本発明は、外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む組換えベクター及びその作製方法に関する。さらに本発明は、上記組換えベクターを作製する方法を利用したDNA型RNAiライブラリーを作製する方法及びこのライブラリーを利用した標的遺伝子に対してRNAi効果を有する逆方向反復配列を判定及びスクリーニングする方法に関する。
近年、RNAi(RNA interference;RNA干渉)ライブラリーを用いて機能的かつ網羅的に免疫反応などの生物の生命現象に関わる因子のスクリーニングが実施されている。RNAiライブラリーを作製する方法としては、これまでに直接合成型RNAiライブラリー作製法とDNA型RNAiライブラリー作製法の二つのアプローチが試みられてきた。
直接合成型RNAiライブラリー作製法は、RNAiの標的遺伝子の塩基配列情報に基づいて、DNA/RNAシンセサイザーなどを利用して二本鎖RNAを合成することにより、RNAiライブラリーを構築する方法である。本法によれば、種々の長さを持つ二本鎖RNAからなるRNAiライブラリーを作製することができる。しかし、本法は、ゲノム配列が明らかになった一部の生物にしか利用できず、かつ作業性及び経済性の面から大規模なライブラリーを作製することが困難であるなどの問題点がある。
DNA型RNAiライブラリーは、標的遺伝子の逆方向反復配列(inverted repeat)を一本鎖上に含む核酸を含有する組換えベクターから構成される。DNA型RNAiが標的遺伝子を発現する宿主細胞に導入されると、上記逆方向反復配列の情報に基づいて細胞内にステムループRNAが産生され、このRNAによるRNAi効果により標的遺伝子はノックダウンされる。
DNA型RNAiを簡便に作製する方法として、Gateway法が知られている(非特許文献1)。Gateway法を利用すれば、ある特定の核酸の塩基配列に基づいて特定の逆方向反復配列を持つ核酸を作製することができる。しかし、種々の核酸の塩基配列から同一作製条件下(例えば、一つの試験管内)で1回又は数回で逆方向反復配列を持つ核酸を作製することはできない。したがって、Gateway法を用いてRNAiライブラリーを作製することは非常に困難とされている。
そこで、Gateway法を用いない、DNA型RNAiを作製する方法として種々の方法がこれまでに試みられてきた(特許文献1及び2、非特許文献2)。
特許文献1に記載の方法は、一本鎖にするとステムループ構造をとり、かつステム部分に制限酵素部位を持つ核酸が組み込まれているプラスミドを用いる方法である。特許文献1に記載の方法の概略は次の通りである。まず、プラスミドDNAを一本鎖にする。次いで、ステム部分を制限酵素で切断することによりループ部分とレプリコン部分に分離する。次いで、外来DNA断片をループ部分とレプリコン部分の間に挿入する。次いで、DNA複製反応により二本鎖プラスミドに戻して、外来DNA断片の逆方向反復配列を含むプラスミド、すなわちDNA型RNAiを得る。
特許文献2及び非特許文献2に記載の方法は、ヘアピン型のアダプターDNAを利用することによりDNA型RNAiを得る方法である。その概略は以下の通りである。まず、MmeIの認識部位を持つヘアピン型の第一のアダプターを外来DNA断片の一端に連結させる。次いで、MmeIで処理した後、標的核酸断片の他端に第二のアダプターを連結させる。次いで、第二のアダプターに相補的なプライマーを用いてDNA合成することにより、DNA型RNAiを作製することができる。
特表2005−502383号公報
WO2005/06938
Genes Genet.Syst. 81, 129-134, 2006
Nat. Genet. 36, 190-196, 2004
RNAi反応は配列依存性が高いので逆方向反復配列が長いほどRNAi効果の高い配列を含む確率が高まる。特に、植物や昆虫等では長鎖のRNAiを利用することができるので、効率よく標的遺伝子をノックダウンすることができる。したがって、例えば、昆虫の特定の遺伝子をノックダウンさせる際に、逆方向反復配列部分が100塩基対以上の長鎖DNA型RNAiが有効に利用され得る。
特許文献1に記載の方法は、組換えベクターに挿入した100塩基対以上の外来DNA断片の塩基配列を逆方向反復配列に変換できる。しかし、本法は、プラスミドDNAを一本鎖に調製しなければならず、さらにループ部分、外来DNA断片及びレプリコン部分の間でライゲーション反応をしなければならない。プラスミドDNAの一本鎖は不安定であり、容易に高次構造をとり得る。異なる三つの断片のライゲーション反応は、各断片の末端部の接近効率が悪いことから、反応効率の低い反応である。これらの理由によって、本願発明者らは、本法を利用してDNA型RNAiライブラリーを作製することは技術的に困難であると考えた。
特許文献2及び非特許文献2に記載の方法は、逆方向反復配列部分が20塩基対程度の、短鎖DNA型RNAiライブラリーを構築する際に用いられる手法である。そこでまず、本発明者らは、本方法を改良することにより、長鎖DNA型RNAiライブラリーを作製することができると考えた。しかし、本願発明者らは、種々検討した結果、短鎖の逆方向反復配列をもつDNAと比べて、長鎖の逆方向反復配列をもつDNAを発現ベクターに組み込ませることは困難なことであり、長鎖DNA型RNAiライブラリーを作製することができなかった。
そこで本発明は、大規模な長鎖DNA型RNAiライブラリーを、同一作製条件下で一回又は数回で作製することができる方法を提供することを解決すべき課題とした。さらに、本発明は、上記長鎖DNA型RNAiライブラリーを作製する際に用いられる、核酸、組換えベクター、形質転換体などの部品を提供することを解決すべき課題とした。さらに、本発明は、上記長鎖DNA型RNAiライブラリーから標的遺伝子の発現量を低下させるDNA型RNAiを評価・選抜する方法を提供することを解決すべき課題とした。
本発明者らは、上記課題を解決するために、外来DNA断片を発現ベクターに組み込み、制限酵素処理した後、ステムループ構造を持つ外来DNAリンカーを制限酵素切断部位に結合させ、片鎖をニッキングエンドヌクレアーゼによりニックを入れ、DNAポリメラーゼ及びリガーゼにより二本鎖を再合成する方法を創作した。しかし、この方法では外来DNA断片の逆方向反復配列を持つ組換えベクターを得ることができなかった。この理由について検討した結果、外来DNAリンカーのライゲーション反応効率に問題があることを見出した。そこで、本願発明者らは、外来DNAリンカーを用いずに長鎖外来DNA断片の逆方向反復配列を持つ組換えベクターを作製することに成功した。さらに、この作製法によれば、複数の長鎖外来DNA断片から同一作製条件下で1回又は数回で長鎖外来DNA断片の逆方向反復配列を持つ複数の組換えベクターを作製することができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成された発明である。
本発明の外来DNA断片の逆方向反復配列を含む組換えベクターを作製する方法は、第一の制限酵素とニッキングエンドヌクレアーゼ処理後に、熱処理とその後のアニーリング反応によってベクターDNAの末端がループ構造になり、さらにこのループ構造で生じているニックの部分をうめることができるという点及び、この中間体の挿入された外来DNA断片の末端の逆側にニックを入れるとそこから鎖置換伸長反応によって、外来DNA断片が逆方向反復配列に変換されるという点を特徴とする方法である。
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]二本鎖の一方の鎖が、5’から3’の方向に、
第一のニッキングエンドヌクレアーゼの切断部位、
外来DNA断片の挿入領域、
第二のニッキングエンドヌクレアーゼの切断部位、
スペーサー領域を挟んでなる逆方向反復配列、及び
第一の制限酵素の切断部位
を含む核酸。
[2]外来DNA断片の挿入領域が第二の制限酵素の切断部位、又は第二の制限酵素の切断部位及び第三の制限酵素の切断部位を含む、上記[1]に記載の核酸。
[3]スペーサー領域が少なくとも50塩基の長さである、上記[1]又は[2]に記載の核酸。
[4]第一のニッキングエンドヌクレアーゼ及び第二のニッキングエンドヌクレアーゼが、互いに異なり、Nb.BbvCI、Nb.BsmI、Nb.BsrDI、Nb.BtsI、Nt.AlwI、Nt.BbvCI、Nt.BspQI、Nt.BstNBI、及びNt.CviPIIからなる群から選ばれる酵素である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の核酸。
[5]第一の制限酵素が、認識部位が6塩基以上である制限酵素からなる群から選ばれる酵素である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の核酸。
[6]第二の制限酵素及び第三の制限酵素が、互いに異なり、かつ第一の制限酵素と異なって、認識部位が6塩基以上である制限酵素からなる群から選ばれる酵素である、上記[2]〜[5]のいずれかに記載の核酸。
[7]外来DNA断片の挿入領域に、任意の外来DNA断片が挿入されている、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の核酸。
[8]外来DNA断片の長さが少なくとも100塩基の長さである、上記[7]に記載の核酸。
[9]上記[1]〜[8]のいずれかに記載の核酸を発現可能な状態で含有する組換えベクター。
[10]上記[9]に記載の組換えベクターを含有する形質転換体。
[11]形質転換体が、微生物、植物又は昆虫である上記[10]に記載の形質転換体。
[12]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の核酸を、発現可能な状態で発現ベクターに挿入して、組換えベクターを得る工程;
