本発明の封止治具についての説明に先立ち、図3及び図4を参照して、本発明の封止治具を用いて封止する方法(以下、「本発明の封止方法」とも略す。)について説明する。本発明の封止方法としては、充填物を充填した筒状ケーシングを、本発明の封止治具を用いて封止する方法である限り特に制限されないが、充填物を充填した筒状ケーシング(図3及び図4の「3」参照)内に、本発明の封止治具におけるスペーサ(以下、単に「本発明におけるスペーサ」とも表示する。)(図3及び図4の「1」参照)を挿入して、その大径側の円形端面を充填物に当接させ、次いで、筒状ケーシングの開放側を、本発明の封止治具におけるリング(以下、単に「本発明におけるリング」とも表示する。)(図3及び図4の「2」参照)の大内径側から先にそのリング内縁に挿通し、本発明におけるリングを、図3及び図4上図の2から1の方向に移動させて、ケーシング部材を介して本発明におけるスペーサに近接させた後、その筒状ケーシングの開放側をシャッタ(図3及び図4の「4」参照)に挿通する(状態A)。なお、この状態においては、本来は、本発明のリングはケーシング部材を介して本発明におけるスペーサに近接しているが、これらリングやスペーサと、筒状ケーシングとの位置関係を明確にするために、便宜上、リングとスペーサが離れている状態で図3(斜視図)及び図4上図(側面図)に示す。
上記の状態Aの状態において、筒状ケーシングの開放側の端部を引っ張り手段のフック等に係合し、シャッタにより、筒状ケーシング部材を介してスペーサを相対的に押動する。すなわち、筒状ケーシングの開放端部を、エアシリンダー等の図示しない引っ張り手段に係合した後、かかる引っ張り手段によって、筒状ケーシングの開放端部を、筒状ケーシングの長手方向であって、該開放端部が非開放端部及びシャッタから離れる方向に強く引っ張っていくと、筒状ケーシングがその引っ張り方向に移動していき、シャッタにより、筒状ケーシング部材を介してスペーサが相対的に押圧されて、筒状ケーシング内の充填物の長手方向を圧縮する力が加えられ、長手方向の太さが略一定となった密な状態となり、筒状ケーシングの内圧が高まっていく。このようにシャッタが筒状ケーシング部材を介してスペーサを相対的に押圧する際、リングはシャッタに近接し、また、筒状ケーシング部材を介してスペーサにも近接しているが、筒状ケーシング部材を介してスペーサに嵌合はしていないため、筒状ケーシングの引っ張りを妨げることはない。すなわち、筒状ケーシングの内圧によって、スペーサが充填物に接している側から接してない側へ押される圧力は、筒状ケーシング部材を介してそのほとんどがリングではなくシャッタが支持するように、スペーサの短円柱部分の軸方向の厚さが、リングの短円筒形状の穴の軸方向の長さよりも長くなっている。
前述したように、筒状ケーシングの開放側の端部を引っ張って、シャッタにより、筒状ケーシング部材を介してスペーサを相対的に押圧し、筒状ケーシングの長手方向の太さが略一定となった密な状態とした後、筒状ケーシングの開放端部を引っ張り手段から外し、シャッタから抜くと、筒状ケーシングの内圧によってスペーサが筒状ケーシング部材を介してリングに相対的に強く押し付けられて、スペーサが筒状ケーシング部材を介してリングに嵌合し、筒状ケーシングが封止される。なお、上記充填物が肉製品や魚肉製品の原料である場合は、上記引っ張り手段として、例えば、株式会社ラディクス製のプレッシャ・クリッパーE3に含まれる引っ張り手段等を好適に例示することができる。肉製品や魚肉製品の原料を充填した、通気・通水性及び伸縮性を有するファイブラスケーシング等の筒状ケーシングは、そのまま燻煙や湯煮することができる。燻煙や湯煮すると上記原料は膨張するが、本発明におけるスペーサとリングとは外れることなく、封止された状態を維持することができる。その後、筒状ケーシングを冷却すると、本発明におけるリングは本発明のスペーサから容易に取り外すことができる。筒状ケーシング内から、燻煙や湯煮された肉製品や魚肉製品を取り出し、次の製造工程へとスムーズに進むことができる。
