにキャリアガスを加えたガス)の流れとして移送し、その移送過程で前記スパッタ蒸気1’を凝縮させ、得られる磁性微粒子1の周りに多数のヒゲ状突起が生じるまでの移送時間に調整しなければならない。
こうした移送時間調整装置としては、スパッタ圧を上げてガス流に乱流を生じさせ、ターゲット11から回収部16までの移送時間Tを長くしてヒゲ状突起3を形成する圧力可変装置、又は、ターゲット11から回収部16までの距離Sを変化させてヒゲ状突起3を形成する移送長可変装置、を挙げることができる。
圧力可変装置は、真空容器15内の圧力を変えるための装置であり、具体的には、圧力調整用バルブ17を挙げることができる。圧力調整用バルブ17を用いて、真空ポンプ18の排気能力を調節することにより圧力を調節する。圧力可変装置で真空容器15内の圧力を上げると、ターゲット11から回収部16に向かうガス流の流れを遅くすることができる。例えば後述する実験例1等のように圧力を1300〜1600Paとしてガス流を乱流状にすることにより、130Paの圧力(後述の比較実験例3を参照)の場合に比べ、回収部16までの移送時間Tを長くすることができる。具体的には、移送時間Tを、約5ミリ秒(比較実験例3)から約0.3秒(実験例1)とすることができる。こうした圧力可変装置により、スパッタ圧を上げてガス流に乱流を生じさせ、ターゲット11から回収部16までの移送時間Tを長くしてヒゲ状突起3をコア部2の周りに容易に形成することができる。
一方、移送長可変装置は、真空容器15内の回収部16の位置を変え、ターゲット11から回収部16までの距離Sを変化させるための装置であり、具体的には、回収部16をスライド移動させる装置等を挙げることができる。移送長可変装置でターゲット11から回収部16までの長さSを長くすると、ターゲット11から回収部16に移送されるガス流の移送時間Tを長くすることができる。例えば後述する実験例1のようにターゲット11から回収部16までの長さSを500〜700mmとすることにより、170mm程度の長さS(後述の比較実験例1を参照)の場合に比べ、同じ圧力条件であっても回収部16までの移送時間Tを長くすることができる。具体的には、移送時間を、約0.05秒(比較実験例1)から約0.3秒(実験例1)とすることができる。こうした移送長可変装置により、ターゲット11から回収部16までの距離Sを変化させてヒゲ状突起3をコア部2の周りに容易に形成することができる。
次に、磁性微粒子1の製造方法について説明する。磁性微粒子1の製造方法は、上記した製造装置によって磁性微粒子1が製造されるプロセスであり、その内容は製造装置の説明欄に記載したとおりである。
すなわち、磁性微粒子1の製造方法は、図5を参照して説明すれば、ターゲット11から放出されたスパッタ蒸気1’を、スパッタガス(又は必要に応じてスパッタガスにキャリアガスを加えたガス)の流れとして回収部16の方向に移送し、その移送過程でスパッタ蒸気1’を凝縮させ、得られた磁性微粒子1を回収部16で回収する方法である。そして、この製造方法では、移送過程の所要時間Tを、磁性微粒子1の周りに多数のヒゲ状突起3が生じるまで長くする移送時間調整手段を有している。
移送時間調整手段としては、スパッタ圧を上げてガス流に乱流を生じさせ、ターゲット11から回収部16までの移送時間Tを長くしてヒゲ状突起3を形成する手段(圧力可変手段)、又は、ターゲット11から回収部16までの距離Tを変化させてヒゲ状突起3を形成する手段(移送長可変手段)、を挙げることができる。この圧力可変手段と移送長可変手段は、上記の製造装置10における圧力可変装置と移送長可変装置と同様であるので、ここではその説明を省略する。本発明の製造方法では、こうした圧力可変手段又は移送長可変手段からなる移送時間調整手段により、周りに多数のヒゲ状突起3を有する磁性微粒子1を容易に製造することができる。
図7は、コア部2の周りにあるヒゲ状突起3の長さLが長い領域Aと短い領域Bとに分かれている磁性微粒子1の模式図である。上記した製造装置及び製造方法で得られた磁性微粒子1は、図7に示す形態のものがしばしば得られる。上記特許文献1に記載の条件ではヒゲ状突起3のない5nm程度の微細な微粒子が得られていた。しかし、本発明の磁性微粒子1は、同じガスフロースパッタ装置を用いたものではあるが、上記のような移送時間調整装置又は移送時間調整手段を適用することにより、ヒゲ状突起3を有する特徴的な形態となった。こうした形態ができた理由は明らかではないが、磁性微粒子1がターゲット11から回収部16に向かって移送される過程で、コア部2の周りにヒゲ状突起3が成長するプロセスに起因しているものと考えられる。
