JP5510352B2 - 重防食被覆鋼材の腐食後断面予測方法、重防食被覆構造物の強度劣化予測方法、重防食被覆構造物の管理方法 - Google Patents
重防食被覆鋼材の腐食後断面予測方法、重防食被覆構造物の強度劣化予測方法、重防食被覆構造物の管理方法 Download PDFInfo
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Description
このような港湾鋼構造物には20年から50年の耐久性が求められるため、腐食予測に基づいた耐久性の評価をする必要がある。特に、近年ライフサイクルコスト(LCC)を考慮した港湾構造物の設計、維持管理方法が求められており、腐食予測に基づいた重防食被覆鋼材の耐久性評価方法の確立が必要とされている。
また、実構造において長時間使用されてきた腐食速度が既知の2種以上の金属の腐食速度を基準に、実環境・実構造体において耐食性が未知な金属(めっき、拡散層、塗膜、有機皮膜、無機皮膜、有機無機複合皮膜などの被覆層を含む)について、短期間の腐食促進試験により実環境・実構造体における未知な金属の腐食速度および耐食時間を精度よく推定することを可能とした金属および被覆金属板の耐食性予測方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、特許文献1に開示されたものは、鋼材の全面で腐食が発生することを前提としており、重防食被覆鋼材のように被覆の端部から腐食が進展する場合には適用できない。
また、特許文献2に開示されたものは、被覆が消失した後に鋼材が全面で腐食することを前提としており、重防食被覆鋼材のように被覆残存部では腐食が生じずに被覆剥離部でのみ腐食が生じる場合には適用できない。
そこで、重防食被覆鋼材に対する正確な腐食予測や寿命予測の開発が望まれており、またこれに基づく重防食被覆鋼材の腐食後断面予測方法の開発が望まれていた。
また、重防食被覆構造物の強度劣化予測方法、さらには重防食被覆構造物の管理方法を提供することを目的としている。
図5は、重防食被覆鋼材の一例である重防食被覆を行った重防食被覆鋼矢板の腐食後の断面の模式図、図6は図5の丸で囲んだ部分の拡大図である。
重防食被覆鋼矢板1は、図5、図6に示すように、継手2の近傍に重防食被覆3の被覆端部5が存在し、被覆端部5から継手側に被覆のない鋼材露出部7が存在し、そのさらに先端側が継手内部9となる。
継手2と継手2が組み合っている継手内部9は、水や酸素が浸入しにくく、腐食は抑制される。したがって、重防食被覆鋼矢板1の腐食は、鋼材露出部7および、被覆端部5からの被覆の剥離に伴い被覆層下で生じる。図5、図6の例では、被覆端部5から被覆層下に距離Sだけ錆が浸入している状態である。
鋼材露出部腐食速度は腐食促進試験を複数期間で行い、それぞれの腐食量から求めた。鋼材の腐食量は、試験前の重防食被覆を施す前と試験後に重防食被覆や腐食生成物などを取り除いた後に、ノギスやレーザー変位計などを用いて測定できる。複数期間での鋼材露出部における腐食量を、縦軸が腐食量、横軸が試験期間を示すグラフ上にプロットし、これを原点を通る直線に近似し、最小二乗法を用いて傾きを求め、腐食速度とした。鋼材露出部腐食量は次式(1)又は(1)’で表せることが分かった。
y1=δ1t ・・・・・・・ (1) 使用開始から10年まで(t≦10(y))
y1=y10y+(1/2)δ1(t−10)・・・(1)’ 使用開始から10年以降(t>10(y))
ここでy1:鋼材露出部腐食量(mm)、t:経過期間(y)、δ1:鋼材露出部腐食速度(mm/y)、y10y:(1)式から求められる10年後の鋼材露出部腐食量(mm)
x=at-b ・・・・ (2)
ここでx:錆浸入距離(mm)、t:経過期間(y)、a:錆浸入速度(mm/y)、b:定数
