以下、本発明の一実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムを前記図1ないし図4に基づいて説明する。本実施形態においては、検出対象物としての腫瘍が物体としての人体胸部組織の内部に存在するか否かを反射波を解析した画像から検出可能とする乳がん検出用のシステムの例について説明する。
前記各図において本実施形態に係るマイクロ波イメージングシステム1は、マイクロ波帯域の超短パルスを内部に検出対象物60が存在すると予想される所定の物体50に対し複数方向から照射すると共に、物体50表面や検出対象物60からの反射波を受信し、反射波の信号を出力するパルス送受信手段11と、得られた反射波信号における周波数成分の周波数帯域内で、前記第一の周波数範囲(f1)及び第二の周波数範囲(f2)をそれぞれ設定する周波数範囲設定手段12と、得られた各方向ごとの所定時間にわたる反射波信号について、前記第一の周波数範囲(f1)に当てはまる周波数成分を有する第一の信号成分、及び前記第二の周波数範囲(f2)に当てはまる周波数成分を有する第二の信号成分をそれぞれ抽出取得した上で、前記第一の信号成分に含まれる物体50表面からの反射波成分を、前記第二の信号成分に含まれる物体50表面からの反射波成分で打消して、反射波の新たな信号を得る信号解析手段13と、各測定方向ごとに得られた反射波信号を記録する記録手段14と、各測定方向ごとの信号から画像再構成を行って物体内表示画像を得る画像再構成手段15と、得られた物体内表示画像を表示する表示手段16とを備える構成である。
前記パルス送受信手段11は、検出対象物60(例えば、乳がんをなす腫瘍)が存在するか、存在すると予想される物体50(例えば、胸部組織)に対し、パルス幅が1〜数十psとなる超短パルスを照射する一方、物体50や検出対象物60からの反射波を受信して、反射波の信号を出力するものである。
詳細には、パルス送受信手段11は、図1に示すように、測定対象の物体50に超短パルスを照射する照射アンテナ11aと、この照射アンテナ11a近傍に配設されて物体50や検出対象物60からの反射波を受信する受信アンテナ11bと、超短パルスを発生させるパルス発生器11cと、照射アンテナ11aと受信アンテナ11bの組を物体50の周囲で移動させて超短パルスの照射方向を変化させるアンテナ移動機構11dと、受信アンテナ11bからの反射波が入力され、外部へ解析可能な状態の反射波信号として出力する信号入出力部11eと、パルス照射のタイミングに合わせてアンテナ移動機構11dを制御する制御部11fとを備える構成である。
このパルス送受信手段11では、パルス発生器11cから出力される超短パルスが、照射アンテナ11aから照射波として物体50に照射される。そして、物体50表面や内部の検出対象物60で反射された反射波の信号を受信アンテナ11bで受信し、得られた反射波の信号が信号解析手段13に入力される。
照射される超短パルスの波形は、ピコ秒のパルス幅を持つインパルスであり、例えば、パルス幅10〜100psで、そのフーリエ変換後の周波数成分がマイクロ波帯域で約1〜12GHzの超広帯域(UWB)となるものである。照射アンテナ11aや受信アンテナ11bとしては、こうした超広帯域に対応した、すなわち周波数による特性変化が小さく、照射及び受信波形がパルス発生器でのパルス波形になるべく近くなるような分散特性が小さいものを用いるのがより好ましい。このような特性を有するアンテナとして、ボウタイアンテナ、ログスパイラルアンテナ、ビバルディアンテナ等を用いる。
超短パルスを物体50に照射すると、誘電率が大きく変化する部位、すなわち、誘電率の異なる二つの物質の境界である物体50の表面や検出対象物60の表面部分で、反射した反射波が得られる。受信アンテナ11bで受信した反射波には、こうした物体50表面での反射波成分や検出対象物60からの反射波成分が含まれており、このうち、検出対象物60からの反射波成分の照射時からの遅れ時間、すなわちパルスの飛行時間を算出することで、反射面、すなわち検出対象物60の表面位置を求めることができ、アンテナ移動機構11dにより各アンテナ位置を動かして、物体50への超短パルスの照射角度を変えて繰返し測定した同様の結果から、合成開口処理により画像再構成を実行すれば、物体50中の検出対象物60の位置を特定できる画像情報が得られることとなる。反射面位置を求める原理自体は、照射時から反射波到来までの遅れ時間により決定するいわゆるレーダと同じ原理である。
前記アンテナ移動機構11dは、物体50を取囲む所定の測定経路上で、物体50を中心とした所定角度分だけ、照射アンテナ11a及び受信アンテナ11bを移動させるものである(図2参照)。このアンテナ移動機構11dは、照射アンテナ11a及び受信アンテナ11bを所定角度に位置させ、この角度における一回の測定過程が終了したら、制御部11fによる制御を受けて、アンテナ位置を次の角度まで動かし、これを繰返して各方向からの測定を実行可能とする。
