本発明者らは、500℃以下の低温でカーボンナノ構造体を製造することを目指して鋭意検討を重ねてきた。その結果、基材側とは反対側のAl合金膜表面に触媒金属を析出させた基板を用いれば、低温でカーボンナノ構造体を製造できることを見出し、本発明を完成した。その理由は詳細には不明であるが、Al合金膜の最表面側(基材側とは反対側)に触媒金属の少なくとも一部を含む析出物が析出することによってAl合金膜表面におけるカーボンナノ構造体の成長が促進されるため、比較的低温でもカーボンナノ構造体を形成できると考えている。
本発明においてベース金属としてAlを選択した理由は、Alは、カーボンナノ構造体の成長触媒作用を有していない金属だからである。また、Alは加工しやすく、電気抵抗が低いため、例えば、大型液晶パネルディスプレイの配線材料として利用されており、一辺が数mという大型のスパッタリングターゲットが容易に得られるからである。
そしてAlをベース金属とし、このAlに合金成分としてカーボンナノ構造体の成長触媒作用を有している元素(触媒金属)を含有させ、この触媒金属をAl合金膜の表面側に析出させれば、カーボンナノ構造体を形成させることができる。
上記触媒金属を含む析出物は、基材表面に触媒金属含有Al合金膜を形成した後、適切な熱処理を施すことによってAl合金膜の最表面に析出させることができる。即ち、適切な熱処理を施すことによって、Al合金膜中の合金成分(即ち、触媒金属)が、膜の内部から表面側へ拡散し、Al合金膜のうち基材側とは反対側の表面における合金成分の濃度が高くなり、これが触媒金属の析出物を形成すると考えられる。このとき形成される析出物の大きさは数nmレベルであり、Al合金膜表面に均一に分散析出する。このように本発明の基板は、Al合金膜表面に触媒金属の析出物が分散しているため、この基板を用いれば、カーボンナノ構造体を500℃以下の低温で製造できる。従って本発明によれば、従来では用いることのできなかった耐熱性の低い基材であっても基板の素材として用いることができ、カーボンナノ構造体の用途を拡大できる。
更に、熱処理条件を適切に制御することによってAl合金膜表面に析出する触媒金属の析出物の大きさや密度を調整できることが分かった。従って析出物の大きさや密度を適切に調整した基板を用いれば、カーボンナノ構造体の密度も容易に調整できる。そのため、本発明によれば、種々の用途に応じたカーボンナノ構造体を簡単に製造できる。
以下、本発明に係るカーボンナノ構造体形成用基板について詳細に説明する。
本発明の基板は、基材表面に、Fe、Co、およびNiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(触媒金属)を含有するAl合金膜を有するものである。そして、前記Al合金膜に含まれる前記元素の合計量は0.10〜20原子%であり、前記基材側とは反対側のAl合金膜表面に、前記元素の少なくとも一部を含む析出物を有しており、この析出物の平均粒径が5〜100nmである。
まず、本明細書において、「基材」とは、Al合金膜を設ける対象となる材料を指し、「基板」とは、基材表面に、触媒金属の少なくとも一部が析出したAl合金膜が設けられたものを指している。以下では、「基材」と「基板」を区別して説明している。
また、「Al合金膜表面」とは、基材表面に形成したAl合金膜のうち、基材側とは反対側の表面を意味する。即ち、カーボンナノ構造体が形成され得る表面を意味している。
本発明に用いられる基材は、カーボンナノ構造体を形成するための触媒として作用しないものであれば、種々のものを用いることができる。触媒として作用しない基材を用い、この基材表面に触媒金属を含有するAl合金膜を設けることによって、カーボンナノ構造体をAl合金膜表面のみに形成できる。従って、基材表面に蒸着させたAl合金膜に対し、例えばフォトリソグラフィー技術によってパターンを形成すれば、このパターンに従ってカーボンナノ構造体を形成できる。基材の素材は、具体的には、触媒として作用しない金属、セラミックス、ガラス等を用いることができる。
上記基材の形状は特に限定されず、通常は、平面(板状)であるが、凹凸状、波状、または曲面状のように非平面であってもよい。
本発明の基板は、上記基材表面に、Fe、Co、およびNiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(触媒金属)を含有するAl合金膜が設けられている。Fe、Co、およびNiは、いずれもカーボンナノ構造体を形成するための触媒として作用する元素であり、Al合金膜の合金成分として含有させてもその作用は阻害されることなく発揮される。Al合金膜には、Fe、Co、およびNiの元素を単独で含有してもよいし、任意に選ばれる2種以上の元素を組み合わせて含有してもよい。また、Al合金膜にFe、Co、およびNiを含有させるときの形態は特に限定されず、単独金属として含有させてもよいし、合金の形態(例えば、FeNi等)、酸化物、窒化物等として含有させてもよい。
