JP5508306B2 - 浮上式防波堤 - Google Patents

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本発明は、防波堤に関し、より詳細には、通常時には海底に収納され、津波や高潮の発生時にのみ防波機能を発揮することの可能な浮上式の防波堤に関する。
津波や高潮等(以下、単に「津波等」という。)の侵入を防止する為に設けた防波堤は、コンクリートや鋼による構造物が一般的である。
コンクリートや鋼による構造物でもって防波堤を構築した場合、その設置に莫大なコストがかかるだけでなく、防波堤が海上に定常的に設置されることとなるため、船舶の運行の妨げになったり、景観を阻害したり、或いは海流を変えてしまうことにより周辺環境に影響を与えることもある。
上記従来の問題を解決すべく、津波等の発生時にのみ防波機能を発揮させることのできる防波堤として、以下の特許文献1又は2に記載の発明が提案されている。
例えば、特許文献1に記載の津波・高潮対策水門は、可撓性材質からなる幕状の扉部と、水路と海とを遮断するように扉部を直立させつつ支持する支持部で水門を構成しており、前記支持部は水路の両岸に設けられたポールその他の柱状物で構成し、ヒンジ等の関節部を設けて横倒し可能とする構成が開示されている。
また、特許文献2に記載の波浪防護構造物は、地中に鉛直に設けられた複数の収納孔の中に、柱状体が昇降可能にそれぞれ挿装された構成からなり、柱状体の下端に設け、流体を圧入又は排出して膨張又は収縮させる膨張手段により昇降させることで、波浪防護構造物を構築する構成が開示されている。
特開2009−228330号公報 特開2008−133602号公報
しかし、上記した従来技術では、以下に示す問題のうち、少なくとも一つの問題を有する。
(1)特許文献1に記載の水門では、扉部が常にポール間に敷設してあるため、ポールが倒伏した状態であっても海中に扉部が存している状態となり、海流への影響や、船舶の干渉による運航の影響の回避が難しい。
(2)特許文献2に記載の波浪防護構造物では、地中に設けた収納孔の中に予め袋体や膨縮手段を設ける必要があり、施工やメンテナンスが複雑でコストの低廉化が難しい。
すなわち、本願発明は、津波等の発生時にのみ防波機能を発揮し、且つ施工やメンテナンスが簡便で低コストな防波堤を提供することを目的とするものである。
前記課題を解決すべくなされた本願の第1発明は、水底に間隔を設けて収納し、上下に摺動して水底上に突出可能な一組の支柱と、前記支柱間に敷設し、水底で畳まれた状態から展開可能な敷設体と、前記支柱及び敷設体のうち少なくとも何れかに取り付けた浮体と、からなり、前記浮体に気体を導入することにより、支柱及び敷設体を浮上させて壁体を構築することを特徴とする、浮上式防波堤を提供するものである。
前記発明において、前記浮体を、複数に分割した袋体で構成し、各袋体毎に独立して気体を導入可能に構成してもよい。
また、前記発明において、前記浮体を、前記支柱の長手方向の途上に取り付けてもよい。
また、前記発明において、前記支柱が、水底に埋設した外筒内を摺動自在に構成した柱状体であってもよい。
また、前記発明において、前記支柱の収納時において、水底面上にある前記外筒と支柱との間の隙間を塞ぐ蓋部材を、該支柱の外周面に設けてもよい。
また、前記発明において、前記敷設体の前面側の水底に重量物を設置し、前記重量物と敷設体とをワイヤーロープで接続してもよい。
本願発明によれば、下記に示す効果のうち、少なくとも何れか一つを得ることができる。
(1)通常時には、壁体を構成する支柱及び敷設体が水底若しくは水底面上に収納されているため、船舶の運航の妨げとなったり、海流に影響を及ぼすといった問題が発生しない。
(2)支柱の突出機構が簡易な構造であるため、非常に低コストで防波堤を構築することができる。またメンテナンス性も良好であるため、保守コストも過大とならない。
(3)浮体を支柱の途上に設けることで、水面よりも上方に壁体を構築することができる。
(4)浮体を複数に分割した袋体で構成した場合、壁体の長手方向に渡って同時に浮上させることができ、敷設体の撓みや捻れが生じにくく、壁体の破損を予防できる。また、一部の袋体が破損し気体を導入できない場合であっても、他の袋体でもって補完することができるため壁体全体の浮上に影響がない。
(5)水底面上にある前記外筒と支柱との間の隙間を塞ぐ蓋部材を支柱の外周面に設けることにより、砂などの異物の混入を防止し、支柱の浮上機能を確実に発揮させることができる。