一回の測定過程は、所定回の繰返しパルス照射と各パルスに対応する物体50内の検出対象物60からの反射波を得、これらを信号入出力部11eで積分し、信号対雑音(S/N)比を向上させた反射波信号を取得する手順で行われる。例えば、信号入出力部11eに高速ディジタイジングスコープ(サンプリングスコープ)を使用し、パルスの繰返し周波数を1MHz(1マイクロ秒間隔)とすると、サンプリング方式で2000点の1トレースを得るには、1マイクロ秒×2000=2ミリ秒の測定時間がかかる。この信号入出力部11eで測定精度を向上させるために16回のトレースの積分を行う場合、一回の測定過程に費やす時間は、2ミリ秒×16=32ミリ秒となる。
このアンテナ移動機構11dで、各アンテナを物体50を中心とした物体50上の180°の角度範囲にわたって所定角度ずつずらしながら、各角度位置で反射波信号を得ていくことで、画像再構成手段15が合成開口処理を伴う画像再構成により物体内部の二次元画像(図4参照)を得られる仕組みであるが、さらにアンテナ移動機構を用いて、横方向における物体50周りに各アンテナを180°の角度範囲にわたって所定角度ごとに上記の一連の測定を繰返し行うようにして、物体内の全ての領域の情報を得て、最終的に三次元の画像を得るようにすることもできる。
前記周波数範囲設定手段12は、反射波信号における周波数成分、すなわち、時間領域にある反射波信号をフーリエ変換して周波数領域に置換えたもの(図3参照)、の周波数帯域内で、最小周波数側に偏った一部の周波数範囲であり、且つこの周波数範囲に含まれる反射波における物体50内部での反射波成分が物体50内での所定の透過性を有する第一の周波数範囲(f1)と、前記周波数帯域内で、最大周波数側に偏った一部の周波数範囲であり、且つこの周波数範囲に含まれる反射波における物体50内部での反射波成分の物体50内における透過性が前記第一の周波数範囲の場合より著しく低くなる第二の周波数範囲(f2)とを、それぞれ設定するものである。
また、前記信号解析手段13は、パルス送受信手段11で得られた各方向ごとの所定時間にわたる反射波信号について、前記第一の周波数範囲(f1)に当てはまる周波数成分を有する第一の信号成分と、前記第二の周波数範囲(f2)に当てはまる周波数成分を有する第二の信号成分をそれぞれ数値計算により取得した上で、第一の信号成分に含まれる物体50表面での反射波成分を、第二の信号成分に含まれる物体50表面での反射波成分で打消し、この物体50表面での反射波成分を打消した第一の信号成分を新たな反射波信号として出力するものである。
パルス送受信手段11で照射される超短パルスは、その周波数成分が超広帯域となっているが、物体内への入射成分については、周波数成分の全帯域のうち低い周波数成分は物体内部で減衰しにくく透過性が高いものの、高い周波数成分は物体内部で減衰しやすく透過性が低い。一方、反射波のうち物体表面での反射波成分は、物体内部での減衰の影響を受けないため、周波数による差が生じにくい。よって、周波数範囲設定手段12で反射波信号における周波数成分の周波数帯域において低い方の第一の周波数範囲(f1)と高い方の第二の周波数範囲(f2)の二つを適切に設定すると、第一の周波数範囲(f1)に含まれる物体50表面での反射波成分と第二の周波数範囲(f2)に含まれる物体50表面での反射波成分は、同様の信号強度として現れるようになる一方で、第一の周波数範囲(f1)に含まれる検出対象物60からの反射波成分に対し、第二の周波数範囲(f2)に含まれる検出対象物60からの反射波成分は、その信号強度を著しく小さくして現れることとなる。
この原理に基づき、信号解析手段13で、反射波信号から第一の周波数範囲(f1)に対応する第一の信号成分と、第二の周波数範囲(f2)に対応する第二の信号成分をそれぞれ取得すると、第一の信号成分における物体50表面からの反射波成分と第二の信号成分における物体50表面での反射波成分は、同様の信号強度となる一方で、第一の信号成分における検出対象物60からの反射波成分に対し、第二の信号成分における検出対象物60からの反射波成分は、その信号強度を著しく小さくすることから、第一の信号成分から第二の信号成分を差引き、検出対象物からの反射波成分を残しつつ物体表面での反射波成分を打消すようにすることで、信号強度が相対的に大であった物体50表面での反射波成分にマスキングされて不明瞭となっていた検出対象物60での反射波成分を明確化できることとなる。
パルス送受信手段11から照射されるピコ秒(〜100ps)のパルス幅を持つ超短パルスは、そのフーリエ変換後の周波数成分が最大で800MHz〜20GHzの周波数帯域に及ぶことがあるが、乳がん検出用途の場合、周波数範囲設定手段12で設定する二つの周波数範囲のうち、低い方の第一の周波数範囲(f1)は、検出対象物60である腫瘍の検出性能(分解能)と物体50としての胸部組織(乳房)内部での反射波減衰度合を考慮して、周波数範囲の最小周波数(下限値)が800MHz〜5GHzの範囲内にあって、また周波数の帯域幅を、この周波数範囲に対応する第一の信号成分において、検出対象物60である腫瘍からの反射波成分が十分な信号強度となって明瞭に得られるように、約4〜8GHz幅として設定されるのが好ましい。
