本発明の実施例の説明に先立って、本発明の原理について説明する。
血液・尿など液体試料に含まれる化学的成分の分析において、長期間にわたり繰り返し測定する場合、測定結果が変動する原因について、本発明者らが種々解析を行った結果、分析の繰り返しに伴う電極表面状態の変化に主に起因することが判明した。すなわち、蛋白質などを含む液体試料中での電位印加過程、電極表面を洗浄するための洗浄剤として水酸化カリウムなどの強アルカリ成分を含む液体中での電位印加過程、前記両者を長期間反復した場合、電極表面が徐々にエッチングされ、繰り返し分析後の表面状態が分析初期のそれに対して変動する。結果的に測定結果に悪影響を与える。
白金表面のエッチング挙動を調べたところ、例えば熱処理等により結晶組織が粗大化した白金電極の場合、分析繰り返しに伴い、エッチングのされやすい結晶面が優先的に溶出し、電極面内において比較的大きい凹んだ部分が局所的に発生する場合が見られた。これは、表面の結晶方位によりエッチング速度が変化することに起因する。また、液体試料に含まれる化学的成分によっては電極表面の結晶方位により反応性が異なることがわかった。すなわち、分析の繰り返しにより最表面に露出する各結晶方位の比率が変動し、結果的に電気化学反応の応答量が異なり、分析データに影響を及ぼすことがわかった。この現象は、特にフローセル内に電極を設置する場合、安定した液流を確保できなくなり、分析液,洗浄液の液置換を十分に行えず、適正な分析ができなくなってしまう。
一方、結晶組織を微細にし、かつ結晶配向性をいずれかの方位に優先配向させた電極を用いた場合、分析繰り返しにより、電極表面がエッチングされる条件下においても、エッチングによる溶出が電極面内で比較的均一に進行し、エッチングにより形成される微細な孔、すなわちエッチピットが多数発生するものの、電極面内で局所的な凹みが形成されないことがわかった。特に、血液・尿などの液体試料中に含まれる微量濃度の化学的成分を磁性粒子を用いて選択的に電極上に捕捉し、分析する系においては、表面に発生するエッチピットと磁性粒子間の摩擦力が増大し、結果的に電極上での磁性粒子の安定性を向上、ひいては分析データを安定化することがわかった。
上記理由から、分析データ安定性の向上には、実際に電気化学反応を発生させる電極材料の結晶組織が微細であり、かつ表面がエッチングされていく条件下において露出する結晶面の変動を抑制することが有効であるとの考えに至った。
本発明の電極材料は、母材である白金または白金合金中に金属酸化物を微細分散させた酸化物分散型の複合材料であり、以下詳説する。
本発明の電極の母材となる白金または白金合金については、白金−ロジウム,白金−金,白金−イリジウムなど、液体試料中に含まれる化学的成分に応じて適宜選択することができる。本明細書においては、母材はバルク状態の白金または白金合金であって、母材に対する母材中に存在する空隙の割合の体積換算での百分率値を空隙率と定義した場合に、空隙率が1%以下、好ましくは0.2%以下の材料である。空隙の孔径は5μm以下であることが好ましい。空隙率が1%、空隙の孔径が5μmを上回ると、分析繰り返しの過程において、母材内部が存在していた空隙が表層に露出し、分析データに影響を及ぼす場合があるからである。
本発明における金属酸化物は、複合材料の作製工程において白金,白金合金中に安定に存在し、母材の結晶組織を微細に保つことを役割の一つとして担う。また、電極表面に存在する金属酸化物は液体試料など各種電解液と接触するため、広いpH領域で電気化学反応への関与が小さいものであることが望ましい。これらの理由および電位−pH図(プルベーダイヤグラム)からわかるように、ジルコニウム,タンタル,ニオブの酸化物などを用いることができる。
母材中の金属酸化物の含有比率は0.005〜1%であることが好ましい。0.005%以下の場合、母材中に含まれる酸化物の量が低すぎるため、場所によって母材の結晶が粗大化する領域が存在するためである。1%を超える場合、電気化学反応への寄与が大きくなり、分析データに影響を及ぼしてしまうため、および加工性が悪化してしまうためである。絞り加工性や展延性が要求される形状に電極を加工する場合には、加工性をより高くするため分散粒子濃度を0.01〜0.15%とすることがより好ましい。
母材中の添加金属は必ずしも全て酸化物の状態にある必要はない。例えば、金属材料分散型複合材料の製造方法としては、添加金属担持白金粉末を酸化して添加金属を酸化させて分散粒子を形成するものがあるが、この場合、酸化処理において全ての添加金属を酸化物としなくても、必要量の分散粒子が微細分散していればよい。電気化学反応への影響を小さくするためには、酸化処理を十分に行うことが好ましい。
本発明の金属酸化物分散型の複合材料の形状は、線状,棒状,網状など特に限定されないが、特に圧延加工等により板状としたものがよく、冷間圧延時に強圧延することにより複合材料の結晶配向性を高めたものが好ましい。
金属酸化物分散型の複合材料は公知の方法により作製できる。
例えば、以下の方法が挙げられる。白金にジルコニウムを添加した白金合金を形成した後、白金合金をフレームガン等により水へ溶融噴霧することで白金合金粉末を形成する、いわゆるフレーム溶射法を使用して白金合金粉末を形成する。この白金合金粉末は、高温下の大気中雰囲気で、酸化処理を行う。酸化処理した白金合金粉末を型成形により所定形状に圧縮成形し、その後高温下で焼結処理を行う。得られる成形体をエアハンマにより形状加工し、冷間圧延処理し、再結晶加熱処理を行う。
また別の方法として、以下の方法が挙げられる。粉末調製した白金を準備し、化学的沈殿反応を利用して、水酸化ジルコニウムを担持した水酸化ジルコニウム担持白金を形成する。この水酸化ジルコニウム担持白金の粉末を用いて、成形,焼結,鍛造,冷間圧延処理,再結晶化熱処理を順次行う。最終の仕上がり品において金属酸化物を均一に分散させるため、出発材料の白金粉末の粒径を、0.05〜10μmの範囲とすることが好ましい。
また別の方法として、以下の方法が挙げられる。共同沈殿法により白金に酸化ジルコニウムを担持させた状態の白金粉末を形成し、その白金粉末を使用して複合材料を製造する。すなわち、ヘキサクロロ白金酸溶液および硝酸ジルコニウム溶液を混合し、還元剤としてのヒドラジンヒドラートと、pH調整用の水酸化カルシウムを加えることによって、共同沈殿反応を生じさせることにより、白金−水酸化ジルコニウム粉末を得る。その後、濾過,乾燥処理をして焼成処理することにより、酸化ジルコニウム担持白金の粉末を得る。以後、焼結,鍛造,冷間圧延処理,再結晶化処理を順次行う。
本発明の金属酸化物分散型複合材料は、電極表面の結晶配向率において、複数の結晶方位の内の一つの結晶方位が優先的に配向していることが好ましい。電極表面の結晶配向率は次式(1)で定義されるものである。
(結晶方位の配向率)=I(hkl)/ΣI(hkl)×100 ・・・(1)
但し、I(hkl)は電極表面のX線回折測定より得られる各面の回折強度積分値であり、ΣI(hkl)は(hkl)の回折強度積分値の総和である。尚、本明細書では、X線回折測定より得られる(111)面,(200)面,(220)面、あるいは(311)面のそれぞれの回折強度積分値から上式(1)に従って優先配向性を算出する。
