JP5356282B2 - 受容体型チロシンホスファターゼPtprzの活性測定用試薬及びその用途 - Google Patents

受容体型チロシンホスファターゼPtprzの活性測定用試薬及びその用途 Download PDF

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本発明は受容体型チロシンホスファターゼPtprzの基質モチーフ及びその用途(基質モチーフを利用したPtprzの活性測定法及びPtprz活性促進剤又は活性抑制剤のスクリーニング法など)に関する。
細胞内タンパク質のチロシン残基のリン酸化修飾は、細胞の増殖・分化・移動等や様々な細胞活動の制御に関わっており、リン酸化制御の破綻は、ガン、自己免疫疾患、糖尿病などの代謝性疾患の主要原因として、また中枢神経系においては脳高次機能障害との関与が知られている。リン酸化は、タンパク質中の特定のチロシン残基にリン酸基を付加するプロテインチロシンキナーゼ(PTK)と、これを除去するプロテインチロシンホスファターゼ(PTP)によって可逆的に制御されている。ヒトゲノム中に同定されているPTK及びPTP遺伝子は数百を超えており、それぞれ特有の細胞機能に関与していると考えられるが、その詳細は不明である。
上記のPTPは、大きく細胞膜上に発現する受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)と細胞内に局在する非受容体型チロシンホスファターゼ(NR-PTP)に分けられる。更にRPTPファミリーは8種のサブファミリーに分類され、全21種の分子で構成されている(非特許文献1,2参照)。RPTPの多くは、細胞質側にPTPドメインが2個存在しているが、PTP活性は、細胞膜に近い第1PTPドメイン(PTP-D1)のみが有している。細胞膜から遠位に位置する第2PTPドメイン(PTP-D2)にはPTP活性が認められず、その機能としてPTP-D1の活性制御、また他分子との結合ドメインとして働き、細胞内局在を制御するなどの機能的意義が考えられている(非特許文献1,2参照)。
受容体型プロテインチロシンホスファターゼZ(Ptprz、或いはPTPζ又はRPTPβとも呼ばれる)は、中枢神経系で多く発現するRPTPであるが(非特許文献3参照)、僅かながら胃などの末梢組織でも発現が認められている(非特許文献4参照)。その分子的特徴として、21種のRPTP(非特許文献1,2参照)のうち、R5サブファミリーに属するPtprz/PTPζとPtprg/PTPγだけが、そのカルボキシル末端に典型的なPDZドメイン結合モチーフを有していることが挙げられる(非特許文献3参照)。
本発明者らは、Ptprzは、そのカルボキシル末端のPDZドメイン結合モチーフを介して、シナプス可塑性に関与する主要なシナプス足場タンパク質であるPSD95の第2PDZドメインに結合することを報告している(非特許文献4参照)。成獣ラット脳では、Ptprz及びPSD95のいずれも海馬及び大脳新皮質の錐体神経細胞の樹状突起に分布し、シナプス後肥厚部(PSD)画分に検出される。本発明者らはPtprzが、PSD95ファミリー以外にも、膜関連グアニル酸キナーゼ(membrane associated guanylate kinase)WWドメイン及びPDZドメイン含有タンパク質-1/3(MAGI-1/-3)、Veli-3、シナプトジャニン2結合タンパク質(Synj2bp:synaptojanin 2 binding protein)、酸性シントロフィン1及び塩基性シントロフィン1(Snta1及びSntb1:syntrophin acidic 1 and basic 1)、並びにマルチプルPDZタンパク質(Mupp1:multiple PDZ protein 1)等、別のPDZドメイン含有タンパク質とも相互作用することを明らかにしている(非特許文献3, 5参照)。
本発明者らは最近、PTP基質をスクリーニングする遺伝子工学的手法を報告し、「酵母基質トラッピング法(非特許文献3, 5, 6参照)」と命名した。この方法は、酵母ツーハイブリッドシステムを基本としているが、1)プレイ(prey)タンパク質をチロシンリン酸化するためにPTKを誘導的に発現させることと、2)基質トラップPTP変異体(非特許文献7参照)をベイト(bait)としてスクリーニングを行うという2つの改良を加えている。この方法によって本発明者らは、Gタンパク質共役受容体相互作用因子1(Git1:G protein-coupled receptor kinase-interactor 1)、p190 RhoGAP、ゴルジ関連PDZ及びコイルドコイルモチーフ含有タンパク質(GOPC/PIST:golgi-associated PDZ and coiled-coil motif containing)、及びMAGI−1といったPtprzの基質分子を単離・同定した(非特許文献3, 5参照)。
本発明者らは、Ptprzノックアウトマウスを作製しており(非特許文献8参照)、このノックアウトマウス由来の大脳粗シナプス分画において、受容体型プロテインチロシンキナーゼ(RPTK)ファミリーのErbB4のチロシンリン酸化レベルが野生型マウス由来の抽出液中のそれと比べて増加していること、またErbB4がPtprzによって直接的に脱リン酸化される基質であることを明らかにしている(非特許文献9参照)。しかし、このErbB4の場合、培養細胞を用いた実験において、Ptprzで脱リン酸化されるにはPSD95などPDZドメイン含有蛋白質を介した分子複合体の形成を必要とすることが判明している(非特許文9)。Ptprzのカルボキシル末端は興奮性シナプスの後肥厚部(PSD)の主要な構成要素であるPSD95の2番目のPDZドメインと結合し(非特許文献4参照)、一方ErbB4は、PSD95の1番目及び2番目のPDZドメインへ結合する。すなわち、PSD95などの足場蛋白質によってPtprz-ErbB4の分子複合体が形成されると考えられる。このErbB4以外にも、β−カテニン(非特許文献10参照)及びナトリウムチャネルαサブユニット(非特許文献11参照)がPtprzの基質として報告されているが、先に述べた酵母基質トラッピング法ではErbB4、β−カテニン、ナトリウムチャネルの配列を含む陽性クローンは得られていない。酵母基質トラッピング法では、その原理上、Ptprzの細胞内ドメインとリン酸化された基質との2者間の相互作用のみが検出されるはずである。このため、β−カテニン及びナトリウムチャネルがPtprzによって脱リン酸化されるには、上述のErbB4と同様に足場蛋白質による会合の補助が必要ではないかと考えられる(非特許文献3)。例えば、β−カテニンは上皮細胞のMAGI-1の第5PDZドメインと相互作用することが知られており(非特許文献10参照)、Ptprz及びβ−カテニンがMAGI-1足場タンパク質上に安定な酵素−基質複合体を形成することが可能と考えられる。同様に、シントロフィンの第1プレックストリンホモロジー(PH:pleckstrin homology)ドメイン及びシントロフィンユニーク(SU:syntrophin-unique)ドメインがナトリウムチャネルと相互作用し(非特許文献12参照)、シントロフィンのPDZドメインがPtprzと相互作用することから複合体形成が可能と考えられる(非特許文献3, 5参照)。
遺伝子ノックアウトマウスの研究から示されているPtprzの生理的重要性を列挙すると、神経シナプス可塑性の制御を介する記憶・学習への関与(非特許文献参照3, 13, 14)、ドーパミンなどの中枢モノアミン神経系の機能制御(特許文献1)、実験的自己免疫性脳髄炎における重篤化への寄与(非特許文献15参照)、ヘリコバクター・ピロリ菌が産生する毒素蛋白質VacAが惹起する胃粘膜損傷の必須受容体としての関与(非特許文献16 参照)、痛み感受性への関与(非特許文献17参照)がある。また臨床研究などからは、グリオブラストーマの悪性化への関与が強く示唆されている(非特許文献18参照)。これら知見は、創薬標的としてのPtprzの有用性を強く示唆する。既に本発明者らは、動物個体レベルでのPtprzの活性化又は阻害効果をもつ化合物のアッセイ系(特許文献1)、またErbB4を用いた培養細胞レベルでのアッセイ系(特許文献2)を提案してきた。しかしながら、これらアッセイ系の主要な用途は標的化合物の薬理や副作用の有無などを詳細に検討することであり、一般的な創薬を目的とする数千から数十万の化合物を対象とした大規模スクリーニングで使用するには労力・コストパフォーマンスにおいて非現実的な仕様であった。
