JP5528126B2 - Trpa1の活性抑制剤および活性抑制方法ならびに皮膚外用剤 - Google Patents

Trpa1の活性抑制剤および活性抑制方法ならびに皮膚外用剤 Download PDF

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Description

本発明は、TRPA1の活性抑制剤および活性抑制方法ならびに皮膚外用剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、ヒトの皮膚に用いられる皮膚外用剤などに有用であるTRPA1の活性抑制剤およびTRPA1の活性抑制方法ならびに皮膚外用剤に関する。
パラベン類やアルカリ剤が配合された化粧料などの外用剤をヒトの皮膚に用いた場合、使用者によっては、皮膚に不快な刺激を感じることがある。前記パラベン類やアルカリ剤による不快な刺激は、一過性受容体電位チャネル(以下、「TRPチャネル」という)の1つであるTRPA1の活性化と関連していることが、本発明者らによって見出されている(例えば、特許文献1〜3参照)。また、前記TRPA1は、細胞内のアルカリ化により活性化され、活性化されたTRPA1を介して痛覚が引き起こされることが、本発明者らによって見出されている(例えば、非特許文献1参照)。
一方、近年、使用者の安全意識の高まりから、このような不快な刺激を与えないか、または不快な刺激が少ない外用剤が好まれる傾向にある。そのため、前記外用剤による皮膚に対する不快な刺激を抑制する物質や方法の開発が求められている。
特開2008−79528号公報 特開2009−82053号公報 特開2009−225733号公報
藤田郁尚ら、「細胞内アルカリ化は、マウスのTRPA1の活性化を介した痛覚を引き起こす(Intracellular alkalization causes pain sensation through activation of TRPA1 in mice)」、[online]、2008年11月13日、第118巻、第12号、p.4049−4057、ザ・ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション(The Journal of Clinical Investigation)、[平成21年10月7日検索]、インターネット<URL:http://www.jci.org/articles/view/35957>
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、TRPA1の活性化を効果的に抑制するTRPA1の活性抑制剤を提供することを目的とする。また、本発明は、TRPA1の活性化を効果的に抑制するTRPA1の活性抑制方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、皮膚に対する刺激性が低い皮膚外用剤を提供することを目的とする。
すなわち、本発明の要旨は、
(1)TRPA1の活性を抑制する活性抑制剤であって、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンを含有することを特徴とするTRPA1の活性抑制剤、
(2)TRPA1の活性を抑制する活性抑制剤であって、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質が配合されていることを特徴とするTRPA1の活性抑制剤、
(3)前記炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質が、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種である前記(2)に記載のTRPA1の活性抑制剤、
(4)TRPA1の活性を抑制する活性抑制方法であって、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンをTRPA1と接触させることを特徴とするTRPA1の活性抑制方法、ならびに
(5)アンモニアを含有する皮膚外用剤であって、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質が配合されていることを特徴とする皮膚外用剤
に関する。
本発明のTRPA1の活性抑制剤は、TRPA1の活性化を効果的に抑制するという優れた効果を奏する。また、本発明のTRPA1の活性抑制方法は、TRPA1の活性化を効果的に抑制するという優れた効果を奏する。さらに、本発明の皮膚外用剤は、皮膚に対する刺激性が低いという優れた効果を奏する。
試験例1において、実施例1〜4の各活性抑制剤中における炭酸アンモニウムの濃度、比較例1〜4の各試料中におけるアンモニアの濃度または比較例5〜8の各試料中における塩化アンモニウムの濃度と、細胞内pHとの関係を示すグラフである。 試験例2において、炭酸水素ナトリウムの濃度とTRPA1発現細胞におけるΔ蛍光強度比活性抑制剤または精製水/Δ蛍光強度比AITCとの関係を示すグラフである。