好ましい面方位は特に限定されないが、電極表面のX線回折において(111)面,(200)面,(220)面、あるいは(311)面のいずれかの面を優先配向させた金属酸化物分散型複合材料が好ましい。所定の面方位がピーク積分値で80%以上を占める電極が好ましいが、より好ましくは、(220)面の配向率が80%を示す材料である。そのためには、冷間圧延処理において圧下率70%以上、好ましくは90%以上の条件で実施し、後述するように、得られた材料の表面を更に機械研磨,電解研磨することが好ましい。尚、圧下率は次式(2)で定義する。
(圧下率)=(t0−t)/t0×100 ・・・(2)
但し、上記(2)式において、t0は圧延前の板厚であり、tは圧延後の板厚である。
金属酸化物分散型複合材料に接続する電気配線材料は、広く用いられている銅,アルミニウム,銀,白金等の電気抵抗の低い金属材料、またそれらを絶縁被覆した配線を用いることができるが、特に限定されるものではない。電気配線と分散型複合材料との接続は、溶接やはんだ付け等公知の方法で実施することができる。
電極面積を規定する場合や電気配線材料または接続部の液体試料への浸漬を回避したい場合には、電極表面の一部を除き、絶縁性樹脂に包埋してもよい。絶縁性樹脂としては、特に限定されないが、フッ素系樹脂,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリエステル,ポリ塩化ビニル,エポキシ樹脂,ポリエーテルエーテルケトン,ポリイミド,ポリアミドイミド,ポリスチレン,ポリスルホン,ホリエーテルスルホン,ホリフェニレンサルファイド,アクリル樹脂など耐薬品性に優れ、また分析対象とする液体試料に応じて適宜選択することができる。
本発明の電極を、接着剤を用いて絶縁性基板に固定してもよい。絶縁性基板は上記した絶縁性樹脂と同様の材料を用いることができる。接着剤には、エポキシ系,アクリル系など熱可塑性,熱硬化性あるいは光硬化性の樹脂を用いることができるが、絶縁性樹脂と同様、耐薬品性に優れたものであれば、特に限定されず適宜選択することができる。
電極を絶縁性樹脂に埋め込む場合や絶縁性基板に固定する場合には、本発明の電極の下地に別の金属を配置したクラッド材を用いることもできる。例えば、酸化物分散型複合材料とチタンなど弁金属とを接合した材料などが挙げられる。接合に関しては、チタンなどの表面が酸素,炭素,窒素などと反応し、不活性皮膜を形成することから、チタンの金属表面を露出させて、速やかに白金と接合する必要がある。そのためには、例えば、チタン表面に形成された不活性皮膜を真空雰囲気下でドライエッチングなどにより除去した後、複合材料と付き合わせて鍛接することにより接合が可能である。また、公知の爆発圧接法によりチタンと酸化物分散型複合材料を接合した後、冷間圧延加工することも可能である。また、冷間圧延加工した酸化物分散型複合材料とチタン表面に白金めっきを施したもの面同士を付き合わせ、鍛接することにより作製することがより好ましい。チタン表面に白金めっきを施す場合、密着性を向上させるための前処理として、チタン表面をサンドブラスト法は化学エッチング法により処理してもよい。化学エッチング法においては、フッ酸,フッ化物含有フッ酸,濃硫酸,塩酸,蓚酸など、またそれらの混合溶液を用いることができる。
下地金属の板厚は特に限定されないが、曲げや切削等の加工性の観点から0.01〜5mmが好ましい。酸化物分散型複合材料の板厚としては、0.01〜0.3mmであることが好ましい。より好ましくは、0.02〜0.15mmである。圧延工程において局所的な熱,圧力集中などの影響を受け、表層に内部とは異なる結晶組織状態が形成される場合があり、その深さは場合によっては表層から0.01mm程度に及ぶ。そのため、酸化物分散型複合材料の厚みを0.01mm以上とし、表層を機械研磨により除去して内部の結晶組織を表層に露出して使用することがより好ましい。0.3mm以上では白金量が多くなり、高コストになるためである。
金属酸化物分散型複合材料は、前述したように、その表面を機械的に研磨することが好ましい。さらに、機械的研磨した後、さらに電解研磨することがより好ましい。電解研磨は、酸あるいは水酸化カリウムなどの強アルカリ成分を含む電解液中で水素発生領域と酸素発生領域間で繰り返し電位印加する方法が好ましい。印加電位波形は三角波,矩形波などを用いることができるが、本発明においては、特に限定する必要はない。
上記の機械研磨および電解研磨は、圧下率の大きい条件下で冷間圧延加工処理を行う場合に特に有効な処理である。すなわち、特に圧延加工を経た材料の表面近傍の結晶配向性は比較的ランダムであったり、局所的に表面に熱が加わることにより板内部と表層部とでは結晶粒径および配向性が異なることがわかった。機械研磨後の材料では圧延加工により形成された表面変質層はある程度除去されるが、機械研磨時の加圧により形成される表面変質層や研磨砥粒によるキズなどが依然として存在している。本発明の製造方法においても、冷間圧延加工により白金の内部は結晶配向性を持った状態となるが、表面近傍には結晶配向性の乱れた表面変質層が形成されることが考えられる。機械研磨および電解研磨は前記表面変質層の除去に有効であり、材料内部の高い結晶配向性を有する部分を露出させる工程と言える。
電極の製造工程において、材料表面の変質層の除去の程度を判断するため、電解研磨処理中に所定の電解液中に前記材料を浸漬し、サイクリックボルタンメトリにより表面状態を診断することが好ましい。すなわち、サイクリックボルタンメトリ結果より複数の水素吸脱着の電流ピークが得られる。これらの電流ピークは電極表面の面方位に依存した電流量となるため、圧延加工により生じた表面変質層の除去の度合いを判断する基準となり得る。得られたピークの内少なくとも2つのピークの面積、ならびに面積比を計算する。計算結果に基づき、所定の面積比になるまで電解研磨することにより、表面変質層を除去した電極を得ることができる。尚、サイクリックボルタンメトリにおいて用いる電解液としては、例えば硫酸,燐酸,過塩素酸,水酸化ナトリウム,水酸化カリウムなどが挙げられる。
電気化学セルに用いる対極は、分析対象とする液体試料に応じて適宜選択するが、白金または白金合金を用いることができる。また、本発明の電極を対極に用いてもよい。形状は、線状,棒状,網状,板状など特に限定されない。
電気化学セルに用いる参照極は、銀|塩化銀電極,飽和カロメル電極,銀電極などを用いることができるが、特に限定されない。
上記した電極を作用極として用いた電気化学セルおよび分析装置は、その電気化学応答が長期間にわたり電極の表面状態の変動が少なく、また露出する結晶配向性の変化が小さく、安定した測定結果を示すことがわかった。フローセル内に作用極を設置する場合においても、長期間にわたり電極の表面状態、特に電極面内において局所的な凹みの形成を抑制し、分析液,洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、結果的にデータ安定性を向上できる。
本発明の電極,電気化学セルおよび電気化学測定装置を用いて、血液・尿など液体試料に含まれる化学的成分として、例えば以下に示す成分を分析することが可能である。例えば、グルコース,糖化ヘモグロビン,糖化アルブミン,乳酸,尿酸,尿素,クレアチニン,胆汁酸、コレステロール,中性脂肪、アンモニア,尿素窒素,ビリルビン,ヒスタミンなどが挙げられるが、酵素やメディエータ等の作用により生じる酸化還元種の電気化学応答を示す成分が挙げられるが、特に限定されない。分析対象とする化学的成分と選択的に結合する成分を表面に修飾した磁性粒子を用いて対象成分を電極表面に捕捉した後、電気化学測定を行う成分も分析することが可能である。
