以下、本発明に係る実施の形態の例につき、適宜図面に基づいて説明する。なお、当該形態は、下記の例に限定されない。
[第1形態]
図1ないし図3は本発明の第1形態に係る粒子加速器の、図示しない円柱状の2個の平行な上下の磁極の間に配置されたコイルシステム1の一部断面説明図である。粒子加速器は、磁場を発生する当該磁極と、磁場につき中心から周方向へ行くに従い徐々に磁束密度の増強ないし調整をして荷電粒子を螺旋状の軌道で加速させるコイルシステム1と、荷電粒子を生成して磁極ないしコイルシステム1の中央付近に入射させる図示しないイオン源と、これらの制御を行う図示しない制御装置を有する。
コイルシステム1は、互いに鏡面対称に向き合う状態で上下に配置された2組のコイルユニット2を有しており、コイルユニット2の1組は、全体形状が環状である1個の主コイル3と、全体形状が環状である合わせて5個の補正コイル4,6,8,10,12とから成っている。なお、図1において補正コイル8,10,12は記載されず、図2において補正コイル4,6,12は記載されず、図3において補正コイル4,6,8は記載されていない。更に、図1ないし図3では、コイルユニット2の1組に係る半分の断面が示されており、コイルシステム1全体の断面は、縦軸を対称軸として鏡面対称に図示された断面を描いてコイルユニット2の1組の断面を把握すると共に、横軸を対称軸として鏡面対称にコイルユニット2の他の1組の断面を描くことで把握される。図1ないし図3の数値の単位はメートル(m)である。
主コイル3は、超電導導体を線状にして成る超電導線材を、輪状の中心線の全体に対して所定間隔をおいて巻き(空心)、更にこれを環状のシールドで覆うことで形成されている。主コイル3は、図示しない電力供給装置(電源)と電気的に接続されている。なお、シールド内には、図示しない冷却媒体が図示しない冷却装置にのみ流入可能に封入されており、当該冷却装置は、当該冷却媒体を20ケルビン(K)まで冷却してシールド内を流通させることが可能となっている。
主コイル3は、補正コイル4,6に比して面積の広い断面(空心部分を含む断面あるいは断面)を有しており、主コイル3の当該断面は、縦(厚み・軸方向寸法)約0.0933m,横(環の幅・幅方向寸法)約0.945mとなっていて、縦横比(アスペクト比)が縦:横=1:2を超え、1:3をも超えるものとなっている。又、主コイル3の外径は半径約2.543mであり、内径(環の内側の径,環の孔の径)は半径約1.598mとなっている。
加えて、超電導線材の幅は1センチメートル(cm)程度であり、厚さは基板や安定化銅を含み200マイクロメートル(μm)であって、超電導線材表面の絶縁被膜を含め占積率は0.7程度とされ、負荷率は0.7程度とされている。
更に、超電導線材の材質としては、金属系(ニッケルチタン,ニオブスズ等、4.2Kで超電導状態)や酸化物系(ビスマス系あるいはRE−Ba−Cu−O系等、77Kで超電導状態に入り、20Kで特性の良好な超電導状態となる)の双方を用いることができるが、臨界温度が高く比較的高温で超電導状態となり、又臨界磁界も高いことから酸化物超電導導体を用いることが好ましく、酸化物超電導導体の内でも、作製コストが比較的に高いものの、磁場に強く、耐熱耐食性ニッケル基合金(ハステロイ・登録商標・以下同様)が線材構成材となるために機械的強度も良好な、主成分がRE−Ba−Cu−Oで表せる酸化物超電導導体を用いることが更に好ましい。なお、前者のビスマス系酸化物超電導線材の具体例としては、住友電気工業株式会社製Bi2223(Bi2Sr2Ca2Cu3O10)が挙げられ、後者のRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導線材の具体例としては、American Superconductor Corporation(AMSC)社製YBCO(YBa2Cu3O7−δ)が挙げられる。本形態(図1ないし図3)では、YBCOを用いている。
ここで、主成分がRE−Ba−Cu−Oで表せる酸化物超電導導体において、REはY(イットリウム),Sm(サマリウム),Gd(ガドリニウム),Ho(ホルミウム)といった希土類元素のうち少なくとも1つ又は2つ以上の任意の組合せであり、Baはバリウム、Cuは銅、Oは酸素である。又、好ましくは、酸化物超電導導体はREがYであるイットリウム系酸化物超電導導体とし、より好ましくはYBa2Cu3O7−δを始めとするY−123系酸化物とし、あるいはYBa2Cu3O7−δのYの全部又は一部を他の希土類金属に置き換えたもの(RE−123系酸化物超電導体)とする。
