JP5280899B2 - 耐力の等方性が優れた耐熱マグネシウム合金押出材およびその製造方法 - Google Patents

耐力の等方性が優れた耐熱マグネシウム合金押出材およびその製造方法 Download PDF

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本発明は、耐力の等方性が優れた耐熱マグネシウム合金押出材およびその製造方法に関する。以下、マグネシウムをMgとも言う。
マグネシウムは比重が1.8で実用的に最も軽い金属である(アルミニウムの約2/3、鉄の約1/4の比重)。また、比強度、比剛性、熱伝導性などにも優れている。このため、近年では、地球環境の観点から、車輌の燃費向上を目的として、例えば自動車などのフレーム等の強度部材や構造材にマグネシウム合金が適用されている。また、電気・電子機器の筐体や、自動車、航空機等のエンジン部品(ピストン、コンロッド、ボルト)などの構成材料としても広く適用されている。
マグネシウムを、高温雰囲気下で使用されるエンジン部品や部材として使用する場合には、200〜300℃の高温に長時間曝されるために、この温度領域での耐熱性(高温強度)が要求される。
これに対して、従来から、クリープ強度を向上させたマグネシウム合金が種々開発されている。例えば、所定量のアルミニウムや亜鉛等を含有するマグネシウム合金に、ケイ素、希土類元素(REM)、カルシウムなどの元素を添加した耐熱性合金などが知られている (例えば特許文献1、2他多数)。これらに共通した高温強度向上手段は、これら添加元素とMgとの金属間化合物を、結晶粒界に晶出させるものである。即ち、これらの金属間化合物相はAl、ケイ素、希土類元素、カルシウムなどを含んで高い溶融点を持ち、高温での荷重負荷において、結晶粒界がすべること(grain boundary sliding)を妨げ、高温強度を向上させる。
また、希土類元素を添加した、耐熱性に優れたマグネシウム合金も公知である。例えば、Gd、Dy、Tb、Ho、Y、Smなどを添加し、これら希土類元素を最大固溶量以下でマトリックスに固溶させて粒内を強化し、200℃の高温下で使用してもボルト軸力が低下しない耐熱性マグネシウム合金も提案されている(特許文献3)。これら希土類元素を添加したマグネシウム合金の内でも、YとSmとを合わせて添加したY−Sm系マグネシウム合金は、特に耐熱性に優れている。
マグネシウム合金、とりわけ耐熱マグネシウム合金は難加工性であるため、ダイカストなど鋳造品が、比較的要求強度の低い構造部材に適用されてきた。しかし自動車、航空機の燃費向上、軽量化を目指す上で耐熱マグネシウム合金の適用部位を広げることが望まれており、より厳しい強度、耐熱性を求められている。
このため鋳造合金の鋳造欠陥に起因する耐熱強度低下を回避すべく、鍛造など塑性加工成形可能な耐熱マグネシウム合金の開発に対する要望が強い。
前述の従来技術では、耐熱性と加工性(熱間加工性)を両方満足する耐熱マグネシウム合金は未だ実現していない。これに対して、高温強度と熱間加工性とを両方満足させたY−Sm系マグネシウム合金およびその製造方法が提案されている(特許文献5)。
この特許文献5では、Y:1〜8.0%、Sm:1〜8.0%を各々含有するY−Sm系マグネシウム合金の組織を、平均結晶粒径が3〜30μm であるとともに、前記YとSmとのマトリックスへの固溶量を、質量%で、Y:0.8〜5.0%、Sm:0.6〜4.0%であることとする。また、製法は、前記組成のマグネシウム合金溶湯を鋳造後、450〜550℃にて溶体化処理を施し、更に、350〜550℃℃の温度範囲での熱間静水圧加工によって所定の形状に成形する。そして、更に、結晶粒界上に観察される重心直径の値が20〜25nmの範囲の析出物の平均数密度を200〜400個/μmとして、マグネシウム合金のクリープ特性も向上させている。
これによって、前記Y−Sm系マグネシウム合金材としては、高温での強度と熱間加工性に優れたものが、これまで開発されてきた。しかし、ここまで到達したY−Sm系マグネシウム合金押出材であっても、前記コンプレッサホイールなどの耐熱回転部材として使用する場合には、未だ開発課題が残っていた。
これは、マグネシウム合金押出材で問題となる、部材方向による機械的な性質の異方性である。この異方性とは、マグネシウム合金押出材の0.2%圧縮耐力が、0.2%引張耐力に比して、著しく低くなること、つまり、引張耐力に対する圧縮耐力の比(耐力比とも呼ぶ)が低くなることである。
この引張/圧縮の耐力比が低い(異方性が大きい)押出材は、押出材の押出方向(軸方向)と、この押出方向に直角な方向の周方向の強度、耐力、伸びなどの機械的な性質が大きく異なる。このため、マグネシウム合金の異方性が強いほど、強度部材や構造材として使用する場合に、必要な強度や剛性を満たすために、この異方性を考慮しなければ使用できず、設計自由度が低くなる。
さらに、前記耐熱回転部材では、この耐力比が低い(異方性が大きい)と、耐熱Mg合金押出材はこの用途には使用できないという、より深刻な問題につながる。前記したコンプレッサホイールなどの耐熱回転部材は、当然ながら回転する部材であるために、部材(押出材)の軸方向の強度もさることながら、回転方向である部材(押出材)円周方向の強度を確保することが重要となる。したがって、耐力の等方性がより要求されることとなり、軸方向の強度が幾ら高くても、この軸方向の強度に対して円周方向の強度が著しく低くなるような、前記異方性が強いマグネシウム合金押出材は、信頼性がなく使用できない。この点は、高温での強度と熱間加工性に優れていても同様である。
