JP5416901B2 - 興味のある分子の細胞内位置決めのためのベクターとして用いられるマウロカルシン由来ペプチド - Google Patents
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Description
実際に、これらの小分子は、輸送体非依存性及び受容体非依存性の様式で細胞膜を横切り、かつこれらの膜を浸透不可能な巨大分子、例えばタンパク質及び核酸を、低濃度でエネルギーを用いずに効率的に(細胞の100%の導入)かつ迅速に(5〜15分程度)、全ての細胞種においてインビボ及びインビトロで輸送できる。さらに、これらのペプチドのいくつかは、血液髄膜関門を横切ることができることが示されている(Schwarze及びDowdy, Science, 1999, 285, 1569〜1572)。
* 種々のタンパク質の膜移送シグナル配列由来ペプチド(カポジ肉腫由来繊維芽細胞成長因子(K-FGF)及び免疫グロブリン軽鎖(Ig(v));これらのペプチドの透過の機構は知られておらず、中心の疎水性領域が透過に関与するが、この領域の構造はタンパク質により異なる(α-へリックス(K-FGF)又はβ-シート(Ig(v));
* 細胞内シグナル伝達タンパク質又は「メッセンジャータンパク質」由来ペプチド;これらのタンパク質は、細胞内に直接透過し、そして、それらが転写調節する核に到達する特殊性を有する(HIV-1 Tat、HSV-1 VP22及びホメオタンパク質)。
- 膜を横切りかつ他のタンパク質又はオリゴヌクレオチドに対してベクターとしての役割を果たすことができる最小のホメオタンパク質フラグメントは、ペネトラチンとして知られる、ホメオドメインのヘリックス3に相当する43〜58ペプチドである(Derossiら, J. Biol. Chem., 1994, 269, 10444〜10450及び国際出願WO 97/12912)。この配列の変異体の研究は、α-ヘリックス構造が細胞内移送には関与しないが、核での位置付け(addressing)において役割を演じることを示している。一方、位置48のW残基は重要であり、ペプチドの両親媒性の特性が移動に必須であるが充分ではない。補足的な研究により、W48残基の役割が確認され、正に荷電したアミノ酸(リジン及びアルギニン)の、負に荷電した膜リン脂質との相互作用の重要性が示されている。これらの研究により、逆ミセル(inverse micelle)モデルが提案された。このモデルによると、ペネトラチンは、細胞表面にて静電的相互作用により安定化され、位置48のトリプトファンは、ペプチドをトラップしそれを細胞質内に送達する逆ミセルを形成させる。
- Tatタンパク質の最も効果的なフラグメントは、全塩基性領域に相当しかつ核局在化シグナルを含む48〜60フラグメントである。しかし、より短いフラグメント(47〜57)は、融合タンパク質の形で、15〜120 kDaのタンパク質を種々の細胞種においてインビトロ及びインビボで輸送でき、血液髄膜関門を横切ることができる。さらに、ヒトウイルスのTatペプチドとは異なって、ウマウイルスのTatペプチドは、ホメオドメインの構造に類似の構造を有する。
Z-X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9-X10-X11-X12-X13-X14-X15-X16-X17-X18-X19-X20-X21-X22-X23-X24-X25-X26-Z' (I)
(式中、
- X1及びX26はそれぞれシステインを表し、
- X2〜X25はそれぞれアミノ酸を表すか又は存在しないが、X7、X10、X11、X12、X13、X14、X15及びX16は常に存在し、
- X10、X11、X13及びX14はそれぞれリジン又はアルギニンを表し、
- Z及び/又はZ'は存在しないか又はそれぞれ1〜35アミノ酸の配列を表すが、添付の配列表の配列番号1の配列のペプチドは除く)
に相当するマウロカルシン由来ペプチドから実質的になることを特徴とする、興味のある物質(substance of interest)の細胞内位置付け(intracellular addressing)のためのペプチドベクターの使用である。
上記の輸送される物質がペプチド又はタンパク質である場合、これは、ペプチド結合によりペプチドベクターに結合することが有利である。
