JP5500549B2 - スピン反転装置、スピン反転評価システム及びスピン反転方法 - Google Patents
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Description
そのため、偏極ビームによる物性測定には、偏極ビームの極性を効率よく反転することの出来るスピン反転装置が必要とされている。これまでのスピン反転装置では、急峻な磁場反転におけるスピン非断熱遷移がしばしば利用されてきた。そして、これを実現するには、2個の縦置きソレノイドコイルとこれに垂直な磁場を発生する1個の横置きコイルの組み合わせが必要とされていた。
しかし、この従来の方法では複数のコイルを使用するため、コイル位置や磁場の調整が煩雑であり、これが従来技術の課題であった。
この非断熱遷移は、核座標の変化が早いほど遷移確率は大きく、擬交差での断熱ポテンシャルのエネルギー差が小さいほど遷移確率は大きく、擬交差をしている二つの断熱ポテンシャルの傾きの差が小さいほど遷移確率は大きくなる。
しかし、これらの方法を用いても、前記課題を解消することはできなかった。
本発明は、以下の構成を有する。
断熱ポテンシャルがLandau−Zener型交差を持つ場合、この交差における非断熱遷移確率は、式(1)で与えられる。
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態であるスピン反転装置、スピン反転方法及びスピン反転評価システムについて説明する。
まず、本発明の実施形態であるスピン反転評価システムについて説明する。
図1は、本発明の実施形態であるスピン反転評価システムの一例を示す概略図である。
図1に示すように、スピン反転評価システム32は、全体を取り囲むように配置された磁場補正用3軸コイル12と、スピン粒子発生源(偏極He+イオン源)21と、ビームライン部22と、超高真空槽部23と、を備えて、概略構成されている。
なお、この量子力学的干渉は、実施例で示す4He+イオンのみならず、他のイオン種や原子、さらには中性子においても起こることは既に知られている(非特許文献8)。
まず、RF放電管1に、ヘリウムガスをガス導入口2から導入するとともに、ガス排気口3から排気を行い、RF放電管1中のヘリウム圧力が約20Paとなるように調整する。
次に、RF出力を3Wとして、RF放電管1内にヘリウムプラズマを発生させる。
次に、RF放電管1内に発生させたヘリウムプラズマに、直線偏光の光ポンピング照射光4と円偏光の光ポンピング照射光5を照射して、偏極4He+イオンを発生させる。
なお、光ポンピングの波長は1083nmD0線に調整する。偏極4He+イオンのスピンの向き(上向き、又は下向き)は、円偏光の光ポンピング照射光5のヘリシティで制御する。また、光ポンピングの照射光密度は、たとえば、約0.1W/cm2とする。
RF放電管1で発生させたスピン偏極4He+は、ビームライン本体部6の筒内を通過して、超高真空槽11の中に設置した静電エネルギー分析器を有するスピン検出器(以下、スピン偏極率分析器ともいう)まで輸送される。
なお、ビームライン本体部6中の残留ガスは、ビームライン排気口7、8から排気される。
次に、本発明の実施形態であるスピン反転装置について説明する。
図2は、本発明の実施形態であるスピン反転装置31の一例を示す模式図であって、図2(a)は斜視図であり、図2(b)はA方向から見た側面図である。
図1、2に示すように、本発明の実施形態であるスピン反転装置31は、コイル9である。具体的には、スピン制御用ソレノイドコイルである。
また、開口部31cと開口部31dの間のコイル9に取り囲まれた部分は空間部31eとされている。空間部31eは、導線の隙間からコイル9の外部空間と連通されているとともに、開口部31c、31dで外部空間と連通されている。
また、コイル9の環状部の直径が10〜100mmとすることが好ましく、20〜80mmとすることがより好ましい。10mm未満及び100mm超では、所定の磁場を形成することが困難となる。