次に、本発明の封止治具についてより詳細に説明する。本発明の封止治具としては、充填物を充填した筒状ケーシングを封止する、スペーサとリングとを備えた封止治具であって、上記スペーサは、逆截頭円錐状部分と、該部分の小径側に同軸となるように連接する短い円柱部分(短円柱部分)とを備えた逆截頭円錐円柱スペーサ部材であり、上記リングは、上記スペーサにケーシング部材を介して嵌合する逆截頭円錐形状及びそれに連接する短い円筒形状(短円筒形状)の嵌入穴を備えている逆截頭円錐円筒リング部材であることを特徴とする封止治具である限り特に制限されるものではなく、上記充填物としては、特に制限されないが、ハムやソーセージ等の肉製品や魚肉製品の原料や、チーズを好適に例示することができ、中でも、ハム製品の原料であるハム原木をより好適に例示することができる。また、筒状ケーシングの種類としては、筒状のケーシングである限り特に制限されないが、伸縮性を備えているものが好ましく、充填物が肉製品や魚肉製品の原料や、チーズである場合は、水分及び燻煙の透過度が高く、優れた強度と高い伸縮性を備えていることから、ファイブラスケーシングを特に好適に例示することができる。筒状ケーシングの厚みとしては、充填物の種類や、該充填物を充填した筒状ケーシングに施す予定の処理内容等に応じて適宜調整することができる。
上記の本発明におけるスペーサとしては、逆截頭円錐状部分と、該部分の小径側に同軸となるように連接する短円柱部分とを備えた逆截頭円錐円柱スペーサ部材である限り特に制限されず、例えば、一方の大径側の円形端面と他方の小径側の円形端面が平行であり、前記大径側の円形端面から前記小径側の円形端面に至るまで、同軸となるように構成されており、前記大径側の円形端面から前記小径側の円形端面へ至る前記軸の方向に向かって、先細状となるように傾斜するテーパ外周面を持つ略円錐台状部分と、その略円錐台状部分の先細側の上面(連接面)全体に延設して、該上面から前記小径側の円形端面にかけて、略円柱状の部分とを備えており、また、上記外周面が、筒状ケーシング部材を介して、上記リング内縁側空間に嵌合するスペーサ部材を例示することができる。
本発明におけるスペーサの逆截頭円錐状部分(略円錐台状部分)の外周面としては、逆截頭円錐状部分の大径側から小径側に向かう軸方向に対して先細状に傾斜するテーパ外周面であって、この外周面は軸方向に対してわずかな凹凸を有する湾曲面としていてもよいが、本発明のスペーサを側面方向から見た場合に、テーパ外周面が直線状に傾斜(円錐面)していることが好ましい。直線状に傾斜している場合は、上記の「略円錐台状部分」は、「円錐台状」となる。上記テーパ外周面のテーパ角度としては、筒状ケーシングを封止し得る限り特に制限されないが、逆截頭円錐状部分の頂角が、10°〜60°の範囲内、好ましくは15°〜50°の範囲内、より好ましくは20°〜40°の範囲内となるようにすることが、封止力と、ケーシング内圧の上昇の程度との適度なバランスが得られる観点から好ましい。ただし、どの程度のケーシング内圧の上昇を適度とするか、また、どの程度の封止力を適度とするかは、充填物の種類や粘度、筒状ケーシングの内径や長手方向の長さ等に応じて変わるため、それらに応じてテーパ角度を適宜調節することが好ましい。