また、被覆層下への錆浸入開始時間は(2)式のt切片t=b/aから求められる。
被覆層下腐食速度は被覆端部からの距離ごとに求めることが出来る。複数期間における被覆端部からの距離ごとの腐食量を直線近似し、被覆端部からの距離ごとの腐食開始時間は前記(2)式の錆浸入速度から求める。前記(2)式から求めた被覆端部からの距離ごと腐食開始時間を、腐食量=0とし、それ以降の複数期間の被覆端部からの距離ごとの腐食量を直線に近似し、最小二乗法を用いて傾きを求める。被覆端部からの距離ごとの腐食量は次式(3)又は(3)’で表せることが分かった。
式(3)は被覆端部からの距離x1において腐食開始から10年経過以前の場合であり、式(3)’は被覆端部からの距離x1において腐食開始から10年経過以降の場合である。
該第2の工程で求めた前記重防食被覆層下への錆浸入速度、鋼材露出部、被覆層下の腐食速度、及び前記促進倍率を用いて予測したい経過期間後における重防食被覆層下への錆侵入距離、鋼材露出部および被覆層下の腐食量を求める第3の工程と、
該第3の工程で求めた前記錆侵入距離及び前記腐食量を、予測対象である重防食被覆鋼材断面図に適用し、腐食後の重防食被覆鋼材断面を予測する第4の工程とを有することを特徴とするものである。
本発明に係る重防食被覆鋼材の腐食後断面予測方法は、図1のフローチャートに示すように、鋼材露出部のある重防食被覆鋼材試験片を用いて腐食促進試験を行う第1の工程と、重防食被覆層下への錆浸入速度、鋼材露出部の腐食速度、被覆層下の腐食速度及び腐食促進試験の促進倍率を求める第2の工程と、該第2の工程で求めた前記重防食被覆層下への錆浸入速度、鋼材露出部および被覆層下の腐食速度を用いて予測したい経過期間後における重防食被覆層下への錆侵入距離、鋼材露出部および被覆層下の腐食量を求める第3の工程と、該第3の工程で求めた前記錆侵入距離及び前記腐食量を、予測対象である重防食被覆鋼材断面図に適用し、腐食後の重防食被覆鋼材断面を予測する第4の工程とを有する。
以下、用語の意味及び各工程を詳細に説明する。
第1の工程は、鋼材露出部のある重防食被覆鋼材の小型試験片を用いて海洋環境を模擬した腐食促進試験を行う工程である。
小型試験片は重防食被覆部と鋼材露出部を有するものを用いる。例えば、100mm角の試験片を用いる場合には、中央部に幅20mm程度の鋼材露出部を設け、他の部分を所定の有機被覆層で覆ったものが一例として挙げられる。これを塩水噴霧や乾燥過程のある腐食促進試験に供する。腐食促進試験としてはJASO M609−91やJIS K5621などの乾湿繰返し試験を用いることが出来る。試験期間は複数期間行うことが必要であり、3期間以上がより正確な腐食速度を求めるために望ましい。
第2の工程は、重防食被覆層下への錆浸入速度、鋼材露出部の腐食速度、被覆層下の腐食速度及び腐食促進試験の促進倍率を求める工程である。
鋼材露出部腐食速度は腐食促進試験を複数期間で行い、それぞれの腐食量から求める。鋼材の腐食量は試験前の重防食被覆を施す前と試験後に重防食被覆や腐食生成物などを取り除いた後に、ノギスやレーザー変位計などを用い測定することが出来る。
つまり、試験前の値と試験後の値の差から求めることが出来る。
複数期間での鋼材露出部における腐食量を、縦軸が腐食量、横軸が試験期間を示すグラフ上にプロットし、これを原点を通る直線に近似し、最小二乗法を用いて傾きを求め、腐食速度とする。鋼材露出部腐食量は次式(1)で表せることを利用して腐食速度を求める。
なお、促進試験が十分に長く行なわれた場合は、ある期間以降は傾きが小さくなり、全体として途中で折れ曲がった直線のようにプロットが並ぶが、この場合には上記ある期間が経過する前、つまり傾きが小さくなる以前の直線状に並んだプロットを用いて上記の方法で、腐食速度を求めることができる。
y1=δ1t ・・・・・・・ (1)
