以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
[1.連続鋳造装置の全体構成]
以下に、本発明の第1の実施形態に係る連続鋳造用鋳型と、それを用いた連続鋳造方法について説明する。まず、図1及び図2を参照して、本発明の第1の実施形態に係る連続鋳造用鋳型を備えた連続鋳造装置の全体構成について説明する。図1は、本実施形態に係る連続鋳造装置を示す全体構成図であり、図2は、本実施形態に係る連続鋳造鋳型の基本構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は一部断面正面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る連続鋳造装置は、溶融金属10aを連続鋳造するための連続鋳造用鋳型1と、鋳型1の直下に設けられ、鋳型1から引き出される鋳片10を支持及び冷却する機構(以下、鋳片支持及び冷却装置という。)とを備える。
まず、鋳型1の概略構造について、図2を参照して説明する。図2に示すように、鋳型1は、一対の短辺鋳型板11、11と、該短辺鋳型板11、11をその幅方向両側から挟み込む一対の長辺鋳型板12、12と、短辺移動機構13とからなる。このように一対の短辺鋳型板11、11を対向配置して一対の長辺鋳型板12、12で挟み込むことにより、矩形の鋳造空間を有する鋳型1が形成される。
短辺鋳型板11及び長辺鋳型板12は、その内部に水冷構造(図示せず。)を備えた鋳型板で構成される。短辺鋳型板11は、該鋳型板11の表面側に配置される銅板21と、該鋳型板11の背面側に配置され、銅板21の背面側を支持するバックフレーム22とからなる。同様に、長辺鋳型板12も、該鋳型板12の表面側に配置される銅板31と、該鋳型板12の背面側に配置され、銅板31の背面側を支持するバックフレーム32とからなる。
なお、鋳型板の表面とは、鋳型板が鋳型1内の溶融金属(又は凝固シェル)と接触する側の面(つまり、鋳型の内側面)であり、鋳型板の背面とは、当該表面と反対側の面(つまり、鋳型の外側面)である。また、図1の例の短辺鋳型板11及び長辺鋳型板12は、鋳造方向(即ち、鋳型板の上下方向)にテーパが形成されていない1段テーパ鋳型板で構成されているが、かかる例に限定されず、鋳造方向に相異なる2以上のテーパを有する多段テーパ鋳型板で構成されてもよい。
短辺移動機構13は、連続鋳造される鋳片10の幅や形状を制御するために、短辺鋳型板11を水平移動又は傾動させる。この短辺移動機構13は、短辺鋳型板11をバックフレーム22側から支持する複数対のアクチュエータ14と、該アクチュエータ14を制御する制御部15とを備える。アクチュエータ14は、例えば電動シリンダ、油圧シリンダなどで構成され、制御部15からの指示に応じて、短辺鋳型板11を水平移動又は傾動させる。短辺鋳型板11を水平移動させることで、鋳片10の幅を制御できる。また、短辺鋳型板11を傾動させて、鋳型1の短辺のテーパ率を変化させることで、鋳型1内で形成される凝固シェル10bの凝固均一度や、鋳型1による鋳片10の摩擦拘束力を制御できる。
次に図1に戻り、上記鋳型1直下に設けられる鋳片支持及び冷却装置について説明する。鋳片支持及び冷却装置は、上記鋳型1の直下に配設され、鋳型1から鉛直下方に引き出される鋳片10の長辺を、長辺方向の両側から支持及び整形するとともに、鋳片10を冷却する。この鋳片支持及び冷却装置は、図1に示すように、複数対のサポートロール2、2と、複数対のスプレーノズル3、3とを備える。
サポートロール2、2は、鋳型1から下方に引き出される鋳片10の両側から、該鋳片10の長辺を支持して、鋳片10の厚み方向への膨らみ(バルジング)を防止する。サポートロール2のロール幅は、少なくとも鋳片10の幅よりも大きく、そのロール周面で鋳片10の幅方向全体を支持する。かかるサポートロール2は、無駆動式であり、鋳造方向に引き出される鋳片10に追従して回転しながら、該鋳片10を支持及び案内する。これにより、鋳片10をバルジングないように整形することができる。
スプレーノズル3、3は、該鋳片10の長辺側の表面10c(被冷却面)を冷却する機能を有する冷却装置の一例である。スプレーノズル3、3は、鋳型1から引き出された鋳片10の表面10cに対して冷却水を噴霧して、該鋳片10を冷却する。かかるスプレーノズル3とサポートロール2は、鋳造方向に交互に配置されており、鋳造方向に移動する鋳片10を適切に支持及び冷却できるようになっている。
このように本実施形態に係る鋳片支持及び冷却装置は、ロール方式であり、鋳造方向に引き抜かれる鋳片10をサポートロール2、2で支持しながら、スプレーノズル3、3から噴霧される冷却水によって鋳片10を冷却するロール方式である。しかし、鋳型直下で鋳片10を支持及び冷却する方式は、上記ロール方式の例に限定されず、例えば、クーリングプレート方式、クーリンググリッド方式などであってもよい。
次に、上述した連続鋳造装置を用いた連続鋳造方法の概要について説明する。図1に示すように、溶融金属10a(例えば溶鋼)は、不図示のタンディッシュから浸漬ノズルを介して上記鋳型1内に注入され、該鋳型1の短辺鋳型板11及び長辺鋳型板12の銅板21、31に接触して冷却される。そして、鋳型1内において、短辺鋳型板11及び長辺鋳型板12に接する溶融金属10aの外周部が凝固して、図3に示すような凝固シェル10bが形成され、該凝固シェル10bを外殻とする鋳片10が、冷却されながら鋳型1下方に連続的に引き出される。その後、鋳型1の直下の二次冷却帯において、上記鋳片支持及び冷却装置により、鋳片10を支持及び整形しながら二次冷却することにより、鋳片10内部の溶融金属10aの凝固が進行して、最終的な連続鋳造鋳片(スラブ)が形成される。
