JP5514543B2 - 小胞体ストレス反応を調節するハンセヌラポリモルファの新規遺伝子、およびこれを用いて分泌効果を増加させる方法 - Google Patents

小胞体ストレス反応を調節するハンセヌラポリモルファの新規遺伝子、およびこれを用いて分泌効果を増加させる方法 Download PDF

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Description

本発明は、小胞体ストレス反応(UPR)を調節するハンセヌラポリモルファ(H. polymorpha)の新規遺伝子および前記遺伝子を用いて組み換えタンパク質の分泌発現効率を増加させる方法に係り、さらに詳しくは、ハンセヌラポリモルファにおいてUPRメカニズムの核心調節因子であるHpHAC1遺伝子とこれによる調節メカニズムを解明し、これを操作および活用して組み換えタンパク質の分泌発現効率を増加させる方法に関する。
酵母を始めとした全ての真核細胞は、細菌などの原核生物とは異なり、小胞体(ER)と呼ばれる細胞内小器官を持っているため、外に分泌されるタンパク質または細胞膜タンパク質は、この器官を通して移動する。すなわち、細胞質ではなく外部に出るタンパク質は、リボソーム(ribosome)で翻訳されて直ちに小胞体に転位(translocation)されるが、このような分泌過程中にフォールディングが不完全なタンパク質が小胞体内に蓄積されると、小胞体ストレスが発生する。このように小胞体から分泌ストレスが発生すると、これを認識し、発生した小胞体ストレス(または分泌ストレス)を解消しようとするUPRと呼ばれる対応メカニズムが作動する。このようなUPRメカニズムは、真核単細胞微生物である酵母からヒトなどの高等生物に至る全ての真核細胞から発見される。
酵母のUPRメカニズムに関するゲノム水準における本格的な研究は、2000年代に伝統酵母としてのサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を対象として始まり(Cell 101, 249, 2000)、このような結果に基づいて調節および作用メカニズムの解明が行われている(Cell 107, 103, 2001; Nature 415, 92, 2002)。
酵母におけるUPRメカニズムは、主にHAClと呼ばれる転写調節因子によって調節されるという事実が先に発見されたが、以後、高等生物における研究がさらに盛んに行われることにより、HAClに該当するXBPl遺伝子の他にATF6、PERKなどの多様な調節因子があるという事実が明らかになった。
真核単細胞微生物である酵母は、高等生物と同一の細胞内小器官を備え、非常に類似のタンパク質分泌メカニズムを保有しているため、人体由来タンパク質を発現するための経済性が高く、操作が容易な組み換え発現宿主として脚光を浴びている。
動物細胞発現システムは、複雑な人体由来の糖タンパク質を発現することに利点があるが、低い生産性、高価の費用および長期間がかかる生産細胞株開発期間などが大きい欠点として作用している。そして、ヒトと類似しているため、むしろウイルスとプリオンの汚染可能性などの危険性を持っており、問題点として作用している。これに対し、酵母は、低廉な費用で容易に所望の組み換えタンパク質を生産することができるため経済性が高く、殆ど人類文明の発生時点から発酵過程に多く使用されてきた安全性が立証された微生物である。現在、大部分の酵母はヒトに安全な微生物(GRAS, Generally Recognized As Safe)として思われている。
酵母の中では、伝統酵母であるサッカロミスセレビシエが長らく生物学の研究対象とされてきて、現在まで多くの組み換えタンパク質の生産宿主として活用されている。ところが、産業的な活用において重要な活性型タンパク質を大量で分泌発現する能力がピキアパストリス(Pichia pastoris)またはハンセヌラポリモルファなどの産業用酵母より足りないため、分泌発現宿主としての主導権を漸次失っている。
メチロトローフ酵母であるハンセヌラポリモルファは、卓越した組み換えタンパク質分泌発現宿主として最近大きい脚光を浴びている。13.5g/Lの驚異的な生産性を示したフィターゼ(phytase)の生産を始めとして、医薬用としてはB型肝炎ワクチンの大量生産に成功して大きい注目を浴びている。特に、B型肝炎ワクチンの場合には、生産宿主としてハンセヌラポリモルファの経済性のおかげで第3世界へ低廉な費用で供給して全世界人類の保健福祉増進にも大きく寄与している。
ハンセヌラポリモルファは、産業用および医薬用組み換えタンパク質の大量生産宿主システムとして既に国際的に認められているため、今後のハンセヌラポリモルファを用いた組み換えタンパク質生産技術の展望は非常に高い。よって、ハンセヌラポリモルファの分泌発現能力をさらに向上させることにより、人体由来医薬用糖タンパク質を含む高付加価値の分泌タンパク質を高品質、高効率で生産する宿主として開発することは、市場と産業界が求めている技術である。
本発明者らは、去る10余年間、ハンセヌラポリモルファを対象として組み換えタンパク質の分泌発現のための基礎および応用研究を行ってきた。最近では、全体遺伝体水準で調節メカニズムを分析することが可能な全体ゲノムマイクロアレイを自体製作した。これに基づき、ハンセヌラポリモルファの分泌発現を最適化するための細胞再設計技術を完成するための一環として、最も重要な転写調節因子であるHpHAC1遺伝子を同定し、その欠損および過発現菌株を作ってその特性を分析した。ひいては、本発明者らは、これらを対象としてマイクロアレイ実験を行い、分泌ストレスを解消するUPRメカニズムを理解することが可能な基礎を設け、ハンセヌラポリモルファの分泌発現を最適化するための方法を提供することにより、本発明を完成した。