また、第二の周波数範囲(f2)については、この範囲に対応する第二の信号成分における物体50表面からの反射波成分の信号強度が、第一の信号成分における物体50表面からの反射波成分の信号強度に近い値、例えば、がんの検出感度に対応させて±10%の範囲内の信号強度を確保できる帯域幅となるよう範囲設定すれば、信号解析手段13ではこれら第一の信号成分と第二の信号成分を用いて、検出対象物60からの反射波成分を十分にS/N比を確保して適切に解析処理できる程度に、物体50表面での反射波成分を除去する処理が行えるが、こうした第一の周波数範囲と第二の周波数範囲を、それぞれ同じ帯域幅(例えば、約4〜8GHz幅)に設定して、第一の周波数範囲と第二の周波数範囲にそれぞれ対応する第一の信号成分と第二の信号成分において、各々の物体50表面での反射波成分の信号強度が同じ程度となるようにするのが、信号解析手段13での物体50表面での反射波成分を除去する処理を行う点では望ましい。
乳がん検出用途の場合を例に挙げると、超短パルスの周波数成分が1GHz〜13GHzの周波数帯域をとるものであれば、二つの周波数範囲は例えば、低い方の第一の周波数範囲(f1)が1〜7GHz、高い方の第二の周波数範囲(f2)が7〜13GHzと設定されることとなる(図3参照)。ただし、この高低二つの周波数範囲の帯域幅をそれぞれ6GHzとして同じ帯域幅とする場合に限られるものではなく、例えば、第一の周波数範囲の帯域幅と第二の周波数範囲の帯域幅を異ならせることもでき、第一の周波数範囲を1〜8GHz、第二の周波数範囲を5〜13GHzとしたり、第一の周波数範囲を1〜6GHz、第二の周波数範囲を5〜13GHzとしたり、また、第一の周波数範囲を1〜5GHz、第二の周波数範囲を8〜13GHzとするようにしてもかまわない。
なお、この乳がん検出用途、すなわち、物体50が胸部組織で、検出対象物60が腫瘍の場合、年齢やがん進行度合など、人体組織の差異によって物体50としての胸部組織や検出対象物60としての腫瘍の誘電率が異なる上、検出対象としたい腫瘍の大きさやその存在位置も反射波に大きく影響を与えることから、周波数範囲設定手段12で設定する二つの周波数範囲の周波数域やその帯域幅は、胸部組織や腫瘍の誘電率、検出対象としたい腫瘍の大きさやその存在位置により調整して、信号解析手段13で第一と第二の各信号成分を用いて、物体表面での反射波成分を適切に打消せるものとすることが好ましい。二つの信号成分を用いて物体表面での反射波成分を打消して検出対象物からの反射波成分を確実に際立たせることで、後の画像再構成で得られる画像における腫瘍とその他の部分とのコントラストを鮮明化することが可能となり、画像からの乳がん検出の精度を高められる。
特に、乳がんの早期発見のためには、腫瘍をなるべく小さい段階で検出できるようにするのが望ましいが、画像再構成で得られた画像から小さい腫瘍でも検出できるようにするためには、空間分解能を高くする必要があり、これには第一の周波数範囲における最小周波数を高くして周波数域を全体的に高い側に移す必要があるなど、検出したい最小の検出対象物60の大きさが、第一の周波数範囲(f1)の設定において重要な要素となる。
前記信号解析手段13による第一の信号成分と第二の信号成分の導出の詳細は、パルス送受信手段11で得られた反射波の信号をフーリエ変換して周波数領域の信号を得て、この周波数領域の信号から第一の周波数範囲(f1)に合致する信号成分と第二の周波数範囲(f2)に合致する信号成分をそれぞれ取得し、さらにこの第一の周波数範囲(f1)に合致する信号成分を逆フーリエ変換して、時間領域の信号としての前記第一の信号成分を得ると共に、第二の周波数範囲(f2)に合致する信号成分を逆フーリエ変換して、時間領域の信号としての前記第二の信号成分を得る仕組みである。
また、信号解析手段13は、時間フィルタリングも実行しており、反射波信号で検出対象物60の表面からの反射波がどれだけの時間経過後に現れるかが事前にある程度予測できることから、検出対象物60の表面からの反射波が到来し得ない時間帯をフィルタリングすることで、後の処理の負荷を軽減できる。例えば、乳がん検出を行う場合、体表面から1cm程度は腫瘍の存在確率が極めて小さく、また触診等、より容易な他の手法による腫瘍の有無の確認精度が高いことから、その範囲分の反射波が到来する時間まではカットすることができ、検出対象物60である腫瘍からの反射波成分を明確化して画像化の精度を高められ、検出精度向上に繋げられる。
この信号解析手段13においても、物体50としての胸部組織や検出対象物60としての腫瘍の誘電率の変化、検出対象としたい腫瘍の大きさやその存在位置の変化に応じて、時間フィルタリングの特性を変化させる、具体的には検出対象物60の表面からの反射波が到来し得ない時間帯と見なしてカットする時間の幅を変えるようにすることもでき、画像再構成で得られる画像における検出対象物60のより一層の鮮明化が図れることとなる。
