JP5455413B2 - 血管の成熟化・正常化・安定化剤 - Google Patents

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本発明は、シリンガレシノールからなる、血管の成熟化、正常化、安定化剤、又はTie2活性化剤(Tie2リン酸化剤)(以下、これらを単に「剤」と総称することがある)を提供する。
血管は血管内皮細胞に対して、血管内皮細胞の外腔面から、血管壁細胞と総称される血管平滑筋細胞やペリサイトが、細胞外マトリックスを介して、あるいは直接的に接着している。血管径の大きさによっては内皮細胞と壁細胞の接着する比率が異なり、大血管系では、1層の内皮細胞に、複数層の壁細胞が裏打ちしており、中、小血管では、内皮細胞1細胞に壁細胞が1細胞裏打ちするものが多く、また、さらに径の細い血管では、1個の壁細胞が複数の内皮細胞に接着している。このように、壁細胞が血管内皮細胞に対し裏打ちすることは血管の構造的な「成熟化」過程にとって重要である。また、血管内皮細胞同士の接着により、血管内環境因子(細胞および液性因子)が容易には血管外に漏出しないような内皮細胞間の接着斑を形成することが、機能的な血管の「成熟化」過程にとって重要である。さらに、組織の酸素や栄養分の需要に応じて、とくにそれらが不足する際には、血管は管腔を拡大化させることで血流を増加させ、酸素、養分を組織に十分に行き渡らせるように調節する。つまり、血管内皮細胞同士が接着斑を形成することで透過性を制御し、血管内皮細胞が壁細胞の裏打ちを伴うことにより構造的安定化させ、血管腔を大中小に制御していく過程を、「血管成熟化」と定義する。
また、種々の病態では、血管構造の乱れた血管が構築され、内皮細胞同士の接着が抑制されたり、壁細胞の内皮細胞への接着が欠損した未熟な血管が形成されている。これらが無秩序な血管透過性の亢進を招くことで、組織内と血管内の液性因子や細胞の交通が異常となる。透過性が亢進すれば組織浮腫が生じ、組織の機能不全の原因となり、また炎症細胞の浸潤が無秩序に生じることで炎症を招く。さらに壁細胞は既存の血管からの血管の発芽を抑制していることから、壁細胞の伴わない血管からは血管の発芽が過剰となり、無秩序な血管の発芽が誘導され病態の悪化をもたらす。このような現象は、糖尿病性網膜症や腫瘍、炎症に代表される病態で観察される。つまり、血管透過性の破たんした血管や血管の無秩序な増生をまねくような異常な血管を、内皮細胞同士の接着をたかめ、壁細胞の内皮細胞への裏打ちを促進することにより、血管を正常な状態にすることを「血管正常化」と定義する。また、上記のような異常な血管は、糖尿病、高脂血症、高血圧などにより、血流内外環境因子の変化が内皮細胞や壁細胞に障害(細胞死など)を与えたり、がんや炎症により血管新生促進因子の過度の産生上昇が引き金になって生じる。このような病態が発生した際に、既存の血管に対する障害を抑制し、内皮細胞同士の解離を抑制したり、内皮細胞と壁細胞の解離を抑制することを「血管安定化」と定義する。また、この安定化には内皮細胞の細胞死を抑制する機構も含まれる。
血管新生とは既存の血管から新たな血管のネットワークが形成される現象であり、腫瘍、慢性関節リウマチ、糖尿病網膜症、高脂血症、高血圧などの血管病変を主体とした疾患と深く関わっている。VEGF(vascular endothelial growth factor:血管内皮細胞増殖因子)が分子クローニングされたのを皮切りに血管形成に特異的に作用する因子としてVEGFファミリーとアンジオポエチン(angiopoietin;Ang)ファミリーの分子が次々に同定されてきた。VEGFとその受容体は脈管形成とよばれる血管の初期発生からその後の血管新生に至るまで非常に広い範囲の血管形成に関与する。一方、Angは脈管形成後、血管内皮細胞による発芽、分枝、嵌入、退縮などの細胞現象を伴った管腔形成において機能する。Angは血管内皮細胞に発現する受容体型チロシンキナーゼTie(tyrosine kinase with Ig and EGF homology domain)-2を介し、血管内皮細胞と、周皮細胞(ペリサイト)や血管平滑筋細胞のような血管壁細胞との接着を制御し、血管の構造的安定化に機能している(非特許文献1)。