本発明の目的は、配列番号3に示されるアミノ酸配列またはこれと90%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有し、分泌ストレス解消反応に参与する遺伝子の発現を増加させる活性を示すタンパク質を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記タンパク質をコードする核酸を提供することにある。好ましくは、該核酸は、配列番号2に示される核酸配列、又はこの遺伝子に特異的なスプライシング前の、配列番号2の前駆体である配列番号1に示される核酸配列、又は配列番号1の断片を含む。
本発明の別の目的は、配列番号3に示されるアミノ酸配列またはこれと90%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有し、分泌ストレス解消反応に参与する遺伝子の発現を増加させる転写因子活性を示すタンパク質をコードする核酸を含む組み換えベクターを提供することにある。
本発明の別の目的は、前記組み換えベクターで形質転換された大腸菌宿主細胞を提供することにある。
本発明の別の目的は、前記組み換えベクターで形質転換されたハンセヌラポリモルファ宿主細胞を提供することにある。
本発明の別の目的は、分泌ストレス解消反応に参与する遺伝子の発現を増加させる新規の転写因子遺伝子HpHAC1を欠損または変異させ、小胞体ストレス反応が減少したハンセヌラポリモルファ変異株を提供することにある。
本発明の別の目的は、前記HpHAC1遺伝子の常時発現を介して、良好な成長を示す生産宿主を開発することにある。
本発明の別の目的は、前記HpHAC1遺伝子の常時発現または過発現を介して、組み換えタンパク質の分泌発現能力が向上した生産宿主を製作する方法を提供することにある。
図1AはハンセヌラポリモルファのHpHACl遺伝子の塩基配列を示し、図1Bは逆転写重合酵素連鎖反応によって前記遺伝子のスプライシングを確認した実験結果およびその模式図を示す。逆転写重合酵素連鎖反応の産物をアガロースゲル電気泳動によって大きさ別に分析し、スプライシングによって大きさが減少した断片の塩基配列を分析した。これよりHAC1特異的スプライシング部位を確認し、その部位を下線で表示した(図1A)。前記スプライシングによって変わるスプライシングの前と後の終止コドンは太字でそれぞれ表示した。
図2AはハンセヌラポリモルファHpHAC1タンパク質とサッカロミセスセレビシエのScHAC1タンパク質とのアミノ酸配列の比較分析結果を示し、図2Bは相同性が高い部位を示す模式図である。
図3Aおよび図3Bはハンセヌラポリモルファから分泌ストレス解消反応としてのUPRを誘導する条件を探索した実験結果である。図3AはHpHAC1 mRNAのスプライシングを用いて分析した結果であり、図3Bは伝統酵母であるサッカロミセスセレビシエで発現が増加すると知られているUPRの伝統ターゲット遺伝子に対応するハンセヌラポリモルファ遺伝子(HpKAR2、HpPDI1、HpERO1)の発現量の変化様相を分析したものである。前記実験のためには、指数成長期にあるハンセヌラポリモルファ野生型菌株を使用し、最適の濃度で求められた5μg/mLのツニカマイシン(tunicamycin)、5mM DTT(Dithiothreitol)およびブレフェルジン(Blefeldin)Aをそれぞれ30分、60分、120分間時間別に処理した細胞を回収して使用した。
図4はハンセヌラポリモルファのHpHAC1遺伝子を欠損するための融合重合酵素連鎖反応と細胞内遺伝子組み換えに関する模式図である。
図5Aはハンセヌラポリモルファ野生型とHpHAC1欠損変異(HpHAC1Δ)株の成長特性を分析した図である。液体培養では、前記2つの菌株をOD600=0.1として初期培養を開始して2時間間隔でOD600を測定した。また、指数成長期にある前記2つの菌株の培養液を10倍ずつ連続して希釈し、2μLずつ最小固体培地、イノシトール(inositol)を添加した最小固体培地、イノシトールとツニカマイシンを添加した固体培地にそれぞれ点滴した後、2日間培養して成長特性を分析した(図5B)。
図6はHpHac1タンパク質過発現細胞株を作るための過程を示す模式図である。スプライシングされたHpHAC1 RNAを逆転写重合酵素連鎖反応によって増幅し、これを遺伝子組み換え方法を用いてハンセヌラポリモルファ用ベクターにクローニングしてpGAP−HpHAC1sベクターを製作した。そして、そのベクターをハンセヌラポリモルファ菌株に形質転換によって導入して過発現菌株を製作した。
図7Aおよび図7Bはハンセヌラポリモルファ野生型菌株とHpHAC1Δ変異株を指数成長期(OD600=0.5)でマイクロアレイ実験によって全体的な遺伝子発現様相の差異を分析した図である。図7Aは全体的なマイクロアレイ実験のデザインを示す模式図、図7Bは個別遺伝子の発現差異を比較した散布図である。
図8Aおよび図8Bは2種のマイクロアレイ実験によってHpHac1タンパク質が調節するUPRターゲット遺伝子を選別する実験および結果の模式図である。図8Aは2種のマイクロアレイ実験のデザインを示す模式図、図8Bはマイクロアレイ実験によって選別されたHpHAC1が調節するUPRターゲット遺伝子を酵母の分泌発現機能によって分け、その個数を示す模式図である。
本発明は、組み換えタンパク質の生産宿主として脚光を浴びるハンセヌラポリモルファのタンパク質分泌発現を最適化して生産性を高めるための細胞再設計技術に関する。
全ての真核細胞において、外部に分泌されるタンパク質は、翻訳と同時に、小胞体という細胞内小器官へ移動し、そこでフォールディングと修飾過程が行われる。したがって、過発現プロモータなどを用いて組み換えタンパク質を大量で分泌発現すると、小胞体内のフォールディングと修飾を担当するタンパク質が処理可能な量を超過して入る場合が頻繁に発生する。このような特性タンパク質の過発現などによってフォールディングまたは修飾が不完全なタンパク質が小胞体内に蓄積されると、これは細胞にストレスとして作用し、激しい場合には成長阻害または怪死になることまである。
