窒化ガリウム基板の半極性面上に発光素子が作製されている。半極性を示す窒化ガリウム面では、窒化ガリウムのc軸が窒化ガリウム基板の半極性面の法線に対して傾斜している。窒化ガリウムの半極性面を用いた半導体レーザの作製において、窒化ガリウムのc軸を半導体レーザの導波路の延在方向に傾斜させるとき、共振器のために利用可能な端面を形成できる。これらの端面に所望の反射率の誘電体多層膜を形成して、共振器を形成する。両端面上の誘電体多層膜の厚さは、互いに異なる反射率の誘電体多層膜を得るために互いに異なる。レーザ光はフロント側の端面から出射されるので、フロント側の端面の誘電体多層膜の反射率がリア側の端面の誘電体多層膜の反射率より小さくされる。
発明者らの実験によれば、上記のようにいくつかの半導体レーザを作製したとき、これらの半導体レーザの素子寿命は様々なものであり、長い素子寿命の理由及び短い素子寿命の理由は明らかではなかった。発明者らは、この点について検討を行った結果、共振器のための半導体端面の結晶方位と誘電体多層膜層の厚さとが関係しているという知見を得た。
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、素子寿命の長いIII族窒化物半導体レーザ素子を提供することを目的し、また素子寿命の長いIII族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法を提供することを目的とする。
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体レーザ素子は、(a)III族窒化物半導体からなる半極性主面を有する支持基体、及び前記支持基体の前記半極性主面上に設けられた半導体領域を含むレーザ構造体と、(b)前記半導体領域の第1及び第2の端面上にそれぞれ設けられ、該窒化物半導体レーザダイオードの共振器のための第1及び第2の誘電体多層膜とを備える。前記半導体領域は、第1導電型の窒化ガリウム系半導体からなる第1のクラッド層と、第2導電型の窒化ガリウム系半導体からなる第2のクラッド層と、前記第1のクラッド層と前記第2のクラッド層との間に設けられた活性層とを含み、前記第1のクラッド層、前記第2のクラッド層及び前記活性層は、前記半極性主面の法線軸に沿って配列されており、前記活性層は窒化ガリウム系半導体層を含み、前記支持基体の前記III族窒化物半導体の<0001>軸の方向を示すc+軸ベクトルは、前記法線軸の方向を示す法線ベクトルに対して前記III族窒化物半導体のm軸及びa軸のいずれかの結晶軸の方向に45度以上80度以下及び100度以上135度以下の範囲の角度で傾斜しており、前記第1及び第2の端面は、前記六方晶系III族窒化物半導体の前記結晶軸及び前記法線軸によって規定される基準面に交差し、前記c+軸ベクトルは、前記第2の端面から前記第1の端面への方向を示す導波路ベクトルと鋭角を成し、前記第2の誘電体多層膜の厚さは、前記第1の誘電体多層膜の厚さより薄い。
このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、c+軸ベクトルは導波路ベクトルと鋭角を成しており、この導波路ベクトルは、第2の端面から第1の端面への方向に向いている。また、第2の端面の法線ベクトルとc+軸ベクトルと成す角は、第1の端面の法線ベクトルとc+軸ベクトルと成す角よりも大きい。このとき、第2の端面上の第2の誘電体多層膜の厚さが、第1の端面上の第1の誘電体多層膜の厚さより薄いので、第2の端面上の第2の誘電体多層膜はフロント側になり、このフロント側からレーザ光は出射される。第1の端面上の第1の誘電体多層膜はリア側になり、このリア側でレーザ光の大部分は反射される。半極性面上のレーザ素子では、フロント側の第2の誘電体多層膜の厚さが、リア側の第1の誘電体多層膜の厚さより薄いとき、端面上の誘電体多層膜に起因する素子劣化が低減されて、素子寿命の低下が避けられる。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記レーザ構造体は第1及び第2の面を含み、前記第1の面は前記第2の面の反対側の面であり、前記半導体領域は前記第1の面と前記支持基体との間に位置し、前記第1及び第2の端面の各々は、前記第1の面のエッジから前記第2の面のエッジまで延在する割断面に含まれることができる。
III族窒化物半導体レーザ素子によれば、レーザ構造体の第1及び第2の端面は、六方晶系III族窒化物半導体のa軸又はm軸と主面の法線軸とによって規定される基準面に交差するので、第1及び第2の端面を割断面として形成でき、この割断面は第1の面のエッジから第2の面のエッジまで延在する。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記III族窒化物半導体のc軸は、前記窒化物半導体のm軸の方向に傾斜していることができる。或いは、本発明に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記III族窒化物半導体のc軸は、前記窒化物半導体のa軸の方向に傾斜していることができる。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記支持基体の主面が、{10−11}、{20−21}、{20−2−1}、{10−1−1}のいずれかの面から−4度以上4度以下の範囲で傾斜することができる。また、本発明に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記支持基体の主面が、{10−11}、{20−21}、{20−2−1}、{10−1−1}のいずれかの面であることができる。
このIII族窒化物半導体レーザ素子では、III族窒化物半導体のc軸が窒化物半導体のm軸の方向に傾斜するとき、実用的な面方位及び角度範囲は、少なくとも上記の面方位及び角度範囲を含まれる。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記支持基体の主面が{11−22}、{11−21}、{11−2−1}、{11−2−2}のいずれかの面から−4度以上4度以下の範囲で傾斜することができる。また、本発明に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記支持基体の主面が、{11−22}、{11−21}、{11−2−1}、{11−2−2}のいずれかの面であることができる。
このIII族窒化物半導体レーザ素子では、III族窒化物半導体のc軸が窒化物半導体のa軸の方向に傾斜するとき、実用的な面方位及び角度範囲は、少なくとも上記の面方位及び角度範囲を含まれる。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記活性層は、構成元素としてInを含むと共に歪みを内包する窒化ガリウム系半導体からなる井戸層を含むことができる。また、本発明に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記活性層は、歪みを内包するInGaNからなる井戸層を含むことができる。
このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、III族構成元素としてInを含む窒化ガリウム系半導体において本件の劣化が観察される。また、劣化の程度は、インジウム組成の増加に伴って顕著になる。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記活性層は、波長430〜550nmの発振光を生成するように設けられることができる。
このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、III族構成元素として例えばInを含むと共に歪みを内包する窒化ガリウム系半導体からなる井戸層を用いて上記の波長範囲の発光を提供できる。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記III族窒化物半導体はGaNであることができる。このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、GaN主面を用いたレーザ構造体の実現により、例えば上記の波長範囲(青色から緑色までの波長範囲)における発光を実現できる。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザ素子では、前記第1の誘電体多層膜内の誘電体層は、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン酸窒化物、チタン酸化物、チタン窒化物、チタン酸窒化物、ジルコニウム酸化物、ジルコニウム窒化物、ジルコニウム酸窒化物、ジルコニウム弗化物、タンタル酸化物、タンタル窒化物、タンタル酸窒化物、ハフニウム酸化物、ハフニウム窒化物、ハフニウム酸窒化物、ハフニウム弗化物、アルミ酸化物、アルミ窒化物、アルミ酸窒化物、マグネシウム弗化物、マグネシウム酸化物、マグネシウム窒化物、マグネシウム酸窒化物、カルシウム弗化物、バリウム弗化物、セリウム弗化物、アンチモン酸化物、ビスマス酸化物、ガドリニウム酸化物のうち少なくとも1つからなり、前記第2の誘電体多層膜内の誘電体層は、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン酸窒化物、チタン酸化物、チタン窒化物、チタン酸窒化物、ジルコニウム酸化物、ジルコニウム窒化物、ジルコニウム酸窒化物、ジルコニウム弗化物、タンタル酸化物、タンタル窒化物、タンタル酸窒化物、ハフニウム酸化物、ハフニウム窒化物、ハフニウム酸窒化物、ハフニウム弗化物、アルミ酸化物、アルミ窒化物、アルミ酸窒化物、マグネシウム弗化物、マグネシウム酸化物、マグネシウム窒化物、マグネシウム酸窒化物、カルシウム弗化物、バリウム弗化物、セリウム弗化物、アンチモン酸化物、ビスマス酸化物、ガドリニウム酸化物のうち少なくとも1つからなることができる。
このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、実用的な誘電体膜の材料は、シリコン酸化物(例えばSiO2)、シリコン窒化物(例えばSi3N4)、シリコン酸窒化物(例えばSiOxN1−x)、チタン酸化物(例えばTiO2)、チタン窒化物(例えばTiN)、チタン酸窒化物(例えばTiOxN1−x)、ジルコニウム酸化物(例えばZrO2)、ジルコニウム窒化物(例えばZrN)、ジルコニウム酸窒化物(例えばZrOxN1−x)、ジルコニウム弗化物(ZrF4)、タンタル酸化物(例えばTa2O5)、タンタル窒化物(Ta3N5)、タンタル酸窒化物(TaOxN1−x)、ハフニウム酸化物(例えばHfO2)、ハフニウム窒化物(例えばHfN)、ハフニウム酸窒化物(例えばHfOxN1−x)、ハフニウム弗化物(例えばHfF4)、アルミ酸化物(例えばAl2O3)、アルミ窒化物(例えばAlN)、アルミ酸窒化物(AlOxN1−x)、マグネシウム弗化物(例えばMgF2)、マグネシウム酸化物(例えばMgO)、マグネシウム窒化物(例えばMg3N2)、マグネシウム酸窒化物(例えばMgOxN1−x)カルシウム弗化物(例えばCaF2)、バリウム弗化物(例えばBaF2)、セリウム弗化物(例えばCeF3)、アンチモン酸化物(例えばSb2O3)、ビスマス酸化物(例えばBi2O3)、ガドリニウム酸化物(例えばGd2O3)からなることができる。
本発明の別の側面に係る発明は、III族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法である。この方法は、(a)六方晶系III族窒化物半導体からなる半極性主面を有する基板を準備する工程と、(b)前記半極性主面上に形成された半導体領域と前記基板とを含むレーザ構造体、アノード電極、及びカソード電極を有する基板生産物を形成する工程と、(c)前記基板生産物を形成した後に、第1及び第2の端面を形成する工程と、(d)前記第1及び第2の端面にそれぞれ該窒化物半導体レーザ素子の共振器のための第1及び第2の誘電体多層膜を形成する工程とを備える。前記第1及び第2の端面は、前記六方晶系III族窒化物半導体のa軸及びm軸のいずれか一方の結晶軸及び前記半極性主面の法線軸によって規定される基準面に交差し、前記半導体領域は、第1導電型の窒化ガリウム系半導体からなる第1のクラッド層と、第2導電型の窒化ガリウム系半導体からなる第2のクラッド層と、前記第1のクラッド層と前記第2のクラッド層との間に設けられた活性層とを含み、前記第1のクラッド層、前記第2のクラッド層及び前記活性層は、前記法線軸の方向に配列されており、前記活性層は窒化ガリウム系半導体層を含み、前記基板の前記半極性主面は、該窒化物半導体の<0001>軸の方向を示すc+軸ベクトルに直交する平面に45度以上80度以下及び100度以上135度以下の範囲の角度で交差しており、前記c+軸ベクトルは、前記第2の端面から前記第1の端面への方向を示す導波路ベクトルと鋭角を成し、前記第2の誘電体多層膜(C−)の厚さは、前記第1の誘電体多層膜(C+)の厚さより薄い。
この方法によれば、c+軸ベクトルと鋭角を成す導波路ベクトルは第2の端面から第1の端面への方向に対応しており、また第2の端面上の第2の誘電体多層膜(C−側)を第1の端面上の第1の誘電体多層膜(C+側)の厚さより薄く形成するので、端面上の誘電体多層膜に起因して第2の端面から進行する結晶品質の悪化を伴った素子劣化を低減して、素子寿命の低下を避けることができる。このIII族窒化物半導体レーザ素子では、第2の端面の法線ベクトルとc+軸ベクトルと成す角は、第1の端面の法線ベクトルとc+軸ベクトルと成す角よりも大きい。フロント側の第2の誘電体多層膜(C−側)の厚さが、リア側の第1の誘電体多層膜(C+側)の厚さより薄いとき、第2の端面上の第2の誘電体多層膜はフロント側になり、このフロント側からレーザ光は出射される。第1の端面上の第1の誘電体多層膜はリア側になり、このリア側でレーザ光の大部分は反射される。
本発明に係る方法は、前記第1及び第2の誘電体多層膜を形成する前に、前記第1及び第2の端面の面方位を判別する工程を更に備える。この方法によれば、この判別に従って、それぞれの端面に適切な誘電体多層膜を選択してそれを成長できる。
本発明に係る方法では、第1及び第2の端面を形成する前記工程は、前記基板生産物の第1の面をスクライブする工程と、前記基板生産物の第2の面への押圧により前記基板生産物の分離を行ってレーザバーを形成する工程とを含むことができる。前記レーザバーは、前記分離により形成された第1及び第2の端面を有し、前記第1の面は前記第2の面の反対側の面であり、前記半導体領域は前記第1の面と前記基板との間に位置し、前記レーザバーの前記第1及び第2の端面の各々は、前記第1の面から前記第2の面にまで延在し前記分離により形成された割断面に含まれる。
この方法によれば、レーザバーの第1及び第2の端面は、六方晶系III族窒化物半導体のa軸又はm軸と主面の法線軸とによって規定される基準面に交差するので、第1及び第2の端面は、スクライブ形成及び押厚によって割断面として形成されることができ、該割断面は第1の面のエッジから第2の面のエッジまで延在する。
本発明に係る方法では、前記III族窒化物半導体のc軸は、前記窒化物半導体のm軸の方向に傾斜していることができる。或いは、本発明に係る方法では、前記III族窒化物半導体のc軸は、前記窒化物半導体のa軸の方向に傾斜していることができる。
本発明に係る方法では、前記基板の主面が、{10−11}、{20−21}、{20−2−1}、{10−1−1}のいずれかの面から−4度以上4度以下の範囲で傾斜することができる。また、本発明に係る方法では、前記基板の主面が、{10−11}、{20−21}、{20−2−1}、{10−1−1}のいずれかの面であることができる。
この方法では、III族窒化物半導体のc軸が窒化物半導体のm軸の方向に傾斜するとき、実用的な面方位及び角度範囲は、少なくとも上記の面方位及び角度範囲を含む。
本発明に係る方法では、前記基板の主面が{11−22}、{11−21}、{11−2−1}、{11−2−2}のいずれかの面から−4度以上4度以下の範囲で傾斜することができる。また、本発明に係る方法では、前記基板の主面が、{11−22}、{11−21}、{11−2−1}、{11−2−2}のいずれかの面であることができる。
この基板では、III族窒化物半導体のc軸が窒化物半導体のa軸の方向に傾斜するとき、実用的な面方位及び角度範囲は、少なくとも上記の面方位及び角度範囲を含む。
本発明に係る方法では、前記活性層の形成では、構成元素としてInを含むと共に歪みを内包する窒化ガリウム系半導体からなる井戸層を成長することが良い。また、本発明に係る方法では、前記活性層の形成で成長された井戸層は歪みを内包するInGaNからなる、この歪みは、井戸層に隣接する半導体層からの応力に因る。この方法によれば、III族構成元素としてInを含む窒化ガリウム系半導体において本件の劣化が観察される。また、劣化の程度は、インジウム組成の増加に伴って顕著になる。
本発明に係る方法では、前記活性層は、波長430〜550nmの発振光を生成するように構成されることができる。この方法によれば、この方法によれば、構成元素としてInを含むと共に歪みを内包する窒化ガリウム系半導体からなる井戸層を用いて上記の波長範囲の発光を提供できる。
本発明に係る方法では、前記III族窒化物半導体はGaNであることが良い。この方法によれば、GaN主面を用いたレーザ構造体の実現により、例えば上記の波長範囲(青色から緑色までの波長範囲)における発光を実現できる。