[2.鋳型板のテーパ量と凝固シェルとの関係]
次に、上記図1及び図3を参照して、鋳型1のテーパ量と、鋳型1内で形成される凝固シェル10bの健全性との関係について説明する。図3は、本実施形態に係る鋳型1の下端における凝固シェル10bの形状を示す横断面図である。
図1に示すように、鋳型1内で凝固シェル10bの凝固が進行しつつ、その凝固シェル10bが鋳造方向(下方)に移動する過程において、凝固シェル10bは凝固の進行につれて凝固収縮する。従って、鋳型1内の溶融金属10aのメニスカス位置(湯面位置)で凝固を開始した凝固シェル10bは、鋳型1の下端に到達したときには収縮しており、幅や厚さがメニスカス位置にあるときと比較して小さくなっていく。スラブ連続鋳造においては鋳片10の厚さに比較して幅が広いので、鋳片10の幅方向の凝固収縮量が大きい。凝固シェル10bの凝固収縮に伴って鋳型1の下方において鋳型1と凝固シェル10bとの間に空隙が生じると、凝固シェル10bから鋳型1への抜熱が阻害され、十分な鋳型冷却ができなくなるとともに、鋳型1による支持を失った凝固シェル10bが外方に膨れるバルジングを起こすこととなる。
そこで、少なくとも短辺鋳型板11にテーパを設けることが行われており、場合によっては、短辺鋳型板11及び長辺鋳型板12の双方にテーパが設けられる。なお、テーパを設けるとは、対向する一対の鋳型板間の間隔について、鋳型上方のメニスカス位置における間隔に対し、鋳型下端の間隔を狭めることを意味する。
鋳型1の短辺テーパ量が小さすぎる場合には、凝固シェル10bと短辺鋳型板11との接触が不均一になり、冷却のアンバランスが発生し、凝固シェル10bの成長の不均一や溶融金属10aの静圧により、鋳片10の表面に割れが発生する。特に、短辺テーパ量が適正量よりも小さい場合、図3に示すように、鋳型1の下端付近における凝固シェル10bの厚み分布が不均一となり、凝固均一度が低下する。例えば、凝固シェル10bの長辺側のコーナー近傍に凝固厚みが特に薄い部位10dが発生しやすくなり、この部位10dに対応する鋳片10の表面10cに縦割れが発生しやすい。一方、短辺テーパ量が大きすぎる場合には、凝固シェル10bと短辺鋳型板11との接触が強くなり、凝固シェル10bに過大な応力(摩擦拘束力)が加わり、凝固シェル10bの破断や、当該シェル破断に伴うブレークアウトが発生する。さらには、凝固シェル10bと鋳型1の摩擦拘束力の増大に伴い、鋳型1の寿命の低下を引き起こす場合もある。
ここで、凝固均一度とは、鋳型1内で溶融金属10aが凝固して形成される凝固シェル10bの凝固状態の均一度を表すパラメータである。例えば、図3に示すように、凝固シェル厚の最大値Aと最小値Bの比(B/A)を、凝固均一度(無次元量)とすることができる。なお、最大値Aは、凝固シェル10bの長辺側における最も厚い部位の凝固シェル厚であり、最小値Bは、上記凝固シェル10bのコーナー近傍の最も薄い部位10dの凝固シェル厚である。凝固均一度が良好な鋳造を行った場合には、凝固シェル10bの部位10dの凝固シェル厚が、その他の厚い部位のシェル厚Aに近づくこととなる。
また、摩擦拘束力とは、連続鋳造時に鋳型1と凝固シェル10bとの間の摩擦により生じる拘束力の大きさを表すパラメータである。摩擦拘束力は、例えば、特開2006−346735号公報、特開2006−346736号公報等に記載された公知の手法により計算可能である。該手法により計算された鋳型の各幅における摩擦拘束力を、各幅での基準値(1段テーパでテーパ率1.0%/mの場合の摩擦拘束力)で正規化した値を、摩擦拘束力(無次元量)として使用できる。
実際に溶鋼の連続鋳造を行い、鋳造中に鋳型1内の溶鋼にSを添加し、凝固後の鋳片10のサルファープリントによって鋳型1の下端位置での凝固シェル10bの厚み分布を評価したところ、上記計算で求めた凝固均一度と、サルファープリントから求めた鋳型1の下端での凝固シェル厚の最大値Aと最小値Bの比とが、よく一致することがわかった。従って、計算で求めた凝固均一度を指標として、好適な連続鋳造方法を見出すことが可能である。
例えば、上記計算で求めた凝固均一度(B/A)の値が0.7以上であれば、実鋳造においても良好な凝固均一度を確保することができる。凝固均一度(B/A)の値が0.7未満となると、凝固シェルが破断してブレークアウトする恐れがある。また、計算で求めた摩擦拘束力が2.0以下であれば、実鋳造においても拘束の少ない良好な鋳造を行うことができる。また、凝固均一度(B/A)及び摩擦拘束力を上記好ましい範囲とすることにより、連続鋳造を行ったときにブレークアウトが起こらないことを、実際の連続鋳造の結果によって確認している。
このように凝固均一度及び摩擦拘束力を好ましい範囲に設定するために、短辺鋳型板11又は長辺鋳型板12のテーパ量を、鋳造速度又は鋼種等の操業条件に応じて、適切なテーパ量に制御することが好ましい。
ところが、上述したように、従来の鋳型のテーパ量の可変技術は、鋳型板全体を上下方向に湾曲させることで、上下方向のテーパ量を変更可能としているが、鋳型板の形状を幅方向及び上下方向に局部的に変形させることはできなかった。このため、鋳型板の幅方向及び上下方向それぞれにおける凝固シェル10bの局部的な凝固偏析に対して、鋳型板のテーパ量を局部的かつ時間可変で制御することができなかった。