このようにフォールディングまたは修飾が不完全なタンパク質が小胞体に蓄積されて分泌ストレスが発生すると、これを認識し、UPR(unfolded protein response)と呼ばれる対応メカニズムが作動して分泌ストレスを緩和させる。
伝統酵母であるサッカロミセスセレビシエでは、主にIRE1と呼ばれる膜タンパク質が、フォールディングが不完全なタンパク質を認識して核酸分解活性が活性化されると、唯一の基質として知られている転写因子HAC1の前駆体mRNAを切断する。このように切断されたHCA1のmRNAはtRNA接合酵素(リガーゼ)によって接合され、HAC1固有の特異的スプライシングが起り、始めてHac1タンパク質が翻訳されて出ることになる。
本発明者らは、メチロトローフ酵母であるハンセヌラポリモルファゲノム情報に基づいてハンセヌラポリモルファDL−1菌株(Levine and Cooney, Appl. Microbiol., 26, 982-990)でHpHAC1遺伝子を発掘し、前記遺伝子が分泌ストレス発生の際にHCA1特異的スプライシングメカニズムを持つという事実を解明した。このように解明されたHpHAC1のスプライシングされた活性化mRNAの塩基配列が配列番号2に示されており、スプライシングされる前の前駆体塩基配列が配列番号1に示されている。
一つの様態として、本発明は、配列番号3に示されるアミノ酸配列またはこれと90%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有し、UPR反応経路のターゲット遺伝子の発現を増加させる活性を示すタンパク質を提供する。
通常、HAC1遺伝子の前駆体mRNAは、2次元的な構造なので、タンパク質をコードする翻訳過程が行われず、Ire1タンパク質によるスプライシング過程が行われる場合にのみタンパク質の翻訳が行われ得る。したがって、HpHac1タンパク質はスプライシングされた後の塩基配列によって決定され、このように発現されたタンパク質はUPR経路にある一群の遺伝子の発現を増加させる転写因子活性を有する。本発明によって明らかになった転写因子活性を持つHpHac1タンパク質のアミノ酸配列が配列番号3に示されている。
本発明によれば、ハンセヌラポリモルファのHpHAC1転写因子は、HAC1特異的スプライシングによって、配列番号3に示されているアミノ酸配列を持つことが確認された。また、実施例5に記載されたマイクロアレイ実験によって、前記タンパク質はUPR反応経路にあるターゲット遺伝子の発現を増加させるという事実も解明した。よって、UPRターゲット遺伝子の発現を増加させる活性を持つ限りは、90%以上の相同性を有するタンパク質およびその断片も本発明の範囲に含まれる。
本発明で使用された用語「相同性」とは、野生型アミノ酸配列との類似度を示すためのものであって、本発明のHpHac1タンパク質をコードするアミノ酸配列と好ましくは75%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上同一であり得るアミノ酸配列を含む。このような相同性の比較は、肉眼で購入容易な比較プログラムを用いて行うことができる。市販のコンピュータプログラムは2つ以上の配列間の相同性を百分率(%)で計算することができ、相同性(%)は隣接した配列に対して計算できる。
本発明で使用された用語「UPRターゲット遺伝子」とは、小胞体で発生した小胞体ストレス反応を解消するために発現が増加する遺伝子を指称し、小胞体内でタンパク質のフォールディングと修飾を助けて分泌効率を増加させる遺伝子を含む。好ましくは、実施例5でマイクロアレイ実験によって明らかになった一群の遺伝子を含む。
別の様態として、本発明は、前記タンパク質をコードする核酸を提供する。
ハンセヌラポリモルファのHpHac1タンパク質をコードする核酸配列は、好ましくは配列番号1または2に示される核酸配列を有する。配列番号1は、非活性型の前駆体mRNAであり、分泌ストレスを受けると、スプライシングと呼ばれる切断と接合によって配列番号2のmRNAに変換される。本発明者らは、実際タンパク質コード配列である配列番号2に示される核酸配列を有するハンセヌラポリモルファのHpHAC1遺伝子をGenBankに寄託番号第DQ679915号で寄託した。また、前記遺伝子を含む組み換えベクターpGAP−HpHAC1sを製作した後、大腸菌(Escherichia coli)DH5α菌株に形質転換によって導入して2006年6月13日にKCTC(Korean Collection for Type Cultures、韓国大田市儒城区魚慇洞52番地所在の韓国生命工学研究院)に寄託番号第KCTC10960BP号で寄託した。
別の様態として、本発明は、配列番号3に示されるアミノ酸配列またはこれと90%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有し、UPRターゲット遺伝子の発現を増加させる転写因子活性を示すタンパク質をコードする核酸を含む組み換えベクターを提供する。
このような組み換えベクターは、好ましくは配列番号3に示されるアミノ酸配列またはこれと90%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有し、UPRターゲット遺伝子の発現を増加させる転写因子活性を示すタンパク質をコードする核酸配列を含む。
本発明において、用語「ベクター」は、宿主細胞にDNAを導入しようとする通常の全ての手段を意味し、例えばプラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクターおよびウイルスベクターなどの通常のベクターを含む。
好ましいベクターは、プロモータ、開始コドン、終止コドン、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサなどの発現調節エレメントの他にも、膜標的化または分泌のためのシグナル配列またはリーダー配列を含み、目的に応じて多様に製造できる。
