以下、本発明の一実施形態について説明する。図1に、本実施形態に係る切削加工機1の構成を示す。この切削加工機1は、ベース11、スライドレール12a、12b、X移動テーブル13、ワーク取り付けテーブル14、コラム15a、15b、YZ移動テーブル16、バイト旋回台17、バイト取付シャフト18、制御ユニット19、および切削加工用のバイト20を備えている。
土台となるベース11の上面には、2本の平行なスライドレール12a、12bがX軸方向2に平行に配置されている。このスライドレール12a、12b上にX移動テーブル13が配置されており、X移動テーブル13は、スライドレール12a、12bに沿ってX軸方向2に移動可能となっている。また、X移動テーブル13上にはワーク取り付けテーブル14が固定されている。このワーク取り付けテーブル14には、加工対象のワーク6が取り付けられることになる。本実施形態のワーク6は、加工の目的物であるリニアフレネルレンズの素材となる板であり、このワーク6が後述するような方法で切削加工されることで、リニアフレネルレンズになる。ワーク6としては、例えば、赤外線から紫外線までのすべての波長範囲において透過性のある硬質脆性材料(アクリル、光学ガラス、シリコン、ゲルマニウム、ZnSe、石英、フッ化カルシウム等)を用いる。
また、ベース11には、上方に伸びるコラム15a、15bが固定されており、これらコラム15a、15bの間には、YZ移動テーブル16が取り付けられている。このYZ移動テーブル16は、コラム15a、15bに支持されながら、コラム15a、15bに対してZ軸方向3およびY軸方向4に移動可能となっている。
また、YZ移動テーブル16の前面には、バイト旋回台17が取り付けられている。このバイト旋回台17は、B軸17aを回転中心としてYZ移動テーブル16に対して回転可能となっている。
また、バイト旋回台17の前面には、X軸方向2に伸びるバイト取付シャフト18の一端が固定されている。バイト取付シャフト18の他端には、バイト20が固定されるようになっている。このバイト取付シャフト18を十分に長くすることによって、加工時にワーク6とバイト旋回台17との物理的干渉を防ぐことができる。
制御ユニット19は、X移動テーブル13のX軸方向2の移動を実現するアクチュエータ、YZ移動テーブル16のZ軸方向3およびY軸方向4への移動を実現するアクチュエータ、およびバイト旋回台17のB軸17a周りの回転を実現するアクチュエータのそれぞれを制御する装置である。制御ユニット19は、切削加工機1の作動内容が記述されたNCプログラムの入力を受け付けると、受け付けたNCプログラムを記憶媒体に記録し、さらに、このNCプログラムに従って、上記アクチュエータのそれぞれを制御することで、ワーク取り付けテーブル14に対するバイト20の相対的な位置および相対的な姿勢を制御する。
図2に、バイト20の斜視図を示す。バイト20は、先端が楔形になっているシャンク21と、シャンク21の先端に固定された薄い板形状のチップ22を備えている。このチップ22は、単結晶ダイヤモンドから成り、シャンク21に固定される面とは反対側の面(図2における上面)に平坦なすくい面30を有している。
図3に、バイト20がバイト取付シャフト18に取り付けられた状態において、バイト20をX軸方向2から見た場合の、バイト旋回台17とバイト20の位置関係を示す。このように、バイト旋回台17をX軸方向2から見た場合、チップ20のすくい面30の先端と、バイト旋回台17の回転中心であるB軸17aとが常に一致する。したがって、バイト旋回台17がB軸17aを中心に回転した場合、バイト20もそれに合わせて回転して姿勢が変化するが、その回転は、すくい面30の先端部を中心とする回転なので、すくい面30の先端部の位置は回転によって変化しない。なお、バイト20がバイト取付シャフト18に取り付けられた状態において、すくい面30はX軸方向2を向いている。
図4に、ワーク6が加工された結果生成されるリニアフレネルレンズ6の斜視図を示し、図5に、当該リニアフレネルレンズ6を図4の矢印a方向から見た図を示す。
本実施形態において製作されるリニアフレネルレンズ6は、蒲鉾形状のレンズ(例えばシリンドリカルレンズ)の表面を複数の直線で区分けし、それら区分けされた各区間(フレネル面)の高さを概ね一様にするために、隣り合う区間の間に段差がつけられたレンズである。したがって、フレネルレンズには、フレネル面および段差を付けるためのライズ面が交互に形成されている。
このようなフレネル面およびライズ面を形成するために、図4に示すように、リニアフレネルレンズ6の上面には、複数本の溝が、環状ではなく直線状に互いに平行に(かつ、X軸方向に平行に)形成される。そして、図5に示すように、各溝は、1つのフレネル面と1つのライズ面の組(例えば、フレネル面61aとライズ面61bの組、フレネル面62aとライズ面62bの組)によって構成されている。ただし、中央の溝だけは、フレネル面のみで構成されている。
このフレネル面のそれぞれは、非球面レンズの形状に一致する曲面になっており、ライズ面のそれぞれは、リニアフレネルレンズ6の底面にほぼ垂直に切り立った略平面になっている。切削加工によって製作されるフレネルレンズ6は、図4、図5の例では、凹レンズとなっているが、図6に示すような凸レンズであってもよい。
また、フレネルレンズ6は、中央面61を対称面として面対称な形状となっている。中央面61は、フレネルレンズ6の底面に対して垂直かつ溝と平行な面であり、Y軸方向(溝に垂直かつワーク6の底面に平行な方向)におけるフレネルレンズ6の中央に配置されている。