上記Al合金膜に含有させる触媒金属の合計量は0.10〜20原子%とする。合計量が0.10原子%を下まわると、Al合金膜表面に触媒金属が析出しないため、カーボンナノ構造体を形成できない。従って合計量は0.10原子%以上、好ましくは1原子%以上、より好ましくは2原子%以上とする。しかし合計量が20原子%を超えると、炭素が煤状に付着し、カーボンナノ構造体を形成できない。従って合計量は20原子%以下、好ましくは15原子%以下、より好ましくは10原子%以下とする。なお、上記合計量とは、上記触媒金属を単独で含むときは単独の量であり、2種以上の元素を含むときは合計量である。
なお、本発明の基材は、上記触媒金属としてPtを含有させてもよい。Ptは非常に高価な元素であるが、上記Fe、Co、およびNiと同様に、カーボンナノ構造体を形成するための触媒として作用することを確認している。上記Al合金膜にPtを含有させる場合であっても触媒金属の合計量は上記範囲を満足すればよい。
上記Al合金膜には、上記触媒金属以外に、カーボンナノ構造体を形成するための触媒として作用しない他の元素を含有してもよい。この他の元素としては、例えば、希土類元素(REM)が挙げられる。REMとは、ランタノイド元素(LaからLuまでの15元素)およびSc(スカンジウム)とY(イットリウム)を含む意味であり、これらの中から任意に選ばれる1種または2種以上を含有してもよい。REMのなかでも、特に、Ndを好適に用いることができる。上記REMは、触媒金属を含む析出物を粗大化し、結果的に、カーボンナノ構造体の形成を促進する作用を有している。上記REMは、単独で、或いは合計で、15原子%以下とすることが好ましい。
なお、触媒金属量および他の元素量は、単独金属としての量であり、化合物(例えば、合金の形態、酸化物、窒化物など)を形成している場合は、単独金属に換算した値とする。
上記Al合金膜に含まれる触媒金属量および他の元素量は、特性X線分光法(EDX)を用いて測定すればよい。測定は、Al合金膜の膜厚方向のうち、中央部と表面側で夫々複数箇所について行い、平均値を求めればよい。膜厚の中央部と表面側で測定するのは、後述するように、熱処理によって触媒元素等が表面側へ拡散するため、測定位置によって濃度のバラツキが生じるからである。
上記Al合金膜は、上記元素を含有するものであり、残部はAlおよび不可避不純物である。
上記Al合金膜は、上記基材とは反対側のAl合金膜表面に、触媒金属の少なくとも一部が析出しているものである。Al合金膜表面に触媒金属を析出させることによって、この析出物を起点とし、カーボンナノ構造体を形成させることができる。なお、「表面」とは、Al合金膜の最表面を意味する。
上記表面に存在する触媒金属の析出形態は特に限定されず、金属単体として析出していてもよいし、触媒金属の酸化物や窒化物、或いは触媒金属とAlとの複合化合物、触媒金属同士の複合化合物として析出してもよい。あるいは、これらと酸素が結合した酸化物の形態で析出してもよい。いずれの形態も「触媒金属の少なくとも一部を含む析出物」に含まれる。
上記触媒金属の析出物の平均粒径は5〜100nmである必要がある。析出物の平均粒径とカーボンナノ構造体の直径には相関があり、析出物の平均粒径を5〜100nmに調整することによって、高純度で、高品質のカーボンナノ構造体を形成できる。そのため、析出物が小さ過ぎるとカーボンナノ構造体が形成されにくくなる。従って析出物の平均粒径は5nm以上とする。好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上である。しかし、析出物が大き過ぎると、Al合金膜表面の粗れが顕著となり、形成されるカーボンナノ構造体が不均一になる。従って析出物の平均粒径は100nm以下とする。好ましくは90nm以下、より好ましくは80nm以下である。
上記触媒金属の析出物は、Al合金膜表面に、観察視野面積1cm2あたり108個以上存在していることが好ましい。カーボンナノ構造体を高密度で形成させるためである。上記触媒金属の析出物は、より好ましくは109個/cm2以上、更に好ましくは2×109個/cm2以上、特に好ましくは3×109個/cm2以上である。上限は特に限定されないが、密度が大きくなり過ぎると析出物が凝集した状態となり、析出物が粗大化したときと同様の状態になるため、密度の上限は1010個/cm2程度である。
上記触媒金属の析出物の成分組成は、特性X線分光法(EDX)で測定すればよい。
上記触媒金属の析出物の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、観察視野(視野サイズは例えば3μm×4μm)内に観察される析出物の円相当直径を測定し、平均して算出すればよい。また、上記触媒金属の析出物の密度は、観察視野内に観察される全析出物の個数を測定し、これを観察視野面積1cm2あたりに換算して算出すればよい。
なお、上記触媒金属は、上記Al合金膜の基材側(即ち、Al合金膜と基材の界面)に析出してもよい。触媒金属をAl合金膜の基材側に析出させることによって、Al合金膜と基材との界面にカーボンナノ構造体を面状に形成できる。即ち、Al合金膜表面にカーボンナノ構造体を形成する工程では、Al合金膜表面から炭素(C)がAl合金膜に侵入し、Al合金膜中を拡散してAl合金膜の基材側にCが到達する。そのため、Al合金膜の基材側に上記触媒金属が析出している場合には、Al合金膜と基材との界面にカーボンナノ構造体が面状に形成される。
