JP5339543B2 - 新規なプロテアーゼおよびその利用 - Google Patents
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Description
[1]以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるプロテアーゼ。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列
(d)配列番号3に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
[2]アゾカゼインを基質としてpH7で20分間反応させたときの反応至適温度が100℃以上である前記[1]に記載のプロテアーゼ。
[3]50mM Tris−HCl(pH7)中、100℃で90分間処理したときに40%以上の残存活性を有する前記[1]に記載のプロテアーゼ。
[4]5%ドデシル硫酸ナトリウムを含む20mM Tris−HCl(pH8)中、55℃で60分間処理したときに80%以上の残存活性を有する前記[1]に記載のプロテアーゼ。
[5]反応温度80℃でSuc−AAPF−pNAを基質としたときにKm値が0.1〜1mMである前記[1]に記載のプロテアーゼ。
[6]前記[1]〜[5]のいずれかに記載のプロテアーゼのプロ体であって、以下の(e)または(f)に記載のアミノ酸配列からなるプロ体。
(e)配列番号5に示されるアミノ酸配列
(f)配列番号5に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
[7]前記[1]〜[5]のいずれかに記載のプロテアーゼをコードするポリヌクレオチド。
[8]配列番号2もしくは4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、または、配列番号2もしくは4に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロテアーゼをコードするポリヌクレオチドである前記[7]に記載のポリヌクレオチド。
[9]前記[6]に記載のプロ体をコードするポリヌクレオチド。
[10]配列番号6に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、または、配列番号6に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロ体をコードするポリヌクレオチドである前記[9]に記載のポリヌクレオチド。
[11]前記[7]〜[10]のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
[12]前記[11]の発現ベクターが導入された形質転換体。
[13]前記[1]〜[5]のいずれかに記載のプロテアーゼに特異的に結合する抗体。
[14]前記[1]〜[5]のいずれかに記載のプロテアーゼを含有する洗剤。
(1)プロテアーゼの取得
本発明のプロテアーゼは、超好熱菌Thermococcus kodakaraensis KOD1株(Morikawa M et al. Appl Environ Microbiol, 1994 Dec;60(12):4559-66、以下「KOD1株」という)由来の新規なプロテアーゼである。KOD1株は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターに寄託されており、その受託番号はJCM12380である。KOD1株の全ゲノム情報は既に解析されており、2036個のタンパク質コード領域(CDS)が特定され、そのうち約半数(1165個)のCDSに注釈が付与されている(Fukui T et al., Genome Res, 2005 Mar;15(3):352-63)。なお、KOD1株の全ゲノム2088737塩基の配列はDDBJ/EMBL/GenBankに登録されており、そのアクセッション番号はAP006878である。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列
(d)配列番号3に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、上記サチライシン様セリンプロテアーゼ前駆体をコードすると予想される塩基配列(ACCESSION AP006878 REGION: 1484233..1486224、配列番号8)に基づく推定アミノ酸配列(ACCESSION BAD85878、配列番号7)の第137位〜第562位に該当する。また、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、上記サチライシン様セリンプロテアーゼ前駆体をコードすると予想される塩基配列(配列番号8)に基づく推定アミノ酸配列(配列番号7)の第137位〜第563位に該当する。
(e)配列番号5に示されるアミノ酸配列
(f)配列番号5に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
