JP5537178B2 - 燃料電池用膜電極構造体及びその製造方法 - Google Patents

燃料電池用膜電極構造体及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、燃料電池用膜電極構造体(MEA:Membrane Electrode Assembly)及びその製造方法に関する。
燃料電池用膜電極構造体としては、高分子電解質膜の両面のそれぞれに電極触媒層及びガス拡散層をこの順番に有するものが広く知られている。この燃料電池用膜電極構造体は、反応ガス(例えば空気及び水素)の流路を有する一対のセパレータで挟持されることで燃料電池(単セル)を構成する。このような燃料電池では、カソード側の電極触媒層に供給される空気中の酸素と、アノード側の電極触媒層に供給される水素との電気化学反応によって発電が行われる。
ところで、電極触媒層の細孔分布及び細孔容積は、電極触媒層に対する反応ガスの供給や、発電の際に副生する水の排出の制御に大きく関わる。つまり電極触媒層の細孔分布及び細孔容積は、燃料電池の発電性能に直結する重要な特性となる。したがって、電極触媒層の細孔分布及び細孔容積は、工業的に製造される燃料電池製品の全てにおいて所定の範囲内となるようにコントロールされる必要がある。一般にカソード側の電極触媒層の細孔分布において、細孔径が小さ過ぎると実質的に反応ガス(空気)を移動させることができず、細孔径が大き過ぎると電極触媒層の比表面積を指数的に減少させるために、電極触媒層での触媒反応を不十分にするとされている。言い換えれば、良好な発電性能を発揮する燃料電池を製造するためには、適切な径の細孔が多くを占めるように電極触媒層の細孔分布をコントロールすることが望ましい。
従来、電極触媒層の細孔をコントロールする技術としては、後工程で酸溶出させる亜鉛粒子(溶出粒子)と、粒度分布が異なる2種類のカーボン粒子とを含む組成物を用いて電極触媒層を形成するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この技術は、組成物中の亜鉛粒子を酸溶出させた痕として電極触媒層に細孔を形成するものである。また、この技術は、前記したように、大粒径のカーボン粒子(骨体形成粒子)と、触媒金属を担持した小粒径のカーボン粒子(触媒担持カーボン)との2種類を使用することによって、電極触媒層におけるカーボン粒子の充填構造が、単一粒径のカーボン粒子で形成されるいわゆる六方最密充填構造とならないように構成されている。
また、従来、電極触媒層におけるガス拡散性を高めるために、カーボン繊維を含む組成物を用いた電極触媒層が知られている(例えば、特許文献2参照)。このカーボン繊維は、その径(太さ)が2つのピーク(第1ピーク及び第2ピーク)を有する分布を示すものであり、第2ピークを形成するカーボン繊維の太さが、第1ピークを形成するカーボン繊維の太さの5倍以上となっている。
特開平10−241703号公報 特開2009−117374号公報
しかしながら、前記した大小2種類のカーボン粒子を含む従来の電極触媒層(例えば、特許文献1参照)は、細孔容積が却って低減する場合がある。このことを、図7を参照しながら説明する。次に参照する図7は、従来の電極触媒層におけるカーボン粒子の充填構造を説明するための模式図である。
図7に示すように、従来のカーボン粒子の充填構造は、大粒径のカーボン粒子C1(骨体形成粒子)同士の間に形成された細孔Hに、小粒径のカーボン粒子C2(触媒担持カーボン)が充填されることによって、大粒径のカーボン粒子C1で形成される六方最密充填構造(図示省略)よりも更に緻密なカーボン粒子C1,C2の充填構造となる場合がある。つまり、この従来の電極触媒層では、六方最密充填構造よりも細孔容積が却って低減する場合があると共に、実質的に反応ガス(空気)を移動させることができないとされる細孔Hを、大粒径のカーボン粒子C1同士の間に比較的多く形成する場合がある。
また、前記した太さの分布が異なる2種類のカーボン繊維を含む従来の電極触媒層(例えば、特許文献2参照)は、径の太い繊維を骨格(骨格繊維)とし、その各々の隙間に径の細い繊維(担体繊維)が集合して形成される所と、集合しない所を設ける必要がある。これは細い繊維が集合する所には触媒を担持させてガスが反応するようにし、小さい繊維径が集合しない所はガスが通過するように構成したものである。
しかしながら、この電極触媒層を作製する際には、径の太い骨格繊維が形成する隙間の大きさをコントロールし、更にはその隙間に径の細い担体繊維が集合する所と、集合しない所とが所定の割合で形成されるようにコントロールすることが極めて困難であった。その結果、性能が安定した燃料電池用膜電極構造体を量産することができなかった。また、従来の電極触媒層は、径の太い繊維で骨格を形成するために、ガス拡散分の体積ロスが生じて、燃料電池用膜電極構造体がその性能を満足に発揮できない場合があった。
したがって、従来の電極触媒層(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)は、前記した発電性能の向上に大きく寄与する細孔径の細孔(適切細孔)が多くを占めるように電極触媒層の細孔分布をコントロールすることが困難となっていた。
そこで、本発明の課題は、発電性能の向上に大きく寄与する細孔径の細孔が多くを占めるように電極触媒層の細孔分布をコントロールすることができ、かつ安定的に量産できる燃料電池用膜電極構造体及びその製造方法を提供することにある。