又、酸化物超電導導体は、表面に結晶配向性を有する基板(線材構成材)上に形成されている。基板は、好ましくは、Cu(銅),Ni(ニッケル),Ti(チタン),Mo(モリブデン),Nb(ニオブ),Ta(タンタル),W(タングステン),Mn(マンガン),Fe(鉄),Ag(銀)等の金属あるいはこれらの合金から成る金属層を備えており、より好ましくは、ステンレス,インコネル,ハステロイから成る金属層を備えている。
更に、好ましくは、酸化物超電導導体と基板との間に、金属酸化物から成る中間層が配置される。中間層は、パイロクロア構造,希土類−C構造,ペロブスカイト型構造あるいは蛍石型構造を有し、例えば、BaZrO3(Zrはジルコニウム),Y2O3,MgO(Mgはマグネシウム),SrTiO3(Srはストロンチウム,Tiはチタン),YSZ(イットリア安定ジルコニア)、又はGd2Zr2O7等のLn−M−O系化合物(Lnは1種以上のランタノイド元素,MはSr・Zr・Ga(ガリウム)の群から選択される1種以上の元素)等である。中間層は、スパッタ法、電子線ビーム蒸着法等で形成されるが、好ましくはIBAD法(Ion Beam Assisted Deposition、イオンビームアシスト法)により成膜される。
そして、主コイル3は、磁極に対し中心を合わせた状態で磁極に沿うように配置されており、鏡面対称の主コイル3に対して約0.13m離れた状態で配置されている(図1ないし図3の横軸に対して約0.065m離れている)。
一方、補正コイル4,6,8,10,12は、寸法や配置を除き、主コイル3と同様に形成され、設計されている。
補正コイル4(図1)は、外径約1.589m,内径約1.184m,幅約0.406m,厚み約0.0296mとされており、中心を主コイル3の中心と揃え、主コイル3に沿った状態で、対称位置の補正コイル4に対し約0.227m間隔を置いて配置されている(図1の横軸に対して約0.114m離れている)。従って、補正コイル4は、主コイル3や自身の軸方向において主コイル3と並んだ状態で配置されており、主コイル3より遠方(目的磁場・対称線・横軸からより離れた側,磁極に近い側,他方のコイルユニットから遠い側)に位置していて、その内径ないし外径は主コイル3の外径より小さくされており、主コイル3の外径より(コイルの径方向・放射方向でみて)内側に位置している。
補正コイル6(図1)は、外径約1.192m,内径約0.507m,幅約0.685m,厚み約0.015mとされており、中心を主コイル3の中心に合わせ、主コイル3に沿う状態で、対称位置の補正コイル6に対し約0.356m間隔を置いて配置されている(図1の横軸に対して約0.178m離れている)。従って、補正コイル6は、主コイル3や補正コイル4より遠方に位置しており、又その内径ないし外径は、主コイル3や補正コイル4の外径より小径とされていて、主コイル3や補正コイル4の外径より内側に配置されている。なお、主コイル3及び補正コイル4,6のコイル巻き体積は、合わせて約1.829立方メートル(m3)となる。
コイルシステム1では、各コイルユニット2において、補正コイル6より近方に、その内径ないし外径より大きな外径の補正コイル4が配置され、補正コイル4より近方に、その内径ないし外径より更に大きな外径の主コイル3が配置されており、コイルユニット2全体としてみて遠方に盛り上がる山型形状となっている。又、コイルシステム1では、コイルユニット2同士でみて互いに対称となっており、コイルユニット2で挟まれた部分において、粒子加速等を目的とする磁場(目的磁場)が形成される。コイルユニット2における各種コイルは、それぞれスイッチを介して共通の電源と電気的に接続されており、当該スイッチをオンにすることで単独の電源により電圧を付加されて励磁され、他の励磁コイルと共に目的磁場を生成する。なお、図1ないし図3における横軸が、目的磁場の中央線となる。
補正コイル8(図2)は、中心を主コイル3の中心と揃え、主コイル3に沿った状態であり、対称位置の補正コイル8に対し約0.317m間隔を置いて配置されている(図2の横軸に対して約0.158m離れている)。各補正コイル8は、主コイル3や自身の軸方向において主コイル3と並んだ状態で配置されており、主コイル3より遠方に位置していて、その内径ないし外径は主コイル3の外径より内側に位置している。又、補正コイル8は、補正コイル4に比べて、僅かに遠方(上側の補正コイル8は上方、下側の補正コイル8は下方)となっている。
補正コイル10(図2及び図3)は、中心を主コイル3の中心に合わせ、主コイル3に沿う状態であり、対称位置の補正コイル10に対し約0.406m間隔を置いて配置されている(図2の横軸に対して約0.203m離れている)。各補正コイル10は、主コイル3や補正コイル8より遠方に位置しており、その内径ないし外径は主コイル3や補正コイル8の外径より内側に配置されている。又、補正コイル10は、補正コイル6に比べて、僅かに遠方となっており、下面が主コイル3の上面より遠方に位置している。なお、主コイル3及び補正コイル8,10のコイル巻き体積は、合わせて約1.879立方メートル(m3)となる。
