<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の実施形態に係る冷却装置の制御装置を含む、エンジンシステム10の構成について説明する。ここに、図1は、エンジンシステム10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
図1において、エンジンシステム10は、車両に搭載され、ECU(Electronic Control Unit)100、エンジン200及び冷却部300を備える。
ECU100は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、エンジンシステム10の動作全体を制御することが可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「第1温度特定手段」、「第2温度特定手段」、「水圧特定手段」、「停止禁止手段」及び「補正手段特定手段」の夫々一例として機能するように構成されている。尚、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的、機構的又は電気的な構成は、当該手段に係る機能を実現可能な限りにおいてハードウェア的に一体に構成されたECU100に限定されない。例えば相互に異なるハードウェア構成を採ってもよいし、その他の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採ってもよい。
ECU100は、本発明に係る「内燃機関の冷却装置の制御装置」の一例を構成しており、例えばROMに格納された制御用のプログラムに従って、後述する沸騰基準温度補正処理を実行することが可能に構成される。
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例を構成し、例えば複数の気筒を有する。例えば、これら複数の気筒の各々に対して、次に詳述する如き冷却水通路或いは冷却水循環路を通過する冷却水による冷却又は暖機が実行される。
冷却部300は、冷却水循環路310、電動WP320、ラジエータ330、サーモスタット340、ヒータコア350及び排気熱回収器360を含んで構成された、本発明に係る「冷却装置」の一例である。
冷却水循環路310は、エンジン200のシリンダブロック周囲に張り巡らされたウォータジャケットを含み、電動WP320によって適宜に吐出される冷却水の供給経路を規定する、例えば金属製或いは樹脂製の配管である。冷却水循環路310の一部が、シリンダブロックの肉厚部内を通過するように構成されてもよい。
冷却水循環路310は、エンジン冷却循環路310a、ラジエータバイパス路310b及び排気冷却路310cを含んで構成される。
エンジン冷却循環路310aは、冷却水を電動WP320、エンジン200(主として、ウォータジャケット)、ラジエータ330及びサーモスタット340を順次経由させて、電動WP320に還流させるように構成されている。エンジン冷却循環路310aを通過する冷却水とエンジン200との間で熱交換が行われることで、エンジン200の冷却又は暖機が行われる。
尚、本発明に係る「冷却装置」の物理的、機械的、機構的又は電気的な構成は、内燃機関を冷却可能である限りにおいて、ここに例示されるエンジン冷却循環路310aに限定されず、各種の態様を有してよい。
ラジエータバイパス路310bは、ラジエータ330よりも上流側においてエンジン冷却循環路310aから分岐してサーモスタット340に至るように構成されている。
排気冷却路310cは、エンジン冷却循環路310aをエンジン200のウォータジャケットよりも下流側から分岐して、ヒータコア350及び排気熱回収器360を順次通過した後の冷却水を、サーモスタット340において再びエンジン冷却循環路310aに合流させるように構成されている。
電動WP320は、例えば渦巻き式の電気駆動ポンプであり、本発明に係る「電動ウォーターポンプ」の一例である。電動WP320は、例えばモータの回転力によって冷却水を吸引し、当該モータの回転速度に応じた量の冷却水を吐出することで、冷却水を冷却水循環路310内で循環させることが可能に構成されている。
尚、本発明に係る「電動ウォーターポンプ」の物理的、機械的、機構的又は電気的な構成は、冷却水を循環させることが可能である限りにおいて、特に限定されず各種の態様を有してよい。例えば、本実施形態における電動WP320は、エンジン200の機関回転から独立して冷却水を供給可能に構成されてもよい。補足すれば、ここで「エンジン200の機関回転から独立して」とは、例えばエンジン200のクランクシャフトの回転状態に応じて回転状態が一義的に定まり得ないことを指す概念であり、エンジン200の機関回転に影響されることなく冷却水の供給量が制御され得ることを指す。