なお、検出対象物60が腫瘍の場合、その進行度合により誘電率が変化し、この検出対象物60の誘電率の違いによって、反射波の状態が変化し、画像再構成で得られる画像も、検出対象物60とその他の部分とのコントラストが変化するといったような影響を受けることから、逆に誘電率の変化に基づいて、信号解析手段13で反射波の変化状態を識別するようにして、がんの進行度合を判定することもできる。
前記記録手段14は、パルス送受信手段11でのパルス照射及び反射波の受信と、反射波の信号に対する信号解析手段13による処理が、物体50に対するパルス送受信手段11の各アンテナ角度位置を切換えつつ各角度ごとに実行され、そのつど反射波信号(物体表面での反射波成分を打消した第一の信号成分)が出力される一方、画像再構成手段15では全ての測定位置からの反射波信号が得られた段階で合成開口処理を伴う画像再構成を実行することから、全ての測定位置からの反射波信号が得られるまで、各測定位置ごとの反射波信号をデータとして記録しておき、この反射波信号のデータを画像再構成手段15に提供するものであり、その構成自体は、電子データを外部に取り出し可能に保持する公知の記録装置と同様のものであり、説明を省略する。
前記画像再構成手段15は、各方向ごとの複数の反射波信号から合成開口処理を伴う画像再構成を行い、物体中に検出対象物の示された画像(図4参照)を得るものであり、合成開口処理を伴う画像再構成そのものは公知の手法であり、詳細な説明を省略する。なお、図4に示す再構成後の画像における縦軸(左)は物体50頂点からの縦方向距離[m]、横軸は物体50の頂点直下からの横方向距離[m]で、明暗(右)が反射波信号の強さ[任意単位(a.u.)]、すなわち検出対象物60の存在確度を示している(明るいほど大)。また、画像中の白線は物体50の表面位置を示す線である。
前記表示手段16は、画像再構成手段15での画像再構成により得られた画像を表示画面上に表示するものであり、その構成自体は、CRTや液晶、有機EL等を表示用デバイスとして使用した公知のディスプレイ装置と同様のものであり、説明を省略する。なお、この表示手段16を、後述するコンピュータのディスプレイ装置が兼ねるようにしてもかまわない。
前記パルス送受信手段11の制御部11f、周波数範囲設定手段12、信号解析手段13、記録手段14、及び、画像再構成手段15は、そのハードウェア構成として、CPUやメモリ、入出力インターフェース等を備えるコンピュータとなっており、メモリ等に格納されるプログラムにより、コンピュータを前記制御部11f、周波数範囲設定手段12、信号解析手段13、記録手段14、及び、画像再構成手段15として動作させる仕組みである。パルス送受信手段11で得られた反射波信号や、信号解析手段13で得られた第一の信号成分に基づく新たな反射波信号等の測定、算出結果は、記録手段14をなすこのコンピュータのメモリ等に各角度位置での測定毎に記録保存される。なお、前記周波数範囲設定手段12、信号解析手段13、記録手段14、及び、画像再構成手段15は、それぞれ独立に、あるいは複数まとめた状態として、複数のコンピュータをなすものとすることもできる。また、こうしたコンピュータは、CPUやメモリ、ROM等を一体的に形成されたマイクロコンピュータとしてもかまわない。
次に、本実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムの使用状態について説明する。まず、乳がん検出を目的とする場合、反射波信号における周波数成分の周波数帯域は1〜13GHzとなり、超短パルスを照射する物体50としての乳房や検出対象物60としての腫瘍の各誘電率、並びに検出しようとする腫瘍の大きさや胸部組織における位置関係から、周波数範囲設定手段12は、低い方の第一の周波数範囲(f1)について、この周波数範囲に含まれる物体50内部での反射波成分が物体50内での透過性を有して、腫瘍を検出可能となる空間分解能を得られると共に、第一の信号成分における検出対象物60からの反射波成分及び物体50表面での反射波成分がそれぞれノイズから分離して検出可能な所定の信号強度以上となるように、周波数範囲を例えば1〜7GHzと設定する(図3参照)。
また、周波数範囲設定手段12は、第二の周波数範囲(f2)について、この周波数範囲に含まれる物体50内部での反射波成分の物体50内における透過性が第一の周波数範囲の場合より著しく低く、第二の信号成分における検出対象物60からの反射波成分の信号強度が第一の信号成分におけるそれより十分小さくなる一方、物体50表面での反射波成分は第一の信号成分と第二の信号成分とでほぼ同様の信号強度となるよう、周波数範囲を例えば7〜13GHzと設定する。
周波数範囲設定手段12で第一の周波数範囲(f1)と第二の周波数範囲(f2)が設定される一方、物体50としての胸部組織に対し、あらかじめ設定された測定時間(例えば、32ミリ秒)の間、パルス送受信手段11が、アンテナ移動機構11dにより測定開始角度位置(0°)に位置して、物体50に対しアンテナ11aから超短パルスを照射すると共に、物体50及び検出対象物60からの反射波を受信アンテナ11bで受信し、反射波を信号入出力部11eで処理して得た反射波信号を信号解析手段13に入力する。