そこで、本実施形態に係る鋳型1では、鋳型板11、12表面の銅板21、31をその幅方向及び上下方向に局所的に変形及び冷却可能な構造を採用している。該構造を用いて銅板21、31を局部的に変形及び冷却することにより、凝固シェル10bと鋳型板11、12を隙間無く接触させて、適切に鋳型冷却できる。よって、凝固シェル10bの凝固均一度を向上できるとともに、摩擦拘束力も適正化することができる。以下に、本実施形態に係る鋳型1における銅板21、31の変形及び冷却構造について詳述する。
[3.鋳型の変形構造]
次に、図4〜図5を参照して、本実施形態に係る鋳型1が具備する鋳型板の変形構造について詳細に説明する。図4は、本実施形態に係る長辺鋳型板12を示す一部切り欠き正面図である。図5は、本実施形態に係る長辺鋳型板12の銅板31の変形動作を示す縦断面図である。なお、以下の説明では長辺鋳型板12の変形及び冷却構造の例について説明するが、短辺鋳型板11も、下記の長辺鋳型板12と同様な変形及び冷却構造を具備してもよい。
図4及び図5に示すように、長辺鋳型板12は、該長辺鋳型板12の表面側に配置される銅板31と、背面側に配置されるバックフレーム32とから成る。銅板31は、横長の矩形板状であり、鋳型1の内面を構成し、溶融金属10aと接触する表面材として機能する。銅板31は熱伝導率が高いので、溶融金属10aを均一に冷却する上で適した材質である。銅板31の水平方向の幅は、鋳造される鋳片10の幅よりも大きく、銅板31の上下方向の高さは、鋳型1内で所定厚の凝固シェル10bを形成するために必要な所定長を有する。また、銅板31の板厚は、後述する冷却ユニット40の当接によって板厚方向に変形可能な所定厚を有している。かかる銅板31の表面31aは、鋳型1内の溶融金属10a及び凝固シェル10bに接触し、銅板31の背面31bは、バックフレーム32に密接している。
バックフレーム32は、銅板31の背面31b側から該銅板31を支持する機能を有する。バックフレーム32は、銅板31と同程度の矩形板状を有する鋼製の補強部材であり、銅板31の背面31bに取り付けられる。図示の例では、バックフレーム32の矩形枠状の外周部が銅板31に接合される。かかるバックフレーム32により銅板31を支持することで、銅板31の外周部(ロの字形部分)が拘束されて、容易に変形しないようになる。
さらに、バックフレーム32の中央部は、縦横に複数の冷却ユニット40に分割されている。冷却ユニット40は、鋼等の金属製のブロックで構成され、銅板31の板厚方向に長く延びる直方体形状を有する。かかるバックフレーム32の中央部において、複数の冷却ユニット40が、長辺鋳型板12の幅方向及び上下方向(つまり、水平方向及び垂直方向)に規則正しく配列される。幅方向及び上下方向に隣接する冷却ユニット40は、相互に密接しており、複数の冷却ユニット40全体で銅板31の背面31b中央部を支持している。
また、図5に示すように、個々の冷却ユニット40は、銅板31の板厚方向に独立的に移動できるように設置される。各冷却ユニット40の背面側には、当該各冷却ユニットを銅板31の板厚方向に個別に押し出す押出機構50が設けられる。押出機構50は、電動シリンダ、油圧シリンダなどのアクチュエータで構成され、該押出機構50のピストンロッド51は、冷却ユニット40の背面に連結されている。かかる押出機構50は、ピストンロッド51を伸縮させることで、冷却ユニット40を銅板31の板厚方向に移動させる。
このような押出機構50を冷却ユニット40ごとにそれぞれ設けることにより、複数の冷却ユニット40を銅板31の板厚方向に個別に押し出すことができる。押出機構50により押し出された冷却ユニット40は、銅板31に向けて突き出されて、銅板31の背面31bに当接する。このように冷却ユニット40が銅板31の背面31bに対して当接する面を当接面41と称する。図4に示す例の冷却ユニット40の当接面41は、正方形であるが、かかる例に限定されず、例えば、長方形、菱形等のその他の矩形状であってもよいし、或いは、円形、楕円形、その他の多角形など任意の形状であってもよい。
かかる冷却ユニット40は、銅板31の幅方向にm個、上下方向にn個配置されるが(m及びnは2以上の整数)、m及びnはそれぞれ少なくとも3以上であることが好ましい。このように、銅板31の背面31b側に多数の冷却ユニット40を縦横に配置するとともに、各々の冷却ユニット40に対応する押出機構50を設置することで、銅板31の幅方向及び上下方向の任意の箇所を局部的に変形させることができる。これにより、銅板31を3次元的に多様な凹凸形状に変形させることが可能となりので、長辺鋳型板12の局部的なテーパ制御を実現できる。
銅板31の局部的な変形の具体例について図5を参照して説明する。図5(a)は、上記押出機構50によりいずれの冷却ユニット40も押し出さずに、全ての冷却ユニット40の押出量をゼロとしている状態を示す。図5(a)の状態では、全ての冷却ユニット40の先端の当接面41は、面一の垂直面であり、いずれの冷却ユニット40の当接面41も部分的に突出していない。このため、銅板31は板厚方向に変形せず、平板状となっており、銅板31に局部的なテーパは形成されていない。
一方、図5(b)は、上記押出機構50により一部の冷却ユニット40A、40B、40Cを、銅板31に当接する方向に押し出して、銅板31の下部側を局部的に変形させた状態を示す。図5(b)の状態では、押出機構50Aによる冷却ユニット40Aの押出量LAが最大であり、その上下の押出機構50B、50Bによる冷却ユニット40B、40Bの押出量LBが、LAの3分の2程度であり、更にその上下の押出機構50C、50Cによる冷却ユニット40C、40Cの押出量LCが、LAの3分の1程度である。その他の冷却ユニット40の押出量Lはゼロである。
