JP5303918B2 - L−アミノ酸の製造法 - Google Patents

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Description

本発明は、微生物を用いたL-アミノ酸の製造法に関する。L-アミノ酸は、調味料、食品添加物、飼料添加物、化学製品、医薬品などの様々な分野に利用される。
L-スレオニン、L-リジン等のL-アミノ酸は、これらのL-アミノ酸生産能を有するエシェリヒア属細菌等のL-アミノ酸生産菌を用いて発酵法により工業生産されている。これらのL-アミノ酸生産菌としては、自然界から分離した菌株または該菌株の人工変異株、遺伝子組換えによりL-アミノ酸生合成酵素が増強された組換え体等が用いられている。L-スレオニンの製造法としては、例えば、特許文献1〜4に記載された方法を挙げることができる。一方、L-リジンの製造法としては、例えば、特許文献5〜8に記載された方法を挙げることができる。
L-アミノ酸の発酵生産においては、炭素源として糖類、すなわち、グルコース、フラクトース、スクロース、廃糖蜜、澱粉加水分解物等が使用されている。
エシェリヒア・コリ野生株は、炭素鎖12 以上の長鎖脂肪酸を唯一の炭素源として生育可能であることが非特許文献1に記載されており、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸を唯一の炭素源とする培地にて生育可能であることが非特許文献2に示されている。しかしながら、一般的に脂肪酸の溶解度は極めて低いことが知られており、非特許文献3には、ラウリン酸は0.1g/L以上であるが、オレイン酸は0.0003g/L以下、パルミチン酸は、0.00000003g/L以下であるという測定結果が記載されている。従って、脂肪酸のみを炭素源として用いた直接発酵法の物質生産の例はほとんどなく、L-アミノ酸の生産については報告がない。また、炭素源として用いる場合も、通例は脂肪酸の濃度は1g/L程度であることが多い。例えば、特許文献9にはポリエステルの製造の例が記載されているが、2g/Lのラウリン酸を培地に炭素源として添加しているのみである。
特開平5-304969号公報 国際公開第98/04715号パンフレット 特開平05-227977号公報 米国特許出願公開第2002/0110876号明細書 特開平10-165180号公報 特開平11-192088号公報 特開2000-253879号公報 特開2001-057896号公報 特開平11-243956号公報 Clark, D. P. and Cronan Jr., J. E. 1996. p. 343-2357. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology/Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C Weeks, G., Shapiro, M. Burns, R. O., and Wakil, S. J. 1969. Control of Fatty Acid Metabolism I. Induction of the Enzymes of Fatty Acid Oxidation in Escherichia coli. J. Bacteriol. 97:827-836. Vorum, H., Brodersen, R., Kragh-Hansen, U., and Pedersen, A. O. Solubility of long-chain fatty acids in phosphate buffer at pH 7.4. 1992. Biochimica et Biophysica Acta, Lipids and Lipid Metabolism 1126:135-142.
本発明は、従来、主として糖類を炭素源として行われてきた微生物を用いたL-アミノ酸の発酵製造法に対し、新たな原料を使用することにより、より安価なL-アミノ酸の製造法を提供するものである。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、従来、溶解度が極めて低く発酵原料とはなり得ないと考えられていた脂肪酸を炭素源とする培地において、腸内細菌科に属し、L-アミノ酸生産能を有する細菌を培養することにより、L-アミノ酸を生産できることを見出した。さらに、脂肪酸の乳化や均一化を高める方法を用いることによりL-アミノ酸を生産できる能力を高めることができることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)腸内細菌科に属し、L−アミノ酸生産能を有する細菌を、脂肪酸を含む培地に培養し、培地または菌体内にL−アミノ酸を生産蓄積させ、該培地または菌体からL−アミノ酸を採取することを特徴とするL−アミノ酸の製造方法。
(2)前記脂肪酸が炭素数14以上の脂肪酸を含むことを特徴とする(1)の方法。
(3)前記脂肪酸がミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、およびリノール酸から選ばれる1種類以上の脂肪酸を含むことを特徴とする(1)または(2)の方法。
(4)前記培地が脂肪酸を0.2〜10w/v%含む、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(5)前記培地がさらに脂肪酸以外の炭素源を含む、(1)〜(4)のいずれかの方法。(6)前記脂肪酸は乳化処理されたものである(1)〜(5)のいずれかの方法。
(7)前記脂肪酸の乳化処理が界面活性剤添加、ホモジナイザー処理、および超音波処理から選ばれる1種類以上である(6)の方法。
(8)前記脂肪酸の乳化処理が、界面活性剤を含むアルカリ条件下での、ホモジナイザー処理および/または超音波処理である(7)の方法。
(9)前記細菌がエシェリヒア属に属する細菌である(1)〜(8)のいずれかの方法。(10)前記L-アミノ酸が、L-スレオニン、L-リジン、L-フェニルアラニン、L-トリプトファン、L-バリン、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-メチオニンから選択される1種以上のアミノ酸である(1)〜(9)のいずれかの方法。
(11)前記L-アミノ酸が、L-スレオニンおよびL-リジンから選択される1種以上のアミノ酸である(1)〜(9)のいずれかの方法。
本発明によれば、新たな炭素源を用いることにより、高効率にL-アミノ酸を製造することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
<1>本発明の方法
本発明の方法は、腸内細菌科に属し、L-アミノ酸生産能を有する細菌を脂肪酸を培地中に含む培地に培養し、培地中または菌体内にL-アミノ酸を生成蓄積させ、該培地または菌体からL-アミノ酸を採取することを特徴とするL-アミノ酸の製造法である。ここで本発明の方法は、回分培養(batch culture)、流加培養(Fed-batch culture)、連続培養法(continuous culture)のいずれも用いることができ、培地中の脂肪酸は初発培地に含まれていてもよいし、流加培地に含まれていてもよいし、これらの両方に含まれていてもよい。
ここで、本発明において上記流加培養とは、培養容器に培地を連続的または間欠的に流加し、培養終了時までその培地を容器から抜き取らない培養方法をいう。また連続培養とは、培養容器に培地を連続的または間欠的に流加するとともに容器から培地(通常、流加する培地と等量)を抜き取る方法をいう。また、初発培地とは、流加培養または連続培養において流加培地を流加させる前の回分培養(batch培養)に用いる培地(培養開始時の培地)のことを意味し、流加培地とは流加培養または連続培養を行う際に発酵槽に供給する培地を意味する。また、回分培養(batch培養)とは、一回毎に新たな培地を用意し、そこへ株を植えて収穫まで培地を加えない方法を意味する。
脂肪酸とは、一般式 CnHmCOOH(n+1、m+1は、それぞれ、脂肪酸に含まれる炭素数、水素数を表す)で表わすことができる長鎖炭化水素の1価のカルボン酸を指す。一般的に炭素数が12 以上のものを長鎖脂肪酸と呼ぶことが多い。脂肪酸は、その炭素数と不飽和度によって様々な種類が存在する。また、脂肪酸は、油脂の構成成分であり、油脂の種類によって脂肪酸の組成も異なることが知られている。ミリスチン酸(C13H27COOH)は炭素数14の飽和脂肪酸であり、ヤシ油、パーム油に含まれる。パルミチン酸(C15H31COOH)は炭素数16の飽和脂肪酸であり、植物油脂一般に多く含まれる。ステアリン酸(C17H35COOH)は、炭素数18の飽和脂肪酸である動物性脂肪・植物性油に多く含まれる。オレイン酸(C17H33COOH)は、炭素数18の一価の不飽和脂肪酸であり、動物性脂肪や植物油に多く含まれる。リノール酸(C17H31COOH)は炭素数18で9位と12位にシス型二重結合を2つ持っている多価不飽和脂肪酸である。
油脂の加水分解によって長鎖脂肪酸の混合物を得ることが可能であり、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等を含む脂肪酸の混合物をパーム油などの油脂の加水分解物として得ることが可能であり、これを培養に用いてもよい。また、本発明で使用する脂肪酸は、動物油、植物油、廃食油やその他の混合油脂や、チョコレート等の脂肪分を含む食品から抽出されたもののいずれを用いてもよい。また脂肪酸は、油脂精製工程で抽出されたものを用いてもよい。
ここで本発明の方法で使用する培地に含まれる脂肪酸の量は、本発明の方法に使用する細菌が炭素源として資化できる限り幾らでもよいが、培地中に単独の炭素源として添加する場合、10w/v%以下、好ましくは5w/v%以下、さらに好ましくは2w/v%以下含まれることが好ましい。また、培地中に単独の炭素源として添加する場合、0.2w/v%以上、好ましくは0.5w/v%以上、さらに好ましくは1.0w/v%以上含まれていることが望ましい。
また、流加培地として使用する場合は、流加培地に単独の炭素源として添加する場合、培地中の濃度を5w/v%以下、好ましくは2w/v%以下、さらに好ましくは1w/v%以下含まれることが好ましい。また、流加培地に単独の炭素源として添加する場合、0.2w/v%以上、好ましくは0.5w/v%以上、さらに好ましくは1.0w/v%以上の量にて制御することが好ましい。
なお、脂肪酸の濃度は、ガスクロマトグラフィ(Hashimoto, K., Kawasaki, H., Akazawa, K., Nakamura, J., Asakura, Y., Kudo, T., Sakuradani, E., Shimizu, S., Nakamatsu, T. 1996. Biosci. Biotechnol. Biochem. 70:22-30)やHPLC(Lin, J. T., Snyder,
L. R., and McKeon, T. A. 1998. J. Chromatogr. A. 808: 43-49)により測定することが可能である。
また、培地に加える脂肪酸は、水にミセル化するナトリウムやカリウムなどとのアルカリ金属塩として用いることが望ましい。しかしながら、脂肪酸のナトリウム塩やカリウム塩の溶解度も発酵原料として用いるのには十分ではない場合がある。そこで、L-アミノ酸生産能を有する細菌が炭素源として脂肪酸をより効率よく資化できるようにするために、乳化を行う等、均一化を促進する工程を加えることが好ましい。例えば乳化方法として、乳化促進剤や界面活性剤を加える等が考えられる。ここで乳化促進剤としては、リン脂質やステロールが挙げられる。また界面活性剤としては、非イオン界面活性剤では、ポリ
(オキシエチレン)ソルビタンモノオレイン酸エステル(Tween 80)などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、n-オクチルβ-D-グルコシドなどのアルキルグルコシド、ショ糖ステアリン酸エステルなどのショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステルなどのポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、アルキルベタインであるN,N-ジメチル-N-ドデシルグリシンベタインなどが挙げられる。これ以外にも、トライトンX-100(Triton X-100)、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(Brij-58)やノニルフェノールエトキシレート(Tergitol NP-40)等の一般的に生物学の分野で用いられる界面活性剤が利用可能である。
