以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である可変ターボ過給機の構成及びその動作について説明する。なお、本実施形態では、可変ターボ過給機は、ディーゼルエンジンを駆動源として用いる建設機械に搭載されているものとし、また、建設機械は、モータ,シリンダ等のアクチュエータやステアリング機構等の作業機を備えるものとする。
〔可変ターボ過給機の構成〕
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態である可変ターボ過給機の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態である可変ターボ過給機の構成を示す断面図である。図1に示すように、本発明の一実施形態である可変ターボ過給機1は、図の左側及び右側にそれぞれ給気コンプレッサ及び排気タービンを備えた構成になっており、図示しないディーゼルエンジンの本体に設けられている。なお、給気コンプレッサ側の構成は、本願発明の出願時点で既に公知であるので、以下ではその詳細な説明を省略する。
排気タービン側のタービンハウジング2内には、タービンホイール3が収容されている。給気コンプレッサ側のコンプレッサハウジング4内には、コンプレッサインペラ5が収容されている。タービンホイール3にはシャフト6が一体に設けられ、シャフト6の先端にはコンプレッサインペラ5が取り付けられている。シャフト6は、センターハウジング7に回転自在に支持されている。
タービンハウジング2には、ディーゼルエンジンからの排気ガスを導入するボリュート状の排気導入路10が設けられている。排気導入路10には、ノズル部11が周方向に連続して設けられている。ノズル部11は、互いに対向する一対の排気導入壁12,13によって形成されている。
ノズル部11から噴出された排気ガスは、タービンホイール3を回転させた後、排気出口14から排気され、図示しないDPFに導かれる。タービンホイール3の回転は、シャフト6を介してコンプレッサインペラ5に伝達され、コンプレッサインペラ5の回転によって給気が圧縮過給される。図示しないDPFは、排気ガス中に含まれるPMの量を低減した後、排気ガスを外気に排出する。
排気導入壁12は、断面コの字形状で環状とされた可動リング15の側面16によって形成されている。可動リング15は、センターハウジング7に設けられた環状の収容室17内に収容されている。可動リング15の側面16には、複数のノズルベーン18が等周間隔で取り付けられている。複数のノズルベーン18は、他方の排気導入壁13側に向けて突出している。
排気導入壁13には、凹部19が周方向に連続して設けられ、凹部19内に各ノズルベーン18の先端側が収容される。このような構造においては、後述するスライド機構20によって可動リング15を往復運動させることによって排気導入壁12を排気導入壁13に対し近接/離間させることにより、ノズル部11の開口面積を調整する。ノズル部11及び排気導入壁12はそれぞれ、本発明に係る排気導入路及び排気導入部材として機能する。
〔スライド機構の構成〕
次に、図2,図3を参照して、スライド機構20の構成について説明する。図2は、スライド機構20の構成を示す図であり、図1におけるII矢視図である。図3は、スライド機構20の要部の構成を示す断面図である。
図2,図3に示すように、スライド機構20は、センターハウジング7の下部側に挿通された駆動シャフト21を備える。駆動シャフト21の途中位置には、上方に向かって円弧状に延設された一対のアーム22,22が固定されている。各アーム22の先端側には、水平方向外側に突出したピン23が取り付けられ、ピン23にはスライダ24が嵌め込まれている。スライダ24は、シャフト6に対して平行に配設された支持ロッド25の基端側の摺動溝26に摺動自在に嵌合している。
支持ロッド25の先端部は、可動リング15の裏面側に接合されている。駆動シャフト21は、その端部に設けられたアーム27を介して油圧サーボ駆動装置30によって回転駆動される。このような構造では、駆動シャフト21が回転するのに応じて、アーム22がシャフト6の軸方向に沿って揺動し、支持ロッド25が移動する。そして、支持ロッド25が移動するのに応じて、可動リング15が移動し、排気導入壁12が排気導入壁13に対して近接/離間する。
〔油圧サーボ駆動装置の構成〕
次に、図4,図5を参照して、油圧サーボ駆動装置30の構成について説明する。
図4は、スライド機構20と油圧サーボ駆動装置30との連結部の構成を示す斜視図である。図5は、油圧サーボ駆動装置30の構成を示す断面図である。