上記Al合金膜は薄膜であることが好ましく、この薄膜の膜厚は10〜1000nmであることが好ましい。Al合金膜が薄過ぎると、触媒金属量が不足し、触媒金属の析出物が小さくなったり、析出物の密度が小さくなるため、カーボンナノ構造体を形成しにくくなる。また、Al合金膜が薄過ぎるとプラズマCVD中にエッチングされて蒸発が進み、Al合金膜が劣化してしまう。
従って上記Al合金膜の膜厚は10nm以上とすることが好ましく、より好ましくは100nm以上、更に好ましくは200nm以上とする。しかしAl合金膜が厚過ぎると、触媒金属がAl合金膜表面まで拡散せず、Al合金膜の内部で触媒金属の析出物が形成され、Al合金膜表面に触媒金属の析出物が形成されにくくなる。そのため、触媒金属の析出物の大きさや密度にバラツキが生じやすくなるため、形成されるカーボンナノ構造体の直径にバラツキが生じやすくなる。また、Al合金膜が厚過ぎると、Al合金膜が基材から剥離し、カーボンナノ構造体を形成できなくなる。従って上記Al合金膜の膜厚は、1000nm以下とすることが好ましく、より好ましくは900nm以下、更に好ましくは800nm以下とする。
次に、本発明に係る基板の製造方法について説明する。
本発明の基板は、基材表面に、Fe、Co、およびNiよりなる群から選ばれる触媒金属を少なくとも1種含有するAl合金膜をスパッタリング法で形成した後、熱処理時間x(h)と熱処理温度y(℃)が下記式(1)を満足するように熱処理を行なうことによって製造できる。下記式(1)中、xは6h以下(0hを含まない)、yは200〜500℃である。
−260x+564≦y≦−9.4×x2+19×x+488 ・・・(1)
スパッタリング法に用いられるスパッタリングターゲットとしては、純Alターゲットの表面に触媒金属チップを貼り付けたチップオン型ターゲット、合金成分として触媒金属を含有するAl合金ターゲット、触媒金属を酸化物や窒化物等の形態で含有するAlターゲットなどを用いることができる。
上記スパッタリングは、不活性ガス雰囲気で行なえばよく、不活性ガスとしては、窒素ガスやArガスを用いることができる。
また、スパッタリング法におけるその他の条件は、汎用されるスパッタリング条件を採用でき、例えば、ガス圧を0.1〜1.0Pa、スパッタ電力を0.5〜20W/cm2に制御すればよい。
スパッタリング後には熱処理を行なうが、熱処理温度が200℃未満では、Al合金膜表面に触媒金属が析出しにくいため、カーボンナノ構造体を形成できない。従って熱処理温度は、200℃以上、好ましくは250℃以上、より好ましくは300℃以上とする。しかし、Alの融点が660℃であるため、熱処理温度が500℃を超えると、Al自体が溶融し、基板自体を維持できなくなる。従って熱処理温度は500℃以下、好ましくは450℃以下、より好ましくは400℃以下とする。
熱処理時間は6時間以下とする。6時間を超えて熱処理を行なってもAlの拡散は飽和し、また長時間の熱処理は、生産性を悪くする。従って熱処理時間は6時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは4時間以下、更に好ましくは3時間以下とする。なお、熱処理時間が20分間を下まわると、触媒金属の拡散が不充分となり、触媒金属の析出量が不足してカーボンナノ構造体を形成しにくくなる。従って熱処理時間は20分間以上とすることが好ましく、より好ましくは30分間以上とする。
上記熱処理時間をx(h)、上記熱処理温度をy(℃)としたとき、x=6h以下(0hを含まない)、y=200〜500℃を満足する他、熱処理時間xと熱処理温度yが上記式(1)の関係を満足することが推奨される。上記式(1)は、本発明者らが実験を繰り返して見出した関係式であり、上記熱処理温度yが左辺の値(−260x+564)を下回ると、析出物が生成しにくくなり、カーボンナノ構造体を形成できなくなる。一方、上記熱処理温度yが右辺の値(−9.4×x2+19×x+488)を超えると、元素が拡散し過ぎて析出物の粗大化や析出物密度の低下を招き、カーボンナノ構造体を形成しにくくなる。
上記熱処理は、真空状態で行なってもよいし、不活性ガス雰囲気で行なってもよい。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンや窒素などを使用できる。
また、上記触媒金属は、Al合金膜表面に(a)酸化物の形態や(b)窒化物の形態で析出させてもよい。
(a)上記触媒金属を、Al合金膜表面に、酸化物の形態で析出させるには、上記熱処理を行なった後、更に酸化処理を行なうか、上記スパッタリングターゲットとして触媒金属の酸化物を含有するAlターゲットを用いればよい。酸化処理は、酸化性雰囲気(大気雰囲気、酸素ガス雰囲気など)中や酸化性ガスが存在する減圧下で加熱し、触媒金属を酸化すればよい。このとき、Al合金膜自体も酸化するが、Al酸化物は、カーボンナノ構造体の形成を阻害しないことを確認している。
上記酸化性雰囲気で熱処理するときの条件は、Al合金膜の膜厚や触媒金属の含有量、析出させる触媒金属の酸化物の粒径などを考慮して設定すればよく、例えば、大気雰囲気で熱処理する場合は、100〜400℃程度で、0.2〜0.5時間程度とすればよい。
