以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。以下では、色材成分を有するインクを吐出することで記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置に本発明を適用した場合について説明する。しかし本発明は、コンティニュアス型の液体吐出装置に広く適用できるものである。
なお、本発明の「液体」とは、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、あるいはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。また、その液体の「付与」とは、文字,図形等有意の情報を形成することを目的とする場合のみを含むものではない。すなわち、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。さらにその付与の対象となる「媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布,プラスチック・フィルム,金属板,ガラス,セラミックス,木材,皮革等、液体を受容可能なものも表すものとする。
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態を説明する。なお、ここでは液体であるインクを吐出するノズルを2次元状に配列してなる液体吐出ヘッドを用いる場合について例示するが、2次元状にノズルを配列してなる液体吐出ヘッドあるいは単一のノズルを有する液体吐出ヘッドを用いる場合にも適用が可能である。
図1は、本実施形態の液体吐出ヘッド(以下、単にヘッドとも言う)を搭載した液体吐出装置のシステム概要図である。図示の液体吐出装置は、インクタンク1、加圧ポンプ2、加振機構3、ヘッド4、ガター5、回収ポンプ6、インク調整部7、第1の制御部(流入制御手段)11、第2の制御部(流出制御手段)12、第1のポンプ13および第2のポンプ14を有している。
図2(a)および(b)は、図1におけるヘッド4の詳細な構成をそれぞれ示す斜視図および分解斜視図である(ただし、ガター5は図示していない)。また、図3(a)および(b)は、それぞれ、ヘッド4の内部構造を拡大して模式的に示す断面図および上面図である。まず、これらの図を参照して本実施形態のヘッド4の構成を詳細に説明する。ヘッド4は、共通液室100に貼り合わされたオリフィスプレート101、帯電電極板102、第1の偏向電極板103、第2の偏向電極板104、ガター5、送風板8、排気板9、絶縁ガスケット201および202を有している。ヘッド4の構成部材はいずれも板状形状を有しており、これらはインクの吐出ないし飛翔方向に積層されている。
オリフィスプレート101には、インクを吐出するノズルが第1の主軸および第2の主軸に沿って、2次元状に複数形成されている。帯電電極板102には、吐出されたインクが通過する貫通孔が設けられ、さらに貫通孔の側壁には電極が形成されている。電極は配線に接続され、個別に帯電電圧を印加することができるようになっている。
第1の偏向電極板103には、吐出されたインクが通過する貫通孔が設けられている。第1の偏向電極板103には電極が形成されているが、電極の形成位置は、貫通孔の側面および第2の偏向電極板104と対向する面のいずれかでもよいし、あるいはその双方であってもよい。第1の偏向電極板103の電極は、帯電電極板102の電極とは異なり、個別に電圧を印加する必要がない。従って、各貫通孔に対応する電極は、同電位になるように配線によって互いに接続されていてもよい。また、第1の偏向電極板103を導電性部材で作製することによって部材全体が同電位となるようにすることで、当該電極板内の電極や配線のパターニングを省略することもできる。
第2の偏向電極板104には、吐出されたインクが通過する貫通孔が設けられ、その側壁には電極が形成されている。第2の偏向電極板104の電極も、帯電電極板102の電極部とは異なり、個別に電圧を印加する必要がない。従って、すべて同電位になるように電極間は配線によって接続されている。第2の偏向電極板104には、絶縁性部材に導電性部分をパターニングすることにより作製することによって電極や配線が形成される。これにより、液滴飛翔路の貫通孔は、液滴軌道に対称な形状とするとともに、電場を非対称に形成することができる。このことは、電場による偏向と送風による液滴の安定な飛翔を両立させる上で重要である。
なお、以上とは逆に、第1の偏向電極板103を絶縁性部材に導電部をパターニングすることにより作製し、第2の偏向電極板104を導電性部材で作製しても、同様に液滴の飛翔軌道に非対称な電場を形成できる。あるいは、絶縁性部材に導電部をパターニングすることにより、これら偏向電極板の双方の電極を作製してもよい。さらに、第2の偏向電極板104を多孔質部材で作製することにより、ガター5と兼用するようにしてもよい。
次に、本実施形態の液体吐出装置の動作を説明する。インクタンク1に貯えられたインクは、加圧ポンプ2によって加圧され、ヘッド4に供給される。ヘッド4に供給されたインクは、加振機構3によって振動を与えられ、共通液室100を通り、ノズル111から吐出される。ノズル111から吐出されたインクは、1mm程度飛翔すると、液柱から液滴に分裂する。帯電電極板102はこの液滴に分裂する位置で貫通孔を通過するように設置されている。液滴への分裂時に電極に電圧が印加されていると液滴は帯電し、電圧が印加されていないと液滴は帯電しない。従って、記録媒体に記録すべきデータにあわせ、記録に使用する液滴は帯電させず、記録に用いない液滴は帯電するように、帯電電極への印加電圧を制御する。その後、帯電していない液滴(以下、記録液滴とも言う)は直線的に飛翔し、記録媒体へと着弾する。第1の偏向電極板103と第2の偏向電極板104との間には電圧が印加されており、帯電した液滴(以下、非記録液滴とも言う)はこれら2つの偏向電極板を通過する際に電場によって偏向される。偏向した非記録液滴はガター5によって回収される。回収されたインクは、回収ポンプ6によって吸引され、インク調整部7で塵埃の除去や粘度調整を行った後、再び加圧ポンプ2によって加圧され、記録のためにヘッド4へと循環される。
インクは、これを帯電させるために導電性のものが使用される。従って、循環するインクによって、ガター5とオリフィスプレート101とは導通した状態となる。ここで、第2の偏向電極板104は回収液滴と導通してしまう場合が多い。そこで、供給インク、帯電電極、偏向電極への電圧の印加の態様は、供給インクおよび第2の偏向電極板104の電圧を0V(GND)とし、帯電電極および第1の偏向電極へ電圧を印加するようにすることが好ましい。
ここで、本実施形態における空気の流れについて説明する。第1のポンプ13は第1の制御部11を介して送風板8に、第2のポンプ14は第2の制御部12を介して排気板9に、それぞれ接続されており、各制御部は空気の流量あるいは圧力を制御している。ヘッド4の各構成部材が積層され、かつそれぞれの貫通孔が連通するよう構成されていることにより、液滴飛翔路118を画成する通路が形成される。積層された各構成部材は、隙間から空気が漏れないようにシールされている。送風板8には空気供給路121および各液滴飛翔路118に対応した空気入口115が、排気板9には空気排出口116が設けられている。各液滴飛翔路118において、空気入口115から液滴飛翔路118を画成する通路の内側に供給された空気は層流を形成し、空気排出口116から排出される。排出された空気は排出板9の空気回収路119を通って第2の制御部12に導かれ、第2のポンプ14で吸引される。液滴飛翔路118で層流が形成されるためには、液滴飛翔路は凹凸が少なく、直線状であることが好ましい。また、記録液滴の軌道は液滴飛翔路118の中心軸にある一方、空気入口115および空気排出口116は、それぞれ、液滴飛翔路の中心軸に対して対称に形成されていることが好ましい。これは、空気入口115や空気排出口116を出入りする空気の流れによる液滴の飛翔軌道のよれの影響を少なくするためである。