本発明に係る方法では、前記第1の誘電体多層膜内の誘電体層は、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン酸窒化物、チタン酸化物、チタン窒化物、チタン酸窒化物、ジルコニウム酸化物、ジルコニウム窒化物、ジルコニウム酸窒化物、ジルコニウム弗化物、タンタル酸化物、タンタル窒化物、タンタル酸窒化物、ハフニウム酸化物、ハフニウム窒化物、ハフニウム酸窒化物、ハフニウム弗化物、アルミ酸化物、アルミ窒化物、アルミ酸窒化物、マグネシウム弗化物、マグネシウム酸化物、マグネシウム窒化物、マグネシウム酸窒化物、カルシウム弗化物、バリウム弗化物、セリウム弗化物、アンチモン酸化物、ビスマス酸化物、ガドリニウム酸化物のうち少なくとも1つを用いて形成されることができる。また、前記第2の誘電体多層膜内の誘電体層は、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン酸窒化物、チタン酸化物、チタン窒化物、チタン酸窒化物、ジルコニウム酸化物、ジルコニウム窒化物、ジルコニウム酸窒化物、ジルコニウム弗化物、タンタル酸化物、タンタル窒化物、タンタル酸窒化物、ハフニウム酸化物、ハフニウム窒化物、ハフニウム酸窒化物、ハフニウム弗化物、アルミ酸化物、アルミ窒化物、アルミ酸窒化物、マグネシウム弗化物、マグネシウム酸化物、マグネシウム窒化物、マグネシウム酸窒化物、カルシウム弗化物、バリウム弗化物、セリウム弗化物、アンチモン酸化物、ビスマス酸化物、ガドリニウム酸化物のうち少なくとも1つを用いて形成されることができる。
この方法によれば、実用的な誘電体膜は、シリコン酸化物(例えばSiO2)、シリコン窒化物(例えばSi3N4)、シリコン酸窒化物(例えばSiOxN1−x)、チタン酸化物(例えばTiO2)、チタン窒化物(例えばTiN)、チタン酸窒化物(例えばTiOxN1−x)、ジルコニウム酸化物(例えばZrO2)、ジルコニウム窒化物(例えばZrN)、ジルコニウム酸窒化物(例えばZrOxN1−x)、ジルコニウム弗化物(ZrF4)、タンタル酸化物(例えばTa2O5)、タンタル窒化物(Ta3N5)、タンタル酸窒化物(TaOxN1−x)、ハフニウム酸化物(例えばHfO2)、ハフニウム窒化物(例えばHfN)、ハフニウム酸窒化物(例えばHfOxN1−x)、ハフニウム弗化物(例えばHfF4)、アルミ酸化物(例えばAl2O3)、アルミ窒化物(例えばAlN)、アルミ酸窒化物(AlOxN1−x)、マグネシウム弗化物(例えばMgF2)、マグネシウム酸化物(例えばMgO)、マグネシウム窒化物(例えばMg3N2)、マグネシウム酸窒化物(例えばMgOxN1−x)カルシウム弗化物(例えばCaF2)、バリウム弗化物(例えばBaF2)、セリウム弗化物(例えばCeF3)、アンチモン酸化物(例えばSb2O3)、ビスマス酸化物(例えばBi2O3)、ガドリニウム酸化物(例えばGd2O3)のうち少なくとも1つからなることができる。
本発明の上記の目的および他の目的、特徴、並びに利点は、添付図面を参照して進められる本発明の好適な実施の形態の以下の詳細な記述から、より容易に明らかになる。
以上説明したように、本発明によれば、素子寿命の長いIII族窒化物半導体レーザ素子が提供される。また、本発明によれば、素子寿命の長いIII族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法が提供される。
本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明のIII族窒化物半導体レーザ素子、及びIII族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
図1は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザ素子の構造を概略的に示す図面である。III族窒化物半導体レーザ素子11は、利得ガイド型の構造を有するけれども、本発明の実施の形態は、利得ガイド型の構造に限定されるものではない。III族窒化物半導体レーザ素子11は、レーザ構造体13及び電極15を備える。レーザ構造体13は、支持基体17及び半導体領域19を含む。支持基体17は、六方晶系III族窒化物半導体からなる半極性主面17aを有し、裏面17bを有する。半導体領域19は、支持基体17の半極性主面17a上に設けられている。電極15は、レーザ構造体13の半導体領域19上に設けられる。半導体領域19は、第1のクラッド層21と、第2のクラッド層23と、活性層25とを含む。第1のクラッド層21は、第1導電型の窒化ガリウム系半導体からなり、例えばn型AlGaN、n型InAlGaN等からなる。第2のクラッド層23は、第2導電型の窒化ガリウム系半導体からなり、例えばp型AlGaN、p型InAlGaN等からなる。活性層25は、第1のクラッド層21と第2のクラッド層23との間に設けられる。活性層25は窒化ガリウム系半導体層を含み、この窒化ガリウム系半導体層は例えば井戸層25aである。活性層25は窒化ガリウム系半導体からなる障壁層25bを含み、井戸層25a及び障壁層25bは交互に配列されている。井戸層25aは、例えばInGaN等からなり、障壁層25bは例えばGaN、InGaN等からなる。活性層25は、波長360nm以上600nm以下の光を発生するように設けられた量子井戸構造を含むことができる。半極性面の利用により、波長430nm以上550nm以下の光の発生に好適である。第1のクラッド層21、第2のクラッド層23及び活性層25は、半極性主面17aの法線軸NXに沿って配列されている。法線軸NXは法線ベクトルNVの方向へ延びる。支持基体17のIII族窒化物半導体のc軸Cxはc軸ベクトルVCの方向に延びる。
レーザ構造体13は、共振器のための第1の端面26及び第2の端面28を含む。共振器のための導波路は、第2の端面28から第1の端面26まで延在しており、導波路ベクトルWVは第2の端面28から第1の端面26への方向を示す。レーザ構造体13の第1及び第2の端面26、28は、六方晶系III族窒化物半導体の結晶軸(m軸又はa軸)及び法線軸NXによって規定される基準面に交差する。図1では、第1及び第2の端面26、28は六方晶系III族窒化物半導体のm軸及び法線軸NXによって規定されるm−n面に交差している。しかしながら、第1及び第2の端面26、28は六方晶系III族窒化物半導体のa軸及び法線軸NXによって規定されるa−n面に交差していても良い。
図1を参照すると、直交座標系S及び結晶座標系CRが描かれている。法線軸NXは、直交座標系SのZ軸の方向に向く。半極性主面17aは、直交座標系SのX軸及びY軸により規定される所定の平面に平行に延在する。また、図1には、代表的なc面Scが描かれている。支持基体17のIII族窒化物半導体の<0001>軸の方向を示すc+軸ベクトルは、III族窒化物半導体のm軸及びa軸のいずれかの結晶軸の方向に法線ベクトルNVに対して傾斜する。この傾斜角度は、45度以上80度以下及び100度以上135度以下の範囲にある。本実施例では、c+軸ベクトルの向きはベクトルVCの向きに一致する。図1に示される実施例では、支持基体17の六方晶系III族窒化物半導体のc+軸ベクトルは、六方晶系III族窒化物半導体のm軸の方向に法線軸NXに対して有限な角度ALPHAで傾斜している。この角度ALPHAは、45度以上80度以下の範囲内にあることができ、また100度以上135度以下の範囲にあることができる。
第2の誘電体多層膜(C−側)43bの厚さDREF2は第1の誘電体多層膜(C+側)43aの厚さDREF1より薄い。III族窒化物半導体レーザ素子11によれば、c+軸ベクトルは導波路ベクトルWVと鋭角を成しており、この導波路ベクトルWVは、第2の端面28から第1の端面26への方向に対応する。このとき、第2の端面(C−側)28上の第2の誘電体多層膜43bの厚さが、第1の端面26(C+側)上の第1の誘電体多層膜43aの厚さより薄いので、第2の誘電体多層膜43bはフロント側になり、このフロント側からレーザ光は出射される。第1の誘電体多層膜43aはリア側になり、このリア側でレーザ光の大部分は反射される。フロント側の第2の誘電体多層膜43bの厚さが、リア側の第1の誘電体多層膜43aの厚さより薄いとき、素子寿命に関して、端面上の誘電体多層膜に起因して第2の端面から進行する結晶品質の悪化を伴った素子劣化が低減される。
III族窒化物半導体レーザ素子11は、絶縁膜31を更に備える。絶縁膜31は、レーザ構造体13の半導体領域19の表面19a上に設けられ、また表面19aを覆っている。半導体領域19は絶縁膜31と支持基体17との間に位置する。支持基体17は六方晶系III族窒化物半導体からなる。絶縁膜31は開口31aを有する。開口31aは、例えばストライプ形状を成す。本実施例のようにc軸がm軸の方向に傾斜するとき、開口31aは半導体領域19の表面19aと上記のm−n面との交差線LIXの方向に延在する。交差線LIXは導波路ベクトルWVの向きに延在する。なお、c軸がa軸の方向に傾斜するとき、開口31aはa−n面と表面19aとの交差線LIXの方向に延在する。