さらに、脂肪酸の乳化や均一化を促進するための操作も有効である。この操作は、脂肪酸の乳化や均一化を促進する操作であれば、どのような操作でも構わない。具体的には、ホモジナイザー処理、ホモミキサー処理、超音波処理、高圧処理、高温処理などが挙げられるが、ホモジナイザー処理、超音波処理およびこれらの組合せがより好ましい。
上記界面活性剤による処理と、ホモジナイザー処理及び/または超音波処理を組合わせることが特に好ましく、これらの処理は、脂肪酸がより安定なアルカリ条件下で行われることが望ましい。アルカリ条件としては、pH9以上が望ましく、より望ましくはpH10以上である。
脂肪酸の混合物を炭素源として用いる場合、脂肪酸の混合比率は、本発明の方法に使用する細菌が炭素源として資化できる濃度比率であればいずれでもかまわない。油脂の加水分解物に由来する脂肪酸の混合物を利用することも可能である。
さらに、本発明の方法に使用する培地には、脂肪酸に加え、他の炭素源を添加してもよい。好ましいのは、グルコース、フラクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、廃糖蜜、澱粉加水分解物やバイオマスの加水分解により得られた糖液などの糖類、エタノールなどのアルコール類、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類である。なお他の炭素源を用いる場合には、炭素源中の脂肪酸の比率が10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上であることが好ましい。
なお、本発明において、脂肪酸は、培養の全工程において一定濃度含まれてもよいし、流加培地のみあるいは初発培地のみに添加されていてもよく、その他の炭素源が充足していれば、一定時間脂肪酸が不足している期間があってもよい。一時的とは、例えば発酵全体の時間のうち10%、20%、最大で30%の時間で脂肪酸が不足していてもよい。このように一時的に脂肪酸の濃度が0になることがあっても、脂肪酸を含む培地での培養期間が存在する場合は、本発明の「脂肪酸を含む培地で培養する」との文言に含まれる。
培地中に添加する炭素源以外の成分としては、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を用いることができる。本発明の培地中に含まれる窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、ウレア等のアンモニウム塩または硝酸塩等が使用することができ、pH調整に用いられるアンモニアガス、アンモニア水も窒素源として利用できる。また、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー、大豆加水分解物等も利用出来る。培地中にこれらの窒素源が1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含んでいてもよい。これらの窒素源は、初発培地にも流加培地にも用いることができる。また、初発培地、流加培地とも、同じ窒素源を用いてもよいし、流加培地の窒素源を初発培地と変更してもよい。
本発明の培地には、炭素源、窒素源の他にリン酸源、硫黄源が含まれていることが好ましい。リン酸源としては、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム、ピロリン酸などのリン酸ポリマー等が利用出来る。また、硫黄源とは、硫黄原子を含んでいるものであればいずれでもよいが、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の硫酸塩、システイン、シスチ
ン、グルタチオン等の含硫アミノ酸が望ましく、なかでも硫酸アンモニウムが望ましい。
また、培地には、上記成分の他に、増殖促進因子(増殖促進効果を持つ栄養素)が含まれていてもよい。増殖促進因子とは、微量金属類、アミノ酸、ビタミン、核酸、更にこれらのものを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆たん白分解物等が使用できる。微量金属類としては、鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム等が挙げられ、ビタミンとしては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12等が挙げられる。これらの増殖促進因子は初発培地に含まれていてもよいし、流加培地に含まれていてもよい。
また、培地には、生育にアミノ酸などを要求する栄養要求性変異株を使用する場合には要求される栄養素を補添することが好ましい。特に本発明に用いることができるL-リジン生産菌は、後述のようにL-リジン生合成経路が強化されており、L-リジン分解能が弱化されているものが多いので、L-スレオニン、L-ホモセリン、L-イソロイシン、L-メチオニンから選ばれる1種又は2種以上を添加することが望ましい。初発培地と流加培地は、培地組成が同じであってもよく、異なっていてもよい。また、初発培地と流加培地は、硫黄濃度が同じであってもよく、異なっていてもよい。さらには、流加培地の流加が多段階で行われる場合、各々の流加培地の組成は同じであってもよく、異なっていてもよい。
培養は、発酵温度20〜45℃、特に好ましくは33〜42℃で通気培養を行うことが好ましい。ここで酸素濃度は、5〜50%に、望ましくは10%程度に調節して行う。また、pHを5〜9に制御し、通気培養を行うことが好ましい。培養中にpHが下がる場合には、例えば、炭酸カルシウムを加えるか、アンモニアガス、アンモニア水等のアルカリで中和することができる。このような条件下で、好ましくは10時間〜120時間程度培養することにより、培養液中に著量のL-アミノ酸が蓄積される。蓄積されるL-アミノ酸の濃度は培地中から採取・回収できる濃度であればいずれでもよいが、50g/L以上、望ましくは75g/L以上、さらに望ましくは100g/L以上である。
培養終了後の培養液からL-アミノ酸を採取する方法は、公知の回収方法に従って行えばよい。例えば、培養液から遠心分離等によって菌体を除去した後に、濃縮晶析することによって採取される。
本発明においては、L-アミノ酸蓄積を一定以上に保つために、細菌の培養を種培養と本培養とに分けて行ってもよく、種培養をフラスコ等を用いたしんとう培養、又は回分培養で行い、本培養を流加培養、又は連続培養で行ってもよく、種培養、本培養ともに回分培養で行ってもよい。
本発明において、流加培養あるいは、連続培養を行う際には、一時的に脂肪酸またはその他の炭素源の流加が停止するように間欠的に流加培地を流加してもよい。また、流加を行う時間の最大で30%以下、望ましくは20%以下、特に望ましくは10%以下で流加培地の供給を停止することが好ましい。流加培養液を間欠的に流加させる場合には、流加培地を一定時間添加し、2回目以降の添加はある添加期に先行する添加停止期において発酵培地中の炭素源が枯渇するときのpH上昇または溶存酸素濃度の上昇がコンピューターで検出されるときに開始するように制御を行い、培養槽内の基質濃度を常に自動的に低レベルに維持してもよい(米国特許5,912,113号明細書)。
流加培養に用いられる流加培地は、脂肪酸とその他の炭素源及び増殖促進効果を持つ栄養素(増殖促進因子)を含む培地が好ましく、発酵培地中の脂肪酸濃度が一定以下になるように制御してもよい。
流加培地に加えるその他の炭素源としては、グルコース、スクロース、フルクトースが好ましく、増殖促進因子としては、窒素源、リン酸、アミノ酸等が好ましい。窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、ウレア等のアンモニウム塩または硝酸塩等を使用することができる。またリン酸源としては、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウムが使用でき、アミノ酸としては、栄養要求性変異株を使用する場合には要求される栄養素を補添することが好ましい。また、流加培地は1種でもよく、2種以上の培地を混合してもよい。2種以上の流加培地を用いる場合、それらの培地は混合して1つのフィード缶により流加させてもよいし、複数のフィード缶で流加させてもよい。
本発明で連続培養法を用いる場合には、引き抜きは流加と同時に行ってもよいし、一部引き抜いたあとで流加を行ってもよい。また培養液をL-アミノ酸と細胞を含んだまま引き抜いて、細胞だけ発酵槽に戻す菌体を再利用する連続培養法でもよい(フランス特許2669935号明細書参照)。連続的あるいは間欠的に栄養源を流加する方法は流加培養と同様の方法が用いられる。
菌体を再利用する連続培養法とは、予定したアミノ酸濃度に達したときに、発酵培地を間欠的にあるいは連続して引き抜き、L-アミノ酸のみを取り出し、菌体を含むろ過残留物を発酵槽中に再循環させる方法であり、例えばフランス特許2669935号明細書を参照にして実施することができる。
ここで、培養液を間欠的に引き抜く場合には、予定したL-アミノ酸濃度に到達したときに、L-アミノ酸を一部引き抜いて、新たに培地を流加して培養を行うとよい。また、添加する培地の量は、最終的に引き抜く前の培養液量と同量になるように設定することが好ましい。ここで同量とは、引き抜く前の培養液量と93〜107%の程度の量を意味する。
培養液を連続的に引き抜く場合には、栄養培地を流加させると同時に、あるいは流加させたあとに引き抜きを開始することが望ましく、例えば引き抜き開始時間としては流加を始めてから5時間以内、望ましくは3時間以内、さらに望ましくは1時間以内である。また引き抜く培養液量としては、流加させる量と同量で引き抜くことが好ましい。
<2>本発明で使用する細菌
本発明においては、腸内細菌科に属し、脂肪酸を炭素源として代謝することが可能なL-アミノ酸生産能を有する細菌を使用する。
腸内細菌科細菌は、エシェリヒア、エンテロバクター、エルビニア、クレブシエラ、パントエア、フォトルハブドゥス、プロビデンシア、サルモネラ、セラチア、シゲラ、モルガネラ、イェルシニア等の属に属する細菌を含む。特に、NCBI (National Center for Biotechnology Information)のデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=91347)で用いられている分類法により腸内細菌科に分類されている細菌が好ましい。
エシェリヒア属に属する細菌とは、特に制限されないが、当該細菌が微生物学の専門家に知られている分類により、エシェリヒア属に分類されていることを意味する。本発明において使用されるエシェリヒア属に属する細菌の例としては、エシェリヒア・コリ(E. coli)が挙げられるが、これに限定されない。
本発明において使用することができるエシェリヒア属に属する細菌は、特に制限されないが、例えば、Bachmannらの著書のTable 1(Bachmann, B. J. 1996. p. 2460-2488. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Bi
ology/Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C)に記述されている系統のものが含まれる。具体的には、プロトタイプの野生株K12株由来のエシェリヒア・コリ W3110 (ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ MG1655 (ATCC 47076)等が挙げられる。
これらの菌株は、例えばアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所: P.O.