したがって、このような耐熱回転部材用途には、前記耐熱性や熱間加工性は勿論のこと、前記異方性が小さく、引張耐力に対する圧縮耐力の差が小さく、前記押出方向(軸方向)と周方向との耐力差が小さいなど、耐力の等方性が優れた耐熱マグネシウム合金押出材が求められる。勿論、前記耐熱回転部材用途によってその値は異なるものの、前記コンプレッサホイールなどにおけるマグネシウム合金材の耐力の等方性の合格基準は、概ね、引張耐力に対する圧縮耐力の比が0.8以上で、前記押出方向(軸方向)に対する周方向の耐力差の比が0.8以上である。
ここで、マグネシウム合金の分野では、このような異方性を小さくするための技術として、集合組織、それも結晶粒の結晶方位の傾きを示すパラメータとしてのシュミット因子を制御することが、Al−Zn系マグネシウム合金押出材において公知である(特許文献6)。
この特許文献6では、耐熱性などは意図しておらず、軽量で適度の強度が要求される自動車の足回り部品用などとして、Al−Zn系マグネシウム合金押出材の異方性を小さくするために、前記シュミット因子を制御している。具体的には、Al−Zn系マグネシウム合金押出材において、平均結晶粒径を50μm以下とするとともに、マグネシウム合金の結晶構造である六方晶(最密六方格子、hcp)の底面である(0001)面をランダムに配向させることで異方性を低減している。より具体的には、3〜10質量%のAlと、0.1〜1.5質量%のZnを含むマグネシウム合金押出材において、六方晶の各結晶粒における(0001)<11−20>のシュミット因子の平均値を0.2以上とし、且つこのシュミット因子の値が0〜0.2である結晶粒の存在割合を55%以下としている。
このようにして、前記特許文献6では、Al−Zn系マグネシウム合金押出材の前記異方性の目安である0.2%圧縮耐力と0.2%引張耐力との比(圧縮耐力/引張耐力)を0.7〜1.2の範囲に高め、前記異方性を小さくしている。また、これらの組織と特性のマグネシウム合金押出材を得るために、前記Al−Zn系マグネシウム合金押出材を150〜400℃、好ましくは200〜350℃、押出比40以上で、直接押出加工し、結晶粒の結晶方位を制御している。
このシュミット因子は、詳細は後述するが、マグネシウム合金が有する六方晶結晶構造の変形方向に対する、特定のすべり面である(0001)面と、特定のすべり方向<11−20>方向、すなわち(0001)<11−20>によって規定される。言い換えると、前記六方晶の各結晶粒における変形時の特定のすべり面は底面である(0001)面で、特定のすべり方向は<11−20>方向であり、(0001)<11−20>とは、これらすべり面とすべり方向との両方を規定しているものである。そして、前記六方晶の各結晶粒における(0001)<11−20>のシュミット因子は、マグネシウム合金の製造時における加工方向、たとえば押出材であればその押出方向に対して、(0001)面の法線方向とのなす角をΦ、(0001)面内における<11−20>方向とのなす角をλとした場合に、cosΦcosλで与えられる。
因みに、このシュミット因子は、マグネシウム合金以外の他の金属でも、種々の特性に関わる因子や制御対象として公知であり、例えばアルミニウム合金などでは曲げ疲労寿命に関する因子などとして公知である。
特開2004−238676号公報 特開2004−238678号公報 特開2003−129160号公報 特開平7−224344号公報 特開2008−75176号公報 特開2008−75169号公報
ただ、同じマグネシウム合金であっても、このようなシュミット因子による異方性の制御が、前記Al−Zn系マグネシウム合金押出材とは全く合金系の異なる、Y、Smを各々含有するY−Sm系マグネシウム合金押出材の異方性の制御に、果たして有効であるか否かは全く不明だった。例え、これら合金系の互いの六方晶結晶構造が同じであっても(シュミット因子が測定可能であっても)、合金系が異なれば、当然その合金特性は異なるからである。このため、シュミット因子の制御がY−Sm系マグネシウム合金の異方性制御に有効に働くか否かは、果たしてシュミット因子の制御(作り分け)が可能であるか否かを含めて、実際に試験して確かめなければ分からない。
実際に本発明者らが知見したところによれば、シュミット因子の制御自体はY−Sm系マグネシウム合金においても可能であった。しかし、前記特許文献6のようにシュミット因子の平均値を高くした場合には、Y−Sm系マグネシウム合金では、異方性は緩和されるが高温強度が下がってしまった。これは、前記特許文献6で示されるシュミット因子を制御する手段を耐熱マグネシウム合金に適用すると、耐熱強度を満足させることができなくなるためであり、合金系が異なると従来技術のシュミット因子による異方性制御への作用効果が、耐熱強度に与える影響を考慮していないからである。
更に、前記コンプレッサホイールなどの耐熱回転部材は、前記押出材の押出軸方向の引張/圧縮耐力と、前記周方向の引張耐力とは、同じ応力軸にないため、軸方向の引張/圧縮耐力異方性にだけ注目していると、押出軸と回転体(回転部材)周方向との耐力異方性の程度が把握しにくく、異方性改善の課題自体も知見しにくいという、この用途独特の問題もある。
したがって、Y、Smを各々含有するY−Sm系だけでなく、また押出材に限らず、マグネシウム合金全般においても、高温での強度を低下させずに、異方性を小さくするような技術は、これまで無かったのが実情である。言い換えると、前記コンプレッサホイールなどの耐熱回転部材として、耐熱性や加工性とともに、前記異方性が無く、前記耐力の等方性が優れた耐熱マグネシウム合金押出材は、これまで無かったのが実情である。
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、特に耐力の等方性が優れ、耐熱性や加工性もとともに優れたY−Sm系耐熱マグネシウム合金押出材およびその製造方法を提供することである。