信号解析手段13は、得られた反射波信号について、まず反射波の信号をフーリエ変換して周波数領域の信号を得る。信号は周波数領域ではマイクロ波の帯域に及ぶ超広帯域となる。この周波数領域の信号から第一の周波数範囲(f1)に合致する信号成分を取得すると共に、第二の周波数範囲(f2)に合致する信号成分を取得する。さらに、この第一の周波数範囲(f1)に合致する信号成分と、第二の周波数範囲(f2)に合致する信号成分とを逆フーリエ変換して、それぞれ時間領域の信号に戻す。この時間領域の信号は、第一の周波数範囲(f1)に合致する信号成分を変換したものは、第一の周波数範囲(f1)に当てはまる周波数成分を有する第一の信号成分となり、第二の周波数範囲(f2)に合致する信号成分を変換したものは、第二の周波数範囲に当てはまる周波数成分を有する第二の信号成分となっている。
ここで、第一の信号成分には、第一の周波数範囲(f1)の設定に応じて、検出対象物60からの反射波成分及び物体50表面での反射波成分がそれぞれ十分なS/N比の得られる信号強度以上で含まれている。また、第二の信号成分には、第二の周波数範囲(f2)の設定に応じて、検出対象物60からの反射波成分はほとんど含まれないものの、物体50表面での反射波成分は第一の信号成分とほぼ同様の信号強度で含まれていることから、第一の信号成分から第二の信号成分を減じれば、第一の信号成分に含まれる物体50表面での反射成分が、第二の信号成分に含まれる物体50表面での反射成分で打消されて除去され、第一の信号成分における検出対象物60からの反射成分が相対的に強調されることとなる。この物体50表面での反射波成分が打消された第一の信号成分を、新たな反射波信号とする。
また、信号解析手段13は、反射波信号において検出対象物60の表面からの反射波がどれだけの時間経過後に現れるかの予測に基づいて、検出対象物60の表面からの反射波が到来し得ない時間帯として、体表面から1cm程度までの範囲分の反射波が到来する時間までと、胸部組織(乳房)全域の反射波が既に到来したと見なせる時間以降を、新たな反射波信号としての第一の信号成分からそれぞれ除去する時間フィルタリングを実行し、反射波信号のデータ量を抑えており、後の画像再構成等における処理負荷の軽減を図っている。そして、この時間フィルタリングと共に、照射アンテナ11aから受信アンテナ11bに直接到達するクロストーク成分を反射波信号から除去して、反射波信号のS/N比を高め、検出対象物60からの反射波成分をさらに際立たせている。
こうして物体50表面での反射波成分が打消されて、検出対象物60からの反射成分が明瞭となった第一の信号成分を、新たにこの測定角度での反射波信号として記録手段14に記録したら、アンテナ移動機構11dを動作させて各アンテナ11a、11bを次の測定角度に移行させ、前記同様の測定及び処理を実行し、これを全ての測定角度(180°まで)について繰返し行う。
全ての測定角度で測定を終了し、測定角度ごとの反射波信号が得られたら、画像再構成手段15が各角度ごとの反射波信号を用いて合成開口処理により画像再構成を行うことで、物体50内に検出対象物60が存在する場合には、この検出対象物60が明確に画像化された物体50内部の画像が取得され、この画像が表示手段16に表示されることとなる。表示された画像から、検出対象物60の有無や状態を判断することができる。
このように、本実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムは、超短パルスの周波数成分の周波数帯域内に、その範囲では検出対象物60からの反射波成分が物体50内を十分透過できる性質を有する第一の周波数範囲(f1)と、同じ反射波成分でも周波数が高くなることで物体50内での透過性が低下する第二の周波数範囲(f2)をそれぞれ設定し、反射波信号のうちこれら二つの周波数範囲に対応する各信号成分を取得すると、物体50内部を通る検出対象物60からの反射波成分については信号強度の大きな差が生じるものの、物体50内部を通らない物体50表面での反射波成分については同様の信号強度となることを用いて、第一の信号成分から第二の信号成分を差引き、検出対象物からの反射波成分を残しつつ物体表面での反射波成分を打消すことから、第一の信号成分における検出対象物60からの反射波成分にほとんど影響を与えずに、効率よく物体50表面での反射波成分を取除いて、第一の信号成分での検出対象物60からの反射波成分を相対的に強調できることとなり、検出対象物60からの反射波成分を確実に取得でき、画像再構成で検出対象物60の画像化を精度よく実行可能となり、得られた画像から検出対象物60を適切に検出、評価できる。