特許第3785460号公報 特開2009−1521号公報
Mol. Cell. Biol. 21, 2001, 7117-7136 Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 7, 2006, 833-846 生化学 第77巻, 2005, 1255-1268 Brain Res. Mol. Brain Res. 72, 1999, 47-54 Methods 35, 2005, 54-63 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 2001, 6593-6598 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 1997, 1680-1685 Neurosci. Lett. 247, 1998, 135-138 J. Biochem. 142, 2007, 343-350 Biochem. Biophys. Res. Commun. 270, 2000, 903-909 Nat. Neurosci. 3, 2000, 437-444 J. Neurosci. 18, 1998, 128-137 J. Neurosci. 2005, 25, 1081-1088 Neurosci. Lett. 2006, 399, 33-38 Nat. Genet. 2002, 32, 411-414 Nat. Genet. 33, 2003, 375-381 Behav. Brain Res. 2009, 201, 29-40 Diagn. Mol. Pathol. 2009, 18, 206-218
創薬分野においては、大規模スクリーニングによって特定の標的分子に作用する物質を探索することが良く行われるが、これには多大な労力と費用を要する。そのためスクリーニングの成否を決定する最も重要なポイントとなるアッセイ系は、科学的根拠に基づく技術的優位性だけでなく、簡便性やコストパフォーマンス的にも優れたものが要求される。本発明の課題は、Ptprzの有するホスファターゼ活性を増強もしくは減弱できる物質、即ちPtprzの活性調節物質を得るため、候補物質を効率的に探索・同定するために有効なスクリーニング法の提供、その実行に必要なPtprz基質モチーフ及びPtprz基質ペプチドの提供、またPtprz基質ペプチドを用いたPtprz活性測定における至適アッセイ条件の提供である。
Ptprzの活性測定法及びPtprz活性調節物質のスクリーニング法の実現には、Ptprzが効率よく脱リン酸化する基質のリン酸化サイトの構造的特徴(基質モチーフ))を見出すことが重要である。後述の実施例に示す通り、本発明では、主としてPtprzの基質分子であるGit1とMagi1に注目して鋭意検討した。その結果、Ptprzの基質モチーフ及び、インビトロにおける活性評価に最適な基質モチーフを含有する基質ペプチドを見出すことに成功した。また、pHなど最適なアッセイ条件を見出した。これらの成果によって、目的の活性測定及びスクリーニングを実現できることになった。これらの方法には、Ptprzの機能異常に起因する各種疾患の予防・治療法の確立に向けた多大な貢献が期待される。
以下に列挙する本発明は上記成果に基づく。
[1]以下の配列(配列番号1)、即ち
Figure 0005356282
(但し、式中の各アミノ酸残基の上の数字は基準位置のアミノ酸残基Y(チロシン)からの相対位置を表し、D/EはD(アスパラギン酸)又はE(グルタミン酸)を表し、Xは任意のアミノ酸残基を表し、I/VはI(イソロイシン)又はV(バリン)を表し、S/I/VはS(セリン)、I(イソロイシン)又はV(バリン)を表す)
からなる、Ptprzの基質モチーフ。
[2]-2位のアミノ酸残基がD(アスパラギン酸)及びE(グルタミン酸)以外のアミノ酸残基である、[1]に記載の基質モチーフ。
[3]-2位のアミノ酸残基がA(アラニン)、N(アスパラギン)、P(プロリン)又はV(バリン)である、[1]に記載の基質モチーフ。
[4]以下の配列(配列番号2)、即ち
Figure 0005356282
(但し、式中の各アミノ酸残基の上の数字は基準位置Zからの相対位置を表し、Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログであり、D/EはD(アスパラギン酸)又はE(グルタミン酸)を表し、Xは任意のアミノ酸残基を表し、I/VはI(イソロイシン)又はV(バリン)を表し、S/I/VはS(セリン)、I(イソロイシン)又はV(バリン)を表す)
を含む、Ptprzの基質ペプチド。
[5]-2位のアミノ酸残基がD(アスパラギン酸)及びE(グルタミン酸)以外のアミノ酸残基である、[4]に記載の基質ペプチド。
[6]-2位のアミノ酸残基がA(アラニン)、N(アスパラギン)、P(プロリン)又はV(バリン)である、[4]に記載の基質ペプチド。
[7]+1位のアミノ酸残基がS(セリン)である、[4]〜[6]のいずれか一項に記載の基質ペプチド。
[8]前記配列として、配列番号3〜6のいずれかの配列を含む、[4]に記載の基質ペプチド。
[9]前記配列のカルボキシ末端に少なくとも一つのアミノ酸残基が連結されている、[4]〜[8]のいずれか一項に記載の基質ペプチド。
[10]カルボキシ末端に連結されているアミノ酸残基がD(アスパラギン酸)、E(グルタミン酸)、G(グリシン)又はF(フェニルアラニン)である、[9]に記載の基質ペプチド。
[11]前記配列のアミノ末端に少なくとも一つのアミノ酸残基が連結されている、[4]〜[10]のいずれか一項に記載の基質ペプチド。
[12]アミノ末端に連結されているアミノ酸残基がV(バリン)、G(グリシン)又はA(アラニン)である、[11]に記載の基質ペプチド。
[13]5個〜12個の残基からなる、[4]〜[12]のいずれか一項に記載の基質ペプチド。
[14]5個〜9個の残基からなる、[4]〜[12]のいずれか一項に記載の基質ペプチド。
[15]配列番号3〜38のいずれかのアミノ酸配列からなる、[4]に記載の基質ペプチド。
[16]リン酸化チロシンのアナログが、クマリン誘導体である、[4]〜[15]のいずれか一項に記載の基質ペプチド。
[17]リン酸化チロシンのアナログがホスホクマリン−アミノ−プロピオン酸(phosphocoumaryl-amino-propionic acid)である、[4]〜[15]のいずれか一項に記載の基質ペプチド。
[18]以下のステップ(1)及び(2)を含む、Ptprz活性測定法:
(1)[4]〜[17]のいずれか一項に記載の基質ペプチドに対して試料を作用させるステップ;
(2)前記基質ペプチドの脱リン酸化を検出するステップ。
[19]試料がPtprz又はPtprz類似分子である、[18]に記載のPtprz活性測定法。
[20]以下のステップ(i)及び(ii)を含む、Ptprz活性調節物質のスクリーニング法:
(i)被験物質の存在下、[4]〜[17]のいずれか一項に記載の基質ペプチドに対してPtprzを作用させるステップ;
(ii)前記基質ペプチドの脱リン酸化を検出し、検出結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップ。
[21]被験物質の非存在下でPtprzを作用させた場合と比較して前記基質ペプチドの脱リン酸化レベルが高いときに、被験物質がPtprzの脱リン酸化作用を促進すると判断し、被験物質がPtprzの活性促進に有効であると判定する、[20]に記載のスクリーニング法。
[22]被験物質の非存在下でPtprzを作用させた場合と比較して前記基質ペプチドの脱リン酸化レベルが低いときに、被験物質がPtprzの脱リン酸化作用を抑制すると判断し、被験物質がPtprzの活性抑制に有効であると判定する、[20]に記載のスクリーニング法。