このような細胞内分子プローブは、インビトロ及びインビボでの細胞撮像、特にリアルタイム撮像において用いられる。これらは、遺伝病若しくは後天性疾患又は微生物による感染の診断用試薬として、又はリサーチツールとして特に用いることができる。
上記の使用の別の有利な実施形態によると、X2、X3、X4、X5、X6、X8、X23、X24及びX25は存在しない。
上記の使用の別の有利な実施形態によると、Z'はアルギニン又はリジンを表す。
Z1-Z2-Z3-Z4-Z5-Z6-Z7-Z8-Z9-Z10-Z11-Z12-Z13-Z14-Z15-Z16-Z17-Z18-Z19-Z20-Z21-Z22-Z23-Z24-Z25-Z26-Z27-Z28-Z29-Z30-Z31-Z32-Z33-Z34-Z35 (II)
(式中:Z1〜Z35はそれぞれアミノ酸を表すか又は存在しないが、Z29、Z30、Z32及びZ31又はZ33は常に存在する)
に相当する。
好ましくは、Z22、Z23、Z24、Z25、Z26、Z27、Z28、Z30、Z31、Z32、Z33、Z34及びZ35から選択される少なくとも3つのアミノ酸は、それぞれリジン又はアルギニンを表す。さらにより好ましくは、Z27及びZ30はそれぞれリジンを表し、Z28又はZ34はそれぞれリジン又はアルギニンを表す。
例えば、次のアミノ酸配列の1つが存在する:Z19〜Z21、Z23〜Z30及びZ32〜Z35;Z19〜Z21、Z23〜Z33及びZ35;Z20、Z21、Z23〜Z30及びZ32〜Z35;Z20、Z21、Z23〜Z33及びZ35;Z21、Z23〜Z30及びZ32〜Z35;Z21、Z23〜Z33及びZ35。
a) マウロカルシンとインペラトキシン又はマウロカルシンとオピカルシンのキメラ、例えば配列番号24及び25の配列のペプチド、
b) 33アミノ酸のマウロカルシン由来ペプチド:ここで、
- X1、X7、X12、X26、Z21及びZ29はCを表し、
- X10、X11、X13、X14、X21、X22、Z27、Z30及びZ28又はZ34はK又はRを表し;好ましくは、少なくともX10、X11、X13、X21、Z27及びZ30はKを表し、さらにより好ましくは、X10、X11、X13、X21、Z27及びZ30はKを表し、そしてZ28又はZ34はK又はRを表し、好ましくは、Z28はRを表すか、又はZ34はKを表し、
- X2、X3、X4、X5、X6、X8、X23、X24、X25、Z1〜Z18、Z22及びZ31又はZ34は存在せず、
- X9はS又はGを表し、
- X15はRを表し、
- X17はT、S又はAを表し、
- X19は、A、V、L、I、P、W、F及びMから選択される疎水性アミノ酸を表し、
- X16、X18、X20、Z19、Z20、Z23、Z24、Z25、Z26、Z32、Z33、Z35、Z'及び所望によりZ28、Z31、Z34は、A、C、D、E、F、G、K、L、M、P又はN、好ましくはA又はFを表し;例えばZ19はGを表し、Z'は、R又はKを表す、
c) マウロカルシンの位置16〜32又は16〜33に対応するb)で定義されるペプチドのフラグメント、
d) マウロカルシンの位置10〜32又は10〜33に対応するb) で定義されるペプチドのフラグメント、
e) マウロカルシンの位置8〜32又は8〜33に対応するb)で定義されるペプチドのフラグメント、及び
f) X15がRともKとも異なるb)、c)、d)及びe)で定義されるペプチド由来のペプチド
で表される。
「異種」の用語は、マウロカルシン又はマウロカルシンアナログの配列中の配列(I)に直接隣接している配列以外の配列を意味することを意図する。
上記の組成物の有利な実施形態によると、上記の薬理活性物質とペプチドベクターとは、上記で定義されるキメラペプチド又はキメラタンパク質の形である。
上記の組成物の別の有利な実施形態によると、上記の薬理活性物質は、ヒト又は動物の個体に投与することを意図する医薬である。
本発明の主題は、ヒト又は動物における病変の治療用の医薬の製造のための、上記で定義される組成物の使用でもある。
上記の組成物の有利な実施形態によると、上記のペプチドベクターは、上記で特定したような適切な標識、標識されたナノ粒子、及び/又は上記のリガンド(キメラタンパク質又はキメラペプチド)と連結される。
上記の組成物の別の有利な実施形態によると、上記のリガンドは、上記の成分に指向された抗体又は抗体の機能的フラグメントである。