補正コイル12(図3)は、中心を主コイル3の中心と揃え、主コイル3に沿った状態であり、外径約2.141m,内径約1.195m,幅約0.946m,厚み約0.0461mとされており、対称位置の補正コイル12に対し約0.558m間隔を置いて配置されている(図3の横軸に対して約0.279m離れている)。補正コイル12は、主コイル3や自身の軸方向において主コイル3と並んだ状態で配置されており、主コイル3より遠方に位置していて、その内径ないし外径は主コイル3の外径より内側に位置している。なお、主コイル3及び補正コイル10,12のコイル巻き体積は、合わせて約2.291立方メートル(m3)となる。
そして、コイルシステム1では、各コイルに流す電流値を任意に変更することが可能であり、又、互いに対称である主コイル3若しくは補正コイル4,6,8,10,12の対毎に、任意の電圧を印加して、電流の付与の有無を切替えること(スイッチング)ができ、電流により励磁されるコイルの組合せ配置を(互いに対称なコイルの対毎に)変更することが可能である。
一方、本発明に係るコイルシステム1に対する比較例として、図4において図1ないし図3と同様に示すような、コイルユニットが単独のコイルで構成され、当該コイルが上下に鏡面対称に配置されたものを挙げる。当該コイルは、外径約2.162m,内径約1.855m,幅約0.307m,厚み約0.723mとされており、対称位置のコイルに対し約0.13m間隔を置いて配置されている(図4の横軸に対して約0.065m離れている)。
これらのコイルシステム1等を有する粒子加速器につき、コンピュータ制御によりそれぞれ以下のように動作させる。
即ち、まず本発明に係るコイルシステム1を有する粒子加速器につき、粒子加速器ないしコイルシステム1の制御装置としてのコンピュータは、冷却装置を動作させ、冷却媒体を双方の主コイル3及び補正コイル4,6,8,10,12が超電導状態となる温度(20K)まで伝導冷却により冷却し、冷却媒体の温度を安定させる。そして、コイルシステム1に対し、例えば徐々に双方の主コイル3及び補正コイル4,6に電圧を付加し、上述の電流密度となるまで双方の主コイル3及び補正コイル4,6に電流を流す(図1参照、運転電流を300A程度とする)。ここでは、補正コイル8,10,12に電流は流されず、よって電流の流されるコイルが主コイル3及び補正コイル4,6に切替えられている。そして、電流密度が約6.61×107アンペア毎平方メートル(A/m2)程度となり、超電導状態により電流が安定すれば、電圧の付加を停止して、粒子を螺旋軌道で加速させる等時性磁場を形成する定常状態に移行させる。
このようにして得られた等時性磁場(目的磁場,図1の横軸上,直径3.2m・高さ(厚さ)13cm,図1の原点を中心とした円盤形)の磁束密度分布を図5に示す。コイルシステム1等を有する粒子加速器では、径方向に徐々に磁束密度の高くなる粒子加速に適した磁気勾配を有する磁場を形成することができている。しかも、目的磁場につき、中心付近の磁束密度を3.8T程度とし、周端側の磁束密度を5T程度とすることができ、常電導の鉄の限界である2Tを大幅に超える非常に大きな磁束密度の磁場を、滑らかな磁気勾配を有する状態で形成することができている。
従って、目的磁場に荷電粒子を入射させることで、重粒子であっても螺旋軌道により十分に(290MeV/u程度まで)加速することができ、重粒子線がん治療に必要な重粒子の加速につき、コイルシステム1等を有する粒子加速器で行うことができる。そして、コイルシステム1自体の寸法は直径約5m×高さ約2mとなり、周辺装置を含めても数十平方メートル(m2)程度の設置面積で済む等、コイルシステム1や粒子加速器を非常にコンパクトに小型化することができる。更に、粒子加速器が小型であるため、製作に要する材料の量を低減することができ、運転に必要な電力量も低減することができ、運転に係る制御も比較的に簡易なものとすることができて、導入コストや運用コストを低廉なものとすることができ、保守も簡単に行うことができて保守コストも低廉なものとすることができる。
