以下、本発明に係る作業機構及びマニピュレータについて第1及び第2の実施の形態を挙げ、添付の図1〜図28を参照しながら説明する。第1の参考例に係るマニピュレータ10a(図1参照)、第1の実施の形態に係るマニピュレータ10b(図15参照)及び第2の実施の形態に係るマニピュレータ10c(図23参照)は、医療用であって腹腔鏡下手術等に用いられるものである。
マニピュレータ10aは、先端の作業部12aに生体の一部又は湾曲針等等を把持して所定の処置を行うためのものであり、通常、把持鉗子やニードルドライバ(持針器)等とも呼ばれる。
図1に示すように、マニピュレータ10aは、人手によって把持及び操作される基端部の操作指令部14と、先端部で作業を行う作業部12aと、これらの作業部12aと操作指令部14とを接続する長尺な連結部16とを有する。作業部12a及び連結部16は細径に構成されており、患者の腹部等に設けられた円筒形状のトラカール20から体腔22内に挿入可能であり、操作指令部14の操作により体腔22内において患部切除、把持、縫合及び結紮等の様々な手技を行うことができる。
なお、以下の説明では、図1、図15及び図23における幅方向をX方向、高さ方向をY方向及び、連結部16の延在方向をZ方向と規定する。また、右方をX1方向、左方をX2方向、上方向をY1方向、下方向をY2方向、前方をZ1方向、後方をZ2方向と規定する。さらに、特に断りのない限り、これらの方向の記載はマニピュレータ10a、10b及び10cが中立姿勢(図2、図15及び図23に示す状態の姿勢)である場合を基準として表すものとする。これらの方向は説明の便宜上のものであり、マニピュレータ10a、10b及び10cは任意の向きで(例えば、上下を反転させて)使用可能であることはもちろんである。
操作指令部14は、人手によって把持されるグリップハンドル26と、該グリップハンドル26の上部から延在するアーム28と、該アーム28の先端に接続されたアクチュエータブロック30とを有する。グリップハンドル26には、指で操作可能なトリガーレバー32、第1指示レバー34及び第2指示レバー36が設けられている。トリガーレバー32は、人差し指による引き寄せ動作が容易な位置に設けられている。
アクチュエータブロック30には作業部12aが有する3自由度の機構に対応してモータ40、モータ42及びモータ44が連結部16の延在方向に沿って並列して設けられている。これらのモータ40、42及び44は小型、細径であって、アクチュエータブロック30はコンパクトな扁平形状に構成されている。アクチュエータブロック30は、操作指令部14のZ1方向端部の下方に設けられている。また、モータ40、42及び44は、操作指令部14の操作に基づき、コントローラ(制御部)45の作用下に回転をする。
連結部16は、アクチュエータブロック30に対して接続される接続部46と、該接続部46からZ1方向に向かって延在する中空の連結シャフト48とを有する。接続部46には、モータ40、42及び44の駆動軸に接続される駆動プーリ50a、駆動プーリ50b及び駆動プーリ50cが回転自在に設けられている。駆動プーリ50a、駆動プーリ50b及び駆動プーリ50cには、可撓性部材としてのワイヤ52、ワイヤ54及びワイヤ56が巻き掛けられており、連結シャフト48の中空部分48a(図2参照)を通って作業部12aまで延在している。ここで可撓性部材とは、弾性またはガタにより変形しうる動力伝達部材、駆動部材や駆動系のことをいう。ワイヤ52、ワイヤ54及びワイヤ56はそれぞれ同種、同径のものを用いることができる。以下、ワイヤ52、ワイヤ54及びワイヤ56をまとめて、代表的にワイヤ57ともいう。
連結部16は、接続部46における所定の操作によって操作指令部14から離脱可能であって、洗浄、滅菌及びメンテナンス等を行うことができる。また、連結部16から先の部分は交換可能であって、手技に応じて連結部16の長さの異なるもの、又は作業部12aの機構が異なるものを装着することができる。
図2に示すように、連結部16の先端部には先端方向に突出している一対の舌片部58が連結シャフト48の中心軸に対面して配設されている。連結シャフト48の中空部分48aは、一対の舌片部58の間の空間部に連通している。この一対の舌片部58には、対抗する位置に2組の軸孔60a、60aと、60b、60bとが設けられている。舌片部58の先端はそれぞれ円弧形状に形成されている。また、一対の舌片部58の対抗する内側面は平行な平面に形成されており、その間隔はHとなっている。
2つの軸孔60a、60a及び2つの軸孔60b、60bは中心軸を挟むように設けられている。軸孔60aと軸孔60bはZ方向に並列して設けられ、軸孔60bが軸孔60aよりも先端側に配置されている。
図2に示すように、作業部12aはY方向の第1回転軸(第2姿勢軸)Oyを中心にして、それよりも先の部分がヨー方向に回動する第1自由度と、Z方向の第2回転軸(第1姿勢軸)Orを中心にしてロール方向に回動する第2自由度と、第3回転軸(エンドエフェクタ軸)Ogを中心として先端のエンドエフェクタ104を開閉させる第3自由度とを有する合計3自由度の機構となっている。
エンドエフェクタ104は、手術において実際の作業を行う部分であり、第1回転軸Oy及び第2回転軸Orは、作業を行い易いようにエンドエフェクタ104の姿勢を変えるためのものである。以下、エンドエフェクタ104を開閉させる第3自由度に係る機構部をグリッパ軸とも呼び、ヨー方向に回動する第1自由度に係る機構部をヨー軸とも呼び、ロール方向に回動する第2自由度に係る機構部をロール軸とも呼ぶ。
作業部12aは、ワイヤ受動部100と、複合機構部102と、エンドエフェクタ104とを有する。
図2〜図4を参照しながら、ワイヤ受動部100、複合機構部102及びエンドエフェクタ104について詳細に説明する。
ワイヤ受動部100は、一対の舌片部58の間に設けられており、ワイヤ52、ワイヤ54及びワイヤ56のそれぞれの循環動作を回転動作に変換して複合機構部102に伝達する部分である。ワイヤ受動部100は、軸孔60a、60aに挿入されるシャフト110と、軸孔60b、60bに挿入されるシャフト(直交軸)112と、シャフト110に対して回転自在に軸支される歯車体114とを有する。シャフト110及び112は、軸孔60a、60bに対して、例えば圧入により固定される。シャフト112は第1回転軸Oyの軸上に配置される。
歯車体114は、筒体116と、該筒体116の上部に同心状に設けられた歯車118とを有する。歯車118は筒体116よりも大径の平歯車である。以下、特に断らない限り歯車は平歯車である。歯車体114は高さが略Hであって、一対の舌片部58の間に回転自在に配置される。歯車118の厚さD1は高さHと比較して十分に薄く、筒体116の高さ(つまり、H−D1)は舌片部58の間の高さHのうち相当程度を占める。歯車118の上面には、シャフト110が挿入される孔の周辺に低い環状リブ118aが設けられており、歯車118の上面が上側の舌片部58に接触することが防止され摺動抵抗の低減を図っている。