別の様態として、本発明は、前記組み換えベクターで形質転換された大腸菌宿主細胞を提供し、好ましくは寄託番号第KCTC第10960BP号で寄託された、形質転換された宿主細胞を提供する。
また、本発明者らは、前記組み換えベクターをハンセヌラポリモルファにも導入してHpHAC1タンパク質が常時発現される形質転換宿主を製作した。前記宿主は、常時発現されるHpHAC1タンパク質によってUPRターゲット遺伝子の発現量が増加して分泌発現能力が向上するという特徴を持つ。
別の様態として、本発明は、前記組み換えベクターで形質転換されたハンセヌラポリモルファ宿主細胞を提供する。
本発明者らは、ハンセヌラポリモルファの分泌ストレス解消メカニズムであるUPR反応を理解するために、HpHAC1遺伝子が欠損したハンセヌラポリモルファ変異株(Hphac1Δ)を製作した。ゲノム上で目的とした遺伝子のみの特異的不活性化は当分野で確立された方法によって行うことができ、その方法は特に制限されない。
本発明において、HpHAC1遺伝子を特異的に欠損させるためには融合重合酵素連鎖反応と細胞内相同組み換え方法(homologous recombination)が利用できる。HpHAC1遺伝子の5'−末端の切片と3'−末端の切片との間に選別マーカーを含むベクターでハンセヌラポリモルファを形質転換させることにより、ゲノムとベクター間の組み換えを誘導した。
別の様態として、本発明は、HpHAC1遺伝子を欠損または変異させることにより、小胞体ストレス反応が減少したハンセヌラポリモルファ変異株を提供する。
本発明によって製造されたHphac1Δ菌株は、基本複合培地であるYPDで培養したとき、指数成長期の後半から安定期に至るまで野生型菌株に比べて成長が大きく遅延して安定期に遅く到達する成長特性が確認された(図5A)。これは、一般にHAC1欠損酵母菌株が複合培地では別に発現形質を示さないことに比べれば異例的な現象である。そして、伝統酵母のHAC1欠損変異株は、イノシトールがないときに成長しないイノシトール成長要求性を示すが、ハンセヌラポリモルファHphac1Δ菌株は、イノシトール成長要求性がなかった(図5B)。イノシトールの存在有無を問わずに野生型より遅く成長することを固体培養でも確認することができた。また、糖タンパク質のグリコシル化を阻害させて分泌ストレスを誘発する物質としてのツニカマイシンが固体培地に含まれた場合、野生型に比べてHphac1Δ菌株の成長が大きく妨害されることを確認することができた。
上述したような本発明に係るHphac1Δ菌株がブドウ糖を含む複合栄養培地において野生型に比べて指数成長期で成長が遅い特性を示すことは、伝統酵母などでは観察されなかった特性である。よって、ハンセヌラポリモルファではHpHac1タンパク質が正常的な成長および分裂においても重要な遺伝子調節役割を行うことを推論することができる。伝統酵母と同様に、ツニカマイシンまたはDTT処理などの分泌ストレス条件で野生型に比べてHphac1Δ菌株の成長がより阻害されることを観察することができた。
本発明者らは、野生型およびHpHAC1欠損菌株を対象として成長の差異が現れる直前の指数成長期でマイクロアレイ実験を行い、遺伝体の発現様相にどんな差異が現れるかを分析した。野性型に比べてHphac1Δ菌株における発現が減少した遺伝子は、殆ど転写調節因子であるHpHac1タンパク質によって調節される遺伝子と予想され、伝統酵母においてUPRターゲット遺伝子として知られている遺伝子が含まれる。これに対し、野生型に比べてHphac1Δ菌株における発現が増加した遺伝子には、UPRターゲット遺伝子以外のストレス反応遺伝子が多く含まれる。すなわち、小胞体ストレス反応を緩和させて分泌発現効率を増加させるHpHAC1遺伝子の欠損の際に、一般な成長環境でも細胞はストレスを受ける。このストレスを解消するために、他のストレス反応遺伝子の発現量が大きく増加するのである。
別の様態として、本発明は、HpHAC1遺伝子の常時発現によって成長中に発生しうる分泌ストレスが解消されて良好な成長を示す生産宿主を開発する方法を提供する。
本発明では、ハンセヌラポリモルファ野生型菌株と前記Hphac1Δ変異株を対象としてマイクロアレイ実験を行い、HpHac1タンパク質が直接発現を調節するUPRターゲット遺伝子が選別された。このような遺伝子群には、小胞体におけるタンパク質のフォールディングを助けるシャペロン(chaperone)および二硫化結合を助ける遺伝子(KAR2、ERO1、SCJ1、LHS1、PDI1など)が含まれ、糖タンパク質のグリコシル化を助けるタンパク質群が多く含まれる。また、タンパク質の分泌のために必要な小胞体とゴルジ体間の小胞移動に関連した遺伝子(SEC66、SEC61、SEC31、SEC4、TPM1、VPS29、SEC21、SEC26、RET2)も含まれる。
上述したようなHpHac1タンパク質が発現を増加させる遺伝子群に対する分析結果は、HaHAC1がハンセヌラポリモルファの分泌発現効率を向上させる機能があるという事実を立証することである。特に、分泌能力向上と共に糖タンパク質のグリコシル化能力を向上させることにより、高付加価値の人体由来医薬用糖タンパク質の分泌発現に適した生産宿主の製作に有用であろう。よって、HpHac1タンパク質の常時発現または過発現によって組み換えタンパク質の分泌発現能力が向上したハンセヌラポリモルファ生産宿主を製作することができる。