電極15は、開口31aを介して半導体領域19の表面19a(例えば第2導電型のコンタクト層33)に接触を成しており、上記の交差線LIXの方向に延在する。III族窒化物半導体レーザ素子11では、レーザ導波路は、第1のクラッド層21、第2のクラッド層23及び活性層25を含み、また上記の交差線LIXの方向に延在する。
III族窒化物半導体レーザ素子11では、第1の端面26及び第2の端面28の各々は割断面であることができる。引き続く説明では、第1の端面26及び第2の端面28を第1の割断面27及び第2の割断面29として参照する。第1の割断面27及び第2の割断面29は、六方晶系III族窒化物半導体のm軸及び法線軸NXによって規定されるm−n面に交差する。III族窒化物半導体レーザ素子11のレーザ共振器は第1及び第2の割断面27、29を含み、第1の割断面27及び第2の割断面29の一方から他方に、レーザ導波路が延在している。レーザ構造体13は第1の面13a及び第2の面13bを含み、第1の面13aは第2の面13bの反対側の面である。第1及び第2の割断面27、29は、第1の面13aのエッジ13cから第2の面13bのエッジ13dまで延在する。第1及び第2の割断面27、29は、c面、m面又はa面といったこれまでのへき開面とは異なる。
このIII族窒化物半導体レーザ素子11によれば、レーザ共振器を構成する第1及び第2の割断面27、29がm−n面に交差する。これ故に、m−n面と半極性面17aとの交差線の方向に延在するレーザ導波路を設けることができる。これ故に、III族窒化物半導体レーザ素子11は、低しきい値電流を可能にするレーザ共振器を有することになる。
III族窒化物半導体レーザ素子11は、n側光ガイド層35及びp側光ガイド層37を含む。n側光ガイド層35は、第1の部分35a及び第2の部分35bを含み、n側光ガイド層35は例えばGaN、InGaN等からなる。p側光ガイド層37は、第1の部分37a及び第2の部分37bを含み、p側光ガイド層37は例えばGaN、InGaN等からなる。キャリアブロック層39は、例えば第1の部分37aと第2の部分37bとの間に設けられる。支持基体17の裏面17bには別の電極41が設けられ、電極41は例えば支持基体17の裏面17bを覆っている。
図2は、III族窒化物半導体レーザ素子11の活性層25における発光の偏光を示す図面である。図3は、c軸及びm軸によって規定される断面を模式的に示す図面である。図2に示されるように、誘電体多層膜43a、43bは、それぞれ、第1及び第2の割断面27、29に設けられる。誘電体多層膜43a、43bの各々の材料は、例えばシリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン酸窒化物、チタン酸化物、チタン窒化物、チタン酸窒化物、ジルコニウム酸化物、ジルコニウム窒化物、ジルコニウム酸窒化物、ジルコニウム弗化物、タンタル酸化物、タンタル窒化物、タンタル酸窒化物、ハフニウム酸化物、ハフニウム窒化物、ハフニウム酸窒化物、ハフニウム弗化物、アルミ酸化物、アルミ窒化物、アルミ酸窒化物、マグネシウム弗化物、マグネシウム酸化物、マグネシウム窒化物、マグネシウム酸窒化物、カルシウム弗化物、バリウム弗化物、セリウム弗化物、アンチモン酸化物、ビスマス酸化物、ガドリニウム酸化物のうち少なくとも1つからなることができる。このIII族窒化物半導体レーザ素子11によれば、実用的な誘電体膜は、シリコン酸化物(例えばSiO2)、シリコン窒化物(例えばSi3N4)、シリコン酸窒化物(例えばSiOxN1−x)、チタン酸化物(例えばTiO2)、チタン窒化物(例えばTiN)、チタン酸窒化物(例えばTiOxN1−x)、ジルコニウム酸化物(例えばZrO2)、ジルコニウム窒化物(例えばZrN)、ジルコニウム酸窒化物(例えばZrOxN1−x)、ジルコニウム弗化物(ZrF4)、タンタル酸化物(例えばTa2O5)、タンタル窒化物(Ta3N5)、タンタル酸窒化物(TaOxN1−x)、ハフニウム酸化物(例えばHfO2)、ハフニウム窒化物(例えばHfN)、ハフニウム酸窒化物(例えばHfOxN1−x)、ハフニウム弗化物(例えばHfF4)、アルミ酸化物(例えばAl2O3)、アルミ窒化物(例えばAlN)、アルミ酸窒化物(AlOxN1−x)、マグネシウム弗化物(例えばMgF2)、マグネシウム酸化物(例えばMgO)、マグネシウム窒化物(例えばMg3N2)、マグネシウム酸窒化物(例えばMgOxN1−x)カルシウム弗化物(例えばCaF2)、バリウム弗化物(例えばBaF2)、セリウム弗化物(例えばCeF3)、アンチモン酸化物(例えばSb2O3)、ビスマス酸化物(例えばBi2O3)、ガドリニウム酸化物(例えばGd2O3)のうち少なくとも1つからなることができる。これらの材料を利用して、破断面27、29にも端面コートを適用できる。端面コートにより反射率を調整できる。この調整された反射率により、第2の誘電体多層膜(C−側)43bの反射率が、第1の誘電体多層膜(C+側)43aの反射率より小さいとき、素子寿命に関して、端面上の誘電体多層膜に起因して第2の端面から進行する結晶品質の悪化を伴った素子劣化が低減される。
図2(b)に示されるように、活性層25からのレーザ光Lは六方晶系III族窒化物半導体のa軸の方向に偏光している。このIII族窒化物半導体レーザ素子11において、低しきい値電流を実現できるバンド遷移は偏光性を有する。レーザ共振器のための第1及び第2の割断面27、29は、c面、m面又はa面といったこれまでのへき開面とは異なる。しかしながら、第1及び第2の割断面27、29は共振器のための,ミラーとしての平坦性、垂直性を有する。これ故に、第1及び第2の割断面27、29とこれらの割断面27、29間に延在するレーザ導波路とを用いて、図2(b)に示されるように、c軸を主面に投影した方向に偏光する遷移による発光I2よりも強い遷移による発光I1を利用して低しきい値のレーザ発振が可能になる。
III族窒化物半導体レーザ素子11では、第1及び第2の割断面27、29の各々には、支持基体17の端面17c及び半導体領域19の端面19cが現れており、端面17c及び端面19cは誘電体多層膜43aで覆われている。支持基体17の端面17c及び活性層25における端面25cの法線ベクトルNAと活性層25のm軸ベクトルMAとの成す角度BETAは、III族窒化物半導体のc軸及びm軸によって規定される第1平面S1において規定される成分(BETA)1と、第1平面S1及び法線軸NXに直交する第2平面S2において規定される成分(BETA)2とによって規定される。成分(BETA)1は、III族窒化物半導体のc軸及びm軸によって規定される第1平面S1において(ALPHA−4)度以上(ALPHA+4)度以下の範囲であることが好ましい。この角度範囲は、図3において、代表的なm面SMと参照面FAとの成す角度として示されている。代表的なm面SMが、理解を容易にするために、図3において、レーザ構造体の内側から外側にわたって描かれている。参照面FAは、活性層25の端面25cに沿って延在する。このIII族窒化物半導体レーザ素子11は、c軸及びm軸の一方から他方に取られる角度BETAに関して、上記の垂直性を満たす端面を有する。また、成分(BETA)2は第2平面S2において−4度以上+4度以下の範囲であることが好ましい。ここで、BETA2=(BETA)1 2+(BETA)2 2である。このとき、III族窒化物半導体レーザ素子11の端面27、29は、半極性面17aの法線軸NXに垂直な面において規定される角度に関して上記の垂直性を満たす。
再び図1を参照すると、III族窒化物半導体レーザ素子11では、支持基体17の厚さDSUBは400μm以下であることが好ましい。このIII族窒化物半導体レーザ素子では、レーザ共振器のための良質な割断面を得るために好適である。III族窒化物半導体レーザ素子11では、支持基体17の厚さDSUBは50μm以上100μm以下であることが更に好ましい。このIII族窒化物半導体レーザ素子11では、レーザ共振器のための良質な割断面を得るために更に好適である。また、ハンドリングが容易になり、生産歩留まりを向上させることができる。
III族窒化物半導体レーザ素子11では、法線軸NXと六方晶系III族窒化物半導体のc軸との成す角度ALPHAは45度以上であることが好ましく、また80度以下であることが好ましい。また、角度ALPHAは100度以上であることが好ましく、また135度以下であることが好ましい。45度未満及び135度を越える角度では、押圧により形成される端面がm面からなる可能性が高くなる。また、80度を越え100度未満の角度では、所望の平坦性及び垂直性が得られないおそれがある。