図6に示すように、筒体116にはワイヤ固定機構120が設けられている。ワイヤ固定機構120は、Z2方向の側のやや上方部分で横方向(中立時のX方向)に延在する溝122と、該溝122の中央に設けられたテーパ状の固定ピン124とを有する。溝122の中央部には、固定ピン124が挿入・固定される凹部122aが設けられている。溝122の向きはワイヤ57が螺旋状に巻回するのに合わせてやや傾斜していてもよい。
溝122の幅及び最大深さは、ワイヤ57の径と略等しく設定されている。固定ピン124には横方向に連通して、ワイヤ57が貫通可能な孔124aが設けられている。孔124aにワイヤ57を通しておき、固定ピン124を凹部122aに挿入することにより、ワイヤ57は一部が溝122に嵌り、向きが水平に規定されるとともに筒体116に対して固定される。
図2〜図4に戻り、複合機構部102は、エンドエフェクタ104の開閉動作機構と、該エンドエフェクタ104の姿勢を変化させる複合的な機構部である。
複合機構部102は、Y1方向からY2方向に向かって順に、シャフト112に対して回転自在に軸支される歯車体126と、主軸部材128と、歯車体130とを有する。
歯車体126は、筒体132と、該筒体132の上部に同心状に設けられた歯車(直交軸回転体)134とを有する。歯車134は歯車118と同じ厚さで、該歯車118と噛合するように設定されている。歯車134は歯車118よりも歯数が多く、歯車118の回転が減速して(トルクが増大して)伝達することができる。もちろん、設計条件に応じて同速又は増速するように伝達してもよい。歯車134の上面には、シャフト112が挿入される孔の周辺に低い環状リブ134aが設けられており、歯車134の上面が上側の舌片部58に接触することが防止され摺動抵抗の低減を図っている。
歯車体130は、歯車体126とほぼ同形状であって、該歯車体126に対して上下反転に配置されている。歯車体130は、筒体136と、該筒体136の下部に同心状に設けられた歯車138とを有する。筒体136は筒体132と略同径、同形状である。歯車138は、歯車134よりも歯数をやや少なくするこができる。筒体136のZ2方向の側の面には、筒体116と同様のワイヤ固定機構120が設けられており、ワイヤ54を固定している。
主軸部材128は、シャフト112が挿通する筒体140と、Z1方向に設けられた環状座面142と、該環状座面142の中心からZ1方向に延在する支持バー144とを有する。支持バー144は第2回転軸Orの軸上に配置される。支持バー144の先端部には雄ねじが設けられている。
環状座面142は上下2つの短いブリッジ142aを介して、筒体140の外側面よりもやや離れた位置に設けられており、環状座面142と筒体140との間にはワイヤ52が挿通可能で、Y方向にやや長い縦孔146が設けられている。筒体140のZ2方向の側の面には、筒体116と同様のワイヤ固定機構120が設けられており、ワイヤ52を固定している。
主軸部材128は、ワイヤ52の循環動作に伴って第1回転軸Oyを中心としたヨー方向に回転し、支持バー144をXZ平面上で揺動させることができる。
筒体140、歯車体126及び歯車体130は、シャフト112を軸として積層配置されており、その積層高さはHと略等しく、一対の舌片部58の間にほぼ隙間なく設けられている。
複合機構部102は、さらに駆動ベース150と、歯車リング152と、歯車付きピン154と、固定ナット156及び158と、カバー160とを有する。固定ナット156には、細い回転工具を挿入するための径方向の複数の細孔156aが設けられている。細孔156aの少なくとも1つは、径方向に露呈しており(図2参照)、カバー160等を取り外すことなく固定ナット156を回転させることができる。固定ナット158には、スパナ等の回転工具を係合可能な平行面158aが設けられている。
駆動ベース150は、支持バー144の基端部に回動自在に挿入される筒体164と、該筒体164の左右両端からZ1方向に向かって突出している一対の支持アーム166と、筒体164のZ2方向の面に設けられたフェイスギア168とを有する。各支持アーム166はエンドエフェクタ104を支持する部分であり、X方向に並んだ孔166aが設けられている。筒体164を支持バー144の基端部に挿入した後に、固定ナット156を支持バー144の先端の雄ねじに螺着させることにより、駆動ベース150は支持バー144を中心とした(つまり、第2回転軸Orを中心とした)ロール方向に、回動自在に軸支される。
フェイスギア168は歯車138に噛合し、駆動ベース150は筒体136の回転にともなって、第2回転軸Orを中心として回転可能である。
歯車リング152は薄い筒体であって、Z2方向の面に設けられたフェイスギア170と、Z1方向の面に設けられたフェイスギア172とを有する。歯車リング152は駆動ベース150の筒体164に嵌装され、該筒体164の周面に対して摺動回転自在となる。歯車リング152は、フェイスギア170が駆動ベース150のフェイスギア168よりもややZ1方向側の位置であって、歯車134に噛合する位置まで筒体164に嵌装される。フェイスギア170は歯車134に噛合し、歯車リング152は歯車体126の回転に伴って第2回転軸Orを中心として回転可能である。
歯車付きピン154は、フェイスギア172に噛合する歯車174と、該歯車174の中心からX1方向に延在するピン176とを有する。ピン176の先端部には雄ねじが設けられている。ピン176は2つの孔166aを通って雄ねじが反対側の支持アーム166から突出し、固定ナット158が螺着される。これにより、歯車付きピン154は、歯車174がフェイスギア172に噛合するとともに、支持アーム166に対して回動自在に軸支される。また、ピン176はエンドエフェクタ104の一部に係合するようにDカット形状となっている。
カバー160は、複合機構部102における上記の各部品を保護するためのものであって、歯車リング152、歯車174が径方向に露呈されないように覆われる。カバー160は、Z2方向の短筒180と、該短筒180の左右両端からZ1方向に向かって突出している一対の耳片部182とを有する。耳片部182は、短筒180の周壁の一部が同径のままZ1方向に延在している形状である。カバー160の下部はカバー固定ピン162によってエンドエフェクタ104の一部に固定されている。カバー160は正面視で連結部16と同径又は小径に設定されている。
このような複合機構部102では、歯車体130の回転作用下に、歯車138からフェイスギア168に回転が伝達されて駆動ベース150及び該駆動ベース150に接続されるエンドエフェクタ104を第2回転軸Orを中心として回転させることができる。また、歯車体114の回転作用下に、歯車118から歯車134、フェイスギア170、フェイスギア172及び歯車174を介してピン176に回転が伝達され、歯車付きピン154を回転させることができる。
なお、カバー160は、複合機構部102、エンドエフェクタ104を動作に支障のない範囲でほぼ全域にわたり覆うように円筒や円錐形のカバーで構成してもよい。また、ピン196を利用してカバー160を固定してもよい。
次に、エンドエフェクタ104は、第1エンドエフェクタ部材190と、第2エンドエフェクタ部材192と、リンク194と、ピン196とを有する。ピン196は第3回転軸Ogの軸上に配置される。