コイル9の開口部31c、31dでおこるスピン非断熱遷移の間の量子力学的干渉を利用するには、開口部31cと31dが適切な間隔である必要がある。この理由から、コイルの一端側から他端側までの長さが10〜500mmとすることが好ましく、20〜80mmとすることがより好ましい。10mm未満及び100mm超では、高効率のスピン反転は困難となる。
更に、コイル9の巻き数は3〜100回であることが好ましく、5〜80回とすることがより好ましい。3回未満及び100回超では、所定の磁場を形成することが困難となる。
次に、本発明の実施形態であるスピン反転方法について説明する。
図3は、スピン反転評価方法の一例を説明する概略図である。
図3に示すように、まず、RF放電管1から発射された粒子は、矢印yの方向に進み、スピン反転装置31の空間部31e内を通過する。
次に、超高真空槽11内のスピン偏極率分析器17によってスピン反転評価が行われる。すなわち、粒子はFe(100)標的15で散乱された後、静電エネルギー分析器16の穴部16cから、静電エネルギー分析器16の内部に取り込まれてスピン反転評価が行われる。
まず、4He+イオンビームのビームの偏極率PHe+を、(n↑−n↓)/(n↑+n↓)と定義する。ここで、n↑とn↓はそれぞれ、上向きと下向きのスピンを持つ4He+イオンの個数である。
まず、上向きに偏極したHe+の弾性散乱強度I↑を測定する。
次に、下向きに偏極したHe+の弾性散乱強度I↓を測定する。
そして、PHe+=(I↑−I↓)/[Pa(I↑+I↓)]として、PHe+を評価する。ただし、Paは比例定数である。
このPHe+測定の際、入射角、出射角、散乱角をそれぞれ0°、30°、150°となるように、Fe(100)標的15と静電エネルギー分析器16の位置を調整する。ただし、入射角と出射角は、それぞれFe(100)標的15の表面の法線方向と入射方向及び出射方向がなす角度である。
図4は、本発明の実施形態であるスピン反転方法の一例を示すフローチャート図である。
図4に示すように、本発明の実施形態であるスピン反転方法は、第1の磁場印加工程S1と、粒子通過工程S2と、第2の磁場印加工程S3とからなる。
第1の磁場印加工程S1が、スピンを有する粒子に式(1)、(2)で表されるスピン非断熱遷移が起きるための条件を満たす磁場を印加する工程であり、第2の磁場印加工程S3が、前記粒子に式(1)、(2)で表されるスピン非断熱遷移が起きるための条件を満たす磁場を再度印加する工程である。
第1の磁場印加工程S1は、スピンを有する粒子を、スピン反転装置31の開口部31cに外部から入射する際に、通過する粒子に次式(1)、(2)で表されるスピン非断熱遷移が50%の確率で起きるための条件を満たす磁場を印加する工程である。
粒子通過工程S2は、スピン反転装置31の空間部31e内を、開口部31cから開口部31dに向けて前記粒子を通過させる工程である。
第2の磁場印加工程S3は、スピン反転装置31の2つの開口部31dから外部に出射する際に、通過する粒子に式(1)、(2)で表されるスピン非断熱遷移が起きるための条件を満たす磁場を印加する工程S3である。
本発明の実施形態であるスピン反転装置では、コイル9に電流を流すことにより、2つの開口部31c、31dで、それぞれ通過する粒子は、次式(1)、(2)で表されるスピン非断熱遷移が起きるための条件を満たす磁場が印加される。
例えば、偏極4He+イオン源21から超高真空槽11までの磁場が、鉛直方向に平行でその大きさが約3×10−5Tとなるように調整可能とされる。
エネルギーEyは磁場Hに比例するゼーマンエネルギーであり、開口部31cのy軸上の位置y0及び開口部31dのy軸上の位置y1でそれぞれ、その変化は最大となる。
