JP5403232B2 - 容器内での放電を抑制したマイクロ波照射方法及び装置 - Google Patents

容器内での放電を抑制したマイクロ波照射方法及び装置 Download PDF

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Description

本発明は加熱容器内での放電現象を防止したマイクロ波照射方法および装置に関するものであり、さらに詳しくは、容器内の被照射物質が収納されていない空間部にマイクロ波が直接照射されないようにマイクロ波を照射することにより、該空間部における放電現象の発生を抑制したマイクロ波照射技術に関するものである。マイクロ波照射を利用して加熱、化学反応などを実施する際に放電現象が発生すると、被照射物質の過加熱、装置の破損などの不都合が起こることがしばしば観察されてきたが、本発明は放電現象を抑制したマイクロ波照射技術を提供するものである。
マイクロ波照射方式は、主に加熱に利用されていることが多く簡便な装置により、物質を短時間で均一に加熱することが可能であり、また、加熱に要する時間が短くて済むことから小型の設備で大量生産を可能となるなどの特徴を有している。さらに、マイクロ波は、熱伝導により徐々に内部を加熱する通常の加熱と異なり、内部の極性分子を直接加熱することができる。このため、これまで種々の化学反応へのマイクロ波照射の検討が進められ、反応の高速化や収率・選択性の向上、無溶媒化などに大きな効果があることが見出されており、化学プロセスのグリーン化・省エネ化の有効な手法のーつとして期待されている加熱方式である。また、この方式を、極性低分子が脱離する縮合重合反応に利用することは、マイクロ波の利点を最大限に活かす極めて有用なものであると期待される。
マイクロ波照射を化学反応に応用した例としては、例えば、反応溶液の温度に応じて出力を制御しながらマイクロ波を照射できるようにした反応溶液の加熱手段と、該反応溶液を外部で強制冷却する手段を有し、反応温度の精密制御を可能としたマイクロ波化学反応装置は、精密化学反応に応用することが可能であり、且つ、反応も早いことから、比較的小型の反応器で大量生産することを可能とする化学反応装置(特許文献1参照)や、化学反応の促進または収率の向上を可能にする高温高圧容器へマイクロ波を供給する装置において、第1の窓を開口部に、第2の窓を容器の外側にそれぞれ設置した2つの仕切窓により密閉し、第1の窓と第2の窓の間の内圧を制御できるようにした中空の導波管により高温高圧容器へ化学反応促進用のマイクロ波を供給する装置が提案されている(特許文献2参照)。
しかしながら、こうしたマイクロ波照射による加熱方式では、いくつかの望ましくない現象が発生し、その問題を解決するために種々の工夫がなされている。例えば、マイクロ波加熱化学反応装置において、マイクロ波により熱電対等の金属性機器の異常加熱や放電が起こり、正確なる温度測定ができない問題があったが、反応槽の温度等を測定するために熱電対等の金属機器を設置するにあたり、設置される熱電対等の金属機器をマイクロ波電磁界のTEモードのマイクロ波の電界に対しほぼ直交するように挿入する事により解決することが提案された(特許文献3参照)。
密閉容器内の圧力を100Torr以下の真空状態にてマイクロ波を照射した場合、マイクロ波の出力が高すぎると密閉容器内で放電現象が発生する場合がある。この放電現象は、密閉容器内にマイクロ波を導く導波管の給電口付近で発生しやすく、放電による熱エネルギーにより給電口に設けたマイクロ波透過窓材を破損することがある。また、放電現象が発生すると放電部でマイクロ波エネルギーが消費されてしまい、被加熱物にマイクロ波が有効に吸収されず、加熱が不均一になる。放電現象を避けるには、マイクロ波の出力を抑える必要があるが、マイクロ波の出力を抑えると、加熱時間が長くなり、単位時間当りの処理量が少なくなる等の問題が生ずる。