III族窒化物半導体レーザ素子11では、破断面の形成の観点から、更に好ましくは、法線軸NXと六方晶系III族窒化物半導体のc軸との成す角度ALPHAは63度以上であることが好ましく、また80度以下であることが好ましい。また、角度ALPHAは100度以上であることが好ましく、また117度以下であることが好ましい。63度未満及び117度を越える角度では、押圧により形成される端面の一部に、m面が出現する可能性がある。また、80度を越え100度未満の角度では、所望の平坦性及び垂直性が得られないおそれがある。
III族窒化物半導体レーザ素子11では、III族窒化物半導体のc軸が窒化物半導体のm軸の方向に傾斜するとき、実用的な面方位及び角度範囲は、少なくとも以下の面方位及び角度範囲を含む。例えば、支持基体17の主面17aが、{10−11}、{20−21}、{20−2−1}、{10−1−1}のいずれかの面から−4度以上4度以下の範囲で傾斜することができる。また、支持基体17の主面17aが、{10−11}、{20−21}、{20−2−1}、{10−1−1}のいずれかの面であることができる。
III族窒化物半導体レーザ素子11では、III族窒化物半導体のc軸が窒化物半導体のa軸の方向に傾斜するとき、実用的な面方位及び角度範囲は、少なくとも以下の面方位及び角度範囲を含む。支持基体17の主面17aが{11−22}、{11−21}、{11−2−1}、{11−2−2}のいずれかの面から−4度以上4度以下の範囲で傾斜することができる。また、支持基体17の主面17aが、{11−22}、{11−21}、{11−2−1}、{11−2−2}のいずれかの面であることができる。
これら典型的な半極性面17aにおいて、当該III族窒化物半導体レーザ素子11のレーザ共振器を構成できる程度の十分な平坦性及び垂直性の第1及び第2の端面26、28を提供できる。これらの典型的な面方位にわたる角度の範囲において、十分な平坦性及び垂直性を示す端面が得られる。第2の誘電体多層膜(C−側)43bの厚さが第1の誘電体多層膜(C+側)43aの厚さより薄いとき、誘電体多層膜に起因する素子寿命の劣化が避けられる。また、第2の誘電体多層膜(C−側)43bの反射率が第1の誘電体多層膜(C+側)43aの反射率より小さいとき、誘電体多層膜に起因する素子寿命の劣化が避けられる。
支持基体17は、GaN、AlN、AlGaN、InGaN及びInAlGaNのいずれかからなることができる。これらの窒化ガリウム系半導体からなる基板を用いるとき、共振器として利用可能な割断面27、29を得ることができる。
支持基体17はGaNであることができる。このIII族窒化物半導体レーザ素子によれば、GaN主面を用いたレーザ構造体の実現により、例えば上記の波長範囲(青色から緑色までの波長範囲)における発光を実現できる。また、AlN又はAlGaN基板を用いるとき、偏光度を大きくでき、また低屈折率により光閉じ込めを強化できる。InGaN基板を用いるとき、基板と発光層との格子不整合率を小さくでき、結晶品質を向上できる。また、III族窒化物半導体レーザ素子11では、支持基体17の積層欠陥密度は1×104cm−1以下であることができる。積層欠陥密度が1×104cm−1以下であるので、偶発的な事情により割断面の平坦性及び/又は垂直性が乱れる可能性が低い。
図4は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザ素子を作製する方法の主要な工程を示す図面である。図5(a)を参照すると、基板51が示されている。本実施例では、基板51のc軸がm軸の方向に傾斜しているけれども、本作製方法は、a軸の方向にc軸が傾斜した基板51にも適用可能である。工程S101では、III族窒化物半導体レーザ素子の作製のための基板51を準備する。基板51の六方晶系III族窒化物半導体のc軸(ベクトルVC)は、六方晶系III族窒化物半導体のm軸方向(ベクトルVM)の方向に法線軸NXに対して有限な角度ALPHAで傾斜している。これ故に、基板51は、六方晶系III族窒化物半導体からなる半極性主面51aを有する。
工程S102では、基板生産物SPを形成する。図5(a)では、基板生産物SPはほぼ円板形の部材として描かれているけれども、基板生産物SPの形状はこれに限定されるものではない。基板生産物SPを得るために、まず、工程S103では、レーザ構造体55を形成する。レーザ構造体55は、半導体領域53及び基板51を含んでおり、工程S103では、半導体領域53は半極性主面51a上に形成される。半導体領域53を形成するために、半極性主面51a上に、第1導電型の窒化ガリウム系半導体領域57、発光層59、及び第2導電型の窒化ガリウム系半導体領域61を順に成長する。窒化ガリウム系半導体領域57は例えばn型クラッド層を含み、窒化ガリウム系半導体領域61は例えばp型クラッド層を含むことができる。発光層59は窒化ガリウム系半導体領域57と窒化ガリウム系半導体領域61との間に設けられ、また活性層、光ガイド層及び電子ブロック層等を含むことができる。窒化ガリウム系半導体領域57、発光層59、及び第2導電型の窒化ガリウム系半導体領域61は、半極性主面51aの法線軸NXに沿って配列されている。これらの半導体層は主面51a上にエピタキシャル成長される。半導体領域53上は、絶縁膜54で覆われている。絶縁膜54は例えばシリコン酸化物からなる。絶縁膜54の開口54aを有する。開口54aは例えばストライプ形状を成す。図5(a)を参照すると、導波路ベクトルWVが描かれており、本実施例では、このベクトルWVはm−n面に平行に延在する。必要な場合には、絶縁膜54の形成に先立って、半導体領域53にリッジ構造を形成しても良い。このリッジ構造は、リッジ形状に加工された窒化ガリウム系半導体領域61を含むことができる。
工程S104では、レーザ構造体55上に、アノード電極58a及びカソード電極58bが形成される。また、基板51の裏面に電極を形成する前に、結晶成長に用いた基板の裏面を研磨して、所望の厚さDSUBの基板生産物SPを形成する。電極の形成では、例えばアノード電極58aが半導体領域53上に形成されると共に、カソード電極58bが基板51の裏面(研磨面)51b上に形成される。アノード電極58aはX軸方向に延在し、カソード電極58bは裏面51bの全面を覆っている。これらの工程により、基板生産物SPが形成される。基板生産物SPは、第1の面63aと、これに反対側に位置する第2の面63bとを含む。半導体領域53は第1の面63aと基板51との間に位置する。
次いで、工程S105では、レーザ共振器のための端面を形成する。本実施例では、基板生産物SPからレーザバーを作製する。レーザバーは、誘電体多層膜を形成可能な一対の端面を有する。引き続き、レーザバー及び端面の作製の一例を説明する。
工程S106では、図5(b)に示されるように、基板生産物SPの第1の面63aをスクライブする。このスクライブは、レーザスクライバ10aを用いて行われる。スクライブによりスクライブ溝65aが形成される。図5(b)では、5つのスクライブ溝が既に形成されており、レーザビームLBを用いてスクライブ溝65bの形成が進められている。スクライブ溝65aの長さは、六方晶系III族窒化物半導体のa軸及び法線軸NXによって規定されるa−n面と第1の面63aとの交差線AISの長さよりも短く、交差線AISの一部分にレーザビームLBの照射が行われる。レーザビームLBの照射により、特定の方向に延在し半導体領域に到達する溝が第1の面63aに形成される。スクライブ溝65aは例えば基板生産物SPの一エッジに形成されることができる。
工程S107では、図5(c)に示されるように、基板生産物SPの第2の面63bへの押圧により基板生産物SPの分離を行って、基板生産物SP1及びレーザバーLB1を形成する。押圧は、例えばブレード69といったブレイキング装置を用いて行われる。ブレード69は、一方向に延在するエッジ69aと、エッジ69aを規定する少なくとも2つのブレード面69b、69cを含む。また、基板生産物SP1の押圧は支持装置71上において行われる。支持装置71は、支持面71aと凹部71bとを含み、凹部71bは一方向に延在する。凹部71bは、支持面71aに形成されている。基板生産物SP1のスクライブ溝65aの向き及び位置を支持装置71の凹部71bの延在方向に合わせて、基板生産物SP1を支持装置71上において凹部71bに位置決めする。凹部71bの延在方向にブレイキング装置のエッジの向きを合わせて、第2の面63bに交差する方向からブレイキング装置のエッジを基板生産物SP1に押し当てる。交差方向は好ましくは第2の面63bにほぼ垂直方向である。これによって、基板生産物SPの分離を行って、基板生産物SP1及びレーザバーLB1を形成する。押し当てにより、第1及び第2の端面67a、67bを有するレーザバーLB1が形成され、これらの端面67a、67bでは、少なくとも発光層の一部は半導体レーザの共振ミラーに適用可能な程度の垂直性及び平坦性を有する。