ヒゲ状突起3の長さが長い領域Aは、磁性微粒子1が移送される過程でターゲット11側に向いている領域であり、ターゲット11側から供給されるスパッタ蒸気とキャリアガス(Arガス等)が衝突して粒子がランダムに移動する間に、領域A側のヒゲ状突起3に選択的に付着することによってヒゲ状突起3が長く成長するものと考えられる。一方、ヒゲ状突起3の長さが短い領域Bは、磁性微粒子1が移送される過程で回収部16側に向いている領域であると考えられ、ターゲット11側から供給されるスパッタ蒸気が領域B側にまで回り込めないため、短くなっていると考えられる。したがって、ガスフロースパッタ装置10で得られる磁性微粒子1は、スパッタ蒸気の衝突等により凝縮してコア部2を形成する段階と、コア部2の周りにヒゲ状突起3を成長させる段階の2つの段階があると考えられる。本発明は、従来知られ得なかった後者の段階を具体的に実現し、ヒゲ状突起3をコア部2の周りに成長させてなる特徴的な磁性微粒子1を得た点に特徴がある。
なお、こうした形態は、図2及び図3に示す透過型電子顕微鏡写真からもわかり、ガスフロースパッタ装置で製造した磁性微粒子1の一つの特徴ということができる。なお、当然ではあるが、製造条件をコントロールすれば、図7に示す形態以外の真球又はそれに近い球状の磁性微粒子1が得られることは確認済みである。
[腫瘍細胞破壊用磁性微粒子、細胞破壊方法、細胞破壊装置]
本発明者は、腫瘍細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされ易い上記本発明に係る特徴的形状の磁性微粒子1が、ヒゲ状突起の無い球状粒子とは異なり、外部から変換磁場を印加して磁性微粒子に物理的応力を与えることにより物理的な振動運動(二次元運動、三次元運動、又は不規則運動を含む。以下同じ。)を起こして選択的に腫瘍細胞を破壊し易いことを発見した。そして、その磁性微粒子の振動運動が、正常細胞と腫瘍細胞との脆弱性の差を利用して腫瘍細胞のみを選択的に破壊又は破綻することを発見した。
従来は、図10に示すように、磁性ビーズ50が腫瘍細胞51の細胞膜52に外側から付着し、外部から交換磁場を印加することにより磁性ビーズ50に物理的運動を与えて腫瘍細胞を破壊することが提案されていた(特許文献2を参照)。同文献2では、粒径2.8μmと4.5μmの磁性ビーズを用いており、その磁性ビーズが細胞膜に外側から付着しており、その状態で磁性ビーズに交換磁場を加えることにより、その磁性ビーズの振動により細胞膜が破壊されるというものであった。これに対し、本発明者は、図8に示すように、細胞(単に細胞という場合には、腫瘍細胞と正常細胞の両方を意味する。)内に貪食又はエンドサイトーシスされた磁性微粒子1に変換磁場を与えた。このとき、細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされた磁性微粒子1はヒゲ状突起3を備える特徴的な形態であることから、交換磁場によりその磁性微粒子1は球状粒子とは異なる振動運動を起こし、脆弱な細胞のみを極めて効果的に破壊できることを発見した。
特に重要なことは、第1には、「ヒゲ状突起を有する」という磁性微粒子1の形態であり、そうした形態の磁性微粒子1に変換磁場を印加することにより、脆弱な細胞のみを極めて効果的に破壊できる振動運動が起こることであることを見出した。第2には、磁性微粒子1が所定のターゲット部位にまで到達した後に変換磁場を印加することも重要であり、所定のターゲット部位に磁性微粒子1を到達させるには、到達時間と、磁性微粒子への付加物質とが重要であることも見出した。なお、磁性微粒子1は細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされたものであってもよいが、必ずしもそうでなくてもよく、細胞膜内外に付着したものであってもよい。というのは、磁性微粒子1が貪食又はエンドサイトーシスされるか否かは、細胞の大きさ、細胞の貪食能又はエンドサイトーシス能、磁性微粒子1の大きさ等によって異なるが、いずれにしても、ヒゲ状突起を有する磁性微粒子1は、いずれの態様でも効果的に脆弱な細胞を破壊できることを見出した。本発明は、こうした現象に基づいてなされたものである。
なお、「貪食(どんしょく)」とは、むさぼり食うことの意味であり、本願では、細胞が磁性微粒子を食べるという意味で用いている。また、「エンドサイトーシス(Endocytosis)」とも呼んでもよく、このエンドサイトーシスの語は、細胞が細胞外の物質を取り込む過程の1つとして用いられている。以下の欄では、「貪食又はエンドサイトーシス」を単に「貪食」として表すこととする。