本発明の主題は、上記で定義する組成物を、いずれの適切な手段により個体に投与することを含むことを特徴とする、病変を治療する方法でもある。
- 細胞試料を上記で定義される検出試薬と接触させ、そして
- いずれの適切な手段により細胞内標識を検出する
ことを含むことを特徴とする、細胞内成分をインビトロで検出する方法でもある。
本発明によると、上記の細胞試料は、微生物に感染した可能性がある高等真核生物の細胞、又は微生物(細菌、酵母、真菌類、寄生体)の細胞を含む。
- 上記で定義される検出試薬を生物に導入し、そして
- いずれの適切な手段により、細胞内標識をin situで検出する
ことを含むことを特徴とする、細胞内成分をインビボで検出する方法でもある。
a) 転写及び所望により翻訳のために適切な調節配列(プロモーター、アクチベーター、イントロン、開始コドン(ATG)、停止コドン、ポリアデニル化シグナル)の制御下に、上記で定義する少なくとも1種のポリヌクレオチドを含む発現カセット、及び
b) 本発明によるポリヌクレオチドを含む組換えベクター
を含む。有利には、これらのベクターは、上記で定義される少なくとも1種の発現カセットを含む発現ベクターである。
- マウロカルシン由来ペプチド及び融合ペプチドは、Merrifieldら(J. Am. Chem. Soc., 1964, 85: 2149〜)により初めに記載されたFmoc法に従って固相合成でき、逆相高性能液体クロマトグラフィーにより精製でき、
- マウロカルシン由来ペプチド、並びに融合ペプチド及びタンパク質は、当業者に公知のいずれの手段により得られた対応するcDNAから産生することもできる。該cDNAは、真核又は原核の発現ベクターにクローニングされ、組換えベクターで改変された宿主細胞で産生されるタンパク質又はフラグメントは、いずれの適切な手段により、特にアフィニティクロマトグラフィーにより精製される。
- 図1は、マウロカルシンの配列及び構造を示す。A.マウロカルシン及びこれらもまたリアノジン受容体に対して活性な2つのその他のアナログトキシン:オピカルシン1及びインペラトキシンAの配列のアラインメント。全てのトキシンは、同数の正に荷電したアミノ酸又は塩基性アミノ酸を有する(全33アミノ酸のうち12の正に荷電したアミノ酸)。B. WebLab ViewerProTMソフトウェアを用いて確立したマウロカルシンの三次元構造。左のパネル:正に荷電した残基(G1、K8、K11、K14、K19、K20、K22及びK30)を含む塩基性面。右のパネル:分子の反対側の面には正に荷電した残基がないことを示す疎水性面。ペプチド主鎖はリボンで示し、正に荷電したアミノ酸の側鎖は鱗状を示す球と幹とで示す。
1) 材料及び方法
a) ペプチド合成
マウロカルシン、本発明によるマウロカルシン由来ペプチド及びそれらのビオチン標識した誘導体を、固相ペプチド合成(Merrifield, Science, 1986, 232, 341〜347)により、自動合成装置(モデル433A, APPLIED BIOSYSTEMS)を用いて調製した。N-α-Fmoc-L-Lys(ビオチン)-OHは、NEOSYSTEM (SNPEグループ)から供給された。N-α-Fmoc-Lアミノ酸誘導体、4-ヒドロキシメチルフェニルオキシ樹脂及びペプチド合成に用いた試薬は、PERKIN ELMER LIFE SCIENCESより提供された。ペプチド鎖は、0.25 meqのヒドロキシメチルフェニルオキシ樹脂(1%の架橋;0.89 meqのアミノ基/g)上で、1 mmolのN-α-Fmoc-Lアミノ酸誘導体を用いて、連続的に組み立てられた。側鎖の保護基は、次のとおりである。システイン及びアスパラギン残基についてトリチル;セリン、スレオニン、グルタミン酸及びアスパラギン酸残基についてtert-ブチル;アルギニン残基についてペンタメチルクロマン、及びリジン残基についてtert-ブチルオキシカルボニル。
可溶性のストレプトアビジン-シアニン3及びストレプトアビジン-シアニン5 (Strept-Cy3及びStrept-Cy5、AMERSHAM)を、4モル等量のビオチン標識マウロカルシン(1 mM)又はビオチン標識マウロカルシン由来ペプチドと、リン酸バッファー(PBS:136 mM NaCl、1.47 mM Na2HPO4、2.6 mM KCl、1 mM CaCl2、0.5 mM MgCl2、pH 7.2)中で、暗所にて37℃にて2時間混合した。