この目的を達成するために、本発明の耐力の等方性が優れた耐熱マグネシウム合金押出材の要旨は、質量%で、Y:1〜8%、Sm:1〜8%を各々含有し、残部Mgおよび不可避的不純物からなるマグネシウム合金押出材であって、マグネシウムマトリックスへの前記YとSmとの固溶量が、質量%で、Y:0.8〜5%、Sm:0.6〜4%であり、この押出材組織の押出方向の平均結晶粒径が15μm 以下であるとともに、この押出材組織が有する六方晶結晶構造の各結晶粒における押出方向を軸とした(0001)<11−20>のシュミット因子の平均値が0.12以上、0.2未満の範囲であることとする。
また、前記目的を達成するために、本発明の耐力の等方性が優れた耐熱マグネシウム合金押出材の製造方法の要旨は、質量%で、Y:1〜8%、Sm:1〜8%を各々含有し、残部Mgおよび不可避的不純物からなるマグネシウム合金溶湯を鋳造後、400〜550℃の温度で溶体化処理を施した後に、350〜450℃の温度、押出比Rが10以上、この押出比Rとラム速度V(mm/s)との積であるR×Vが50以上100未満、の各条件を満足して熱間静水圧押出加工し、得られたマグネシウム合金押出材における、マグネシウムマトリックスへの前記YとSmとの固溶量を、質量%で、Y:0.8〜5%、Sm:0.6〜4%とし、この押出材組織の押出方向の平均結晶粒径が15μm 以下とするとともに、この押出材組織が有する六方晶結晶構造の各結晶粒における押出方向を軸とした(0001)<11−20>のシュミット因子の平均値を0.12以上、0.2未満の範囲とすることである。
ここで、前記マグネシウム合金押出材の前記YとSmとの固溶量が、質量%で、Y:0.8〜4.5%、Sm:0.6〜3.5%であって、この押出材組織を倍率60000倍のTEMにより観察した際に、結晶粒界上に観察される重心直径の値が20〜25nmの範囲の析出物の平均数密度が200〜400個/μmであることが好ましい。また、前記マグネシウム合金押出材が熱間静水圧押出加工によって製造されたものであることが好ましい。また、前記マグネシウム合金押出材の軸方向の引張耐力に対する軸方向の圧縮耐力の比が0.8以上であるとともに、前記軸方向の引張耐力に対する周方向の引張耐力の比が0.8以上であることが好ましい。また、前記マグネシウム合金押出材が熱間静水圧押出加工によって製造されたものであることが好ましい。更に、前記マグネシウム合金押出材の用途が耐熱回転部材であることが好ましい。
本発明は、異方性低減の手段として、集合組織の制御を行い、シュミット因子の平均値を制御すること自体は前記特許文献6と同じである。但し、本発明は、Al−Zn系マグネシウム合金の直接押出加工材である前記特許文献6のように、前記シュミット因子の平均値を0.2以上には高くしない。
本発明が対象とするY−Sm系耐熱マグネシウム合金押出材、それも熱間静水圧押出加工材の場合には、前記特許文献6のようにシュミット因子の平均値を高くした場合には、押出材の押出方向(軸方向)と周方向の耐力は等方的に近づくが、周方向の耐熱強度が低下してしまう。
これは、前記した通り、例えマグネシウム合金としての六方晶結晶構造が同じだとしても、合金系が異なり、その合金の特性が異なるために、シュミット因子による異方性制御への作用効果が大きく異なるからである。
本発明では、前記シュミット因子の平均値を、前記特許文献6よりも小さくして、Y−Sm系耐熱マグネシウム合金押出材の異方性を小さくしつつも、耐力の等方性を向上させる。しかも、これを前記耐熱回転部材として必要な強度を低下させず、満たした上で実現する。
この結果、本発明は、前記耐熱回転部材として、耐力の等方性が優れたY−Sm系耐熱マグネシウム合金押出材を提供できる。
(マグネシウム合金の成分組成)
本発明では、前記耐熱回転部材用のマグネシウム合金押出材として、好ましくは、高温強度:250℃で引張試験した際の軸方向(押出方向)の0.2%引張耐力が140MPa以上を満足させるために、下記特定のマグネシウム合金の成分組成とする。
このための本発明の高温強度に優れたマグネシウム合金組成は、質量%で、Y:1〜8%、Sm:1〜8%を各々含有し、残部Mgおよび不可避的不純物からなるマグネシウム合金とし、マグネシウムマトリックスへの前記YとSmとの固溶量が、質量%で、Y:0.8〜5%、Sm:0.6〜4%とする。なお、以下の各元素の説明や固溶量の説明において記載する%表示は全て質量%である。
Y:1〜8%
YはSmと共存してマグネシウム合金の高温強度および加工性を確保する。Yの含有量が1%未満と少な過ぎると、マグネシウムマトリックスへのYの固溶量が、高温強度および加工性を確保するための最低限度の0.8%を確保できない。一方、Yの含有量が8%を超えて多過ぎると、Y系金属間化合物の粒界への晶出量が増して、却って、高温強度および加工性を低下させる。また、Yの含有量が8%を超えて多くなっても、マグネシウムマトリックスへのYの固溶量は5.0%を超えず、Yをそれ以上含有させる必要もない。
Sm:1〜8%
SmはYと共存してマグネシウム合金の高温強度および加工性を確保する。Smの含有量が1%未満と少な過ぎると、マグネシウムマトリックスへのSmの固溶量が、高温強度および加工性を確保するための最低限度の0.6%を確保できない。一方、Smの含有量が8%を超えて多過ぎると、Sm系金属間化合物の粒界への晶出量が増して、却って、高温強度および加工性を低下させる。また、Smの含有量が8%を超えて多くなっても、マグネシウムマトリックスへのSmの固溶量は4.0%を超えず、Smをそれ以上含有させる必要もない。
(YとSmとの固溶量)
