JP5537178B2 - 燃料電池用膜電極構造体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
この技術は、組成物中の亜鉛粒子を酸溶出させた痕として電極触媒層に細孔を形成するものである。また、この技術は、前記したように、大粒径のカーボン粒子(骨体形成粒子)と、触媒金属を担持した小粒径のカーボン粒子(触媒担持カーボン)との2種類を使用することによって、電極触媒層におけるカーボン粒子の充填構造が、単一粒径のカーボン粒子で形成されるいわゆる六方最密充填構造とならないように構成されている。
図7に示すように、従来のカーボン粒子の充填構造は、大粒径のカーボン粒子C1(骨体形成粒子)同士の間に形成された細孔Hに、小粒径のカーボン粒子C2(触媒担持カーボン)が充填されることによって、大粒径のカーボン粒子C1で形成される六方最密充填構造(図示省略)よりも更に緻密なカーボン粒子C1,C2の充填構造となる場合がある。つまり、この従来の電極触媒層では、六方最密充填構造よりも細孔容積が却って低減する場合があると共に、実質的に反応ガス(空気)を移動させることができないとされる細孔Hを、大粒径のカーボン粒子C1同士の間に比較的多く形成する場合がある。
しかしながら、この電極触媒層を作製する際には、径の太い骨格繊維が形成する隙間の大きさをコントロールし、更にはその隙間に径の細い担体繊維が集合する所と、集合しない所とが所定の割合で形成されるようにコントロールすることが極めて困難であった。その結果、性能が安定した燃料電池用膜電極構造体を量産することができなかった。また、従来の電極触媒層は、径の太い繊維で骨格を形成するために、ガス拡散分の体積ロスが生じて、燃料電池用膜電極構造体がその性能を満足に発揮できない場合があった。
この燃料電池用膜電極構造体によれば、繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボンの体積割合が0.5%以下となっているので、発電性能の向上に大きく寄与する細孔径の細孔(適切細孔)を埋める繊維状カーボンが低減される。その結果、形成された適切細孔が埋められることが回避される。また、繊維状カーボン同士が絡まりあって、適切細孔がより多く形成される。
この燃料電池用膜電極構造体の製造方法によれば、繊維長が0.6μm未満の前記繊維状カーボンを篩い分けによって割合を減少させることができ、発電性能の向上に大きく寄与する細孔径の細孔(適切細孔)を埋める繊維状カーボンが低減され、繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボンの体積割合が増加して、適切細孔がより多く形成されるカソードの電極触媒層を有する燃料電池用膜電極構造体を製造することができる。
(燃料電池用膜電極構造体)
本発明の燃料電池用膜電極構造体は、カソードの電極触媒層に含まれる繊維状カーボンにおいて、繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボンの体積割合が、繊維状カーボンの全体の体積に対して、0.5%以下であることを主な特徴とする。
また、本発明の燃料電池用膜電極構造体は、カソードの電極触媒層に含まれる繊維状カーボンにおいて、繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボンの体積割合が、繊維状カーボンの全体の体積に対して、30%以上であることを主な特徴とする。ここでは先ず、燃料電池用膜電極構造体の全体構成について説明する。
この燃料電池用膜電極構造体1は、一対のセパレータ5,6で挟持されることで固体高分子型燃料電池FCの単セルを構成する。そして、この単セルが積層されることで燃料電池スタックを構成する。ちなみに、この固体高分子型燃料電池FCの単セルでは、セパレータ5の流路5aを流通する水素が、アノード3に供給され、セパレータ6の流路6aを流通する空気が、カソード4に供給されると、水素と空気(酸素)との電気化学的反応によって発電が行われる。ちなみに、この電気化学的反応は発熱反応であり、発電によって生じた熱は、セパレータ5,6の流路5b,6bを流通する冷却水によって冷却される。