逆方向反復配列の鋳型となる外来DNA断片を、前記組換えベクター内に挿入された核酸における外来DNA断片の挿入領域に挿入して、外来DNA断片を含む組換えベクターを得る工程;
前記外来DNA断片を含む組換えベクターを、第二のニッキングエンドヌクレアーゼ及び第一の制限酵素で処理して、ニック入り切断組換えベクターを得る工程;
前記ニック入り切断組換えベクター内に挿入された核酸におけるスペーサー領域を挟んでなる逆方向反復配列においてステムループ構造を形成させて、第一のステムループ構造を含むニック入り切断組換えベクターを得る工程;
前記第一のステムループ構造を含むニック入り切断組換えベクターを、リガーゼで処理して、ステムループ構造を含む切断組換えベクターを得る工程;
前記ステムループ構造を含む切断組換えベクターを、第一のニッキングエンドヌクレアーゼ及び第一の制限酵素で処理して、第二のステムループ構造を含むニック入り切断組換えベクターを得る工程;
前記第二のステムループ構造を含むニック入り切断組換えベクターを鎖置換型DNA合成酵素で処理して、外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む切断組換えベクターを得る工程;
前記外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む切断組換えベクターをエキソヌクレアーゼで処理して、切断面が平滑末端である組換えベクターを得る工程;及び
前記切断面が平滑末端である組換えベクターをリガーゼで処理して、外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む組換えベクターを得る工程
を含む、外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む組換えベクターを作製する方法。
[13]外来DNA断片の長さが少なくとも100塩基である、上記[12]に記載の方法。
[14]鎖置換型DNA合成酵素がPhi29 DNA polymerase、Klenow fragment、Bst DNA polymerase、及びBcaBEST DNA polymeraseからなる群から選ばれる酵素である、上記[12]又は[13]に記載の方法。
[15]複数の外来DNA断片及び複数の発現ベクターを用いて、上記[12]〜[14]のいずれかに記載の方法により、前記外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む複数の組換えベクターを作製して、DNA型RNAiライブラリー得る工程
を含む、DNA型RNAiライブラリーを作製する方法。
[16]同一作製条件下で前記外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む複数の組換えベクターを作製することを特徴とする、上記[15]に記載の方法。
[17]複数の外来DNA断片がRNAiの標的遺伝子の塩基配列を含む核酸をランダムに切断して得られた二本鎖DNA断片である、上記[15]又は[16]に記載の方法。
[18]外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む組換えベクターを、RNAiの標的となる遺伝子を発現する宿主細胞に導入して形質転換体を得る工程;
形質転換体を培養して、形質転換体培養物を得る工程;
前記形質転換体培養物における標的遺伝子の発現量を測定する工程;及び
未形質転換の宿主細胞と比べて、標的遺伝子の発現量に影響を与えている形質転換体に導入された前記逆方向反復配列を、RNAi効果を有する逆方向反復配列と判定する工程
を含む、RNAi効果を有する逆方向反復配列の判定方法。
[19]外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む組換えベクターが、上記[12]〜[14]のいずれかに記載の方法により作製された組換えベクターである、上記[18]に記載の方法。
[20]外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む組換えベクターが、上記[15]又は[16]に記載の方法により作製されたDNA型RNAiライブラリーから選ばれる組換えベクターである上記[18]に記載の方法。
[21]上記[18]〜[20]のいずれかに記載の方法により、DNA型RNAiライブラリーからRNAi効果を有する逆方向反復配列を選抜する工程
を含む、RNAi効果を有する逆方向反復配列のスクリーニング方法。
[22]DNA型RNAiライブラリーが上記[15]〜[17]のいずれかに記載の方法により作製されたDNA型RNAiライブラリーである、上記[21]に記載の方法。
[23]標的遺伝子が昆虫免疫関与遺伝子の転写制御に関わる遺伝子又は昆虫DNAウイルスの侵入に関わる遺伝子である、上記[17]〜[22]のいずれかに記載の方法。
本発明によれば、異なる長鎖cDNAがそれぞれ挿入された複数のプラスミドを一つのチューブ内に入れた場合、それぞれ挿入されたcDNAを一気に逆方向反復配列にすることができる。本発明によれば、発現プラスミドに挿入されたcDNAを簡便に逆方向反復配列構造に変換でき、これを直接培養細胞でのRNAiによる目的遺伝子のノックダウン実験に用いることができる。さらに、本発明によれば、cDNA発現プラスミドライブラリーから長鎖DNA型RNAiライブラリーの構築ができる。
昆虫や植物などは逆方向反復配列部分が100bp以上の長鎖型のものを用いても細胞障害は起こらず、かつ効果の高い配列を含む確率が上がる長鎖型を用いることによりRNAi効果が上昇することから、本発明で作製された長鎖DNA型RNAiライブラリーを用いれば、微生物、昆虫及び植物等において簡便で効率よく生命現象に関わる因子の機能的探索及び同定が可能となる。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の核酸は、二本鎖の一方の鎖が、5’から3’の方向に、第一のニッキングエンドヌクレアーゼの切断部位、外来DNA断片の挿入領域、第二のニッキングエンドヌクレアーゼの切断部位、スペーサー領域を挟んでなる逆方向反復配列、及び第一の制限酵素の切断部位を含む核酸である。
一般的に、逆方向反復配列とは、第一の塩基配列及び該塩基配列と相補的な塩基配列の逆方向の塩基配列を同一鎖上に含む配列を意味する。例えば、上記第一の塩基配列が5’から3’の方向にATCGCGという配列であるならば、逆方向反復配列は、5’から3’の方向にATCGCG−(N)n−CGCGATという配列をとる。ここで、(N)nは逆方向反復配列の間に含みうる塩基を意味する。例えば、NはA、T、C及又はGの任意の塩基を、nは塩基の0又は1以上の任意の数を表す。(N)nは、例えば、ATCGなどを具体例として挙げることができる。
第一のニッキングエンドヌクレアーゼ及び第二のニッキングエンドヌクレアーゼは、二本鎖核酸の特定の塩基配列を認識して、二本鎖核酸の片方の鎖を切断してニックを入れる酵素であって、互いに異なる認識部位及び切断部位を持つ酵素であれば特に制限されないが、例えば、Nb.BbvCI、Nb.BsmI、Nb.BsrDI、Nb.BtsI、Nt.AlwI、Nt.BbvCI、Nt.BspQI、Nt.BstNBI、Nt.CviPIIなどを挙げることができる。
本明細書にいう「切断部位」とは、制限酵素やニッキングエンドヌクレアーゼなどにより切断される部位を意味する。切断部位は、これらの酵素の認識部位の内部に存在しない場合もあり得るが、好ましくは認識部位の内部に存在することが好ましい。
本発明の核酸における第一のニッキングエンドヌクレアーゼの切断部位と第二のニッキングエンドヌクレアーゼの切断部位とは、互いに同じ鎖上にあっても、互いに異なる鎖上にあってもよいが、互いに異なる鎖上にあることが好ましい。
制限酵素は、二本鎖核酸の特定の塩基配列を認識して、二本鎖核酸の両方の鎖を切断する酵素であれば特に制限されない。第一の制限酵素、第二の制限酵素及び第三の制限酵素は、互いに異なる認識部位及び切断部位を持つ制限酵素であれば特に制限されず、例えば、StyI、EcoRI、MluI、NcoI、ApaI、ApaLI、SpeI、BamHI、BglII、SpeI、NheI、SphI、SalI、XbaI、NdeI、PvuII、PstI、DraI、DraIII、XhoI、NotI、HindIII、HincII、KpnIなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。さらに、第一の制限酵素、第二の制限酵素及び第三の制限酵素は、本発明の核酸を挿入する予定の発現ベクターの中にないものが好ましく、かつ認識部位が4塩基以上、好ましくは認識部位が6塩基以上のものが好ましい。
外来DNA断片は、本発明の核酸に組み込むことができるDNA断片であれば特に制限されず、その種類や長さは制限なく任意に設定することができる。外来DNA断片の長さは、例えば、30〜10000塩基、好ましくは50〜1000塩基、より好ましくは100〜500塩基、なおさらに好ましくは200〜400塩基である。外来DNA断片の塩基配列は、既知及び未知の塩基配列のいずれも用いることができ、例えば、ノックダウンさせるべき遺伝子(標的遺伝子)の塩基配列を知ることができるのであれば、その標的遺伝子に基づいて設計したものを用いることができる。
本発明の核酸における外来DNA断片の挿入領域は、外来DNA断片を挿入することができる領域であれば特に制限されないが、例えば、第一のニッキングエンドヌクレアーゼ及び第二のニッキングエンドヌクレアーゼと同一の認識部位を持つ制限酵素の切断部位を含む領域や1種又は2種の制限酵素の切断部位を含む領域などを挙げることができる。ニッキングエンドヌクレアーゼと同一の認識部位を持つ制限酵素としては、例えば、Nb.BbvCIと同一の認識部位を持つBbvCIが挙げられる。二つの制限酵素の切断部位を含む領域としては、例えば、XhoIとKpnIの認識部位を含む領域を挙げることができる。具体的には、XhoI認識部位を含むプライマー及びKpnI認識部位を含むプライマーを用いて標的遺伝子の塩基配列を含む核酸を増幅することによりXhoI及びKpnIの認識部位を含む外来DNA断片とし、これをXhoI及びKpnIを用いて本発明の核酸の外来DNA断片の挿入領域に挿入することができる。本発明の核酸の別の態様として、上記外来DNA断片の挿入領域に外来DNA断片が挿入されている核酸も含めることができる。