これまでにAng-1〜4までの4つのアイソフォームが知られ、Ang-1, Ang-2はヒト、マウスいずれにも存在するが、Ang-3はマウス、Ang-4はヒトに存在する。壁細胞から分泌されたAng-1,-4はTie-2を刺激し細胞内チロシンキナーゼドメインの自己リン酸化を惹起し、インテグリンの活性化、焦点接着キナーゼ(focal adhesion kinase; FAK)の活性化、PI3K/Akt(phosphatidylinositol-3-kinase;PI3K, serine-threonine kinase: Akt)の活性化を伴い、内皮細胞と壁細胞の接着を誘導する。正酸素状態では内皮細胞は壁細胞が恒常的に分泌するAng-1,-4により内皮細胞-壁細胞間の接着が維持されているが、局所的に低酸素状態が生じると、Ang-1,-4のアンタゴニストであるAng-2,-3の産生が高まり、Tie2の活性化を一時的に抑制し、内皮細胞とそれを裏打ちした壁細胞の接着が抑制される。そして壁細胞の解離により内皮細胞は増殖し発芽的血管新生を開始し、新しい血管網の形成に至る。Tie2の活性化は内皮細胞と壁細胞の接着を誘導することで、血管構造の安定化に寄与し、また、内皮細胞同士の接着を促進して血管透過性を制御する。また、Tie2の活性化は、内皮細胞の細胞死を抑制することも知られていることから(非特許文献2)、種々の細胞内外の血管構造を破たんさせる環境因子に対しては、Tie2の活性化を誘導して、血管の不安定化を抑制して、血管を安定化および正常化させることが可能である。また、血管再生医療において、血管内皮細胞によって構築された血管においては、Tie2の活性化を誘導することにより、内皮細胞と壁細胞の接着を誘導して血管の成熟化が可能である。また、腫瘍や糖尿病性網膜症などで観察される、壁細胞が内皮細胞に接着しないことによる無秩序な血管が増生するような疾患では、Tie2の活性化により、壁細胞を内皮細胞に接着させ、血管を正常化させることが可能である。また文献によれば(非特許文献3)、Tie2の活性化は、血管腔を拡大化することが報告されており、血管狭小化あるいは血管拡大化の抑制が原因となって生じる虚血性疾患においてはTie2の活性化により、血管腔を拡大化して病態の改善を図ることが可能である。
また最近ではAngの構造上の特徴であるcoiled-coiledドメインとfibrinogen-likeドメインを有する複数の分子が発見されている。これらはいずれもTie-1受容体、Tie-2受容体に結合能を示さないため、既存のAngファミリーとは異なる分子群とみなされ、アンジオポエチン様因子(Angiopoietin-like protein; Angptl)と命名され、Angptl-1,-2,-3,-4,-5,-6,-7が報告されている。いずれのAngptlも受容体は現時点では同定されていないオーファンリガンドであるが、これらにも多様な作用を示すことが期待される。
血管内皮細胞以外ではTie2の活性化は細胞の休眠状態を誘導することが知られている。これまでの報告によると、造血幹細胞上のTie2の活性化が造血幹細胞の休眠を誘導することが報告されている(非特許文献4)。つまり、Tie2の活性化を誘導することで、造血幹細胞の試験管内での生存を長期維持できることが可能となる。また、これまでの報告によれば、Tie2の活性化がインテグリンなどの接着因子の活性化により、細胞外マトリックスなどへの細胞の接着を誘導することが知られている(非特許文献5)。このような細胞接着の誘導により、Tie2の活性化によって造血幹細胞は足場依存的な生存維持が生体内外で誘導可能となると考えられる。さらに、近年の報告によると、がんの組織中に存在する最も悪性度の高いとされ、がんの再発に関与するとされているがん幹細胞において、Tie2の発現が示唆されてきている(非特許文献6)。Tie2の活性化が、造血幹細胞の細胞周期を休眠状態に陥らせることが可能なように、がん幹細胞に発現するTie2の活性化によっても、がん幹細胞の増殖を抑制することが可能である。
実験医学 Vol.20, No.8 (2002) pp.52-57 Cho CH, Kammerer RA, Lee HJ, Yasunaga K, Kim KT, Choi HH, Kim W, Kim SH, Park SK, Lee GM, Koh GY. Designed angiopoietin-1 variant, COMP-Ang1, protects against radiation-induced endothelial cell apoptosis. Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Apr 13;101(15):5553-8. Thurston G, Suri C, Smith K, McClain J, Sato TN, Yancopoulos GD, McDonald DM. Leakage-resistant blood vessels in mice transgenically overexpressing angiopoietin-1. Science. 