フレネルレンズ6が、中央面61を対称面として面対称となっているので、中央面61から一方側63に配置される各溝の向きは、中央面61から他方側64に配置された各溝の向きとは逆になっている。より具体的には、一方側63では、左側(Y軸方向の反対方向)に向かって高くなるよう各フレネル面が傾斜しているが、他方側64では、右側(Y軸方向)に向かって高くなるよう各フレネル面が傾斜している。本実施形態では、このように向きが異なる複数の溝を1つのバイトで付け替えなく簡易に加工し、かつ、加工中6にワークの向きを変えることなくするため、後述するように、チップ22のすくい面30の両側に切れ刃を設けている。
なお、図4および図5では、溝の形状を表すために、フレネルレンズ6全体のサイズに対するフレネル面(例えばフレネル面61a、62a)およびライズ面(例えばライズ面61b、62b)のサイズの比率を誇張して記載している。典型的には、フレネルレンズ6のY軸方向の一辺の長さは約180mmであり、各フレネル面およびライズ面のサイズは、フレネル面のY軸方向の長さが約0.3mmであり、ライズ面のZ軸方向の高さが約0.1mmである。この場合、フレネルレンズ6にはフレネル面およびライズ面がそれぞれ約300個形成される。
ここで、チップ22のすくい面30の形状について詳細に説明する。図7に示すように、チップ22のすくい面30は、チップ22の先端に相当する先端部31と、当該先端部31から先端部31の一方側に伸びる第1の縁部33aと、当該先端部31から先端部31の他方側に伸びる第2の縁部33bを備えている。
更にすくい面30は、第1の縁部33aの先端部31側とは反対側の端部から伸びる第3の縁部34aと、第2の縁部33bの先端部31側とは反対側の端部から伸びる第4の縁部34bとを備えている。更にすくい面30は、第3の縁部34aの第1の縁部33a側とは反対側の端部から、第4の縁部34bの第2の縁部33b側とは反対側の端部まで伸びる、第5の縁部35を備えている。このように、すくい面30は、第1〜第5の縁部によって囲まれている。第3〜第5の縁部の形状は、どのようになっていてもよい。
ここで、第1の縁部33aおよび第2の縁部33bについて詳細に説明する。第1の縁部33aおよび第2の縁部33bは、それぞれが切れ刃となっており、その形状は、すくい面30の外側に膨らんだ滑らかな曲線(具体的には二次曲線)形状となっている。また、第1、第2の縁部33a、33bの長さは、例えばそれぞれ0.6mmである。これは、第3、第4の縁部34a、34bのそれぞれの長さの1/4〜1/10程度の長さである。
より具体的には、図8に示すように、第1の縁部33aの形状は、所定の半径R1の円40aの一部となる円弧であり、また、第2の縁部33bの形状は、所定の半径R2の円40bの一部となる円弧である。なお、本実施形態では、R1=R2=Rとする。
したがって、円40aと円40bの交点のうち一方が、先端部31となる。円40aと円40bとは異なった位置に配置されるので、先端部31はピン角と呼ばれる尖った形状となる。
この半径R(すなわち、第1の縁部33aおよび第2の縁部33bの曲率半径)は、加工の目的物であるフレネルレンズ6が凹レンズである場合、製作したいフレネルレンズ6のフレネル面のうち、最も曲率半径が小さいものをRmとすると、R<Rmとなるように設計される。このようにすることで、加工時に第1の縁部33aおよび第2の縁部33b自体が加工の邪魔になることがない。なお、加工の目的物であるフレネルレンズ6が凸レンズである場合は、このような制約はない。
第1の縁部33aと第2の縁部33bの曲率半径が決まると、あとは長さx1、x2を決めることで、第1の縁部33a、第2の縁部33b、および先端部31の形状が一意に決まる。ここで、長さx1は、円40aと円40bの2つの交点を繋ぐ直線42に対して円40aの中心から下ろした垂線の長さであり、長さx2は、当該直線42に対して円40bの中心から下ろした垂線の長さである。なお、本実施形態では、R1=R2=Rなので、x1=x2=xである。長さxが短いほど、先端部31の開き角度が大きくなる。
この長さxには、設計上の制約がある。図9を用いて、この制約について説明する。すくい面30の先端部31は、フレネル面65とライズ面66とが交わる窪み部67を形成するために用いられるので、チップ22がフレネルレンズ6の他の部分を余分に削ってしまうことなく、先端部31が窪み部67と接触可能となっている必要がある。
このためには、先端部31の開き角θcは、窪み部67の開き角θd(=90°−θb)よりも小さくなければならない。ここで、先端部31の開き角θcとは、先端部31における第1の縁部33aの接線68aと、先端部31における第2の縁部33bの接線68bの成す角をいう。また、フレネル面65とライズ面66が交わる窪み部67の開き角θdとは、当該窪み部67において当該フレネル面65および当該ライズ面66が成す角をいう。
このような要請(θc≦θd)を満たすためには、不等式x/R≧sin(θd/2+θb)=cos(θd/2)であることが必要十分となる。したがって、製作対象となるフレネルレンズ6の複数の窪み部67のうち、最も小さな開き角をθdmとすると、x/Rとしては、cos(θdm/2)以上かつ1未満の値を採用すればよい。例えば、x/Rとして、cos(θdm/2)を用いてもよい。