このように減圧された空間にマイクロ波を照射すると放電現象が起こることがしばしば認められ、加熱、化学反応を実施する上で障害となっていた。そこの障害を解消するために、例えば、減圧工程と復圧工程とを繰り返し行いながらマイクロ波を照射して冷凍食品などの被解凍物を加熱し解凍を行う真空マイクロ波解凍において、放電現象が派生すると被解凍物に対してマイクロ波が吸収されない問題を解決する方法として、減圧平衡域まで減圧工程を行った後に復圧工程へ移行し、この復圧工程の減圧度が真空放電を起こさない下限値に達した後にマイクロ波の照射を開始し、予め設定した復圧上限値まで復圧した後に再度減圧工程へ移行すると共に、その減圧度が真空放電を起こさない下限値に達する手前までマイクロ波の照射を継続し、マイクロ波の照射を停止した後に減圧平衡域までの減圧過程において昇華による昇華冷却を行う解凍サイクルによるマイクロ波解凍方法が提案されている(特許文献4参照)。
また、被加熱物を収納可能な密閉容器と、前記密閉容器内の被加熱物にマイクロ波を照射するマイクロ波発生手段と、前記密閉容器内の気体を排気する減圧手段と、前記密閉容器内の圧力を検出する圧力検出手段と、前記圧力検出手段の信号に基づき、放電現象の発生の有無を判定する判定手段と、 前記判定手段の判定に基づいて、マイクロ波発生装置を制御する制御手段を備えた減圧高周波加熱装置が提案されている(特許文献5参照)。
WO2005−102510号公報 特開2002−113349号公報 特開2002−79078号公報 特開2003−61635号公報 特開平7−180844号公報
従来、マイクロ波照射方式は加熱に利用されていることが多く、簡便な装置により、物質を短時間で均一に加熱することが可能であり、しかも、物質を内部加熱できるとともに、従来法と比較して特異な化学反応の促進効果を有するなど有用な加熱方式であり、化合物の合成や化合物の蒸留による精製などに利用されていることはよく知られている。特に化学反応の容器内部を減圧にしてマイクロ波を照射する場合には、通常、容器内に収納された物質により満たされていない上部の空間部が存在し、そこに強電界のマイクロ波が照射されると、真空放電が発生することがしばしば観察されている。真空放電現象が生じると、装置の損傷、収納された物質の急激な加熱による変性、炭化、化学反応の暴走、爆発などが発生する危険性が高くなる。また、熱電対などの金属性機器類をマイクロ波電磁界中に挿入した場合には、異常加熱を生じ、ケーブル部の放電が起こり満足な測定は出来ないなどの問題を生じることが知られている。
しかしながら、従来、放電によるこのような問題点に対する対策は十分になされることはなく、放電現象の発生しない条件を見出すことも困難なことであった。したがって、マイクロ波照射による加熱、化学反応を実施するに当たっては常時放電の危険性がつきまとっているのが現状である。
本発明者らは、従来解決することが困難であった化学反応装置などにおいてしばしば発生する放電現象を防止するための技術開発を目標として鋭意研究を重ねることにより、マイクロ波透過材料からなる容器内に収納した物質にマイクロ波を照射するマイクロ波照射方法において、容器内の該物質が収納されていない空間部にマイクロ波が直接照射されないようにマイクロ波を照射することにより該空間部における放電現象の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の目的は、マイクロ波照射による加熱や化学反応を実施するにおいて、避けることができなかった放電現象を簡便な方法により防止するものであり、マイクロ波照射を利用した化学反応における、急激な加熱による物質の変性、化学反応の暴走、爆発などを回避することを可能とすることである。
また、本発明の目的は、放電現象を防止することにより、反応や蒸留操作を安定に、安全に遂行することを可能とし、容器の大型化によるスケールアップによる化合物類の大量生産や、物質の大量処理を可能とするなどのマイクロ波方式の利用を促進することである。