本発明に係る「電動ウォーターポンプ」の構成は、必ずしも電動駆動式に限定されず多種多様であってよい。例えばクランクシャフトと連結され、クランクシャフトの回転駆動力の一部を利用して回転可能であると共に、クランクシャフトの回転速度を、例えばクラッチ等、物理的な係合手段における係合力を二値的に、段階的に又は連続的に可変に制御することにより夫々二値的に、段階的に又は連続的に制御することが可能に構成された機械式のポンプ等であってもよい。
電動WP320が、上述した係合手段に如く係合力を変更可能な態様を有する場合、冷却水の供給量(即ち、吐出量)は、実質的にエンジン200の機関状態に影響され難く、その制御上の自由度は相応に高くなる。このため、極端な場合エンジン200が停止していたとしても駆動可能であり、好適である。
電動WP320は、例えば、モータが、電力供給源(例えば、車載用12Vバッテリ、或いは他のバッテリ)等から電力の供給を受け、モータ駆動系を介して供給される制御電圧(又は電流)のデューティ比に応じて、その回転速度が増減制御される構成を有する。このようなモータの駆動系は、ECU100と電気的に接続された状態にあり、ECU100によって上述したデューティ比を含む動作状態が制御される構成を有する。即ち、電動WP320は、ECU100によってその動作状態が制御される構成を有する。
電動WP320では、例えば、このような電力供給源及びモータ駆動系を介して供給される電力、電圧若しくは電流、又はそれらに対応するデューティ比等の各種制御量が、例えば機関回転数若しくは負荷或いはその両方等、エンジン200の各種運転条件に応じて制御される。これによって、或いは回転センサ等により検出されるモータ回転数等をこれら各種制御量にフィードバックすることによって、電動WP320では、モータ回転数、モータ回転速度又はポンプ回転速度等を目標とする値に正確に且つ容易に制御することが可能となる。
ラジエータ330は、エンジン冷却循環路310aに設置され、ウォータパイプが複数配列されてなる。ウォータパイプの外周に多数の波板状のフィンを備え、ウォータパイプ内を冷却水が流れる際に、フィンを介した大気との熱交換により、即ち冷却水の熱を外界に放熱することによって、冷却水を相対的に冷却することが可能に構成されている。従って、ラジエータ330を通過した後の冷却水は、ラジエータ330に流入する前の冷却水と較べて、その温度が低下した状態となる。
サーモスタット340は、電動WPに流入する冷却水の水温たる「原始冷却水温度」を安定せしめるために設けられた温度調節手段の一例である。サーモスタット340の内部には、前述したエンジン冷却循環路310aとラジエータバイパス路310bとの連通状態を制御するための制御弁が設けられている。サーモスタット340は、この制御弁が開弁状態にある場合に、エンジン冷却循環路310aを介してラジエータ330を通過した後の冷却水を、電動WP320に還流させることが可能に構成されている。サーモスタット340は、ECU100と電気的に接続されており、制御弁の開閉状態は、ECU100により制御されるように構成されている。本実施形態は、原始冷却水温度が一定の基準温度に到達した場合に、冷却水がラジエータ330での放熱に供されるように、ECU100により制御弁の弁体が駆動制御される構成を有する。
サーモスタット340は、エンジン冷却循環路310aとラジエータバイパス路310bとの連通状態を制御する制御弁の他に、ラジエータバイパス路310bと排気冷却路310cとの連通状態を制御する制御弁を有し、いずれか一方の制御弁が開弁状態に制御される構成を有していてもよい。或いは更に、そのような複数の制御弁の代わりに三方弁を備え、上述した制御弁の動作の同等の動作が実現されてもよい。即ち、ラジエータ330によって冷却水を電動WP320に供する場合、排気冷却路310cが併用されてもよいし、排気冷却路310cの使用が停止されてもよい。
ヒータコア350は、車両のキャビン内を暖房するための暖房装置の熱源として機能するように構成されている。ヒータコア350は、冷却水循環路310の排気冷却路310c上に設置されており、排気冷却路310cに供給される冷却水との熱交換を行うことが可能に構成されている。一方、ヒータコア350は、車両の空調ダクトと連通しており、空調ダクト内に吸引された空気を、冷却水との熱交換により取得した熱により昇温することが可能に構成されている。