一般に、ニュートン流体において、層流が形成されている時、流路抵抗Rの管路を流れる流量Qの流体の圧力損失ΔPは、
ΔP=R×Q ・・・式(1)
と表される。
さらにRを具体的に表すに、円管流路の場合、管路半径をa、管路長さをL、流体の粘度をμとすると、Hagen−Poiseuilleの式により、
R=8μL/(πa4) ・・・式(2)
となる。
また、このとき平均流速vaveは、
vave=Q/(πa2) ・・・式(3)
と表され、最大流速vmaxは、円管の中心軸上の流れに生じ、
vmax=2vave ・・・式(4)
である。
ここで、図4(a)に示すように、第1の制御部11、第2の制御部12、空気入口115および空気排出口116の各部での空気の圧力を、それぞれ、P1、P2、P3および圧力をP4とし、記録液滴出口117の外側の圧力をP0とする。また、第1の制御部11から空気入口115までの流路の流路抵抗をR1(Pa・s/m3)、流量をQ1(=Qin)、空気排出口116から第2の制御部12までの流路の流路抵抗をR2、流量をQ2とする。さらに、空気入口115から空気排出口116までの流路の流路抵抗をR3、流量をQ3、空気排出口116から記録液滴出口117までの流路の流路抵抗をR4、流量をQ4とする。
記録液滴出口117に記録媒体からの空気の流入が無い条件はQ4≧0である。特に、空気の流出も流入が無い条件はQ4=0である。第1の制御部11および第2の制御部12が流量制御部として構成されている場合、液滴飛翔路中での所望の空気の流速が得られる流量Q3をQ0とすると、第1の制御部11および第2の制御部12での流量の値をQ1=Q2=Q0と設定すれば、Q4=0とすることができる。
各部の圧力と流量には以下の関係が成り立っている。
P1−P3=Q1×R1 ・・・式(1−1)
P3−P4=Q3×R3 ・・・式(1−2)
P4−P2=Q2×R2 ・・・式(1−3)
P4−P0=Q4×R4 ・・・式(1−4)
Q1=Q3 ・・・式(1−5)
Q3=Q2+Q4 ・・・式(1−6)
そこで、第1の制御部11および第2の制御部12が圧力制御部として構成されている場合、Q4=0とするためには、上式(1−1)〜(1−6)の連立に解いて整理すると、
P1=P0×(R1+R2+R3)/R2−P2×(R1+R3)/R2・・・式(1−7)
が成り立つように、P1およびP2を設定すればよいことがわかる(逆流が無い条件は「=」を「≧」に置き換えた形となる)。さらに、液滴飛翔路中での所望の空気の流速が得られるQ3をQ0とすると、P1およびP2をそれぞれ、
P1=P0+Q0×(R1+R3)・・・式(1−8)
P2=P0−Q0×R2・・・式(1−9)
とすればよいことがわかる。
次に、本実施形態のようにノズルが複数設けられたヘッドにおいて、各ノズルに対応する記録液滴出口117から記録媒体へと流出する空気により、ヘッドのノズル形成面と記録媒体との間に流れが生じ、記録液滴の飛翔方向がずれてしまう影響について計算する。ここで、ヘッド4に配列されるノズル数をn個とする。各記録液滴出口117から流出した空気は、最終的にはヘッド外縁部から周囲の大気に放出される。従って、ヘッド外縁部付近のノズルからの記録液滴が最もこの空気の流れの影響を受ける一方、ヘッド中央付近のノズルからの記録液滴はあまり影響を受けないと考えられる。そこで、ヘッド外縁付近の記録液滴出口117から吐出された液滴が記録媒体に着弾するまでの間に、どの程度飛翔方向がずれるかを計算する。
各部の変数を図4(b)に基づいて説明する。記録液滴出口117から記録媒体へと流出する空気の総量はn×(Q1−Q2)である。ヘッド下端面122(記録液滴出口117が形成されている面)から記録媒体までの距離をth、ヘッド下端面122の外周長をlhとすると、ヘッド外縁部付近の空気の流れはヘッド下端面に平行で、その平均速度vaは、
va=n×(Q1−Q2)/(th×lh)・・・式(1−10)
と表される。
ここで、吐出される液滴の量は数pl、液滴速度は10m/s程度であり、レイノルズ数(Re)は1程度とする。この場合、飛翔する液滴が受ける抗力は速度に比例する領域(Stokes領域)であると考えられる。ここで、記録液滴軌道上で、液滴のヘッド下端面122との交点を原点とし、記録媒体へ向かう方向を正とする軸をx軸とする。また、x軸と原点で交わり、x軸に垂直で、ヘッド外縁に向かう空気の流れの方向を正とする軸をy軸とする。液滴のx方向の速度成分をvx、y方向の速度成分をvyとした場合に、液滴の運動方程式は以下のようになる。ただし、液滴は十分に小さく重力の影響が無視できるとする。
ただし、
である。μは空気の粘性係数(常温で1.805×10-5Pa・s)、ρiは液滴の密度、diは液滴の直径である。
上記の運動方程式を解くと、
式(1−13)において、x=thのときのyが記録媒体に着弾したときの液滴の着弾ずれ量Δyであるから、
例えば、ノズル数nが24000個、ヘッド面の寸法が500mm×100mm(lh=1200mm)、ヘッド下端面122から記録媒体までの間隔thが1mmのヘッドで、液滴の直径diが20μm、液滴密度ρiが1000kg/m3とした場合について計算する。
図4(c)は、ヘッド下端面122通過時の液滴速度voutを10m/s、単位時間当たりの流量をQ1=3.53×10-7m3/s(液滴飛翔路118直径d=φ300μmで、中心流速10m/s)とした場合の、Q2/Q1を変えた時のΔyを計算した結果を示す。Q2/Q1=0.8の時にΔy=6.0μm、Q2/Q1=0.7の時にΔy=9.1μmとなった。記録解像度を1200dpi(ドット数/インチ;参考値)とした場合、液滴の着弾精度は6μm程度に抑える必要がある。従って、Q2/Q1は0.8以上であることが好ましいことがわかる。このΔyの値は、式(1−14)に基づき、ヘッドのサイズや解像度、液滴のサイズなどの値によって変化するが、1200dpi以上の高精細プリンタであれば、少なくともQ2/Q1は0.8以上であることが好ましい。
s=Q2/Q1とおき、式(1−1)〜式(1−6)を解くと、式(1−8)および式(1−9)は、それぞれ、
P1=P0+Q0×(R1+R3+(1−t)R4)・・・(1−8)’
P2=P0−Q0×(−tR2+(1−t)R4)・・・(1−9)’
と変形される。
t=1の場合は、式(1−8)’および式(1−9)’は、それぞれ、式(1−8)および式(1−9)と一致する。従って、逆流がなく、かつ、記録精度に影響を与えない実数tの範囲として、0.8≦t≦1の範囲で、式(1−8)’および式(1−9)’に基づいて、P1およびP2を設定すればよい。