1.TRPA1の活性抑制剤
本発明は、1つの側面では、TRPA1の活性を抑制する活性抑制剤であって、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンを含有することを特徴とするTRPA1の活性抑制剤(以下、「活性抑制剤1」という)に関する。
本発明者らは、炭酸イオンに解離する物質を単独で細胞に接触させたときの細胞内pHが、アンモニアを単独で細胞に接触させたときの細胞内pHと比べて低くなるが、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質と、アンモニアとを混合し、得られた混合物を細胞と接触させたときには、アンモニアを単独で細胞と接触させたときと比べて、細胞内カルシウムイオン濃度が著しく低くなることから、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質が、TRPA1の活性を抑制することを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
前記活性抑制剤1によれば、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンを含有しているので、前記活性抑制剤1をTRPA1と接触させることにより、TRPA1の活性を抑制することができる。
また、前記活性抑制剤1は、皮膚に対する不快な刺激との関連性があるTRPA1の活性を有効に抑制するため、例えば、皮膚外用剤などに配合するための助剤として好適である。前記活性抑制剤1は、例えば、皮膚外用剤などに配合されることによって当該皮膚外用剤などによるヒトの皮膚に対する不快な刺激を抑制することが期待される。
前記活性抑制剤1における炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンの濃度は、TRPA1の活性に対する抑制効果を十分に発揮させる観点から、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、前記活性抑制剤の保存安定性の観点から、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
本発明においては、前記炭酸イオンおよび炭酸水素イオンは、単独で用いられていてもよく、併用されていてもよい。炭酸イオンと炭酸水素イオンとが併用されている場合、前記炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンの濃度は、炭酸イオンと炭酸水素イオンとを合わせた濃度である。
前記活性抑制剤1において、前記炭酸イオンおよび炭酸水素イオンは、例えば、水などの溶媒中で解離した状態で存在していてもよい。この場合、前記活性抑制剤1のpHは、前記溶媒中で炭酸イオンおよび炭酸水素イオンに解離した状態で存在させる観点から、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、皮膚に対する負荷を抑制する観点から、13以下が好ましく、11以下がより好ましい。
また、本発明の目的が妨げられない範囲内であれば、前記活性抑制剤1は、例えば、界面活性剤、アルコール、香料、キレート化剤などの他の成分を含有していてもよい。
前記TRPA1の活性としては、例えば、イオン流束の調節能(例えば、細胞外から細胞内への陽イオンの輸送能など)、膜電位の調節能(例えば、電流の発生能など)などが挙げられる。前記活性は、TRPA1アゴニストがTRPA1に結合して当該TRPA1が活性化することによって発現する。
前記陽イオンとしては、例えば、カルシウムイオン、ナトリウムイオンなどが挙げられる。
また、前記TRPA1アゴニストとしては、例えば、アンモニア、アリルイソチオシアナート、ブラジキニン、シンナムアルデヒド、アリシン、アクロレイン、メントールなどが挙げられる。
前記活性は、例えば、TRPA1アゴニストの結合に伴う細胞外から細胞内への陽イオンの流入を指標として用い、活性抑制剤とTRPA1アゴニストとTRPA1とを接触させたときの当該TRPA1を含む細胞内の陽イオン量に対するTRPA1アゴニストとTRPA1とを接触させたときの当該TRPA1を含む細胞内の陽イオン量の割合を算出し、活性抑制剤による陽イオン量の減少率を測定したり、あるいはTRPA1アゴニストの結合に伴う細胞内における電流の増加量などを指標として用い、活性抑制剤とTRPA1アゴニストとTRPA1とを接触させたときの当該TRPA1を含む細胞内の電流に対するTRPA1アゴニストとTRPA1とを接触させたときの当該TRPA1を含む細胞内の電流の割合を算出し、活性抑制剤による電流の減少率を測定することによって調べることができる。