(b)上記触媒金属を、Al合金膜表面に、窒化物の形態で析出させるには、上記熱処理を行なった後、更に窒化処理を行なうか、上記スパッタリングターゲットとして触媒金属の窒化物を含有するAlターゲットを用いればよい。窒化処理は、窒素ガス雰囲気で熱処理するか、窒素ガスが存在する減圧下で加熱し、触媒金属を窒化すればよい。このとき、Al合金膜自体も窒化するが、Al窒化物は、カーボンナノ構造体の形成を阻害しないことを確認している。
窒素ガス雰囲気で熱処理するときの条件は、Al合金膜の膜厚や触媒金属の含有量、析出させる触媒金属の窒化物の粒径などを考慮して設定すればよく、例えば、窒素ガス雰囲気で熱処理する場合は、200〜500℃程度で、2〜5時間程度とすればよい。
次に、カーボンナノ構造体を製造する方法について説明する。
本発明のカーボンナノ構造体は、上述した方法で得られた本発明に係るカーボンナノ構造体形成用基板の表面に公知の方法で形成できるが、本発明によれば、カーボンナノ構造体を500℃以下の温度で形成できる。即ち、本発明の基板表面(つまり、Al合金膜表面)には、触媒金属の析出物が分散しているため、500℃以下の低温であってもカーボンナノ構造体が成長する。カーボンナノ構造体を形成するときの温度は、好ましくは450℃以下、更に好ましくは400℃以下である。しかし上記温度が200℃を下まわるとカーボンナノ構造体が成長しにくくなる。従って上記温度は200℃以上とするのがよい。好ましくは250℃以上、より好ましくは300℃以上とする。
上記カーボンナノ構造体を形成する方法は、特に限定されず、CVD法(特に、熱CVD法やプラズマCVD法)や液相から析出させる方法が例示できる。
上記基板表面に形成されたカーボンナノ構造体は、例えば、電子放出素子や平面パネルディスプレイ等へ応用できる。また、上記基板表面に形成されたカーボンナノ構造体は、電極としても利用できる。
また、カーボンナノ構造体を形成した後、基板を除去すれば、カーボンナノ構造体のみが得られる。これは、例えば、電池負極材料、水素吸蔵材料、金属やプラスチックとの複合材料等として利用できる。また、単一のカーボンナノ構造体を用いたトランジスタや各種センサとしても利用できる。また、大規模集積回路(LSI)における配線用の導電性バンプ構造や、LSI内部の配線ビア構造にも利用できる。さらには、走査型プローブ顕微鏡の探針等にも利用できる。
更に、基材とAl合金膜との界面にカーボンナノ構造体が面状に形成させた場合は、Al合金膜の除去(例えば、エッチングによって除去)によって、カーボンナノ構造体が形成された基材を得ることができる。これは、例えば、トランジスタや大規模集積回路(LSI)に利用できる。
上記カーボンナノ構造体としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル等が挙げられる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
下記実験例1〜4では、基材表面に形成したAl合金膜の組成を変えてカーボンナノチューブを形成した。具体的には、下記実験例1では、基材表面に純Al膜を蒸着させた基板、下記実験例2では、基材表面に1種類の触媒金属を含有するAl合金膜を蒸着させた基板、下記実験例3では、基材表面に2種類の触媒金属を含有するAl合金膜か、触媒金属と他の金属を含有するAl合金膜を蒸着させた基板、下記実験例4では、基材表面に触媒金属の酸化物を含有するAl合金膜を蒸着させた基板を夫々用いた。
下記実験例5は、基材の種類を変えた例であり、下記実験例6は、熱処理温度と熱処理時間を変えた例であり、下記実験例7は、フォトリソグラフィー技術によって基板の表面に選択的にカーボンナノチューブを形成した例である。
[実験例1(比較例)]
高抵抗シリコン板(SUMCO社製)の表面に、高周波(RF)スパッタリングによって膜厚0.1μmの酸化シリコン膜(SixOy)を蒸着させて基材を製造した。
得られた基材の表面に、スパッタリングによって膜厚300nmの純Al膜を蒸着させた。上記スパッタリングには、スパッタリングターゲットとして、純Alターゲットを用いた。上記スパッタリングは、Ar雰囲気、ガス圧を0.2Pa、スパッタ電力を2.0W/cm2として行なった。
純Al膜を蒸着させた後、真空中で400℃、30分間保持する熱処理を行い、カーボンナノ構造体形成用基板を製造した。
熱処理して得られた基板の表面に、マイクロ波プラズマCVD装置を用いて次の手順でカーボンナノチューブを形成した。
マイクロ波プラズマCVD装置の反応容器に上記基板を入れ、基板をプラズマ下部に配置した。反応容器には、メタンガスを30sccmおよび水素ガスを70sccmの割合で供給し、反応容器内のガス圧を1330Pa(10Torr)とした。マイクロ波は、基板の温度が400℃となるよう投入した。基板の温度は、光学式温度計で常時計測した。反応容器内で10〜20分間保持し、基板表面にカーボンナノチューブを形成した。
基板表面に、カーボンナノチューブが形成されているかどうかは、次の手順で調査した。まず、基板表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で、倍率1万倍で観察し、基板表面に繊維状の炭素が成長しているかどうかを確認した。繊維状の炭素が成長している基板については、透過型電子顕微鏡(TEM)で、倍率3万〜10万倍で観察し、繊維状の炭素がカーボンナノチューブであるかどうかを確認した。その結果、基板表面の純Al膜にはカーボンナノチューブが形成されたが、その密度はおよそ105本/cm2以下であり、僅かであった。よって、純Al膜を用いたのでは、良好なカーボンナノチューブは得られないことが分かった。