スペーサー領域を挟んでなる逆方向反復配列は、第一の塩基配列とスペーサー領域と第一の塩基配列に対して少なくとも一部が逆方向の配列を含む配列である。スペーサー領域を挟んでなる逆方向反復配列は、本発明の核酸を一本鎖にした後に、第一の塩基配列と第一の塩基配列に対して少なくとも一部が逆方向の配列の間で少なくとも一部で二本鎖を形成し、かつスペーサー領域がループ構造を形成することにより、ステムループ構造を形成する。逆方向反復配列である、第一の塩基配列と第一の塩基配列に対して少なくとも一部が逆方向の配列は、本発明の核酸を一本鎖にした後に互いに少なくとも一部で二本鎖を形成することができれば特に制限されることはないが、好ましくはそれぞれの長さが5〜35塩基、より好ましくは10〜30塩基、さらに好ましくは15〜25塩基、より好ましくは20塩基である。さらに、逆方向反復配列は、本発明の核酸を含有する組換えベクターを導入する宿主細胞中には存在せず、かつオフターゲット(非特異RNAi効果)を引き起こすCANリピート構造(例えば、(CAA)n、(CAG)n、(CAC)n及び(CAT)nであり、nが6以上のトリプレットリピート構造)をとっていないことが好ましい。スペーサー領域は、ループ形成時にDNAの二次構造をとりうる配列でなければ特に制限されるものではないが、好ましくはその長さは20塩基以上、より好ましくは30塩基以上、さらに好ましくは40塩基以上、なおさらに好ましいのは50塩基以上である。スペーサー領域は、SacIなどの制限酵素認識・切断部位が存在することが好ましい。逆方向反復配列が二次構造を形成することなどの理由により、逆方向反復配列をシークエンシングしようとした場合、シークエンス反応効率が低下する傾向にある。スペーサー領域内の一部を切断することができれば、組換えベクターをlinearにすることができ、上記反応効率の低下を回避することができる。すなわち、逆方向反復配列を確認するために、スペーサー領域内に制限酵素認識部位を入れることが好ましい。スペーサー領域が短すぎると、本発明の核酸を含有する組換えベクターを宿主細胞に導入した際に、ベクターの変異や欠失等を引き起こす可能性が高くなる。
本発明の核酸は、5’末端と3’末端に発現ベクターに挿入される部位を含めることができる。例えば、5’末端と3’末端のそれぞれに第一、第二及び第三の制限酵素と異なる制限酵素の認識部位を含めることができる。したがって、本発明の核酸は、5’末端と3’末端を介して発現ベクターに挿入することができる。
本発明の核酸は、上記した切断部位、挿入領域、5’末端部と3’末端部以外にも、これらの部位や領域を認識・切断する酵素以外の任意の酵素に認識・切断される部位やその他の塩基配列が挿入してあってもよい。例えば、本発明の核酸は、逆方向反復配列中にCspCIで認識される部位(CAA(N)5GTGGを認識)を設けることができる。CspCIは上記部位を認識して、認識部位から5’側に10−11塩基の部位と3’側の12−13塩基の部位を切断する。これにより、ステムループ構造を形成させた際に、ステムに相当する配列(逆方向反復配列)の片方を取り除くことができ、ループ配列を長くすることができる。
本発明の核酸は、上記した構成をとることができれば、その作製方法は特に制限されず、DNA/RNAシンセサイザーなどの装置や常法に従い作製することができる。本発明の核酸は、例えば、外来DNA断片由来の逆方向反復配列を作製する際に用いられ得る。例えば、本発明の核酸は、本発明の外来DNA断片の逆方向反復配列を含む組換えベクターを作製する方法や本発明のDNA型RNAiライブラリーを作製する方法に用いることができる。
本発明の核酸の具体例は、実施例に記載の式(I)の核酸を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
本発明の別の側面によれば、本発明の核酸を発現可能な状態で含有する組換えベクターが提供される。本発明の組換えベクターは、例えば、本発明の核酸の5’末端及び3’末端を発現ベクターのマルチクローニングサイトに挿入して作製することができる。本発明の核酸を発現可能な状態とするために、宿主として大腸菌(Escherichia coli)や枯草菌(Bacillus subtilis)などの細菌を使用する場合は、例えば、プロモーター、オペレーター領域(プロモーター、オペレーター及びリボゾーム結合領域(SD領域)を含む)、開始コドン、終止コドン、ターミネーター領域、及びプラスミド複製可能単位などを有する。また、酵母等の真菌細胞または動物細胞を宿主細胞として用いる場合は、一般に、プロモーター、開始コドン、及び終止コドンなどを有する。また、本発明の組換えベクターは、必要に応じて、エンハンサーなどのシスエレメント、非翻訳領域、スプライシング接合部、ポリアデニレーション部位、複製可能単位、相同領域、選択マーカーなどを含むことができる。これらのエレメントは、本発明の組換えベクターが導入されるべき宿主に対応したものであれば、特に制限されず、技術常識に基づいて選択することができる。
なお、選択マーカーとしては、特に制限されず、例えば遺伝子発現に使用される宿主が細菌の場合は、薬剤抵抗性遺伝子(例えば、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、シクロヘキシミド耐性遺伝子、テトラマイシン耐性遺伝子など)、宿主が細菌以外の例えば酵母などの場合は、栄養要求性遺伝子(例えば、HIS4、URA3、LEU2、ARG4など)などを始めとする公知の各種選択マーカーを利用することもできる。
本発明の組換えベクターは、本発明の核酸が発現可能な状態であるために、例えば、本発明の核酸の上流にはプロモーター領域などの転写開始及び調節領域があり、その下流にはターミネーター領域などの転写終結領域がある。本発明の組換えベクターの構築は、DNA組換えの一般的な方法、例えばMolecular Cloning (1989) (Cold Spring Harbor Lab.)に記載される方法に従って行うことができる。
発現ベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、シャトルベクター、ファージベクター、レトロトランスポゾン、ウイルスベクターなどを制限なく挙げることができる。発現ベクターとしては、例えば、宿主細胞が昆虫細胞である場合、pIEx−1、pIEx−2、pIEx−4(Novagen)、pIZ/V5−His、pIZT/V5−His(Invitrogen)などが使用でき;宿主細胞が植物細胞である場合、pBI121(Clonetech)、pMLH7133などが使用でき;宿主細胞が酵母である場合は、pNMT1−TOPO(Invitrogen)、pYES2(Invitrogen)、YEp13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、Ycp5O(ATCC37419)、pHS19、pHS15などを使用できるが、これらに限定されるものではない。これらの発現ベクターは、導入されるべき宿主の種類によって適宜選択して用いられ得る。本発明の組換えベクターは、例えば、外来DNA断片の逆方向反復配列を作製するために用いることができ、より具体的には、本発明の外来DNA断片の逆方向反復配列を含む組換えベクターを作製する方法や本発明のDNA型RNAiライブラリーを作製する方法に用いることができる。
本発明の形質転換体は、本発明の組換えベクターを含有する形質転換体である。組換えベクターの宿主細胞への導入(形質転換)方法は、特に制限されず、トランスフォーメーション法、トランスフェクション法、コンピテント細胞法、エレクトロポレーションなど、導入する宿主細胞の種類や組換えベクターの形態に応じて、適宜選択することができる。宿主細胞としては、本発明の組換えベクターに合わせて適宜調整され、外来DNA断片の宿主または発現媒体として作用する能力を有する細胞であり、例えば、微生物、植物又は昆虫が挙げられる。なお、組換えベクターの宿主細胞内での存在様式は特に制限されず、染色体中に挿入されても、あるいは置換されて組み込まれてもよいし、またプラスミド状態で存在していてもよい。
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、例えば、本発明の組換えベクターおよびバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、ステムループRNAを発現させることができる。
バキュロウイルスとしては、例えば、ヨトウガ科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等を用いることができる。また、昆虫細胞としては、Trichoplusia niの卵巣細胞であるHiFive(インビトロジェン社製)等を用いることができる。組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への組換えベクターと上記バキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法またはリポフェクション法等を挙げることができる。
本発明の形質転換体の培養に用いる栄養培地としては、炭素源、窒素源、無機物、ウシ胎児血清および必要に応じ使用菌株の必要とする微量栄養素を程よく含有するものであれば、天然培地、合成培地のいずれでもよい。