以上のような構成のチップ22を製造する方法としては、周知の単結晶ダイヤモンドの加工法(例えば、研磨加工、レーザ加工、酸素系プラズマによるドライエッチング加工)を用いることができる。
次に、このような切削加工機1を用いてワーク6を切削加工して、凹レンズとしてのリニアフレネルレンズを製作する方法の一例について説明する。なお、切削加工の工程の説明においては、ワーク6を加工した結果得ようとしているフレネルレンズのフレネル面およびライズ面、すなわち、ワーク6中の設計上のフレネル面およびライズ面を、それぞれ単にフレネル面およびライズ面と呼ぶ。
図10は、切削加工の工程を示すフローチャートである。制御ユニット19は、入力された所定のNCプログラムに従って、X移動テーブル13の位置、YZ移動テーブル16の位置、およびバイト旋回台17を制御することで、このフローチャートに示す工程を実現する。なお、当該NCプログラムには、加工の開始から終了までの期間内の各時点におけるX移動テーブル13の位置、YZ移動テーブル16の位置、およびバイト旋回台17の角度のデータが含まれている。
まず制御ユニット19は、X移動テーブル13のワーク取り付けテーブル14に固定されたワーク6の中央面61(図5参照)から一方側63の溝のすべて(ただし、加工の目的物であるフレネルレンズが凹レンズなので、中央面61のある溝は除く)を、切削加工によって形成するために、ステップ110〜130の制御を、一方側63の形成対象の溝の数だけ繰り返す。繰り返しの各回のステップ110から130までの処理によって、1本の溝が形成される。そして、溝は、中央面61から最も遠い溝から、最も近い溝(ただし、中央は除く)まで、順に形成されていく。
1本の溝の形成過程においては、まずステップ110で、1つのフレネル面を切削加工で形成する。1つのフレネル面の切削加工工程は、複数のサブステップに分かれている。そして、各サブステップでは、YZ移動テーブル16およびバイト旋回台17を制御して、バイト20のワーク6に対する相対的な位置(ただし、Z軸方向3およびY軸方向4の位置成分のみ)および相対的な姿勢(バイト旋回方向5の回転角)を少しだけ(例えば、Y軸方向については0.01mm程度)変化させる(すなわち送り運動を実行する)と共に、切削運動を1回実行する。切削運動とは、バイト20のワーク6に対する相対姿勢(B軸17aを中心とする回転角度によって決まる)およびY軸およびZ軸方向の相対位置を固定したまま、X移動テーブル13のみをX軸方向2に移動させることで、チップ22をワーク6上でX軸方向2の全体に渡って相対的に走査させ、それにより、すくい面30の切れ刃でワークを削り取る工程をいう。
このように、複数のサブステップを順に実行して、バイト20のワーク6に対するY軸方向相対位置、Z軸方向相対位置および相対姿勢をサブステップ間で少しずつずらしながら、各サブステップ内でバイト20をX軸方向2に走査することで、1つのフレネル面を形成する。
そして、このステップ110では、どのサブステップにおいても、バイト20の姿勢は、図11に示すように、すくい面30の第1の縁部33aが第2の縁部33bよりもワーク6に近くなるように、バイト20を傾けた向けた状態とする。なお、図11では、すくい面30の先端部31および先端部31近くのごく一部のみを表示している。
そして、どのサブステップにおいても、すくい面30の第1の縁部33aが第2の縁部33bよりもワーク6に近くなるようにバイト20を傾けた向けた状態で、第1の縁部33a上の特定の点がフレネル面上を移動してワーク6を削り取るよう、各サブステップのバイト20のワーク6に対する相対位置および相対姿勢を制御する。この特定の点(以下、切削点という)の第1の縁部33a上の位置は、同じステップ110中の各サブステップ間では、変化しないようになっている。
例えば、図11に示すように、あるステップ中のあるサブステップにおいては、すくい面30の第1の縁部33a上の特定の点36(すなわち切削点)がフレネル面65のある位置を切削するように、バイト20のワーク6に対する相対位置および相対姿勢を制御し、同じステップ中の別のサブステップにおいても、第1の縁部33a上の同じ特定の点36が同じフレネル面65の別の位置を切削するように、バイト20のワーク6に対する相対位置および相対姿勢を制御する。
上述の通り、フレネル面65の形状は、平面ではなく、かつ、非球面形状となっているので、同じステップ中の各サブステップにおいて同じ点36を切削点にしようとすると、異なるサブステップ間では、すくい面30の姿勢が異なるようになる。図11の例では、バイト旋回台17のバイト旋回方向5の回転角は、あるサブステップでは角度αとなり、さらに加工が進んだ別のサブステップでは角度α+δとなる。
このように切削点を第1の縁部33a上で固定してフレネル面65を形成するための、各サブステップにおけるバイト20の姿勢および位置は、NCプログラムの作成時にあらかじめ計算される。この計算方法については、後述する。
ステップ110のフレネル面の切削加工工程は、すくい面30の先端部31がライズ面66の位置に到達するまで続く。このように、フレネル面65は、滑らかな曲線の第1の縁部33aによって形成されるので、面粗さを抑えながら、サブステップ間の切削点36の位置変化量(ワーク6に対する相対的な位置変化量)を大きくすることができ、ひいては、加工時間を短縮することができる。