1999 Dec 24;286(5449):2511-4. Arai F, Hirao A, Ohmura M, Sato H, Matsuoka S, Takubo K, Ito K, Koh GY, Suda T. Tie2/angiopoietin-1 signaling regulates hematopoietic stem cell quiescence in the bone marrow niche. Cell. 2004 Jul 23;118(2):149-61. Takakura N, Huang XL, Naruse T, Hamaguchi I, Dumont DJ, Yancopoulos GD, Suda T. Critical role of the TIE2 endothelial cell receptor in the development of definitive hematopoiesis. Immunity. 1998 Nov;9(5):677-86. Lee OH, Xu J, Fueyo J, Fuller GN, Aldape KD, Alonso MM, Piao Y, Liu TJ, Lang FF, Bekele BN, Gomez-Manzano C. Expression of the receptor tyrosine kinase Tie2 in neoplastic glial cells is associated with integrin beta1-dependent adhesion to the extracellular matrix. Mol Cancer Res. 2006 Dec;4(12):915-26.
本発明の課題は、新規な、血管の成熟化、正常化、安定化剤、及びTie2活性化(リン酸化)剤の提供にある。
本発明者により、紫外線Bの照射を受けた皮膚組織中での挙動が詳細に検討された。紫外線Bの照射により表皮の肥厚、および皮膚血管形成が著しく惹起され、しわ形成が引き起こされた。このような光老化を受けた皮膚組織中ではAng-1の発現を有意に低下させ、Ang-2の発現はAng-1に対して増加したことが見出された。さらに皮膚組織切片からは紫外線照射によって壁細胞が血管内皮細胞から剥離している状態が観察された。これらの知見から、紫外線照射により内皮細胞と壁細胞の接着は抑制され、Tie2のリン酸化が抑制、即ちTie2の活性化が抑制された状態に誘導されることが示唆された。そして、Tie2を強制発現した血球系Baf3細胞やヒト臍帯静脈内皮細胞株HUVECを用い、様々な化合物を作用させて検討した実験から、シリンガレシノールにTie2を活性化する作用があることが見出された。
従って、本願は下記の発明を包含する:
(1)シリンガレシノールからなる、血管の成熟化、正常化又は安定化剤。
(2)シリンガレシノールからなる、Tie2活性化(リン酸化)剤。
(3)(1)又は(2)の剤を配合してなる、皮膚外用剤、経口用組成物又は医薬組成物。
シリンガレシノール及びAng1によるTie2リン酸化の結果を示す。 HUVEC細胞におけるシリンガレシノール及びAng1によるTie2リン酸化の結果を示す。
シリンガレシノールは植物に特有の抗酸化物質リグナン類化合物であり、高血圧症の改善効果やピロリ菌抑制効果を有することから、食品、飲料や医薬品に利用されている(例えば、特開平8-268887号公報、特開2004-352652号公報など)。シリンガレシノールは以下の化学構造を有する:
シリンガレシノールは公知の化合物であり、共にクスノキ目(Laurales)、クスノキ科(Lauraceae)のケイ(Cinnamomum cassia Blume)、特にその若枝(ケイシ)あるいは樹皮(ケイヒ)に含有される。いずれも血管の成熟化、正常化、安定化やTie2活性化(リン酸化)活性などの効果を有することなどは全く知られていない。本発明に係る剤のシリンガレシノールはケイシまたはケイヒなどの天然起源から抽出されたものであっても、あるいは合成されたものであってもよい。
また、本発明のシリンガレシノールは無機塩又は有機塩であってもよい。塩としては、特に限定されないが、例えば、無機塩としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。有機塩としては、酢酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、トリエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、アミノ酸塩等が挙げられる。