排気熱回収器360は、排気冷却路310cに設置され、内燃機関200の排気管内に導かれる高温の排気ガスから排気熱を回収する、即ち冷却水によって当該排気ガスを冷却することが可能に構成されている。
より具体的には、排気熱回収器360は、好適な一例として、蓄熱材としてのステンレス鋼製のマトリクス部材(或いはメッシュ部材)が複数積層された構成を有しており、排気管を取り囲むように設けられている。排気ガスがこのマトリクス部材を通過する際に、内燃機関200から排出された排気ガスと排気熱回収器360に導かれる冷却水との間で熱交換が行われることによって、排気ガスからの熱伝達を介して排気熱の少なくとも一部が奪われ、即ち排気ガスが冷却されることが可能となる。
排気熱回収器360には排気ガスの流れを変化させる調整弁が設けられてもよい。この調整弁を適宜操作することにより、排気ガスと冷却水との熱交換具合が調整され、排気ガスから回収する熱量を調整することができる。
尚、本実施形態に係る「冷却装置」は、エンジン200から排出された排気を冷却可能である限りにおいて、ここに例示される排気熱回収器360に限定されず、各種の態様を有してよい。
ここで「排気を冷却する」とは、例えば排気ポート、排気マニホールド、及びこれらよりも下流に位置する排気管等各種の部位を包括する概念としての排気系に導かれる排気から排気熱の一部を奪うことを少なくとも含む。好適な一形態としては、この奪った排気熱の少なくとも一部を、例えば何らかの蓄熱手段等を介して一時的に蓄熱した後に、又はこのような蓄熱のプロセスを経ることなく直接的に、冷却水との間で空間輻射や物理的な熱伝達等を含む概念としての熱交換を行うこと等により当該冷却水に付与すること等も含む。更にはこのように奪った排気熱を例えば機械的なエネルギに変換することや、ヒートポンプ或いは熱電変換モジュール等を介して電気エネルギに変換すること等を含む。このように「排気を冷却する」とは各種形態を含む広い概念である。係る概念を満たし得る限りにおいて、本実施形態に係る「冷却装置」の物理的、機械的、機構的、電気的又は化学的な構成は何ら限定されず多種多様であってよい。
エンジン冷却循環路310aには、エンジン200よりも下流側においてエンジン200を冷却した後の冷却水の水温たるエンジン側冷却水温度Thw1を検出可能なエンジン側冷却水温センサ370が設置されている。エンジン側冷却水温センサ370は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたエンジン側冷却水温度Thw1は、ECU100により一定又は不定のタイミングで参照されるように構成されている。エンジン側冷却水温度Thw1は、本発明に係る「第1冷却水温度」の一例である。
排気冷却路310cには、排気熱回収器360よりも下流側において、排気熱回収器360によって排気ガスを冷却した後の冷却水の水温たる排気側冷却水温度Thw2を検出可能な排気側冷却水温センサ380が設置されている。排気側冷却水温センサ380は、ECU100と電気的に接続されており、検出された排気側冷却水温度Thw2は、ECU100により一定又は不定のタイミングで参照されるように構成されている。排気側冷却水温度Thw2は、本発明に係る「第2冷却水温度」の一例である。
エンジン冷却循環路310aには、電動WP320の出口側において、冷却水循環路310における冷却水の系統水圧Pwを検出可能な水圧センサ390が設置されている。水圧センサ390は、ECU100と電気的に接続されており、検出された系統水圧Pwは、ECU100により一定又は不定のタイミングで参照されるように構成されている。系統水圧Pwは、本発明に係る「冷却水の水圧」の一例である。
<実施形態の動作>
<沸騰基準温度補正処理の概要>
エンジンシステム10において、ECU100は、電動WP320が停止している際に、その停止状態を禁止又は維持させるように制御する(以下、適宜「電動WP停止制御」と称する)ことによって、冷却水循環路310における冷却水の温度の調節を実現可能な構成を有する。この電動WP停止制御により、冷却水の温度が沸騰しない且つ高水温の温度領域に維持され、更に冷却水の沸騰の回避と燃費の低減との両立を図ることが可能となる。
より具体的には、本実施形態の電動WP停止制御において、ECU100は、電動WP320が停止している際に、冷却水温度と予め設定された基準値との比較によって、冷却水が沸騰状態にあるか否かを判別する。更に、判別された冷却水の沸騰状態に応じて、電動WP320の停止を禁止又は維持させる。
