JP5311533B2 - 木造軸組工法建造物における接合部補強構造ならびに開口部補強構造 - Google Patents

木造軸組工法建造物における接合部補強構造ならびに開口部補強構造 Download PDF

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本願発明は、建造物における耐震補強に関し、詳しくは木造軸組工法建造物における接合部補強構造ならびに開口部補強構造に関するものである。
従来の木造建築物の中には、軸組材の接合部強度が不足し、地震により柱が土台や横架材から外れて倒壊する恐れがある。地震による倒壊を防ぐには耐力壁が必要であるが、これにしても、柱と横架材における接合部が抜けないこと、破壊しないことが大前提となる。
このため、接合部の補強を図ることになるが、従来から、一般的な接合部の補強方法としてはボルト類で引き寄せる方法、金物をスクリューネジで止めつける方法及び構造用合板を釘で打ちつける方法などが採用されている。この場合、接合部は軸材の乾燥収縮により木口面から割れが発生してボルトやネジの止め付けに支障がある場合が多いのが実情である。
接合金物などを接着剤を介して木造建築物の軸組材相互を接合する場合は、多くの場合は建築時に施工される。建築後に接合部を再接合することもあるが、引張力には抵抗するものの横揺れに対する方向には、柱が土台にめり込んで強度不足を惹起する恐れがある。
また、従来の木造建築物、特に1971年の建築基準法改正以前では耐力壁が少なく、配置も適正でない場合が多いうえ、当然、引戸、窓、廊下など生活に必要な開口部が存在しており、このような建造物に耐震補強工事をなすとなると、開口空間を筋交いや構造用合板で補強し、さらに接合部を金物類で補強することが必要となり開口部の閉塞などの不都合や大掛かりなリフォームが必要となるという問題を避けることができない。
なお、本願に関連して以下の文献が存在している。
特許第3757292号公報 特開2005−36612号 特開2003−206634号公報 特開2003−184316号公報 特開2001−065066号公報 特開平11−050532号公報 特開平09−032113号公報 特開平09−078694号公報
本願発明は、既存建造物にあっても、間取りの変更を最小限に抑えつつ、垂直材と横架材との接合部の耐震補強をなすとともに、開口部にこれを閉塞することなく有効な耐力壁の形成を容易効率的な施工作業の下に低廉なコストで実現できる耐震補強技術の実現を目的としている。
本願発明は、木造軸組工法建造物における接合部補強構造であって、垂直材と横架材の接合部において前記両部材にわたり穿設された溝部に補強金具を嵌合固着してなり、前記補強金具は、一対の辺材部により頂部が形成されているアングル材で構成され、前記一対のいずれかの辺材部の両端部に該辺材部に直角をなす一対の折曲部を形成し、それぞれの折曲部は互いに反対方向となるように設定され、垂直材と横架材の接合部において両部材にわたり補強金具の折曲部を有する辺材の側面形状に倣って穿設された溝部に、折曲部を有する辺材部を適宜手段で強制的に嵌合固定するとともに、併せてアングル状の補強金具の折曲部を有しない辺材部面は接合部の外側面に固着するようにしてなる木造軸組工法建造物における接合部補強構造、を提供して上記従来の課題を解決しようとするものである。
また、上記段落0008記載の接合部補強構造において、一対の折曲部を有する辺材部とこれが嵌合される前記溝部とは接着剤により固着し、併せて補強金具の折曲部を有しない辺材部面は接合部の外側面に接着剤により固着するように構成することがある。
さらに、上記段落0009記載の接合部補強構造において、接着剤の投入時に接着層による膜層に骨材を設ける構成となすことがある。
さらにまた、上記段落0010記載の接合部補強構造において、前記骨材は溝部の研削時における研削くずで形成することがある。
また、本願発明は、木造軸組工法建造物の廊下などの開口部補強構造であって、廊下などの開口部において、その上部に耐力壁部を形成するとともに、廊下の骨格を構成する柱(垂直材)と梁、鴨居(横架材)の接合部にあって上記段落0008ないし0011いずれか記載の接合部補強構造を具えるようにした木造軸組工法建造物における廊下などの開口部補強構造を提供して、上記従来の課題を解決する。
さらに、上記段落0012記載の木造軸組工法建造物における開口部補強構造において、前記耐力壁部は開口部の上部において互いに対向するそれぞれ一対の垂直材と横架材との囲繞部分に嵌合固着される構造用合板および/又はパーティクルボードで構成することがある。