ここでy1:鋼材露出部腐食量(mm)、t:経過期間(y)、δ1:鋼材露出部腐食速度(mm/y)
α=(腐食促進試験における鋼材露出部の腐食速度δ)/(海洋環境における裸鋼材の腐食速度δ0)
で求められる。
腐食促進試験の促進倍率は、例えば海洋環境飛沫部での一般的に知られている裸鋼材の腐食速度0.1〜0.3mm/yに対する腐食促進試験での鋼材露出部の腐食速度の割合で求める。重防食被覆鋼材が用いられる環境における裸鋼材の腐食速度がわかっている場合はその値を用いる。腐食速度が不明な環境においてはより厳しい条件として0.3mm/yを用いることが出来る。
例えば促進倍率が10である場合、腐食後断面を予測する際には腐食促進試験の腐食速度δを10で割った値を腐食速度δ0として用いる。
x=at-b ・・・・ (2)
ここで、x:錆浸入距離(mm)、t:経過期間(y)、a:錆浸入速度(mm/y)、
b:定数
また、被覆層下への錆浸入開始時間は(2)式のt切片t=b/aから求められる。
また、促進倍率が10である場合、腐食後断面を予測する際には腐食促進試験から求めた錆浸入速度aを10で割った値を用いる。定数bは促進倍率に関わらず、一定であり、腐食促進試験で求められた値を用いる。
被覆層下腐食速度は被覆端部からの距離ごとに求めることが出来る。複数期間における被覆端部からの距離ごとの腐食量を直線近似し、被覆端部からの距離ごと腐食開始時間は前記(2)式の錆浸入速度から求める。前記(2)式から求めた被覆端部からの距離ごと腐食開始時間を腐食量0とし、それ以降の複数期間の被覆端部からの距離ごとの腐食量を直線に近似し、最小二乗法を用いて傾きを求める。
被覆端部からの距離x1地点での腐食開始時間t1は、対象物が腐食環境に置かれてからの経過時間(試験期間)をtとすると、tから被覆端部に錆浸入が開始するまでの時間(錆侵入開始時間)と侵入を開始した被覆端部からx1地点にまで達するまでの時間の和を引いた時間、つまり、t1=(t−(x1+b)/a)で表される。
従って、x1地点における腐食速度δx1を求めるには、x1地点での腐食量yx1を縦軸とし、横軸を、t1を原点とした時間軸からなる座標にプロットし、それを最小二乗法にて原点を通る直線近似し、下記式(3)より求める。なお、前述したように、試験期間が長くなると、ある期間以降は傾きが小さくなり、全体として途中で折れ曲がった直線のようにプロットが並ぶが、この場合には上記ある期間が経過する前、つまり傾きが小さくなる以前の直線状に並んだプロットをもちいる。
第3の工程は、第2の工程で求めた重防食被覆層下への錆浸入速度、鋼材露出部および被覆層下の腐食速度、促進倍率を用いて予測したい経過期間後における重防食被覆層下への錆侵入距離、鋼材露出部および被覆層下の腐食量を求める工程である。
例えば、予測したい経過期間後が20年後であった場合には以下のようにする。
ここでは、腐食促進試験から求められた鋼材露出部腐食速度が2.0mm/y、被覆層下への錆浸入速度が60mm/y、錆浸入に関わる(2)式の定数の値が3.0、使用される海洋環境における裸鋼材の腐食速度が0.2mm/yであった場合を例とする。
この場合腐食促進試験の促進倍率αは(2.0mm/y)÷(0.2mm/y)=10倍となる。
従って実環境での予測のためには、促進倍率を考慮して、
δ1=(2.0mm/y)÷α=(2.0mm/y)÷10=0.2mm/y
a=(60mm/y)÷α=(60mm/y)÷10=6mm/y
b=3.0mm
を用いる。
y1(20)=(0.2mm/y)×10年+(1/2)×(0.2mm/y)×(20年−10年) =3.0mm
として求められる。
また、20年後の錆浸入距離x(20)は、(2)式を用いて、
x(20)=(6mm/y)×20年−3.0mm =117mm
として求められる。