グルコースを検出する場合にあっては、例えばグルコースオキシダーゼを作用させることにより生成した過酸化水素を電極上で還元あるいは酸化することにより、グルコース濃度を定量することができる。
糖化ヘモグロビンや糖化アルブミンなどの糖化タンパク質を検出する場合にあっては、例えばプロテアーゼにより糖化タンパク質より糖化ペプチドを遊離させた後、さらに糖化ペプチドオキシダーゼを作用させることにより生成した過酸化水素を電極上で還元あるいは酸化することにより、糖化タンパク質濃度を定量することができる。
乳酸を検出する場合にあっては、例えば乳酸オキシダーゼを作用させることにより生成した過酸化水素を電極上で還元あるいは酸化することにより、乳酸濃度を定量することができる。
尿酸を検出する場合にあっては、例えばウリカーゼを作用させることにより生成した過酸化水素を電極上で還元あるいは酸化することにより、尿酸濃度を定量することができる。
尿素を検出する場合にあっては、例えばウレアーゼを作用させることにより生じたアンモニアに、β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)およびフェリシアン化カリウム存在下でさらにグルタミン酸脱水素酵素を作用させることにより生成したフェロシアン化カリウムを電極上で酸化することにより、尿素濃度を定量することができる。
クレアチニンを検出する場合にあっては、例えばクレアチニナーゼ,クレアチナーゼおよびザルコシンオキシダーゼを順次作用させることにより生成した過酸化水素を電極上で還元あるいは酸化することにより、クレアチニン濃度を定量することができる。
胆汁酸を検出する場合にあっては、例えば胆汁酸硫酸スルファターゼ,β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼを還元型NADHおよびフェリシアン化カリウム存在下で順次作用させることにより生成したフェロシアン化カリウムを電極上で酸化することにより、胆汁酸濃度を定量することができる。
コレステロールを検出する場合にあっては、例えばコレステロールオキシダーゼを作用させることにより生成した過酸化水素を電極上で還元あるいは酸化することにより、コレステロール濃度を定量することができる。
中性脂肪を検出する場合にあっては、例えばグリセロフォスフェートオキシダーゼを作用させることにより生成した過酸化水素を電極上で還元あるいは酸化することにより、中性脂肪濃度を定量することができる。
脂肪酸を検出する場合にあっては、例えばアシルCoAオキシダーゼを作用させることにより生成した過酸化水素を電極上で還元あるいは酸化することにより、脂肪酸濃度を定量することができる。
アンモニアを検出する場合にあっては、NADHおよびフェリシアン化カリウム存在下でグルタミン酸脱水素酵素を作用させることにより生成したフェロシアン化カリウムを電極上で酸化することにより、アンモニア濃度を定量することができる。
ビリルビンを検出する場合にあっては、例えばフェリシアン化カリウム存在下でビリルビンオキシダーゼを作用させることにより生成したフェロシアン化カリウムを電極上で酸化することにより、尿素窒素濃度を定量することができる。
上記した酵素類は電極表面上に固定化される。酵素類の電極表面への固定化方法は特に限定されないが、例えば酵素類を溶解させた水溶液や緩衝液中に電極を浸漬する方法、あるいは電極上に酵素類を溶解させた水溶液や緩衝液を滴下することにより物理的あるいは化学的に酵素類を固定化する方法、末端基にカルボキシル基やアミノ基などの官能基を導入したチオールを含む溶液中に電極を浸漬して電極表面に前記チオールを吸着させた後に酵素などを反応させて固定化する方法、グルタルアルデヒドのような架橋試薬あるいはさらに牛血清アルブミンを用いて酵素などを電極上に固定化する方法、親水性高分子などのゲル膜を電極上に形成させた後に膜中に酵素などを固定化する方法またはポリチオフェンなどの導電性高分子膜を電極上に形成させた後に膜中に酵素などを固定化する方法などが挙げられる。
分析対象を検出する際、必要に応じて、検出濃度範囲の拡張を目的としてメディエーター分子を利用することが有効である。メディエーター分子を利用する場合においては、電極上に形成させた酵素類の生理活性物質の固定化膜中あるいはこれとは分けて、メディエーター分子を電極上に配置することが好ましい。メディエーター分子の種類は特に限定されないが、例えばフェリシアン化カリウム,フェロシアン化カリウム,フェロセンおよびその誘導体、ビオローゲン類およびメチレンブルーなどの少くとも一種を用いることができる。
次に、以上の原理に基づく、本発明の実施例について説明する。
以下、本発明の一実施形態による電極を用いて、本発明の一実施形態による電気化学的分析装置の全体構成について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態による電気化学的分析装置の全体構成を示す。第1の実施形態は、バッチ処理方式の形態を有した電気化学的分析装置である。
電気化学セル1の中に、作用極2,対極3および参照極4を配置する。各電極2,3,4は、電気配線7により電位印加手段5および測定手段6に接続されている。対極3は白金を板状に圧延加工し、表面を鏡面研磨したものを用いた。参照極は、Ag|AgCl電極とした。尚、本明細書中において、銀|塩化銀(飽和塩化カリウム水溶液)電極をAg|AgClと記す。
溶液分注機構11は、それぞれ測定溶液容器8から被測定対象化学的成分を含む測定溶液、緩衝液容器9から緩衝液を溶液導入管13内に導入する。導入された測定溶液と緩衝液は、溶液導入管13内にて混合されて、混合液が溶液注入機構12により、電気化学セル1中に注入されて被測定対象物の電気化学的測定が行われる。
電位印加手段5はポテンシオスタット,ガルバノスタット,直流電源,交流電源あるいはそれらをファンクションジェネレータなどと接続したシステムを用いることができる。測定手段6は、被測定対象物の電気化学的特性を測定する。電気化学的特性とは、ポテンシオメトリ,アンペロメトリ,ボルタンメトリ,インピーダンス測定等、公知の測定手法のいずれであってもよく、特に限定されることはない。電気化学反応に応じて生じる光子を光学素子により検出する方法等もある。
測定の終了した測定溶液は、溶液排出機構15によって吸引されて、溶液排出管14を通って廃液容器16に廃棄される。試料の測定終了後、溶液分注機構11によって、洗浄液容器10から洗浄液が吸入され、溶液注入機構12によって電気化学セル1中に供給される。電気化学セル1内を洗浄した洗浄液は、廃液容器16に廃棄される。
ここで、典型例として、電圧印加手段5は、測定溶液の測定中に作用極に対して正の電位と負の電位を所定周期で繰り返すパルス状波形の電位を出力する。このパルス状波形の電位は、血液のような蛋白質,ハロゲン元素を多く含む測定溶液を電解セル内に長期間連続的に流す場合や、水酸化カリウムのような強アルカリ性の洗浄剤が測定容器内に流入する場合に、印加されるように構成されている。本実施例では上記電位印加波形としたが、特に限定されることはない。
ここで、作用極2に用いる電極材料として、白金中に酸化ジルコニウムを分散させた複合材料を用いた。前記複合材料は、以下に示す製法に従って作製した。白金−0.2%ジルコニウム合金を真空溶解にてインゴットを製造した。続いて、鍛造処理後、前記インゴットを圧延することにより、伸線処理を行った。前記の伸線処理したものをフレームガンにより蒸留水浴に向けて溶融噴霧し、白金合金粉末とした。得られた白金合金粉末を大気中、1250℃,24時間保持して酸化処理を行った。酸化処理後の合金粉を1250℃で仮焼結し、引き続きホットプレスで成形固化する。緻密度を向上させるため、成形体を熱間鍛造する。最後に、この合金を圧下率90%で冷間圧延処理、1400℃で1時間加熱処理を行うことで、板厚0.2mmの板状の複合材料を得た。