Git1におけるPtprzの脱リン酸化サイトの同定。A:Git1(770アミノ酸残基)の模式図。矢頭はチロシン残基(関係分)の位置を示す。GAPはGTPase活性化ドメインを、ANKはアンキリンリピート領域を、SHD1はSpa2ホモロジードメイン1をそれぞれ表す。Git1-WTは野生型Git1であり、Git11Y9Fシリーズは各位置のチロシン残基(Y)をフェニルアラニン(F)に置換したものである。B:N末端にFLAGタグが付いたGit1及びその変異体をHEK細胞に発現させた。これら培養細胞を100μMのバナジン酸(内因性のチロシンホスファターゼ活性の非特異的阻害剤)で20分間の処理することで、細胞内タンパク質が強制的にチロシンリン酸化される状態を誘導した。この培養細胞のタンパク質抽出液からFLAGタグに対する抗体を用いてGit1を免疫沈降した後、リン酸化チロシン抗体(PY)を用いてウエスタンブロット法によってチロシンリン酸化レベルを評価した(上段側)。Git1のタンパク質量は、FLAG抗体で評価した(下段側)。リン酸化が認められたチロシン残基は392番目、554番目、607番目の3箇所であり、これらがGit1の主要なチロシンリン酸化サイトと判断された。C:免疫沈降で単離したGit1及びその変異体に試験管内で組換え型Ptprz(GST-PtprzICR)を加えて、37℃で20分間静置した。PtprzによるGit1の脱リン酸化の程度は、上記方法と同様にウエスタンブロットで解析した。GSTは陰性コントロールであり、AP(アルカリホスファターゼ)は陽性コントロールである。Ptprzによって最も良く脱リン酸化されるGit1変異体はGit1-Y9F-Y554であり、このことから554番目のチロシン残基がPtprzの基質サイトと判断された。一方、APを酵素とした場合、全てが脱リン酸化されている。 MagiにおけるPtprzの脱リン酸化サイトの同定。A:Magi1(1248アミノ酸残基)の模式図。矢頭はチロシン残基(関係分)の位置を示している。GKはグアニル酸キナーゼドメインを、WWは2つのトリプトファンが保存されたモチーフを、PDZはPSD-95/Dlg-A/Zo-1ドメインをそれぞれ表す。Magi-WTは野生型Magi1であり、Magi1-Y829F及び Magi1-Y858FはMagi1のチロシン残基をフェニルアラニンに置換した変異体、Magi1-ΔC1、Magi1-ΔC2及びMagi1-ΔC3はMagi1のC末端側欠損変異体である。B:N末端にFLAGタグが付いたMagi1及びその変異体をHEK細胞に発現させ、バナジン酸処理によってリン酸化状態を誘導した。免疫沈降で単離したMagi1及びC末端欠落変異体に試験管内で組換え型Ptprz(GST-PtprzICR)を加えて37℃で20分間静置し、Ptprzによる脱リン酸化の程度をウエスタンブロット法で解析した。比較のため、Ptprzの標準的な添加量(1のレーン)に対して、その半量(0.5のレーン)と溶媒のみ(0のレーン)を同時に行った。結果、Magi1-ΔC3変異体のみがPtprzによる脱リン酸化を受けなかったことから、Magi1上の789-983領域内にPtprzの基質サイトが存在すると判断された。C:Magi1上の789-983領域内でリン酸化され得る829番目と858番目のチロシン残基をフェニルアラニンに置換した変異型Magi1を用いて、上記と同様にPtprzによる脱リン酸化を評価した。結果、858番目のチロシン残基だけが残されたMagi1-Y829F変異体に関してはPtprzによって良好に脱リン酸化されたことから、858番目のリン酸化チロシン残基がPtprzの基質サイトと判断された。 Ptprzの基質モチーフの同定。A: 至適pHの検討。Git1のチロシン残基554番目近傍の配列をもとに合成したリン酸化疑似ペプチド(7アミノ酸残基)を基質とし、組み換えPtprzを用いた脱リン酸化アッセイに至適なpH条件を評価・検討した。至適pHはpH6.5と評価された。B:Git1のチロシン残基554番目近傍の配列をもとに合成したリン酸化疑似ペプチド(7アミノ酸残基)を基質とし、組み換えPtprzを用いて脱リン酸化に重要な近傍のアミノ酸残基を評価・検討した。グラフは、Git1の変異型基質ペプチドが脱リン酸化される効率を、野生型Git1ペプチドとの相対値として表記している(変異箇所及び変異残基については横軸表記を参照)。結果、Ptprzの基質としては相対位置-4及び-3番目にアスパラギン酸やグルタミン酸といった酸性アミノ酸残基が良く、一方-1及び+1番目には酸性アミノ酸残基は不都合であり、イソロイシン、バリン、セリンなどが良いことが判明した。C: 上記結果より提示されるPtprzの基質モチーフ。D:Ptprzの良好な基質モチーフの代表例として挙げたGit1(554番目のチロシン残基)、Magi1(858番目のチロシン残基)及びp190RhoGAP(1105番目のチロシン残基)についてリン酸化部位近傍の配列を比較したもの。枠で囲んだ部分に相同性があることが判明した。今回見出されたPtprzの基質モチーフ配列(図3C参照)を基にして、Ptprzによって脱リン酸化されることは既知であるものの、脱リン酸化サイトは不明であったPISTの配列を検索したところPIST中に良く一致する配列が存在していることが判明した。アミノ酸残基は1文字表記、表上部の番号は、基質となるチロシン残基からの相対位置を示している。
本発明の第1の局面はPtprzの基質モチーフに関する。本発明の基質モチーフはPtprzの機能解明やPtprzを標的とする創薬研究などに有用である。特に、Ptprzの基質ペプチド(後述の説明を参照)を設計する上で有用である。ここで、用語「モチーフ」とは、特定の機能を有する特徴的な共通配列のことをいう。本発明の「基質モチーフ」は、Ptprzの基質として機能する上で特徴的な配列を有する。本発明の基質モチーフは、以下の配列(配列番号1)からなる。
Figure 0005356282
上記配列において、各アミノ酸残基の上の数字は基準位置のアミノ酸残基Y(チロシン)からの相対位置を表す。また、D/EはD(アスパラギン酸)又はE(グルタミン酸)を表し、Xは任意のアミノ酸残基を表し、I/VはI(イソロイシン)又はV(バリン)を表し、S/I/VはS(セリン)、I(イソロイシン)又はV(バリン)を表す。
各位置のアミノ酸残基は、基質分子(Git1、p190、Magi1及びPIST)の対応位置のアミノ酸残基の比較、及びアミノ酸置換実験の結果(後述の実施例、図3Bを参照)により決定された。-3位のアミノ酸残基を決定するにあたっては、酸性アミノ酸残基のアスパラギン酸(D)を非極性アミノ酸残基のアラニン(A)に変えると脱リン酸化の程度は大きく低下した。-2位のアミノ酸残基については、A(アラニン)から酸性アミノ酸であるD(アスパラギン酸)への置換によって僅かではあるが活性の低下を認めたこと(図3B)から、より具体化した場合にはD(アスパラギン酸)及びE(グルタミン酸)以外のアミノ酸残基である。更に具体化した場合には、各基質分子での対応位置のアミノ酸残基である、A(アラニン)、N(アスパラギン)、P(プロリン)又はV(バリン)である。
本発明の第2の局面はPtprzの基質ペプチドに関する。「Ptprzの基質ペプチド」とは、Ptprzの基質として機能するペプチドのことをいう。従って、Ptprzによって脱リン酸化される部位を含むことになる。本明細書において用語「ペプチド」は用語「タンパク質」と明確に区別される。即ち、Ptprzの基質タンパク質であるGit1、p190、Magi1、PISTなどは、分子量が大きい点や特定の高次構造を形成して特定の機能を発揮する点などにおいて、本発明の基質ペプチドと峻別される(本発明の基質ペプチドの概念にこれらの基質タンパク質は含まれない)。
本発明の基質ペプチドは、上記基質モチーフの配列を基に設計されたものであり、以下の配列(配列番号2)を含む。
Figure 0005356282
上記配列において、各アミノ酸残基の上の数字は基準位置Zからの相対位置を表す。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログである。また、D/EはD(アスパラギン酸)又はE(グルタミン酸)を表し、Xは任意のアミノ酸残基を表し、I/VはI(イソロイシン)又はV(バリン)を表し、S/I/VはS(セリン)、I(イソロイシン)又はV(バリン)を表す。
-2位のアミノ酸残基は、A(アラニン)から酸性アミノ酸であるD(アスパラギン酸)への置換によって僅かではあるが活性の低下を認めたこと(図3B)及び各基質分子では対応位置が酸性アミノ酸残基ではないことから、好ましくはD(アスパラギン酸)及びE(グルタミン酸)以外のアミノ酸残基である。更に好ましくは、各基質分子での対応位置のアミノ酸残基である、A(アラニン)、N(アスパラギン)、P(プロリン)又はV(バリン)である。