ここで、空気の流れの様子や吐出後の記録液滴の飛翔状態を汎用流体解析ソフトウェアFLUENT(ANSYS社)を用いて解析を行った。図3(a)の構成において、各部の寸法を以下のようにする。ノズル111から空気入口115開口面までの距離は750μm、空気入口115開口面から空気排出口116開口中心面までの距離は2295μm、空気排出口116開口中心面から記録液滴出口117までの距離は295μmである。また、ノズル111から空気入口115までは流路径40μm、空気入口115から記録液滴出口117までは流路径300μmの円筒形流路となっており、記録液滴の軌道が円筒流路の中心軸と一致するように、ノズル111に位置決めされている。空気入口115は、内径50μm、外径100μmのリング状で、インクの飛翔方向と同方向に開口している。一方、空気排出口116は、液滴飛翔路の円筒側面に高さ10μmのリング状に形成されている。
図5(a)は、空気入口115からの流量および空気排出口116への空気の流量をともに2.8×10-7m3/sとして、空気の流れのシミュレーションを行った結果を示すし、円筒形流路中に層流が形成されているのがわかる。空気排出口116から記録液滴出口117までの流れをより詳しく示したものが図5(b)である。図5(c)は記録液滴軌道上の空気の軌道軸方向の速度を示している。ノズルからの距離1mm付近で、約12m/sの流れが発生し、空気排出口116付近では8m/s程度となっている。空気排出口116を過ぎると、流速は大幅に減少し、記録液滴出口117付近では流れはほぼ0(0.1m/s以下)になっている。空気入口115付近から流速が低下していくのは、空気入口115が液滴飛翔軌道に近いところに設置されているので、はじめは流れが中心付近に集中しているのに対し、流れが徐々に発達すると理想的な放物線状の速度分布に近づいていくためであると考えられる。また、空気流の発生位置がノズルから1mm程度のところにあるため、吐出された液柱には風の影響を与えず、液滴に分裂した直後に空気の流れに乗せることができるようになっている。
また、空気排出口116下流で記録液滴出口117に向かって流れが発生しており、さらに空気排出口116付近では反転した流れが発生しているが、記録液滴出口117付近では流れはほぼ0になっている。しかしながら、空気排出口116下流で見られる反転流が空気排出口116から記録液滴出口117までの距離よりも大きければ、Q1=Q2=Q3であってQ4=0となっていても、記録液滴出口117から空気が流出してしまう。同時に、流出量と同量の空気が流入する。これを防ぐためには、反転流に対して、空気排出口116から記録液滴出口117までの距離が十分に大きい必要がある。反転流の大きさは、流量や管径に依存すると考えられる。
図6(a)は、流量を0.7×10-7m3/s、1.4×10-7m3/s、2.1×10-7m3/s、2.8×10-7m3/s、4.2×10-7m3/sとして、それぞれシミュレーションを行い、記録液滴軌道上の空気の軌道軸方向の速度をグラフにしたものである。いずれの場合も、空気排出口116を過ぎると流速が大幅に減少している。しかしながら、流量が4.2×10-7m3/sの場合には、記録液滴出口117での流速は1.2m/s程度となり、若干の空気の流出が見られる。このときの記録液滴出口117付近の空気の速度ベクトルを表したものが図6(c)である。反転流が大きいため、記録液滴出口117で空気の流出および流入が起こっているのがわかる。流入している空気の流速は0.3m/s程度である。
また、図6(a)のグラフにおいて、空気排出口116付近に比べて空気の流速が5%に低下する点での気排出口116からの距離をプロットしたものが図6(b)である。これは、ほぼ反転流の大きさを表していると考えられ、流量と反転流の大きさにはほぼ直線関係があることがわかる。反転流の大きさをlrとし、流量をQとしたとき、lrとQは近似的に以下の式で表すことができる。
lr=500Q+9×10-5・・・(1−15)
次に、図7(a)は、流量を1.4×10-7m3/s、液滴飛翔路118の径を250μm、300μm、350μmとしてシミュレーションを行い、記録液滴軌道上の空気の軌道軸方向の速度をグラフにしたものである。液滴飛翔路118の径が小さいほど、空気排出口116から記録液滴出口117までの間での速度低下が大きいことがわかる。グラフにおいて、空気排出口116付近に比べて空気の流速が5%に低下する点での空気排出口116からの距離をプロットしたものが図7(b)である。これにより、反転流の大きさと液滴飛翔路118の直径とにはほぼ直線関係があることがわかる。反転流の大きさをlrとし、液滴飛翔路118の直径をdとしたとき、lrとdは近似的に以下の式で表すことができる。
lr=0.6d−2×10-5・・・(1−16)
式(1−15)および式(1−16)をもとに、lrをdおよびQの関数として書き下すと、
lr=CdQ+(−1.4×10-7C+0.6)d+(−3×104C+500)Q
+(−4.2×10-11C+2.7×104) ・・・(1−17)
となる。ただし、Cは定数である。この定数Cを決定するために、さらにd=320μm、Q=0.7×10-7m3/sの条件でシミュレーションを行い、空気排出口116付近に比べて空気の流速が5%に低下する点での気排出口116からの距離を求めたところ、lr=1.35×104mとなった。この条件を式(1−17)に代入し、Cを求めると、
C=4.24×106・・・(1−18)
となった。
このCの値を代入すると、反転流の大きさlrは、以下の式によって表される。
lr=4.24×106dQ+0.0066d−770Q+9.2×10-5
・・・(1−14)
このlrに比べて、空気排出口116から記録液滴出口117までの区間の距離を大きくすることで、記録液滴出口117からの空気の流出と流入を防ぐことができる。空気排出口116から記録液滴出口117までの区間の距離とは、記録液滴軌道に垂直で空気排出口116の重心を通る平面と記録液滴軌道との交点から記録液滴軌道に垂直で前記記録液滴出口117の外端を通る平面と前記記録液滴軌道との交点までの距離を表す。
本実施形態では、管径dが一定な円管流路に関して計算を行ったが、管径が一定でない場合には、dとして空気排出口116から記録液滴出口117までの間の平均直径を用いればよい。また、液滴飛翔路118の断面形状が円管でない場合には、円管相当直径をdとする。円管相当直径は、4×(流路断面積)/(流路断面の濡れ辺長)で計算することができる。
また、本実施形態では、流路抵抗の計算に円管流路の場合を例にとり、Hagen−Poiseuilleの式を用いたが、その他の形状の断面の流路に関しても、計算あるいはシミュレーションあるいは実験等によって求めた流路抵抗を適用することが可能である。これは、以下に述べる他の実施形態および実施例に関しても同様である。
以上のように、第1の制御部11および第2の制御部12の設定を行えば、隣接するノズルから排出される空気の流れの影響により液滴の飛翔軌道がずれるのを抑制することができる。また、記録液滴出口117からのヘッド内への空気の流入を防ぐことができる。これにより、紙粉や記録媒体で液滴が衝突する際に生じる「跳ね返りミスト」をヘッドに吸い込むのを防ぐことができる。
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態を説明する。なお、本実施形態でもノズルを複数設けた液体吐出ヘッドを用いる場合について説明するが、単一のノズルを有する液体吐出ヘッドを用いる場合にも適用が可能である。