図4,図5に示すように、油圧サーボ駆動装置30は、油圧ピストン31を上下方向に往復運動させることによってアーム27を介して駆動シャフト21を回転させる構造になっている。このため、油圧ピストン31の外周には、軸方向に対して直交した摺動溝32が設けられている。また、アーム27には、摺動溝32側に突出したピン28が設けられている。そして、このピン28にスライダ29が嵌め込まれ、スライダ29が摺動溝32に摺動自在に嵌合している。このような構成では、油圧ピストン31が上下動するのに応じて、スライダ29が上下動すると共に摺動溝32に沿って摺動する。このスライダ29の動きとピン28の回動とによりアーム27の円弧動が許容され、アーム27が回転し、駆動シャフト21が回転する。
油圧サーボ駆動装置30は、油圧ピストン31,ハウジング33,及びパイロットスプール34を備え、ハウジング33の開口部33A周りをシールするOリング70を介して可変ターボ過給機1のセンターハウジング7に取り付けられている。ハウジング33は、一部に開口部33Aを有し、油圧ピストン31を摺動自在に収容する。パイロットスプール34は、油圧ピストン31の軸方向に貫通したセンターホール35内に収容され、パイロット圧によって軸方向に摺動する。
ハウジング33の外形形状は角柱状とされ、ハウジング33の内部には上下方向に貫通する円筒状のシリンダ空間36が設けられている。シリンダ空間36内には油圧ピストン31が収容されている。シリンダ空間36の上下端側はOリング71,72を介して閉塞部材37,38によって密閉されている。ハウジング33の開口部33Aに対応した位置には、駆動シャフト21と油圧ピストン31との連結部39が設けられている。従って、開口部33Aの大きさは、油圧ピストン31及びスライダ29の摺動量を考慮して設定されている。
ハウジング33の開口部33Aとは反対側の側面には、コントローラ100によって制御される電磁比例弁80からのパイロット圧を供給するパイロットポート41,図示しない昇圧ポンプからの圧油を供給するポンプポート42,及び圧油を戻すドレインポート43が設けられている。電磁比例弁80及び図示しない昇圧ポンプは、可変ターボ過給機1が搭載される同一のディーゼルのエンジン本体に設置されている。
シリンダ空間36は、油圧ピストン31が摺動する部分と、その上方部分とが仕切部材44によって仕切られている。仕切部材44は、シリンダ空間36の内周面に設けられた段差部分に当接し、当接部分の近傍には仕切部材44で仕切られた空間をシールするためのOリング73が設けられている。仕切部材44には下方に垂下した筒部45が設けられ、この筒部45が油圧ピストン31のセンターホール35の上方側に入り込んでいる。そして、仕切部材44で仕切られた上方の空間がパイロット油圧室46とされ、パイロット油圧室46とパイロットポート41とが連通している。
仕切部材44で仕切られた下方の空間は、仕切部材44と油圧ピストン31の上端面との間に形成される第1油圧室47となっている。つまり、パイロット油圧室46は、第1油圧室47に対して軸方向の外側、すなわち本実施形態では上側にずれており、この配置によって油圧サーボ駆動装置30が大径化することを抑制している。油圧ピストン31の下端面と下側の閉塞部材38との間には、第2油圧室48が形成されている。
油圧ピストン31には、センターホール35とハウジング33のポンプポート42とを連通させて、ポンプからの圧油をセンターホール35内に流入させるプレッシャ油路51が設けられている。プレッシャ油路51の外周側は、径方向に対向して形成された溝部分に開口しており、溝部分が所定の上下寸法を有することにより、油圧ピストン31のストローク内でプレッシャ油路51とポンプポート42とが常時連通することになる。
油圧ピストン31には、センターホール35とハウジング33のドレインポート43とを連通させて、センターホール35内の圧油をタンクに戻すリターン油路52が設けられている。リターン油路52の外周側は、油圧ピストン31の外周に形成された溝部分に開口しており、油圧ピストン31のストローク内ではやはりリターン油路52とドレインポート43とが常時連通する。本実施形態では、油圧ピストン31と駆動シャフト21との連結部39が、丁度リターン油路52の反対側に対応した位置に設けられていることになり、プレッシャ油路51に対して軸方向下側にずれて位置している。
油圧ピストン31には、センターホール35と上方の第1油圧室47とを連通させる第1ピストン油路53、及びセンターホール35と下方の第2油圧室48とを連通させる第2ピストン油路54が設けられている。第1ピストン油路53のセンタ−ホール35側の開口部分は、プレッシャ油路51の開口部分よりも下方に位置し、第2ピストン油路54のセンターホール35側の開口部分は、プレッシャ油路51の開口部分よりも上方に位置している。第1及び第2ピストン油路53,54はそれぞれ、プレッシャ油路51及びリターン油路52に連通しない位置に設けられている。