また、20年後の被覆端部からの距離x1=10mmにおける腐食量y10(20)を求めるには、上述したように促進試験により被覆端部からの距離10mmにおける腐食速度を求め、その値と促進倍率とから計算を行なってもよいが、上記したように、鋼材露出部の腐食速度の1/2の値を使用してもよい。ここでは、この簡便法に沿って例示する。
つまり、
δx1=δ1/2=(0.2mm/y)÷2=0.1mm/y
を用いた。
また、x1地点では、
t−(x1+b)/a=20年−(10mm+3.0mm)/(6mm/y) =17.8年
となり10より大きいので、(3)’式を用い下記のように求めることができる。
yx1=(0.1mm/y)×10年
+(1/2)×(0.1mm/y)×(20年−(10mm+3.0mm)/(6mm/y)−10年)
=1.4mm
(1)鋼材露出部(腐食開始から10年を超えている)
(2)被覆下で被覆端部に近い側(腐食開始から10年を超えている)
(3)被覆下で被覆端部から遠い側(腐食開始から10年経過していない)
なお、被覆端部からの距離x1地点における腐食開始からの時間とは、下記の通りとなる。
(腐食開始からの時間)=(20年−X地点への錆浸入到達までの時間)
つまり、錆浸入までに10年以上かかった地点では20年後でも腐食開始から10年が経過していないとし扱うということである。
第4の工程は、第3の工程で求めた錆侵入距離及び腐食量を、予測対象である重防食被覆鋼材断面図に適用し、腐食後の重防食被覆鋼材断面を予測する工程である。
例えば、図5に示す重防食被覆鋼矢板の場合であれば、重防食被覆鋼矢板の断面において、重防食被覆の端部位置と鋼材露出部の境界、および腐食速度の小さくなる継手内部と鋼材露出部の境界を設定し、各境界で囲まれる各部位に第3の工程で求めた腐食量や錆侵入距離を適用する。
被覆層下の腐食量は、重防食被覆の端部からの距離によって異なるので、例えば重防食被覆端部から1mmピッチで腐食量を計算し、鋼材表面から垂直に減肉するものとし、CADなどを用いて1mmごとを直線で結ぶことで腐食後の断面を作図することができる。
腐食後の断面の作図ができれば、この図に基づいて予測したい経過期間後の断面2次モーメントを求めることができ、この断面2次モーメントを当該重防食被覆鋼材を用いた構造物の設計図に適用し、予測したい経過期間後の耐荷性能を評価することもできる。
なお、第4の工程を、CADを用いて行う場合のフローチャートが図2に示されている。
また、上記の実施の形態では、鋼材露出部の促進倍率で錆浸入速度や被覆層下の腐食速度の促進倍率を代表しているが、それぞれ個別に促進倍率を求めるようにしてもよい。
一方、継手近傍の腐食は耐荷性能に影響を及ぼすよりも早く、鋼材の板厚によっては鋼材露出部の腐食により鋼材の穴あきが生じる可能性があることが明らかになった。
護岸構造物である鋼材に穴あきが生じると背後の土砂が流出し、上部工の倒壊が生じる可能性があり放置出来ない問題となる。
このことから重防食被覆鋼材を用いた鋼構造物では、構造の耐久性の保持に加えて、鋼材露出部の穴あきの防止に注意が必要である。
そのため、重防食被覆鋼構造物の管理方法として前記(1)式から求めた鋼材露出部の腐食速度と、使用中の重防食被覆鋼構造物の鋼材露出部の板厚測定データを用いて、鋼材露出部の穴あきの危険性が生じるまでの時間を予測し、その後の重防食被覆鋼構造物の点検および補修計画を策定することがより安全に、効率的に管理する方法が有効であると考えた。
つまり、点検方法として、鋼材露出部の板厚を測定し、例えば鋼材露出部の平均残存板厚が4mm以下になっていたら、その時点で補修を行い、また、残存板厚が4mm程度になると予測される時期に補修する計画を策定することで、効率的に管理することが可能になると考えられる。鋼材露出部の残存板厚については平均板厚で管理する以外にも、測定データの平均板厚+σ、平均板厚−σ、平均板厚+2σ、平均板厚−2σ等で管理することができる。