このように、押出機構50を用いて一部の冷却ユニット40A、40B、40Cを銅板31の板厚方向に異なる押出量LA、LB、LCで押し出し、該冷却ユニット40を銅板31に当接させることにより、当接箇所の銅板31を局部的に変形させることができる。図5(b)の例では、冷却ユニット40A、40B、40Cの当接箇所の銅板31が、鋳型1の内側に向けて部分的に突出し、冷却ユニット40Aの当接箇所を中心としてなだらかに湾曲するように変形している。これにより、長辺鋳型板12の銅板31の下部側に局部的に突出したテーパを形成することができるので、連続鋳造中に凝固シェル10bと長辺鋳型板12の下部側との接触状態を適切に制御できる。なお、図5では、冷却ユニット40を用いて長辺鋳型板12の銅板31の上下方向の一部を局部的に突出変形させる例を示しているが、同様にして、該銅板31の幅方向の一部を局部的に突出変形させることも可能である。
また、図6に示すように、冷却ユニット40の当接面41をより確実に銅板31に接触させるために、冷却ユニット40の姿勢(水平度など)が可変になるよう、押出機構50に回転支点52を設け、かつ、冷却ユニット40の押出方向軸の縦断面形状を台形にしてもよい。より詳細に説明すると、冷却ユニット40と押出機構50とを連結する連結部材53を設け、該連結部材52の両端部をそれぞれ、押出機構50のピストンロッド51の前面と冷却ユニット40の背面にヒンジ結合して、回転支点52、52を設ける。これにより、図6(b)に示すように、押出部材50のピストンロッド51により冷却ユニット40を押し出したときに、連結部材53の両端の回転支点52、52を中心として連結部材53及び冷却ユニット40が回動し、冷却ユニット40の水平姿勢が変化する。このとき、個々の冷却ユニット40の縦断面形状が台形であるので、上下に隣接する冷却ユニット40、40同士が接触することがない。従って、上記回動構造を設けることによって、押出機構50により一部の冷却ユニット40を押し出したときに、該冷却ユニット40の当接面41を銅板31の背面31bに対して隙間無く確実に接触させることが可能となる。
なお、図5及び図6に示したように押出機構50を用いて銅板31を変形させるために、銅板31の厚みを適切に調整する必要がある。銅板31の厚みが厚すぎると、押出機構50の機械的負荷が大きくなり、装置が大型化し不経済となるため、銅板31の厚みは例えば50mm未満であることが望ましい。一方、銅板31の厚みが薄すぎると、銅板31のパウダー内の不純物などによる局部の摩耗減肉等により鋳型1の耐久性が極端に悪化するといった弊害があるので、銅板31の厚みは例えば1mm以上であることが望ましい。
銅板31の厚みの適正範囲を検証するため、断面サイズ250×2000mmのスラブを連続鋳造するという試験条件で、銅板31の耐久性試験を行った。この時の鋳造鋼種は低炭素綱(炭素濃度0.05%)であり、パウダーを使用した。鋳造速度は1.8mpmである。この結果、厚み0.8mmの銅板31を用いた場合には、鋳造時間1時間(鋳造距離約108m)未満で銅板31が摩耗減肉して、水漏れが発生した。一方、厚み1.0mmの銅板31を用いた場合には、2時間(鋳造距離約210m)でも該銅板31から水漏れが発生せず、実用に耐えられる十分な耐久性があることが分かった。よって、銅板31の耐久性の観点からは、銅板31の厚みは1mm以上であることが望ましいといえる。
次に、上記冷却ユニット40の押出量Lの制御について説明する。図5に示すように、鋳型1は、押出機構50による各冷却ユニット40の押出量Lを制御する制御部15を備えている。制御部15は、マイクロコントローラ等のプロセッサで構成され、個々の押出機構50に電気的に接続されている。該制御部15は、各押出機構50に対して、冷却ユニット40の押出量Lを表す制御信号を出力することで、各押出機構50の駆動を制御し、これにより、各冷却ユニット40の押出量Lを個別に制御する。
かかる制御部15は、温度センサ16により検出された銅板31の各部位の温度に応じて、各押出機構50による各冷却ユニット40の押出量を制御する。温度センサ16は、例えば、銅板31に埋設された熱電対又は熱流速計等で構成され、銅板31の温度を検出する検出部として機能する。この温度センサ16は、銅板31の上下方向及び幅方向の各位置に複数設置されている。当該複数の温度センサ16は、銅板31の上下方向及び幅方向の各位置の温度を検出し、検出値を制御部15に出力する。すると、制御部15は、複数の温度センサ16の検出値に基づき、銅板31の各位置の温度に応じて、各冷却ユニット40の押出量Lの適正量を計算する。そして、制御部15は、各押出機構50を用いて、各冷却ユニット40の押出量Lを、当該計算した適正量に制御する。
以上のように、本実施形態に係る制御部15は、銅板31の各部の温度に応じて、各冷却ユニット40の押出量Lを個別に制御する。これにより、鋳造中の凝固シェル10bと銅板31との接触状態に応じて、銅板31の必要部分のテーパを局部的に制御して、凝固シェル10bと銅板31の接触性を向上させ、凝固シェル10bの凝固均一度を高めることができる。