[実験例2]
本実験例および後記する実験例3〜5では、Al合金膜の組成がカーボンナノ構造体形成能に及ぼす影響を調べた。
上記実験例1で得られた基材の表面に、スパッタリングによって下記表1に示す成分組成のAl合金膜を、下記表1に示す膜厚となるように蒸着させた後、次いで真空中で400℃、30分間加熱して熱処理し、カーボンナノ構造体形成用基板を製造した。なお、当該熱処理条件は、上記式(1)の関係を満足している。
上記スパッタリングには、スパッタリングターゲットとして、成分組成が下記表1に示したAl合金膜の成分組成とほぼ同じ合金ターゲットまたは純Alターゲットに合金元素のチップを貼付したチップオン型ターゲットを用いた。なお、下記表1において、金属Mをx原子%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるAl合金膜の成分組成を「Al−xM」と表記した。上記スパッタリングは、Ar雰囲気、ガス圧を0.2Pa、スパッタ電力を2.0W/cm2として行なった。
熱処理して得られた基板について、Al合金膜表面における元素分布および析出物の組成をSEMの反射像およびEDXを用いて前述した方法に基づいて分析した。その結果、上記Al合金膜表面には、合金元素の析出物がほぼ均一に分散していた。上記合金元素のうち、Feは単独で析出しており、NiとCoはAlとの化合物として析出していた。析出物の円相当直径を前述した方法に基づいて測定し、これを平均して析出物の平均粒径を算出した。算出した平均粒径を下記表1に示す。
また、上記Al合金膜表面における上記合金元素の析出物の密度を、前述した方法に基づいてSEM像を用いて計測した。算出した析出物の密度を下記表1に示す。なお、上記Al合金膜表面には、いずれのサンプルについても表面粗れは認められなかった。
また、下記表1には、下記の基準に従って析出物を評価した結果も併せて示す。なお、評価○と評価△は本発明例、評価×は比較例である。
<析出物評価基準>
○:平均粒径が10nm以上90nm未満、且つ密度108個/cm2以上
△:平均粒径が5nm以上10nm未満であるか、平均粒径が90nm以上100nm以下、且つ密度108個/cm2以上
×:平均粒径が5nm未満、平均粒径が100nm超、或いは密度108個/cm2未満
次に、熱処理して得られた基板の表面に、上記実験例1と同じ条件で、カーボンナノチューブ(CNT)を形成し、カーボンナノチューブが実際に形成されているかどうかを調査した。カーボンナノチューブの密度を測定し、下記の基準に従ってカーボンナノチューブ(CNT)を評価した結果を下記表1に併せて示す。なお、評価○と評価△は本発明例、評価×は比較例である。
<CNT評価基準>
○:カーボンナノチューブが高密度(108本/cm2以上)で成長している
△:カーボンナノチューブが低密度(108本/cm2未満)で成長している
×:カーボンナノチューブが成長していない
下記表1から次のように考察できる。No.1〜3、5、6、8〜10は、本発明で規定する要件を満足する例であり、Al合金膜表面に、触媒金属を含む適切な析出物が生成している。また、これらの基板を用いると400℃の低温でカーボンナノチューブを形成できた。カーボンナノチューブの直径は、1本あたり約10nmで、多層構造になっていた。
特に、No.1〜3、9は、基板表面に合金元素の析出物が好適な平均粒径(具体的には20〜40nm)と好適な密度(具体的には109個/cm2以上)で析出していたため、カーボンナノチューブを高密度で形成できていた。
一方、No.5は、触媒金属濃度が0.1原子%、析出物の平均粒径が5nmで、いずれも本発明で規定する範囲の下限ギリギリであるため、触媒金属の析出物は生成しているものの(析出物評価△)、生成したカーボンナノチューブの密度は若干低かった(CNT評価△)。
No.6は、触媒金属濃度が20原子%、析出物の平均粒径が100nmで、いずれも本発明で規定する範囲の上限ギリギリであるため、触媒金属の析出物は生成しているものの(析出物評価△)、カーボンナノチューブの密度が若干低く、また煤状の炭素も若干生成した(CNT評価△)。
No.8とNo.10は、触媒金属を含む析出物が適切に生成しているが(析出物評価○)、Al合金膜の膜厚が本発明で推奨する範囲の上下限ギリギリであるため、カーボンナノチューブの密度が若干低くなった。また、カーボンナノチューブを形成した後、Al合金膜に剥離や劣化の兆候が認められた(CNT評価△)。
これに対し、No.4、7、11は、本発明で規定する要件を満足しない例である。
これらのうちNo.4は、Al合金膜に含まれるFe濃度が低過ぎる例であり、Al合金膜表面にFeが殆ど析出していなかったため、カーボンナノチューブを全く形成できなかった。
No.7は、Al合金膜に含まれるFe濃度が高過ぎる例であり、Al合金膜表面に析出したFe粒子の平均粒径が大きくなっている。また、カーボンナノチューブ形成後には、煤状炭素が多量に付着した。