センターホール35の下方側は、当接部材55が油圧ピストン31にOリング74を介して螺設されることで密閉されている。油圧ピストン31は、当接部材55を介して閉塞部材38に当接し、当接した位置が油圧ピストン31の最下位置となる。第2油圧室48内において、閉塞部材38と当接部材55との間にはコイルばね56が配置され、油圧ピストン31の上方側への移動をアシストしている。これにより、図示しない昇圧ポンプの故障等によって油圧サーボ駆動装置30に繋がる配管内の圧油がなくなった時でも、コイルばね56のばね力によって可変ターボ過給機1のノズル部11の開度が全開状態に維持されるようになっている。
パイロットスプール34は、略中央部分に第1及び第2のスプールランド61,62を備える。パイロットスプール34の内部には、下方に開口したリターン油路63が設けられている。第1スプールランド61の上側の溝部分とリターン油路63とは連通し、第2スプールランド62の下側の溝部分とリターン油路63とは同様に連通している。また、リターン油路63の下側が開口していることにより、リターン油路63,リターン油路52,及びドレインポート43が連通している。
パイロットスプール34は、仕切部材44の筒部45を通して油圧ピストン31のセンターホール35内を上下に摺動可能であり、その上端部分はパイロット油圧室46内に配置された保持部材64に螺合保持されている。パイロット油圧室46内において、保持部材64はコイルバばね65によって上方に付勢されている。パイロットスプール34は、コイルばね65の付勢力に抗するパイロット圧の加圧によって下方に移動し、パイロット圧油の減圧によってコイルばね65の付勢力で上方へ移動する。
保持部材64には、移動部材81が螺合保持されている。移動部材81は、閉塞部材37を挿通することができるように配置されている。磁力センサ82は、閉塞部材37に固定された筐体83に設けられている。移動部材81は、筐体83内を移動することができるように配置されている。磁力センサ82は、非接触で磁力を検出可能なホールICを想定し、移動部材81の軸長手方向の所定箇所には磁石81aが設けられている。磁気センサ82は、本発明に係る排気導入部材の現在位置を検出する検出器として機能する。
磁力センサ82によって検出される磁力の大きさは、移動部材81の移動に応じて変化する。従って、磁力センサ82によって検出される磁力の大きさを位置に変換することによって、移動部材81の位置を検出することができる。移動部材81は、保持部材64を介してパイロットスプール34と一緒に移動する。そして、パイロットスプール34の動きに追従して油圧ピストン31が移動する。このため、磁力センサ82によって油圧ピストン31の位置、すなわち排気導入壁12の位置を検出することができる。
〔油圧サーボ駆動装置の動作〕
次に、再び図5を参照して、油圧サーボ駆動装置30の動作について説明する。
図5は、コイルばね65の付勢力を超えるパイロット圧が加圧されることでパイロットスプール34及び油圧ピストン31の両方が最下位置にある状態を示している。この状態の時には、パイロットスプール34の下端は、当接部材55の上側に当接している。また、当接部材55の下端は、閉塞部材38に当接している。さらに、この位置では、パイロットスプール34の上側の第1スプールランド61は第2ピストン油路54の上側開口部に対して下方にずれている。これにより、第2ピストン油路54はリターン油路63を介してリターン油路52に連通し、第2油圧室48内の圧油がドレインされている。一方、第2スプールランド62は第1ピストン油路53の下側開口部に対して下方にずれており、プレッシャ油路51と第1ピストン油路53とが連通している。このため、プレッシャ油路51及び第1ピストン油路53を介して第1油圧室47に圧油が供給される。
この図5に示す状態から、パイロット油圧室46内の圧油を所定のパイロット圧に減圧すると、パイロットスプール34がパイロット圧に応じた力とコイルばね65のばね力とが釣り合う位置まで上昇する。これに伴い、第1スプールランド61は、第2ピストン油路54の上側開口部に対し上方にずれる。このため、第2ピストン油路54とプレッシャ油路51とが連通し、第2油圧室48に圧油が供給される。この動作と同時に、第2スプールランド62は第1ピストン油路53の上側開口部に対し上方にずれる。このため、第1ピストン油路53とリターン油路63とが連通し、第1油圧室47にあった圧油の一部がドレインされる。これにより、油圧ピストン31は、パイロットスプール34に追従するように上昇する。油圧ピストン31の上昇作動は、第1,第2スプールランド61,62によって第1,第2ピストン油路53,54が閉じられた時点で終了する。油圧ピストン31は、パイロットスプール34の停止位置に応じた位置で同様に停止する。
パイロット圧が完全に抜かれると、保持部材64の上端がパイロット油圧室46の天井面に当接した状態になるまでパイロットスプール34が上方に移動する。この移動に追従して油圧ピストン31が作動し、その上端が仕切部材44に当接するまで上昇する。このようにしてパイロットスプール34及び油圧ピストン31が共に最上位置まで移動すると、第2油圧室48内に圧油が充満した状態で第1,第2ピストン油路53,54がそれぞれ、第1,第2スプールランド61,62によって閉じられる。