ステップ110の工程が終了すると、続いてステップ120の工程を実行することで、1つのフレネル面65の残りの部分および窪み部67を形成する。このステップの工程も、複数のサブステップに分かれている。そして、各サブステップでは、YZ移動テーブル16およびバイト旋回台17を制御して、バイト20のワーク6に対する相対的な位置(ただし、Z軸方向3およびY軸方向4のみ)および相対的な姿勢(バイト旋回方向5)を少しだけ(例えば、Y軸方向については0.01mm程度)変化させると共に、切削運動を1回実行する。
このように、複数のサブステップを順に実行して、バイト20のワーク6に対するY軸方向相対位置、Z軸方向相対位置および相対姿勢をサブステップ間で少しずつずらしながら、各サブステップ内でバイト20をX軸方向2に走査することで、残りのフレネル面を形成し、それら複数のサブステップのうち、最後のサブステップで、窪み部67を形成する。
より具体的には、このステップ120では、各サブステップにおいて、図12(a)〜(c)に示すように、第1の縁部33aのいずれかの位置をフレネル面65に接するようにしながら、すくい面30の先端部31をライズ面66に沿って下に(すなわち窪み部67に近づく方向に)僅かに移動させる。そしてこのステップ120の工程は、先端部31が窪み部67に一致したときのサブステップを実行するまで続く。
したがって、ステップ120の工程の各サブステップにおいて第1の縁部33aでワーク6を削ってフレネル面を形成しつつ、最後のサブステップにおいて、尖った先端部31でワーク6を削って窪み部67を形成する。このようになっているので、先の丸いRバイトを用いて窪み部67を形成する場合に比べ、窪み部67の曲率半径を小さくすることができる。例えば、窪み部67の曲率半径として0.0001mmを実現することができる。
なお、このステップ120では、第1の縁部33a上における切削点36の位置は、ステップ110の場合とは違い、サブステップ間で変化する。具体的には、図12に示すように、サブステップが進むにつれて、切削点36が第1の縁部33a上で先端部31に近づいていく。
このようなステップ120の各サブステップにおけるバイト20の姿勢および位置は、NCプログラムの作成時にあらかじめ計算され、NCプログラムに書き込まれる。この計算方法については、後述する。
ステップ120の工程が終了すると、続いてステップ130の工程を実行することで、ライズ面66を形成する。このステップの工程も、複数のサブステップに分かれている。そして、各サブステップでは、図13に示すように、バイト20の相対姿勢は変化させず、YZ移動テーブル16のZ軸方向の位置のみを制御して、バイト20のワーク6に対する相対的な位置を変化させると共に、切削運動を1回実行する。
このように、複数のサブステップを順に実行して、バイト20のワーク6に対するZ軸方向相対位置をサブステップ間で少しずつずらしながら、各サブステップ内でバイト20をX軸方向2に走査することで、先端部31でワークを削ってライズ面66を形成する。これによって、バイト20は、相対姿勢を維持しながら、Z軸方向に上昇する。そしてこのステップ130の工程は、先端部31が設計上のライズ面66の上端に到達したときのサブステップを実行するまで続く。
このように、ステップ130では、先端部31を用いてライズ面66を形成するので、フレネル面65に比べてライズ面66の面粗さが大きくなる。しかし、フレネル面65は光を通過させるための面であるのに対し、ライズ面66は光を通過させるために設けられているものではないので、面粗さが大きくなっても、リニアフレネルレンズを通過した光による映像の品質に悪影響はほとんどない。
制御ユニット19は、このようなステップ110〜130の工程を、ワーク6の中央面61(図5参照)から一方側63に設けられる溝(ただし、中央面61のある溝は除く)の本数だけ実行すると、続いてステップ140で、一方側63における最後のフレネル面の形成を、ステップ110と同じ方法で行う。ここで、一方側63における最後のフレネル面は、中央面61の溝の左半分、すなわち、中央面61のある溝のうち、中央面61から一方側63にあるフレネル面である。
このようなステップ110〜140の工程(一方側加工工程に相当する)を実行することで、リニアフレネルレンズの中央から一方側に配置される溝を形成する際に、第1の縁部33aが第2の縁部33bよりもリニアフレネルレンズ用のワーク6に近くなるようにバイト20を傾けた状態で、第1の縁部33aを用いてワーク6を切削加工することでフレネル面を形成すると共に、先端部31を用いてワーク6を切削加工することで、フレネル面とライズ面が交わる窪み部およびライズ面を形成することができる。
最後のフレネル面の形成が終了すると、続いてステップ150で、中央面61から他方側64に配置される溝を形成するための準備工程(姿勢反転工程に相当する)として、バイトの移動および反転を行う。すなわち、図14に示すように、YZ移動テーブル16を制御して、バイト20を、一方側63の最後に形成したフレネル面の位置から、他方側64の最初に形成する溝のフレネル面の位置まで移動させると共に、バイト旋回台17を制御して、今度は第2の縁部33bが第1の縁部33aよりもワーク6に近くなるように、バイト20を傾ける。
なお、他方側64の最初に形成する溝を構成するフレネル面は、加工の目的物であるフレネルレンズが凹レンズの場合、他方側64のフレネル面のうち、中央面61から最も離れたフレネル面である。
