JP5387501B2 - 鋼板および表面処理鋼板ならびにそれらの製造方法 - Google Patents
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ところで、不均一組織の起源である偏析そのものを拡散によって解消する技術が提案される。特許文献1には、鋼材を1250℃以上の高温に10時間以上の長時間保持する溶質化によって、偏析を低減して鋼材を均質化する発明が開示される。しかし、この発明だけに基づいても、偏析は完全には消滅しない。このため、不均一組織が偏析によって形成され、穴拡げ性を十分に改善できない。また、当該均質化は高温長時間の熱処理であるため、生産性が著しく低下する。
ここで、上記式中のTiおよびNbはそれぞれTiおよびNbの含有量(単位:質量%)を意味する。
別の観点からは、本発明は、下記工程(A)〜(C)を備えることを特徴とする鋼板の製造方法である。
(A)上記した化学組成を有する鋼材に、圧延開始温度:1100℃以上1300℃以下、圧延完了温度:800℃以上1000℃以下、巻取温度:300℃以上750℃以下の熱間圧延を施して熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(B)前記熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;および
(C)前記冷延鋼板に、750℃以上950℃以下の温度域で再結晶焼鈍を施す連続焼鈍工程。
本発明に係る鋼板の化学組成を前述のように規定した理由を説明する。
(C:0.02%以上0.20%以下)
Cは、強度向上に寄与する元素であり、鋼板の引張強度を590MPa以上にするために、0.02%以上含有させる。好ましくは0.035%以上である。しかし、0.20%を超えてCを含有させると、溶接性が劣化する。このため、C含有量は0.02%以上0.20%以下とする。なお、C含有量は好ましくは0.10%以下であり、このようにC含有量を制御することによって、残留オーステナイトの面積率が3.0%以下である鋼組織が得られやすくなり、良好な穴拡げ性を安定して確保することが容易になる。
Siは、穴拡げ性を然程劣化させることなく強度を向上させる作用を有する。この作用による効果を得るために、0.001%以上含有させる。一方、2.0%を超えてSiを含有させると、表面処理が施されていない鋼板の場合には化成処理性が劣化し、表面処理鋼板の場合には表面処理性および被膜特性、例えば、溶融亜鉛めっき鋼板の場合にはめっきの濡れ性、合金化処理性およびめっき密着性が劣化する。このため、Si含有量は0.001%以上2.0%以下とする。
Mnは、ベイナイト変態を遅らせ、さらに、C含有量、Ti含有量やNb含有量のバランスによって、硬質組織の生成を抑制できるだけでなく、強度向上に著しく寄与する元素であり、鋼板の引張強度を590MPa以上にするために、1.2%以上含有させる。しかし、5.0%を超えてMnを含有させると、転炉における精錬、鋳造が著しく困難になるだけでなく、溶接性が劣化する。このため、Mn含有量は1.2%以上5.0%以下とする。好ましくは1.8%以上4.0%以下である。Mnは不均一組織の形成を助長するが、後述するように、Biを含有することによって、Mnのこの悪影響が緩和されて、組織が均一となるので、穴拡げ性の劣化を抑制しつつ強度を向上させることが可能となる。
Pは、不純物として含有される元素であるが、強度向上に寄与する元素でもあるので、積極的に含有させてもよい。しかし、0.1%を超えてPを含有させると、溶接性が著しく劣化する。このため、P含有量は0.1%以下とする。なお、好ましくは、P含有量は0.005%以上0.025%以下であり、このようにP含有量を制御することによって、より確実に鋼板を強化しつつパウダリング等のめっき不良を防止することが可能になる。
Sは、不純物として不可避的に含有され、穴拡げ性を著しく劣化させる元素である。このため、S含有量は0.01%以下とする。なお、その含有量が低いほど、穴拡げ性は向上するので下限は特に規定しない。好ましくは0.005%以下、さらに好ましくは0.0015%以下である。
Alは、鋼を脱酸して、Ti等の炭窒化物形成元素の歩留まりを向上させる元素である。Ti系、Nb系、またはTi−Nb複合系の酸化物の生成を抑制するために、sol.Al含有量は0.001%以上とする。好ましくは0.02%以上である。しかし、2.0%を超えてsol.Alを含有させると、溶接性が劣化する。このため、sol.Al含有量は2.0%以下とする。好ましくは1.5%以下である。
Nは、不純物として不可避的に含有され、穴拡げ性を著しく劣化させる元素である。このため、N含有量は0.01%以下とする。なお、その含有量が低いほど、穴拡げ性はするので下限は特に規定しない。好ましくは0.006%以下、さらに好ましくは0.0045%以下である。