油圧ピストン31を再度下方の所定位置まで移動させる場合には、パイロット圧を供給してパイロットスプール34を所定位置まで下降させる。これにより、第2ピストン油路54が再度リターン油路63と連通し、第2油圧室48内の圧油の一部がドレインされ、油圧ピストン31が下降する。この下降動作は、第1,第2スプールランド61,62によって第1,第2ピストン油路53,54が閉じられた時点で終了し、油圧ピストン31はパイロットスプール34の停止位置に応じた位置で同様に停止する。
以上のように、パイロット圧を低下させるのに応じて、パイロットスプール34が油圧ピストン31に対して上昇し、その動きに追従して油圧ピストン31も上昇する。また、パイロット圧を上昇させるのに応じて、パイロットスプール34が油圧ピストン31に対して下降し、その動きに追従して油圧ピストン31も下降する。
〔制御系の構成〕
次に、図6乃至図8を参照して、油圧サーボ駆動装置30の制御装置の構成について説明する。
図6は、油圧サーボ駆動装置30の制御装置の構成を示すブロック図である。図6に示すように、油圧サーボ駆動装置30の制御装置は、コントローラ100を備える。コントローラ100は、CPU,RAM,ROM,入出力回路等を含むマイクロコンピュータによって実現される。マイクロコンピュータのROM内には、制御プログラムと、後述する目標上限値テーブルとが予め記憶されている。
コントローラ100内のCPUは、ROM内に格納されている制御プログラムをRAM内にロードし、RAM内にロードされた制御プログラムを実行することによって、油圧ピストン31を介してノズル部11の開度を制御する。具体的には、コントローラ100は、磁力センサ82によって検出された磁力の大きさをフィードバック信号として、フィードバック信号に従って電磁比例弁80の開度を制御する電気信号を比例制御することにより、油圧ピストン31の位置を目標位置に制御する。これにより、排気導入壁13に対して排気導入壁12が近接/離間し、ノズル部11の開度を目標開度に制御することができる。
図7は、図6に示すコントローラ100の構成を示す機能ブロック図である。図7に示すように、コントローラ100は、車両状態判別部110,目標位置設定部120,検出部130,目標位置制限部140,及び調節/操作部150を備える。車両状態判別部110は、速度段センサ111と、作業機センサ112と、DPF再生指示ボタン113と、に接続されている。
速度段センサ111は、建設機械のトランスミッションの位置を検出し、検出された位置を示す信号を車両状態判別部110に入力する。作業機センサ112は、建設機械の作業機を操作する作業機レバーの操作量を検出し、検出された操作量を示す信号を車両状態判別部110に入力する。DPF再生指示ボタン113は、DPFの強制再生処理の実行を指示されるのに応じて、DPFの強制再生処理の実行が指示されたことを示すDPF再生指示フラグがオンになったことを示す信号を車両状態判別部110に入力する。
車両状態判別部110は、速度段センサ111,作業機センサ112,及びDPF再生指示ボタン113からの信号に基づいて建設機械の状態を判別し、判別結果を示す制御信号を目標位置設定部120に出力する。具体的には、車両状態判別部110は、速度段センサ111,作業機センサ112,及びDPF再生指示ボタン113からの信号に基づいて、DPF再生指示フラグがオンになっているか否か及び建設機械が作動中であるか否かを判別し、判別結果を示す制御信号を目標位置設定部120に出力する。速度段センサ111,作業機センサ112,及びDPF再生指示ボタン113は、本発明に係る速度段検出部,作業機検出部,及びDPF再生指示部として機能する。
目標位置設定部120は、排気導入壁13に対する排気導入壁12の目標位置、すなわちノズル部11の開度を設定する。検出部130は、磁力センサ82によって検出される磁力の大きさに基づいて油圧ピストン31の位置を特定し、特定された油圧ピストン31の位置に基づいて排気導入壁13に対する排気導入壁12の現在位置を算出する。検出部130は、算出された排気導入壁12の位置情報を目標位置制限部140に出力する。
目標位置制限部140は、目標位置設定部120により設定された目標位置と検出部130により算出された現在位置とに基づいて排気導入壁12の制御目標位置を決定し、決定した制御目標位置を調節/操作部150に出力する。調節/操作部150は、目標位置制限部140によって決定された制御目標位置に向けて排気導入壁12が排気導入壁13へ近接/離間するように電磁比例弁80の開度を制御する電気信号を出力する。