一方、電動WP停止制御を実現するにあたっては、上述の通り冷却水の沸騰状態を高精度に判別することが前提となる。例えば車両及びエンジン200の個体の差別或いは冷却水の種類など各種要因によって、冷却水温度と予め設定された基準値との比較による冷却水の沸騰状態を、誤判別してしまう可能性がある。そこで、エンジンシステム10では、ECU100により実行される沸騰基準温度補正処理によって、電動WP320が停止している際に、冷却水が沸騰状態にあるか否かが迅速且つ正確に判別される。
<沸騰基準温度補正処理の詳細>
ここで、図2を参照し、沸騰基準温度補正処理の詳細について説明する。ここに、図2は、沸騰基準温度補正処理のフローチャートである。
図2において、先ず、ECU100は、先に述べたエンジン側冷却水温センサ370及び排気側冷却水温センサ380によって、エンジン側冷却水温度Thw1及び排気側冷却水温度Thw2を取得する(ステップS101)。ステップS101に係る制御は、本発明に係る「第1温度特定手段」及び「第2温度特定手段」として機能するECU100の動作の一例である。
このようなステップS101及び後述するステップS106の取得は、冷却水の温度及び水圧に関する、本発明における「特定」の一例である。ここで、本発明に係る「特定」とは、例えば、何らかの検出手段を介して直接的に又は間接的に物理的数値又は物理的数値に対応する例えば電気信号等として検出すること、予め然るべき記憶手段等に記憶されたマップ等から該当する数値を選択する又はそのような選択を介して推定すること、それら検出された物理的数値若しくは電気信号又は選択若しくは推定された数値等から、予め設定されたアルゴリズムや計算式等に従って導出又は推定すること、或いはこのように検出、選択、推定又は導出された値等を単に電気信号等として取得すること等を包括する広い概念である。従って、本発明に係る「第1冷却水温度」、「第2冷却水温度」及び「冷却水の水圧」を取得する態様は、本実施形態のものに限定されない。
次に、ECU100は、先に述べた沸騰基準温度たるエンジン側沸騰基準温度Tlim1及び排気側沸騰基準温度Tlim2を推定する(ステップS102)。エンジン側沸騰基準温度Tlim1は、本発明に係る「第1沸騰基準温度」の一例であり、排気側沸騰基準温度Tlim2は、本発明に係る「第2沸騰基準温度」の一例である。
図3に示されるように、本実施形態におけるエンジン側沸騰基準温度Tlim1及び排気側沸騰基準温度Tlim2は、予めECU100により参照可能な状態でROMに格納されている。ここに、図3は、エンジン200の出力条件と、エンジン側沸騰基準温度Tlim1及び排気冷側沸騰基準温度Tlim2夫々とを対応付けてなる沸騰基準温度マップの模式図である。図示する沸騰基準温度マップは説明を分かり易くするための模式図であり、沸騰基準温度マップマップは、実際には、図3に示された関係が数値化された状態でROMに格納されている。
係る沸騰基準温度マップには、エンジン200の出力条件、例えばエンジン回転速度或いはエンジントルク等をパラメータとして沸騰基準温度が設定されている。但し、このような沸騰基準温度の推定態様は一例に過ぎず、ECU100は、予め実験的に、経験的に、理論的に、又はシミュレーション等を用いて、例えば沸騰基準温度を実践上不足なく推定し得るように定められた演算式に、適宜その時点のエンジン回転速度或いはエンジントルク等を代入することにより、その都度個別具体的に沸騰基準温度を算出してもよい。
エンジン側沸騰基準温度Tlim1及び排気側沸騰基準温度Tlim2が推定されると、ECU100は、エンジン側冷却水温度Thw1がエンジン側沸騰基準温度Tlim1よりも高いか否かを判別する(ステップS103)。ここでエンジン側沸騰基準温度Tlim1は、何らかの理由で偶発的に生じ得るエンジン側の冷却水の沸騰は許容するとして、明らかにエンジン側の冷却水が沸騰状態にあるか否かを判別し得る適合値として設定されている。即ち、エンジン側冷却水温度Thw1がエンジン側沸騰基準温度Tlim1よりも高い場合には、エンジン側の冷却水が、沸騰状態にあるとの判別が可能である。ここで、「沸騰状態」とは、無論、現時点で既に冷却水循環路310における冷却水の漏れが生じていることを含むものの、どちらかと言えば、この種の冷却水の沸騰によって冷却水の漏れが生じる可能性が実践上看過し難い程度に高いと推定され得る状態を指す。
ステップS103において、エンジン側冷却水温度Thw1がエンジン側沸騰基準温度Tlim1よりも高い場合(ステップS103:YES)、ECU100は、冷却水が沸騰状態にあるものとして、電動WP320の停止を禁止する(ステップS104)。即ち、電動WP320による冷却水の循環が、続行されるか又は開始される。ステップS104に係る制御は、本発明に係る「停止禁止手段」として機能するECU100の動作の一例である。このように、電動ウォーターポンプの停止が禁止されることで、冷却水の沸騰が迅速に且つ確実に回避されることが可能となる。