Box 1549, Manassas, VA 20108, 1, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。
パントエア属に属する細菌とは、当該細菌が微生物学の専門家に知られている分類により、パントエア属に分類されていることを意味する。エンテロバクター・アグロメランスのある種のものは、最近、16S rRNAの塩基配列分析等に基づき、パントエア・アグロメランス、パントエア・アナナティス、パントエア・ステワルティイその他に再分類された(Int. J. Syst. Bacteriol. 1993. 43: 162-173)。本発明において、パントエア属に属する細菌には、このようにパントエア属に再分類された細菌も含まれる。
本発明において、L-アミノ酸生産能を有する細菌とは、脂肪酸を含む培地に培養したとき、L-アミノ酸を生産し、培地中に分泌する能力を有する細菌をいう。また、好ましくは、目的とするL-アミノ酸を好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1.0g/L以上の量を培地に蓄積させることができる細菌をいう。L-アミノ酸は、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン及びL-バリンを含む。L-スレオニン、L-リジン、L-フェニルアラニン、L-トリプトファン、L-バリン、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-メチオニンがより好ましく、L-スレオニン及びL-リジンが特に好ましい。
本発明の方法においては、脂肪酸を資化できるものである限り、これまでに報告されたL-アミノ酸生産菌を使用できる。以下、本発明の方法において使用することのできる各L-アミノ酸生産菌について説明する。
L-スレオニン生産菌
L-スレオニン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、E. coli TDH-6/pVIC40 (VKPM B-3996) (米国特許第5,175,107号、米国特許第5,705,371号)、E. coli 472T23/pYN7 (ATCC 98081) (米国特許第5,631,157号)、E. coli NRRL-21593 (米国特許第5,939,307号)、E. coli FERM BP-3756 (米国特許第5,474,918号)、E. coli FERM BP-3519及びFERM BP-3520 (米国特許第5,376,538号)、E. coli MG442 (Gusyatiner et al., Genetika (in Russian), 14, 947-956 (1978))、E. coli VL643及びVL2055 (EP 1149911 A)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。
TDH-6株はthrC遺伝子を欠損し、スクロース資化性であり、また、そのilvA遺伝子がリーキー(leaky)変異を有する。この株はまた、rhtA遺伝子に、高濃度のスレオニンまたはホモセリンに対する耐性を付与する変異を有する。B-3996株は、RSF1010由来ベクターに、変異thrA遺伝子を含むthrA*BCオペロンを挿入したプラスミドpVIC40を保持する。この変異thrA遺伝子は、スレオニンによるフィードバック阻害が実質的に解除されたアスパルトキナーゼホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードする。B-3996株は、1987年11月19日、オールユニオン・サイエンティフィック・センター・オブ・アンチビオティクス(Nagatinskaya Street 3-A, 117105 Moscow, Russia)に、受託番号RIA 1867で寄託されている。この株は、また、1987年4月7日、ルシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダスト
リアル・マイクロオルガニズムズ(VKPM) (1 Dorozhny proezd., 1 Moscow 117545, Russia) に、受託番号B-3996で寄託されている。
E. coli VKPM B-5318 (EP 0593792B)も、L-スレオニン生産菌又はそれを誘導するための親株として使用できる。B-5318株は、イソロイシン非要求性であり、プラスミドpVIC40中のスレオニンオペロンの制御領域が、温度感受性ラムダファージC1リプレッサー及びPRプロモーターにより置換されている。VKPM B-5318は、1990年5月3日、ルシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオルガニズムズ(VKPM)に、受託番号VKPM B-5318で寄託されている。
好ましくは、本発明に用いる細菌は、さらに、下記の遺伝子の1種以上の発現が増大するように改変されたものである。
-スレオニンによるフィードバック阻害に耐性のアスパルトキナーゼホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードする変異thrA遺伝子
-ホモセリンキナーゼをコードするthrB遺伝子
-スレオニンシンターゼをコードするthrC遺伝子
-推定トランスメンブランタンパク質をコードするrhtA遺伝子
-アスパルテート-β-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードするasd遺伝子
-アスパルテートアミノトランスフェラーゼ(アスパルテートトランスアミナーゼ)をコードするaspC遺伝子
E. coliのアスパルトキナーゼホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードするthrA遺伝子は明らかにされている(ヌクレオチド番号337〜2799, GenBank accession NC_000913.2, gi: 49175990)。thrA遺伝子は、E. coli K-12の染色体において、thrL遺伝子とthrB遺伝子との間に位置する。E. coliのホモセリンキナーゼをコードするthrB遺伝子は明らかにされている(ヌクレオチド番号2801〜3733, GenBank accession NC_000913.2, gi: 49175990)。thrB遺伝子は、E. coli K-12の染色体において、thrA遺伝子とthrC遺伝子との間に位置する。E. coliのスレオニンシンターゼをコードするthrC遺伝子は明らかにされている(ヌクレオチド番号3734〜5020, GenBank accession NC_000913.2, gi: 49175990)。thrC遺伝子は、E. coli K-12の染色体において、thrB遺伝子とyaaXオープンリーディングフレームとの間に位置する。これら三つの遺伝子は、全て、単一のスレオニンオペロンとして機能する。スレオニンオペロンの発現を増大させるには、転写に影響するアテニュエーター領域を、好ましくは、オペロンから除去する(WO2005/049808, WO2003/097839)。
スレオニンによるフィードバック阻害に耐性のアスパルトキナーゼホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードする変異thrA遺伝子、ならびに、thrB遺伝子及びthrC遺伝子は、スレオニン生産株E. coli VKPM B-3996に存在する周知のプラスミドpVIC40から一つのオペロンとして取得できる。プラスミドpVIC40の詳細は、米国特許第5,705,371号に記載されている。
rhtA遺伝子は、グルタミン輸送系の要素をコードするglnHPQ オペロンに近いE. coli染色体の18分に存在する。rhtA遺伝子は、ORF1 (ybiF遺伝子, ヌクレオチド番号764〜1651,
GenBank accession number AAA218541, gi:440181)と同一であり、pexB遺伝子とompX遺伝子との間に位置する。ORF1によりコードされるタンパク質を発現するユニットは、rhtA遺伝子と呼ばれている(rht: ホモセリン及びスレオニンに耐性)。また、rhtA23変異が、ATG開始コドンに対して-1位のG→A置換であることが判明している(ABSTRACTS of the 17th
International Congress of Biochemistry and Molecular Biology in conjugation with Annual Meeting of the American Society for Biochemistry and Molecular Biology,
San Francisco, California August 24-29, 1997, abstract No. 457, EP 1013765 A)。
E. coliのasd遺伝子は既に明らかにされており(ヌクレオチド番号3572511〜3571408, GenBank accession NC_000913.1, gi:16131307)、その遺伝子の塩基配列に基づいて作製されたプライマーを用いるPCRにより得ることができる(White, T. J., Arnheim, N., and Erlich, H. A. 1989. Trends Genet. 5: 185-189参照)。他の微生物のasd遺伝子も同様に得ることができる。
また、E. coliのaspC遺伝子も既に明らかにされており(ヌクレオチド番号983742〜984932, GenBank accession NC_000913.1, gi:16128895)、PCRにより得ることができる。他の微生物のaspC遺伝子も同様に得ることができる。
L-リジン生産菌
エシェリヒア属に属するL-リジン生産菌の例としては、L-リジンアナログに耐性を有する変異株が挙げられる。L-リジンアナログはエシェリヒア属に属する細菌の生育を阻害するが、この阻害は、L-リジンが培地に共存するときには完全にまたは部分的に解除される。L-リジンアナログの例としては、オキサリジン、リジンヒドロキサメート、S-(2-アミノエチル)-L-システイン(AEC)、γ-メチルリジン、α-クロロカプロラクタムなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらのリジンアナログに対して耐性を有する変異株は、エシェリヒア属に属する細菌を通常の人工変異処理に付すことによって得ることができる。L-リジンの生産に有用な細菌株の具体例としては、E. coli AJ11442 (FERM BP-1543, NRRL B-12185; 米国特許第4,346,170号参照)及びE. coli VL611が挙げられる。これらの微生物では、アスパルトキナーゼのL-リジンによるフィードバック阻害が解除されている。
WC196株は、E. coliのL-リジン生産菌として使用できる。この菌株は、E. coli K-12に由来するW3110株にAEC耐性を付与することにより育種された。同株は、Escherichia coli AJ13069と命名され、1994年12月6日、工業技術院生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM P-14690として寄託され、1995年9月29日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-5252が付与されている(米国特許第5,827,698号)。