つまり、鋳造中には、凝固シェル10bの部位による凝固収縮の偏差により、凝固シェル10bと銅板31との間の接触状態(例えば、隙間の有無や大きさ、摩擦拘束力など)が時間変化する。当該接触状態が不良になると、凝固シェル10bを適切に冷却できないため凝固均一度が低下したり、摩擦拘束力の増大により凝固シェル10bの割れやブレークアウトが生じたりする。かかる凝固シェル10bと銅板31との間の接触状態は、銅板31の温度と相関がある。例えば、銅板31の温度が部分的に高ければ、その部分の銅板31が凝固シェル10bと強く接触しており、摩擦拘束力が高すぎる状態にある。一方、銅板31の温度が部分的に低ければ、その部分の銅板31と凝固シェル10bとの間に隙間が生じており、当該部分での凝固に資する冷却が適切になされていない状態にある。
そこで、制御部15は、銅板31の温度が高い部分については、冷却ユニット40の押出量Lを減少させて、当該部分の銅板31のテーパ量を減少させる。これにより、当該部分の銅板31と凝固シェル10bの接触圧を低減できるので、その部分での摩擦拘束力を抑制できる。一方、銅板31の温度が低い部分については、冷却ユニット40の押出量Lを増加させる。これにより、当該部分の銅板31と凝固シェル10bを接触させて隙間を無くす、或いは、両者の接触圧を増加させることができるので、当該部分の銅板31により凝固シェル10bを十分に冷却して、凝固シェル10bの凝固を促進できる。
[4.鋳型の冷却構造]
次に、図7〜図8を参照して、本実施形態に係る長辺鋳型板12の冷却構造について説明する。図7は、本実施形態に係る冷却ユニット40を示す部分拡大縦断面図である。図8は、本実施形態に係る長辺鋳型板12の冷却ユニット40の当接面41を示す正面図である。
図7に示すように、上記冷却ユニット40は、その内部に形成された冷媒供給路42及び冷媒排出路43に冷媒(例えば冷却水)を循環させる内部冷却機構を具備する。さらに、銅板31に対して当接する冷却ユニット40の当接面41には、複数の凸部60と、該冷媒の噴出孔61及び排出孔62(図8参照。)が設けられている。かかる冷却ユニット40は、その当接面41を銅板31の背面31bに接触させて、銅板31から冷却ユニット40への抜熱により、銅板31を間接的に冷却するだけでなく、冷却ユニット40の当接面41と銅板31との当接部を流通する冷媒により、銅板31を直接的に冷却する。
かかる冷却ユニット40の冷却構造について詳述する。図7に示すように、各々の冷却ユニット40には、外部から当接面41に冷媒を供給するための冷媒供給路42と、当接面41から外部に冷媒を排出するための冷媒排出路43が形成されている。これらの冷媒供給路42及び冷媒排出路43は、冷却ユニット40の内部に冷媒を流通させるための流路であり、その縦断面は例えば円形である。
冷媒供給路42は、冷却ユニット40の中心部を貫通するように水平方向に延設されており、該冷媒供給路42は、当接面41に形成された噴出孔61に連通している。一方、冷媒排出路43は、冷却ユニット40の外側面に沿って水平方向に溝状に延設されており、該冷媒排出路43は、当接面41に形成された排出孔62に連通している。図7及び図8に示すように、上下及び左右に隣接する4つの冷却ユニット40のコーナー部分に1本の冷媒排出路43が貫通形成されており、当該4つの冷却ユニット40が、1本の冷媒排出路43を共有している。
このように、1つの冷却ユニット40当たりに、冷媒供給路42及び冷媒排出路43がそれぞれ1本ずつ設けられ、複数の冷却ユニット40全体では、冷媒供給路42及び冷媒排出路43が交互に等間隔で配置されている。これにより、各々の冷却ユニット40の当接面41に対して、冷媒を均等に供給できる。なお、1つの冷却ユニット40当たりに、冷媒供給路42及び冷媒排出路43をそれぞれ複数本設けてもよい。
上記の冷媒供給路42及び冷媒排出路43は、銅板31を冷却する銅板冷却機構として機能し、冷却ユニット40の当接面41と銅板31の背面31bの間を流通する冷媒により、銅板31を直接冷却する。さらに、当該冷媒供給路42及び冷媒排出路43は、冷却ユニット40自体を冷却する内部冷却機構としても機能し、該冷媒供給路42及び冷媒排出路43内を冷媒が循環することで、冷却ユニット40自体が冷却される。
ここで、図8を参照して、冷却ユニット40の当接面41の構成について詳述する。図8に示すように、各々の冷却ユニット40の当接面41には、銅板31側に向かって突出した複数の凸部60と、当接面41上に冷媒を噴出する噴出孔61と、当接面41上から冷媒を排出する排出孔62とが形成されている。噴出孔61は、上記冷却ユニット40内の冷媒供給路42と連通しており、冷媒供給路42を通じて供給された冷媒を、複数の凸部60間の空隙63に噴出する。一方、排出孔62は、上記冷却ユニット40内の冷媒排出路43と連通しており、複数の凸部60間の空隙63に存在する冷媒を冷媒排出路43に排出する。
これら凸部60、噴出孔61及び排出孔62はそれぞれ、複数の冷却ユニット40の当接面41上で縦横に所定間隔で均等に配置されている。凸部60の分布密度は、噴出孔61及び排出孔62の分布密度よりも高い(例えば、図示の例では凸部60の分布密度が約36倍)。これにより、当接面41上で冷媒が噴出孔61から排出孔62に至るまでの間に、様々な方向にランダムに流動するようになる。
また、噴出孔61の分布密度と排出孔62の分布密度は略同一である。ある1つの噴出孔61に隣接する4つの排出孔62を頂点とする正方形の中心に、該噴出孔61が配置されており、同様に、ある1つの排出孔62に隣接する4つの噴出孔61を頂点とする正方形の中心に、該排出孔62が配置されている。このように複数の噴出孔61及び排出孔62を等間隔で交互に千鳥配置することで、当接面41上で冷媒を均等に流通させることができる。