ステップ150に続いては、ワーク6の中央面61から他方側64の溝(ただし、中央面61のある溝は除く)のすべてを切削加工で形成するために、ステップ160〜180の制御を、他方側64にある形成対象の溝の数だけ繰り返す。繰り返しの各回のステップ160から180までの処理によって、1本の溝が形成される。そして、溝は、中央面61から最も遠い溝から、最も近い溝(ただし、中央は除く)まで、順に形成されていく。
1本の溝の形成過程におけるステップ160〜180の工程の内容は、第1の縁部33aと第2の縁部33bの役割を入れ替える以外は、それぞれステップ110〜130の工程の内容と同じである。また、ステップ160、170における第2の縁部33b中の切削点も、ステップ110、120における第1の縁部33a中の切削点36の位置と、図8の直線42を対称軸として線対称な位置に設定される。したがって、ステップ160では、切削点の位置は第2の縁部33b上で固定され、ステップ170では、切削点の位置は第2の縁部33b上で変化する。
このように、ステップ160、170における切削点の位置を、ステップ110、120における切削点の位置と線対称な位置に設定すれば、バイト20の位置および姿勢は、ワーク6の中央面61を対称面として(第1の縁部33aと第2の縁部33bとの違いを無視すれば)面対称になる。つまり、中央面61から一方側63に配置される溝を形成する場合のバイトの位置および姿勢の制御内容と、中央面61から他方側63に配置される溝を形成する場合のバイトの位置および姿勢の制御内容とは、中央面61を対称面として面対称になる。
しかも、すくい面30の先端部31はバイト旋回台17の回転によって位置が変化しないようになっている。したがって、一方側に配置される溝を形成する場合のバイトの位置および姿勢の制御内容をY軸方向に反転させるだけで、ゼロから算出する必要なく、他方側に配置される溝を形成する場合のバイトの位置および姿勢の制御内容を設定することができる。
具体的には、バイト旋回台17の回転角を、すくい面30の先端部31がZ軸方向3の逆方向を向いている場合(すなわち、真下を向いている場合)を0°とした場合、ステップ160〜180中のn番目(nは任意の自然数)のサブステップにおけるバイト旋回台17の回転角は、ステップ110〜130中のn番目のサブステップにおけるバイト旋回台17の回転角の正負を単に反転したものとすればよい。
また、先端部31の位置座標のY成分の原点を中央面61の位置とすれば、ステップ160〜180中のn番目のサブステップにおける先端部31の位置座標のY軸方向成分は、ステップ110〜130中のn番目のサブステップにおける先端部31の位置座標のY軸方向成分の正負を単に反転したものとすればよい。
また、ステップ160〜180中のn番目のサブステップにおける先端部31の位置座標のZ軸方向成分は、ステップ110〜130中のn番目のサブステップにおける先端部31の位置座標のZ軸方向成分と同じにすればよい。
制御ユニット19は、このようなステップ160〜180の工程を、ワーク6の中央面61から他方側64に設けられる溝(ただし、中央面61の溝は除く)の本数だけ実行すると、続いてステップ190で、他方側64における最後のフレネル面の形成を、ステップ160と同じ方法で行う。ここで、他方側64における最後のフレネル面は、中央面61のある溝のうち、中央面61から他方側64にあるフレネル面である。ステップ190とステップ140の間でも、バイト20の位置および姿勢は、ワーク6の中央面61を対称面として(第1の縁部33aと第2の縁部33bとの違いを無視すれば)面対称になる。
このようなステップ160〜190の工程(他方側加工工程に相当する)を実行することで、リニアフレネルレンズの中央から他方側に配置される溝を形成する際に、第2の縁部33bが第1の縁部33aよりもリニアフレネルレンズ用のワーク6に近くなるようにバイト20を傾けた状態で、第2の縁部33bを用いてフレネル面を形成すると共に、先端部31を用いてフレネル面とライズ面が交わる窪み部およびライズ面を形成することができる。
以上のようなステップ110〜190の工程を経て、リニアフレネルレンズを製作することができる。両刃のバイト20を用いてこのような方法でワーク6を切削加工することで、バイトの付け替えも、バイトの取替えも、ワーク6の回転も必要なく、リニアフレネルレンズを製作できるので、切削加工でリニアフレネルレンズを製作する際に、加工工程が煩雑になってしまう可能性が低減される。
ここで、図10のステップ110、140、160、190のフレネル面形成工程中の各サブステップにおける、バイト20の姿勢および位置の計算方法について説明する。この計算は、人が手作業で行って実現してもよいし、この計算を実行するプログラムを人がコンピュータに実行させることで実現してもよい。
すくい面30の先端部31の位置座標と切削点の位置座標(いずれも、Y軸方向およびZ軸方向の位置座標をいう)が決まれば、バイト20の姿勢および位置が確定するので、本例では、各サブステップにおける先端部31の位置座標と切削点の位置座標をあらかじめ計算し、NCプログラムに記載しておく。NCプログラム中で先端部31の位置座標と切削点の位置座標が指定されていれば、制御ユニット19はそれらを実現するようにX移動テーブル13、YZ移動テーブル16、バイト旋回台17を制御することができる。
本例では、まず、各サブステップにおける切削点の位置座標のY成分(Y座標値)を(例えば0.01mm間隔で)先に設定し、その上で、各サブステップにおいて、設定された切削点のY座標値に基づいて、切削点の位置座標のZ成分(Z座標値)、ならびに、先端部31のY座標値およびZ座標値を算出する。