図8(a)は本実施形態に係る液体吐出ヘッドの側断面図であり、上記第1の実施形態と同様に構成できる部分については対応箇所に同一の符号を付してある。図8(b)および(c)は、ヘッド下部の構成の2例を示す分解斜視図であり、液滴飛翔路118の形状を奥行き方向(第2の主軸方向)に延在するスリット状(図8(b))、あるいは通過する液滴列ごとに対応する個別貫通孔(図8(c))としたものである。なお、以下の説明では、後者(図8(c))の場合について述べる。
本実施形態では、図9(a)に示すように記録液滴出口117に絞り部203が設けられ、流路幅が狭くなっている。また、空気排出口116は、絞り部203の上流に設けられ、液滴飛翔路に向かい合うように開口している。それ以外の構成は第1の実施形態と同様である。上述した第1の実施形態の図7(b)の結果からわかるように、空気排出口116から記録液滴出口117までの管径を狭くすると、流路抵抗が大きくなり、反転流を小さくできる。また、図4(a)と同様に、各部の圧力、流路抵抗、流量を置く。Q4≠0の条件で、(1−1)〜(1−6)の流路方程式を解くと、Q4は以下のように表される。
絞り部203を設けるということは、R4を大きくすることに相当する。R4が大きくなるとQ4は小さくなる。これは、第1の制御部11および第2の制御部での圧力が、最適値からずれてしまった場合に、発生するQ4を小さくできることを表している。
なお、図9(b)に示すように、空気排出口116は絞り部203内に配置されていてもよい。また、図9(c)に示すように液滴飛翔路118を形成する部材をテーパー計上とし、流れに乱れが生じにくくなるようにしてもよい。
また、図10(a)〜(c)に示すように、液滴の飛翔方向を正とした液滴飛翔軌道の方向ベクトルをベクトルα、排出する空気の流れの方向を正とした空気排出口116の開口の法線ベクトルをベクトルβとし、それらのなす角度を考える。この2つのベクトルのなす角度が大きいほど、液滴飛翔路118の空気の流れは、空気排出口116に入る際に大きく方向を変えなければならない。これは、液滴飛翔軌道の空気の流れを乱す要因となり、また第1の実施形態で説明した反転流を大きくしてしまう要因ともなる。そこでベクトルαとベクトルβとのなす角はなるべく小さい方がよく、少なくとも90度以内であることが好ましい。図10(a)は90度のときを表しており、90度よりも角度が大きくなってしまうと、空気排出口116はノズル111の方ではなく、むしろ記録液滴出口117の方を向くようになる(図10(c)は180度のときを表している)。特に、図10(b)に示すように空気排出口116の開口を液滴飛翔路に向かい合うように配置すると、ベクトルαとベクトルβとのなす角は0°となり、反転流を最も軽減できる。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態として、複数のノズルを配列してなる液体吐出ヘッドに好適な送風板8あるいは排気板9の構成について述べる。ここでは、第2の実施形態と同様の構成において排気板9に本発明を適用した場合を例示するが、送風板8に関しても、圧力の大きさが異なるだけで、構成や計算は同様のものを用いることができる。
図11(a)は、本実施形態における排気板9の上面図を示す。各ノズルからの記録液滴は、液滴飛翔路118を紙面垂直方向に通過して、記録媒体へと向かう。一方、送風板8から供給された空気は、液滴飛翔路118の周囲に設けられた空気排出口116から排気板9に回収される。ここでは、回収された空気は、排気板支流302を通り、さらに排気板本流301を通って第2の制御部12に至る。排気板支流302は排気板内部が排気板隔壁303によって仕切られることによって形成され、ノズル列毎に空気を通過させるようになっている。排気板隔壁303には、内部の空気の圧力に対抗して構造を保持する機能と渦をできにくくする整流の機能との2つの機能を果たす。各ノズル列からの排気板支流302は、排気板本流301へと合流する。排気板本流301はヘッドの側面に配置できるため、大きさに設計上制約が少なく、流路抵抗を十分に小さくすることができるので、流路抵抗を下げる上では限界がある。従って、空気排出口116から第2の制御部12までの流路抵抗は、主に、空気排出口116および排気板支流の流路抵抗による。ここで、各部の流路抵抗を以下のように設定し、流量を計算することとする。
図11(b)は、1本の排気板支流302だけ取り出して示す。各空気排出口での流路抵抗をr、隣合う空気排出口116の間の排気板支流302の流路抵抗をRとする。この排気板支流302の流路抵抗Rは以下のように計算することができる。まず、矩形断面の流路とし、断面の幅をwout、高さをhout、空気排出口116の間隔をlpout、中を流れる空気の速度をvoutcとする。また、空気の密度をρ、粘度をμとする。
円管相当直径を4moutとすると、
と表される。このReの大きさにより、管摩擦係数λは以下のように分かれる 。
λ=0.3164Re-1/4 (Re>3000)・・・(3−3)
λ=56.9/Re (Re<3000)・・・(3−4)
隣り合う空気排出口116間の圧力損失をΔPoutcとすると、
となる。ここで、Re<3000なら、λ=56.9/Reであるので、
となる。平均流速は、
となり、流路抵抗Rは、
空気排出口116での圧力損失rを計算する。空気排出口の形状は、内半径r1out、外半径r2outのリング状とし、厚さtoutの多孔質となっているとする。多孔質のポア径をdout、多孔度をpooutとする。多孔質にするのは排気板9内に塵埃が混入するのを防ぐとともに、排出口116での流路抵抗を高くし、排気板支流302の上流の排出口116と下流の排出口116での流量差を軽減するためである。
多孔体をポア径doutの円管の束であると近似すると、第1の実施形態で述べたHagen−Poiseuilleの式(1)および式(2)を用いて、空気排出口116での流量Qと圧力損失ΔPoutpの間には、
の関係が成り立つ。従って、空気排出口116での流路抵抗rは、
となる。
次に、図11(b)の流路の流れについて、等価回路を用いて計算を行う。排気板本流301での圧力損失は無視できるほど小さいとし、第2の制御部での圧力P2を電圧に置き換えてVとし、流量を電流に置き換えてIとする。さらに、1本の排気板支流302にはn個の空気排出口116が対応するものとし、排気板本流301に最も近い空気排出口116を1番として順番に番号をつけ、k番目の排出口116を通過する空気の流量を電流に置き換えて、ikと表すものとする。これらを用いて、図11(b)の流路を等価回路で表すと、図11(c)に示すようになる。
図11(c)の等価回路について、回路方程式を立てると以下のようになる。
上の回路方程式を整理すると、次の3項間漸化式となる。
ここで、初期条件、
のもとで漸化式を解くと、解は以下のようになる。
これにより、k番目の排出口116での流量ikを、各部の流路抵抗r,Rと、第2の制御部12での圧力(=電圧V)を用いて表すことができた。ikは、係数をA、Bとしたαとβの指数関数の線形和となっている。この関数は単調減少関数であり、排気板本流301から遠い空気排出口116ほど流量は少なくなる。また、αとβの式から、αは1より大きな正の数、βは0より大きく1未満の数であることがわかる。さらに、R/rが0に近づくほど、すなわち、排気板支流302の抵抗に比べて空気排出口116の抵抗が大きいほど、α、βはともに1に近づく。このとき、ikがkによらずほぼ等しい値になり、排気板支流302の上流の排出口116と下流の排出口116での流量差が小さくなる。