(腫瘍細胞破壊用磁性微粒子)
本発明者は、ヒゲ状突起3を有する磁性微粒子1を腫瘍細胞破壊用途に用いたところ、図10に示す磁性ビーズ50を適用した特許文献2の場合とは異なり、図8に示すように、細胞9が磁性微粒子1を貪食する現象を電子顕微鏡で確認した。そして、そこに外部から変換磁場を印加したところ、従来の球状磁性微粒子に比較して、腫瘍細胞のみを選択的且つ効果的に破壊するという現象を確認した。こうした選択的且つ効果的な腫瘍細胞の破壊は、磁性微粒子がヒゲ状突起を備えることにあり、その磁性微粒子1が変換磁場によって従来の球状粒子とは異なる振動運動を起こしたためであると考えられ、その結果、腫瘍細胞を選択的且つ効果的に破壊したと考えられる。これが本願発明の要旨である。ここでの磁性微粒子1については既に図1〜図7を用いて説明した内容と同じであり、コア部2とそのコア部2の周りにある多数のヒゲ状突起3とからなる。
したがって、腫瘍細胞破壊用磁性微粒子1は、ヒゲ状突起3を有することに特徴がある。このような磁性微粒子1であれば、変換磁場によって従来の球状粒子とは異なる振動運動を起こすことができる。こうした挙動を示すものであれば、磁性微粒子1は細胞に貪食又はエンドサイトーシスされてもよいし、細胞膜に付着等してもよいので、磁性微粒子1の大きさやヒゲ状突起3の長さは特に限定されないが、実際には、細胞内に貪食又はエンドサイトーシスさせたものの方が効果が大きいことから細胞の大きさが考慮され、細胞の貪食能又はエンドサイトーシス能等も考慮されて選択される。
特に、後述の実施例で示すように、磁性微粒子1の粒子径Dに対するヒゲ状突起3の長さの割合が5%以上30%以下であり、ヒゲ状突起3を含む粒子径Dの平均が100nm以上300nm以下の範囲内のものが好ましい。なお、真核細胞は通常10〜100μmであり、その真核細胞9が100nm以上300nm以下の磁性微粒子1を貪食している態様を図8に示す。こうした平均粒子径の範囲からなる磁性微粒子1は、細胞9に貪食されて細胞内に取り込まれる。
磁性微粒子1は、その粒子径Dに対するヒゲ状突起3の長さの割合が5%以上30%以下であるように構成されているが、このヒゲ状突起3には、図9に示すように、生体細胞構造に特異的に発現している構成タンパク若しくは糖鎖抗原に対して親和性又は障害性のある物質5を付加又は吸着(以下「付加等」という。)することができる。こうした物質5をヒゲ状突起3に付加等した磁性微粒子1は、細胞表面に到達した後、効率よく貪食されて所定の部位に搬送されることになる。
そうした構成タンパク若しくは糖鎖抗原に対して親和性のある物質としては、(i)細胞膜内外あるいは貫通するタンパク若しくは糖鎖抗原に対する抗体又は親和性タンパク、(ii)リボゾーム膜抗原若しくはリソゾーム膜抗原に対する抗体又は親和性タンパク、(iii)ミトコンドリア膜若しくは原形質に対するBAX又はP53タンパク、及び、(iv)核膜に分布する抗原に対する抗体又は親和性タンパク、から選ばれるいずれかを挙げることができる。なお、この(i)から(iii)は、詳しく言い換えると、(ア)細胞膜内のタンパク質に対する抗体、細胞膜内の糖鎖抗原に対する抗体、細胞膜内のタンパク質に対する親和性タンパク、細胞膜内の糖鎖抗原に対する親和性タンパク、(イ)細胞膜外のタンパク質に対する抗体、細胞膜外の糖鎖抗原に対する抗体、細胞膜内のタンパク質に対する親和性タンパク、細胞膜内の糖鎖抗原に対する親和性タンパク、(ウ)細胞膜を貫通するタンパク質に対する抗体、細胞膜を貫通する糖鎖抗原に対する抗体、細胞膜を貫通するタンパク質に対する親和性タンパク、細胞膜を貫通する糖鎖抗原に対する親和性タンパク、と言うことができる。
一例として、前記の抗原が細胞内物質であって細胞内消化器官にあるリソゾーム(Lysosome。ライソゾームともいう。)に分布する抗原である場合、リソゾーム膜抗原に親和性のある物質を磁性微粒子1に付加等することにより、細胞表面に到達した磁性微粒子1は効率よく細胞内のリソゾームに搬送されることとなる。そして、リソゾーム内の磁性微粒子1が外部から印加された変換磁場を受けることにより、リソゾームを内部から破壊させることが可能となる。磁性微粒子1に付加等させることができる物質(リソゾーム膜抗原に親和性のある物質)の例としては、LAMP(Lysosome-associated membrane protein)等を挙げることができる。