本発明の形質転換体の培養に用いる栄養培地の炭素源としては、該形質転換体が資化しうる物であればよく、例えば、グルコース、マルトース、フラクトース、マンノース、トレハロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、デンプン、デキストリン、糖蜜などの糖質、またはクエン酸、コハク酸などの有機酸、またはグリセリンなどの脂肪酸も使用することができる。
本発明の形質転換体の培養に用いる栄養培地の窒素源としては、各種有機および無機の窒素化合物、さらに培地は各種の無機塩を含むことができる。たとえば、コーンスチープリカー、大豆粕、あるいは各種ペプトン類等の有機窒素源、そして塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、リン酸アンモニウム等の無機窒素源などの化合物が使用可能である。また、グルタミン酸などのアミノ酸および尿素などの有機窒素源が炭素源にもなることはいうまでもない。さらに、ペプトン、ポリペプトン、バクトペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、大豆粉、大豆粕、乾燥酵母、カザミノ酸、ソリュブルベジタブルプロテイン等の窒素含有天然物も窒素源として使用できる。
本発明の形質転換体の培養に用いる栄養培地の無機物としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などが適宜用いられる。具体的には、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等が用いられる。さらに、必要に応じて、アミノ酸ならびにビオチンおよびチアミンなどの微量栄養素ビタミンなども適宜用いられる。
本発明の形質転換体の培養法としては、特に制限されず、固体培養法でも液体培養法(振とう培養法もしくは通気攪拌培養法)でもいずれを用いてもよい。培養温度とpHは、使用する形質転換体の増殖に適した条件を選べばよい。たとえば、形質転換体が昆虫細胞の場合の培養は、通常、温度20〜35℃、好ましくは20〜30℃、より好ましくは25℃であり、pH5〜9、好ましくは6〜8から選ばれる条件で行われる。培養時間は細胞が増殖し始める時間以上の時間であればよく、好ましくは8〜120時間である。細胞の増殖を確認する方法は特に制限はないが、たとえば、培養物を採取して顕微鏡で観察してもよいし、吸光度で観察してもよい。
本発明の形質転換体の培養において、組換えベクターに選択マーカーを含有させている場合などでは、選択マーカーに対応した抗生物質を栄養培地とともに加える。たとえば、選択マーカーとしてアンピシリン耐性遺伝子およびクロラムフェニコール耐性遺伝子を含有する場合は、適当な濃度に調製したアンピシリン溶液およびクロラムフェニコール溶液をそれぞれ加える。また、必要であれば、発現誘導剤を培養開始時または培養開始から形質転換体の増殖を確認した後に加えることができる。具体的には、発現誘導剤としては、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を挙げることができる。
例えば、宿主細胞がカイコ胚由来培養細胞NIAS−Bm−Oyanagi 2である場合は、ウシ胎児血清及びAntibiotic−Antimycotic(100×)(GIBCO)を含むIPL−41(GIBCO)で約80−90%コンフルエントとなるまで培養することができる。その際の培養温度は20〜35℃、好ましくは25℃であり、培養時間は12〜72時間、好ましくは24〜48時間に設定することができる。トランスフェクションには、FuGENE HD Transfection Reagent(Roche)を用いることができる。
本発明の形質転換体を得る方法及び本発明の形質転換体を培養する方法は、上記した方法に制限されず、適宜常法に従い又は常法を応用して行うことができる。
本発明の外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む組換えベクターを作製する方法(例えば、図5の工程1〜9を含む方法)は、本発明の核酸を、発現可能な状態で発現ベクターに挿入して、組換えベクターを得る工程(例えば、図5の工程1)、逆方向反復配列の鋳型となる外来DNA断片を、前記組換えベクター内に挿入された核酸における外来DNA断片の挿入領域に挿入して、外来DNA断片を含む組換えベクターを得る工程(例えば、図5の工程2)、前記外来DNA断片を含む組換えベクターを、第二のニッキングエンドヌクレアーゼ及び第一の制限酵素で処理して、ニック入り切断組換えベクターを得る工程(例えば、図5の工程3)、前記ニック入り切断組換えベクター内に挿入された核酸におけるスペーサー領域を挟んでなる逆方向反復配列においてステムループ構造を形成させて、第一のステムループ構造を含むニック入り切断組換えベクターを得る工程(例えば、図5の工程4)、前記第一のステムループ構造を含むニック入り切断組換えベクターを、リガーゼで処理して、ステムループ構造を含む切断組換えベクターを得る工程(例えば、図5の工程5)、前記ステムループ構造を含む切断組換えベクターを、第一のニッキングエンドヌクレアーゼ及び第一の制限酵素で処理して、第二のステムループ構造を含むニック入り切断組換えベクターを得る工程(例えば、図5の工程6)、前記第二のステムループ構造を含むニック入り切断組換えベクターを鎖置換型DNA合成酵素で処理して、外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む切断組換えベクターを得る工程(例えば、図5の工程7)、前記外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む切断組換えベクターをエキソヌクレアーゼで処理して、切断面が平滑末端である組換えベクターを得る工程(例えば、図5の工程8)、及び前記切断面が平滑末端である組換えベクターをリガーゼで処理して、外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む組換えベクターを得る工程(例えば、図5の工程9)を含む方法である。
本発明の外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む組換えベクターを作製する方法は、上記工程を含む方法であれば特に制限されず、例えば、他の工程を適宜含むこともできる。本発明の外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む組換えベクターを作製する方法は、例えば、実施例に記載の式(I)の核酸を用いた方法を挙げることができ、その概略は図5により表される。
外来DNA断片を含む組換えベクターを、第二のニッキングエンドヌクレアーゼ及び第一の制限酵素で処理して、ニック入り切断組換えベクターを得る工程(例えば、図5の工程3)において、外来DNA断片を含む組換えベクターを、第二のニッキングエンドヌクレアーゼ及び第一の制限酵素のいずれか一方の酵素で処理した後に他方の酵素で処理することもできるし、それらを組み合わせて同時に処理することもできる。すなわち、上記工程は、外来DNA断片を含む組換えベクターを、第二のニッキングエンドヌクレアーゼ及び第一の制限酵素で処理して、ニック入り切断組換えベクター(例えば、図5の工程3及び4の間の組換えベクター)を得ることができれば特に制限されるものではない。
ニック入り切断組換えベクター内に挿入された核酸におけるスペーサー領域を挟んでなる逆方向反復配列においてステムループ構造を形成させて、第一のステムループ構造を含むニック入り切断組換えベクターを得る工程(例えば、図5の工程4)において、スペーサー領域を挟んでなる逆方向反復配列におけるステムループ構造の形成は、ニック入り切断組換えベクターの二本鎖が変性する温度下に置き、次いで上記逆方向反復配列がアニーリングしてステムループ構造を形成する温度に置くことにより達成できる。例えば、ステムループ構造の形成は、ニック入り切断組換えベクターを75〜100℃程度、好ましくは85〜95℃程度に加熱し、次いで50〜10℃程度、好ましくは40〜20℃程度にまで徐々に冷却することにより達成することができる。ただし、上記工程は、ニック入り切断組換えベクター内に挿入された核酸におけるスペーサー領域を挟んでなる逆方向反復配列においてステムループ構造を形成させて、第一のステムループ構造を含むニック入り切断組換えベクター(例えば、図5の工程4及び5の間の組換えベクター)を得ることができれば、上記加熱・冷却方法により制限されない。
ステムループ構造を含む切断組換えベクターを、第一のニッキングエンドヌクレアーゼ及び第一の制限酵素で処理して、第二のステムループ構造を含むニック入り切断組換えベクターを得る工程(例えば、図5の工程6)において、ステムループ構造を含む切断組換えベクターを、第一のニッキングエンドヌクレアーゼ及び第一の制限酵素のいずれか一方の酵素で処理した後に他方の酵素で処理することもできるし、それらを組み合わせて同時に処理することもできる。すなわち、上記工程は、ステムループ構造を含む切断組換えベクターを、第一のニッキングエンドヌクレアーゼ及び第一の制限酵素で処理して、第二のステムループ構造を含むニック入り切断組換えベクター(例えば、図5の工程6及び7の間の組換えベクター)を得ることができれば特に制限されるものではない。
本発明の方法におけるニッキングエンドヌクレアーゼ、制限酵素、リガーゼ、鎖置換型DNA合成酵素、エキソヌクレアーゼは、常法に従い用いることができる。例えば、これらの酵素は実施例に記載の方法により使用することができる。