L-リジン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、L-リジン生合成系酵素をコードする遺伝子の1種以上の発現が増大している株も挙げられる。かかる遺伝子の例としては、ジヒドロジピコリン酸シンターゼ遺伝子(dapA)、アスパルトキナーゼ遺伝子(lysC)、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ遺伝子(dapB)、ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ遺伝子(lysA)、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(ddh) (米国特許第6,040,160号)、フォスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子(ppc)、アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(asd)及びアスパルターゼ遺伝子(aspA) (EP 1253195 A)が挙げられるが、これらに限定されない。また、親株は、エネルギー効率に関与する遺伝子(cyo) (EP 1170376 A)、ニコチンアミドヌクレオチドトランスヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(pntAB) (米国特許第5,830,716号)、ybjE遺伝子(WO2005/073390)、または、これらの組み合わせの発現レベルが増大していてもよい。なお、カッコ内は、その遺伝子の略記号である。
エシェリヒア・コリ由来の野生型ジヒドロジピコリン酸合成酵素はL-リジンによるフィードバック阻害を受けることが知られており、エシェリヒア・コリ由来の野生型アスパルトキナーゼはL-リジンによる抑制及びフィードバック阻害を受けることが知られている。したがって、dapA遺伝子及びlysC遺伝子を用いる場合、これらの遺伝子は、L-リジンによるフィードバック阻害を受けない変異型遺伝子であることが好ましい。
L-リジンによるフィードバック阻害を受けない変異型ジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードするDNAとしては、118位のヒスチジン残基がチロシン残基に置換された配列を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。また、L-リジンによるフィードバック阻害を受けない変異型アスパルトキナーゼをコードするDNAとしては、352位のスレオニン残基がイソロイシン残基に置換、323位のグリシン残基がアスパラギン残基に置換、318位のメチオニンがイソロイシンに置換された配列を有するAKIIIをコードするDNAが挙げられる(これらの変異体については米国特許第5661012号及び第6040160号明細書参照)。変異型DNAはPCRなどによる部位特異的変異法により取得することができる。
なお、変異型変異型ジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードする変異型dapA及び変異型アスパルトキナーゼをコードする変異型lysCを含むプラスミドとして、広宿主域プラスミドRSFD80、pCAB1、pCABD2が知られている(米国特許第6040160号明細書)。RSFD80で形質転換されたエシェリヒア・コリ JM109株(米国特許第6040160号明細書)は、AJ12396と命名され、同株は1993年10月28日に通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)に受託番号FERM P-13936として寄託され、1994年11月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、FERM BP-4859の受託番号のもとで寄託されている。RSFD80は、AJ12396株から、公知の方法によって取得することができる。
L-リジン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、L-リジンの生合成経路から分岐してL-リジン以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性が低下または欠損している株も挙げられる。L-リジンの生合成経路から分岐してL-リジン以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の例としては、ホモセリンデヒドロゲナーゼ、リジンデカルボキシラーゼ(米国特許第5,827,698号)、及び、リンゴ酸酵素(WO2005/010175)が挙げられる。
リジンデカルボキシラーゼ活性を低下または欠損させるためには、リジンデカルボキシラーゼをコードするcadA遺伝子とldcC遺伝子の両方の発現を低下させることが好ましい。両遺伝子の発現低下は、例えば、後述の実施例2に記載の方法に従って行うことができる。
cadA遺伝子としては、配列番号5の塩基配列を有するDNA(エシェリヒア・コリ由来のcadA遺伝子)、または配列番号5の塩基配列の相補配列もしくはこの相補配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリジンデカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
ldcC遺伝子遺伝子としては、配列番号7の塩基配列を有するDNA(エシェリヒア・コリ由来のldcC遺伝子)、または配列番号7の塩基配列の相補配列もしくはこの相補配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリジンデカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
ここで、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDS、さらに好ましくは、68℃
、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度、温度で、1回、より好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。
L-システイン生産菌
L-システイン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、フィードバック阻
害耐性のセリンアセチルトランスフェラーゼをコードする異なるcysEアレルで形質転換されたE. coli JM15(米国特許第6,218,168号、ロシア特許出願第2003121601号)、細胞に毒性の物質を排出するのに適したタンパク質をコードする過剰発現遺伝子を有するE. coli W3110 (米国特許第5,972,663号)、システインデスルフォヒドラーゼ活性が低下したE. coli株 (JP11155571A2)、cysB遺伝子によりコードされる正のシステインレギュロンの転写制御因子の活性が上昇したE. coli W3110 (WO0127307A1)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。
L-ロイシン生産菌
L-ロイシン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、ロイシン耐性のE. coli株 (例えば、57株 (VKPM B-7386, 米国特許第6,124,121号))またはβ-2-チエニルアラニン、3-ヒドロキシロイシン、4-アザロイシン、5,5,5-トリフルオロロイシンなどのロイシンアナログ耐性のE. coli株(特公昭62-34397号及び特開平8-70879号)、WO96/06926に記載された遺伝子工学的方法で得られたE. coli株、E. coli H-9068 (特開平8-70879号)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明に用いる細菌は、L-ロイシン生合成に関与する遺伝子の1種以上の発現が増大されることにより改良されていてもよい。このような遺伝子の例としては、好ましくはL-ロイシンによるフィードバック阻害が解除されたイソプロピルマレートシンターゼをコードする変異leuA遺伝子(米国特許第6,403,342号)に代表される、leuABCDオペロンの遺伝子が挙げられる。さらに、本発明に用いる細菌は、細菌の細胞からL-アミノ酸を排出するタンパク質をコードする遺伝子の1種以上の発現が増大されることにより改良されていてもよい。このような遺伝子の例としては、b2682遺伝子及びb2683遺伝子(ygaZH遺伝子) (EP 1239041 A2)が挙げられる。
L-ヒスチジン生産菌
L-ヒスチジン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、E. coli 24株 (VKPM B-5945, RU2003677)、E. coli 80株 (VKPM B-7270, RU2119536)、E. coli NRRL B-12116 - B12121 (米国特許第4,388,405号)、E. coli H-9342 (FERM BP-6675)及びH-9343 (FERM BP-6676) (米国特許第6,344,347号)、E. coli H-9341 (FERM BP-6674) (EP1085087)、E. coli AI80/pFM201 (米国特許第6,258,554号)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。
L-ヒスチジン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、L-ヒスチジン生合成系酵素をコードする遺伝子の1種以上の発現が増大した株も挙げられる。かかる遺伝子の例としては、ATPフォスフォリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(hisG)、フォスフォリボシルAMPサイクロヒドロラーゼ遺伝子(hisI)、フォスフォリボシル-ATPピロフォスフォヒドロラーゼ遺伝子(hisI)、フォスフォリボシルフォルミミノ-5-アミノイミダゾールカルボキサミドリボタイドイソメラーゼ遺伝子(hisA)、アミドトランスフェラーゼ遺伝子(hisH)、ヒスチジノールフォスフェイトアミノトランスフェラーゼ遺伝子(hisC)、ヒスチジノールフォスファターゼ遺伝子(hisB)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ遺伝子(hisD)などが挙げられる。
hisG及びhisBHAFIにコードされるL-ヒスチジン生合成系酵素はL-ヒスチジンにより阻害されることが知られており、従って、L-ヒスチジン生産能は、ATPフォスフォリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(hisG)にフィードバック阻害への耐性を付与する変異を導入することにより効率的に増大させることができる(ロシア特許第2003677号及び第2119536号)。
L-ヒスチジン生産能を有する株の具体例としては、L-ヒスチジン生合成系酵素をコードするDNAを保持するベクターを導入したE. coli FERM-P 5038及び5048 (特開昭56-00509
9号)、アミノ酸輸送の遺伝子を導入したE. coli株(EP1016710A)、スルファグアニジン、DL-1,2,4-トリアゾール-3-アラニン及びストレプトマイシンに対する耐性を付与したE. coli 80株(VKPM B-7270, ロシア特許第2119536号)などが挙げられる。