本発明によって生産できる組み換えタンパク質は、例えば、EPO、インターフェロン−α、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、G−CSFなどのサイトカイン;VIII因子、IX因子、ヒトタンパク質Cなどの凝集因子;免疫グロブリン、Fab、二重特異抗体、単一鎖抗体、diabodyなどの治療用抗体類、Fc融合タンパク質;グルコセレブロシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−L−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼなどの酵素治療剤;内皮成長因子;成長ホルモン放出因子;トリパノソーマクルジトランスシアリダーゼ(typanosoma cruzi trans-sialidase)、HIV外皮タンパク質(HIV envelope protein)、インフルエンザウイルスAヘマグルチニン(influenza virus A haemagglutinin)、インフルエンザノイラミニダーゼ(influenza neuraminidase)、牛のエンテロキナーゼ活性因子、牛のヘルペスウイルスタイプ−1糖タンパク質D(Bovine herpes virus type-1 glycoprotein D);ヒトアンジオスタチン(human angiostatin)、ヒトB7−1、B7−2およびB−7受容体CTLA−4;ヒト組織因子(human tissue factor);成長因子(例えば、血素板由来成長因子);ヒトα−アンチトリプシン(human alpha-antitrypsin);組織プラズミノゲン活性化因子(tissue plasminogen activator);プラズミノゲン活性化因子抑制因子−1(plasminogen activator inhibitor-1);ウロキナーゼ(urokinase);プラズミノゲン;およびトロンビンなどを含む。
本発明によって生産された組み換えタンパク質は、従来の技術で知られている一般な方法によって精製でき、精製された特定タンパク質の特性に応じて精製方法を選択することができる。例えば、沈殿法、免疫吸着法、分画化法または多様なクロマトグラフィー法などの精製方法があり、これに限定されない。
別の様態として、本発明は、HpHAC1遺伝子の常時発現または過発現によって組み換えタンパク質の分泌発現能力が向上した生産宿主を製作する方法を提供する。
(発明の様態)
(実施例1)
ハンセヌラポリモルファHpHAC1のスプライシング確認
最近完成されたハンセヌラポリモルファに対する遺伝体塩基配列データベース(Ramezani-Red et al., FEMS Yeast Res., 4, 207-5, 2003)から、サッカロミセスセレビシエのUPR調節転写因子であるScHAC1遺伝子と最も類似性を示すORF(open reading frame)の塩基配列情報を得ることができたが(図1A)、その類似性が15%程度と非常に低いため、実験によってその予測が合うかを確認する必要があった。前記遺伝子が実際サッカロミセスセレビシエのScHAC1に対応する遺伝子であるかを確認するために、最も大きい特徴であるUPR条件でその遺伝子が特異的にスプライシングされるかを逆転写重合酵素連鎖反応(RT−PCR)を用いて確認した。ハンセヌラポリモルファDL−1菌株(Levine and Cooney, Appl. Microbiol., 26, 982-990, (1973))に分泌タンパク質ストレス誘発物質としてのDTTを様々な濃度で処理した後、細胞を回収して液体窒素で急速冷却させ、しかる後に、−70℃に保管した。
そして、凍らせた細胞を氷でゆっくり溶かした後、DEPC(Diethylpyrocabohydrate)処理した蒸留水で洗浄し、しかる後に、次の方法でRNAを分離精製した。750μLのTES(10mM Tris−Cl pH7.5、1mM EDTA、pH8.0、0.05%SDS)溶液を仕込み、同量の酸性フェノール−クロロホルムを仕込んだ後、65℃で10分間加熱し、10秒間ボルテキシング(vortexing)過程を交互に1時間繰り返し行った。さらに、1分間氷で冷やした後、20秒間ボルテキシングし、14,000rpmで15分間常温で遠心分離した。700μLの上澄み液のみを注意深く新しいチューブに移し、同量の酸性フェノール−クロロホルムを入れてよく混ぜた後、4℃で14,000rpmで5分間遠心分離した。さらに600μLの上澄み液を注意深く新しいチューブに移した後、同量のクロロホルム−イソアミルアルコールを入れてよく混ぜ、前記条件と同様に遠心分離した。最終的に上澄み液のみを取って2.5倍体積の100%エタノールと1/10体積の3M酢酸ナトリウムを入れて10秒間ボルテキシングし、−70℃で30分間(−20℃で約16時間)保管した。さらに70%エタノールで洗浄し、沈殿物を空気中で乾燥させた。乾燥した沈殿物を水に溶かした後、分離したRNAの定量のためにOD280およびOD260の値を測定し、1.2%アガロースゲル電気泳動によって純度を確認した。前述したように抽出されたRNA100μgを米国Qiagen社のRNeasy Mini Kitを用いて、提供された案内書の方法に従って追加精製した。最終的に回収したRNAは、前述と同様に、OD280とOD260値およびゲル電気泳動法によって濃度および純度を確認した。
前述した方法で精製したRNAを鋳型として逆転写反応によってcDNAを合成し、さらにこれを鋳型として一対のプライマー(HpHAC1−S−for、HaHAC1−S−rev)を用いて重合酵素連鎖反応(Polymerase Chain Reaction;PCR)を行った(表1参照)。そして、重合酵素連鎖反応の生産物は、アガロースゲル電気泳動によって分析し、5mM DTTを15分間処理したサンプルから、HpHAC1遺伝子がスプライシングされて2つのバンドとして現れることを確認することができた(図1B)。アガロースゲルデータの隣の模式図はHpHAC1が非活性化型(HpHAC1)からスプライシングによって活性化型(HpHAC1)に変わることを示した。確保された遺伝子断片の塩基配列を分析することにより、HpHAC1のスプライシング部位を確認することができた。この部位は図1Aに下線で示した。注目すべき点は、スプライシングによってタンパク質のC末端部位のアミノ酸配列が変わって元々の配列とは異なる配列になることである。非活性化型にあった終止コドンも、スプライシングによって切り出され、後部の新しい終止コドンで代替される。