また、本発明の目的は、マイクロ波の照射による加熱工程を常に正常な状態で終了することができるため容器や装置類の損傷がなく、同一の容器を繰返し使用することを可能とすることである。
上記課題を解決するためのマイクロ波照射方法に係る本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)被照射物質を収納するための空間部と該物質を収納しない空間部とで構成され、該物質を収納するための空間部に対応する部分はマイクロ波透過材料により形成された容器内に収納した物質にマイクロ波を照射するマイクロ波照射方法において、上記の物質が収納されていない空間部をマイクロ波遮蔽材料によりマイクロ波を遮蔽し、該空間部にマイクロ波が直接照射されないようにすることで放電現象の発生が抑制されるように、マイクロ波を照射すること、その際、上記の空間部のマイクロ波遮蔽材料によるマイクロ波の遮蔽が、該空間部に対応した容器の外部に設置されたマイクロ波遮蔽材料によりなされている、該空間部に対応する容器の内面または外面にマイクロ波遮蔽層を積層することによりなされている、または、該空間部に対応する容器部分をマイクロ波遮蔽材料により形成することによりなされていることを特徴とする方法
(2)容器内に収納された物質にマイクロ波照射することにより化学反応を生起させる上記(1)に記載マイクロ波照射方法。
(3)容器内に収納された物質にマイクロ波照射することにより物質を加熱または蒸留する上記(1)または(2)に記載マイクロ波照射方法。
(4)容器内が減圧下にある上記(1)から(3)のいずれかに記載マイクロ波照射方法。
)マイクロ波が照射される物質が縮合反応または重縮合反応する物質である上記(1)から()のいずれかに記載マイクロ波照射方法。
)縮合反応または重縮合反応により形成された物質がポリヒドロキシカルボン酸類またはポリエステル類である上記()記載マイクロ波照射方法。
また、本発明のマイクロ波照射装置に係る発明は、以下の技術的手段から構成される。
)請求項1に記載のマイクロ波照射方法を実施するためのマイクロ波照射装置であって、マイクロ波発生装置、該マイクロ波発生装置から照射されるマイクロ波の照射領域内に設置された容器、マイクロ波遮蔽材料を有し、該容器は、被照射物質を収納するための空間部と該物質を収納しない空間部とで構成されており、被照射物質を収納するための空間部に対応する容器はマイクロ波透過材料により形成され、該物質を収納しない空間部に対応する容器は、マイクロ波が直接照射されないようになっていて放電現象の発生が抑制されており、マイクロ波遮蔽材料により形成されているか、または、マイクロ波透過材料により形成されている場合は、該空間部に対応した容器の外部にマイクロ波遮蔽材料が設置されているか、あるいは、該空間部に対応する容器の内面または外面にマイクロ波遮蔽層が積層されていることを特徴とするマイクロ波照射装置。
)複数の導波管からマイクロ波が直接該容器内の該物質にのみ照射されるように導波管が設置されている上記()に記載マイクロ波照射装置。
)容器の導波管からマイクロ波が照射される部分のみがマイクロ波透過材料からなる上記()または()に記載マイクロ波照射装置。
本発明により次のような効果が奏される。
(1)マイクロ波照射を行なっても、容器の空間部で放電現象が発生することがない。
(2)被照射物質の過加熱、該物質の炭化現象、急激で不均一な加熱による化学反応の暴走、被照射物収納容器や温度測定器の破損などの放電現象に基づく悪影響が防止できる。
(3)高い減圧度においてもマイクロ波照射による放電現象が発生することがない。
(4)マイクロ波照射の特徴を生かした化学反応を問題なく実施することができる。