加えて、双方の主コイル3及び補正コイル4,6を超電導状態とし、超電導状態による励磁を行い、超電導加速器として運転するため、これらコイルに付加する電力量の低減に寄与するし、ジュール発熱が生じず冷却媒体の冷却エネルギーも比較的に少なく済み、運転に必要な電力量の低減を図ることができる。又、小型で冷却媒体の量が少なく、又ジュール熱を生じないこと等により、停止状態から高磁場状態(粒子加速可能状態)となる時間を短時間とすることができ、効率良く粒子加速を行うことができる。更に、ジュール熱を生じないこと等により、各主コイル3及び補正コイル4,6に熱変形が生じる事態を防止することができ、磁場分布の変動を防止して、安定した等時性磁場の形成ないし磁場の粒子加速の安定動作の確保等を行うことができる。そして、以上の特性により、重粒子加速器の普及を促進することができ、重粒子線がん治療を実施可能な病院が増加する等、多大な効果を奏することができる。
又、制御装置(コンピュータ)は、重粒子のエネルギーの上昇を図る等により更に高磁場を形成する指令を受けた場合には、補正コイル4,6に対する電圧を制御して補正コイル4,6における電流を停止すると共に、補正コイル8,10における電圧を制御して補正コイル8,10に対し電流を付与する(図2参照)。更に、主コイル3に対する電圧も制御して、主コイル3ないし補正コイル8,10に流される電流密度を、約6.89×107A/m2程度と、図1の場合に比して変更制御する。
このようにして得られた等時性磁場の磁束密度分布を図6に示す。この場合においても、径方向に滑らかに磁束密度の高くなる磁気勾配を有する磁場を、磁束密度の極めて高い状態で形成することができている。しかも、目的磁場につき、中心付近の磁束密度を4T程度とし、周端側の磁束密度を5.5T程度とすることができている。周端側の磁束密度は、図1の場合(5T)と比べ、より大きくなっている。
従って、目的磁場に荷電粒子を入射させることで、重粒子であっても螺旋軌道により十分に(350MeV/u程度まで)加速することができる。そして、図1の状態(主コイル3及び補正コイル4,6に対する電流付与切替え)では重粒子は290MeV/uのエネルギーを有するように加速されるところ、この図2の状態(主コイル3及び補正コイル4,6に対する電流付与切替え)では350MeV/uのエネルギーを有するように加速される。
よって、各コイル(互いに対称なコイルの対)に通電する電流値を制御し、あるいはコイルに対する電流の付与の有無を切替えることで、形成される磁場の磁束密度の高さや、これにより加速される粒子のエネルギーを可変とすることができる。又、磁場等の変更は、上述した停止状態から磁場発生状態への短時間の移行と同様の理由により、短時間で行える。特に重粒子線がん治療にあっては、腫瘍の体表からの深さに応じたエネルギーを有する重粒子線をフレキシブルに照射することができ、エネルギー変更の必要が生じても比較的迅速に対応することができて、より良い治療を施しながら患者に余計な負担をかけずに済む。
更に、制御装置(コンピュータ)は、更なる高磁場を形成する指令を受けた場合には、補正コイル8に対する電圧を制御して補正コイル8における電流を停止すると共に、補正コイル10,12における電圧を制御して補正コイル10,12に対し電流を付与する(図3参照)。又、主コイル3に対する電圧も制御して、主コイル3ないし補正コイル10,12に流される電流密度を、約6.13×107A/m2程度と、図1や図2の場合に比して変更するよう制御する。
このようにして得られた等時性磁場の磁束密度分布を図7に示す。この場合においても、径方向に滑らかに磁束密度の高くなる磁気勾配を有する磁場を、磁束密度の極めて高い状態で形成することができている。しかも、磁場につき、中心付近の磁束密度を4.2T程度とし、周端側の磁束密度を6T程度とすることができている。特に周端側の磁束密度は、図1や図2の場合(5T,5.5T)と比べ、より大きくなっている。
従って、目的磁場に荷電粒子を入射させることで、重粒子であっても螺旋軌道により十分に(400MeV/u程度まで)加速することができる。そして、図1,図2の切替え状態では重粒子は290,350MeV/uのエネルギーを有するように加速されるところ、この図3の状態では400MeV/uのエネルギーを有するように加速される。
よって、各コイルに通電する電流値を制御し、あるいは通電の有無を切替えることで、形成される磁場の磁束密度の高さや、これにより加速される粒子のエネルギーを可変とすることができる。又、磁場等の変更は、上述した停止状態から磁場発生状態への短時間の移行と同様の理由により、やはり短時間で行える。よって、重粒子線がん治療では、エネルギー変更の必要が生じても比較的迅速に対応することができ、患者に余計な負担をかけない状態でより良い治療を実施可能である。
なお、図8に、図1ないし図3の配置により形成される磁場を並べたグラフを示す(曲線を若干円滑化している)。このグラフでは、滑らかな勾配を有する磁場につき、磁束密度の高さが極めて高くしかも可変となっていることが示されている。