L-グルタミン酸生産菌
L-グルタミン酸生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、E. coli VL334thrC+ (EP 1172433)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。E. coli VL334 (VKPM B-1641)は、thrC遺伝子及びilvA遺伝子に変異を有するL-イソロイシン及びL-スレオニン要求性株である(米国特許第4,278,765号)。thrC遺伝子の野生型アレルは、野生型E. coli K12株 (VKPM B-7)の細胞で増殖したバクテリオファージP1を用いる一般的形質導入法により導入された。この結果、L-イソロイシン要求性のL-グルタミン酸生産菌VL334thrC+ (VKPM B-8961) が得られた。
L-グルタミン酸生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、L-グルタミン酸生合成系酵素をコードする遺伝子の1種以上の発現が増大した株が挙げられるが、これらに限定されない。かかる遺伝子の例としては、グルタメートデヒドロゲナーゼ(gdhA)、グルタミンシンテターゼ(glnA)、グルタメートシンテターゼ(gltAB)、イソシトレートデヒドロゲナーゼ(icdA)、アコニテートヒドラターゼ(acnA, acnB)、シトレートシンターゼ(gltA)、フォスフォエノールピルベートカルボシラーゼ(ppc)、ピルベートデヒドロゲナーゼ(aceEF, lpdA)、ピルベートキナーゼ(pykA, pykF)、フォスフォエノールピルベートシンターゼ(ppsA)、エノラーゼ(eno)、フォスフォグリセロムターゼ(pgmA, pgmI)、フォスフォグリセレートキナーゼ(pgk)、グリセルアルデヒド-3-フォスフェートデヒドロゲナーゼ(gapA)、トリオースフォスフェートイソメラーゼ(tpiA)、フルクトースビスフォスフェートアルドラーゼ(fbp)、フォスフォフルクトキナーゼ(pfkA, pfkB)、グルコースフォスフェートイソメラーゼ(pgi)などが挙げられる。
シトレートシンテターゼ遺伝子、フォスフォエノールピルベートカルボキシラーゼ遺伝子、及び/またはグルタメートデヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が増大するように改変された株の例としては、EP1078989A、EP955368A及びEP952221Aに開示されたものが挙げられる。
L-グルタミン酸生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、L-グルタミン酸の生合成経路から分岐してL-グルタミン酸以外の化合物の合成を触媒する酵素の活性が低下または欠損している株も挙げられる。このような酵素の例としては、イソシトレートリアーゼ(aceA)、α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ(sucA)、フォスフォトランスアセチラーゼ(pta)、アセテートキナーゼ(ack)、アセトヒドロキシ酸シンターゼ(ilvG)、アセトラクテートシンターゼ(ilvI)、フォルメートアセチルトランスフェラーゼ(pfl)、ラクテートデヒドロゲナーゼ(ldh)、グルタメートデカルボキシラーゼ(gadAB)などが挙げられる。α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ活性が欠損した、または、α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ活性が低下したエシェリヒア属に属する細菌、及び、それらの取得方法は米国特許第5,378,616 号及び第5,573,945号に記載されている。
具体例としては下記のものが挙げられる。
E. coli W3110sucA::Kmr
E. coli AJ12624 (FERM BP-3853)
E. coli AJ12628 (FERM BP-3854)
E. coli AJ12949 (FERM BP-4881)
E. coli W3110sucA::Kmr は、E. coli W3110のα-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ遺伝子(以下、「sucA遺伝子」ともいう)を破壊することにより得られた株である。この
株は、α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼを完全に欠損している。
L-グルタミン酸生産菌の他の例としては、エシェリヒア属に属し、アスパラギン酸代謝拮抗物質に耐性を有するものが挙げられる。これらの株は、α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼを欠損していてもよく、例えば、E. coli AJ13199 (FERM BP-5807) (米国特許第5.908,768号)、さらにL-グルタミン酸分解能が低下したFFRM P-12379(米国特許第5,393,671号); AJ13138 (FERM BP-5565) (米国特許第6,110,714号)などが挙げられる。
L-グルタミン酸生産菌の例としては、α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ活性が欠損した、または、α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ活性が低下したパントエア属に属する細菌が挙げられ、上記のようにして得ることができる。このような株としては、Pantoea ananatis AJ13356(米国特許第6,331,419号)がある。Pantoea ananatis AJ13356は、1998年2月19日、工業技術院生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM P-16645として寄託され、1999年1月11日にブダペスト条約に基
づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-6616が付与されている。Pantoea ananatis AJ13356は、αKGDH-E1サブユニット遺伝子(sucA)の破壊によりα-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ活性が欠損している。この株は、単離された時には、Enterobacter agglomeransと同定され、Enterobacter agglomerans AJ13356として寄託された。しかし、16S rRNAの塩基配列などに基づき、Pantoea ananatisに再分類された。AJ13356は、上記寄託機関にEnterobacter agglomeransとして寄託されているが、本明細書では、Pantoea ananatisとして記載する。
L-フェニルアラニン生産菌
L-フェニルアラニン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、E. coli AJ12739 (tyrA::Tn10, tyrR) (VKPM B-8197)、変異型pheA34遺伝子を保持するE. coli HW1089 (ATCC 55371) (米国特許第 5,354,672号)、E. coli MWEC101-b (KR8903681)、E.coli NRRL B-12141, NRRL B-12145, NRRL B-12146及びNRRL B-12147 (米国特許第4,407,952号)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。また、親株として、E. coli K-12 [W3110 (tyrA)/pPHAB] (FERM BP-3566)、E. coli K-12 [W3110 (tyrA)/pPHAD] (FERM BP-12659)、E. coli K-12 [W3110 (tyrA)/pPHATerm] (FERM BP-12662)及びAJ 12604と命名されたE. coli K-12 [W3110 (tyrA)/pBR-aroG4, pACMAB] (FERM BP-3579)も使用できる(EP 488424 B1)。さらに、yedA遺伝子またはyddG遺伝子にコードされるタンパク質の活性が増大したエシェリヒア属に属するL-フェニルアラニン生産菌も使用できる(米国特許出願公開2003/0148473 A1及び2003/0157667 A1)。
L-トリプトファン生産菌
L-トリプトファン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、変異trpS遺伝子によりコードされるトリプトファニル-tRNAシンテターゼが欠損したE. coli JP4735/pMU3028 (DSM10122)及びJP6015/pMU91 (DSM10123) (米国特許第5,756,345号)、セリンによるフィードバック阻害を受けないフォスフォグリセリレートデヒドロゲナーゼをコードするserAアレル及びトリプトファンによるフィードバック阻害を受けないアントラニレートシンターゼをコードするtrpEアレルを有するE. coli SV164 (pGH5) (米国特許第6,180,373号)、トリプトファナーゼが欠損したE. coli AGX17 (pGX44) (NRRL B-12263)及びAGX6(pGX50)aroP (NRRL B-12264) (米国特許第4,371,614号)、フォスフォエノールピルビン酸生産能が増大したE. coli AGX17/pGX50,pACKG4-pps (WO9708333, 米国特許第6,319,696号)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。yedA遺伝子またはyddG遺伝子にコードされるタンパク質の活性が増大したエシェリヒア属に属するL-トリプトファン生産菌も使用できる(米国特許出願公開2003/0148473 A1及び2003/0157667A1)。
L-トリプトファン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、アントラニレートシンターゼ(trpE)、フォスフォグリセレートデヒドロゲナーゼ(serA)、及び、トリプトファンシンターゼ(trpAB)から選ばれる酵素の活性の一種以上が増大した株も挙げられる。アントラニレートシンターゼ及びフォスフォグリセレートデヒドロゲナーゼは共にL-トリプトファン及びL-セリンによるフィードバック阻害を受けるので、フィードバック阻害を解除する変異をこれらの酵素に導入してもよい。このような変異を有する株の具体例としては、脱感作型アントラニレートシンターゼを保持するE. coli SV164、及び、フィードバック阻害が解除されたフォスフォグリセレートデヒドロゲナーゼをコードする変異serA遺伝子を含むプラスミドpGH5 (WO 94/08031)をE. coli SV164に導入することにより得られた形質転換株が挙げられる。
L-トリプトファン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、阻害解除型アントラニレートシンターゼをコードする遺伝子を含むトリプトファンオペロンが導入された株(特開昭57-71397号, 特開昭62-244382号, 米国特許第4,371,614号)も挙げられる。さらに、トリプトファンオペロン(trpBA)中のトリプトファンシンターゼをコードする遺伝子の発現を増大させることによりL-トリプトファン生産能を付与してもよい。トリプトファンシンターゼは、それぞれtrpA及びtrpB遺伝子によりコードされるα及びβサブユニットからなる。さらに、イソシトレートリアーゼ-マレートシンターゼオペロンの発現を増大させることによりL-トリプトファン生産能を改良してもよい(WO2005/103275)。