マイクロ波照射による加熱において容器の空間部に放電現象が発生した状態を示す模式図である。 マイクロ波遮蔽体(スカート)で容器空間を覆った本発明のマイクロ波照射装置を示す模式図である。 液中に直接マイクロ波を照射する本発明のマイクロ波照射装置を示す模式図である。 本発明のマイクロ波照射装置の装置構成の一具体例を示す図である。 マイクロ波照射したときの放電状態を示す写真である。(a)が減圧下でマイクロ波遮蔽体を設けてマイクロ波を照射した例、(b)が常圧下でマイクロ波遮蔽体を設けないでマイクロ波を照射した例であり、共に放電現象は発生していない。 マイクロ波遮蔽体を設けないで減圧下でマイクロ波を照射したときに空間部で放電現象が発生した状態を示す写真である。 化学合成実験で使用した装置の一例を示す図である。 実施例1に係るマイクロ波照射装置の外観構成図である。
本発明は、マイクロ波透過材料からなる容器内に収納した物質にマイクロ波を照射するにあたり、容器内で該物質が収納されていない空間部にマイクロ波が直接照射されないようにマイクロ波を照射することにより該空間部における放電現象の発生を抑制するマイクロ波照射技術に関するものであり、特に、縮合反応などの化学反応や、蒸留、分別蒸留を効率的に進めるため減圧下のマイクロ波照射において有用である。窒素雰囲気下の減圧でマイクロ波を照射するとマイクロ波プラズマが発生し、生成物の分子量低下、着色、炭化などが見られる現象の防止が本発明により達成される。
従来のマイクロ波照射により反応容器内の被加熱物を加熱する多くの場合には、反応容器中には被加熱物が存在しない空間部が存在することなる。この空間部にも導波管からのマイクロ波が照射されることとなるため、特に減圧雰囲気下でのマイクロ波照射では、放電現象(マイクロ波プラズマ)が発生することがしばしば認められる。図1は、空間部において放電現象が発生している状態を模式的に示したものである。この放電現象により被加熱物の変性、装置類の破壊、故障などの不都合が生起されるので、放電現象は避けなければならない。放電現象の発生は、マイクロ波照射装置の構造、装置の規模、容器の構造、雰囲気、被加熱物の特性などさまざまな要因が関連しているため、発生条件を特定することは困難であるので、放電現象の発生しない条件での実施が困難となる。そこで、従来、放電現象が発生しない条件を個々のケースで実験的に求めることが必要となり、求めた条件下で加熱処理、化学反応などを実施するほかはなかった。例えば、乳酸の縮合重合反応においては、180℃、窒素雰囲気下で減圧すると青白いマイクロ波プラズマが発生し、発生後まもなく重合物が黒く炭化し、その炭化物が急激に加熱され、反応容器にヒビや穴が開く現象がたびたび発生するので、重合はマイクロ波プラズマが発生しない15mmHg以上の圧力範囲でしか反応を実施することができなかった。このように、プラズマが発生しない条件下で加熱、反応を行なわなければならず、最適の条件下で反応を実施することは困難な場合が多かった。
本発明は、放電現象が発生することのないマイクロ波照射技術を提供するものであり、その要点は、被照射物質のない空間部にマイクロ波を照射しないという簡便な手法により目的を達成できるものであり、例えば、被照射物質の加熱、被照射物質での化学反応の進行、蒸発、蒸留による精製、分離操作などへの適用が有用である。特に、減圧下のマイクロ波照射工程における放電現象の抑制あるいは制御に優れている。
放電現象の抑制は、例えば、図2に模式的に示すように、容器内の被照射物質が収納されていない空間部に対応する容器の外側周囲を、マイクロ波を透過しない物質(マイクロ波遮蔽材料)、例えば、金属材料で覆う構造により達成される(この構造を、スカート構造とも称する。)。このマイクロ波遮蔽構造を作製するための素材、形状などは、容器の形状構造、材料の加工性マイクロ波遮蔽性能などを考慮して適宜決定される。
また、マイクロ波遮蔽材料としては、マイクロ波を遮蔽する材料であれば如何なる材質のものであっても差し支えはない。マイクロ波遮蔽材料を使用した他の例としては、容器内の被照射物質が収納されていない空間部に相当する容器部分の外面に、または該容器部分の内面に金属の蒸着層を設けることが挙げられる。金属蒸着層の膜厚、材質は、マイクロ波の遮蔽を十分達成する範囲であれば限定されるものではない。また、容器内の空間部に対応する容器壁をマイクロ波遮蔽材料で形成することができる。