本実施形態での触媒担持体は、前記した電気化学反応において触媒活性を発揮するように触媒金属を担持させた担体であり、粒子状、繊維状のものが挙げられる。中でも粒子状のもの(担体粒子)が望ましい。
担体粒子としては、カーボンブラックや、酸化すず等の粒子が適するが、電気伝導性物質からなる粒子を使用することが好ましく、具体的には、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック(ケッチェンブラックやバルカン等)等のカーボン粒子が挙げられる。
なお、この電極触媒層32用の触媒担持体としては、上市品を使用することができる。
本実施形態でのイオン伝導性物質には、高分子電解質膜2を形成する固体高分子電解質と同様のものを使用することができる。
この電極触媒層42は、触媒担持体と、イオン伝導性物質と、繊維状カーボンとを含んで構成されている。触媒担持体及びイオン伝導性物質は、カソード4の電極触媒層42に使用することができる前記した触媒担持体及びイオン伝導性物質を使用することができる。
ちなみに、電極触媒層42の触媒担持体の触媒金属としては、前記したアノード3の電極触媒層32と同様に、白金系の触媒金属を使用することができるが、中でも白金−コバルト合金からなる触媒金属が望ましい。
なお、「繊維状カーボンA」の繊維長は、レーザ回折式粒度分布測定装置を使用して測定した繊維長である。以下、「繊維状カーボンの繊維長」については特に定義しない限りこれと同義である。
ちなみに、本実施形態での繊維長は、レーザ回折式粒度分布測定装置が繊維状カーボンを粒子として測定した径であり、繊維長が直径(長径)として測定されたものである。
この膜電極構造体1(図1参照)においては、図2(a)中、最適繊維長の範囲として示す「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」が、発電性能の向上に大きく寄与する細孔径の細孔をカソード4の電極触媒層42(図1参照)に形成する。具体的には、この最適繊維長の範囲に属する繊維状カーボンは、適切細孔が多くを占めるように(具体的には、細孔径0.01μm〜5μmの範囲の細孔が多くを占めるように)電極触媒層42を形成することで、実質的に反応ガス(空気)を移動させることができないとされる、細孔径が小さすぎる細孔や、電極触媒層42の比表面積を指数的に減少させる、細孔径が大きすぎる細孔の電極触媒層42における割合を低減する。
つまり、本実施形態に係る膜電極構造体1(図1参照)は、従来の電極触媒層(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)を備える膜電極構造体と異なって、発電性能の向上に大きく寄与する細孔径の細孔が多くを占めるように電極触媒層の細孔分布をコントロールすることができる。
次に、本実施形態に係る膜電極構造体の製造方法について説明する。ここでは、図1に示す膜電極構造体1の製造方法を例にとって説明する。そして、以下ではアノード3のガス拡散層31及び電極触媒層32が、カソード4のガス拡散層41及び電極触媒層42と同様の構成となるものを想定して説明するので、各符号は省略する。
そして、本実施形態に係る膜電極構造体の製造方法は、前記した第1工程に先立って、電極触媒層形成用組成物の原料として使用する繊維状カーボンを予め篩い分けし、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」を除く、篩い分け工程を更に有することを主な特徴としている。
なお、繊維長は、前記したと同様に、レーザ回折式粒度分布測定装置を使用して測定したものである。ちなみに、繊維状カーボンの繊維長の測定には、測定用溶媒として、エタノールを使用することが望ましい。
また、「繊維長が0.6μm以上、1μm未満の繊維状カーボン」については、多く含まれることによって、適切細孔の形成を阻害することはないが、この範囲の繊維長の繊維状カーボンよりも、前記した「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」を多く含むもののほうが望ましい。
