JP5288912B2 - 皮膚水分量の測定方法 - Google Patents

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Description

本発明は、皮膚水分量の測定方法、およびそれを用いた皮膚内部の水分分布測定方法に関する。
洗顔、入浴、化粧水塗布等の日々の行動により、皮膚内部の水分は大きく変動する。また皮膚の健康状態や、温度、湿度、風量等の生活環境によっても、皮膚内部の水分は変動する。そのため、皮膚内部の水分量を測定し、水の動態を把握することは、より優れた医薬品・化粧品・身体洗浄剤・入浴剤・食器洗浄剤・各種洗浄剤・空調設備機器・機能性衣料・機能性寝具・エステティック機器・エステティック手法、スキンケア技術等の開発を行う上で非常に有用である。
皮膚内部の水分量測定方法として、例えば非特許文献1には、ラマン分光法による皮膚内部の水分量測定方法が記載されている。しかし、従来の方法では、各種処理により皮膚内部に浸透した水分と、もともと皮膚内部に存在していた水分とを区別できない。そのため、皮膚内部での水の動態の解析には限界があった。
シュリアン エル.ザン(Shuliang L.Zhang)等著,「Microsc.Microanal.」、2005年、第11巻、第2号、pp.790−791
本発明は、ラマン分光測定法により、皮膚内部の水の動態を簡便にかつ正確に解析する方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、皮膚内部の水分分布測定方法を提供することを目的とする。
本発明者等は上記課題を解決するため、鋭意検討を行った。その結果、重水を皮膚に接触、浸透させることで、外部から浸入した水(重水)と、もともと皮膚内部に存在した水(軽水)を別々に定量でき、皮膚内部での水の動態の解析することができることを見出した。本発明はこの知見に基づきなされるに至ったものである。
本発明は、皮膚内部の水分量の測定方法であって、重水を浸透させた皮膚のラマンスペクトルを測定し、得られたラマンスペクトル中の重水の信号強度より測定する皮膚水分量の測定方法に関する。
また、本発明は、前記水分量の測定方法により、皮膚のラマンスペクトルを表面からの深さ方向及び/または水平方向に変えて測定し、皮膚内部の水分分布を測定する方法に関する。
本発明によれば、ラマン分光測定法により、皮膚内部の水の動態を簡便にかつ正確に解析する方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、皮膚内部の水分分布測定方法を提供することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の皮膚水分量の測定方法では、皮膚のラマンスペクトルを測定する。ラマンスペクトルの測定について、皮膚を採取してラマンスペクトルを測定する方法(侵襲法)や、皮膚のラマンスペクトルを直接測定する方法(非侵襲法)等が挙げられるが、直接肌の状態を測定できる非侵襲法が好ましい。ラマンスペクトルの測定においては、一般的な方法を使用することができ、特に、顕微ラマン法による測定が好ましい。
ラマンスペクトル測定装置についても特に制限はなく、通常の装置を用いることができる。水分量の測定箇所が非常に狭い場合、測定部位が非常に小さな場合でもラマンスペクトルを得ることができる共焦点光学系を有する測定装置を用いることが好ましい。
また、ラマンスペクトルの測定に用いられる光源について、波長および入射角は特に限定はない。例えば、被測定物がヒトの皮膚の場合、波長は500〜1100nmが好ましく、600〜900nmがより好ましい。皮膚表面に対する光源の入射角は0°〜60°が好ましく、0°〜30°がより好ましい。なおここでの入射角は、皮膚表面に対して垂直な法線からの角度とする。