前記実験から得られた結果に基づき、スプライシングされたHpHAC1のアミノ酸配列とScHAC1のアミノ酸配列間の相同性をWebで利用可能なソフトウェア(GENEDOC、http://www.psc.edu/biomed/genedoc)によって分析したところ、8%の同一性(identity)と15%の類似性(similarity)を示して2種間に低い相同性があることが分かった。ところが、転写調節因子としての重要なDNA結合部位である塩基モチーフ(basic motif)およびロイシンジッパー(leucine zipper)部分間には68%の同一性と77%の類似性を示して非常に高い相同性があることが分かった(図2)。
Figure 0005514543
(実施例2)
ハンセヌラポリモルファにおけるUPR(unfold protein response)誘導条件の探索
UPR反応が誘導されたかは、逆転写酵素重合反応(RT−PCR)を用いてHpHAC1遺伝子のスプライシング有無(図3A)および伝統的なUPRターゲット遺伝子の発現量増加(図3B)によって確認した。ハンセヌラポリモルファCBS4732に由来したA16菌株を用いてツニカマイシンなどのグリコシル化阻害剤処理、DTT(Dithiothreitol)による還元ストレス誘発およびブレフェルジン(Blefeldin)A処理によるタンパク質の小胞体移動妨害などの多様な分泌ストレスを誘発し、どれほどの濃度でUPR反応が起るかを探索した。
まず、酵母の培養のためには、グルコースを主炭素源として含んでいるYPD(酵母抽出物1%、バクトペプトン2%、グルコース2%)培地を主に使用した。3mLのYPD培地に170rpmにて37℃で16時間種菌培養した後、50mLのYPD培地に600nmにおけるOD(OD600)が0.1となるように接種し、しかる後に、同一の条件で本培養してOD600が0.3〜0.4となる時点で細胞を回収した。これらの細胞をpH5.4のYPD培地と多様な濃度のツニカマイシン、DTTおよびブレフェルジンAを含むpH5.4のYPD培地に均等に分注して同一条件で培養し、30分、1時間、2時間となる時点でそれぞれのOD600値を測定し、細胞を回収した。そして、これらの細胞からのRNAの抽出、精製および逆転写重合酵素連鎖反応は実施例1と同様の方法を用いて行った。HpHAC1のスプライシング確認のためには、表1に記述されたプライマーHpHAC1−S−forとHaHAC1−S−revを使用した。伝統的なUPRターゲット遺伝子の発現量確認実験のためには、表2に記述されたプライマーを用いて重合酵素連鎖反応実験を行った。
様々な濃度別にツニカマイシン、DTTおよびブレフェルジンAを処理した試料からHpHAC1のスプライシング有無を確認した結果、5μg/mLのツニカマイシン、5mM DTT、5μg/mLのブレフェルジンAで適当な程度のHpHAC1スプライシングパターンを確認することができた。時間別条件探索では、分泌タンパク質のグリコシル化を阻害するツニカマイシンとタンパク質の小胞体流出を妨害するブレフェルジンAを処理した試料と、タンパク質の二硫化結合を妨害して分泌ストレスを誘発するDTTを処理した試料とが、互に異なる様相を示した。ツニカマイシンとブレフェルジンAの場合にはスプライシングパターンが大きく増加するが、DTTの場合には全般的にスプライシングの度合いが少ないうえ、30分で最も高いスプライシング様相を示し、時間経過に伴って減少する様相を観察することができた(図3A)。
伝統酵母であるサッカロミセスセレビシエでUPRによって発現量が増加すると知られているターゲット遺伝子ScKAR2、ScPDI1およびScERO1に対応するハンセヌラポリモルファの遺伝子(HpKAR2、HpPDI1、HpERO1)に対して半定量逆転写重合酵素連鎖反応実験を行った。そして、比較のための対照区として、HpACT1に対しても同一の条件で逆転写重合酵素連鎖反応実験を行った。実験結果、HpKAR2、HpERO1およびHpPDI1はいずれも小胞体ストレス反応によって発現量が増加することを確認することができた。
(実施例3)
HpHAC1遺伝子欠損および過発現菌株の製作と特性分析
HpHAC1遺伝子が欠損されたハンセヌラポリモルファ変異株を製作するために、融合重合酵素連鎖反応(PCR)と細胞内遺伝子組み換え(in vivo DNA recombination)技術を用いて遺伝子を欠損した(Oldenburg et al., Nucleic Acid Res., 25, 451, 1997)。
一次重合酵素連鎖反応では、表1に記述された4対のプライマーを用いてLEU2遺伝子(N末端;LeuN−for、LeuN−rev、C末端:LeuC−for、LeuC−rev)とHpHAC1遺伝子(N末端;HpHAC1−N−for、HpHAC1−N−rev、C末端;HpHAC1−C−for、HpHAC1−C−rev)それぞれのN末端とC末端を増幅した後、二次融合重合酵素連鎖反応で2対のプライマーを用いてHpHAC1遺伝子のN末端とLEU2遺伝子のN末端とを連結(HpHAC1−N−for、LeuN−revし、LEU2遺伝子のC末端とHpHAC1遺伝子のC末端とを連結(LeuC−for、HpHAC1−C−rev)した。確保したそれぞれのDNA切片を酵母細胞内に導入した後、細胞内遺伝子組み換えによってHpHAC1遺伝子が欠損された形質転換体を選別した(図4)。まず、LEU2選別標識によって、ロイシンが欠乏した最小培地で成長する形質転換体を選別した後、重合酵素連鎖反応によって、野性型菌株とは異なるように増幅されたDNA切片を確認し、HpHAC1遺伝子が欠損されたハンセヌラポリモルファ変異株であるHphac1Δ(hac1::LEU2)菌株を製作した。