一方、+1位のアミノ酸残基については、Ptprzの基質として認識される際にPtprzのカルボキシ末端に結合し得るPDZドメインを含有せず、特にリン酸化チロシンとその近傍配列によって基質特異性が決定されていると考えられた、Git1及びp190におけるアミノ酸残基の種類を重視し、好ましくはS(セリン)である。
上記配列(配列番号2)に含まれる具体的な配列の例を以下に示す。これら配列は基質分子Git1、p190、Magi1及びPISTのアミノ酸配列に対応するものであり、特に優れた基質として機能し得る。
DAIZS(配列番号3。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
ENIZS(配列番号4。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
EPIZI(配列番号5。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
EVVZV(配列番号6。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
本発明の基質ペプチドの一態様は、上記配列(配列番号2)のアミノ末端に少なくとも一つのアミノ酸残基が連結されてなる配列を含む。アミノ末端に直接連結されているアミノ酸残基の具体例はD(アスパラギン酸)、E(グルタミン酸)、G(グリシン)及びF(フェニルアラニン)である。この例の基質ペプチドの配列は基質分子Git1、p190、Magi1及びPISTのアミノ酸配列に対応するものである(図3Dを参照)。アミノ末端に連結されるアミノ酸残基の数は、多すぎればPtprzによる基質認識に予想外の影響与えるおそれがあり且つ調製費用の増大も引き起こすことから、好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個である。
本発明の基質ペプチドの他の一態様は、上記配列(配列番号2)又は上記態様の配列のカルボキシ末端に少なくとも一つのアミノ酸残基が連結されてなる配列を含む。カルボキシ末端に直接連結されているアミノ酸残基の具体例はV(バリン)、G(グリシン)又はA(アラニン)である。この例の基質ペプチドの配列は、基質分子Git1、p190、Magi1及びPISTのアミノ酸配列に対応するものである(図3Dを参照)。カルボキシ末端に連結されるアミノ酸残基の数は、多すぎればPtprzによる基質認識に予想外の影響与えるおそれがあることから、好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個である。
本発明の基質ペプチドを構成する残基数は特に限定されないが、好ましくは5個〜12個、更に好ましくは5個〜9個である。以下、本発明の基質ペプチドを構成する配列の具体例を示す。
DAIZS(図3Dに示したGit1の-3位〜+1位の配列に対応する。配列番号7。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
DDAIZS(図3Dに示したGit1の-4位〜+1位の配列に対応する。配列番号8。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
EDDAIZS(図3Dに示したGit1の-5位〜+1位の配列に対応する。配列番号9。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
LEDDAIZS(図3Dに示したGit1の-6位〜+1位の配列に対応する。配列番号10。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
DAIZSV(図3Dに示したGit1の-3位〜+2位の配列に対応する。配列番号11。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
DDAIZSV(図3Dに示したGit1の-4位〜+2位の配列に対応する。配列番号12。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
EDDAIZSV(図3Dに示したGit1の-5位〜+2位の配列に対応する。配列番号13。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
LEDDAIZSV(図3Dに示したGit1の-6位〜+2位の配列に対応する。配列番号14。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
ENIZS(図3Dに示しp190たの-3位〜+1位の配列に対応する。配列番号15。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
EENIZS(図3Dに示したp190の-4位〜+1位の配列に対応する。配列番号16。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
EEENIZS(図3Dに示したp190の-5位〜+1位の配列に対応する。配列番号17。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
NEEENIZS(図3Dに示したp190の-6位〜+1位の配列に対応する。配列番号18。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
ENIZSV(図3Dに示したp190の-3位〜+2位の配列に対応する。配列番号19。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
EENIZSV(図3Dに示したp190の-4位〜+2位の配列に対応する。配列番号20。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
EEENIZSV(図3Dに示したp190の-5位〜+2位の配列に対応する。配列番号21。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
NEEENIZSV(図3Dに示したp190の-6位〜+2位の配列に対応する。配列番号22。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
EPIZI(図3Dに示したMagi1の-3位〜+1位の配列に対応する。配列番号23。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
GEPIZI(図3Dに示したMagi1の-4位〜+1位の配列に対応する。配列番号24。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
PGEPIZI(図3Dに示したMagi1の-5位〜+1位の配列に対応する。配列番号25。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
EPGEPIZI(図3Dに示したMagi1の-6位〜+1位の配列に対応する。配列番号26。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
EPIZIG(図3Dに示したMagi1の-3位〜+2位の配列に対応する。配列番号27。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
GEPIZIG(図3Dに示したMagi1の-4位〜+2位の配列に対応する。配列番号28。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
PGEPIZIG(図3Dに示したMagi1の-5位〜+2位の配列に対応する。配列番号29。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
EPGEPIZIG(図3Dに示したMagi1の-6位〜+2位の配列に対応する。配列番号30。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
EVVZV(図3Dに示したPISTの-3位〜+1位の配列に対応する。配列番号31。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
FEVVZV(図3Dに示したPISTの-4位〜+1位の配列に対応する。配列番号32。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