本発明において、レーザー光入射部位の深さ方向については特に制限はない。例えば、ヒトの皮膚について測定する場合、ヒトの皮膚の表面から真皮組織までの水分量を測定するのが好ましく、レーザー光入射部位を表面から1000μmまでの範囲とするのが好ましく、表面から200μmまでの範囲とするのがより好ましい。
使用する対物レンズについて、倍率、開口数(N.A.)は特に限定はない。例えば、被測定物がヒト皮膚の場合、より高空間分解能での測定を行う場合には、倍率は40倍〜100倍、開口数は0.9〜1.5が好ましい。水平方向および深さ方向により広範囲の測定を行う場合は、倍率は10倍〜40倍、開口数は0.3〜0.9が好ましい。
本発明の測定方法における測定対象としては特に限定はなく、ヒトの皮膚の他、マウス、モルモット、ブタ、イヌ、等の動物の皮膚を対象とすることができる。また、測定部位についても特に制限はない。
本発明において、ラマンスペクトルを測定する際に、皮膚に重水を浸透させる。皮膚に浸透させる重水の量は、重水のラマンスペクトルを測定できる量であれば特に制限はない。重水の浸透方法についても特に制限はなく、重水を満たした容器を用いて皮膚に重水を接触させ浸透させる方法、重水に浸したパッチなどを皮膚に貼る方法、重水を還流させながら皮膚に接触させる方法などが挙げられる。また温度や流速の制御装置を有する重水の浸透装置を用いると、より厳密な水分量の測定を行うことが可能となるため、好ましい。
本発明において、重水を浸透させた皮膚のラマンスペクトルを測定し、ラマンスペクトル中の重水の信号強度より、皮膚内部に存在する水分量を測定する。重水と軽水は分子量、密度などが異なる。しかし、通常、重水と軽水は皮膚内部で同様の挙動を示すものである。そのため、本発明において、重水を水分量測定の指標として用いる。
本発明の方法において、重水を皮膚外部から皮膚内部に浸透させる。従って、本発明において、ラマンスペクトル中の重水由来の信号強度を測定することにより、皮膚外部から皮膚内部に浸透した水分量(浸透量)を測定することができる。
また、本発明において、ラマンスペクトル中には前記重水由来の信号の他に、軽水由来の信号も観測される。この軽水は、皮膚内部にもともと存在していたものである。従って、本発明において、ラマンスペクトル中の軽水の信号強度を測定することで、皮膚外部から浸透した水分量の他に、皮膚内部にもともと存在していた水分量も測定することができる。
測定したラマンスペクトルから皮膚水分量を測定する方法について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
皮膚の角層の主要成分は水(軽水)と蛋白質である。したがって、角層を水と蛋白質の二成分系で近似した場合、角層蛋白質に由来(主にCH伸縮振動に由来)する2900cm-1付近のラマン信号強度Iprotein、水のOH伸縮振動および蛋白質のNH伸縮振動に由来する3400cm-1付近のラマン信号強度IOH、および角層中の軽水と蛋白質の質量比RH2O/proteinの間には以下の関係が与えられる。
ここで、A及びBは、水分量既知の蛋白質のラマン測定より実験的に導出される定数である。
式(1)において、IOHおよびIproteinは以下の式で表すことができる。
前記式(1)中の第2項(切片)に相当する−Bは、軽水のOH伸縮振動由来のピークに重畳している蛋白質のNH伸縮振動由来のピークの寄与を排除するためのものである。軽水と蛋白質由来の信号強度比は第一項の傾きAに相当する。重水のOD伸縮振動由来のピークが出現する領域には、重畳する蛋白質由来の信号は存在しないため、第一項のみを考慮すればよい。