(6)前記敷設体の前面側の水底に設置した重量物と敷設体とをワイヤーロープで接続しておくことで、支柱にかかる力を分散できることから支柱間隔を長くでき、以て施工コストを一層低廉化することができる。
本発明の浮上式防波堤の第1実施例の概略斜視図。 図1に係る浮上式防波堤の使用例を示す概略正面図。 本発明の浮上式防波堤の第2実施例の概略正面図。 本発明の浮上式防波堤の第3実施例の概略正面図。 本発明の浮上式防波堤の第4実施例の概略正面図。 本発明の浮上式防波堤の第5実施例の概略斜視図。
各図面を参照しながら、本発明の浮上式防波堤について説明する。
<1>全体構成
図1は本発明の浮上式防波堤の第1実施例の概略斜視図である。
本発明の浮上式防波堤は、間隔を設けて水底に収納自在な一組の支柱1(1a、1b)と、前記支柱間に敷設する敷設体2と、前記支柱1及び敷設体2を水上に浮上させるための浮体3とを少なくとも含んで構成する。
<2>支柱
支柱1は、津波等を受けとめる敷設体3を支持するための部材である。
[支柱の配置方向]
支柱1は、所定間隔を設けて複数配置する。なお、支柱1の配置軌跡が防波堤の構築軌跡に対応するため、支柱1は津波等の進行方向に対抗するように配置したり、津波等から防護すべき対象物を取り囲むように配置することが望ましい。
[支柱の構成]
支柱1は、後述する敷設体2が受ける力に抵抗できる程度の耐力を有するものであれば、如何なる部材を用いてもよく、例えば中空又は中実の鋼材を用いることができる。
水底には、前記支柱に対応する大きさの削孔穴を設け、該削孔穴に外筒4を埋め込んでおく。そして、前記外筒4の内側を前記支柱1が摺動自在に構成することで、支柱1を水底に収納したり、支柱1を水中へと露出させることができる。
なお、支柱1と外筒4との間には、支柱1が完全に外筒4から抜け出さないような抜け止め機構を設けておく。
<3>敷設体
敷設体2は、津波等の遮断若しくは減衰機能を果たす壁面としての機能を果たす為の部材である。
[敷設体の構成]
敷設体2は、シート部材21や、複数の板材22を鉛直回転自在に上下に連結したもので構成することができ、上下に折り畳まれたり、ロール状に巻かれる等して、水底近傍に容積を小さくまとめることができる。
[敷設体の取付態様]
敷設体2の上縁は、支柱1の摺動に直接的又は間接的に追従するよう取付け、敷設体2の下縁は支柱1の摺動から独立するように取り付ける。
例えば、敷設体2の上縁は、支柱1の先端間に架け渡したワイヤーに取り付けたり、後述する浮体3にリベットやリングを介して取り付けることができる。
また、敷設体2の下縁は、外筒4の先端間、或いは水底面に架け渡したワイヤーに取り付けたり、水底面に直接アンカー固定等してもよい。
なお、敷設体2は、水底面近傍まで展開することを必須の要件とするものではなく、敷設体2の展開時においてその下縁が、水面から水底面までの途上に位置する状態であってもよい。
<4>浮体
浮体3は、その内部に気体を導入することにって浮力を発生させ、支柱1及び敷設体2を水底から水中に引き上げるための部材である。
[浮体の構成]
浮体3は、内部に気体を導入可能な袋状の部材であり、素材は特に限定されない。
浮体3への気体導入は、地上に設けたポンプなどから行うことができる。
[浮体の取付態様]
浮体3は、支柱1若しくは敷設体2に取り付けることで、浮体3の浮上/沈降により、支柱1に収納/露出、並びに敷設体2の折り畳み/展開が連動するように構成するればよく、取付態様は特に限定されず、周知の方法を使用することができる。
なお、浮体3を支柱1及び敷設体2の両者に取り付けておけば、浮体3の浮上に伴い、支柱1及び敷設体2が略均等に上昇するため、防波堤全体として撓みや捻れが生じにくい点で有益である。
[浮体の配置態様]
なお、本実施例では浮体3を敷設体2の配置軌跡をなぞるように連続的に設けてあるが、支柱1のみに取り付けたりする等、断続的に設けても良く、支柱1及び敷設体2を浮上するに足りる浮力が確保されていればよい。
<5>使用方法
図2を参照しながら、本実施例の浮上式防波堤の使用方法について説明する。
図2は、図1に係る浮上式防波堤の使用例を示す概略正面図である。
[平常時]
図2(a)は平常時における浮上式防波堤の収納イメージを示す図である。
このとき、浮体3内には気体は導入されておらず、浮力は発生していない。
したがって、各支柱1は水底に設けた外筒4内に収納されており、敷設体2は折り畳まれて水底面に載置されている。
[津波等の発生時(図2(b))]