海洋暴露試験、腐食促進試験ともに、スチールグリッドブラストにより表面を十点平均粗さで50μm程度にしたサイズ100mm×l00mm×6mmの熱延鋼板(素地鋼材)(JIS SS400)を試験片として用いた。
レーザー変位計を用いて鋼板の板厚測定を行った。被覆面を上にして、全面を1mm間隔で測定した。測定にあたっては、試験前後で試験片の位置(各測定点)がずれないようにレーザー変位計のステージに専用治具を取り付け、水平方向に対して常に同じ位置で板厚を測定できるようにした。試験後は被覆剥離後に酸洗して錆を完全に除去した後同様に測定し、試験前後での板厚減少量を求めた。
重防食被覆としてポリウレタン被覆を行った。ポリウレタン樹脂2液硬化タイプのプライマー(第一工業製薬株式会社製「パーマガード331」)を平均膜厚50μmとなるようスプレー塗装し、常温で24時間乾燥後、ポリウレタン樹脂(第一工業製薬株式会社製「パーマガード137」を3.0mm塗装した。塗装後、常温で7日間で硬化させた。ただし、重防食被覆を施す前に前記鋼板中央部に20mm幅のビニールテープを鋼板表面上端から下端まで張り、重防食被覆を施した後、20mm幅のビニールテープ端部上の重防食被覆をカッターで切り、重防食被覆を剥がし、さらに鋼板表面中央部20mm幅で張ったビニールテープを鋼材表面から剥がし、鋼材露出部と被覆端部を作成した。作成した試験片の模式図を図7に示す。鋼材露出部作成後、重防食被覆端部の鋼板端面からの距離をノギスで測定し、後述する錆浸入距離測定に用いた。
腐食促進試験として乾湿繰り返し試験を行った。試験条件は、塩水噴霧過程を3時間行い、次に乾燥過程を4時間行い、その後湿潤過程を1時間行い、合計8時間を1サイクルとし、これを後述する試験期間だけ複数サイクル繰り返した。
塩水噴霧過程では3%NaCl水溶液を用い、雰囲気温度35℃で試験を行った。また、乾燥過程では試験槽内を雰囲気温度60℃、相対湿度40%以下に維持し、湿潤過程では同様に雰囲気温度50℃、相対湿度65%以上に維持した。
試験期間は、それぞれ60日、90日、120日および180日実施した。
<暴露試験>
本発明の効果を確認するため、暴露試験として腐食促進試験と同様の試験片を用いて東京湾内の海洋環境で暴露試験を行った。試験期間は1年、5年とした。
腐食促進試験、暴露試験、それぞれにつき、試験期間後に試験片を回収し、重防食被覆を強制剥離して、鋼材露出部からどの程度被覆層の下に錆が侵入しているか測定し、錆浸入距離の平均値を求めた。その後、酸洗して錆を完全に除去した後、図7に示す試験片の各場所でレーザー変位計を用い鋼材の板厚を測定した。初期の板厚からの板厚減少量を求め、各場所での腐食量とした。
それぞれの位置での腐食速度は、被覆端部から5mm部が0.8mm/y、10mm部が0.8mm/y、15mm部が0.8mm/yと求められた。
これより被覆層下の腐食速度は全て0.8mm/yとした。
また、この結果より、重防食被覆鋼材の腐食速度は、鋼材露出部の腐食速度が被覆層下と比較し2倍程度大きいことがわかった。
本実施例では式(1)〜(3)’中の値はδ1が0.16mm/y、δx1が0.08mm/y、aが5.5mm/y、bが2.75である。
上記の腐食速度及び促進倍率を用いて、5、20年経過後の鋼矢板の各部の腐食量を下記のように算出した。
5年後の鋼材露出部の腐食量y1(5)=0.16×5=0.8mm
20年後の鋼材露出部の腐食量y1(20)=0.16×10+1/2×0.16×10=2.4mm
被覆端部からの距離x1における各年における腐食量yx1(1)〜yx1(20)は、x1のピッチを1mmとして、1mmごとに求めた。代表的なものを示すと以下の通りである。
5年後において
x1=1mmの腐食量:0.08×{5-(1+2.75)/5.5}=0.35mm
x1=15mmの腐食量:0.08×{5-(15+2.75)/5.5}=0.14mm