具体的には、まず図15に示すように、最初のサブステップにおける、すくい面30の中心線42(図8の直線42と同じである)の水平面81(すなわち、ワーク6の底面に平行な面)に対する傾きθ4を、所定の値(例えば30°)に設定する。このとき、第1の縁部33a、第2の縁部33bのうち、最も下に位置する点(すなわち、ワークの底面に最も近い点)を、切削点として決定する。図15の例では、第2の縁部33b上の点36を切削点として決定する。
したがって、最初のサブステップでは、この切削点36が、形成対象のフレネル面の上端に位置することになる。形成対象のフレネル面の上端のZ座標値は、当該上端のY座標値から、フレネル面の形状を表す下記の周知の非球面公式
Z=Cy2/[1+{1−(1+k)C2y2}1/2]+a0+a2y2+a4y4+…
を用いて算出することができる。ただし、係数C、k、a2、a4は、1つのワークにおいて一定となる定数であり、a0は、フレネル面毎に異なる定数である。
次に、最初のサブステップにおける先端部31のY座標値およびZ座標値を算出する。そのために、先端部31と切削点36とを結ぶ直線(すなわち弦)82の長さW1と、弦82の水平面81に対する傾き角θ5を算出する。
ここで、θ5は、θ5=(90°−θ4−θ3)/2という式の右辺にθ3および上述のθ4を代入することで得ることができる。なお、角度θ3は、第2の縁部33bが成す円弧の中心Tから先端部31までの直線と、中心線42との成す角度である。先端部31から切削点36までの円弧の中心角をθ6とすると、切削点36が最下端であるという条件から、θ6/2=θ5という関係が成り立つので、上記のθ5=(90°−θ4−θ3)/2という式が成り立つ。また、弦82の長さW1は、W1=2R×sin(θ5)という式の右辺に上述のθ5を代入することで得ることができる。
弦82の長さW1と傾き角θ5を得ると、切削点36のY座標値およびZ座標値に対して、それぞれ修正値Yb=W1×cos(θ5)およびZb=W1×sin(θ5)を加算または減算することで、先端部31のY座標値およびZ座標値を得ることができる。
なお、図15では、記載の便宜上、先端部31の開き角が90°を超えているが、実際には、先端部31の開き角は90°未満である。
このようにして、最初のサブステップにおける先端部31および切削点36の位置座標を算出した後は、2番目から最後のサブステップについて、順番に切削点36のZ座標値ならびに先端部31のY座標値、Z座標値を算出していく。
具体的には、n番目のサブステップについて位置座標を算出する場合は、n番目のサブステップにおける切削点36のY座標値から、上述の非球面公式を用いてn番目のサブステップにおける切削点36のZ座標値を算出する。
そして、図16に示すように、当該Y座標値の位置におけるフレネル面の法線方向83が鉛直方向84(水平面に垂直な方向)に対して成す角度θaを算出する。この角度θaは、図16に示すように、前回の、すなわちn−1番目のサブステップにおける、切削点36’のY座標値およびZ座標値を用いて計算する。具体的には、前回の切削点36’のY座標値に対する今回の(すなわちn番目のサブステップにおける)切削点36のY座標値の変化量Yaと、前回の切削点36’のZ座標値に対する今回の切削点36のZ座標値の変化量Zaとを用いて角度θp=tan−1(Za/Ya)を算出し、算出した角度θpの値を、角度θaの値として採用する。隣り合うサブステップ間の切削点36のY座標値およびZ座標値の変位量は微少なので、このような近似の精度は十分高い。
このように算出した角度θaと、n−1番目のサブステップにおける切削点36’のY座標値の位置におけるフレネル面の法線方向85が鉛直方向84に対して成す角度θbとを用いて、角度差θa−θbを算出する。
この角度差θa−θbは、n−1番目のサブステップの位置からn番目のサブステップの位置までバイト20が移動したときの、中心線42の水平面に対する傾き角度θ4の増加量θwに等しい。同じくこの角度θwは、図17に示すように、n−1番目のサブステップの位置からn番目のサブステップの位置までバイト20が移動したときの、弦82の傾斜角θeの減少量に等しい。なお、最初のサブステップにおけるこの傾斜角θeが、上述の角度θ5に等しい。
従って、n−1番目のサブステップにおける傾斜角θeの値をθe’とすると、n番目のサブステップにおける傾斜角θeは、θe’−θwとなる。
n番目のサブステップにおける傾斜角θeと、弦82の長さW1とを用いることで、n番目のサブステップにおける先端部31のY座標値およびZ座標値を算出することができる。具体的には、n番目のサブステップにおける切削点36のY座標値およびZ座標値に対して、それぞれ修正値Yb=W1×cos(θe)およびZb=W1×sin(θe)を加算または減算することで、先端部31のY座標値およびZ座標値を得ることができる。
このようにして、各サブステップにおける先端部31のY座標値およびZ座標値、ならびに、切削点36のY座標値およびZ座標値を算出することができる。
続いて、図10のステップ120、170の工程中の各サブステップにおける、バイト20の姿勢および位置の計算方法について説明する。この計算は、人が手作業で行って実現してもよいし、この計算を実行するプログラムを人がコンピュータに実行させることで実現してもよい。