L6ラット筋原細胞系(クローンC5、EACC)を、15%胎児ウシ血清(LIFE TECHNOLOGIES)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Invitrogen)を補ったDMEM培地で培養する。
L6細胞系の分化は、細胞が集密になったときに培養培地を分化培地(DMEM+5%ウマ血清)に置き換えることにより誘導した。
d1) 固定細胞
細胞を、マウロカルシン、並びにビオチン標識及びストレプトアビジン-シアニン3又はストレプトアビジン-シアニン5と複合化した派生ペプチドと、PBS中で100 nMの最終濃度で、暗所で周囲温度にて30分〜1時間インキュベートした。PBS中で3回洗浄した後に、細胞を周囲温度にて、パラホルムアルデヒド溶液(4%)中で、暗所で10分間固定し、PBSで洗浄し、細胞質膜を標識するためにFITC-結合コンカナバリン(MOLECULAR PROBES、5μg/ml)と、そして核を標識するためにヨウ化TO-PRO-3 (MOLECULAR PROBES、1μM)と1時間インキュベートする。細胞骨格を標識するために、細胞を固定し、氷冷メタノールを用いて10分間透過にし、PBSで洗浄し、マウス抗-α-チューブリン抗体(1:1000、SIGMA)と2時間インキュベートした。PBSで2回洗浄した後に、細胞を1時間、Alexa 488結合抗-マウスIgG二次抗体(1:1000、MOLECULAR PROBES)とインキュベートした。次いで、培養物をVectashield封入剤(VECTOR LABORATORIES)中で標本にした。調製物を、レーザスキャン共焦顕微鏡で、Leica TCS SP2コントロールシステムを用いて観察した。Alexa-488及びCy3又はヨウ化プロピジウム(PI)の蛍光を連続的に励起し、次いで記録した。543 nmのヘリウム-ネオンレーザビーム及び蛍光発光を用いて励起したCy3蛍光は、554 nm及び625 nmの間で記録した。画像は、Adobe Photoshop 7.0に取り込んだ。
生細胞は、マウロカルシン、及びビオチン標識してストレプトアビジン-シアニン3と複合化した派生ペプチドと、PBS中に100 nMの最終濃度で、新しく交換した培養培地中で周囲温度にて、水侵対物レンズ(×40)を備えた直立型顕微鏡(Nikon Eclipse 600 FN、;口径0.8)及び共焦頭部(Nikon PCM 2000)、又は「XYZt」モードに従って対物レンズ(×100)を備えたLeica TCS SP2顕微鏡の台の上でインキュベートした。
細胞をマウロカルシン、及びビオチン標識しストレプトアビジン-シアニン5と複合化した派生ペプチド(MCab-Strept-Cy5複合体)と、PBS中に100 nMの最終濃度で、暗所にて周囲温度で1時間インキュベートする。PBS (PBS:0.15 mM NaCl、6.84 mM Na2HPO4、3.16 mM NaH2PO4、pH 7.2)中で2回洗浄した後に、細胞外複合体及び形質膜結合複合体を除くために、細胞をトリプシン(1 mg/ml、INVITROGEN)で10分間、37℃にて処理した。トリプシンとのインキュベーションの後に、細胞懸濁物を500 gにて遠心分離し、細胞を、1μg/mlのヨウ化プロピジウム(SIGMA)含有PBS中に再懸濁した。ヨウ化プロピジウム処理工程を含まない実験について(用量応答曲線)、MCab-Strept-Cy3複合体をMCab-Strept-Cy5複合体に代えて用いる。分析は、フローサイトメータ(FACScalibur、BECTON DICKINSON)を用いて生細胞について行った。データは、適切なソフトウェア(CellQuest、BD BIOSCIENCES)を用いて記録し分析した。生細胞を合計で10000の事象についてのそれらのサイズ及び顆粒性(granulosity) (前方/側方散乱)に従って分類した。
a) 透過分析
マウロカルシン変異体(配列番号2〜8及び12〜23)、及びマウロカルシンとインペラトキシン(配列番号24)又はオピカルシン(配列番号25)のいずれかとの2種のキメラを合成した。
- GDCLPHLKRCKADNDCCSKKCKRAGTNIEKRCR (配列番号24)及び
- GDCLPHLKRCKENNDCCSKKCKRAGTNIEKRCR (配列番号25)。