細胞破壊性能は、物質5を付加等した磁性微粒子1を細胞に添加してからの時間が重要な要素となる。具体的には、磁性微粒子1を細胞に添加した後、その磁性微粒子1が細胞に貪食され、リソゾーム内に到達しなければ、外部から変換磁場を印加しても効果がでない。一方、磁性微粒子1がリソゾーム内に取り込まれるまでの時間は、貪食能又はエンドサイトーシス能や細胞内移動能等の組織特異性があり、細胞種によって異なる。したがって、対象とする細胞種を用い、磁性微粒子1がリソゾーム内に到達するまでの時間を測定する事前ステップを行っておくことが好ましい。こうした事前ステップを行うことにより、変換磁場を印加する等のタイミングを決定できる。
他の一例としては、前記の抗原が細胞内物質であって細胞内エネルギー産生器官であるミトコンドリアに分布する抗原である場合、ミトコンドリア抗原に親和性のある物質5を磁性微粒子1に付加等することにより、細胞表面に到達した磁性微粒子1は効率よく細胞内のミトコンドリアに搬送されることとなる。そして、ミトコンドリアに到達した磁性微粒子1が外部から印加された変換磁場を受けることにより、ミトコンドリアを構造的に破壊させることが可能となる。磁性微粒子1に付加等させることができる物質(ミトコンドリア抗原に親和性のある物質)の例としては、p53とBAXが好ましい。p53はBAXと協働しミトコンドリアのアデノシン3リン酸の合成能を低下させるように作用する。この物質は、磁性微粒子1のミトコンドリア親和性を高めるために好ましい物質である。
P53及びBAXなどの機能性タンパクを付与された磁性微粒子1がミトコンドリアに到達すると、その物理的作用にてミトコンドリア表面を破綻させ、一部はその間隙よりミトコンドリア内に誘導され効果を発現する。
ところで、本発明の磁性微粒子1を用いれば、ミトコンドリア抗原に親和性のある物質5を付加した状態で効率よく細胞内のミトコンドリアに搬送することができるが、このとき、ミトコンドリアに到達した磁性微粒子1がミトコンドリア内酵素の働きを阻害させる障害性物質を磁性微粒子1に付加させることもできる。すなわち、細胞の生存機能の維持に必要なエネルギーであるアデノシン3リン酸の産生機能に障害を与え、細胞構造を破綻させることが可能となる。特に「p53」は、ミトコンドリアの機能を失活させる作用を有する物質であるので、磁性微粒子1に付加等させてミトコンドリアに到達させれば、変換磁場によらずにミトコンドリア障害性を高めることができる。なお、上記同様、BAXはミトコンドリアへの親和性物質として磁性微粒子1との粘性を促進することによって物理的傷害を促進するように作用する。
細胞破壊性能又は細胞内アデノシン3リン酸の産生阻害性能は、前記のリソゾームの場合と同様、物質5を付加等した磁性微粒子1を、細胞に添加してからの時間が重要な要素となる。具体的には、磁性微粒子1を細胞に添加した後、その磁性微粒子1が細胞に貪食され、ミトコンドリアに到達しなければ、外部から変換磁場を印加しても効果がでない。一方、磁性微粒子1がミトコンドリアに到達するまでの時間は、貪食能又はエンドサイトーシス能や細胞内移動能等の組織特異性があり、細胞種によって異なる。したがって、対象とする細胞種を用い、磁性微粒子1がミトコンドリアに到達するまでの時間を測定する事前ステップを行っておくことが好ましい。こうした事前ステップを行うことにより、変換磁場を印加する等のタイミングを決定できる。
さらに他の一例としては、前記の抗原が細胞内物質であって細胞内タンパク合成情報格納器官である核膜に分布する抗原である場合、核膜抗原に親和性のある物質5を磁性微粒子1に付加等することにより、細胞表面に到達した磁性微粒子1は効率よく細胞内の核膜表面に搬送されることとなる。そして、核膜に到達した磁性微粒子1が、外部から印加された変換磁場を受けることにより、核膜を構造的に破壊させることが可能となる。また、その物質を選択することにより、核膜の働きを阻害することもでき、核膜を破綻させることも可能となる。
核膜破綻性能は、物質5を付加等した磁性微粒子1を細胞に添加してからの時間が重要な要素となる。具体的には、磁性微粒子1を細胞に添加した後、その磁性微粒子1が細胞に貪食され、核膜に到達しなければ、外部から変換磁場を印加しても効果がでない。一方、磁性微粒子1が核膜に到達するまでの時間は、貪食能又はエンドサイトーシス能や細胞内移動能組織特異性があり、細胞種によって異なる。したがって、対象とする細胞種を用い、磁性微粒子1が核膜に到達するまでの時間を測定する事前ステップを行っておくことが好ましい。こうした事前ステップを行うことにより、変換磁場を印加する等のタイミングを決定できる。なお、核膜破綻は、細胞内におけるリボゾームでのタンパク質合成が阻害されていることを確認すれば、その効果を確認できる。