マグネシウムマトリックスへの前記YとSmとの固溶量は、質量%で、Yは0.8〜5%、Smは0.6〜4%、と各々する。ここで、後述する通り、クリープ特性向上のために、YやSmの析出物を存在させた場合、前記した合金組成において、YとSmとの固溶量は当然下がるために、前記した各上限値が下がって、質量%で、Y:0.8〜4.5%、Sm:0.6〜3.5%の範囲となる。ただ、YとSmとの固溶量が少な過ぎると、高温強度および加工性が確保、兼備できない。一方、YとSmとの固溶量を、溶体化処理によって、これら上限を超えるようにすることは困難であり、また、その効果も飽和する。更に、YとSmとの固溶量を増すために、溶体化処理が高温、長時間化するために、結晶粒径が著しく粗大化し、続く熱間加工によっても微細化できない可能性が高い。したがって、前記した各範囲とする。
(固溶量測定)
これらYとSmとの固溶量は、製造された最終のマグネシウム合金(板など)から試料を採取して、電解研磨によりTEM観察用薄膜サンプルを作製する。そして、このサンプルを、例えば日立製作所製:HF−2200電界放出型透過電子顕微鏡(FE−TEM)により倍率×7500倍で明視野像を得る。次いで、この明視野像の例えばNoran社製NSSエネルギー分散型分析装置(EDX)による成分定量分析により、マグネシウムの粒界や粒内に析出(晶出)している析出物(金属間化合物)を測定対象から省いて、マグネシウムマトリックス中のYとSmとの固溶量を求める。
(マグネシウム合金組織)
シュミット因子:
先ず、金属多結晶体の塑性変形は、冷間では結晶粒を貫通するすべり変形により生じる。この結晶粒を貫通するすべり変形の場合、結晶面に沿って転位を移動させるのに必要な臨界せん断応力τの大きさは、結晶面と結晶軸方向によって異なる。単結晶円柱体の引張試験を行う場合、引張応力σは、次式:σ=τ/(cosφcosλ)によって与えられることが公知である。この式において、τは金属結晶のすべり変形が起きるために必要な臨界せん断応力、φはすべり面の法線と引張軸とのなす角度、λはすべり方向と引張軸とのなす角度を各々示す。
シュミット因子とは、この式あるいはこの式を変形したτ=σ(cosφcosλ)における、(cosφcosλ)を示し、引張圧縮方向に対する結晶の傾きを示している。したがって、マグネシウム合金押出材においても、金属結晶のすべり変形が起きるために必要な臨界せん断応力τは、すべり面の法線と押出軸とのなす角度φ、すべり方向と押出軸とのなす角度λとの関係から、(cosφcosλ)によって、シュミット因子の平均値を求めることができる。
前記式の通り、マグネシウム合金押出材の塑性変形で主となるすべり変形が起きるために必要な前記臨界せん断応力τの値は、前記式における右辺のシュミット因子(cosφcosλ)の値によって変化する。マグネシウム合金押出材に外力が加わった場合、シュミット因子の値が最大となるすべり系が最初にすべり変形する(動き出す)。したがって、シュミット因子の偏りが大きいほど、マグネシウム合金押出材の異方性が強くなる。
シュミット因子の平均値:
本発明Y−Sm系耐熱マグネシウム合金押出材では、六方晶結晶構造を有し、主となるすべり系は、すべり面が底面の(0001)面、この底面のすべり方向が<11−20>方向である。マグネシウム合金押出材では、押出方向に垂直な方向に(0001)面が配向しやすく、圧延材では、圧延面に(0001)面が配向しやすく、これが異方性の原因となっている。このように結晶粒の底面が配向した場合、シュミット因子の平均値が小さくなる。
このため、前記特許文献6では、Mg−Al−Zn系合金であるマグネシウム合金押出材の異方性を小さくするために、シュミット因子の平均値を0.2以上と高くして、結晶方位をランダム化し、結晶粒の底面が押出方向に垂直な方向に配向し異方性を低減している。
しかし、前記した通り、前記特許文献6のように、シュミット因子の平均値を0.2以上に高くした場合は、Y−Sm系耐熱マグネシウム合金押出材では、却って異方性が強くなってしまう。このため、前記耐熱回転部材としての必要な強度や、耐力の等方性を満たさなくなる。
このため、本発明では、Y−Sm系マグネシウム合金の製造時の加工方向を軸とした(0001)<11−20>のシュミット因子の平均値を0.12以上、0.2未満(0.12〜0.2未満)の範囲として、Y−Sm系耐熱マグネシウム合金押出材の異方性を改善し、耐力の等方性が優れたものとする。
この耐力の等方性とは、前記コンプレッサホイールなどの耐熱回転部材用として、好ましくは、前記マグネシウム合金押出材の軸方向の引張耐力に対する軸方向の圧縮耐力の比が0.8以上であるとともに、前記軸方向の引張耐力に対する周方向の引張耐力の比が0.8以上である。また、軸方向の高温強度:250℃で引張試験した際の軸方向(押出方向)の0.2%引張耐力が好ましくは140MPa以上である。
シュミット因子の測定:
このシュミット因子は、電界放射型走査電子顕微鏡FESEM(Field Emission Scanning Electron Microscope )による、後方散乱電子回折像EBSP(ElectronBackscatter Diffraction Pattern)を用いた結晶方位解析方法により測定する。
この結晶方位解析方法は、試料表面に斜めに電子線を当てたときに生じる後方散乱電子回折パターン(菊地パターン)に基づき、結晶方位を解析する。この方法は、高分解能結晶方位解析法(FESEM/EBSP法)として、ダイヤモンド薄膜や、銅合金などの他の金属の結晶方位解析でも公知である。
この結晶方位解析方法による解析手順は、まず、製造したマグネシウム合金押出材から組織観察用の試験片を採取し、機械研磨およびバフ研磨を行った後、電解研磨して表面を調整する。このように得られた試験片について、例えば日本電子社製のFESEMと、TSL社製のEBSP測定・解析システムOIM(Orientation Imaging Macrograph)を用い、同システムの解析ソフトと(ソフト名「OIMAnalysis」)を用いて、各結晶粒の測定視野における方位マッピング(シュミット因子)を求める。