前記課題を解決した本発明は、高分子電解質膜がアノード及びカソードの電極触媒層で挟持された燃料電池用膜電極構造体において、前記カソードの前記電極触媒層は、触媒担持体と、繊維状カーボンとを含み、レーザ回折式粒度分布測定装置を使用して測定した繊維長が0.6μm未満の前記繊維状カーボンの体積割合が、前記繊維状カーボンの全体の体積に対して、0.5%以下であり、繊維長が1μm以上、10μm未満の前記繊維状カーボンの体積割合が、前記繊維状カーボンの全体の体積に対して、30%以上であることを特徴とする。
この燃料電池用膜電極構造体によれば、繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボンの体積割合が0.5%以下となっているので、発電性能の向上に大きく寄与する細孔径の細孔(適切細孔)を埋める繊維状カーボンが低減される。その結果、形成された適切細孔が埋められることが回避される。また、繊維状カーボン同士が絡まりあって、適切細孔がより多く形成される。
また、この燃料電池用膜電極構造体によれば、繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボンの体積割合が、30%以上となっているので、適切細孔がより多く形成される。
また、前記課題を解決した本発明は、少なくとも触媒担持体、繊維状カーボン及びイオン導電性物質を混練して電極触媒層形成用組成物を調製する第1工程と、前記電極触媒層形成用組成物を展延して電極シートを形成する第2工程と、高分子電解質膜の膜面に前記電極シートを配置して電極触媒層を形成する第3工程と、を有する燃料電池用膜電極構造体の製造方法において、前記第1工程に先立って、レーザ回折式粒度分布測定装置を使用して測定した繊維長が0.6μm未満の前記繊維状カーボンを篩い分けによって存在割合を減少させる篩い分け工程を更に有することを特徴とする。
この燃料電池用膜電極構造体の製造方法によれば、繊維長が0.6μm未満の前記繊維状カーボンを篩い分けによって割合を減少させることができ、発電性能の向上に大きく寄与する細孔径の細孔(適切細孔)を埋める繊維状カーボンが低減され、繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボンの体積割合が増加して、適切細孔がより多く形成されるカソードの電極触媒層を有する燃料電池用膜電極構造体を製造することができる。
本発明によれば、発電性能の向上に大きく寄与する細孔径の細孔が多くを占めるように電極触媒層の細孔分布をコントロールすることができる燃料電池用膜電極構造体及びその製造方法を提供することができる。
実施形態に係る燃料電池用膜電極構造体を備えた固体高分子型燃料電池(単セル)の構造を模式的に示す断面図であり、セパレータを仮想線で記した図である。 (a)は、実施形態に係る燃料電池用膜電極構造体において、カソードの電極触媒層に使用することができる繊維状カーボンの繊維長の分布を、従来例における繊維状カーボンの繊維長の分布との対比で説明するためのグラフであり、横軸は繊維状カーボンの繊維長[μm]を示し、縦軸は繊維状カーボンの体積基準の相対繊維量[%]を示している。(b)は、(a)の「極短繊維長の範囲」を、縦軸の尺度を拡大して表したグラフである。 カソードの電極触媒層に含まれる全ての繊維状カーボンのうちの繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボンの体積割合[%]と、その繊維状カーボンを使用して形成される電極触媒層における単位体積あたりの細孔容積の総計[μL/mm]との関係を表すグラフであり、横軸は0.6μm未満の繊維状カーボンの体積割合[%]を示し、縦軸は電極触媒層の単位体積あたりの細孔容積[μL/mm]を示している。 カソードの電極触媒層に含まれる繊維状カーボン全体のうち、繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボンが占める体積割合[%]と、その繊維状カーボンを用いて形成される電極触媒層における単位体積あたりの細孔容積の総計[μL/mm]との関係を表すグラフであり、横軸はその繊維状カーボンの体積割合[%]を示し、縦軸は電極触媒層の単位体積あたりの細孔容積[μL/mm]を示している。 燃料電池の発電時におけるセル電位[V]と、カソードの電極触媒層における「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」が占める体積割合[%]との関係を示すグラフである。 燃料電池の発電時におけるセル電位[V]と、カソードの電極触媒層における「細孔径が0.01μm〜5μmの範囲の細孔」(適切細孔)が占める細孔容積[μL/mm]との関係を示すグラフである。 従来の電極触媒層におけるカーボン粒子の充填構造を説明するための模式図である。
次に、本発明の燃料電池用膜電極構造体の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
(燃料電池用膜電極構造体)
本発明の燃料電池用膜電極構造体は、カソードの電極触媒層に含まれる繊維状カーボンにおいて、繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボンの体積割合が、繊維状カーボンの全体の体積に対して、0.5%以下であることを主な特徴とする。
また、本発明の燃料電池用膜電極構造体は、カソードの電極触媒層に含まれる繊維状カーボンにおいて、繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボンの体積割合が、繊維状カーボンの全体の体積に対して、30%以上であることを主な特徴とする。ここでは先ず、燃料電池用膜電極構造体の全体構成について説明する。
図1に示すように、燃料電池用膜電極構造体1は、高分子電解質膜2と、この高分子電解質膜2を挟持するアノード3及びカソード4と、を備えている。