EFEVVZV(図3Dに示したPISTの-5位〜+1位の配列に対応する。配列番号33。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
IEFEVVZV(図3Dに示したPISTの-6位〜+1位の配列に対応する。配列番号34。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
EVVZVA(図3Dに示したPISTの-3位〜+2位の配列に対応する。配列番号35。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
FEVVZVA(図3Dに示したPISTの-4位〜+2位の配列に対応する。配列番号36。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
EFEVVZVA(図3Dに示したPISTの-5位〜+2位の配列に対応する。配列番号37。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
IEFEVVZVA(図3Dに示したPISTの-6位〜+2位の配列に対応する。配列番号38。Zはリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログ)
本発明の基質ペプチドにおいて基準位置の残基はリン酸化チロシン又はリン酸化チロシンのアナログである。リン酸化チロシンのアナログの例はクマリン誘導体である。本発明の基質ペプチドを構成し得るクマリン誘導体の具体例は以下の化合物(WO 2007/014326を参照)である。
Figure 0005356282
当該化合物はpCAP(phosphocoumaryl-amino-propionic acid)と呼称される。当該化合物を含む基質ペプチドでは、その脱リン酸化を蛍光で検出できる。従って、簡便且つ効率的なアッセイが可能となる。
Ptprzの基質として機能することを条件として、様々な修飾を施すこともできる。換言すれば、本発明の基質ペプチドは修飾ペプチドであってもよい。本発明における「修飾ペプチド」とは、基本構造(基質ペプチドの機能を発揮する部位。典型的には、配列番号2〜6のいずれかの配列からなる部位)の部分的な置換や他の分子の付加などによって、少なくとも一部において基本構造と相違する構造の化合物をいう。当業者であれば、周知ないし慣用の手段を用いて置換体などの修飾体をデザインすることができる。また、かかるデザインに基づき、周知ないし慣用の手段を用いて目的の修飾体を調製し、その性質や作用を調べることも当業者には容易である。
ペプチド修飾体の例として、構成アミノ酸残基内の官能基が適当な保護基(アシル基、アルキル基、単糖、オリゴ糖、多糖など)によって保護されているもの、糖鎖が付加されているもの、N末端又はC末端が他の原子等で置換されることによってアルキルアミン、アルキルアミド、スルフィニル、スルフォニルアミド、ハライド、アミド、アミノアルコール、エステル、アミノアルデヒド等に分類される各種ペプチド誘導体、標識化ペプチド(例えばN末端がビオチン標識やFITC標識されたペプチド、蛍光色素で標識化されたペプチドなど)を挙げることができる。尚、保護基は、保護基を結合させるペプチド部位や使用する保護基の種類などに応じてアミド結合、エステル結合、ウレタン結合、尿素結合等によって連結される。
本発明の基質ペプチドは、公知のペプチド合成法(例えば固相合成法、液相合成法)を利用して製造することができる。リン酸化チロシンのアナログとしてpCAPを含む場合には、Bioorg. Med. Chem. Lett.. 15, 5142-5145, 2005を参考にして基質ペプチドを調製することができる。尚、天然に存在する場合にあっては、抽出、精製などの操作によって本発明のペプチドを調製することもできる。本発明のペプチドの取得源としては例えば、動物細胞(ヒトを含む)、植物細胞、体液(血液、尿等)等が想定される。
遺伝子工学的手法を用いて本発明のペプチドを調製してもよい。即ち、本発明のペプチドをコードする核酸を適当な宿主細胞に導入し、形質転換体内で発現されたペプチドを回収することにより本発明のペプチドを調製することもできる。回収したペプチドは必要に応じて精製される。回収したペプチドを適当な置換反応に供し、所望の修飾ペプチドに変換することもできる。
本発明の他の局面は、Ptprzの基質モチーフを明らかにしたという成果に基づき、Ptprz活性測定法を提供する。本発明のPtprz活性測定法はPtprz活性の評価に利用でき、Ptprz又はPtprz関連分子(Ptprzの基質分子や結合分子)の研究用ツールとして有用である。具体的には例えば、Ptprzの機能解明などに本発明のPtprz活性測定法を利用可能である。本発明のPtprz活性測定法では以下のステップを(1)及び(2)を行う。
(1)本発明の基質ペプチドに対して試料を作用させるステップ
(2)前記基質ペプチドの脱リン酸化を検出するステップ
ステップ(1)ではまず、本発明の基質ペプチドと試料を用意する。基質ペプチドに対して試料を作用させるため、通常は両者を同一の容器(マルチウェルプレートのウェル等)内に入れて接触させる。予め片方を固相化しておいてもよい。固相化は不溶性支持体などへの結合ないし吸着によって行うことができる。反応条件としては、Ptprzの酵素反応に適した条件が採用される。最適な条件は試料の種類などによって変動し得るが、当業者であれば予備実験を通して最適な条件を設定することができる。尚、本発明者らの検討の結果、Ptprzの至適反応pHとしてpH6.5〜7.0が見出された(後述の実施例を参照)。従って、特段の事情のない限り、当該pH条件を採用することが好ましい。温度条件については30℃前後が好ましい。
様々な試料を適用可能である。例えば、生体(ヒト又は非ヒト動物・植物、微生物)由来の試料(例えば血液、血清、リンパ液、脊髄液、骨髄液、組織抽出液、植物抽出液、細胞抽出液等)を採用することができる。また、Ptprz自体(あるいはその一部)又はPtprz類似分子(Ptprz様の酵素活性を有することが予想ないし期待される分子)を試料として用いることもできる。典型的には、試料としてPtprz(組換え体であってもよい)を採用する。尚、ヒトPtprzのアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列をそれぞれ配列番号43及び配列番号44に示す。
ステップ(1)に続くステップ(2)では、基質ペプチドの脱リン酸化を検出する。検出結果は、試料のPtprz酵素活性の算出に用いられる。このように基質ペプチドの脱リン酸化レベルを利用して試料のPtprz酵素活性を評価する。基質ペプチドの脱リン酸化を検出するための具体的な手法は、使用する基質ペプチドの種類に応じて適宜選択すればよい。リン酸化チロシン残基を含む基質ペプチドを用いた場合には、例えば、リン酸化チロシン特異的な抗体を用いた免疫学的手法によって基質ペプチドの脱リン酸化を検出することができる。また、pCAPを含む基質ペプチドを用いた場合には、蛍光によって簡便且つ迅速に基質ペプチドの脱リン酸化を検出できる。
本発明の更なる局面は、Ptprz活性測定法の応用ないし用途である、Ptprzの活性調節物質のスクリーニング法を提供する。本発明のスクリーニング法はPtprzの活性促進剤(典型的にはアゴニスト)又は活性抑制剤(典型的にはアンタゴニスト)を探索・同定する手段として有用である。本発明のスクリーニング法では以下のステップ(i)及び(ii)を行う。
(i)被験物質の存在下、本発明の基質ペプチドに対してPtprzを作用させるステップ
(ii)前記基質ペプチドの脱リン酸化を検出し、検出結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップ
ステップ(i)では被験物質、基質ペプチド及びPtprzを用意し、被験物質が存在する条件下、基質ペプチドに対してPtprzを作用させる。例えば、被験物質、基質ペプチド及びPtprzの全てを同一の容器(マルチウェルプレートのウェル等)内に入れることによってステップ(i)を実施する。但し、Ptprzが基質ペプチドに作用し得る状態が形成される限りにおいて、使用する容器、各要素の添加順序等は任意に選択・設定できる。尚、ステップ(i)の反応条件は上記Ptprz酵素活性測定法のステップ(1)の反応条件に準ずる。