b1) 1時間の間の分析
未分化の生存L6細胞の蛍光動態の1時間の期間にわたる共焦顕微鏡法分析は、細胞外媒体にMCab/Strept-Cy3を加えた(100 nM) 3分後から標識が出現し始めることを示す(図6A)。細胞質膜(ROI-1)、細胞質(ROI-2)及び核(ROI-3)のそれぞれに対応する3つの興味のある領域を規定した。種々の興味のある領域の位置決め(positioning)は、観察された細胞により透過された光の画像の分析により促進された(図6B)。種々のROIにおける蛍光強度の変化は、時間の関数として分析した(図6C)。
HEK 293細胞内でのMCab/Strept-Cy5複合体の細胞内分布を、共焦顕微鏡法により、333 nMの複合体との1時間のインキュベーションの後に分析した(図7A)。HEK 293細胞表面の標識はコンカナバリンAを用いて行い、細胞の核はヨウ化プロピジウムを用いて標識した(図7A)。これらの標識をMCab/Strept-Cy5複合体の標識と比較すると、細胞質膜及び細胞質の両方に複合体が存在することが明らかに示される。MCab/Strept-Cy5複合体の分布を、細胞骨格標識であるα-チューブリンの分布とも比較した(図7B)。共存がないことが明らかに示され、このことは、複合体の分布に細胞骨格は含まれないことを示唆する。次に、MCab/Strept-Cy3複合体の細胞分布における変化を、時間を追って追跡した。2時間のインキュベーションの後に、複合体は主に細胞質に存在する。4時間〜24時間のインキュベーションの間に、複合体は核の周囲にありかつ核と共存する。マウロカルシンの生物学的標的はRyR受容体であり、これは細胞質に厳密に存在する。よって、MCab/Strept-Cy3の核内の局在化は、それがRyR1に結合したことによるものではあり得ない。
a) マウロカルシン及び派生ペプチドの透過はエネルギー非依存性であり、飲食作用阻害剤に非感受性である
細胞へのMCab/Strept-Cy3複合体の侵入にエネルギー依存性プロセスが寄与する可能性を研究した(図8)。MCab/Strept-Cy3複合体の侵入に対する温度の低下の影響は、これらが4℃においてもまだ細胞内に透過することを示す(図8B)。この温度では、複合体は、膜及び細胞質を同様の様式で標識する。飲作用/飲食作用の阻害剤も試験した。アミロリド(3 mM、図8C)及びナイスタチン(50μM、図8D)はともに、複合体の細胞内への侵入又は細胞質膜上若しくは細胞質内でのその相対的分布には影響せず、このことは、細胞内へのマウロカルシンの侵入の原理機構が、エネルギー依存性ではないことをさらに確かにする。
b1) 実験プロトコル
分析は、実施例1に記載のようにして行う。ヘパリン処理実験のために、複合体をヘパリン溶液中で調製し(ウシ小腸ヘパリン、ナトリウム塩、SIGMA)、ヘパリン溶液中で調製した複合体とインキュベーションする前及び後に、細胞を同じヘパリン溶液で2回洗浄した。
細胞での透過を、MCab/Strept-Cy3複合体とインキュベートした細胞についてフローサイトメトリで分析し、次いでトリプシンで処理して、脂質、特異的受容体又はヘパラン硫酸グリコサミノグリカン(HPSG)によって細胞質膜に結合した複合体を除去した。この方法により、細胞への透過ペプチドの侵入を効率よく研究することが可能になることが示されている(Richardら, J. Biol. Chem., 2003, 278, 585-590)。
c1) 実験プロトコル
MCab-Strept-Cy5複合体を、種々の比でNaCl/KClを含む溶液(145〜5 mM NaCl、5〜145 mM KCl、2.5 mM CaCl2、1.2 mM MgCl2、10 mMグルコース、10 mM HEPES、pH 7.4)中で調製した。
細胞外KCl濃度の増加による細胞の脱分極は、マウロカルシンの透過を約50%制限する(図10A及び10B)。定量分析(図10B)は、膜の脱分極が、蛍光強度の直線的な減少を誘導することを示す。この結果は、膜電位が塩基性分子、すなわちマウロカルシンの透過のための推進力として作用することを示す。
d1) 実験プロトコル
ジシアロガングリオシドNeuAcα2-8NeuAca2-3Galbl-aGlcbl-Cer (GD3)及びジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)は、それぞれMATREYA INC及びSIGMAから得た。