第1エンドエフェクタ部材190は、左右に対向して設けられた一対のサイドウォール200と、サイドウォール200の先端部にそれぞれ設けられた孔200aと、サイドウォール200の後端部にそれぞれ設けられた孔200bと、サイドウォール200の先端下部からZ1に突出した第1グリッパ(エンドエフェクタ軸)202と、サイドウォール200の後端下部に設けられたカバー固定部204とを有する。孔200aはピン196が、例えば圧入されるのに適した径に設定されている。第1グリッパ202はZ1方向に向かってやや幅狭となって、先端部が円弧状となる形状であり、Y1方向の全面には小さい錐上突起がほぼ隙間なく設けられている。
各サイドウォール200の先端部は円弧状に形成されており、後端部の両外側面には前記の支持アーム166が嵌り込む凹部200cが設けられている。第1グリッパ202とカバー固定部204との間には、第2エンドエフェクタ部材192の後端部に対する干渉を防止する孔190a(図4参照)が設けられている。カバー固定部204には、カバー固定ピン162が、例えば圧入される孔が設けられている。
第2エンドエフェクタ部材192は、ベース部210と、ベース部210の先端からZ1方向に延在する第2グリッパ(エンドエフェクタ軸)212と、ベース部210の左右後端からZ2方向に延在する一対の耳片部214と、ベース部210の先端下部に設けられた軸支筒216とを有する。軸支筒216はピン196が挿入可能な程度の内径の孔216aを有している。ピン196が軸支筒216に挿入されて孔200aに対して、例えば圧入されることにより、第2エンドエフェクタ部材192は第3回転軸Ogを中心として揺動自在となる。第2グリッパ212は第1グリッパ202と同形状で上下反転に配置されており、第2エンドエフェクタ部材192が第3回転軸Ogを中心として回動したときに第1グリッパ202に対して当接し、湾曲針等を把持することができる。耳片部214にはそれぞれ長孔214aが設けられている。
リンク194は、一方の端部に設けられた孔220と、他方の端部に設けられて左右に突出する一対の係合部222とを有する。各係合部222は長孔214aに対して摺動可能に係合している。孔220はピン176が係合するに適したDカット形状に形成されており、該ピン176に対する位置決め機能及び回り止め機能を有する。ピン176が孔166a、孔200b及び220に挿入されるとともに、先端部に固定ナット158が螺着されることにより、リンク194はピン176を中心として揺動自在となる。
また、筒体140にはワイヤ52が1.5回転巻き掛けられ、筒体136にはワイヤ54が1.5回転巻き掛けられ、筒体116にはワイヤ56が2.5回転(900°)巻き掛けられている。図4から明らかなように、筒体140の直径は、筒体116の直径に対してワイヤ56を2本加えた幅以上に設定されており、平面視でワイヤ52及びワイヤ54は、ワイヤ56よりもやや外側に配置される。これにより、各ワイヤ同士の干渉を容易に防止することができる。
つまり、ワイヤ56はワイヤ52よりも内側に配置されており、これらのワイヤ52に干渉することがない。したがって、ワイヤ56は、ワイヤ52の位置に無関係に、筒体116に対して全高さ(つまりH−D1)の約2/3の領域116a(図5参照)を使って巻回することができる。該領域116aは十分に広いことから、ワイヤ56を2.5回転(又はそれ以上で、例えば、3.5回転(1260°))巻き掛けることができ、歯車体114を2.5回転(又はそれ以上)させることができる。また、歯車体114の回転量を大きくすることができるため、歯車118と歯車134との歯車比を大きく設定することが可能となり、歯車体126の回転トルクを増大することも可能である。
次に、このように構成されるマニピュレータ10aの作用について図7を参照しながら説明する。
先ず、ヨー方向の動作に関しては第1指示レバー34(図1参照)を指で操作することにより行われる。すなわち、第1指示レバー34を指で操作することによりモータ40の回転作用下に駆動プーリ50a等が回転してワイヤ52が循環駆動され、主軸部材128が第1回転軸Oyを中心として回転する。これにより、主軸部材128の支持バー144に接続された複合機構部102及びエンドエフェクタ104がヨー方向に揺動することになる。このように、ヨー方向の動作は主体的にはモータ40によって行われることから、該モータ40は姿勢軸アクチュエータとして分類される。ただし、ヨー方向の動作にともない、グリッパ軸及びロール軸の姿勢を維持し又は指定の姿勢となるようにモータ42及び44も協調して駆動する。
第1指示レバー34は正逆二方向への傾動が可能であり、ヨー方向の動作は第1指示レバー34の傾動方向に応じて正逆方向へ揺動する。第1指示レバー34を中立位置に戻すとモータ40は停止し、ヨー方向の動作もその時点の位置を保持して停止する。
ロール方向の動作に関しては第2指示レバー36(図1参照)を指で操作することにより行われる。すなわち、第2指示レバー36を指で操作することによりモータ42の回転作用下に駆動プーリ50b等が回転してワイヤ54が循環駆動され、歯車体130が回転し、歯車138及びフェイスギア168を介して駆動ベース150に回転が伝達される。該駆動ベース150は第2回転軸Orを中心として回転する。これにより、複合機構部102及びエンドエフェクタ104がロール方向に回転することになる。このように、ロール方向の動作は主体的にはモータ42によって行われることから、該モータ42は姿勢軸アクチュエータとして分類される。ただし、ロール方向の動作にともない、グリッパ軸の姿勢を維持し又は指定の姿勢となるようにモータ44も協調して駆動する。
第2指示レバー36は正逆二方向への傾動が可能であり、ロール方向の動作は第2指示レバー36の傾動方向に応じて正逆方向へ回転する。第2指示レバー36を中立位置に戻すとモータ42は停止し、ロール方向の動作もその時点の位置を保持して停止する。
エンドエフェクタ104の開閉動作に関してはトリガーレバー32(図1参照)を指で引き寄せることにより行われる。すなわち、トリガーレバー32を指で引き寄せることによりモータ44の回転作用下に駆動プーリ50cが回転することによってワイヤ56が循環駆動され、歯車体114が回転し、歯車118、歯車134、フェイスギア170、172及び歯車174を介してピン176に回転が伝達される。ピン176はリンク194を介し、第2エンドエフェクタ部材192を第3回転軸Ogを中心として揺動させる。これにより第2グリッパ212が第1グリッパ202に対して開閉することになる。このように、エンドエフェクタ104の開閉動作は主体的にはモータ44によって行われることから、該モータ44はエンドエフェクタ軸アクチュエータとして分類される。
トリガーレバー32は指による引き寄せが可能であり、指を離すことにより弾性体によって元の位置に復帰する。エンドエフェクタ104はこのトリガーレバー32の操作に連動し、トリガーレバー32の引き寄せの程度に応じて閉じ、指をトリガーレバー32から離すことによって開状態に復帰する。トリガーレバー32にはラッチ機構があってもよい。
コントローラ45では、モータ40、42及び44の軸の回動位置を微小時間毎に指示することにより、上記の動作を行わせる。