本願発明にあっては、以上の構成により、次のような効果を得ることができる。
イ. 補強に簡易な構成の金具を使用することにより、施工が容易であり作業効率も良好なため施工コストも低廉である。
ロ. 開口部の機能に支障を生じない範囲で開口部に強靭な耐力壁を形成することができる。
ハ. 既存の建造物において、生活環境に重大な支障を及ぼすことなく耐震補強工事を高効率かつ低廉なコストで施工できる。
本願発明は、既存建造物への適用が好ましく、特に、廊下などの開口空間の上部に耐震補強工事を実施するのに適している。 すなわち、廊下などの空間部において、垂直材と横架材の接合部に補強を施し、次いで当該箇所に耐力壁を構築することになる。具体的には、対向して並立する柱とその間に架設される梁との接合部を補強金具で補強し、前記梁から所定距離の位置に梁と平行に柱間に横桁材を付設する。横桁材の位置は廊下歩行に際して支障がない位置に設定する。
梁、一対の柱、横桁材に囲繞された枠状部分に構造用合板を嵌合固着して耐力壁を形成する。構造用合板の他にパーティクルボード、石膏ボードなども使用できる。
補強金具は、本体部がアングル材で構成され、一対の辺材で構成されるアングル頂部の両端から切り込みを入れていずれか一方の辺材の端部に直角をなす折曲部が形成されたものを使用する。なお、前記一対の折曲部は互いに反対方向となるように設定される。
前記補強金具は、柱、梁、横桁材における相互の接合部に打ち込まれることになる。すなわち、補強箇所である接合部に補強金具の折曲部を有する辺材の側面形状に倣って溝部を形成し、この溝部に折曲部を有する辺材をハンマー打ち込み等の適宜手段で強制的に嵌合固定し、併せて接着剤等で固定を補強する。このようにして打ち込まれたアングル状の補強金具の折曲部を有しない辺材面は接合部の外側面にあってこれに密着し、さらに接着剤等で固着され接合部の補強度をさらに向上させることになる。
構造用合板等の前記枠状部分への固定は釘の打ち込み、接着剤による固着等の手段によりこれをなすことになる。
図面に基づいて発明の実施例を説明する。 図1は、本願発明に係る補強金具の一実施例を示す斜視図である。この補強金具H1は、図1(a)に示す鋼製アングル材Aから図1(b)に示す形状に成形されている。該実施例では長さ166mmで3mm×20mm×20mmの寸法を有するものを使用している。
アングルAを形成する一対の辺材部1,2のうちのいずれか一方(該実施例では辺材部2)の両端部には折曲部2a,2bが形成されている。折曲部2aはアングル材Aにおける両辺材部の頂部3の上部に8mm長さのスリットを形成して外方に直角に折り曲げて形成され、同様に折曲部2bがアングル材Aの下部に形成されているが、折曲部2bの折り曲げ方向は折曲部2aとは対称に内方である。 このように、折曲部2a,2bを左右対称となすことにより、地震による左右の横揺れに抵抗する構成となっている。
図2は、本願発明に係る補強金具の他の実施例を示す斜視図である。この補強金具H2は、鋼製フラットバーFの両端をそれぞれ逆方向に90度折り曲げた折曲部2a,2bを有している。該実施例では、長さ116mmで2.8mm(厚)×19mm(幅)のフラットバーを使用しており、折曲部2a,2bの曲げ部分長さは8mmに形成されている。
図3は、上記の各補強金具H1,H2による接合部補強構造に係る一実施例を示す斜視図である。図に示す接合部は、横架材としての梁4と垂直材としての柱5により構成されていて、この接合部に上記いずれかの補強金具を装着することにより地震等の揺れに対する補強がなされる。 すなわち、図において、6は上記いずれかの補助金具H1又はH2を打ち込みの用に供する溝部である。 この溝部6の形状は補助金具H1、H2の本体部(折曲部を両端に有する部分)とその両端に形成される前記折曲部2a,2bに対応したものとなっている。
溝部の寸法は、嵌合する補助金具に応じて設定されている。 図1に示す補助金具H1
の場合は、幅2.8mm深さ25mm程度に高速回転のボードカッターなどで切り込み形成する。 この際、屈曲点にあらかじめ2.8mm程度の穴を穿孔しておくと溝切りにおける曲がり点の加工が簡単になる。 なお、発生する研削くずは、すべては取り除かず、溝切り加工した近接の乾燥割れなどの亀裂箇所や梁4と柱5との接合部間隙に残すか、充填しておく。 接合部間隙における研削くず(特にその繊維部分が)は、接着剤の投入時に接着剤による膜層における骨材として機能して接合部における金具と木材あるいは木材相互の固着をより強固なものとする。 また、亀裂や切り込み箇所に研削くずを充填する場合も前記同様の作用効果を得ることができる。 すなわち、接着剤によって固まった切削くずは、木材の亀裂部分を充填するばかりでなく、