No.11は、Al合金膜の膜厚が本発明で推奨する範囲を下回っているため、Al合金膜表面に析出した触媒金属を含む析出物の平均粒径が本発明で規定する範囲を下回っている。また、プラズマCVD中にエッチングされて蒸発が進み、Al合金膜が劣化した。
[実験例3]
上記実験例1で得られた基材の表面に、スパッタリングによって下記表2に示す成分組成のAl合金膜を、下記表2に示す膜厚となるように蒸着させた後、次いで真空中で400℃、30分間加熱して熱処理し、カーボンナノ構造体形成用基板を製造した。なお、当該熱処理条件は、上記式(1)の関係を満足している。
上記スパッタリングには、スパッタリングターゲットとして、成分組成が、下記表2に示したAl合金膜の成分組成とほぼ同じものになるように、純Alターゲットの表面に合金元素チップを貼付したチップオン型ターゲットを用いた。上記スパッタリングは、Ar雰囲気、ガス圧を0.2Pa、スパッタ電力を2.0W/cm2として行なった。
熱処理して得られた基板について、Al合金膜表面における元素分布および析出物の組成を、上記実験例2と同じ条件で分析した。その結果、上記Al合金膜表面には、合金元素の析出物がほぼ均一に分散していた。上記合金元素のうち、Feは単独で析出しており、NiとCoはAlとの化合物として析出していた。析出物の円相当直径を測定し、これを平均して析出物の平均粒径を算出した。算出した平均粒径を下記表2に示す。
また、上記実験例2と同じ条件でSEM像を用いて計測した上記Al合金膜表面における上記合金元素の析出物の密度を下記表2に示す。
また、上記実験例2と同じ基準で上記析出物を評価(平均粒径、密度)した結果を下記表2に示す。
次に、熱処理して得られた基板の表面に、上記実験例1と同じ条件で、カーボンナノチューブを形成し、またカーボンナノチューブが形成されているかどうかを調査した。上記実験例2に記載した基準に従って評価したCNT評価結果を下記表2に示す。
下記表2から次のように考察できる。
No.21〜23、25、26、28〜32は、本発明で規定する要件を満足する例であり、Al合金膜表面に、触媒金属を含む適切な析出物が生成している。また、これらの基板を用いると400℃の低温でカーボンナノチューブを形成できた。カーボンナノチューブの直径は、1本あたり約10nmで、多層構造になっていた。
特に、No.21〜23、29、32は、基板表面に合金元素の析出物が好適な平均粒径(具体的には30〜60nm)と好適な密度(具体的には109個/cm2以上)で析出しており、カーボンナノチューブを高密度で適切に形成できていた。
一方、No.25は、触媒金属濃度が0.1原子%、析出物の平均粒径が5nmで、いずれも本発明で規定する範囲の下限ギリギリであるため、触媒金属の析出物は生成しているものの(析出物評価△)、生成したカーボンナノチューブの密度は若干低かった(CNT評価△)。
No.26は、触媒金属濃度が20原子%、析出物の平均粒径が100nmで、いずれも本発明で規定する範囲の上限ギリギリであるため、触媒金属の析出物は生成しているものの(析出物評価△)、カーボンナノチューブの密度が若干低く、また煤状の炭素も若干付着した(CNT評価△)。
No.28とNo.30は、触媒金属を含む析出物が適切に生成しているが(析出物評価○)、Al合金膜の膜厚が本発明で推奨する範囲の上下限ギリギリであるため、カーボンナノチューブの密度が若干低くなった。また、カーボンナノチューブを形成した後、Al合金膜に剥離や劣化の兆候が認められた(CNT評価△)。
No.31は、触媒金属濃度が20原子%で、本発明で規定する範囲の上限ギリギリであるため、触媒金属の析出物は生成しているものの(析出物評価○)、カーボンナノチューブの密度が若干低く、また煤状の炭素も若干付着した(CNT評価△)。
これに対し、No.24と27は、本発明で規定する要件を満足しない例である。
これらのうちNo.24は、Al合金膜に含まれるFe濃度が低過ぎる例であり、Al合金膜の表面にFeが殆ど析出していなかったため、カーボンナノチューブを形成できなかった。
No.27は、Al合金膜に含まれるFe濃度が高過ぎる例であり、Al合金膜の表面に析出したFe粒子の平均粒径が大き過ぎた。また、カーボンナノチューブ生成後のAl合金膜表面には、煤状炭素が多量に付着していた。
上記表1と上記表2を比較すると、Al合金膜に合金元素として、触媒金属のほかにNdを含有させると、Al合金膜の表面に析出する触媒金属の平均粒径が大きくなる傾向が読み取れる。
[実験例4]
上記実験例1で得られた基材の表面に、スパッタリングによって下記表3に示す酸化物を含むAl合金膜を、下記表3に示す膜厚となるように蒸着させた後、次いで真空中で400℃、20分間加熱して熱処理し、カーボンナノ構造体形成用基板を製造した。当該熱処理条件は、上記式(1)の関係を満足している。下記表3に、Al合金膜に含まれる触媒金属量(単独金属に換算した値)を示す。
上記スパッタリングには、スパッタリングターゲットとして、下記表3に示す触媒金属の酸化物を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるターゲットを用いた。このターゲットに含まれる触媒金属量は、下記表3に示した触媒金属量とほぼ等しかった。具体的には、上記スパッタリングには、次のスパッタリングターゲットを用いた。No.41、44〜47は、Fe2O3を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるAlターゲット、No.42は、CoOを含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるAlターゲット、No.43、48〜51は、NiOを含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるAlターゲット、を夫々用いた。