より具体的には、測定される材料の測定領域を通常、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から、菊地パターンを得る。この際、電子線を試料表面に2次元で走査させ、所定ピッチ毎に結晶方位を測定すれば、試料表面の方位分布を測定できる。次に、得られた上記菊池パターンを解析して、電子線入射位置の結晶方位を知る。即ち、得られた菊地パターンを既知の結晶構造のデータと比較し、その測定点での結晶方位を求める。同様にして、その測定点に隣接する測定点の結晶方位を求め、各結晶粒の測定視野における方位マッピング(シュミット因子)を求める。なお、これら互いに隣接する結晶の方位差が±15°以内(結晶面から±10°以内のずれ)のものは同一の結晶面に属するものとする(見なす)。
前記方位マッピングにより、本発明マグネシウム合金の六方晶(最密六方格子、hcp)結晶構造の各結晶粒の結晶方位における、(0001)<11−20>のシュミット因子は、(0001)面の法線方向と引張軸(押出方向軸、引張試験時の引張方向または圧縮試験時の圧縮方向)とのなす角Φと、(0001)面内における<11−20>方向と前記引張軸とのなす角をλとを求め、前記式中の(cosφcosλ)によって、各結晶粒のシュミット因子の値を求める。そして、これら測定した各結晶粒のシュミット因子の値を平均して、本発明で規定するシュミット因子の平均値とする。
押出方向の平均結晶粒径:
その一方で、本発明は、Y−Sm系耐熱マグネシウム合金押出材組織の、押出方向の平均結晶粒径を15μm 以下、好ましくは10μm 以下に微細化し、これと前記シュミット因子の平均値制御との相乗効果によって、異方性を改善し、優れた等方性を得る。具体的には、前記マグネシウム合金押出材として、前記軸方向の引張耐力に対する軸方向の圧縮耐力の比が0.8以上であるとともに、前記軸方向の引張耐力に対する周方向の引張耐力の比が0.8以上であるように異方性を抑制することができる。
また、この平均結晶粒径の微細化は、当然ながら耐力も向上させるため、この耐力も、この平均結晶粒径の微細化と前記シュミット因子の平均値制御との相乗効果によって、耐力も向上する。具体的には、軸方向の高温強度:250℃で引張試験した際の軸方向(押出方向)の0.2%引張耐力が好ましくは140MPa以上の特性を有することができる。これに対して、前記平均結晶粒径が前記した規定を超えて粗大化した場合にはこれらの効果が得られない。
平均結晶粒径測定方法:
本発明で言う結晶粒径とは、押出後のマグネシウム合金材組織の押出方向の縦断面(押出方向に沿って切断した押出材の断面)における押出方向の結晶粒径(円相当の結晶粒径)である。この結晶粒径は、採取試料における前記押出方向の縦断面を、機械研磨、電解エッチングによって前処理した後に、400倍の光学顕微鏡を用いて観察する。これを画像解析して、視野内に観察される結晶粒の粒径を、面積が等価な円の直径に換算した大きさとして評価し、これを平均化して、本発明で言う、平均結晶粒径とする。
(粒界析出物)
本発明では、以上の合金組成や組織とすることを必須とし、マグネシウム合金のクリープ特性をより向上させるために、好ましくは、更に、粒界析出物を制御する。
具体的には、マグネシウム合金組織中における結晶粒界上に存在する、特定の大きさの(微細な)析出物の平均数密度を制御する。即ち、マグネシウム合金やマグネシウム合金成形品の組織を、倍率60000倍のTEM(透過型電子顕微鏡)により観察した際に、結晶粒界上に観察される重心直径の値が20〜25nmの範囲の析出物の平均数密度を200〜400個/μm2とする。即ち、各々等価な円径に換算した場合の大きさ(円径)が前記20〜25nmの範囲の析出物を一定量存在させた組織とすることによって、マグネシウム合金のクリープ特性をより向上させることができる。これらの析出物の平均数密度が多すぎても、少なすぎても、クリープ特性をより向上させることはできない。
本発明では、前記した通り、合金元素として含有するYとSmとを、従来のように、積極的に粒界に金属間化合物として晶出させるものではないが、固溶しきれない形での(残余の)析出物も、当然結晶粒界上には存在している。この点、前記した合金組成やYとSmとを固溶させた組織を前提にして、更に、これら結晶粒界上の析出物の大きさと平均数密度とを制御することで、マグネシウム合金のクリープ特性をより向上させることができる。
このような組織制御手段は、前記した特許文献5で公知ではあるが、耐力の等方性を犠牲にせずに、Y−Sm系耐熱マグネシウム合金押出材のクリープ特性をより向上させることができる点が新規である。このような組織制御手段を採用した場合には、いずれかの特性が低下して犠牲となる場合もあり、両方の特性を満足できるとは限らないからである。この点、本発明では、耐力の等方性向上とともに、このような組織制御手段も併せて採用して、クリープ特性をより向上させることができる利点もある。
前記結晶粒界上に存在する析出物の平均数密度の測定では、TEM観察における、マグネシウム合金やマグネシウム合金成形品の測定部位は特には問わないが、測定部位を同じとすることが、再現性などの測定精度の点で好ましい。例えば、測定対象の形状が、丸柱(円柱)形状であれば丸柱の直径DのD/4部(表面から1/4Dの深さ部分)、板あるいは角柱形状であれば、これらの厚みtのt/4部(表面から1/4tの深さ部分)とすることが好ましい。
本発明で言う、これら析出物とは、合金元素であるYやSmとマグネシウムとの金属間化合物である。しかし、本発明では、これら析出物の組成は問わず、ただ、上記TEMにより結晶粒界上に観察される、上記サイズの析出物の平均数密度のみを、マグネシウム合金のクリープ特性に効くものとして制御する。上記サイズの析出物を上記した平均数密度範囲で存在させると、当然、YやSmの固溶量は減る。したがって、これら析出物を上記した範囲で存在させた場合、前記した合金組成において、YとSmとの固溶量の範囲は、前記した通り、各上限値が下がって、質量%で、Y:0.8〜4.5%、Sm:0.6〜3.5%の範囲となる。