次に、マニピュレータ10aの機構を数式を用いて説明する。以下の説明では、モータ40の駆動プーリ50aの回転角度をθ1、モータ42の駆動プーリ50bの回転角度をθ2、モータ44の駆動プーリ50cの回転角度をθ3とする。また、ヨー軸の傾動角度をθy、ロール軸の回転角度をθr、グリッパ軸の開閉角度をθgとする。また、ヨー軸のトルクをτy、ロール軸のトルクをτr、グリッパ軸のトルクをτgとする。
グリッパ軸はトグル機構を介しており、解析上不便であることから、θg及びτgに代えて、歯車174の回転角度をθg’、トルクをτg’として、以下解析に用いる。グリッパ軸の動作と歯車174の動作はトグル機構を介して1対1に対応していることから、このように置き換えても解析上の問題がないことは明らかであろう。以下、角度θg’をグリッパ軸角度、トルクτf’をグリッパ軸トルクとも呼ぶ。
作業部姿勢軸角度[θy θr θg’]Tとモータ軸角度[θ1 θ2 θ3]Tおよび作業部姿勢軸トルク[τy τr τg’]Tとモータ軸トルク[τ1 τ2 τ3]Tの関係式は次の(1−1)式、(1−2)式及び(1−3)式で表される。ここで、[A]は、複合機構部102によって決まる3行3列の機構干渉行列である。[AT]−1は[A]の転置の逆行列である。
姿勢軸角度[θy θr θg’]Tとモータ軸角度[θ1 θ2 θ3]Tおよびトルクの関係は次の(2)式で表せる。ここで、Rnnは、プーリ比や歯車歯数などの減速比で決まる値である。
簡単のため、各減速比を1とすると、前記の(1−1)式、(1−2)式及び(1−3)式は以下の(3−1)式、(3−2)式及び(3−3)式で表される。
エンドエフェクタ104の把持動作の各軸トルクについて検討する。把持動作に必要なグリッパ軸のトルクを仮にτg’=1とする。この時の各モータ40、42、44の駆動トルクの比は、式(3−3)にτy=0、τr=0、τg’=1を代入することで求まる。
τ1=2、 τ2=−1、 τ3=1 …(4)
これは、(3−3)式の第3列で表される値である。このように、把持動作時に、3軸モータでτg’=1のトルクを発生するときには、干渉トルクとして、1軸のモータ40は、3軸のモータ44のトルクの2倍のトルクが必要となる。また、2軸のモータ42は、3軸のモータ44のトルクの1倍のトルクが必要となる。これは、把持動作による3軸の反力を2軸が受け、その2軸、3軸の反力の和を1軸が受ける構成となっているためである。
概略的には、図8に示すように、第2グリッパ212が閉じて第1グリッパ202に当接して押圧力を発生させると、歯車174が側面視(X2方向視)で時計方向にトルクを発生し、フェイスギア172は正面視(Z2方向視)で反時計方向にトルクを発生し、歯車134が平面視(Y2方向視)で時計方向のトルクτg’を発生させる。
フェイスギア172が反時計方向に回動しようとするトルクのため、反作用としてフェイスギア168には正面視で時計方向のトルクτzが発生し、歯車138に平面視で時計方向のトルクτrが発生する。
一方、主軸部材128には、歯車134のトルクτg’と歯車138のトルクτrが累積的に加わり、その反作用(換言すれば干渉トルク)として、平面視で反時計方向のトルクτy(=τg’+τr)が発生し、支持バー144は逆方向に無駄に揺動してしまうことが理解されよう。すなわち、モータ44によりグリッパ軸にτgのトルク(つまり、歯車174にτg’のトルク)を発生させるためには、モータ42では、歯車138にトルクτrを発生させるべくトルクτ2を発生させ、モータ40では、主軸部材128にトルクτyを発生させるべくトルクτ1を発生させる必要が生じる。
これにより、各モータ40、42、44のトルクτ1、τ2、τ3に比例し、弾性に応じて各ワイヤが伸ばされることになる。
各駆動系のワイヤの伸びの比は下記のようになる。ただし各ワイヤの剛性は等しいと仮定する。
θ1=2、 θ2=−1、 θ3=1 …(5)
これにより、例えばヨー軸を代表する支持バー144は、本来の位置と比較し、図8の二点鎖線で示すように無駄に揺動してしまう。このように、このままではワイヤの伸びによるヨー軸およびロール軸に無駄な姿勢変動が発生し、術者に違和感を与えかねない。
このような、干渉トルクによる無駄な動きが発生しないようにするためには、例えば、太いワイヤを用いて剛性を向上させる手段が考えられるが、あまり太いワイヤを用いると、操作部と作業部との間でワイヤが挿通される連結シャフト48を大径にせざるを得ない。
各軸に上記に相当するワイヤの伸びが生じる場合、ワイヤの伸びによって生じ得る姿勢変動量は、ワイヤの伸び量を式(3−2)に代入することにより得られる。
θy=2、 θr=3(=2+1)、 θg’=6(=4+1+1) …(6)
このように、ヨー軸とロール軸とグリッパ軸の3自由度配置の駆動機構(はさみ、ニードルドライバ(持針器)、把持鉗子等)において、そのままでは、トルク干渉により駆動軸以外のワイヤが伸びて姿勢変動が生じかねない。
そこで、マニピュレータ10aにおいては、コントローラ45がこれらを補償するべく、モータ40、42及び44の補償制御をするのである。次に、このコントローラ45の構成について説明する。
図9に示すように、コントローラ45は、ヨー軸姿勢算出部500aと、ロール軸姿勢算出部500bと、グリッパ軸姿勢算出部500cとを有する。ヨー軸姿勢算出部500aは第1指示レバー34の操作に基づきヨー軸角度θyを算出し、ロール軸姿勢算出部500bは第2指示レバー36の操作に基づきロール軸角度θrを算出する。ヨー軸姿勢算出部500a及びロール軸姿勢算出部500bは、例えば第1指示レバー34及び第2指示レバー36のプラス・マイナス方向への操作を積分することによりヨー軸角度θy及びロール軸角度θrを算出する。グリッパ軸姿勢算出部500cは、トリガーレバー32の引き込み量に基づいてグリッパ軸の角度θg及び歯車174の角度θg’を算出する。
また、コントローラ45は、第1モータ回動量算出部502aと、第2モータ回動量算出部502bと、第3モータ回動量算出部502cと、トルク発生検出部504と、第1ドライバ506aと、第2ドライバ506bと、第3ドライバ506cとを有する。
第1モータ回動量算出部502aはヨー軸角度θyに基づいてモータ40の回動量θ1を算出する。第2モータ回動量算出部502bはヨー軸角度θy、ロール軸角度θrに基づいてモータ42の回動量θ2を算出する。第3モータ回動量算出部502cはヨー軸角度θy、ロール軸角度θ及びグリッパ軸角度θg’に基づいてモータ44の回動量θ3を算出する。これらの、第1モータ回動量算出部502a、第2モータ回動量算出部502b、及び第3モータ回動量算出部502cは、基本的には前記の(3−1)式に相当する機能を有する。第1モータ回動量算出部502a及び第2モータ回動量算出部502bは、さらに、トルク発生検出部504から供給される信号に基づいて各回動量θ1及びθ2を補正する機能を有する。この機能については後述する。
グリッパ軸姿勢算出部500cは、図10に示すように、トリガーレバー32の引き込み量βが最小値0から最大値βMaxの範囲に対してグリッパ軸角度θg’を比例的に設定する。ただし、グリッパ軸の動作範囲は0≦β<β1に対応しており、β≧β1の範囲では閉状態となり、指令値と実姿勢との間に偏差が生じ、該偏差に対応したトルクτg’が生じる。