例えば、充填物が形状保持力の低いもの(例えば、肉製品等の原料であって、高含水率のもの)である場合は、ケーシング内圧の上昇の程度が比較的大きめとなるように(ケーシングの開放側端部を引っ張り手段によって引っ張る距離が長めとなるように)、上記の頂角を狭目として所望の形状が形成されるようにすることが好ましく、充填物が形状保持力の高いもの(例えば、肉製品等の原料であって、低含水率のもの)である場合は、ケーシング内圧の上昇の程度が比較的小さめとなるように(ケーシングの開放端部を引っ張り手段によって引っ張る距離が短めとなるように)、上記の頂角を広目として、より強い封止力が得られるようにすることが好ましい。なお、逆截頭円錐状部分の頂角とは、逆截頭円錐状部分の側面図において、外周面を表す2本の線分を先細方向に延長していき、交わった部分の内角を意味する。より具体的に述べると、本発明のスペーサを側面方向から見た場合に、外周面を表す線分が、逆截頭円錐状部分の小径側から大径側に向かう軸方向に対してX°の内角を有している場合、その逆截頭円錐状部分の頂角は2×X°となる。
本発明におけるスペーサの上記逆截頭円錐状部分の小径側の円形端面(略円錐台状部分の先細側と円柱部分との連接面)の直径は通常、短円柱部分の円形端面(スペーサの小径側の円形端面)の直径と同径に(短円柱形状に)構成されるが、筒状ケーシングを封止し得る限り、上記逆截頭円錐状部分の大径側の円形端面(スペーサの大径側の円形端面)の直径より短い範囲内において、適宜変更し得る。また、スペーサの短円柱部分の端面(スペーサの小径側の円形端面)の直径についても、筒状ケーシングを封止し得る限り、上記逆截頭円錐状部分の大径側の円形端面(スペーサの大径側の円形端面)の直径より短い範囲内において、適宜変更し得る。なお、上記連接面の直径と、短円柱部分の端面(スペーサの小径側の円形端面)の直径との大小関係によって、本発明におけるスペーサの短円柱部分(略円柱状の部分)は、上記連接面を底面とする円錐台状となったり、上記連接面を上面とする円錐台状となったりすることとなる。
本発明におけるスペーサの逆截頭円錐状部分の大径側の円形端面(スペーサの大径側の円形端面)の直径としては、封止する筒状ケーシング内に、本発明におけるスペーサを入れることができる限り特に制限されないが、筒状ケーシング内の充填物を的確に押さえるためには、筒状ケーシングの内径と同程度か少し長い程度とすることが好ましい。
本発明におけるスペーサの軸方向の厚さとしては、筒状ケーシングを封止し得る限り、特に制限されないが、より優れた封止力を得る強度の観点から、材質に応じて適宜設定することができる。また、本発明におけるスペーサの逆截頭円錐状部分(略円錐台状部分)と短円柱状部分(略円柱状部分)の、スペーサの軸方向の厚さの比としては、筒状ケーシングを封止し得る限り特に制限されないが、より優れた封止力を得る観点から、例えば、2:1〜1:2の範囲内で適宜選択することができる。また、スペーサの短円柱部分の軸方向の厚さは、リングの短円筒形状の穴の軸方向の長さよりも長いことが好ましい。このような構成であると、シャッタが筒状ケーシング部材を介してスペーサを相対的に押圧する際に、筒状ケーシングの内圧によって、スペーサが充填物に接している側から接してない側へ押される圧力は、筒状ケーシング部材を介してそのほとんどがリングではなくシャッタが支持することとなり、スペーサとリングが嵌合せずに筒状ケーシングをスムーズに引っ張ることができるからである。
なお、本発明におけるスペーサの逆截頭円錐状部分の大径側の円形端面(スペーサの大径側の円形端面)や、短円柱部分の円形端面(スペーサの小径側の円形端面)等は、通常、面一の平面として形成されるが、多少の凹凸を有する湾曲面等とすることができる。特に、本発明におけるスペーサの逆截頭円錐状部分の大径側の円形端面は、充填物に接して製品端部の形状に影響を与える場合があるので、そのような場合は、製品端部が好ましい形状となるように該円形端面の表面の形状を適宜変更することが好ましく、例えば該円形端面を平面とすると、スライス製品を製造する場合は歩留まりが向上する点で好ましく、また、半円球状等の凹部を設けると、製品端部を半円球状等とすることができる点で好ましい。また、スペーサの大径と同径の円柱状部分を逆截頭円錐状部分の軸と同軸となるように、逆截頭円錐状部分の軸方向であって、小径側方向とは反対の方向に向かって延設することもできる。