ここで、当接面41に形成される凸部60について詳述する。冷却ユニット40の当接面41に、一つ一つが独立した複数の凸部60を設けることにより、銅板31の背面31bと複数の凸部60とで囲まれた空隙63に冷媒を流通させて、銅板31の冷却効率を高めることができる。
図8に示すように凸部60は、冷却ユニット40の当接面41上に所定の間隔で設けた円柱状の突起で構成されるが、水平断面の形状が円状、楕円状、多角形状又は星型形状の何れかであることが好ましく、垂直断面の形状は長方形又は台形であることが好ましい。また、凸部60は半球状であってもよい。また、複数の凸部60間の空隙63に冷媒をランダムに流通させるためには、凸部60の水平断面の形状が、上下左右に対称な形状、例えば円、正方形、楕円等であることが好ましい。また、凸部60は、当接面41の全面に設けられることが好ましいが、当接面41の一部にのみ設けることも可能である。
また、凸部60の高さは、0.025〜10mmであることが好ましい。これは、凸部60の高さが0.025mmよりも低いと、銅板31との隙間が小さすぎるため、銅板31と冷却ユニット40との間を冷媒が循環することが困難となり、一方、10mmよりも大きいと隙間が大きくなりすぎて、冷媒の供給量を多くする必要があり、不経済である。
また、当接面41上での凸部60の面積率は、20〜90%であることが好ましい。これは、凸部60の面積率が20%よりも小さいと、当接面41の凸部60の形状が銅板31に転写し易く、90%よりも大きい場合は、凸部60間の空隙63が狭く、圧力損失が大きくなり、冷媒が充填又は流動できないため、冷却効率が若干低下するためである。
凸部60の水平断面の形状が円状である場合には、凸部60の直径(水平断面の形状が多角形状又は星型形状である場合には、凸部の外接円の直径)が、0.05〜50mmであることが好ましい。これは、凸部の直径又は外接円の直径が0.05mmよりも小さい場合は、凸部60の摩耗が大きく、長期間に渡り効果を得られず、50mmよりも大きい場合、均一な冷却ができないためである。
なお、凸部60は、所定形状に成形された別部材を平坦な当接面41に装着して設けてもよいが、凸部60の成形条件によっては、凸部60の痕が銅板31に転写されることがある。これを防止するには、当接面41における凸部60を設ける部位の周囲を、凸部60の高さと同等の深さ分だけ除去することで、凸部60を設けてもよい。
冷却ユニット40の当接面41の凸部60は、例えば、機械的切削加工、電解加工、化学エッチング、放電加工、又はめっき法により形成することができる。
このうち、例えば化学エッチングは、以下のようにして行うことができる。まず、可視光硬化型感光性樹脂を冷却ユニット40の当接面41に塗布、乾燥した後、可視光を遮断するマスクで被覆して可視光を照射し、照射部を硬化させる。次に、硬化部以外の樹脂を有機溶剤により除去する。例えば、塩化第2鉄水溶液等のエッチング液に、冷却ユニット40の当接面41を1〜30分程度浸漬し、エッチングすればよい。凸部60の直径又はピッチは、可視光を遮断するマスクの形状によって適宜選択することが可能であり、凸部60の高さはエッチング時間によって適宜調整することができる。
放電加工は、目的とする凸部形状を反転させた凹部を表面パターンとして有する銅電極を、冷却ユニット40の当接面41に対向して設置し、加工電流条件を冷却ユニット40の材質、及び所望の凸部形状に応じて、適宜調整すればよい。
めっき法の場合、半球状凸部の直径を10μm以上とするため、めっきの厚みを10μm以上とすることが好ましく、剥離を防止するため、めっきの厚みの上限は800μm以下とすることが好ましい。めっき層は、アルカリ脱脂し、めっき液中で金型を陽極として電解処理する電解エッチングを行った後、所定の浴温、電流密度で形成することができる。なお、半球状凸形状を有するめっき層を形成するには、例えば、電流密度を段階的に増加させた後、一定電流密度でめっきすればよい。
次に、当接面41に形成される噴出孔61、排出孔62について詳述する。噴出孔61、排出孔62の形状が円形である場合は、その直径が0.1mm未満では、目詰まりが起きやすいため、噴出孔61、排出孔62の直径の下限を0.1mm以上とすることが好ましい。一方、噴出孔61、排出孔62の直径が100mmよりも大きいと、銅板31に形状が転写するため、直径の上限を100mm以下とすることが好ましい。なお、噴出孔61、排出孔62の形状が矩形、楕円形である場合、多孔質金属の孔のような不定形である場合には、流路面積が直径0.1〜100mmの円と同等であればよい。
また、噴出孔61、排出孔62のピッチ(即ち、隣接する噴出孔61同士の若しくは排出孔62同士の距離)が、0.1mmよりも小さい場合、孔の数が増加して冷却ユニット40の製造コストが高くなる。一方、噴出孔61、排出孔62のピッチが1000mmよりも大きい場合は、冷却能力が不足することがある。従って、噴出孔61、排出孔62のピッチは、0.1〜1000mmであることが好ましい。
なお、上記の噴出孔61、排出孔62、冷媒供給路42及び冷媒排出路43等は、冷却ユニット40に対するドリルによる機械的な穿孔、又は、放電加工による穿孔によって設けることができる。また、冷媒の噴出孔61及び排出孔62を冷却ユニット40に穿孔する代わりに、内部から外表面に貫通する気孔を有する多孔質金属に、冷媒の供給配管及び排出配管を接続して、冷却ユニット40を構成してもよい。この場合、肉厚方向に貫通する直径、ピッチの孔を複数有する多孔質金属を使用することが好ましい。このような多孔質金属は、粉末を成形後に焼結するか、又は金属を溶融させた後、温度制御により凝固組織の方向を一定にする一方向凝固によって製造することができる。