上記スパッタリングは、Ar雰囲気、ガス圧を0.2Pa、スパッタ電力を2.0W/cm2として行なった。
なお、No.41、43〜51については、スパッタリングターゲットに含まれるFe2O3量またはNiO量を調整することによって、Al合金膜に含まれるFeO量またはNiO量を制御し、Al合金膜に含まれる触媒金属量(単独金属に換算した値)を制御した。
熱処理して得られた基板について、Al合金膜表面における元素分布および析出物の組成をSEMの反射像およびEDXを用いて前述した方法に基づいて分析した。その結果、上記Al合金膜表面には、合金元素の酸化物(析出物)がほぼ均一に分散していた。析出物の円相当直径を測定し、これを平均して析出物の平均粒径を算出した。算出した平均粒径を下記表3に示す。
また、上記実験例2と同じ条件で、上記Al合金膜表面における上記合金元素の析出物の密度を、SEM像を用いて計測した。算出した析出物の密度を下記表3に示す。
また、上記実験例2と同じ基準で上記析出物を評価(平均粒径、密度)した結果を下記表3に示す。
次に、熱処理して得られた基板の表面に、上記実験例1と同じ条件で、カーボンナノチューブを形成し、またカーボンナノチューブが形成されているかどうかを調査した。上記実験例2に記載した基準に従って評価したCNT評価結果を下記表3に示す。
下記表3から次のように考察できる。No.41〜43、45、46、48〜50は、本発明で規定する要件を満足する例であり、Al合金膜表面に、触媒金属を含む適切な析出物が生成している。また、これらの基板を用いると400℃の低温でカーボンナノチューブを形成できた。カーボンナノチューブの直径は、1本あたり約15nmで、多層構造になっていた。
特に、No.41〜43、46、48、49は、基板表面に合金元素の析出物が好適な平均粒径(具体的には20〜80nm)と好適な密度(具体的には109個/cm2以上)で析出していたため、カーボンナノチューブを高密度で形成できていた。
一方、No.45は、触媒金属濃度が0.1原子%、析出物の平均粒径が5nmで、いずれも本発明で規定する範囲の下限ギリギリであるため、触媒金属の析出物は生成しているものの(析出物評価△)、生成したカーボンナノチューブの密度は若干低かった(CNT評価△)。
No.50は、触媒金属を含む析出物が適切に生成しているが(析出物評価○)、Al合金膜の膜厚が本発明で推奨する範囲の下限ギリギリであるため、カーボンナノチューブの密度が若干低くなった。また、カーボンナノチューブを形成した後、Al合金膜に剥離や劣化の兆候が認められた(CNT評価△)。
これに対し、No.44、47、51は、本発明で規定する要件を満足しない例である。
これらのうちNo.44は、Al合金膜に含まれるFe濃度が低過ぎる例であり、Al合金膜表面にFeOが殆ど析出していなかったため、カーボンナノチューブを形成できなかった。
No.47は、Al合金膜に含まれるFe濃度が高過ぎる例であり、Al合金膜表面に析出したFeO粒子の平均粒径が大きくなっている。また、カーボンナノチューブ形成後には、煤状炭素が多量に付着した。
No.51は、Al合金膜の膜厚が本発明で推奨する範囲を下回っているため、Al合金膜表面に析出した触媒金属を含む析出物の平均粒径が本発明で規定する範囲を下回っている。また、プラズマCVD中にエッチングされて蒸発が進み、Al合金膜が劣化した。
[実験例5(本発明例)]
上記実験例1において、高抵抗シリコン板の代わりに、ガラス板またはセラミックス板を用いて同様の実験を行った。即ち、ガラス板(コーニング社製「EAGLE2000」、厚みは0.7mm)またはセラミックス板(アルミナ板、厚みは0.25mm)の表面に、高周波(RF)スパッタリングによって膜厚0.1μmの酸化シリコン膜(SixOy)を蒸着させて基材を製造した。
得られた基材の表面に、スパッタリングによってFeを5原子%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるAl合金膜(Al−5Fe)を、膜厚500nmとなるように蒸着させた後、次いで真空中で400℃、30分間加熱して熱処理し、カーボンナノ構造体形成用基板を製造した。なお、当該熱処理条件は、上記式(1)の関係を満足している。
上記スパッタリングには、スパッタリングターゲットとして、成分組成が、Al−5Feとなるように純Alターゲットの表面にFeチップを貼付したチップオン型ターゲットを用いた。上記スパッタリングは、Ar雰囲気、ガス圧を0.2Pa、スパッタ電力を2.0W/cm2として行なった。
熱処理して得られた基板について、Al合金膜表面における元素分布および析出物の組成を、上記実験例2と同じ条件で分析した。その結果、上記Al合金膜表面には、Feの析出物がほぼ均一に分散していた。析出物の円相当直径を測定し、これを平均して析出物の平均粒径を算出した。その結果、基材としてガラス板を用いたもの、アルミナ板を用いたもの共に、平均粒径は40〜50nmであった。