蛋白質のCH伸縮振動に由来する信号と重水のOD伸縮振動由来の信号の強度比を直接求めることは容易ではない。したがって、軽水のOH伸縮振動由来のピークと重水のOD伸縮振動由来のピークの強度比より、間接的に蛋白質のCHと重水のODの信号強度比を求めることが好ましい。ここで、重水と軽水の密度比は1.11である。また、下記参考例で示すように、重水のOD伸縮振動と軽水のOH伸縮振動にぞれぞれ由来するピークの強度比は実質的には一定値Cを示す。これらの値を用いると、角層中の重水と蛋白質の質量比RD2O/proteinは以下のように与えられる。
ここで、角層の成分を蛋白質・軽水・重水の3成分で近似した場合、軽水分量CH2O(mass%)および重水分量CD2O(mass%)は以下のように与えられる。
皮膚における軽水と重水は基本的な振る舞いはほとんど同じであるが、上述のように重水ではH(水素)がD(重水素)になり分子量が増加した分だけ、密度が上昇している。1.000gの軽水と1.110gの重水は同じ体積を示すので、これらを同等に取り扱った方が、皮膚における水の動態を解析する上で好ましい。そこで本明細書では、重水を軽水に換算した場合の濃度CD2O’を以下のように定義した。本明細書での重水分量および軽水分量は、式(8)および式(9)より得られる換算量を用いる。
なお重水の添加により、蛋白質中のNHの一部で重水のDとHD交換が起こり、NDに変化することが考えられる。しかしNDとODの伸縮振動は、ほぼ同じ振動モードを持ち、かつ同じ位置に出現する。そのため、両者のラマン散乱断面積も近似的には同じと取り扱うことができる。従って、HD交換によってNDが生じたとしても、NDの信号をODの信号として読みかえてODの浸透挙動、即ち重水の浸透挙動とみなして問題ないと考えられる。
本発明の方法によれば、皮膚の局所における水分量を測定することができる。ここで、「局所」とは、レーザー光が照射されたときの焦点部分となる皮膚内部の一部分をいう。
また、本発明の水分量の測定方法を用いて、皮膚のラマンスペクトルを表面からの深さ方向及び/または水平方向に変えて測定することで、皮膚内部の水分分布を測定することができる。
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(1) 軽水と重水のラマン散乱強度比の測定
軽水(イオン交換水)と重水(Merck製、NMR用、99.96%)を軽水:重水=1:0(軽水のみ)、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3および0:1(重水のみ)の体積比で混合し、ガラスボトムディッシュ(マツナミ製)に入れ、ラマンスペクトルを測定した。その結果を図1に示す。なお、図1中の各スペクトルはスペクトルの最大値および最小値を用いて規格化して表示した(オフセット表示)。
ラマンスペクトル測定装置としては、共焦点ラマン分光器 ナノファインダー30(商品名、東京インスツルメンツ製)を用いた。また、測定条件は以下のとおりである。
<測定条件>
対物レンズ:40×、NA0.9
レーザー:633nm、8mW(試料上)
積算時間:60s
ピンホール径:80μm
回折格子:150gr/mm
図1で示すように、軽水(軽水:重水=1:0)のラマンスペクトルにおいては、1640cm-1付近にHOHの変角振動由来のピーク(δ(HOH))、3250cm-1付近にOH対称伸縮振動由来のピーク(νsy(OH))、3410cm-1付近にOH逆対称伸縮振動由来のピーク(νasy(OH))を示すラマンスペクトルが得られた。一方、重水(軽水:重水=1:0)のラマンスペクトルにおいては、1200cm-1付近にDODの変角振動由来のピーク(δ(DOD))、2400cm-1付近にOD対称伸縮振動由来のピーク(νsy(OD))、2500cm-1付近にOD逆対称伸縮振動由来のピーク(νasy(OH))を示すラマンスペクトルが得られた。