(製造方法)
本発明マグネシウム合金を得るための、好ましい製造方法、条件について以下に説明する。
本発明では、特定成分組成に調整したマグネシウム合金溶湯のインゴット鋳造後、インゴットを必要により熱間加工するためのビレットへの機械加工、YとSmとを固溶させるための(固溶量を確保するための)溶体化処理、結晶粒微細化などの組織制御や等方性向上(異方性抑制)、あるいは製品形状精度のための熱間静水圧押出による熱間加工を行なう。一般的なマグネシウム合金の製造工程では、これらの製造方法は通常行なわず、鋳造ままで製品として使用するか、これに溶体化処理などの熱処理を施すのみである。
溶体化処理:
マグネシウム合金の溶体化処理は400〜550℃の溶体化処理温度で5〜30時間行なうことが好ましい。この温度が低過ぎる、あるいは時間が短過ぎると、YとSmとの固溶量が不足する可能性がある。一方、この温度が高過ぎる、あるいは時間が長過ぎると、結晶粒が粗大化する可能性がある。この際、前記したマグネシウム合金組織中の結晶粒界上に観察される、重心直径の値が20〜25nmの範囲の析出物の平均数密度を、前記した200〜400個/μm2の範囲に制御するためには、前記溶体化処理温度を460〜500℃とすることが好ましい。
熱間静水圧押出:
この溶体化処理後のマグネシウム合金ビレットを熱間静水圧押出加工する。この熱間静水圧押出は、供述する各条件とともに、得られたマグネシウム合金における、マトリックスへの前記YとSmとの固溶量を前記所定量とするとともに、押出方向の平均結晶粒径を前記規定通り微細化し、かつ、このマグネシウム合金が有する六方晶結晶構造の各結晶粒における前記熱間静水圧押出加工方向を軸とした(0001)<11−20>のシュミット因子の平均値を0.12以上、0.2未満の範囲とするために重要な工程となる。
このように、前記等方性(異方性)と耐力とのバランスが優れたマグネシウム合金押出材を得るためには、押出加工のうちでも、熱間静水圧押出することが好ましい。通常の直接押出や間接押出では、低温でかつ押出比Rを高くした押出加工が熱間静水圧押出よりも困難であり、前記した組織とすることが、不可能ではないが、かなり難しい。
また、熱間静水圧押出条件も、本発明マグネシウム合金を得るためには、加工温度:350〜450℃、好ましくは350〜400℃、押出比R:10以上、好ましくは20以上、この押出比Rとラム速度V(mm/s)との積であるR×Vが50以上100未満、の各条件を全て満足させる。
前記加工温度(押出温度)が低すぎると、マグネシウム合金の静水圧押出自体が困難となる。また、前記加工温度が高すぎると、平均結晶粒径を微細化できない可能性が高い。この結果、異方性を改善し、優れた等方性を得ることや、耐力の向上が図れなくなる。また、溶体化処理によって一旦固溶したYとSmとが析出しやすくなり、固溶量が確保できなくなる可能性が高い。
押出比Rが低すぎると、歪みの付与による結晶粒の核生成サイトを与えられずに、マグネシウム合金組織の平均結晶粒径を15μm 以下に微細化できなくなる。このため、押出比Rは、歪みの付与による結晶粒の核生成サイトを多数与えて、マグネシウム合金組織の平均結晶粒径を微細化できるだけの十分の量とするために10以上とする。更には、押出比Rは20以上が好ましく、このような高押出比は、静水圧押出を用いることで可能となる。因みに、特許文献5の押出比Rは小さく、その実施例でも10程度であり、特許文献5の実施例では微細なものでも18μm程度である。
押出速度については、シュミット因子の平均値に大きく影響する。押出速度が速すぎると、シュミット因子の平均値が0.12より小さくなり、シュミット因子の平均値を0.12以上、0.2未満の範囲とすることができなくなる。したがって、押出速度は極力遅くする(小さくする)ことが好ましい。ただ、押出効率や温度低下の問題もあるので、押出速度を遅くする限界もある。この点で、前記押出比Rと、押出機におけるラムの速度V(mm/s)との積であるR×Vとして、50以上100未満の範囲とすることが最適である。
ここで、上記本発明における押出速度は、前記R×Vとして、50以上100未満の範囲とするためには、前記押出比Rを20以上と著しく大きくしているために、ラムの速度V自体はかなり小さな値となる。即ち、本発明における押出速度は、生産性を重視する通常の熱間静水圧押出加工の100を超える押出速度R×Vに比して小さく(遅く)しており、生産性自体は犠牲にしている。
これに対して、前記した特許文献5では、その実施例の通り、本発明と同様に、溶体化処理後のマグネシウム合金ビレットを熱間静水圧押出加工しているが、この押出速度については記載がない。この点で、前記した特許文献5では、前記R×Vとしての押出速度としては、本発明のように敢えて生産性を犠牲にする思想がない限り、必然的に大きくなる。即ち、生産性を重視してラムの速度Vを大きくする、通常の熱間静水圧押出加工における、R×Vが100を超える押出速度としている蓋然性が高い。この結果、前記した特許文献5では、シュミット因子の平均値は0.12より小さくなっている可能性が高い。
これら熱間静水圧押出後の冷却については、空冷さらには水冷することが、結晶粒粗大化防止の点で好ましい。この熱間静水圧押出後の押出材は、必要により調質処理(熱処理)を行なう。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
以下に、本発明の実施例を説明する。マグネシウム合金組成と製造方法、特に溶体化処理条件や熱間静水圧押出加工条件を種々変えて、マグネシウム合金組織について、シュミット因子、YとSmとの固溶量、平均結晶粒径などを制御し、得られたマグネシウム合金押出材の高温特性、特に、引張や圧縮の耐力、これらの耐力比(圧縮耐力/引張耐力)、クリープなどの特性を各々測定、評価した。