また、冷媒は、難燃性、腐食性の観点から、水、多価アルコール類、多価アルコール類水溶液、ポリグリコール、引火点120℃以上の鉱物油、合成エステル、シリコンオイル、フッ素オイル、滴点120℃以上のグリース、鉱物油、合成エステルに界面活性剤を配合した水エマルションの何れでもよく、これらの混合物を用いてもよい。また、冷却媒体は、流体であれば、液体でも気体であってもよいが、本実施形態では、例えば液体の冷却水を用いる。
次に、図9を参照して、冷却ユニット40の当接面41上における冷媒45の流路について説明する。上述した複数の凸部60間の空隙63は、当接面41上における冷媒45の流路として機能する。つまり、平坦な当接面41上に複数の凸部60を形成することで、当該複数の凸部60の間隙である凹部(即ち、空隙63)が形成され、この複数の凸部60間の空隙63は、複数の当接面41全体に渡って連通している。
そして、図9に示すように、冷却ユニット40の当接面41を銅板31の背面31b(以下、銅板背面31bという。)に接触させたときには、複数の凸部60の先端部が銅板背面31bに当接するため、銅板背面31bと冷却ユニット40の当接面41との間には、凸部60の高さ分の空隙層が生じる。このとき、複数の凸部60間の空隙63は、銅板背面31bと複数の凸部60と当接面41とで囲まれた閉空間となり、銅板31と冷却ユニット40との接触部における冷媒45の流路として機能する。
かかる当接面41の構造により、図9に示すように、冷媒供給路42から供給される冷媒45は、当接面41の噴出孔61から噴出して、当接面41と銅板背面31bとの間に供給された後に、複数の凸部60間の空隙63を縫うように流動して、排出孔62から冷媒排出路43に排出される。このとき、空隙63を流れる冷媒45は、高温の銅板背面31bと接触して、その一部又は全部が気化するので、この気化潜熱により銅板31を冷却する。このように、当接面41に形成された複数の凸部60間の空隙63内で、冷媒45を流通及び気化させることで、冷媒45の気化潜熱により、銅板31を直接冷却することができる。
また、閉空間である空隙63内で冷媒45が気化すると、空隙63内の圧力が増大して、冷媒45の蒸気膜が形成され、冷媒45の流通を阻害する。そこで、空隙63内に存在する余剰の冷媒45(液体)と、気化した冷媒45の蒸気を、当接面41上の排出孔62から冷媒排出路43に排出する。不図示の真空ポンプ等の吸引手段を用いて冷媒排出路43の内圧を負圧にすれば、該冷媒排出路43に連通する排出孔62から、上記空隙63内の余剰の冷媒45及び該冷媒45の蒸気を吸引し、該冷媒排出路43を通じて排出することができる。このように排出孔62から冷媒45を排出することで、高温の銅板31との接触により空隙63内に発生した冷媒45の蒸気による圧力上昇を防ぎ、空隙63内の圧力を減圧できるので、空隙63内における冷媒45の流通を円滑化及び促進できる。よって、当接面41上で流通する冷媒45を用いた冷却効率が大幅に向上する。
また、間接冷却としては、当接面41の複数の凸部60が銅板背面31bに接触するので、銅板31の熱を、凸部60を介して冷却ユニット40に抜熱することができる。上述したように冷媒供給路42及び冷媒排出路43は、冷却ユニット40自体を冷却する内部冷却機構として機能し、冷却ユニット40の内部の冷媒供給路42及び冷媒排出路43に冷媒45を循環させることで、冷却ユニット40自体を冷却できる。このように内部冷却機構により冷却された冷却ユニット40の当接面41を銅板背面31bに接触させることで、銅板31の熱を冷却ユニット40に抜熱して、銅板31を好適に間接冷却することができる。
以上、銅板31を冷却するための冷却ユニット40の冷却構造について説明した。次に、図5を参照して、制御部15による冷媒45の供給量の制御について説明する。
図5に示した制御部15は、冷媒供給系統による複数の冷却ユニット40に対する冷媒45の供給量Qを制御する機能も有する。冷媒供給系統は、例えば、上記冷媒供給路42と、冷媒45を送出する送出ポンプ(図示せず。)と、該送出ポンプから冷媒供給路42に冷媒を供給する流路に設けられた流量制御弁(図示せず。)などからなる。制御部15は、各冷却ユニット40の冷媒供給系統の流量制御弁に電気的に接続されている。該制御部15は、各々の流量制御弁に対して、冷媒45の供給量Q(例えば単位時間当たりの流量)を表す制御信号を出力することで、各流量制御弁の開閉を制御し、これにより、各冷却ユニット40に対する冷媒45の供給量Qを個別に制御する。
かかる制御部15は、上述した温度センサ16により検出された銅板31の各部位の温度に応じて、各冷却ユニット40に対する冷媒45の供給量Qを制御する。詳細には、複数の温度センサ16は、銅板31の上下方向及び幅方向の各位置の温度を検出し、検出値を制御部15に出力する。すると、制御部15は、複数の温度センサ16の検出値に基づき、銅板31の各位置の温度に応じて、各冷却ユニット40に対する冷媒45の供給量Qの適正量を計算する。そして、制御部15は、各流量制御弁を用いて、各冷却ユニット40に対する冷媒45の供給量Qを、当該計算した適正量に制御する。