前記の複合材料を用いて、作用極2を以下の手順に従って作製した。
前記複合材料を直径5mmの大きさに切断した。その後、図2に示す作用電極製造装置50により、まず電極化部50aにおいて切断した複合材料301の裏面に電気配線302をはんだにより接続した。電気配線として絶縁樹脂被覆銅線を用いた。
次に、樹脂包埋部50bにおいて、複合電極の表面だけが直径5mmの円状に露出するように、接着剤303を用いて絶縁性樹脂300に埋め込んだ。絶縁性樹脂としてフッ素系樹脂を用いた。
次に、機械研磨部50cにおいて、電極表面を耐水研磨紙,ダイヤモンドペーストおよびアルミナ粒子を用いて順次機械研磨加工され、鏡面に仕上げた。
次に、ステンレス製のシャフト304をフッ素系樹脂にねじ込み、シャフト304と電気配線302とを接続した。最後に、電解研磨部50dにおいて、0.2mol/L水酸化カリウム水溶液中で−1.2〜1.0V vs Ag|AgClの電位間で電位走査速度0.1V/sで10000回電位走査が繰り返され、図3に示す作用極2を得た。尚、図4は図3のA−A′における断面模式図である。
本実施例で作製した作用極2の電極表面のX線回折測定を実施した。X線源としてCuKαを用い、出力40kV,20mAとし、電極表面上の異なる3点を測定した。白金表面における(111)面,(200)面,(220)面,(311)面の回折ピークの積分値(I)を算出して、各方位の配向率((%)=I(hkl)/ΣI(hkl)×100)を求めた。尚、各ピーク積分値の算出の際には、(111)面は37°≦2θ≦42°、(200)面は44°≦2θ≦49°、(220)面は65°≦2θ≦70°、(311)面は78°≦2θ≦83°(θは回折角度)の範囲で行った。測定の結果、図5に示すように、面指数(220)が優先的に配向しており、配向率95%であることがわかった。
図6は、本発明の一実施形態で採用している、金属酸化物分散型白金電極の効果を説明する図である。同一濃度のTSH(甲状腺刺激ホルモン)を分析対象として繰り返し測定を行った。図6の横軸は試験回数を示し、縦軸は各実測値を基準値で除した値で示した。尚、基準値は既定濃度のTSH含有溶液を測定したときの出力値、実測値は実施例、比較例で用いた溶液それぞれを測定したときの測定値である。変動幅は分析60000回目と1回目の値の差と定義する。図6において、丸印を結ぶ線は本願実施例の場合であり、三角印を結ぶ線は、本発明とは異なる比較例の場合である。
図3の電極および図1の電気化学的分析装置を用いて、測定溶液として、血清中のTSHを免疫学的に分析し、洗浄液として、例えば水酸化カリウム水溶液を各測定の終了毎に電気化学セルに導入する方法で測定を行った。
図6に示すように、比較例の電極を用いた場合の変動幅は10.3%であった。比較例の電極は、熱間圧延加工,再結晶化処理を施した白金電極であり、白金表面を実施例1と同様に、機械研磨処理,電解処理を行った電極である。詳細は後述する比較例にて説明する。それに対して、本実施例の電極を用いた場合、変動幅が4.2%まで低減した。
本実施例の電極は、金属酸化物として酸化ジルコニウムを分散した白金電極である。本電極におけるジルコニウム含有量は金属換算で0.2%であり、圧延加工および機械研磨において生じた、表面変質層が除去され、面方位(220)に配向率80%以上で優先配向している。本電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、面内で不均一な溶解を抑制し、かつ、分析を繰り返しても最表面に露出する結晶の配向性の変化が小さく、表面状態の変動を抑制することが可能になり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
実施例1では、複合材料をフッ素樹脂に埋め込んだ電極としたが、金属酸化物分散型複合材料を電極として用い、その電極がデータ安定性に効果を示すものである。そのため、形態については特に限定されない。例えば、図7(図8は図7の側面図)に示すような樹脂に埋め込まない板状の形態でも同様の効果が得られることを確認した。
次に、本発明の実施例2について説明する。この実施例2の電極およびそれを用いた電気化学的分析装置は、電極を製造する際、電解研磨処理中にサイクリックボルタンメトリにより表面状態を診断しながら、電極表面の変質層を除去した点を除き、実施例1と同様である。サイクリックボルタンメトリは、電解液として窒素置換したpH6.86の燐酸緩衝液を用い、作用極を作用極2、対極を白金ワイヤ、参照極をAg|AgClとし、電位走査範囲−0.6〜1.1V,走査速度0.1V/sの条件で実施した。測定結果を図9に示す。サイクリックボルタンメトリ結果より得られた複数の水素吸脱着の電流ピークのうち、−0.37〜−0.31Vに見られるピークをaとし、−0.31〜−0.2Vに見られるピークをbとし、それらのピーク面積,面積比b/aを計算する。面積比が80%以下となるまで電解処理を行い、作用極2を得た。
本発明の実施例2による作用極を用いた電気化学的分析装置により実施例1と同様に繰り返し分析した結果、変動幅は3.8%と良好な結果が得られた。電極をX線回折解析した結果、配向率96%で(220)方位に優先配向していることがわかった。本電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、面内で不均一な溶解を抑制し、かつ、分析を繰り返しても最表面に露出する結晶の配向性の変化が小さく、表面状態の変動を抑制することが可能になり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
本発明の実施例2では、ピークa,bを表面変質層除去度合いの判断基準として用いたが、−0.48〜−0.37Vに見られるピークcとピークbからb/cを計算し、判断基準としてb/cが35%以下とした場合においても同様の効果が得られることが確認できた。
図10,図11を用いて、本発明の一実施形態による電気化学的分析装置について説明する。本発明の一実施形態による電気化学的分析装置の構成を図10に示す。図10の電気化学的分析装置に用いるフローセルの分解構成図を図11に示す。
図10において、図1に示した電気化学セル1がフローセル20に置き換わっている点以外は、図1に示した例と図10に示した例とは同等となっている。