この燃料電池用膜電極構造体1は、一対のセパレータ5,6で挟持されることで固体高分子型燃料電池FCの単セルを構成する。そして、この単セルが積層されることで燃料電池スタックを構成する。ちなみに、この固体高分子型燃料電池FCの単セルでは、セパレータ5の流路5aを流通する水素が、アノード3に供給され、セパレータ6の流路6aを流通する空気が、カソード4に供給されると、水素と空気(酸素)との電気化学的反応によって発電が行われる。ちなみに、この電気化学的反応は発熱反応であり、発電によって生じた熱は、セパレータ5,6の流路5b,6bを流通する冷却水によって冷却される。
このような燃料電池用膜電極構造体1(以下、単に「膜電極構造体1」ということがある)を構成する前記した高分子電解質膜2は、固体高分子電解質が膜状に成形されたものである。
この固体高分子電解質としては、例えば、パーフルオロアルキレンスルホン酸系ポリマ、パーフルオロアルキレンホスホン酸系ポリマ、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマ、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマ、スルホン化ポリフェニレンサルファイド系ポリマ、スルホン化ポリイミド系ポリマ、りん酸ドープ型ポリベンゾイミダゾール系ポリマ、スルホン化シンジオタクティックポリスチレン系ポリマ、スルホン化ポリアリーレン系ポリマ、スルホン化ポリエーテル系ポリマ等が挙げられる。
前記したアノード3は、ガス拡散層31と、電極触媒層32とで構成されており、電極触媒層32側で高分子電解質膜2と接するように配置されている。また、前記したカソード4は、ガス拡散層41と、電極触媒層42とで構成されており、電極触媒層42側で高分子電解質膜2と接するように配置されている。
アノード3及びカソード4のガス拡散層31,41は、セパレータ5,6の流路5a,6aを介して供給される水素及び空気が、電極触媒層32,42との接触面に均等に行き渡るようにするものである。このガス拡散層31,41としては、カーボンペーパを使用することができる。また、このカーボンペーパとしては、電極触媒層32,42側にカーボン・テフロン(登録商標)層を有するものを使用することができる。
アノード3の電極触媒層32は、触媒担持体と、イオン伝導性物質とを含んで構成されている。この電極触媒層32は、繊維状カーボンを更に含んでいてもよい。この繊維状カーボンについては後に詳しく説明する。
本実施形態での触媒担持体は、前記した電気化学反応において触媒活性を発揮するように触媒金属を担持させた担体であり、粒子状、繊維状のものが挙げられる。中でも粒子状のもの(担体粒子)が望ましい。
触媒金属としては、白金系の触媒金属を使用することができ、中でもアノード3の電極触媒層32には白金−ルテニウム合金からなる触媒金属が望ましい。
担体粒子としては、カーボンブラックや、酸化すず等の粒子が適するが、電気伝導性物質からなる粒子を使用することが好ましく、具体的には、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック(ケッチェンブラックやバルカン等)等のカーボン粒子が挙げられる。
なお、この電極触媒層32用の触媒担持体としては、上市品を使用することができる。
本実施形態でのイオン伝導性物質には、高分子電解質膜2を形成する固体高分子電解質と同様のものを使用することができる。
次に、カソード4の電極触媒層42について更に詳しく説明する。
この電極触媒層42は、触媒担持体と、イオン伝導性物質と、繊維状カーボンとを含んで構成されている。触媒担持体及びイオン伝導性物質は、カソード4の電極触媒層42に使用することができる前記した触媒担持体及びイオン伝導性物質を使用することができる。
ちなみに、電極触媒層42の触媒担持体の触媒金属としては、前記したアノード3の電極触媒層32と同様に、白金系の触媒金属を使用することができるが、中でも白金−コバルト合金からなる触媒金属が望ましい。
前記したように、本発明で特徴的な繊維状カーボンは、図2(a)及び(b)中、繊維状カーボンAとして示すように、繊維長0.6μm未満、及び繊維長1μm以上、10μm未満の範囲で特徴的な分布を有している。
なお、「繊維状カーボンA」の繊維長は、レーザ回折式粒度分布測定装置を使用して測定した繊維長である。以下、「繊維状カーボンの繊維長」については特に定義しない限りこれと同義である。
ちなみに、本実施形態での繊維長は、レーザ回折式粒度分布測定装置が繊維状カーボンを粒子として測定した径であり、繊維長が直径(長径)として測定されたものである。
この電極触媒層42の繊維状カーボンAは、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」の体積割合V1(図2(b)中の網掛け部分)が、カソード4の電極触媒層42に含まれる繊維状カーボン全体(全ての繊維状カーボン)の体積に対して、0.5%以下となっている。
そして、カソード4の電極触媒層42に含まれる繊維状カーボンAは、図2(a)に示すように、「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」の体積割合V2(図2(a)中の網掛け部分)が、カソード4の電極触媒層42に含まれる繊維状カーボン全体(全ての繊維状カーボン)の体積に対して、30.0%以上となっている。