なお、本明細書において「プロ体」とは、プレ配列がなくプロ配列および成熟配列を含むプロテアーゼ前駆体を意味する。
配列番号5に示されるアミノ酸配列は、上記サチライシン様セリンプロテアーゼ前駆体をコードすると予想される塩基配列(配列番号8)に基づく推定アミノ酸配列(配列番号7)の第24位〜第663位に該当する。当該プロ体のアミノ酸配列(配列番号5)の第1位〜第113位および第540位〜第640位が除かれたものが配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるプロテアーゼであり、第1位〜第113位および第541位〜第640位が除かれたものが配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるプロテアーゼである。
上記(II)の方法については、後段の〔ポリヌクレオチド〕、〔発現ベクター〕および〔形質転換体〕で詳細に説明する。
上記(III)の方法で行う場合は、本発明のプロテアーゼまたはプロ体をコードするDNA断片と、公知のin vitro転写・翻訳系(例えば、大腸菌、小麦胚芽細胞、ウサギ網膜細胞の無細胞抽出液を用いる系)を用いることができる。
得られたプロテアーゼまたはプロ体の同定は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、得られたプロテアーゼを、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜にトランスファーし、膜をクマシーブリリアントブルーで染色した後、目的タンパク質のバンドを切り出す。切り出したバンドのトリプシン消化物をMALDI−TOF MSにより分析し、ペプチドマスフィンガープリント解析により同定することができる。また、例えば、自動ペプチドシーケンサを用いてアミノ酸配列を決定することができる。
(i) 至適pH(実施例2参照)
Suc−AAPF−pNAを基質とし、20℃で10分間インキュベートしたときの至適pHは少なくともpH6〜11.5の範囲であり、pH11.5を超える範囲においても高い活性を示すことが予想される。したがって、本発明のプロテアーゼはpH6以上の多様なpH環境での利用に適している。
アゾカゼインを基質としてpH7で20分間反応させたときの至適温度が100℃以上である。したがって、本発明のプロテアーゼは高温環境での使用に適しており、例えば感染性タンパク質の分解を目的とした医療器具用洗剤等に配合すれば、優れた効果を発揮することが期待される。
溶液中、100℃で90分間処理したときに40%以上の残存活性を有し、90℃で180分間処理したときに80%以上の残存活性を有する。80℃で180分間処理した場合には、活性は低下しない。このように、本発明のプロテアーゼは、極めて熱安定性が高いため、高温環境で使用に適している。
8Mの尿素を含む20mM Tris−HCl(pH8)中、55℃で60分間処理したときに80%以上の残存活性を有する。
2Mの塩酸グアニジンを含む20mM Tris−HCl(pH8)中、55℃で60分間処理したときに60%以上の残存活性を有する。
10%TritonX−100を含む20mM Tris−HCl(pH8)中、55℃で60分間処理したときに95%以上の残存活性を有する。
10%Tween20を含む20mM Tris−HCl(pH8)中、55℃で60分間処理したときに95%以上の残存活性を有する。
5%ドデシル硫酸ナトリウムを含む20mM Tris−HCl(pH8)中、55℃で60分間処理したときに80%以上の残存活性を有する。
10mMEDTAを含む20mM Tris−HCl(pH8)中、55℃で60分間処理したときに活性が低下しない。
したがって、本発明のプロテアーゼは、各種のタンパク質変性剤、界面活性剤、キレート剤に対し高い安定性を有しているため、タンパク質変性剤、界面活性剤、キレート剤を含む組成物に添加して使用することが可能であり、産業用プロテアーゼとして幅広い用途に使用することができるという利点を有している。
反応温度80℃でSuc−AAPF−pNAを基質としたときにKm値が0.1〜1mMである。この値は、上述のTk−subtilisin(非特許文献1および2参照)のKm値の約1/10であり、Tk−subtilisinと比較した場合、低濃度の基質を効率よく分解できることを示している。したがって、感染性タンパク質の二次感染が問題となる医療器具用洗剤などの用途に好適に用いることができる。
本発明のプロテアーゼは、構造形成にカルシウムイオンを必要とせず、カルシウムイオンが存在しない状態でも安定にプロテアーゼ活性を発揮することができる。同じThermococcus kodakaraensis KOD1株由来のプロテアーゼであるTk−subtilisinはカルシウム要求性が非常に強いことと対照をなし、本発明のプロテアーゼに特徴的な特性である。したがって、本発明のプロテアーゼは、例えばキレート剤を添加剤として含む洗剤中でも安定に機能を発揮することができるという極めて優れた利点を有している。
本発明のポリヌクレオチドは、上記本発明のプロテアーゼをコードするものであればよい。具体的には以下の(A)〜(D)のポリヌクレオチドが挙げられる。