以上説明したように、磁性微粒子1の効果は、リソゾーム、ミトコンドリア、核膜に対して認められているが、後述の実施例で示すように、磁性微粒子1単体での細胞破壊性能は、リソゾームを対象とした例の場合が最も大きな効果を発揮した。このときの細胞破壊性能は、球形の粒子の場合と比較し、外部から付加される変換磁場に対する特徴的な振動運動に起因していると考えられる。そうした特徴的な振動運動は、図7に示すように、ヒゲ状突起3の長い領域Aと短い領域Bを持つ本発明に係る磁性微粒子1の形状が効果的に作用しているものと予想される。
なお、本願は、本発明に係る磁性微粒子1を用いたことに特徴があるが、例えば特許文献2の第0013〜0015段落に多数列記されている各種の抗体や各種の抗原を本発明にも適用することは可能である。
(細胞破壊方法、細胞破壊装置)
本発明に係る細胞破壊方法は、コア部2とそのコア部2の周りにある多数のヒゲ状突起3とからなる磁性微粒子1が細胞内に貪食されるステップと、外部から変換磁場を印加して前記細胞に物理的応力を与え、前記細胞のうち破壊しようとする標的細胞を選択的に破壊させるステップとを有する。
また、本発明に係る細胞破壊装置は、コア部2とそのコア部2の周りにある多数のヒゲ状突起3とからなり、細胞内に貪食され、変換磁場を受けて該細胞に物理的応力を与える磁性微粒子と、その細胞内に貪食された後の磁性微粒子1に変換磁場にて物理的応力を与え、前記細胞のうち破壊しようとする標的細胞を選択的に破壊させる変換磁場装置と、を少なくとも有する。
これらは、上記で説明したように、細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされた磁性微粒子1は、ヒゲ状突起の無い球状粒子とは異なり、外部から変換磁場を加えた場合に物理的な振動運動を起こし、細胞のうち、脆弱な腫瘍細胞を選択的に破壊することが可能となる。また、例えば抗原に親和性のある物質5を多数のヒゲ状突起3に付加させることができる磁性微粒子1を用い、その磁性微粒子1が細胞内に貪食された場合には、外部から変換磁場を印加して磁性微粒子に物理的応力を与えることにより、前記細胞のうち破壊しようとする標的部位(標的細胞)を選択的に破壊させることが可能となる。このときの標的細胞は、脆弱な腫瘍細胞であり、同様の変換磁場を与えても健康な正常細胞が破壊しないことは確認済みである。
ここで、印加する磁場について説明する。本発明では、変換磁場を印加磁場として磁性微粒子に対して与える。変換磁場とは、MRCT(Magnetic Resonance Computer Tomography)で用いる「安定磁場」と「変換磁場」における後者の意味で用いるものであり、実質的には、パルス磁場ないし交流磁場として表すことができる。パルス磁場としては、シングルパルスでもマルチパルスでもよい。特に好ましくは、磁場の印加方向が不規則に変化する磁場である。
本発明では、こうした変換磁場によって、細胞内に貪食された磁性微粒子1の運動を繰り返すことにより、好ましくは多方向への振動運動を繰り返すことにより、本発明の腫瘍細胞を破壊できるという効果をより一層助長することができる。特に、本発明に係る磁性微粒子1はヒゲ状突起を有するので、ヒゲ状突起のない球状粒子とは異なり、変換磁場によって二次元運動、三次元運動、又は不規則運動を起こしやすいという特徴がある。特に図7に示すようなヒゲ状突起3の長い領域Aと短い領域Bを持つ磁性微粒子1ではそうした運動が起き易く、選択的且つ効果的な破壊を起こしやすい。一方、従来の球状粒子は、変換磁場を加えてもその場で単に回転するだけの場合があり、腫瘍細胞の選択的且つ効果的な破壊が起き難いことが確認された。
(治療装置)
本発明に係る治療装置は、上記本発明に係る細胞破壊装置を少なくとも有し、該細胞破壊装置が備える変換磁場装置の印加磁場条件を制御して腫瘍細胞を選択的に破壊するように構成する。この治療装置は、細胞破壊装置が備える変換磁場装置の印加磁場条件を制御するだけで、腫瘍細胞を選択的に破壊することができる。
磁場印加条件としては各種の条件を任意に設定して調整でき、腫瘍細胞のより効率的な選択破壊を実現できる。
以下、実験例と比較実験例により本発明をさらに具体的に説明する。
[磁性微粒子の製造実験]
[実験例1]
本発明に係る磁性微粒子1を作製した。図5に示すガスフロースパッタ装置10を用い、ターゲット11としては、純鉄製の円筒状ターゲット(ターゲット長:35mm、ターゲット内径:5mm)を用いた。回収部16として、銅メッシュを用い、ターゲット11から回収部16までの長さSは700mmとした。予備排気圧力を4×10−4Paとした後、スパッタガスとしてArガス(流量:500sccm)をスパッタガス導入孔13から送り込み、その後、スパッタ時圧力が1300Paとなるように雰囲気圧を調整した。そして、放電電圧約300V、放電電流1.0Aをターゲット11に与えてガスフロースパッタを行った。