なお、前記実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおいては、反射波信号に対し、信号解析手段におけるフーリエ変換や逆フーリエ変換を使用した数値計算で、第一の信号成分と第二の信号成分を得、これらを用いて物体表面での反射波成分を打消して検出対象物からの反射波成分を際立たせる構成としているが、これに限らず、図5に示すように、反射波信号を、第一の周波数範囲のみ通過させる第一のフィルタ回路23aに通して第一の信号成分を得ると共に、別途反射波信号を第二の周波数範囲のみ通過させる第二のフィルタ回路23bに通して第二の信号成分を得て、第一の信号成分の物体表面での反射波成分を第二の信号成分の物体表面での反射波成分で打消す構成とすることもでき、前記同様、パルス送受信手段で得られる反射波の信号が物体表面での反射波成分等ノイズを含んで、単純な反射波信号を用いた画像再構成の処理では鮮明な検出対象物の画像を得にくい場合でも、ハードウェアによる適切なフィルタリングで検出対象物からの反射波成分が明確な反射波信号を確実に取得でき、反射波信号を用いた画像再構成等の処理で検出対象物からの反射波成分に基づくイメージを正確に導くことができる。
また、前記実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおいては、照射アンテナ11aや受信アンテナ11bとして、超短パルスにおける周波数成分の全ての周波数帯域に対応した一つのアンテナをそれぞれ用いる構成としているが、この他、こうしたアンテナとしては、アンテナ配置のレイアウトを工夫してアンテナ移動機構11dで無理なく動かせる程度にコンパクトにまとめることができれば、低い周波数帯域用と高い周波数帯域用に最適化した複数のアンテナを一つに組合わせたものを用いるようにしてもよい。
また、前記実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおいては、信号解析手段13で時間フィルタリングを実行して、不要な時間帯の反射波信号の他、アンテナからの照射後に反射によらず極短時間で受信側に直接到達するクロストーク成分も同時に除去する構成としているが、これに限らず、パルスの送受信を行えば発生するクロストーク成分をあらかじめ把握し、実際に物体や検出対象物から反射された反射波信号からこのクロストーク成分を減算して、クロストーク成分の除去された反射波信号を得る構成とすることもでき、検出対象物からの反射波成分を含む反射波信号から確実に不要なクロストーク成分を除去して検出対象物からの反射波成分を際立たせることができ、画像再構成で得られる画像における検出対象物の画像化の精度を高めて検出対象物の検出性向上が図れると共に、各信号成分の抽出取得から画像再構成までの計算処理量を軽減できる。
また、前記実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおいては、物体50を胸部組織、検出対象物60を腫瘍として、乳がん検出に適用する例を挙げているが、これ以外にも生体におけるほぼ均一な誘電率の組織内に誘電率の異なるものが存在し得る状況で、この誘電率の異なる部分を、画像を利用して検出する用途に適用でき、生体の場合は乳がんの他に脳血栓、脳腫瘍等の検出にも適用できる。なお、こうした生体の場合に限られず、マイクロ波帯域で略一定の誘電率となる均質な物体内に誘電率が異なる異物が存在するか存在が予想される場合に、物体内の画像からこの異物を識別する用途にも適用することもできる。この場合、超短パルスの周波数成分の周波数帯域や、反射波信号の各信号成分を規定する周波数範囲は、物体や異物の誘電率に対応する値として、物体内画像に異物のイメージが明瞭に現れるようにするのが望ましい。
本発明のマイクロ波イメージングシステムで、腫瘍を模した異物を内蔵する乳房のモデルについて、反射波の取得と画像再構成で物体内部の画像を得る一連の処理を実行し、表面反射成分を打消す処理の有無で、画像再構成により得られた画像における検出対象物の表示状態がどのように変化するかを評価した。
まず、物体表面での反射波成分を打消す処理の有無に係る評価に先立ち、本発明のマイクロ波イメージングシステムと同様の超短パルスを用いた条件で、腫瘍を模した異物を内蔵する乳房のモデルについて、反射波の取得と画像再構成で物体内部の画像を得る一連の処理を、前記実施形態とは異なり、反射波信号における周波数成分で、実際に画像再構成に用いる周波数範囲を決定し、この周波数範囲の信号成分をそのまま新たな反射波信号として画像再構成を実行する手順で、且つ画像再構成に用いる周波数範囲を複数通り変えて実行し、検出対象物からの反射波成分と周波数との関係について検証した。ただし、物体としての乳房モデルには、検出対象物からの反射波成分の傾向を探る測定実験の性格上、誘電定数(比誘電率)が乳房の脂肪に近くなるよう調製した油モデルを用いた。
物体内部の画像を取得するにあたっては、前記実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムと同様に、物体に対しアンテナの角度を変えて複数方向から測定を行うために、パルス送受信手段のアンテナは、アンテナ移動機構に取付けられて物体としての乳房モデル近傍に配置され、照射角度を少しずつ変えながら物体に超短パルスを照射し、各測定角度ごとに物体や検出対象物からの反射波を測定するようにした。