他にマイクロ波による放電現象を抑制できるものとして、図3に示した例が挙げられる。この例は、導波管からのマイクロ波を容器内の被照射物質へ照射するためのマイクロ波透過部を有する被照射物質の収納容器を有し、そのマイクロ波透過部の面積は導波管の断面積よりも大きく、規定量の被照射物質を容器内に投入した時にマイクロ波透過部の全面が、収納されている被照射物質と接触状態となるように構成されたマイクロ波照射装置である。この装置では、導波管から照射されたマイクロ波は、直接被照射物質に吸収されて容器内の上部空間にまで漏洩することはない。したがって、空間部にはマイクロ波が照射されないため放電現象が発生する恐れはない。
次に、本発明のマイクロ照射による化合物の合成について具体的に説明する。
ポリ乳酸−グリコール酸共重合体は生体内薬剤徐放マトリックスとして現在利用されている物質である。この共重合体は生体内に利用されるため、重縮合を行う際に金属触媒を利用することができないため、反応性が低く目的の分子量まで重合度を上げるために1週間弱の時間を必要とする。そこで、金属触媒を利用することなく反応速度を上げるには、反応温度を上げることや縮合反応によって生成する副生成物を速やかに系外に留去するといった操作を行う必要がある。副生成物の留去は平衡反応である重縮合の平衡を生成物側に偏らせるために行う。無触媒で共重合体を迅速に合成するため、マイクロ波加熱を利用した。
マイクロ波加熱は、オイルバスやマントルヒーターを用いる従来の加熱手法と加熱形態が完全に異なる。従来の加熱法は、反応容器外部から加熱し、熱伝導および対流により物質が加熱されるのに対して、マイクロ波加熱は物質そのものにマイクロ波が浸透し内部より発熱することにより物質全体を加熱する。この加熱形態の違いにより化学反応が促進され、反応速度の上昇、収率の向上といった結果が得られることが報告されている。そこで、マイクロ波加熱の反応促進効果を利用することで、無触媒でポリ乳酸−グリコール酸の迅速な大量合成を目的とするとともに、マイクロ波加熱において発生する放電現象を防止する手段について検討した。
反応装置は図7に示すように、熱電対温度計、撹拌機を備えた反応容器内に乳酸およびグリコール酸を収納し、容器の上部空間部に対応する容器外部には、空間部を覆うマイクロ波遮蔽部材を設置した。反応容器にはコンデンサー、真空ポンプに通じる開口と、水銀圧力計に通じる開口が設けられている。マイクロ波は、マイクロ波照射装置(図示せず)から反応容器へ照射される。反応容器の上部で、マイクロ波遮蔽部材で覆われている部分では放電現象は発生しなかった。反応を200℃で約400分継続したところ、分子量(Mw)4830の乳酸−グリコール酸共重合体を得ることができた。
また、マイクロ波を用いた生分解性ポリエステルの迅速合成について実験した。代表的なバイオプラスチックの一種であるポリ乳酸の高分子体は直接重合では、従来短時間に得ることが困難だったが、図7に示す反応装置を使用することにより高分子量のポリ乳酸を直接重合法で合成することが可能となり、しかもマイクロ波プラズマ発生による、生成物の分子量の低下、着色、炭化などの現象を避けることができた。
本発明を用いた有機溶媒の蒸留および分別蒸留について説明する。蒸留装置は図4に示すように、200mLのガラス容器内に、45mLまたは60mLの有機溶媒を収納し、有機溶媒で満たされていない容器空間部分を金属製のスカートパイプで被覆してマイクロ波を遮蔽する。この容器には、バルブを介して、水銀柱圧力計と、冷却器、真空ポンプが接続されて、蒸留物の冷却回収、容器内の減圧および減圧度の測定が行なわれる。容器内には、デカノール(沸点:229℃)またはデカノールとノナン(沸点:150.8℃)の混合物が入れられている。この容器にマイクロ波を照射して内容物の温度を上昇させ、蒸留あるいは分別蒸留が、放電現象の発生なく実施できることを確認したところ、1.0kPaの減圧下でデカノールの蒸留は放電現象が発生することなく行なわれた。しかしながら、上記のスカートパイプを設置しない容器では放電現象が発生した。