具体的には、下記表1に示す化学成分組成のマグネシウム合金を、それぞれアルゴン不活性雰囲気下の電気溶解炉において溶解し、鋳鉄製モールドに750℃の温度で鋳込み、95mmφ×100mm長さのマグネシウム合金鋳塊を得た。そして、これらの鋳塊の表面を機械加工により面削して、各々68mmφ×100mm長さのマグネシウム合金ビレットとした。ここで、表1に示すマグネシウム合金は、記載元素含有量を除いた残部組成は酸素、水素、窒素などの極微量成分を除きマグネシウムである。
この各ビレットを、表1に示す温度条件で溶体化処理し、その後この溶体化処理温度で熱間静水圧押出加工を開始し、表1に示す押出加工条件で押出加工を施して、丸棒状の試験材に成形した。丸棒の径は押出比によって異なり、押出比28ではφ12mmであった。
このようにして製造したマグネシウム合金押出材に対して、各例とも、前記試験材から切り出した試料を使用して、マグネシウム合金組織のシュミット因子、平均結晶粒径、マグネシウムマトリックスへのYとSmとの固溶量、析出物の平均数密度などを測定した。これらの結果を表1に示す。
(固溶量測定)
YとSmとの固溶量は、前記したFE−TEMとEDXとを用いた成分定量分析により行なった。同一試験片の任意の5箇所を測定し、それらの平均値を採用した。
(平均結晶粒径測定方法)
結晶粒径は前記したラインインターセプト測定方法により、組織写真を画像解析して測定した。なお、同一試験片の任意の5箇所を測定し、それらの平均値を採用した。
(シュミット因子測定方法)
シュミット因子は、前記した高分解能結晶方位解析法(FESEM/EBSP法)により、観察試料を研磨した後、SEM(走査型電子顕微鏡)室内に試料を入れ、高感度SS−CCDカメラにより菊池パターンを取り込んだ。画像収集システムにより、引張試験方向である押出方向に対する(0001)<11−20>のシュミット因子を、観察視野中で検出した結晶粒ごとに評価し、方位マッピング)のデータを収集した。ここで、この測定視野範囲は300μm×300μm程度の領域としたが、これらの方位分布は厚み方向に変化しているため、各押出材の厚み方向に5箇所任意に測定し、その平均をとることによって求めた。
結晶粒界上の析出物の観察は、倍率60000倍のTEM「透過型電子顕微鏡:日立製作所:H−800透過型電子顕微鏡(TEM)」により、加速電圧200kVにて行った。各例とも、マグネシウム合金丸柱のD/4部(表面から1/4Dの深さ部分)から採取した測定用試料は、その表面を、機械的に研磨後、精密研磨して、更にイオンスパッタして作成した。前記サイズの析出物の平均数密度の算出は、TEMの視野を画像解析して行い、画像解析ソフトは、MEDIA CYBERNETICS社製の「ImagePro Plus 」を用いた。この倍率60000倍のTEMによるマグネシウム合金組織観察では、結晶粒界上の析出物は、一定幅を有する川状の結晶粒界中(上)に、点々と存在する黒い粒子として観察される。
TEMでは透過投影像を観察するので、結晶粒界面積を正確に測定するためには観察方向を結晶粒界と垂直に位置させる必要がある。このため観察試料をTEM内でステージを回転させて、結晶粒界の幅が最大となる位置を観察方向と粒界が垂直な位置と定義して粒界析出物数密度を測定した。このため、析出物の平均数密度は、TEM観察用薄膜サンプルの厚みを考慮せずに、平方ミクロン(μm2)とする。
同時に、各例とも、前記試験材から切り出した試料を使用して、耐熱性評価のために、250℃での押出方向(軸方向)の引張や圧縮の耐力、これらの耐力比(圧縮耐力/引張耐力)、クリープ特性を測定した。更に、押出方向とは直角の周方向引張耐力も測定した。これらの結果を表2に示す。
(引張、圧縮試験)
高温引張試験は前記試験材から切り出した試料長手方向を押出方向とした試験片を用いて、5882型インストロン社製万能試験機により、試験片サイズφ7mm、GL=25mm、試験速度0.2mm/min、試験温度250℃にて行なった。圧縮試験も同じく、長手方向を押出方向とした試験片を用いて、試験片サイズφ8mm、高さ12mmにて行なった。それぞれ同一条件の試験片を3本試験し、0.2%引張耐力と0.2%圧縮耐力(MPa)の平均値を採用した。
また、前記試験材から切り出した試料長手方向を、押出方向に直角の周方向とした試験片(サイズφ7mm、GL=6mm)を用いて、同じく250℃での0.2%引張耐力を、前記した条件と同様に測定して、平均値を求めた。
(クリープ特性)
クリープ特性は公知の定荷重クリープ試験により、測定、評価した。設定温度は250℃とし、負荷荷重を80MPaとし、250時間までのクリープ試験を実施し、最小クリープ速度を求めた。高温では、一定の荷重をかけただけでも、マグネシウム合金の変形は進むので、この変形量乃至ひずみ量を表す、測定対象の最小クリープ速度は、小さい方がクリープ特性に優れる。この点、前記耐熱回転部材としては、最小クリープ速度が3×10 -2 %/h以下でクリープ特性が合格となる。
表1、2から明らかな通り、本発明組成内のマグネシウム合金である発明例1〜10は、YとSmとの組成、固溶量が本発明組成内で、溶体化処理が好ましい温度条件範囲内および熱間静水圧押出加工が好ましい押出温度、押出比、押出速度範囲内で行なわれて、製品マグネシウム合金押出材を得ている。
このため、前記発明例のマグネシウム合金押出材は、平均結晶粒径が15μm 以下で、シュミット因子の平均値が0.12以上、0.2未満の範囲内である。また、析出物の数密度も好ましい範囲内である。
この結果、発明例のマグネシウム合金押出材は、必要な140MPa以上の高温(250℃での)軸方向0.2%引張耐力を満たし、かつ0.2%圧縮耐力と0.2%引張耐力との比(圧縮耐力/引張耐力)が0.8以上で、異方性が抑制され、耐力の等方性が優れている。また、前記耐熱回転部材として必要な、周方向の耐力や、クリープ特性にも優れている。