また、前記活性抑制剤1によるTRPA1の活性の抑制効果は、例えば、TRPA1を発現する細胞(以下、「TRPA1発現細胞」という)を用い、前記活性抑制剤1の存在下でTRPA1アゴニストと接触させたTRPA1発現細胞の細胞内pHと当該活性抑制剤1の非存在下でTRPA1アゴニストと接触させたTRPA1発現細胞の細胞内pHとの差異を比較すること、前記活性抑制剤1の存在下にTRPA1アゴニストと接触させたTRPA1発現細胞内におけるカルシウムイオン濃度と当該活性抑制剤1の非存在下でTRPA1アゴニストと接触させたTRPA1発現細胞内におけるカルシウムイオン濃度との差異を比較したり、あるいは前記活性抑制剤1の存在下でTRPA1アゴニストと接触させたTRPA1発現細胞内における電流と当該活性抑制剤1の非存在下でTRPA1アゴニストと接触させたTRPA1発現細胞内における電流との間の差異を比較することによって評価することができる。
前記細胞内pHは、例えば、pH蛍光指示薬をTRPA1発現細胞に導入し、細胞内pHに応じたpH蛍光指示薬の蛍光強度を調べる方法などによって測定することができる。前記pH蛍光指示薬としては、例えば、pHに応じて蛍光特性が変化する試薬であればよく、例えば、BCECF−AMなどが挙げられる。
前記カルシウムイオン濃度は、例えば、カルシウムキレート化剤に基づく蛍光試薬(以下、「蛍光カルシウム指示薬」ともいう)をTRPA1発現細胞に導入し、細胞内のカルシウムイオンに前記蛍光カルシウム指示薬を結合させ、カルシウムイオンと結合した蛍光カルシウム指示薬の蛍光強度を調べる方法などによって測定することができる。前記蛍光カルシウム指示薬としては、カルシウムイオンと結合し蛍光カルシウム指示薬の量によってその蛍光特性が変化するのであれば特に限定されないが、例えば、FURA 2、FURA 2−AM、Fluo−3などが挙げられる。
また、前記電流は、例えば、パッチクランプ法などによって測定することができる。
本発明は、別の側面では、TRPA1の活性を抑制する活性抑制剤であって、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質が配合されていることを特徴とするTRPA1の活性抑制剤(以下、「活性抑制剤2」という)に関する。
前記活性抑制剤2をTRPA1と接触させたとき、前記炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質から解離された炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンは、TRPA1と接触する。そのため、前記活性抑制剤2によれば、TRPA1の活性を効果的に抑制することができる。したがって、前記活性抑制剤2は、前記活性抑制剤1と同様に、例えば、皮膚外用剤などに配合するための助剤として好適である。また、前記活性抑制剤2は、例えば、皮膚外用剤などに配合されることによって当該皮膚外用剤などによるヒトの皮膚に対する不快な刺激を抑制することが期待される。
前記炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質は、TRPA1と接触させる際に、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離していればよい。前記炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質としては、例えば、炭酸塩、炭酸水素塩などが挙げられる。前記炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。また、前記炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウムなどが挙げられる。これらのなかでは、水などの溶媒中で炭酸イオンおよび炭酸水素イオンに解離した状態で存在させる観点および前記活性抑制剤2の保存安定性の観点から、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
前記炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムは、例えば、本発明のTRPA1の活性抑制剤を皮膚外用剤などに配合する場合には、皮膚への負荷を効果的に抑制する点で好適である。
前記活性抑制剤2における前記炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質の濃度は、TRPA1の活性に対する抑制効果を十分に発揮させる観点から、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上となり、前記活性抑制剤2の保存安定性の観点から、好ましくは10質量%以下が、より好ましく2質量%以下となるように配合されることが望ましい。
前記活性抑制剤2において、前記炭酸イオンおよび炭酸水素イオンに解離する物質は、水などの溶媒中に溶解した状態で存在していればよい。溶媒が水である場合、前記活性抑制剤2のpHは、前記水中で炭酸イオンおよび炭酸水素イオンに解離した状態で存在させる観点から、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、皮膚に対する負荷を抑制する観点から、13以下が好ましく、11以下がより好ましい。