マウロカルシンが特定の膜脂質と相互作用できるかを決定するために、DPPCの単分子フィルム及びGD3ガングリオシドの単分子フィルムを、空気-水界面に広げた。次いで、マウロカルシンを1μMの濃度で水相に加えた。フィルムの多様な表面圧を、時間の関数として連続的に記録された(図11A)。結果は、GD3フィルムの表面圧のかなりの増加により示されるように、マウロカルシンがGD3単層を通って透過できることを示唆する。一方、マウロカルシンは、DPPCフィルムの表面圧に著しい変化をもたらさず、このことは、マウロカルシンがこのグリセロリン脂質を認識しないことを示す。図11Bは、マウロカルシンのGD3との相互作用が用量依存的であることを示す。相互作用は、100 nMのマウロカルシンの濃度において検出可能であり、750 nMで最大に到達する。最大効果の50%を作り出す濃度は、500 nMである。
1) 材料及び方法
a) 重筋小胞体小嚢の調製
重筋小胞体小嚢(heavy sarcoplasmic reticulum vesicles)を、Martyら(J. Biol. Chem., 2000, 275, 8206〜8212)に記載されるようにして改変したKimら(J. Biol. Chem., 1983, 258, 9662〜9668)に記載される方法に従って調製する。タンパク質濃度は、Biuret法により測定する。
重筋小胞体小嚢(1 mg/ml)を、5 nM [3H]-リアノジン、150 mM NaCl、2 mM EGTA、2 mM Ca2+ (pCa=5)及び20 mM Hepes、pH 7.4を含む反応バッファー中で、37℃にて2時間30分インキュベートする。マウロカルシン、マウロカルシン由来ペプチド及びそれらのビオチン標識誘導体を加え、その後、重筋小胞体小嚢を加える。重筋小胞体小嚢に結合した[3H]-リアノジンは、Whatmann GF/Bろ紙によるろ過、及びそれに続く5 mlの氷冷洗浄バッファー(150 mM NaCl、20 mM Hepes、pH 7.4)での3回の洗浄により測定する。ろ紙上に保持された[3H]-リアノジンを、液体シンチレーションにより測定する。非特異的結合が、標識されたリアノジン(20μM)の存在下で測定される。結果は、平均±標準偏差の形で示す。各実験は3重に行い、少なくとも2回繰り返す。
重筋小胞体小嚢からのCa2+放出は、Ca2+感受性色素であるアンチピリラゾIIIを用いて測定した。ダイオードアレイ分光光度計(MOS 200、Optical System、BIOLOGIC)を用いて、710 nmでの吸収を測定した。重筋小胞体小嚢(50μg)には、250μMアンチピリラゾIII、1 mM ATP/MgCl2、5 mMホスホクレアチン及び12μg/mlクレアチンホスホキナーゼを加えた100 mM KCl、7.5 mMピロリン酸ナトリウム、20 mM MOPS、pH 7.0を含む2 mlのバッファー中で、37℃にてCa2+が能動的に充填(loaded)される(Palade, J. Biol. Chem., 1987, 262, 6142〜6148)。
これらの充填条件下で、カルシウム誘発カルシウム放出は観察を妨げない。各実験の最後に、小嚢に残存するCa2+を、4μMのCa2+イオノフォアであるA231287 (Sigma)を加えることにより測定し、吸収シグナルを、20μM CaCl2の2回の連続する添加により校正する。
図12は、MCab/Strept-Cy3複合体が、重筋小胞体小嚢への[3H]-リアノジンの結合を刺激し(パネルA)、かつこれらの小嚢からのCa2+放出を誘発する(パネルB)能力を維持することを示す。
マウロカルシン単独と比較して、MCab/Strept-Cy3複合体により誘発されるより遅いCa2+放出の動態は、わずかに低減された効率の指標である(図12B)。この差は、おそらく、Strept-Cy3による妨害により、活性マウロカルシンがRyR1受容体に結合する部位でのMCab/Strept-Cy3複合体の近づきやすさが低減されることによるのであろう(ストレプトアビジンのMWは60000 Da、これに比べてMCabについて4108 Da)。