一方、比較例に係るコイルシステムを有する粒子加速器につき同様に動作させた場合、本発明における図5で示したような磁場と同様の磁場を得ることができるものの、形成される磁場の磁束密度の高さや、これにより加速される粒子のエネルギーを可変とすることは不可能であるし、そうであるにもかかわらずコイルの形成のために使用する超電導線材の量が約3.92m3となり、本発明のコイルシステム1ないし粒子加速器と比較しても多量の線材使用量となる。
従って、複数のコイルから成るコイルユニットを含みコイル毎の電流を切替える本発明のコイルシステム1ないし粒子加速器にあっては、重粒子につきがん治療等に利用可能なエネルギーまで加速が可能となるような等時性の高磁場並びに磁場分布を実現し、かつエネルギーの可変を実現しながら、比較的にコストを要する酸化物超電導線材の使用量を低減することができ、がん治療等に利用可能な粒子加速器の普及の促進に一層寄与することとなる。
[第2形態]
本発明の第2形態に係るコイルシステム21ないし粒子加速器は、各コイルの寸法、ないし補正コイルの構成に関する事項を除き、第1形態のコイルシステム1と同様に成る。
図9ないし図11は、コイルシステム21を図1ないし図3と同様に示すものである。コイルシステム21のコイルユニット22において、各コイルは第1形態の主コイル3と同様に形成されており、主コイル23の断面は、縦約0.937m,横約0.111mとなっていて、縦横比(アスペクト比)が縦:横=1:2を超え、1:3をも超えるものとなっている。又、主コイル23の外径は半径約2.516mであり、内径は半径約1.578mとなっている。更に、主コイル23は、鏡面対称の主コイル23に対して約0.13m離れた状態で配置されている(図9の横軸に対して約0.065m離れている)。
又、補正コイル24(図9)は、外径約2.037m,内径約1.788m,幅約0.249m,厚み約0.0945mとされており、対称位置の補正コイル24に対し約0.352m間隔を置いて配置されている(図9の横軸に対して約0.176m離れている)。従って、補正コイル24は、主コイル23や自身の軸方向において主コイル23と並んだ状態で配置されており、主コイル23より遠方に位置していて、その内径ないし外径は主コイル23の外径より小さくされており、主コイル23の外径より内側に位置している。
更に、補正コイル26(図9)は、外径約1.386m,内径約1.306m,幅約0.0805m,厚み約0.805mとされており、対称位置の補正コイル26に対し約0.5m間隔を置いて配置されている(図9の横軸に対して約0.25m離れている)。従って、補正コイル26は、主コイル23や補正コイル24より遠方に位置しており、又その内径ないし外径は、主コイル23や補正コイル24の外径より小径とされていて、主コイル23や補正コイル24の外径より内側に配置されている。なお、主コイル23及び補正コイル24,26のコイル巻き体積は、合わせて約3.034m3となる。又、図9の状態において、各コイルにおける電流密度は、約4.26×107A/m2程度とされている。
加えて、補正コイル28(図10)は、外径約2.168m,内径約1.757m,幅約0.411m,厚み約0.0867mとされており、対称位置の補正コイル28に対し約0.352m間隔を置いて配置されている(図10の横軸に対して約0.176m離れている)。従って、補正コイル28は、主コイル23より遠方に位置しており、又その内径ないし外径は、主コイル23の外径より小径とされていて、主コイル23の外径より内側に配置されている。なお、補正コイル28は補正コイル24を含む状態(巻線を交互に通した状態)で巻かれており、補正コイル24,28に対しては共通の冷却媒体封入用シールドが配備されている。
又、補正コイル30(図10)は、外径約1.375m,内径約1.288m,幅約0.0867m,厚み約0.634mとされており、対称位置の補正コイル28に対し約0.538m間隔を置いて配置されている(図10の横軸に対して約0.269m離れている)。従って、補正コイル30は、主コイル23や補正コイル28より遠方に位置しており、又その内径ないし外径は、主コイル23や補正コイル28の外径より小径とされていて、主コイル23や補正コイル28の外径より内側に配置されている。なお、補正コイル26は補正コイル30を含む状態で巻かれており、補正コイル26,30に対しては共通の冷却媒体封入用シールドが配備されている。又、主コイル23及び補正コイル28,30のコイル巻き体積は、合わせて約3.130m3となる。更に、図10の状態において、各コイルにおける電流密度は、約4.42×107A/m2程度に変更されている。