このような繊維長の分布を有する繊維状カーボンAは、後で詳しく説明するが、上市品として一般に流通する、例えば図2(a)及び(b)に繊維状カーボンBとして示す、繊維長の分布を有するものを篩い分けし、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」を除去してこの「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」の体積割合を低減することで得ることができる。つまり、図2(b)に示すように、繊維状カーボンAにおける「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」の体積割合V1が、繊維状カーボンBと比較して低減すると共に、図2(a)に示すように、繊維状カーボンAにおける「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」の体積割合V2が、繊維状カーボンBと比較して増加している。
以上のような繊維状カーボンとしては、例えば、単結晶の真性ウィスカ、多結晶の非真性ウィスカがあり、気相成長カーボン繊維やカーボンナノチューブ等が挙げられる。中でも気相成長カーボン繊維は、繊維同士が絡まりやすく、適切細孔をより確実に、かつ多く形成することができる。また、気相成長カーボン繊維は、結晶性が高く炭素原子の配列構造が整っているので、電極触媒層42の電子伝導性を、より向上させることができる。
次に、本実施形態に係る膜電極構造体1の作用効果について説明する。
この膜電極構造体1(図1参照)においては、図2(a)中、最適繊維長の範囲として示す「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」が、発電性能の向上に大きく寄与する細孔径の細孔をカソード4の電極触媒層42(図1参照)に形成する。具体的には、この最適繊維長の範囲に属する繊維状カーボンは、適切細孔が多くを占めるように(具体的には、細孔径0.01μm〜5μmの範囲の細孔が多くを占めるように)電極触媒層42を形成することで、実質的に反応ガス(空気)を移動させることができないとされる、細孔径が小さすぎる細孔や、電極触媒層42の比表面積を指数的に減少させる、細孔径が大きすぎる細孔の電極触媒層42における割合を低減する。
その一方で、図2(a)及び(b)中、極短繊維長の範囲として示す「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」は、電極触媒層42に形成される前記した適切細孔を埋めるように機能するところ、本実施形態での電極触媒層42は、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」の体積割合が0.5%以下となっている。そのため、電極触媒層42の適切細孔で占める細孔容積の大きさは、良好なまま維持される。
つまり、本実施形態に係る膜電極構造体1(図1参照)は、従来の電極触媒層(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)を備える膜電極構造体と異なって、発電性能の向上に大きく寄与する細孔径の細孔が多くを占めるように電極触媒層の細孔分布をコントロールすることができる。
以上のように、本実施形態に係る膜電極構造体1によれば、適切細孔が電極触媒層42に、より多く形成されるので、反応ガス(空気)を効率よく供給して、効率よく触媒と接触させることができると共に、副生した水を効率よく排出することができる。
また、本実施形態に係る膜電極構造体1においては、前記したように、「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」を選択的に使用すると共に、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」を低減することで、電極触媒層42(図1参照)の細孔容積を大きく確保することができるので、従来の電極触媒層(例えば、特許文献1参照)と異なって、後工程で酸溶出する亜鉛粒子(溶出粒子)を使用する必要がなく、従来の膜電極構造体の製造方法よりも簡素化された工程で、細孔容積を大きく確保した電極触媒層42を形成することができる。その結果、この膜電極構造体1によれば、その製造コストを低減することができる。
(膜電極構造体の製造方法)
次に、本実施形態に係る膜電極構造体の製造方法について説明する。ここでは、図1に示す膜電極構造体1の製造方法を例にとって説明する。そして、以下ではアノード3のガス拡散層31及び電極触媒層32が、カソード4のガス拡散層41及び電極触媒層42と同様の構成となるものを想定して説明するので、各符号は省略する。
この製造方法は、電極触媒層形成用組成物を調製する工程(第1工程)と、この電極触媒層形成用組成物で電極シートを形成する工程(第2工程)と、一対の電極シートで高分子電解質膜を挟持するように配置して電極触媒層を形成する工程(第3工程)とを有している。
そして、本実施形態に係る膜電極構造体の製造方法は、前記した第1工程に先立って、電極触媒層形成用組成物の原料として使用する繊維状カーボンを予め篩い分けし、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」を除く、篩い分け工程を更に有することを主な特徴としている。
なお、繊維長は、前記したと同様に、レーザ回折式粒度分布測定装置を使用して測定したものである。ちなみに、繊維状カーボンの繊維長の測定には、測定用溶媒として、エタノールを使用することが望ましい。
前記した篩い分けの方法としては、例えば、規定のメッシュ上に振動子を当てて篩い分けを行う方法、高速旋回気流を利用したサイクロン型分級装置を使用する方法、エルボージェット型分級装置を使用する方法等の乾式法、沈降速度の差を利用した湿式分級装置を使用する方法、溶媒に分散させた後に遠心分離を行う方法、クロマト法等の湿式法が挙げられる。