20年後において
x1=1mmの腐食量:0.08×10+0.04×{10-(1+2.75)/5.5}=1.2mm
x1=15mmの腐食量:0.08×10+0.04×{10-(15+2.75)/5.5}=1.1mm
なお、図4においては、陸側(重防食被覆が施されていない側)の腐食量を一般的に設計で用いられている腐食速度0.02mm/yを用いて求めたものが示されている。
重防食被覆鋼矢板の設計例として鋼管杭協会発行の鋼矢板設計から施工まで(2000年版)に掲載の自立式鋼矢板壁(SP-III形)の例を用いた。重防食被覆鋼矢板の断面を前記の腐食後のものとし、土圧強度や残留水圧強度、地震時の震度などの条件は上記の例に示される値を用いた。地震時の鋼矢板断面にかかる最大応力を計算し鋼材の許容値と比較し評価した。
比較例として従来の設計手法で用いられる全面腐食の場合の断面二次モーメントを求めた。全面腐食の場合は断面二次モーメントの計算のみとした。前記20年経過後の断面を用いて計算した結果を表2に示す。
上記のように予測された断面から求めた構造計算の結果は20年後も十分耐久性を保つ結果を得られた。
そこで、次に、鋼材露出部(図5における鋼材露出部5)の腐食により鋼材の穴あきが生じる可能性について検討した。
東京湾内で10年間使用された重防食被覆鋼矢板の鋼材露出部の飛沫帯における板厚を、錆を電動工具で取り除いた後、超音波板厚計で測定した。いずれも穴あきは観察されず、平均残存板厚は5mmであった。暴露試験より得た腐食速度0.16mm/y、10年経過後以降0.08mm/yより、以下に示す式より平均残存板厚が4mm(現状から-1mm)となるまでの時間は12.5年後と予測された。
鋼材露出部平均残存板厚が4mmとなるまでの時間t(4mm)=1÷0.08mm/y=12.5年
この結果から、平均残存板厚が4mmになった時点を補修時期として、現在より12年後に補修する計画をすることができる。
あるいは、上記の予測を前提として、現在から5年後に再度鋼材露出部の板厚測定を実施し、板厚減少量を測定し、その測定結果に基づいて管理計画を策定することもできる。
2 継手
3 重防食被覆
5 被覆端部
7 鋼材露出部
9 継手内部
Claims (4)
- 被覆端部をもつ重防食被覆鋼材の腐食後断面予測方法であって、
鋼材露出部のある重防食被覆鋼材試験片を用いて、腐食促進試験を行う第1の工程と、その結果を元に、重防食被覆層下への錆浸入速度、鋼材露出部の腐食速度、被覆層下の腐食速度、及び前記腐食促進試験の促進倍率を算出する第2の工程と、
該第2の工程で求めた前記重防食被覆層下への錆浸入速度、鋼材露出部、被覆層下の腐食速度、及び前記促進倍率を用いて予測したい経過期間後における重防食被覆層下への錆侵入距離、鋼材露出部および被覆層下の腐食量を求める第3の工程と、
該第3の工程で求めた前記錆侵入距離及び前記腐食量を、予測対象である重防食被覆鋼材断面図に適用し、腐食後の重防食被覆鋼材断面を予測する第4の工程とを有することを特徴とする重防食被覆鋼材の腐食後断面予測方法。 - 鋼材露出部腐食量y1を(1)又は(1)’式で、錆浸入距離xを(2)式で、被覆端部からの距離x1における腐食量yx1を(3)又は(3)’式で求めるようにしたことを特徴とする請求項1記載の重防食被覆鋼材の腐食後断面予測方法。
- 請求項1又は2で求めた重防食被覆鋼材断面を用いて設計計算を行い、該設計計算の結果に基づいて腐食後の耐久性評価を行うことを特徴とする重防食被覆構造物の強度劣化予測方法。
- 前記請求項3記載の重防食被覆鋼構造物の強度劣化予測方法によって求められた将来の劣化予測に基づいて補修計画を作成することを特徴とする重防食被覆構造物の管理方法。
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