本発明におけるスペーサの材質としては、筒状ケーシングを封止し得る限り特に制限されないが、より優れた封止力を得る観点から、ポリマー樹脂を好適に例示することができ、中でもポリアセタール樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の硬質樹脂をより好適に例示することができ、中でもポリプラスチックス社製のポリアセタール樹脂製品であるジュラコン(登録商標)を特に好適に例示することができる。
上記の本発明におけるリングとしては、上記スペーサにケーシング部材を介して嵌合する逆截頭円錐形状及びそれに連接する短円筒形状の嵌入穴を備えている逆截頭円錐円筒リング部材である限り特に制限されず、例えば、一方の端部の大内径側の円周と他方の端部の小内径側の円周が平行であり、前記大内径側の円周から前記小内径側の円周に至るまで、同軸となるように構成された空間をリング内縁側に持ち、前記リング内縁側空間は、前記大内径側の円周から前記小内径側の円周へ至る前記軸の方向に向かって、先細状となるように傾斜するテーパ内周面を持つ略円錐台状の内縁側空間と、その略円錐台状空間の先細側の上面全体から前記小内径の円周にかけて、略円筒状の内縁側空間とを備えており、上記スペーサの外周面が、筒状ケーシング部材を介して、上記リング内縁側空間に嵌合するリング部材を例示することができる。
本発明におけるリングの逆截頭円錐形状の嵌入穴の内周面(略円錐台状の内縁側空間の内周面)としては、逆截頭円錐形状の嵌入穴の大内径側から小内径側に向かう軸方向に対して先細状に傾斜するテーパ内周面であって、この内周面は軸方向に対してわずかな凹凸を有する湾曲面としていてもよいが、本発明のリングを側面方向から見た場合に、テーパ内周面が直線状に傾斜(円錐面)していることが好ましい。直線状に傾斜している場合は、上記の「略円錐台状の内縁側空間」は、「円錐台状の内縁側空間」となる。上記テーパ内周面のテーパ角度としては、筒状ケーシングを封止し得る限り特に制限されないが、逆截頭円錐形状の頂角が、10°〜60°の範囲内、好ましくは15°〜50°の範囲内、より好ましくは20°〜40°の範囲内となるようにすることが、封止力と、ケーシング内圧の上昇の程度との適度なバランスが得られる観点から好ましい。該頂角の意味は、前述したのと同様である。なお、リングの上記テーパ内周面のテーパ角度と、スペーサの上記外周面のテーパ角度とは、筒状ケーシングを封止し得る限り完全に一致している必要はないが、より優れた封止力を得る観点から、一致していることが好ましい。
本発明におけるリングの上記逆截頭円錐形状の嵌入穴の小内径側の円周(略円錐台状空間の先細側の上面)の直径は通常、短円筒形状の嵌入穴の小内径側の円周(リング端部の小内径側の円周)の直径と同径に(短円筒形状に)構成されるが、筒状ケーシングを封止し得る限り、上記逆截頭円錐形状の嵌入穴の大内径側の円周(リングの大内径側の円周)の直径より短い範囲内において、適宜変更し得る。また、逆截頭円錐形状の嵌入穴と連接していない側の円周(リングの小内径側の円周)の直径についても、筒状ケーシングを封止し得る限り、上記逆截頭円錐形状の嵌入穴の大内径側の円周(リングの大内径側の円周)の直径より短い範囲内において、適宜変更し得る。なお、上記上面の直径と、短円筒形状の嵌入穴の小内径側の円周(リング端部の小内径側の円周)の直径との大小関係によって、本発明におけるリングの短円筒形状の嵌入穴(内縁側空間)は、上記上面を底面とする円錐台状となったり、上記上面を上面とする円錐台状となったりすることとなる。