また、上記実験例2と同じ条件で、上記Al合金膜表面における上記合金元素の析出物の密度を、SEM像を用いて計測した。その結果、上記合金元素の析出物の密度は20×108個/cm2であった。また、上記実験例2と同じ基準で上記析出物を評価(平均粒径、密度)した結果、「評価○」であった。
次に、熱処理して得られた基板の表面に、上記実験例1と同じ条件で、カーボンナノチューブを形成すると共に、カーボンナノチューブが形成されているかどうかを調査した。その結果、基材としてガラス板を用いたもの、アルミナ板を用いたもの共に、カーボンナノチューブを高密度で形成できていた。即ち、本発明によれば、Al合金膜表面に触媒金属の析出物を形成させているため、カーボンナノ構造体の形成を400℃程度の低温で行うことができる。よって、本発明によれば、基材として、ガラス基板やセラミックス基板のように耐熱性の低い基材を用いることができることが分かる。
[実験例6]
本実験例では、上記式(1)が触媒金属含有析出物の平均粒径や密度、更にはカーボンナノチューブ形成能に及ぼす影響を調べた。
上記実験例1で得られた基材の表面に、スパッタリングによって成分組成がAl−6Ni−2NdのAl合金膜を、膜厚300nmとなるように蒸着させた後、次いで真空中で100〜450℃、1〜5時間加熱して熱処理し、カーボンナノ構造体形成用基板を製造した。
また、下記表4、表5には、上記(1)式およびy=200〜500℃の値から算出される熱処理温度の下限値と上限値を示した。即ち、熱処理温度の下限値は、上記(1)式の左辺の値または200℃のいずれか大きい方、熱処理温度の上限値は、上記(1)式の右辺の値または500℃のいずれか小さい方を記載した。実際に行なった熱処理温度が、上記(1)式およびy=200〜500℃の値から算出される範囲を満足している場合を熱処理評価○、上記(1)式およびy=200〜500℃の値から算出される範囲を満足しているが、ボーダー近傍の場合を熱処理評価△、上記(1)式およびy=200〜500℃の値から算出される範囲を満足していない場合を熱処理評価×として下記表4、表5に評価結果を示した。
上記スパッタリングには、スパッタリングターゲットとして成分組成が上記Al合金膜の成分組成とほぼ同じAl合金ターゲットを用いた。スパッタリングは、Ar雰囲気、ガス圧を0.2Pa、スパッタ電力を2.0W/cm2として行なった。
熱処理して得られた基板について、Al合金膜表面における元素分布および析出物の組成を、上記実験例2と同じ条件で分析した。その結果、上記Al合金膜表面に、Al−Ni析出物がほぼ均一に分散しているものと、Al−Ni析出物が観察されないものがあった。
また、上記実験例2と同じ条件で、上記Al合金膜表面におけるNi含有析出物の密度を、SEM像を用いて計測した。計測した析出物の密度を下記表4、表5に示す。
また、上記実験例2と同じ基準で上記析出物を評価(平均粒径、密度)した結果を下記表4、表5に示す。
次に、熱処理して得られた基板の表面に、上記実験例1と同じ条件で、カーボンナノチューブを形成し、カーボンナノチューブが形成されているかどうかを調査した。上記実験例2に基づいて評価したCNT評価結果を下記表4、表5に示す。
下記表4、表5に示した熱処理時間、熱処理温度、および析出物評価結果の関係を図1に示す。
図1、下記表4、および表5から次のように考察できる。
熱処理温度が高くなるほど、また熱処理時間が長くなるほど、触媒金属を含む析出物の平均粒径が大きくなり、その結果、カーボンナノチューブの直径も大きくなる傾向が読み取れる。しかし、熱処理温度が高過ぎるか、熱処理時間が長過ぎると、析出物が粗大化したり、Al合金膜が基材から剥離したり、Al合金膜の表面に凹凸が形成され、この凹凸が大きくなり、品質が低下する傾向が読み取れる。
[実験例7(本発明例)]
高抵抗シリコン板(SUMCO社製)の表面に、高周波(RF)スパッタリングによって膜厚0.1μmの酸化シリコン膜(SixOy)を蒸着させて基材を製造した。
得られた基材の表面に、スパッタリングによってFeを5原子%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるAl合金膜(Al−5Fe)を、膜厚300nmとなるように蒸着させた後、次いで真空中で400℃、30分間加熱して熱処理し、カーボンナノ構造体形成用基板を製造した。スパッタリングは、Ar雰囲気、ガス圧を0.2Pa、スパッタ電力を2.0W/cm2として行なった。
熱処理して得られた基板の表面に、フォトリソグラフィー技術によって直径100μmの円形のAl−5Fe合金膜パターンを形成した。フォトリソグラフィープロセスは、通常の手順で行った。具体的には、感光樹脂膜の塗布、所定のマスクを用いた紫外線照射、有機溶媒を用いた不要な感光樹脂膜の除去、酸水溶液による不要なAl−5Fe合金膜の溶解除去、アッシングによる感光樹脂膜の除去の順で行った。
パターン形成した基板を用い、上記実験例1と同じ条件でカーボンナノチューブを形成した。その結果、直径100μmのAl−5Fe合金膜パターンの表面のみに、高品質のカーボンナノチューブが形成されていることが確認できた。