図11において、電気化学セルとしてのフローセル20は、(a)に示す2枚の電気絶縁性基板30,32と、シール部材31を(b)のように積層して形成した。絶縁性基板30としてポリエーテルエーテルケトンを用いた。絶縁性基板30の一方の面には、作用極34が固定されている。ここで、作用極2に用いる電極材料として、白金中に酸化ジルコニウムを分散させた複合材料を用いた。前記複合材料は、以下に示す製法に従って作製した。粒径約0.5μmの白金粉末と炭酸カルシウムとを混合した懸濁液をボールミル処理し、その懸濁液を1100℃で高温熱処理し、その高温熱処理により得られる塊を水に投入した後、硝酸処理を行った。得られた白金粉末2kgを、純水4Lに投入し、白金懸濁液を作製した。その白金懸濁液に硝酸ジルコニウム溶液9gを混合し、常温で約3分間撹拌した後、アンモニア水溶液2.0gを加えてpH7.5に調整し、混合液から濾過回収することにより、水酸化ジルコニウム担持白金粉末を得た。回収した水酸化ジルコニウム担持白金を、洗浄処理後、120℃大気雰囲気中で乾燥処理を行った。続いて、この水酸化ジルコニウム担持白金を開口径300μmのふるいを通過させた。この水酸化ジルコニウム担持白金を容器に充填し、100MPaで冷間圧成形して成形体を得た。この成形体は、1200℃の大気雰囲気中にて、1時間の焼結処理を施し、続いてエアハンマによる鍛造加工をすることで酸化ジルコニウムが分散した白金インゴットを得た。このインゴットを圧下率90%となるように冷間圧延処理を行った。続いて、1400℃,1hrの再結晶加熱処理を行うことにより、板厚150μmの複合材料を製造した。得られた複合材料には酸化ジルコニウムが金属換算で約0.1%含まれていた。尚、複合材料中に含有するジルコニウム濃度は、材料を王水で溶解後、誘導結合プラズマ試料分析法(ICP−MS)により分析した。
作用極34が固定化された絶縁性基板30は図16に示す製造フローに従って作製した。
電極化部50aにて、上記した複合材料に絶縁性樹脂被覆アルミ配線39をはんだにより接続することにより、作用極34を得た。次に、樹脂包埋部50bにおいて、絶縁性基板30の表面に予め設けられた凹部に埋め込み、接着剤により固着した。その後、機械研磨部50cにおいて、絶縁性基板30と電極との表面段差が無くなるまで耐水研磨紙,ダイヤモンドペースト,アルミナにより順次機械研磨し、鏡面にした。その後、電解研磨部50dにおいて0.2mol/L水酸化カリウム水溶液中で−1.2V/0.5秒,3.0V/1.5秒の矩形パルス状の電位印加を10000回繰り返した。尚、得られた作用極34の表面Ra(算術平均粗さ)は約0.6μmであった。最後に、セル組立部50eにおいてシール部材31および絶縁性基板32を積層することにより、電気化学セル20を形成した。
絶縁性基板32は、透明なアクリル材によって形成した。絶縁性基板32の一方の面に、対極35を固定した。対極35は、白金を電極の形状に加工した後、1000℃にて、1時間焼鈍処理を施したものを用いた。絶縁性基板32の表面には、凹部が形成されており、この凹部に焼鈍処理を施した対極35を埋め込み、固着した後、対極35の表面を鏡面研磨した。尚、対極35の形状は、板状に限られるものではなく、櫛歯状,メッシュ状,棒状でもよい。また、電極材料は、白金に限るものでなく、他の白金族金属でもよい。対極35は、作用極と同様に、機械研磨処理後、電解研磨処理を施した白金を用いてもよい。
対極35も作用極34と同様、絶縁性基板32に埋め込まれる前に電気配線40とはんだにより接続している。そして、電気配線39,40は、絶縁性基板30,32に開けられた穴に通してある。
シール部材31は、フッ素系樹脂製であり、中央に開口部36を設けた。絶縁性基板30には配管37,38と連結するための溶液注入口37a,溶液排出口38aが設けられており、これら2つの孔は開口部36の内周に位置するよう配置され、開口部36部分に溶液の出し入れが可能となる。作用極34と対極35は、シール部材31の開口部36を介して対向している。
絶縁性基板30,32およびシール部材31の4隅にはねじ穴33が配置され、それぞれに、ネジを通し、絶縁性基板30とシール部材31と絶縁性基板32とを固定圧着して、フローセル20を形成した。
絶縁性基板30において、作用極が配設される面と反対側の面には、フッ素樹脂製の配管37,38を固定接続した。配管37は、フローセル20に測定溶液などを導入する機構に接続され、配管38は、測定済みの溶液を排出するための流路として用いる。また、参照極(図示せず)は、配管38、すなわち溶液の排出側配管部に配置し、作用極に電位印加する際の基準電極として利用した。
本発明のフローセルは図11に示した実施形態に特に限定されない。以下その他のフローセルの例について説明する。
図12において、フローセル60は、(a)に示す各部材、すなわち2枚の電気絶縁性基板70,72と、シール部材71が(b)のように積層されて形成される。絶縁性基板70の一方の面には、作用極74が固定されている。絶縁性基板72の一方の面には、対極75が固定されている。
作用極74,対極75は、それぞれ絶縁性基板70,72に埋め込まれる前に電気配線79,80とはんだ付けにより接続されており、電気配線79,80は、絶縁性基板70,72に開けられた穴に通してある。
シール部材71中央には開口部76を有している。絶縁性基板72には配管77,78と連結するための溶液注入口77a,溶液排出口78aが設けられており、これら2つの孔は開口部76の内部に位置するよう配置され、開口部76部分に溶液の出し入れが可能となる。作用極74と対極75は、シール部材71の開口部76を介して対向している。
絶縁性基板70,72およびシール部材71の4隅にはねじ穴73が配置され、それぞれに、ネジを通し、絶縁性基板70とシール部材71と絶縁性基板72とを固定圧着して、フローセル60を形成する。
絶縁性基板72において、対極75が配設される面と反対側の面には、フッ素樹脂製の配管77,78が固定接続されている。配管77は、フローセル60に測定溶液などを導入する機構に接続され、配管78は、測定済みの溶液を排出するための流路として用いる。また、参照極(図示せず)は、配管78、すなわち溶液の排出側配管部に配置され、作用極に電位印加する際の基準電極として利用する。
図13において、フローセル90は、(a)に示す各部材、すなわち2枚の電気絶縁性基板100,102と、シール部材101が(b)のように積層されて形成される。絶縁性基板100の一方の面には作用極104が固定されている。絶縁性基板102の一方の面には対極105が固定されている。
作用極104,対極105は、それぞれ絶縁性基板100,102に埋め込まれる前に電気配線109,110とはんだ付けにより接続されており、電気配線109,110は、絶縁性基板100,102に開けられた穴に通してある。
シール部材101中央には開口部106を有している。開口部の形状はフローセル内に供給される各種溶液が滞留することなく、円滑に液置換が行われる形状であれば、特に限定されない。絶縁性基板100には配管107,108と連結するための溶液注入口107a,溶液排出口108aが設けられており、これら2つの孔は開口部106の内部に位置するよう配置され、開口部106部分に溶液の出し入れが可能となる。作用極104と対極105は、シール部材101の開口部106を介して対向している。
絶縁性基板100,102およびシール部材101の4隅にはねじ穴103が配置され、それぞれに、ネジを通し、絶縁性基板100とシール部材101と絶縁性基板102とを固定圧着して、フローセル90を形成する。
絶縁性基板100において、側面には、フッ素樹脂製の配管107,108が固定接続されている。配管107は、フローセル90に測定溶液などを導入する機構に接続され、配管108は、測定済みの溶液を排出するための流路として用いる。また、参照極(図示せず)は、配管108、すなわち溶液の排出側配管部に配置され、作用極に電位印加する際の基準電極として利用する。