図8は、図7に示す目標位置制限部140の構成を示す機能ブロック図である。図8に示すように、目標位置制限部140は、目標位置テーブル記憶部141,目標位置演算処理部142,及び最小値選択部143を備える。目標位置テーブル記憶部141は、排気導入壁12を排気導入壁13に近接させる方向、すなわちノズル部11を閉じる方向に制御する際の、排気導入壁12の現在位置と目標位置との関係を示す目標位置テーブルを記憶する。目標位置テーブルの詳細については後述する。
目標位置演算処理部142は、目標位置テーブル記憶部141に記憶されている目標位置テーブルを参照して、検出部130により検出された排気導入壁12の現在位置に対応する目標位置を抽出する。最小値選択部143は、目標位置設定部120により設定された排気導入壁12の目標位置と目標位置演算処理部142によって抽出された排気導入壁12の目標位置とのうち、値が小さい方、すなわちノズル部11の開度が大きい方の目標位置を排気導入壁12の制御目標位置として出力する。
〔目標位置テーブルの構成〕
次に、図9乃至図11を参照して、目標位置テーブル記憶部141に記憶される目標位置テーブルの構成について説明する。図9は、目標位置テーブルの一例を示す図である。図10は、図9に示す目標位置テーブルをグラフ化した図である。図11は、本実施形態における排気導入壁12の位置の表記方法を説明するための図である。
図9及び図10に示すように、目標位置テーブルは、排気導入壁12の目標位置を排気導入壁12の現在位置毎に記述した構成になっている。本実施形態では、排気導入壁12の位置は、図11に示すように、排気導入壁13に対する排気導入壁12の接近度合[%]、すなわち排気導入壁12によってノズル部11が閉じている割合[%]により表現されている。すなわち、ノズル部11が全開状態である時は、排気導入壁12の位置は0[%]と表され、ノズル部11が全閉状態である時には、排気導入壁12の位置は100[%]と表される。なお本実施形態では、排気導入壁12の位置をノズル部11の開度によって表現したが、本発明はこの表記方法に限定されることはなく、例えば座標値等により排気導入壁12の位置を表現してもよい。
図9及び図10に示す各目標位置は、対応する現在位置から目標位置に向けて排気導入壁12を移動させた際、油圧サーボ駆動装置30の制御量が目標値からオーバーシュートした場合であっても、排気導入壁12が排気導入壁13に接触しない大きさの最大値に設定されている。各目標位置の設定方法については後述する。また排気導入壁12の現在位置が全閉位置100[%]から所定の範囲内にある時、目標位置は全閉位置100[%]に設定されている。本実施形態では、排気導入壁12の現在位置が90[%]以上である時を所定の範囲として、目標位置が全閉位置100[%]に設定されているが、所定の範囲は適宜設定可能である。
排気導入壁12の現在位置が全閉位置100[%]から所定の範囲内にある時(本実施形態では、排気導入壁12の現在位置が90[%]以上であり、且つ、制御を継続している時)に目標位置を全閉位置100[%]に設定した理由には以下の2つの理由がある。第1の理由は、現在位置から全閉位置100[%]に向けて排気導入壁12を移動させた際、油圧サーボ駆動装置30の制御量が目標値からオーバーシュートした場合であっても、排気導入壁13に対する排気導入壁12の衝突度合いが小さく、破損の恐れがないためである。第2の理由は、排気導入壁12の現在位置が全閉位置100[%]から所定の範囲内の目標位置についても、他の目標位置と同様、油圧サーボ駆動装置30の制御量が目標値からオーバーシュートすることによって排気導入壁12が排気導入壁13に接触しない大きさに設定した場合には、排気導入壁12が排気導入壁13にゆっくりと近づくようになり、応答速度が遅くなるためである。従って、目標上限位置を全閉位置100[%]とする所定の範囲は、排気導入壁13に対する排気導入壁12の衝突度合いと応答速度とを考慮して設定される。
上述の通り、本実施形態では、排気導入壁12の現在位置が全閉位置100[%]から所定の範囲内にある時に目標位置を全閉位置100[%]に設定したが、応答速度が多少遅くなることが許容できるのであれば、図12,図13に示すように、全ての目標位置を、油圧サーボ駆動装置30の制御量が目標値からオーバーシュートすることによって排気導入壁12が排気導入壁13に接触しない大きさの最大値に設定するようにしてもよい。
〔目標位置の設定方法〕
次に、図14乃至図16を参照して、幾つかの具体例に基づいて目標位置テーブルにおける目標位置の設定方法を説明する。
上述の通り、排気導入壁12の目標位置は、油圧サーボ駆動装置30の制御量が目標値からオーバーシュートした場合であっても、排気導入壁12が排気導入壁13に接触しない大きさの最大値に設定される。但し、この最大値は、排気導入壁12の現在位置に応じて変化する。そこで、以下では、排気導入壁12の現在位置が0[%],40[%],及び60[%]である場合について、油圧サーボ駆動装置30の制御量が目標値からオーバーシュートした場合であっても、排気導入壁12が排気導入壁13に接触しない大きさの最大値を算出する。