この篩い分け工程では、2次凝集、3次凝集、4次以降の凝集等で凝集した原料としての繊維状カーボンを篩い分けすることで、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」の割合が減少する。この原料としての繊維状カーボンとしては、前記したように、上市品を好適に使用することができる。
この篩い分け工程を経た繊維状カーボンは、前記したように、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」の体積割合が低下すると共に、「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」の体積割合が増加する。
また、この篩い分け工程においては、「繊維長が10μm以上の繊維状カーボン」を除くことが望ましい。ちなみに、「繊維長が10μm以上の繊維状カーボン」は、電極触媒層において繊維数が少なくなり、繊維同士の絡まりあいが減少するため、細孔形成に充分な構造をとらなくなってしまう。
また、「繊維長が10μm以上の繊維状カーボン」を除くと、「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」(最適繊維長の繊維状カーボン)の体積割合が相対的に増加するので、適切細孔がより多くを占める電極触媒層を形成することができる。
また、「繊維長が0.6μm以上、1μm未満の繊維状カーボン」については、多く含まれることによって、適切細孔の形成を阻害することはないが、この範囲の繊維長の繊維状カーボンよりも、前記した「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」を多く含むもののほうが望ましい。
そして、前記した第1工程では、前記した触媒担持体と、前記した高分子電解質とを混合し、必要に応じて更に溶媒を混合した後に、篩い分け工程を経た繊維状カーボンを混合することで、ペースト状の電極触媒層形成用組成物を調製する。なお、この電極触媒層形成用組成物における触媒担持体及び高分子電解質の配合割合は、燃料電池の分野で通常行われる範囲内で適宜に設定することができる。また、繊維状カーボンの配合割合は、目的の電極触媒層中に10〜30質量%含有するように設定することが望ましい。
次に、前記した第2工程では、例えばテフロン(登録商標)シート等の基材上に、電極触媒層形成用組成物を展延することで、電極触媒層形成用組成物からなる電極シートが形成される。
次に、前記した第3工程では、第2工程で形成された一対の電極シートで高分子電解質膜を挟持するように配置して電極触媒層が形成される。この際、高分子電解質膜への電極シートの配置は、よく乾燥させた基材上の電極シートを、デカール法で高分子電解質膜に転写した後、電極シートから基材を剥離することによって行うことができる。
そして、この第3工程では、更に電極触媒層上にガス拡散層が形成されることで膜電極構造体が完成する。ちなみに、このガス拡散層の形成方法としては、例えば、別途に用意したカーボンペーパ上に、ポリテトラフルオロエチレン等とカーボンブラックとを含むペーストを塗布、乾燥することでシート材を作製し、このシート材を高分子電解質膜の両面に設けた電極触媒層のそれぞれの上に配置した後、これをホットプレスで一体化する方法が挙げられる。
以上のような製造方法においては、篩い分け工程によって、前記した極短繊維長の「0.6μm未満の繊維状カーボン」が除かれる。したがって、この製造方法によれば、発電性能の向上に大きく寄与する細孔径の細孔(適切細孔)が多くを占めるように電極触媒層の細孔分布及び細孔容積を容易にコントロールすることができるので、膜電極構造体を安定的に量産することができる。
また、この製造方法においては、例えば、繊維長0.6μmの前後にわたって所定の分布を有する繊維状カーボンから繊維長0.6μm未満の繊維状カーボンが除かれると、「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」(最適繊維長の範囲の繊維状カーボン)の体積割合が相対的に増加する。その結果、電極触媒層に形成される細孔の大きさ(細孔径)が大きく変動せずに安定し、細孔容積が安定することとなる。
この製造方法によれば、電極触媒層に形成される細孔の大きさ(細孔径)が、より確実に安定し、細孔容積が、より確実に安定することとなる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
前記実施形態では、担体粒子に担持される触媒金属の種類の別を除いて、カソード4の電極触媒層42と同じ触媒担持カーボンをアノード3の電極触媒層32に使用した膜電極構造体1を想定しているが、本発明は、少なくともカソード4の電極触媒層42に使用する触媒担持カーボンが前記した特定の範囲のものであればよく、アノード3の電極触媒層32の触媒担持カーボンは従来のもの(例えば、上市品)をそのまま使用したものであってもよい。
また、前記実施形態では、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」を篩い分けによって除くことで、「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」の体積割合が30%以上となり、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」の体積割合が0.5%以下となるように膜電極構造体1を構成したが、異なる繊維長の分布を有する2種以上の繊維状カーボンを組み合わせてブレンドすることによって、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」の体積割合が0.5%以下となり、「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」の体積割合が30%以上となるように膜電極構造体1を構成してもよい。