空気排出口116での流量がノズル毎に異なると、液滴飛翔路での空気の流速にばらつきが生じ、記録液滴の着弾時間に誤差が生じてしまう。これは、着弾精度を低下させる原因となるため、空気排出口116での流量のばらつきが小さいことが好ましい。そのためには、排気板支流302の抵抗に比べて空気排出口116の抵抗を大きくすることが有効であることが以上の計算からわかる。
さらに、空気排出口116間の流量のばらつきを軽減する方法を説明する。各空気排出口116から排気板支流302と排気板本流301の合流点までの流路抵抗がすべて等しくなるように、各空気排出口116の流路抵抗を調節する。すなわち、ノズルkの流路抵抗が、
rk=r1−(k−1)R ・・・(3−23)
となるようにrkを決定する。このとき、排気板支流302の排気板本流301との合流点での流量はV/(R+r1/n)、各空気排出口116での流量はV/(nR+r1)となり、各空気排出口116での流量はみな等しくなる。具体的に各空気排出口116の流路抵抗を最適な値にするには、外半径r2outや内半径r1outの寸法を空気排出口116ごとに適切な値にすればよい。
なお、本実施形態では、2次元状に配列されたノズルを1次元の列毎に分けた構成について述べたが、排気板隔壁303の構成が異なり、排気板支流302が直線状に分かれていないものに関しても、同様の考え方を適用することができる。また、1次元状にノズルが配列された構成に関しては、排気板支流302が1本だけある場合として計算が可能である。
以下、本発明のより具体的な実施例を説明する。
(実施例1)
本発明の第1の実施例は、第1の実施形態で述べた図3(a)に示す構成に基づいており、各部の寸法は第1の実施形態と同様である。本実施例の液体吐出装置の運転条件例を挙げる。ノズル径は7.4μm、加圧ポンプ2の圧力は0.8MPaとなっているものとする。また、加振機構3の振動数は50kHz程度である。この場合、液滴量は4pl、吐出速度は10m/s程度となる。
図12(a)は、第1の実施形態において図5に示した空気入口115からの流量および空気排出口116への流量をともに2.8×10-7m3/sとした空気の流れの中に、100μm離れた2つの液滴を初速10m/sで吐出させた場合の液滴の挙動を示す。2つの液滴間隔がほとんど変わらず、空気の流れに乗ってほぼ等速度で飛翔していることがわかる。一方、図12(b)は、空気の流れを与えなかった場合の2つの液滴の飛翔の様子を示している。液滴が空気抵抗によって減速していき、また、先頭液滴と後続液滴で空気抵抗の影響が異なるため、200μsで先頭液滴が後続液滴に追いつかれてしまっている。
第1および第2の制御部11,12が流量制御部である場合には以上のように流量を設定値にすればよい。また、第1および第2の制御部11,12が圧力制御部である場合には、以上の圧力に、第1の制御部11から空気入口115までの流路抵抗、第2の制御部12から空気排出口116までの流路抵抗による圧力損失を設定値に加味したものにすればよい。
(実施例2)
本発明の第2の実施例は、第2の実施形態における図8(a)の構成をより具体化したものである。
液体吐出ヘッドの作製
まず、本実施例の液体吐出ヘッドの作製方法について説明する(他の実施例の液体吐出ヘッドに関しても、本実施例で述べる作製方法と同様の作製方法で作製することができる)。まず、オリフィスプレート101はSOI(シリコン・オン・インシュレータ)基板をフォトリソグラフィを用いて加工する。SOI基板の裏面(ハンドル層)を結晶異方性ウェットエッチングしインク流路を形成し、次に表面(デバイス層)をドライエッチングしてノズル開口を形成する。その後、BOX層をエッチングして、流路を貫通させることによって作製することができる。
次に、帯電電極板102は、プリント基板にレーザーで貫通孔を作製し、表面をめっき処理した後、配線部をパターニングすることによって作製することができる。第1の偏向電極板103は、SUSなどの金属板のプレスやドリル、レーザー加工によって作製できる。あるいは、絶縁基板にエッチングやレーザーなどで貫通孔を作製し、めっきや蒸着で表面に金属層を成膜してもよい。
次に、図13を参照して第2の偏向電極板104の作製方法を説明する。
図13(a)に示す第1の工程では、第2の偏向電極板104の上部を作製するためのマスクをパターニングする。本実施例では第1の基板401として、両面研磨した厚さ400μmのシリコン基板を使用する。まず、インク回収路120および液滴飛翔路118をエッチングするためのマスクをパターニングする。ここで、液滴飛翔路118は基板を貫通させるのに対し、インク回収路は基板を貫通させないので、2種類のマスクが必要になる。そこで、図のように2段のマスク402および403を形成する。マスクは、アルミニウムを成膜したものや、シリコン酸化物膜を熱酸化によって成膜したものをフォトリソグラフィによってパターニングすることで形成できる。2段のマスクは、同種の材料で2回のエッチングを行うことによって厚さが部分的に異なるものを作製したり、異種材料によるパターンを積層したりすることで作製することができる。
図13(b)に示す第2の工程では、液滴飛翔路118およびインク回収路120を形成する。第1の工程で作製した2段マスクでICP−RIEによってエッチングを行う。インク回収路の上部壁の厚さ(100μm)分液滴飛翔路になる部分をエッチングした後、第2のマスク403を除去し、さらに第1のマスク402のみでエッチングを行う。エッチング後、第1のマスク402を除去する。
図13(c)に示す第3の工程では、第2の偏向電極板104の下部を形成する。基板には、両面研磨、厚さ500μmのシリコン基板を使用する。フォトリソグラフィによりマスクをパターニングし、ICP−RIEによってインク回収路120および液滴飛翔路118をエッチングする。その後、マスクを除去する。
図13(d)に示す第4の工程では、第2の工程で作製した上部と第3の工程で作製した下部を接続する。位置あわせのためのアライメントマークを、予め各部材を加工するためのマスクに作製しておく。部材の接続には、シリコン表面の直接接合を用いてもよいし、接着剤を用いてもよい。直接接合では、接合が好ましく行われていれば分子同士の共有結合によって接合されるため、非常に高い接合強度が得られる。しかし接合面に塵埃などが付着していると、接合の歩留まりが著しく低下する。接着剤を用いる場合には、エポキシ系接着剤などをディスペンサで塗布し、接着することができる。
図13(e)に示す第5の工程では、電極405および電極間を接続する配線404を形成する。斜方蒸着を用いて、上面および液滴飛翔路側壁に金属薄膜を成膜する。金属薄膜には、Auなど耐食性がある金属薄膜が適している。また、基板との密着性を向上させるため、下地層として薄くTiなどを成膜しておくとよい。電極はすべて同じ電圧がかけられるように電気的に接続されている必要があるが、個別に電圧を制御する必要はないため、配線のための精細なパターンは必要なく、例えば基板上面が全て成膜された状態でもよい。
次に、ガター5を作製する。本実施例では、厚さ100μm、両面研磨のシリコンウェハを基板に用いる。ガター5の形成方法を図13(f)を用いて説明するに、第1の工程と同様に2段マスクを形成し、エッチングでインク回収路120および液滴飛翔路118を形成する。エッチングにはICP−RIEを用いる。エッチング後にマスクを除去する。