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるプロテアーゼをコードするポリヌクレオチド
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるプロテアーゼをコードするポリヌクレオチド
(C)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるプロテアーゼをコードするポリヌクレオチド
(D)配列番号3に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるプロテアーゼをコードするポリヌクレオチド
(E)配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるプロ体をコードするポリヌクレオチド
(F)配列番号5に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるプロ体をコードするポリヌクレオチド
また、本発明のプロ体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号6に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、または、配列番号6に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロ体をコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。
配列番号2に示される塩基配列は、上記サチライシン様セリンプロテアーゼ前駆体をコードすると予想される塩基配列(ACCESSION AP006878 REGION: 1484233..1486224、配列番号8)の第409位〜第1686位に該当し、配列番号4に示される塩基配列は、第409位〜第1689位に該当する。また、配列番号2に示される塩基配列は、配列番号8の、第70位〜第1992位に該当する。
本発明は、本発明のプロテアーゼを製造するために使用される発現ベクターを提供する。本発明に係る発現ベクターは、上述した本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むものであれば特に限定されないが、RNAポリメラーゼの認識配列を有するプラスミドベクター(pSP64、pBluescriptなど)が好ましい。組換え発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されない。ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターを適宜選択することができる。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明のポリヌクレオチドを発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明のポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
本発明の発現ベクターを用いて形質転換された宿主を、培養、栽培または飼育した後、培養物などから慣用的な手法(例えば、濾過、遠心分離、細胞の破砕、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなど)に従って、本発明のプロテアーゼまたはプロ体を回収、精製することができる。
本発明は、上記本発明の発現ベクターが導入された形質転換体を提供する。本明細書において「形質転換体」は、細胞、組織または器官だけでなく、生物個体をも含む。また、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、上記宿主細胞として例示した各種微生物、植物または動物が挙げられる。
本発明の形質転換体は、上記本発明のプロテアーゼまたはプロ体が発現されていることを特徴とする。本発明に係る形質転換体は、上記本発明のプロテアーゼまたはプロ体が安定的に発現することが好ましいが、一過性に発現してもよい。
本発明は、上記本発明のプロテアーゼに特異的に結合する抗体を提供する。本発明の抗体は、本発明のプロテアーゼに結合するがその前駆体には結合しない抗体であることが好ましい。本発明の抗体は、本発明のプロテアーゼの検出や分離に使用することができる。
本明細書において「抗体」は、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgMおよびこれらのフラグメント(Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fcフラグメントなど))を意味し、例としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体などが挙げられるがこれらに限定されない。抗体は、種々の公知の方法(例えば、HarLowら、「Antibodies: a laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York(1988)」、岩崎ら、「単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA、講談社(1991)」)に従えば作製することができる。