例えば、RF放電管1でほぼ上向きのスピンだけからなる粒子ビーム(100%、UP)を発生させても、開口部31cのy軸上の位置y0及び開口部31dのy軸上の位置y1で、Eyの変化が最大となるので、スピン非断熱遷移が生じ、上のエネルギー状態の粒子の数(50%、UP)と下のエネルギー状態の粒子の数(50%、DOWN)がほとんど等しくなる。
具体的には、2つの開口部で、それぞれ通過する粒子のスピンの非断熱遷移間の量子力学的干渉を生じせしめ、2回の非断熱遷移の間で生ずる量子力学的干渉を利用して、スピンを反転させることができ、通過する粒子のスピンの非断熱遷移確率をほぼ等しくすることができる。これにより、コイル位置や磁場の調整をほとんど行うことなく、高効率のスピン反転を可能とするスピン反転装置、スピン反転方法及びスピン反転評価システムを提供することができる。
次に、本発明の第2の実施形態であるスピン反転装置について説明する。
図6は、本発明のスピン反転装置の別の一例を示す概略図であって、図6(a)は斜視図であり、図6(b)は側面図である。
図6では、スピン反転装置31が一端61a側と他端61b側が異なる極性とされた筒状の磁石61とされている。
磁石61の一端61a側の孔部61cが2つの開口部31cとされ、磁石61の他端61b側の孔部61dが2つの開口部31dとされ、開口部31cと開口部31dとを連通する空間部31eが設けられている。
図1、図2及び図3の装置(偏極4He+イオン源、ビームライン部、スピン制御用ソレノイドコイル、スピン偏極率分析器を備えた超高真空槽部、磁場補正用3軸コイルを備えた装置)を用いて以下の実験を行った。
また、図3において、RF放電管からスピン制御用ソレノイドコイルまでの距離d1は40cmとし、スピン制御用ソレノイドコイルの長さd2は5cmとし、スピン制御用ソレノイドコイルからスピン偏極率分析器までの距離d3は28cmとした。
また、スピン制御用ソレノイドコイルの直径は7cm、巻き数は20回とした。
なお、装置全体を取り囲む磁場補正用3軸コイルを設置した。
次に、RF出力は、3Wとして、ヘリウムプラズマを発生させた。
次に、RF放電管に発生させたヘリウムプラズマに、直線偏光の光ポンピング照射光と円偏光の光ポンピング照射光を照射して、電子スピン偏極したヘリウムの1価の正イオン(4He+)(以下、スピン偏極He+イオン)を発生させた。
なお、光ポンピングの波長は1083nmD0線に調整した。スピン偏極He+イオンのスピンの向き(上向き、又は下向き)は、円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティで制御した。また、光ポンピングの照射光密度は、約0.1W/cm2となるように調整した。
次に、マニピュレータを操作して、超高真空槽に設置したFe(100)標的の位置を、Fe(100)標的の容易磁化軸が鉛直方向と平行になるようにFe(100)標的の位置を調整した。
Fe(100)標的としては、MgO(100)単結晶基板の上にエピタキシャル成長させたFe単結晶薄膜を用いた。また、このFe(100)標的は、測定前にあらかじめ超高真空中で容易磁化軸方向に磁化しておいた。
Fe(100)標的で散乱させることにより、超高真空槽の中に設置した静電エネルギー分析器にスピン偏極He+イオンビームを輸送した。
発生する磁場は、偏極He+イオン源から超高真空槽までの磁場が、鉛直方向に平行でその大きさが約3×10−5Tとなるように調整した。
磁場Hは、ソレノイドコイル中で最大となり、それから離れるに従い単調に減少する。装置では前述のように、鉛直方向に約3×10−5Tの磁場が印加されているので、スピン制御用ソレノイドコイルの入り口と出口でHe+イオンの感じる磁場変化は最大となり、それぞれの地点において一定の確率でスピン反転(スピン非断熱遷移)が起きることになる。またこの時、スピン反転しないHe+イオンのスピンは磁場に追随することになる。
Claims (9)