形成されたレーザバーLB1は、上記の分離により形成された第1及び第2の端面67a、67bを有し、端面67a、67bの各々は、第1の面63aから第2の面63bにまで延在する。これ故に、端面67a、67bは、当該III族窒化物半導体レーザ素子のレーザ共振器を構成し、XZ面に交差する。このXZ面は、六方晶系III族窒化物半導体のm軸及び法線軸NXによって規定されるm−n面に対応する。レーザバーLB0、LB1の各々に、導波路ベクトルWVが示されている。導波路ベクトルWVは、端面67aから端面67bへの方向に向いている。図5(c)において、レーザバーLB0は、c軸ベクトルVCの向きを示すために一部破断して示されている。導波路ベクトルWVはc軸ベクトルVCと鋭角を成す。
この方法によれば、六方晶系III族窒化物半導体のa軸の方向に基板生産物SPの第1の面63aをスクライブした後に、基板生産物SPの第2の面63bへの押圧により基板生産物SPの分離を行って、新たな基板生産物SP1及びレーザバーLB1を形成する。これ故に、m−n面に交差するように、レーザバーLB1に第1及び第2の端面67a、67bが形成される。この端面形成によれば、第1及び第2の端面67a、67bに当該III族窒化物半導体レーザ素子のレーザ共振器を構成できる程度の十分な平坦性及び垂直性が提供される。形成されたレーザ導波路は、六方晶系III族窒化物のc軸の傾斜の方向に延在している。この方法では、このレーザ導波路を提供できる共振器ミラー端面を形成している。
この方法によれば、基板生産物SP1の割断により、新たな基板生産物SP1及びレーザバーLB1が形成される。工程S108では、押圧による分離を繰り返して、多数のレーザバーを作製する。この割断は、レーザバーLB1の割断線BREAKに比べて短いスクライブ溝65aを用いて引き起こされる。
工程S109では、レーザバーLB1の端面67a、67bに誘電体多層膜を形成して、レーザバー生産物を形成する。この工程は、例えば以下のように行われる。工程S110では、レーザバーLB1の端面67a、67bの面方位を判別する。判別のために、例えばc+軸ベクトルの向きを調べることができる。或いは、判別のために、端面67a、67bの作製の際に、端面67a、67bとc+軸ベクトルの向きとを関連づける、例えば以下のような処理及び/又は操作を行うことができる:c+軸ベクトルの向きを示すマークをレーザバー上に作製する;及び/又は、作製されたレーザバーをc+軸ベクトルの向きを表すように配置する。判別後において、レーザバーLB1において、第2の端面67bの法線ベクトルとc+軸ベクトルと成す角は、第1の端面67aの法線ベクトルとc+軸ベクトルと成す角よりも大きい。
判別の後に、工程S111では、レーザバーLB1の端面67a、67bに誘電体多層膜を形成する。この方法によれば、レーザバーLB1において、c+軸ベクトルと鋭角を成す導波路ベクトルWVの向きは第2の端面67aから第1の端面67bへの方向に対応する。このレーザバー生産物において、第2の端面67a上の第2の誘電体多層膜(C−)の暑さDREF2を第1の端面67b上の第1の誘電体多層膜(C+)の厚さDREF1より薄く形成するので、端面上の誘電体多層膜に起因して第2の端面から進行する結晶品質の悪化を伴った素子劣化を低減して、素子寿命の低下を避けることができる。フロント側の第2の誘電体多層膜(C−)の厚さが、リア側の第1の誘電体多層膜(C+)の厚さより薄いとき、第2の端面上の第2の誘電体多層膜はフロント側になり、このフロント側からレーザ光は出射される。第1の端面上の第1の誘電体多層膜はリア側になり、このリア側でレーザ光の大部分は反射される。
工程S112では、このレーザバー生産物を個々の半導体レーザのチップに分離する。
本実施の形態に係る製造方法では、角度ALPHAは、45度以上80度以下及び100度以上135度以下の範囲であることができる。45度未満及び135度を越える角度では、押圧により形成される端面がm面からなる可能性が高くなる。また、80度を越え100度未満の角度では、所望の平坦性及び垂直性が得られないおそれがある。更に好ましくは、角度ALPHAは、63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲であることができる。45度未満及び135度を越える角度では、押圧により形成される端面の一部に、m面が出現する可能性がある。また、80度を越え100度未満の角度では、所望の平坦性及び垂直性が得られないおそれがある。半極性主面51aは、{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面、及び{10−1−1}面のいずれかの面であることができ、或いは、c軸がa軸の方向に傾斜するとき{11−22}、{11−21}、{11−2−1}、{11−2−2}のいずれかの面であることができる。更に、これらの面から−4度以上+4度以下の範囲で微傾斜した面も前記主面として好適である。これら典型的な半極性面において、当該III族窒化物半導体レーザ素子のレーザ共振器を構成できる程度の十分な平坦性及び垂直性でレーザ共振器のための端面を提供できる。
また、基板51は、GaN、AlN、AlGaN、InGaN及びInAlGaNのいずれかからなることができる。これらの窒化ガリウム系半導体からなる基板を用いるとき、レーザ共振器として利用可能な端面を得ることができる。基板51は好ましくはGaNからなる。
基板生産物SPを形成する工程S106において、結晶成長に使用された半導体基板は、基板厚が400μm以下になるようにスライス又は研削といった加工が施され、第2の面63bが研磨により形成された加工面であることができる。この基板厚では、割断を使用するとき、当該III族窒化物半導体レーザ素子のレーザ共振器を構成できる程度の十分な平坦性、垂直性を歩留まりよく得られる。また、割断を使用するとき、イオンダメージの無い端面67a、67bを形成できる。第2の面63bが研磨により形成された研磨面であり、研磨されて基板厚が100μm以下であれば更に好ましい。また、基板生産物SPを比較的容易に取り扱うためには、基板厚が50μm以上であることが好ましい。割断を使用しないときは、端面67a、67bは、例えばエッチングにより形成されたエッチング面であることができる。エッチング面には発光層の端面が現れている。
本実施の形態に係るレーザ端面の製造方法では、レーザバーLB1においても、図2を参照しながら説明された角度BETAが規定される。レーザバーLB1では、角度BETAの成分(BETA)1は、III族窒化物半導体のc軸及びm軸によって規定される第1平面(図2を参照した説明における第1平面S1に対応する面)において(ALPHA−4)度以上(ALPHA+4)度以下の範囲であることが好ましい。レーザバーLB1の端面67a、67bは、c軸及びm軸の一方から他方に取られる角度BETAの角度成分に関して上記の垂直性を満たす。また、角度BETAの成分(BETA)2は、第2平面(図2に示された第2平面S2に対応する面)において−4度以上+4度以下の範囲であることが好ましい。このとき、レーザバーLB1の端面67a、67bは、半極性面51aの法線軸NXに垂直な面において規定される角度BETAの角度成分に関して上記の垂直性を満たす。
端面67a、67bは、半極性面51a上にエピタキシャルに成長された複数の窒化ガリウム系半導体層への押圧によるブレイクによって形成される。半極性面51a上へのエピタキシャル膜であるが故に、端面67a、67bは、これまで共振器ミラーとして用いられてきたc面、m面、又はa面といった低面指数のへき開面ではない。しかしながら、半極性面51a上へのエピタキシャル膜の積層のブレイクにおいて、端面67a、67bは、共振器ミラーとして適用可能な平坦性及び垂直性を有する。
(実施例1)
以下の通り、レーザダイオードを有機金属気相成長法により成長した。原料にはトリメチルガリウム(TMGa)、トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリメチルインジウム(TMIn)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いた。基板71として、{20−21}GaN基板を準備した。このGaN基板は、HVPE法で厚く成長した(0001)GaNインゴットからm軸方向に75度の範囲の角度でウエハスライス装置を用いて切り出して作製された。
この基板を反応炉内のサセプタ上に配置した後に、図7に示されるレーザ構造体のためのエピタキシャル層を以下の成長手順で成長した。基板71を成長炉に配置した後に、まず、基板71上にn型GaN層(厚さ:1000nm)72を成長した。次に、n型InAlGaNクラッド層(厚さ:1200nm)73をn型GaN層72上に成長した。引き続き、発光層を作製した。まず、n型GaNガイド層(厚さ:200nm)74a及びアンドープInGaNガイド層(厚さ:65nm)74bをn型InAlGaNクラッド層73上に成長した。次いで、活性層75を成長した。この活性層75は、GaN(厚さ:15nm)/InGaN(厚さ:3nm)から構成される2周期の多重量子井戸構造(MQW)を有する。この後に、アンドープInGaNガイド層(厚さ:65nm)76a、p型AlGaNブロック層(厚さ:20nm)76d、p型InGaNガイド層(厚さ:50nm)76b及びp型GaNガイド層(厚さ200nm)76cを活性層75上に成長した。次に、p型InAlGaNクラッド層(厚さ:400nm)77を発光層上に成長した。最後に、p型GaNコンタクト層(厚さ:50nm)78をp型InAlGaNクラッド層77上に成長した。