被験物質としては様々な分子サイズの有機化合物又は無機化合物を用いることができる。有機化合物の例として核酸、ペプチド、タンパク質、脂質(単純脂質、複合脂質(ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、グリコシルグリセリド、セレブロシド等)、プロスタグランジン、イソプレノイド、テルペン、ステロイド、ポリフェノール、カテキン、ビタミン(B1、B2、B3、B5、B6、B7、B9、B12、C、A、D、E等)を例示できる。被験物質は天然物由来であっても、或いは合成によるものであってもよい。後者の場合には例えばコンビナトリアル合成の手法を利用して効率的なスクリーニング系を構築することができる。尚、植物抽出液、細胞抽出液及び培養上清などを被験物質として用いてもよい。また、既存の薬剤を被験物質としてもよい。
ステップ(ii)では基質ペプチドの脱リン酸化を検出し、検出結果に基づき被験物質の有効性を判定する。対照(基準)との比較によって被験物質の有効性を判定することが好ましい。対照として、被験物質の非存在下で本発明の基質ペプチドに対してPtprzを作用させた場合の検出結果を採用することができる。被物質が溶液もしくは混合液として存在するときは溶媒のみを作用させたものを対照にすることで判定結果の客観性、信頼性、正確性等が向上する。
ステップ(ii)における判定基準の具体例(a)及び(b)を以下に示す。
(a)被験物質の非存在下でPtprzを作用させた場合と比較して前記基質ペプチドの脱リン酸化レベルが高いときに、被験物質がPtprzの脱リン酸化作用を促進すると判断し、被験物質がPtprzの活性促進に有効であると判定する。
(b)被験物質の非存在下でPtprzを作用させた場合と比較して前記基質ペプチドの脱リン酸化レベルが低いときに、被験物質がPtprzの脱リン酸化作用を抑制すると判断し、被験物質がPtprzの活性抑制に有効であると判定する。
判定基準(a)を採用すると、被験物質のPtprz活性促進作用を評価できる。従って、Ptprz活性促進剤をスクリーニングすることを意図した場合に有効である。他方、判定基準(b)を採用した場合には、被験物質のPtprz活性抑制作用が評価されることになり、Ptprz活性抑制剤のスクリーニングが可能となる。
Ptprzの活性を促進する物質又はPtprzの活性を抑制する物質の評価方法について、あらあかじめ、基準となる促進物質や抑制物質が確保されている場合、その添加濃度(存在量)と脱リン酸化の検出結果との関係を求めておき、これに対して新規な被験物質の検出結果を比較することでも可能である。この場合、Ptprzの活性を促進する物質又はPtprzの活性を抑制する物質の活性は、基準物質との相対値として評価される。
基質ペプチドの脱リン酸化の検出を経時的に行い、試験開始からの経過時間の異なる複数の検出結果を得ることにしてもよい。この場合には、得られた複数の検出結果に基づき被験物質の有効性を判定する。このような経時的な検出及び判定によれば、被験物質の作用に関して有益な多くの情報(例えば持続時間や、作用メカニズムの理解に役立つ情報)を得ることができる。
被験物質の添加濃度が異なる複数の試験群を設定してステップ(i)を行うことにしてもよい。この場合、ステップ(ii)では各試験群の検出結果を比較して被験物質の有効性を判定する。このようにすれば、例えば濃度依存性など、被験物質の有効性に関してより詳細な情報を得ることができる。
本発明のスクリーニング法によって得られる物質の有用性の例を示すと、(1)Ptprzが神経シナプス可塑性の制御を介する記憶・学習に関与することから、例えば記憶・学習改善する作用、(2)Ptprzがモノアミン神経機能制御に関与することから、例えばうつ病、統合失調症、薬物依存症を改善する作用、(3)実験的自己免疫性脳髄炎における重篤化へのPtprzの寄与から、多発性硬化症の回復促進作用、(4)ヘリコバクター・ピロリ菌が産生する毒素蛋白質VacAによる胃粘膜損傷の必須受容体としてPtprzが関与することから、例えば胃粘膜保護作用、(5)グリオブラストーマの悪性化へPtprzが寄与することから、抗腫瘍抑制作用、(6)痛み感受性へPtprzが関与することから、鎮痛作用である。選択された物質が十分な薬効を有する場合には、当該物質をそのまま医薬の有効成分として使用することができる。一方で十分な薬効を有しない場合には化学的修飾などの改変を施してその薬効を高めた上で、医薬の有効成分として使用することができる。勿論、十分な薬効を有する場合であっても、更なる薬効の増大を目的として同様の改変を施してもよい。
受容体型チロシンホスファターゼPtprzは複数のタンパク質分子を基質として認識する。基質分子には通常、複数のリン酸化チロシンが存在する。Ptprzの脱リン酸サイトの同定を目指し、以下の検討を行った。
1.材料及び方法
(1)プラスミド
ラット由来Git1 (G protein-coupled receptor kinase-interactor 1)、マウス由来Magi1 (membrane associated guanylate kinase, WW and PDZ domain containing 1)及びマウス由来PIST (protein interacting specifically with Tc10)の各分子を哺乳類細胞に発現させるためのプラスミドpFLAG-Git1及びpFLAG-Magi1を文献(Methods, 35, 54-63, 2005)記載の方法に従って調製した。また、これらのプラスミドを鋳型にして、特定のチロシン残基をフェニルアラニンに置換した発現プラスミドをQuickChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社)を用いて作製した。
(2)細胞培養及びプラスミド導入
HEK293T細胞は10%正常牛血清を含むダルベッコ(DMEM)培地を用いて37℃、5% CO2条件下で培養した。HEK293T細胞への発現プラスミド導入は常法のリン酸カルシウム法で行った。
(3)バナジン酸処理
HEK293T細胞にプラスミドを導入して36時間後、培地を無血清培地であるOPTI-MEM(インビトロジェン社)に交換し、Na3VO4(バナジン酸ナトリウム、シグマ社)を終濃度100μMで加え、20分間静置し、基質分子のリン酸化を誘導した。バナジン酸は非特異的にチロシンホスファターゼを阻害する。
(4)タンパク質抽出及び免疫沈降
バナジン酸処理後、培養液を除去した培養細胞にプロテアーゼインヒビターカクテル(complete EDTA-free, ロッシュ社)を含む細胞溶解バッファー(10 mM Tris-HCl, pH7.4, 150 mM NaCl, 1% TritonX100, 1 mM Na3VO4, 10 mM NaF)を加え、氷上で30分間溶解、10,000 gで15分間の遠心分離を行い、細胞抽出液を得た。この細胞抽出液に抗FLAG抗体結合ビーズ(ANTI-FLAG M2 agarose, シグマ社)を加え、4℃で1時間混合、FLAGタグタンパク質をビーズ上に吸着させた。ビーズへの非特異的吸着は、TBST (10 mM Tris-HCl, pH7.4, 150 mM NaCl, 0.01% Tween 20)で十分に洗浄した。pFLAG-Git1及びpFLAG-Magi1由来の発現タンパク質には、FLAGタグがN末端に付加されている。
(5)ウエスタンブロット解析
FLAG-Git1タンパク質及びFLAG-Magi1タンパク質のチロシンリン酸化の程度は、ウエスタンブロット法で解析した。SDS-PAGE用のサンプルバッファーをFLAGタンパク質を吸着したビーズに加え、100℃で5分間の加熱処理で溶出させた。SDS-PAGEによる分離後、セミドライ法によってPVDF膜上に転写した。この転写膜を1%BSAを含むTBSTバッファーで1時間ブロッキングした後、PVDF膜上に保持されたタンパク質をリン酸化チロシンを認識するPY20モノクローナル抗体に西洋ワサビペルオキダーゼ(HRP)を結合させた検出用抗体(GE healthcare社)と反応させた。FLAGタンパク質の検出にはFLAG M2モノクローナル抗体(シグマ社)とHRP結合抗マウス抗体(検出用2次抗体、GEヘルスケア社)を用いた。HRPの発色基質にはECL plus(GEヘルスケア社)を用いた。化学発光の検出にはX線フィルム(コダック社)を用いた。