以上のようにして作製したガター5を第5の工程で作製した第2の偏向電極板104と接続する(図13(g))。位置合わせのためのアライメントマークを、予め各部材のマスクに作製しておく。部材の接続には、シリコン表面の直接接合を用いてもよいし、接着剤を用いてもよい。直接接合では、接合が好ましく行われていれば分子同士の共有結合によって接合されるため、非常に高い接合強度が得られる。しかし接合面に塵埃などが付着していると、接合の歩留まりが著しく低下する。接着剤を用いる場合には、エポキシ系接着剤などをディスペンサで塗布し、接着することができる。
そして、同様に排気板9をガター5と接続する(図13(h))。
なお、インク回収路120の形状は、奥行き方向(第2の主軸方向)にのびるスリット状とすることができる。また、液滴飛翔路118の形状は、奥行き方向(第2の主軸方向)にのびるスリット状(図8(b)、図14(a))、あるいは通過する液滴列毎に対応する個別貫通孔(図8(c)、図14(b))とすることができる。
本実施例の偏向電極板104の作製工程では、第2および第3の工程で各別にエッチングした電極部材を第4の工程で貼り合わせる方法を採用している。これは、エッチングのアスペクト比が高くなると、テーパーが形成されて加工精度が低下したり、エッチングレートが途中で低下したりするのを防ぐためである。電極の貫通孔の径や深さの条件、使用するエッチング装置の仕様にあわせて、1枚の部材で作製することもできるし、逆に、より多くの部材に分けてエッチングを行い、積層や貼り合わせを行うことも可能である。
スリット状貫通孔の形成には、ICP−RIEの代わりにKOHをエッチャントとした結晶異方性ウェットエッチングを使用することもできる。この際には、マスクには、窒化シリコン膜を使用し、基板には表面が(110)面であるものを使用する。
斜方蒸着を用いた第2の偏向電極板104の作製方法について詳細に説明したが、その他にも以下のような方法がある。Si基板に側壁に電極405が必要な部分にエッチングを行い、エッチング部をめっきで埋めて電極405を形成し、さらに、インク回収路120および液滴飛翔路118をエッチングするという方法によっても作製することができる。この方法は、エッチング回数が増えて手間がかかるが、液滴飛翔路118の開口に比べて電極405を形成する深さが深く、斜方蒸着では成膜が困難な場合などに有効である。
本実施例の第2の偏向電極板104の作製方法では、基板材料としてシリコンウェハを用いているため、高アスペクト比のエッチングを精度よく実現することが可能である。その他の材料としては、プラスティック材料,セラミック材料などを基板として使用することができる。プラスティック材料を使用した場合には、加工には射出成型などを用い、廉価で軽量な電極板を実現できるというメリットがある。セラミック材料を使用した場合には、焼結などによって作製するが、インクに対する耐食性に優れ、また熱による膨張が少ないというメリットがある。
次に、図15を参照して排気板9の作製方法を詳細に説明する。図15(a)はシリコン基板である。シリコン基板には、両面研磨したものを用いる。まず、図15(b)に示す第1の工程では、液滴飛翔路118および空気排出口116を形成する。フォトリソグラフィによりフォトレジストをパターニングし、ICP−RIEによってエッチングを行う。また、空気排出口116での空気抵抗を高くする目的やフィルタ機能を持たせる目的で、空気排出口116を多孔質とすることができる。この場合は、まず、液滴飛翔路118のみをエッチングしておき、次に改めてフォトリソグラフィを行い、陽極化成によって、多孔質の空気排出口116を形成することができる。
図15(c)は、第2のシリコン基板である。この基板を図15(d)に示す第2の工程で、マスクを2種類使用し、フォトリソグラフィとICP−RIEによる深彫りエッチングによって、液滴飛翔路118、および、空気回収路119を形成する。
最後に図15(e)に示す第3の工程では、第1の基板と第2の基板を貼り合わせる。はり合わせには拡散接合を用いてもよいし、接着剤を用いてもよい。
排気板9は、図16に示す方法によっても加工可能である。主な工程は図15の工程とほぼ同様であるが、図16(b)に示すように、第2の基板の加工において基板周囲をエッチングすることにより、液滴飛翔路118の壁が周囲よりも高くなるようにしている。そしてこれを第1の基板(図16(a))と貼り合わせ、図16(c)のような構造を作製する。これにより、空気排出口116へ流入する空気の流れが記録液滴の軌道に影響しにくくなり、液滴の飛翔が安定する。
その他に、図17に示す方法によっても、排気板9を作製することができる。本作製方法では、第1の基板にSOI(シリコン・オン・インシュレータ)基板を使用する。図17(a)に示す第1の工程では、第1の基板の表面のエッチングにより液滴飛翔路118および空気回収路119を形成し、さらに、裏面のエッチングにより、空気回収路119および液滴飛翔路118を形成する。これらのエッチングはICP−RIEによって行う。その後、BOX層をウェットエッチングにより除去する。次に図17(b)に示すように、第2の基板を貼り合わせ、最後に図17(c)に示すように、第2の基板をエッチングし、液滴飛翔路118を形成する。先に第2の基板をエッチングしておいてから貼り合わせを行ってもよいが、先に貼り合わせを行った方が、貼り合わせ時のアライメントが不要になり、また未加工の基板は塵埃などが付着しにくいので、貼り合わせの歩留まりが高いという利点がある。また、本方法では、SOI基板を用いるので、図15に示した第1の作製方法に比べて空気排出口116の厚さを薄くすることができる。そのため、空気排出口での流路抵抗を下げたい場合などには特に有効である。
なお、本実施例では、Si基板を用いた排気板9の製法を説明したが、その他にステンレスなど金属材料のプレス加工および接着や樹脂材料の成型によっても作製することができる。また、送風板8は排気板9と似た構成を有しており、同様の方法で作製できる。
以上述べた方法により作製したオリフィスプレート101、送風板8、帯電電極板102、第1の偏向電極板103、および第2の偏向電極板104(ガターおよびインク回収路を含む)と排気板9との接合体を図2のように積層することで、ヘッド4が完成する。また、積層の際には、絶縁性のスペーサ兼ガスケットを各部材の間に挟むことにより、部材間の間隔を一定に保つとともに、部材間の絶縁を行い、さらに空気の漏れを防ぐことができる。
また、本実施例では第1の偏向電極板103にパターニングを行わずに全体を導体面とし、第2の偏向電極板104に電極パターンを形成したが、逆に、第1の偏向電極板103にパターニングを行う一方、第2の偏向電極板104全体を導体面としてもよい。あるいは、第1の偏向電極板103および第2の偏向電極板104の双方に電極パターンを形成してもよい。第1の偏向電極板103に電極パターンを形成する方法は、第2の偏向電極板104の場合と同様とすることができる。
液体吐出ヘッドの動作