なお、前記活性抑制剤2には、本発明の目的がを妨げられない範囲内であれば、例えば、界面活性剤、アルコール、香料、キレート化剤などの他の成分が配合されていてもよい。
前記活性抑制剤2によるTRPA1の活性の抑制効果は、前記活性抑制剤1によるTRPA1の活性の抑制効果と同様の手法によって評価することができる。
2.TRPA1の活性抑制方法
本発明のTRPA1の活性抑制方法は、TRPA1の活性を抑制する活性抑制方法であり、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンをTRPA1と接触させることを特徴とする。
本発明のTRPA1の活性抑制方法によれば、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンを用いるので、例えば、ヒトの皮膚をに存在する感覚神経に含まれるTRPA1、口腔などの粘膜下に存在する感覚神経に含まれるTRPA1などの活性を効果的に抑制することができる。
本発明においては、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンの供給源として、前述したTRPA1の活性抑制剤を用いて、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンをTRPA1と接触させることができる。
炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンとTRPA1との接触は、TRPA1を含む部位、例えば、ヒトの皮膚を構成する細胞にTRPA1の活性抑制剤を供給することによって行なうことができる。
前記TRPA1と接触させる炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンの量は、TRPA1の活性の抑制効果を十分に発揮させ、かつ皮膚への負荷を抑制することができる範囲で適宜設定することができる。
なお、TRPA1を含む部位、例えば、ヒトの皮膚における細胞にTRPA1の活性抑制剤を供給する場合、当該TRPA1の活性抑制剤の供給時に加えて、ヒトの皮膚への前記TRPA1の活性抑制剤に含まれる炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンの浸透を促進する助剤をさらにヒトの皮膚における細胞に供給してもよい。
本発明のTRPA1の活性抑制方法によるTRPA1の活性の抑制効果は、前記活性抑制剤1または活性抑制剤2によるTRPA1の活性の抑制効果と同様の手法によって評価することができる。
本発明のTRPA1の活性抑制方法は、例えば、皮膚と接触したときに不快な刺激を与える皮膚外用剤を使用する時に行なうことにより、皮膚における細胞に含まれるTRPA1の活性を抑制するので、皮膚などで引き起こされる不快な刺激を低減することができる。
3.皮膚外用剤
本発明の皮膚外用剤は、アンモニアを含有する皮膚外用剤であり、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質が配合されていることを特徴とする。
本発明の皮膚外用剤は、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質が配合されているので、当該皮膚外用剤に含まれるアンモニアによTRPA1の活性化が抑制され、皮膚に引き起こされる不快な刺激を低減することができる。
なお、本明細書において、「皮膚外用剤」とは、皮膚に直接適用されるものをいう。前記皮膚外用剤としては、例えば、皮膚脱色剤(ボディーブリーチング剤)などが挙げられる。
本発明の皮膚外用剤におけるアンモニアの含有量は、アンモニアによる効果を十分に発現させる観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、皮膚に対する負荷を抑制する観点から、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
本発明の皮膚外用剤において、前記炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質は、TRPA1と接触させる際に、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離していればよい。前記炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質としては、前記活性抑制剤に用いられる物質と同様の物質が挙げられる。前記炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質のなかでは、アンモニアによる皮膚への負荷を効果的に抑制する観点から、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
