JP5441548B2 - 水系接着剤組成物 - Google Patents

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Description

本発明は水系接着剤組成物に関する。
住宅の外壁材は、かつては防火上の問題からモルタルが主流となったことがあったが、住宅様式の変化や建設工期の短縮化の流れから、現在では耐火性、コスト性および作業性に優れたサイディングボードが標準となっている。
サイディングボードは鋼板と貼り合わせられて住宅外壁に使用されるが、その貼り合わせには、揮発性有機化合物(VOC)を含有する溶剤系クロロプレン接着剤が使用されてきた。
しかしながら、このようなVOCの使用は、人体に対する毒性、揮発の危険性、環境への汚染性等の問題が存在することが指摘されていることから、脱VOC化の方向にあり、VOCを含有する溶剤系接着剤からVOCを含有しない非溶剤系の水系接着剤へと代替が進んでいる。
水系のクロロプレン系接着剤が溶剤系のクロロプレン系接着剤に代わり使用されるようになってきているが、水系のクロロプレン系接着剤は、貼り合わせ直後の接着力(初期接着力)が十分ではない。そのため、製造現場において被着体を貼り合わせた後に被着体のズレを生じる場合がある。しかも、一旦貼り合わせたものを剥がして貼り直すと、今度は、硬化後の接着力(常態接着力)が十分でなくなってしまう。
特許文献1には、クロロプレンラテックスおよびシランカップリング剤を含有する水系接着剤であって、前記クロロプレンラテックスが分子内にカルボキシル基を有し、前記クロロプレンラテックスのpHが2〜9であり、前記シランカップリング剤が、エポキシシラン、メルカプトシラン、エポキシシラン水溶液、および、pHが6以下のアミノシラン水溶液から選ばれる少なくとも1種であり、かつ、前記シランカップリング剤の添加量が、クロロプレンラテックス100重量部に対して、有効成分として0.1〜1重量部であることを特徴とする水系接着剤が記載されている。この水系接着剤は、常態接着力および耐湿熱接着力に優れると記載されているが、初期接着力が満足のいくものではない。また、シランカップリング剤は水中で加水分解しやすいため、接着剤を使用する直前に混合するか、接着剤を製造後短期間で使用しなければならず、使い勝手の観点から好ましくない。
特許文献2には、スチレン−ブタジエン共重合樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョンを含有することを特徴とする水系接着剤組成物が記載されている。この水系接着剤組成物は、有機溶剤を使用していないが作業幅が広く、初期接着力、耐熱クリープ性能に優れると記載されている。しかし、常態接着力については、満足のいくものではない。
特許文献3には、酸基不含単量体(a)87〜99.4質量%と、酸基含有単量体(b)0.5〜10質量%と、水酸基含有(メタ)アクリルアミド系単量体(c)0.1〜3質量%と、単量体(a)と単量体(b)と単量体(c)との合計量100質量部当たり、重合性二重結合を有するシランカップリング剤(d)0.05〜10質量部とからなる共重合体を含有することを特徴とする水性エマルション接着剤が記載されている。この水性エマルション接着剤は、初期接着力、常態接着力、耐水性、耐熱クリープ性能が優れると記載されているが、貯蔵安定性が満足のいくものではない。また、共重合体に他の用途がないため、コスト、供給安定性等に問題がある。
特開2005−133004号公報 特開2008−266399号公報 特開2009−57508号公報
本発明は、初期接着力、常態接着力および貯蔵安定性に優れ、かつ、接着信頼性を有する水系接着剤組成物を提供することを課題とする。
本発明者らは、課題を解決すべく鋭意研究開発を行った結果、驚くべきことに、濃度10質量%以下のシランカップリング剤水溶液を、シランカップリング剤を予め加水分解してから、スチレン−ブタジエン部分とアクリル部分との質量比がスチレン−ブタジエン部分/アクリル部分=90/10〜70/30であるスチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスを含む水系接着剤組成物に、共重合体ラテックスの樹脂固形分100質量部に対して0.5〜15質量部配合すると、初期接着力、常態接着力および貯蔵安定性に優れ、かつ、引張せん断試験における破壊モードが凝集破壊であり、接着信頼性を有する水系接着剤組成物を得られることを知得した。
すなわち、本発明は次のものである。
[1] スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスと、シランカップリング剤加水分解物水溶液とを含有する水系接着剤組成物であって、
該スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスが、スチレン−ブタジエン部分とアクリル部分との質量比がスチレン−ブタジエン部分/アクリル部分=90/10〜70/30であるスチレン−ブタジエン−アクリル共重合体のラテックスであり、
該スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックス中のスチレン−ブタジエン−アクリル共重合体のゲル分率が68〜90質量%であり、
該シランカップリング剤加水分解物水溶液が、該水溶液中のシランカップリング剤が加水分解を受けないとした場合における該シランカップリング剤の該水溶液中濃度が10質量%以下のシランカップリング剤加水分解物水溶液であり、かつ、
該スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスの樹脂固形分100質量部に対して該シランカップリング剤加水分解物水溶液0.5〜15質量部を含有する水系接着剤組成物。
[2] 前記スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスの樹脂固形分が、前記水系接着剤組成物に含有される全樹脂固形分中60質量%以上である、前記[1]に記載の水系接着剤組成物
[3] 前記シランカップリング剤加水分解物水溶液が、シランカップリング剤がその水溶液中で加水分解を受けて製造されるものである、前記[1]または2]に記載の水系接着剤組成物。
] 粘着付与剤をさらに含有する、前記[1]〜[]のいずれかに記載の水系接着剤組成物。
] 前記粘着付与剤を、前記スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスの樹脂固形分100質量部に対して、固形分換算で10〜30質量部含有する前記[]に記載の水系接着剤組成物。
] 前記粘着付与剤が粘着付与樹脂の水系エマルジョンである、前記[]または[]に記載の水系接着剤組成物。
] 前記粘着付与剤が、ロジン系、テルペン系および石油樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上を含む、前記[]〜[]のいずれかに記載の水系接着剤組成物。
本発明によれば、初期接着力、常態接着力および貯蔵安定性に優れ、かつ、接着信頼性を有する水系接着剤組成物を提供することができる。
本発明をより詳細に説明する。
本発明の接着剤組成物は、スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスと、シランカップリング剤加水分解物水溶液とを含有する水系接着剤組成物であって、該スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスが、スチレン−ブタジエン部分とアクリル部分との質量比がスチレン−ブタジエン部分/アクリル部分=90/10〜70/30であるスチレン−ブタジエン−アクリル共重合体のラテックスであり、該シランカップリング剤加水分解物水溶液が、該水溶液中のシランカップリング剤が加水分解を受けないとした場合における該シランカップリング剤の該水溶液中濃度が10質量%以下のシランカップリング剤加水分解物水溶液であり、かつ、該スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスの樹脂固形分100質量部に対して該シランカップリング剤加水分解物水溶液0.5〜15質量部を含有する。
以下、各構成成分について説明する。
〈1.スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックス〉
《1.1 共重合体のモノマー組成》
本発明の水系接着剤組成物に使用するスチレン−ブタジエン−アクリル共重合体(以下、「SBR−アクリル共重合体」という場合がある。)ラテックス中のSBR−アクリル共重合体は、共重合体中のスチレン−ブタジエン部分(以下、「SBR部分」という場合がある。)と、アクリル部分との質量比について、SBR部分/アクリル部分=70/30〜90/10の範囲のものである。この範囲内であると、初期接着力および常態接着力を十分なものとすることができる。
また、SBR部分のスチレン比率が、50質量%未満が好ましく、5〜45質量%の範囲がより好ましく、5〜30質量%の範囲がさらに好ましい。この範囲であると、特に、常態接着力に優れる。
SBR部分とアクリル部分とのバランスを上記のようにすることによって、優れた初期接着力および常態接着力が発揮される詳細なメカニズムは明らかではないが、アクリル部分が有する粘着力が初期接着力を担保し、SBR部分が有する凝集力が常態接着力を担保するのではないかと思われる。ただし、接着力が発揮される現実のメカニズムがどのようなものであっても、本発明の構成要件をすべて具備する限り、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
《1.2 ゲル分率》