これに対して、比較例15〜21は、発明例と同じ、本発明組成内のマグネシウム合金であるものの、溶体化処理条件、熱間静水圧押出加工条件などが前記した好ましい範囲を外れている。したがって、これら比較例は平均結晶粒径が15μm を超えて粗大化するか、シュミット因子の平均値が0.12以上、0.2未満の範囲を満たさない。この結果、これら比較例は、高温(250℃)での軸方向の0.2%圧縮耐力あるいは耐力の等方性が劣っている。また、耐熱回転部材として必要なクリープ特性も劣っている。
比較例11〜14は溶体化処理や熱間静水圧押出加工などの製造条件が好ましい範囲内で行なわれているにも係わらず、本発明組成から外れている。YおよびSmが多すぎる比較例11、12は熱間静水圧押出加工途中での押し詰まりが発生して、製品を押し出せず、製品評価もできなかった。一方、YおよびSmが少なすぎる比較例13、14は平均結晶粒径が15μm を超えて粗大化し、シュミット因子の平均値が0.12以上、0.2未満の範囲を満たし、耐力の等方性は確保できているが、高温(250℃)での軸方向0.2%耐力が著しく低下しており、耐熱回転部材として必要な周方向の耐力やクリープ特性も劣っている。
以上の結果から、前記コンプレッサホイールなどの耐熱回転部材として必要な特性を優れさせるための、本発明マグネシウム合金における各要件の臨界的な意義が裏付けられる。また、これらの組織を得るための、溶体化処理、熱間静水圧押出などの、好ましい熱間加工条件の意義も裏付けられる。
Figure 0005280899
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以上説明したように、本発明によれば、高温強度と熱間加工性とを兼備し、また、耐力の等方性によって部材としての信頼性を向上させたマグネシウム合金およびその製造方法を提供できる。この結果、これらの特性が要求される耐熱回転部材に、好適に適用することができる。

Claims (9)

  1. 質量%で、Y:1〜8%、Sm:1〜8%を各々含有し、残部Mgおよび不可避的不純物からなるマグネシウム合金押出材であって、マグネシウムマトリックスへの前記YとSmとの固溶量が、質量%で、Y:0.8〜5%、Sm:0.6〜4%であり、この押出材組織の押出方向の平均結晶粒径が15μm 以下であるとともに、この押出材組織が有する六方晶結晶構造の各結晶粒における押出方向を軸とした(0001)<11−20>のシュミット因子の平均値が0.12以上、0.2未満の範囲であることを特徴とする、耐力の等方性が優れた耐熱マグネシウム合金押出材。
  2. 前記マグネシウム合金押出材の前記YとSmとの固溶量が、質量%で、Y:0.8〜4.5%、Sm:0.6〜3.5%であって、この押出材組織を倍率60000倍のTEMにより観察した際に、結晶粒界上に観察される重心直径の値が20〜25nmの範囲の析出物の平均数密度が200〜400個/μmである請求項1に記載の耐力の等方性が優れた耐熱マグネシウム合金押出材。
  3. 前記マグネシウム合金押出材の軸方向の引張耐力に対する軸方向の圧縮耐力の比が0.8以上であるとともに、前記軸方向の引張耐力に対する周方向の引張耐力の比が0.8以上である請求項1または2に記載の耐力の等方性が優れた耐熱マグネシウム合金押出材。
  4. 前記マグネシウム合金押出材が熱間静水圧押出加工によって製造されたものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の耐力の等方性が優れた耐熱マグネシウム合金押出材。
  5. 前記マグネシウム合金押出材の用途が耐熱回転部材である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の耐力の等方性が優れた耐熱マグネシウム合金押出材。
  6. 質量%で、Y:1〜8%、Sm:1〜8%を各々含有し、残部Mgおよび不可避的不純物からなるマグネシウム合金溶湯を鋳造後、400〜550℃の温度で溶体化処理を施した後に、350〜450℃の温度、押出比Rが10以上、この押出比Rとラム速度V(mm/s)との積であるR×Vが50以上100未満、の各条件を満足して熱間静水圧押出加工し、得られたマグネシウム合金押出材における、マグネシウムマトリックスへの前記YとSmとの固溶量を、質量%で、Y:0.8〜5%、Sm:0.6〜4%とし、この押出材組織の押出方向の平均結晶粒径が15μm 以下とするとともに、この押出材組織が有する六方晶結晶構造の各結晶粒における押出方向を軸とした(0001)<11−20>のシュミット因子の平均値を0.12以上、0.2未満の範囲とすることを特徴とする、耐力の等方性が優れた耐熱マグネシウム合金押出材の製造方法。
  7. 前記マグネシウム合金押出材の前記YとSmとの固溶量を、質量%で、Y:0.8〜4.5%、Sm:0.6〜3.5%とし、この押出材組織を倍率60000倍のTEMにより観察した際に、結晶粒界上に観察される重心直径の値が20〜25nmの範囲の析出物の平均数密度を200〜400個/μmとした請求項6に記載の耐力の等方性が優れた耐熱マグネシウム合金押出材の製造方法。
  8. 前記マグネシウム合金押出材の軸方向の引張耐力に対する軸方向の圧縮耐力の比を0.8以上とするとともに、前記軸方向の引張耐力に対する周方向の引張耐力の比を0.8以上とした請求項6または7に記載の耐力の等方性が優れた耐熱マグネシウム合金押出材の製造方法。
  9. 前記マグネシウム合金の用途が耐熱回転部材である請求項6乃至8のいずれか1項に記載の耐力の等方性が優れた耐熱マグネシウム合金押出材の製造方法。
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