割れた木材の双方の面を接着してそれ以上広がらないようにする効果がある。 ここで使用する接着剤は後述のように浸透性があり硬化の早いαシアノアクリレート系樹脂などの高力樹脂が好適である。
溝部6が形成されたら、補助金具Hにおける梁4、柱5との接触部分と溝部6とに粘度の大きい硬化の早い高力樹脂を塗布する。 次いで、図1に示す補助金具H1において、辺材部1を手前にして金槌などで打ち込み、嵌合固着させる。そして、上部側の折曲部2aと溝部6との間隙に浸透性があり硬化の早い高力樹脂を滴下し、充分浸透させて接着する。この場合、下部の折曲部2bと溝部6との間隙から高力樹脂が溢れる前に滴下を終了する。なお、図2に示す補助金具H2の溝部6への打ち込みも上記とほぼ同様である。
以上のようにして、補助金具H1,H2を垂直材と横架材との接合部に打ち込み固着することにより強固な補強構造、特に耐震用の接合部補強構造を簡単な施工作業で実現できる。
図4は、本願発明に係る開口部補強構造の一実施例を示す正面図である。当該実施例は、廊下などの開口部において、その上部に耐力壁部を形成するとともに、廊下の骨格を構成する柱(垂直材)と梁、鴨居(横架材)の接合部にあっては、前述した補強金具による接合部補強構造が形成される。
すなわち、図4において、7,7は対向する一対の柱、8は一対の柱7,7上に懸架される梁、9は前記梁8から所定距離おいて柱7,7の間に架装される鴨居、10は耐力壁部であり、廊下の上方に柱7,7、梁8、鴨居9により囲繞された枠状部分に構造用合板を嵌合固着することにより形成されている。なお、構造用合板のほかにパーティクルボード、石膏板等も使用できる。
梁8と一対の柱7,7との2箇所の接合部には前記補強金具H2が前述のような施工法で各一対ずつ打ち込み固着されて接合部を補強している。 また、同様に、一対の柱7,7とその間の鴨居9との接合部にも前記補強金具H2が打ち込み固着されている。
各接合部には補強金具H2を使用したが、補強金具H1を使用してもよいことはもちろんである。
また、一対の柱7,7と土台11との接合部2箇所には、上記の補強金具H1が各一対ずつ、前述した施工法により打ち込み固着されて接合部補強構造が形成されている。各接合部には補強金具H1を使用したが、補強金具H2を使用してもよいことはもちろんである。
耐力壁部10を構成する構造用合板は、該実施例では厚さ9mm幅805mm高さ635mmのものを前記枠状部に落としこみ、長さ50mmのスクリューネジでピッチ150mmの間隔で、柱7、7、梁8及び鴨居9に45度の角度で止めつけてある。
次に、上記実施例についての強度試験例を説明する。 図4に示す開口部補強構造において、面内せん断試験を3体行った。
試験方法は、土台11を固定し、梁8の端部を油圧ジャッキで水平方向に加力する。加力方法は正負繰り返し加力とし、繰り返し履歴は見かけのせん断変形角が、1/450、1/300、1/200、1/150、1/100、1/75、1/50radの正負変形時に行う。繰り返し加力は履歴の同一変形段階で3回の繰り返しを行い、最大荷重に達した後、最大荷重の80%の荷重に低下するまで加力するか試験体の見かけの変形角が1/15rad以上に達するまで加力する。
見かけの変形角が1/15radを超えても最大荷重の80%まで荷重が低下しない場合は見かけの変形角1/15radを終局変形角とし、そのときの荷重を最大荷重とした。
試験結果の評価方法は、終局加力を行った側の最初の荷重−変形角曲線のより求めた包絡線を完全弾塑性モデルに置き換えて、最大荷重Pmax、降伏耐力Py、終局耐力Pu、及び構造特性係数Dsを算出した。
また、3体の降伏耐力Py、終局耐力Pu×(0.2/Ds)、2/3Pmax、1/120rad変形時の耐力の平均値に、ばらつき係数を乗じて算出した値のうち、最も小さい値を短期基準許容せん断耐力P0とした。短期許容せん断耐力PaをPa=P0として、壁倍率= Pa×(1/1.96)×(1/0.91)を算出した。
補強なしの状態の試験体の結果は、3体の平均値で降伏耐力Pyが0.067(1体は完全弾塑性モデル近似ができなかったため2体の平均値)、終局耐力Pu×(0.2/Ds)が0.19(1体は完全弾塑性モデル近似ができなかったため2体の平均値)、2/3Pmaxが0.50、1/120rad変形時の耐力が0.13であった。当該4項目の耐力の平均値が一番低かったのが、降伏耐力Pyで、0.07である。