本発明の水系接着剤組成物に使用するSBR−アクリル共重合体ラテックス中のSBR−アクリル共重合体については、そのゲル分率は68〜90質量%の範囲内である。この範囲内であると、初期接着力がさらに優れるからである
ゲル分率算出方法としては、具体的には、例えば、次に例示する方法によって、「溶解させる前の試料の重さ」と「不溶解分の重さ」とを求め、下記計算式1によってゲル分率(質量%)を算出する方法を挙げることができる。
(計算式1)
ゲル分率(質量%)=(不溶解分の重さ/溶解させる前の試料の重さ)×100
(ゲル分率の算出方法)
SBR−アクリル共重合体ラテックスから水分、界面活性剤等の添加物、共重合体以外の樹脂成分を除去して乾燥させ、試料とする。
試料を包むための325メッシュの金網を準備し、その重さを1mg単位まで精密に秤量する。この秤量値を金網の重さとする。
試料約0.5gを量り取り、前記の金網に包み、試料を金網ごと1mg単位まで精密に秤量する。この秤量値から金網の重さを引き、「溶解前の試料の重さ」とする。
金網に包んだ試料を、トルエン約30mL中に浸漬し、振とう機で3時間振とうする。その後、金網を取り出し、130℃で1時間乾燥させ、23℃に戻してから、1mg単位まで精密に秤量する。この秤量値から金網の重さを引き、「不溶解分の重さ」とする。
最後に、上記計算式1によってゲル分率(質量%)を算出する。
《1.3 ラテックス含有率》
本発明の水系接着剤組成物に使用するSBR−アクリル共重合体ラテックスの水系接着剤組成物中の含有量は、特に限定されないが、SBR−アクリル共重合体ラテックスの樹脂固形分、すなわち、SBR−アクリル共重合体として、水系接着剤組成物中に含有される樹脂固形分全体の60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がいっそう好ましい。樹脂固形分全体に対するSBR−アクリル共重合体含有率が高いほど、初期接着力および常態接着力の向上に寄与し、本発明の効果が発現するからである。
また、SBR−アクリルラテックス中の樹脂固形分は、特に限定されないが、30〜70質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましい。この範囲内であると、樹脂成分が増えて乾燥性がよくなり、初期接着力の向上に寄与する。
《1.4 共重合体の製造方法》
SBR−アクリル共重合体は、スチレン−ブタジエンランダム共重合体部分とアクリル重合体部分とからなるランダムブロック共重合体、またはスチレンとブタジエンとアクリルとからなるランダム共重合体が例示できる。
スチレンは、スチレンの他、エチレニル基の水素の1〜3個が置換基(−Hを除く)によって置換され、および/またはフェニル基の水素の1〜5個が置換基(−Hを除く)によって置換された置換スチレン誘導体、例えば、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン等であってもよい。
ブタジエンは、1,3−ブタジエンの他、エチレニル基の水素の1〜3個が置換基(−Hを除く)によって置換された置換ブタジエン誘導体、例えば、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン等であってもよい。
アクリルは、(メタ)アクリル酸の他、それらとアルコールとのエステル、すなわち(メタ)アクリレートエステルであってもよい。なお、アクリレートおよびメタクリレートをまとめて(メタ)アクリレートと表記する。
(メタ)アクリレートエステルとしては、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、(メタ)ネオペンチルアクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリレートヘプチル、(メタ)アクリレートオクチル、(メタ)アクリレートイソオクチル、(メタ)アクリレート2−エチルヘキシル、(メタ)アクリレートノニル、(メタ)アクリレートイソノニル、(メタ)アクリレートデシル、(メタ)アクリレートイソデシル、(メタ)アクリレートウンデシル、(メタ)アクリレートラウリル、(メタ)アクリレートトリデシル、(メタ)アクリレートミリスチル、(メタ)アクリレートペンタデシル、(メタ)アクリレートヘキサデシル、(メタ)アクリレートヘプタデシル、(メタ)アクリレートステアリル等の(メタ)アクリレートアルキルエステル;(メタ)アクリレートエチレニルおよび(メタ)アクリレート2−プロペニル等の(メタ)アクリレートアルケニルエステル;(メタ)アクリレートエチニルおよび(メタ)アクリレートプロパルギル等の(メタ)アクリレートアルキニルエステル;(メタ)アクリレートシクロペンチル、(メタ)アクリレートシクロヘキシル、(メタ)アクリレートシクロヘプチル、(メタ)アクリレートシクロオクチル、(メタ)アクリレートボルニルおよび(メタ)アクリレートイソボルニル等の(メタ)アクリレートシクロアルキルエステル;(メタ)アクリレートフェニルおよび(メタ)アクリレートナフチル等の(メタ)アクリレートアリールエステル;(メタ)アクリレートベンジル等の(メタ)アクリレートアラルキルエステル;(メタ)アクリレート2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリレート2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリレート4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリレートメトキシエチレングリコール、(メタ)アクリレート2−メトキシエチル、(メタ)アクリレート2−エトキシエチル、(メタ)アクリレートフェノキシエチル、(メタ)アクリレートエチルカルビトール、および(メタ)アクリレートテトラヒドロフルフリル等が例示される。
スチレン、ブタジエンおよびアクリルの各モノマー、ならびにスチレン−ブタジエンランダム共重合体およびアクリル重合体の各セクションは、当業者が知る公知の方法によって製造することができる。
例えば、SBR−アクリル共重合体ラテックスは、上記した各モノマーまたは各重合体セクションを原料として、乳化ラジカル重合法によってランダム共重合体またはランダムブロック共重合体を得ることができる。より詳細には、各モノマーまたは各重合体セクションを、水と乳化剤および/または分散剤と混合し、撹拌して乳化系(分散系)とし、そこに重合開始剤(ラジカル発生剤)を加えて重合を行い、共重合体の粒子が水に分散したラテックスを得ることができる。
重合温度、重合触媒、連鎖移動剤、重合停止剤、最終重合率、脱モノマー、濃縮条件等を適切に選定、制御することで、固形分濃度、トルエン可溶部の分子量、ゲル含有量等を調整することができる。
本発明の水系接着剤組成物に使用するSBR−アクリル共重合体ラテックスは、前記したように合成することができるが、市販品を使用することも好ましい。
市販のSBR−アクリル共重合体ラテックスとしては、具体的には、例えば、スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックス水分散液(グレード L7430、A7689、A7531、A2730、L7850;旭化成ケミカルズ社製)を利用することができる。
〈2.シランカップリング剤加水分解物水溶液〉
《2.1 シランカップリング剤》
本発明の水系接着剤組成物に含有するシランカップリング剤加水分解物水溶液は、一般式 Y−Si(CH(OR)3−n [n=0または自然数;OR=加水分解性基;Y=反応性官能基を有する基] で表されるシランカップリング剤の全部または一部加水分解物の水溶液である。
前記加水分解性基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等を挙げることができ、また、前記反応性官能基としては、アミノ基、エポキシ基、メタクリル基、ビニル基、メルカプト基等を挙げることができる。
シランカップリング剤としては、具体的には、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有オルガノアルコキシシラン;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有オルガノアルコキシシラン;3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリロキシ基含有オルガノアルコキシシラン;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基含有オルガノアルコキシシラン;3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイド基含有オルガノアルコキシシラン;ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド基含有オルガノアルコキシシラン;N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン等のケチミノ基含有オルガノアルコキシシランを挙げることができる。
好ましいシランカップリング剤としては、具体的には、例えば、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(下記式1:n=0,OR=メトキシ基,Y=N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピル基)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(下記式2:n=0,OR=メトキシ基,Y=3−グリシドキシプロピル基)を挙げることができる。