モデルに向けられた各アンテナはアンテナ移動機構に取付けられて、物体としての乳房モデルの周囲を真横(0°)から反対側(180°)までモデルの真上を通る経路上で5°ずつ移動して、モデルに対するパルス照射方向を変えつつ、合計37箇所で超短パルスをモデルに向けて照射すると共に反射波を受信することとなる。なお、モデルは半径5.5cmの半球体、又は非球体の人体を模したモデル(ファントム)であり、モデル内の腫瘍に相当する0.5〜1cm角の大きさとなる物体(異物)の誘電率εr=20、それ以外の部分のモデルの誘電率εr=2〜4.5となっており、モデルにおける腫瘍を模した異物の位置はモデル上部中心位置から下方に2cm下がった内部とされる。
パルス発生器で生成される超短パルスは、パルス幅が65ps、振幅が8Vである。この超短パルスが、ボウタイアンテナとして形成された照射アンテナから照射される。
物体や検出対象物からの反射波は、照射アンテナと同形状の受信アンテナで受信され、前記信号入出力部としてのサンプリングスコープで波形を確認可能としつつ信号解析手段に反射波信号が出力される。
信号解析手段で反射波信号は、アンテナ間のクロストーク分を差し引く処理と時間フィルタリングを実行された後、フーリエ変換でいったん周波数領域の信号とされる。この周波数領域の信号について、前記実施形態とは異なり、画像再構成に用いる周波数範囲を決定し、それ以外の信号部分については除去する処理を実行する。そして、残された周波数範囲の信号成分を逆フーリエ変換して、時間領域の新たな反射波信号を得る。こうした反射波信号が各測定角度ごとに取得された後、これら反射波信号を用いて合成開口処理を伴う画像再構成が実行され、物体内画像が生成される。
反射波信号の実際に画像再構成に用いる周波数範囲としては、最大周波数の異なる、1〜7GHz、1〜8GHz、1〜9GHz、及び1〜10GHzの四通り、並びに、帯域幅は同じで周波数域をずらした、2〜8GHz、3〜9GHz、4〜10GHz、及び5〜11GHzの四通り、合計八通りをそれぞれ設定して、それぞれの場合で画像再構成を経て物体内画像を取得した。
前記各周波数範囲のいずれの場合も、静止環境としてモデルが静止した状況下で測定され、その測定時間は32ミリ秒となっている。各場合に共通する、パルス発生器で生じたパルス出力波形と、照射アンテナからの実際の出力波形を、図6(A)、(B)に示す。また、パルス送受信手段で得た所定角度位置における反射波信号波形の例を、図7(A)に、この反射波信号のフーリエ変換で得られた周波数領域における反射波信号の周波数成分を図7(B)にそれぞれ示す。
さらに、この反射波信号の周波数成分で1〜10GHzの周波数範囲を設定してこの範囲外を除去したものの波形を図8(A)に、この1〜10GHzの範囲の周波数成分を逆フーリエ変換して得た新たな周波数信号の波形を図8(B)にそれぞれ示す。
そして、前記八通りの周波数範囲について、それぞれ画像再構成を経て取得した物体内画像を、図9〜図12に示す。ここで、各図の縦軸(左)は物体頂点からの縦方向距離[m]、横軸は物体の頂点直下からの横方向距離[m]で、明暗(右)が反射波信号の強さ[任意単位(a.u.)]、すなわち検出対象物の存在確度を示す(明るいほど大)。なお、画像中の白線は物体の表面位置を示す線である。
画像再構成後の物体内画像のうち、周波数範囲の最大周波数を四通りに変えた図9(A)(1〜7GHz)、図9(B)(1〜8GHz)、図10(A)(1〜9GHz)、及び図10(B)(1〜10GHz)では、同様の位置に検出対象物と見なせる、周囲と明らかに異なるイメージ部分が生成されており、周波数範囲を高い周波数側に広げるに従って、わずかながら周囲との差が大きくなっている。このことから、検出対象物からの反射波成分は主に7GHz以下の低い周波数範囲に存在しているものの、それより高い周波数範囲にもわずかながら存在していることがうかがえる。
また、物体内画像のうち、周波数範囲を帯域幅は固定としつつ範囲をずらして四通りに変えた図11(A)(2〜8GHz)、図11(B)(3〜9GHz)、図12(A)(4〜10GHz)、及び図12(B)(5〜11GHz)では、最も周波数範囲の低い図11(A)で、前記図9(A)ないし図10(B)の周波数範囲の最大周波数を変えた各例と同様のイメージ部分が生成されているが、周波数範囲が高い周波数側にずれるに従って、周囲と異なるイメージ部分が拡散していくと共に、周囲との差が曖昧になって(各図右端の明暗部の目盛数値参照)、検出対象物としての特定が困難になっている。このことから、検出対象物からの反射波成分は周波数が高くなるほど小さくなる、すなわち物体内部で減衰する割合が高くなることがわかる。さらに、前記図9(A)ないし図10(B)の結果も合せると、検出対象物からの反射波成分の大部分は約4GHz以下の低い周波数範囲に存在しているといえる。
これらから、反射波信号を、この反射波信号の周波数成分の周波数帯域内で、検出対象物からの反射波成分が明確に得られる低い周波数範囲と、物体内部の減衰の影響で検出対象物からの反射波成分が著しく小さくなる高い周波数範囲にそれぞれ対応する信号成分に分けると、低い周波数範囲に対応する信号成分における検出対象物からの反射波成分がより大きく現れることがわかる。