また、繊維状カーボンの複数のロットの中から、繊維長の分布が前記した範囲となるものを、粒度分布(繊維長)測定により選択して膜電極構造体1を構成してもよい。
次に、本発明の効果を確認した実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(発明原理の確認試験)
ここでは、カソードの電極触媒層に使用した所定の繊維長の範囲内に含まれる繊維状カーボンの体積割合と、電極触媒層に形成される細孔容積との間に所定の相関関係が認められることを確認した。
<繊維長の分布の測定>
ここでは上市品の繊維状カーボンとしての気相成長カーボン繊維(昭和電工社製、VGCF(登録商標))を数十ロット準備した後、これらについて繊維長の分布を測定し、表1に示すNo.G−1からNo.G−5、及びNo.NG−1からNo.NG−4の9種類の繊維状カーボン、並びに表2に示すNo.(G−6)〜No.(G−9)、及びNo.(NG−5)〜No.(NG−7)の7種類の繊維状カーボンを選択した。なお、No.G−1の繊維状カーボンは、No.NG−3の繊維状カーボンに対して後記する篩い分けを行って得たものである。
Figure 0005537178
Figure 0005537178
繊維長の測定には、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、SALD−2000)を使用した。測定用溶媒には、エタノールを使用した。まず、エタノールを攪拌しながら繊維状カーボンを投入した。そして超音波をかけながら20分攪拌した後に、攪拌を継続しつつ測定を開始した。測定時の吸光度は0.17〜0.19に設定し、繊維状カーボンを投入したエタノールの温度は23℃に維持した。
そして、測定した繊維長に基づいて、表1に示すNo.G−1からNo.G−5、及びNo.NG−1からNo.NG−4の9種類の各繊維状カーボンについて、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボンの体積割合」及び「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボンの体積割合」を算出した。
その結果を表1に示す。
また、表2に示すNo.(G−6)〜No.(G−9)、及びNo.(NG−5)〜No.(NG−7)の7種類については「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」の体積割合を算出した。
その結果を表2に示す。
<カソード用の電極シートの作製>
触媒担持体としてのPt−Co担持カーボン粒子(田中貴金属工業社製、商品名「TEC36F62」、Pt:Co=3:1(モル比))を準備した。この触媒担持体の10倍の質量の溶媒(n−プロピルアルコールと水との容量比が1:2の混合液)と、パーフルオロアルキレンスルホン酸系ポリマ溶液(デュポン社製、商品名「ナフィオン(登録商標) DE2020」)とを混合した。パーフルオロアルキレンスルホン酸系ポリマ溶液の配合量は、触媒担持カーボンと、パーフルオロアルキレンスルホン酸系ポリマ溶液中のポリマ分との質量比が1:1.5となるように設定した。次いで、これに前記した気相成長カーボン繊維をそれぞれ投入し、遊星ボールミルを使用して80rpmで120分混練することで、9種類と7種類の合計16種類のカソードの電極触媒層形成用組成物を調製した。
次に、調製したそれぞれの電極触媒層形成用組成物について、電極触媒層形成用組成物をPETフィルムにスクリーン印刷で塗布し、これを60℃で10分加熱した。その後、減圧下に100℃で15分加熱して電極触媒層形成用組成物を乾燥させて、PETフィルム上にカソード用の電極シートを得た。
なお、PETフィルムに対する電極触媒層形成用組成物の塗布量は、Pt−Co合金が0.5mg/cmとなるように設定した。
<アノード用の電極シートの作製>
アノード用の電極触媒層用の触媒担持体として上市品(田中貴金属工業社製、商品名「TEC10EA50E」)を用意した。この触媒担持体は、グラファイト化したケッチェンブラックからなる担体粒子と、Ptとの質量比が50:50のものである。
この触媒担持体と、この触媒担持体の10倍の質量の溶媒(n−プロピルアルコールと水との容量比が1:2の混合液)と、パーフルオロアルキレンスルホン酸系ポリマ溶液(デュポン社製、商品名「ナフィオン(登録商標) DE2020」)とを混合した後、遊星ボールミルを使用して80rpmで120分混練してアノードの電極触媒層形成用組成物を調製した。
なお、パーフルオロアルキレンスルホン酸系ポリマ溶液の配合量は、触媒担持体と、パーフルオロアルキレンスルホン酸系ポリマ溶液中のポリマ分との質量比が1:1となるように設定した。
次に、電極触媒層形成用組成物をPETフィルムにスクリーン印刷で塗布し、これを60℃で10分加熱した。その後、減圧下に100℃で15分加熱して電極触媒層形成用組成物を乾燥させて、PETフィルム上にアノード用の電極シートを得た。
なお、PETフィルムに対する電極触媒層形成用組成物の塗布量は、Ptが0.3mg/cmとなるように設定した。
<ガス拡散層用のシート材の作製>
まず、カーボンブラック(三菱化学社製、商品名「ケッチェンブラックEC」)と、ポリテトラフルオロエチレン粒子(三井・デュポンフロロケミカル社製、商品名「テフロン(登録商標)640J」)とを質量比が4:6となるように混合して得られた混合物を、エチレングリコールに分散させてスラリ状のガス拡散層形成用組成物を調製した。
次に、このガス拡散層形成用組成物を、カーボンペーパ(東レ社製、商品名「TGP−H060」)の片面(平坦面側)に塗布し、これを乾燥させて、カーボンペーパと、ガス拡散層形成用組成物からなる下地層とで構成されるシート材を作製した。