軽水に少量の重水を添加(例えば、軽水:重水=3:1の体積比で軽水に重水を添加)すると、前記の重水由来のピークに加え、1450cm-1付近に新たなピークが出現した。1450cm-1のラマン線はHODの変角振動由来のピークと判断できる。また2本のOH伸縮振動由来のピーク(対称、逆対称)の強度比に関しては、3250cm-1付近のOH対称伸縮振動由来のピークの相対強度が低下することも観測された。OH伸縮振動由来のピークに関しては、OH変角振動由来のピークの波数の二倍に相当するため、フェルミ共鳴による信号強度の増大現象が生じる事が知られている。軽水に重水を加えることによりフェルミ共鳴が抑制され、OH伸縮振動由来のピークの強度が低下したと考えられる。
重水に少量の軽水を添加(例えば、軽水:重水=1:3の体積比で重水に軽水を添加)した場合でも同様に、OD対称伸縮振動由来のピークの強度低下が観測された。
また、図1に示す結果に基づき、重水と軽水の混合比と、OD伸縮振動とOH伸縮振動にそれぞれ由来する信号の強度比との関係を以下のとおりに算出した。
重水と軽水の各混合比での、重水と軽水の信号強度比ROD/OHを下記式で算出した。
重水と軽水の混合体積比と、ラマンスペクトルにおける重水と軽水の信号強度比との関係を図2に示す。
図2で示すように、混合体積比と信号強度比の関係は直線性を示し、その傾きは約1.20となった。前述のように、軽水と重水の混合過程では、HOD分子の出現やフェルミ共鳴の発生等があり、混合体積比と信号強度比の間には直線性が原理的に保証されているわけではない。しかし、図2より、軽水と重水の存在比を重水及び軽水の伸縮振動由来のピークの面積比から見積もれば、実用上は十分である判断できる。従って、単位体積当たりの重水と軽水の分子数を同じと近似する(25℃での重水と軽水の密度比1.110は、重水と軽水の分子量比1.112とほぼ一致する)と、モル当たりのラマン散乱強度の比較においては、重水のOD伸縮振動由来のピークの強度(面積)は、軽水のOH伸縮振動由来のピークの強度(面積)の1.20倍と見積もることができる。したがって式(4)のCの実験値として、1.20を得ることができた。
(2)蛋白質の水分量とラマンスペクトルとの関係の検証
式(1)における定数AおよびBを得るために、含水量の異なる角層のラマンスペクトルの測定を以下のとおりに行った。
健常男性(40歳代)のかかとより角層片(3.0〜5.5mg)を剥離し、クロロホルムおよび水に浸漬し、脂質等の油溶性成分と、アミノ酸等の水溶性成分を除去した。本処理後の角層片を、角層蛋白質のモデルとした。各角層を5酸化りんの調湿ボックス中に3日間放置し、調湿ボックス中の角層片に対してレーザーを照射し、ラマンスペクトルを測定した。その後に各角層を調湿ボックスより取り出し、速やかに重量を測定した。このときのラマンスペクトルおよび角層重量を、近似的に含水量0%における各角層片の重量およびラマンスペクトルと定義した。
その後、各角層片を順次調湿環境下に放置した後の、ラマンスペクトルの測定と重量の測定を繰り返した。調湿環境の調製には、乾燥シリカゲル、飽和塩化ナトリウム水溶液、飽和臭化ナトリウム水溶液、飽和硫酸ナトリウム水溶液および飽和リン酸水素二ナトリウム水溶液を用いた。このときのラマンスペクトルの変化を図3に示す。吸湿により、蛋白質のCH伸縮振動に由来する信号(2920cm-1付近)に対する、水のOH伸縮振動に由来する信号強度(3100cm-1〜3700cm-1付近、蛋白質のNH伸縮振動に由来する信号を含む)が変化していることがわかる。
ここで上記秤量により得た、各調湿環境下での各角層片の含水率Rwaterを以下のように定義した。
各調湿環境下での角層片のラマンスペクトルよりラマン信号強度比(IOH/ICH)を算出し、そのときの含水率Rwaterとの関係をプロットした結果を図4に示す。IOH/ICHとRwaterとの関係より、式(1)のAの値として0.648を、Bの値として0.173を得た。
(3)皮膚の水分量及び水分分布の測定
健常男性(40歳代)の前腕内側を顕微ラマン分光器のガラス窓に接触させ、ガラス窓越しにラマンスペクトル(深さ方向の連続スキャン)を測定した。