また、繊維状カーボンの複数のロットの中から、繊維長の分布が前記した範囲となるものを、粒度分布(繊維長)測定により選択して膜電極構造体1を構成してもよい。
(発明原理の確認試験)
ここでは、カソードの電極触媒層に使用した所定の繊維長の範囲内に含まれる繊維状カーボンの体積割合と、電極触媒層に形成される細孔容積との間に所定の相関関係が認められることを確認した。
ここでは上市品の繊維状カーボンとしての気相成長カーボン繊維(昭和電工社製、VGCF(登録商標))を数十ロット準備した後、これらについて繊維長の分布を測定し、表1に示すNo.G−1からNo.G−5、及びNo.NG−1からNo.NG−4の9種類の繊維状カーボン、並びに表2に示すNo.(G−6)〜No.(G−9)、及びNo.(NG−5)〜No.(NG−7)の7種類の繊維状カーボンを選択した。なお、No.G−1の繊維状カーボンは、No.NG−3の繊維状カーボンに対して後記する篩い分けを行って得たものである。
そして、測定した繊維長に基づいて、表1に示すNo.G−1からNo.G−5、及びNo.NG−1からNo.NG−4の9種類の各繊維状カーボンについて、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボンの体積割合」及び「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボンの体積割合」を算出した。
その結果を表1に示す。
また、表2に示すNo.(G−6)〜No.(G−9)、及びNo.(NG−5)〜No.(NG−7)の7種類については「繊維長が1μm以上、10μm未満の繊維状カーボン」の体積割合を算出した。
その結果を表2に示す。
触媒担持体としてのPt−Co担持カーボン粒子(田中貴金属工業社製、商品名「TEC36F62」、Pt:Co=3:1(モル比))を準備した。この触媒担持体の10倍の質量の溶媒(n−プロピルアルコールと水との容量比が1:2の混合液)と、パーフルオロアルキレンスルホン酸系ポリマ溶液(デュポン社製、商品名「ナフィオン(登録商標) DE2020」)とを混合した。パーフルオロアルキレンスルホン酸系ポリマ溶液の配合量は、触媒担持カーボンと、パーフルオロアルキレンスルホン酸系ポリマ溶液中のポリマ分との質量比が1:1.5となるように設定した。次いで、これに前記した気相成長カーボン繊維をそれぞれ投入し、遊星ボールミルを使用して80rpmで120分混練することで、9種類と7種類の合計16種類のカソードの電極触媒層形成用組成物を調製した。
なお、PETフィルムに対する電極触媒層形成用組成物の塗布量は、Pt−Co合金が0.5mg/cm2となるように設定した。
アノード用の電極触媒層用の触媒担持体として上市品(田中貴金属工業社製、商品名「TEC10EA50E」)を用意した。この触媒担持体は、グラファイト化したケッチェンブラックからなる担体粒子と、Ptとの質量比が50:50のものである。
なお、パーフルオロアルキレンスルホン酸系ポリマ溶液の配合量は、触媒担持体と、パーフルオロアルキレンスルホン酸系ポリマ溶液中のポリマ分との質量比が1:1となるように設定した。
なお、PETフィルムに対する電極触媒層形成用組成物の塗布量は、Ptが0.3mg/cm2となるように設定した。
まず、カーボンブラック(三菱化学社製、商品名「ケッチェンブラックEC」)と、ポリテトラフルオロエチレン粒子(三井・デュポンフロロケミカル社製、商品名「テフロン(登録商標)640J」)とを質量比が4:6となるように混合して得られた混合物を、エチレングリコールに分散させてスラリ状のガス拡散層形成用組成物を調製した。
用意した高分子電解質膜(デュポン社製、商品名「ナフィオン(登録商標)N112」)の両面に、それぞれPETフィルム上に形成したカソード用の電極シート、及びアノード用の電極シートを配置した後、これらをホットプレスにて120℃、2.0MPaの条件で一体化した。そして、高分子電解質膜を挟持した一対の電極シートのそれぞれからPETフィルムを剥離することで、高分子電解質膜に電極触媒層が形成された接合体(CCM:Catalyst Coated Membrane)を得た。
作製した膜電極構造体について、カソードの電極触媒層における細孔容積の測定を行った。細孔容積の測定には、水銀ポロシメータ(マイクロメトリックス社製、商品名「Auto Pore4」)を使用した。