<膜電極構造体の作製>
用意した高分子電解質膜(デュポン社製、商品名「ナフィオン(登録商標)N112」)の両面に、それぞれPETフィルム上に形成したカソード用の電極シート、及びアノード用の電極シートを配置した後、これらをホットプレスにて120℃、2.0MPaの条件で一体化した。そして、高分子電解質膜を挟持した一対の電極シートのそれぞれからPETフィルムを剥離することで、高分子電解質膜に電極触媒層が形成された接合体(CCM:Catalyst Coated Membrane)を得た。
次いで、接合体(CCM)を一対のガス拡散層用のシート材の下地層側で挟持すると共に、これらに、ホットプレスにて150℃、2.5MPaの条件で12分加熱及び加圧を行って膜電極構造体を得た。
<カソードの電極触媒層における細孔容積の測定>
作製した膜電極構造体について、カソードの電極触媒層における細孔容積の測定を行った。細孔容積の測定には、水銀ポロシメータ(マイクロメトリックス社製、商品名「Auto Pore4」)を使用した。
なお、ここでの細孔容積は、「細孔径が0.01μm〜5μmの範囲の細孔」(適切細孔)の総量を測定したものである。
また、電極触媒層の厚さを、レーザ顕微鏡(KEYENCE社製、商品名「VK−8700」)及び走査型電子顕微鏡(島津製作所社製、商品名「SS−550」)を使用して測定した。
また、細孔容積は、電極触媒層における、性能に寄与する細孔径0.01μm〜5μmの細孔の合計の細孔容積[μL]を、電極触媒層の単位体積[mm]あたりの細孔容積[μL/mm]として換算することで、測定した細孔容積の規格化を行っている。
そして、カソードの電極触媒層に使用した繊維状カーボンの繊維長の分布と、電極触媒層に形成される細孔容積との間の相関関係を求めた。その結果を表1及び図3、並びに表2及び図4に示す。
図3は、カソードの電極触媒層に含まれる全ての繊維状カーボンのうちの繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボンの体積割合[%]と、その繊維状カーボンを使用して形成される電極触媒層における単位体積あたりの細孔容積の総計[μL/mm]との関係を表すグラフであり、横軸は0.6μm未満の繊維状カーボンの体積割合[%]を示し、縦軸は電極触媒層の単位体積あたりの規格化した細孔容積[μL/mm]を示している。
図4は、カソードの電極触媒層に含まれる繊維状カーボン全体のうち、繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボンが占める体積割合[%]と、その繊維状カーボンを用いて形成される電極触媒層における単位体積あたりの細孔容積の総計[μL/mm]との関係を表すグラフであり、横軸はその繊維状カーボンの体積割合[%]を示し、縦軸は電極触媒層の単位体積あたりの規格化した細孔容積[μL/mm]を示している。
<発明原理の確認結果>
図3に示すように、カソードの電極触媒層において、「細孔径が0.01μm〜5μmの範囲の細孔」(適切細孔)が占める細孔容積[μL/mm]は、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」が占める体積割合[%]が減少するに伴って増加している。
また、図3に示すように、カソードの電極触媒層において、「細孔径が0.01μm〜5μmの範囲の細孔」(適切細孔)が占める細孔容積[μL/mm]は、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」が占める体積割合[%]が、0.5%となったときに(繊No.G−5の繊維状カーボンで)変曲点を向かえ、この0.5%を下回ると顕著に安定すると共に、良好な細孔容積[μL/mm]を維持している。
そして、図4に示すように、カソードの電極触媒層において、「細孔径が0.01μm〜5μmの範囲の細孔」(適切細孔)が占める細孔容積[μL/mm]は、「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」が占める体積割合[%]が増加するに伴って増加している。
また、図4に示すように、カソードの電極触媒層において、「細孔径が0.01μm〜5μmの範囲の細孔」(適切細孔)が占める細孔容積[μL/mm]は、「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」が占める体積割合[%]が、30%となったときに(No.G−6の繊維状カーボンで)変曲点を向かえ、この30%を上回ると顕著に安定すると共に、良好な細孔容積[μL/mm]を維持している。
以上のことから、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」の占める体積割合[%]を0.5%以下とすることで、「細孔径が0.01μm〜5μmの範囲の細孔」(適切細孔)を電極触媒層に多く、安定して形成できることが確認された(図3参照)。
また、「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」の占める体積割合[%]を30%以上とすることで、「細孔径が0.01μm〜5μmの範囲の細孔」(適切細孔)を電極触媒層に多く、安定して形成できることが確認された(図4参照)。
(発電性能の評価試験)
次に、表1に示すNo.G−1からNo.G−5、及びNo.NG−1からNo.NG−4の9種類の繊維状カーボンを使用して作製した前記膜電極構造体について、それぞれ燃料電池(JARI(財団法人日本自動車研究所)標準セル)を作製した。そして、作製した燃料電池のセル電位[V]を測定した。この燃料電池の運転条件としては、純水素及び空気の利用率を75%とし、アノード及びカソードの加湿を70%(相対湿度)とし、ガス圧はアノード及びカソードの両方とも100kPaとした。測定したセル電位[V]を表1及び図5に示す。