トルクτg’は、基本的には偏差に応じて増大するが、引き込み量βが所定値β2以上の範囲では、モータ44の能力やワイヤ56の剛性等により所定のトルクτg’Max以上は発生し得ず、該値で制限されることになる。
なお、グリッパ軸はβ<β1の範囲でも摩擦等に打ち勝つための微小のトルクが発生するが、β≧β1の範囲で発生する把持トルクともいうべきτg’と比較すると十分に小さいため、解析上は無視するものとする。
トルク発生検出部504は、トリガーレバー32の引き込み量βに基づいてグリッパ軸にトルクτg’が発生しているタイミング、つまり引き込み量βが動作範囲の一端に対応するβ1に達した範囲、β≧β1であるタイミングを検出するトルク発生検出手段である。
また、トルク発生検出部504は、β≧β1であるタイミングで、基準値β1に対する超過量Δβ(=β−β1)を算出して第1モータ回動量算出部502a及び第2モータ回動量算出部502bに供給する。また、超過量Δβは、β≧β2の範囲では、Δβ=β2−β1、に制限するとよい。
トルク発生検出部504は、引き込み量βではなく、グリッパ軸姿勢算出部500cから得られるグリッパ軸角度θg’に基づいて処理を行ってもよい。
また、グリッパ軸がやや大きいワークを把持する場合には、β=β1となる以前の所定値β3(β3<β1)からトルクτg’が発生することが考えられる(図10の破線510参照)。このような手技に対してより適切に対応するためには、トルク発生検出部504は、引き込み量βではなく、モータ44を駆動する電流値に基づいて前記タイミングを検出するようにしてもよい。
すなわち、図11に示すように、第3ドライバ506cがモータ44を駆動する電流値をトルク発生検出部504に供給する。トルク発生検出部504では得られた電流値が所定閾値以上となったときに、グリッパ軸にトルクτg’が発生したタイミングとして判断し、第1モータ回動量算出部502a及び第2モータ回動量算出部502bに所定の指令を与えればよい。
さらに、モータ44に対する角度指令に相当する角度θ3と、モータ44の回転軸又は接続された駆動プーリ50cの実角度θ3sを所定のセンサにより検出し、角度θ3と実角度θ3sとの偏差に基づいて、前記タイミングを検出するようにしてもよい。
すなわち、図12に示すように、モータ40、42、44から所定のセンサにより得られるそれぞれの実角度θ1s、θ2s、θ3sと第3モータ回動量算出部502cで設定された指令値としての角度θ3をトルク発生検出部504に供給する。トルク発生検出部504では、得られた実角度θ3sと指令の角度θ3との偏差を求め、該偏差が所定閾値以上となったときに、グリッパ軸にトルクτg’が発生したタイミングとして判断し、第1モータ回動量算出部502a及び第2モータ回動量算出部502bに所定の指令を与えればよい。
これらの電流値又は偏差はトルクτg’と略比例的な相関があることから、該電流値により、トルクτg’の発生タイミングを検出することも可能である。
次に、第1モータ回動量算出部502a及び第2モータ回動量算出部502bは、トルク発生検出部504から供給される超過量Δβに基づいて回動量θ1及びθ2を以下の手順で補正する。便宜上、第1モータ回動量算出部502a及び第2モータ回動量算出部502bの処理をまとめて説明する。これらの処理は、微小時間毎に連続的に行われる。
先ず、図13のステップS1において、トルク発生検出部504は、引き込み量βに基づいて、トルクτg’が発生しているか否かを判定する。トルクτg’が発生していると判定されるとき(β≧β1のとき)には、超過量Δβを第1モータ回動量算出部502a及び第2モータ回動量算出部502bに供給する。
ステップS2において、第1モータ回動量算出部502a及び第2モータ回動量算出部502bは、超過量Δβに基づいて、比例関係又は所定の関係式に基づいてグリッパ軸のトルクτg’を求める。なお、簡便には、第1モータ回動量算出部502a及び第2モータ回動量算出部502bは、トルク発生検出部504からトルクτg’が発生するタイミングだけを受けて、トルクτg’はτg’=τg’Max(図10参照)としてもよい。実際の手技では、トリガーレバー32は最大引き込み量であるβ=βMaxとなるまで引かれることが多いためである。
ステップS3において、前記(3−3)式にトルクτg’を代入して、モータ40、42、44が発生するトルクτ1、τ2及びτ3を求める。このとき、τy=τr=0としておく。該(3−3)式によれば、τ1=2・τg’、τ2=−1・τg’、τ3=τg’となる。もちろん、厳密には各機構部の減速比は1ではないことから、これらの比例定数は(2)式のRnnの組合わせで表される異なる値となる。
ステップS4において、求められたτ1に基づいてモータ40の角度指令である角度θ1を補正するとともに、τ2に基づいてモータ42の角度指令である角度θ2を補正する。
すなわち、図14Aに示すように、その時点の角度θ1に対してτ1(=2・τg’)に比例した補正量C1を加算した角度(θ1+C1)を求め、第1ドライバ506aに供給する。この場合、τ2は正値であることから角度θ1を増加させる補正になる。
また、図14Bに示すように、その時点の角度θ2に対してτ2(=−1・τg’)に比例した補正量C2を加算した角度(θ1+C2)を求め、第2ドライバ506bに供給する。この場合、τ2は負値であることから角度θ2を減少する補正になる。すなわち、干渉トルクが発生する方向と同方向に目標位置をずらして制御することになる。
第3ドライバ506cにはその時点の角度θ3を補正することなくそのまま供給すればよい。
トルクτ1と補正量C1との比例係数k1は、モータ40がトルクτ1を発生することによるヨー軸の姿勢変動量が、補正量C1と一致するように求めておけばよい。この比例係数k1にはワイヤ52の伸びが考慮される。同様に、τ2と補正量C2との比例係数k2は、モータ42がトルクτ2を発生することによるロール軸の姿勢変動量が、補正量C2と一致するように求めておけばよい。この比例係数k2にはワイヤ54の伸びが考慮される。
これらの比例係数k1及びk2は、計算シミュレーション又は実験等により求められる。また、トルクτ1と補正量C1との関係、及びトルクτ2と補正量C2との関係は必ずしも比例関係に限らず、例えば二次以上の関係式又は実験式としてもよい。
このように、第1ドライバ506aに対して角度(θ1−C1)の指令を与えることにより、モータ40は本来の指令角度である角度θ1より小さい角度(θ1−C1)の位置に略達する(図14A参照)。一方、該モータ40には、グリッパ軸がトルクτg’を発生するための干渉トルクとしてトルクτ1が正方向に発生することから、ワイヤ52等に伸びや歪み等が生じ、モータ40の駆動プーリ50aと主軸部材128の角度の対応にずれが生じ、結果としてヨー軸は当初の目標値である角度θyと極めて近い値になる。