例えば、リガーゼとしてはT4 DNAリガーゼなどを制限なく挙げることができる。エキソヌクレアーゼとしては3’突出末端を平滑化するエキソヌクレアーゼであれば特に制限されず、T4 DNAポリメラーゼ、Mung beanヌクレアーゼ、SIヌクレアーゼなどを挙げることができる。例えば、鎖置換型DNA合成酵素としては、Phi29 DNA polymerase(ニューイングランドバイオラブス社)、Klenow fragment(タカラなど)、Bst DNA polymerase(ニューイングランドバイオラブス社)、BcaBEST DNA polymerase(タカラ)などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
第二のステムループ構造を含むニック入り切断組換えベクターにおいて、ニックは、鎖置換型DNA合成酵素により、外来DNA断片の一本鎖、ステムループ構造及び外来DNA断片の他方の一本鎖を含む領域を鋳型としてDNA合成反応が行われるために挿入される。
本発明の方法により作製された外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む組換えベクターにおいて、該逆方向反復配列が形成されているか否かは、例えば、該逆方向反復配列を含む領域をPCRなどによって増幅すること、ゲル電気泳動法により該逆方向反復配列を含む領域のバンドを検出すること、逆方向反復配列を含む領域を解読(シークエンシング)することなどにより確認することができる。シークエンシングにより確認する場合、例えば、予め上記組換えベクターのスペーサー領域を制限酵素で切断するなどした後でシークエンシングすることが好ましい。PCR増幅によって確認する場合、逆方向反復配列を挟むプライマーセットでPCRを行うと逆方向反復配列を含む領域は増幅されない傾向にある。したがって、例えば、上記プライマーセットでPCRにより増幅されなかったものを、外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む組換えベクターと判定することができる。
本発明の別の側面によれば、本発明の外来DNA断片の逆方向反復配列を含む組換えベクターを作製する方法により、複数の外来DNA断片及び複数の発現ベクターを用いて、前記外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む複数の組換えベクターを作製して、DNA型RNAiライブラリーを得る工程を含む、DNA型RNAiライブラリーを作製する方法を提供することができる。
複数の外来DNA断片及び複数の発現ベクターにおける「複数」は、それぞれが2以上であれば、それぞれ異なる数でも同じ数でもいずれでもよい。
本発明のDNA型RNAiライブラリーを作製する方法は、同一作製条件下で複数の外来DNA断片及び複数の発現ベクターを用いて、前記外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む複数の組換えベクターを作製することができる。したがって、本発明のDNA型RNAiライブラリーを作製する方法によれば、一度又は数回(例えば、2〜10回)程度の操作で大規模なDNA型RNAiライブラリーを構築することができる。
外来DNA断片は、例えば、RNAiの標的遺伝子の塩基配列を含む核酸をランダムに切断して得られた二本鎖DNA断片を挙げることができるがこれに限定されるものではない。
本発明の方法により作製された外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む組換えベクター又はDNA型RNAiライブラリーは、外来DNA断片由来の逆方向反復配列を含む組換えベクターを、RNAiの標的となる遺伝子を発現する宿主細胞に導入して形質転換体を得る工程、形質転換体を培養して、形質転換体培養物を得る工程、前記形質転換体培養物における標的遺伝子の発現量を測定する工程、及び未形質転換の宿主細胞と比べて、標的遺伝子の発現量に影響を与えている形質転換体に導入された前記逆方向反復配列を、RNAi効果を有する逆方向反復配列と判定する工程を含む、RNAi効果を有する逆方向反復配列と判定することにより、RNAi効果を有する逆方向反復配列と判定することができる。すなわち、本発明の別の側面によれば、上記工程を含む、RNAi効果を有する逆方向反復配列を判定する方法が提供される。
さらに、本発明の別の側面によれば、本発明のRNAi効果を有する逆方向反復配列を判定する方法により、DNA型RNAiライブラリーからRNAi効果を有する逆方向反復配列を選抜する工程を含む、RNAi効果を有する逆方向反復配列のスクリーニング方法が提供される。
標的遺伝子の発現量は、形質転換体培養物から常法に従い得られた、標的遺伝子から転写されたmRNAの量、該mRNAから逆転写されたcDNAの量及び該mRNAによって翻訳されたタンパク質の量などによって測定することができる。
標的遺伝子の発現量に与える影響とは、標的遺伝子の発現量の増加又は減少を意味し、好ましくは減少である。
標的遺伝子としては、例えば、昆虫免疫関与遺伝子の転写制御に関わる遺伝子又は昆虫DNAウイルスの侵入に関わる遺伝子を挙げることができるが、これらに制限されるものではない。
本発明の方法のいずれも、各工程を単独で行うこともできるが、2以上の工程を同時に行うこともできる。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
昆虫細胞におけるRNAiによるルシフェラーゼ遺伝子のノックダウン
1.発現ベクター
発現ベクターとして、pIEx−4(Novagen社;http://www.cosmobio.co.jp/product/products_NVG_20060308_03.asp)を用いた。pIEx−4のプロモーターは昆虫細胞で非常に強力に働くバキュロウイルス由来のIE1プロモーターである。pIEx−4には、さらにプロモーター活性を強力にするために hr5エンハンサーが付加されている。これらのプラスミドマップ及び塩基配列を図1に示した。なお、発現ベクターは宿主細胞によって適宜調整することができる。
2.逆方向反復配列を作製するための核酸
cDNAを挿入する前に、下記式(I)の核酸(配列表の配列番号1)を昆虫細胞用発現ベクターpIEx−4に挿入させた、組換えpIEx−4を作製した。具体的には、pIEx−4のmultiple cloning site(MCS)を制限酵素NcoI及びDraIIIで切断して除去し(1082−1284の範囲の除去)、その切断箇所に下記式(I)の核酸を挿入した。
なお、pIEx−4に上記式(I)の核酸を挿入させる前に、pIEx−4内にある2287番目のAと2469番目のTをそれぞれCに置換することにより、Nb.BsrDIによる不作為の切断を防止した。
上記式(I)の核酸の特徴は、下記の通りである。
cDNAは制限酵素部位であるXhoIとKpnIを介して挿入される。XhoI認識部位とKpnI認識部位の両側に、認識部位の二本鎖DNAの片方のみを切断する酵素であるニッキングエンドヌクレアーゼのNb.BbvCIとNb.BsrDIに認識される部位が挿入されている。上記ニッキングエンドヌクレアーゼは、New England Biolabs(http://www.nebj.jp/jp/index.php)によって市販されている。Nb.BsrDI認識部位のターミネーター側に一本鎖になるとステムループ構造を形成する逆方向反復(IR)型のDNAが挿入されている。このステム部分に相当するステム配列は、長さが20bpで、この配列がカイコゲノム中には存在せず、かつオフターゲット(非特異RNAi効果)を引き起こすCANリピート構造をとっていない。一方、ループ部分に相当するループ配列の長さは50bpである。DNAの二次構造をとるような配列ではない。なお、ループ配列の長さが最低50bpないと、プラスミドは大腸菌内で変異、欠失等を引き起こす可能性が高くなる。IR型DNAの下流に、PstIによって認識される制限酵素部位がある。
pIEx−4には上記した制限酵素及びニッキングエンドヌクレアーゼによって認識される部位はない。上記した通り、pIEx−4中の二箇所のNb.BsrDI部位は、塩基配列を置換することによりNb.BsrDIによって認識させなくしている。
上記式(I)の核酸において、以下に示す通り、5’側のステム配列の中にCspCI部位(CAA(N)5GTGGを認識)が一カ所存在する。
CspCIはこの部位を認識するとそれらの5’側の10から11塩基離れた所と、3’側の12から13塩基離れた所を切断するのでIR構造に変換させたDNAの間に存在するステムループ部分(20merのステムと50merのループ)のステムに相当する配列の片方を取り除くことができ、さらにループ配列を長くすることができる。ループ配列が長くなると、大腸菌でのIR構造の安定性がよくなる。
3 発現ベクターへのcDNAの挿入
ホタルルシフェラーゼ(ルシフェラーゼ又はlucと呼ぶ)cDNAを用いた。lucは100bp、200bp、及び300bpの長さのものを用いた。両端にXhoIとKpnI部位を持つcDNA断片をPCRで増幅後、XhoI及びKpnIで消化した。この断片を回収後、組換えpIEx−4のXhoI認識部位及びKpnI認識部位に挿入した。
より具体的には、下記の方法によりルシフェラーゼcDNAを得た。
発現ベクターであるpsiCHECK−2(Promega社;http://www.promega.com/catalog/catalogproducts.aspx?categoryname=productleaf_1602)には、下記に示す通りにルシフェラーゼcDNAとウミシイタケルシフェラーゼcDNAが挿入されている。
このpsiCHECK−2をテンプレートとして、Pwo Super Yield DNA Polymerase(Roche社)を用いたPCRによりルシフェラーゼcDNA(luc)断片を増幅した。使用した試薬及びPCR条件は以下の通りである。
DDW・・・39.5 μl
1 ng/μl psiCHECK-2・・・1 μl
10 pmol/μl lucCommonF-XhoI primer・・・1.5 μl