《2.2 製造方法》
本発明の水系接着剤組成物に含有するシランカップリング剤加水分解物水溶液は、前記シランカップリング剤を、通常行われる一般的な方法で加水分解すればよい。そのような方法としては、具体的には、例えば、シランカップリング剤を蒸留水に添加し、所望により酸または塩基を触媒として用い、20〜100℃程度で1〜24時間処理する方法が挙げられる。
蒸留水に添加するシランカップリング剤の量は、シランカップリング剤が加水分解を受けないとした場合におけるシランカップリング剤の濃度として、10質量%以下であれば特に限定されない。この値以下であると、シラン化合物の縮合が抑制され、安定性が向上するからである。
なお、アルコキシシランの加水分解によってアルコールが生じるが、本発明で使用する加水分解物水溶液においては、生じたアルコールは除去してもよいし、除去しなくてもよい。
《2.3 添加方法》
シランカップリング剤を予め加水分解し、シラノール化してから添加する。
そうすることによって、水系接着剤組成物の構成成分への影響を抑え、貯蔵安定性を担保することができる。
シランカップリング剤を加水分解せずに直接添加すると、SBR−アクリル共重合体ラテックス等の水系接着剤組成物の構成成分との相互作用により、シランカップリング剤自体の凝集や、ラテックス分散系の破壊による構成成分の凝集等が起こりやすく、水系接着剤組成物が接着剤の用を成さなかったり、貯蔵安定性が損なわれたりすることがある。
本発明の水系接着剤組成物に含有するシランカップリング剤加水分解物水溶液の含有量は、SBR−アクリル共重合体ラテックスの樹脂固形分100質量部に対してシランカップリング剤加水分解物水溶液0.5〜15質量部である。この範囲内とすることによって、初期接着力および常態接着力と貯蔵安定性とをバランスよく向上させることができ、しかも、破壊モードが凝集破壊となって、接着信頼性を担保することができる。
〈3.含有してもよい成分〉
《3.1 粘着付与剤》
本発明の水系接着剤組成物は、粘着付与剤を含有することができる。
本発明の水系接着剤組成物に含有することができる粘着付与剤は、粘着付与樹脂の水系エマルジョンであることが好ましい。また、均一に分散させるためには、より微粒子であることが好ましい。
粘着付与樹脂は、SBR−アクリル共重合体ラテックスと相溶性があるものであれば、特に制限されず、例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂を挙げることができる。
ロジン系樹脂は、具体的には、ロジン樹脂、水添ロジン樹脂、変性ロジン樹脂、不均化ロジン樹脂、ロジン樹脂エステル、重合ロジン樹脂等が例示される。
テルペン系樹脂は、具体的には、テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂等が例示される。
石油樹脂は、具体的には、C5留分系石油樹脂、C9留分系石油樹脂、C5/C9留分系石油樹脂、DCPD系石油樹脂等が例示される。
クマロン樹脂は、具体的には、クマロン(1−ベンゾフラン)の重合体、クマロンの誘導体の重合体、クマロン−インデン樹脂(クマロンとインデンの共重合体)、水素化クマロン−インデン樹脂等が例示される。
粘着付与剤は、本発明の組成物に、SBR−アクリル共重合体ラテックスの樹脂固形分100質量部に対して、固形分換算で、好ましくは10〜30質量部含有することができる。この範囲であると、十分な濡れ性の付与がされ、かつ接着剤皮膜の形成も阻害されず接着力に優れる。
市販の粘着付与剤(エマルジョン)では、例えば、ロジン系エステルエマルジョンでは、ベース樹脂軟化点が175℃以下、固形分が45〜55質量%、pH5.5〜9.5のものが好ましく、具体的には、ハリマ化成(株)製のロジン系エステルエマルジョン「ハリエスターシリーズ」の、DS−70E、SK−70D、SK−90D−55、SK−508H、SK−816E、SK−822E、SK−218NS、SK−323NS、SK−370N、SK−501NS、SK−385NS等を挙げることができる。
また、本発明の組成物に粘着付与樹脂を含有しない場合には、被着体に濡れ性を付与するために、被着体接着面に処理を行うことが好ましい。例えば、被着体接着面をプライマーで処理してから、本発明の水系接着剤組成物を塗布することができる。プライマーは、粘着付与樹脂を水系エマルジョンとして被着体表面に塗布するのが好ましい。
《3.2 充填剤》
本発明の水系接着剤組成物は、充填剤を含有することができる。
本発明の水系接着剤組成物に含有することができる充填剤としては、各種形状の有機または無機の充填剤が挙げることができ、それらの充填剤はそれぞれ単独で、または2種類以上を混合して使用することができる。