また、第2ドライバ506bに対して角度(θ2−C2)の指令を与えることにより、モータ42は本来の指令角度である角度θ2より大きい角度(θ2−C2)の位置に略達する(図14B参照)。一方、該モータ42には、グリッパ軸がトルクτg’を発生するための干渉トルクとしてトルクτ2が負方向に発生することから、ワイヤ54等に伸びや歪み等が生じ、モータ42の駆動プーリ50bと歯車138の角度の対応にずれが生じ、結果としてロール軸は当初の目標値である角度θrと極めて近い値になる。
このように、第1の参考例に係るマニピュレータ10a及びその制御方法によれば、コントローラ45では、グリッパ軸にトルクτg’が発生するタイミングをトルク発生検出部504が検出し、検出信号である超過量Δβに基づき、姿勢軸の現在位置である角度θ1、θ2を基準として、干渉トルクτ1、τ2が発生する方向と同方向に指令信号の補正を行う。これにより、マニピュレータ10aでは、腹腔鏡下手術を行うのに好適な3つの自由度が得られるとともに、グリッパ軸にトルクτg’を発生させることによりワイヤ52、54等に伸び、歪みが生じても、他軸はほとんど無駄な動きすることがない。
したがって、術者は違和感を感じることなく手技を行うことができる。また、各ワイヤの伸びが補償されることから、各ワイヤを細くすることが可能となり、連結部16及びトラカール20(図1参照)を細径に設定することができる。
また、エンドエフェクタ104の向きを変える姿勢軸は2軸設けられており、それぞれ発生する干渉トルク(τ1及びτ2)の大きさ及び方向が異なるが、コントローラ45では、発生する干渉トルクの計算値に基づいて、姿勢軸毎に異なる量だけモータ40及び42の移動位置をずらして制御している。従って、各姿勢軸毎に適切な補償制御が可能となる。
さらに、コントローラ45により行われる制御方法は、前記の(2)式、(3−1)式〜(3−3)式及び比例係数k1及びk2を機構に合わせて変更することにより、基本的にどのような構造のマニピュレータに対しても適用可能である。
次に、第1の実施形態に係るマニピュレータ10bについて説明する。マニピュレータ10a(及び後述するマニピュレータ10c)について、前記のマニピュレータ10aと同様の箇所については同符号を付してその詳細な説明を省略する。
図15〜図18に示すように、マニピュレータ10bの作業部12bでは、Y1方向からY2方向に向かって順に、シャフト112に対して歯車体126、歯車体300、主軸部材128及び歯車体130が軸支されている。
歯車体126は、領域132a(図5参照)に相当する部分が薄く設定されている。
主軸部材128には、前記の筒体140に代えて薄い保護板171が設けられている。保護板171はシャフト112が挿通する中心孔171bを備え、Z2方向が略90°の円弧形状であり、Z1方向に向かって拡開しており、平面視で略山形となっている。
図18及び図19に示すように、平面視で(換言すれば軸方向に投影したときに)保護板171は、歯車118、歯車301及び歯車138を覆う。また、Z1方向端面に設けられた凹部171aにフェイスギア168及びフェイスギア170の歯部が入り込む。したがって、結紮作業等で用いられる糸等が接触せず、該糸が引き込まれ、絡み又は干渉することが防止できる。
このような糸の絡み又は干渉等を防止する部材としての保護板171は、必ずしも主軸部材128と一体的に構成されている必要はなく、例えば、図20及び図21に示すように、主軸部材128とは別体で、該主軸部材128の下(Y2方向)に設けてもよい。
このように、フェイスギア168及び170の少なくとも一部を覆う保護板171を設けることにより、糸等が該フェイスギア168及び170に絡むことが防止できる。特に、保護板171は後方に向かって狭くなる形状であり、ヨー軸方向動作の支障となることがないとともに、糸等が不必要に内側に入り込むことがなく、該フェイスギア168及び170や歯車134等に対する絡み又は干渉等を一層確実に防止できる。
また、保護板171は、平面視で歯車134、歯車301及び歯車138を覆うことから、これらの各歯車に対して糸等が絡むことを防止できる。
図15〜図18に戻り、作業部12bには、平面視で舌片部58、歯車体114、歯車118、歯車301及び歯車138を覆うカバー303が装着されており、これらの機構部に糸等が絡むことを一層確実に防止できる。図17から明らかなように、シャフト112の位置を基準として、保護板171とカバー303の前方部は略対称に構成されており、保護板171は主にZ1方向の部位に糸が絡むことを防止し、カバー303は主にZ2方向の部位に糸等が絡み又は干渉することを防止できる。
歯車体300は、歯車体130と同じ構成で、逆向きに配置されている。歯車体300には、歯車138と同じ歯車301が設けられている。歯車体300の筒体302には、ワイヤ52が巻き掛けられている。つまり、モータ40及び駆動プーリ50aにより駆動されるのは、主軸部材128ではなく歯車体300となっている。
駆動ベース(従動回転体)304は、前記の駆動ベース150に相当するものであり、Z2方向の端面にはフェイスギア168が設けられている。フェイスギア168のY1方向の頂部は歯車(第1駆動回転体)301と噛合し、Y2方向の頂部は歯車(第2駆動回転体)138と噛合しており、いわゆる差動機構を構成している。
駆動ベース304の中央部には、支持バー144に固定ナット156を螺着させるスペースとなる空間部306が設けられ、Z1方向の端部には、グリッパ開閉動作の基準となるグリッパベース308が設けられている。グリッパベース308は、グリッパの開閉向きに応じた平行な左右一対の摺動面308aと、先端に設けられた回転中心となる孔308bとを有する。
歯車リング(延在軸回転体)310は、前記の歯車リング152に相当するものであり、Z2方向の端面のフェイスギア170と、Z1方向の端面のフェイスギア172とを有しており、駆動ベース304の筒体164に嵌装される。歯車リング310は前記歯車リング152よりも軸方向にやや長く、中央よりややZ2側の外周面には環状突起312が設けられている。フェイスギア170のY1方向頂部は歯車134に噛合している。
次に、エンドエフェクタ104は、第1エンドエフェクタ体320と、第2エンドエフェクタ体322と、カバー324と、固定ピン326とを有する。固定ピン326は第3回転軸Ogの軸上に配置される。
カバー324は、エンドエフェクタ104における各部品を保護及び支持するためのものである。カバー324は、Z2方向の短筒330と、該短筒330の上下両端からZ1方向に向かって突出している一対の耳片部332とを有する。各耳片部332には、固定ピン326が挿入され固定するための孔332aが設けられている。
第1エンドエフェクタ体320は、歯車体336と、作用部338とを有する。歯車体336は、一対の耳片部332の間におけるX2方向に配置される部品であって、歯車340と、該歯車340の中心からX1方向に向かって突出するDカット形状の突起342とを有する。歯車体336には、中心部に固定ピン326が挿入される孔336aが設けられている。歯車体336は、歯車340がX2方向となるように配置され、該歯車340はフェイスギア172のX2方向の頂部と噛合する。