アンモニアに対する前記炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質の量は、アンモニア100質量部に対して、アンモニアによる皮膚への負荷を抑制する効果を十分に得る観点から、1質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、皮膚外用剤の安定性の観点から、1000質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましい。
本発明の皮膚外用剤には、本発明の目的が妨げられない範囲で、例えば、界面活性剤、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート化剤、油、アルコール、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、ビタミン、アミノ酸、水などの他の成分が配合されていてもよい。
以下に実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1〜4)
炭酸アンモニウムの濃度が1mM(実施例1)、5mM(実施例2)、10mM(実施例3)または50mM(実施例4)となるように、炭酸アンモニウムを25℃で精製水に溶解させた。その後、得られた水溶液のpHを、それぞれ、pH調整剤として塩酸を用いて7.4に調整して、活性抑制剤を得た。
(比較例1〜4)
アンモニアの濃度が1mM(比較例1)、5mM(比較例2)、10mM(比較例3)または50mM(比較例4)であるアンモニア水溶液(pH7.4)を調製し、試料を得た。
(比較例5〜8)
塩化アンモニウムの濃度が1mM(比較例5)、5mM(比較例6)、10mM(比較例7)または50mM(比較例8)となるように、塩化アンモニウムを25℃で精製水に溶解させた。その後、得られた水溶液のpHを7.4に調整して、試料を得た。
(試験例1)
(1)BCECF−AM導入細胞の調製
10質量%ウシ胎仔血清含有DMEM培地に、HEK293細胞を最終濃度が4×107細胞/mLとなるように懸濁し、細胞懸濁液を得た。得られた細胞懸濁液に、pH蛍光指示薬〔シグマアルドリッチ社製、商品名:BCECF−AM〕を最終濃度が1μMとなるように添加し、混合物を得た。その後、得られた混合物を37℃で1時間インキュベーションすることにより、HEK293細胞にpH蛍光指示薬を導入した。得られた細胞を標準緩衝液(組成:140mM塩化ナトリウム、5mM塩化カリウム、2mM塩化マグネシウム、2mM塩化カルシウム、10mMHEPES、10mMグルコース、pH7.4に調整)で洗浄し、BCECF−AM導入細胞を得た。
(2)細胞内pHの測定
前記BCECF−AM導入細胞を、最終濃度が3×107細胞/mLとなるように前記標準緩衝液に懸濁し、細胞浮遊液を得た。前記細胞浮遊液を還流槽付の蛍光測定用装置の還流槽に入れ、37℃で10分間プレインキュベーションした後、実施例1〜4の活性抑制剤または比較例1〜8の試料を前記細胞浮遊液に添加し、BCECF−AM導入細胞と実施例1〜4の活性抑制剤または比較例1〜8の試料とを接触させた。その後、BCECF−AM導入細胞中のBCECF−AMに基づく励起波長440nmにおける蛍光強度と、前記BCECF−AM導入細胞中のBCECF−AMに基づく励起波長495nmにおける蛍光強度とを測定した。
なお、前記還流槽付の蛍光測定用装置として、CCDカメラを取り付けた倒立顕微鏡〔オリンパス(株)製、商品名:BX−71〕に還流槽を設け、かつシリンジから還流槽を通って試薬を還流するようにした装置を用いた。
前記蛍光強度の測定は、実施例1〜4の活性抑制剤または比較例1〜8の試料と接触させたBCECF−AM導入細胞中のBCECF−AMに由来する励起波長440nmにおける蛍光および励起波長495nmにおける蛍光を前記CCDカメラで取り込み、取り込まれた蛍光を、画像処理解析ソフト〔スキャナリティックスインコーポレーティド(Scanalytics Inc.)製、商品名:IPLab Ver.5.0〕で解析することにより行なった。
また、細胞内pHは、予め標準pH溶液を用いて作成した検量線と前記蛍光強度とを用いて算出した。なお、前記標準pH溶液として、緩衝液(組成:100mMグルコン酸カリウム、20mM塩化カリウム、10mM塩化ナトリウム、10mMHEPES、2mM塩化マグネシウム、200μM塩化カルシウム、10mMグルコース、20μMナイジェリシンナトリウム、pH6.0、7.0、8.0または8.5に調整)を用いた。
試験例1において、実施例1〜4の各活性抑制剤中における炭酸アンモニウムの濃度、比較例1〜4の各試料中におけるアンモニアの濃度または比較例5〜8の各試料中における塩化アンモニウムの濃度と、細胞内pHとの関係を調べた結果を図1に示す。図1中、白三角は実施例1〜4の活性抑制剤(炭酸アンモニウム)と接触させたときのBCECF−AM導入細胞の細胞内pH、黒丸は比較例1〜4の試料(アンモニア)と接触させたときのBCECF−AM導入細胞の細胞内pH、白丸は比較例5〜8の試料(塩化アンモニウム)と接触させたときのBCECF−AM導入細胞の細胞内pHをそれぞれ示す。