図14において、フローセル120は、(a)に示す各部材、すなわち2枚の電気絶縁性基板130,132と、シール部材131が(b)のように積層されて形成される。絶縁性基板132の一方の面には、対極135が固定されている。絶縁性基板130の中央部には(c)に示すように作用極134を配置する凹部および作用極との接続を可能にする通電用ボルト141のネジ溝143が形成されている。作用極134を絶縁性基板130に接着剤を用いて固着した後、鏡面研磨を行う。その後、通電用プレート142を介して通電用ボルト141をネジ溝143に締め込む。通電用プレートは例えば金,錫やアルミニウムなど、軟らかく抵抗率の小さい金属であれば特に限定されない。通電用ボルト141は電気配線139と接続されており、作用極134との電気的接続を可能にしている。
対極135は絶縁性基板132に埋め込まれる前に電気配線140とはんだ付けにより接続されており、電気配線140は、絶縁性基板132に開けられた穴に通してある。
シール部材131中央には開口部136を有している。絶縁性基板132には配管137,138と連結するため溶液注入口137a,溶液排出口138aが設けられており、これら2つの孔は開口部136の内部に位置するよう配置され、開口部136部分に溶液の出し入れが可能となる。作用極134と対極135は、シール部材131の開口部136を介して対向している。
絶縁性基板130,132およびシール部材131の4隅にはねじ穴133が配置され、それぞれに、ネジを通し、絶縁性基板130とシール部材131と絶縁性基板132とを固定圧着して、フローセル120を形成する。
絶縁性基板132において、側面には、フッ素樹脂製の配管137,138が固定接続されている。配管137は、フローセル120に測定溶液などを導入する機構に接続され、配管138は、測定済みの溶液を排出するための流路として用いる。また、参照極(図示せず)は、配管138、すなわち溶液の排出側配管部に配置され、作用極に電位印加する際の基準電極として利用する。
図15において、フローセル180は、絶縁性基板190,192で作用極194をO−リング191を介して積層することにより形成する。絶縁性基板190,192外周にはねじ穴193が配置され、それぞれにネジを通して締め込むことにより、フローセル180を形成する。
絶縁性基板192中央部には対極200が埋め込まれており、フローセル内部に突出した構造となっている。また、絶縁性基板192には、フッ素樹脂製の配管197,198が固定接続されている。配管197は、フローセル180に測定溶液などを導入する機構に接続され、配管198は、測定済みの溶液を排出するための流路として用いる。また、参照極(図示せず)は、配管198、すなわち溶液の排出側配管部に配置され、作用極に電位印加する際の基準電極として利用する。
作用極194,対極195は、電気配線199,200とはんだ付けにより接続されている。
次に、図10,図11を用いて、本発明の実施例3の電気化学的分析装置の全体構成について説明する。図1と同様な構成の部分は、重複するので詳細な説明は省略する。
測定溶液と緩衝液を溶液導入管13内にて混合し、フローセル20中に注入した。混合液がフローセル20に貯液している間に、電圧印加手段5により作用極34に所定の電位を印加し、被測定対象物の電気化学的測定を行った。フローセル20内の作用極における電気化学的反応により得られた信号を、電気配線7を介して信号処理のための測定手段6に伝達した。
尚、透明な絶縁性樹脂32上部に検出器を配置することにより電気化学反応により生じる変化を光学的に測定することも可能である。
フローセル20にて測定の終了した測定溶液を溶液排出機構15によって吸引し、溶液排出管14を通って廃液容器16に廃棄した。
本実施例3で用いた作用極34は白金に酸化ジルコニウムを分散した複合材料に電気配線を施した電極である。電極表面のX線回折測定を実施した結果、面指数(220)が優先的に配向しており、配向率85%であることがわかった。
図11のフローセルおよび図10の電気化学的分析装置を用いて、測定溶液として血清中のTSHを直径3μmの磁性粒子表面に吸着させた複合体を分析し、洗浄液として、例えば水酸化カリウム水溶液を各測定の終了毎にフローセルに導入する方法で測定を行った。実施例1と同様に、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、5.0%であった。本電極を作用極として用いたフローセルおよび分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、面内で不均一な溶解を抑制し、かつ、分析を繰り返しても最表面に露出する結晶の配向性の変化が小さく、表面状態の変動を抑制することが可能になり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。また、分析液,洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。さらに、表面に生成したピットが電極表面の磁性粒子を安定化させることにより、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
本発明の実施例4について説明する。実施例4では既知濃度のグルコースを分析対象とし、実施例1の電極表面上に酵素を固定化したことおよび白金中に分散させる金属酸化物を酸化ニオブとしたことを除き、実施例1と同様に繰り返し測定を行った。白金中に分散した金属酸化物の含有量は金属換算で0.06%であった。
測定した結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、4.0%であり、比較例2に比べて変動幅が小さくなっていることがわかった。これは、本電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、面内で不均一な溶解を抑制し、かつ、分析を繰り返しても最表面に露出する結晶の配向性の変化が小さく、表面状態の変動を抑制することが可能になり、結果的に電極表面に修飾する酵素量を安定に制御することができ、また、分析液,洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
本発明の実施例5について説明する。実施例5では既知濃度の尿素を分析対象としたことおよび白金中に分散させる金属酸化物を酸化タンタルとしたことを除き、実施例1の測定方法に準拠して繰り返し分析測定を行った。白金中に分散した金属酸化物の含有量は金属換算で0.08%であった。測定溶液容器8において、検体試料とウレアーゼ、次にβ−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH),フェリシアン化カリウム存在下でさらにグルタミン酸脱水素酵素を作用させることによりフェロシアン化カリウムを生成させた。測定溶液容器8からフェロシアン化カリウムを含む測定溶液、緩衝液溶液9から緩衝液を溶液導入管13内に導入して混合し、溶液注入機構12により電気化学セル1中に注入し、電気化学測定を行った。繰り返し測定を行った結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、2.5%であり、比較例3に比べて変動幅が小さくなっていることがわかった。これは、本電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、面内で不均一な溶解を抑制し、かつ、分析を繰り返しても最表面に露出する結晶の配向性の変化が小さく、表面状態の変動を抑制することが可能になり、また、分析液,洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