このエピタキシャル基板を用いて、フォトリソグラフィ法及びエッチング法によりインデックスガイド型レーザを作製した。まず、フォトリソグラフィを用いてストライプ状マスクを形成した。マスクは、c軸を主面に投影した方向に延在する。このマスクを用いてドライエッチングを行い、2μm幅のストライプ状リッジ構造を作製した。ドライエッチングには、例えば塩素ガス(Cl2)を用いた。リッジ構造の表面に絶縁膜79を形成した。絶縁膜は例えば真空蒸着法により形成したSiO2を用いた。絶縁膜79を形成した後、p側電極80a及びn側電極80bを作製して基板生産物を作製した。p側電極80aを真空蒸着法によって作製した。p側電極80aは例えばNi/Auであった。このエピタキシャル基板の裏面を研磨して、100umまで薄くした。裏面の研磨は、ダイヤモンドスラリーを用いて行われた。研磨面には、n側電極80bを蒸着により形成した。n側電極80bはTi/Al/Ti/Auから成った。
この基板生産物からスクライブによってレーザバーを作製するために、波長355nmのYAGレーザを照射可能なレーザスクライバを用いた。スクライブ溝の形成条件として以下のものを用いた:
レーザ光出力100mW;
走査速度5mm/秒。
形成されたスクライブ溝は、例えば、長さ30μm、幅10μm、深さ40μmの溝であった。800μmピッチで基板の絶縁膜開口箇所を通してエピ表面に直接レーザ光を照射することによって、スクライブ溝を形成した。共振器長は600μmとした。ブレードを用いて、共振ミラーを割断により作製した。基板生産物の裏面の押圧によりブレイクすることによって、レーザバーを作製した。
図6は、結晶格子における{20−21}面を示すと共に、共振器端面の走査型電子顕微鏡像を示す図面である。より具体的に、{20−21}面のGaN基板について、結晶方位と割断面との関係を示したものが、図6(b)と図6(c)である。図6(b)はレーザストライプを<11−20>方向に設けた端面の面方位を示しており、従来の窒化物半導体レーザの共振器端面として用いられてきたm面又はc面で示される劈開面を端面81d又はc面81として示してある。図6(c)はレーザストライプをc軸を主面に投影した方向(以降、M方向と呼ぶ)に設けた端面の面方位を示しており、半極性面71aと共にレーザ共振器のための端面81a、81bが示される。端面81a、81bは半極性面71aにほぼ直交しているが、従来のc面、m面又はa面等のこれまでのへき開面とは異なる。
本実施例における{20−21}面GaN基板上のレーザダイオードでは、共振器のための端面は、極性を有する方向(例えばc+軸ベクトルの方向)に対して傾斜するので、これらの端面の結晶面の化学的性質は等価ではない。引き続く説明では、+c面に近い端面81aを{−1017}端面として参照すると共に、−c面に近い端面81bを{10−1−7}端面として参照する。また、これらの端面の法線ベクトルとして、ほぼ法線ベクトルとなる<−1014>および<10−1−4>方向を便宜的に使用する。
レーザバーの端面に真空蒸着法によって誘電体多層膜82a、82bをコーティングした。誘電体多層膜は、SiO2とTiO2を交互に積層して構成した。膜厚はそれぞれ、50〜100nmの範囲で調整して、反射率の中心波長が500〜530nmの範囲になるように設計した。同一ウエハを事前に3分割し、以下の3試料を作製した。
デバイスA:
{10−1−7}端面上に反射膜(4周期、反射率60%)を形成した。{10−1−7}端面を光出射面(フロント)とする。
{−1017}端面上に反射膜を(10周期、反射率95%)を形成した。{−1017}端面を反射面(リア)とする。
デバイスB:
{10−1−7}端面上に反射膜(10周期、反射率95%)を形成した。{10−1−7}端面を反射面(リア)とする。
{−1017}端面上に反射膜を(4周期、反射率60%)を形成した。{−1017}端面を 光出射面(フロント)とする。
デバイスC:
結晶面を考慮しないで(バーにより混ざった状態で)光出射面(フロント)反射面(リア)を形成。反射膜の膜厚は上記と同様にした。
これらのレーザ素子をTOヘッダーに実装した後、実装体に通電を行って素子寿命の評価を行った。電源には、DC電源を用いた。作製されたレーザダイオードのうち、発振波長が520〜530nmのものの素子寿命を評価した。光出力測定の際には、レーザ素子の端面からの発光をフォトダイオードによって検出した。測定中において、雰囲気温度を摂氏27度に設定した。電流一定の条件下で光出力をモニターして、レーザダイオードの寿命測定を行った。光出力の初期値が10mWになるように電流値を調整した。初期設定における電流値は、レーザダイオード毎に異なりばらついていたけれども、およそ80〜150mAの範囲の電流であった。光出力が初期値の半分になったときの経過時間を素子寿命と定義した。測定は最大500時間まで行った。
デバイスA〜Cの素子寿命を以下に示す(単位:hour)。
デバイス種、デバイスA、デバイスB、デバイス試料C
SUB1 :>500、 362、 346;
SUB2 :>500、 366、 368;
SUB3 :>500、 242、 >500;
SUB4 :>500、 340、 >500;
SUB5 :>500、 348、 346;
SUB6 :>500、 312、 274;
SUB7 :>500、 198、 >500;
SUB8 :>500、 326、 >500;
SUB9 :>500、 256、 172;
SUB10:>500、 242、 500。
上記結果から、デバイス毎の素子寿命の平均値を算出すると、以下の結果が得られた。
デバイスA:>500h(寿命500時間を超える)
デバイスB: 299h(平均寿命299時間)
デバイスC:>400h(寿命400時間を超える)
上記の結果は、同一のエピタキシャル基板から作製されたレーザダイオードチップにおいて、結晶面と反射膜総数との関係を考慮することによって、良好な素子寿命を得ることを示している。反射膜層数が増加するのに伴って、膜応力が増加するので、デバイスBのように化学的性質の弱い{10−1−7}面側の膜総数が多いときに結晶品質が悪化して素子劣化が進行し易いと考えられる。劣化の度合いは、動作電流が高いほど、また動作電圧が高いほど速い。このことから、素子の発熱が大きいほど、素子からの放熱が小さいほど、劣化の度合いが早い。
レーザバーの端面における極性(c軸がどちらを向くかという面方位)の判別は、例えば以下のように行われることができる:導波路に平行な面を集束イオンビーム(FIB)法で切り出して透過型電子顕微鏡(TEM)法の観察において、収束電子線回折(CBED)評価によって調べることができる。膜総数は、透過型電子顕微鏡によって誘電体多層膜の部位を観察することによって調べることができる。素子劣化の原因は、反射膜に接する高In組成の井戸層の結晶品質が劣化していると推測される。この劣化を抑制して、長寿命な素子を得るためには、−c面に近い端面の反射膜厚を薄くして、+c面に近い端面の反射膜厚を厚くすることが良い。
作製したレーザの基本特性を評価するため、通電による評価を室温にて行った。電源には、パルス幅500ns、デューティ比0.1%のパルス電源を用いて行った。光出力測定の際には、レーザ端面からの発光をフォトダイオードによって検出して、電流−光出力特性(I−L特性)を調べた。発光波長を測定する際には、レーザ端面からの発光を光ファイバに通し、検出器にスペクトルアナライザを用いてスペクトル測定を行った。偏光状態を調べる際には、レーザからの発光に偏光板を通して回転させることで、偏光状態を調べた。LEDモード光を観測する際には、光ファイバをレーザ上面側に配置して、レーザ素子の上面から放出される光を測定した。
全てのレーザで発振後の偏光状態を確認した結果、a軸方向に偏光していることがわかった。発振波長は500〜530nmであった。
全てのレーザでLEDモード(自然放出光)の偏光状態を測定した。a軸の方向の偏光成分をI1、m軸を主面に投影した方向の偏光成分をI2とし、(I1−I2)/(I1+I2)を偏光度ρと定義した。こうして、求めた偏光度ρとしきい値電流密度の最小値の関係を調べた結果、図9が得られた。図9から、偏光度が正の場合に、レーザストライプM方向のレーザでは、しきい値電流密度が大きく低下することがわかる。すなわち、偏光度が正(I1>I2)で、かつオフ方向に導波路を設けた場合に、しきい値電流密度が大幅に低下することがわかる。