作用部338は、基端筒344と、該基端筒344から略径方向に突出するアーム346と、該アーム346からさらに径方向に向けて突出したグリッパ348とを有する。基端筒344の中心には突起342が係合するのに適したDカット形状の孔344aが設けられており、該突起342に対する位置決め機能及び回り止め機能を有する。
グリッパ348は、基端筒344及びアーム346よりもややX1方向に厚く、グリッパ348の中間幅部が基端筒344及びアーム346のX1方向端面に略等しい。グリッパ348には、両端円弧状で内側面348aにX方向に延在する波形部が設けられており、把持するワークの滑り止めとなる。グリッパ348には、凹部348bが設けられている。
第2エンドエフェクタ体322は、歯車体350と、作用部352とを有する。作用部352は、グリッパ348と同形状のグリッパ353を有する。歯車体350は、一対の耳片部332の間におけるX1方向に配置される部品であって、歯車354を有する。歯車体350は、歯車354がX1方向となるように配置され、該歯車354はフェイスギア172のX1方向の頂部と噛合する。歯車体350は、歯車体336と同形状であり、歯車354は、歯車340に相当し、その他の部分については、同符号を付して詳細な説明を省略する。
作用部352は、作用部338と同形状であって歯車体350に係合し、作用部338に対して上下反転した向きに配置される。作用部352の各部については、作用部338と同符号を付して詳細な説明を省略する。
第1エンドエフェクタ体320のグリッパ348はY2方向寄りに配置され、第2エンドエフェクタ体322のグリッパ353はY1方向寄りに配置され、グリッパ348及び353は、内側面348aが対面するように基準軸Cに対称配置される。基準軸Cは、連結シャフト48及び作業部12bの延在方向軸である。
歯車体336と、グリッパベース308と、歯車体350は一対の耳片部332の間にほとんど隙間なく配置され、固定ピン326が孔332a、孔308b及び孔332aに挿入され、軸支される。
このようなエンドエフェクタ104では、歯車リング310の回転作用下に歯車340及び歯車354は互いに逆方向に回転する。つまり、正面から見て歯車リング310が時計方向に回転するときには、側面視(X2方向視)で、歯車340は回転軸Ogを中心として反時計方向に回転し、歯車354は回転軸Ogを中心として時計方向に回転する。これにより、一対のアーム346、346及び一対のグリッパ348、353は、YZ平面上で基準軸に対称に回転し、開閉動作を行うことができる。
次に、このように構成されるマニピュレータ10bの作用について図22を参照しながら説明する。
先ず、ヨー方向の動作に関しては第1指示レバー34(図1参照)を指で操作することにより行われる。すなわち、第1指示レバー34を指で操作することによりモータ40及び42(図1参照)の回転作用下に駆動プーリ50a及び50b等が回転してワイヤ52及び54が同方向に同速度で循環駆動され、主軸部材128及び駆動ベース304が第1回転軸Oyを中心として回転し、ヨー方向に揺動することになる。
ロール方向の動作に関しては第2指示レバー36(図1参照)を指で操作することにより行われる。すなわち、第2指示レバー36を指で操作することによりモータ40及び42(図1参照)の回転作用下に駆動プーリ50a及び50b等が回転してワイヤ52及び54が反対方向に循環駆動され、又は同方向であっても異なる速度で循環駆動され、主軸部材128及び駆動ベース304が基準軸Cを中心として回転し、ロール方向に動作することになる。
このように、ヨー方向動作及びロール方向動作については、歯車301、歯車138を用いた差動機構により駆動される。差動機構を用いることから、ヨー方向動作及びロール方向動作については、モータ40及び42が協動して駆動をすることになり、所要トルクは1/2ずつの分担となる。
エンドエフェクタ104の開閉動作に関してはトリガーレバー32(図1参照)を指で引き寄せることにより行われる。すなわち、トリガーレバー32を指で引き寄せることによりモータ44(図1参照)の回転作用下に駆動プーリ50cが回転することによってワイヤ56が循環駆動され、歯車体114が回転し、歯車134、フェイスギア170、172に回転が伝達される。フェイスギア172は、歯車340及び第1エンドエフェクタ体320を所定の方向へ回転させ、歯車354及び第2エンドエフェクタ体322を逆方向へ回転させる。これによりエンドエフェクタ104が開閉動作を行うことになる。
次に、マニピュレータ10bの機構を数式を用いて説明する。前記の(2)式をマニピュレータ10bに当てはめて展開すると、前記の(3−1)式、(3−2)式及び(3−3)式に相当する関係式が次の(7−1)式、(7−2)式及び(7−3)式で表される。なお、簡略化のために各減速比は1にしている。
エンドエフェクタ104の把持動作の各軸トルクについて検討する。把持動作に必要なグリッパ軸のトルクを仮にτg’=1とする。この時の各モータ40、42、44の駆動トルクの比は、式(7−3)にτy=0、τr=0、τg’=1を代入することで求まる。
τ1=1、 τ2=0、 τ3=1 …(8)
ここで、同構成の1軸と2軸に対応するτ1とτ2の値が異なるのは、3軸の駆動系の配置が中心軸にたいして対称配置ではなく、片側だけに配置されていることに基づく。
これは、(7−3)式の第3列で表される値である。このように、把持動作時に、3軸のモータ44でτg’=1のトルクを発生させるときには、干渉トルクとして、1軸のモータ40は、3軸のモータ44のトルクの1倍のトルクが必要となる。3軸の反力を1軸が受けるが、その反力は、ヨー軸部において相殺するように釣り合っているため、3軸と1軸のトルクは累積的に加算されることがなく、これらのトルクを2軸が受けない構成になっていることが理解されよう。
各駆動系のワイヤの伸びは下記のようになる。ただし、各ワイヤの剛性は等しいと仮定する。
θ1=1、 θ2=0、 θ3=1 …(9)
仮に各軸に上記に相当するワイヤの伸びが生じる場合、ワイヤの伸びによって生じる姿勢変動量は、ワイヤの伸び量を式(7−2)に代入することにより得られる。
θy=0.5、 θr=0.5、 θg’=2 …(10)
前記のマニピュレータ10aの構成では、θy=2、θr=3((6)式参照)であることから、仮にマニピュレータ10aで姿勢補償の制御を行わない場合と比較するとマニピュレータ10bでは、姿勢変動をヨー軸で1/4、ロール軸で1/6に減少できる。
なお、θg’=2となっているが、これに対応するグリッパ軸は閉動作を行っているのであるから姿勢変動は発生しない。
このように、第1の実施形態に係るマニピュレータ10bによれば、複合機構部102により、モータ44の作用下にエンドエフェクタ104を駆動するとトルクτg’がモータ40には干渉トルクを発生させるが、モータ42にはトルクτg’と干渉トルクが釣り合う方向に作用するように構成されている。
次に、第2の実施形態に係るマニピュレータ10cについて説明する。
図23〜図26に示すように、マニピュレータ10cの作業部12cでは、Y1方向からY2方向に向かって順に、シャフト112に対して歯車体126、歯車体300及び主軸部材(第2駆動回転体)360が軸支されている。