なお、ここでの細孔容積は、「細孔径が0.01μm〜5μmの範囲の細孔」(適切細孔)の総量を測定したものである。
そして、カソードの電極触媒層に使用した繊維状カーボンの繊維長の分布と、電極触媒層に形成される細孔容積との間の相関関係を求めた。その結果を表1及び図3、並びに表2及び図4に示す。
図3に示すように、カソードの電極触媒層において、「細孔径が0.01μm〜5μmの範囲の細孔」(適切細孔)が占める細孔容積[μL/mm3]は、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」が占める体積割合[%]が減少するに伴って増加している。
次に、表1に示すNo.G−1からNo.G−5、及びNo.NG−1からNo.NG−4の9種類の繊維状カーボンを使用して作製した前記膜電極構造体について、それぞれ燃料電池(JARI(財団法人日本自動車研究所)標準セル)を作製した。そして、作製した燃料電池のセル電位[V]を測定した。この燃料電池の運転条件としては、純水素及び空気の利用率を75%とし、アノード及びカソードの加湿を70%(相対湿度)とし、ガス圧はアノード及びカソードの両方とも100kPaとした。測定したセル電位[V]を表1及び図5に示す。
また、図5に示すように、燃料電池のセル電位[V]は、「繊維長が0.6μm未満の繊維状カーボン」が占める体積割合[%]が、0.5%となったときに(No.G−5の繊維状カーボンで)変曲点を向かえ、この0.5%を下回ると顕著に安定すると共に、良好なセル電位[V]を維持している。
そして、セル電圧[V]は、No.G−5の繊維状カーボンが示す細孔容積1.57[μL/mm3]を境に、顕著に安定すると共に、良好な値を示している。つまり、カソードの電極触媒層の細孔容積[μL/mm3]を1.57[μL/mm3]以上とすることで、燃料電池のセル電圧[V]が良好な値を示して安定することが確認された。
前記したように、表1のNo.G−1の繊維状カーボンは、表1のNo.NG−3の繊維状カーボンに篩い分けを施して得られたものである。
この篩い分けは、マツボー社製、エルボージェット(商品名、EJ−LABO)を使用して行った。この篩い分けでは、表1のNo.NG−3の繊維状カーボンに含まれる繊維長2μm以下のものを除く分級が行われた。
表1のNo.G−1の繊維状カーボン、及びNo.NG−3の繊維状カーボンを使用して作製した電極触媒層の細孔容積、及びこの触媒電極を使用した燃料電池のセル電位を表3に転記する。
2 高分子電解質膜
3 アノード
4 カソード
5 セパレータ
6 セパレータ
31 アノードのガス拡散層
32 アノードの電極触媒層
41 カソードのガス拡散層
42 カソードの電極触媒層
FC 固体高分子型燃料電池(単セル)
Claims (2)
- 高分子電解質膜がアノード及びカソードの電極触媒層で挟持された燃料電池用膜電極構造体において、
前記カソードの前記電極触媒層は、触媒担持体と、繊維状カーボンとを含み、
レーザ回折式粒度分布測定装置を使用して測定した繊維長が0.6μm未満の前記繊維状カーボンの体積割合が、前記繊維状カーボンの全体の体積に対して、0.5%以下であり、繊維長が1μm以上、10μm未満の前記繊維状カーボンの体積割合が、前記繊維状カーボンの全体の体積に対して、30%以上であることを特徴とする燃料電池用膜電極構造体。 - 少なくとも触媒担持体、繊維状カーボン及びイオン導電性物質を混練して電極触媒層形成用組成物を調製する第1工程と、
前記電極触媒層形成用組成物を展延して電極シートを形成する第2工程と、
高分子電解質膜の膜面に前記電極シートを配置して電極触媒層を形成する第3工程と、
を有する燃料電池用膜電極構造体の製造方法において、
前記第1工程に先立って、レーザ回折式粒度分布測定装置を使用して測定した繊維長が0.6μm未満の前記繊維状カーボンを篩い分けによって存在割合を減少させる篩い分け工程を更に有することを特徴とする燃料電池用膜電極構造体の製造方法。
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