約20分間スパッタを行い、回収部16の銅メッシュに磁性微粒子1を得た。この磁性微粒子1を透過型電子顕微鏡で観察したところ、図2〜図4に示す形態の磁性微粒子1が得られた。このときのスパッタ蒸気は、ターゲット11から回収部16まで乱流に乗りながらゆっくりたどり着いた。その速度は約3m/秒であった。このときのターゲット11から回収部16までの移送時間は約0.3秒であった。
得られた磁性微粒子1の粒度分布を透過型電子顕微鏡で測定し、図11に示した。得られた磁性微粒子1は、図示のように、最小粒径100nmで最大粒径360nmで算術平均粒径206nmであった。この磁性微粒子1のヒゲ状突起3の長さLを透過型電子顕微鏡像から測定(n=6)した結果を一例として表1に示した。
Figure 0005570131
また、得られた磁性微粒子1の磁気特性を振動試料型磁力計で測定した磁化曲線から求めたところ、飽和磁化は1490emu/cm(190emu/g)であり、高い飽和磁化を有する強磁性粒子であるということができる。なお、鉄のバルクの飽和磁化は1720emu/cm(219emu/g)である。
[実験例2]
実験例1において、ターゲット11から回収部16までの長さSを500mmにして、ターゲット11から回収部16までの移送時間を変化させた他は、実験例1と同様にして実験例2の磁性微粒子1を作製した。
[実験例3]
実験例1において、スパッタ時圧力を1600Paにして、ターゲット11から回収部16までの移送時間を変化させた他は、実験例1と同様にして実験例3の磁性微粒子1を作製した。
[実験例4]
実験例1において、Arガス流量を300sccmにして、ターゲット11から回収部16までの移送時間を変化させた他は、実験例1と同様にして実験例4の磁性微粒子1を作製した。
移送時間を調整した上記実験例1〜4の何れの場合においても、図2〜図4の透過型電子顕微鏡写真に見られる形態の、ヒゲ状突起3を有する磁性微粒子1を得ることができた。
[比較実験例1]
実施例1において、ターゲット11から回収部16までの長さSを170mmにして、ターゲット11から回収部16までの移送時間を変化させた他は、実験例1と同様にして比較実験例1の磁性微粒子を作製した。このときのターゲット11から回収部16までの移送時間は約0.05秒であった。得られた磁性微粒子の平均粒径Dは80nm程度であり、その磁性微粒子には、ヒゲ状突起はなかった。
[比較実験例2]
実施例1において、ターゲット11から回収部16までの長さSを300mmにして、ターゲット11から回収部16までの移送時間を変化させた他は、実験例1と同様にして比較実験例2の磁性微粒子を作製した。得られた磁性微粒子の平均粒径Dは110nm程度であり、その磁性微粒子には本発明に係る磁性微粒子と同様の長さ範囲のヒゲ状突起は生じていなかった。
[比較実験例3]
実験例1において、スパッタ時圧力を130Paにして、ターゲット11から回収部16までの移送時間を変化させた他は、実験例1と同様にして比較実験例2の磁性微粒子を作製した。このときのスパッタ蒸気は、ターゲット11から回収部16まで約100m/秒の高速(ジェット状)で移送された。このときのターゲット11から回収部16までの移送時間は約5ミリ秒であった。得られた磁性微粒子の平均粒径Dは40nm程度であり、その磁性微粒子には、ヒゲ状突起はなかった。
[比較実験例4]
特許文献1に記載の実施例の条件で磁性微粒子を作製した。図5に示すガスフロースパッタ装置10を用い、ターゲット11としては、純鉄製の円筒状ターゲット(ターゲット長:40mm、ターゲット内径:7mm)を用いた。回収部16として、透過型電子顕微鏡観察用グリッドを用い、ターゲット11から回収部16までの長さSは70mmとした。予備排気圧力を4×10−4Paとした後、スパッタガスとしてArガス(流量:200sccm)をスパッタガス導入孔13から送り込み、その後、スパッタ時圧力が300Paとなるように雰囲気圧を調整した。そして、放電電圧300V、放電電流1.5Aをターゲット11に与えてガスフロースパッタを行った。このとき、噴出孔37(図6参照)からキャリアガスCとして流量750sccmでHeガスをターゲット11に吹き付け、発生したスパッタ蒸気をジェット状の流れに乗せてターゲット11から放出させ、開口部36を経て回収部16上に導き、堆積させた。
約2秒間スパッタを行い、回収部16の透過型電子顕微鏡観察用グリッドに磁性微粒子を得た。得られた磁性微粒子の平均粒径Dは5nm程度であり、その磁性微粒子には、ヒゲ状突起はなかった。