ビオチン標識マウロカルシンを、ストレプトアビジン結合ナノ粒子(Qdot (登録商標)、QUANTUMDOT CORPORATION)に、供給業者により推奨されるプロトコルに従って結合させた。ストレプトアビジン結合ナノ粒子単独(Qdotストレプトアビジンコンジュゲート、QUANTUMDOT CORPORATION)を、コントロールとして用いた。ナノ粒子は、10〜15 nmの直径を有し、それぞれ5〜7ストレプトアビジン分子と結合している。HEK293細胞培養物は、100 nMのナノ粒子(Qdot (登録商標)、QUANTUMDOT CORPORATION)と結合したマウロカルシン、又はストレプトアビジンのみと結合したナノ粒子と1時間インキュベートし、次いで、実施例1に記載するようにして細胞を固定し、共焦顕微鏡法により分析した。図14は、マウロカルシンがナノ粒子の細胞での透過を可能にすることを示す。
Claims (21)
- 興味のある物質と、マウロカルシン由来ペプチドから実質的になるペプチドベクターとを含み、前記マウロカルシン由来ペプチドが配列番号2及び7〜25の配列からなる群より選択されることを特徴とする、物質を細胞中に輸送するための組成物。
- 前記ペプチドベクターが、Dアミノ酸からなることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
- 前記ペプチドベクターが、適切な標識と結合していることを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
- 前記ペプチドベクターの配列(I')が、興味のある異種ペプチド又はポリペプチド配列と融合してキメラタンパク質又はキメラペプチドを形成していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
- 請求項1〜4のいずれか1項で定義されるペプチドベクターが粒子と結合していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
- 前記粒子が興味のある物質を含むことを特徴とする請求項5に記載の組成物。
- 前記興味のある物質が、細胞内にその標的がある薬理活性物質であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
- 前記興味のある物質が、検出される細胞内成分のリガンドであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
- 前記リガンドが、前記細胞内成分に指向された抗体又は抗体の機能的フラグメントであることを特徴とする請求項8に記載の組成物。
- 医薬としての請求項7に記載の組成物。
- ヒト又は動物における病変の治療用医薬の製造のための請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物の使用。
- 診断試薬としての請求項8又は9に記載の組成物。
- − 細胞試料を、請求項8で定義される検出試薬と接触させ、
− いずれの適切な手段により細胞内標識を検出する
ことを含むことを特徴とする、細胞内成分を検出するインビトロ方法。 - 請求項4で定義されるキメラペプチド又はキメラタンパク質。
- 配列番号24又は25のアミノ酸配列を有する、細胞中に浸透することができ、1型リアノジン受容体とは結合できないペプチド。
- 請求項15に記載のペプチドに由来する標識されたペプチド。
- 請求項15に記載のペプチド又は請求項14に記載のキメラペプチド若しくはキメラタンパク質をコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
- 請求項17に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
- 請求項17に記載のポリヌクレオチド又は請求項18に記載のベクターで改変された真核細胞又は原核細胞。
- その細胞の全て又は一部分が、請求項17に記載のポリヌクレオチド又は請求項18に記載のベクターで改変されたことを特徴とするトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
- その細胞の全て又は一部分が、請求項17に記載のポリヌクレオチド又は請求項18に記載のベクターで改変されたことを特徴とするトランスジェニック植物。
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