10 pmol/μl luc100, 200 or 300R-KpnI primer・・・1.5 μl
10 mM dNTP・・・1 μl
10× Pwo Super Yield PCR buffer・・・5 μl
5 U/μl Pwo Super Yield DNA Polymerase・・・0.5 μl
PCRは初期変性:95℃・2分、連鎖反応:95℃・20秒→55℃・30秒→72℃・20秒×35サイクル、最終伸長:1分で行った。
PCRで使用したプライマーセットは、lucCommonF−XhoI primer(配列番号2)とluc100R−KpnI primer(配列番号3)、luc200R−KpnI primer(配列番号4)若しくはluc300R−KpnI primer(配列番号5)だった。
lucCommonF−XhoI primer及びluc100R−KpnI primerの第一のプライマーセットを用いたPCRにより、配列番号6のluc配列を増幅させた。lucCommonF−XhoI primer及びluc200R−KpnI primerの第二のプライマーセットを用いたPCRにより、配列番号7のluc配列を増幅させた。lucCommonF−XhoI primer及びluc300R−KpnI primerの第三のプライマーセットを用いたPCRにより、配列番号8のluc配列を増幅させた。
各PCR産物はWizard SV Gel and PCR Clean−Up System(Promega)を用いて精製した。各精製PCR産物と組換えpIEx−4を以下の条件で制限酵素処理した。
DDW・・・42 μl
0.2 pmol/μl 各精製PCR産物・・・1 μl
0.02 pmol/μl 組換えpIEx-4・・・1 μl
10× L Buffer(NIPPON GENE)・・・5 μl
10 mg/ml BSA・・・0.5 μl
20 U/μl KpnI(NIPPON GENE)・・・0.5 μl
37℃・1時間
制限酵素処理後、2.63μlの1M NaCl、0.5μlの20U/μl XhoI(NIPPON GENE)を加えてさらに37℃・1時間反応させた。反応終了後、フェノール・クロロホルム処理、クロロホルム処理、イソプロパノール沈殿(共沈剤として0.5μlのEthachinmate(NIPPON GENE)を使用)してDNAを回収した。回収したDNAを2μlの1/2×DNA Ligation Kit<Mighty Mix>(TAKARA BIO)で溶解し、16℃・1時間ライゲーションした。これらをE.coli(JM109)へ導入し、100μg/mlアンピシリンを含むLBプレートにスプレッドして37℃・一晩培養した。
上記第一から第三の各プライマーセットを用いたコロニーPCRで、生育したコロニーの中からインサートが確認されたプラスミドを含有する大腸菌を100μg/ml アンピシリンを含むLB培地で一晩培養し、NucleoSpin Plasmid QuickPure(MACHEREY−NAGEL)を用いてプラスミドを抽出及び精製した。これらのプラスミドを、組換えpIEx−4−luc100、組換えpIEx−4−luc200、及び組換えpIEx−4−luc300(luc100−300は100−300bpのluc断片を意味する)と呼ぶ。
4 鎖置換反応による組換えpIEx−4−luc100、200、300のinverted repeat形成
まず、ルシフェラーゼcDNAを挿入した組換えpIEx−4をPstIとNb.BsrDIで消化した。PstI部位は完全消化されるが、Nb.BsrDI部位は片方の鎖のみが切断された。次に、熱処理(85℃)をした後に、温度をゆっくりと下げた。DNAは熱処理により、一本鎖状態になった(解離)が、この後温度をさげることにより再び、相補的な部分が会合し二本鎖状態となった。ここで、ニックを生じた側のIR部分(20bp−50bp−20bp)は、熱処理により一本鎖になり解離したが、温度をさげて再会合する際に、ヘアピン構造をとった。これは、相補的な二本鎖が会合するよりも、一本鎖中のIR部分が会合しやすいためと考えられる。その後、ニックの部分をLigaseで連結した。ここで、Ligase処理をせずに、ヘアピン構造をとるアダプターやリンカーを直接付着することが考えられた。しかし、ヘアピン構造をとるアダプター等を結合した場合、最終的に目的とするcDNAのIRを有する組換えベクターを得ることができなかった。
上記Ligation反応後、PstIで消化したもう一方の末端部に同じ末端部が結合し得たので、これを切断するためにもう一度PstIで消化するとともに、ニッキングエンドヌクレアーゼであるNb.BbvCIで消化した。挿入したcDNAの下流にあるNb.BbvCI部位の片方にニックが入った。その後、鎖置換反応を触媒できるDNA polymeraseのBcaBEST DNA polymeraseで反応させると、ニックの部分から鎖置換反応がおこり、最終的に挿入したDNAがIR構造に変換された。PstI切断で生じた3’突出末端をT4 DNApolymerase処理で平滑末端にした後、Ligaseで末端同士を付着させた。上記工程を経ることにより、目的のcDNAがinverted repeat構造に変換された組換えプラスミドを産生することができた。
具体的は実験方法は以下の通りである。
組換えpIEx−4−luc100−300を以下のように処理した。
DDW・・・33.5 μl
0.02 pmol/μl組換えpIEx-4-lucxxx・・・10 μl
10× M Buffer(NIPPON GENE)・・・5 μl
10 mg/ml BSA・・・0.5 μl
10 U/μl Nb.BsrDI(New England Biolabs)・・・1 μl
65℃・1時間
反応終了後、2.63μlの1M NaCl、0.5μlの15U/μl PstI(NIPPON GENE)を加えてさらに37℃・1時間反応させた。その後85℃・1分間加熱の後緩冷してループを形成させ、フェノール・クロロホルム処理、クロロホルム処理、イソプロパノール沈殿(共沈剤として0.5μlのEthachinmateを使用)してプラスミドを回収した。これらを10μlの1/2×DNA Ligation Kit<Mighty Mix>で溶解して16℃・1時間反応させてニックを修復した。反応終了後、フェノール・クロロホルム処理、クロロホルム処理、イソプロパノール沈殿してプラスミドを回収した。これらを43.5μlのDDWで溶解し、以下のように処理した。
組換えpIEx−4−lucxxx反応産物・・・43.5 μl
10× M Buffer・・・5 μl
10 mg/ml BSA・・・0.5 μl
10 U/μl Nb.BbvCI(New England Biolabs)・・・1 μl
37℃・1時間
上記処理後、2.63μlの1 M NaCl、0.5μlの15U/μl PstIを加えてさらに37℃・1時間反応させた。その後フェノール・クロロホルム処理、クロロホルム処理、イソプロパノール沈殿してプラスミドを回収した。これらを以後「組換えpIEx−4−lucxxx最終反応産物」(xxxは塩基の長さに対応して100、200又は300)と呼んだ。
回収した各プラスミドを以下のようにBcaBEST DNA polymerase(TAKARA BIO)を用いて鎖置換反応し、luc断片のInverted repeat(IR)を形成した。
DDW・・・16.1 μl
0.01 pmol/μl組換えpIEx-4-lucxxx最終反応産物・・・1 μl
10× Buffer・・・2 μl
10 mM dNTP・・・0.4 μl
2 U/μl BcaBEST DNA polymerase・・・0.5 μl
65℃・1時間
反応終了後、0.4μlの5mg/ml BSA、1 μlの0.3 U/μl T4 DNA polymerase(New England Biolabs)を加えてさらに16℃・10分間反応させてプラスミドの末端を平滑化した。その後フェノール・クロロホルム処理、クロロホルム処理、イソプロパノール沈殿(共沈剤として0.5 μlのEthachinmateを使用)してプラスミドを回収した。これらを2μlの1/2×DNA Ligation Kit<Mighty Mix>で溶解して16℃・1時間ライゲーションしてE.coli(SURE2 from STRATAGENE)へ導入し、100μg/ml アンピシリンを含むLBプレートにまいて37℃・一晩培養した。
IRの外側の配列に対して相補的となるようにデザインされたpIExF primer(配列番号9)及びpIExR primer(配列番号10)を用いたコロニーPCRでは増幅が見られなかったクローン(IRが形成されると高次構造をとるため、鎖置換反応活性のないTaq DNA polymeraseなどでは著しく増幅効率が悪くなることを利用したスクリーニング法)を100μg/ml アンピシリンを含むLB培地で一晩培養し、NucleoSpin Plasmid QuickPureを用いてプラスミドを抽出・精製した。
これらのプラスミドをループ配列部分に存在するSacIで切断した後、その塩基配列をBigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用いて決定し、正しい配列をもつプラスミドであることを確認した。なお、これらのプラスミドの塩基配列を直接シークエンスしようとしても、高次構造を形成するのでシークエンシングできなかった。そこで、上記の通りに、制限酵素SacIで切断した。これらのプラスミドを以後「組換えpIEx−4−lucxxxIR」(xxxは塩基長に対応して100、200又は300)と呼んだ。その後、組換えpIEx−4−lucxxxIRをGenopure Plasmid Midi Kit(Roche)を用いて抽出・精製した。
5 RNAi効果の評価