(6)Git1タンパク質及びMagi1タンパク質の脱リン酸化アッセイ
グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)とラットPtprzの細胞内全領域の融合タンパク質であるGST-PtprzICRを文献(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 2001, 6593-6598)に記載されている方法で調製した。上述の免疫沈降ビーズサンプルをPTPアッセイ用バッファー(25 mM HEPES, pH 6.8, 50 mM NaCl, 5 mM EDTA, 1 mM DTT, 50μg/ml 牛血清アルブミン)で平衡化した後、ウエスタンブロットで一定のリン酸化シグナルを与えるビーズ量を算出・調整した。この免疫沈降ビーズ懸濁液20μlに1μgのGST-PtprzICRもしくはGST(陰性対照)を加え、37℃で20分間の脱リン酸化反応を行った。反応停止はSDS-PAGEサンプルバッファーの添加によって行った。脱リン酸化反応の陽性コントロールとして、1 mUのアルカリホスファターゼ(AP, 東洋紡社)を用いた。APを酵素とする場合、免疫沈降ビーズサンプルは、APアッセイ用バッファー(100 mM Tris-HCl, pH 9.5, 00 mM NaCl, 50 mM MgCl2, 50μg/ml 牛血清アルブミン)で平衡化しておいた。
(7)人工基質ペプチドの合成
Ptprzの脱リン酸化サイトと同定されたGit1の554番目のチロシン残基(相対位置0)から、アミノ基(N)末端側の4残基(相対位置-4から-1)、カルボキシル(C)末端側の2残基(相対位置+1から+2)からなる人工ペプチド(7アミノ酸残基)を合成した。脱リン酸化をモニターするために、リン酸化チロシンに代えて、これを模倣するアミノ酸誘導体phosphocoumaryl-amino-propionic acid (pCAP)を導入した人工ペプチド(pCAPペプチド)を合成した。pCAPは脱リン酸化されると蛍光を生じる化合物である(Mitara. S., and Barrios, AM., Bioorg. Med. Chem. Lett.. 15, 5142-5145, 2005、WO 2007/014326)。pCAP誘導体の合成及びpCAP導入ペプチドの合成は文献(Bioorg. Med. Chem. Lett.. 15, 5142-5145, 2005 )に基づき行った。合成したペプチドは、全て逆相クロマトグラフィー法によって精製した(純度90%以上)。
(8)インビトロペプチド脱リン酸化アッセイ
塩強度を変化させずpH条件を検討できる3コンポーネントバッファー(50 mM, Tris 50 mM Bis-Tris, 100 mM acetate)を基本バッファーとした(J. Bio. Chem. 275, 18201-18209,2001及びMethods in Enzumology, 87, 405-426)。測定当日、目的pHに調整済みの基本バッファーにDTT (5 mM)及び Briji35(0.01 %)を括弧内の終濃度で加え、アッセイ用バッファーとした。これに終濃度50 μMで各pCAPペプチドを加え、使用時まで遮光・氷上で保存した。本基質溶液は蛍光測定用の石英キュベットにいれた後、蛍光分光光度計(F-4500,日立)にセット、測定チャンバー内の温度(30℃)と平衡化させるため10分間以上静置した。十分に温度が平衡化した後、前述のGST-PtprzICRを終濃度5 nMで加え、ピペッティングにより混合し、脱リン酸化反応を開始させた。蛍光測定は文献(AM., Bioorg. Med. Chem. Lett.. 15, 5142-5145, 2005 )に基づき、励起波長(334 nm)及び放出波長(460nm)で行った。脱リン酸化レベルは、pCAP残基の脱リン酸化に伴う蛍光強度の増加速度で評価した。
2.結果及び考察
(1)Git1及びMagi1におけるPtprzの脱リン酸化サイトの同定
Git1、Magi1及びPISTは、酵母Substrate-trapping systemと名付けた酵母スクリーングシステムを用い、Ptprzの基質として単離された(Methods, 35, 54-63, 2005)。これら分子中には複数個のチロシンリン酸化サイトが存在するとされている(Phospho Site Plus, http://www.phosphosite.org)が、Ptprzの脱リン酸化サイトは不明であった。Git1においてリン酸化修飾を受ける可能性のある10個のチロシン残基(Y)について、リン酸化修飾を受けないようにフェニルアラニン(F)に置換したYF変異体を発現するプラスミドを作製した(図1A)。これらプラスミドをHEK細胞に導入し、Git1及びYF変異体を発現させ、バナジン酸処理でリン酸化を誘導した。その結果、野生型Git1(Git1-WT)が顕著にリン酸化される条件下において、10個全てのチロシン残基をフェニルアラニン置換すると(Git1Y10F)リン酸化が検出されず、392、554又は607番目をチロシン残基に戻すとリン酸化されることが判明した(図1B)。この結果より、Git1の主要なリン酸化サイトは392番目、554番目、607番目のチロシン残基と判断した。
免疫沈降で得た各リン酸化Git1タンパク質に、Ptprzの細胞内全領域を発現・精製した組み換えPTP酵素を加えた。その結果、Git1-Y9F-Y554タンパク質について、顕著なリン酸化レベルの低下が認められ(図1C)、554番目のチロシン残基がPtprzの基質サイトと判断された。
Magi1については、最初にカルボキシ末端側の領域を欠落した変異体を作製し(図2A)、Ptprzの脱リン酸化領域の絞り込みを行った。その結果、789番目以降を欠く変異体(Magi1-ΔC3)はチロシンリン酸化されるにもかかわらず、Ptprz酵素による脱リン酸化を受けないことが判明した(図2B)。更にこの領域内でリン酸化され得る829番目と858番目について、YF変異体を作製したところ、Ptprzによる脱リン酸化の程度は、858番目のチロシン残基を置換すると有意に低下しており、この858番目のチロシン残基がPtprzの脱リン酸化サイトと判断された。
(2)Ptprzの基質モチーフの同定
Git1の配列をもとに人工基質ペプチドを調製し、Ptprzの酵素アッセイ系の構築を行った。アッセイ条件を検討した結果、Ptprzの酵素としての至適pHはpH6.5-7.0と非常に狭いことが判明した(図3A)。このことは、Ptprzの酵素アッセイ系としては、最も酵素活性が高いpH6.5が望ましく、またpH変化を引き起こす化合物や操作はPtprzの酵素活性に強い影響を及ぼすことを示している。
同定したGit1の脱リン酸化サイト及びその近傍配列を含む人工ペプチド(pCAPペプチド)を用い、Ptprzの良好な基質モチーフを見出すことを試みた。Git1本来の配列をもつ基質ペプチドが脱リン酸化される程度を基準(100)とし、それぞれの置換型ペプチド(-4〜-1、+1にアミノ酸置換を施したもの)の脱リン酸化の程度を評価したところ、異なる性質のアミノ酸に置換したペプチドでは脱リン酸化レベルが低下した(図3B)。また、この結果からPtprzの良好な基質ペプチド配列が導かれた(図3C)。尚、-2位については、A(アラニン)から酸性アミノ酸であるD(アスパラギン酸)への置換によって僅かではあるが活性の低下を認めたことからD(アスパラギン酸)及びE(グルタミン酸)以外のアミノ酸残基が好ましいといえる。Ptprzの良好な基質サイトが同定された野生型Git1の配列(最上段)、Magi1の脱リン酸化サイト、及び既に文献(Neurosci letts, 399, 33-38, 2006)で報告されているp190 RhoGAPの脱リン酸化サイトをアライメントすると3者間に高い相同性が認められた(図3D)。本発明で提示する基質モチーフはこれら複数の基質分子の配列を内包するものであり、Ptprzの活性評価用の基質ペプチド配列としての本基質モチーフの有用性を科学的に裏付けるものと判断される。またPtprzによって脱リン酸化されることは既知であるものの、脱リン酸化サイトは不明であったPISTについては、その配列中にPtprzの基質サイトとして合致する配列が存在することも判明した(図3D)。
3.まとめ