Oは、不純物として不可避的に含有され、穴拡げ性を著しく劣化させる元素である。このため、O含有量は0.01%以下とする。なお、その含有量が低いほど、穴拡げ性は向上するので下限は特に規定しない。好ましくは0.005%以下、さらに好ましくは0.002%以下である。
Biは、本発明において重要な元素である。Biを含有することによって、凝固組織が微細化し、MnおよびTiやNbを多量に含有しても組織が均一となり、穴拡げ性の劣化が抑制される。したがって、Bi含有量は所望の穴拡げ性を確保するために0.0001%以上とする。一方、0.05%を超えてBiを含有させると、熱間加工性が劣化して熱間圧延が困難になる。このため、Bi含有量は0.0001%以上0.05%以下とする。なお、Bi含有量を0.0010%以上とすることが穴拡げ性をさらに向上させる観点から好ましい。
TiおよびNbは微細な炭化物、窒化物または炭窒化物を形成させ、強度向上に著しく寄与する元素である。また、前述したように、C含有量とMn含有量をバランスさせ、さらに、後述するような焼鈍条件を組み合わせることによって、硬質組織が生成し難くなり、引張強度が590MPa以上でありながら、優れた穴拡げ性も達成される。このような効果を発現させるために、少なくとも、TiおよびNbの1種または2種を含有させ、Ti+Nb/2の値(ただし、TiおよびNbはそれぞれTiおよびNbの含有量(単位:質量%)であり、以下、「TN値」という。)で0.05以上含有させる。しかし、TN値が0.30を超えるようにTi、Nbの1種または2種を含有させても、前記効果が飽和し、製造コストが高くなるだけである。このため、TN値が0.05以上0.30以下となるようにTiおよび/またはNbを含有させる。なお、TN値が0.15以上となるようにTiおよび/またはNbを含有させると、残留オーステナイトの面積率が3.0%以下である鋼組織が得られやすくなり、良好な穴拡げ性が安定して確保することが容易となる。TiやNbも不均一組織の形成を助長するが、前述したように、Biを含有することによって、TiやNbに基づく悪影響が緩和されて、組織が均一となるので、穴拡げ性の劣化を抑制しつつ強度を向上させることが可能となる。
Cr、Mo、Cu、Ni、VおよびBは、いずれも、強度向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。しかし、Cr、Mo、Cu、NiおよびVについてはそれぞれ1.0%を超えて含有させても、Bについては0.01%を超えて含有させても、上記効果は飽和してしまい、製造コストが高くなるだけである。このため、Cr、Mo、Cu、Ni、VおよびBの1種または2種以上を上記の量で含有させることが好ましい。なお、上記の効果をより確実に得るためには、Cr、Mo、Cu、NiおよびVのいずれかの元素を0.01%以上含有させるかBを0.0002%以上含有させることが好ましい。
Ca、Mg、REMおよびZrは、いずれも、穴拡げ性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。しかし、それぞれ0.01%を超えて含有させると、表面性状が劣化する。このため、Ca、Mg、REMおよびZrの1種または2種以上を上記の量で含有させることが好ましい。なお、上記の効果をより確実に得るためには、いずれかの元素を0.0005%以上含有させることが好ましい。
残部はFeおよび不純物である。
耐食性の向上等を目的として、上述した鋼板の表面にめっき層を設けるなどの処理を行い、表面処理鋼板としてもよい。鋼板上にめっき層を設ける場合には、そのめっき方法は限定されない。電気めっきであってもよく溶融めっきであってもよい。電気めっきとしては、電気亜鉛めっき、電気Zn−Ni合金めっき等が例示される。溶融めっきとしては、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっき、溶融Zn−Al合金めっき、溶融Zn−Al−Mg合金めっき、溶融Zn−Al−Mg−Si合金めっき等が例示される。めっき付着量は特に制限されず、従来と同様でよい。また、めっき後に適当な化成処理(例えば、シリケート系のクロムフリー化成処理液の塗布と乾燥)を施して、耐食性をさらに高めることも可能である。
次に、本発明に係る鋼板の好適な鋼組織を説明する。
上述した化学組成の本発明に係る鋼板は、フェライト、ベイニティックフェライトおよびベイナイトを主相とする組織であり、マルテンサイトおよび残留オーステナイトは極力含有しないことが好ましい。その中でも、オーステナイトは、加工誘起変態によって、最も硬質な組織になる。したがって、切断加工、または打抜き加工した残留オーステナイトを含む鋼板を伸びフランジ成形した場合、穴拡げ性が著しく劣化する。このため、面積率で評価した分率で、残留オーステナイトが3.0%以下(0%の場合も含む)であることが好ましい。そして、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計面積率は30%以下とすることが好ましい。なお、本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板においては、フェライト、ベイニティックフェライトおよびベイナイトを明確に区別することが困難であるので、各々の面積率を規定することは困難である。フェライト、ベイニティックフェライトおよびベイナイトの合計面積率は70%以上とすることが好ましい。