以上のように、銅板31の各部の温度に応じて、各冷却ユニット40に対する冷媒45の供給量Qを個別に制御することにより、鋳造中に銅板31の冷却必要箇所を重点的に冷却し、その他の部分の冷却を抑制することができる。従って、鋳造中の凝固シェル10bの局部的な温度状態に応じて、銅板31の幅方向及び上下方向の温度分布を適正化できる。よって、当該銅板31と接触する凝固シェル10bを適切に冷却できるので凝固シェル10bの凝固均一度を高めることができる。
[5.連続鋳造方法]
次に、本実施形態に係る連続鋳造用鋳型1を用いた連続鋳造方法について説明する。
図1に示したように、上記鋳型1を用いた連続鋳造においては、鋳型1内に溶融金属10aを注入しながら、該鋳型1を用いて鋳片10が連続鋳造される。この連続鋳造中には、鋳型1内において、短辺鋳型板11及び長辺鋳型板12に接する溶融金属10aの外周部が凝固して、凝固シェル10bが形成され、該凝固シェル10bを外殻とする鋳片10が、冷却されながら鋳型1下方に連続的に引き出される。この鋳造中には、必要に応じて、上記各押出機構50によって各冷却ユニット40を銅板31の板厚方向に押し出すことにより、銅板31の一部(幅方向又は上下方向の少なくともいずれかの部分)を局部的に変形させながら、該局部的に変形した銅板31を具備する鋳型1によって、鋳片10を連続鋳造する。
具体的には、鋳造中には、銅板31に設けられた複数の温度センサ16は、銅板31の各部位の温度を連続的に検出している。そして、制御部15は、各温度センサ16により検出された銅板31の各部位の温度に応じて、各押出機構50による各冷却ユニット40の押出量を算出して、当該各冷却ユニット40の押出量を、銅板31の温度分布に適した押出量に制御する。これにより、鋳造中に、該銅板31の温度分布に応じて、銅板31のテーパ形状を局部的かつ時間可変で制御して、適切な形状に調整することができる。よって、鋳型1と凝固シェル10bとの摩擦拘束力を適切に制御しながら、凝固シェル10bの凝固均一度を高めることができる。
また、鋳造中には、鋳型1の内部冷却機構により銅板31を冷却しながら、該鋳型1を用いて鋳片10が連続鋳造される。このとき、制御部15は、上記各温度センサ16により検出された銅板31の各部位の温度に応じて、各冷却ユニット40に対する冷媒45の供給量を算出して、該各冷却ユニット40に対する冷媒45の供給量を、銅板31の温度分布に適した供給量に制御する。この結果、各冷却ユニット40は、各冷媒供給路42を通じた適切な供給量の冷媒45を用いて、対応する部位の銅板31を、異なる冷却量でそれぞれ冷却する。これにより、鋳造中に、該銅板31の温度分布に応じて、冷却ユニット40による銅板31の冷却量を局部的かつ時間可変で制御して、銅板31の必要箇所を適切に冷却することができる。よって、該適切に冷却された銅板31を用いて溶融金属10a及び凝固シェル10bを冷却できるので、凝固均一度の高い凝固シェル10bを鋳造できる。
[6.まとめ]
以上、本発明の第1の実施形態に係る連続鋳造用鋳型1と、それを用いた連続鋳造方法について説明した。本実施形態に係る鋳型1は、複数の冷却ユニット40を用いた特殊な銅板31の変形及び冷却構造を具備している。
本実施形態に係る銅板31の変形構造によれば、上記複数の冷却ユニット40を個別に押し出して、銅板31を局部的に変形させることにより、鋳型長辺のテーパを局部的かつ三次元的に自由自在に変形できる。従って、連続鋳造中に、銅板31と凝固シェル10bの接触状態に応じて、銅板31を適切なテーパ形状に変形させることができる。よって、凝固シェル10bと長辺鋳型板12を、隙間無く、かつ、適切な摩擦拘束力で密接させて鋳型冷却することができるので、凝固シェル10bの凝固均一度を向上できるとともに、摩擦拘束力も適正化することができる。
また、本実施形態に係る銅板31の冷却構造によれば、各冷却ユニット40の当接箇所の銅板31を局部的に冷却することができる。さらに、上記各冷却ユニット40に対する冷媒の供給量Qを個別に制御することで、銅板31を局部的な冷却を適切に制御することができる。従って、連続鋳造中に、凝固シェル10bの状態に応じて、長辺鋳型板12の銅板31の冷却必要箇所を、局部的かつ適切な冷却量で鋳型冷却することができる。よって、凝固シェル10bの凝固均一度を向上することができる。
また、鋳型1内の凝固シェル10bは、銅板31の幅方向及び上下方向それぞれにおいて局部的に偏って凝固し、しかも当該凝固偏析は鋳造中に時間変化する。これに対し、本実施形態に係る銅板31の変形構造及び冷却構造によれば、当該凝固シェル10bの凝固偏析に対処するべく、局部的かつ時間可変のテーパ制御及び冷却制御を、十分な精度で実現できる。
また、本実施形態に係る銅板31の変形構造及び冷却構造により、従来には無いユニークな可変テーパ機構及び冷却機構を提供できる。つまり、本実施形態に係る個々の冷却ユニット40のサイズは、任意に調整可能である。従って、冷却ユニット40のサイズを調整することによって、銅板31の局部的なテーパを制御するときの制御エリア単位を、自由に選択することができる。また、冷却ユニット40のサイズを調整することによって、銅板31の局部的な冷却を制御するときの制御エリア単位を、自由に選択することもできる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記実施形態では、鋳型1の長辺鋳型板12に複数の冷却ユニット40を設けて、銅板31を変形及び冷却する例について説明したが、短辺鋳型板11に複数の冷却ユニット40を設けて、銅板21を変形及び冷却することも勿論可能である。冷却ユニット40は、長辺鋳型板12又は短辺鋳型板11のいずれか一方にのみ設けてもよいし、双方に設けてもよい。