本発明におけるリングの短円筒形状の嵌入穴の小内径側の円周(リング端部の小内径側の円周)の直径としては、筒状ケーシングを封止し得る限り特に制限されないが、より優れた封止力を得る観点から、本発明のスペーサが、筒状ケーシング部材を介して、上記リングの嵌入穴(内縁側空間)に嵌合するように配慮した上で、該筒状ケーシングの外周直径より少し大きい程度とすることが好ましい。また、本発明におけるリングの逆截頭円錐形状の嵌入穴の大内径側の円周(リングの大内径側の円周)の直径としては、特に制限がなく、筒状ケーシングを封止し得る限り、短円筒形状の嵌入穴の小内径側の円周(リング端部の小内径側の円周)よりも長い範囲内において、適宜変更し得る。
本発明におけるリングの軸方向の厚さとしては、筒状ケーシングを封止し得る限り、特に制限されないが、本発明におけるスペーサの軸方向の厚さに合わせて適宜設定することができる。また、本発明におけるリングの逆截頭円錐形状の嵌入穴(略円錐台状の内縁側空間)と、短円筒形状の嵌入穴(略円筒状の内縁側空間)の、リングの軸方向の厚さの比としては、筒状ケーシングを封止し得る限り特に制限されないが、より優れた封止力を得る観点から、例えば、2:1〜1:2の範囲内で適宜選択することができる。
なお、本発明におけるリングには、例えば、リングの外周部分などの、リングの嵌入穴内周面(内縁側)以外の部分について、筒状ケーシングを封止し得る範囲内でいかなる形状とすることもできる。
本発明におけるリングの材質としては、筒状ケーシングを封止し得る限り特に制限されないが、より優れた封止力を得る観点から、金属を好適に例示することができ、中でも錆びにくい等の利点のあるステンレスを特に好適に例示することができる。
本発明における上記リングの嵌入穴(リング内縁側空間)には、ケーシング部材を介してスペーサ(の外周面)を強く嵌合させることができる。ケーシング部材を介さずに、本発明におけるリングの嵌入穴に、本発明におけるスペーサを挿入した場合の、スペーサ外周面とリングの嵌入穴との隙間の大きさ等は、用いる筒状ケーシングの厚み等の条件に左右されるため一概にはいえず、封止力を確認しながら適宜、調節することができる。
本発明の封止治具の作用機作の詳細は明らかではないが、後述の実施例の実験等の結果を考慮すると、「本発明におけるスペーサのテーパ外周面と、本発明におけるリングの嵌入穴のテーパ内周面の組合せによるクサビの効果」と、「本発明におけるスペーサの短円柱部分(略円柱状部分)と本発明におけるリングの短円筒形状の嵌入穴(内縁側空間の略円筒状部分)とが、ケーシング部材を介して嵌合することにより生じる強い抵抗力によるロック効果」とが相乗的に作用することによって、本発明の封止治具の非常に優れた封止力が得られると考えられた。また、本発明者らが行なった様々な実験によると、後述の比較例封止治具3のように、ケーシング部材を介してスペーサとリングが接する面がテーパ面のみである場合は、スペーサの中心軸とリングの中心軸がずれやすく、それを解消するには、テーパの頂角をより鋭角にするなどの必要があったが、そうするとスペーサとリングの外径がより近くなってスペーサとリングを合わせるのが難しくなり、それを解消するにはさらにテーパ部分を長くするなどの必要があったが、テーパ部分を長くするとスペーサやリングが肉厚となって材料コストや加工コストが増大したり、また、保持力が強くなり過ぎて取り外しが容易でなくなることがあった。本発明の封止治具では、逆截頭円錐状部分と短円柱部分とを組み合わせたスペーサと、該スペーサにケーシング部材を介して嵌合する嵌入穴を有しているリング部材とを用いることにより、スペーサやリングを肉薄としてもスペーサの中心軸とリングの中心軸をずれにくくすることができ、しかも、材料コストや加工コストを抑えたままで優れた封止力を安定的に得ることができ、さらには取り外しも容易とすることが可能となった。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