図9に示されたデータは以下のものである。
しきい値電流 しきい値電流
偏光度、(M方向ストライプ)、(<11−20>ストライプ)
0.08 64 20
0.05 18 42
0.15 9 48
0.276 7 52
0.4 6
GaN基板のm軸方向へのc軸の傾斜角と発振歩留まりとの関係を調べた結果、図10が得られた。本実施例では、発振歩留まりについては、(発振チップ数)/(測定チップ数)と定義した。また、図10は、基板の積層欠陥密度が1×104(cm−1)以下の基板であり且つM方向のレーザストライプを含むレーザにおける測定値をプロットしたものである。図10から、オフ角が45度以下では、発振歩留まりが極めて低いことがわかる。端面状態を光学顕微鏡で観察した結果、45度より小さい角度では、ほとんどのチップでm面が出現し、垂直性が得られないことがわかった。また、オフ角が63度以上80度以下の範囲では、垂直性が向上し、発振歩留まりが50%以上に増加することがわかる。これらの事実から、GaN基板のオフ角度の範囲は、63度以上80度以下が最適である。なお、この結晶的に等価な端面を有することになる角度範囲である、100度以上117度以下の範囲でも、同様の結果が得られる。
図10に示されたデータは以下のものである。
傾斜角、歩留まり
10 0.1
43 0.2
58 50
63 65
66 80
71 85
75 80
79 75
85 45
90 35。
(実施例2)
窒化ガリウムの基板主面の面指数と基板主面に垂直かつc軸を主面に投影した方向にほぼ垂直な面指数は、以下に示す。角度の単位は「度」である:
主面面指数、(0001)と成す角、主面に垂直な
第1の端面の面指数、主面と成す角
(0001) : 0.00、 (-1010)、 90.00 ;図11(a)
(10-17): 15.01、 (-2021)、 90.10 ;図11(b)
(10-12): 43.19、 (-4047)、 90.20 ;図12(a)
(10-11): 61.96、 (-2027)、 90.17 ;図12(b)
(20-21): 75.09、 (-1017)、 90.10 ;図13(a)
(10-10): 90.00、 (0001)、 90.00 ;図13(b)
(20-2-1): 104.91、 (10-17)、 89.90 ;図14(a)
(10-1-1): 118.04、 (20-27)、 89.83 ;図14(b)
(10-1-2): 136.81、 (40-47)、 89.80 ;図15(a)
(10-1-7): 164.99、 (20-21)、 89.90 ;図15(b)
(000-1) : 180.00、 (10-10)、 90.00 ;図16。
図11〜図16は、主面に垂直な光共振器としての端面となり得る面指数の結晶表面における原子配列を模式的に示す図面である。図11(a)を参照すると、(0001)面主面に垂直な(−1010)面及び(10−10)面の原子配列が模式的に示されている。図11(b)を参照すると、(10−17)面主面に垂直な(−2021)面及び(20−2−1)面の原子配列が模式的に示されている。図12(a)を参照すると、(10−12)面主面に垂直な(−4047)面及び(40−4−7)面の原子配列が模式的に示されている。図12(b)を参照すると、(10−11)面主面に垂直な(−2027)面及び(20−2−7)面の原子配列が示されている。図13(a)を参照すると、(20−21)面主面に垂直な(−1017)面及び(10−1−7)面の原子配列が模式的に示されている。図13(b)を参照すると、(10−10)面主面に垂直な(0001)面及び(000−1)面の原子配列が模式的に示されている。図14(a)を参照すると、(20−2−1)面主面に垂直な(10−17)面及び(−101−7)面の原子配列が示されている。図14(b)を参照すると、(10−1−1)面主面に垂直な(20−27)面及び(−202−7)面の原子配列が示されている。図15(a)を参照すると、(10−1−2)面主面に垂直な(40−47)面及び(−404−7)面の原子配列が模式的に示されている。図15(b)を参照すると、(10−1−7)面主面に垂直な(20−21)面及び(−202−1)面の原子配列が示されている。図16を参照すると、(000−1)面主面に垂直な(10−10)面及び(−1010)面の原子配列が模式的に示されている。これらの図中では、黒丸が窒素原子を、白丸がIII族原子を示している。
図11〜図16を参照すると、c面から比較的小さいオフ角であっても、構成元素が変化し、表面の様子が大きく変化することが理解される。例えば、図11(b)では、基板主面が(10−17)の場合であり、(0001)面と成す角度は約15度である。このときの第1の端面は(−2021)、第2の端面は(20−2−1)であり、この2つの結晶面は最表面における構成元素の種類及び結晶と結合するボンド数及び角度が大きく異なるため、化学的性質が大きく異なる。従来、窒化物半導体レーザに広く用いられてきたような基板主面が(0001)面であるときには、図11(a)に示すように、共振器のための端面は(10−10)と(−1010)であり、この2つの結晶面は最表面における構成元素の種類及び結晶と結合するボンド数及び角度が同一であるため、化学的性質が同一である。基板主面が(0001)面から傾斜角度が大きくなるにつれて、端面の表面における構成元素の種類および結晶との結合するボンド数及び角度が大きく変化することが示される。このことから、基板主面が(0001)面であるレーザダイオードでは、端面コートの特性に特段に注意をはらわなくても良好なレーザ素子を作製することが可能であるけれども、基板主面が半極性面であるレーザダイオードでは、端面コートの形成において端面面方位を必ず統一することで、特性の改善を図れる。
発明者らの知見によれば、表面の構成元素において、結晶と3本のボントで結合する窒素原子の数が、連続で2箇所以上配置する割合が高まると、端面コート膜との反応が促進されると推測される。例えば、図13(a)では、基板主面が(20−21)の場合であり、(0001)面と成す角度は約75度である。このときの第1の端面は(−1017)、第2の端面は(10−1−7)であり、(10−1−7)には、結晶と3本のボンドで結合する窒素原子の数が連続で3箇所配置している。従って、端面コート膜との反応が促進され易い。このとき、GaN基板の<0001>軸の方向を示すc+軸ベクトルは、GaN基板の主面の法線軸の方向を示す法線ベクトルに対してGaN基板のm軸及びa軸のいずれかの結晶軸の方向に約45度以上80度以下及び100度以上135度以下の範囲の角度で傾斜している。
このレーザダイオードにおいて、c+軸ベクトルと鋭角を成す導波路ベクトルWVは、第2の端面(例えば図1の端面28)から第1の端面(例えば図1の端面26)への方向を向くとき、第2の端面(C−側)上の第2の誘電体多層膜の厚さが、第1の端面(C+側)上の第1の誘電体多層膜の厚さより薄いので、第2の誘電体多層膜はフロント側になり、このフロント側からレーザ光は出射される。第1の誘電体多層膜はリア側になり、このリア側でレーザ光は反射される。フロント側の第2の誘電体多層膜(C−膜)の厚さが、リア側の第1の誘電体多層膜(C+膜)の厚さより薄いとき、端面上の誘電体多層膜に起因して第2の端面から進行する結晶品質の悪化を伴った素子劣化を低減して、素子寿命の低下を避けることができる。
上記の実施例を含めた様々な実験によって、角度ALPHAは、45度以上80度以下及び100度以上135度以下の範囲であることができる。発振チップ歩留及び素子寿命を向上させるためには、角度ALPHAは、63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲であることができる。<0001>軸のm軸方向への傾斜では、典型的な半極性主面、例えば{20−21}面、{10−11}面、{20−2−1}面、及び{10−1−1}面のいずれかであることができる。更に、これらの半極性面からの微傾斜面であることができる。また、半極性主面は、例えば{20−21}面、{10−11}面、{20−2−11}面、及び{10−1−1}面のいずれかの面から、m面方向に−4度以上+4度以下の範囲でオフした微傾斜面であることができる。<0001>軸のa軸方向への傾斜では、典型的な半極性主面、例えば{11−22}、{11−21}、{11−2−1}、{11−2−2}のいずれかの面であることができる。更に、これらの半極性面からの微傾斜面であることができる。また、半極性主面は、例えば{11−22}、{11−21}、{11−2−1}、及び{11−2−2}のいずれか面からa面方向に−4度以上+4度以下の範囲で微傾斜面であることができる。
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。