Tie2の活性化とは、Tie2をリン酸化することで、その活性体(リン酸化Tie2)に変換できる能力を言う。Tie2の活性化剤としては、アンジオポエチン1などがTie2を活性化するものとして知られている。
本発明の剤やTie2活性化(リン酸化)剤は血管の構造変化を原因とする、種々の疾患および老化の予防、改善に有効な医薬品または化粧品として利用できる。本発明のTie2活性化(リン酸化)剤は、血管の正常化、安定化を誘導することにより、種々の炎症性疾患や免疫疾患、成人病など、例えば、種々の感染症、がん、関節リウマチ、痛風、高血圧、糖尿病、動脈硬化症、アトピー性皮膚炎などにおいて、血管新生や血管の破たんを伴う全身の病変部位の改善を図る医薬品として利用できる。また、血管透過性の抑制により、皮膚を含め臓器、器官、各種組織内の浮腫、たとえば炎症性疾患や免疫疾患、成人病による血管浮腫や、紫外線暴露や虫さされ、アレルギーなどによる血管透過性亢進による浮腫やかゆみなどの症状を改善する医薬品または化粧品として利用できる。さらに、Tie2リン酸化剤は、種々の要因によって誘導される内皮細胞の細胞死、たとえば炎症性疾患や免疫疾患、成人病など、例えば、種々の感染症、がん、関節リウマチ、痛風、高血圧、糖尿病、動脈硬化症、または放射線障害、種々の薬剤や紫外線による内皮細胞の細胞死を抑制して、血管の不安定化を抑制できる医薬品または化粧品として利用できる。Tie2リン酸化剤は血管成熟化や血管腔を拡大化することにより、外傷や縟そうなど創傷治癒の促進、血管再生医療における血管の成熟化、虚血性疾患、たとえば脳梗塞や心筋梗塞の改善剤として医薬品に利用でき、また、血流改善効果を利用して、腰痛症、凍傷、脱毛症などに対する内服および外用医薬品としても利用できる。脳血流の増大においては、痴呆症への応用も可能である。脱毛症に対しては、化粧品としての利用も可能である。また、がんにおいては、がん細胞の休眠を誘導する治療薬として、幹細胞においてはその生体内外での維持薬として利用が可能である。
光老化とは、一般に日光に対する被曝が繰り返された結果として認められる皮膚の外見及び機能の変化を意味する。日光の構成要素である紫外線(UV)、特に中間UV(UVBと呼ばれる、波長290−320nm)が主として光老化を引き起こす。光老化を引き起こすのに必要なUVBの被曝量は現在のところ知られていない。しかしながら、紅斑や日焼けを引き起こすレベルでのUVBに対する繰り返しの被曝が、通常光老化に結びつく。臨床的には、光老化は肌荒れ、しわの形成、斑の着色、土色化、たるみの形成、毛細管拡張症の発症、ほくろの発生、紫斑病の発症、傷つき易くなる、萎縮、繊維症的色素除去領域の発生、前悪性腫瘍及び悪性腫瘍の発症等として特定され得る。光老化は普通、顔、耳、頭、首、と手のような、日光に習慣的に曝される皮膚に起こる。皮膚における老化においては、皮膚障害や紫外線に対する暴露による光老化が主因となるが、本Tie2リン酸化剤は、光老化の原因となる血管障害を抑制することにより、光老化の改善に利用できる。
本発明の剤又はTie2活性化(リン酸化)剤は、その使用目的に合わせて用量、用法、剤型を適宜決定することが可能である。例えば、本発明の剤又はTie2活性化(リン酸化)剤の投与形態は、経口、非経口、外用等であってよい。剤型としては、例えば錠剤、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、エキス剤、シロップ剤等の経口投与剤、又は注射剤、点滴剤、若しくは坐剤等の非経口投与剤軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等の外用剤を挙げることができる。
本発明の剤又はTie2活性化(リン酸化)剤中のシリンガレシノールの配合量は、用途に応じて適宜決定できるが、一般には剤全量中、0.0001〜20.0質量%、好ましくは0.0001〜10.0質量%である。
また、本発明の剤又はTie2活性化(リン酸化)剤には、シリンガレシノール以外に、例えば、通常の食品や医薬品に使用される賦形剤、防湿剤、防腐剤、強化剤、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、甘味料、酸味料、調味料、着色料、香料等、化粧品等に通常用いられる美白剤、保湿剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
さらに、本発明の剤又はTie2活性化(リン酸化)剤を皮膚外用剤として使用する場合、皮膚外用剤に慣用の助剤、例えばエデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等のビタミンA類なども適宜配合することができる。