次に、本発明に係る鋼板を安定的に得る観点から好ましい製造方法を説明する。
上述した化学組成を有する溶鋼を、転炉や電気炉等の公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法でスラブ等の鋼素材とすることが好ましい。なお、連続鋳造工程におけるスラブ表面から10mm深さ位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度(以下、「10mm深さ位置冷却速度」という。)を100℃/分以上にすると、デンドライト2次アーム間隔をより狭くすることができるので、穴拡げ性が向上する。一方、10mm深さ位置冷却速度を1000℃/分以下にすると、スラブの表面割れをより確実に抑制することができる。このため、10mm深さ位置冷却速度は100℃/分以上1000℃/分以下とすることが好ましい。また、スラブの厚さを200mm以上にすると、後述する熱間圧延および冷間圧延において95.0%以上の総圧下率を確保することが容易となる。また、スラブの厚さを300mm以下にすると、鋼板表面の組織をより均一とすることができるので、穴拡げ性が向上する。このため、スラブの厚さは、200mm以上300mm以下とすることが好ましい。
本発明に係る鋼板では、その引張強度を590MPa以上に高めるためにTiとNb等の微細析出物を分散させる。この微細析出物の分散を安定的に実現するためには、熱間圧延する前に、鋼素材(スラブ)に含有されるTiやNbを一旦固溶させることが好ましい。そこで、熱間圧延する前の加熱温度は1100℃以上とすることが好ましい。しかし、1300℃を超えて加熱すると、鋼素材の内部酸化が促進され、表面性状が著しく劣化することが懸念される。このため、鋼素材の加熱温度は1100℃以上1300℃以下とすることが好ましい。換言すれば、熱間圧延の圧延開始温度は1100℃以上1300℃以下であることが好ましい。さらに好ましくは1150℃以上1270℃以下であり、このように温度を制限することによって、より確実に上記効果を得ることが可能になる。また、熱間圧延を開始するまでに、鋼素材を1200℃以上1300℃以下の温度域に30分間以上保持することが好ましい。このように鋼素材を高温に保持することによって、Mnの凝固偏析に起因する不均一組織がより確実に解消され、穴拡げ性が一層向上する。しかし180分間を超えて保持しても、上記効果が飽和し、製造コストが高くなるだけであるので、180分間以下とすることが好ましい。
熱間圧延時の変形抵抗を小さくし、操業をより容易にするために、圧延完了温度を800℃以上とすることが好ましい。しかし、圧延完了温度が1000℃を超えると、スケール疵が発生しやすくなり、表面性状が著しく劣化することが懸念される。このため、圧延完了温度を800℃以上1000℃以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、840℃以上960℃以下である。
本発明に係る鋼板はMnならびにTiおよび/またはNbを比較的多量に含む。これらは易酸化元素であるので、鋼板表面およびその近傍は巻取り中に酸化しやすい。したがって、鋼板の酸化を抑制し、良好な表面性状を確保するために、巻取温度を750℃以下とすることが好ましい。一方、上記元素は熱延鋼板の強度を著しく高める。特に、300℃未満で巻取ると、硬質なベイナイトやマルテンサイトが生成し、その後に冷間圧延することが困難になるだけでなく、鋼板の板厚精度が著しく劣化することが懸念される。このため、巻取温度を300℃以上750℃以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、420℃以上680℃以下である。
上記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板は、酸洗等の常法によって、脱スケール処理を施し、その後に、冷間圧延を施し、冷延鋼板とする。この場合、熱間圧延および冷間圧延における総圧下率を95%以上とすることが好ましい。ここで、総圧下率は次式で算出される。
総圧下率(%)={1−(冷延鋼板の板厚)/(熱間圧延に供するスラブの板厚)}×100
上記熱間圧延工程および冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に連続焼鈍を行う。焼鈍温度は750℃以上950℃以下とすることが好ましい。再結晶焼鈍温度までの昇温速度が1℃/sec以上であることが、生産性の観点から好ましい。
焼鈍後の冷却は、コスト高に繋がる合金元素の添加を抑制しながら590MPa以上の高い引張強度を確保するために、650℃から550℃までの平均冷却速度を5℃/sec以上とすることが好ましい。