一方、エンジン側冷却水温度Thw1がエンジン側沸騰基準温度Tlim1以下である場合(ステップS103:NO)、ECU100は、冷却水が沸騰状態にないものとして、電動WP320を停止状態に維持し、処理をステップS105に移行させる。
ステップS105において、ECU100は、排気側冷却水温度Thw2が排気側沸騰基準温度Tlim2よりも高いか否かを判別する。ここで排気側沸騰基準温度Tlim2は、エンジン側沸騰基準温度Tlim1と同様、何らかの理由で偶発的に生じ得る排気側の冷却水の沸騰は許容するとして、明らかに排気側の冷却水が沸騰状態にあるか否かを判別し得る適合値として設定されている。即ち、排気側冷却水温度Thw2が排気側沸騰基準温度Tlim2よりも高い場合には、排気側の冷却水が、沸騰状態にあるとの判別が可能である。
排気側冷却水温度Thw2が排気側沸騰基準温度Tlim2よりも高い場合(ステップS105:YES)、ECU100は、冷却水が沸騰状態にあるものとして、電動WP320の停止を禁止する(ステップS104)。
他方、排気側冷却水温度Thw2が排気側沸騰基準温度Tlim2以下である場合(ステップS105:NO)、ECU100は、冷却水が沸騰状態にないものとして、電動WP320を停止状態に維持し又は電動WP320を停止し、処理をステップS106に移行させる。
ステップS106において、ECU100は、先に述べた水圧センサ390によって、冷却水循環路310における冷却水の系統水圧Pwを取得する。ステップS106に係る制御は、本発明に係る「水圧特定手段」として機能するECU100の動作の一例である。
系統水圧Pwが取得されると、ECU100は、取得された系統水圧Pwが基準値Aよりも大きいか否かを判別する(ステップS107)。ここで、基準値Aは、明らかに冷却水が沸騰状態にあるか否かを判別し得る適合値として設定されており、本発明に係る「圧力閾値」の一例たる実験的な適合値である。即ち、系統水圧Pwが基準値Aより大きい場合に、冷却水循環路310における冷却水が沸騰状態にあるとの判別が可能となる。基準値Aは、ECU100により参照可能な状態で予めROMに格納されている。
系統水圧Pwが基準値Aよりも大きい場合(ステップS107:YES)、ECU100は、エンジン側沸騰基準温度Tlim1からエンジン側冷却水温度Thw1を減じてなる差分値ΔT1(即ち、Tlim1−Thw1である)及び排気側沸騰基準温度Tlim2から排気側冷却水温度Thw2を減じてなる差分値ΔT2(即ち、Tlim2−Thw2である)を算出すると共に、算出された差分値ΔT1が差分値ΔT2よりも大きいか否かを判別する(ステップS108)。
図4に示されるように、算出された差分値ΔT1が差分値ΔT2よりも大きい場合(ステップS108:YES)、ECU100は、排気側の冷却水が沸騰状態にあるものとして、排気側沸騰基準温度Tlim2を低温側に更新する(ステップS109)。即ち、ECU100は、排気側沸騰基準温度Tlim2から補正量2を減じることにより、排気側沸騰基準温度Tlim2を補正すると共に、補正された排気側沸騰基準温度Tlim2を、排気側冷却水の沸騰判別に係る基準値として更新する。
他方、算出された差分値ΔT1が差分値ΔT2以下である場合(ステップS108:NO)、ECU100は、エンジン側の冷却水が沸騰状態にあるものとして、エンジン側沸騰基準温度Tlim1を低温側に更新する(ステップS110)。即ち、ECU100は、エンジン側沸騰基準温度Tlim1から補正量1を減じることにより、エンジン側沸騰基準温度Tlim1を補正すると共に、補正されたエンジン側沸騰基準温度Tlim1を、エンジン側冷却水の沸騰判別に係る基準値として更新する。
このように、エンジン側沸騰基準温度Tlim1及び排気側沸騰基準温度Tlim2のうち、学習する必要がある一方だけが補正されるので、実践上極めて有益である。
一方、系統水圧Pwが基準値A以下である場合(ステップS107:NO)、ECU100は、エンジン側の冷却水と排気側の冷却水とが共に沸騰状態にないものとして、エンジン側沸騰基準温度Tlim1及び排気側沸騰基準温度Tlim2両方を高温側に更新する(ステップS111)。即ち、ECU100は、エンジン側沸騰基準温度Tlim1に補正量3を加えることにより、エンジン側沸騰基準温度Tlim1を補正する。これと並行して又は相前後して、排気側沸騰基準温度Tlim2に補正量4を加えることにより、排気側沸騰基準温度Tlim2を補正する。更に、補正されたエンジン側沸騰基準温度Tlim1及び排気側沸騰基準温度Tlim2を、エンジン側及び排気側の冷却水夫々の沸騰判別に係る基準値として更新する。