図14は、排気導入壁12の現在位置が全開位置0[%]である時に目標位置を(a)100[%],(b)80[%],(c)70[%]に設定した場合における、時間経過に伴う排気導入壁12の位置の変化を示すシミュレーション波形図である。
図14(a)に示すように、目標位置を全閉位置100[%]に設定した場合、時刻T=T1の時に、油圧サーボ駆動装置30の制御量が目標値に対してオーバーシュートし、排気導入壁12が排気導入壁13に衝突する。また、図14(b)に示すように、目標位置を位置80[%]に設定した場合も同様に、時刻T=T2の時に、油圧サーボ駆動装置30の制御量が目標値に対してオーバーシュートし、排気導入壁12が排気導入壁13に衝突する。これに対して、図14(c)に示すように、目標位置を位置70[%]に設定した場合には、油圧サーボ駆動装置30の制御量が目標値に対してオーバーシュートしても、排気導入壁12は排気導入壁13に接触することなく目標位置である位置70[%]に制御される。
以上のことから、排気導入壁12の現在位置が全開位置0[%]である時には、目標位置を70[%]に設定することによって、排気導入壁13に対する排気導入壁12の接触を抑制しつつ、排気導入壁12の位置を速やかに全閉位置に近づけることができるという知見が得られる。
図15は、排気導入壁12の現在位置が位置40[%]にある時に目標位置を(a)100[%],(b)82[%]に設定した場合における時間経過に伴う排気導入壁12の位置の変化を示すシミュレーション波形図である。
図15(a)に示すように、目標位置を全閉位置100[%]に設定した場合、時刻T=T3の時に、油圧サーボ駆動装置30の制御量が目標値に対してオーバーシュートし、排気導入壁12が排気導入壁13に衝突する。これに対して、図15(b)に示すように、目標位置を位置82[%]に設定した場合には、油圧サーボ駆動装置30の制御量が目標値に対してオーバーシュートしても、排気導入壁12は排気導入壁13に接触することなく目標位置である位置82[%]に制御される。
以上のことから、排気導入壁12の現在位置が位置40[%]にある時には、目標位置を82[%]に設定することによって、排気導入壁13に対する排気導入壁12の接触を抑制しつつ、排気導入壁12の位置を速やかに全閉位置に近づけることができるという知見が得られる。
図16は、排気導入壁12の現在位置が位置60[%]にある時に目標位置を(a)100[%],(b)88[%]に設定した場合における時間経過に伴う排気導入壁12の位置の変化を示すシミュレーション波形図である。
図16(a)に示すように、目標位置を全閉位置100[%]に設定した場合、時刻T=T4の時に、油圧サーボ駆動装置30の制御量が目標位置に対してオーバーシュートし、排気導入壁12が排気導入壁13に衝突する。これに対して、図16(b)に示すように、目標位置を位置88[%]に設定した場合には、油圧サーボ駆動装置30の制御量が目標位置に対してオーバーシュートしても、排気導入壁12は排気導入壁13に接触することなく目標位置である位置88[%]に制御される。
以上のことから、排気導入壁12の現在位置が位置60[%]にある時には、目標位置を88[%]に設定することによって、排気導入壁13に対する排気導入壁12の接触を抑制しつつ、排気導入壁12の位置を全閉位置に近づけることができるという知見が得られる。
以上のように、油圧サーボ駆動装置30の制御量が目標値からオーバーシュートすることによって排気導入壁12が排気導入壁13に接触しない目標位置の最大値に排気導入壁12の目標位置を設定することによって、排気導入壁13に対する排気導入壁12の接触を抑制しつつ、排気導入壁12の位置を速やかに全閉位置に近づけることができる。
〔全閉制御処理〕
このような構成を有する可変ターボ過給機1では、コントローラ100が以下に示す全閉制御処理を実行することにより、ノズル部11が破損することを抑制しつつ、ノズル部11を速やかに全閉状態に制御する。以下、図17に示すフローチャートを参照して、コントローラ100による全閉制御処理の流れについて説明する。
コントローラ100による全閉制御処理は、可変ターボ過給機1が搭載された建設機械のイグニッションスイッチがオフ状態からオン状態に切り替えられたタイミングで開始となり、全閉制御処理はステップS1の処理に進む。この全閉制御処理は、建設機械のイグニッションスイッチがオン状態である間、所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
ステップS1の処理では、コントローラ100の車両状態判別部110が、DPF再生指示ボタン113からの入力信号に基づいてDPF再生指示フラグがオン状態になっているか否かを判別する。判別の結果、DPF再生指示フラグがオン状態である場合、コントローラ100は、DPFの強制再生処理が指示されたと判断し、全閉制御処理をステップS2の処理に進める。一方、DPF再生指示フラグがオフ状態である場合には、コントローラ100は、DPFの強制再生処理が指示されていないと判断し、全閉制御処理を終了する。