なお、図9〜図12の物体内画像の取得に用いたモデルは、誘電定数が脂肪に近くなるよう調製した油モデルであり、生体と比較して、内部の誘電損失が小さい点や、表面反射が少し小さい点などから、反射波信号に対しアンテナ間のクロストーク分を差し引くと共に、時間フィルタリングを行う処理だけでも、十分に明確な検出対象物の画像が得られている。しかしながら、実際の生体やこれに極めて近いファントムモデルの場合、表面(皮膚)での反射が大きい点や、内部の誘電損失が大きい点により、上記の処理のみでは検出対象物が明確に現れるような画像再構成は不可能である。よって、本発明のマイクロ波イメージングシステムにより、物体表面での反射波成分を打消し、検出対象物からの反射波成分を相対的に強調する処理が必要になる。
続いて、上記の検出対象物からの反射波成分が、低い周波数範囲ほど大きく得られた結果を踏まえ、本発明のマイクロ波イメージングシステムを用いて、高低二つの周波数範囲を設定して物体表面での反射波成分を打消す処理を実行し、得られた画像における検出対象物の表示状態について評価した。
まず、モデルにおいて腫瘍を模した異物を二つ用い、各異物をモデル上部中心位置から左に2cm、表面から2cm下がった位置と、中心位置から右に3cm、表面から3.5cm下がった位置とにそれぞれ配置する点以外は、上記と同じ測定条件で得た反射波信号について、周波数範囲設定手段で第一の周波数範囲と第二の周波数範囲をそれぞれ設定し、信号解析手段において反射波信号をフーリエ変換でいったん周波数領域の信号とした後、この周波数領域の信号について、第一の周波数範囲に合致する信号成分を取得する(範囲外の信号部分については除去する)と共に、第二の周波数範囲に合致する信号成分を取得する(範囲外の信号部分については除去する)処理を実行する。そして、二つの周波数範囲の信号成分を逆フーリエ変換して、それぞれ時間領域の信号に戻すことで、第一の信号成分と第二の信号成分を得て、さらに第一の信号成分から第二の信号成分を減じて、物体表面での反射波成分が打消された第一の信号成分を、新たな反射波信号とする。この反射波信号を用いて合成開口処理を伴う画像再構成が実行され、物体内画像が生成される。
前記第一の周波数範囲としては、1〜7GHzを設定し、また、前記第二の周波数範囲としては、7〜13GHzを設定した。ここで、パルス送受信手段で得た所定角度位置における反射波信号波形の例を、図13(A)に、この反射波信号のフーリエ変換で得られた周波数領域における反射波信号の周波数成分を図13(B)にそれぞれ示す。そして、この反射波信号の周波数成分で1〜7GHzの第一の周波数範囲を設定してこの範囲外を除去したものの波形を図14(A)に、この1〜7GHzの範囲の周波数成分を逆フーリエ変換して得た第一の信号成分の波形を図14(B)にそれぞれ示す。同様に、反射波信号の周波数成分で7〜13GHzの第二の周波数範囲を設定してこの範囲外を除去したものの波形を図15(A)に、この7〜13GHzの範囲の周波数成分を逆フーリエ変換して得た第二の信号成分の波形を図15(B)にそれぞれ示す。
そして、第一の周波数範囲(1〜7GHz)に対応する第一の信号成分から第二の周波数範囲(7〜13GHz)に対応する第二の信号成分を減じて、物体表面での反射波成分が打消された第一の信号成分を、新たな反射波信号として用いて、画像再構成を経て取得した物体内画像を図16(A)に、また、比較例として、物体表面での反射波成分を打消す処理を行わずに、反射波信号(約1〜13GHz)をそのまま用い、画像再構成を経て取得した物体内画像を図16(B)に示す。ここで、各図の縦軸(左)は物体頂点からの縦方向距離[m]、横軸は物体の頂点直下からの横方向距離[m]で、明暗(右)が反射波信号の強さ[任意単位(a.u.)]、すなわち検出対象物の存在確度を示す(明るいほど大)。なお、画像中の白線は物体の表面位置を示す線である。
画像再構成後の物体内画像のうち、物体表面での反射波成分を打消したもの(図16(A)参照)では、検出対象物と見なせる周囲と明らかに異なるイメージ部分がごく限られた位置に集中的に生成されているのに対し、比較例としての物体表面での反射波成分を打消さなかったもの(図16(B)参照)では、信号強度の高い領域が広く分散して現れ、画像から検出対象物を特定することは困難となっている。
以上から、本発明のマイクロ波イメージングシステムで、反射波信号を、この反射波信号の周波数成分の周波数帯域内で、検出対象物からの反射波成分が明確に得られる第一の周波数範囲と、物体内部の減衰の影響で検出対象物からの反射波成分が著しく小さくなる第二の周波数範囲とにそれぞれ対応する信号成分に分け、物体内部の影響を受けず各信号成分で同様に現れる物体表面での反射波成分を、第一の周波数範囲に対応する第一の信号成分から第二の周波数範囲に対応する第二の信号成分を減算し打消すことで、信号成分から物体表面での反射波成分が取除かれる一方で、差異のある検出対象物からの反射波成分は残すことができ、こうして残った検出対象物からの反射波成分を画像再構成に利用して、物体内画像に物体表面での反射波成分の影響を受けない明確な検出対象物のイメージを生成でき、物体内画像から検出対象物を確実に検出可能であることがわかる。