次に参照する図5は、燃料電池の発電時におけるセル電位[V]と、カソードの電極触媒層における「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」が占める体積割合[%]との関係を示すグラフである。
図5に示すように、燃料電池のセル電位[V]は、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」が占める体積割合[%]が減少するに伴って増加している。
また、図5に示すように、燃料電池のセル電位[V]は、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」が占める体積割合[%]が、0.5%となったときに(No.G−5の繊維状カーボンで)変曲点を向かえ、この0.5%を下回ると顕著に安定すると共に、良好なセル電位[V]を維持している。
以上のことから、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」の占める体積割合[%]を0.5%以下とすることで、燃料電池のセル電位[V]が良好な値を示して安定することが確認された。
また、表1に示す燃料電池のセル電位[V]と、細孔容積[μL/mm]との相関関係を求めた。その結果を図6に示す。
次に参照する図6は、燃料電池の発電時におけるセル電位[V]と、カソードの電極触媒層における「細孔径が0.01μm〜5μmの範囲の細孔」(適切細孔)が占める細孔容積[μL/mm]との関係を示すグラフである。
図6に示すように、燃料電池のセル電圧[V]は、カソードの電極触媒層の細孔容積[μL/mm]が増加すると共に増加している。
そして、セル電圧[V]は、No.G−5の繊維状カーボンが示す細孔容積1.57[μL/mm]を境に、顕著に安定すると共に、良好な値を示している。つまり、カソードの電極触媒層の細孔容積[μL/mm]を1.57[μL/mm]以上とすることで、燃料電池のセル電圧[V]が良好な値を示して安定することが確認された。
(繊維状カーボンの篩い分け効果の確認試験)
前記したように、表1のNo.G−1の繊維状カーボンは、表1のNo.NG−3の繊維状カーボンに篩い分けを施して得られたものである。
この篩い分けは、マツボー社製、エルボージェット(商品名、EJ−LABO)を使用して行った。この篩い分けでは、表1のNo.NG−3の繊維状カーボンに含まれる繊維長2μm以下のものを除く分級が行われた。
表1のNo.G−1の繊維状カーボン、及びNo.NG−3の繊維状カーボンを使用して作製した電極触媒層の細孔容積、及びこの触媒電極を使用した燃料電池のセル電位を表3に転記する。
Figure 0005537178
また、表1のNo.NG−4の繊維状カーボンについて同様に篩い分けを施して、表3に示すNo.G−10の繊維状カーボンを新たに調製した。この繊維状カーボンについて、前記したと同様に、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」が占める体積割合[%]、及び「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」が占める体積割合[%]を測定した。その結果を表3に示す。
また、このNo.G−10の繊維状カーボンを使用して作製した電極触媒層の細孔容積、及びこの電極触媒層を有する燃料電池のセル電位を、前記したと同様に測定した。その結果を表3に示す。
表3に示すように、篩い分け工程を実施して「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」を除去することによって、カソードの電極触媒層における細孔容積[μL/mm]、及びこれを使用した燃料電池のセル電圧[V]が増大することが確認された。
1 燃料電池用膜電極構造体(膜電極構造体)
2 高分子電解質膜
3 アノード
4 カソード
5 セパレータ
6 セパレータ
31 アノードのガス拡散層
32 アノードの電極触媒層
41 カソードのガス拡散層
42 カソードの電極触媒層
FC 固体高分子型燃料電池(単セル)

Claims (2)

  1. 高分子電解質膜がアノード及びカソードの電極触媒層で挟持された燃料電池用膜電極構造体において、
    前記カソードの前記電極触媒層は、触媒担持体と、繊維状カーボンとを含み、
    レーザ回折式粒度分布測定装置を使用して測定した繊維長が0.6μm未満の前記繊維状カーボンの体積割合が、前記繊維状カーボンの全体の体積に対して、0.5%以下であり、繊維長が1μm以上、10μm未満の前記繊維状カーボンの体積割合が、前記繊維状カーボンの全体の体積に対して、30%以上であることを特徴とする燃料電池用膜電極構造体。
  2. 少なくとも触媒担持体、繊維状カーボン及びイオン導電性物質を混練して電極触媒層形成用組成物を調製する第1工程と、
    前記電極触媒層形成用組成物を展延して電極シートを形成する第2工程と、
    高分子電解質膜の膜面に前記電極シートを配置して電極触媒層を形成する第3工程と、
    を有する燃料電池用膜電極構造体の製造方法において、
    前記第1工程に先立って、レーザ回折式粒度分布測定装置を使用して測定した繊維長が0.6μm未満の前記繊維状カーボンを篩い分けによって存在割合を減少させる篩い分け工程を更に有することを特徴とする燃料電池用膜電極構造体の製造方法。
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