ハンセヌラポリモルファHpHAC1遺伝子が過発現された変異株を製作するために、前記実施例1で確保されたcDNAを鋳型とし、表1に記述されたプライマーHpHAC1s_forとHpHAC1s_revを用いて重合酵素連鎖反応によってHpHAC1遺伝子を増幅した。そして、前記HpHAC1遺伝子、LEU2選別標識遺伝子および多重複製遺伝子(HARS)が含まれたpGAPベクターにそれぞれEcoRIとHindIII制限酵素を処理した後、これらを接合(ligation)し、大腸菌に導入してクローニングした(図6)。クローニング確認は、重合酵素連鎖反応および塩基配列分析によって行った。スプライシングされたmRNAに対応するcDNAが含まれた組み換えベクターpGAP−HpHAC1sを選別した。そして、このように確保された前記ベクターを酵母細胞内に導入し、LEU2標識遺伝子を用いて、ロイシンが欠乏した最小培地で成長する形質転換体を選別した。この形質転換体のDNAを抽出し、これを鋳型として重合酵素連鎖反応実験を行い、HpHAC1遺伝子が導入されて過発現される形質転換体DL1−H1s菌株を最終製作した。
(実施例4)
ハンセヌラポリモルファ野性型とHpHAC1欠損菌株の遺伝子発現様相の分析
前記実施例3で言及したように、HpHAC1欠損菌株は、野性型より成長が遅くてその理由に対する端緒を探すために、代表的な機能遺伝体研究方法であるマイクロアレイ実験方法を使用した。野生型菌株としては、ハンセヌラポリモルファDL1菌株にロイシン遺伝子が入ったDL1L菌株を使用し、HpHAC1欠損菌株(Hphac1Δ)としては、前記実施例3で製作された菌株を使用した。ブドウ糖を主炭素源として含んでいる複合培地であるYPDで培養し、指数成長期時点で2つの菌株をそれぞれ回収し、それからRNA分離精製して全体転写体の量の差異をマイクロアレイによって比較分析した(図3)。
実験方法をより詳しく説明すると、次のとおりである:ハンセヌラポリモルファDL1LとHphac1Δ菌株を3mLのYPD培地に37℃、170rpmで16時間種菌培養した。次いで、これを50mLのYPD培地にOD600が0.1となるように菌株を接種した後、同一の条件で本培養し、成長の差異が見える以前の指数成長期であるOD600が0.5となる時点で細胞を回収した。総RNAは、前記回収された細胞から実施例1の方法と同様に分離精製した。
マイクロアレイ実験のためのcDNAの製造、ハイブリダイゼーションおよび蛍光標識などに用いられた全ての試薬と実験は、Genisphere社の3DNA(商標)サブマイクロEXエクスプレションアレイ検出キットおよび提供された案内書に基づいて行った。簡略に述べると、cDNA合成のためには総RNA70μgを使用し、キットから提供されたRTプライマーを入れて80℃で10分間反応させた。氷で冷却の後、RNA分解酵素阻害剤であるSuperase−In(商標)とRTバッファ、dNTP混合物と逆転写酵素混合物を添加して42℃で2時間反応させ、0.5M NaOH/50mM EDTA3.5μLを添加して反応を中止させた。DNA/RNAハイブリッドを変性させるために65℃で20分間反応させ、1M Tris−HCl緩衝液(pH7.5)によって反応を中和させた。こうして得られたcDNA反応物をQiagen社のPCR精製キットを用いて精製濃縮し、ハイブリダイゼーションバッファ、LNA dTブロッカーを添加して80℃で10分、50℃で20分間反応させ、アレイスライドに滴下して45℃、18時間暗反応を行った。スライドを2×SSC/0.1%SDS、2×SSC、0.2×SSCおよび蒸留水で洗浄し、完全に乾燥させた。次いで、蛍光物質である3DNAキャプチャ試薬とハイブリダイゼーション緩衝液を混合して80℃で10分間、50℃で20分間反応させ、この反応物を前記スライドに滴下させて50℃で6時間暗反応を行った。そして、上述した過程と同一の過程を経てスライドを洗浄し、最終マイクロアレイスライドを得た。
前記マイクロアレイスライドをスキャンアレイ5000でスキャニングしてアレイイメージを確保した。前記イメージをAxon社のGenePix4.0プログラムを用いて、スポット発見(spot finding)、定量(quantification)、バックグラウンド測定(background estimation)の3段階からなるイメージプロセシング過程を経て実験誤差を矯正した。そして、前記プログラムを用いて発現差異を分析した。指数成長期で野生型とHphac1Δ菌株の転写体発現差異を分析した結果、まだ成長の差異が現れない時点なのに多様な遺伝子が発現量の差異を示した(図7B)。野生型に比べてHphac1Δ菌株における発現が減少した遺伝子は、殆ど転写調節因子であるHpHac1タンパク質によって調節されるUPR関連遺伝子と予想され、伝統酵母であるUPRのターゲット遺伝子として知られている遺伝子が多く含まれた(表2)。より詳しく考察すると、小胞体でタンパク質のフォールディングを助けるシャペロン遺伝子(KAR2、ERO1、SCJ1、LHS1)、糖タンパク質のグリコシル化に関連した遺伝子(OST1、OST4、SWP1、WBP1、STT3、MNN2、MNN9、KTR1、KTR4、PMI40、PMT2、PMT5)とタンパク質分泌関連遺伝子(ERV41、VIP36、SEC53、YSY6、EMP79)の発現がHpHAC1遺伝子の欠損の際に減少した。
Figure 0005514543
野生型に比べてHphac1菌株における発現が増加した遺伝子を考察すると、HSP26、HSP78、HSP12、HSP10、HSP42、HSP104、HSP60、DDR48、SIT1、STI1、SIS1、HSC82などのストレス回復に関連したHSP(heat shock protein)系列、細胞内遺伝物質またはタンパク質損傷を誘導する活性酸素を除去する遺伝子(SKN7、SOD2、HYR1)、タンパク質のフォールディングを助ける一群の遺伝子(MTL1、MDJ1、DNAJ、CRP6)、フォールディングが不完全なタンパク質を分解する役割を担当する遺伝子(PRB1、BUL1、CDC48、HUL5)および一般なストレス状況で細胞内構造体の保護役割を果たすトレハロース(trehalose)の合成に関連した遺伝子(TPS1、TPS3)の発現が増加する様相を示した(表3)。この結果は、分泌ストレスを緩和させるための遺伝子の発現を増加させるHpHAC1遺伝子の欠損の際に、一般な成長環境でも分泌ストレスを解消することができないため、HpHAC1によって調節されない他のストレス緩和遺伝子の発現が増加するものと推論することができる。すなわち、HpHAC1の欠損により一群の分泌ストレス緩和遺伝子がその機能を行わないため、相対的に別のストレス緩和遺伝子の発現が増加するものと解釈することができる。