本発明のプロテアーゼは、公知の産業用プロテアーゼに比べて高温かつ高アルカリ条件下で高い活性を有し、タンパク質変性剤や界面活性剤に対しても高い安定性を有するので、高温で使用される洗剤に配合して洗浄力の増強を図ることができる。また、低濃度の基質を分解可能であるため、二次感染が問題となる医療器具の感染性タンパク質汚れの分解・洗浄に高い有用性を有している。すなわち、本発明のプロテアーゼは、医療器具用洗剤、食器洗浄機用洗剤、洗濯用洗剤等の各種洗剤に好適に用いることができる。また、洗剤以外にも、飼料加工、食品加工(魚油加工、食肉加工等)、繊維加工、羊毛加工、皮革加工、コンタクトレンズ洗浄、配管洗浄等に利用することができ、入浴剤や脱毛剤に配合してもよい。さらに、組織や細胞からDNA等の核酸を調製する際に、試料を前処理するためのプロテアーゼとして利用することができる。
1−1.プロ体(proTk−SP)の発現および精製
Thermococcus Kodakaraensis KOD1株のゲノム情報(ACCESSION:AP006878)から、サチライシン様セリンプロテアーゼ前駆体をコードすると予想される塩基配列(ACCESSION AP006878 REGION:1484233..1486224、配列番号8)の推定アミノ酸配列(ACCESSION BAD85878、配列番号7)のうち、シグナル配列(プレ配列)と予想されるアミノ酸配列を除き、プロ配列および成熟配列と予想される部分を含むプロ体を発現させるために、当該プロ体をコードすると予想されるDNA部分を増幅するためのプライマーペアを設計した。すなわち、NdeIサイトを含むフォワードプライマー(5'-GGCCTTTATCATATGGCCCCCCAGAAG-3'(配列番号9))と、BamHIサイトを含むリバースプライマー(5'-GGCCTTGGATCCTCACCCGTAGTAAAC-3'(配列番号10))である。KOD1株のゲノムDNAを鋳型とし、上記プライマーペアを用いてPCRを行い、DNA断片を増幅した。得られたDNA断片をNdeIおよびBamHIで消化し、得られた1.9kbのDNA断片をpET25b(Novagen社製)のNdeI/BamHIサイトにライゲーションし、pET25b−proTk−SPを構築した。このプラスミド(pET25b−proTk−SP)を用いて、大腸菌BL21(DE3)CodonPlusを形質転換し、proTk−SPを大量発現する菌株を得た。
(i) SDS−PAGEによるプロセシングの確認
精製したproTk−SPを1mlの50mM Tris−HCl(pH9.0)に溶解し(タンパク質濃度:0.013 mg/ml)80℃で120分間インキュベートした。TCAで沈殿させ、15%SDS−PAGEに供した。結果を図1(a)および(b)に示した。(a)は80℃で120分間インキュベートする前のproTk−SPのSDS−PAGE結果を示す画像であり、(b)はproTk−SPを80℃で120分間インキュベートした後のSDS−PAGE結果を示す画像である。(a)のproTk−SPのバンドは、予想されるアミノ酸配列(配列番号5)の理論分子量68.6kDa付近に出現した。一方、80℃で120分間インキュベートした後の(b)のバンドは約44kDa付近に位置していた。この結果から、proTk−SPは80℃で120分間インキュベートすることによりプロセシングを受けていることが確認された。
精製したproTk−SPを50mM Tris−HCl(pH9.0)に溶解し(タンパク質濃度:1 mg/ml)80℃で120分間インキュベートした。インキュベーション後のタンパク質溶液を1μl取り、1μlのマトリクス溶液(10mg sinapinic acid in 1ml of 0.1%TFA and acetonitrile in a volume ratio 2:1)と混和し、この1μlを試料としてMALDI−TOF MS(Bruker Daltonics社製)に供した。キャリブレーションスタンダードとして、protein standard IIを使用した。図2にMALDI−TOF MSのチャートを示した。図2から明らかなように、このタンパク質の分子量は、44271Daと決定された。
プロセシング後のタンパク質(10μg)を15%SDS−PAGEに供し、泳動後のゲルからPVDF膜にタンパク質を転写させるためにブロッティングを行った。目的のバンドが転写されたPVDF膜を切り取り、プロテインシーケンサー(Procise automated sequencer,ABI model 491)に供してN末端分析を行った。結果を図3に示した。図3に示したように、このタンパク質のN末端のアミノ酸配列はVETEであることが明らかとなった。
N末端分析結果と分子量分析結果から、プロセシング後のタンパク質は配列番号5の第114位〜第539位のアミノ酸配列からなるタンパク質(配列番号1、理論分子量:44207Da)、または配列番号5の第114位〜第540位のアミノ酸配列からなるタンパク質(配列番号3、理論分子量:44322Da)であると考えられた。得られた分子量約44kDaのタンパク質(Tk−SP)を以下の実験に使用した。