以上の通り、Ptprzの良好な基質となるモチーフを決定することができた。基質モチーフの情報は、Ptprzの活性を測定するためのアッセイ法やPtprzの活性促進剤又は活性雄抑制剤をターゲットとしたスクリーニング法の構築に有用である。
本発明の活性測定法、スクリーニング法は、Ptprzの機能異常に起因する各種疾患の予防・治療薬の探索・同定手段として有用である。また、Ptprzの研究用(例えば機能解明用)のツールとしても有用である。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。

Claims (14)

  1. 以下の配列、即ち
    (a)配列番号3で表される基質モチーフを有し、該基質モチーフからなる配列のアミノ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結されるとともにカルボキシ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結され、かつPtprz基質活性を維持するアミノ酸配列、
    (b)配列番号5で表される基質モチーフを有し、該基質モチーフからなる配列のアミノ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結されるとともにカルボキシ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結され、かつPtprz基質活性を維持するアミノ酸配列、
    (c)配列番号6で表される基質モチーフを有し、該基質モチーフからなる配列のアミノ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結されるとともにカルボキシ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結され、かつPtprz基質活性を維持するアミノ酸配列、
    よりなる群から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなる基質ペプチドを含む、Ptprz活
    性測定用試薬。
  2. 前記基質ペプチドが、配列番号12〜14、28〜30、36〜38のいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項1に記載のPtprz活性測定用試薬。
  3. 前記基質ペプチドが、前記(b)及び(c)よりなる群から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項1に記載のPtprz活性測定用試薬。
  4. 前記基質ペプチドのアミノ酸配列中におけるリン酸化チロシンのアナログが、クマリン誘導体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のPtprz活性測定用試薬。
  5. 前記リン酸化チロシンのアナログがホスホクマリン−アミノ−プロピオン酸(phosphocoumaryl-amino-propionic acid)である、請求項4に記載のPtprz活性測定用試薬。
  6. 以下のステップ(1)及び(2)を含む、Ptprz活性測定法:
    (1)以下の配列、即ち
    (a)配列番号3で表される基質モチーフを有し、該基質モチーフからなる配列のアミノ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結されるとともにカルボキシ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結され、かつPtprz基質活性を維持するアミノ酸配列、
    (b)配列番号5で表される基質モチーフを有し、該基質モチーフからなる配列のアミノ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結されるとともにカルボキシ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結され、かつPtprz基質活性を維持するアミノ酸配列、
    (c)配列番号6で表される基質モチーフを有し、該基質モチーフからなる配列のアミノ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結されるとともにカルボキシ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結され、かつPtprz基質活性を維持するアミノ酸配列、
    よりなる群から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなる基質ペプチドに対して試料を作用させるステップ;
    (2)前記基質ペプチドの脱リン酸化を検出するステップ。
  7. 前記試料がPtprz又はその一部であってPtprz酵素活性を有する分子である、請求項6に記載のPtprz活性測定法。
  8. 前記ステップ(1)をpH6.5〜7.0の条件下で実施する、請求項6又は7に記載のPtprz活性測定法。
  9. 前記基質ペプチドが、前記(b)及び(c)よりなる群から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項6〜8のいずれか一項に記載のPtprz活性測定法。
  10. 以下のステップ(i)及び(ii)を含む、Ptprz活性調節物質のスクリーニング法:
    (i)被験物質の存在下、以下の配列、即ち
    (a)配列番号3で表される基質モチーフを有し、該基質モチーフからなる配列のアミノ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結されるとともにカルボキシ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結され、かつPtprz基質活性を維持するアミノ酸配列、
    (b)配列番号5で表される基質モチーフを有し、該基質モチーフからなる配列のアミノ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結されるとともにカルボキシ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結され、かつPtprz基質活性を維持するアミノ酸配列、
    (c)配列番号6で表される基質モチーフを有し、該基質モチーフからなる配列のアミノ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結されるとともにカルボキシ末端に1〜5個のアミノ酸残基が連結され、かつPtprz基質活性を維持するアミノ酸配列、
    よりなる群から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなる基質ペプチドに対してPtprz又
    はその一部であってPtprz酵素活性を有する分子を作用させるステップ;
    (ii)前記基質ペプチドの脱リン酸化を検出し、検出結果に基づき前記被験物質の有効性を判定するステップ。
  11. 前記ステップ(i)をpH6.5〜7.0の条件下で実施する、請求項10に記載のスクリーニング法。
  12. 前記基質ペプチドが、前記(b)及び(c)よりなる群から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項10又は11に記載のスクリーニング法。
  13. 前記被験物質の非存在下でPtprz又はその一部であってPtprz酵素活性を有する分子を作用させた場合と比較して前記基質ペプチドの脱リン酸化レベルが高いときに、前記被験物質がPtprzの脱リン酸化作用を促進すると判断し、前記被験物質がPtprzの活性促進に有効であると判定する、請求項10〜12のいずれか一項に記載のスクリーニング法。
  14. 前記被験物質の非存在下でPtprz又はその一部であってPtprz酵素活性を有する分子を作用させた場合と比較して前記基質ペプチドの脱リン酸化レベルが低いときに、前記被験物質がPtprzの脱リン酸化作用を抑制すると判断し、前記被験物質がPtprzの活性抑制に有効であると判定する、請求項10〜12のいずれか一項に記載のスクリーニング法。
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