ステップS2の処理では、図7に示すように、コントローラ100の車両状態判別部110が、建設機械が作動中であるか否かを判別する。具体的には、コントローラ100は、速度段センサ111及び作業機センサ112からの入力信号に基づいて、建設機械のトランスミッションの位置が走行位置にあるか否か、又は、作業機レバーが操作中であるか否かを判別する。そして、建設機械のトランスミッションの位置が走行位置にあり、又は、作業機レバーが操作中である場合、コントローラ100は、建設機械は作動中であると判定する。一方、建設機械のトランスミッションの位置がパーキング位置にあり、且つ、作業機レバーが中立位置にあり操作されていない場合、コントローラ100は、建設機械は作動中でないと判定する。判別の結果、建設機械が作動中である場合、コントローラ100は、ドージング燃料が不完全燃焼することによってススが排出されることを抑制するためにノズル部11を速やかに全閉状態にする必要があると判断し、全閉制御処理をステップS3の処理に進める。一方、建設機械が作動中でない場合には、コントローラ100は、ノズル部11を速やかに全閉状態にする必要がないと判断し、全閉制御処理をステップS7の処理に進める。
ステップS3の処理では、コントローラ100の検出部130が、排気導入壁12の現在位置[%]を検出する。これにより、ステップS3の処理は完了し、全閉制御処理はステップS4の処理に進む。
ステップS4の処理では、コントローラ100の目標位置制限部140の中の目標位置演算処理部142が、目標位置テーブルからステップS3の処理により検出された排気導入壁12の現在位置に対応する目標位置のデータを取得する。また、コントローラ100は、目標位置設定部120として機能することにより、排気導入壁12の目標位置を全閉位置100[%]に設定する。これにより、ステップS4の処理は完了し、全閉制御処理はステップS5の処理に進む。
ステップS5の処理では、コントローラ100の目標位置制限部140の中の最小値選択部143が、目標位置演算処理部142により取得された排気導入壁12の目標位置と目標位置設定部120により設定された排気導入壁12の目標位置との間で値が小さい方、すなわちノズル部11の開度が大きい方の排気導入壁12の位置を制御目標位置に決定する。これにより、ステップS5の処理は完了し、全閉制御処理はステップS6の処理に進む。
ステップS6の処理では、コントローラ100の調節/操作部150が、目標位置制限部140によって決定された制御目標位置に向けて排気導入壁12が移動するように電磁比例弁80に対し電流指令値を出力してパイロット圧を制御する。これにより、ステップS6の処理は完了し、一連の全閉制御処理は終了する。
一方、ステップS7の処理では、建設機械のトランスミッションの位置がパーキング位置にあり、且つ、作業機レバーが中立位置にある場合、図7に示すように、コントローラ100が、前回の全閉制御処理において電磁比例弁80に対して出力した電流指令値I’に所定の増分電流ΔI(>0)を加えた値を電磁比例弁80に対して出力する電流指令値Iとして算出する。これにより、ステップS7の処理は完了し、全閉制御処理はステップS8の処理に進む。
ステップS8の処理では、図7に示すように、コントローラ100が、ステップS7の処理によって算出された電流指令値Iがノズル部11を全閉状態に制御する際の最大電流指令値Imax以上であるか否かを判別する。判別の結果、電流指令値Iが最大電流指令値Imax以上である場合、コントローラ100は、全閉制御処理をステップS9の処理に進める。一方、電流指令値Iが最大電流指令値Imax未満である場合には、コントローラ100は、全閉制御処理をステップS10の処理に進める。
ステップ9の処理では、コントローラ100が、最大電流指令値Imaxを電磁比例弁80に出力する。これにより、ステップS9の処理は完了し、一連の全閉制御処理は終了する。
ステップS10の処理では、コントローラ100が、ステップS7の処理によって算出された電流指令値Iを電磁比例弁80に出力する。これにより、ステップS10の処理は完了し、一連の全閉制御処理は終了する。
最後に、図18及び図19を参照して、本実施形態の可変ターボ過給機1の制御方法により得られる効果について説明する。
図18は、従来技術及び本実施形態の可変ターボ過給機1の制御方法を用いた場合における、ノズル部11を速やかに全閉状態に制御する際の排気導入壁12の現在位置と目標位置との経時変化を示す図である。また、図19は、本実施形態の可変ターボ過給機1の制御方法を用いた場合における、ノズル部11を速やかに全閉状態に制御する必要がない際の(a)電磁比例弁80に対する電流指令値Iと(b)排気導入壁12の位置との経時変化を示す図である。