[本発明の封止治具等による筒状ケーシングの封止実験]
まず、本発明の封止治具(実施例封止治具1)として、図1(a)の側面図や図2(a)の斜視図により示される封止治具(テーパ円筒組み合わせタイプ)を用意した。図中の数値の単位はmmである。この実施例封止治具1のスペーサやリングのテーパ角度は、スペーサの逆截頭円錐状部分やリングの逆截頭円錐形状における頂角が30°となるような角度である。なお、この実施例封止治具1におけるリングの軸方向の厚さは、10mmである。この実施例封止治具1の他に、3種類の比較例封止治具を用意した。
比較例封止治具1は、図1(b)の側面図や図2(b)の斜視図により示される封止治具(ストレートタイプ)である。この比較例封止治具1は、本発明の実施例封止治具1とは異なり、スペーサの外周面、リングの内周面のいずれにもテーパ面を有しておらず、側面図においてスペーサの外周面及びリングの内周面が、それぞれ、スペーサの円形端面の軸方向及びリング端部円周の軸方向に対して平行な直線となっている封止治具である。
比較例封止治具2は、図1(c)の側面図や図2(c)の斜視図により示される封止治具(段付きタイプ)である。この比較例封止治具2は、本発明の実施例封止治具1とは異なり、スペーサの外周面、リングの内周面のいずれにもテーパ面を有していないが、スペーサの外周面及びリングの内周面にそれぞれ段差を有している封止治具である。
比較例封止治具3は、図1(d)の側面図や図2(d)の斜視図により示される封止治具(テーパタイプ)である。この比較例封止治具3は、スペーサにおける略円錐台状部分の上面に円筒状部分を備えた本発明の実施例封止治具1とは異なり、スペーサにおける略円錐台状部分の上面に、円筒状部分を備えていない封止治具である。
以上の各種封止治具に加えて、ハム原木、ハム原木の充填装置、筒状のファイブラスケーシング(筒状ケーシング)、シャッタを備えた袋口引っ張り手段を用意し、以下の封止実験を行った。
まず、図3や図4に示されるような筒状ケーシング3に、図示しない充填手段で肉製品の原料を充填した後、筒状ケーシング3内に上記実施例封止治具1のスペーサ1を挿入して、その大径側の円形端面を原料に当接させ、次いで、筒状ケーシング3の開放側を、本発明における上記実施例封止治具1のリング2の大内径側から先にそのリング内縁に挿通し、リング2を、図3及び図4上図の2から1の方向に移動させて、ケーシング部材を介してスペーサ1に手作業で近接させた後、その筒状ケーシング3の開放側をシャッタ4に挿通した。この状態で、筒状ケーシング3の開放端部を、引っ張り手段(株式会社ラディクス製のプレッシャ・クリッパーE3に含まれる袋口引っ張り手段)に係合し、シャッタ4により、筒状ケーシング部材を介してスペーサ1を相対的に押動した。すなわち、筒状ケーシング3の開放端部を、上記引っ張り手段に係合した後、かかる引っ張り手段によって、筒状ケーシング3の開放端部を、筒状ケーシング3の長手方向であって、該開放端部が非開放端部及びシャッタ4から離れる方向に強く引っ張っていくと、筒状ケーシング3がその引っ張り方向に移動していき、シャッタ4により、筒状ケーシング部材を介してスペーサ1が相対的に押圧されて、筒状ケーシング3内の充填物の長手方向を圧縮する力が加えられ、長手方向の太さが略一定となった密な状態となり、筒状ケーシング3の内圧が高まっていく。その後、筒状ケーシング3の開放端部を引っ張り手段から外し、シャッタ4から抜くと、筒状ケーシングの内圧によってスペーサ1が筒状ケーシング部材を介してリング2に相対的に強く押し付けられて、スペーサ1が筒状ケーシング部材を介してリングに嵌合し、筒状ケーシングが封止された。すなわち、実施例封止治具1(テーパ円筒組み合わせタイプ)を用いた場合は、ハム原木を充填したファイブラスケーシングを的確かつ簡便に封止することができた