充填剤としては、具体的には、例えば、シリカ微粉末(例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ等の微粉末);ケイソウ土;酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム;炭酸カルシウム(例えば、重質炭酸カルシウム等)、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛;タルク;ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー;カーボンブラック;これらの表面処理物(例えば、脂肪酸処理物、樹脂酸処理物、ウレタン化合物処理物、脂肪酸エステル処理物等)が挙げられる。
充填剤は、粉末のまま、または乳化剤もしくは分散剤でエマルジョンとして配合することができるが、粉末のまま配合することが好ましい。組成物中のゴムラテックスの濃度低下が抑えられるからである。
無機充填剤の配合量としては、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に制限されないが、SBR−アクリル共重合体ラテックスの樹脂固形分100質量部に対して、20〜80質量部が好ましく、30〜70質量部がより好ましく、40〜60質量部がさらに好ましい。この範囲であると、特に、塗工性に好ましい影響を与えるからである。なお、無機充填剤をエマルジョンとして配合する場合は、上記の配合量は固形分の量を表す。
《3.3 その他配合してもよいもの》
本発明の水系接着剤組成物は、上記成分の他、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の添加材、例えば、増粘剤、老化防止剤、酸化防止剤、防錆剤、消泡剤、難燃剤、防腐剤、防黴剤、香料、着色剤、湿潤剤等を配合してもよい。
〈4.水系接着剤組成物の製造方法〉
本発明の水系接着剤組成物は、SBR−アクリル共重合体ラテックスに、シランカップリング剤加水分解物水溶液を添加し、よく混合することによって製造することができる。粘着付与剤等を添加する場合には、SBR−アクリル共重合体ラテックスに添加する順序は特に限定されるものではない。また、本発明の水系接着剤組成物は、すべての構成成分を混合した後、少なくとも3ヶ月間は室温で貯蔵できるため、使用直前に構成成分を混合するようなことはなく、使い勝手がよい。
〈5.水系接着剤組成物の使用方法〉
本発明の水系接着剤組成物は、好ましくは建材の接着、より好ましくは外壁材の接着、さらに好ましくは住宅用外壁材の接着、いっそう好ましくはサイディングボードと鋼板との接着の用途に使用される。
サイディングボードは特に限定されないが、セメント(窯業)系サイディングボード、セラミック系サイディングボードまたは金属系サイディングボードのいずれかが好ましく、セメント系サイディングボードがより好ましく、セメント系サイディングボードの中でもモルタル製サイディングボードが特に好ましい。
本発明の水系接着剤組成物の使用方法は、貼り合わせようとする両方の被着体の接着面に塗布し、好ましくは塗布された組成物を50〜120℃の温度で乾燥または熱処理し、両方の被着体を貼り合わせるものである。
本発明の水系接着剤組成物の使用方法に従って、被着体を貼り合わせることによって接着構造体を製造することができる。
本発明の水系接着剤組成物で貼り合わせられたサイディングボードと鋼板からなる接着構造体は、住宅用外壁材として好適に使用することができる。
以下、実施例、例および比較例に基づき本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に何ら限定されるものでないことは言うまでもない。
[1.水系接着剤組成物]
(1−1)SBR−アクリル共重合体ラテックス
第1表に示すラテックスA、BまたはCのいずれかを使用して、各実施例/例/比較例の水系接着剤組成物を調整した。
なお、A7689、A2730およびL7850は、いずれも、スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックス水分散液(旭化成ケミカルズ社製)である。各ラテックスのゲル分率は、前記したゲル分率の算出方法に記載の方法に従って算出し、小数点第
一位を四捨五入したものである。
(1−2)シランカップリング剤加水分解物水溶液の調製
以下の手順に従い、シランカップリング剤加水分解物水溶液(シラン化合物1、2および3)を調整した。第2表にシラン化合物1、2および3の配合を示す。
シラン化合物1
攪拌機、温度計、および滴下装置を備えた反応器に蒸留水80gを仕込み、攪拌しながら40℃まで昇温した。そこに、3−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン(KBM403、信越化学社製)10gを10分間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で6時間反応させることにより、加水分解を受けないとした場合におけるシランカップリング剤濃度20質量%、透明液体のシラン化合物1を得た。