又更に、補正コイル32(図11)は、外径約1.736m,内径約1.212m,幅約0.524m,厚み約0.0223mとされており、対称位置の補正コイル32に対し約0.352m間隔を置いて配置されている(図11の横軸に対して約0.174m離れている)。従って、補正コイル32は、主コイル23より遠方に位置しており、又その内径ないし外径は、主コイル23の外径より小径とされていて、主コイル23の外径より内側に配置されている。
一方、補正コイル34(図11)は、外径約1.466m,内径約0.506m,幅約0.96m,厚み約0.0139mとされており、対称位置の補正コイル34に対し約0.316m間隔を置いて配置されている(図11の横軸に対して約0.158m離れている)。従って、補正コイル34は、主コイル23より遠方に位置しており、又その内径ないし外径は、主コイル23の外径より小径とされていて、主コイル23の外径より内側に配置されている。なお、主コイル23及び補正コイル32,34のコイル巻き体積は、合わせて約2.139m3となる。更に、図11の状態において、各コイルにおける電流密度は、約6.40×107A/m2程度に変更されている。
このようなコイルシステム21等を有する粒子加速器につき、コンピュータ制御により第1形態と同様に動作させ、電流を主コイル23及び補正コイル24,26に切替えた図9の状態において得られた目的磁場(等時性磁場)の磁束密度分布を図12に示す。コイルシステム21に係る粒子加速器にあって、図9の状態では、目的磁場につき、中心付近の磁束密度を3.8T程度とし、周端側の磁束密度を5T程度とすることができ、極めて大きな磁束密度の磁場を、滑らかな磁気勾配を有する状態で形成することができている。
又、電流を主コイル23及び補正コイル28,30に切替えた図10の状態では、図13に示すように、目的磁場につき、中心付近の磁束密度を4T程度とし、周端側の磁束密度を5.5T程度とすることができ、更に大きな磁束密度の磁場を、滑らかな磁気勾配を有する状態で形成することができている。
更に、電流を主コイル23及び補正コイル32,34に切替えた図11の状態では、図15に示すように、目的磁場につき、中心付近の磁束密度を4.2T程度とし、周端側の磁束密度を6T程度とすることができ、より一層大きな磁束密度の磁場を、滑らかな磁気勾配を有する状態で形成することができている。
そして、各コイルに通電する電流値を制御し、あるいは電流の切替えを行うことで、第1形態と同様、所望の磁場(図8参照)を得ることができ、磁場等の変更が短時間で行える。よって、重粒子線がん治療では、エネルギー変更の必要が生じても比較的迅速に対応することができ、患者に余計な負担をかけない状態でより良い治療を実施可能である。
[第3形態]
本発明の第3形態に係るコイルシステム41ないし粒子加速器は、各コイルの寸法、ないし補正コイルの構成に関する事項を除き、第1形態のコイルシステム1と同様に成る。
図15ないし図17は、コイルシステム41を図1ないし図3と同様に示すものである。コイルシステム41のコイルユニット42は、主コイル43,44及び補正コイル45,46,48,49を含む。コイルユニット42の各コイルは、第1形態の主コイル3と同様に形成されており、空間領域が重なるコイル同士(主コイル43,44あるいは補正コイル45,46)においても、互い違いに巻くか、あるいは複数の小コイルを組合わせ、更に共通の冷却媒体封入用シールドを配備する等して、独立して機能するように構成されている。
主コイル43の断面(図15)は、縦約0.162m,横約0.396mとなっていて、縦横比(アスペクト比)が縦:横=1:2を超えるものとなっている。又、主コイル43の外径は半径約2.018mであり、内径は半径約1.622mとなっている。更に、主コイル43は、鏡面対称の主コイル43に対して約0.13m離れた状態で配置されている(図15の横軸に対して約0.065m離れている)。
一方、主コイル44の断面(図16,17)は、縦約0.197m,横約0.495mとなっていて、縦横比(アスペクト比)が縦:横=1:2を超えるものとなっている。又、主コイル44の外径は半径約2.128mであり、内径は半径約1.632mとなっている。更に、主コイル44は、鏡面対称の主コイル44に対して約0.13m離れた状態で配置されている(図16,17の横軸に対して約0.065m離れている)。主コイル44は、主コイル43や自身の軸方向において主コイル43と並んだ状態で互いに同軸に配置されている。