Tk−SPのpH依存性およびバッファー依存性を検討するために、アセテートバッファー(pH 4.5, 5.0, 5.2, 5.4 および 5.6)、MESバッファー(pH 5.5, 6.0, 6.5 および 7.0)、HEPESバッファー(pH 7.0 および 7.5)、Tris−HClバッファー(pH 7.0, 7.5, 8.0, 8.5 および 9.0)、glycine−NaOHバッファー(pH 8.5, 9.0, 9.5 および 10.0)、並びにCAPS−NaOHバッファー(pH 9.0, 9.5, 10.0, 10.5, 11.0 および 11.5)を用いて以下の手順で酵素反応を行った。すなわち、50mMのバッファーおよび2mMの合成基質Suc−AAPF−pNAを含む反応液100μlを20℃で5分間インキュベートし、これに0.1μgのTk−SPを添加してさらに20℃で10分間インキュベートした。10μlの酢酸を添加して反応を止め、合成基質Suc−AAPF−pNAから生成されるパラニトロアニリン(p-nitroaniline)の量を、紫外分光光度計(Beckman model DU640)により、8900M-1cm-1の吸光係数を用いた波長410nmの吸収から定量した。1分間に1μmolのパラニトロアニリンを生成する酵素量を「1単位」と定義した。特異的活性は、タンパク質1mg当たりの酵素活性と定義した。
結果を図4に示した。図4からわかるように、Tk−SPの反応至適pH範囲はpH6〜11.5と広く、したがって、Tk−SPはpH6以上の多様なpH環境での利用に適した酵素であることが明らかになった。
Tk−SPの温度依存性を検討するために、20℃〜100℃の範囲で基質にアゾカゼイン(Azocasein)を用い、以下の手順で酵素反応を行った。すなわち、50mMのTris−HCl(pH7.0)および2%のアゾカゼインを含む反応液270μlをそれぞれの温度で5分間インキュベートし、これに3.3μgのTk−SPを30μl(約0.1μg)添加してさらに20分間インキュベートした。200μlの15%トリクロロ酢酸(終濃度6%)を添加して反応を止めた。遠心分離(15,000×g、15min)して上清160μlを取り、40μlの2M NaOHと混和して、波長440nmの吸光値(A440)を測定した。300μlの反応液のA440を1分間に1上昇させるのに必要な酵素量を「1単位」と定義した。
結果を図5に示した。図5に示した結果からTk−SPの活性至適温度は100℃以上と推定され、Tk−SPは高温環境で高いペプチド分解活性を示す事が明らかになった。
Tk−SP溶液(Tk−SP3.3μg/ml、50mM Tris−HCl(pH7))を80、90および100℃で処理することにより、不可逆的な熱失活に対するTk−SPの安定性を検討した。熱処理後のTk−SP溶液の30μlを取り、基質にアゾカゼインを用いて80℃で残存活性を測定した。測定の手順は実施例3と同様とし、反応温度は55℃とした。残存活性は、熱処理後の活性値を熱処理前の活性値で除することにより算出した。
結果を図6に示した。図6から明らかなように、Tk−SPは、90℃以下の温度で180分間処理しても失活せず、また、100℃では90分間の処理によっても活性を半分維持していた。この結果から、Tk−SPは熱安定性が極めて高い酵素である事が明らかになった。
タンパク質変性剤として尿素(Urea)および塩酸グアニジン(GdnHCl)を用いた。界面活性剤としてTritonX−100、Tween20およびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いた。キレート剤としてEDTAを用いた。0.05mg/mlのTk−SPを含む20mM Tris−HCl(pH8.0)を55℃で上記タンパク質変性剤、界面活性剤またはキレート剤とインキュベートした。タンパク質変性剤および界面活性剤の濃度は3〜4段階を設定した。EDTAは1段階(10mM)のみを設定した。時間は0、2、5、10、15、30および60分を設定した。インキュベーション後のTk−SPについて、基質にSuc−AAPF−pNAを用いて20℃で活性を測定した。測定の手順は実施例2と同様とし、pHは8とした。
塩酸グアニジン(GdnHCl)の結果を図8に示した。図8から明らかなように、4Mで用いた場合、Tk−SPは30分以内で失活したが、2Mで用いた場合は60分処理しても約65%の活性を維持した。
TritonX−100の結果を図9に示した。図9から明らかなように、最高濃度の10%で60分間処理しても、Tk−SPの活性は低下しなかった。
Tween20の結果を図10に示した。図10から明らかなように、最高濃度の10%で60分間処理しても、Tk−SPの活性は低下しなかった。
ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の結果を図11に示した。図11から明らかなように、最高濃度の5%で60分間処理しても、Tk−SPは約90%の残存活性を有していた。