この工程についても、図10のステップ110、140、160、190のフレネル面形成工程と同様、各サブステップにおける先端部31の位置座標と切削点の位置座標をあらかじめ計算し、NCプログラムに記載しておく。
まず、各サブステップにおける切削点のY座標値を(例えば0.01mm間隔で)先に設定し、その上で、各サブステップにおいて、設定された切削点のY座標値に基づいて、切削点のZ座標値、ならびに、先端部31のY座標値およびZ座標値を算出する点もフレネル面の形成工程と同じである。
ただし、図12に示したように、ステップ120、170の工程では、1つのステップ中で第1の縁部33a(または第2の縁部33b)上の切削点の位置は固定ではなく変化する。したがって、各サブステップにおける計算方法は、フレネル面の形成工程の場合と異なっている。
具体的には、図18に示すように、各サブステップにおいて、切削点91のY座標値を決定する。切削点91のY座標値が決定すると、ライズ面66のY座標値があらかじめわかっているので、切削点91から先端部31までの変位量のY成分Yβがわかる。
そして、このYβの値から、中心線42の水平線81に対する傾き角θ8の値を、θ2、θ3、θ8、R、Yβの間に成り立つ関係式
θ8=90°−[sin−1{Yβ−(R×sinθ2)}−θ3]
を用いて算出する。
ここで、角度θ2は、切削点91のY座標値の位置におけるフレネル面65の法線方向と鉛直方向83の成す角度であり、図16で用いたのと同じ方法で、非球面公式に基づいて算出することができる。また、角度θ3および曲率半径Rは、図15で説明したものと同じであり、すくい面30の形状から決まる固定値である。
次に、以下の3つの式を用いた計算を行う。
W2=2R×sin{(θ6−180°+θ2+θ8+θ3)/2}
θ7=90°+(θ6−180°+θ2+θ8+θ3)/2−θ2
Yβ=W2×cosθ7
ここで、W2は、先端部31と切削点91を繋ぐ直線92(すなわち弦)の長さであり、フレネルレンズの形成工程における弦82の長さW1と違い、1つのステップ内で不変ではなく、変化する。また、θ7は、弦92が水平線81に対して成す角度である。
これら3つの式において、未知量はθ6、θ7、W2の3つなので、これら3つの式を用いてθ6、θ7、W2を算出することができる。そして、このようにして得た長さW2と角度θ7を用いて、切削点91から先端部31までの変位量のZ成分Zβを、Zβ=W2×sinθ7という式を用いて算出する。
このZβと、切削点91のZ座標値から、先端部31のZ座標値を算出することができる。なお、先端部31のY座標値は、ライズ面66のY座標値と同じである。
このような計算を各サブステップについて行うことで、各サブステップにおける先端部31、切削点91の位置座標のY成分およびZ成分を算出することができる。
なお、このようなステップ110、120、140、160、170、190におけるバイト20の姿勢および位置の計算においては、各サブステップにおける先端部31の位置座標と切削点の位置座標を計算してNCプログラムに記載しておくのではなく、各サブステップにおける先端部31の位置座標と、上述のバイト20の傾き角θを計算してNCプログラムに記載しておいてもよい。
ここで、本実施形態のような方法で作成された凹レンズ(または凸レンズ)としてのリニアフレネルレンズ6の用途について説明する。本実施形態において製造されるフレネルレンズ6は、例えば、図19に示すようなヘッドアップディスプレイ50に用いられる。このヘッドアップディスプレイ50においては、車両のダッシュボード等に設置されたケース51内で、画像投射器52が所望の画像の画像光を射出し、その画像光が凹面鏡53および凹面鏡54で反射され、その反射光が、斜線で示されたケース51の上面からケース外に出て、フロントウィンドシールドWS内の画像表示部55に投影される。本実施形態のフレネルレンズ6は、反射光が通過するケース51の上面に配置されることで、当該反射光がフレネルレンズ1を通過し、その結果、画像が画像表示部55で拡大される。このようなフレネルレンズの作用により、ケース51を小型化しながら、画像表示部55内で画像を大きく表示することができる。
なお、上記実施形態では、バイト旋回台17およびバイト取付シャフト18の組が、バイト取付部材の一例に相当し、また、X移動テーブル13およびYZ移動テーブル16の組が、相対位置変化テーブルの一例に相当する。
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の各発明特定事項の機能を実現し得る種々の形態を包含するものである。
(1)例えば、上記実施形態では、凹レンズとしてのリニアフレネルレンズを製作する方法の一例について説明したが、切削加工で製作するリニアフレネルレンズは、図6に示したような凸レンズとしてのリニアフレネルレンズであってもよい。
この場合、上記実施形態の製作方法を、以下のように変更すればよい。まず、図10のステップ110〜130の繰り返し工程では、図20に示すように、フレネルレンズ6の中央面71から一方側73のすべての溝を形成し、ステップ160〜180の繰り返し工程では、中央面71から他方側74のすべての溝を形成する。
そして、繰り返しの各回のステップ110から130までの処理によって、中央面71に最も近い溝から最も遠い溝まで、順に形成されていく。また、繰り返しの各回のステップ160から180までの処理によって、中央面71に最も近い溝から最も遠い溝まで、順に形成されていく。