又、補正コイル45(図15,17)は、外径約1.631m,内径約1.481m,幅約0.150m,厚み約0.13mとされており、対称位置の補正コイル45に対し約0.436m間隔を置いて配置されている(図15,17の横軸に対して約0.218m離れている)。補正コイル45は、主コイル43,44や自身の軸方向において主コイル23と並んだ状態で配置されており、主コイル43,44より遠方に位置していて、その内径ないし外径は主コイル23の外径より小さくされており、主コイル43,44の外径より内側に位置している。
更に、補正コイル46(図16)は、外径約1.599m,内径約1.486m,幅約0.113m,厚み約0.182mとされており、対称位置の補正コイル46に対し約0.404m間隔を置いて配置されている(図16の横軸に対して約0.202m離れている)。補正コイル46は、主コイル43,44や自身の軸方向において主コイル43,44と並んだ状態で配置されており、主コイル43,44より遠方に位置していて、その内径ないし外径は主コイル43,44の外径より小径とされており、主コイル43,44の外径より内側に配置されている。
加えて、補正コイル48(図15)は、外径約1.457m,内径約0.564m,幅約0.892m,厚み約0.0182mとされており、対称位置の補正コイル48に対し約0.454m間隔を置いて配置されている(図15の横軸に対して約0.227m離れている)。補正コイル48は、主コイル43,44や自身の軸方向において主コイル43,44と並んだ状態で配置されており、主コイル43,44より遠方に位置している。又、補正コイル48の内径ないし外径は、主コイル43,44や補正コイル45,46の外径より小径とされていて、主コイル43,44や補正コイル45,46の外径より内側に配置されている。
又、補正コイル49(図16,17)は、外径約1.445m,内径約0.524m,幅約0.921m,厚み約0.0165mとされており、対称位置の補正コイル28に対し約0.347m間隔を置いて配置されている(図16,17の横軸に対して約0.173m離れている)。補正コイル49は、主コイル43,44や自身の軸方向において主コイル43,44と並んだ状態で配置されている。補正コイル49の内径ないし外径は、主コイル43,44や補正コイル45,46の外径より小径とされていて、主コイル43,44や補正コイル45,46の外径より内側に配置されている。
なお、図15の状態において、主コイル43及び補正コイル45,48のコイル巻き体積は、合わせて約1.49m3となり、各コイルにおける電流密度は、約6.59×107A/m2程度となる。又、図16の状態において、主コイル44及び補正コイル46,49のコイル巻き体積は、合わせて約1.85m3となり、各コイルにおける電流密度は、約6.01×107A/m2程度となる。更に、図17の状態において、主コイル44及び補正コイル45,49のコイル巻き体積は、合わせて約2.15m3となり、各コイルにおける電流密度は、約5.56×107A/m2程度となる。
このようなコイルシステム41等を有する粒子加速器につき、コンピュータ制御により第1形態と同様に動作させ、電流を主コイル43及び補正コイル45,48に切替えた図15の状態において得られた目的磁場(等時性磁場)の磁束密度分布を図18に示す。コイルシステム41に係る粒子加速器にあって、図15の状態では、目的磁場につき、中心付近の磁束密度を3.8T程度とし、周端側の磁束密度を5T程度とすることができ、極めて大きな磁束密度の磁場を、滑らかな磁気勾配を有する状態で形成することができている。
又、電流を主コイル44及び補正コイル46,49に切替えた図16の状態では、図19に示すように、目的磁場につき、中心付近の磁束密度を4T程度とし、周端側の磁束密度を5.5T程度とすることができ、更に大きな磁束密度の磁場を、滑らかな磁気勾配を有する状態で形成することができている。
更に、電流を主コイル44及び補正コイル45,49に切替えた図17の状態では、図20に示すように、目的磁場につき、中心付近の磁束密度を4.2T程度とし、周端側の磁束密度を6T程度とすることができ、より一層大きな磁束密度の磁場を、滑らかな磁気勾配を有する状態で形成することができている。
そして、各コイルに通電する電流値を制御し、あるいは電流の切替えを行うことで、第1形態と同様、所望の磁場(図8参照)や粒子エネルギーを得ることができ、磁場等の変更が短時間で行える。よって、重粒子線がん治療では、エネルギー変更の必要が生じても比較的迅速に対応することができ、患者に余計な負担をかけない状態でより良い治療を実施可能である。
[第4形態]
本発明の第4形態に係るコイルシステムないし粒子加速器は、各コイルの巻線方式を除き、第1形態のコイルシステム1と同様に成る。