ステップS109、ステップS110及びステップS111に係る制御は、本発明に係る「補正手段」として機能するECU100の動作の一例である。このように、冷却水の系統水圧Pwに応じてエンジン側沸騰基準温度Tlim1及び排気側沸騰基準温度Tlim2が補正されることで、例えば車両及びエンジン200の個体の差別或いは冷却水の種類などが、冷却水の沸騰状態の判別精度に与える悪影響が緩和される。これにより、沸騰状態の判別精度が好適に担保されることが可能となり、沸騰状態判別の誤差を考慮したマージンも小さくて済む。
補正量1、補正量2、補正量3及び補正量4の態様は、特に限定されてない。各補正量は、補正用に予め設定された固定値であってもよいし、前述したエンジン側沸騰基準温度Tlim1、排気側沸騰基準温度Tlim2、エンジン側冷却水温度Thw1、排気側冷却水温度Thw2、差分値ΔT1及び差分値ΔT2等の大小に応じて可変な値であってもよく、またその値は、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等により、冷却水の沸騰状態の誤判別を可及的に防止し得るように設定されていてもよい。
エンジン側沸騰基準温度Tlim1及び排気側沸騰基準温度Tlim2が更新されると、処理はステップS103に戻される。即ち、ECU100は、エンジン側及び排気側の冷却水温度が共に沸騰基準温度より低くても、水圧に応じて沸騰基準温度を学習して、学習された沸騰基準温度に基づいて、再度冷却水の沸騰を判別する。
一旦沸騰基準温度に基づいて、冷却水が沸騰状態にあると判別されると、ステップS104において電動WP320の停止が禁止され、処理はステップS101に戻され、一連の処理が繰り返される。沸騰基準温度補正処理は、このようにして実行される。
尚、本実施形態の沸騰基準温度補正処理における「高い」及び「大きい」とは、本発明に係る「超える」の一例であり、エンジン側沸騰基準温度Tlim1、排気側沸騰基準温度Tlim2及び基準値Aなどの設定如何により容易に「以上」と置換し得る概念であり、エンジン側沸騰基準温度Tlim1、排気側沸騰基準温度Tlim2及び基準値Aなどがいずれの領域に属するかは発明の本質に影響を与えない。
このように、本実施形態における沸騰基準温度補正処理によれば、ECU100は、エンジン側冷却水温度Thw1がエンジン側沸騰基準温度Tlim1よりも高い又は排気側冷却水温度Thw2が排気側沸騰基準温度Tlim2よりも高い場合に、電動ウォーターポンプ320の停止を禁止することで、冷却水の沸騰が迅速に且つ確実に回避されることが可能となる。
また、ECU100は、エンジン側冷却水温度Thw1がエンジン側沸騰基準温度Tlim1以下であると共に、排気側冷却水温度Thw2が排気側沸騰基準温度Tlim2以下である場合に、系統水圧Pwが基準値Aよりも大きい際、エンジン側沸騰基準温度Tlim1及び排気側沸騰基準温度Tlim2のうち、対応する差分値ΔT1又は差分値ΔT2の小さい方、即ち学習する必要な一方だけが補正されるので、実践上極めて有益である。
一方、ECU100は、エンジン側冷却水温度Thw1がエンジン側沸騰基準温度Tlim1以下であると共に、排気側冷却水温度Thw2が排気側沸騰基準温度Tlim2以下である場合に、系統水圧Pwが基準値A以下である際、エンジン側沸騰基準温度Tlim1及び排気側沸騰基準温度Tlim2が共に高温側に補正される。
従って、系統水圧Pwに応じてエンジン側沸騰基準温度Tlim1及び排気側沸騰基準温度Tlim2が適切に補正されることで、例えば車両及びエンジン200の個体の差別或いは冷却水の種類などが、冷却水の沸騰状態の判別精度に与える悪影響を緩和できる。よって、沸騰状態の判別精度が好適に担保されることが可能となる。沸騰状態判別の誤差を考慮したマージンも確実に小さく済ませられる。
更に、このように冷却水の沸騰状態を高精度に判別し得ることによって、エンジンシステム10では、電動WP320の停止期間において電動WP停止制御を的確に実行可能となる。よって、この電動WP停止制御による冷却水の沸騰の回避と燃費の低減との両立に係る実践上の利益を最大限に享受することが可能となる。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関の冷却装置の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。