また、ステップ140、190で形成する最後のフレネル面は、中央面71から最も遠いフレネル面である。また、他方側74の最初に形成する溝を構成するフレネル面は、中央面71のある溝のうち、中央面71から他方側74にあるフレネル面である。また、他方側74の最後に形成する溝は、中央面71から他方側64に最も遠いフレネル面である。
(2)また、チップ22は、必ずしも単結晶ダイヤモンドから成っておらずともよい。例えば、多結晶ダイヤモンドから成っていてもよいし、他の材質からなっていてもよい。
(3)また、加工工程において、第1の縁部33a上の切削点36および第2の縁部33b上の切削点は、必ずしも固定でなくともよい。
(4)また、上記実施形態では、バイト旋回台17が回転した場合、バイト20は、すくい面30の先端部31を中心として回転するようになっていた。しかし、バイト旋回台17が回転したときのバイト20の回転中心は、すくい面30の対称軸42上の一点(31)であれば、そうでない場合(例えば、切削点36が回転中心となる場合)に比べて、バイトの相対位置および相対姿勢の制御が簡易になる。また、加工時のバイト20の位置および姿勢の計算を簡易にする必要がなければ、必ずしも対称線42上のいずれかを中心として回転する必要はない。
(5)また、上記実施形態では、バイト20のすくい面30は、中心線42を対称軸として線対称な形状となっていたが、必ずしもこのようになっておらずともよい。例えば、上記実施形態では、第1の縁部33aの曲率半径R1は、第2の縁部33bの曲率半径R2と同じであったが、これらは必ずしも同じでなくともよい。同じでない場合、製作されるフレネルレンズの表面において、第1の縁部33aによって形成される一方側のフレネル面と、第2の縁部33bによって形成される他方側のフレネル面とで、面粗さ等の品質が異なる場合がある。しかし、一方側のフレネル面と他方側のフレネル面の品質が異なっていても問題ない場合がある。
例えば、図19に示したように、ヘッドアップディスプレイ50に拡大用のフレネルレンズ6を用いる場合、左右に均等に拡大するのではなく、左右で拡大率を異ならせたい場合がある。例えば、フレネルレンズ6をダッシュボード上の助手席側よりも運転席側に近づけて配置し、ヘッドアップディスプレイ50による投影範囲は、助手席の正面から運転席の正面までをカバーしたい場合が考えられる。この場合、フレネルレンズ6の助手席側の拡大率と、運転席側の拡大率とを異ならせるために、フレネルレンズ6の助手席側のフレネル面と運転席側のフレネル面とで形状を違うものにすると、助手席側のフレネル面と運転席側のフレネル面とで面粗さが異なっていてもよくなる。
(6)また、上記実施形態では、第1の縁部33a、第2の縁部33bの形状は、円弧形状であった。しかし、第1の縁部33a、第2の縁部33bの形状は、円弧形状でなくとも、すくい面(30)の外側に膨らんだ滑らかな曲線形状であればよい。したがって、例えば、円弧以外の二次曲線形状(楕円形状等)であってもよい。
(7)また、図10のステップ130では、先端部31ではなく第2の縁部33bを用いてライズ面を形成してもよいし、ステップ180でも、先端部31ではなく第1の縁部33aを用いてライズ面を形成してもよい。そうすればライズ面の面粗さも抑えることができる。
(8)また、上記実施形態においては、切削加工機1を用いてリニアフレネルレンズ6を製作するようになっているが、切削加工機1は、リニアフレネルレンズ6ではなく、リニアフレネルレンズ6の金型の切削加工による製作にも用いることができる。この金型は、樹脂成形(例えば射出成形)によってリニアフレネルレンズ6を製作するために用いる成形型である。
図21に、このような金型7およびこの金型7によって成形されるフレネルレンズ6の断面図を示す。この場合も、金型7の素材となるワーク(例えば、ニッケルメッキを施した主に鉄系材料から成る板)に対して、上記実施形態のリニアフレネルレンズの素材となるワーク6と同じ方法で切削加工することができる。その場合、上記の各実施形態においては、ワーク6を、リニアフレネルレンズの金型7の素材となるワークに読み替え、フレネル面は、「樹脂成形時に金型7においてリニアフレネルレンズ6のフレネル面65の型となるフレネル型面41」に読み替え、ライズ面66は、「樹脂成形時に金型7においてフレネルレンズ6のライズ面66の型となるライズ型面42」に読み替え、窪み部67は、「樹脂成形時に金型7においてフレネルレンズ6のフレネル面65とライズ面66の交わる頂点部68の型となる金型窪み部43」、すなわち「金型7においてフレネル型面41とライズ型面42とが交わる金型窪み部43」に読み替え、フレネル面形成工程は、フレネル型面形成工程に読み替え、ライズ面形成工程は、ライズ面形成工程に読み替える。
そのように読み替えれば、本発明の切削加工によるリニアフレネルレンズの製作方法は、リニアフレネルレンズ6の金型7の製作方法としても捉えることができる。そして、このようにして製作された金型7においては、金型窪み部43の曲率半径が十分小さくなり、そのような金型7を用いて製作されたリニアフレネルレンズ6においては、フレネル面65とライズ面66の交わる頂点部68の曲率半径が十分小さくなる。
なお、図21では、フレネル面65、ライズ面66、頂点部68は、リニアフレネルレンズ6上の面であり、また、ライズ型面42、フレネル型面41、金型窪み部43は、金型7上の面である。