EDTAの結果を図12に示した。図12から明らかなように、10mMのEDTAで60分間処理しても、Tk−SPの活性は低下しなかった。つまり、Tk−SPの活性発現には、カルシウムイオンが必須でないことが明らかとなった。
以上の結果から、Tk−SPは各種のタンパク質変性剤、界面活性剤、キレート剤に対し高い安定性を有しており、産業用プロテアーゼとして有用性が高いことが示された。
Tk−SPを10mMのEDTAと80℃で30分間インキュベートし、0.1mM EDTA含有50mM Tris−HCl(pH8.0)で透析した。その後、Tk−SP溶液を80、90および100℃で処理し、Tk−SPの安定性を検討した。基質にはアゾカゼインを用いて80℃で残存活性を測定した。測定の手順は実施例3と同様とし、反応温度は55℃とした。
結果を図13に示した。図13に示した結果から、カルシウムイオンを除いたTk−SPは耐熱性が低下することが明らかとなった。したがって、Tk−SPを効率的に熱失活させる際には、EDTAの添加が有効であることが示唆された。
基質にSuc−AAPF−pNAを用い、基質濃度を0.01〜2mMの範囲で種々の濃度を設定して20℃および80℃でTk−SPの特異的活性を測定した。測定の手順は実施例2と同様に行った。得られたデータをミカエリス−メンテン式に当てはめて速度パラメーターを算出した。比較のために、公知の耐熱性プロテアーゼであるTk−subtilisin(非特許文献1参照)についても同様に特異的活性を測定し、速度パラメーターを算出した。
結果を表1に示した。表1からわかるように、いずれの温度においてもTk−SPのKmはTk−subtilisin(表中、Tk−sub)のKmよりも小さかった。したがって、Tk−SPは、Tk−subtilisinと比較して、低濃度の基質を効率よく分解できることが明らかとなった。
proTk−SPのアミノ酸配列(配列番号5)の第359位のセリンをアラニンに置換することでプロテアーゼ活性を失わせた変異体(以下「proS359A」という)を用いた。proS359Aは、実施例1で構築したpET25b−proTk−SPに公知の変異誘導法を適用して、proS359A発現ベクターを作製し、このベクターを実施例1と同様の方法で大腸菌に導入し、発現させ、精製することにより取得した。
二次構造形成の確認は円偏光二色性測定(CDスペクトル測定)により行った。測定時のタンパク質濃度は0.1mg/ml、バッファーは20mM Tris−HCl(pH7.5)、温度は25℃とした。
試料1:精製したproS359Aを20mM Tris−HCl(pH7.5)で透析したもの。
試料2:精製したproS359Aを20mM Tris−HCl(pH7.5)で透析した後、EDTA(濃度1mM)および塩酸グアニジン(濃度6M)を添加し、80℃で一夜保温したもの。
試料3:試料2を20mM Tris−HCl(pH7.5)で5倍に希釈し、氷上で30分間インキュベートしたもの。
試料4:試料2を20mM Tris−HCl(pH7.5)で一夜透析したもの。
この結果から、Tk−SPは、活性化するためにカルシウムイオンを必要とせず、キレート剤を添加剤として含む洗剤中でも安定に機能を発揮することができ、極めて有用であることが示された。
Claims (13)
- 以下の(a)または(c)に記載のアミノ酸配列からなるプロテアーゼ。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列 - アゾカゼインを基質としてpH7で20分間反応させたときの至適温度が100℃以上である請求項1に記載のプロテアーゼ。
- 50mM Tris−HCl(pH7)中、100℃で90分間処理したときに40%以上の残存活性を有する請求項1に記載のプロテアーゼ。
- 5%ドデシル硫酸ナトリウムを含む20mM Tris−HCl(pH8)中、55℃で60分間処理したときに80%以上の残存活性を有する請求項1に記載のプロテアーゼ。
- 反応温度80℃でSuc−AAPF−pNAを基質としたときにKm値が0.1〜1mMである請求項1に記載のプロテアーゼ。
- 請求項1〜5のいずれかに記載のプロテアーゼのプロ体であって、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるプロ体。
- 請求項1〜5のいずれかに記載のプロテアーゼをコードするポリヌクレオチド。
- 配列番号2もしくは4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドである請求項7に記載のポリヌクレオチド。
- 請求項6に記載のプロ体をコードするポリヌクレオチド。
- 配列番号6に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドである請求項9に記載のポリヌクレオチド。
- 請求項7〜10のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
- 請求項11の発現ベクターが導入された形質転換体。
- 請求項1〜5のいずれかに記載のプロテアーゼを含有する洗剤。
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