- 空間部と、前記空間部に連通された2つの開口部を備え、前記開口部の一方から前記空間部内に入射させたスピンを有する粒子からなるビームを、前記開口部の他方から外部に出射可能なスピン反転装置であって、前記2つの開口部で、それぞれ通過する粒子に次式(1)、(2)で表されるスピン非断熱遷移が起きるための条件を満たす磁場を印加可能であることを特徴とするスピン反転装置。
断熱ポテンシャルがLandau−Zener型交差を持つ場合、この交差における非断熱遷移確率は、式(1)で与えられる。
一方、断熱ポテンシャルが非交差型の場合の非断熱遷移確率は、Rosen−Zenerモデルによって、式(2)で与えられる。
式(1)で、pは非断熱遷移確率、H12は擬交差における断熱ポテンシャル曲線の間隔の1/2、Rxは擬交差の位置、hはプランク定数、vは粒子の速度、ε1とε2は断熱ポテンシャル、Rは位置、μBはボーア磁子、gはg因子、Hは磁場である。式(2)で、Δは透熱状態のエネルギー差、βは透熱結合の指数部の係数である。 - 前記磁場の大きさが、式(1)、(2)で表される非断熱遷移の確率が50%となる大きさとされていることを特徴とする請求項1に記載のスピン反転装置。
- 前記粒子が、イオン、原子又は中性子のいずれかであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスピン反転装置。
- 一本の導線を渦巻状としたコイルからなり、前記コイルの一端側の環状部に囲まれた部分が前記2つの開口部の一方とされ、前記コイルの他端側の環状部に囲まれた部分が前記2つの開口部の他方とされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のスピン反転装置。
- 前記導線の太さが1〜30mmであり、前記コイルの環状部の直径が10〜100mmであり、前記コイルの一端側から他端側までの長さが10〜500mmであり、前記コイルの巻き数が3〜100回であることを特徴とする請求項4に記載のスピン反転装置。
- 一端側と他端側が異なる極性とされた筒状の磁石からなり、前記磁石の一端側の孔部が前記2つの開口部の一方とされ、前記磁石の他端側の孔部が前記2つの開口部の他方とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスピン反転装置。
- スピンを有する粒子を発生可能なスピン粒子発生源と、前記スピン粒子発生源に接続され、空洞部を有するビームライン部と、前記ビームライン部に接続された超高真空槽部とを備え、前記スピン粒子発生源で発生させた粒子を、前記空洞部内を通過させてから、前記超高真空槽部内で分析可能なスピン反転評価システムであって、
請求項1〜6のいずれか1項に記載のスピン反転装置が、前記ビームライン部に取り付けられていることを特徴とするスピン反転評価システム。 - 粒子のスピンを反転させるスピン反転方法であって、スピンを有する粒子に式(1)、(2)で表されるスピン非断熱遷移が起きるための条件を満たす磁場を印加する工程と、前記粒子に式(1)、(2)で表されるスピン非断熱遷移が起きるための条件を満たす磁場を再度印加する工程と、を有することを特徴とするスピン反転方法。
断熱ポテンシャルがLandau−Zener型交差を持つ場合、この交差における非断熱遷移確率は、式(1)で与えられる。
一方、断熱ポテンシャルが非交差型の場合の非断熱遷移確率は、Rosen−Zenerモデルによって、式(2)で与えられる。
式(1)で、pは非断熱遷移確率、H12は擬交差における断熱ポテンシャル曲線の間隔の1/2、Rxは擬交差の位置、hはプランク定数、vは粒子の速度、ε1とε2は断熱ポテンシャル、Rは位置、μBはボーア磁子、gはg因子、Hは磁場である。式(2)で、Δは透熱状態のエネルギー差、βは透熱結合の指数部の係数である。 - 前記磁場の大きさが、式(1)、(2)で表される非断熱遷移の確率が50%となる大きさとされていることを特徴とする請求項8に記載のスピン反転方法。
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