その後、上記でラマンスペクトルを測定した部位と同じ部位に重水(40℃)を満たした円筒状のカップを10分間接触させた。その後カップを外し、皮膚上に残っている重水を軽くタオルで除いた後、速やかに前腕内側のラマンスペクトルを深さ方向の連続スキャンで測定した。その結果を図5に示す。各スペクトルは最大・最小値を用いて縦軸を規格化後、オフセットをとって表示している。
なお、ラマン測定条件は以下のとおりである。
<測定条件>
装置:顕微ラマン分光器 ナノファインダー(商品名、東京インスツルメンツ製)
励起光:633nm、8mW(試料上)
ピンホール:150μm
対物レンズ:NA1.3
スキャン間隔:深さ方向に2μm間隔
図5において、皮膚外部側で観測されているスペクトルは、皮膚が接触している窓材(ガラス)のスペクトルである。重水由来の信号強度(対CH強度比)は皮膚内部3μmで最も高い。また、それより深部では重水由来の信号強度は減少するが、13μmまでは重水由来の信号が現れていることがわかる。一方、軽水由来の信号強度(対CH強度比)は、皮膚内部ほど強くなっていることがわかる。
以上の結果から、皮膚表面に接触させた重水が、皮膚表面から約13μmの深さまで浸透していることがわかる。
図5に示すスペクトルに基づき、前記式(1)、式(4)、式(7)および式(8)を適用して、皮膚の深さ方向における水分(軽水および重水)量を測定し、得られた値をプロットして、皮膚内部における水分分布を算出した。その結果を図6及び図7に示す。図6には、重水を浸透させる前の水分(軽水)分布も併せて示した。また、図7は、重水処理後の軽水分量と重水分量の合計値をプロットしたものである。なお、図6及び図7に示すデータは、皮膚を蛋白質、軽水、重水の3成分で近似して算出したものであり、重水分量は軽水換算量である。
図6における重水浸透前の軽水分布は、皮膚表層部の濃度勾配の大きな領域(0〜12μm付近)と、水分濃度がほぼ一定値を示す領域(12〜20μm)の2領域を、それぞれ直線で表現できることがわかる。
また、重水浸透後の軽水分布も同様に、2本の直線で近似できるプロファイルを示した。表層に近い濃度勾配の大きな領域(重水処理後では0〜18μm)が、ほぼ直線性を維持したままその領域を広げたことは、(1)重水処理により角層が膨潤して厚くなったこと、および(2)重水が浸透してももともと皮膚内部に存在していた軽水の分布にはほとんど影響を及ぼしていないこと、を意味すると考えられる。
さらに、重水浸透後の重水分布から、重水が皮膚表面〜13μm付近までの範囲に浸透している様子が観測できた。なお、皮膚表面0〜4μm付近での表層に向けた重水濃度の低下は、重水浸透処理からラマン測定までの間に、重水が揮発したためと推察される。
このように、重水分布と軽水分布を区別して観察することにより、皮膚における水分の挙動に関する情報量が飛躍的に向上する。
図7に示す重水浸透後の水分(軽水+重水)分布は、軽水と重水の拡散係数が同じと近似しているため、重水ではなく軽水を皮膚に浸透させた場合に予想される水分分布に相当する。図7からは、皮膚外部から浸透した水(重水)と、もともと皮膚内部に存在していた水(軽水)とを区別することができない。
図7の結果からは、皮膚表面から5μmにかけての水分濃度が上昇していることは確認できるが、それ以上の考察には困難である。
以上の結果から、本発明によれば、皮膚外部から内部へと水が浸透する様子を明瞭に観察することができる。また、重水の浸透に伴い角層が膨潤し、重水浸透前に存在していた軽水の濃度分布が皮膚のより内部側に伸長している様子が確認できる。
このように、重水を用いて、体内にもともと存在していた水と、体外から進入した水とを区別することにより、皮膚内部における水の動態を詳細に把握することができる。
(4)重水浸透後の皮膚内部の軽水分布および重水分布のイメージング