Figure 0005514543
(実施例5)
HpHac1タンパク質が調節するUPRターゲット遺伝子の選別
HpHac1タンパク質が調節するUPRターゲット遺伝子を選別するために、2種のマイクロアレイ実験を行った。まず、野生型菌株を対象として指数成長期まで培養し、2つに分け、一方はツニカマイシンまたはDTTを処理した後で培養し続け、もう一方は対照区として無処理で培養した。30分、60分および120分でそれぞれ細胞を回収し、実施例4と同様にしてマイクロアレイ実験を行った(図8Aの左)。第2のマイクロアレイ実験では、野生型菌株とHphac1Δ菌株をそれぞれ指数成長期まで培養した後、2つの細胞にツニカマイシンまたはDTTを処理してそれぞれ30分、60分および120分で細胞を回収した後、マイクロアレイ実験を行った(図8Aの右)。
第1のマイクロアレイ実験では、ツニカマイシンまたはDTT処理の際に発現が増加する全ての遺伝子を選別し、分泌または類似ストレスに反応する遺伝子群を取ることができた。第2のマイクロアレイ実験は、分泌ストレス条件の下で野生型とHphac1Δ菌株の遺伝子発現様相の差異を比較分析することにより、HpHAC1が直接調節するUPRターゲット遺伝子を選別するためのものである。よって、第1のマイクロアレイ実験で選別された全体遺伝子群の中から、第2のマイクロアレイ実験でHpHac1タンパク質依存的に発現が増加する遺伝子群のみを選別し、Hphac1欠損により発生しうる間接効果を除去した。また、前記2つの実験において、タンパク質の二硫化結合を妨害するDTT処理とタンパク質のグリコシル化を阻害するツニカマイシン処理という2種の分泌ストレスをそれぞれ与え、2種の分泌ストレスの下ではいずれも発現量が増加する遺伝子のみを選別することにより、それぞれの処理によって発生しうる副反応を除去した。
前述したように激しい基準を適用し、HpHac1タンパク質によって調節されるUPRターゲット遺伝子を選別して表4に示した。このように選別された遺伝子には、特定機能の遺伝子群が主に含まれた。特に、小胞体でタンパク質の正常的なフォールディングを助けるシャペロンおよび二硫化結合形成遺伝子(KAR2、ERO1、SCJ1、LHS1、PDI1)と糖タンパク質のグリコシル化に関連した遺伝子(ALG5、OPU24、OST1、OST2、OST4、SWP1、WBP1、KTR1、OCR5、GPI17、MNN4、MNN10、KTR4)が多く含まれた(図8B)。また、小胞体からコルギ体への分泌タンパク質輸送に関連した遺伝子(SEC66、SEC61、SEC31、SEC4、TPM1、VPS29)とコルジ体から小胞体への小胞逆輸送に関連した遺伝子(SEC21、SEC26、RET2)の発現も著しかった。
Figure 0005514543
本発明では、ハンセヌラポリモルファ分泌ストレス解消反応の核心調節因子であるHpHAC1遺伝子を同定し、実際HpHAC1タンパク質をコードしうるHAC1特異的スプライシングされたmRNAも同定し、その塩基配列も解明した。また、本発明では、マイクロアレイ実験によってHpHac1タンパク質が直接発現を調節する分泌ストレス解消反応に参与する遺伝子も解明した。
本発明によれば、HpHac1タンパク質の常時発現または過発現によってハンセヌラポリモルファの分泌発現能力および成長能力を向上させることが可能な方法を提供することができる。
また、本発明によれば、分泌発現能力と成長能力が向上したハンセヌラポリモルファ生産宿主を開発することができる。このように開発されたハンセヌラポリモルファ分泌発現システムを用いて、産業用または医薬用として有用な分泌タンパク質を大量生産することにより、低廉な費用で大量のタンパク質を生産することが可能な経済性を獲得することができる。よって、本発明は、産業用および医薬用組み換えタンパク質の生産に適用するとき、患者の経済的負担を省くことにより、人類の保健福祉向上にも寄与することができる。

Claims (10)

  1. 配列番号3に示されるアミノ酸配列を有し、分泌ストレス解消反応に参与する遺伝子の発現を増加させる活性を示すタンパク質。
  2. 請求項1のタンパク質をコードする核酸。
  3. 配列番号1または2に示されるヌクレオチド配列を有する、請求項2に記載の核酸。
  4. 請求項2の核酸を含む組み換えベクター。
  5. 配列番号2に示されるDNA遺伝子を含む組み換えベクター。
  6. 寄託番号第KCTC10960BP号で寄託された組み換えベクター。
  7. 請求項4の組み換えベクターで形質転換されたハンセヌラポリモルファ変異株。
  8. ハンセヌラポリモルファ由来の転写因子遺伝子HpHAC1であって、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を有する、前記転写因子遺伝子を欠損または変異させることにより、小胞体ストレス反応が減少したハンセヌラポリモルファ変異株。
  9. 分泌ストレス解消反応に参与する遺伝子の発現を増加させる転写因子遺伝子HpHAC1であって、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を有する、前記転写因子遺伝子。
  10. 請求項7または8の変異株を用いる段階を含む、組み換えタンパク質の製造方法。
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