次いで、実施例封止治具1のスペーサ及びリングに代えて、比較例封止治具1〜3のスペーサ5及びリング6の各組み合わせを用いて同様の封止実験を試みたところ、比較例封止治具1(ストレートタイプ)を用いた場合は、スペーサ5に対してリング6が固定されず、すぐに抜けてしまった。また、比較例封止治具2(段付きタイプ)を用いた場合は、ケーシングの厚みでリング6をスペーサ5に装着することが困難であり、また、筒状ケーシング3を引っ張ってもスペーサ5がハム原木の長手方向を圧縮する方向にシフトせず、筒状ケーシング3をさらに引っ張ると筒状ケーシング3が破れた。さらに、比較例封止治具3(テーパタイプ)を用いた場合は、上記のロック効果が得られないためか、スペーサ5とリング6が固定されず、リング6が外れてしまった。
前述の実施例封止治具1の封止機構の詳細は明らかではないが、実施例封止治具1及び比較例封止治具1〜3についての結果を併せて考慮すると、「実施例封止治具1のスペーサのテーパ外周面とリングの嵌入穴のテーパ内周面との組合せによるクサビの効果」と、「実施例封止治具1におけるスペーサの短円柱部分(略円柱状部分)と、リングの短円筒形状の嵌入穴(内縁側空間の略円筒状部分)とが筒状ケーシング部材を介して嵌合することにより生じる強い抵抗力によるロック効果」とが相乗的に作用することによって、非常に優れた封止力が得られると考えられた。また、本発明者らが行なった様々な実験によると、比較例封止治具3のように、ケーシング部材を介してスペーサとリングが接する面がテーパ面のみである場合は、スペーサの中心軸とリングの中心軸がずれやすく、それを解消するには、テーパの頂角をより鋭角にするなどの必要があったが、そうするとスペーサとリングの外径がより近くなってスペーサとリングを合わせるのが難しくなり、それを解消するにはさらにテーパ部分を長くするなどの必要があったが、テーパ部分を長くするとスペーサやリングが肉厚となって材料コストや加工コストが増大したり、また、保持力が強くなり過ぎて取り外しが容易でなくなることがあった。本発明の封止治具では、逆截頭円錐状部分と短円柱部分とを組み合わせたスペーサと、該スペーサにケーシング部材を介して嵌合する嵌入穴を有しているリング部材とを用いることにより、スペーサやリングを肉薄としてもスペーサの中心軸とリングの中心軸をずれにくくすることができ、しかも、材料コストや加工コストを抑えたままで優れた封止力を安定的に得ることができ、さらには取り外しも容易とすることが可能となった。
また、上記の実施例封止治具1以外の本発明の封止治具として、上記の実施例封止治具におけるスペーサやリングのテーパ角度を、スペーサの逆截頭円錐状部分やリングの逆截頭円錐形状における頂角が20°となるような角度とした封止治具(実施例封止治具2)や、40°となるような角度とした封止治具(実施例封止治具3)についても、前述と同様の封止実験を行なった。その結果、いずれの実施例封止治具を用いた場合も、ハム原木を充填したファイブラスケーシングを的確かつ簡便に封止することができた。ただし、実施例封止治具2(頂角20°)を用いた場合は、実施例封止治具1(頂角30°)を用いた場合よりも、封止後の筒状ケーシングの内圧が高くなり、実施例封止治具3(頂角40°)を用いた場合は、実施例封止治具1(頂角30°)を用いた場合よりも、高い封止力が得られた。
以上のことから、本発明で特定する構造を持つスペーサとリングとを備えた封止治具は、充填物を充填した筒状ケーシングを的確かつ簡便に封止し得ることが示された。