健常男性(40歳代)の前腕内側部に重水(40℃)を満たした円筒状のカップを30分間接触させた。その後カップを外し、皮膚上に残っている重水を軽くタオルで除いた後、速やかに前腕内側のラマンスペクトルを深さ方向(Z方向)と水平方向(X方向)の2次元にて連続スキャンで測定した。ラマンスペクトル測定条件は以下のとおりである。
<測定条件>
装置:顕微ラマン分光器 ナノファインダー(商品名、東京インスツルメンツ製)
対物レンズ:100×、NA1.3
レーザー:633nm、8mW(試料上)
積算時間:1s/1点
ピンホール径:150μm
回折格子:150gr/mm
深さ方向(Z)のスキャン間隔:2μm
深さ方向(Z)のスキャン幅:40μm(21点)
水平方向(X)のスキャン間隔:2μm
水平方向(X)のスキャン幅:40μm(21点)
合計測定点数:441点
総積算時間:約8分
測定したラマンスペクトルに基づき、軽水分量および重水分量を算出し、得られたデータを基に軽水分布および重水分布のイメージングを行った。その結果をそれぞれ図8及び図9に示す。なお、図8及び図9はデータ処理ソフトIgor ver.5.0(商品名)により作成した。図8及び図9に示すデータは、皮膚を蛋白質、軽水、重水の3成分で近似して算出したものであり、重水分量は軽水換算量である。
図8及び図9の結果から、以下のことがわかった。
まず、軽水は深部ほど濃度が高く、重水は表層ほど濃度が高いことがわかった。また、重水の多い部位では軽水が少ないことがわかった。これは、皮膚外部から重水を浸透させたことを考えれば当然の結果である。さらに、重水が皮膚の表面から深さ40μm付近まで浸透している領域と、20μm程度までしか浸透していない領域があることがわかった。
本実施例で示すように、重水を用いることにより、皮膚内での水の動態解析が行えることがわかった。本発明によれば、軽水のスペクトルに基づいて測定する従来の皮膚水分量の測定方法よりもはるかに詳細な情報を与えた。そのため、より明確かつ定量的に皮膚内での水の動態を知ることができる。さらに、本発明により、皮膚表面部位における水の動態も解析できることがわかった。
実施例における軽水、重水およびこれらの混合液のラマンスペクトルを示す図である。 重水と軽水の混合体積比と、ラマンスペクトルにおける重水と軽水の信号強度比との関係を示す図である。 実施例における各調湿環境下に放置された角層片のラマンスペクトルの変化を示す図である。 ラマンスペクトルにおける蛋白質のCH伸縮振動に由来する信号に対する水のOH伸縮振動に由来する信号の強度比(IOH/ICH)と、角質片の含水率との関係を示す図である。 実施例における重水を浸透させた皮膚の各深さにおけるラマンスペクトルを示す図である。 実施例における重水浸透前後の軽水および重水分布を示す図である。 実施例における重水浸透後の水分(軽水+重水)分布を示す図である。 実施例における軽水分布を示す図である。 実施例における重水分布を示す図である。

Claims (4)

  1. 皮膚内部の水分量の測定方法であって、重水を浸透させた皮膚のラマンスペクトルを測定し、得られたラマンスペクトル中の重水の信号強度より測定する皮膚水分量の測定方法。
  2. 前記ラマンスペクトル中の重水の信号強度と蛋白質の信号強度の比に基づき重水分量を算出する、請求項1記載の測定方法。
  3. さらに、前記ラマンスペクトル中の軽水の信号強度と蛋白質の信号強度の比に基づき軽水分量を測定する、請求項1または2記載の測定方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか記載の測定方法により、皮膚のラマンスペクトルを表面からの深さ方向及び/または水平方向に変えて測定し、皮膚内部の水分分布を測定する方法。
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