図2(b)は津波等の発生時における浮上式防波堤の立設イメージを示す図である。
津波等が発生した場合、地上に設けたポンプ5などにより、浮体3に気体の導入を開始する。
気体によって膨張した浮体3は次第に水面へと浮上し、当該浮上に伴って支柱1及び敷設体2が上方に引き上げられる。
支柱の下端には鍔部11を設けておき、支柱1が所定の長さ引き上げられると、外筒4内に設けたストッパ41に干渉するため、支柱1全体が外筒から抜け出すことはない。
以上の通り、支柱1の引き出し長さの最大を限度として、浮体3が浮上し、防波堤が立設することとなる。
[津波等の収束時]
津波等が収束した時点で、浮体3から気体を抜きだすと、浮体3、支柱1、及び敷設体2は自然に水底へと落下する。支柱1は外筒4内へ収納され、敷設体2は水底で折り畳まれて、図2(a)の状態へと復帰することとなる。
以上説明した通り、本願の浮上式防波堤は、通常時には浮体3及び敷設体2が水底近傍でコンパクトに載置されているため、水上の船舶等に干渉するおそれが小さく、無用な事故の発生を防止することができる。また、海流を大きく変更することも無い為、周辺環境への影響も小さい、という利点が得られる。
また、津波等が発生した際には、浮体3に気体を導入するのみで防波堤が構築できるため、簡易な構造で低コストであり、且つ良好なメンテナンス性能を得ることができる。
図3は、本発明の浮上式防波堤の第2実施例の概略正面図である。
本発明に係る浮上式防波堤は、前記浮体3が複数の袋体31からなり、それぞれの袋体31に対して独立して気体を導入可能に構成してもよい。
なお、図3では、浮体31をそれぞれ独立した袋体31で構成しているが、一つの袋体の内部に隔壁を設けて複数の袋体31に分割するように構成してもよい。
上記構成によれば、防波堤の全長に渡って、ほぼ同時に気体導入を開始できるため、各支柱1、敷設体2及び浮体3が均等に浮上しやすく、敷設体の展開時における撓みや捻れなどを防止し、より安全且つ確実に、防波堤を構築することができる。
図4は、本発明の浮上式防波堤の第3実施例の概略正面図である。
本発明に係る浮上式防波堤は、支柱1の長手方向の途上に浮体3を取り付けても良い。
上記構成によれば、浮体3の浮上時に、敷設体2が浮体3よりも下方に展開される敷設体2(水中敷設体2b)だけでなく、浮体(水面位置)よりも高い場所にも敷設体2が立設(水上敷設体2a)することとなるため、急激な高潮、津波などに対しても、防波機能を発揮することができる。
本実施例の構成は、水底の深さがある程度深いことから、前記水上敷設体2aが水上の船舶等に干渉するおそれが比較的少ない場合等に有益である。
図5は、本発明の浮上式防波堤の第4実施例の概略正面図である。
本発明に係る浮上式防波堤は、水底面上にある前記外筒4と支柱1との間の隙間を塞ぐ蓋部材6を、該支柱1の外周面に設けるよう構成してもよい。
蓋部材6は、いわゆるシャンプーハットのような傘状の部材とし、外筒4を覆う程度の外周を備えていればよい。
上記構成によれば、外筒4と支柱1との間の隙間に水底の土砂等が入り込むことを防止するため、支柱1の摺動機能をより確実に発揮することができる。
図6は、本発明の浮上式防波堤の第4実施例の概略斜視図図である。
本発明に係る浮上式防波堤は、前記敷設体2の前面側の水底に重量物7を設置し、前記重量物7と敷設体2とをワイヤーロープ8で接続するよう構成してもよい。
上記構成によれば、重量物7が反力をとるため、より大きな津波等に対しても確実に防波機能を発揮することができる。
また、各支柱1にかかる力を分散できることから、支柱の間隔Lを長くでき、施工コストを一層低廉化することもできる。
1 支柱
2 敷設体
3 浮体
4 外筒
5 ポンプ
6 蓋部材
7 重量物
8 ワイヤーロープ

Claims (2)

  1. 水底に間隔を設けて収納し、上下に摺動して水底上に突出可能な一組の支柱と、
    前記支柱間に敷設し、水底で畳まれた状態から展開可能な敷設体と、
    前記支柱及び敷設体に取り付けた袋状の浮体と、からなり、
    前記敷設体の配置軌跡をなぞるように連続的に設けた前記浮体に気体を導入することにより、支柱及び敷設体を浮上させて壁体を構築することを特徴とする、浮上式防波堤。
  2. 前記浮体を、前記支柱の長手方向の途上に取り付けてあることを特徴とする、請求項1に記載の浮上式防波堤。
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