図1に示された結果から、実施例1〜4それぞれの活性抑制剤(炭酸アンモニウム)と接触させたBCECF−AM導入細胞の細胞内pHは、比較例1〜4の試料(アンモニウム)と接触させたBCECF−AM導入細胞および塩化アンモニウムと接触させたBCECF−AM導入細胞それぞれの細胞内pHと比べて低くなる傾向にあることがわかる。
(製造例1)
ヒトTRPA1をコードするcDNA(GenBankアクセッション番号:NM_007332に示される塩基配列の63位〜3888位のポリヌクレオチド)を、哺乳動物細胞用ベクター〔インビトロジェン社製、商品名:pcDNA3.1(+)〕のクローニングサイトに挿入し、ヒトTRPA1発現ベクターを得た。得られたヒトTRPA1発現ベクター1μgと、遺伝子導入用試薬〔インビトロジェン社製、商品名:PLUS Reagent(プラスリージェント)、カタログ番号:11514−015〕6μLとを混合し、混合物Iを得た。また、遺伝子導入用カチオン性脂質〔インビトロジェン社製、商品名:リポフェクタミン(登録商標)、カタログ番号:18324−012〕4μLと、血清使用量低減培地〔インビトロジェン社製、商品名:OPTI−MEM(登録商標)I Reduced−Serum Medium(カタログ番号:11058021)200μLとを混合し、混合物IIを得た。
また、5体積%二酸化炭素の雰囲気中、37℃に維持された直径35mmのシャーレ上の10質量%FBS含有DMEM培地中において、5×105細胞のHEK293細胞を70%のコンフルエンシーになるまで培養した。
得られた細胞培養物に、前記混合物Iと混合物IIとを添加することにより、HEK293細胞に前記ヒトTRPA1発現ベクターを導入し、TRPA1発現細胞を得た。
(実施例5〜7)
炭酸水素ナトリウムの濃度が10mM(実施例5)、5mM(実施例6)または10mM(実施例7)となるように、当該炭酸水素ナトリウムを25℃で精製水に溶解させた。その後、得られた溶液のpHを、それぞれ、pH調整剤として塩酸を用いて7.4に調整して、活性抑制剤を得た。
(試験例2)
前記試験例1の結果から、炭酸アンモニウムは、アンモニアおよび塩化アンモニウムと比べて細胞内pHを上昇させる度合いが小さいため、細胞内のアルカリ化によって活性化されるTRPA1の活性への影響が低いと考えられる。そこで、炭酸アンモニウムと同様に炭酸イオンに解離する炭酸水素ナトリウムを用い、TRPA1の活性への影響を調べた。
(1)TRPA1発現細胞へのFURA 2−AMの導入
前記製造例1で得られたTRPA1発現細胞を、細胞内カルシウムイオン測定用試薬であるFURA 2−AM(インビトロジェン社製)を最終濃度5μMで含む10質量%ウシ胎仔血清含有DMEM培地中で、室温で60分間インキュベーションすることにより、前記TRPA1発現細胞にFURA 2−AMを導入した。
(2)TRPA1の活性の測定
前記(1)においてFURA 2−AMを導入したTRPA1発現細胞をのせたカバーグラスを蛍光測定用装置の還流槽に入れた。その後、前記還流槽中のTRPA1発現細胞を緩衝液〔組成:140mM塩化ナトリウム、5mM塩化カリウム、2mM塩化マグネシウム、2mM塩化カルシウム、10mMグルコース、10mMヘペス塩酸緩衝液(pH7.4)〕で洗浄した。
また、アンモニアの濃度が10mMとなるように、アンモニアと実施例5、実施例6または実施例7の活性抑制剤とを混合した。つぎに、得られた混合物を前記還流槽に入れ、前記活性抑制剤とアンモニアとTRPA1発現細胞に含まれるTRPA1とを接触させた。なお、還流槽内の溶液のpHを7.4となるように調整した。
その後、前記還流槽において、TRPA1発現細胞に導入され、かつ細胞内のカルシウムイオンに結合したFURA 2−AMに基づく励起波長340nmにおける蛍光の強度(以下、「蛍光強度340nm」という)およびTRPA1発現細胞に導入されたFURA 2−AMに基づく励起波長380nmにおける蛍光の強度(以下、「蛍光強度380nm」という)を測定した。測定された蛍光強度340nmおよび蛍光強度380nmから、Δ蛍光強度比活性抑制剤を算出した。前記Δ蛍光強度比活性抑制剤は、(活性抑制剤を用いたときの蛍光強度340nm/活性抑制剤を用いたときの蛍光強度380nm−前記緩衝液を用いたときの蛍光強度340nm/前記緩衝液を用いたときの蛍光強度380nm)に基づいて算出した。
また、前記活性抑制剤に代えて、TRPA1に対する既知のアゴニストであるアリルイソチオシアナート(20μMアリルイソチオシアナート水溶液)を用いたことを除き、前記活性抑制剤を用いた場合と同様にして、Δ蛍光強度比AITCを算出した。前記Δ蛍光強度比AITCは、(アリルイソチオシアナートを用いたときの蛍光強度340nm/アリルイソチオシアナートを用いたときの蛍光強度380nm−前記緩衝液を用いたときの蛍光強度340nm/前記緩衝液を用いたときの蛍光強度380nm)に基づいて算出した。算出されたΔ蛍光強度比活性抑制剤とΔ蛍光強度比AITCとから、Δ蛍光強度比活性抑制剤/Δ蛍光強度比AITCを算出した。