L-プロリン生産菌
L-プロリン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、ilvA遺伝子が欠損し、L-プロリンを生産できるE. coli 702ilvA (VKPM B-8012) (EP 1172433)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明に用いる細菌は、L-プロリン生合成に関与する遺伝子の一種以上の発現を増大することにより改良してもよい。L-プロリン生産菌に好ましい遺伝子の例としては、L-プロリンによるフィードバック阻害が解除されたグルタメートキナーゼをコードするproB遺伝子(ドイツ特許第3127361号)が挙げられる。さらに、本発明に用いる細菌は、細菌の細胞からL-アミノ酸を排出するタンパク質をコードする遺伝子の一種以上の発現が増大することにより改良してもよい。このような遺伝子としては、b2682 遺伝子及びb2683遺伝子(ygaZH遺伝子) (EP1239041 A2)が挙げられる。
L-プロリン生産能を有するエシェリヒア属に属する細菌の例としては、NRRL B-12403及びNRRL B-12404 (英国特許第2075056号)、VKPM B-8012 (ロシア特許出願2000124295)、ドイツ特許第3127361号に記載のプラスミド変異体、Bloom F.R. et al (The 15th Miami winter symposium, 1983, p.34)に記載のプラスミド変異体などのE. coli 株が挙げられる。
L-アルギニン生産菌
L-アルギニン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、E. coli 237株 (VKPM B-7925) (米国特許出願公開2002/058315 A1)、及び、変異N-アセチルグルタメートシンターゼを保持するその誘導株(ロシア特許出願第2001112869号)、E. coli 382株 (VKPM B-7926) (EP1170358A1)、N-アセチルグルタメートシンテターゼをコードするargA遺伝子が導入されたアルギニン生産株(EP1170361A1)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。
L-アルギニン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、L-アルギニン生合成系酵素をコードする遺伝子の1種以上の発現が増大した株も挙げられる。かかる遺伝子
の例としては、N-アセチルグルタミルフォスフェートレダクターゼ遺伝子(argC)、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(argJ)、N-アセチルグルタメートキナーゼ遺伝子(argB)、アセチルオルニチントランスアミナーゼ遺伝子(argD)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ遺伝子(argF)、アルギノコハク酸シンテターゼ遺伝子(argG)、アルギノコハク酸リアーゼ遺伝子(argH)、カルバモイルフォスフェートシンテターゼ遺伝子(carAB)が挙げられる。
L-バリン生産菌
L-バリン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、ilvGMEDAオペロンを過剰発現するように改変された株(米国特許第5,998,178号)が挙げられるが、これらに限定されない。アテニュエーションに必要なilvGMEDAオペロンの領域を除去し、生産されるL-バリンによりオペロンの発現が減衰しないようにすることが好ましい。さらに、オペロンのilvA遺伝子が破壊され、スレオニンデアミナーゼ活性が減少することが好ましい。
L-バリン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、アミノアシルt-RNAシンテターゼの変異を有する変異株(米国特許第5,658,766号)も挙げられる。例えば、イソロイシンtRNAシンテターゼをコードするileS 遺伝子に変異を有するE. coli VL1970が使用できる。E. coli VL1970は、1988年6月24日、ルシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオルガニズムズ(VKPM) (1 Dorozhny proezd., 1 Moscow
117545, Russia)に、受託番号VKPM B-4411で寄託されている。
さらに、生育にリポ酸を要求する、及び/または、H+-ATPaseを欠失している変異株(WO96/06926)を親株として用いることができる。
L-イソロイシン生産菌
L-イソロイシン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、6-ジメチルアミノプリンに耐性を有する変異株(特開平5-304969号)、チアイソロイシン、イソロイシンヒドロキサメートなどのイソロイシンアナログに耐性を有する変異株、さらにDL-エチオニン及び/またはアルギニンヒドロキサメートに耐性を有する変異株(特開平5-130882号)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、スレオニンデアミナーゼ、アセトヒドロキシ酸シンターゼなどのL-イソロイシン生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子で形質転換された組換え株もまた親株として使用できる(特開平2-458号, FR 0356739
, 及び米国特許第5,998,178号)。
L-メチオニン生産菌
L-メチオニン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、L-スレオニン要求株、ノルロイシンに耐性を有する変異株が挙げられるが、これらに限定されない(特開2000-139471号)。さらに、メチオニンリプレッサーを欠損した株や、ホモセリントランスサクシニラーゼ、シスタチオニンγ−シンテースなどのL-メチオニン生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子で形質転換された組換え株もまた親株として使用できる(特開2000-139471号)。
以下、実施例にて、本発明を更に具体的に説明する。実施例には、オレイン酸ナトリウム塩(C17H33COONa)及びパルミチン酸ナトリウム塩(C15H31COONa)はナカライテスク社製を、ステアリン酸ナトリウム塩(C17H35COONa)及びミリスチン酸ナトリウム塩(C13H27COONa)はシグマ社製を、リノール酸(C17H31COOH)はナカライテスク社製を用いた。
〔実施例1〕L-スレオニン生産培養
L-スレオニン生産菌であるエシェリヒア・コリ B-5318を、ストレプトマイシン硫酸塩20mg/Lを含有するLB寒天培地(トリプトン10g/L、酵母エキス5g/L、NaCl 10g/L、寒天15g
/L)にて37℃で24時間培養した。寒天培地上の細胞を掻き取り、本培養培地20mLを入れた500mLのバッフル付フラスコに植菌し、培養温度40℃にて、24時間培養を行った。本培養は、炭素源として、オレイン酸ナトリウムを用いた培地で実施した。総炭素源量はいずれも20g/Lとした。
[本培養培地組成]
炭素源 20g/L
(NH4)2SO4 16g/L
KH2PO4 1g/L
MgSO4・7H2O 1g/L
FeSO4・7H2O 0.01g/L
MnSO4・4H2O 0.01g/L
Yeast Extract 2g/L
ストレプトマイシン硫酸塩 20mg/L
KOHでpH7.0に調整し、120℃で20分オートクレーブを行なった。但し、炭素源とMgSO4・7H2Oはそれぞれ別殺菌した後、混合した。CaCO3は乾熱滅菌後に添加した。
24時間後、培養上清を液体クロマトグラフィーにより分析することによりL-スレオニン量の測定を行った。生育度を濁度(OD)にて測定することが不可能であるため、適当な希釈を行った培養液をLBプレートに塗布して生菌数を測定した。2本培養を行った培養の結果の平均値を表1に示す。
オレイン酸のみを炭素源とした培養にて、良好なL-スレオニンの蓄積が認められた。
Figure 0005303918
〔実施例2〕L-リジン生産菌の構築
<2-1>リジンデカルボキシラーゼをコードするcadA及びldcC遺伝子破壊株の構築
まずリジンデカルボキシラーゼ非産生株の構築を行った。リジンデカルボキシラーゼは、cadA遺伝子(Genbank Accession No. NP_418555:配列番号5)、ldcC遺伝子(Genbank
Accession No. NP_414728:配列番号7)によってコードされている(WO96/17930)。ここで親株は、エシェリヒア・コリのL-リジン生産株として、AEC(S-(2-アミノエチル)-システイン)耐性株であるWC196株(WO96/17930)を用いた。
リジンデカルボキシラーゼをコードするcadAとldcC遺伝子の欠失は、DatsenkoとWannerによって最初に開発された「Red-driven integration」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A. and Wanner, B. L. 2000. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 97: 6640-6645)とλファージ由来の切り出しシステム(Cho, E. H., Gumport, R. I., and Gardner, J. F. 2002. J. Bacteriol. 184: 5200-5203)によって行った。「Red-driven integration」によれば、目的とする遺伝子の一部を合成オリゴヌクレオチドの5'側に、抗生物質耐性遺伝子の一部を3'側にデザインした合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて得られたPCR産物を用いて、一段階で遺伝子破壊株を構築することができる。さらにλファージ由来の切り出しシステムを組み合わせることにより、遺伝子破壊株に組み込んだ抗生物質耐性遺伝子を除去することが出来る(特開2005-058227)。
<2-2>cadA遺伝子の破壊
PCRの鋳型として、プラスミドpMW118-attL-Cm-attR(特開2005-058227)を使用した。pMW118-attL-Cm-attRは、pMW118(宝バイオ社製)にλファージのアタッチメントサイトであるattL及びattR遺伝子と抗生物質耐性遺伝子であるcat遺伝子を挿入したプラスミドであり、attL-cat-attRの順で挿入されている
このattLとattRの両端に対応する配列をプライマーの3'末端に、目的遺伝子であるcadA遺伝子の一部に対応するプライマーの5'末端に有する配列番号1及び2に示す合成オリゴヌクレオチドをプライマーに用いてPCRを行った。
増幅したPCR産物をアガロースゲルで精製し、温度感受性の複製能を有するプラスミドpKD46を含むエシェリヒア・コリWC196株にエレクトロポレーションにより導入した。プラスミドpKD46(Datsenko, K. A. and Wanner, B. L. 2000. Proc. Natl. Acad. Sci. USA.
97: 6640-6645)は、アラビノース誘導性ParaBプロモーターに制御されるλRed相同組換えシステムのRed レコンビナーゼをコードする遺伝子(γ、β、exo遺伝子)を含むλファージの合計2154塩基のDNAフラグメント(GenBank/EMBL アクセッション番号 J02459、第31088番目〜33241番目)を含む。プラスミドpKD46はPCR産物をWC196株の染色体に組み込むために必要である。
エレクトロポレーション用のコンピテントセルは次のようにして調製した。すなわち、100mg/Lのアンピシリンを含んだLB培地中で30℃、一晩培養したエシェリヒア・コリWC196株を、アンピシリン(20mg/L)とL-アラビノース(1mM)を含んだ5mLのSOB培地(Sambrook, J., Fritsch, E. F., and Maniatis, T. 1989. Molecular Cloning A Laboratory Manual/Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)で100倍希釈した。得られた希釈物を30℃で通気しながらOD600が約0.6になるまで生育させた後、100倍に濃縮し、10%グリセロールで3回洗浄することによってエレクトロポレーションに使用できるようにした。エレクトロポレーションは70μLのコンピテントセルと約100ngのPCR産物を用いて行った。エレクトロポレーション後のセルは1mLのSOC培地(モSambrook, J., Fritsch, E. F., and Maniatis, T. 1989. Molecular Cloning A Laboratory Manual/Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)を加えて37℃で2.5時間培養した後、37℃でCm(クロラムフェニコール)(25mg/L)を含むL寒天培地上で平板培養し、Cm耐性組換え体を選択した。次に、pKD46プラスミドを除去するために、Cmを含むL-寒天培地上、42℃で2回継代し、得られたコロニーのアンピシリン耐性を試験し、pKD46が脱落しているアンピシリン感受性株を取得した。
クロラムフェニコール耐性遺伝子によって識別できた変異体のcadA遺伝子の欠失を、PCRによって確認した。得られたcadA欠損株をWC196ΔcadA::att-cat株と名づけた。
次に、cadA遺伝子内に導入されたatt-cat遺伝子を除去するために、ヘルパープラスミド上述のpMW-intxis-ts(特開2005-058227)を使用した。pMW-intxis-tsは、λファージのインテグラーゼ(Int)をコードする遺伝子、エクシジョナーゼ(Xis)をコードする遺伝子を搭載し、温度感受性の複製能を有するプラスミドである。
上記で得られたWC196ΔcadA::att-cat株のコンピテントセルを常法に従って作製し、ヘルパープラスミドpMW-intxis-tsにて形質転換し、30℃で50 mg/Lのアンピシリンを含むL-寒天培地上にて平板培養し、アンピシリン耐性株を選択した。
次に、pMW-intxis-tsプラスミドを除去するために、L-寒天培地上、42℃で2回継代し、得られたコロニーのアンピシリン耐性、及びクロラムフェニコール耐性を試験し、att-cat及びpMW-intxis-tsが脱落しているcadA破壊株であるクロラムフェニコール、アンピシリン感受性株を取得した。この株をWC196ΔcadAと名づけた。
<2-3>WC196ΔcadA 株のldcC遺伝子の欠失
WC196ΔcadA 株におけるldcC遺伝子の欠失は、上記手法に則って、ldcC破壊用プライマーとして、配列番号3、4のプライマーを使用して行った。これによって、cadA ldcC破壊株であるWC196ΔcadAΔldcCを得た。
<2-4>WC196ΔcadAΔldcC株へのリジン生産用プラスミド導入
WC196ΔcadAΔldcC株をdapA、dapB、lysC及びddh遺伝子を搭載したリジン生産用プラスミドpCABD2(WO95/16042)で常法に従い形質転換し、WC196ΔcadAΔldcC/pCABD2株(WC196LC/pCABD2)を得た。
上記で作製した株を25 mg/Lのストレプトマイシンを含むLB培地にてOD600が約0.6となるまで37℃にて培養した後、培養液と等量の40%グリセロール溶液を加えて攪拌した後、適当量ずつ分注、-80℃に保存し、グリセロールストックとした。
[実施例3]エシェリヒア属細菌L-リジン生産株の培養
WC196LC/pCABD2株のグリセロールストックを融解し、各100 μLを、25 mg/Lのストレプトマイシンを含むLプレートに均一に塗布し、37℃にて24時間培養した。得られたプレートのおよそ1/8量の菌体を、500 mL容坂口フラスコの、25 mg/Lのストレプトマイシンを含む以下に記載の発酵培地の20 mLに接種し、往復振とう培養装置で37℃において48時間培養した。本培養における炭素源としては、オレイン酸ナトリウム、あるいは、オレイン酸ナトリウムとパルミチン酸ナトリウムの混合物を、非イオン性界面活性剤であるポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノオレイン酸エステル(Tween 80)(ナカライテスク社製)の添加と非添加にて溶解したものを用いた。総炭素源量はいずれも20g/Lとした。培養に用いた培地組成を以下に示す。
[エシェリヒア属細菌 L-リジン生産培地]
炭素源 20g/L
(NH4)2SO4 24g/L
KH2PO4 1g/L
MgSO4・7H2O 1g/L
FeSO4・7H2O 0.01g/L
MnSO4・7H2O 0.01g/L
Yeast Extract 2g/L
CaCO3(日本薬局方) 30g/L
KOHでpH7.0に調整し、120℃で20分オートクレーブを行なった。但し、炭素源とMgSO4・7H2Oはそれぞれ別殺菌した後、混合した。CaCO3は乾熱滅菌後に添加した。
24時間後と48時間後に、培養上清のL-リジンの量をバイオテックアナライザーAS210(サクラ精機)により測定した。生育度を濁度(OD)にて測定することが不可能であるため、適当な希釈を行った培養液をLBプレートに塗布して生菌数を測定した。2本ずつ行った培養の結果の平均値を表2に示す。
本培養条件では、オレイン酸を炭素源とした場合に、L-リジン生産が認められ、Tween
80を添加することにより、その蓄積量は顕著に増大した。さらに、オレイン酸にパルミチン酸を等量混合した炭素源においては、L-リジンの蓄積量はオレイン酸単独の炭素源の場合に比して著しく増加し、Tween 80の添加によりさらに増加が認められた。
Figure 0005303918
[実施例4]エシェリヒア属細菌L-リジン生産株の超音波処理による培養
WC196LC/pCABD2株のグリセロールストックを融解し、各100 μLを、25 mg/Lのストレプトマイシンを含むLプレートに均一に塗布し、37℃にて24時間培養した。得られたプレートのおよそ1/8量の菌体を、500 mL容坂口フラスコの、25 mg/Lのストレプトマイシンを含む以下に記載の発酵培地の20 mLに接種し、往復振とう培養装置で37℃において48時間培養した。本培養における炭素源としては、オレイン酸ナトリウム、あるいは、オレイン酸ナトリウムとパルミチン酸ナトリウムの混合物を、界面活性剤Tween 80の添加と非添加にて溶解し、超音波処理(シャープ社製UT-250にて5分間)を行ったものを用いた。総炭素源量はいずれも20g/Lとした。培養に用いた培地組成を以下に示す。
[エシェリヒア属細菌 L-リジン生産培地]
炭素源 20g/L
(NH4)2SO4 24g/L
KH2PO4 1g/L
MgSO4・7H2O 1g/L
FeSO4・7H2O 0.01g/L
MnSO4・7H2O 0.01g/L
Yeast Extract 2g/L
CaCO3(日本薬局方) 30g/L
KOHでpH7.0に調整し、120℃で20分オートクレーブを行なった。但し、炭素源とMgSO4・7H2Oはそれぞれ別殺菌した後、混合した。CaCO3は乾熱滅菌後に添加した。
24時間後と48時間後に、培養上清のL-リジンの量をバイオテックアナライザーAS210(サクラ精機)により測定した。生育度を濁度(OD)にて測定することが不可能であるため、適当な希釈を行った培養液をLBプレートに塗布して生菌数を測定した。2本ずつ行った培養の結果の平均値を表3に示す。
本培養条件は、表2における培養条件に超音波処理を加えてあるだけであり、表2と比較することによりその効果を検証できる。オレイン酸を炭素源とした場合には、Tween 80を添加、非添加いずれにおいてもL-リジン生産は超音波処理により著しく増加した。さらに、オレイン酸にパルミチン酸を等量混合した炭素源においては、Tween 80非添加においては、L-リジンの蓄積量は低下が認められたが、Tween 80添加条件ではL-リジン蓄積量
の増加が認められた。
Figure 0005303918
[実施例5]エシェリヒア属細菌L-リジン生産株の界面活性剤添加による培養
WC196LC/pCABD2株のグリセロールストックを融解し、各100 μLを、25 mg/Lのストレプトマイシンを含むLプレートに均一に塗布し、37℃にて24時間培養した。得られたプレートのおよそ1/8量の菌体を、500 mL容坂口フラスコの、25 mg/Lのストレプトマイシンを含む以下に記載の発酵培地の20 mLに接種し、往復振とう培養装置で37℃において48時間培養した。本培養における炭素源としては、オレイン酸ナトリウム、あるいは、オレイン酸ナトリウムとパルミチン酸ナトリウムの混合物に対して、非添加、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノオレイン酸エステル(Tween 80)添加、アルキルグルコシドの1種であるn-オクチルβ-D-グルコシド(Octyl-Glucoside)(ナカライテスク社製)添加、あるいは、両性イオン界面活性剤アルキルベタインの1種であるであるN,N-ジメチル-N-ドデシルグリシンベタイン(製品名EMPIGEN BB)(Fluka社製)添加の条件にて溶解した。総炭素源量はいずれも20g/Lとした。培養に用いた培地組成を以下に示す。
[エシェリヒア属細菌 L-リジン生産培地]
炭素源 20g/L
(NH4)2SO4 24g/L
KH2PO4 1g/L
MgSO4・7H2O 1g/L