デカノールとノナンの分別蒸留による分離、精製においてはスカートパイプを設置することにより容器の空間部での放電現象が発生することはなく、両者の分離、精製工程は問題なく実施された。スカートパイプを設置しないと放電現象が発生し、図6に示したようにマイクロ波プラズマによる強力な青白い発光が観測された。
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
本実施例では、乳酸の直接重合によりポリ乳酸を合成した。1バッチ20kgまでの実験を行なった。図8は、実施例1に係るマイクロ波照射装置の外観構成図である。
マイクロ波加熱反応装置(2.45GHz)に90%乳酸水溶液及び触媒として塩化錫(II)、助触媒としてパラトルエンスルホン酸を加えマイクロ波加熱を行った(反応温度180℃)。反応装置は四国計測工業社製SMWl14(最大出力6kW、内容量30L)(装置No.1)を用いた。容器内は0.7および0.8kPaに減圧した。容器内で乳酸水溶液が収納されていない減圧空間部にマイクロ波が照射されないように、容器の該空間部に対応する部分を外部からステンレス製(SUS304)からなる、厚み2mmのカバー部材(スカート)により覆った。被反応物を180℃で6.0時間反応させたときの、容器内空間での放電の有無を観察し、生成物の分子量を測定した。
容器外周にスカートを設け減圧空間にマイクロ波が照射されないようにした実験では、反応の進行している間にマイクロ波による放電現象は認められなかった。実験結果は表1の例1および2に示す。
マイクロ波加熱の反応促進効果を利用することで、無触媒でポリ乳酸−グリコール酸の迅速な大量合成を目的として乳酸−グリコール酸の重縮合反応をマイクロ波加熱により行なうと同時に放電現象の発生の有無を検討した。
反応原料として、90%乳酸水溶液(D,L混合体)18.55kg、(乳酸、F.W.90.08、乳酸重量16700g、185.3mol、武蔵野化学研究所製)、およびグリコール酸4.70kg (F.W.76.05、m.p.75−80℃、61.8mol、グリピュア99、製造はDupont社)を使用した。
重合反応は200℃で約400分行なった。実施例1と同じ装置を使用し、乳酸水溶液18.55kg、グリコール酸4.70kgを6kWマイクロ波加熱装置に仕込み、真空度0.5kPaでマイクロ波加熱を行なった。温度は2本の熱電対を用いて測定した。容器中の減圧空間に放電現象が起こることはなかった。また、熱電対による温度測定は何ら支障なく正確に行なうことができた。試験結果は表1の例3に示す。
重縮合は平衡反応であり、平衡を生成物に傾けるためには副生成物を系内から取り除く必要がある。そのため、減圧は一般的に用いられる手法である圧力の違いにより副生成物の留去速度は変わる結果、生成物であるポリエステルの分子量が変わると考えられる。そこで異なる圧力で合成して得られる高分子の分子量を測定し、また、どの程度の減圧下で容器内に放電現象が発生するかを検討した。
反応原料として、90%乳酸水溶液:202.42g(F.W=90.08、乳酸NET換算、181g、2mol、Wako製)を使用し、触媒として、SnC12:2.27g(F.W.=189.6、12.0mmol、乳酸に対して0.6mol%)、助触媒として、パラトルエンスルホン酸(p−TsOH・H2O):2.24g(F.W.=190.2、11.8mmol、乳酸に対して0.6mol%)を使用した。
実施例1と同様にしてマイクロ波遮蔽用のスカートを配置した反応装置を組み、乳酸水溶液および触媒、助触媒をガラス容器(441.66g)に入れた。 準備した反応容器を速やかにマイクロ波加熱装置SMW−101(最大出力1.5kW、内容量500mL)(装置No.2)にセットし加熱を始めた。加熱中の操作および状態は以下のとおりであった。目標重合温度180℃、加熱時間は90分、圧力は常圧(101300Pa)、10000Pa、300Paで検討した。実験結果は例61、62、63として表2に示す。いずれの真空度においても容器の空間部には放電現象が起こらなかった。