第4形態のコイルシステムないし粒子加速器では、各主コイル3及び補正コイル4,6,8は、帯状の超電導線材をパンケーキ巻きして形成されたパンケーキコイルを用いて構成されている。各主コイル3及び補正コイル4,6,8,10,12は、中央に孔を有する円盤状(環状)のパンケーキコイルにつき、複数重ねることで積層構造をとるように(積層パンケーキコイルとして)構成されている。
第4形態のコイルシステムないし粒子加速器においても、第1形態と同様、円滑な磁気勾配を付与可能な高磁場につき、小型で低コストで普及容易な装置において形成することができ、磁束密度やエネルギーを可変として制御可能とすることができる。しかも、各主コイル3及び補正コイル4,6,8,10,12がパンケーキコイルあるいはその積層体で形成されているため、励磁時において電磁力が圧縮応力として線材構成材(ハステロイ)に対して印加されるようにすることができ、各主コイル3及び補正コイル4,6,8,10,12の機械的強度を高くして挫屈を回避することができて、耐久性を一層向上し、又高磁場をより安定した状態で生成することができる。
[変更例]
なお、主に上記形態を変更して成る、本発明の他の形態を例示する。第1形態において、補正コイル6,10を同一のコイルで構成し、発生する磁場の強度に応じて、そのコイルを補正コイル6に対応する位置や補正コイル10に対応する位置に移動する。この場合、移動中に電流を停止して移動中の安定動作を図ることができる。同様に、補正コイル4,8を同一のコイルで構成し、補正コイル4に対応する位置や補正コイル8に対応する位置に移動可能とする。あるいは、補正コイル4,8,12等につき、電流が流されない場合には外方へ退避可能とし、電流が流される場合には励磁位置まで進出するよう移動可能とする。
コイルの数は、片側のコイルユニットにおいて様々に変更することができ、通電する(電流を流す)コイルについても、コイルユニット当たり2個としても良いし、4個以上としても良い。コイルにつき、断面の面積(断面積)に基づき主コイルと補正コイルとに分けず、全て同様の断面積を有するようにしたり、各コイルで様々な断面積をもつようにしたりして良い。又、主コイルを補正コイルより目的磁場に対して遠くに配置して良い。各種コイルの寸法や配置につき、磁気勾配形状や磁束密度の高さ等に応じて微調整し、あるいは変更することができる。一方のコイルユニットは、他方のコイルユニットにおける全てのコイルに対して鏡面対称であるコイルのみから成る必要はなく、他方のコイルユニットにはない微調整用のコイルを追加して配備する等、他方のコイルユニットに属する複数のコイルに対して鏡面対称であるコイルを含むのであればどのような構成を採用しても良い。パンケーキコイルは、積層せず単独で用い、積層数を様々にし、あるいは層毎の厚みや巻き数や線材の種類・寸法等を様々にすることができ、コイルシステムは、ソレノイドコイル、パンケーキコイル、又は積層パンケーキコイルの組合せとして良い。第2形態のコイルシステム等にあっても、パンケーキコイルを用いることができる。冷却媒体の温度につき、20K以外として良い。
コイルに対する電流の切替え(励磁組合せ配置変更)につき、徐々に磁束密度ないしエネルギーの高い磁場となるよう順に切替えず(変更せず)、例えば当初から高磁場を形成するよう切替えて(変更して)良いし、当初から中位の磁場を形成するよう切替えて(変更して)も良い。電流の切替えパターン(コイルの配置パターン)を2種類又は4種類以上とし、磁束密度ないしエネルギーの段階を2段階又は4段階以上として良い。
主コイルにつき電流を流さないように切替可能として良い。補正コイルや主コイル等を追加又は減少させるような電流切替えを行って良い。電流密度、電流・電圧、通電するコイルの組合せ等は、磁気勾配形状や磁束密度の高さ等に応じて様々に変更することができる。又、電流値のみを変更し、電流の切替えパターンのみを変更し、あるいはコイルの配置のみを移動により変更して、磁場によるエネルギーを変えることができるし、これらの組合せによって磁場によるエネルギーを変えることができる。あるいは、コイル毎に電流値を変更して良いし、各コイルを複数のグループに分け、グループ毎に電流値を変更しても良いし、磁気勾配形状や磁束密度の高さの状況等に応じてグループに属するコイルを変更しても良い。又、電流密度あるいは電流・電圧、電流切替え等は、対応するコイル同士(一方のコイルユニットにおけるコイルと、他方のコイルユニットにおける対応するコイル、互いに鏡面対称となっている対のコイル)で同等になるように制御することができるし、配置につき、対応するコイル同士であっても鏡面対称とならない位置とすることができる。