シラン化合物2
攪拌機、温度計、および滴下装置を備えた反応器に蒸留水90gを仕込み、攪拌しながら40℃まで昇温した。そこに、3−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン(KBM403、信越化学社製)10gを10分間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で6時間反応させることにより、加水分解を受けないとした場合におけるシランカップリング剤濃度10質量%、透明液体のシラン化合物2を得た。
シラン化合物3
攪拌機、温度計、および滴下装置を備えた反応器に蒸留水90gを仕込み、攪拌しながら40℃まで昇温した。そこに、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM603、信越化学社製)10gを30分間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で6時間反応させることにより、加水分解を受けないとした場合におけるシランカップリング剤濃度10質量%、透明液体のシラン化合物3を得た。
(1−3)水系接着剤組成物の調製
第3表に示す構成成分で、実施例1〜5、例6および比較例1〜4に係る水系接着剤組成物を構成した。
ラテックスA、BおよびCは、前記第1表に示すものである。このSBR−アクリル共重合体ラテックスの樹脂固形分を100質量部として、シラン化合物1、2もしくは3(前記第2表に示すもの)、または加水分解されていないシランカップリング剤(KBM403、信越化学社製;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、粘着付与剤(ロジン系エステルエマルジョン「ハリエスター SK−508H」、ハリマ化成社製、固形分54〜56%、)、充填剤(重質炭酸カルシウム(無処理)「スーパーSS」、丸尾カルシウム社製)ならびに増粘剤(ポリオキシエチレン誘導体「M2005A」、第一工業製薬株式会社製)を第3表に示す割合で配合し、ミキサーにて混合して各実施例/例/比較例に係る水系接着剤組成物を調製した。
[2.引張せん断接着強さ]
被着体として、25mm×30mmのサイズの鋼板および50mm×50mmのサイズの基材(サイディングボード)を用いた。
上記のようにして得られた水系接着剤組成物を、塗布量を塗布面あたり100g/mとして、鋼板の片面の25mm×25mmの領域および基材の片面の25mm×25mmの領域に、それぞれ、くし目状に塗布した。
次いで、水系接着剤組成物を塗布した鋼板および基材を循環式オーブンに入れて乾燥した。乾燥条件は、鋼板については100℃で60秒間、基材については190℃で60秒間とした。
乾燥後に取り出し、両者を貼り合わせた。
(2−1)初期接着力試験
貼り合わせ1分後にJIS K 6850:1999(接着剤−剛性被着剤の引張せん断接着強さ試験方法)に準拠してせん断試験を行い、引張せん断接着強さを求めた。
引張せん断接着強さ50N/(25mm)以上を初期接着力に優れるとして「○」と評価し、それ未満を初期接着力に劣るとして「×」と評価した。
第3表の初期接着力の欄に、実施例1〜5、例6および比較例1〜4に係る水系接着剤組成物の、引張せん断接着強さ(「接着強さ」と表示)およびその評価を示す。
(2−2)常態接着力試験
20℃で7日間の硬化後にJIS K 6850:1999(接着剤−剛性被着剤の引張せん断接着強さ試験方法)に準拠してせん断試験を行い、引張せん断接着強さを求めた。
硬化後では、500N/(25mm)以上を常態接着力に優れるとして「○」と評価し、それ未満を常態接着力に劣るとして「×」と評価した。
第3表の常態接着力の欄に、実施例1〜5、例6および比較例1〜4に係る水系接着剤組成物の、引張せん断接着強さ(「接着強さ」と表示)およびその評価を示す。
(2−3)破壊モード
常態接着力試験を行った際に、破壊状態を観察し、JIS K 6866:1999(接着剤−主要破壊様式の名称)に従って判定した。第3表の破壊状態の欄に判定した破壊モードおよび評価を示す。
破壊モードは、凝集破壊については「CF」、界面破壊については「AF」と表示し、評価は、破壊モード「CF」については接着信頼性があるとして「○」と評価し、破壊モード「AF」については接着信頼性がないとして「×」と評価した。
[3.貯蔵安定性]
実施例1〜5、例6および比較例1〜4に係る水系接着剤組成物を、室温(25℃)で3ヶ月間置して、外観の変化を評価した。外観上の変化が認められなかったものを貯蔵安定性が優れるとして「○」と評価し、ゲル化する等、何らかの変化が認められたものを貯蔵安定性が劣るとして「×」と評価した。評価結果を第3表に示す。
[4.考察]
スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスと、シランカップリング剤加水分解物水溶液とを含有する水系接着剤組成物であって、該スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスが、スチレン−ブタジエン部分とアクリル部分との質量比がスチレン−ブタジエン部分/アクリル部分=90/10〜70/30であるスチレン−ブタジエン−アクリル共重合体のラテックスであり、該シランカップリング剤加水分解物水溶液が、該水溶液中のシランカップリング剤が加水分解を受けないとした場合における該シランカップリング剤の該水溶液中濃度が10質量%以下のシランカップリング剤加水分解物水溶液であり、かつ、該スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスの樹脂固形分100質量部に対して該シランカップリング剤加水分解物水溶液0.5〜15質量部を含有する水系接着剤組成物に該当する、実施例1〜に係る水系接着剤組成物は、初期接着力、常態接着力および貯蔵安定性に優れるとともに、接着信頼性が有り、本発明の課題を解決していた。
比較例1の、シランカップリング剤加水分解物水溶液を添加しない水性接着剤組成物は、初期接着力、常態接着力および貯蔵安定性に優れるが、接着信頼性が無く、本発明の課題を解決するに至らなかった。
比較例2の、加水分解を受けないとした場合におけるシランカップリング剤濃度20質量%のシランカップリング剤加水分解物水溶液であるシラン化合物1を添加した水性接着剤組成物は、初期接着力および常態接着力に優れ、接着信頼性も有るが、貯蔵安定性が劣り、本発明の課題を解決するに至らなかった。
比較例3の、シランカップリング剤加水分解物水溶液を20質量部添加した水性接着剤組成物は、初期接着力および常態接着力に優れ、接着信頼性も有るが、貯蔵安定性が劣り、本発明の課題を解決するに至らなかった。
比較例4の、シランカップリング剤加水分解物水溶液の代わりに、加水分解されていないシランカップリング剤を添加した水性接着剤組成物は、初期接着力および常態接着力に優れ、接着信頼性も有るが、貯蔵安定性が劣り、本発明の課題を解決するに至らなかった。

Claims (7)

  1. スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスと、シランカップリング剤加水分解物水溶液とを含有する水系接着剤組成物であって、
    該スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスが、スチレン−ブタジエン部分とアクリル部分との質量比がスチレン−ブタジエン部分/アクリル部分=90/10〜70/30であるスチレン−ブタジエン−アクリル共重合体のラテックスであり、
    該スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックス中のスチレン−ブタジエン−アクリル共重合体のゲル分率が68〜90質量%であり、
    該シランカップリング剤加水分解物水溶液が、該水溶液中のシランカップリング剤が加水分解を受けないとした場合における該シランカップリング剤の該水溶液中濃度が10質量%以下のシランカップリング剤加水分解物水溶液であり、かつ、
    該スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスの樹脂固形分100質量部に対して該シランカップリング剤加水分解物水溶液0.5〜15質量部を含有する水系接着剤組成物。
  2. 前記スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスの樹脂固形分が、前記水系接着剤組成物に含有される全樹脂固形分中60質量%以上である、請求項1に記載の水系接着剤組成物。
  3. 前記シランカップリング剤加水分解物水溶液が、シランカップリング剤がその水溶液中で加水分解を受けて製造されるものである、請求項1または2に記載の水系接着剤組成物。
  4. 粘着付与剤をさらに含有する、請求項1〜のいずれかに記載の水系接着剤組成物。
  5. 前記粘着付与剤を、前記スチレン−ブタジエン−アクリル共重合体ラテックスの樹脂固形分100質量部に対して、固形分換算で10〜30質量部含有する請求項に記載の水系接着剤組成物。
  6. 前記粘着付与剤が粘着付与樹脂の水系エマルジョンである、請求項またはに記載の水系接着剤組成物。
  7. 前記粘着付与剤が、ロジン系、テルペン系および石油樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上を含む、請求項のいずれかに記載の水系接着剤組成物。
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