また、実施例1の例1および例2の実験において、容量を200gとすると共に、さらに真空度を0.1kPaとした実験(例4および例5)を行なうことにより、真空度と、装置の規模の影響について検討した。SMW−101(装置No.2)を用いた中容量実験とSMW−114(装置No.1)を用いた大容量実験とを比較すると、得られたポリ乳酸の重合度および分子量分布に大きな差はなく、0.1kPaの真空度でも放電現象は発生しなかった。また、1モルあたりの消費電力は、大型化することにより20分の1に抑えられることが分かった。
有機溶媒である1−デカノールを沸点(229℃)以上に加熱し蒸留する際の放電現象発生の有無についてマイクロ波加熱装置(最大出力1.5kW、内容量200mL、装置No.3)で検討した。
実験装置は、200mLのガラス容器にデカノールを60mL入れ空間部に対応する容器の外周には金属製のスカートパイプを配設してマイクロ波を照射した。1kPaの減圧下では、スカートパイプを設けることにより放電現象の発生が防止された。しかし、スカートパイプを設けないで同様の実験を行なったところ放電現象が発生した。実験結果を表3に示す。
1−デカノール(沸点229℃)30mLとノナン(沸点150.8℃)15mLの混合溶媒を、蒸留により分別した。両者の混合溶媒を200mLのガラス容器に収納し、容器の減圧空間部に対応した容器の外周に金属製のスカートパイプを装着して、1kPaの減圧下でマイクロ波を照射した。スカートパイプを装着した容器を使用するとマイクロ波による放電現象はなく、マイクロ波出力後23秒で蒸留が始まるとともに1−デカノールとノナンの分別蒸留を行なうことができた(図5(a)参照)。
スカートパイプなしで同様の実験を行なうと放電現象が発生した(図6参照)。また、常圧の下にスカートパイプなしで同様の実験を行なったところ放電現象は生じなかった(図5(b)参照)。実験結果を表4に示す。
図3に模式的に示した液中照射マイクロ波照射装置(装置No.4)により、3.0kPaの減圧下にある容器内の空間にはマイクロ波が照射されないようにして乳酸の加熱脱水縮合反応を行なったところ、容器内の空間部に放電現象が発生することはなかった。実験結果を表5の例8に示す。
〔比較例1〕
撹拌子を備えた容量10mLのパイレックス(登録商標)製試験管に、85〜92%の乳酸水溶液を3.0g、塩化スズ(II)を10mg、P−トルエンスルホン酸一水和物10mgを入れ、長さ20cmの分別蒸留管を試験管の上に取り付け、シングルモードマイクロ波照射装置(装置No.5)用いて、窒素雰囲気下、200℃で5分間加熱した後に減圧操作を行った。100〜15mmHgの減圧下ではダイヤプラム型真空ポンプ(EYELA製DlVAC0.6L)を用い、15mmHg以下ではロータリー型真空ポンプ(ヤマト製PD−136)を用いた。試験管上部にコンデンサーを装着し耐圧ホースの先に液体窒素で冷却したトラップ管、マノメーター、圧力調整器、ポンプの順に取り付け200℃で30分間マイクロ波を照射した。ロータリーポンプで5mmHgまで減圧すると、青白いマイクロ波プラズマが発生し、発生後まもなく重合物が黒く炭化し、その炭化物が急激に加熱され、試験管にヒビや、穴が開いてしまう現象が発生した。実験結果を表5の例9に示す。