本来なら、3体それぞれのPyからばらつき係数を算出するのであるが、1体が完全弾塑性近似できなかったため、当該試験体のPyを仮に0.067と仮定すると、短期基準許容せん断耐力P0は0.067となった。 短期許容せん断耐力PaをPa=P0として、壁倍率= Pa×(1/1.96)×(1/0.91)は0.038倍となった。
次に図4に示す実施例(開口部補強構造)での形状で面内せん断試験を行った。試験体数は3体で、加力方法及び評価方法は上記と同様である。
図4に示す補強構造の試験体の結果は、3体の平均値で降伏耐力Pyが1.94、終局耐力Pu×(0.2/Ds)が1.39、2/3Pmaxが2.55、1/120rad変形時の耐力が1.45であった。当該4項目の耐力の平均値が一番低かったのが、終局耐力Pu×(0.2/Ds)で1.39である。短期基準許容せん断耐力P0はばらつき係数を乗じて1.30となった。短期許容せん断耐力PaをPa=P0として、壁倍率= Pa×(1/1.96)×(1/0.91)は0.73倍となった。
以上のように、本願発明にあっては、小型の金物を使用することで材料費を削減し、金物も軽く、加工作業も簡単なため人件費が低減でき、樹脂も数分で硬化するため工期の短縮を図ることができる。また、建築後における生活に必要な開口部を塞ぐことなく、接合部補強によって耐力壁として有効に機能させることができる。これらの効果により、耐震補強工事が促進され、地震などで倒壊を免れ、安全な生活を営むことができる。
本願発明に係る補強金具の一実施例を示す斜視図である。 本願発明に係る補強金具の他の実施例を示す斜視図である。 上記の各補強金具H1,H2による接合部補強構造に係る一実施例を示す斜視図である。 本願発明に係る開口部補強構造の一実施例を示す正面図である。
A........アングル材
F........フラットバー
H1.......補強金具
H2.......補強金具
1,2......辺材部
2a, 2b.....折曲部
3........頂部
4........梁(横架材)
5........柱(垂直材)
6........溝部
7,7......柱
8........梁
9........鴨居
10.......耐力壁部
11.......土台

Claims (6)

  1. 木造軸組工法建造物における接合部補強構造であって、垂直材と横架材の接合部において前記両部材にわたり穿設された溝部に補強金具を嵌合固着してなり、前記補強金具は、一対の辺材部により頂部が形成されているアングル材で構成され、前記一対のいずれかの辺材部の両端部に該辺材部に直角をなす一対の折曲部を形成し、それぞれの折曲部は互いに反対方向となるように設定され、垂直材と横架材の接合部において両部材にわたり補強金具の折曲部を有する辺材の側面形状に倣って穿設された溝部に、折曲部を有する辺材部を適宜手段で強制的に嵌合固定するとともに、併せてアングル状の補強金具の折曲部を有しない辺材部面は接合部の外側面に固着するようにしたことを特徴とする木造軸組工法建造物における接合部補強構造。
  2. 請求項1記載の接合部補強構造において、一対の折曲部を有する辺材部とこれが嵌合される前記溝部とは接着剤により固着し、併せて補強金具の折曲部を有しない辺材部面は接合部の外側面に接着剤により固着するようにしたことを特徴とする木造軸組工法建造物における接合部補強構造。
  3. 請求項2記載の接合部補強構造において、接着剤の投入時に接着層による膜層に骨材を設けたことを特徴とする木造軸組工法建造物における接合部補強構造。
  4. 請求項3記載の接合部補強構造において、前記骨材は溝部の研削時における研削くずで形成したことを特徴とする木造軸組工法建造物における接合部補強構造。
  5. 木造軸組工法建造物の廊下などの開口部補強構造であって、廊下などの開口部において、その上部に耐力壁部を形成するとともに、廊下の骨格を構成する柱(垂直材)と梁、鴨居(横架材)の接合部にあって請求項1ないし4いずれか記載の接合部補強構造を具えるようにしたことを特徴とする木造軸組工法建造物における廊下などの開口部補強構造。
  6. 請求項5記載の木造軸組工法建造物における開口部補強構造において、前記耐力壁部は開口部の上部において互いに対向するそれぞれ一対の垂直材と横架材との囲繞部分に嵌合固着される構造用合板および/又はパーティクルボードで構成したことを特徴とする木造軸組工法建造物における開口部補強構造。
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