以上のように作製された液体吐出ヘッドの動作を説明する。なお、ここでは、通過する液滴列ごとに対応する個別貫通孔(図8(c))の場合について述べる。図8(a)の構成において、各部の寸法は以下のように設定する。すなわち、ノズル111から空気入口115の開口面までの距離は750μm、空気入口115開口面から第1の偏向電極板103の上端までの距離は850μmとする。また、第1の偏向電極板103の上端から、空気排出口116開口面までの距離は1450μm、空気排出口116開口面から記録液滴出口117までの距離は290μmである。さらに、ノズル111から空気入口115までは流路径40μm、空気入口115から第1の偏向電極板103の上端までは流路径300μm、第1の偏向電極板103の上端から空気排出口116開口面までは流路径200μmとする。そして、空気排出口116の開口面から記録液滴出口117までは流路径40μmの円筒形流路とする。また、記録液滴の軌道が円筒流路の中心軸と一致するように、ノズル111に位置決めされている。空気入口115は、内径50μm、外径100μmのリング状で、インクの飛翔方向と同じ向きに開口している。一方、空気排出口116は、内径50μm、外径100μmのリング状で、インクの飛翔方向に対向するように開口している。
次に、本実施例の液体吐出装置の運転条件例を挙げる。ノズル径は7.4μmとなっており、加圧ポンプ2の圧力は0.8MPaとなっている。また、加振機構3の振動数は50〜100kHz程度である。この場合、液滴サイズは4pL、吐出速度は10m/s程度となる。
本実施例では、第1の偏向電極板103から液滴飛翔路の太さが細くなっている。これにより、第1の偏向電極板103下面と第2の偏向電極板104側壁電極面(図8(a)における液滴飛翔路118左側壁)との間に作られる電場が、図8(a)における右隣のノズル111に対する第2の偏向電極板104側壁電極面によって邪魔されにくくなる。その結果、実施例1における図3(a)の構成に比べて大きな偏向量が得られる。
空気入口115での圧力を100Pa、空気排出口116での圧力を−45Pa、記録液滴出口117での圧力を0Paとして、空気の流れの様子や吐出後の記録液滴の飛翔状態を汎用流体解析ソフトFLUENT(ANSYS社)を用いて解析を行った。その結果、空気入口115および空気排出口116での流量は、ともに1.57×10-7m3/sとなり、記録液滴出口117での流量はほぼ0(5.3××10-10m3/s)となった。
このときの圧力分布は図18(a)のように、また流速ベクトル分布は図18(b)のようになった。すなわち、等圧力線が液滴の飛翔方向に垂直になっており、また図18(b)からは形流路中に層流が形成されているのがわかる。空気排出口116から記録液滴出口117までの流れをより詳しく示したものが図18(c)である。空気の流れは空気排出口116に向かっており、記録液滴出口117に向かう流れはほとんどない。また、記録液滴出口117からの外気の流入もない。また、第1の実施形態や実施例1で見られた空気排出口116付近の反転流も見られない。これは、第2の実施形態で述べたように、記録液滴出口117付近に絞り構造を設けているのと、空気排出口116が液滴飛翔路中の空気の流れに対向するように開口している効果であると考えられる。
図19は記録液滴軌道上の空気の軌道軸方向の速度を示している。ノズルからの距離1mm付近で約6.5m/sの流れが発生し、徐々に流速は落ちていくが、再び第1の偏向電極板103付近から高くなり、空気排出口116付近では10m/s程度となっている。これは、第1の偏向電極板103から液滴飛翔路の太さが細くなっていることで流速が高くなっている効果である。これにより、実施例1の図5(c)に見られたような、液滴飛翔距離が長くなるに従って空気の流速が徐々に落ちていく現象を防いでいる。特に、コンティニュアス式の液体吐出では、液滴が第1の偏向電極板103を通過するまでは等間隔の連続液滴であるため、液滴がつくる伴流によって空気抵抗による減速が少ない。一方、偏向電極板103通過後は記録液滴と非記録液滴で飛翔経路が異なるため、前後の液滴の間隔が広がり、空気抵抗の影響が大きくなるとともに、間隔が異なるので速度のばらつきが大きくなる。従って、本実施例のように第1の偏向電極板103の上流よりも下流の方が流路径が狭くなるようにしておけば、下流で大きな流速が得られ、液滴の飛翔速度ばらつきを抑える上で効果的である。また、空気流の発生位置がノズルから1mm程度のところにあるため、吐出された液柱には風の影響を与えず、液滴に分裂した直後に空気の流れに乗せることができるようになっている。空気排出口116を過ぎると、流速は大幅に減少し、記録液滴出口117付近では流れはほぼ0(0.85m/s以下)になっている。
さらに、この流量条件の空気の流れの中に、100μm離れた2つの液滴を初速10m/sで吐出させた場合の液滴の挙動を図20(a)に示す。2つの液滴間隔がほとんど変わらず、空気の流れに乗って飛翔していることがわかる。一方、図20(b)は、空気の流れを与えなかった場合の2つの液滴の飛翔の様子を示している。液滴が空気抵抗によって減速していき、また先頭液滴と後続液滴で空気抵抗の影響が異なるため、200μsで先頭液滴が後続液滴に追いつかれてしまっている。
第1および第2の制御部11,12が圧力制御部である場合には、以上の圧力に、第1の制御部11から空気入口115までの流路抵抗と、第2の制御部12から空気排出口116までの流路抵抗とによる圧力損失を設定値に加味したものにすればよい。また、流量制御部である場合には流量をともに1.57×10-7m3/sに設定値にすればよい。
(実施例3)
本発明の第3の実施例を説明する。本実施例では、図21(a)に示すように、第1の主軸方向について、第2の偏向電極を貫通孔側壁の導電面が隣接するノズルからの液滴軌道を挟んで対向する形状となっている。また、反対側の隣接ノズルに対応する液滴軌道とは貫通孔側壁の導電面によって隔てられた形状となっている。具体的に実施例2での構成(図8(a))と比較すると、図8(a)では、隣接する液滴軌道の間には、必ず第2の偏向電極の貫通孔側壁の導電面があったのに対し、図21(a)では、導電面が1ノズルおきに設けられている。さらに、導電面が形成されている側の側壁内部にはインクの回収路が設けられているのに対し、導電面が形成されていない側の側壁内部には空気の回収路119が設けられている。
また、本実施例では、第1の偏向電極板103に第2の偏向電極板104に向かって突起部105を設けている。突起部105は、第2の偏向電極板104の貫通孔側壁の第1の主軸方向に対向する2つの電極に対し、液滴の飛翔軌道を挟んで設置されており、かつ、第2の偏向電極の貫通孔内には入り込んでいない。第1の偏向電極板103は絶縁基板にエッチングや機械加工などで貫通孔および突起を形成し、さらに、表面(貫通孔および突起側面含む)に金属を成膜、パターニングすることによって作製できる。図21に本実施例の液体吐出ヘッドの下部の分解斜視図を示す。なお、図21(b)および(c)は、図8(a)および(c)と同様に、本実施例のヘッド下部の2構成例を示している分解斜視図である。