上記手法で作製した組換えpIEx−4−luc100IR、pIEx−4−luc200IR、pIEx−4−luc300IRをカイコ培養細胞に導入したときにRNAi効果を示すことを下記スキームにより確認した。
ここでは、胚由来のカイコ培養細胞であるBm−NIAS−Oyanagi2を用い、この細胞に上記組換えプラスミドと、カイコ用に改変したルシフェラーゼ遺伝子のチェックベクター(組換えpsiCHECK−2)を一緒にトランシフェクションし、48時間培養した。培養後、細胞抽出液を調製した後、この抽出液中のルシフェラーゼ(luc)活性を測定することでRNAi効果を評価した。なお、ウミシイタケルシフェラーゼ(Rluc)活性も同時に測定し、Rluc活性でluc活性を補正した。ルシフェラーゼ活性がコントロールと比較し減少すれば、RNAi効果が得られたと評価した。
具体的な実験方法は下記の通りである。
カイコ胚由来培養細胞NIAS−Bm−Oyanagi 2を10%(v/v)ウシ胎児血清・1%(v/v)Antibiotic−Antimycotic(100×)(GIBCO)を含むIPL−41(GIBCO)で約80−90%コンフルエントとなるまで培養した。この細胞をセルスクレーパーで剥がして同上の培地で懸濁し、2×105個/wellとなるように24穴プレートの各ウェルに分注し、25℃・24時間培養した。その後培地を除去し、100μlの同じ組成の培地に交換した。
0.06pmolの組換えpsiCHECK−2に対して0.18pmolの組換えpIEx−4−lucxxxIRもしくは組換えpIEx−4(ネガティブコントロール)を混合し、IPL−41で100μlとした。ここに0.2 μgDNA/μlの割合となるようにFuGENE HD Transfection Reagent(Roche)を加え、20分間室温でインキュベートした。これらを細胞の入った各ウェルに加えて、25℃・4時間インキュベートした後で培地を除去し、500μlの10%(v/v)ウシ胎児血清・1%(v/v)Antibiotic−Antimycotic(100×)を含むIPL−41に交換した。その後25℃・48時間インキュベートした。
インキュベート後、細胞抽出液を調製し、各組換えpIEx−4−lucxxxIRのRNAi効果をルシフェラーゼ活性として評価した。なお、ルシフェラーゼ活性及びウミシイタケルシフェラーゼ活性(補正用)は、Dual−Luciferase Reporter Assay System(Promega)を用いて測定した。方法はこのキットの説明書に従った。
組換えpsiCHECK−2のみを用いた場合の相対的ルシフェラーゼ活性を100として、各々の相対的ルシフェラーゼ活性を求めた。その結果、組換えpIEx−4−luc100IR、pIEx−4−luc200IR、pIEx−4−luc300IRのいずれによって形質転換した場合でも、相対的ルシフェラーゼ活性が大きく低下し、効率よくRNAi効果を示すことが明らかになった(図2)。しかも、pIEx−4−luc200IR、pIEx−4−luc300IRの場合、ポジティブコントロールとなるプラスミド(pIEx−4−500luc−A3IR;ルシフェラーゼcDNA由来の配列を有する500bpのDNAが100bpのカイコアクチンA3遺伝子イントロン由来の配列100bpを挟んでinverted repeat構造になっているものをpIEx−4のNcoIとDraIII 部位に挿入したもの)を用いた場合とほぼ同様のRNAi効果を示した。これらのことから、この手法で作製したコンストラクトはRNAi効果を生じることが明らかとなった。なお、この手法で作製すると、IR構造に変換した際に、その間に20bp−50bp−20bpの短いIR構造をしたDNAが生じる。当初はこのIR DNAを排除するために、CspCI部位で切断し、その後セルフライゲーションさせたものを用いる予定であったが、こうした短いIR構造が含まれていてもRNAi効果に問題はなかった。従って以後はCspCI認識部位を切断せずに用いた。
上記式(I)の核酸を含有する組換えベクターを用いた長鎖DNA型RNAiライブラリーの作製法
下記に示すとおり、上記式(I)の核酸を含有する組換えベクターを用いて、複数のcDNAから長鎖DNA型RNAiライブラリーを作製することができると考え、次の通りに計画した。
まず、昆虫の適当な組織あるいは培養細胞からpolyA+RNAからcDNAを調製する。このとき、cDNAを一度適当なベクターに入れてライブラリー化することもできる。その場合、その後のステップに移る際に、ベクター由来のプライマーを用いてPCRを行うことにより、cDNA断片をとりだす。例えば、二本鎖特異的DNA分解酵素であるDuplex−specific nuclease(EVROGEN)でcDNAをランダムに消化した後、200から500bpのDNA断片を回収する。その後、TaqDNA polymeraseでDNAの3’末端にモノアデニンを付加させ、TAクローニングベクターであるpTAC−1(BioDynamics Laboratory Inc.; http://www.biodynamics.co.jp/prd_ds120.htmに塩基配列の情報がある)にクローニングし、cDNAプラスミドライブラリーを作製する。pTac−1のクローニング部位の両脇の配列にそれぞれKpnI認識部位及びXhoI認識部位を5’側に付加した配列をプライマーとしてPCRを行い、これらの部位を含む両脇の配列をそれぞれプライマーとしてPCRを行い、増幅DNAを回収後、KpnIとXhoIで消化し、組換えpIEx−4に挿入する。次いで、実施例1に記載の方法により、長鎖DNA型RNAiライブラリーを得ることができる。
具体的には、Rluc cDNAを出発材料として長鎖DNA型RNAiライブラリーを作製した。
1 ウミシイタケルシフェラーゼcDNA断片のサブクローニング
psiCHECK−2をテンプレートとしたPCRで、ウミシイタケルシフェラーゼcDNA(Rluc)を下記の通りに増幅した。
DDW・・・39.5 μl
1 ng/μl psiCHECK-2・・・1 μl
10 pmol/μl Rluc Full-F primer・・・1.5 μl
10 pmol/μl Rluc Full-R primer・・・1.5 μl
10 mM dNTP・・・1 μl
10× Pwo Super Yield PCR buffer・・・5 μl
5 U/μl Pwo Super Yield DNA Polymerase・・・0.5 μl
PCRは初期変性:95℃・2分、連鎖反応:95℃・20秒→55℃・30秒→72℃・1分×35サイクル、最終伸長:1分で行った。
使用したプライマーセットは、Rluc Full−F primer(配列番号11)及びRluc Full−R primer(配列番号12)であった。このプライマーセットを用いたPCRによって完全長のRluc(psiCHECK−2の694−1629番目の塩基に相当する領域)が増幅された(配列番号13)。
各PCR産物はWizard SV Gel and PCR Clean−Up Systemを用いて精製した。その後、以下の条件で完全長RlucをDuplex−specific nucleaseで消化した。
200 ng/μl完全長Rluc・・・6.2 μl
10× DSN master buffer・・・0.8 μl
0.01 U/μl Duplex-specific nuclease・・・1 μl
60℃・40分
反応終了後、電気泳動でDNAを分離し、200−500bpの範囲を切り出した。ゲル中のDNAをWizard SV Gel and PCR Clean−Up Systemで精製(50μlのDDWで溶出)し、これを以下の条件で処理して平滑化した。
Duplex-specific nuclease消化産物・・・43 μl
10× Ex Taq Buffer(TAKARA BIO)・・・5 μl
10 mM dNTP・・・1 μl
10 mg/ml BSA・・・0.5 μl
3 U/μl T4 DNA polymerase・・・0.5 μl
16℃・10分
反応終了後、1μlの5U/μl TaKaRa Ex Taq(TAKARA BIO)を加えて、72℃・1時間反応させ、3’末端にモノアデニンを付加した。反応終了後、フェノール・クロロホルム処理、クロロホルム処理、イソプロパノール沈殿(共沈剤として0.5μlのEthachinmateを使用)でDNAを回収した。これを1μlの50ng/μl pTAC−1(BioDynamic Laboratory)、1μlのDNA Ligation Kit<Mighty Mix>で溶解して16℃・1時間ライゲーションした。これをE.coli(JM109)へ導入し、100μg/ml アンピシリンを含むLBプレートにスプレッドして37℃・一晩培養した。培養終了後、プレートに2mlの100μg/ml アンピシリンを含むLB培地を流し込んで、1分ほど揺することで組換え大腸菌を浮かび上がらせ、培地を回収した。これを2時間程度培養した後、NucleoSpin Plasmid QuickPureを用いてプラスミドを抽出・精製した。このプラスミドを「pTAC−1−Rluc fragment」と名付けた。
2 組換えpIEx−4へのウミシイタケルシフェラーゼcDNA断片の挿入
pTAC−1−Rluc fragmentをテンプレートとして、以下のようにPCRを行った。
DDW・・・39.5 μl
1 ng/μl pTAC-1-Rluc fragment・・・1 μl
10 pmol/μl pTAC-1-cDNA-F primer・・・1.5 μl
10 pmol/μl pTAC-1-cDNA-R primer・・・1.5 μl
10 mM dNTP・・・1 μl
10× Pwo Super Yield PCR buffer・・・5 μl
5 U/μl Pwo Super Yield DNA Polymerase・・・0.5 μl