FeSO4・7H2O 0.01g/L
MnSO4・7H2O 0.01g/L
Yeast Extract 2g/L
CaCO3(日本薬局方) 30g/L
KOHでpH7.0に調整し、120℃で20分オートクレーブを行なった。但し、炭素源とMgSO4・7H2Oは別殺菌した後、混合した。CaCO3は乾熱滅菌後に添加した。
24時間後と48時間後に、培養上清のL-リジンの量をバイオテックアナライザーAS210(サクラ精機)により測定した。生育度を濁度(OD)にて測定することが不可能であるため、適当な希釈を行った培養液をLBプレートに塗布して生菌数を測定した。2本ずつ行った培養の結果の平均値を表4に示す。
オレイン酸を炭素源とした場合、オレイン酸にパルミチン酸を等量混合した炭素源にした場合、いずれにおいてもTween 80、Octyl-Glucoside、EMPIGEN BB の全ての界面活性剤添加において非添加よりも高いL-リジン生産が認められた。
Figure 0005303918
[実施例6]エシェリヒア属細菌L-リジン生産株の混合脂肪酸による培養
WC196LC/pCABD2株のグリセロールストックを融解し、各100 μLを、25 mg/Lのストレプトマイシンを含むLプレートに均一に塗布し、37℃にて24時間培養した。得られたプレートのおよそ1/8量の菌体を、500 mL容坂口フラスコの、25 mg/Lのストレプトマイシンを含む以下に記載の発酵培地の20 mLに接種し、往復振とう培養装置で37℃において48時間培養した。本培養における炭素源としては、オレイン酸ナトリウムに対するパルミチン酸ナトリウムの混合比を変えた混合物を、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノオレイン酸エステル(Tween 80)(ナカライテスク社製)を添加して溶解したものを用いた。総炭素源量はいずれも20g/Lとした。培養に用いた培地組成を以下に示す。
[エシェリヒア属細菌 L-リジン生産培地]
炭素源 20g/L
Tween 80 5.0 g/L
(NH4)2SO4 24g/L
KH2PO4 1g/L
MgSO4・7H2O 1g/L
FeSO4・7H2O 0.01g/L
MnSO4・7H2O 0.01g/L
Yeast Extract 2g/L
CaCO3(日本薬局方) 30g/L
KOHでpH7.0に調整し、120℃で20分オートクレーブを行なった。但し、炭素源とMgSO4・7H
2Oはそれぞれ別殺菌した後、混合した。CaCO3は乾熱滅菌後に添加した。
24時間後と48時間後に、培養上清のL-リジンの量をバイオテックアナライザーAS210(サクラ精機)により測定した。生育度を濁度(OD)にて測定することが不可能であるため、適当な希釈を行った培養液をLBプレートに塗布して生菌数を測定した。2本ずつ行った培養の結果の平均値を表5に示す。
本培養条件では、オレイン酸に対するパルミチン酸の混合比を上げていくことで、L-リジン蓄積の増大が認められた。ただし、オレイン酸1に対しパルミチン酸を1.5混合した炭素源においては、L-リジンの蓄積量は著しく減少した。このことからアミノ酸生産に適正なオレイン酸とパルミチン酸の混合比は、1:1.22までであることが判明した。
Figure 0005303918
〔実施例7〕エシェリヒア属細菌L-スレオニン生産株の各種脂肪酸を炭素源とした培養
L-スレオニン生産菌であるエシェリヒア・コリ B-5318を、ストレプトマイシン硫酸塩20mg/Lを含有するLB寒天培地(トリプトン10g/L、酵母エキス5g/L、NaCl 10g/L、寒天15g/L)にて37℃で24時間培養した。寒天培地上の細胞を掻き取り、本培養培地20mLを入れた500mL容のバッフル付フラスコに植菌し、培養温度40℃にて、48時間培養を行った。本培養においては、炭素源となる各種脂肪酸液を80℃程度の水に20g/Lとなるように溶かした。リノール酸に対しては、3N NaOHでpHを10まで上昇させた。ポアサイズ0.2μmのフィルターにて滅菌したTween 80を終濃度1%となるように添加した。この後、ホモジナイザー(Polytron社製PT3100)による乳化処理を10,000rpmで10min行い、pHを7に調製した後、110℃で10分オートクレーブを行なったものを炭素源溶液として用いた。培養に用いた培地組成を以下に示す。
[本培養培地組成]
炭素源 10g/L
Tween 80 5.0 g/L
(NH4)2SO4 16g/L
KH2PO4 1g/L
MgSO4・7H2O 1g/L
FeSO4・7H2O 0.01g/L
MnSO4・4H2O 0.01g/L
Yeast Extract 2g/L
PIPES (pH7.0) 20g/L
KOHでpH7.0に調整し、110℃で10分オートクレーブを行なった。但し、炭素源、MgSO4・7H2O、PIPES緩衝液(pH7.0)は、それぞれ別殺菌した後、混合した。
48時間後、培養上清を液体クロマトグラフィーにより分析することによりL-スレオニン量の測定を行った。本培地では生育度は、培養液を等量の10% Tween 80溶液と混合し、濁度(OD)を測定した。2本ずつ行った培養の結果の平均値を表6に示す。
本培養では、いずれの脂肪酸を炭素源としてもL-スレオニン生産が認められた。特に、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸では良好なL-スレオニン生産を認めた。
Figure 0005303918
[実施例8]エシェリヒア属細菌L-リジン生産株の各種脂肪酸を炭素源とした培養
WC196LC/pCABD2株のグリセロールストックを融解し、各50 μLを、25 mg/Lのストレプトマイシンを含むLプレートに均一に塗布し、37℃にて24時間培養した。得られたプレートのおよそ1/4量の菌体を、500mL容のバッフル付フラスコの、25 mg/Lのストレプトマイシンを含む以下に記載の発酵培地の20 mLに接種し、往復振とう培養装置で37℃において48時間培養した。本培養においては、炭素源となる各種脂肪酸液を80℃程度の水に20g/Lとなるように溶かした。リノール酸に対しては、3N NaOHでpHを10.5まで上昇させた。ポアサイズ0.2μmのフィルターにて滅菌したTween 80を終濃度1%となるように添加した。この後、ホモジナイザー(Polytron社製PT3100)による乳化処理を10,000rpmで10min行い、pHを7に調製した後、110℃で10分オートクレーブを行なったものを炭素源溶液として用いた。培養に用いた培地組成を以下に示す。また、対照として同濃度のグルコースを添加して培養を実施した。
[エシェリヒア属細菌 L-リジン生産培地]
脂肪酸 あるいはグルコース 10g/L
Tween 80(脂肪酸に添加) 5g/L
(NH4)2SO4 24g/L
KH2PO4 1.0g/L
MgSO4・7H2O 1.0g/L
FeSO4・7H2O 0.01g/L
MnSO4・7H2O 0.01g/L
Yeast Extract 2.0g/L
PIPES (pH7.0) 20g/L
KOHでpH7.0に調整し、110℃で10分オートクレーブを行なった。但し、炭素源、MgSO4・7H2O、PIPES緩衝液(pH7.0)は、それぞれ別殺菌した後、混合した。
48時間後に、培養上清のL-リジンの量をバイオテックアナライザーAS210(サクラ精機)により測定した。本培地では生育度は、培養液を等量の10% Tween 80溶液と混合し、濁度(OD600)を測定した。2本ずつ行った培養の結果の平均値を表7に示す。
いずれの脂肪酸を炭素源としてもL-リジン生産が認められ、特にミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸では良好なL-リジン生産を認め、グルコースと比較しても遜色のないL-リジン蓄積であった。
Figure 0005303918
〔配列表の説明〕
配列番号1:cadA遺伝子破壊用PCRプライマー
配列番号2:cadA遺伝子破壊用PCRプライマー
配列番号3:ldcC遺伝子破壊用PCRプライマー
配列番号4:ldcC遺伝子破壊用PCRプライマー
配列番号5:cadA遺伝子の塩基配列
配列番号6:cadA遺伝子によってコードされるアミノ酸配列
配列番号7:ldcC遺伝子の塩基配列
配列番号8:ldcC遺伝子によってコードされるアミノ酸配列

Claims (8)

  1. エシェリヒア属に属し、L−アミノ酸生産能を有する細菌を、乳化処理された脂肪酸を含む培地に培養し、培地または菌体内にL−アミノ酸を生産蓄積させ、該培地または菌体からL−アミノ酸を採取することを特徴とするL−アミノ酸の製造方法であって、前記脂肪酸がミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、およびオレイン酸から選ばれる1種類以上の脂肪酸を含むことを特徴とする、L−アミノ酸の製造方法
  2. 前記培地が脂肪酸を0.2〜10w/v%含む、請求項に記載の方法。
  3. 前記培地がさらに脂肪酸以外の炭素源を含む、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記脂肪酸の乳化処理が界面活性剤添加、ホモジナイザー処理、および超音波処理から選ばれる1種類以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記脂肪酸の乳化処理が、界面活性剤を含むアルカリ条件下での、ホモジナイザー処理および/または超音波処理である請求項に記載の方法。
  6. 前記L-アミノ酸が、L-スレオニン、L-リジン、L-フェニルアラニン、L-トリプトファン、L-バリン、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-メチオニンから選択される1種以上のアミノ酸である請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
  7. 前記L-アミノ酸が、L-スレオニンおよびL-リジンから選択される1種以上のアミノ酸である請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
  8. 前記細菌がエシェリヒア・コリである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
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