次に、図22は本実施例の第2の偏向電極板104の作製方法を示す工程図、また、図23は第2の偏向電極板104の上面図である。の第2の偏向電極板104の作製には、絶縁性基板501を材料に用いる。本作製方法によって作製される第2の偏向電極板104のインク回収路120の形状は、第2の主軸方向に延びるスリット状となっている。一方、液滴飛翔路118の形状は、スリット状(図21(b)、図23(a))、あるいは、通過する液滴列ごとに対応する基板の表面から裏面へ延びる個別貫通孔(図21(c)、図23(b))とする。ここで、重要であるのは、貫通孔側壁の電極505および上面の配線504が全面ではなく、2つの液滴軌道に挟まれた部分の側面および上面には形成されていないことである。主な作製工程は図13に示した実施例2における第2の偏向電極板104の作製方法と同様であるが、本実施例の作製方法では電極を2つの対抗する側壁面に形成するため、角度を変えた斜方蒸着を2回行う(図22(d))。この際に、電極以外の部分に導電層が形成されないようにするため、予めマスクを形成する必要がある。マスクの形成は図22(b)において行うが、ここで重要であるのは、斜方蒸着においても側壁に導電層が成膜されないように、蒸着用マスク502が液滴飛翔路に張り出した形状とすることである。蒸着用マスク502には剛性が高い厚膜レジストなどを使用する。蒸着用マスク502作製後、図22(c)に示すように、液滴飛翔路118、インク回収路120および空気回収路119のエッチングを行う。これにより、液滴飛翔路に張り出した蒸着用マスク502を形成することができる。また、フィルムレジストを使用すれば、インク回収路を形成した後(図22(c)の後)で、斜方蒸着用のマスク502を形成することもできる。さらに斜方蒸着後、蒸着用マスク502を除去することにより、蒸着用マスク502の上に成膜された導電層も合わせて除去することができる。斜方蒸着により蒸着用マスク502の側壁にも導電層が形成されて剥離が困難である場合には、蒸着用マスク502にパリレンのように柔軟で破れにくく、かつ剥離性が高いフィルム状に形成される材料を選べばよい。これによれば、溶媒を用いた溶解ではなく、引き剥がすことによって蒸着用マスク502を剥離することができる。
斜方蒸着を用いた第2の偏向電極板104の作製方法について詳細に説明したが、その他にも以下のような方法がある。Si基板に側壁電極505が必要な部分にエッチングを行い、エッチング部をめっきで埋めて電極505を形成し、さらに、インク回収路120および液滴飛翔路118をエッチングするという方法によっても作製することができる。この方法は、エッチング回数が増えて手間がかかるが、液滴飛翔路118の開口に比べて電極505を形成する深さが深く、斜方蒸着では成膜が困難な場合などに有効である。
本実施例の構成では、第2の偏向電極板104の側壁導電面を隣接する液滴軌道を挟んで対向するように配置した。このため、第2の偏向電極板104の側壁の導電面の間隔が広がり、第1の偏向電極板103との間に作る電場が第2の偏向電極板104の液滴飛翔路内部にまで進入できるようになる。これにより、帯電した飛翔液滴は、より長い時間にわたって電場の影響を受けるので、実施例2の構成に比べて大きな偏向が得られる。さらに、突起部105側壁と第2の偏向電極との間に形成される電場は液滴の飛翔方向に対して垂直に近く、また突起の影響で電極間の距離が短くなり、その間にできる等電位線の密度が高くなる。これらの理由により、さらに、実施例2の構成に比べて大きな偏向が得られる。
また、液滴回収路を第2の偏向電極板104内に設けることで、排気板9を薄くすることができる。これにより、ノズルから記録媒体までの距離を短くでき、着弾精度を高められるという利点がある。
(実施例4)
本発明の第4の実施例を説明する。本実施例は、第3の実施形態で述べた図11(a)に示す構成に基づいている。なお、以下では排気板9の構成について述べるが、送風板8の構成についても同様である。
図11(b)の排気板支流302において、各部の寸法を以下のようにする。空気排出口116はピッチ500μmで24個並んでいるとし、排気板支流302の流路断面の幅wout=450μm、高さhout=250μm、長さlout=12mmとする。また、空気排出口116の開口の内半径r1out=25μm、多孔部の厚さtout=20μm、多孔径dout=3μm、多孔度po=0.8とする。
第3の実施形態に示した式(3−18)に基づき、空気排出口116の外半径r2outを70μm、80μm、90μm、100μm、としたときの各空気排出口116での流量を計算した結果を図24(a)に示す。排気板支流302と排気板本流301の合流点での圧力を空気排出口116外側に比べて100kPa低く設定した。外半径r2outが小さくなるに従って、空気排出口116の開口面積が小さくなるため、流量が小さくなっている。また、排気板支流302の1番目の空気排出口116での流量i1と24番目の空気排出口116での流量i24との比を計算した結果が図24(b)である。外半径r2outが小さくなるに従って、空気排出口116による流量差が小さくなっており、r2outが70μmでは、i1とi24の流量差は4%程度である。
外半径r2outを75μmとし、空気排出口116外側に対する排気板支流302と排気板本流301の合流点での圧力を−70kPa、−75kPa、−80kPa、−100kPaでの各空気排出口116での流量を計算したものを図24(c)に示す。この図から、差圧が小さくなるほど流量が小さくなっているのがわかる。従って、圧力を調整することによって、所望の流量を得ることができる。
(実施例5)
本発明の第5の実施例を説明する。本実施例は、第3の実施の形態で述べた図11(a)に示す構成に基づいている。なお、以下では排気板9の構成について述べるが、送風板8の構成についても同様である。各部の寸法条件は実施例4と同様であるが、本実施例では、式(3−23)に基づいて、各空気排出口116の外半径r2outを変え、各空気排出口116での空気の流量が等しくなるようにする。
図25(a)は、1番目の空気排出口116の外半径r21を75μmとし、式(3−23)に基づいてそれ以外の空気排出口116の外半径を変えた場合の各外半径および流路抵抗を計算したものである。排気板支流302と排気板本流301の合流点から離れるに従って空気排出口116の流路抵抗を小さくしている。
各空気排出口116の外半径を最適な値にした場合の計算結果を示すに、図25(b)は、1番目の空気排出口116の外半径r21と空気排出口116の流量i1との関係を表している。外半径r21が大きくなるに従って、空気排出口116の開口面積が大きくなるため、流量が大きくなっている。次に、空気排出口116外側に対する排気板支流302と排気板本流301の合流点での圧力を変えた場合の空気排出口116の流量i1(=i2=・・・=i24)を図25(c)に示す。差圧にほぼ比例して、流量が変化しているのがわかる。
以上のように、空気排出口116の外半径をそれぞれ最適な値にすることで、空気排出口116ごとに流路抵抗を変え、各空気排出口116での空気の流量が等しくなるようにすることができる。外半径の他にも、内半径などを変えることによって、同様に流路抵抗を最適な値にすることができる。あるいは、空気排出口116を微細孔の集合体とし、孔の数を変えることで、所望の流路抵抗を得るようにしてもよい。
本発明の液体吐出ヘッドでは、着弾精度を高めるにはノズルから記録媒体までの距離をなるべく小さくすることが好ましく、そのため排気板9の厚さはなるべく薄い方がよい。また、高精細な記録を行うにはノズルピッチが小となるので、排気板支流302の流路抵抗は高くなる傾向がある。実施例4の構成では、空気排出口116間の流量差を小さくするため、空気排出口116での流路抵抗を排気板支流302での圧力損失よりもなるべく大きくする必要がある。従って、排気板9全体の流路抵抗が大きくなってしまい、必要な空気の流量を得るためには、大きな圧力差を必要とする。それに比べて実施例5の方法では、空気排出口116での流路抵抗を排気板支流302での圧力損失よりも大きくする必要がないので、排気板9全体の流路抵抗が大きくならず、小さな圧力差で所望の流量を得られるという利点がある。