なお、対照として、実施例5〜7の活性抑制剤の代わりに精製水(比較例9)を用いたことを除き、実施例5〜7の活性抑制剤を用いた場合と同様にして、Δ蛍光強度比精製水(精製水を用いたときの蛍光強度340nm/精製水を用いたときの蛍光強度380nm)を算出した。算出されたΔ蛍光強度比精製水とΔ蛍光強度比AITCとから、Δ蛍光強度比精製水/Δ蛍光強度比AITCを算出した。
試験例2において、炭酸水素ナトリウムの濃度とTRPA1発現細胞におけるΔ蛍光強度比活性抑制剤または精製水/Δ蛍光強度比AITCとの関係を調べた結果を図2に示す。
図2において、「Δ蛍光強度比活性抑制剤または精製水/Δ蛍光強度比AITC」は、Δ蛍光強度比活性抑制剤/Δ蛍光強度比AITCおよびΔ蛍光強度比精製水/Δ蛍光強度比AITCの総称を示す。また、図2において、試験番号1は活性抑制剤の代わりに精製水(比較例9)を用いたときのΔ蛍光強度比精製水/Δ蛍光強度比AITC、試験番号2は実施例5の活性抑制剤を用いたときのΔ蛍光強度比活性抑制剤/Δ蛍光強度比AITC、試験番号3は実施例6の活性抑制剤を用いたときのΔ蛍光強度比活性抑制剤/Δ蛍光強度比AITC、試験番号4は実施例7の活性抑制剤を用いたときのΔ蛍光強度比活性抑制剤/Δ蛍光強度比AITCを示す。
図2に示された結果から、実施例5〜7の活性抑制剤を用いたときのΔ蛍光強度比活性抑制剤/Δ蛍光強度比AITCが、精製水(比較例9)を用いたときのΔ蛍光強度比精製水/Δ蛍光強度比AITCと比べて著しく小さくなっているため、炭酸水素ナトリウムをTRPA1に接触させた場合、アンモニアによるTRPA1を介した細胞内カルシウムイオン濃度の増加が抑制されることがわかる。したがって、これらの結果から、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンにより、TRPA1の活性を抑制することができることがわかる。
以上の結果より、炭酸アンモニウムや炭酸水素ナトリウムなどのように炭酸イオンに解離する物質により、TRPA1アゴニストによるTRPA1を介した細胞内カルシウムイオン濃度の増加が抑制されるため、炭酸アンモニウムや炭酸水素ナトリウムなどのように炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質は、TRPA1の活性を抑制する活性抑制剤として当該TRPA1に作用することがわかる。また、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンにより、TRPA1の活性を抑制することができることがわかる。
(処方例)
以下、本発明に係る皮膚外用剤の処方例を示す。
処方例1 ボディーブリーチング剤
アンモニア 1質量%
炭酸水素ナトリウム
(炭酸イオンおよび炭酸水素イオン換算量) 1質量%
セタノール 4質量%
ポリオキシエチレン(20)硬化ヒマシ油 2質量%
ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル 2質量%
塩化セチルトリメチルアンモニウム 1質量%
1,3−ブチレングリコール 3質量%
過酸化水素 3質量%
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1質量%
精製水 残部

Claims (5)

  1. TRPA1の活性を抑制する活性抑制剤であって、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンを含有することを特徴とするTRPA1の活性抑制剤。
  2. TRPA1の活性を抑制する活性抑制剤であって、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質が配合されていることを特徴とするTRPA1の活性抑制剤。
  3. 前記炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質が、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項2に記載のTRPA1の活性抑制剤。
  4. TRPA1の活性を抑制する活性抑制方法(ただし、医療行為を除く)であって、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンをTRPA1と接触させることを特徴とするTRPA1の活性抑制方法。
  5. アンモニアを含有する皮膚外用剤であって、炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質が配合されており、前記炭酸イオンおよび/または炭酸水素イオンに解離する物質が、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする皮膚外用剤。
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