焼鈍後の調質圧延の伸び率は、0.05%以上1%以下であることが好ましい。調質圧延を行うことによって、降伏点伸びの発生を抑制するとともに、プレス時の焼付けやかじりを防止することが可能になる。
このように、鋼の化学組成を工夫し、熱間圧延と冷間圧延後の連続焼鈍条件を最適化することによって、引張強度が590MPa以上の穴拡げ性に優れる鋼板および表面処理鋼板ならびにその製造方法が提供される。
表1に示す化学組成を有する鋼を転炉で溶製した。次に、スラブ表面から10mm深さ位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度(10mm深さ位置冷却速度)が表2に示す条件となるようにして連続鋳造することによって、厚みが245mmのスラブを作製した。
得られた冷延鋼板から熱処理用試験材を採取し、表3に示すように連続焼鈍設備または連続溶融亜鉛めっき設備におけるヒートパターンに相当する熱処理を行って、下記の評価を行うための鋼板(以下、「評価用鋼板」という。)を得た。
(10mm深さ位置冷却速度)
得られたスラブの断面をピクリン酸によりエッチングし、スラブ表面より内部に10mmの深さ位置において、5箇所のデンドライト2次アーム間隔λ(μm)を測定し、下記式に基づいて、その値から液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度A(℃/min)を算出した。
(残留オーステナイトの面積率)
各評価用鋼板に板厚の1/4だけ減厚するための化学研磨を施し、化学研磨後の表面にX線回折を施し、得られたプロファイルを解析し、残留オーステナイトの面積率を算出した。
各評価用鋼板から圧延方向および圧延直角方向に試験片を採取し、圧延方向断面の組織、および圧延直角方向の断面の組織を光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡で撮影し、画像解析によりフェライト、ベイナイトおよびベイニティックフェライトの合計面積率を測定した。こうして求めた合計面積率の平均値を評価用鋼板のフェライト、ベイナイトおよびベイニティックフェライトの合計面積率とした。
評価用鋼板の圧延方向に直角方向からJIS5号引張試験片を採取し、引張強度を測定した。JFST1001に規定の方法によって、穴拡げ率を測定した。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.02%以上0.20%以下、Si:0.001%以上2.0%以下、Mn:1.2%以上5.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.001%以上2.0%以下、N:0.01%以下、O:0.01%以下およびBi:0.0001%以上0.05%以下を含有し、さらに、TiおよびNbの1種または2種を下記不等式を満たす範囲で含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、引張強度が590MPa以上である機械特性を有することを特徴とする鋼板。
0.05≦Ti+Nb/2≦0.30
ここで、上記式中のTiおよびNbはそれぞれTiおよびNbの含有量(単位:質量%)を意味する。 - 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、V:1.0%以下およびB:0.01%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の鋼板。
- 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.01%以下およびZr:0.01%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有する、請求項1または請求項2に記載の鋼板。
- 請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載される鋼板が、該鋼板表面にめっき層を備えることを特徴とする表面処理鋼板。
- 下記工程(A)〜(C)を備えることを特徴とする鋼板の製造方法:
(A)請求項1から3までのいずれか1項に記載される化学組成を有する鋼材に、圧延開始温度:1100℃以上1300℃以下、圧延完了温度:800℃以上1000℃以下、巻取温度:300℃以上750℃以下の熱間圧延を施して熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(B)前記熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;および
(C)前記冷延鋼板に、750℃以上950℃以下の温度域で再結晶焼鈍を施す連続焼鈍工程。 - 請求項5に記載される製造方法により得られた鋼板の表面にめっき層を形成するめっき処理を施すことを特徴とする表面処理鋼板の製造方法。
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