なお、図18中、符号L1は、本実施形態の可変ターボ過給機1の制御方法における排気導入壁12の制御目標位置の時間変化を示す曲線である。符号L2は、図9,図10に示す目標位置テーブルを用いた際の排気導入壁12の位置の時間変化を示す曲線である。符号L3は、図12,図13に示す目標位置テーブルを用いた際の排気導入壁12の位置の時間変化を示す曲線である。符号L4は、従来技術における排気導入壁12の制御目標位置の時間変化を示す曲線である。符号L5は、従来技術における排気導入壁12の位置の時間変化を示す曲線である。なお、曲線L3に対応する制御目標位置の時間変化を示す曲線は、排気導入壁12の現在位置が全閉位置から所定範囲内にある時だけ制御目標位置が曲線L1に示す制御目標位置の値と異なるだけであるので、図示を省略した。
従来技術は、ノズル部11を全閉状態に制御する際に排気導入壁12が排気導入壁13に強く衝突することを避けるために、油圧サーボバルブの実開度と目標開度との偏差を所定のレベル範囲に制限する。従って、従来技術では、排気導入壁12の制御目標位置は、図18中の曲線L4に示すように、線形的に変化し、排気導入壁12は、図18中の曲線L5に示すように、排気導入壁13に衝突しても問題がない一定速度で全閉位置100[%]に制御される。このため、従来技術によれば、DPFの強制再生処理を実行する際に排気ガスの温度が所定温度未満である場合、すなわちノズル部11を速やかに全閉状態に制御する必要性がある場合、ノズル部11を速やかに全閉状態に制御することができず、ドージング燃料が不完全燃焼することによってススが排出されるおそれがある。
これに対して、本実施形態の可変ターボ過給機1の制御方法では、上述の通り、ノズル部11を速やかに全閉状態に制御する必要性がある場合、コントローラ100が、図18中の曲線L1に示すように、油圧サーボ駆動装置30の制御量が目標値に対してオーバーシュートしても排気導入壁12が排気導入壁13に接触しない目標位置の最大値に目標位置を制御する。そして、このような制御方法によれば、図18中の曲線L2(図9,図10に示す目標位置テーブルを用いた際の排気導入壁12の位置の時間変化を示す曲線)及び曲線L3(図12,図13に示す目標位置テーブルを用いた際の排気導入壁12の位置の時間変化を示す曲線)と曲線L5との比較から明らかなように、従来技術よりも短時間で排気導入壁12の位置を全閉位置100[%]に制御し、ノズル部11を速やかに全閉状態に制御することができる。また、排気導入壁12の目標位置は、油圧サーボ駆動装置30の制御量が目標値に対してオーバーシュートしても排気導入壁12が排気導入壁13に接触しない目標位置の最大値に設計されているので、排気導入壁12が排気導入壁13に強く衝突することによって、ノズル部11が破損することを防止できる。
一方、建設機械のトランスミッションの位置がパーキング位置にあり、且つ、作業機レバーが中立位置にある場合、、つまりノズル部11を速やかに全閉状態に制御する必要がない場合には、コントローラ100は、図19(a)に示すように電磁比例弁80に対する電流指令値Iを所定の増分ΔI/ΔT(ΔT:制御周期)で変化させることにより、図19(b)に示すように排気導入壁12の現在位置に関係なく排気導入壁12を排気導入壁13に衝突しても問題がない一定速度で全閉位置100[%]に制御するので、排気導入壁12が排気導入壁13に強く衝突することによって、ノズル部11が破損することを防止できる。なお、この場合、排気導入壁12の位置の時間変化を示す曲線は、例えば図18に示す曲線L5のようになる。
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、上記実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。例えば、本実施形態では、建設機械が作動中である場合にノズル部11を速やかに全閉状態に制御したが、建設機械が作動中であるか否かに関係なく、DPFの強制再生処理を実行する場合には常にノズル部11を速やかに全閉状態に制御するようにしてもよい。また、本実施形態は、排気導入壁12が排気導入壁13に接近する方向、すなわちノズル部11を全閉状態に制御する場合において、排気導入壁12が排気導入壁11に強く衝突することを抑制しつつノズル部11を速やかに全閉状態に制御するものであった。しかしながら、本発明の技術思想は、ノズル部11を全閉状態に制御する場合の制御に限定されることはなく、排気導入壁12が排気導入壁13から離間する方向、すなわちノズル部11を全開状態に制御する場合において、可動リング15が収容室17の壁面に強く衝突することを抑制しつつノズル部11を速やかに全開状態に制御する場合にも適用することができる。このように、上記実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例、及び運用技術等は、全て本発明の範疇に含まれる。