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。配合量は質量%である。
ケイシ熱水抽出乾燥残分の調製
ケイシ(ケイ:Cinnamomum cassia Blumeの枝部分)400.7gに水2Lを加え、3時間加熱抽出を行い、ろ過した。得られた残渣に水2Lを加え、同様の操作を繰り返し、加熱抽出をさらに2回行った。得られたろ液を凍結乾燥し、39.7gの熱水抽出乾燥残分を得た。
熱水抽出乾燥残分の分画および単離
熱水抽出乾燥残分 31.0gをSephadex LH-20 (Amersham Pharmacia Biotech AB)を用いて粗分画を行った。水溶出画分(2.7g)、50%メタノール溶出画分(8.5g)、メタノール溶出画分(4.9g)、アセトン溶出画分(0.5g)、および未溶出画分(7.4g)を得た。メタノール溶出画分についてアンバーライトXAD2(オルガノ(株))カラムにより分画し、次いでHPLC分取(カラム:Capcell Pak C18 AQ(株)資生堂製, 検出: UV210nm, 移動層: CH3CN/H2O混合系)によりシリンガレシノール(2.08mg)を単離した。
Tie2リン酸化評価方法
Wild type Tie2を強制発現した血球系Baf3細胞をRPMI1640培地中、IL-3(BIOSOURCE, PMC0034)、10% FCS存在下にてインキュベーションした。細胞刺激の前日よりFCSを除いた状態で、6ウエルプレートを用いて2X10 6 細胞 /1.5mL/ウエルで播種し一晩インキュベーションした。上記シリンガレシノール、陽性コントロールとしてAngiopoietin-1(R&D system, 923-AN )又は陰性コントロールとしてDMSOをそれぞれ最終濃度が100ppm、0.5ppm、1000ppmとなるようにウエルに添加し、10分間のインキュベーション後、細胞を氷上で冷却し、冷PBSで洗浄した。タンパク質分解酵素阻害剤(Leupeptin, Aprotinin, Pepstatin, PMSF, Na3VO4)を含んだRIPA buffer中、 細胞を超音波破砕した。sample buffer ( 0.2 M Tris-HCl (pH 6. 8), 4% SDS, 20 % glycerol, 5 mM EDTA,, 0.01% BPB) を加え、SDS-PAGE(7.5%ポリアクリルアミドゲル, 12ウエル, NPU-7.5L, アトー(株))を以下の条件で行った:
ゲル:7.5%アクリルアミドゲル(NPU-7.5L アトー株式会社製)
泳動条件:40mA(75分、ゲル2枚)
Tie2抗体:sc-324(Santa Cruz Biotechnology製)
Phospho-Tie2抗体:#4221(Cell Signaling製)
次いでWestern blotting(20V, 4℃, 終夜)によりPVDF膜へ転写した。5 % スキムミルク/TBSTによりブロッキング(1時間)を行い、その後Tie-2(Santa Cruz, sc-324)あるいはリン酸化Tie2(Cell Signaling, #4221)を加え、4℃で一晩放置した。次いでヤギ-抗ウサギIg's HRP(BIOSOURCE ALI3404)を加え、室温で1時間放置した。化学発光検出(ECL)により、タンパク質のバンドを検出した。
図1はシリンガレシノールを用いた実験による結果を示す。シリンガレシノールはAng-1と同様、Tie2のリン酸化をもたらすことが認められた。なお、陰性コントロールであるDMSOを添加した系ではTie2の顕著なリン酸化は認められなかった(図示せず)。従って、シリンガレシノールがTie2リン酸化効果を示し、血管成熟化、血管正常化、血管安定化をもたらし、その結果血管新生を抑制できることが示唆された。
2)正常ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を用いて、同様にTie2リン酸化を評価した。細胞刺激の3時間前に培地をHumediaからRPMI1640に換え、以下はBaf3細胞と同様に評価した。その結果を図2に示す。Baf3の結果と同様に、シリンガレシノールはAng-1と同様、Tie2のリン酸化をもたらした。なお、陰性コントロールであるDMSOを添加した系ではTie2の顕著なリン酸化は認められなかった(図示せず)。

Claims (1)

  1. シリンガレシノールからなるTie2活性化剤を含む、血管の成熟化、正常化又は安定化剤。
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