本発明は、容器内の該物質が収納されていない空間部にはマイクロ波が直接照射されないようにマイクロ波を照射することにより該空間部における放電現象の発生を抑制したマイクロ波照射方法およびマイクロ波照射装置に係るものであり、放電現象により発生する問題点を解消したマイクロ波照射技術を提供するものである。マイクロ波照射は主に加熱操作など広い分野において応用されているものであり、例えば、食品の解凍、再加熱、調理、薬品の滅菌、合板の接着、化合物の合成、繊維木材の乾燥などに使用されている。本発明はマイクロ波照射技術が適用される如何なる分野においても有用な技術であり、減圧下で放電現象が発生しやすい条件の下での工程に特に有用である。例えば、従来のマイクロ波照射による加熱を利用して化合物を合成する場合には、マイクロ波プラズマの発生による生成物の変性、着色、炭化、反応の暴走などの問題がしばしばあったが、本発明を適用することによりこうした問題点は解消され、化合物の合成において反応環境を選択する自由度が増し、反応を簡便に、適切な反応条件の下に進めることができる。また、蒸留、分別蒸留操作においてもマイクロ波照射が使用できることが判明し、簡便で、効率のよい蒸留、分別蒸留工程が実現できる。
1:試料照射装置
2:マイクロ波遮蔽部材(スカート)
3:容器
4:水銀圧力計へ
5:N2トラップ
6:圧力調整バルブ
7:真空ポンプ
8:熱電対
9:撹拌翼
10:撹拌器
11:圧力センサ
12:三方コック
13:メカニカルシール
14:取り出し用バルブ
15:真空引きライン
16:導波管
17:制御盤

Claims (9)

  1. 被照射物質を収納するための空間部と該物質を収納しない空間部とで構成され、該物質を収納するための空間部に対応する部分はマイクロ波透過材料により形成された容器内に収納した物質にマイクロ波を照射するマイクロ波照射方法において、上記の物質が収納されていない空間部をマイクロ波遮蔽材料によりマイクロ波を遮蔽し、該空間部にマイクロ波が直接照射されないようにすることで放電現象の発生が抑制されるように、マイクロ波を照射すること、その際、上記の空間部のマイクロ波遮蔽材料によるマイクロ波の遮蔽が、該空間部に対応した容器の外部に設置されたマイクロ波遮蔽材料によりなされている、該空間部に対応する容器の内面または外面にマイクロ波遮蔽層を積層することによりなされている、または、該空間部に対応する容器部分をマイクロ波遮蔽材料により形成することによりなされていることを特徴とする方法
  2. 容器内に収納された物質にマイクロ波照射することにより化学反応を生起させる請求項1に記載マイクロ波照射方法。
  3. 容器内に収納された物質にマイクロ波照射することにより物質を加熱または蒸留する請求項1または2に記載マイクロ波照射方法。
  4. 容器内が減圧下にある請求項1から3のいずれかに記載マイクロ波照射方法。
  5. マイクロ波が照射される物質が縮合反応または重縮合反応する物質である請求項1からのいずれかに記載マイクロ波照射方法。
  6. 縮合反応または重縮合反応により形成された物質がポリヒドロキシカルボン酸類またはポリエステル類である請求項記載マイクロ波照射方法。
  7. 請求項1に記載のマイクロ波照射方法を実施するためのマイクロ波照射装置であって、マイクロ波発生装置、該マイクロ波発生装置から照射されるマイクロ波の照射領域内に設置された容器、マイクロ波遮蔽材料を有し、該容器は、被照射物質を収納するための空間部と該物質を収納しない空間部とで構成されており、被照射物質を収納するための空間部に対応する容器はマイクロ波透過材料により形成され、該物質を収納しない空間部に対応する容器は、マイクロ波が直接照射されないようになっていて放電現象の発生が抑制されており、マイクロ波遮蔽材料により形成されているか、または、マイクロ波透過材料により形成されている場合は、該空間部に対応した容器の外部にマイクロ波遮蔽材料が設置されているか、あるいは、該空間部に対応する容器の内面または外面にマイクロ波遮蔽層が積層されていることを特徴とするマイクロ波照射装置。
  8. 複数の導波管からマイクロ波が直接該容器内の該物質にのみ照射されるように導波管が設置されている請求項に記載マイクロ波照射装置。
  9. 容器の導波管からマイクロ波が照射される部分のみがマイクロ波透過材料からなる請求項またはに記載マイクロ波照射装置。
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