[磁性微粒子による腫瘍細胞の破壊実験]
[比較実験例5]
ヒゲ状突起のない平均粒径50nm(Miltenyi Biotec GmbH製、 Germany)、2800nm(DYNAL Biotech ASA製、 Norway)、4500nm(DYNAL Biotech ASA製、 Norway)の球状の磁性粒子を用いた。50nmの磁性粒子を用いた場合は、使用細胞をDLD−1(大腸癌由来細胞)とし、2800nmの磁性粒子を用いた場合は、使用細胞をLS−180(大腸癌由来細胞)とし、4500nmの磁性粒子を用いた場合は、使用細胞をHT−29(大腸癌由来細胞)とした。それぞれの磁性粒子を腫瘍細胞に投入し、MRS1000(The Magstim Company Ltd., U.K.)を用いて急速変換磁場を照射し、抗腫瘍効果を検証した。なお、このMRS1000は2相性磁場を発生し、単発単相性磁場発生コイルに比較して磁性微粒子に対して小さいエネルギーで大きな力学的モーメントを発生可能である。磁場条件としては、周波数を1Hzと2Hz、磁場を0.5〜2Tの範囲とし、印加時間を30〜120分の範囲で任意に設定して行った。結果は蛍光顕微鏡、光学顕微鏡及び電子顕微鏡にて確認した。
(結果)
4500nmの磁性粒子を用いた場合の態様を図10に模式的に示す。図示のように、4500nmの磁性粒子は細胞膜に付着し、その磁性粒子はその後の変換磁場の印加により運動し、細胞膜を破壊した。2800nmの場合も同様であった。一方、50nmの磁性粒子は、細胞内にエンドサイトーシスされ、その後の磁場によって振動し、細胞を内部から破壊しているのが確認された。
[比較実験例6]
上記比較実験例5において、ヒゲ状突起のない平均粒径300nm(Ademtech SA製、 France)の球状の磁性粒子をさらに加え、4種の磁性粒子を用いた。4種の磁性粒子を、胃癌由来細胞(AGS、KATO−III)、大腸癌由来細胞(DLD−1、HT−29、LS−180)、膵臓癌由来細胞(MIA−PaCa2、ASPC−1)、肝臓由来細胞(Hep−G2)の8種類の腫瘍細胞に投入し、比較実験例5と同様、急速変換磁場を照射し、抗腫瘍効果を検証した。
(結果)
図12は、4種の磁性粒子を用いたときの各腫瘍細胞に対する抗腫瘍効果の結果である。図示のように、肝臓由来細胞(Hep−G2)は細胞の大きさが他の腫瘍細胞に比べて大きく、したがって大きい磁性粒子(2800nm、4500nm)の方が破壊には好都合であったと考えられるが、その他の腫瘍細胞については、300nmの磁性粒子が優れた破壊結果をもたらした。
[実験例5]
上記実験例1で得られた磁性微粒子1を用いた。それ以外は、比較実験例5,6と同様にして抗腫瘍効果を検証した。その結果、比較実験例6の300nmの磁性粒子と同列に比較したとき、1.2〜2.5倍となり、さらに優れた抗腫瘍効果を得ることが確認できた。
[実験例6]
上記実験例1で得られた磁性微粒子1を用いた。その磁性微粒子1を、第1試験粒子として、細胞膜上のヒト上皮関連抗原に親和性のあるプロテインAをコーティングした。なお、第1試験粒子の代わりに第2試験粒子として、リソゾーム膜上のLAMP抗原に親和性のある抗ヒトLAMP Abをラベルし、anti−リソゾームとしたものも用いた。第1、第2の試験粒子をそれぞれ比較実験例6と同じ8種の腫瘍細胞に投入し、比較実験例5と同様にして急速変換磁場を照射し、抗腫瘍効果を検証した。それ以外は、比較実験例5,6と同様にして抗腫瘍効果を検証した。
なお、この実験例では、細胞膜に対しては、上皮細胞に共通に発現しているヒト上皮抗原をターゲットとし、細胞内骨格のターゲットとしてサイトケラチン8を選択した。また、エンドソームに対しては、磁性微粒子1を異物として腫瘍細胞がエンドサイトーシスとして取り込む過程で磁場照射することによってターゲット破壊できることより、抗体を持たないプレーン磁性体をエンドソームターゲット磁性体とした。
(結果)
第1試験粒子を用いて行った腫瘍細胞膜ターゲット処理では30%の抗腫瘍効果が確認できた。第2試験粒子を用いて行ったリソゾーム膜ターゲット処理では50%の抗腫瘍効果が確認できた。いずれも優れた抗腫瘍効果を確認できた。また、電子顕微鏡観察により、抗腫瘍効果が腫瘍細胞内に貪食された磁性微粒子1に基づいた物理的破砕に由来することを、形態的に証明することができた。この実験により、抗腫瘍効果は、(1)腫瘍細胞に貪食される磁性微粒子1の大きさと形態(ヒゲ状突起)、(2)投射磁力線の強度、及び(3)磁性微粒子1の腫瘍細胞との磁場照射前接触時間に影響されることがわかった。また、ターゲットとなる腫瘍細胞の種類でも、抗腫瘍効果に差が存在することが判明した。