本発明の実施例6について説明する。実施例6では既知濃度のコレステロールを分析対象としたこと、母材金属を白金−2%金合金としたことおよび母材中に分散させる金属酸化物を酸化ジルコニウムとしたことを除き、実施例5の測定方法に準拠して繰り返し分析測定を行った。母材中に分散した金属酸化物の含有量は金属換算で0.1%であった。測定溶液容器8において、検体試料とコレステロールオキシダーゼを作用させることにより過酸化水素を生成した。測定溶液容器8から過酸化水素を含む測定溶液、緩衝液溶液9から緩衝液を溶液導入管13内に導入して混合し、溶液注入機構12により電気化学セル1中に注入し、電気化学測定を行った。繰り返し測定を行った結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、5.0%であり、比較例4に比べて変動幅が小さくなっていることがわかった。これは、本電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、面内で不均一な溶解を抑制し、かつ、分析を繰り返しても最表面に露出する結晶の配向性の変化が小さく、表面状態の変動を抑制することが可能になり、また、分析液,洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
本発明の実施例7について説明する。実施例7では既知濃度の尿酸を分析対象としたこと、母材金属を白金−1%ロジウム合金としたことおよび母材中に分散させる金属酸化物を酸化ジルコニウムとしたことを除き、実施例5の測定方法に準拠して繰り返し分析測定を行った。母材中に分散した金属酸化物の含有量は金属換算で0.15%であった。測定溶液容器8において、検体試料とウリカーゼを作用させることにより過酸化水素を生成した。測定溶液容器8から過酸化水素を含む測定溶液、緩衝液溶液9から緩衝液を溶液導入管13内に導入して混合し、溶液注入機構12により電気化学セル1中に注入し、電気化学測定を行った。繰り返し測定を行った結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、5.3%であり、比較例5に比べて変動幅が小さくなっていることがわかった。これは、本電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、面内で不均一な溶解を抑制し、かつ、分析を繰り返しても最表面に露出する結晶の配向性の変化が小さく、表面状態の変動を抑制することが可能になり、また、分析液,洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
本発明の実施例8について説明する。実施例8では既知濃度のクレアチニンを分析対象としたこと、母材中に分散させる金属酸化物を酸化ジルコニウムとしたことを除き、実施例5の測定方法に準拠して繰り返し分析測定を行った。母材中に分散した金属酸化物の含有量は金属換算で0.9%であった。尚、母材中に分散した金属酸化物の含有量が1%を上回る電極を試作したが、電極形状を調整する際加工性が悪化したため、本実施例では1%以下となるように電極を調整した。測定溶液容器8において、検体試料とクレアチニナーゼ,ザルコシンオキシターゼを順次作用させることにより過酸化水素を生成した。測定溶液容器8から過酸化水素を含む測定溶液、緩衝液溶液9から緩衝液を溶液導入管13内に導入して混合し、溶液注入機構12により電気化学セル1中に注入し、電気化学測定を行った。繰り返し測定を行った結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、7.7%であり、比較例6に比べて変動幅が小さくなっていることがわかった。これは、本電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、面内で不均一な溶解を抑制し、かつ、分析を繰り返しても最表面に露出する結晶の配向性の変化が小さく、表面状態の変動を抑制することが可能になり、また、分析液,洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
本発明の実施例9について説明する。実施例9では母材中に分散した金属酸化物の含有量が金属換算で0.004%であることを除き、実施例8の測定方法に準拠して繰り返し分析測定を行った。繰り返し測定を行った結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、12.3%であり、比較例7に比べてわずかに変動幅が小さくなり効果は見られたものの、大差ないことがわかった。これは、本電極を作用極として用いた分析装置においては、母材中の金属酸化物の含有量が小さすぎ、母材の結晶組織の微細化がさほど進行していなかったこと、結晶配向率が実施例8に比べて小さいことに起因すると考えられる。
本発明の実施例10について説明する。実施例10では既知濃度の脂肪酸を分析対象としたことを除き、実施例3の測定方法に準拠して繰り返し分析測定を行った。すなわち、測定溶液容器8において、検体試料とアシルCoAオキシダーゼを作用させることにより過酸化水素を生成した。測定溶液容器8から過酸化水素を含む測定溶液、緩衝液溶器9から緩衝液を溶液導入管13内に導入して混合し、溶液吸引機構15によりフローセル20中に注入し、電気化学測定を行った。繰り返し測定を行った結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、5.1%であり、比較例8に比べて変動幅が小さくなっていることがわかった。これは、本電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、面内で不均一な溶解を抑制し、かつ、分析を繰り返しても最表面に露出する結晶の配向性の変化が小さく、表面状態の変動を抑制することが可能になり、また、分析液,洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
本発明の実施例11について説明する。実施例11では既知濃度のビリルビンを分析対象としたことを除き、実施例3の測定方法に準拠して繰り返し分析測定を行った。すなわち、測定溶液容器8において、検体試料とフェリシアン化カリウム存在下でビリルビンオキシダーゼを作用させることによりフェロシアン化カリウムを生成した。測定溶液容器8からフェロシアン化カリウムを含む測定溶液、緩衝液溶液9から緩衝液を溶液導入管13内に導入して混合し、溶液吸引機構15によりフローセル20中に注入し、電気化学測定を行った。繰り返し測定を行った結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、5.3%であり、比較例9に比べて変動幅が小さくなっていることがわかった。これは、本電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、面内で不均一な溶解を抑制し、かつ、分析を繰り返しても最表面に露出する結晶の配向性の変化が小さく、表面状態の変動を抑制することが可能になり、また、分析液,洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