PCRは初期変性:95℃・2分、連鎖反応:95℃・20秒→55℃・30秒→72℃・30秒×35サイクル、最終伸長:1分で行った。プライマーセットとしてpTAC−1−cDNAF primer(配列番号14)及びpTAC−1−cDNAR primer(配列番号15)を用いた。
PCR産物はWizard SV Gel and PCR Clean−Up Systemを用いて精製した。精製PCR産物と組換えpIEx−4を以下の条件で制限酵素処理した。
DDW・・・42 μl
0.2 pmol/μl 精製PCR産物・・・1 μl
0.02 pmol/μl 組換えpIEx-4・・・1 μl
10× L Buffer・・・5 μl
10 mg/ml BSA・・・0.5 μl
20 U/μl KpnI・・・0.5 μl
37℃・1時間
ここで、精製PCR産物のモル濃度は、DNAの鎖長350bpとして計算した。反応終了後、2.63μlの1M NaCl、0.5μlの20 U/μl XhoIを加えてさらに37℃・1時間反応させた。反応終了後、フェノール・クロロホルム処理、クロロホルム処理、イソプロパノール沈殿(共沈剤として0.5μlのEthachinmateを使用)してDNAを回収した。回収したDNAを2μlの1/2×DNA Ligation Kit<Mighty Mix>で溶解し、16℃・1時間ライゲーションした。これらをE.coli(JM109)へ導入し、100μg/ml アンピシリンを含むLBプレートにスプレッドして37℃・一晩培養した。培養終了後、プレートに2mlの100μg/ml アンピシリンを含むLB培地を流し込んで、1分ほど揺することで組換え大腸菌を浮かび上がらせ、培地を回収した。これを6時間程度培養した後、NucleoSpin Plasmid QuickPureを用いてプラスミドを抽出・精製した。このプラスミドをテンプレートとし、pTAC−1−cDNAF primer・pTAC−1−cDNAR primerを用いたPCRで、200−500bpのDNAの増幅が見られることを確認した。このプラスミドを「組換えpIEx−4−Rluc fragment」と名付けた。
3 鎖置換反応による組換えpIEx−4−Rluc fragment のRlucのIR構造への変換
組換えpIEx−4−Rluc fragmentのRlucDNAを図5に示した方法でIR構造に変換させ、これらをE.coli(SURE)に形質転換し、100μg/ml アンピシリンを含むLBプレートにスプレッドして37℃・一晩培養した。生じたコロニー5個を1組として100μg/ml アンピシリンを含むLB培地で一晩培養し、Genopure Plasmid Midi Kitを用いてプラスミドを抽出・精製した。このプラスミドを「組換えpIEx−4−Rluc fragmentIRLib」と名付けた。
4 長鎖DNA型RNAiライブラリーのRNAi効果の評価(図2)
実施例1と同様の方法により、長鎖DNA型RNAiライブラリーのRNAi効果を確認した。ライブラリーの評価に際して、ライブラリー中の5クローンを1プールとして、組換えpsiCHECK−2と共にカイコ培養細胞(Bm−NIAS−Oyanagi2)にトランスフェクションさせ、48時間培養した。培養後、細胞抽出液を調製した後、この抽出液中のウミシイタケルシフェラーゼ(Rluc)活性を測定することでRNAi効果を評価した。なお、ルシフェラーゼ(luc)活性も同時に測定し、luc活性でRluc活性を補正した。ウミシイタケルシフェラーゼ活性がコントロールと比較し減少すれば、RNAi効果が得られたといえる。図3に4つの異なるプールを用いて行った結果を示した。その結果RNAi効果は図2で得られた結果と比較すると低いが、プールによっては十分効果を示すことが分かった。効果が低い理由として、これら調製したプラスミドの中には不完全な形のもの(例えば、外来DNA断片由来の逆方向反復配列が100bp以下)が多く含まれているからと考えられる。上記評価結果から、長鎖DNA型RNAiライブラリーの5クローンを1プールとして培養細胞にトランスフェクションさせ、そのノックダウン効果をphenotypeにより解析し、ノックダウン効果の大きいクローンをスクリーニングできることが明らかになった。
(参考例1)
EPRIL法など既に報告されている短鎖DNA型RNAiライブラリーの構築法を応用した方法(以下、改法1とよぶ)を下記の通りに創作した。
なお、改法1は、複数の異なったDNAを一斉にIR型に変換できる反応を目的として創作した。改法1はプラスミドに挿入されたcDNAプラスミドライブラリーを出発材料にすることを想定したものである。改法1の概要は次の通りである。
まず、DNAをPCRで増幅した(ステップ1)。その際に、PCRに用いたプライマーの片方には平滑末端が生成される制限酵素部位X(HincII)が付加されている。次いでIRリンカー(ステムループ構造をとっているもの)をDNA断片の両側にligaseで付着させた(ステップ2)。次いで制限酵素Xで切断した(ステップ3)。そうするとDNA断片の片側が平滑末端にもう片側がループ構造をとった。その後、NotI部位を含むアダプターを平滑末端に付着させ(ステップ4)、アダプターの配列と相補的な配列を有するプライマーと鎖置換反応を触媒するBst DNA polymerase(New England Biolab)で伸長反応を行わせた。得られたIR型DNAを発現プラスミドにいれた。
下記に示す3種類のIRリンカーを用いて、改法1を評価した。
その結果、上記のDNA産物1〜4が作製されていることを確認した(図4)。また、上記のDNA産物5も、図4に記載のDNA産物4と比較すると長さが倍になっているバンドが確認されたことから、IR型への変換も適切に行われていると判断した。そこで、DNA産物5を回収し、平滑化及びNotI消化した後、発現ベクターに挿入し、大腸菌に形質導入した。形質転換体を培養後、無作為にピックアップした大腸菌からプラスミドDNAを調製したところ、プラスミドDNAが挿入されたものはいずれも欠失などによって逆方向反復配列を正しくとっているものがなかった。大腸菌の中ではIR構造をとるDNAが挿入されているプラスミドはIRの間のループの長さが50bp以上あるとIR構造を保持したことから、ループ部分を50bp以上にしたものを用いてさらに実験を行った。その結果、IR構造に変換できるものの、これらのプラスミドへの挿入は正確に行われなかった。
その後の実験で、下記に示す通り、IR構造を有するDNAのプラスミドへの挿入はその挿入するステップが重要であることが分かった。
つまり、IR構造をしたDNAが挿入されたプラスミドを得るには、まず、ループ構造に相当するDNAを入れたプラスミドに目的のDNAを入れ、次いでループ構造に相当するDNAを挟んで、逆向きに目的のDNAを入れなければならないことがわかった。したがって、外来DNAをIR構造に変換してからプラスミドに入れるという方法では結果としてDNA型RNAiを得ることができなかった。ただし、EPRIL法でも示されているように、ステム及びループ部分に相当する外来DNAの長さがそれぞれ20bp、10bp程度の短いものであればIR構造になっているものを直接挿入することができるのかもしれない。
(参考例2)
以上の改法2の失敗を踏まえて、まずDNAを発現ベクターに入れ、それをIR構造に変換する手法(以下、改法2とよぶ)を下記の通りに創作した。
改法2の概略は次の通りである。発現プラスミドのプロモーター部位とターミネーター部位の間にNcoI、StuI、BbvCI及びDraIII認識部位を設け、StuIとBbvCI部位とニッキングエンドヌクレアーゼであるNb.BbvCI部位を5’から3’の方向に挿入した改良発現プラスミドを作製した(StuIは平滑末端を、NcoIは5’突出末端を生み出す制限酵素であり、Nb.BbvCIは二本鎖DNAの片方のみを切断する、つまりニックを入れる制限酵素である)。次いでこの発現プラスミドのStuI部位とBbvCI部位の間に目的のDNAを挿入し、これを出発材料とした。NcoIで消化後、5’末端を脱リン酸化処理し、StuI消化した。次に、これにIRリンカーを付着させ、Nb.BbvCI消化し、その後、鎖置換反応を触媒するBst DNA polymeraseで伸長反応を行わせた。この産物をセルフライゲーションさせてIR型に変換されたDNAが作製できた。
しかしながら、改法2を実際に行っても、大腸菌に形質転換されたプラスミドDNAでIR型に変換されたものは全く取得できなかった。こうしたプラスミドDNAの塩基配列をみてみると、始めに挿入したDNAとIRリンカーDNAの境界部分でDNAの伸長反応が止まったらしきものが多く見受けられた。そこで、外来DNAがIR型に変換されたプラスミドを取得できなかった理由として、IRリンカーのライゲーションに問題があると考えた。この考えの下に、ライゲーション操作をさらに入念に行ってみたが、いずれも改善できなかった。
本発明の核酸、組換えベクター及び形質転換体を用い、本発明の外来DNA断片の逆方向反復配列を含む組換えベクターを作製する方法及びDNA型RNAiライブラリーを作製する方法によれば、長鎖DNA型RNAiライブラリーを作製することができる。長鎖DNA型RNAiライブラリーを用いれば、免疫関与因子などの、昆虫や植物などの生命現象に関わる因子を網羅的かつ機能的に探索することができ、このような因子の発見が害虫防除開発を可能とする。
図1は、pIEx−4の制限酵素地図及びMCSを示す。
図2は、組換えpsiCHECK−2のみを用いた場合の相対的ルシフェラーゼ活性を100として、組換えpIEx−4−luc100IR、pIEx−4−luc200IR、及びpIEx−4−luc300IRの相対的ルシフェラーゼ活性を測定した結果を示す。
図3は、ルシフェラーゼ(luc)活性により補正した後のウミシイタケルシフェラーゼ(Rluc)活性の測定結果を示す。
図4は、改法1の各ステップにおけるDNA産物1〜5の電気泳動結果を示す。
図5は、長鎖DNA型RNAiライブラリー作製法の工程スキームを示す。