以上の結果から、以下のことがいえる。(1)Cell line表面抗原をターゲットとして変換磁場を印加すると細胞破砕が可能であった。(2)Cell line表面抗原ターゲットなしでエンドソームの破壊によって細胞膜の破壊・細胞破砕を誘導することが可能であった。(3)エンドサイトーシスによる細胞障害性は電子顕微鏡によって確認された。(4)エンドソームのターミナルであるlysosomeにtargettingするためのLAMPの使用は、よりcell lineの細胞破綻に寄与する可能性が示唆された。(5)磁化HEA抗体を使用して腫瘍細胞を破壊することが可能であることが確認できた。(6)この磁場照射の抗腫瘍効果に関しては、電磁波の波長ではなく出力を変動させ磁場条件を決める必要があると考えられた。(7)実験例5の磁性微粒子と比較実験例7の磁性微粒子はエンドサイトーシスされ、最終的にリソゾームに集積することが確認できたが、2.8μmと4.5μmの磁性ビーズは細胞膜に存在するもののリソゾームに存在するわけではなかった。(8)2.8μmと4.5μmの磁性ビーズを用いた場合において十分な抗腫瘍効果が得られない原因として、磁性ビーズが細胞体積の50%を占めることによって細胞破壊が起こらず、細胞自体の動揺効果のみに留まる可能性が考えられた。(9)肝細胞は例外的に2.8μmを超える磁性ビーズも細胞内のリソゾームに影響を及ぼす可能性が示唆された。
1 磁性微粒子
1’ スパッタ蒸気
2 コア部
3 ヒゲ状突起
5 ヒゲ状突起に付着した抗体
8 細胞膜
9 細胞
10 製造装置
11 ターゲット
13 スパッタガス導入孔
15 真空容器
16 回収部
17 圧力調整用バルブ
18 真空ポンプ
21,22 第1の絶縁部材
23,24 第2の絶縁部材
32 カップリング
35 カバー
36 開口部
37 噴出孔
40 ターゲットホルダ
41 空洞部
42 給水口
43 排水口
G スパッタガス
C キャリアガス
D 磁性微粒子の直径
d コア部の直径
L ヒゲ状突起の長さ
A ヒゲ状突起長が長い領域
B ヒゲ状突起長が短い領域
S ターゲットから回収部までの長さ

Claims (8)

  1. ターゲットから放出されたスパッタ蒸気を、スパッタガス又は必要に応じてスパッタガスにキャリアガスを加えたガスの流れとして移送し、前記スパッタ蒸気を凝縮させて回収部で回収される磁性微粒子であって、
    前記磁性微粒子は、前記ターゲットから前記回収部までの移送時間を調整することによって得られるものであり、
    前記磁性微粒子は、コア部と該コア部の周りにある多数のヒゲ状突起とからなり、該ヒゲ状突起を含む粒子径に対する該ヒゲ状突起の長さの割合が5%以上30%以下であることを特徴とする磁性微粒子。
  2. 前記ヒゲ状突起を含む粒子径の平均が100nm以上300nm以下の範囲内である、請求項1に記載の磁性微粒子。
  3. 前記コア部の周りにある前記ヒゲ状突起長が、長い領域と短い領域とに分かれている、請求項1又は2に記載の磁性微粒子。
  4. 前記ヒゲ状突起には、生体細胞構造に特異的に発現している構成タンパク若しくは糖鎖抗原に対して親和性又は障害性のある物質が付加されている、請求項1〜3のいずれかに記載の磁性微粒子。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の磁性微粒子からなる腫瘍細胞破壊用磁性微粒子。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載の磁性微粒子が細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされるステップと、外部から変換磁場を印加して前記細胞に物理的応力を与え、前記細胞のうち破壊しようとする標的細胞を選択的に破壊させるステップと、を有することを特徴とする細胞破壊方法(但し、ヒトを対象とする方法を除く)
  7. 請求項1〜4のいずれかに記載の磁性微粒子と、前記細胞内に貪食又はエンドサイトーシスされた後の前記磁性微粒子に変換磁場にて物理的応力を与え、前記細胞のうち破壊しようとする標的細胞を選択的に破壊させる変換磁場装置と、を少なくとも有することを特徴とする細胞破壊装置。
  8. 請求項7に記載の細胞破壊装置を少なくとも有し、該細胞破壊装置が備える変換磁場装置の印加磁場条件を制御して腫瘍細胞を選択的に破壊することを特徴とする治療装置。
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