実施例12は、金属基体をチタンとし、その表面に白金めっきを施し、酸化ジルコニウムを塗布,焼成した膜を形成した電極を作製した。以下に詳細な作製方法を説明する。10mm×10mm,板厚0.5mmのチタンを脱脂洗浄した後、5%フッ酸水溶液で2分間処理した。水洗後、ジニトロジアミノ白金含有硫酸水溶液中で15mA/cm2で1分間めっきを行った。次に、大気中400℃で1時間加熱処理した。次に、塩化白金酸(白金金属換算で10g/L)のブタノール溶液と塩化ジルコニウム(ジルコニウム金属換算で1g/Lのエタノール溶液を等量混合し、塗布液を調製した後、この塗布液を用いて1cm2あたり3μL秤量し、それを白金めっきを施したチタン基体に塗布した。その後、室温で30分間真空乾燥させ、さらに大気中500℃で10分間焼成した。この工程を50回繰り返すことにより、酸化ジルコニウム分散型白金電極を得た。この電極の金属酸化物含有率は9.7%であった。また、電極表面をX線回折測定した結果、優先配向率は47%であった。前記電極を作用極として用いて、実施例1と同様に図1の電気化学的分析装置を用いて、測定溶液として、血清中のTSHを免疫学的に分析し、洗浄液として、例えば水酸化カリウム水溶液を各測定の終了毎に電気化学セルに導入する方法で測定を行った。測定した結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、8.7%であった。
実施例13は、酸化ジルコニウムの代わりに酸化ニオブとしたことを除き、実施例12と同様に繰り返し分析測定を行った。測定した結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、9.4%であった。
実施例14は、酸化ジルコニウムの代わりに酸化タンタルとしたことを除き、実施例12と同様に繰り返し分析測定を行った。測定した結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、9.2%であった。
実施例12から14の電極を用いた場合、比較例1と比較して変動幅の低減に効果があったものの、その効果は実施例1に比べて小さいものであった。これは、実施例12から14の電極は、塗布,焼成により作製した電極であり、母材中に含まれる金属酸化物の濃度が実施例1に比べて大きいこと、および結晶配向率が小さいことに起因していることが考えられる。つまり、分析繰り返し、すなわち表面エッチングの進行に伴い、電極表面内におけるエッチング速度差が大きく、特定の面が優先的に溶解していくことにより、電極面内において局所的に大きい段差が発生したことに起因すると考える。加えて、塗布,焼成により作製した酸化ジルコニウム分散型白金電極のため、実施例1の圧延電極に比べて膜強度が低く、表面エッチングに伴い電極材が脱落する現象も認められた。さらに、金属酸化物濃度が大きいため、電気化学反応に影響を及ぼしたことも考え得る。結果的に、電極表面状態の変動が大きくなること、分析液,洗浄液の液置換が安定に実施できなくなり、長期間で見た場合において電気化学応答の変動が大きくなったと考えられる。
〔比較例1〕
比較例の電極4は、白金を圧延により板状にした電極である。1時間800度に加熱するとともに、板厚が0.1mmとなるように、100MPaで熱間圧延加工した。冷却後、実施例1と同様に、フッ素系樹脂に埋め込み、白金表面を耐水研磨紙,ダイヤモンドペースト,アルミナを用いて順次機械研磨し、引き続き電解研磨を施し、作用極とした。
この作用極を用いて、実施例1と同様に図1の電気化学的分析装置に用いて、測定溶液として、血清中のTSHを免疫学的に分析し、洗浄液として、例えば水酸化カリウム水溶液を各測定の終了毎に電解セルに導入する方法で測定を行った。
その結果、図6に示すように、比較例の電極を用いた場合の変動幅は10.3%であった。比較例の電極をX線回折で解析したところ、図5に示すように、(220)および(111)に優先配向していることがわかったが、最大強度を示した(220)方位の配向率は54%であった。また、比較例1の電極の板厚方向断面の結晶組織を観察したところ、粒径の大きい粗大結晶組織を有することがわかった。このような電極を用いた場合、分析繰り返し、すなわち表面エッチングの進行に伴い、電極表面内におけるエッチング速度差が大きく、特定の面が優先的に溶解していくことにより、電極面内において局所的に大きい段差が発生したことに起因すると考える。また、最表面に露出する各結晶方位の配向率が分析繰り返しに伴って変動する。結果的に、表面状態の変動が大きくなること、分析液,洗浄液の液置換が安定に実施できなくなり、長期間で見た場合において電気化学応答の変動が大きくなったと考えられる。
〔比較例2〕
比較例2は、比較例1の白金電極を作用極として用い、実施例4と同様にグルコースを分析対象として繰り返し測定を行った。測定した結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、4.2%であった。
〔比較例3〕
比較例3は、比較例1の白金電極を作用極として用い、実施例5と同様に尿素を分析対象として繰り返し測定を行った。測定した結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、3.7%であった。
〔比較例4〕
比較例4は、比較例1の白金電極を作用極として用い、実施例6と同様にコレステロールを分析対象として繰り返し測定を行った。測定した結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、7.3%であった。
〔比較例5〕
比較例5は、比較例1の白金電極を作用極として用い、実施例7と同様に尿酸を分析対象として繰り返し測定を行った。測定した結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、8.8%であった。
〔比較例6〕
比較例6は、比較例1の白金電極を作用極として用い、実施例8と同様にクレアチニンを分析対象として繰り返し測定を行った。測定した結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、11.2%であった。
〔比較例7〕
比較例7は、比較例1の白金電極を作用極として用い、実施例9と同様にクレアチニンを分析対象として繰り返し測定を行った。測定した結果、表1に示すように、分析1回目と60000万回との変動幅を求めると、12.6%であった。
〔比較例8〕
比較例8は、比較例1の白金電極を作用極として用い、実施例10と同様に脂肪酸を分析対象として繰り返し測定を行った。測定した結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、7.2%であった。
〔比較例9〕
比較例9は、比較例1の白金電極を作用極として用い、実施例11と同様にビリルビンを分析対象として繰り返し測定を行った。測定した結果、表1に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、6.6%であった。
比較例2から9の白金電極を用いた場合、分析繰り返し、すなわち表面エッチングの進行に伴い、電極表面内におけるエッチング速度差が大きく、特定の面が優先的に溶解していくことにより、電極面内において局所的に大きい段差が発生したことに起因すると考える。結果的に、表面状態の変動が大きくなること、分析液,洗浄液の液置換が安定に実施できなくなり、長期間で見た場合において電気化学応答の変動が大きくなったと考えられる。
尚、上述した本発明の実施例は、本発明の電極を電気化学的分析装置の作用極に適用した場合の例であるが、作用極のみならず、対極にも本発明を適用することができる。対極にも本発明を適用すれば、さらに分析データの高精度化を図ることができる。