主軸部材360は、前記の主軸部材128に相当する部材であり、前記のマニピュレータ10aと同様にモータ40によってワイヤ52を介して駆動される。主軸部材360は軸部が、Y2方向にやや突出しており(図26参照)、該軸部にワイヤ52が巻き掛けられている。
歯車体300はモータ42によってワイヤ54を介して駆動される。また、マニピュレータ10bにおける歯車体130は設けられていない。マニピュレータ10cにおけるこれら以外の構成については、前記マニピュレータ10bと同じである。
図27にマニピュレータ10cの駆動系統の基本構成を示す。図27に示す構成と、マニピュレータ10aの駆動系統の基本構成(図7参照)を比較すれば容易に理解されるように、マニピュレータ10cにおけるヨー軸方向動作はモータ40の作用下に、マニピュレータ10aと同様の機構で駆動される。グリッパ軸動作は、グリッパ自体の構成はマニピュレータ10aと異なるが、基本的にモータ44の作用下に同様の機構で駆動される。
ロール軸方向動作は、歯車301がフェイスギア168のY1方向頂部に噛合しているから、歯車138がフェイスギア168のY2方向頂部に噛合しているマニピュレータ10aと比較すると、同じ動作をさせる場合にモータ42の回転方向が逆となる。
次に、マニピュレータ10cの機構を数式を用いて説明する。前記の(2)式をマニピュレータ10cに当てはめて展開すると、前記の(3−1)式、(3−2)式及び(3−3)式に相当する関係式が次の(11−1)式、(11−2)式及び(11−3)式で表される。なお、簡略化のために各減速比は1にしている。
エンドエフェクタ104の把持動作の各軸トルクについて検討する。把持動作に必要なグリッパ軸のトルクを仮にτg’=1とする。この時の各駆動軸の駆動トルクの比は、式(11−3)にτy=0、τr=0、τg’=1を代入することで求まる。
τ1=0、 τ2=1、 τ3=1 …(12)
これは、(11−3)式の第3列で表される値である。このように、把持動作時に、3軸モータでτg’=1のトルクを発生させるときには、干渉トルクとして、2軸のモータ42は、3軸のモータ44のトルクの1倍のトルクが必要となる。3軸の反力を2軸が受けるが、その反力は、ヨー軸部において釣り合っているため、3軸と2軸のトルクは累積的に加算されることがなく、これらのトルクを1軸が受けない構成にはなっていることが理解されよう。
つまり、ロール軸駆動用の歯車301とグリッパ軸駆動用の歯車134を主軸部材360に対して同じ側(図27ではY1側)に配置することにより、ヨー軸部の駆動トルクを釣り合あわせることができる。
各駆動系のワイヤの伸びは下記のようになる。ただし、各ワイヤの剛性は等しいと仮定する。
θ1=0、 θ2=1、 θ3=1 …(13)
反力(干渉トルク)が累積しない構成では、ヨー軸部では、以下のように最小限の反力(干渉トルク)で釣り合った状態となっている。
仮に各軸に上記に相当するワイヤの伸びが生じる場合、ワイヤの伸びによって生じる姿勢変動量は、ワイヤの伸び量を式(11−2)に代入することにより得られる。
θy=0、 θr=1、 θg’=2 …(14)
前記のマニピュレータ10aの構成では、θy=2、θr=3((6)式参照)であることから、仮にマニピュレータ10aで姿勢補償の制御を行わない場合と比較するとマニピュレータ10cでは、ロール軸の姿勢変動を1/3に減少できる。ヨー軸については、姿勢変動は全く現れない構成となっている。
また、マニピュレータ10cでは、シャフト112に対して、歯車134、歯車301及び主軸部材360の順に配置されている。つまり、最も先端のグリッパ軸を駆動するための歯車134が最も外方に配置されていることから、構造上、合理的である。
また、前記の(11−1)式より、θrを0→1に動作させるためには、θ2は、0→1、θ3は、0→−1に動作させる必要がある。すなわち、ロール軸をプラス方向に駆動する場合、2軸はプラス方向に、3軸はマイナス方向に駆動する。(11−3)式を変形すると、次の(11−4)式が得られる。
ロール軸を方向に+駆動する場合で、θ2、θ3に対する複合機構部102での駆動系の摩擦トルクが大きいときには、τ2には+τ2’の摩擦トルク、τ3には−τ3’の摩擦トルクが付加される。これは、(11−4)式よりヨー軸への干渉トルクとなり、τy=τ2’+τ3’となり、干渉トルクは同方向に加算されることになり、ヨー軸揺動の要因となる。無駄な揺動動作が無視できない場合には、1軸にプラス方向の目標位置の修正を行えばよい。逆に、ロール軸をマイナス方向に駆動する場合には、1軸にマイナス方向の目標位置の修正を行えばよい。
1軸の目標位置の修正方向は、ロール軸の動作方向に依存するため、トルク検出部、ロール軸の動作方向が変化する(正方向から負方向、又は負方向から正方向)ことに基づいて、タイミングを検出し、修正方向を切り替えればよい。
1軸の修正量は、粘性摩擦トルクが支配的である場合には、ロール軸動作に比例させるとよい。つまり姿勢軸の速度に基づいて、対応する姿勢軸アクチュエータの移動位置をずらして制御するとよい。一方、クーロン摩擦トルクが支配的である場合には、ロール軸の回転方向のみを考慮した一定値でよい。粘性摩擦トルク及びクーロン摩擦トルクの両方を考慮して制御してもよいことはもちろんである。
クーロン摩擦トルクが支配的で、ロール軸の回転方向のみを考慮する場合、切り替えるタイミングは速度が発生するタイミングでよい。
すなわち、正方向に回転している状態から速度が0を超えて負方向の回転となる場合には、負の回転となったときに制御切り替えのタイミングとする。負方向に回転している状態から速度が0を超えて正方向の回転となる場合には、正の回転となったときに制御切り替えのタイミングとする。
正方向に回転している状態から速度が0となり再度正方向の回転となる場合、及び負方向に回転している状態から速度が0となり再度負方向の回転となる場合には制御の切り換えを行う必要はない。これは、通常、速度が0になった時点ではクーロン摩擦は0になる前の状態を維持しているためである。
なお、マニピュレータ10a及び10bに対して、前記マニピュレータ10aで行っている姿勢変動の補償制御を併用してもよいことはもちろんである。
マニピュレータ10a(補償制御を行わない場合)、マニピュレータ10b及びマニピュレータ10cにおけるグリッパ把持動作時の各軸の所要トルク比、ワイヤ伸び比、姿勢変動量の比の比較を図28にまとめる。マニピュレータ10bの差動機構およびマニピュレータ10bのピニオン同側配置機構は、マニピュレータ10a(補償制御を行わない場合)の値と比較して、把持動作時の各軸の所要トルク、ワイヤ伸び、姿勢変動量の全てについて効果がある。なお、括弧内の数値は、マニピュレータ10aの数値との比較値である。
なお、マニピュレータ10a〜10c及び作業部12a〜12cは、YR把持鉗子、ニードルドライバ、及び患者から離れた箇所から電気通信手段等を介して手技を行う遠隔作業機構にも適用可能でありる。医療用途以外にも、例えば、エネルギー機器等の狭隘部補修の用マニピュレータに好適に適用可能であることはもちろんである。
本発明に係る作業機構及びマニピュレータは、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。